44:2009/10/29(木) 00:40:03.29 ID:Ppj7QgS/O
佐々木「キョン、会って話したいことがあるんだけど、構わないかな」
キョン「内容も知らないまま話したくないなんて言い出すほど、俺とお前の仲は険悪じゃあないと思ってるぜ。一体なにごとだ?」
佐々木「えっと…その…。うん、電話越しでなくて、逢って話したいんだ、直接。都合のいい日はいつだい?」
キョン「…何だか分からんが重大な要件のようだな。早い方がいいか?」
佐々木「ああ、そうしてくれるとありがたい」
キョン「なら明日の…」
48:2009/10/29(木) 00:49:03.11 ID:Ppj7QgS/O
―約束の日―
佐々木「やぁ、キョン」
キョン「おぅ、佐々木。早いな、待ったか?」
佐々木「いや、今来たばかりさ」
キョン「(…の割にはコーヒーが冷めてるな)」
佐々木「…?…おっと。今君はこう思ってる。僕は今来たばかりと言うが、僕が頼んだとおぼしきコーヒーはとっくに熱量を失っている。カップに注がれている以上、はじめから冷めていた、すなわち僕が頼んだのはアイスコーヒーだった、という可能性は棄却される…」
キョン「佐々木?」
49:2009/10/29(木) 00:54:03.01 ID:Ppj7QgS/O
佐々木「まぁ、そう僕は少し待った、ということだね。だのに何故、今来たばかり、などと嘘を言ったのか。大した意味はないよ。気遣いの一種と思ってくれればいい」
キョン「ここは、気遣いありがとう、と応じるべきなのか?」
佐々木「くっくっ。言ってしまっては台無しだろう、でもいいと思うな。何か飲むかい?」
キョン「そうだな、じゃあ俺もコーヒーを」
佐々木「ウェイターさん、コーヒーを二つ。」
50:2009/10/29(木) 00:57:33.71 ID:Ppj7QgS/O
キョン「…」ズズ...
佐々木「…」
キョン「…」ズズ...
佐々木「…」
キョン「…飲まないのか?」
佐々木「…飲み終えたかい?」
キョン「え?」
佐々木「いや、君はコーヒーを飲み終えたかい?」
キョン「俺はな。お前は手をつけてないようだが…」
佐々木「では、出よう。少し歩こう?」
キョン「??ああ」
51:2009/10/29(木) 01:04:13.46 ID:Ppj7QgS/O
―――
――
―
キョン「…」スタスタ
佐々木「…」スタスタ
キョン「…佐々木、何か悩みごとか?」
佐々木「…」
佐々木「まぁ、そう思うのも無理はない。確かに今の僕は、いささか妙だ。約束の一時間も前に待ち合わせ場所にいたり、呼び出しておいて要件を先延ばしにすべく無駄話をしたり、かと思うと急かすようなことをして、挙げ句まただんまりだ」
キョン「自覚はあるんだな。というか一時間も前からいたのか…」
佐々木「くっくっ。僕は常に自分を客観的に見ることのできる人間でありたいと願ってるし、そうあろうと努力してるのさ」
53:2009/10/29(木) 01:16:58.84 ID:Ppj7QgS/O
佐々木「ところでキョン、客観的に見た自分が異常に見えるとき、それは本当に自分が異常なのか、自分を客観視している観測者の方に異常があるのか。どっちだと思う?」
佐々木「主体たる自分とそれを見つめるもう一人の自分を想定したとき、いずれも自分であるのに、片方のみが異常でもう片方が正常ということはありえるのだろうか?」
佐々木「それとも双方ともに異常なのか。だとしたらその双方の異常を観測する、第三の自分を想定する必要が出てくるのかな。」
佐々木「何せ、異常な当人に自分が異常な状態にある、と判断できるわけがないからね。その判断機能に異常が無い保証がないのだから。」
キョン「…よく分からんが、そうするとソイツの正常を保証するのは誰だって話になるだろ。自分はそう何人もいねぇさ」
佐々木「くっくっ。そう、その通りだね、キョン。どうレトリックを駆使しようと、僕は僕、一人だけだ」
キョン「まぁ、お前が何かいつもと違う、変だってのは俺も思うぜ」
56:2009/10/29(木) 01:23:20.94 ID:Ppj7QgS/O
佐々木「いけないな、呼び出したのは僕の方だと言うのに、僕は要件を先延ばしにしたがっているらしい。…丁度公園がある。座らないか?」
キョン「ああ」
佐々木「(深呼吸)…キョン、落ち着いて、聞いて欲しい」
キョン「むしろお前が落ち着いていないように見えるが。らしくもない」
佐々木「そうだね…でも、茶化さないでくれ。平衡静穏を旨とする僕をして、心しなければならない告白なんだ」
キョン「分かった。聞こう」
佐々木「…」
キョン「…」
佐々木「…きだ」
57:2009/10/29(木) 01:26:59.91 ID:Ppj7QgS/O
キョン「え?」
佐々木「ぐぐ…ガンバレ私、ガンバレ私ガンバレ私…」
佐々木「君が、君のことが、好きなんだ!キョン」
58:2009/10/29(木) 01:33:27.38 ID:Ppj7QgS/O
キョン「…え?」
佐々木「 好 き だ !」
佐々木「君が大好きだ!そう言ったんだ、キョン!」
キョン「う…スマン、呆けていた。えっと…マジなのか?」
キョン(佐々木の顔がトマトみたいになってやがる。…俺の頬も熱い、きっと同じようなもんなんだろうなーって何客観視してやがる、違う客観視じゃない現実逃避だ。集中しろ俺よ!)
