1: 2009/05/22(金) 21:59:13.04 ID:29NNxLxy0
生まれつき目が視えない。
この世界にあるのは、音と匂いと味と、さわった感触だけ。
それだけ。
私にとってそれは普通だったし、当然他の人もそうだと思っていた。
けど、どうも違うらしい。
他の人が普通に視られるものを、私は視れなかった。
この世界にあるのは、音と匂いと味と、さわった感触だけ。
それだけ。
私にとってそれは普通だったし、当然他の人もそうだと思っていた。
けど、どうも違うらしい。
他の人が普通に視られるものを、私は視れなかった。
2: 2009/05/22(金) 22:00:32.23 ID:29NNxLxy0
私には魔力がるあるらしい。
たまに、私の周りのものが浮いているんだそうだ
自分では意識してないし視ることもできない。
私に魔力があることを、他の人は良く思っていないらしい。
それはそうだろうな。 魔力は魔物がもつものだって聞いた。
不気味だろうな
私、人間なのにね
たまに、私の周りのものが浮いているんだそうだ
自分では意識してないし視ることもできない。
私に魔力があることを、他の人は良く思っていないらしい。
それはそうだろうな。 魔力は魔物がもつものだって聞いた。
不気味だろうな
私、人間なのにね
4: 2009/05/22(金) 22:01:56.47 ID:29NNxLxy0
母「ごめんね、ごめんね、母さんもう疲れちゃったんだよ、ごめんね」
カビや土の匂いがする。 森の中だろうか
母「ごめんね、ごめんね、ごめんね…」
ああ、お母さん泣かないで、悪いのは私
目が視えないのは私 魔力があるのも私
カビや土の匂いがする。 森の中だろうか
母「ごめんね、ごめんね、ごめんね…」
ああ、お母さん泣かないで、悪いのは私
目が視えないのは私 魔力があるのも私
5: 2009/05/22(金) 22:03:27.16 ID:29NNxLxy0
お母さんは何も悪くないんだよ
私は捨てられて当然だから
目の視えない私を育てるのは大変だったよね
魔力のある私なんか厄介だったよね
今まで育んでくれてありがとう、お母さん
さようなら さようなら
私は捨てられて当然だから
目の視えない私を育てるのは大変だったよね
魔力のある私なんか厄介だったよね
今まで育んでくれてありがとう、お母さん
さようなら さようなら
7: 2009/05/22(金) 22:04:46.97 ID:29NNxLxy0
森の夜はとても寒いよ
きっと火があれば暖かいんだろうな
……あれ、なんだか暖かい
この音、焦げた匂い、もしかして、火?
…ああ、そうか、これが魔法か、私が出したのか
魔力がなければ、私、捨てられなかったのかな
…
きっと火があれば暖かいんだろうな
……あれ、なんだか暖かい
この音、焦げた匂い、もしかして、火?
…ああ、そうか、これが魔法か、私が出したのか
魔力がなければ、私、捨てられなかったのかな
…
9: 2009/05/22(金) 22:06:18.54 ID:29NNxLxy0
獣の匂いがする。 魔物かもしれない。
私、食べられるのかな
私が死ぬのを待っているのかな
でも、私はいらない子だから
死んでもいいよ、もう
私、食べられるのかな
私が死ぬのを待っているのかな
でも、私はいらない子だから
死んでもいいよ、もう
10: 2009/05/22(金) 22:07:32.38 ID:29NNxLxy0
足音がする。 これは人間の足音
酒臭い
男が何かを言っている。 聞き取れない
突然お腹に激痛が走った
男の下品な笑い声が聞こえた
痛い。 助けて、お母さん
酒臭い
男が何かを言っている。 聞き取れない
突然お腹に激痛が走った
男の下品な笑い声が聞こえた
痛い。 助けて、お母さん
11: 2009/05/22(金) 22:08:54.89 ID:29NNxLxy0
昨日蹴られたお腹はまだ痛い
お腹がすいた。 けど、草は美味しくない
ねえ、お母さん
お母さんの作った温かいスープ
すごく美味しかったよ
12: 2009/05/22(金) 22:10:29.23 ID:29NNxLxy0
下品な笑い声が聞こえた
何人もの足音が聞こえる
左腕と右脚に
何か固くて冷たい物の感触がした
また、下品な笑い声が聞こえた
