1:2016/08/10(水)21:44:34 
津田岬希の15年

物心ついた時から私にはこーくんという友達がいた。
こーくんはまだ赤ちゃんの頃に右目を怪我しちゃって今は何も見えないらしい。
でも左目は普通だからみんなと変わらないんだよってよく笑ってた。
家でも外でも学校でも、いつでも私達は一緒にいた。喧嘩も一切したことがなかった。
いつでも私の話を聞いてくれて、泣いちゃった時には慰めてくれるこーくんのことが私は大好きだった。
でも、ひとつだけ困ったことがある。
お母さんもお父さんも、私以外の人はみんな、こーくんが見えないらしいのだ。



5:2016/08/10(水)21:46:24 txh
それが分かったのは、確か4歳か5歳の頃。私はいつものようにこーくんと家でおままごとをしていた。
いつも私が奥さん役で、こーくんが旦那さん役だった。
私がこーくんにスプーンをあーんってしようとした途端、いつもは優しいお母さんが「何やってるの!」と怒鳴った。
私はとても驚いて、反射的に泣いてしまった。
「こ、こーくんと遊んでただけだよ…」
「こーくんなんて子はいないの!いい加減にしなさい!」
そう言うとお母さんはおままごとの道具を全て片付けて持っていってしまった。
7:2016/08/10(水)21:48:15 txh
いつも優しいお母さんに怒られたショックで私はとても大きな声で泣いた。でもすぐにこーくんがいつものように私を慰めてくれた。
「なんでお母さんはこーくんがいないなんて酷いこと言うの?」
顔をぐちゃぐちゃにしてこーくんに聞いた。
するとこーくんは悲しそうな声で言った。
「僕はね、みさきにしか見えないんだよ。幽霊とかじゃないけど、他の人は僕のことを見ることが出来ないんだ」
それを聞いた私はすごく寂しかった。だけど同時に嬉しくも思ってしまった。
みんなには見えないこーくん。私だけのこーくん。子供ながらにこんなことを考えていた。
8:2016/08/10(水)21:49:00 OpF
ハッピーエンドなんですよね…?
10:2016/08/10(水)21:50:22 txh
来年から小学校に入学するという時期、私は幼稚園に入園した。
とても不安だったけどみんなすごく優しくてすぐに友達もたくさんできた。
毎日楽しくて私は幼稚園が大好きだった。
でもひとつだけ、一番大きな不満があった。それはこーくんが幼稚園に一緒に来てくれなかったことだ。
11:2016/08/10(水)21:51:03 txh
「どうしてこーくんは幼稚園に来ないの?すごく楽しいよ!」
そう聞くとこーくんはいつものように笑って言った。
「人が多いところが苦手なんだ。だから幼稚園に行くよりみさきとこうやって家の中で遊んでる方が楽しいんだよ」
聞いた瞬間頭が爆発しそうだった。嬉しさと恥ずかしさが入り混じってわけ分からなくなってその場から逃げてしまったことを今でも覚えている。
16:2016/08/10(水)21:53:52 txh
しばらくして私は小学校に入学した。
幼稚園に初めて行ったときの百倍は緊張したけど、その分期待もあった。
人が増えるということもあったが何より私が嬉しかったのは、こーくんも一緒に小学校に来てくれるということだった。
だけどこーくんはいつも私達とは違う教室に行ってしまっていた。
こーくんがいつも行く教室の名前を友達に聞くと、どうやらそこは『特別支援学級』というクラスらしかった。
「どうして私の教室じゃなくてそっちに行くの?」
こーくんはみんなに見えないんだから席とか関係無く、いつも私の隣にいてほしかった。
19:2016/08/10(水)21:55:50 txh
するとこーくんはいつか私に話した時のと同じ顔でこう言った。
「前も言ったでしょ。僕人が多いところが苦手なんだよ」
私はすぐに納得した。確かにここは人が少ない。こーくんの他には2人しかいない。それでも私は不安で聞いてしまった。
「この2人もこーくんのこと見えないんだよね?」
きょとんとした顔をした後、こーくんはすぐに笑って「もちろん」と言った。
「なら許可します!今日も一緒に帰ろうね」
「うん。また後でね」
私は元気に自分の教室へ帰っていった。
21:2016/08/10(水)21:57:24 txh
家ではいつもこーくんと遊んでいて、お母さんはそれを見かけるたびに私を注意していた。
ある日、お母さんは「大事な話があるから」と言って私を台所に呼んだ。こーくんも真面目な顔で私についてきた。
私はお母さんと机に向かい合って座った。こーくんは私の隣に立っていた。