佐々木「冗談で言えることじゃないね」
佐々木(声が震える…。キョンの顔真っ赤。私も多分そうなんだろうな。ついに言った、言ってやったんだ)
59:2009/10/29(木) 01:39:56.22 ID:Ppj7QgS/O
佐々木「(深呼吸、数回)…ふぅ。返事を聞きたいな」
キョン「あ、ああ。その…」
佐々木「女の子にこれほど勇気を振り絞らさせたんだ。『考えさせてくれ』なんて玉虫色は通らないよ」ニコッ
キョン「こいつ、開き直りやがった!」
佐々木「緊張し過ぎると勝手に顔が弛んでくるんだね…聞いてはいたけど実感だよ。さあ、返事を」
キョン「…」腹に力を込める
キョン「俺も、お前が好きだ。佐々木」
61:2009/10/29(木) 01:44:25.11 ID:Ppj7QgS/O
佐々木「…本当?」
キョン「本当だ」
佐々木「本当に本当かい?」
キョン「本当の本当の本当に本当だとも」
佐々木「両想い…ってことだよね…キョン!」ダキッ
キョン「うおっと」ギュー
佐々木「キョン!大好きだ!僕のキョン!キョン!」
キョン「こ、こら苦し…」
62:2009/10/29(木) 01:45:28.23 ID:Ppj7QgS/O
ハルヒ(物陰)「………嘘。」
67:2009/10/29(木) 01:54:19.08 ID:Ppj7QgS/O
―その晩、凉宮宅―
ハルヒ「しっかしあの唐変木にねー。世の中変わり者っているもんね。」
ハルヒ「明日どうやってからかってやろうかしら。朝一で何か言ってやりたいわね」
ハルヒ「……」
ハルヒ(SOS団の下っ端に、彼女が出来た、それだけ、それだけ、それだけ、それだけ。)
ハルヒ(団員の慶事だもの、喜んであげなきゃ。)
ハルヒ(あたしには関係無い、関係無い、関係無い、関係無い…)
ハルヒ「(ギュッ)…胸が痛いなんて気のせいでしょ、あんなやつの為に…」
ハルヒ「…キョン…!」
69:2009/10/29(木) 01:59:06.22 ID:Ppj7QgS/O
―同時刻―
古泉「ふん…もっふ!」ズガガーン
森「なんて大きさと強さ…まさか今日世界が…」
新川「余計なことは考えなくてよろしい、最善を尽くしなさい!」
70:2009/10/29(木) 02:05:02.46 ID:Ppj7QgS/O
―次の日―
キョン「行ってきま…って古泉!?お前、その包帯は一体」
古泉「どうも、おはようございます。たまには一緒に登校してみたいな、と思いまして」
キョン「…ああ、行くか。」
―――
――
―
キョン「どうしたんだ、その包帯姿は」
古泉「ふふ、僕のアルバイトについては、ご存知のはずですよ」
キョン(神人との戦闘負傷…嫌な予感がする)
キョン「昨夜か?どうしたんだアイツは。嫌な夢でも見たか?」
71:2009/10/29(木) 02:11:46.21 ID:Ppj7QgS/O
古泉「夢…。ふふっ、そうですね、悪夢です。あるいは、そうなのかも知れません。」
キョン「(ホッ)それにしては激戦だったようだな。仲間達は無事か?」
古泉「ええ、多少怪我人は出ましたが、大したことはありません。」
キョン「まったく、寝てる間さえ迷惑をばらまくんだな、アイツは」
古泉「無理もありませんよ。意中の男性が、自分以外の女性と抱き合っている。そんな悪夢を見たのならね。」
キョン「(ギク)…何だって?」
72:2009/10/29(木) 02:18:06.97 ID:Ppj7QgS/O
キョン「どういう意味だ」
古泉「どうもこうも、言った通りですよ」
キョン「…色々言いたいことはある、が、まずは確認だ。その悪夢というのは、俺と佐々木のことか」
古泉「残念ながら、その通りです」
キョン「ハルヒは悪夢じゃなくて、俺と佐々木を見て、閉鎖空間を創ったってのか?」
古泉「その通りであり、また違います」
75:2009/10/29(木) 02:30:53.98 ID:Ppj7QgS/O
キョン「はっきりしろ、どういう意味だ?」
古泉「ふふ、失礼。確かに、凉宮さんはあなたと佐々木さんが抱き合っている場面に遭遇しました」
キョン「お前もいたようだな、ピーピングトム」
古泉「非礼はお詫び申し上げます。ただ、我々にとってのあなたの重要度は、凉宮さんに次いで高いんです。ご理解頂きたいところです。」
76:2009/10/29(木) 02:45:56.68 ID:Ppj7QgS/O
キョン「で、一体全体何故それがアイツが閉鎖空間を創り出すことに繋がるんだ。悪夢ってのはどういう意味だ」
古泉「…あなたという方は…。いえ、一つずつお答えいたしましょう。『今は』まだ悪夢ではありません。ただそうなる可能性があります。」
キョン「だからどういう意味なんだそれは!」
古泉「昨夜の閉鎖空間の規模は非常に大きなものでした。我々としては、ついに世界改変…あるいは終焉のときかとさえ感じられましたよ」
キョン「…」
77:2009/10/29(木) 02:58:17.93 ID:Ppj7QgS/O
古泉「凉宮さんは、かの現実をはっきり拒絶しています。可能ならば、ただの悪夢に変えてしまいたいとすら思っている。問題なのは、彼女にはまさにそれが可能である、という点です」
古泉「そしてそれは、昨夜の調子を見る限り、遠からず実現するでしょう」
キョン「…続けろ」
古泉「先ほどのあなたの二つ目の問いへの答えです。何故そこまであなたと佐々木さんの関係を認められないのか?皆まで口にしましょうか?」
キョン「いや、いい」
78:2009/10/29(木) 03:05:33.06 ID:Ppj7QgS/O
キョン「…俺はバカだな」
古泉「いえ、鈍感なだけでしょう」
キョン「慰めになってない」
古泉「慰めていませんから。当然です」
キョン「どうも理不尽にチクチク刺されている気がするが」
古泉「ふふ…申し訳ありません。ただ苦労した分、つい嫌味の一つも言いたくなるんです。いえ、あなたに非はありません。あなたに、佐々木さんと別れろ、などと言う権利は我々にはない」
古泉「ただ、そうなると我々としては…」
キョン「…」
古泉「いえ、止めましょう。それこそ、あなたに押し付けるのは間違っている」
79:2009/10/29(木) 03:12:54.65 ID:Ppj7QgS/O
古泉「何にせよ時間が必要です。凉宮さんには、現実を受け入れて頂く時間が必要です」
古泉「なるべく、凉宮さんの前ではいつも通りに振る舞って下さい。間違っても、佐々木さんの話題は、可能なら彼女を連想させるような話題も出さないで下さい。」
キョン「分かった。…世話をかける。」
古泉「…率直に申し上げますと、あなたには凉宮さんを選んで欲しい。凉宮さんの気持ちを知った今、あなたは…」
キョン「すまん」
古泉「ふっ。馬鹿なことを言いました。忘れて下さい。それではまた部活で」
キョン「ああ…」
80:2009/10/29(木) 03:23:12.22 ID:Ppj7QgS/O
―教室―
谷口「よーキョン」
国木田「おはよーキョン」
キョン「おぅ、おはようさん」
ハルヒ「(チラ)…」
キョン「よう、ハルヒ」
ハルヒ「…うん」
81:2009/10/29(木) 03:29:13.69 ID:Ppj7QgS/O
キョン「…」
ハルヒ「…」ボー
キョン(後ろのこいつは、俺のことを…)
キョン(いかん、変に意識してしまう。平常心平常心…)
ハルヒ「…ねぇあんた」
