1: 2012/04/07(土) 00:04:56.91
カザマ「ほら、しんのすけ、早く行くぞ」

風間君がオラに手を差し伸べた。西日が強く差し込み、焦点を合わせるのに時間がかかる。黒い陽炎のようにぼやけた風間君は、徐々にクリアになって歯を覗かせた。ため息交じりに笑った。

カザマ「みんな待ってるんだからさ」

いつもの公園では変わらぬ顔ぶれが揃っていた。
五人ともスーツで、背丈も子供のころとはえらい違いだ。
それもそうだ。あの時から、20年近く経ったのだから。



4: 2012/04/07(土) 00:08:23.04 ID:J1rHTBq80
ネネ「遅いわよ」

幼いころからの赤毛は長くのび、キューティクルが幾層にも重なっていて美しい。昼間は結っていたのだろう、軽くウェーブがかかっている。
艶やかな前髪からのぞく細い眼はひどく魅力的で、マサオ君がさきほどからちらちらと盗み見ているのが分かった。
オラが小さく笑うと、ネネちゃんは、しんちゃんは変わらないわね、と付け足し笑った。

マサオ「ほんとだよ。むかしっから、遅刻ばっかしてたよな」

そうは言ったものの、マサオ君も笑っていた。
耳まで隠すミディアムヘアは、オニギリ頭の面影もない。あの頃からいちばん変わったのは、彼なのかもしれない。
褐色の肌色は健康的で、顔つきから自身が満ち溢れ、そこここにこぼれおちていた。真っ赤なネクタイも、その表われか。

8: 2012/04/07(土) 00:12:56.52 ID:J1rHTBq80
ボー「……」

ボーちゃんは相変わらず、というわけでもない。
以前にも増して無口になったが、それは美徳だ。沈黙は金である。
そんなことよりも、口数に比例するように身長が伸びた。180はゆうに超え、それでいて手足は細い。
スタイリッシュなストライプスーツを身につけ、煙草をくゆらせている。

カザマ「さて、やっとそろったな」

リーダーは今も昔も彼だ。
スーツの胸元には老若男女問わず知っている大企業のバッチがまぶしい。
地味なスーツだが、ブランド物のカフスボタンや靴のセンスはほのかな色気を振りまいている。いやらしくない程度に薫る香水も、きっと高級品なのだろう。
すっきりとした短髪はみていて気持ちがよかった。

10: 2012/04/07(土) 00:17:40.68 ID:J1rHTBq80
しんのすけ「かすかべ防衛隊……」

オラが思いついたようにこぼすと、八つの目はいっせいにこちらを向いた。

マサオ「……懐かしいな」

カザマ「……ああ」

禁句を口にしたようだ。オラたちは、あの日愛する防衛隊を解散したのだった。

ネネ「……懐かしいね」

ネネちゃんが宝物を扱うように、繰り返した。

11: 2012/04/07(土) 00:18:25.21 ID:J1rHTBq80
オラたちは幼稚園の卒園式の帰り、最後だからとお泊まり会をした。
たしか、オラの家の二階で集まったのだと思う。
夜も更け、マサオ君が船をこぎ出したころボーちゃんが言った。「星が見たい」。
ネネちゃんは目を輝かせて賛成し、カザマ君の声も珍しく上ずっていた。
上気した頬のまま、ネネちゃんはマサオ君を起こし、オラたち五人は裏山に向かった。
たしかオラが高いところの方が見やすいゾ、だとかなんとか言ったのだと思う。
昔から、振り回して迷惑をかけてばかりだ。そして、今も。

12: 2012/04/07(土) 00:19:18.02 ID:J1rHTBq80
裏山の中腹、大きな木の佇立する下で、星を見た。
想像していたよりも空はかすみ、薄められた夜空に星はまばらだった。
それでも、そのころのオラたちにとって、世界はあまりにも広かった。遠かった。
マサオ君が泣きだしたのを機に、帰ることにした。
家に誰もいないとなって両親を心配させるのは気が引けたし、純粋に、みんな怖くなっていたのかもしれない。早足で山を下った。
その途中だった。ボーちゃんが指さす先に流れ星が瞬いたのだ。
ネネちゃんは喜び、マサオ君は泣きやんだ。カザマ君は「おかしいな」と屁理屈を並べようとしていたものの、そんな時間もなかったのだ。
光の玉は徐々に大きくなり、マサオ君がまた泣き出す前にオラたちの前に落ちた。

13: 2012/04/07(土) 00:19:44.98 ID:J1rHTBq80
落ちたのだ。比喩などではなく、まぎれもなく墜落した。
オラたち五人は気を失い、五人がいっせいに目が覚めたのは、新聞記事に見出しが躍った翌日の事だった。
『K市で園児五人の変死体が発見される』