13: 2009/05/22(金) 22:12:10.47 ID:29NNxLxy0
少女「あああああああああああああああああああああああああ」
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、
無い、無い、左腕が、右脚が、無い、
ない、止まらない、血が、止まらない
助けて、お母さん
私、死にたくない、しにたくないよ
おかあさん
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、
無い、無い、左腕が、右脚が、無い、
ない、止まらない、血が、止まらない
助けて、お母さん
私、死にたくない、しにたくないよ
おかあさん
16: 2009/05/22(金) 22:13:42.32 ID:29NNxLxy0
…あれ
私、生きてる
腕も脚もない。 けど血は止まってる
…ああ、これも魔法のおかげなのかな
魔力のせいで捨てられたのに
それに助けられてる
…
17: 2009/05/22(金) 22:15:17.20 ID:29NNxLxy0
今日は雨が降ってるよ
寒い
雨音に混じって人の足音が聞こえた
またかな
私、もう、痛いのは嫌だよ
体を持ち上げられた
下品な笑い声は聞こえなかった
寒い
雨音に混じって人の足音が聞こえた
またかな
私、もう、痛いのは嫌だよ
体を持ち上げられた
下品な笑い声は聞こえなかった
18: 2009/05/22(金) 22:16:52.35 ID:29NNxLxy0
建物の中に入ったらしい
男の話声が聞こえる
獣の匂いもする
ああ、もしかして魔物かな
私、食べられちゃうのかな
20: 2009/05/22(金) 22:18:13.99 ID:29NNxLxy0
…なんだか変な感じがする
目に何か入ったのかな
目の中に、何かある
なんだこれ
なんだこれ
なんだ、これ
21: 2009/05/22(金) 22:19:48.80 ID:29NNxLxy0
男「視えるか?」
少女「…え」
視える?
"視える"って?
もしかしてこれが、"視える"ということ?
男が喋ったときに動いたもの
これが"くち"?
少女「…え」
視える?
"視える"って?
もしかしてこれが、"視える"ということ?
男が喋ったときに動いたもの
これが"くち"?
23: 2009/05/22(金) 22:21:29.08 ID:29NNxLxy0
目の前の男を触る
これは顔を触った時の感触
これが顔
これが口、これが鼻、これが耳
触ることでしか認識できなかったものを、
今、私は、視ている
少女「私、目が、視える」
これは顔を触った時の感触
これが顔
これが口、これが鼻、これが耳
触ることでしか認識できなかったものを、
今、私は、視ている
少女「私、目が、視える」
25: 2009/05/22(金) 22:23:01.52 ID:29NNxLxy0
私はたくさんのものを視た
たくさんの色を視た
たくさんの表情を視た
たくさんの生き物を視た
"視る"ということはこんなに楽しいことなのか!
26: 2009/05/22(金) 22:24:46.82 ID:29NNxLxy0
私は人間
私を助けてくれた男は魔物
人間とそっくりなのに魔物だって
名前を魔王と言った。
聞いたことある。 なんだっけ?
私を助けてくれた男は魔物
人間とそっくりなのに魔物だって
名前を魔王と言った。
聞いたことある。 なんだっけ?
27: 2009/05/22(金) 22:26:04.86 ID:29NNxLxy0
狼を大きくしたような魔物Aさん
鳥みたいで翼もあるのに、四足の魔物Bさん
人間みたいなのに羽があって、小さくて、
私にいろんな生き物を変身して見せてくれた魔物Cさん
みんな魔物
魔物なのに私を食べない
魔物なのに優しい
鳥みたいで翼もあるのに、四足の魔物Bさん
人間みたいなのに羽があって、小さくて、
私にいろんな生き物を変身して見せてくれた魔物Cさん
みんな魔物
魔物なのに私を食べない
魔物なのに優しい
29: 2009/05/22(金) 22:27:39.91 ID:29NNxLxy0
魔王「少し痛くなるかもしれんが、我慢してくれ」
そう言われた。
魔王さんは手を私の無くなった左腕にあてた。
魔王さんは何かつぶやいている
なにするの?
