1:◆MzoIYE0fBBRx 19/04/28(日)18:00:53
特務機関NERV。
エヴァンゲリオンを複数保有する由緒正しい超法規的組織である。
保有する経済力・政治力・軍事力はすさまじく、世界中の国家をまとめて相手どっても余りあるとすらささやかれている。

そんなNERVの中において、異彩を放つ者たちがいる!

「ねぇ見てっ。エヴァパイロットの二人よ!」

「ほんとだっ。朝から二人して登校するなんて、やっぱり付き合ってるのかしら」

「三日前から同居してるらしいわっ」

「うそっ、そんなの付き合ってるに決まってるじゃない」

がやがやがや


アスカ「ねぇシンジ」

アスカ・ラングレー。
4歳にしてエヴァンゲリオンのパイロットに選出。
パイロットとしての訓練の合間を縫って若干14歳にして難関大学を卒業。
ドイツ語・英語・日本語を堪能に操る。
まさに万能。
容姿端麗。
明朗快活。
特務機関NERVが抱える正真正銘の『天才』である!



2:19/04/28(日)18:01:22 dNN
シンジ「どうしたの、アスカ?」

碇シンジ。
彼は一見すると凡庸である。
何をやらせても卒なくこなすが、とりたてて誇れるものを持たない。
ただし、エヴァの操縦において彼は他の追随を許さないポテンシャルを見せる!
アスカが10年もの英才教育を経て培ってきたエヴァのシンクロ率に、ものの数週間で喰らいついてみせた。
第三新東京の使徒襲撃戦の大半に貢献。
学校内でのエヴァパイロットとして認知度・信頼も厚い。
何より彼はNERFの総司令官、碇ゲンドウの息子にして天才科学者、故・碇ユイの息子である。
いわば血統書付きのサラブレッド!
彼もまたNERFの誇る期待の『天才』といえよう!

そんな二人が、学校で注目の的となるのはもやは必然。

二人が登校し、廊下を歩いて教室に向かうーーただそれだけのことで、校内はざわめき立つのである!
3:19/04/28(日)18:01:57 dNN
アスカ「なんだか、噂されているみたいね。私たちが付きあってる、とか……」

シンジ「聞き流せばいいと思うよ。僕はもう慣れた」

アスカ「そういうもんかしら。私はそういうの、気に障るんだけど」

シンジ「僕だって全く気にならないわけじゃないよ。だって、ありえないし」

アスカ「ええ、ありえないわね。このアスカ様が、よりにもよってこんなバカと恋仲なんて」

シンジ「そうだよね。僕がアスカと付き合うなんて、ねぇ?」

アスカ「ほんと、笑っちゃうわよね」

シンジ「うん、笑っちゃうよ」

「「あはははははっ」」
4:19/04/28(日)18:02:34 dNN
アスカ(全く)

アスカ(こんの下世話な低脳ども)

アスカ(私を誰だと思ってるのかしら)

アスカ(世界を股にかけるエヴァエースパイロット、アスカ様よ?)

アスカ(どうすればこんな冴えないバカと付き合うなんて発想に至るの?)

繰り返すが、アスカは天才である。
その才は勉学や美貌
エヴァの操縦に留まらず
他人の心の機微を読み取ることすら長けていた。

アスカ(まあ)チラッ

シンジ「?」
5:19/04/28(日)18:03:26 dNN
アスカ(このバカシンジにギリのギリギリ可能性がないとも言い切れないけど!)

アスカ(向こうが跪いて、身も心も故郷すらも捧げるというのなら、情けをかけてあげなくもないかもしれないけどっ!)

アスカ(ま、この私に恋い焦がれない男なんて存在しないわけだし?)

アスカ(シンジが縋り付いてくるのは時間の問題でしょうね)

しかし、アスカには自分の感情が絡む時ーーとりわけ恋愛のこととなると、途端に不器用になるという弱点があった!
14:19/04/28(日)18:09:10 dNN
彼女がそれを自覚したのは、一週間後の、ミサト宅でのことである。

ミサト「いつも洗い物させちゃって悪いわね、シンちゃん」

シンジ「いいんですよ。好きでやってることなんですから」

ミサト「いやー、ほんと。シンちゃんには頭があがらないわー」ゴクゴク

シンジ「ほんとうにそう思うなら、ちょっとはお酒控えてくださいよ……」

ミサト「それとこれとは話が別ぅー。ナハハハハっ!!」
15:19/04/28(日)18:11:17 dNN
アスカ「ちょっと。いまテレビいいところなんだから、静かにしなさいよ」

ミスト「だってさシンちゃん?」

シンジ「え、えぇ? ……ご、ごめんね。アスカ」

アスカ「ふんっ」プイッ


ミサト「ありゃりゃ、こりゃアスカとシンちゃんが打ち解けるまでは、まだまだ時間がかかりそうねぇ」ガハハ

アスカ「当っったり前でしょ。こんなエロバカと仲良く? はんっ、ペンペンとよろしくやる方がまだマシよ」

シンジ「ひ、ひどい……」

嘘である。
この女、自然体を装ってこそいるが内心では全く別のことを考えていた。

アスカ(ありえないありえないありえないありえないありえないありえないっ)

アスカ(なんでこいつ、なびく気配すら見せないのよ!?)
17:19/04/28(日)18:13:12 dNN
あれから一週間の時が経過した。
その間、アスカはシンジと寝食を共にし、一緒に学校に行き、使徒とも戦った。
たったの一週間といえど、その時間の濃密さは筆舌に尽くしがたいっ。

アスカ(なのに、なのにっ……!)

にもかかわらず、シンジが告白してくる気配は皆無っ。
シンジが何かしらアクションを起こす予兆すら見られない!
その事実は、アスカのプライドをいたく傷つけた!

アスカ(こんなパーフェクトな美少女と同じ屋根の下で暮らしてるんだから、告白の一つや二つ寄越すのが礼儀ってもんでしょう!? なのに……) チラッ

シンジ「~~♪」

アスカ(なにここ一番幸せそうな顔で皿洗いなんかしてるのよっっ!?!?)