17: 2012/04/07(土) 00:24:38.20 ID:J1rHTBq80
寝ずの番をしていたオラの父ちゃんと母ちゃんは、怒っているのか泣いているのかわからないくらい顔をぐちゃぐちゃに歪ませた。
たぶん、うれし泣きだった。
父ちゃんの伸びた髭が痛かったのを覚えている。後でみんなに訊いたら、どの家もそんなふうな反応だったらしい。
そうやって、オラたちは蘇った。

18: 2012/04/07(土) 00:25:47.32 ID:J1rHTBq80
はるばる蘇ったオラたちを待っていたのは、星なんか比べ物にならないほどにまぶしい、フラッシュの光だった。
医療ミス、という言葉で片付けられるまでに一週間ほどかかり、その間は連日オラたちのニュースで持ちきりだった。
あのとき、父ちゃんと母ちゃんがマスコミを怒鳴りつけていなかったら、オラはぐれたりひきこもっていたりしてしまっていたかもしれない。
父ちゃん母ちゃんには、本当に頭が下がる。

あと、ワイドショーでまつざか先生が自慢げにオラたちのことを話していたのも忘れていない。

20: 2012/04/07(土) 00:32:43.03 ID:J1rHTBq80
さて、やっと本題に入れる。
かくして大変な目にあったオラたちだが、再び集まるともっと大変なことになった。
みんながフシギなちからを手に入れていたのだ。
それを本能的に恐れたオラたちは、それを五人の秘密にし、かすかべ防衛隊を解散することにした。
子供ながらにも、危険な力だとはわかっていたのだ。

そして時は流れ、五人が五人就職し生活を持つようになった。
ネネちゃんに至っては、結婚もしている。
今日まで定期的に集まってはいたが、それはあくまで旧友としてだ。
いつの間にか防衛隊という言葉自体避けられ、タブーに近いものとなっていた。

そして――

21: 2012/04/07(土) 00:33:44.94 ID:J1rHTBq80
カザマ「愛ちゃんの屋敷はおそらくフェイクだ」

カザマ君がベンチに愛ちゃんの屋敷の見取り図を広げ、説明を始めた。

マサオ「フェイクっつーと?」

ネネ「どこか別の場所に隠れてるってこと?」

カザマ「そうなんだけど、そうじゃない」

カザマ君はニヒルにわらってみせた。
そして、見取り図の中心を人差し指でトントンと叩き、言った。

カザマ「地下だ」

22: 2012/04/07(土) 00:34:07.01 ID:J1rHTBq80
マサオ「根拠は?」

カザマ「昔の地図と比較したら、屋敷の下には防空壕があった。こんな辺鄙な土地に大企業の令嬢が引越してきたのがそもそもきな臭い。それに、屋敷の前の尋常じゃない警備はこの町に必要ない」淡々と言葉を並べた。

ネネ「愛ちゃんは無事かしら」

ネネちゃんが憂いを帯びた顔で言う。

ボー「無事でいてくれないと、困る」

ボーちゃんが口を開いた。渋みのかかった低音はどこかに懐かしさが残っていた。
残ったみんなが顔を合わせ、頷いた。

23: 2012/04/07(土) 00:34:28.38 ID:J1rHTBq80
カザマ「行こう、愛ちゃんのもとへ」

マサオ「しんちゃんのためにも」

ネネ「愛ちゃんのためにも」

しんのすけ・ボー「かすかべ防衛隊」

オラとボーちゃんの声が重なった。

みんな「ファイヤー!」

24: 2012/04/07(土) 00:37:36.98 ID:J1rHTBq80
屋敷の前でオラたちを迎えてくれたのは、筋肉でスーツが張り裂けそうな黒人二人だった。
樽のような腕を前に組み、サングラスをかけている。夜なのにうっとおしい奴らだ。
少し離れた場所でそれを確認し、ため息をついた。

マサオ「俺が行くよ」

マサオ君が先陣を切って二人の前に向かった。
右手を水平に挙げ、手のひらで拳銃をかたちどった。
二人の屈強な男は、警戒の濃い色を帯びさせ、組んでいた腕をほどいた。

だが、遅かった。

マサオ君は突き出した手を軽く握り、はじいて音を鳴らした。
途端、片方の男が悲鳴を上げる。

25: 2012/04/07(土) 00:37:58.54 ID:J1rHTBq80
悲鳴をあげた男の背中が燃えていたのだ。
うろたえる、片割れ。マサオは続けざまに反対の指もならす。

パチン

音に呼応するように、もう一人の男も悲鳴をあげた。
足もとから炎が立ち上っているのだ。

――パイロキネシス
念発火能力だ。

二人の男はもがきながらも無線機のようなものを操作しようとする。
マサオは指揮者のように、両手を広げ、ならした。
二つの無線機が音を立てて爆発した。

28: 2012/04/07(土) 00:40:46.40 ID:J1rHTBq80
二つの火だるまは、すぐに跡形もなく消えた。
後にはススのようなものが散るのみで、それもすぐに夜の闇に紛れてしまった。