ねえ、痛いのは嫌だよ?
30: 2009/05/22(金) 22:29:35.34 ID:29NNxLxy0
…なんか、変な感じがする
無いはずの左腕から何か感じる
あれ?
左腕が視える 左腕がある
あれ?
魔王「…痛くなかったか?」
少女「痛くは…なかった」
何が起こったんだ
無いはずの左腕から何か感じる
あれ?
左腕が視える 左腕がある
あれ?
魔王「…痛くなかったか?」
少女「痛くは…なかった」
何が起こったんだ
33: 2009/05/22(金) 22:31:30.28 ID:29NNxLxy0
魔王「…! そうか、痛くないか!」
魔物B「陛下、おめでとうございます」
みんなとっても嬉しそうな顔
無くなったはずの左腕が戻ったんだ
私も嬉しい!
右脚も戻してもらった
今はちょっと痺れるけど、また、歩けるようになるんだ
自分の足で歩いて、見たいものが視れるんだ!
魔王さん、ありがとう
魔物B「陛下、おめでとうございます」
みんなとっても嬉しそうな顔
無くなったはずの左腕が戻ったんだ
私も嬉しい!
右脚も戻してもらった
今はちょっと痺れるけど、また、歩けるようになるんだ
自分の足で歩いて、見たいものが視れるんだ!
魔王さん、ありがとう
34: 2009/05/22(金) 22:33:51.80 ID:29NNxLxy0
魔王「…っと」
魔物A「…なんだ、バテてんのかよ情けねえな」
魔王「…うるさい」
魔物B「連日実験されていては、魔力の回復も追いつけないのでは」
魔物C「しばらく休んだ方かいいんじゃ?」
魔王「とりあえず一つの山は越えられた、一旦区切りをつけておこう」
魔王さんがふらふらと部屋を出て行った
魔物Aさんも後に付いて行った
口は悪いけど、なんだかんだで優しいんだな、魔物Aさん
魔物A「…なんだ、バテてんのかよ情けねえな」
魔王「…うるさい」
魔物B「連日実験されていては、魔力の回復も追いつけないのでは」
魔物C「しばらく休んだ方かいいんじゃ?」
魔王「とりあえず一つの山は越えられた、一旦区切りをつけておこう」
魔王さんがふらふらと部屋を出て行った
魔物Aさんも後に付いて行った
口は悪いけど、なんだかんだで優しいんだな、魔物Aさん
35: 2009/05/22(金) 22:35:10.91 ID:29NNxLxy0
人間に変身した魔物Cさんと一緒に人間の村に来た
私が産まれて、育った村
寂しいけど、魔王さんたちとはもうお別れ
でも、お母さんに会える
もう、目が視えるようになったんだよ
魔力も抑えられるようになったんだよ
だから一緒に暮らそう、お母さん
36: 2009/05/22(金) 22:36:30.91 ID:29NNxLxy0
人がいっぱい居る
いろんな顔の人がいる
お母さんはどこかな
お母さんはどんな顔かな
お母さんの声は覚えてる
優しい、お母さんの声
いろんな顔の人がいる
お母さんはどこかな
お母さんはどんな顔かな
お母さんの声は覚えてる
優しい、お母さんの声
39: 2009/05/22(金) 22:38:12.06 ID:29NNxLxy0
村人「もしかして、少女ちゃんかい?」
少女「!」
この声、聞いたことある
そうだ、近くに住んでて、優しくしてくれたおばさんの声
村人「…生きてたんだね」
ああ、おばさんはこんな顔をしていたのか!