無論。
アスカとてこの一週間、ただ指を咥えて見ていたわけではない。
18:19/04/28(日)18:15:03 dNN
アスカ(思いつくことは一通り試してみた)

アスカ(薄い部屋着。際どい角度。今にも触れそうな近い距離! さりげないボディータッチ! やぶれかぶれのラッキースケベッ!)

アスカ(その全てに手応えはあった)

アスカ(でも)

アスカ(待てど暮らせど、アイツは告白してこない……動かないのよっ)

ここに来てアスカは、自分の計算ミスを認めた。
目標のATフィールド、もとい心の壁は予想以上に強固!
これを打ち破るのは困難を極める!
19:19/04/28(日)18:18:01 dNN
アスカ(それなら段階を踏む。いきなり告らせようだなんて思わない。まずはあいつからアプローチしてくるように誘導してやればーー)

アスカ(……って、バカシンジごときにそこまでムキになる必要ある?)

アスカ「…………ないわね。アホらし」

ミサト「?」

アスカ(そもそもシンジって根暗だし、うじうじしてるし、地味だし)

アスカ(見所なんて、ちょっとエヴァの操縦が出来て、家事ができるくらいで)

シンジ「~~♪」

アスカ(くらい、で……)

シンジ「~~♪」

アスカ「……」ジー

ミサト「アスカぁ? なぁにをぼんやりしてんのよぉ~?」ゲラゲラ

アスカ「!」ハッ

アスカ「な、なんでもないっ」

ミサト「? へんな子ね」ゴクゴク

アスカ(そ、そうね。あんな冴えないやつ一人虜に出来ないようじゃあ、アスカ・ラングレーの名折れってもんよ)

アスカ(見てなさい、シンジ。今に告らせてやるんだからっ)

かくして、天才少女アスカ・ラングレーの恋愛頭脳戦の火蓋が切って落とされた!
21:19/04/28(日)18:25:18 dNN
【アスカ・ラングレーは頼みたい】

ーー自宅にて

アスカ「……」カキカキ

シンジ「……」

アスカ「……うーん」カキカキ

シンジ「……」

アスカ「……あーっ、ワッカンナイナア」

シンジ「? どうしたのさ、アスカ」

アスカ「課題。分からないとこがあって、困ってるのよね」

シンジ「えっ、そんな難しい課題あったかな……?」

アスカ「ええ。だから悪いんだけど、答え教えてくれない?」

シンジ「む、無理だよ。アスカに分からない問題が、僕に解けるわけないじゃないか」

アスカ「あんたバカァ? 出来もしないことをアンタに頼むわけないじゃない。……これ、国語の課題が分からないのよ」

シンジ「あっ、そうか。アスカは帰国子女だから、漢字が苦手だったんだっけ」

シンジ「そういうことならいいよ、どこが分からないの?」

アスカ「ん。まずこの漢字をなんで読むのかーー」

アスカ(かかった!)
23:19/04/28(日)18:33:09 dNN
「フット・イン・ザ・ドア」効果!
人は一度”お願い”を承諾すると、それ以後の”お願い”を断りにくくなるという。
この心理状態を利用して、”お願い”を小出しにしていくテクニックが「フット・イン・ザ・ドア」であるっ。

このテクニックの恐ろしいところは一度お願いごとを承諾してしまったが最後、少しずつエスカレートしていく相手の要求に逆らうことが出来なくなってしまうのだ!

すなわちっ!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アスカ「宿題やって」

シンジ「はい」

アスカ「料理作って」

シンジ「はい」

アスカ「お金ちょうだい」

シンジ「はい」

アスカ「付きあって」

シンジ「はい」

アスカ「結婚して」

シンジ「はい」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

という展開に持ち込むことすら理論上は可能っ。
現実でも頻繁に使われている最も基本的、かつ実践的な恋愛テクニックの一つなのである!

これは無論、シンジにも当てはまるっ
それどころか、元々押しの弱いシンジはイエスマンになり下がざるを得ないっっ。
26:19/04/28(日)18:40:02 dNN


ーー後日、学校にて

アスカ「わー、プリント落としちゃったー。……取って、シンジ」

シンジ「もちろん」



アスカ「うわー、消しゴム忘れちゃったぁ。……貸して、シンジ」

シンジ「いいよ」



アスカ「あれれー、体育のジャージ忘れちゃったわぁ。……持ってる?」

シンジ「うん」



アスカ「オベントウオイシソウダナー。……明日から私にもお弁当つくってよ、シンジ」

シンジ「……たしかアスカ、前に僕の弁当はいらないって言ってなかったけ?」

アスカ「それはニッポンの学校の購買部ってのに興味があっただけよ。でも、もう飽きたわ。安っぽいだけで特別なものはないんですもの」

シンジ「そうなんだ ……うん。まあ、そういうことならべつにいいよ」

アスカ「……」
29:19/04/28(日)18:45:31 dNN


アスカ(……徐々に反応が鈍くなって来たわね)

アスカ(ここらがシンジの要求限界、か)

たしかに!
「フット・イン・ザ・ドア」のテクニックを用いれば要求を通しやすくはなるっ。
しかし、それとて無制限ではない。
度が過ぎればふつうに断られる。
お手軽にできるが故に、拘束力も薄いーーそれが「フット・イン・ザ・ドア」なのだ!

よもやアスカの描いた計画も絵に描いた餅っ
志半ばで頓挫したかのように思われたっ。
が、しかしっっ。

「あの二人、最近仲が良いわね」

「そうね。アスカ、碇くんのことすっかり頼ってる」

「逆よ。碇君がアスカを放っておけないのよ」

キャーキャー


シンジ「ははっ。なんだかまた噂されるようになっちゃったね……」

アスカ「ええ。呆れるしかないわ、ホント」

言うまでもなく、嘘である。

アスカ(ーーっしゃぁぁぁあ! シナリオ通り! シナリオ通りね!)