キョン「平常心平…へあ!?」
ハルヒ「何ウルトラマンみたいな声出してんのよ。」
キョン「うるさい、ほっとけ。どうかしたか」
ハルヒ「あんたさ…」
ハルヒ「いや、やっぱりいい」
キョン「?」
82:2009/10/29(木) 03:36:32.63 ID:Ppj7QgS/O
―放課後、部室―
キョン「長門だけか。ハルヒのやつはどうした。先に出てったと思うが。」
長門「伝言。『今日は団活無し』」ペラ
キョン「そうか。なら俺も帰るかな。」
キョン「なぁ長門、お前は、その…どう思う?」
長門「私の役目は観察。積極的な介入は望む所ではない。あなたは、あなたの意思に従うべき。」
キョン「そう、なんだろうな。ありがとよ」
長門「いい。」
83:2009/10/29(木) 03:45:24.46 ID:Ppj7QgS/O
プルルルル...ガチャ
キョン「もしもし佐々木か?」
佐々木『やあキョン。夜遅くにすまないね。今時間あるかい?』
キョン「ああ、眠るまでは暇さ。何かあったのか?」
佐々木『無ければ電話しちゃいけないかい?せっかくの恋人同士なんだ。声が聞きたい、だけで電話をすることもあるさ』
キョン「照れくさいぞ…」
佐々木『くっくっ、何を今さら。まぁ、他に用事が無いわけでもないんだ』
85:2009/10/29(木) 03:52:15.67 ID:Ppj7QgS/O
キョン「デート?」
佐々木『そう、デートをしよう。今度の土曜日…は、団活があるんだっけ?なら、日曜だ。どうだろう?』
キョン「オーケー、予定は空けておく。」
佐々木『うん、ありがとう。』
キョン「用事はそれだけか?」
佐々木『冷たいな、キョン。言っただろ、君の声が聞きたいんだ。少し話そうじゃないか』
86:2009/10/29(木) 03:57:29.13 ID:Ppj7QgS/O
キョン「…改めて言われて、やっぱり照れくさ 妹「キョンくーん鋏貸してぇー」
キョン「あ、こら電話中だ、後にしなさい」
妹「だれー?女の人?」
キョン「いいからもう行きなさい」
妹「ぶー」
キョン「ふー。ああ、すまなかったな話の途中で」
佐々木『くっくっ。いいさ。相変わらずかわいい妹さんだね。…せっかくだから彼女と電話してる、とはっきり言ってみたらいいのに。』
キョン「さすがに恥ずかしい。というかキャラ違ってないか佐々木よ」
佐々木『くっくっ』
87:2009/10/29(木) 04:01:38.59 ID:Ppj7QgS/O
佐々木『そういえばキョン、今日告白を受けたよ』
キョン「へー…へ!?」
佐々木『くっくっ、そう驚いてくれると話し甲斐があるよ』
キョン「ゲフンゲフン。…で、どうしたんだ?」
佐々木『勿論、丁重にお断りしたさ。もうお付き合いしてる人がいるから、ってね。』
キョン「…そうか。何度でも言うが、照れくさいぞ」
佐々木『くっくっ。…ただ、どうやら相手は本気じゃなかったらしい。』
88:2009/10/29(木) 04:08:07.40 ID:Ppj7QgS/O
キョン「?」
佐々木『橘さん、覚えているかい?彼女から後で聞いたんだが。どうやら君のSOS団にいた、古泉君といったか。彼の所属する「機関」の差し金だったらしい』
キョン「なに」
佐々木『僕と君を別れさせたいんだよ。』
キョン「何てこった…古泉、あいつ余計な口は出さないみたいなこと言ってやがったのに…」
佐々木『彼は知らなかったのかも知れないよ。まぁそれに、「機関」の存在意義を考えたら、ありそうな話ではある』
キョン「お前は冷静だな」
佐々木『僕は覚悟を固めてるのさ。この恋に、障害は多いだろう。でも、負けるまいとね。』
90:2009/10/29(木) 04:12:52.61 ID:Ppj7QgS/O
佐々木『僕って、重い女かな…?』
キョン「そんなわけあるか!すごく嬉しいぞ、お前の気持ち」
佐々木『ふふっ、良かった。じゃあ、君の方も気をつけてね。危害を加えられることこそないと思うけど、きっと誘惑はあると思う』
キョン「信じろ。大丈夫さ」
佐々木『くっくっ。もちろん、信じてるよ。…もうそろそろ遅い。おやすみ、大好きだよ、キョン』
キョン「俺もだ。おやすみ」
91:2009/10/29(木) 04:23:26.09 ID:Ppj7QgS/O
―次の日、放課後―
ハルヒ「今度の不思議探索は日曜日にするわよ!」
_, ._
キョン ( ゚ Д゚)
ハルヒ「土曜、土曜、土曜、ときたら日曜は無い、そんな思考はまさに泥沼、不思議が首まで嵌まったところに不意討ちするの!」
古泉「素晴らしい作戦ですね」
長門「…」ペラ
朝比奈「分かりましたぁ~」
キョン「あー、すまん、その日は先約が…」
107:2009/10/29(木) 10:01:57.84 ID:Gc6hLfcE0
古泉「…」チラリ
キョン(そんな非難がましい眼でこっちを見るな古泉、仕方ないだろう…)
朝比奈「…?」
長門「…」ペラ
ハルヒ「ちょっとキョン、…!」
ハルヒ「仕方ないわね、じゃ今回は土曜にしといてあげる」
キョン「いいのか?ずいぶんあっさり認めてくれるもんだな今回は」
ハルヒ「あたしはいつだって団員達のことを考える団長よ!」
キョン「いや、それだけはない」
109:2009/10/29(木) 10:31:14.60 ID:Gc6hLfcE0
―土曜日―
古泉「午後の組み分けは…僕と朝比奈さんと長門さん、涼宮さんとあなた、ですね」
ハルヒ「あらキョン、二人ってのは久しぶりね」
キョン「そういやそうだったか?」
キョン(何かしたのかコイツ…)
ハルヒ「みくるちゃーん!不思議に出会っても、腰が引けてたんじゃ逃げられちゃうんだからね!」
朝比奈「は、はい~!」
ハルヒ「大事なのは気合よ気合!闘魂注入してあげる」
朝比奈「ひょわぁ~!そんなとこ触らないでくださ~い」
110:2009/10/29(木) 10:44:37.21 ID:Gc6hLfcE0
キョン「白昼の大通りでセクハラはやめい」
ハルヒ「セクハラじゃなくて闘魂注入よ。みくるちゃんのぽえぽえしてるんだもの、マスコットとしてはそれでいいけど」
キョン「お前は前時代のプロレスラーか何かか。いいから行くぞ」
ハルヒ「何よ、キョンの癖に団長を引っ張ろうっていうの?ふふん、中々やる気が出てきたじゃない」
キョン(…ったくこっちの気分も知らないで浮かれやがって)
112:2009/10/29(木) 11:20:10.62 ID:Gc6hLfcE0
ハルヒ「こっちにいってみましょ!」グイグイ
キョン「腕を引っ張るな腕を…こっちは繁華街だぞ」
ハルヒ「人通りの多いところこそ、盲点だったりするのよさぁお供しなさいキョン!」
―ペットショップ―
ハルヒ「この子可愛いなぁ…」
キョン「丸ちっこいな」
ハルヒ「情緒の欠片もないコメントね」
キョン(結局そのまま腕を組むようにしてウィンドーショッピングか。まるでデートだな)
113:2009/10/29(木) 11:40:11.92 ID:Gc6hLfcE0
キョン(…バカか、俺は。まさしくデートなんだ、これは。コイツは、俺の事を…なんだから)
ハルヒ「っぶ!ねぇ見てキョン、コイツあんたそっくり…どうしたの?」
キョン「…俺がどうかしたか?」
ハルヒ「変な顔してるわよ、あんた。」ズイッ
キョン「そ、そうか?」
キョン(いかん、意識しちまう、顔を近づけるな、顔を!)