42: 2009/05/22(金) 22:40:04.83 ID:29NNxLxy0
少女「私ね、目が視えるようになったの!」
少女「ねえ、おばさん、お母さんはどこに居るの?」
村人「……」
村人「…死んだよ」
少女「え」
少女「ねえ、おばさん、お母さんはどこに居るの?」
村人「……」
村人「…死んだよ」
少女「え」
44: 2009/05/22(金) 22:41:17.72 ID:29NNxLxy0
村人「村の者はみんなあんたを怖がっていたよ」
え
村人「魔法が使えるなんて…まるで魔物じゃないか」
うそ
村人「だから皆であんたを殺しに行こうとしたんだ」
ねぇ
村人「なのにあんたの母親はあんたを隠した」
おかあさん
村人「擁護した罪でね、火炙りの刑だよ」
うそっていって
え
村人「魔法が使えるなんて…まるで魔物じゃないか」
うそ
村人「だから皆であんたを殺しに行こうとしたんだ」
ねぇ
村人「なのにあんたの母親はあんたを隠した」
おかあさん
村人「擁護した罪でね、火炙りの刑だよ」
うそっていって
45: 2009/05/22(金) 22:43:04.76 ID:29NNxLxy0
村人「…あんたはこの村に居ちゃいけないんだ」
村人「もう来るんじゃないよ、死にたくなければね」
村人「この化け物め」
おかあさん
おかあさん
おかあさん
おかあさん
村人「もう来るんじゃないよ、死にたくなければね」
村人「この化け物め」
おかあさん
おかあさん
おかあさん
おかあさん
46: 2009/05/22(金) 22:44:39.58 ID:29NNxLxy0
魔物C「ここが少女ちゃんが住んでた家」
少女「……」
なにもない
だれもいない
おかあさんが、いない
少女「……」
48: 2009/05/22(金) 22:46:02.70 ID:29NNxLxy0
魔物C「もう、お別れだよ」
少女「…やだ」
魔物C「…魔物と人間は一緒にはいられない」
少女「やだ」
魔物C「できないんだよ」
少女「やだ…!」
少女「…やだ」
魔物C「…魔物と人間は一緒にはいられない」
少女「やだ」
魔物C「できないんだよ」
少女「やだ…!」
49: 2009/05/22(金) 22:47:46.91 ID:29NNxLxy0
私、いい子にするから
いっぱい勉強するから
いっぱい魔法覚えるから
だから
だから…
少女「ひとりにしないで…!!」
魔物C「…」
いっぱい勉強するから
いっぱい魔法覚えるから
だから
だから…
少女「ひとりにしないで…!!」
魔物C「…」
50: 2009/05/22(金) 22:49:00.20 ID:29NNxLxy0
魔王「…で、連れて帰って来たのか」
魔物C「…ごめんなさい」
少女「…」
魔物A「これだから餓鬼は…」
魔王「…」
魔王さんの目が怖い
突き刺さるみたいだ
51: 2009/05/22(金) 22:50:14.71 ID:29NNxLxy0
魔王「…勝手にしろ」
少女「…!」
魔王「ただし」
魔王「俺の研究室には一切近づかない事」
魔王「自分の命は自分でなんとかする事」
魔王「以上」
少女「…!」
魔王「ただし」
魔王「俺の研究室には一切近づかない事」
魔王「自分の命は自分でなんとかする事」
魔王「以上」
52: 2009/05/22(金) 22:51:34.59 ID:29NNxLxy0
それから一生懸命勉強した。
字の読書きができる様になってから町の図書館にも行った。
でも、どんなに勉強しても
魔王さんの魔法の本は全く読めなかった。
魔物Bさんによれば、あれらは本人にしか読めないらしい。
54: 2009/05/22(金) 22:52:55.30 ID:29NNxLxy0
私でも読める本が一角にあった。
魔王さんたちがこっちに来てからの、人間世界について
歴史には興味がなかった。どうせ戦争ばっかり。
少女「…これは?」
魔物B「世界地図です」
少女「世界の?」
魔物B「はい。 陛下が200年程前に、暇つぶしにとお作りになられた物ですが…」
魔物B「かなり正確なものです。 国や村は今はもう無いものばかりですがね」
魔王さんたちがこっちに来てからの、人間世界について
歴史には興味がなかった。どうせ戦争ばっかり。