この女、腹の中では小躍りしていた。
30:19/04/28(日)18:47:00 dNN
『ベンジャミン・フランクリン効果』というものがある。
かつて避雷針を発明した天才・フランクリンは、その才を妬まれ、多くの敵に囲まれていたという。
あまりにも多くの敵を作り過ぎたフランクリンは、やがて四面楚歌に追いやられた。
困りはてたフランクリンは、敵対するライバルたちから「少し珍しい研究資料」を貸りて回る。
すると不思議なことに、敵対していたライバルたちの態度が一変し、友好的になったのだ。

ーー人は無意識に、自分の「行動」と「心」に一貫性を持たせようとする。

人に「親切」をするのは、その人が「好き」だから!
「嫌い」な相手に「親切」をするはずがない!
そう錯覚してしまう!

フランクリンは”ささいな頼みごと”をすることで「憎悪」をも「好感」に変えてみせたのだっ!


アスカ(よーするに、キャバ嬢と客の関係よね)

アスカ(これだけ尽くしているんだから、僕はこの娘のことが相当好きに違いないーー)

アスカ(バカな客はそう思い込む。思い込もうとすることで「心」と「行動」のギャップを補完しようとする)

アスカ(逆にキャバ嬢はただ搾取するだけで、客をどんどん虜にできるってカラクリね)

アスカ(そうね。例えるならまさにーー)

アスカ「ふ、ふふふっ……」

アスカ(まさに、今の私とシンジの関係そのものっ)

アスカ(シンジが私に尽くせば尽くすほど、あいつは私の虜になるっ!)
32:19/04/28(日)18:57:50 dNN
合わせ技!
相手に”頼みごと”を断りにくくさせる『フット・イン・ザ・ドア』
相手に”頼みごと”をすることで好意を得る『ベンジャミン・フランクリン効果』
この二つのテクニックを組み合わせシンジを虜にすることこそが、アスカの真の狙いだったのだ!

アスカ(あっったりまえよ。『フット・イン・ザ・ドア』じゃ、バカシンジから告らせることが出来ないじゃない!)

アスカ(私はシンジに身の回りの世話を任せられて)

アスカ(シンジは私に惚れていく)

アスカ(ついでに、こっそりバカシンジに色目を使ってる虫けらどもを公然と追っ払える)

アスカ(……一石三鳥の最高のシナリオだわ)

アスカ「くくく……」

アスカ(そうね。この調子なら早ければ明日にもーー)
33:19/04/28(日)18:58:27 dNN
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

シンジ「はいアスカ、約束のお弁当」

アスカ「ん、サンキュ。……あれ、なんかいつもより豪勢じゃない?」

シンジ「うん、アスカに喜んで貰いたくて。がんばったんだ」

アスカ「……どーだか。単に私に文句言われるのが怖かっただけじゃないの?」

シンジ「そんなわけないだろ」

アスカ「昨日は作るのいやがってたくせに」

シンジ「ち、違うよ。僕はそんなつもりじゃ……」

アスカ「何が違うってのよ。嘘つき」

シンジ「嘘じゃないよっ。最近ぼく、おかしいんだ。アスカが何か困ってないか。アスカに何かしてあげられることがないのか。どうしたらアスカが喜んでくれるのか。そんなことばっかり頭に浮かんでーー」

アスカ「……それ、どういう意味?」

シンジ「え?」

アスカ「ちゃんと、言って」ジッ

シンジ「そ、それは……」ゴクリ



シンジ「ーー好きってことさ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アスカ(っ~~~!! イケるっ!)

ヒカリ「さ、さっきからどうしたのアスカ……?」
35:19/04/28(日)19:07:01 jDX
ーー翌日

アスカ「お昼休みね」

シンジ「そうだね、お昼だね」

アスカ「……」ジーッ

シンジ「?」

アスカ「……あー、オナカガスイタナァ」

シンジ「! そっか、そういえばアスカにもお弁当を作って来たんだった。ごめん、今渡すね」

アスカ「……」

シンジ「でも、その前にーー」



シンジ「はい、綾波。よかったらこのお弁当食べて」

アスカ「!?!?!?!!?」
36:19/04/28(日)19:07:55 jDX
綾波レイ。
最初のエヴァンゲリオンパイロット!
経歴は一切不明
多くを語らない少女の性格も相まってミステリアスな雰囲気を醸しているっ。
謎の多い彼女だが、スペック的にやや見劣りする零号機でシンジ・アスカの両名にひけをとらない戦果を残していることからも、『天才』であることがうかがえるっ!


レイ「……これは、なに?」

シンジ「お弁当、一つ余分につくってみたんだ」

レイ「なぜ?」

シンジ「だって綾波、いつもお昼ごはん食べてないでしょ」

レイ「……? よく、わからないわ。それは碇くんがお弁当をさしだす理由になるの?」

シンジ「うん。でも分からなくていいよ。とにかく僕は綾波にこれを食べて欲しーー」



アスカ「ちょっと待てぇぇええ!!」
39:19/04/28(日)19:15:38 jDX
シンジ「ど、どうしたんだよアスカ。急に大きな声出さないでよ」

アスカ「……これ、どういうこと?」

シンジ「えっ、綾波にお弁当を分けてるだけだよ」

アスカ「……どうしてそんなことするの?」

シンジ「朝のうちに作っておいたんだ」

アスカ「そういう意味じゃない」

シンジ「……? あっ、心配しないで。ちゃんとアスカの分もあるから」ニッコリ

アスカ「そういう話でもない」
40:19/04/28(日)19:16:10 jDX
アスカ「ファーストにお弁当を渡す理由を聞いてるの」

レイ「……碇くん。私も気になるわ、なぜ?」

シンジ「綾波、お昼ご飯を食べてないからさ。お腹が空いてるんじゃないかなって」

アスカ「っ……だからっ! なんで! 今日に限って! なのよ!?」

シンジ「そ、そんなの、アスカが頼んだからに決まってるだろ。アスカのお弁当をつくるついでだよ」

アスカ「はぁっ!? なにそれ! 答えになってないじゃない! わけわっかんないっ」

レイ「……そう、ね。私が碇くんにお願いしたわけじゃないもの」

シンジ「それは……」
41:19/04/28(日)19:16:54 jDX
シンジ「……実は僕、前からずっと気になってたんだ」

シンジ「綾波って、いつもカロリーメイトばかり食べてるでしょ?」

シンジ「前に家に行ったときは、冷蔵庫になにもなかったし」

シンジ「たまに父さんと外食に行ってるみたいだけど……」

シンジ「それだけじゃ、あんまり栄養は取れないんじゃないかなって。だから、その、せめてお弁当をーー」


レイ「…………そう。そんな風に思ってくれていたのね」
43:19/04/28(日)19:28:01 jDX
アスカ「で、でも。ファーストにだって好き嫌いはあるでしょうよ。勝手にお弁当なんて押し付けられたら迷惑よ」