ハルヒ「まぁいっか。」
123:2009/10/29(木) 14:33:10.28 ID:sETwFoH60
ハルヒ「ねぇ見てこいつこいつ。」
キョン「うん?亀…か?」
ハルヒ「ちょっと正面から見ないとわかんないわよ、ほら」グイッ
キョン「引っ張るなっての」
ハルヒ「ほらこいつ。アンタそっくりじゃない?この眠そうな顔」クスクス
キョン「何という暴言」
キョン(それ以前に、こう小さい水槽を二人してのぞきこめば、当然距離がまた詰まるわけで、…顔の左半分がひきつるように緊張する…。)
124:2009/10/29(木) 14:43:07.09 ID:sETwFoH60
ハルヒ「…こいつ買っちゃおうかな。」
キョン「亀は長生きだしでかくなるぞ」
キョン(俺に似てるからか?そうなのか?)
キョン(なんでこんな罪悪感を感じているんだ、俺は。そもそも自意識過剰に過ぎやしないか?目の前の女子が自分を好きかもなんて妄想、中学生並みじゃないか、だっせぇ)
ハルヒ「大丈夫よ、水槽あれば飼えるんだし」
キョン「臭いぞ」
ハルヒ「ずいぶん反対するじゃない(クンクン)…でも意外と本当に臭いわね、やーめた」
125:2009/10/29(木) 14:58:01.64 ID:sETwFoH60
―――
――
―
ハルヒ「ねぇアンタ」
キョン「ん?」
ハルヒ「明日。彼女とデート?」
キョン「…知ってたのか」
ハルヒ「偶然ねー。あんなに人目を憚らず抱き合ってるんだもの。で、どーなのよ」
キョン「…まぁな。」
キョン(古泉、あらかじめ謝っておく。すまん)
126:2009/10/29(木) 15:27:32.09 ID:sETwFoH60
ハルヒ「初デートなんだ」
キョン「まぁな」
ハルヒ「サプライズが必要ね!」
キョン「…なんだって?」
ハルヒ「だから、サプライズ。贈り物よ。女の子はみんな、記念ってのに弱いの」
キョン「お前に女子一般が語れるとは驚きだ」
127:2009/10/29(木) 15:44:41.46 ID:sETwFoH60
キョン「だが、まぁ、悪くないかも知れないな」
ハルヒ「でしょ?じゃ、不思議探索はここまで。SOS団団長として、唐変朴の下っ端の恋路のために一肌脱いだげるわ」
キョン「へいへい…ありがとよ」
キョン(これは、応援してくれてるんだよな。)
キョン(…古泉、俺たちが心配するほどのこともなかったようだぞ。こいつはきちんと自分でケリをつけられる)
―――
――
―
ハルヒ「ぬいぐるみ、ねぇ…ちょっと子供っぽ過ぎない?」
キョン「そう思うからこそ、お前の意見を聞きたい。」
128:2009/10/29(木) 15:59:50.68 ID:sETwFoH60
ハルヒ「まー、無難って言ったら無難なんじゃない。いきなり服とかアクセサリとか身につけるものはハードル高いし」
キョン「お前がもらう立場だとしたらどうなんだ?」
ハルヒ「あ、あたし?あたしなら…そうね…なんでもいいかも」ポー
キョン「なんだそりゃ」
―――
――
―
キョン「これなんかどうだ?」
ハルヒ「ボツ。色が変。」
キョン「こっちは?」
ハルヒ「ボツ。…もちょっとデフォルメ効いたのにしたら?」
キョン「これは?流行りものだが」
ハルヒ「うーん、悪くないけど、どうせなら同じシリーズのヒロインのにしたほうがいいと思う」
129:2009/10/29(木) 16:11:42.53 ID:sETwFoH60
ハルヒ「…」ジー
キョン「じゃあ、これなんかどうだ。」
ハルヒ「…」ジー
キョン「ハルヒ?」
ハルヒ「…え?ああ、うん、それなら合格ね」
キョン「良かった。じゃあこいつにする。…そのカエルのぬいぐるみ、気に入ったのか?」
ハルヒ「ああ、これ?うん、ちょっとね」
ハルヒ(さっきの亀に、ちょっと似てる)
キョン「買ってやるよ」
ハルヒ「え?」
キョン「プレゼント選びの礼代わりだ。もらっとけよ」
ハルヒ「…あり、がと。」
130:2009/10/29(木) 16:23:07.07 ID:sETwFoH60
―その夜、涼宮宅―
ハルヒ「応援のつもり?…何やってんだろ、あたし。」
ハルヒ「あーすれば吹っ切れるとでも思ったのかな…」
カエルのぬいぐるみ「…」
ハルヒ「…あんたの名前どうしようかな」
ハルヒ「風船。ケロ介。ぴょん吉?」
ハルヒ(あいつに良く似た、眠そうな顔)
ハルヒ「きょん吉。あんたは今日から、きょん吉よ」
きょん吉「…」
131:2009/10/29(木) 16:27:28.30 ID:sETwFoH60
ハルヒ「きょん吉…」ギュー
―――
――
―
―同刻、某所閉鎖空間内―
古泉「ふもー!」ドカーン
森「今日のはずいぶん大人しいですね」
荒川「はい、悲しみとか寂しさとか。そういった要素が強く見受けられます」
132:2009/10/29(木) 16:36:10.56 ID:sETwFoH60
―日曜日―
佐々木「やぁ、早かったね」
キョン「それでも、お前のほうが早かったみたいだがな」
佐々木「くっくっ。恥ずかしい話、待ちきれなくてね」
キョン「ではお待ちかねと行くか。」
佐々木「ああ。映画の時間に少し間がある。まずはぶらぶらしようか」
133:2009/10/29(木) 16:43:21.55 ID:sETwFoH60
佐々木「ああ、そうだキョン」
キョン「ん?」
佐々木「はい」ヒラヒラ
キョン「手?」
佐々木「うん」ヒラヒラ
キョン「…?」
佐々木「…」ヒラヒラ
キョン「…」
佐々木「期待した僕が馬鹿だったよ…。キョン、手をつなごう。」
キョン「!?えっと、いや、すまん」ギュ
134:2009/10/29(木) 16:47:29.70 ID:sETwFoH60
―佐々木・キョンの後方数十m―
朝比奈「初々しいですねー二人とも」
ハルヒ「まったくね」
朝比奈「ひっ…あの、涼宮さん…?」
ハルヒ「…」ビキビキ
古泉「…」ゲッソリ
135:2009/10/29(木) 16:55:12.41 ID:sETwFoH60