隠れていたネネちゃんは悪戯っぽく口角をあげ「その能力がないマサオ君は、今頃フリーターとかやってると思うわ」と言った。みんなが小さく笑った。

隠れていた場所に戻ってきたマサオ君は、笑っているみんなをみて首をかしげた。

29: 2012/04/07(土) 00:41:19.36 ID:J1rHTBq80
改めて、みんな揃って門の前に立つ。
刑務所の出入り口のように厳重なそれは、当然だが施錠されていた。

ずい、と一歩前に出たのはボーちゃんだ。
ボーちゃんは目をつむり、両手をひろげて突き出した。

すると、地鳴りにも近い音が局地的に起こり、どっしりとした鉄の壁がかたかたと震え始めた。

施錠が解除される音が何度も聞こえる。
そして、手を触れることなくドアは開かれた。

――サイコキネシス
念動力能力だ。

30: 2012/04/07(土) 00:41:52.94 ID:J1rHTBq80
ボー「急ごう!」

そう言ったボーちゃんの後にみんなが続く。
いちばん前はオラの定位置だったんだけどなあ。

カザマ「ちょっと待って!」

カザマ君が声をはりあげ、みんなが足を止めた。

ネネ「どうしたの?」

ネネちゃんの問いを黙殺し、カザマ君は地に手をつけた。

31: 2012/04/07(土) 00:42:37.53 ID:2WFNgfiP0
鼻水は念動力で動かしてんだな

33: 2012/04/07(土) 00:46:16.68 ID:J1rHTBq80
みんなはカザマ君の言うとおり、ぴたりと動きをとめ彼の次の言葉を待った。
マサオ君のつばをのむ音が、やけに大きく聞こえる。

カザマ「ボーちゃん!」

ボーちゃんはすぐさまカザマ君のもとに駆け寄り、何度か頷くとすぐに両手を広げて念を込めた。

すると、近くの茂みからなになやら音がした。
しばらく待つと、赤いレーザーを発する機械が転がりでた。

即座にマサオ君がそれを焼いた。
おそらく、センサーを発する警報装置の類だろう。

35: 2012/04/07(土) 00:48:39.29 ID:J1rHTBq80
カザマ君はふうとひとここちついた。
彼は、地面の意志を、いわゆる残留思念といったものを読み取ったのだ。

――サイコメトリー
接触分析能力だ。

カザマ「こっちだ!」

カザマ君は正門を避け、裏庭にみんなを導いた。
オラ、いいとこ無しだゾ……。

39: 2012/04/07(土) 00:56:47.12 ID:J1rHTBq80
裏庭は手入れの行きとどいたものだった。
噴水はこんこんとわき上がる水を湛え、花は話しあったかのように一斉に咲いている。

しんのすけ「夜なのに、不気味だゾ……」

カザマ君はオラの言葉も無視し、地に手をついた。
しばらくすると、マサオ君に目配せをする。
マサオ君は頷き、指を鳴らした。

噴水のわきの一帯が燃え上がり、四角く切り取られたコンクリートの出入り口を露わにした。
ボーちゃんが四角いパネル状の入り口を持ち挙げ、中を覗くと暗闇に梯子がおりていた。

42: 2012/04/07(土) 01:04:53.71 ID:J1rHTBq80
梯子を降りると学校の廊下ほどの通路が一本伸び、遠くの壁に松明がかかっていた。
ところどころに苔が群生しているようで、どうにも足もとが不安定だ。
しばらく待って、目を暗闇に慣れさせることにした。

しばらくして、景色がしっかりとした輪郭を持つようになった。
前を歩いていたカザマ君とマサオ君は壁伝いに歩き始めた。

突然、いちばん後ろを歩いていたネネちゃんが言った。

「カザマ君、あと二歩。マサオ君、あと五歩」

二人は足を止めて、ネネちゃんを振り返った。
ネネちゃんは子供のように笑っていた。

45: 2012/04/07(土) 01:10:07.36 ID:J1rHTBq80
ネネちゃんが開いたシャツの胸元に手を突っ込み、二体のぬいぐるみを取り出した。
もちろん、ウサギのぬいぐるみだ。

ボーちゃんに向けてそれを放ると、二匹のウサギはふわふわと宙に浮いた。
目測でカザマ君の二歩先とマサオ君の五歩先までウサギを飛ばし、それぞれ落とした。

がこん!!!