少女「…これは?」
魔物B「世界地図です」
少女「世界の?」
魔物B「はい。 陛下が200年程前に、暇つぶしにとお作りになられた物ですが…」
魔物B「かなり正確なものです。 国や村は今はもう無いものばかりですがね」
56: 2009/05/22(金) 22:54:28.23 ID:29NNxLxy0
少女「へー。 ね、海の果てはどうなってるの?」
魔物B「滝になっているそうです」
少女「どこまで落ちるの?」
魔物B「さぁ。 そこに住んでいる龍にも分からないそうです」
魔物B「ただただずっと、水が落ちていくんだそうです」
少女「へー」
魔物B「滝になっているそうです」
少女「どこまで落ちるの?」
魔物B「さぁ。 そこに住んでいる龍にも分からないそうです」
魔物B「ただただずっと、水が落ちていくんだそうです」
少女「へー」
57: 2009/05/22(金) 22:56:10.28 ID:29NNxLxy0
少女「じゃあ、海を越えてずーっと真っ直ぐ飛んだらどこに着くの?」
魔物B「反対側に出ます」
少女「反対?」
魔物B「ずっと南へ南へと飛び続けると、いつの間にか北の大陸に着いてしまいます」
少女「へー、何でだろう」
魔物B「さぁ。 不思議ですね」
魔物B「反対側に出ます」
少女「反対?」
魔物B「ずっと南へ南へと飛び続けると、いつの間にか北の大陸に着いてしまいます」
少女「へー、何でだろう」
魔物B「さぁ。 不思議ですね」
58: 2009/05/22(金) 22:57:28.92 ID:29NNxLxy0
少量の魔力が秘められている木の実というのを教えてもらった。
森の中を散々探してやっと一つ見つけた。
舌が痺れるほど苦いけど、これで魔力が上がるなら
たくさんの魔法が使えるようになれるのなら
毎日頑張って探そうと思った。
少女「魔物Aさんは、食べないの?」
魔物A「オレぁ魔法より肉弾戦が好きなんだよ」
59: 2009/05/22(金) 22:59:30.12 ID:29NNxLxy0
魔物Bさんには攻撃魔法
魔物Cさんには回復魔法
そして変身魔法を教わった。
人間の私には変身は難しいのかもしれない。
人型の魔物になるので精一杯だった。
それから私は
人間でいることを辞めた。
62: 2009/05/22(金) 23:00:57.22 ID:29NNxLxy0
人間が憎かった。
魔物を殺す人間が憎かった。
私から手足を奪った人間が憎かった。
お母さんを殺した人間が憎かった。
何より、自分という人間が憎かった。
魔物になれば、人間を憎むという行為が少しでも許されるような気がした。
魔物を殺す人間が憎かった。
私から手足を奪った人間が憎かった。
お母さんを殺した人間が憎かった。
何より、自分という人間が憎かった。
魔物になれば、人間を憎むという行為が少しでも許されるような気がした。
63: 2009/05/22(金) 23:02:10.96 ID:29NNxLxy0
魔物Bさんに連れられ、丘の上に来た。
魔王様も気に入っている場所なんだそうだ。
見渡す限りに広がる草原
風に靡く草の音と鳥の囀りしか聞こえない、とても静かな場所
陽が落ちてくると緑は夕日に染まった
真赤に支配された世界はまるで終わってしまうかのように、どこか悲しいものがある
綺麗だな、と思った。
64: 2009/05/22(金) 23:03:53.02 ID:29NNxLxy0
魔物B「たまには息を抜くことも大切です」
女「ありがとう、…ございます」
魔物B「感謝の言葉は陛下に。 眼を治したのは陛下です」
女「それでも…ありがとうございます」
感謝しても感謝しきれない。
ありがとう
女「ありがとう、…ございます」
魔物B「感謝の言葉は陛下に。 眼を治したのは陛下です」
女「それでも…ありがとうございます」
感謝しても感謝しきれない。
ありがとう
66: 2009/05/22(金) 23:05:43.04 ID:29NNxLxy0
城内に入ってきた人間は全て倒した。
でも、殺しはしない
魔王様に実験台として差し出す為。
…いや、私はそれに甘えているのかもしれない。
殺さないのではなく、殺せないのだ。
所詮、変身魔法
