1: 2009/07/10(金) 20:29:53.78 ID:6SKF7edp0
子供「誰も……いないの?」
子供「何で、僕はこんな所にいるんだろう……」
子供「誰か……ヒク……グス……」
子供「何で、僕はこんな所にいるんだろう……」
子供「誰か……ヒク……グス……」
奴隷商「さあさあ、本日の目玉だよ!」の続きです
2: 2009/07/10(金) 20:31:04.63 ID:6SKF7edp0
泣きじゃくる子供がいるのは深い森。何時から居たのか分からない森。
その周辺には谷や山が連なり、とても開拓された土地には見えなかった。
延々と泣きじゃくる中、子供の耳に遥か遠方より何かの音が届いた。
人がいるのだろうかと泣き止むと、次第に地面についた手から、微かな振動を感じ始めた。
子供「……?」
この子供にはそれが何を意味するかは分からなかった。
だが、次第に大きくなる振動に、本能的に逃げなくてはいけない事だけは理解していた。
その周辺には谷や山が連なり、とても開拓された土地には見えなかった。
延々と泣きじゃくる中、子供の耳に遥か遠方より何かの音が届いた。
人がいるのだろうかと泣き止むと、次第に地面についた手から、微かな振動を感じ始めた。
子供「……?」
この子供にはそれが何を意味するかは分からなかった。
だが、次第に大きくなる振動に、本能的に逃げなくてはいけない事だけは理解していた。
3: 2009/07/10(金) 20:31:57.33 ID:6SKF7edp0
子供「ッハア……ッハア!」
子供(何処か……隠れる所……)
子供(大木の穴……大きすぎる……木の上……駄目だ、何かいけない気がする!)
子供(走ってるのに……音が近づい……助けて……)
子供(何処か……隠れる所……)
子供(大木の穴……大きすぎる……木の上……駄目だ、何かいけない気がする!)
子供(走ってるのに……音が近づい……助けて……)
5: 2009/07/10(金) 20:34:00.56 ID:6SKF7edp0
脳裏を過ぎる弱音を振り払う中、巨大な崖の裂け目が小さい双眸に映った。
子供(もう……走れない……ここしかっ)
子供(う……狭……わっ)ドスン
子供(中は……空洞なんだ……っ?!)
何か大きく重たい物が落ちる音が聞こえた。音の正体はもう、すぐそこまで来ているのだ。
子供「っ……! っ……!」
破裂しそうな心臓を押さえ、激しく伸縮を続ける肺に逆らい、呼吸を止めた。
苦しみや恐怖の波に揉まれも、生存本能だけを頼りに
ただの一つの音や身動きを押さえつけ続けたのだった。
子供(もう……走れない……ここしかっ)
子供(う……狭……わっ)ドスン
子供(中は……空洞なんだ……っ?!)
何か大きく重たい物が落ちる音が聞こえた。音の正体はもう、すぐそこまで来ているのだ。
子供「っ……! っ……!」
破裂しそうな心臓を押さえ、激しく伸縮を続ける肺に逆らい、呼吸を止めた。
苦しみや恐怖の波に揉まれも、生存本能だけを頼りに
ただの一つの音や身動きを押さえつけ続けたのだった。
7: 2009/07/10(金) 20:37:00.16 ID:6SKF7edp0
子供「……っは!」
勢いよく飛び上がり辺りを見渡した。
岩の裂け目に飛び込んだ先の洞窟は、今や静寂そのものだった。
子供「……」
あのまま気絶していたのか、恐ろしい足音はもう聞こえなかった。
子供「……助かった?」
勢いよく飛び上がり辺りを見渡した。
岩の裂け目に飛び込んだ先の洞窟は、今や静寂そのものだった。
子供「……」
あのまま気絶していたのか、恐ろしい足音はもう聞こえなかった。
子供「……助かった?」
9: 2009/07/10(金) 20:41:00.66 ID:6SKF7edp0
子供「……」
子供「これからどうしよう……お腹空いたけど……外出たくないよ」
子供「……」
子供「でもこのままじゃ……少しだけ……少しだけ出てみよう」
子供「これからどうしよう……お腹空いたけど……外出たくないよ」
子供「……」
子供「でもこのままじゃ……少しだけ……少しだけ出てみよう」
10: 2009/07/10(金) 20:43:00.06 ID:6SKF7edp0
子供はその後、何日も外に出ては周囲の探索を続けた。
日々得られるのは大きくても拳大程度の果実は数個。
そして巨大な足音に追われては、洞窟に逃げ込んでいた。
子供「……っ」
足音の正体はなんという事はなかった。爬虫類の様な鱗を纏った足。
巨大な怪獣でしかなかった。
子供(……追いつかれたら)ガクガク
日々得られるのは大きくても拳大程度の果実は数個。
そして巨大な足音に追われては、洞窟に逃げ込んでいた。
子供「……っ」
足音の正体はなんという事はなかった。爬虫類の様な鱗を纏った足。
巨大な怪獣でしかなかった。
子供(……追いつかれたら)ガクガク
11: 2009/07/10(金) 20:45:00.05 ID:6SKF7edp0
子供「……」
初めは恐怖するも、次第に好奇心に満たされた冒険と変わり、それから数週間が経った。
例えどんなに探索に慣れ様とも、天敵に対する術が洞窟に逃げ込むだけの彼には、
行動範囲も限られ、徐々に採れる食料も少なくなっていった。
子供「どうしたら……いいんだろう」
手足に力が入らない。それに外は雨が降っている。とても食料を探しに行けない。
仮に行けたとして、今の状態では天敵を気づけるのだろうか。逃げ切れるのだろうか。
子供「……誰か……グス……誰かぁ」
初めは恐怖するも、次第に好奇心に満たされた冒険と変わり、それから数週間が経った。
例えどんなに探索に慣れ様とも、天敵に対する術が洞窟に逃げ込むだけの彼には、
行動範囲も限られ、徐々に採れる食料も少なくなっていった。
子供「どうしたら……いいんだろう」
手足に力が入らない。それに外は雨が降っている。とても食料を探しに行けない。
仮に行けたとして、今の状態では天敵を気づけるのだろうか。逃げ切れるのだろうか。
子供「……誰か……グス……誰かぁ」
13: 2009/07/10(金) 20:48:30.77 ID:6SKF7edp0
子供「……」
自分の手にまとわりつく鼠を見つめていた。自分より小さい生き物を初めて見た。
このままではそう長くない事に気づいているのか、鼠は警戒心を震わす事は無かった。
子供「……」
手の平に乗った鼠をそっと、優しく掴んだ。
子供「……」
自分の手にまとわりつく鼠を見つめていた。自分より小さい生き物を初めて見た。
このままではそう長くない事に気づいているのか、鼠は警戒心を震わす事は無かった。
子供「……」
手の平に乗った鼠をそっと、優しく掴んだ。
子供「……」
15: 2009/07/10(金) 20:52:30.32 ID:6SKF7edp0
僅かに残った力で上半身を起こし、腕を胸元まで引き寄せた。
子供「ごめんね……ごめんね……っぐ!」
子供は意を決して、震える口を大きく開いた。
やっと危険な事に気づいた鼠は、今更ながら手の中で暴れだした。
子供「……っ!……っ!」
胃液が逆流しそうになる。だが、それでも子供は耐えて、ひたすら貪りついた。
必死に生きようと暴れていたが、今は動かないその身体を何度も何度でも。
子供(嫌だ……こんなの嫌だ……嫌だ……)
子供(……死にたくないんだ)
子供「ごめんね……ごめんね……っぐ!」
子供は意を決して、震える口を大きく開いた。
やっと危険な事に気づいた鼠は、今更ながら手の中で暴れだした。
子供「……っ!……っ!」
胃液が逆流しそうになる。だが、それでも子供は耐えて、ひたすら貪りついた。
必死に生きようと暴れていたが、今は動かないその身体を何度も何度でも。
子供(嫌だ……こんなの嫌だ……嫌だ……)
子供(……死にたくないんだ)
16: 2009/07/10(金) 20:55:10.39 ID:6SKF7edp0
子供「……」
大型爬虫類「……」
子供「……」
大型爬虫類「……?」
子供「……」ギリ
大型爬虫類「……」
子供「……」
大型爬虫類「……?」
子供「……」ギリ
17: 2009/07/10(金) 20:58:00.69 ID:6SKF7edp0
子供「……」グチャグチャ
子供「……」クッチャクッチャ
子供「……はあ……はあ」
子供「……」クッチャクッチャ
子供「……はあ……はあ」
18: 2009/07/10(金) 21:01:00.26 ID:6SKF7edp0
……
子供「……」ガリ ガリ
子供「……よし」
その子供にしては大きすぎるくらいの木の槍。
石で先端を尖らせただけの簡素な物だった。
子供「狩るんだ……他の生き物を食べなくちゃ……生き残れない」
子供「……」ガリ ガリ
子供「……よし」
その子供にしては大きすぎるくらいの木の槍。
石で先端を尖らせただけの簡素な物だった。
子供「狩るんだ……他の生き物を食べなくちゃ……生き残れない」
20: 2009/07/10(金) 21:05:10.79 ID:6SKF7edp0
子供は泣きじゃくる事が無くなった。生き残る術を必死に模索する日々だった。
狩る為の道具、逃げる為の罠。
あの雨の日までの生活が嘘のように、行動範囲は広がっていった。
そして今は、根城となる洞窟の探索に明け暮れていた。
子供「ここの壁……やっぱり誰かが作ったんだ」
洞窟の奥の壁に石を打ち付けると、ボロボロと崩れて人一人が通れる道が出てきた。
子供「奥に何が……?」
狩る為の道具、逃げる為の罠。
あの雨の日までの生活が嘘のように、行動範囲は広がっていった。
そして今は、根城となる洞窟の探索に明け暮れていた。
子供「ここの壁……やっぱり誰かが作ったんだ」
洞窟の奥の壁に石を打ち付けると、ボロボロと崩れて人一人が通れる道が出てきた。
子供「奥に何が……?」
21: 2009/07/10(金) 21:08:00.85 ID:6SKF7edp0
洞窟の奥には、小さな部屋があった。本棚があり、日記や図鑑、何かの研究記録のような本もあった。
幼い子供にとっては宝物の数々だった。生きる為の術が凝縮された場所だった。
子供「凄い……ここにある本を読めばもっと……」
子供「この本は……日記かな?」
内容は……難しい言葉ばかりで、殆ど読み取る事は出来なかった。
だが、ここには人がいた。その事実が、残り香のような温もりがこの部屋にはあった。
子供「……」
本を抱き締め、子供は久しく涙を流した。
幼い子供にとっては宝物の数々だった。生きる為の術が凝縮された場所だった。
子供「凄い……ここにある本を読めばもっと……」
子供「この本は……日記かな?」
内容は……難しい言葉ばかりで、殆ど読み取る事は出来なかった。
だが、ここには人がいた。その事実が、残り香のような温もりがこの部屋にはあった。
子供「……」
本を抱き締め、子供は久しく涙を流した。
22: 2009/07/10(金) 21:11:00.20 ID:6SKF7edp0
……
少年「あんの怪獣……人の獲物を盗るなんて……くそ!」
少年「……僕が捕らえるのを待ち構えているんだよなぁ」
少年「かといって、狩りをしない訳にはいかないし……あれはまだまだ倒せそうにないし」
少年「……」
少年「谷だ……あいつは谷には来なかった。向こうで狩りをしよう」
少年「あんの怪獣……人の獲物を盗るなんて……くそ!」
少年「……僕が捕らえるのを待ち構えているんだよなぁ」
少年「かといって、狩りをしない訳にはいかないし……あれはまだまだ倒せそうにないし」
少年「……」
少年「谷だ……あいつは谷には来なかった。向こうで狩りをしよう」
23: 2009/07/10(金) 21:14:19.01 ID:6SKF7edp0
少年「意外と……きついな……」
少年「これじゃ今日は……野宿になっちゃうな。狩りは明日にするか……」
「……なんだ、空耳かな?」
少年「……?!」
少年「これじゃ今日は……野宿になっちゃうな。狩りは明日にするか……」
「……なんだ、空耳かな?」
少年「……?!」
24: 2009/07/10(金) 21:16:15.34 ID:6SKF7edp0
「ここいらは誰も来ないと思ったけど……」
顔と上半身は人の姿だが、肩からは翼が生えており、下半身に至っては鳥の姿だった。
少年(うわっ、凄い、人じゃないけど、凄い、喋ってる!)
考えるよりも先に行動に出ていた。
少年は岩陰から飛び出した。
「……?!」
少年「凄い、魔族……? 言葉が通じる人がいる!」
顔と上半身は人の姿だが、肩からは翼が生えており、下半身に至っては鳥の姿だった。
少年(うわっ、凄い、人じゃないけど、凄い、喋ってる!)