派手な音と共に地面にぽっかりと穴が開いた。
マサオ君が発火で照らすと、一瞬だけ底が覗けた。
いや、底など無かった。奈落に程近い落とし穴だったのだ。
ウサギの落ちた音は聞こえずじまいだった。

46: 2012/04/07(土) 01:13:20.05 ID:J1rHTBq80
ネネ「カザマ君、落ちる時『ママー』って叫んでたわよ」

ネネちゃんはくすくすと上品に笑った。
カザマ君とマサオ君は顔を合わせて苦笑した。

――プレコグニション
予知能力だ。

マサオ君の一瞬のあかりで再び真っ暗になってしまったオラたちは、
しばらくその場にとどまって、目を慣らしてから歩をすすめた。

50: 2012/04/07(土) 01:20:49.81 ID:J1rHTBq80
やっとのことで松明までたどり着いたオラたちを待っていたのは、鉄製のドアだった。
カザマ君が用心深くドアノブを引くと、拍子抜けするほど簡単にドアは開いた。

想像以上の光量に、みんなは目を閉じた。
そして、ゆっくりと目を開けるとそこは広い部屋になっていた。
豪奢な家具が並び、暖炉まで設けられている。

部屋の真ん中で、ロッキングチェアに座る二人の背中が見えた。
一人はティーカップを片手にゆらゆらと揺れ、
もう一人は、ピクリともしていなかった。

52: 2012/04/07(土) 01:23:56.58 ID:J1rHTBq80
マサオ「……愛ちゃん?」

揺れていたロッキングチェアが止まり、やつれた女性が振り向いた。

愛「あら、誰でしたっけ、あなた?」

マサオ「僕だよ、僕。マサオだよ」

愛「……?」

愛「ああ、ああ、あのオニギリ頭」

口もとに手を置いて笑う愛ちゃん。
カザマ君とネネちゃんは笑わなかった。

愛「と言うことは、隣の二人はネネちゃんとカザマ君ね」

二人は無言でうなずいた。

55: 2012/04/07(土) 01:28:30.06 ID:J1rHTBq80
愛「同窓会でもあったのかしら? 呼んでくれないなんて、ずいぶん冷たい級友ね」

愛ちゃんは、まあそんなこといいけど、と言わんばかりにカップに口をつけた。

マサオ君の震える肩を、名前も挙がらないボーちゃんが叩いた。
カザマ君もネネちゃんも黙り込んでいる。

愛「ほら、しん様も挨拶なさったら?」

「懐かしい顔ぶれよ」と笑いながらもう一つのチェアを引き、こちらに向けた。

屋敷に入って来た『四人』は顔をそむけた。

しんのすけの腐乱死体から。

59: 2012/04/07(土) 01:30:05.02 ID:+OK4i8FE0
なん…だと…

62: 2012/04/07(土) 01:32:45.68 ID:J1rHTBq80
ああ、そういえば、オラ死んだんだった。
死ぬ直前に、四人に連絡したんだ。

――テレパシー
超感覚的知覚

オラのちからで、みんなに言ったのすっかり忘れてたゾ。

最初にカザマ君が差し伸べてくれたのはオラの遺影で、
四人たす遺影の五人で集まったんだ。

だからびみょうに会話が成り立ってなかったんだな!
もー、むねがどきどきしてたゾ!

64: 2012/04/07(土) 01:37:44.77 ID:J1rHTBq80
愛「二か月くらい前、偶然町でしん様をみかけたの」

愛ちゃんは訊いてもいないのに語り始めた。


愛「ほんとに、変わらず素敵でしたわ」

だから、この部屋に閉じ込めたの。
私だけのものにしたかったの。

もちろんご家族から捜索願もだされてたみたいだけど、
一ヶ月もしたら警察は捜査を辞め、自殺ってことになったわ。
お金って素敵よね。

どうして貴方達がここを知ったのかわ分からないけれど、
つい三日くらい前までは、身体は腐っても息はあったのよ?
さすが、私のしん様だわ。

恍惚とした表情の愛ちゃんは、お金って素敵ねとまたうわごとのように言った。

65: 2012/04/07(土) 01:40:00.18 ID:zyWp7nNQ0
なんと・・・

67: 2012/04/07(土) 01:43:45.00 ID:J1rHTBq80
カザマ「ほんとに、あいつは馬鹿だな」

マサオ「うん、もっとはやく連絡すれば良かったのにな」

ネネ「そうね」

マサオ「しかも、久しぶりにしんちゃんの声がしたと思ったら」

カザマ「ああ、助けてくれとか、そんなんじゃなかったよな」

ネネ「なんであんなこと、最期に言ったのかしらね」

マサオ「そんなこと、わかってるっつのな」

カザマ「ああ、まったくだ」

ネネ「当り前よ」

ボー「当然」





――「かすかべ防衛隊は、永遠に不滅だゾ!」

75: 2012/04/07(土) 01:53:56.16 ID:J1rHTBq80
愛「なにをごちゃごちゃ言ってるのか知らないけれど、しん様は渡しませんわよ!」

愛ちゃんが「ナカムラ」と言うと、貫禄のあるスーツ姿の初老の男がどこからともなく現れた。
ナカムラは手際よくしんのすけを担ぎあげ、ずっしりとした本棚を側面から押した。
裏にあった隠し扉に愛ちゃんとしんのすけを担いだナカムラが滑りこむと、
扉はすぐに閉まり、四人は取り残されてしまった。