レイ「……碇くん、ごめんなさい。わたし、肉だけは食べられないわ」

シンジ「前に綾波は肉が嫌いって言ってたから、肉は抜いておいたよ。ほかに嫌なものがあったら残してくれて構わないからね」

レイ「……わたしの嫌いなもの、覚えていてくれたのね」

アスカ「食費は!? お弁当を作るのにかかった食費はどうするのよ!?」

シンジ「……アスカってケチなの?」

アスカ「私はケチなんかじゃない! アンタ、NERFから支給される額分かってんの!? 使っても使っても使い余すくらいよ! ケチっても意味ないじゃない!」

シンジ「うん。つまりそういうことだよ」

アスカ「……」
45:19/04/28(日)19:33:08 Ogd
アスカ「……あんた。冷静に考えて、おかしなことしてるとは思わないの?」

シンジ「えっ。いや、べつに……」

アスカ「ほら、おかしいでしょ」

シンジ「おかしくないと思うよ」

アスカ「おかしいわ」

シンジ「どこがおかしいのさ」

アスカ「それは、その……いやだっておかしいじゃない」

シンジ「おかしいのはアスカじゃないか」
48:19/04/28(日)19:35:33 Ogd
シンジ「さっきからどうしたんだよ、アスカ」

アスカ「うっ」

シンジ「ほら、そろそろぼくたちも食べようよ」

アスカ「ううぅぅぅ~~~っ」

シンジ「はい、お弁当。アスカの分だよ」

アスカ「っ」

シンジ「……食べないの?」

アスカ「……食べるに決まってるでしょっ」バッ

シンジ「あっ」

アスカ「……」モグモグ

シンジ「どう、美味しい?」

アスカ「ふんっ、まあまあね。まあまあおいしいわよ、こんちくしょうっ」モグモグ

シンジ「なら良かった」ニッコリ

アスカ「……」モグモグ

アスカ(……まだよ。まだ今日は終わってない。午後の授業からあいつが動きを見せる可能性だってーー)
49:19/04/28(日)19:43:41 jDX
ーー午後



レイ「……」カキカキ

シンジ「綾波、何してるの?」

レイ「課題。まだやってないから……」

シンジ「なら僕の写させてあげるよ」

レイ「……そう」



レイ「っ……急に窓から風が。ーーあっ」ヒラッ

シンジ「あれ、プリント落ちたよ。はい」

レイ「……ごめんなさい」

シンジ「いいよ、気にしないで」
50:19/04/28(日)19:43:50 jDX


シンジ「ここ写し間違えてるよ」

レイ「……消しゴム、忘れてしまったの」

シンジ「はい、よかったら使って」

レイ「助かるわ」



シンジ「綾波、肩に糸くずついてるよ。取ってあげる」ヒョイッ

レイ「……碇くんは、優しいのね」

シンジ「そうかな?」

レイ「ええ。今日は親切にしてもらってばかりだわ」

シンジ「大したことはしてないよ」

レイ「……ごめんなさい。こんなときどんな顔をしたらいいのか、分からないの」

シンジ「笑えばいいと思うよ」ニッコリ

レイ「……」ニコッ


アスカ「~~~~っ!?!?!!?」
52:19/04/28(日)19:53:03 jDX
アスカ(何よ何よ何よ、何よっっ!)

アスカ(そんなにファーストがいいっての!?)

アスカ(何であいつには積極的なのよ!)

アスカ(私のときはっーー)

アスカ(何もしない。なびかないっ。こっちが仕掛けても見向きもしなかったくせにっ!)

アスカ(そんなに)

アスカ(そんなに私ってダメ、なの?)

アスカ「……」

ヒカリ「あ、アスカ……? だいじょうぶ?」

アスカ「うぅ、ぅぅぅぅ~~っ!」グスンッ

ヒカリ「よしよし」



アスカ(こうなったらーーっ)
53:19/04/28(日)19:59:44 jDX
ーー翌日



シンジ「お昼だね、綾波」

レイ「そうね」

シンジ「よかったら今日もお弁当ーー」

アスカ「はい、お弁当。ファーストの分。作ってきってやったから」ドンッ

レイ「えっ」

シンジ「えっ」
55:19/04/28(日)20:00:03 jDX
レイ「…………なぜ?」

アスカ「バカシンジと同じよ。あんたがあまりにも哀れだから、作ってきてやったのっ」

レイ「あなたが、私に、親切……?」

アスカ「……何よ。私があんたに優しくするのが、そんなにおかしい?」

レイ「ええ、ちゃんちゃらおかしいわ」
56:19/04/28(日)20:00:24 jDX
シンジ「で、でもアスカ。僕も綾波の分のお弁当作って来ちゃったんだけど」