考えるよりも先に行動に出ていた。
少年は岩陰から飛び出した。
「……?!」
少年「凄い、魔族……? 言葉が通じる人がいる!」
25: 2009/07/10(金) 21:18:00.27 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「こんな子供が下で生きていたなんてねぇ」
ハルピュイア「さぞ大変だったろうに……よしよし」
少年「えへへ、ありがとう。でも今は大丈夫。最近、怪獣がうざったいけど」
ハルピュイア「あの大きな爬虫類かい……?よく食われずに済んでるもんだ」
少年「今は獲物を横取られる。あいつ、僕を餌を捕る道具にしてやがるんだ」
ハルピュイア「なるほどねぇ……そうだ、ちょくちょくこっちに遊びにきなよ」
ハルピュイア「あんのオオトカゲを騙くらかす相談や、入れ知恵してやるよ」
ハルピュイア「さぞ大変だったろうに……よしよし」
少年「えへへ、ありがとう。でも今は大丈夫。最近、怪獣がうざったいけど」
ハルピュイア「あの大きな爬虫類かい……?よく食われずに済んでるもんだ」
少年「今は獲物を横取られる。あいつ、僕を餌を捕る道具にしてやがるんだ」
ハルピュイア「なるほどねぇ……そうだ、ちょくちょくこっちに遊びにきなよ」
ハルピュイア「あんのオオトカゲを騙くらかす相談や、入れ知恵してやるよ」
27: 2009/07/10(金) 21:20:15.71 ID:6SKF7edp0
怪獣「グルルル……」
数メートルもある巨体を揺らし、獲物を追いかける。
横取れないよう知恵をつけた生き物など、食ってしまえば良いのだ。
怪獣「グルル……?」
辿り着いた先は、壁に囲まれた谷底の行き止まり。
罠だろうか、と周囲を警戒し、ゆっくりと後退を始める。
その時、周囲の崖から岩石がいくつも降り注ぐ。
数メートルもある巨体を揺らし、獲物を追いかける。
横取れないよう知恵をつけた生き物など、食ってしまえば良いのだ。
怪獣「グルル……?」
辿り着いた先は、壁に囲まれた谷底の行き止まり。
罠だろうか、と周囲を警戒し、ゆっくりと後退を始める。
その時、周囲の崖から岩石がいくつも降り注ぐ。
29: 2009/07/10(金) 21:24:00.11 ID:6SKF7edp0
怪獣「グウウウ……ガァ!」
突如走る痛みに、怪獣は周囲を見渡しすと、
大きな尾を担いで逃げ出す人の姿があった。
いよいよ食ってやろうと待ち伏せていたのは彼も同じ。
降り注ぐ岩に行く手をを阻まれ、
追う事も出来ず、怪獣は見事に完敗したのだった。
突如走る痛みに、怪獣は周囲を見渡しすと、
大きな尾を担いで逃げ出す人の姿があった。
いよいよ食ってやろうと待ち伏せていたのは彼も同じ。
降り注ぐ岩に行く手をを阻まれ、
追う事も出来ず、怪獣は見事に完敗したのだった。
30: 2009/07/10(金) 21:26:00.05 ID:6SKF7edp0
少年「いやぁ、成功するのかと不安だったけど、あいつの尻尾捕ってきたよ」
ハルピュイア「坊やが岩に潰されるんじゃないか、と少し不安だったけど無事でよかったよ」
少年「うん、大丈夫だった! 美味しいか分からないけど……一緒に食べる?」
ハルピュイア「気の利く坊やだね……それじゃあ君の獲物、ご相伴させてもらうわ」
ハルピュイア「坊やが岩に潰されるんじゃないか、と少し不安だったけど無事でよかったよ」
少年「うん、大丈夫だった! 美味しいか分からないけど……一緒に食べる?」
ハルピュイア「気の利く坊やだね……それじゃあ君の獲物、ご相伴させてもらうわ」
31: 2009/07/10(金) 21:28:59.97 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「それでは、少年の初の大物に乾杯っ♪」
少年「か、乾杯っ?」
ハルピュイア「祝ったりする時は、こうやって飲み物が入っている容器を鳴らすのさ」
ハルピュイア「まあ……あたし達にはコップを持つなんて芸はできないけどね」
少年「ふ~ん……じゃあ、改めて乾杯っ!」
ハルピュイア「ふふ、乾杯っ! それにしても、少年は見た事無い魔族だけども、なんの種族だい?」
少年「んー……自分がどうしてここにいるのかも分からないんだよね」
ハルピュイア「記憶喪失? まあ、どちらにせよ、魔族としての力を引き出せるように、特訓はしておいた方がいいかもね」
少年「か、乾杯っ?」
ハルピュイア「祝ったりする時は、こうやって飲み物が入っている容器を鳴らすのさ」
ハルピュイア「まあ……あたし達にはコップを持つなんて芸はできないけどね」
少年「ふ~ん……じゃあ、改めて乾杯っ!」
ハルピュイア「ふふ、乾杯っ! それにしても、少年は見た事無い魔族だけども、なんの種族だい?」
少年「んー……自分がどうしてここにいるのかも分からないんだよね」
ハルピュイア「記憶喪失? まあ、どちらにせよ、魔族としての力を引き出せるように、特訓はしておいた方がいいかもね」
32: 2009/07/10(金) 21:33:30.77 ID:6SKF7edp0
……
少年「これが俺の本当の姿かぁ……」
少年は二対の角と一対の羽を生やしていた。
少年「う~ん……何度見てもかっこいい!」
ハルピュイア「はいはい、今日も飛行訓練するよ」
少年「ね、ねえ、場所は湖に戻さない?」
ハルピュイア「それじゃ何時までも上達しないでしょ」
ハルピュイア「さ、地面に叩きつけられないようにしっかり飛ぶ!」
少年「うう、くっそ~……あわ、わわわわわ」グラグラ
ハルピュイア「姿は立派なんだけどなぁ」
少年「これが俺の本当の姿かぁ……」
少年は二対の角と一対の羽を生やしていた。
少年「う~ん……何度見てもかっこいい!」
ハルピュイア「はいはい、今日も飛行訓練するよ」
少年「ね、ねえ、場所は湖に戻さない?」
ハルピュイア「それじゃ何時までも上達しないでしょ」
ハルピュイア「さ、地面に叩きつけられないようにしっかり飛ぶ!」
少年「うう、くっそ~……あわ、わわわわわ」グラグラ
ハルピュイア「姿は立派なんだけどなぁ」
33: 2009/07/10(金) 21:38:00.07 ID:6SKF7edp0
少年「見て見て~! もう墜落なんてしないよ!」
ハルピュイア「はい、そこで右に旋回」
少年「そんなのらっくしょ、っ木ぃ!」
ハルピュイア「まだまだねぇ……」
ハルピュイア「はい、そこで右に旋回」
少年「そんなのらっくしょ、っ木ぃ!」
ハルピュイア「まだまだねぇ……」
34: 2009/07/10(金) 21:40:45.57 ID:6SKF7edp0
少年「酷いや……分かっててあんな指示するんだもの」ブツブツ
ハルピュイア「いーい? 過信や自惚れは自分を殺すわよ」
ハルピュイア「坊やが何時もの様に走るのとは違うの」
ハルピュイア「例え旋回ができるようになっても、咄嗟の判断で障害物を避けられるレベルじゃない」
ハルピュイア「まだまだ雛が飛ぶ事を覚えたに過ぎないの。分かったわね?」
少年「……はーい」
ハルピュイア「いーい? 過信や自惚れは自分を殺すわよ」
ハルピュイア「坊やが何時もの様に走るのとは違うの」
ハルピュイア「例え旋回ができるようになっても、咄嗟の判断で障害物を避けられるレベルじゃない」
ハルピュイア「まだまだ雛が飛ぶ事を覚えたに過ぎないの。分かったわね?」
少年「……はーい」
35: 2009/07/10(金) 21:44:10.29 ID:6SKF7edp0
少年「川魚捕れたよー」
ハルピュイア「わざわざそれ持ってきたの?」
少年「そうだけど? ほら、火を起こすからちょっと待ってて」
ハルピュイア「いやここは、燃えるから外でやってね」
ハルピュイア「わざわざそれ持ってきたの?」
少年「そうだけど? ほら、火を起こすからちょっと待ってて」
ハルピュイア「いやここは、燃えるから外でやってね」
36: 2009/07/10(金) 21:46:40.10 ID:6SKF7edp0
少年「今日は野菜を持ってきたよー」
ハルピュイア「うっわぁ、自生している所でも見つけたの?」
少年「うん。あと、洞窟にあった本のマネで育ててみたら上手くいったんだ」
ハルピュイア「こんな島で農耕が行われるとは……」
少年「今まで肉と果実とか野草ばっかりだったから、毎日がすっごい楽しみだよ」
少年「それにね、薄い岩を見つけたんだ。時間は掛かるけども”炒める”って調理法ができるようになったんだ!」
ハルピュイア「この子は何処に向かうんだろうねぇ……」
ハルピュイア「うっわぁ、自生している所でも見つけたの?」
少年「うん。あと、洞窟にあった本のマネで育ててみたら上手くいったんだ」
ハルピュイア「こんな島で農耕が行われるとは……」
少年「今まで肉と果実とか野草ばっかりだったから、毎日がすっごい楽しみだよ」
少年「それにね、薄い岩を見つけたんだ。時間は掛かるけども”炒める”って調理法ができるようになったんだ!」
ハルピュイア「この子は何処に向かうんだろうねぇ……」
37: 2009/07/10(金) 21:48:40.44 ID:6SKF7edp0
少年「今日は何が獲れるかなぁ」
少年「鳥……よーし」
ハルピュイア『どうかしたかい、坊や?』
少年「……」
少年「蛇でも探すか……」
少年「鳥……よーし」
ハルピュイア『どうかしたかい、坊や?』
少年「……」
少年「蛇でも探すか……」
38: 2009/07/10(金) 21:50:30.40 ID:6SKF7edp0
少年「やっほーい」
ハルピュイア「やっほーう」
少年「草食動物の肉で燻製してみたよ~」
ハルピュイア「こんな島なのに、とんでもない料理スキルを」
少年「何だかんだで、もう何年も住んでるからねぇ」
ハルピュイア「……」
少年「どうかした?」
ハルピュイア「結構経ったんだなぁって思ってね」
ハルピュイア「やっほーう」
少年「草食動物の肉で燻製してみたよ~」
ハルピュイア「こんな島なのに、とんでもない料理スキルを」
少年「何だかんだで、もう何年も住んでるからねぇ」
ハルピュイア「……」
少年「どうかした?」
ハルピュイア「結構経ったんだなぁって思ってね」
39: 2009/07/10(金) 21:52:35.37 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「ねえ、坊や。ここでの生活は好き?」
少年「うん、お姉ちゃんもいてくれるし、大好き!」
ハルピュイア「……」
少年「……?」
ハルピュイア「あたしは時々思うんだ。君はその翼で、もっと遠くに飛び立つべきだって」
ハルピュイア「この島の外には大陸がある。そこでもっと多くの事を学び成長すべきなんじゃないかって」
少年「外の世界……」
ハルピュイア「本当に良い事かは分からないけど。もし気が向いたら言って。外の事を教えてあげるから」
少年「うん、お姉ちゃんもいてくれるし、大好き!」
ハルピュイア「……」
少年「……?」
ハルピュイア「あたしは時々思うんだ。君はその翼で、もっと遠くに飛び立つべきだって」
ハルピュイア「この島の外には大陸がある。そこでもっと多くの事を学び成長すべきなんじゃないかって」
少年「外の世界……」
ハルピュイア「本当に良い事かは分からないけど。もし気が向いたら言って。外の事を教えてあげるから」
40: 2009/07/10(金) 21:53:59.97 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「大陸には幾つもの国があって、そこの長を魔王って呼ぶの」
ハルピュイア「ああ、国っていうのは、魔族や魔物が集団で生活している所ね」
ハルピュイア「いっぱい人がいれば、その分いざこざが起こるから、それを仕切る人が必要なのよ」
少年「何だか外の世界って面倒だなぁ……」
ハルピュイア「でも、そうやって他人と協力して生きるのも楽しいのよ」
ハルピュイア(基本、独力で生きているこの子には難しかったかなぁ)
ハルピュイア「ああ、国っていうのは、魔族や魔物が集団で生活している所ね」
ハルピュイア「いっぱい人がいれば、その分いざこざが起こるから、それを仕切る人が必要なのよ」
少年「何だか外の世界って面倒だなぁ……」
ハルピュイア「でも、そうやって他人と協力して生きるのも楽しいのよ」
ハルピュイア(基本、独力で生きているこの子には難しかったかなぁ)
41: 2009/07/10(金) 22:01:10.30 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「いくつも国がある中で、敵対しているグループがあるの」
少年「協力して生きるんじゃないのー?」
ハルピュイア「あー説明が面倒だけども、考え方の違いがあるのよ」
ハルピュイア「特に南西の方はあんまりいい噂がないから行かない方がいいわよ?」
少年「協力して生きるんじゃないのー?」
ハルピュイア「あー説明が面倒だけども、考え方の違いがあるのよ」
ハルピュイア「特に南西の方はあんまりいい噂がないから行かない方がいいわよ?」
42: 2009/07/10(金) 22:02:35.50 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「今まで教えてきたのは、北の大陸。今日は南の大陸についてね」
ハルピュイア「と言っても、あまり詳しい事は知らないんだけどね」
ハルピュイア「南は人間って種族がいるらしいんだけども、向こうには近寄っちゃいけない決まりなの」
少年「何でー?」
ハルピュイア「各国の取り決めとしか知らないんだよねぇ」
少年「ふーん……とりあえず南の大陸はどうでもいい、と」
ハルピュイア「と言っても、あまり詳しい事は知らないんだけどね」
ハルピュイア「南は人間って種族がいるらしいんだけども、向こうには近寄っちゃいけない決まりなの」
少年「何でー?」
ハルピュイア「各国の取り決めとしか知らないんだよねぇ」
少年「ふーん……とりあえず南の大陸はどうでもいい、と」
44: 2009/07/10(金) 22:06:29.94 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「今日は北の大陸の細かけど大切なお話よ」
ハルピュイア「基本、国ではお金と言う物を渡すと、食べ物や道具が貰えるの」
少年「……?! まさか狩りとかしちゃ、駄目なの?」
ハルピュイア「禁止されているわけじゃないから安心して。ただ、誰かの動物である可能性もあるから気をつけてね」
少年「んー……お金ってどうすれば貰えるの? 食べ物とか渡すのかな?」
ハルピュイア「坊やなら、動物の皮とか見つけた薬草を煎じた物を持っていけばいい、かな?」
少年「……微妙にアバウトー」
ハルピュイア「基本、国ではお金と言う物を渡すと、食べ物や道具が貰えるの」
少年「……?! まさか狩りとかしちゃ、駄目なの?」
ハルピュイア「禁止されているわけじゃないから安心して。ただ、誰かの動物である可能性もあるから気をつけてね」
少年「んー……お金ってどうすれば貰えるの? 食べ物とか渡すのかな?」
ハルピュイア「坊やなら、動物の皮とか見つけた薬草を煎じた物を持っていけばいい、かな?」