すべては一瞬の出来事だった。

カザマ「やられた」

ネネ「予知はできてたんだけど、ちょっと、ショックで」

マサオ「……あれを見たら、しかたねーよ」

78: 2012/04/07(土) 02:00:07.23 ID:J1rHTBq80
カザマ「さて、どうしようかな」

カザマ君が隠し扉を押したり引いたりしてみるがびくともしない。
部屋には、敗戦の色が濃く落ちていた。

マサオ「言ったん出て、作戦の練り直しか」

ネネ「そうね。いったん引きましょう」

三人が苦しそうな顔でいると、ボーちゃんが口を開いた。

ボー「待てない」


三人がボーちゃんを見た。

ボー「待ってなんか、いられない!」

マサオ「でも、ここは行き止まりじゃ

ボー「あの執事が現れた入口があるはず!」

顔を合わせ、無言でうなずく、四人。
カザマ君はすぐさま地に手をあてた。

79: 2012/04/07(土) 02:04:12.23 ID:J1rHTBq80
カザマ君はすぐさまベッドの下に別の出入り口を見つけた。
そして、四人は迷うことなくその中に飛び込んだ。

四つん這いになってやっと一人通れるくらいの通路をすすむと、
一般的な教室程度のひらけた場所に出た。

そこでは、みるからに頑丈そうな鉄製の鎧を身にまとった男が仁王立ちで立っていた。

男「ようこそ愛様の級友」

男は続けた。

男「ジャンプ漫画みたいな展開は嫌いかい?」

82: 2012/04/07(土) 02:08:31.12 ID:J1rHTBq80
マサオ「ここは俺が請け負う、先に行け」

男の先にはまた扉があった。
逆にいえば扉は二つしかない。後は、密閉された鉄の立方体だ。

男「あらかじめ言っておくと、この先には愛様がいるよ」

マサオ君以外の三人は走り出す姿勢を取っていた。

男「いや、先の先の先の先かな」

男が笑ったのと、マサオ君が指を鳴らしたのは同時だった。

男の目の前が発火し、咄嗟に男は目をつむる。
その隙に、三人は駆け出し次のドアへと進むことが出来たのだ。

84: 2012/04/07(土) 02:15:36.22 ID:J1rHTBq80
マサオ「初めから行かせる気だったな」

男「まあね」

男は兜のようなものをかぶった。
鎧というよりは、西洋の甲冑に近いのかもしれない。
とにかく、男は完全に外界から遮断された。

男「この素材はね、燃えないんだよ、どんなに高温でもね」

男はククク、とマンガみたいに笑いながら言った。

男「門番も浮かばれるってもんだ」

マサオ君はやれやれと言わんばかりにネクタイを緩めた。

男「ここで死んでも、誰も気付かないんだよね」

いやらしい笑い方をする男だ。

マサオ「しんちゃん、俺はもう泣き虫じゃねえよ!」

マサオは手に力を込めた。

87: 2012/04/07(土) 02:20:55.24 ID:J1rHTBq80
次の扉を開けると、さっきと全く同じ形をした部屋があった。
無機質な立方体だ。そして、やはり男が仁王立ちしていた。

男「……」

ネネ「!」

カザマ「ネネちゃん? どうした?」

ネネ「……この人、視えない」

男はジーパンに白シャツといった軽装だったが、
瞳は海のように深く、まったく思考が読み取れそうになかった。

ボー「じゃあ、ここは僕が行く」

カザマ「ああ、頼むぞボーちゃん」

ボーちゃんが一歩前に出ると、男は首を振ってネネちゃんを指さした。

ネネ「……ご指名はいっちゃったみたい」

89: 2012/04/07(土) 02:25:08.16 ID:J1rHTBq80
ネネ「多分、私が残れば二人は見逃してくれると思うの」

カザマ「でも」

ネネ「さっきのマサオ君を見たでしょ。あれは一人ずつ分散させるのが目的なのよ」

カザマ「……視えないんだろ?」

ネネ「話し合ってる間に、しんちゃんは遠くにいっちゃう!!」

ボー「……行こう!」

カザマ「……」

カザマ「……ちゃんと追いついてくれよな」

ネネ「当然よ」

90: 2012/04/07(土) 02:28:46.47 ID:J1rHTBq80
二人が駆け出すと、案の定軽装の男は二人をスルーした。
軽装の男はつかつかとネネちゃんに歩み寄ると、ニタリと笑った。