「どうしたの?お母さん…」
お母さんは優しい顔で私に話し始めた。
「心配しないで聞いてね。あなたは病気なの」
きっとこーくんのことだろうけど、面と向かって病気と言われると私もあまり良い気分がしなかった。
22:2016/08/10(水)21:58:31 txh
「病気と言っても手術が必要とか、薬を飲まないといけないとかじゃないから安心して。イマジナリーフレンドって言ってね、実際にはいない架空の友達を作り出しちゃうことなの」
ふとこーくんを見上げると私の方を見た。悲しそうな顔で、だけど笑顔で頷いた。
「小さい子にはよくあるらしいのよ。でも岬希ももう10歳でしょ?だから少し不安になってそれで…」
「病院に連れていくの?」
「違うわよ。でもいつまでもそうやっているわけにはいかないでしょ?だから少しずつでいいからその、こーくんって子といる時間を短くするように頑張ってほしいな」
23:2016/08/10(水)22:00:16 txh
納得がいかなかった。お母さんには見えないかもしれないけど私には確かに見えるし、聞こえるし、触れるんだもの。
でもやっぱり他人から見たら気味悪いよね。
学校の友達もだんだん減っちゃうし、お父さんだってたまに帰ってきても全然話してくれないし、やっぱり私普通じゃないんだ。
「うん…頑張る」
「ありがとう岬希。大好きよ」
「……うん」
その夜、私はこーくんと同じ布団で眠りについた。
暖かいし感触もある。吐息だって感じるのに…
ねぇ…どうしてこーくんは人間として生まれてこられなかったの?
24:2016/08/10(水)22:02:54 txh
中学生になった。
お母さんの前ではこーくんと話すのをなるべく少なくしたからお母さんは少し喜んでいるようだが、私にはいつでもこーくんの姿が見えている。
同級生からは相変わらず白い目で見られていたが、こーくんがいれば何も気にならなかった。
私の症状は全く改善されていなかった。いや、むしろ悪くなっていると言ってもいい。
こーくんといると、心臓がドキドキしたり、手を繋いだり顔を見てるだけで身体が熱くなってしまう。
妄想の中の人物に恋なんて絶対にしないと思ってたのに…。小さい頃にしたおままごとをふと思い出して恥ずかしさで悶えそうになったりした。
25:2016/08/10(水)22:05:14 txh
ある雨の日、一つの傘でこーくんと一緒に学校から帰っていた。
かなりの雨で少し先でもかなり見にくかった。
無灯火の自転車がほんの1メートル前までそこそこのスピードで走ってきた。
正直ぶつからなかったのが幸運なくらいだ。いや、これはどう考えてもこーくんのおかげだったんだ。
絶対にぶつかる!と思った瞬間腕を思いきり引っ張られた。自転車も倒れそうになりながら私達をなんとか避け止まった。
「嬢ちゃんたち、大丈夫かい!?」と自転車のおじさんが声をかけてきたがこーくんが手を引いてその場から走ったので返事をすることもできなかった。
26:2016/08/10(水)22:06:53 txh
「本当にありがとう…こーくんがいなかったら私…」
安心感からか涙がこぼれた。それでもやっぱりこーくんは笑顔だった。
「みさきが気づいたから避けられたんだよ」
……そっか。
私はこーくんに助けられたと思ったけど
私自身が自転車に気づいて妄想の中のこーくんに私の手を引っ張らせたんだ。
そりゃあ好きにもなっちゃうよね。
私の思う通りに動いてくれるんだから。
私が言ってほしい言葉を言ってくれるんだから。
そう思うと急に悲しくなって、こーくんに抱きついた。
こーくんも黙って私を抱きしめてくれた。
妄想でもいいんだ。
病気でもいいんだ。
こんなに暖かいんだもの。
こんなに幸せなんだもの。
「こーくん…私と……」
「………」
「私と……結婚してください…」
「………………うん」
29:2016/08/10(水)22:09:59 txh
中学3年生の夏休み。私はこーくんと一緒に受験勉強をしていた。
飲み物を取りに行こうと台所に行くと、母が泣きながら電話をしていた。
ただ事ではないと思い、電話が終わるまで待っていた。
5分ほどして電話を切り、たった今気づいたかのように私を見るとまた泣きながら言った。
「お父さん…事故にあって……左手が切断されたって……」
私は正直父の大事よりも母の父に対する愛に驚いた。
確かにこんな怪我は大変だし、本人もその家族も悲しいのは分かる。だけどお母さんがこんなにもお父さんのことを思っているとは知らなかった。
同時に私のこの症状も本当に心配しているからこそ今まで散々注意をしてくれていたんだと思い、私も涙が出てきた。