―佐々木・キョン組―
佐々木「だから僕は思うのさ。意識というのは、僕という主体にとってただの出力器にすぎない。これを敷衍していくと」
キョン「さっき見たのはお気楽なコメディーだったと思うんだがな…」
―ストーキングチーム―
ハルヒ「色気のない会話ね…」
朝比奈「でも楽しそう。キョン君、あそこでも聞き役みたいですね」
141:2009/10/29(木) 17:22:07.75 ID:sETwFoH60
―佐々木・キョン組―
佐々木「この池の鯉たちにとって、世界はこの数百平米の水たまりのみだ。しかし一緒にいる亀にとっては、周囲の芝生までも彼らの領域といえるだろう」
佐々木「生きる世界の違う生き物がこうまで隣接して暮らしている時、彼らはお互いをどう認識してるんだろうね?」
キョン「俺にわかるのは、こいつらにとって人間は、餌が降ってくる前兆みたいなもんってことかね。そりゃ」バサー
鯉 バシャバシャバシャ
佐々木「うわ、すごい水しぶき」キャッキャッ
キョン「それそれ」バサー
―ストーキングチーム―
ハルヒ「えい、えい」ポチャンポチャン
鯉 パクパク
長門「…」ポイポイ
鯉 パクパク
古泉「…」ハラハラ
142:2009/10/29(木) 17:34:42.18 ID:sETwFoH60
―佐々木・キョン組―
佐々木「見て見てキョン!かわいいすごいかわいい!」
キョン「まるちっこいな」
佐々木「実に見たままの感想だねキョン。僕は人間の共感能力とその限界について想起せずにはいられない」
キョン「なんだそりゃ」
佐々木「人間には、良かれ悪しかれ相手の中に自分を見る能力があるということさ。同じ人間同士は無論のこと、鯉や亀にもね」
キョン「擬人化とかそういうのか」
佐々木「そう、それもそういった能力の高度な発露と言えるだろうね。今回の場合、僕はあそこの野良子猫たちを見て、それはもうかわいいと思った。君もそう思ってるに違いないと考え、」
キョン「俺の反応に興を削がれた、ということか。いや、俺もかわいいとは思うぜ。ただ俺は男だしな…そう黄色い歓声をほいほいあげるわけには」
佐々木「たしかに、性差というのは面白いものだ。」
143:2009/10/29(木) 17:39:23.47 ID:sETwFoH60
佐々木「そういう社会的背景もあるだろうけど、ああいう、小さくて、丸っこくて…ああ、かわいいなぁ…」
佐々木「こほん、小さくて丸っこくて、顔における目の比率が大きく、眉間が狭い。そういうのは哺乳動物の仔の特徴と言われてるんだ」
キョン「ああ、聞いたことがある。母性本能がくすぐられやすい、ってんだろ」
佐々木「まさにその通り。性差による世界認識の違いが如実に現れる例だよね」
―スト―キングチーム―
朝比奈「あのー、あの人たち何をお話してるんですかー?」
古泉「睦言というには、硬派というか、学術的というか…」
長門「ユニーク」
ハルヒ「…」
144:2009/10/29(木) 17:44:33.65 ID:sETwFoH60
佐々木「ふぅ…名残惜しいが、そろそろお別れの時間だ。今日は楽しかったよ、キョン」
キョン「ああ、俺もだ。お前と話してると時間を忘れる」
佐々木「くっくっ。僕もさ。君は優秀な聞き手だよ、前も言ったけど…」
キョン「おおそうだ。渡すものがあったんだ」
佐々木「おや?」
キョン「なんていうか、初デートの、記念だ。」スッ
佐々木「…」
佐々木「…」ギュー
佐々木「…ありがとう。すごく、嬉しい。何て言ったらいいんだろう、言葉じゃ足りない。…大切にするよ」
キョン「…それほど喜んでもらえると、なんかこっちまでうれしくなるな」
ハルヒ「…」ズキッ
145:2009/10/29(木) 17:49:55.03 ID:sETwFoH60
佐々木「…」クスッ
キョン「?」
佐々木「さてキョン、種明かしをしてほしいな」
キョン「…何のことかな」目をそらす
(ハルヒ「!」)
佐々木「言ってはなんだけど、君にこんな気遣いは似合わない」
キョン「ほんとにバッサリきたな…まぁ、実際その通りだが」
佐々木「だれの入れ知恵だい?妹さん?」
キョン「ハルヒさ」
(ハルヒ「…あの、馬鹿…」)
佐々木「…ごめん、なんだって?」
146:2009/10/29(木) 17:58:20.45 ID:sETwFoH60
キョン「昨日の不思議探索の折にな…って、どうした佐々木」
佐々木「いや、先ほどの話を思い出していたのさ…。そうか男と女というだけで、こうまで生きる世界が違うこともあるんだね…。」
キョン「…なんか、すまん」
佐々木「いや、いいよ。前向きにとろう。涼宮さんにはお礼を言っていたと伝えておいてくれ」
キョン「わかった」
佐々木「しかし、そうすると…君は昨日、涼宮さんと二人で買い物をしたんだね?」
キョン「あ、ああ。…いや、もともとそういう予定だったわけじゃないぞ。不思議探索の組分けで偶然そういう別れ方になった、というだけで…」
佐々木「それはあまり大きな問題じゃない。重要なのは、今日僕がしたような経験、君とのデートを、涼宮さんが僕より先にしている、ということさ」
キョン「別にデート、というわけじゃ」
佐々木「似たようなものだよ…。意外と衝撃だな、僕も初めて知った、僕の中にこれほど嫉妬なんてものが隠れてたとは」
147:2009/10/29(木) 18:05:23.37 ID:sETwFoH60
キョン「…すまん」
佐々木「いや、こちらこそすまないね。君を困らせるつもりはなかった。ただ…」スッ
キョン「ん?…むぐ」チュ
佐々木「…」チュー
佐々木「…ここまでさせたのはさすがに僕が最初だろう?」
キョン「ああ、ああ間違いなくな…鼻血を吹きそうだ」
佐々木「自分からやっておいてなんだけど、僕も倒れそうさ」クスクス
―スト―キングチーム―
朝比奈「(きゃーーーー)」
古泉「(うわぁぁぁぁぁぁぁ)」
ハルヒ「…」ズキズキズキズキ