ネネちゃんは演技がかった声色で言う。

ネネ「ご指名ありがとうございまーす」

男が飛びかかった。

ネネ「リアルおままごとに、こんな設定なかったんだけどなあ」

ネネちゃんは男の拳を寸前で避けた。

ネネ「まあ、いいわ」

胸元からウサギのぬいぐるみを取り出す。

ネネ「レパートリーが増えるわね、しんちゃん」

92: 2012/04/07(土) 02:35:12.92 ID:J1rHTBq80
また扉、また部屋、また男。

今度の男は岩のような巨体だった。
腰に巻いた布以外はなにも身に着けておらず、鼻息荒く座っている。
立ってしまうと、部屋に入りきらないのだ。

カザマ「……どうやってこの部屋に入ったんだよ」

ボーちゃんは目をつむり力を入れてみたが、男はピクリとも動かない。

ボー「この部屋は、僕の担当みたい」

カザマ「……持ちあがらないの?」

ボー「うん。本気出せば少しは浮くと思う。でも、それだけ」

カザマ「……」

ボー「わかってるよね」

カザマ君は無言で走り出した。
次の扉へ向かって一直線に。

94: 2012/04/07(土) 02:40:29.93 ID:J1rHTBq80
巨体の男はカザマ君が部屋を駆け出ると、そのドアを殴りつけた。
それは暴力の塊のような一撃で、扉はひしゃげ、つぶれてしまった。

男は大きな口をゆっくりと開き、かたことで言った

男「オレ、タタカワナイ」

ボー「……」

男「デモ、オマエ、イカセナイ」

ボーちゃんは煙草に火をつけ、ため息と一緒に紫煙を吐いた。
二口吸って、煙草を地面に落とし、踏み消す。

ボー「しんちゃん……」

男が興奮からか鼻息を荒げ、言った。

男「オレト、ガシ、シロ」

ボー「すぐ行くよ」

98: 2012/04/07(土) 02:46:55.56 ID:J1rHTBq80
カザマ君は嘔吐した。
最後であろう部屋に待っていたのは、他でもないしんのすけだった。

正確にいえば、『しんのすけだったモノ』。

つぎはぎだらけの着ぐるみ。
いや、着ぐるみだなんてそんな可愛いものではない。

あちこちからどす黒い液体が滴り、腐敗臭があたり一面に漂う。
現実味のなさが、それがしんのすけであることをかえって主張していた。

しんのすけの皮を剥ぎ、それを被っているのは。

愛「待ちくたびれましたわ」

カザマ君は再び嘔吐した。

101: 2012/04/07(土) 02:53:52.24 ID:J1rHTBq80
胃液まですべて吐き切ったカザマ君は、口もとをぬぐった。
そして、涙もぬぐった。

カザマ「愛ちゃん!!!」

愛ちゃんはしんのすけの生皮をかぶり、
腕を、足を、胸を、頭を、腹を、性器を、
はじからはじまで執拗に撫で始めた。

もっとも、皮をかぶっている状態なので、
しんのすけ自身がしんのすけをまさぐっているように見えるのだが。

あいちゃんはしん様しん様、と、とりつかれた様に繰り返した。
くねくねとダンスでも踊るように身もだえる『しんのすけだったモノ』。

カザマ君はめまいで倒れそうになっていた。

102: 2012/04/07(土) 02:57:58.85 ID:J1rHTBq80
『しんのすけだったモノ』はカザマ君のもとへとゆっくりと近づいてきた。
カザマ君は抵抗する気力も失せ、その場に立ち尽くしていた。

触れるほどの距離まで二人は接近した。
そして遂に、カザマ君の手に『しんのすけだったモノ』が触れてしまった。

その瞬間、カザマ君の能力が発動した。
しんのすけの残留思念が流れ込んできたのだ。



ふと気付くと、目の前には本物のしんのすけがいた。
間違いない。それは、しんのすけだった。

しんのすけ「よっ! カザマ君! おひさしブリブリ!」

104: 2012/04/07(土) 03:01:19.29 ID:J1rHTBq80
カザマ「……しんのすけえ!」

しんのすけ「おーっとすとっぷ! これ以上きちゃだめだぞ」

カザマ「助けに来たぞ! はやく戻ってこい!」

しんのすけ「うーん、それは無理なお願いだぞー」

カザマ「なんでだよ!?」

しんのすけ「オラ、死んでるぞー」

カザマ「……なんでヘラヘラ笑えるんだよ……」

しんのすけ「いやー、照れますなー」

カザマ「……」

109: 2012/04/07(土) 03:05:12.86 ID:J1rHTBq80
カザマ「みんで助けに来たんだぞ!」

しんのすけ「おー、知ってるぞ! お助けに来てくれたの、ずっと見てたぞ!」

カザマ「マサオ君も来てくれたよ」

しんのすけ「マサオ君はオニギリ頭で、泣き虫さんだからなあ」

カザマ「ああ、子供のころはそうだったよな」

しんのすけ「頼りないゾー」

カザマ「……いいや」

しんのすけ「うん、嘘だゾ」

カザマ「……ああ」

しんのすけ「すっごく頼れる、強い男だゾ!」

110: 2012/04/07(土) 03:10:26.41 ID:J1rHTBq80
勝負は一瞬だった。

マサオは指をパチンと鳴らすと、甲冑の男は口から血を吐いて倒れた。
もっとも鉄の継ぎ目から血がこぼれただけで、口から吐いたかどうかは分からないが。

間もなく、甲冑の中がパチパチと燃え、音を立てて崩れ落ちた。
耐火甲冑は、確かに良くできた代物だった。
いっさい燃え溶けることなく、中身だけを焼き尽くしたのだから。