アスカ「私が食べるわよ」

シンジ「アスカの分も別に作って来たんだけど……」

アスカ「それも食べるわ」

シンジ「えぇ……」

アスカ「なによ」

シンジ「……太るよ?」

アスカ「太らない」

シンジ「でも」

アスカ「太らないのっ」
60:19/04/28(日)20:09:48 jDX
レイ「……」

アスカ「何よ、私の手料理が食べられないっての?」

レイ「……ほんとに手料理? そもそもあなた、料理作れたの?」

アスカ「はっ、あったりまえでしょ。アスカ様は完全無欠なんだから。料理くらいお茶の子さいさいよ」

レイ「……でも、葛城三佐がいってたわ。いつもは碇くんがご飯をつくってる、って」

アスカ「うっ」

シンジ「……アスカが作ったっていうのは多分ほんとだよ。昨日の夜中、台所が騒がしかったから」

レイ「……夜中? そこまでして、これを作ったの?」

アスカ「余計なことは言わなくていいのよバカシンジっ」
61:19/04/28(日)20:11:18 jDX
レイ「そう」

アスカ「……なによ。そ、そんなに食べたくないなら別にもうーー」

レイ「いえ、食べるわ」パク

アスカ「あっ」

シンジ「あー……」

レイ「……」モグモグ

シンジ「…………味は、どう?」

レイ「……碇くんの方がおいしいわ」

アスカ「っーー!」

レイ「でも、ぽかぽかする」

アスカ「えっ」


シンジ「アスカ、香辛料入れすぎたりしたの?」ヒソヒソ

アスカ「そ、そんなことしてないはず……だけど」

レイ「?」
62:19/04/28(日)20:18:06 jDX
ーー午後



レイ「……」カキカキ

シンジ「今日も宿題やってないの?」

レイ「……昨日は、エヴァの個人訓練があったから」

シンジ「そうなんだ。よかったらーー」

アスカ「ファースト! 私の宿題見せたげるから、さっさと写しちゃいなさいっ!」

シンジ「えっ」


レイ「…………そう」



シンジ「あっ、いきなり風が!」

レイ「!?」

シンジ「そして綾波のプリントが飛ばされたっ!」

シンジ「よし、綾波取ってあげーー」

アスカ「ーーったく。何回プリント吹き飛ばせば気がすむのよ。しっかりしなさいよね、はい」

シンジ「えっ」


レイ「…………助かるわ」
63:19/04/28(日)20:18:28 jDX


レイ「……体操着、忘れてしまったわ」

シンジ「!」

シンジ「綾波っ。よかったら僕のジャージをーー」

アスカ「ファースト! となりのクラスのやつから体操着借りて着てやったわよ」

シンジ「ぼくのジャージは……?」

アスカ「アンタばかぁ? 男のジャージなんかを女子に着せようとしてんじゃないわよ」

レイ「恩に着るわ」
65:19/04/28(日)20:29:02 jDX
「なんだか最近、綾波さんとアスカって仲が良いわね」

「ねー? パイロット同士通じるものがあるのかしら」


シンジ「……ぼくも気になってたんだけどさ。アスカ、最近綾波と仲良いよね?」

アスカ「はぁ? なんで私があんなやつに仲良くしないといけないのよ」

シンジ「でも、やたらと優しいような……」

アスカ「それはただの性格よ。私は元から優しいの」

シンジ「えっ」

無論、アスカがレイに優しいのは意図してのことである。
66:19/04/28(日)20:29:40 jDX
アスカ(だってあのまま、シンジがファーストの世話を焼き続けたらーー)

アスカ(ーーシンジがあの女を好きになっちゃうじゃないっ!)

『ベンジャミン・フランクリン効果』!
人に優しく接すると、その相手に好意を抱いてしまう心理効果!
アスカはシンジよりも先にレイに親切にすることで、シンジにその影響が及ぶことを阻止したのだ!

アスカ(ついでにバカシンジにも私の優しさをアピールっ)

アスカ(もはやわたしに告白してくるのも時間の問題)

アスカ(ファーストのやつも勝手に私に友情感じてるみたいだし?)

アスカ(これで懸念事項はなくなったわ!)


ーーアスカ・ラングレーは天才である。
そこに疑いを挟む余地はない。
しかし。
67:19/04/28(日)20:37:34 jDX
「……でも、碇くんも綾波さんに優しいよね」

「うん。なんだかアスカに接するときよりも親身な感じ」

「ひょっとして、好きなのかしら」

「当たり前よ。あれは間違いなく脈ありだわ」

キャーキャー


アスカ(…………え?)

アスカ(バカシンジが、あいつを、好き?)

自分の感情が絡む時ーーとりわけ、恋愛のこととなると、彼女は途端に盲目的になる。
68:19/04/28(日)20:46:55 jDX
シンジ「ははっ。なんだか、また変な噂されちゃってるね」

アスカ「そ、そうよね。こんな噂、根も葉もない嘘っぱち……よね?」

シンジ「…………うん」

アスカ(え? え? どういうこと?)

アスカ(今の間は、なに?)

シンジ「さて、帰ろうか。そういえばアスカと変えるのって今日がはじめてーー」

アスカ「…………いい。ちょっと用事があるから、先帰ってて」タタタッ

シンジ「え、あっ……うん」
69:19/04/28(日)20:47:16 jDX
アスカ「……」トコトコ

アスカ「……」トコトコ

アスカ「……」トコトコ…ピタッ

アスカ「……」チラッ

アスカ「!」


レイ「……」カキカキ


アスカ「……あんた、こんな時間まで教室に残って、何してるのよ」

レイ「!」バッ

アスカ(何かを……隠した?)
70:19/04/28(日)21:02:24 jDX
レイ「……あなたの方こそ、どうしたの?」

アスカ「……私はとくに何もないわ。なんとなく、気分が悪いから教室に来ただけ」

レイ「……そう。じゃあ私も同じよ」

アスカ「嘘こけっ。あんた今、何か書いてたじゃない」

レイ「それは……」
71:19/04/28(日)21:02:49 jDX
レイ「ただ、手紙を書いてただけ」

アスカ「手紙……?」

レイ「そう、手紙。……特定の相手に情報を伝える文書。意思疎通の手段。そしてーー」

レイ「ーー口では伝えられない想いを伝えるためのもの」

アスカ「!」

アスカ「……それ、誰に渡すつもりなの?」

レイ「碇君よ」

アスカ「……あっそ。やっぱりね」
72:19/04/28(日)21:03:22 jDX
レイ「? なぜ、宛先が碇くんだと分かったの?」

アスカ「はっ、あんたもばかね。そんなの見てれば分かるわよ」

レイ「……そう。そういうもの、なのね」

アスカ「ーーまっ、びっくりはしたけどね。まさか人形みたいなアンタが、秘めた想いを手紙に込めるぅ~だなんて。乙女チックにもほどがあるもの」

レイ「ええ。碇司令に教えてもらった」

アスカ「…………そ。父親公認、ってわけ」
73:19/04/28(日)21:14:08 jDX
アスカ「あーあー。他人様の惚気話なんか聞くもんじゃないわね。砂糖吐きそう。気分わるーい」