31:2016/08/10(水)22:11:18 txh
すぐに私達はお父さんが運ばれた病院に行った。
お父さんは元気そうだった。ただもう左手はくっつかないらしく、義手も勧められたそうだが「これもまた運命なのかな」と言って拒否したらしい。
私には理解できないが、本人がそう言うのなら仕方ない。
「お前もこのままの俺でいいだろう?」
「えぇ…あなたの意思を尊重するわ」
お母さんもさっきまでと違ってかなり落ち着いていた。でもやはり悲しそうな顔であることに変わりはなかった。
33:2016/08/10(水)22:15:18 txh
秋の終わり、学校が終わっていつも通りこーくんと一緒に家に帰るとお母さんが玄関に立っていた。目は真っ赤だった。何度もお母さんのこんな顔を見てきたが、今日のは特に深刻そうだった。
「ただいま…」
そう言った途端にお母さんは私を抱きしめてきた。
「ど、どうしたの?」
訳が分からなかったがいつかと同じように、お母さんは泣きながら私に言った。
「あなただけは…私が守るからね……」
その時はただただ困惑していた。
どうやら父が不倫をしていて、離婚することになったらしい。
当然非は父にあるため慰謝料は貰い、私も母についていくことになった。
誠実だと思っていた父に対する怒りと同時に、母を支えなければいけないという使命感も芽生えた。
ふとこーくんを見ると、今まで見たことがないような悲しそうで、悔しそうで、どこか寂しそうな顔をしていた。
36:2016/08/10(水)22:18:46 txh
その夜、珍しくこーくんが私にたくさん話しかけてくれた。
学校のこと、家のこと、遊びにいったときのこと、昔のこと、今のこと、これからのこと。
「こーくんさ、あの雨の日のこと覚えてる?」
「……覚えてるよ」
「今私たち15歳でしょ?私は来年もう結婚できるけどこーくんはあと3年かー」
「そんなこと無視しちゃってもいいんじゃない?」
「駄目だよ。こーくんは不良さんだな~」
「意外と真面目だね」
「交友関係がこーくんだけの真面目ちゃんですからね!」
「みさきはしっかり者だからね。僕がいなくなっても大丈夫だよ」
「無理無理!こーくんがいてくれたから今の私があるんだから。全部こーくんのおかげだよ」
「……そっか」
「そうなのです」
39:2016/08/10(水)22:22:48 txh
「……結婚の話だけどさ」
「え、うん…何?」
「次に会った時、その時に結婚しよう」
「………次って?」
「明日から僕はしばらくいなくなる。3年…もしかしたらもっと長くなるかもしれない。そしたら
「ちょっと待って!嫌だよ消えないでよ!」
「最後まで聞いてくれ。僕には今やらなければいけないことがあるんだ。これはみさきの為にすることなんだ。これをやらなければ、君を幸せにできない」
「でも……」
「大丈夫。必ず帰ってくる。僕が今まで嘘ついたことある?」
「……無い…」
「じゃあ約束ね。みさきを幸せにしたら帰ってくる。それでその時にはみさきをもっと幸せにする。絶対に」
「………わかった。絶対だよ?」
「うん。絶対」
「じゃあ少しの間だけ、おやすみ、こーくん」
「おやすみ。岬希」
41:2016/08/10(水)22:25:09 txh
目が覚めると病室のベッドに寝ていた。
横を見るとスーツを着た男の人と女の人が座っていて、目を覚ました私にすぐに気づいた。
男の人はすぐに病室から出ていって、女の人は微笑みながら私に話しかけてきた。
「津田岬希さんですね。何か身体に異常はありますか?」
「いえ…何も…あの、ここどこですか?」
「病院ですよ。安心してください。起きたばかりで恐縮なのですが、一つ聞きたいことがありまして、いいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます。岬希さん、あなたは、自分に兄がいるということをご存知ですか?」
44:2016/08/10(水)22:28:43 txh
津田岬一の供述

津田岬一です。『こういち』と読みます。
はい、岬希の双子の兄です。岬希はそのことを知りませんが。
……そうですね、まず僕らの母親のことからお話しします。
僕は産まれて3ヶ月の頃、ベッドから落ちてそこに落ちていたネジに目が刺さってしまい右目を失明しました。父が工場勤務でしてそういう部品が家に落ちてることは珍しくなかったんですよ。子供に無頓着で飲み込むかもとか考えてなかったんでしょうね。
4歳の時、忘れもしません。母は僕にこう言ったんです。