少年「……微妙にアバウトー」
45: 2009/07/10(金) 22:09:40.35 ID:6SKF7edp0
少年「……」
ハルピュイア「待ちに待った旅立つ前日になんて顔してんのよ」
少年「だって……ここを離れたら、お姉ちゃんには会えなくなるんだもの」
ハルピュイア「外の世界にはね。多くの人がいるの。こことは違った苦労がたくさんあるわ」
ハルピュイア「辛くなったらここへお戻り。あたし達の種族の寿命は長い方なんだから、ね」
少年「うん……何時か、帰ってくるよ」
ハルピュイア「待ちに待った旅立つ前日になんて顔してんのよ」
少年「だって……ここを離れたら、お姉ちゃんには会えなくなるんだもの」
ハルピュイア「外の世界にはね。多くの人がいるの。こことは違った苦労がたくさんあるわ」
ハルピュイア「辛くなったらここへお戻り。あたし達の種族の寿命は長い方なんだから、ね」
少年「うん……何時か、帰ってくるよ」
46: 2009/07/10(金) 22:11:50.10 ID:6SKF7edp0
ハルピュイア「旅路に出る前に最後に二つ伝えておくわ」
ハルピュイア「必ず生き残る事。これは分かっているね?」
少年「うん、負ければ咀嚼されるもんね」
ハルピュイア「外の世界はそこまでは……まあいいや、二つ目は普段は角と翼を隠しなさい」
ハルピュイア「その姿でいる時、どうも魔力がだだ漏れな気がするのよ」
ハルピュイア「いきなり暴発しないとは言い切れないし、周りに影響を与えかねないからね」
少年「どんな時なら元の姿になっていいの?」
ハルピュイア「必要な時になったらね。普通の姿じゃどうにもならない、とか」
少年「空飛びたい時ぐらいしかない気がするけど……分かったよ」
ハルピュイア「必ず生き残る事。これは分かっているね?」
少年「うん、負ければ咀嚼されるもんね」
ハルピュイア「外の世界はそこまでは……まあいいや、二つ目は普段は角と翼を隠しなさい」
ハルピュイア「その姿でいる時、どうも魔力がだだ漏れな気がするのよ」
ハルピュイア「いきなり暴発しないとは言い切れないし、周りに影響を与えかねないからね」
少年「どんな時なら元の姿になっていいの?」
ハルピュイア「必要な時になったらね。普通の姿じゃどうにもならない、とか」
少年「空飛びたい時ぐらいしかない気がするけど……分かったよ」
47: 2009/07/10(金) 22:14:00.30 ID:6SKF7edp0
少年「それじゃあ俺、行くね」
ハルピュイア「ええ、行ってらっしゃい。たかが一年、二年で帰ってこないよーに」
少年「……後ろ髪引かれる思いなのに、そういう事言うの?」
ハルピュイア「湿っぽいのは嫌いだよぉ。さあ行った行った。大陸までは長いんだから落ちないでね」
少年「……おまけに酷い言われよう。もう墜落なんてしてないのに」
ハルピュイア「ええ、行ってらっしゃい。たかが一年、二年で帰ってこないよーに」
少年「……後ろ髪引かれる思いなのに、そういう事言うの?」
ハルピュイア「湿っぽいのは嫌いだよぉ。さあ行った行った。大陸までは長いんだから落ちないでね」
少年「……おまけに酷い言われよう。もう墜落なんてしてないのに」
48: 2009/07/10(金) 22:14:45.14 ID:6SKF7edp0
黒く、鴉のような翼を広げ、一人の少年は羽ばたいた。未だ見ぬ世界の扉をくぐる為。
小さな身体には似合わない、巨大な翼の雄雄しい羽ばたきを見ると、何処までも飛んで行ってしまえそうに思える。
ハルピュイア「ふふ……空の果てまで飛んで行きそうね」
ハルピュイア「土産話、待ってるからね……」
小さな身体には似合わない、巨大な翼の雄雄しい羽ばたきを見ると、何処までも飛んで行ってしまえそうに思える。
ハルピュイア「ふふ……空の果てまで飛んで行きそうね」
ハルピュイア「土産話、待ってるからね……」
51: 2009/07/10(金) 22:36:10.34 ID:6SKF7edp0
少年「……」
少年「……」
少年「……っは!」ガバ
少年「……?!……?!」キョロキョロ
少年「は、浜辺か……?」
少年「……」
少年「……っは!」ガバ
少年「……?!……?!」キョロキョロ
少年「は、浜辺か……?」
52: 2009/07/10(金) 22:38:40.33 ID:6SKF7edp0
少年「遠すぎだ……疲れた」
少年「……」
少年「ここが大陸かぁ……」
少年「……」
少年「獲物がいない……」
少年「……」
少年「ここが大陸かぁ……」
少年「……」
少年「獲物がいない……」
53: 2009/07/10(金) 22:40:14.89 ID:6SKF7edp0
少年「ここらの海の魚って不味いものなのかなぁ」
少年「草食動物を狙えばよかったか……」
少年「……よし、夜も明けたんだ。ここからは歩いて行こう」
少年「草食動物を狙えばよかったか……」
少年「……よし、夜も明けたんだ。ここからは歩いて行こう」
54: 2009/07/10(金) 22:42:55.16 ID:6SKF7edp0
……
少年「おぉぉぉぉ~~」
決して大きくは無い街ではあるものの、溢れる活気に目を輝かしてははしゃいでいただ。
少年「凄い、皆言葉を喋ってる……これが国なんだぁ」
少年「うん? 町だっけ、村だっけ? ……まあいっか」
少年「おっと、まずは道具屋で要らない物を売らないと……」
少年「……」
少年「いっつも食っていた奴の骨なんか、何の役に立つんだろうと思ったけど……」
少年「……金貨って綺麗だなぁ」
少年「おぉぉぉぉ~~」
決して大きくは無い街ではあるものの、溢れる活気に目を輝かしてははしゃいでいただ。
少年「凄い、皆言葉を喋ってる……これが国なんだぁ」
少年「うん? 町だっけ、村だっけ? ……まあいっか」
少年「おっと、まずは道具屋で要らない物を売らないと……」
少年「……」
少年「いっつも食っていた奴の骨なんか、何の役に立つんだろうと思ったけど……」
少年「……金貨って綺麗だなぁ」
55: 2009/07/10(金) 22:48:40.85 ID:6SKF7edp0
男「おう坊や、旅人か?」
少年「そうだけど?」
男「さっきからキョロキョロしていたからな、案内してやるぜ」
少年「本当?! ありがとー!」
男「へっへっへ、痛い目を見たくなかったら、その金を置いていくんだな」
少年(狭い通路に行き止まり、そうか、これが大陸流の狩りかっ!)
男「おい、聞いて……」
男「ヒィィィィィ!!」 [>escape
少年「っち! 仕留め損なった!」
少年「そうだけど?」
男「さっきからキョロキョロしていたからな、案内してやるぜ」
少年「本当?! ありがとー!」
男「へっへっへ、痛い目を見たくなかったら、その金を置いていくんだな」
少年(狭い通路に行き止まり、そうか、これが大陸流の狩りかっ!)
男「おい、聞いて……」
男「ヒィィィィィ!!」 [>escape
少年「っち! 仕留め損なった!」
57: 2009/07/10(金) 22:50:50.32 ID:6SKF7edp0
少年「うっわ、凄いや、この防具軽いや」
武具屋(う~ん、何て原始的な鎧を着ていたんだろう、この子)
少年「おまけに凄い切れ味だよ、この剣!」
武具屋(鉄を叩いて作っただけの剣とか何時の時代だろう……)
少年「おじさんありがとー! 古いの引き取ってもらった上にお代までいいなんて、何か申し訳ないなぁ」
武具屋「なぁに、子供が気にする事じゃないさ」
武具屋(実用していたわけだし、これはこれでいいコレクション!)
武具屋(う~ん、何て原始的な鎧を着ていたんだろう、この子)
少年「おまけに凄い切れ味だよ、この剣!」
武具屋(鉄を叩いて作っただけの剣とか何時の時代だろう……)
少年「おじさんありがとー! 古いの引き取ってもらった上にお代までいいなんて、何か申し訳ないなぁ」
武具屋「なぁに、子供が気にする事じゃないさ」
武具屋(実用していたわけだし、これはこれでいいコレクション!)
58: 2009/07/10(金) 22:56:19.77 ID:6SKF7edp0
宿屋
少年「っへへ、武具屋さんに地図まで貰っちゃった~」
少年「ここの食事美味しかったなぁ。パンとかどうやって作るんだろう……」
少年「さぁて、明日から何処へ向かうかな」
少年「でも、何処がどんな国か分からないんだよねぇ」
少年「っへへ、武具屋さんに地図まで貰っちゃった~」
少年「ここの食事美味しかったなぁ。パンとかどうやって作るんだろう……」
少年「さぁて、明日から何処へ向かうかな」
少年「でも、何処がどんな国か分からないんだよねぇ」
59: 2009/07/10(金) 22:58:09.07 ID:6SKF7edp0
現在少年は北西に位置する国の領域にいる。国境には警備や関所は無く、
目的地を望めば、何処にでも自由にいけるのだ。各国の情勢、治安はあれど。
少年「もっと南に進もうかな……でも、北や東の方が国の数は多いなぁ」
少年「あれ、南西の国って……まあいいか」
少年「どっかの国で、しっかりこの大陸の事と常識を学んでから、色んな所に行こうかな……」
目的地を望めば、何処にでも自由にいけるのだ。各国の情勢、治安はあれど。
少年「もっと南に進もうかな……でも、北や東の方が国の数は多いなぁ」
少年「あれ、南西の国って……まあいいか」
少年「どっかの国で、しっかりこの大陸の事と常識を学んでから、色んな所に行こうかな……」
60: 2009/07/10(金) 23:01:11.55 ID:6SKF7edp0
……
少年「ふぅ……そろそろ昼食にしよっと」
少年「パ、パンから毛が……いやいや、カビてるだけか」
少年「保存食とはしてはいまいちの性能だなぁ……やっぱ狩って燻製にした方が良いなぁ」
少年「まずい……パンが全滅しているとなると、結構心許ないな」
怪鳥「ギャァーー」
少年「……パン、食べるか?」
少年「ふぅ……そろそろ昼食にしよっと」
少年「パ、パンから毛が……いやいや、カビてるだけか」
少年「保存食とはしてはいまいちの性能だなぁ……やっぱ狩って燻製にした方が良いなぁ」
少年「まずい……パンが全滅しているとなると、結構心許ないな」
怪鳥「ギャァーー」
少年「……パン、食べるか?」
61: 2009/07/10(金) 23:04:34.88 ID:6SKF7edp0
少年「保存食も調達したし、そろそろ行くかな」
少年「国境を越えているんだから、町や村があってもいい頃だとは思うけども……」
少年「廃村ばかりなんだよなぁ」
少年「国境を越えているんだから、町や村があってもいい頃だとは思うけども……」
少年「廃村ばかりなんだよなぁ」
62: 2009/07/10(金) 23:06:45.50 ID:6SKF7edp0
少年「ふぅ~久々に水浴びができて良かったぁ。あ、お風呂って言うんだったか」
宿主「君、旅をしているのかい? まさかこの国の首都に行くつもりじゃあないよね?」
少年「そうですけども……何か問題があるんでしょうか?」
宿主「まだ国の外れだからいいけども、ここは治安が悪い所なんだよ」
少年「俺は強いから大丈夫ですよ」
宿主「……う~ん」
少年「あ、ご馳走様でした。晩御飯、凄く美味しかったです」
宿主「君、旅をしているのかい? まさかこの国の首都に行くつもりじゃあないよね?」
少年「そうですけども……何か問題があるんでしょうか?」
宿主「まだ国の外れだからいいけども、ここは治安が悪い所なんだよ」
少年「俺は強いから大丈夫ですよ」
宿主「……う~ん」
少年「あ、ご馳走様でした。晩御飯、凄く美味しかったです」
64: 2009/07/10(金) 23:11:49.97 ID:6SKF7edp0
……
少年「何だ……この村」
村に着くより前から漂う臭気。少年には嗅ぎなれた臭いだった。
独特の鉄臭さ。だが、この大陸でこれほどの臭気が放たれる必要があるのだろうか。
辿り着いたそこは、肉食の生き物達の餌場と化していた。
少年「ここで一体何が……」
少年「何だ……この村」
村に着くより前から漂う臭気。少年には嗅ぎなれた臭いだった。
独特の鉄臭さ。だが、この大陸でこれほどの臭気が放たれる必要があるのだろうか。
辿り着いたそこは、肉食の生き物達の餌場と化していた。
少年「ここで一体何が……」
65: 2009/07/10(金) 23:13:00.26 ID:6SKF7edp0
どの家も荒れ果て、金品は無くなっている。
少年「これが賊の仕業なのか……?」
少年「大陸じゃあ、こんな事をしなければ生きられないのか……?」
少年「……」
少年「これが賊の仕業なのか……?」
少年「大陸じゃあ、こんな事をしなければ生きられないのか……?」
少年「……」
66: 2009/07/10(金) 23:17:05.10 ID:6SKF7edp0
「誰か! 助け……」
「うるせえ! おとなしくしろ!」
「ひぃ! いやぁ……誰かぁ……」
所々伐採跡が見える林の中、人の声を聞く。実に数週間ぶりに聞いた気がした。
少年「……」
女「た、助けて……お願い……」
男A「何だぁ、このガキ。殺されたくなかったら、とっとと行っちまえ」
男B「そうだ、俺達は忙しいから見逃してやる。ありがたく思うんだな」
少年「……」
「うるせえ! おとなしくしろ!」
「ひぃ! いやぁ……誰かぁ……」
所々伐採跡が見える林の中、人の声を聞く。実に数週間ぶりに聞いた気がした。
少年「……」
女「た、助けて……お願い……」
男A「何だぁ、このガキ。殺されたくなかったら、とっとと行っちまえ」
男B「そうだ、俺達は忙しいから見逃してやる。ありがたく思うんだな」
少年「……」
67: 2009/07/10(金) 23:20:45.31 ID:6SKF7edp0
少年「……その人をどうこうしないと、貴方達は生きていけない程、苦しい生活なのですか?」
男A「……はあ?」
少年「その人を手にかけないと、貴方方は生き残れないのか?」
男A「ばぁーか、んな訳あるかよ。こいつとは遊んでやるんだよ」
女「い、いや……」
男B「あー? まっさか小僧もやりたいのか?」
少年「……」
男A「……はあ?」
少年「その人を手にかけないと、貴方方は生き残れないのか?」
男A「ばぁーか、んな訳あるかよ。こいつとは遊んでやるんだよ」
女「い、いや……」
男B「あー? まっさか小僧もやりたいのか?」
少年「……」
68: 2009/07/10(金) 23:24:13.41 ID:6SKF7edp0
何時から振り出したのだろうか。地雨が身体を濡らしていき、足元の赤い池が広がっていく。
少年「……」チラ
女「ひぃ、い、いやっ!」
全身を真赤に染めた少年に臆し、女性は震える手足でその場から逃げ出した。
少年「……」
少年「……」チラ
女「ひぃ、い、いやっ!」
全身を真赤に染めた少年に臆し、女性は震える手足でその場から逃げ出した。
少年「……」
69: 2009/07/10(金) 23:25:29.78 ID:6SKF7edp0
濡れた服を乾かそうともせず、少年は男達が来たであろう方向に進んでいく。
辿り着いた村では、略奪と殺戮、陵辱の限りが尽くされている最中だった。
少年(……何だこの感じは。凄く気分が悪い)
少年(何故殺せる……? こいつらは、何を楽しそうにやっている?)