150:2009/10/29(木) 18:18:03.41 ID:sETwFoH60
―その夜、涼宮宅―
ハルヒ「馬鹿キョン、馬鹿キョン、馬鹿キョン、馬鹿キョン…」ボスボスボスボス
きょん吉「…」
ハルヒ「馬鹿キョン、馬鹿キョン、馬鹿、ばか、ばか、ばか」
ハルヒ「あたしのばかーーーーー!!」
ハルヒ「なんで後をつけようなんて思ったの、『団員の恋路の監督責任』?おかげでゆきやみくるちゃんの前であんなに取り乱して」
ハルヒ(馬鹿キョンはほいほいしゃべっちゃうし、あたしとのことなんて何とも思ってないんだ)
ハルヒ(当たり前じゃない、彼女はあっちよ?何を期待してたの?)
ハルヒ「馬鹿みたい。本当に、馬鹿みたい。もう、頭めちゃくちゃ…死んじゃいたい…」
151:2009/10/29(木) 18:19:42.16 ID:sETwFoH60
ハルヒ「あーあ、世界滅亡しないかしら」
154:2009/10/29(木) 18:26:18.84 ID:sETwFoH60
―深夜、閉鎖空間―
???「…ョン、キョン!」ユサユサ
キョン「…うわぁ!!」
佐々木「うわぁ!?」
キョン「お、驚いた、佐々木か」
佐々木「びっくりしたのは僕のほうだよ、良くも寝起きにそんな大声を…」
キョン「なぜここに、というか、ここは…」
佐々木「君の学校だと思う。空の色も星がないことものぞけばね。なぜここにいるか、は僕も知らない」
キョン「閉鎖空間…」
佐々木「閉鎖空間?橘さんが言っていた、閉鎖空間かい?」
155:2009/10/29(木) 18:33:27.12 ID:sETwFoH60
キョン「ああ、まさしくそれだ。…あんまり動揺してないな」
佐々木「動揺してるさ。君が目覚める前はもっとわかりやすく動揺してたよ」
キョン「ねぼすけで悪かったな」
佐々木「そういう意味じゃないよ…」
佐々木「ここは涼宮さんが創った空間なんだろう?彼女もここにいるのかな」
キョン「ああ、たぶんな。古泉も、気づき次第来るだろう…佐々木、こっちへ」
佐々木「?」
キョン「部室へ行こう。」
佐々木「音に聞くSOS団の部室だね。確かに、待ち合わせをするには、その全員の良く知る場所が理想的だ」
156:2009/10/29(木) 18:41:03.49 ID:sETwFoH60
赤玉(古泉)「お待ちしていました」
キョン「…デジャヴュだ」
佐々木「どなたかな?」
赤玉(古泉)「おや?佐々木さんまでそこに?…なるほど、そういうことですか」
キョン「古泉だ。副団長の。閉鎖空間の中ではこうなってしまうんだ」
佐々木「ええと、こんばんわ」
赤玉(古泉)「こんばんわ、お会いできて光栄です。常にこの姿、というわけではありませんが、それは重要ではありませんね。」
赤玉(古泉)「時間がありません。単刀直入にお話しさせていただきます。」
赤玉(古泉)「世界が終ろうとしています。」
157:2009/10/29(木) 18:50:30.28 ID:sETwFoH60
キョン「…またか」
赤玉(古泉)「ふふふっ、あなたの余裕が憎らしさを通り越して羨ましくさえ思えます」
キョン「ああ、佐々木、これは…」
佐々木「いや、まずある程度事情を了解し合っている二人で話してくれないか?正直、今の僕はそう簡単には状況を理解できないだろう」
赤玉(古泉)「助かります。僕がここにいられる時間は、やはりあまりないようですので。噂にたがわず聡明な方のようですね」
キョン「じゃあ、話を続けてくれ」
赤玉(古泉)「はい。起ころうとしていること自体は実に単純です。涼宮さんが現実を拒絶し、世界を大規模に改変…あるいは終らせようとしています」
163:2009/10/29(木) 19:47:15.95 ID:sETwFoH60
キョン「…。」
赤玉(古泉)「こうなった理由と、それを踏まえた対策について、われわれの見解を述べさせていただきます。」
赤玉(古泉)「涼宮さんはあなたのことが好きでした。しかしあなたはそちらの佐々木さんを選んだ。」
佐々木「…」
キョン「だけど、あいつは、応援してくれたぞ。自分で自分の心にケリをつけようとしてた!」
赤玉(古泉)「残念ながら、それは失敗したようです。…実は今日のあなた方のデートを、涼宮さんも見ていたのです」
キョン・佐々木「!!」
赤玉(古泉)「『唐変朴の下っ端団員の不器用な恋路を見守ってやるのも、団長の義務よ』とおっしゃいましてね。」
赤玉(古泉)「表向きはそういう理由で本当は他人の恋路を肴に楽しむため、そういう二重の仮面の下で、ご自身の恋心に決着をつけるべく、真正面から見据えるおつもりだったんでしょう」
赤玉(古泉)「…追えば追うほど傷ついていく涼宮さんを見ているのは、心が痛みました」
キョン「…」
佐々木「…」
165:2009/10/29(木) 19:55:20.17 ID:sETwFoH60
赤玉(古泉)「いや、僕の感傷は意味を持たない。あなたたちを責めるのも筋違いというのも分かっています。」
赤玉(古泉)「あなたは佐々木さんを選んだ。だれにも人の心を強制することはできない」
赤玉(古泉)「しかし、筋を無理に通そうとすると、世界が終ります。それが我々の見解です。」
キョン「…曲げろ、ということか。俺の心を。佐々木の心を。」
赤玉(古泉)「…おっしゃる通りです。そして必要なら、それ以上のものさえ、我らの神に捧げて頂かなくてはなりません」
キョン「何?」
佐々木「…僕がここにいる理由がそれだろう?」
166:2009/10/29(木) 20:00:33.10 ID:sETwFoH60
キョン「どういうことだ?」
佐々木「キョンが心変わりすればいいだけなら、呼び出すのはキョンだけでいい。」
赤玉(古泉)「はい、おそらく涼宮さんは…」
佐々木「おそらく、僕という恋敵に、文字通り『消えて』ほしいんだ。この彼女のストレスの象徴、閉鎖空間と一緒に」
キョン「冗談だろう…?」
赤玉(古泉)「残念ですが、その通りでしょう。あなたにある選択肢は二つです。」