レイ「のろけ……? なに、それ?」

アスカ「分からないならいいわよ、別に。じゃ、私は帰るから」

レイ「待って」

アスカ「なに?」

レイ「この手紙を、碇君に……あなたから渡して欲しいの」

アスカ「……」

アスカ「……はぁ!?」
74:19/04/28(日)21:14:59 jDX
アスカ「あんたばかぁ!? いや、ほんとのほんとにばかでしょっ!?」

レイ「……ダメ、なの?」

アスカ「なんでよりにもよって私が、そんなものシンジに渡さなきゃならないのよ!?」

レイ「……嬉しかった、から」

アスカ「は?」

レイ「お弁当。嬉しかった、から」

アスカ「…………悪いんだけど。アンタが何いってんのか、全然分かんない」
78:19/04/28(日)22:11:55 jDX
レイ「碇くんも、あなたも。とても親切にしてくれた」

アスカ「……」

レイ「好意の伴った行動。真心。そんな風に接せられたのは、はじめて」

アスカ「……その真心、だいぶ濁ってたけどね」

レイ「?」
79:19/04/28(日)22:12:17 jDX
レイ「手紙は、口では言いにくいことを伝えるもの。……でも、手渡しするんじゃ口で伝えるのと大差ない」

アスカ「恥ずかしいってワケ? なら下駄箱にでもぶち込めばいいじゃない」

レイ「……それは、ダメ」

レイ「ポカポカしないから」

アスカ「……」
80:19/04/28(日)22:14:26 jDX
アスカ「……なるほどね。アンタが信頼できるのはシンジと私だから。私に手紙を渡してほしいってわけ?」

レイ「……」コクン

アスカ「……悪意は、ないのよね?」

レイ「?」キョトン

アスカ「っ……」

アスカ「あーもー、いいわよっ。分かった! バカシンジに手紙を渡せばいいんでしょ!? 頼まれてやるわよ、そんくらいっ!」

レイ「……頼んで、いいの?」

アスカ「いいって言ってる!」

レイ「……」ニッコリ

アスカ「じゃ。もう帰るわ。手紙は貰ってくから」

レイ「ええ、さよなら」

アスカ「ふんっ」スタスタ
82:19/04/28(日)22:26:48 jDX
アスカ「……」スタスタ

アスカ「……」スタスタ…ピタッ


アスカ「……」ニヤリッ

アスカ(チャーンス)
83:19/04/28(日)22:27:25 jDX
アスカ(いやー、ファーストがバカでほんっっと助かった)

アスカ(まさかよりにもよって、恋敵にラブレターを頼むなんてね)

アスカ(そんなの、捨ててくださいって宣言してるようなものじゃない) ニヤッ

アスカ「……ふふっ」

アスカ(たしかに、バカシンジの気持ちはいま。いまだけはファーストの方に揺らいでるの”かもしれない”)

アスカ(そんな血迷ってるバカシンジに、ファーストがラブレターを送ろうものなら、簡単に堕ちる……”かもしれない”)

アスカ(でもその前に、私があいつに告ってしまえばーー)

アスカ(私の勝ちは鉄板っ!)
84:19/04/28(日)22:29:20 jDX
アスカ(そうと分かればささっとこの忌々しい手紙をそこのゴミ箱に捨ててーー)

アスカ(捨てて)

アスカ(捨て、て……)

アスカ「……あれ?」

アスカ(動かない)
85:19/04/28(日)22:29:48 jDX
アスカ(動けない……いや、動くつもりがないの?)

アスカ「……ああ、そういうこと」

アスカ(『ベンジャミン・フランクリン効果』)

アスカ(『行動』と『心』のバランスを保つ心理現象)

アスカ(相手に優しくすると、相手を好きになってしまうテクニック)

アスカ(“嫌い”を”好き”にも変えてしまう)

アスカ(どどのつまり)

アスカ「ファーストのこと、世話焼いてるあいだに嫌いじゃなくなっちゃってたんだ。わたし」
87:19/04/28(日)23:00:53 jDX
アスカ(はっーーなにそれ)

アスカ(元々はシンジを私に惚れさせるためのテクニックだったのに)

アスカ(私自身が身動き取れなくなってるんじゃ、わけないじゃないの)

アスカ「……」

アスカ「……イヤ」

アスカ(ーー嫌い)

アスカ(わたしは、ファーストが、嫌い)
88:19/04/28(日)23:01:24 jDX
アスカ(嫌い。嫌い嫌い、嫌いよ。ファーストなんか嫌い。だってあいつ、人形みたいでーー)


レイ『……』ニコッ


アスカ(自分の意思なんか何一つもってなくてーー)


レイ『……嬉しかった、から』


アスカ「っ……」

アスカ(嫌い、嫌い。ファーストは嫌い。ファーストなんか嫌いっ。綾波レイなんてだいっっきらい。シンジも嫌いっ。嫌いよっ!! みんな嫌いっ!)