少年(生存本能が叫んでいるわけでもない……何故、私欲の為に命を奪える)
少年(……歪んでいる。あいつらは……歪みきっている)
音も無く剣を引き抜くと、少年は村に向かってゆっくり歩いていった。
辿り着いた村では、略奪と殺戮、陵辱の限りが尽くされている最中だった。
少年(……何だこの感じは。凄く気分が悪い)
少年(何故殺せる……? こいつらは、何を楽しそうにやっている?)
少年(生存本能が叫んでいるわけでもない……何故、私欲の為に命を奪える)
少年(……歪んでいる。あいつらは……歪みきっている)
音も無く剣を引き抜くと、少年は村に向かってゆっくり歩いていった。
70: 2009/07/10(金) 23:27:30.29 ID:6SKF7edp0
地雨の中、立っているのは少年一人。
切り捨てられた村人、切り伏せた賊、数多くの遺体が散らばっていた。
少年(歪んでいたのは……この世界そのものか)
少年(歪んでいる……お前らも俺も……俺らを内包するこの世界も歪みきっている)
世界から隔離されたあの孤島いられたら、どんなに幸せだったのだろうか。
少年は歪んだ自分の姿を、波紋広がる水面から見つめていた。
切り捨てられた村人、切り伏せた賊、数多くの遺体が散らばっていた。
少年(歪んでいたのは……この世界そのものか)
少年(歪んでいる……お前らも俺も……俺らを内包するこの世界も歪みきっている)
世界から隔離されたあの孤島いられたら、どんなに幸せだったのだろうか。
少年は歪んだ自分の姿を、波紋広がる水面から見つめていた。
71: 2009/07/10(金) 23:28:32.44 ID:6SKF7edp0
……
「聞いたか、また賊狩りが出たらしいぞ……」
「こんな国に無駄な事をする奴がいるもんだな」
「全員一太刀で両断されていたらしい……とんでもない化け物だ」
濁った様な瞳で、一人の青年が氷を浮かべる琥珀色の液体を胃に流し込んだ。
喉を焼き付けるこの感覚が堪らない。
全てを飲み干すと、カウンターに金貨を置いて席を立った。
「聞いたか、また賊狩りが出たらしいぞ……」
「こんな国に無駄な事をする奴がいるもんだな」
「全員一太刀で両断されていたらしい……とんでもない化け物だ」
濁った様な瞳で、一人の青年が氷を浮かべる琥珀色の液体を胃に流し込んだ。
喉を焼き付けるこの感覚が堪らない。
全てを飲み干すと、カウンターに金貨を置いて席を立った。
73: 2009/07/10(金) 23:30:32.03 ID:6SKF7edp0
「……見ろよ、あいつのどす黒い靴、鉄くせぇ」
「言うな、俺は知ってるぞ、あいつが賊狩りだ。一人でどんな大勢にでも突っ込んでいくんだ」
「……狂ってやがる、ただの殺人狂か狂戦士じゃねぇか」
口々に囁く集団に立ち止まって一瞥する。
集団はびくりと身を震わせるのを見て、青年は鼻で笑うと酒場を出た。
「言うな、俺は知ってるぞ、あいつが賊狩りだ。一人でどんな大勢にでも突っ込んでいくんだ」
「……狂ってやがる、ただの殺人狂か狂戦士じゃねぇか」
口々に囁く集団に立ち止まって一瞥する。
集団はびくりと身を震わせるのを見て、青年は鼻で笑うと酒場を出た。
74: 2009/07/10(金) 23:33:14.74 ID:6SKF7edp0
鉛色の空は、今にも雪を吐き出しそうな中、青年は上着をはためかせている。
青年(俺は……何をしているんだろうか)
青年は長い年月を南西の国々で過ごした。
これ以上、別の歪みを見る気になれずにいたのだ。
青年(今の姿を見たらどう思うだろうか)
たった一人の、自分をよく知る人物を思い出す。今も彼女はあそこにいるのだろうか。
あそこに帰るべきなのだろうか。
青年(こんな俺を受け入れてくれる場所などあるまい……)
青年(俺は……何をしているんだろうか)
青年は長い年月を南西の国々で過ごした。
これ以上、別の歪みを見る気になれずにいたのだ。
青年(今の姿を見たらどう思うだろうか)
たった一人の、自分をよく知る人物を思い出す。今も彼女はあそこにいるのだろうか。
あそこに帰るべきなのだろうか。
青年(こんな俺を受け入れてくれる場所などあるまい……)
75: 2009/07/10(金) 23:34:30.08 ID:6SKF7edp0
青年(……他の国々を回るべきなのだろうか)
青年(……今の自分に清い部分もあるまい。どんな汚れた事であっても驚きはしないだろう)
酒場で言われた言葉を思い出す。自分がいかに落ちる所まで落ちているのかを思い知る。
青年(結局俺の我侭だ。認めたくないという私欲の為だけに、命を奪い続けている)
青年(満たされる事の無いエゴだ。満たされないなら……奴らよりも質が悪いのだろう)
青年(……今の自分に清い部分もあるまい。どんな汚れた事であっても驚きはしないだろう)
酒場で言われた言葉を思い出す。自分がいかに落ちる所まで落ちているのかを思い知る。
青年(結局俺の我侭だ。認めたくないという私欲の為だけに、命を奪い続けている)
青年(満たされる事の無いエゴだ。満たされないなら……奴らよりも質が悪いのだろう)
76: 2009/07/10(金) 23:36:29.82 ID:6SKF7edp0
……
酒場を兼ねた宿屋で、青年はいつもの様に、琥珀色の酒を煽っている。
ただ静かに流れるこの時間だけが唯一の安息だった。
宿主「なあ、お兄さん……旅人だろ? 何で、こんな国にきちまったんだ」
青年「……この国はそんなに酷いのか? 他所よりよっぽど治安がいいように見える」
宿主「そ、そりゃあいいさ……魔王様が領地を守ってくださっているんだ」
宿主「だ、だからな、魔王様の寛大なお心に触れる前に、早く出国した方がいい」
客「ああ、そうだ。あんたは土地に縛られない渡り鳥だ。早くしないと、鳥もちに絡め捕られるぞ」
青年「……そ、そうか? 分かった」
酒場を兼ねた宿屋で、青年はいつもの様に、琥珀色の酒を煽っている。
ただ静かに流れるこの時間だけが唯一の安息だった。
宿主「なあ、お兄さん……旅人だろ? 何で、こんな国にきちまったんだ」
青年「……この国はそんなに酷いのか? 他所よりよっぽど治安がいいように見える」
宿主「そ、そりゃあいいさ……魔王様が領地を守ってくださっているんだ」
宿主「だ、だからな、魔王様の寛大なお心に触れる前に、早く出国した方がいい」
客「ああ、そうだ。あんたは土地に縛られない渡り鳥だ。早くしないと、鳥もちに絡め捕られるぞ」
青年「……そ、そうか? 分かった」
77: 2009/07/10(金) 23:37:50.03 ID:6SKF7edp0
その後しばらくの間、青年はその国に留まり、様子を見続けていた。
この国の魔王は圧制をひいていた。
武力によるもので、好き放題にやっている様子であった。
青年(武力により、その地位を認められる国の体制の所為でもあるだろうがな……)
魔王は狂戦士であった。ただただ戦い、異を唱える者を切り捨てる。
圧倒的な力で平伏せているのだ。
青年(側近達が政治を何とかきりもみしているのか。いっそ、魔王を無しにした方がうまくいきそうな国だな)
この国の魔王は圧制をひいていた。
武力によるもので、好き放題にやっている様子であった。
青年(武力により、その地位を認められる国の体制の所為でもあるだろうがな……)
魔王は狂戦士であった。ただただ戦い、異を唱える者を切り捨てる。
圧倒的な力で平伏せているのだ。
青年(側近達が政治を何とかきりもみしているのか。いっそ、魔王を無しにした方がうまくいきそうな国だな)
78: 2009/07/10(金) 23:39:39.87 ID:6SKF7edp0
自分の歪みを止めたかった。それが自身を止める事であっても。
恐らく、この国の魔王に言葉は要らない。拳や剣で会話する部類だろう。
青年(魔王と立ち会ってみるか……全力で)
国を守るべき魔王が、民に手をかけているその事実。
青年の中の歪みが更に増していくのを感じていた。
あの雨の日から、癒える事の無い不快感が全身を支配していく。
青年(……何だろうな、いつも雨の日がターニングポイントな気がする)
恐らく、この国の魔王に言葉は要らない。拳や剣で会話する部類だろう。
青年(魔王と立ち会ってみるか……全力で)
国を守るべき魔王が、民に手をかけているその事実。
青年の中の歪みが更に増していくのを感じていた。
あの雨の日から、癒える事の無い不快感が全身を支配していく。
青年(……何だろうな、いつも雨の日がターニングポイントな気がする)
79: 2009/07/10(金) 23:40:44.74 ID:6SKF7edp0
島を出てからは一度も、元の姿に戻る事は無かった。
焼けるような痛みと共に、額と耳の後ろから生えただした角と背中の黒い大きな翼を、
いと愛しむように撫でまわした。
懐かしい香りがした。あの日の島の香りを。自分の角と翼だけはあの頃のままだった。
青年(それも今日までだ)
焼けるような痛みと共に、額と耳の後ろから生えただした角と背中の黒い大きな翼を、
いと愛しむように撫でまわした。
懐かしい香りがした。あの日の島の香りを。自分の角と翼だけはあの頃のままだった。
青年(それも今日までだ)
80: 2009/07/10(金) 23:42:59.84 ID:6SKF7edp0
「と、止まれー! くそ、侵入……」
「何としてでも止めろ! 賊を魔王様の下には……」
怒りで我を忘れた時、青年は自分の魔力で剣を生成する術を手に入れていた。
望めば、周囲を焦土と化す破壊の剣。
青年(壊す為だけの剣を振るっているのだ……善良であるかもしれない兵士達に)
歪みが増し、胃の中の物を全て吐き出しそうになる。懐かしい感覚に、口元が綻ぶ。
やはり、自分はあの島を出るべきではなかったのだ。
なけなしの良心が口を割る。
青年「命惜しい者は引け! 引かぬなら断ち切る!」
「何としてでも止めろ! 賊を魔王様の下には……」
怒りで我を忘れた時、青年は自分の魔力で剣を生成する術を手に入れていた。
望めば、周囲を焦土と化す破壊の剣。
青年(壊す為だけの剣を振るっているのだ……善良であるかもしれない兵士達に)
歪みが増し、胃の中の物を全て吐き出しそうになる。懐かしい感覚に、口元が綻ぶ。
やはり、自分はあの島を出るべきではなかったのだ。
なけなしの良心が口を割る。
青年「命惜しい者は引け! 引かぬなら断ち切る!」
81: 2009/07/10(金) 23:44:35.41 ID:6SKF7edp0
兵士達では青年を抑える事などできず、気づけば追いかけてくる兵士すらいなかった。
青年(ここからが魔王の領域か……)
長い通路を抜けた先、装飾の無くなった通路や扉、息苦しい威圧感に、ここが何処なのか理解した。
青年(さあ、見せてくれ。俺を止める、飲み込む歪みを……)
青年(ここからが魔王の領域か……)
長い通路を抜けた先、装飾の無くなった通路や扉、息苦しい威圧感に、ここが何処なのか理解した。
青年(さあ、見せてくれ。俺を止める、飲み込む歪みを……)
82: 2009/07/10(金) 23:45:59.92 ID:6SKF7edp0
魔王「……小僧、何をしに来た」
玉座に座っている影が立ち上がった。大岩のような巨体はまるで、威厳の象徴のようだった。
青年「話をしに参りました」
冷静な素振りで剣を構えなおした。
本当は違う、かつて無いほどの胸の高鳴りと興奮を覚えている。
ああ、自分はやはり狂っているのだ。流暢にそんな事を考えた。
魔王「いいだろう、何をして会話となるかも知っているようだな。ならば、語り合おうではないか」
玉座に座っている影が立ち上がった。大岩のような巨体はまるで、威厳の象徴のようだった。
青年「話をしに参りました」
冷静な素振りで剣を構えなおした。
本当は違う、かつて無いほどの胸の高鳴りと興奮を覚えている。
ああ、自分はやはり狂っているのだ。流暢にそんな事を考えた。
魔王「いいだろう、何をして会話となるかも知っているようだな。ならば、語り合おうではないか」
83: 2009/07/10(金) 23:47:45.00 ID:6SKF7edp0
青年(この剣で両断できれば、この男であっても……)
直接打ち合わなければ、勝ち目など無い。本能のような直感で、彼は魔王へと詰め寄っていく。
突如、左半身がふっと軽くなった。
左腕と左側に向けていた刀身が、綺麗に切断されていた。
青年(あの位置からっ……!)