赤玉(古泉)「佐々木さんを選んで、世界を道連れに消滅するか、」
佐々木「涼宮さんを選び、僕を消すか。」
173:2009/10/29(木) 20:34:29.79 ID:sETwFoH60
キョン「選べるわけがない!」
赤玉(古泉)「選んで頂かなくてはなりません」
佐々木「…キョン。仕方ないよ、僕のために、世界を犠牲にしてはいけない」
キョン「何馬鹿なこと言ってる佐々木!お前はそれでいいのかよ!?」
佐々木「良いわけがないさ。でも…。」
佐々木「僕は大丈夫だよ。君さえ覚えていてくれれば」
キョン「…」
キョン「…ハルヒは?」
赤玉(古泉)「先ほど校庭に人影を見ました。」
174:2009/10/29(木) 20:39:22.62 ID:sETwFoH60
―――
――
―
ハルヒ「キョン?それに、佐々木さん」
キョン「よぉハルヒ。」
佐々木「…」ペコ
キョン「ここがどこか分かるか?」
ハルヒ「春にも一度来たことがある気がする。朝には新しい世界がはじまりそうな、そんな場所。」
ハルヒ「あんたたちがここにいる理由も、今ならなんとなく分かる」
175:2009/10/29(木) 20:44:31.85 ID:sETwFoH60
ハルヒ「ここはあたしの夢の世界よ。すべてあたしの願うままになる。望んでしまえば必ず叶ってしまう。」
ハルヒ「キョン、あたしね、あんたのこと好きだったの。今でも好き。佐々木さんと抱き合ってるところやキスしてるところ、見てたんだ。」
ハルヒ「…それでも諦めきれなかった。だからきっと、あなたたちはここにいるんでしょ?」
キョン「…」
佐々木「…」ツカツカツカ
パーン!
ハルヒ「!」
177:2009/10/29(木) 20:58:35.73 ID:sETwFoH60
ハルヒ「…」
佐々木「彼がどちらを選んだとしても、僕は消える。最後だから、言いたいことは言わせて?」
佐々木「最っ低!あなた自分が何をしているか分かってるの!?自分のわがままのためだけに世界を、彼の命を人質にして、人の意志を捻じ曲げようとしているのよ」
ハルヒ「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
佐々木「そこまでして彼を手に入れて満足なの?」
ハルヒ「そんなつもりじゃなかった…ごめんなさい、ごめんなさい…」
佐々木「僕は彼と恋人になるために、勇気を振り絞った。本当に、死ぬほど怖かったんだ。もし拒絶されたらどうしようって」
佐々木「なのに君は、同じだけのチャンスがあったはずなのに、それをせずに、後から力づくで彼を奪おうとしている。」
佐々木「こんなの…酷過ぎるだろう」
ハルヒ「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
179:2009/10/29(木) 21:05:24.88 ID:sETwFoH60
キョン「落ち着け、佐々木。」
佐々木「キョン!」
ハルヒ「…キョン?」
キョン「感情は目を曇らせるだったか。いつもお前が言ってることだろ。いちばんいい答えを出すために、落ち着け」
佐々木「…選択肢は二つだけだよ。僕が消えるか、世界が消えるか。落ち着いてどうにかなることなのかい?」
ハルヒ「ごめんなさい…ごめんなさい…」
キョン「連中は確かにそういった。だが俺はそれが正しいとは思わない。少なくとも、あれがすべてじゃないはずだ。」
183:2009/10/29(木) 21:27:57.88 ID:Gc6hLfcE0
キョン「(ガリガリ)問題を図にすると、こんな感じだ」ガリガリガリガリ
ハルヒを選ぶ―佐々木が消える
/
「俺たちの関係」
\
佐々木を選ぶ―世界が消える
佐々木「キョン?分かりきった話だろう。わざわざ土を掘り返してこんな大きな図にして…なんのつもりだい?」
キョン「まぁ、落ち着いて考えるためのおまじないみたいなもんだ。佐々木、お前はそこに。ハルヒ、お前はそっちに立ってみろ。」
ハルヒ・佐々木「「?」」
ハルヒを選ぶ―佐々木が消える ハ
/
キ 「俺たちの関係」
\
佐々木を選ぶ―世界が消える 佐
(キ、ハ、佐:それぞれキョン、ハルヒ、佐々木の立ち位置)
186:2009/10/29(木) 21:36:14.47 ID:Gc6hLfcE0
キョン「見た目どおり、お前達の立ち位置は対極にある。歩み寄る余地はあるか?」
佐々木「さっきも言ったろう、キョン。僕は構わない。世界と僕1人を天秤にかけるわけにはいかない。」
キョン「しかし、そうなれば俺にとってハルヒは親友…いや、恋人の敵だ。俺がハルヒを好きになる事はありえないだろう」
佐々木「それは…」
ハルヒ「…」
佐々木「でもだとすると、涼宮さん、あなたはこちらに歩み寄れる?僕と彼が付き合うのを認め、なおかつ世界を崩壊させないでいることが…できるならこんなことになってないよね」
ハルヒ「ごめんなさい…だけど、好きなの、諦めきれないの!」
キョン「やめろ佐々木、悪いのはハルヒじゃない。」
187:2009/10/29(木) 21:44:12.69 ID:Gc6hLfcE0
佐々木「キョン!」
ハルヒ「キョン…!」
キョン「悪いとすれば、願っただけで勝手に叶ってしまうその力だ。」
佐々木「それは…」
キョン「話を戻すぞ。このままでは、話は永久に平行線だ。もっと冴えたやり方を見つける必要がある」
キョン「この『俺たちの関係』というカテゴリには、まだいくつか選択肢があるはずだ」
ハルヒ「?」
キョン「一つは『どちらとも付き合わない』という選択肢だ。佐々木とは別れる。SOS団も辞める」
ハルヒ「あんた、ふざけてるの?」
佐々木「いや、確かに。選択肢の一つではある。」
ハルヒ「ちょ、ちょっと」
188:2009/10/29(木) 21:49:55.50 ID:Gc6hLfcE0
ハルヒ「あんた、それって」