「あなたは欠陥品なの。だから私はあなたの面倒を見ることはできない」
目が潰れただけでと思うかもしれませんが仕方ありません。これが母なんです。
母は引き取り手を探していたらしいんですが障害持ちですし岬希は育てられるわけなので孤児院に預けるわけにもいかなかったんですよ。捨てたことがバレるのを怖れたのか、知らない土地に置き去り、とかはされなかったですね。
47:2016/08/10(水)22:32:20 txh
そこから僕は家族から「いないもの」として扱われました。岬希を除いて。
岬希だけは僕に普通に接してくれた。『兄妹』ではなく『友達』としてですけどね。
確か5歳の時だったかな、岬希が僕と遊んでいるのを母親に注意されて大泣きしちゃったんですよ。……いや、岬希の方がですよ。
それで「こーくんはどうして無視されるの?」だったかな、そんなことを聞かれて僕は言ったんです。
「僕はね、岬希にしか見えないんだよ。幽霊とかじゃないけど、他の人は僕のことを見ることが出来ないんだ」
…どう思いますか?これを5歳の子が言ってる姿を想像してくださいよ。
僕は片目を失くしただけで我が子をいない者扱いする母よりも、それを受け入れてしまっている自分の方が怖かった。でもそれ以上に、それを信じてしまう岬希の純粋さも怖かった。
その時僕は誓ったんです。どんなに自分を見失っても、いなくなってしまっても、岬希を守らないとって。
49:2016/08/10(水)22:34:19 txh
……すいません、脱線しましたね。母の話に戻りましょう。
幼稚園は当然通わせてもらえませんでした。というよりも少しでも僕と岬希を引き離したかったのでしょう。それであわよくば僕よりも幼稚園の友達と仲良くなってほしいと願ったんでしょうが、残念ながらそうはなりませんでしたね。
小学校は義務教育なので通っていました。右目に加えて精神病まで勝手に患っていることにされて特殊学級でしたけど。
学校は楽しかったですよ。クラスには2人いたんですがどっちも楽しい子で。それに岬希もよく遊びに来てくれましたし。
51:2016/08/10(水)22:37:41 txh
ある日、母が岬希を深刻な顔で呼んだんです。「大事な話があるから」と。
イマジナリーフレンドだったかな、架空の友達を作ってしまう現象があるらしいんですが、それを岬希に当てはめ、挙げ句の果てに岬希まで病気扱いをしたんですよ。
その時はさすがに一言言ってやりたかったですが、そんなことをすれば体罰が待っているので出来ませんよね。
……それもやろうと思えば出来ましたよ。でも実際にそれで母親が引き離されたら僕たち2人はどうなるんでしょうね。
岬希は受け入れてくれるのでしょうか。兄妹だと知っても尚今までと同じように接してくれるのでしょうか。
僕は何としてもをそのままの状態を保っていたかったんです。
52:2016/08/10(水)22:38:33 txh
……ごめんなさい、また逸れました。もうすぐ終わります。
中3の夏、父が仕事場で大きな怪我をしてしまいまして、左手を切断ってことになってしまったんですよ。
嫌な予感がしました。病院で父が「義手は付けない」と言った瞬間あぁ駄目だと思いましたね。
父は母の異常な性癖を気づいてなかったみたいです。まさか自分が捨てられるなんて思ってもいなかったでしょう。
……え?あぁそうです。父は母に捨てられたんですよ。父に不倫をするように仕向けさせて。
……さあ、そういう仕事があるんだと言ってただけで誰に頼んだのかは知りません。
そして岬希は何も知らないまま離婚の話は進んで、これから話すことが昨日の話です。
53:2016/08/10(水)22:39:55 txh
僕が岬希と一緒に学校から家に帰ると玄関の中に母が涙目で立っているんです。何度も岬希を騙してきた、そんな気持ち悪い目です。
そこで初めて岬希は父の不倫と離婚の話をされました。
あの女が岬希を抱きしめて「あなただけは私が守る」って言ったのを聞いて虫酸が走りましたよ。本当に苛立たしかった。
その時に決意したんです。
その夜、僕ら2人の最後の時間を過ごしました。
ああいう時ってなんとも自然に言葉が溢れてくるんですね。今までの思い出や叶わない希望を柄にもなくペラペラ喋ってましたよ。
……はい。もう悔いはありません。妹にさよならは言いました。
以上です。これが、僕が母親を頃した理由です。
55:2016/08/10(水)22:45:49 txh
刑事の話

「津田岬希は本当に兄の存在は知らないようだ。あの後岬希にも話を聞いたが津田岬一の供述と合致する」