魔王は悠然と立っている。先ほどまでと違うのは、剣を抜いているという事だけだった。
直接打ち合わなければ、勝ち目など無い。本能のような直感で、彼は魔王へと詰め寄っていく。
突如、左半身がふっと軽くなった。
左腕と左側に向けていた刀身が、綺麗に切断されていた。
青年(あの位置からっ……!)
魔王は悠然と立っている。先ほどまでと違うのは、剣を抜いているという事だけだった。
85: 2009/07/10(金) 23:49:59.73 ID:6SKF7edp0
青年は柄の形をした魔力を回収して突進していく。
魔王もまたそれに応じ、素でによる構えで青年へと間合いを詰めた。
突風のように突き出された拳は、青年の頭を掠めると、
抉られるような痛みが走る。角が抜かれたのだろう。
青年(まだだ……まだ戦える!)
魔王の胸元を引き裂き、喉を狙う一撃へと進む。が、魔王の膝が青年の胴に深く沈む。
魔王もまたそれに応じ、素でによる構えで青年へと間合いを詰めた。
突風のように突き出された拳は、青年の頭を掠めると、
抉られるような痛みが走る。角が抜かれたのだろう。
青年(まだだ……まだ戦える!)
魔王の胸元を引き裂き、喉を狙う一撃へと進む。が、魔王の膝が青年の胴に深く沈む。
86: 2009/07/10(金) 23:51:40.50 ID:6SKF7edp0
青年(あ……意識が)
青年(強……これが魔王か)
青年(角、もがれてるのに……頭突きかよ)
青年(これは……無理か……?)
青年(……)
青年(魔法……使えない……ら魔力だけ……残ってるんだよな)
青年(強……これが魔王か)
青年(角、もがれてるのに……頭突きかよ)
青年(これは……無理か……?)
青年(……)
青年(魔法……使えない……ら魔力だけ……残ってるんだよな)
87: 2009/07/10(金) 23:54:50.01 ID:6SKF7edp0
よろめき今にも崩れ落ちそうな青年は、地面を踏みしめ体勢を保った。
すると、青年の腕が魔物のような、悪魔のような、巨大で恐ろしい形に変貌した。
魔王(まだ、これほどの力が……!)
魔王(油断など、自惚れたかっ!)
すると、青年の腕が魔物のような、悪魔のような、巨大で恐ろしい形に変貌した。
魔王(まだ、これほどの力が……!)
魔王(油断など、自惚れたかっ!)
88: 2009/07/10(金) 23:56:40.22 ID:6SKF7edp0
……
青年「……」
青年「……く」
青年「懐かしい夢……いや、走馬灯かもしれない」
青年「魔王は……俺はどうなった」
全身が悲鳴を上げるのに耐え、重たい瞼を開けると、そこにはたくさんの兵士が平伏せていた。
青年が呆気にとられる中、鎧を着ていない家臣らしき人物が顔を上げた。
側近「魔王、ご就任おめでとうございます!」
青年「……」
青年「……く」
青年「懐かしい夢……いや、走馬灯かもしれない」
青年「魔王は……俺はどうなった」
全身が悲鳴を上げるのに耐え、重たい瞼を開けると、そこにはたくさんの兵士が平伏せていた。
青年が呆気にとられる中、鎧を着ていない家臣らしき人物が顔を上げた。
側近「魔王、ご就任おめでとうございます!」
89: 2009/07/10(金) 23:59:15.35 ID:6SKF7edp0
……
呆気にとられたままのニ週間。
国の魔術師達の魔法と、青年の生命力によって、角も翼も、左腕さえも完治していた。
そして今、魔王として国民に向けた演説へと駆り立てられている。
青年「待て、待て、俺は魔王になるつもりはないぞ」
側近「仮にそうであっても、これがこの国の掟。貴方もこの国の状況をしっているでしょ」
側近「せめて今しばらくだけでも、魔王をして下さい」
青年「おおい、側近、それでいいのかこの国っ」
側近「今まで政治は我々がしていたんです。変わりありません!」
呆気にとられたままのニ週間。
国の魔術師達の魔法と、青年の生命力によって、角も翼も、左腕さえも完治していた。
そして今、魔王として国民に向けた演説へと駆り立てられている。
青年「待て、待て、俺は魔王になるつもりはないぞ」
側近「仮にそうであっても、これがこの国の掟。貴方もこの国の状況をしっているでしょ」
側近「せめて今しばらくだけでも、魔王をして下さい」
青年「おおい、側近、それでいいのかこの国っ」
側近「今まで政治は我々がしていたんです。変わりありません!」
90: 2009/07/11(土) 00:03:09.15 ID:dgN14GNZ0
ザワザワ
青年『……えー、あー……えー本日はお日柄もよく』
側近「民衆の面前で阿呆な事言わないで下さい!」ボソボソ
青年『あー……俺は、魔王になるつもりでこの国に来たわけじゃない』
青年『正直、この状況は驚いている。今現在も』
青年『俺は武力以外だと他人より秀でるものはないし、酷く田舎者だ』
青年『何が出来るわけでもないが……やれる事は一応やってみようとは思う』
青年『至らないとは思うが、しばらくの間はよろしく頼む』
「おおーーーーー!」
「「魔王! 魔王! 魔王!」」
青年にはその歓声が酷く遠くに聞こえた。
一時であれども、歪みから引きずり出された彼は、
変わりにふわふわと現実感のないこの世界に放り込まれたのだ。
青年『……えー、あー……えー本日はお日柄もよく』
側近「民衆の面前で阿呆な事言わないで下さい!」ボソボソ
青年『あー……俺は、魔王になるつもりでこの国に来たわけじゃない』
青年『正直、この状況は驚いている。今現在も』
青年『俺は武力以外だと他人より秀でるものはないし、酷く田舎者だ』
青年『何が出来るわけでもないが……やれる事は一応やってみようとは思う』
青年『至らないとは思うが、しばらくの間はよろしく頼む』
「おおーーーーー!」
「「魔王! 魔王! 魔王!」」
青年にはその歓声が酷く遠くに聞こえた。
一時であれども、歪みから引きずり出された彼は、
変わりにふわふわと現実感のないこの世界に放り込まれたのだ。
91: 2009/07/11(土) 00:04:59.96 ID:dgN14GNZ0
魔王「で、何をすればいいのやら」
側近「一先ず、いて下さればいいです。政治的な事は分からないでしょう」
魔王「全くだ」
側近「軍事の体制の見直し、それと税金の見直し、ああそれと……」ブツブツ
家臣「それでしたらそこは……」ブツブツ
魔王(見直しばっかだな……先代は茶々入れて圧政にしていたのか)
側近「一先ず、いて下さればいいです。政治的な事は分からないでしょう」
魔王「全くだ」
側近「軍事の体制の見直し、それと税金の見直し、ああそれと……」ブツブツ
家臣「それでしたらそこは……」ブツブツ
魔王(見直しばっかだな……先代は茶々入れて圧政にしていたのか)
92: 2009/07/11(土) 00:06:15.39 ID:dgN14GNZ0
魔王「暇だ」
魔王「重役は会議で魔王はハブですか」
魔王「……」
魔王「外の村とかどうなってるんだろうな……少し見回ってくるか」
魔王「書置きして、と。形だけだし、いなくなっても問題あるまい」
魔王「いざっ!」
魔王「重役は会議で魔王はハブですか」
魔王「……」
魔王「外の村とかどうなってるんだろうな……少し見回ってくるか」
魔王「書置きして、と。形だけだし、いなくなっても問題あるまい」
魔王「いざっ!」
94: 2009/07/11(土) 00:07:45.32 ID:dgN14GNZ0
侍女「……何をなさっているんですか魔王様」
兵士「見回りなら自分が行いますので、魔王様は身体の方をお労り下さい」
魔王「なあに、ちょっとした……」
魔王(こいつら翼もってるな……)
魔王「現状を知らない故、私はこれから郊外の村や町を視察しに行く所だ」
魔王「地理的に知らない部分も多い、ついて来てもらえると助かるのだが?」キリ
兵士「も、勿体無いお言葉! 不肖自分めが、同行させていただきます!」
侍女「……」ソワソワ
魔王「ついて来たければ構わんぞ。許可する」
侍女「やった!」
兵士「見回りなら自分が行いますので、魔王様は身体の方をお労り下さい」
魔王「なあに、ちょっとした……」
魔王(こいつら翼もってるな……)
魔王「現状を知らない故、私はこれから郊外の村や町を視察しに行く所だ」
魔王「地理的に知らない部分も多い、ついて来てもらえると助かるのだが?」キリ
兵士「も、勿体無いお言葉! 不肖自分めが、同行させていただきます!」
侍女「……」ソワソワ
魔王「ついて来たければ構わんぞ。許可する」
侍女「やった!」
95: 2009/07/11(土) 00:08:45.72 ID:dgN14GNZ0
侍女「この辺りは、農業区として広域に渡って村があります」
侍女「と言っても集落的にあるので、農業区そのものを一つの村として扱われています」
魔王「凄い広いな……これで一つの村か」
兵士「国の食料の殆どがここから捻出されていますからね」
魔王(これは期待できるな……)
侍女「と言っても集落的にあるので、農業区そのものを一つの村として扱われています」
魔王「凄い広いな……これで一つの村か」
兵士「国の食料の殆どがここから捻出されていますからね」
魔王(これは期待できるな……)
96: 2009/07/11(土) 00:10:19.86 ID:dgN14GNZ0
農夫「ま、魔王様にお越し頂けるなんてなんと光栄な事か」ビクビク
魔王「……?」
兵士「先代は軍事を優先しておられたので、あまり利益にならない者達には」ボソボソ
魔王「税金としては何を献上していた」ボソボソ
侍女「農業区自体はお金はあまりないですからね。主に特産ですね」ボソボソ
魔王「ふん……税金に乳製品といった所か。農夫、お前の改心の出来の物を持ってくるがいい」
農夫「は、はい……」
魔王「……?」
兵士「先代は軍事を優先しておられたので、あまり利益にならない者達には」ボソボソ
魔王「税金としては何を献上していた」ボソボソ
侍女「農業区自体はお金はあまりないですからね。主に特産ですね」ボソボソ
魔王「ふん……税金に乳製品といった所か。農夫、お前の改心の出来の物を持ってくるがいい」
農夫「は、はい……」
97: 2009/07/11(土) 00:11:29.97 ID:dgN14GNZ0
魔王「チーズか。どれ味見してくれよう」
農夫「……」
魔王(……これはっ!)