佐々木「勘違いしないで欲しい。僕だってこんなのは嫌だ。だけど、アイデアを出すのと、それを評価するのは別の問題だ。そう言いたいんだろ?キョン」
キョン「大分落ち着いたみたいだな、佐々木」
佐々木「おかげさまでね」
ハルヒ「な、なんかずいぶん他人事のように扱うわね、あんたたち…」
キョン「それが必要な場面なんだ。…ところで、選択肢はもう一個あるよな」
190:2009/10/29(木) 21:52:48.87 ID:Gc6hLfcE0
佐々木「…キョン」
ハルヒ「もう一つってまさか」
キョン「さっきのの真逆だ『両方と付き合う』。」
ハルヒ「…」
佐々木「…」
キョン「…そんな失望と軽蔑を当分に混ぜたような目で見ないでくれないか。俺だって自分でこんな事を言い出すのはその…いたたまれないんだ」
191:2009/10/29(木) 21:58:22.29 ID:Gc6hLfcE0
佐々木「まぁ、アイデアを生むのと評価するのは別だからね…」
ハルヒ「言うのだけなら、寝言でも許してあげるわ…」
キョン「ありがたい。で、だいぶ図が賑やかになったが…」
ハルヒを選ぶ ハ
/ 両方と付き合う
キ 「俺たちの関係」<
\ 両方と別れる
佐々木を選ぶ 佐
キョン「さて、どこまで歩み寄れる?」
193:2009/10/29(木) 22:07:11.31 ID:Gc6hLfcE0
―――
――
―
―数週間後、北高、SOS団部室―
古泉「で、どうなったんです?」
キョン「何時間かの修羅場のあと、結局『両方と付き合う』で落ち着いたよ」
古泉「よくお二人が納得しましたね…」
キョン「俺に佐々木を犠牲にするつもりも別れるつもりもない以上、ハルヒに選択肢はそれしかなかったさ。」
キョン「むしろ同じ譲歩を佐々木から引き出す方が苦労した…」
古泉「なんとも、ご苦労様です。おかげでまた世界は救われました。」
キョン「俺は結局フられたがな…。あのゴタゴタで一番割りを食ったのは多分俺だぞ」
朝比奈「おかしな成り行きですね」クスクス
194:2009/10/29(木) 22:15:27.29 ID:Gc6hLfcE0
古泉「一つ疑問があるのですが。」
キョン「なんだ?」
古泉「涼宮さんのことです。いくら理性がそれしかないと納得していたとしても、無意識の本心がそれを拒否すればその選択は成立しなかったはずです。」
キョン「『夢から覚めた』んだろうさ。あれだけ徹底的に恋心を駒みたいに扱われりゃ、誰だって醒める」
古泉「なるほど。佐々木さんとの破局もそれが原因と。」
キョン「殴るぞ」
古泉「ふふっ、失礼。今では涼宮さんと佐々木さんは、同じ相手を取り合った元恋敵にして親友。そしてあなたは二人に共通の良き友人、ですか」
キョン「まぁ、落ち着くべきところに落ち着いたってとこだろうさ。やれやれだ。」
古泉「…ですが改めて御礼申し上げます。あなたのおかげで、世界は救われた。それも、誰一人犠牲にすることなく」
朝比奈「キョン君すごいです、立派ですよー。」
195:2009/10/29(木) 22:21:20.09 ID:Gc6hLfcE0
キョン「冴えたやり方のわりには、冴えない結末ですがね…」苦笑
ハルヒ「(バターン)ちょっとキョーン!いるー!?」
キョン「なんだ今日はまた騒がしい」
ハルヒ「今思い出してもあったま来るわー!例の生徒会長よ!あんたも来なさい!今日こそはギッタンギッタンにしてやるんだから!」バターン
キョン「やれやれ…じゃあ、行ってくる」
朝比奈「頑張ってくださいねー」ヒラヒラ
古泉「ふふっ、ご武運を」
196:2009/10/29(木) 22:29:23.67 ID:Gc6hLfcE0
バタン
古泉「…ところで、長門さんはどう思われますか?」
長門「…」ペラ
長門「彼が涼宮ハルヒ、及び時空改変能力者候補佐々木にとっての鍵である、という仮説を反証・棄却するに足る事実は観測されていない」
古泉「ほほう…それでは、佐々木さんや涼宮さんが、もはや彼のことなどただの友人としか思っていないという彼の考えは」
長門「相互の友情・愛情などが平衡状態にあり、涼宮ハルヒと佐々木との間に、見かけ上一種の休戦協定が結ばれているために生じた、錯覚と考えられる」
古泉「なるほど…。彼は再び、その事実に対して彼生来の特質である『鈍感』を発揮している、と」
長門「そう」
朝比奈「えーと…つまり3人の関係って…」
長門「佐々木の告白以前に戻ったのと同じ。元の木阿弥」
197:2009/10/29(木) 22:37:13.48 ID:Gc6hLfcE0
朝比奈「ふええー」
古泉「僕はそうは思いませんね。」
長門「?」
古泉「ごく僅かな機微なので分かりづらいかも知れませんが、きっと彼女らはこの経験を通してほんの少し成長したんだと思います。」
古泉「例えば、また同じような事態が生じたとき、涼宮さんはもはや世界を崩壊させようとはしないでしょう。」
古泉「佐々木さんも同様です。彼女も二度と、安易な自己犠牲に流れたりしないでしょう。」
古泉「いずれも、彼の『鈍感さ』別の言葉で言えば『強かさ』にふれた結果だと思います。彼女らはきっと、格好が悪くてもより冴えたやり方を追求できる、そういうことの価値に気づいたはずです」
古泉「だからこそ、いまだに彼女らは彼のことが大好きなんですよ。」
199:2009/10/29(木) 22:41:08.42 ID:Gc6hLfcE0
北高、冬。
今年のSOS団開催鍋パーティには、例年より少し多い招待状が発行される。
終わり
200:2009/10/29(木) 22:42:05.62 ID:Gc6hLfcE0
あんまり劇的でなくてすまんかった。
でも高校生の恋愛ってこんなもんじゃね?
あばよ!
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1256734709/
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