アスカ(でも、一番嫌いなのはーー)

アスカ「ーーこんな私が一番嫌いっっ!!!」


シンジ「……アスカ?」
91:19/04/28(日)23:24:31 jDX
アスカ「ーーーーっ!」

シンジ「アスカ……どうしたの?」

アスカ「……なんでもない」

シンジ「なんでもないってことはーー」

アスカ「なんでもないっ!!」

シンジ「……そっか。分かったよ」

アスカ「……」

シンジ「じゃあ、もうすぐ下校時間だし……」

アスカ「……」

シンジ「帰ろうよ」


トコトコ

トコトコ…
92:19/04/28(日)23:25:01 jDX
トコトコ

トコトコ…

シンジ「すっかり、暗くなっちゃったね」

アスカ「……」

シンジ「ミサトさん、心配してるかな」

アスカ「……」

シンジ「ほら。ミサトさんって、ズボラだけど。意外と心配性だからさ」

アスカ「……」

シンジ「帰ったら、明るく安心させてあげないとね?」

アスカ「……」

シンジ「……」
93:19/04/28(日)23:25:32 jDX
トコトコ

トコトコ…

シンジ「……アスカ。聞いてるんでしょ?」

アスカ「……」

シンジ「ーー何があったの? やっぱり教えてよ」

アスカ「……」

シンジ「せめてこっち向いてよ」

アスカ「……」

シンジ「ねぇ、アスカ」

アスカ「……」

シンジ「僕を無視、しないでよ……」

アスカ「……」
94:19/04/28(日)23:39:22 jDX
トコトコ

トコトコ…

シンジ「ねぇ、アスーー」

アスカ「……クドイわよ、ばか」

シンジ「……よかった。やっと話してくれる気になったんだね」

アスカ「うざい」

シンジ「ひ、ひどいよ」

アスカ「……いいから、もう黙ってて」

シンジ「……」
95:19/04/28(日)23:40:55 jDX
トコトコ

トコトコ…

シンジ「……」チラッ

アスカ「……」

シンジ「……」ウズッ

アスカ「……」

シンジ「……」ソワソワ

アスカ「…………ウルサイ。あんたってこうもグイグイ来れるやつだったっけ?」

シンジ「ぼ、僕はちゃんと黙ってたじゃないかっ」

アスカ「何も言ってないけど、存在がうるさかったのよ」
96:19/04/28(日)23:42:09 jDX
シンジ「そ、そんなぁ……」

アスカ「……」

シンジ「……」チラッ

アスカ「……ハァ」

シンジ「……」ビクッ

アスカ「……もう、いいわ。よーく分かったから」

シンジ「え?」
97:19/04/28(日)23:42:47 jDX
アスカ「……私ね、向こうではずっと一人だったの」

シンジ「一人……?」

アスカ「そっ。だからエヴァの訓練を頑張った。一人だったから、誰かに見てもらいたかったのね」

シンジ「……」

アスカ「エヴァをより深く理解するために、勉強だって頑張った。大学だって卒業してのけた。努力して努力してーー結果は努力すればするほどついて来たわ」

シンジ「アスカ……」

アスカ「あんたのことは向こうで大まかに聞かされてたわ。私と同じ、一人で生きた来たやつ。どんなやつかと興味を抱いた」

シンジ「……」

アスカ「でも、実際に会ったら失望した。まさかこんな冴えないやつだとは思ってなかったから」

シンジ「……冴えないやつで、悪かったね」

アスカ「ほんとよ。その癖、何の苦労もなしに私のシンクロ率に並んでみせるんですもの。許せないったらないわ」

シンジ「……ごめん」

アスカ「何より許せないのはね、あんたのその態度よ。私が苦労に苦労を重ねて手に入れたものを最初っから持ってる癖にっ。あんた全然嬉しそうじゃないっ。
 ……あんたを見てるとね、今までの全てを否定されてるような気分になるのよ。無意味なことに執着してる、って嘲笑われてるような気になるのっ」

シンジ「あ、アスカ……?」

アスカ「だからわたし、あんたなんか嫌い」
98:19/04/28(日)23:45:23 jDX
シンジ「どうしたんだよ、アスカ。どうしてそんなーー」

アスカ「ほんとよ。嫌い。全然好きなんかじゃない。だからこんなもの、いくらでもアンタにくれてやるわよっ」

シンジ「!? これは、一体……?」

アスカ「手紙。ファーストからよ」

シンジ「綾波から? アスカも、これを頼まれたの?」

アスカ「そうよ」

シンジ「中身は……」ペラッ

アスカ「さあ、知らない」プイッ


シンジ「…………綾波」クスッ

アスカ「……ッ」

アスカ(……あーあ)

アスカ(アンタの勝ちよ、ファースト)

アスカ(わたしの負け。しかも不戦敗。まったく情けないったらーー)

シンジ「アスカも読む、これ?」

アスカ「!?」
99:19/04/29(月)00:01:18 dEe
アスカ「は、はぁ!? よ、読むわけないでしょっ」

シンジ「でも、気にならないの?ほら、読んでみなよ」ピラッ

アスカ「気にならないわよ。いいからしまえっ。ばかっ!」

シンジ「いいからいいからっ」ヒラヒラッ

アスカ「やめろ。やめなさいよっ」プイッ

シンジ「ほら、ほら」

アスカ「だからやめっ、やめて。やめてよ。見たくな……うぅっ」

アスカ「うっ、ぐ……ひっぐ……」

シンジ「え、アスカ?」

アスカ「ぅ、うぅぅぅぅ~~~~っ!!!