魔王「これらの取引先は……?」
農夫「……た、他国のここと、ここの国を……」
魔王(あの国程度にこれを渡していたのか)
魔王「下らん、連中にくれてやる位なら、全て税金として渡してもらおうか」
農夫「そ、そんな……!」
兵士「魔王様!」
魔王(よーし、予算案に茶々いれてやるぞっ!)
農夫「……」
魔王(……これはっ!)
魔王「これらの取引先は……?」
農夫「……た、他国のここと、ここの国を……」
魔王(あの国程度にこれを渡していたのか)
魔王「下らん、連中にくれてやる位なら、全て税金として渡してもらおうか」
農夫「そ、そんな……!」
兵士「魔王様!」
魔王(よーし、予算案に茶々いれてやるぞっ!)
98: 2009/07/11(土) 00:13:00.14 ID:dgN14GNZ0
側近「で、釈明はございますか?」
魔王「何、議会はまだ始まったばかり、いくらでも修正は効くだろう」
側近「なんですか、この農業区に対する阿呆な予算は……」
魔王「食育とは何なのか知っているかね、側近」
側近「……しかも、勝手に城外に抜け出して、何を考えているんですか!」
魔王「何も考えてなかった、とは言えないし、何て誤魔化すか……」ブツブツ
側近「胸中の発言がだだ漏れのご様子ですが?」
魔王「何、議会はまだ始まったばかり、いくらでも修正は効くだろう」
側近「なんですか、この農業区に対する阿呆な予算は……」
魔王「食育とは何なのか知っているかね、側近」
側近「……しかも、勝手に城外に抜け出して、何を考えているんですか!」
魔王「何も考えてなかった、とは言えないし、何て誤魔化すか……」ブツブツ
側近「胸中の発言がだだ漏れのご様子ですが?」
99: 2009/07/11(土) 00:14:39.85 ID:dgN14GNZ0
魔王「魔王が謹慎処分ってどういう事だ」
侍女「まあまあ、不貞腐れないで下さい」
侍女「先日頂いた物で作ったミネストローネとチーズを使ったフレンチトーストでございます」
魔王「……いい香りだ」
侍女「……あの、こんな簡素な物なのに、お叱りとかはお考えにならないのですか?」
魔王「演説したろう、田舎者だと。質素であれ豪華であれ、作ってくれた物は感謝していただくさ」
侍女「まあまあ、不貞腐れないで下さい」
侍女「先日頂いた物で作ったミネストローネとチーズを使ったフレンチトーストでございます」
魔王「……いい香りだ」
侍女「……あの、こんな簡素な物なのに、お叱りとかはお考えにならないのですか?」
魔王「演説したろう、田舎者だと。質素であれ豪華であれ、作ってくれた物は感謝していただくさ」
100: 2009/07/11(土) 00:16:00.11 ID:dgN14GNZ0
魔王「あそこの中庭……使われていないのか」
兵士「先代は園芸等、無駄な出費を酷くお嫌いになりましたから」
魔王「……ならば俺が使わせてもらうが、いいか?」
側近「構いませんが……何をなさるおつもりで?」
魔王「迷惑はかけんよ」
側近(中庭なんだし……普通の園芸で落ち着くよな)
兵士(この方なら……訓練場に使いそうだなぁ)
侍女(バラ園! バラ園!)
魔王(よっしゃ久々に作るか)
兵士「先代は園芸等、無駄な出費を酷くお嫌いになりましたから」
魔王「……ならば俺が使わせてもらうが、いいか?」
側近「構いませんが……何をなさるおつもりで?」
魔王「迷惑はかけんよ」
側近(中庭なんだし……普通の園芸で落ち着くよな)
兵士(この方なら……訓練場に使いそうだなぁ)
侍女(バラ園! バラ園!)
魔王(よっしゃ久々に作るか)
101: 2009/07/11(土) 00:17:29.83 ID:dgN14GNZ0
側近「本当に中庭で何かやってる……」
侍女「本当に元気いっぱいですね、魔王様は」
側近「……変な事にならなければいいんですが」
侍女(立派な方だとう思いますが、あの方が魔王の時点でもう変な事な気が)
侍女「本当に元気いっぱいですね、魔王様は」
側近「……変な事にならなければいいんですが」
侍女(立派な方だとう思いますが、あの方が魔王の時点でもう変な事な気が)
102: 2009/07/11(土) 00:19:16.97 ID:dgN14GNZ0
……
兵士「報告致します。商業区北東、採掘現場にて落盤が発生しました」
兵士「現在、巻き込まれた魔族、魔物の救助を最優先に行っていますが……」
側近「復旧までには時間がかかりそうですね……魔王様?」
魔王「よっと」
「魔王様のお陰で救助も進み……本当にありがとうございます!」
「ま、魔王様! 落盤で塞き止められていた川が……!」
魔王(ここら辺の水の供給は十分だったな……)
魔王「うおおおお!」
「凄い勢いで農業区に水路が!」
「「魔王! 魔王!」」
兵士「報告致します。商業区北東、採掘現場にて落盤が発生しました」
兵士「現在、巻き込まれた魔族、魔物の救助を最優先に行っていますが……」
側近「復旧までには時間がかかりそうですね……魔王様?」
魔王「よっと」
「魔王様のお陰で救助も進み……本当にありがとうございます!」
「ま、魔王様! 落盤で塞き止められていた川が……!」
魔王(ここら辺の水の供給は十分だったな……)
魔王「うおおおお!」
「凄い勢いで農業区に水路が!」
「「魔王! 魔王!」」
103: 2009/07/11(土) 00:22:29.79 ID:dgN14GNZ0
側近「いくら政治の中核になれないからといって、行動が腕白すぎます!」
魔王「はてさてさてはて、何の事やら」
側近「もう少し地に足をつけて……」
魔王が普段やっている事の一部
・中庭で野菜栽培
・災害時の炊き出し
・政治周りで徹夜する家臣への夜食作り
・山菜採り(経費削減)
側近「地に、足を……つけすぎだ! 所帯じみてる!」
侍女「でも、あたしはバラ園がよかったでーす!」
魔王「よし、空いている場所で園芸するか」
側近「どこの貴族の屋敷ですか、阿呆な事は止めて下さい」
魔王「はてさてさてはて、何の事やら」
側近「もう少し地に足をつけて……」
魔王が普段やっている事の一部
・中庭で野菜栽培
・災害時の炊き出し
・政治周りで徹夜する家臣への夜食作り
・山菜採り(経費削減)
側近「地に、足を……つけすぎだ! 所帯じみてる!」
侍女「でも、あたしはバラ園がよかったでーす!」
魔王「よし、空いている場所で園芸するか」
側近「どこの貴族の屋敷ですか、阿呆な事は止めて下さい」
105: 2009/07/11(土) 00:25:25.40 ID:dgN14GNZ0
グツグツ
魔王「……」
グツグツ
魔王「……! せい!」
魔王「っふ、アルデンテ……」
側近「仕事しろ」
魔王「……」
グツグツ
魔王「……! せい!」
魔王「っふ、アルデンテ……」
側近「仕事しろ」
106: 2009/07/11(土) 00:29:30.05 ID:dgN14GNZ0
魔王「なるほどな……南の大陸への渡来禁止はそういう事だったか」
兵士「おや……? 魔王様、ここしばらく書庫にいるようですが、何かお探しでしょうか?」
魔王「何という事の無い調べものだ。……ここの国はまだ征服派って扱いなんだよな?」
兵士「魔王様がご就任になってから、各国の協議はされていませんからそうなりますね」
魔王(各国への身の振り方も決めないとだな)
兵士「おや……? 魔王様、ここしばらく書庫にいるようですが、何かお探しでしょうか?」
魔王「何という事の無い調べものだ。……ここの国はまだ征服派って扱いなんだよな?」
兵士「魔王様がご就任になってから、各国の協議はされていませんからそうなりますね」
魔王(各国への身の振り方も決めないとだな)
107: 2009/07/11(土) 00:30:13.58 ID:dgN14GNZ0
魔王「なるほどな……南の大陸への渡来禁止はそういう事だったか」
魔王(あの時言っていたグループは南の大陸の……人間と共存するか征服するかの見解によるものか)
魔王(大男の事だ……征服派で通っていたんだろうな……)
兵士「おや……? 魔王様、ここしばらく書庫にいるようですが、何かお探しでしょうか?」
魔王「何という事の無い調べものだ。……ここの国はまだ征服派って扱いなんだよな?」
兵士「魔王様がご就任になってから、各国の協議はされていませんからそうなりますね」
魔王(各国への身の振り方も決めないとだな)
魔王(あの時言っていたグループは南の大陸の……人間と共存するか征服するかの見解によるものか)
魔王(大男の事だ……征服派で通っていたんだろうな……)
兵士「おや……? 魔王様、ここしばらく書庫にいるようですが、何かお探しでしょうか?」
魔王「何という事の無い調べものだ。……ここの国はまだ征服派って扱いなんだよな?」
兵士「魔王様がご就任になってから、各国の協議はされていませんからそうなりますね」
魔王(各国への身の振り方も決めないとだな)
109: 2009/07/11(土) 00:32:45.87 ID:dgN14GNZ0
魔王「ふう……」
側近「何を一人でトウモロコシを丸々一本食べているんですか」
魔王「まだ一本あるが……食べるか」
側近「何を阿呆な事を……頂きます」
魔王「何だかんだで、自分に素直だな」
側近「魔王様を相手にするにはこれが一番だと判断しました」
側近「そんな事より明日、軍事会議がありますがいかがしますか」
魔王「そうだな……自家製冷コーンスープでも馳走するか」
側近「いえ、そういう事では……楽しみです」
側近「何を一人でトウモロコシを丸々一本食べているんですか」
魔王「まだ一本あるが……食べるか」
側近「何を阿呆な事を……頂きます」
魔王「何だかんだで、自分に素直だな」
側近「魔王様を相手にするにはこれが一番だと判断しました」
側近「そんな事より明日、軍事会議がありますがいかがしますか」
魔王「そうだな……自家製冷コーンスープでも馳走するか」
側近「いえ、そういう事では……楽しみです」
110: 2009/07/11(土) 00:35:50.07 ID:dgN14GNZ0
「何で魔王様が訓練場にいるんだよ」
「最近鈍ってるんだそうだ」
「やべー、すげーつえーよあの人」
「仮にも先代を倒した人なんだぞ、当たり前だろ!」
魔王「我が国の兵士はこんなものか……」
魔王「少し扱くか」
「「!」」ビク
「最近鈍ってるんだそうだ」
「やべー、すげーつえーよあの人」
「仮にも先代を倒した人なんだぞ、当たり前だろ!」
魔王「我が国の兵士はこんなものか……」
魔王「少し扱くか」
「「!」」ビク
112: 2009/07/11(土) 00:39:09.56 ID:dgN14GNZ0
側近「兵士達から不満が殺到していますが、何をしたんですか?」
魔王「指導者らしく稽古をつけてみた」
側近「スパルタに、ですか?」
魔王「人に教えるのはのは難しいな。諦めて体で覚えてもらった」
側近「……条件を呑まなければ決起するとの事です」
魔王「内容は?」
側近「”魔王様のミネストローネを要求する”だそうです」
側近「職位、変えたらいかがでしょうか?」
魔王「指導者らしく稽古をつけてみた」
側近「スパルタに、ですか?」
魔王「人に教えるのはのは難しいな。諦めて体で覚えてもらった」
側近「……条件を呑まなければ決起するとの事です」
魔王「内容は?」
側近「”魔王様のミネストローネを要求する”だそうです」
側近「職位、変えたらいかがでしょうか?」
113: 2009/07/11(土) 00:40:45.45 ID:dgN14GNZ0
魔王「商業、農業共にいい数字だな」
魔王「軍事も落ち着いてきている……。先ずは一段落着いた感じか」
魔王「各国に、挨拶回りとかしなくて良かったのだろうか……?」
魔王「急に面倒になってきたなぁ」
側近「阿呆な事言ってないで支度をして下さい」
魔王「出かける予定なんてあったか?」
側近「明日は他国との協議です。今日中に向こうに行きましょう」
魔王「待て、何を話すかとか全く分からんぞ」
側近「向こうで打ち合わせましょう、さあ、着替えてください!」
魔王「いや、お前、分かったから、剥くな剥くな!」
魔王「軍事も落ち着いてきている……。先ずは一段落着いた感じか」
魔王「各国に、挨拶回りとかしなくて良かったのだろうか……?」
魔王「急に面倒になってきたなぁ」
側近「阿呆な事言ってないで支度をして下さい」
魔王「出かける予定なんてあったか?」
側近「明日は他国との協議です。今日中に向こうに行きましょう」
魔王「待て、何を話すかとか全く分からんぞ」
側近「向こうで打ち合わせましょう、さあ、着替えてください!」
魔王「いや、お前、分かったから、剥くな剥くな!」
116: 2009/07/11(土) 01:03:16.29 ID:dgN14GNZ0
水の都市
側近「今回出席するのは、ここの水の魔王、山岳方面の国、山の魔王」
側近「後は樹海を領地とする深緑の魔王に、火山周辺を収める火の魔王。意外と少ないですね」
魔王「俺には、こういう二つ名みたいなのは無いのか?」
側近「便宜上、そう呼び合っているだけですが……ただ土地柄があまりない国ですからね」
側近「先代の荒ぶる魔王を受け継ぐかと」