姿は変わっても、中身まで魔物になることなんて出来はしない。
68: 2009/05/22(金) 23:07:22.45 ID:29NNxLxy0
魔王様の研究室から人間の叫び声が響く。
思えば私も実験台の中の一つにすぎなかったのだろう。
偶然拾われ、偶然実験が成功しただけの事
別に私でなくとも良かったのだ
私を生かした事も、魔王様の単なる気まぐれだったのかもしれない。
それでも良かった。
私は彼らに、一生従うことを心に誓ったのだ。
思えば私も実験台の中の一つにすぎなかったのだろう。
偶然拾われ、偶然実験が成功しただけの事
別に私でなくとも良かったのだ
私を生かした事も、魔王様の単なる気まぐれだったのかもしれない。
それでも良かった。
私は彼らに、一生従うことを心に誓ったのだ。
69: 2009/05/22(金) 23:08:40.33 ID:29NNxLxy0
拾われて十年
勇者と名乗る男が城に侵入した。
魔王様の命により魔物Bさんと共に相手をすることになった。
また、いつも通り倒せばいいのだ
…勇者。 この国で名を知らない者はいないほどの人間。
強いんだろうな、と思った。
70: 2009/05/22(金) 23:10:05.50 ID:29NNxLxy0
重い扉が開き、勇者が現れる
視たことが無いほどに、ひどい、目をしていた。
女「…貴方は何故魔物を倒すのですか?」
勇者「そんなの決まっている、魔物が人間を傷つけるからだ」
勇者「だからおれは魔物を殺す。 魔物を滅ぼす」
ああ、この人も憎いのか
私が人間を憎んでいるように、この人も魔物が憎いのだ。
…私もこんな、目をしているのだろうか
視たことが無いほどに、ひどい、目をしていた。
女「…貴方は何故魔物を倒すのですか?」
勇者「そんなの決まっている、魔物が人間を傷つけるからだ」
勇者「だからおれは魔物を殺す。 魔物を滅ぼす」
ああ、この人も憎いのか
私が人間を憎んでいるように、この人も魔物が憎いのだ。
…私もこんな、目をしているのだろうか
71: 2009/05/22(金) 23:10:46.01 ID:NZJE/Y4CO
ああ、魔物D…
72: 2009/05/22(金) 23:11:34.83 ID:29NNxLxy0
彼を止めようとしても無駄だろうな
今の私は魔物の姿なのだから
女「…ひどく後悔することになりますよ」
最後の忠告
きっと、私は彼に殺される
それでも良いと思った。
彼を止めたかった。
今の私は魔物の姿なのだから
女「…ひどく後悔することになりますよ」
最後の忠告
きっと、私は彼に殺される
それでも良いと思った。
彼を止めたかった。
73: 2009/05/22(金) 23:12:59.15 ID:29NNxLxy0
彼は強かった。
種類は少ないが、彼も魔法を使えた。
私が炎を出したのがいけなかったのかもしれない
彼は水を呼び炎を打ち消した。
蒸気で一瞬、彼を見失った。
いけない、目に頼りすぎた
そう思った時にはもう、長剣は私の身体に食い込んでいた。
76: 2009/05/22(金) 23:14:32.69 ID:29NNxLxy0
口の中に鉄の味が広がる
腹から赤黒い血が噴き出す
膝から崩れ落ちる
内臓が外にでてる しまわなきゃ
血が流れていく 寒い
ああ、魔法が消えていく
人間の姿になってしまう
勇者が私を見ている
腹から赤黒い血が噴き出す
膝から崩れ落ちる
内臓が外にでてる しまわなきゃ
血が流れていく 寒い
ああ、魔法が消えていく
人間の姿になってしまう
勇者が私を見ている
78: 2009/05/22(金) 23:15:51.15 ID:29NNxLxy0
勇者、
私と同じ目をした勇者
私の姿を見て、どう思いますか
私の姿を見て、どんな顔をしていますか
私と同じ目をした勇者
私の姿を見て、どう思いますか
私の姿を見て、どんな顔をしていますか
80: 2009/05/22(金) 23:17:05.72 ID:29NNxLxy0
魔王様ごめんなさい
魔物Aさんごめんなさい
魔物Bさんごめんなさい
魔物Cさんごめんなさい
貴方達のための命、敵である勇者に与えてしまいました
魔物Aさんごめんなさい
魔物Bさんごめんなさい
魔物Cさんごめんなさい