「容疑者の妄想話ではないようですね。それにしても悲しい事件ですね」
「……なあ、もしお前の友達がお前の母親に『そんな子はいない』なんて言われたらどうする?」
「え?そりゃあ怒りますよ。友達を否定されてるんですから」
「他には何かしないか?」
「んーなんでしょう、僕にはちょっと……」
56:2016/08/10(水)22:47:49 K2r
不穏な空気が
57:2016/08/10(水)22:49:55 txh
「確認だろう」
「あーそうですね。それが何か?」
「確かに親は否定するかもしれない。だけど同級生は?先生は?もし津田岬希が友達や先生に彼のことを一言でも話していればすぐに気づいていたはずだ」
「容疑者が言ってだじゃないですか。妹には友達があまりいないって」
「そうか、お前は津田岬希の話を聞いていなかったな。……小学校低学年までは交友関係はどちらかと言うと広い方だったらしい」
58:2016/08/10(水)22:56:54 txh
「つまり、確認できたはずだと?」
「当然だ。なのにしなかった…その理由は?」
「もしかして…」
「岬希がそんな状況でクラスから浮いてしまう原因、考えられるのは3つ」
「と言うと?」
「一つ、みんなには見えない人間と会話している。こんな奴は浮いて当然だ。だが実際に津田岬一は存在しているわけだからこれは却下」
「二つ、休み時間になると必ず津田岬一が在する特別支援学級へ行く。行くこと自体は何も問題ないがそれを毎日毎時間続けていたらどうなる?浮いてしまうのも当然だ。これは有り得る」
「三つ、わざとクラスで嫌われることをする。これも当然有り得る」
「つまり津田岬希は…」
「あぁ、クラスからわざと浮いていたんだ。私達のようなものに『なぜ友達に聞いたりしなかったのか』と言及されないようにな」
61:2016/08/10(水)23:03:41 txh
「け、結論をお願いします」
「まとめると、
津田岬希は津田岬一が実際に存在する人物だと気づいていた。遅くともクラスで浮いてしまう前までにはな」
「だけど、なんのために」
「母親の排除」
「え?」
「一つの仮説だ。自分の手を汚さずに大嫌いな母を処分する。もし兄のことも恨んでいたのなら罪を被せて一石二鳥ってところだな」
「……僕はそうは思いません」
「仮説だと言っただろう。それに例えそれが真実だとしても私たちは岬希を逮捕することはできない。推理ごっこだとでも思ってくれ」
「……はい」
62:2016/08/10(水)23:13:48 txh
津田岬希の未来

欲しかったものが手に入った。上手くいきすぎて気持ち悪い。
父が離婚してしまうのは予想外だったけどまあいい。
それにしても
岬一。
さすが私の双子ってことはあったね。
ある意味では有能だったけど
女に上手いように利用されるのはまだまだだよ。
まあ馬鹿であることには変わりないけどね。
あの親にしてこの子ありとはまさにこのことだよ。本当に私が気づいてないとでも思ってたのかなあのクソみたいな母親。徹底するなら学校まで手を回さないと駄目だよ、そんな力無いことくらい知ってるけど。
それとお人好しすぎるただのバカ兄。
自転車の男が『嬢ちゃんたち!』なんて言うから笑いそうになったわ。それを聞いて急いで逃げる姿も滑稽だったなー。
まああんたらゴミの分までしっかり生きてやるから安心しなさい。
63:2016/08/10(水)23:16:51 txh
ずっと欲しかった『騙され続けたかわいそうな私』をついに手に入れた。
この価値は一般人には分からないでしょうね。
それとも私がおかしいのかな。
まああんな母親と兄を持ってるんだから多少おかしくても仕方ないでしょ。
さて、この『かわいそうな私』を死ぬまで育ててくれる人を見つけないと。
あの兄並みの馬鹿はそうそういないだろうけどね。
64:2016/08/10(水)23:21:55 txh
津田岬一の手紙

岬希へ
警察に話は聞いたと思う。騙していてごめん。
僕は君の実の兄なんだ。そして母親を頃したのも僕だ。
君は僕を失った。だけど今これまでにないほど幸せなはずだ。
もう君を抑えつけるものは無い。あの女から解放されたんだ。
いつか僕が刑務所を出て、君に会えた時、
僕と結婚しよう。
それまで待っていてほしい。必ず会いに行くから。
その時まで、さよなら。
津田岬一
65:2016/08/10(水)23:22:06 txh
おしまい
67:2016/08/10(水)23:23:11 K2r
悲しすぎるよ…
70:2016/08/10(水)23:27:45 Bu2
ただただ悲しい