魔王「使い古しかよ、嫌だな」
側近「では、所帯じみた魔王で」
魔王「ここぞとばかりにネチネチと……」
側近「今回出席するのは、ここの水の魔王、山岳方面の国、山の魔王」
側近「後は樹海を領地とする深緑の魔王に、火山周辺を収める火の魔王。意外と少ないですね」
魔王「俺には、こういう二つ名みたいなのは無いのか?」
側近「便宜上、そう呼び合っているだけですが……ただ土地柄があまりない国ですからね」
側近「先代の荒ぶる魔王を受け継ぐかと」
魔王「使い古しかよ、嫌だな」
側近「では、所帯じみた魔王で」
魔王「ここぞとばかりにネチネチと……」
118: 2009/07/11(土) 01:05:00.13 ID:dgN14GNZ0
側近「思えばあまりにも学が無さ過ぎる。どこの野蛮児でしたか貴方は」
魔王「中々の言い草だが……反論の使用が無いな、北西の島で暮らしていた」
側近「……あそこって人が住める環境でしたっけ?」
魔王「住める。命がけだが」
魔王「怪獣と呼べる大きな肉食獣が徘徊していてだな……」
側近「あ、ああ……あそこは死の島と言って、生きては帰って来れないという……」
魔王「はっはー、生きているぞ? ほれ、見直したか?」
側近「というより、化け物の類ではないかと疑いそうです」
魔王「中々の言い草だが……反論の使用が無いな、北西の島で暮らしていた」
側近「……あそこって人が住める環境でしたっけ?」
魔王「住める。命がけだが」
魔王「怪獣と呼べる大きな肉食獣が徘徊していてだな……」
側近「あ、ああ……あそこは死の島と言って、生きては帰って来れないという……」
魔王「はっはー、生きているぞ? ほれ、見直したか?」
側近「というより、化け物の類ではないかと疑いそうです」
119: 2009/07/11(土) 01:07:00.07 ID:dgN14GNZ0
側近「現状、共存派は征服派の説得だけしか活動しておりません」
側近「共存するにあたり、具体的な事はまだ貿易から、としか考えられていません」
魔王「んじゃ、共存派で」
側近「その心は」
魔王「別大陸まで面倒見れ……」
側近「阿呆な事言ってないで、しっかりした答案を用意しておいてください」
側近「共存するにあたり、具体的な事はまだ貿易から、としか考えられていません」
魔王「んじゃ、共存派で」
側近「その心は」
魔王「別大陸まで面倒見れ……」
側近「阿呆な事言ってないで、しっかりした答案を用意しておいてください」
120: 2009/07/11(土) 01:09:03.15 ID:dgN14GNZ0
議会
水の魔王「それでは議会を初めて行きたいのですが……」
深緑の魔王「あのおっさんの代行とか苦労している家臣だなぁ」
山の魔王「あいつが討たれたのを知らないのか。ここまで若いとは思わなかったが、こいつが今の荒ぶる魔王だ」
火の魔王「話し合いで片付く相手ではあるまい。この者の実力は本物なのだろう」
魔王(決定打の記憶が怪しいけどな)
水の魔王「初めての議会で分からない事は多々あるでしょうが、そちらの付き人と共に学んで下さい」
魔王(幼い容姿の割には突っ放した話し方と対応だな)
側近「まだ征服派である魔王様を警戒しているのもありますね」ボソボソ
魔王(読まれた、何というESP)
水の魔王「それでは議会を初めて行きたいのですが……」
深緑の魔王「あのおっさんの代行とか苦労している家臣だなぁ」
山の魔王「あいつが討たれたのを知らないのか。ここまで若いとは思わなかったが、こいつが今の荒ぶる魔王だ」
火の魔王「話し合いで片付く相手ではあるまい。この者の実力は本物なのだろう」
魔王(決定打の記憶が怪しいけどな)
水の魔王「初めての議会で分からない事は多々あるでしょうが、そちらの付き人と共に学んで下さい」
魔王(幼い容姿の割には突っ放した話し方と対応だな)
側近「まだ征服派である魔王様を警戒しているのもありますね」ボソボソ
魔王(読まれた、何というESP)
121: 2009/07/11(土) 01:11:59.99 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「荒ぶる魔王様は今後、国をどういった方向で進めたいと?」
魔王「正直分からん」
側近(おおーい、まっおぉぉーー!)
深緑の魔王「っぷ、誰か梃入れして上げた方がいーんじゃない?」
魔王「……ただ、先代によって、国民の疲弊は相当なものなのは分かった」
魔王「今は小康状態であるが、より良い暮らしにして行きたい」
魔王「それが当面の課題だな」
山の魔王「なるほど……これではもう、荒ぶる魔王とは呼べないな」
側近「それでしたら所帯……モゴモゴ」
魔王「な、何でもない、荒ぶる魔王で構わない」
魔王「正直分からん」
側近(おおーい、まっおぉぉーー!)
深緑の魔王「っぷ、誰か梃入れして上げた方がいーんじゃない?」
魔王「……ただ、先代によって、国民の疲弊は相当なものなのは分かった」
魔王「今は小康状態であるが、より良い暮らしにして行きたい」
魔王「それが当面の課題だな」
山の魔王「なるほど……これではもう、荒ぶる魔王とは呼べないな」
側近「それでしたら所帯……モゴモゴ」
魔王「な、何でもない、荒ぶる魔王で構わない」
122: 2009/07/11(土) 01:14:00.15 ID:dgN14GNZ0
魔王「それともう一つ、俺は共存派として国を進めていきたい」
側近(自分からあれを言うつもりですか!)
水の魔王「それは……我々としては喜ばしい事です。ですが、どういったお考えで?」
魔王「俺は教養とか無いから、そんな高尚な事は言えない。ぶっちゃけ、無理に共存しなくてもいいと思っている」
魔王「だがな……ずっと俺自身続けてしまったが、無意味な略奪や殺害はなくしたいんだ」
魔王「生きる為に、生き残る為の行為であれば許す、とまでは言えないが」
魔王「それは自然の摂理の上では仕方がない事ではないだろうか」
魔王「征服派は、その上にはない略奪を行うだろう。だから俺は、共存派として止めたいんだ」
「「……」」
側近(自分からあれを言うつもりですか!)
水の魔王「それは……我々としては喜ばしい事です。ですが、どういったお考えで?」
魔王「俺は教養とか無いから、そんな高尚な事は言えない。ぶっちゃけ、無理に共存しなくてもいいと思っている」
魔王「だがな……ずっと俺自身続けてしまったが、無意味な略奪や殺害はなくしたいんだ」
魔王「生きる為に、生き残る為の行為であれば許す、とまでは言えないが」
魔王「それは自然の摂理の上では仕方がない事ではないだろうか」
魔王「征服派は、その上にはない略奪を行うだろう。だから俺は、共存派として止めたいんだ」
「「……」」
123: 2009/07/11(土) 01:16:00.53 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「貴方の考えはよく分かりました。立派な志ではありませんか」
魔王「だいぶ遠回りをしてしまったがな」
水の魔王「我々は、貴方を歓迎します。新たな共存派、仲間として」
火の魔王「同士であるならば受け入れよう」
山の魔王「いきなりの新任で大変だろうが頑張れよ」
深緑の魔王「青臭いけど仲間なら手助けするわ、よろしくね」
側近「どうなる事かと思いましたよ」ボソボソ
魔王「俺も心底ほっとしている」
魔王「だいぶ遠回りをしてしまったがな」
水の魔王「我々は、貴方を歓迎します。新たな共存派、仲間として」
火の魔王「同士であるならば受け入れよう」
山の魔王「いきなりの新任で大変だろうが頑張れよ」
深緑の魔王「青臭いけど仲間なら手助けするわ、よろしくね」
側近「どうなる事かと思いましたよ」ボソボソ
魔王「俺も心底ほっとしている」
124: 2009/07/11(土) 01:17:59.80 ID:dgN14GNZ0
……
火の魔王「では、征服派への対応はこれで決定で構わんな」
水の魔王「そうですね……これで協議内容も終わりですね。本日はこれで解散としましょう」
山の魔王「ふ~~、肩が凝っちまったよ」
水の魔王「今日はいつもより時間がかかりましたからね」
深緑の魔王「それじゃあ、あたしは先にお暇するわ。こないだから苔の異常発生で忙しいのよ」
水の魔王「お忙しい中ありがとうございます。それでは皆様、お気をつけ下さい」
魔王「23,29,31,41,5,11,13,17,61……」コクリ コクリ
側近(……素数では睡魔に抗えないし、正しく言えてない)
火の魔王「では、征服派への対応はこれで決定で構わんな」
水の魔王「そうですね……これで協議内容も終わりですね。本日はこれで解散としましょう」
山の魔王「ふ~~、肩が凝っちまったよ」
水の魔王「今日はいつもより時間がかかりましたからね」
深緑の魔王「それじゃあ、あたしは先にお暇するわ。こないだから苔の異常発生で忙しいのよ」
水の魔王「お忙しい中ありがとうございます。それでは皆様、お気をつけ下さい」
魔王「23,29,31,41,5,11,13,17,61……」コクリ コクリ
側近(……素数では睡魔に抗えないし、正しく言えてない)
125: 2009/07/11(土) 01:20:03.03 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「どう思われます」
火の魔王「調べた所、どうも死の島より渡ってきたらしいな」
水の魔王「あのような所から……」
火の魔王「生きる為だとか無意味だとか……その辺りが見てとれるな」
火の魔王「あの者には行き辛い世界だろうな、大陸は」
水の魔王「ええ……どんな思いで先代を討ったのでしょうか」
火の魔王「同士である事が答えだ。お前と同じ志じゃないか。良き友であれ」
水の魔王「言わずもがな、そのつもりです」
火の魔王「調べた所、どうも死の島より渡ってきたらしいな」
水の魔王「あのような所から……」
火の魔王「生きる為だとか無意味だとか……その辺りが見てとれるな」
火の魔王「あの者には行き辛い世界だろうな、大陸は」
水の魔王「ええ……どんな思いで先代を討ったのでしょうか」
火の魔王「同士である事が答えだ。お前と同じ志じゃないか。良き友であれ」
水の魔王「言わずもがな、そのつもりです」
126: 2009/07/11(土) 01:22:05.83 ID:dgN14GNZ0
侍女「おやつはチーズ入りウィンナーのロールパンです」
魔王「やっほぅー」
側近「阿呆な事してないで……」
侍女「はい、側近さんも」
側近「頂きます」
魔王(何気に、侍女の地位が上がってる気がする)モグモグ
魔王「やっほぅー」
側近「阿呆な事してないで……」
侍女「はい、側近さんも」
側近「頂きます」
魔王(何気に、侍女の地位が上がってる気がする)モグモグ
131: 2009/07/11(土) 02:02:00.76 ID:dgN14GNZ0
魔王「……内陸だと海の魚がなぁ」
側近「また阿呆な事を……」
魔王「……特産……交換……」ブツブツ
魔王「行って来る!」
側近「え、ちょ、今日の会議には出席してもら……おぉーい!」
側近「また阿呆な事を……」
魔王「……特産……交換……」ブツブツ
魔王「行って来る!」
側近「え、ちょ、今日の会議には出席してもら……おぉーい!」
132: 2009/07/11(土) 02:04:34.71 ID:dgN14GNZ0
<<次の猿ったら仮眠行き>>
水の魔王「今日も平和のようで、一安心です」
水の側近「それはそうですが、何もご自身で見回りをしなくても」
水の魔王「長たるもの、自ら現状を知る必要が……あら?」
荒ぶる魔王「もう一尾! もう一尾!」
商人「ば、馬鹿言え、たかがチーズでそれ以上出せるか!」
荒ぶる魔王「最高級なんだって、味見してみろよ!」
水の魔王「……疲れているのかしら、私」
水の側近「残念ながら、幻覚ではないかと」
水の魔王「今日も平和のようで、一安心です」
水の側近「それはそうですが、何もご自身で見回りをしなくても」
水の魔王「長たるもの、自ら現状を知る必要が……あら?」
荒ぶる魔王「もう一尾! もう一尾!」
商人「ば、馬鹿言え、たかがチーズでそれ以上出せるか!」
荒ぶる魔王「最高級なんだって、味見してみろよ!」
水の魔王「……疲れているのかしら、私」
水の側近「残念ながら、幻覚ではないかと」
134: 2009/07/11(土) 02:07:01.07 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「何をなさっているのですか……?」
魔王「ん? おおっと、あまりよろしくない姿をお見せした……」
魔王「沖の魚料理が食べたくなって貿易に来た次第でして」
水の魔王「……」
水の側近「……」
水の魔王「ああ……眩暈が」
水の側近「ま、魔王様……!」
魔王(え……俺そんな不味い事したか?)
魔王「ん? おおっと、あまりよろしくない姿をお見せした……」
魔王「沖の魚料理が食べたくなって貿易に来た次第でして」
水の魔王「……」
水の側近「……」
水の魔王「ああ……眩暈が」
水の側近「ま、魔王様……!」
魔王(え……俺そんな不味い事したか?)