貴方達のための命、敵である勇者に与えてしまいました
81: 2009/05/22(金) 23:18:30.36 ID:29NNxLxy0
お母さん
憎しみはとても悲しいものです
結局、憎しみは憎しみしか生みませんでした
彼に、私を殺めさせてしまいました
でも、彼を、私と同じ目をした彼を止めるには、こうするしか無かったのです
私は彼を止めることができたでしょうか
彼の殺戮行為を止めることができたでしょうか
彼からこれ以上憎しみを増やさぬようにできたでしょうか
憎しみはとても悲しいものです
結局、憎しみは憎しみしか生みませんでした
彼に、私を殺めさせてしまいました
でも、彼を、私と同じ目をした彼を止めるには、こうするしか無かったのです
私は彼を止めることができたでしょうか
彼の殺戮行為を止めることができたでしょうか
彼からこれ以上憎しみを増やさぬようにできたでしょうか
82: 2009/05/22(金) 23:19:47.20 ID:29NNxLxy0
お母さん
死ぬのはとても怖いです
でも、回復魔法は使いません、使えません
私はとても悪い子です
これ以上生きても、また憎しみを生んでしまうだけです
これは報いなのです
死ぬのはとても怖いです
でも、回復魔法は使いません、使えません
私はとても悪い子です
これ以上生きても、また憎しみを生んでしまうだけです
これは報いなのです
83: 2009/05/22(金) 23:21:00.53 ID:29NNxLxy0
お母さん
ねぇ、お母さん
お母さんはどんな顔をしていますか?
私は目が視えるようになったのです
お母さんはまた、私を抱いてくれますか?
優しく声をかけてくれますか?
優しく頭をなでてくれますか?
ねぇ、お母さん
お母さんはどんな顔をしていますか?
私は目が視えるようになったのです
お母さんはまた、私を抱いてくれますか?
優しく声をかけてくれますか?
優しく頭をなでてくれますか?
84: 2009/05/22(金) 23:22:19.63 ID:29NNxLxy0
お母さん
お母さん
今、会いにいきます
お母さん
おかあさん
fin.
お母さん
今、会いにいきます
お母さん
おかあさん
fin.
89: 2009/05/22(金) 23:25:51.65 ID:kShtafy5Q
あの人間の件ってそういうことだったのか…。
乙!
乙!
95: 2009/05/22(金) 23:27:36.58 ID:A1YKtg8e0
乙!
97: 2009/05/22(金) 23:28:21.71 ID:kShtafy5Q
前スレのタイトルなんだっけ?
100: 2009/05/22(金) 23:30:07.94 ID:29NNxLxy0
105: 2009/05/22(金) 23:39:23.58 ID:NZJE/Y4CO
終わってた
乙乙
ところで女の住んでた村じゃ魔法使ったら駄目なのか?
乙乙
ところで女の住んでた村じゃ魔法使ったら駄目なのか?
106: 2009/05/22(金) 23:42:44.89 ID:29NNxLxy0
>>105
駄目ってわけでもないんだ
設定では、この世界の魔法はまだまだ発展途上で、魔法使いも多いってほどでもない
故郷の村は山に囲まれていて、旅人もそんなに寄らないような村
だから魔法を使える人もほとんど居ない
使うとすれば、近くの森とかに住む魔物だけ
魔法→未知→恐ろしい→魔物 みたいな感じで処分される
魔女狩り…みたいなものかな
駄目ってわけでもないんだ
設定では、この世界の魔法はまだまだ発展途上で、魔法使いも多いってほどでもない
故郷の村は山に囲まれていて、旅人もそんなに寄らないような村
だから魔法を使える人もほとんど居ない
使うとすれば、近くの森とかに住む魔物だけ
魔法→未知→恐ろしい→魔物 みたいな感じで処分される
魔女狩り…みたいなものかな
109: 2009/05/22(金) 23:51:07.51 ID:n4/4gZLtO
追い付いたら終わってた
乙!
乙!
前作
魔王「私は新世界の…」
勇者「魔物に生きる価値なんかあんの?」
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