マサオ「脳味噌カラッカラで、中身を燃やしずらかったよ」

マサオ「……」

マサオ「……しんちゃんなら、どうやってやっつけたかなあ」

マサオ「……」

マサオ「……しんちゃん」

やはり、彼は今でも泣き虫だった。

112: 2012/04/07(土) 03:12:46.57 ID:J1rHTBq80
カザマ「ネネちゃんだっているんだぞ」

しんのすけ「おままごとはもうごめんだゾー」

カザマ「色っぽくなったよ」

しんのすけ「考えられないゾー」

カザマ「それで、今も戦ってるよ」

しんのすけ「それはかんたんに想像できるなあ」

カザマ「……勝つところも?」

しんのすけ「当然だゾ!」

115: 2012/04/07(土) 03:19:16.48 ID:J1rHTBq80
ウサギを男の顔に向けて放ったネネちゃんは、それごと回し蹴りで吹き飛ばした。
とっさにぬいぐるみを避けようとした男は、飛んできた蹴りに反応が間に合わなかった。
軽装の男が倒れる。が、すぐに起き上った。

ネネ「女になぐられるなんて、みっともないわねえ」

ネネちゃんは立ちあがった男にすぐ罵声を浴びせた。

男「……蹴られただけだ」

ネネ「一緒でしょー。あー、みっともない」

男「……」

ネネ「ウサギさんにびっくりしちゃったんでちゅかねー」

男「……」

ネネちゃんの役者のようなわざとらしい喋り方に、男は苛立っていた。
瞳の深さも、もはやうかがえない。

ネネちゃんはまた、悪戯っぽく笑った。

なぜなら、もう男の動きが『予知』できるようになっていたのだから。

ネネちゃんは男が飛び込んで繰る場所に拳を向けて――

117: 2012/04/07(土) 03:24:12.14 ID:J1rHTBq80
カザマ「それに、ボーちゃんも」

しんのすけ「おー! ボーちゃんはボーちゃんのままだゾー!」

カザマ「僕たちの中で、いちばんカッコよくなったよ」

カザマ「背も伸びて、スタイルも良くなって」

しんのすけ「カザマ君はわかってないなー」

カザマ「……?」

しんのすけ「むかしっから、ボーちゃんがいちばんカッコよかったゾ!」

カザマ「……」

カザマ「そうだな」

118: 2012/04/07(土) 03:31:54.37 ID:J1rHTBq80
身体が大きければ、そのぶん肺も大きいのだろうか。
そんなことを考えながら、ボーちゃんは座っていた。

巨体の男の口と鼻を念動力でふさいでから、もうすぐ5分になる。
はじめはじたばたともがいていた男も、腹をくくったようだ。
充血した目をつむって、その時を待っている。

それからさらに5分後、男は泡を吹いて肩から崩れ落ちた。

ボーちゃんは立ち上がり、ひしゃげたドアを念力でひっぺがした。
ドアを剥がすと崩れたコンクリートの欠片がうずたかく積まれ、道をふさいでいた。
ボーちゃんはそれをひとつひとつ丁寧にのける。

途中、めずらしい形の欠片を見つけた。

ボー「しんちゃんは、なんて言うかな」

ボー「……」

ボーちゃんは欠片をポケットにしまい、作業に戻った。

120: 2012/04/07(土) 03:34:54.76 ID:J1rHTBq80
しんのすけ「さて、そろそろお時間だぞ」

カザマ「……行くなよ!!」

しんのすけ「もー、カザマ君はさびしがり屋さんだなあ」

カザマ「しんのすけ……」

しんのすけ「お助けに来てくれて、ありがとうだゾ」

カザマ「……やめろよ」

しんのすけ「最後に、お願いがあるぞ」

カザマ「……なんだよ」

カザマ「なんだって言ってくれ」

カザマ「ちゃんと守るよ!」

カザマ「だから!!」

しんのすけ「それはね……」

カザマ「行かないでくれえ!!!」

しんのすけ「――――

121: 2012/04/07(土) 03:40:19.75 ID:J1rHTBq80
我に返ったカザマ君の前には、依然として地獄絵図が広がっていた。

不気味に踊りまわる『しんのすけだったモノ』。
呪詛のように親友の名前をつぶやく女性。

そして、しんのすけの願い。
カザマ君の頭は割れてしまいそうだった。

愛「ああ、はやくしん様と二人きりになりたいですわ」

愛「もう見せびらかすのは十分ね」

愛「行きましょ、しん様!」

カザマ「待てよ!」

愛「ナカムラ」

ナカムラ「はっ!」

一足でカザマの胸元に飛び込んだ執事は、
カザマに向かって体重の乗った右手を放った。

124: 2012/04/07(土) 03:45:14.95 ID:J1rHTBq80
とっさに目をつむったカザマ君だったが、しばらく待っても痛みを感じない。
おそるおそる目を開けると、拳を振り上げたまま執事は静止していた。