135: 2009/07/11(土) 02:09:01.02 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「……あら? 何時の間に城に戻ったのかしら」
水の魔王「何か、見てはいけないものを見た気がする……」
水の側近「お目覚めですか、魔王様」
水の魔王「ええ……私は先ほど、不思議な体験をした気がするのですが」
水の側近「日に当てられたのでしょう。お倒れになった時は寿命が縮まる思いでしたよ」
水の側近(言えない、交渉成立してほくほくした顔で、荒ぶる魔王が魚を抱えて飛んでいったなんて)
水の魔王「何か、見てはいけないものを見た気がする……」
水の側近「お目覚めですか、魔王様」
水の魔王「ええ……私は先ほど、不思議な体験をした気がするのですが」
水の側近「日に当てられたのでしょう。お倒れになった時は寿命が縮まる思いでしたよ」
水の側近(言えない、交渉成立してほくほくした顔で、荒ぶる魔王が魚を抱えて飛んでいったなんて)
137: 2009/07/11(土) 02:11:10.58 ID:dgN14GNZ0
側近「随分と立派な魚ですね……どうしたんです?」
魔王「市場で競り落としてきた」
側近「……何処で買ってきたんです?」
魔王「ふ、俺だけの穴場だ、そいつぁ言えねぇ」
側近「水の都市で恥じ晒してきてませんよね、この阿呆」ギリギリ
魔王「ギブ! ギブ!」
魔王「市場で競り落としてきた」
側近「……何処で買ってきたんです?」
魔王「ふ、俺だけの穴場だ、そいつぁ言えねぇ」
側近「水の都市で恥じ晒してきてませんよね、この阿呆」ギリギリ
魔王「ギブ! ギブ!」
138: 2009/07/11(土) 02:13:08.92 ID:dgN14GNZ0
魔王「どうだ、たまには皆で鍋を突付こうか」
側近「城で鍋……国長と鍋……」
侍女「ま、まさか私まで、お呼び頂けるなんて」
魔王「兵士は見張りの番があるって断られたからな」
侍女「残念ですね……あ、この山菜、ここら辺では取れませんよね」
側近「……」ピク
魔王「……ま、まあな」
侍女「あれ? これも? これらって確か深緑の……」
魔王「で、では手にグラスをとってか~んぱ……」
側近「さて全てをゲロって貰いますか、阿呆様」
魔王「ま、待て、国長に対する敬意を、いや、まずはその得物を……」
側近「城で鍋……国長と鍋……」
侍女「ま、まさか私まで、お呼び頂けるなんて」
魔王「兵士は見張りの番があるって断られたからな」
侍女「残念ですね……あ、この山菜、ここら辺では取れませんよね」
側近「……」ピク
魔王「……ま、まあな」
侍女「あれ? これも? これらって確か深緑の……」
魔王「で、では手にグラスをとってか~んぱ……」
側近「さて全てをゲロって貰いますか、阿呆様」
魔王「ま、待て、国長に対する敬意を、いや、まずはその得物を……」
139: 2009/07/11(土) 02:15:22.73 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「失礼致し……な、何があったんですか? そんな縮こまってお座りになって」
魔王「他国での物々交換がばれて謹慎中」
水の魔王(ま、魔王なのに……)
魔王「物々交換って立派で正当な取引だよな? 何で怒られるんだ……?」
水の魔王(す、凄く落ち込んでる……何て慰めたらいいのやら)
魔王「他国での物々交換がばれて謹慎中」
水の魔王(ま、魔王なのに……)
魔王「物々交換って立派で正当な取引だよな? 何で怒られるんだ……?」
水の魔王(す、凄く落ち込んでる……何て慰めたらいいのやら)
142: 2009/07/11(土) 02:17:44.53 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「一部の国では、貴方の若さ故、いい目で見られていない事もありますのでお気をつけ下さい」
魔王「わざわざ、そんな事で……お手数おかけします」
水の魔王「征服派からも目をつけられているので、早急にお伝えしました」
魔王「助かります。ああ、よかったらこのトマト、貰ってってください」
水の魔王「え、ええ? い、いえ、そんな城の物をおいそれと頂くわけには」
魔王「中庭で栽培したものですのでお気になさらずに」
水の魔王「……じ、侍女達に?」
魔王「……? 自分でですが?」
水の魔王「……」
魔王「わざわざ、そんな事で……お手数おかけします」
水の魔王「征服派からも目をつけられているので、早急にお伝えしました」
魔王「助かります。ああ、よかったらこのトマト、貰ってってください」
水の魔王「え、ええ? い、いえ、そんな城の物をおいそれと頂くわけには」
魔王「中庭で栽培したものですのでお気になさらずに」
水の魔王「……じ、侍女達に?」
魔王「……? 自分でですが?」
水の魔王「……」
143: 2009/07/11(土) 02:20:28.24 ID:dgN14GNZ0
魔王「……嫌な雨だ。氾濫とかは無いだろうが、弱く長く降るのは好かんな」
兵士「ま、魔王様! 外れの村が襲撃されました!」
魔王「馬鹿な……何処の賊だ! 被害は!」
兵士「現状、応援要請しか……近隣の警備隊と、城内の部隊が向かっています」
側近「魔王様落ち着いて下……ああ、もういないし!」
『征服派からも目をつけられて……』
魔王「本当に嫌な気分だ……」
兵士「ま、魔王様! 外れの村が襲撃されました!」
魔王「馬鹿な……何処の賊だ! 被害は!」
兵士「現状、応援要請しか……近隣の警備隊と、城内の部隊が向かっています」
側近「魔王様落ち着いて下……ああ、もういないし!」
『征服派からも目をつけられて……』
魔王「本当に嫌な気分だ……」
144: 2009/07/11(土) 02:22:51.34 ID:dgN14GNZ0
降りしきる地雨の中、魔王と部隊の者達は佇んでいた。
何も間に合わなかった。辺り一面は血の海が広がり、到着した者達以外は息をしていなかった。
「なんでこんな……」
「誰だ……どこの賊の仕業だ……」
「ああ……同僚が……こいつが何でこんな目に……」
魔王(違う……賊ではない)
魔王(何で気づかなかったんだ……あの時も……今回も……奴らは兵士だったんだ)
魔王(近隣の国の……)
何も間に合わなかった。辺り一面は血の海が広がり、到着した者達以外は息をしていなかった。
「なんでこんな……」
「誰だ……どこの賊の仕業だ……」
「ああ……同僚が……こいつが何でこんな目に……」
魔王(違う……賊ではない)
魔王(何で気づかなかったんだ……あの時も……今回も……奴らは兵士だったんだ)
魔王(近隣の国の……)
157: 2009/07/11(土) 06:50:31.41 ID:dgN14GNZ0
側近「やっと……追いついた……」
側近「魔王……っう! 何だ、これ」
魔王「……」
側近「魔王様、落ち着いて下さい! 今他国と争うのは……」
魔王「買い被るな……」
魔王「これだけの事されていて、心を穏やかに出来るほど、俺は聖人ではない」
魔王「どこの国かも分かっている……征服を推し進める蛮族がぁっ」
側近「……魔王様! 今戦争を起こすのは得策では……」
魔王「確認してやろう……真意によっては」
魔王「皆殺しだ」
側近「魔王……っう! 何だ、これ」
魔王「……」
側近「魔王様、落ち着いて下さい! 今他国と争うのは……」
魔王「買い被るな……」
魔王「これだけの事されていて、心を穏やかに出来るほど、俺は聖人ではない」
魔王「どこの国かも分かっている……征服を推し進める蛮族がぁっ」
側近「……魔王様! 今戦争を起こすのは得策では……」
魔王「確認してやろう……真意によっては」
魔王「皆殺しだ」
158: 2009/07/11(土) 06:52:44.86 ID:dgN14GNZ0
時に真実は残酷の限りを尽くす。
国ぐるみ。首都の者達が率先して行ったいたのだ。
無駄な生産等に回る人も金もなく、賊の姿に、賊に紛れて略奪していたのだ。
魔王の咆哮は、首都を揺るがした。
事態に気づいた、この国の王、貪る魔王は本来の姿である飛龍となって、荒ぶる魔王と対峙した。
身体の大きさが違いすぎる。
故に、人々は決着は事も無く決まるだろうと予想していた。
地面に降ってきたのは飛龍の首だった。
国ぐるみ。首都の者達が率先して行ったいたのだ。
無駄な生産等に回る人も金もなく、賊の姿に、賊に紛れて略奪していたのだ。
魔王の咆哮は、首都を揺るがした。
事態に気づいた、この国の王、貪る魔王は本来の姿である飛龍となって、荒ぶる魔王と対峙した。
身体の大きさが違いすぎる。
故に、人々は決着は事も無く決まるだろうと予想していた。
地面に降ってきたのは飛龍の首だった。
159: 2009/07/11(土) 06:55:00.31 ID:dgN14GNZ0
今は、各国の魔王が協議を行っている。荒ぶる魔王は、その結果を待つ身であった。
一夜にして他国の魔王と首都を滅ぼした罪を問われているのだ。
魔王(まるで死刑判決を待つ囚人だな……)
不思議と落ち着いている魔王に、側近は不安げな眼差しを送り続けていた。
魔王「そんな顔をするな……なるようにしかならんのだ」
側近「ですが……確かに魔王様にも非はありますが、これでは酷すぎます」
魔王「……」
一夜にして他国の魔王と首都を滅ぼした罪を問われているのだ。
魔王(まるで死刑判決を待つ囚人だな……)
不思議と落ち着いている魔王に、側近は不安げな眼差しを送り続けていた。
魔王「そんな顔をするな……なるようにしかならんのだ」
側近「ですが……確かに魔王様にも非はありますが、これでは酷すぎます」
魔王「……」
161: 2009/07/11(土) 06:57:00.00 ID:dgN14GNZ0
水の魔王「……今回の一件に関しては情緒酌量の余地があるとして」
側近「そ、それでは魔王様は……!」
水の魔王「ええ……ですが、次はありません。貴方が行った事がどれほど重大か、分かっていますね」
魔王「ああ……俺が魔王に向いていない事もな」
側近「ま、魔王様……」
魔王「進める所までは進むさ。今はまだ、な」
水の魔王「貴方は純粋過ぎます。人は皆辛くても、納得いかなくても、それを我慢します」
魔王「自分に正直。俺は我侭なのさ」
水の魔王「……」
魔王「……迷惑をかけました」
水の魔王「いえ……」
側近「そ、それでは魔王様は……!」
水の魔王「ええ……ですが、次はありません。貴方が行った事がどれほど重大か、分かっていますね」
魔王「ああ……俺が魔王に向いていない事もな」
側近「ま、魔王様……」
魔王「進める所までは進むさ。今はまだ、な」
水の魔王「貴方は純粋過ぎます。人は皆辛くても、納得いかなくても、それを我慢します」
魔王「自分に正直。俺は我侭なのさ」
水の魔王「……」
魔王「……迷惑をかけました」
水の魔王「いえ……」
162: 2009/07/11(土) 06:59:25.80 ID:dgN14GNZ0
側近「魔王様」
魔王「一つ、決めた」
魔王「失くそう。あんなふざけた事件、今後たりとも起こさせない」
魔王「どうすればいいかは分からないが、それも模索していくんだ」
魔王「俺は国の外で戦う……だからお前は国を守ってくれ」
魔王「一つ、決めた」
魔王「失くそう。あんなふざけた事件、今後たりとも起こさせない」
魔王「どうすればいいかは分からないが、それも模索していくんだ」
魔王「俺は国の外で戦う……だからお前は国を守ってくれ」
164: 2009/07/11(土) 07:06:07.75 ID:dgN14GNZ0
魔王「これは契りだ。達成されるその日まで。この大陸の各国が手を取り合える環境」
魔王「全てを共存派とする日まで」
側近「……対立する派閥が無くなれば、本当にあのような争いがなくなるでしょうか?」
魔王「無理だな。だが、手を取り合える環境になれば……摩擦はなくなるだろう」
側近「久しぶりに魔王らしく見えますね」
魔王「悪かったな。……、グラスを持て」
側近「こう、ですか?」
魔王「不条理な争いを行われない、行わない世にすべく」
魔王「各国が調和されるその日まで、我々は戦い抜く事をここに誓いまして……っ乾杯!」
側近「……か、乾杯」
側近「何故乾杯を……?」
魔王「事ある毎に杯を鳴らそう。忘れない為にも、戒めの為にも……この契りを」
側近「なるほど……失礼しました。それでは改めまして」
魔王「我らの志が達成されるその日を願って」
魔王・側近「乾杯!」
子供「苦しいよ……誰か、助けて……」終
魔王「全てを共存派とする日まで」
側近「……対立する派閥が無くなれば、本当にあのような争いがなくなるでしょうか?」
魔王「無理だな。だが、手を取り合える環境になれば……摩擦はなくなるだろう」
側近「久しぶりに魔王らしく見えますね」
魔王「悪かったな。……、グラスを持て」
側近「こう、ですか?」
魔王「不条理な争いを行われない、行わない世にすべく」
魔王「各国が調和されるその日まで、我々は戦い抜く事をここに誓いまして……っ乾杯!」
側近「……か、乾杯」
側近「何故乾杯を……?」
魔王「事ある毎に杯を鳴らそう。忘れない為にも、戒めの為にも……この契りを」
側近「なるほど……失礼しました。それでは改めまして」
魔王「我らの志が達成されるその日を願って」
魔王・側近「乾杯!」
子供「苦しいよ……誰か、助けて……」終
166: 2009/07/11(土) 07:17:19.05 ID:RM8E1G0X0
おつかれ
168: 2009/07/11(土) 07:19:59.66 ID:oarlvD13O
素敵だった
奴隷商「さあさあ、本日の目玉だよ!」
引用元: 子供「苦しいよ……誰か、助けて……」
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