シンジ「え、えぇぇ? な、なんで泣くのさ!?」

アスカ「ぅぅ、うううぅぅぅ~~~」グスンッ
101:19/04/29(月)00:12:34 dEe
シンジ「あっ、アスカ。違うんだよっ。これ、こっちは綾波からアスカ宛ての手紙だからっ!」

アスカ「ぅぅぅ、ううう~~……うっ?」

アスカ「……ファーストから、私宛ての手紙?」

シンジ「アスカが頼まれたように。僕も同じように綾波から手紙を渡すよう頼まれていたんだよ」

アスカ「それって、どういう……」

シンジ「ちなみに、書かれてる文面は一緒だよ」

アスカ「……」ペラッ

『あ り が と う』

アスカ「…………は?」
102:19/04/29(月)00:13:08 dEe
アスカ「なに、これ? どういう、こと?」

シンジ「たぶん。面と向かって、ありがとうっていうのが恥ずかしかったんだろうね」

レイ『ーー口では伝えられない想いを伝えるためのもの』

アスカ「……なるほど」
103:19/04/29(月)00:21:09 dEe
アスカ「でも、なんでこの程度のこと口にするのを恥ずかしかってたのよ。あの子」

シンジ「さあ。きっと思い入れのある言葉だったんじゃないかな?」

アスカ「……わっかんないわね」

シンジ「そうだね。でも、そんなものじゃない?」

シンジ「僕だって、さっきまでのアスカのこと、よく分からないもん」

アスカ「……うっ」

シンジ「そもそも、なんで急に綾波に優しくなったのさ」

アスカ「……どうでもいいでしょ。そんなの」
104:19/04/29(月)00:22:03 dEe
シンジ「いいたくないなら、いいよ」

アスカ「……」

シンジ「ただ一つだけ言わせてもらうとねーー僕はそんなアスカに嫉妬してたんだ」

アスカ「……え?」

シンジ「ほら、綾波って儚げというか。どこか危なっかしいだろ?」

アスカ「……まあ、分からないでもないけど」

シンジ「だから、僕が守ってあげたいというか。支えてあげなきゃって思ってたんだ」

アスカ「はっ。ーー何を言い出すかと思えば。あんたの性癖なんて知りたくもないんだけど」

シンジ「そ、そういうんじゃないよ。そういうのとは別だよっ」

アスカ「どーだか」
105:19/04/29(月)00:22:31 dEe
シンジ「ほんとうにーーただ、誰かに必要としてもらいたかったんだ」

アスカ「……」

シンジ「僕もアスカと同じで。誰かに見てもらいたかったんだ」

アスカ「……だから、ファーストがいいんでしょ」

シンジ「違うよ。誰でもよかったんだ。僕には、自分しか中にいないんだよ」

アスカ「……」

シンジ「だからアスカが綾波に優しく接するようになった時、競うような真似をしたんだ。……僕を必要として欲しかったから」

アスカ「!?」
106:19/04/29(月)00:23:03 dEe
シンジ「……そこ、そんなに驚くところ?」

アスカ「えっ、だって、あれって……えっ、そういうことだったの!?」

シンジ「そうだよ。で、話の続きだけど」

アスカ「待って。ちょっと待って。まだ気持ちの整理が追いつかなーー」

シンジ「でも、今日手紙を書いてる綾波を見たとき。はじめてアスカが綾波仲良くなってくれてよかったって思えたんだ」
107:19/04/29(月)00:31:13 dEe
シンジ「なんと言ったらいいのか、よく分からないけど。はじめて自分の中に、自分以外の人がいるって実感できた気がしたんだ」

アスカ「……」

シンジ「だからアスカ、その、ありがとう」

アスカ「!」
108:19/04/29(月)00:32:37 dEe
アスカ「ば、ばっかじゃないのっ」アセアセ

アスカ「そんなの、あんたが一人で納得して、あんたが勝手にスッキリしただけじゃない」テレテレ

アスカ「そんなことでお礼を言われたって、迷惑なだけよっ」ニヤッ



シンジ「……」
109:19/04/29(月)00:40:33 dEe
シンジ「ねぇ、アスカ。さっきから、何でそんなに嬉しそうなの?」

アスカ「は、はぁ? あんたバカァ? 全然嬉しくないわよっ。どこをどう見たら、そう見えるっての!?」ニヘラッ

シンジ「僕に手紙を渡す時は、すごく悲しそうだったのに」

アスカ「ぐっ」

シンジ「あの手紙、一体なにと勘違いしてたの?」

アスカ「うっ、うるさいうるさいうるさいっ! 別に喜んでないし、悲しんでもないわよっ。そもそも、あんたのことなんか好きじゃないんだから、悲しくなるわけないでしょう!?」

シンジ「好きじゃないから、悲しくない……?」

シンジ「!」ハッ
110:19/04/29(月)00:41:23 dEe
シンジ「ーーあぁ、なるほど」

アスカ「なっ、何よ。何がなるほどなのよっ。あんた、何を悟ったってのよっ!?」

シンジ「なんていうか、その……」

アスカ「だから何よっ。言いたいことがあるならはっきり言えばいいでしょっ!?」

シンジ「いや、その、何て言い表せばいいのやらーー」


「あっ! 碇君とアスカがあんなところにいるわっ!」

「うっそ。まだ帰ってなかったの」

アスカ「!」

シンジ「!」
111:19/04/29(月)00:42:24 dEe
「デートかしら? アスカ、顔が真っ赤よ」

「そうね、お可愛いわね」


アスカ「……」

シンジ「……」

シンジ「うん、そうだね」

アスカ「?」

シンジ「はっきり、一言でいうなら」


シンジ「お可愛いんだね、アスカ」ニッコリ

アスカ「……」

アスカ「……」

アスカ「~~~~っ!?」
112:19/04/29(月)00:49:03 dEe
ウ,ウワーナニスルンダヨアスカ!?
コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルソノキオクヲコロシテヤル!!!!

トウジ「ーーふぅ。やれやれやな」

ヒカリ「そうね、一時はどうなることかと思ったけど」

トウジ「せやな。ここ数週間、教室がギスギスしてしゃーなかったわ」

ヒカリ「みんな気を遣ってたものね……」

トウジ「せやせや、ほんまシンドイったらないわ。さっさと素直になれやって話やねん」

ヒカリ「……素直に、か」

トウジ「ん?」

ヒカリ「ねぇ、鈴原。私の家、すぐそこなんだけど……寄っていかない?」

トウジ「イ、イインチョ。それってーー」


ケンスケ(ーーだからみんな、爆ぜてしまえばいいのに)


本日の勝敗

ケンスケ以外の勝ちっ!


劇終
114:19/04/29(月)01:12:28 2DN
おつやでー
115:19/04/29(月)08:40:47 LNy
おつ!