ボー「おまたせ」

カザマ「ボーちゃん!!」

安心してか、腰が抜け、その場に座り込んでしまったカザマ君の上をぬいぐるみが通過した。

ネネ「間に合ったかしら?」

カザマ「ネネちゃん!!」

そして、ぬいぐるみが静止してる執事の顔の前で燃えた。

マサオ「なさけねーなあ」

カザマ「マサオくん!!」

126: 2012/04/07(土) 03:50:16.96 ID:J1rHTBq80
執事は動くことも出来ず、顔の痛みを震えながら受け止めるほか無かった。

愛ちゃん「よくも……」

『しんのすけだったモノ』を被った愛ちゃんに、カザマを除く三人は息をのんだ。

カザマ君は三人を落ち着かせるように、冷静な声で言った。

カザマ「しんのすけから、最期の願いをあずかってきた」

カザマ君は平静を取り戻していた。
それはもちろん、ほかの三人のおかげであった。
すぐさまさっきの事を三人に話す。

三人は初めこそ渋い顔をしたものの「しんちゃんらしいや」
と言い合って、笑顔になった。

愛ちゃんと対峙する四人。
迷いはなかった。

129: 2012/04/07(土) 03:54:55.54 ID:J1rHTBq80
ボーちゃんは愛ちゃんを動けなくした。
愛ちゃんはしん様しん様と叫びながら、身体を小刻みに震わせている。

マサオ君が震える手でしんのすけの皮を手に取る。
震えてはいたが、もう、泣いてはいなかった。

ネネちゃんは愛ちゃんの前に立ち、「謝りなさい」と言った。
愛ちゃんは聞こえていないのか、愛する男の名前を繰り返し続けた。

カザマ君は言った。

僕らは嫌だ。君を今すぐ消してやりた。
でも、しんのすけの願いだ。

それに付き合うとするよ。

カザマ君は同意を取るように他の三人を見まわす。
三人とも、力づよく頷いた。

大きく息を吸って、言った。



カザマ「愛ちゃん、君を、許すよ」

131: 2012/04/07(土) 04:00:40.47 ID:J1rHTBq80
愛ちゃんはカザマ君の言葉を受け、目を開いて崩れ落ちた。
震えを止めるように自分自身の体を抱いた。それでも震えは止まらなかった。
ぱくぱくと口を動かし、開かれた目は忙しなく動き回っている。

カザマ「行こう」

そう言って、『五人』は来た道をゆっくりと戻り始めた。

マサオ「愛ちゃん、置いてくの?」

カザマ「連絡が無くなったら、絶対に誰か迎えにくるよ」

ネネ「それもそうね」


カザマは部屋を出るとき、愛ちゃんの口から、
ごめんなさい、と聞こえたような気がした。
でも、振り返らなかった。

134: 2012/04/07(土) 04:05:22.54 ID:J1rHTBq80
やっとのことで屋敷の裏庭まで戻ると、空はうっすらと明るみ始めていた。
もうすぐ夜が明ける。

話し合った末、今日のことは黙っていることにした。
もうしんのすけが戻ることはないのだし、彼の言う
「愛ちゃんを許してやってほしいゾ」というのは
おそらくそう言うことなんだと思う。

そもそも、僕たちの超能力を説明できないしね。

しんのすけの皮はマサオ君が焼いた。
さすがに泣いていたけれど。それは四人とも一緒だ。

わんわん泣いて、今日の疲れも一緒に流した。
疲れも、悲しみも、思い出も。

135: 2012/04/07(土) 04:11:24.71 ID:J1rHTBq80
僕たち四人は、後日改めてしんのすけの葬式を執り行うことにした。
もちろん、四人だけで。

しんのすけの遺影を再び家からお借りした。

さすがにちょっと不審に思われたかもしれないけれど、
みさえさんとひろしさんはやつれた顔で笑っていた。

「いつまでも友達でいてくれてありがとう」

二人は本当にタフだ。

遺影に手を伸ばし、しんのすけに向けて言った。

カザマ「ほら、しんのすけ、早く行くぞ」


* * *


風間君がオラに手を差し伸べた。
西日が強く差し込み、焦点を合わせるのに時間がかかる。
黒い陽炎のようにぼやけた風間君は、徐々にクリアになって歯を覗かせた。
ため息交じりに笑った。

カザマ「みんな待ってるんだからさ」

しんのすけ「ほっほーい!」

(おわり)

136: 2012/04/07(土) 04:12:03.96 ID:dSb6BIKF0
いい話だった


137: 2012/04/07(土) 04:12:10.49 ID:5zhs+DNB0
おつ!

146: 2012/04/07(土) 05:19:50.16 ID:6wKlOzK+0
いい話だった
お疲れ

引用元: しんのすけ「フシギなちからが、そなわったゾ!」