杏子「なぁ。その集会はどこでやる予定なんだ?」
ほむら「私の家」
杏子「じゃあ泊まればいいんじゃね?」
ほむら「えっ」
まどか「!」
まどか「ほむらちゃんのお家にお泊まり……それはとっても嬉しいなって」ニッコリ
ほむら「えーっと……」
まどか「……ダメかな?」
ほむら「三日後の明日は学校あるけど……まどかがいいなら、私は別に。構わないわ」
443: 2012/08/30(木) 21:34:06.45 ID:UCzHARH00
まどか「ウェヒヒッ、よろしくお願いしますっ!」
ほむら「え、えぇ……」
杏子「案外元気だな。まどか」
マミ「少しでも空気を和ませようとしているのよ」
マミ「さて、方針も決まったことだし、今日の放課後は私の家に集まっ――」
ほむら「私はジャイロに会う予定があるの」
まどか「ごめんなさい。わたしもちょっと……」
マミ「…………」
杏子「しょうがねーな~~~あたしが付き合ってやるよ」
マミ「あなた同居人じゃない。でも、一人じゃないって嬉しい」
444: 2012/08/30(木) 21:37:24.82 ID:UCzHARH00
放課後
――ファストフード店
仁美「ずっと前から私……上条くんのこと、お慕いしておりました……」
仁美「それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません」
「……えーっと」
まどか「それをわたしに言われても……」
仁美「…………そうなんです」
まどか「え?」
仁美「鹿目さんに言っても仕方ないって私もわかっているんです……」
445: 2012/08/30(木) 21:38:23.19 ID:UCzHARH00
仁美「美樹さんに言わなくちゃいけないのに……」
まどか「さやかちゃんに……」
仁美「当の美樹さんがいなくなってしまって……!」
仁美「美樹さんは上条くんをそう思っているはずなんです……私にはわかるんですから……」
まどか「…………仁美ちゃん」
まどか「……わたしでよければ、全部はき出して」
まどか「仁美ちゃんが抱えてる悩みを、誰かに聞いてほしかったんでしょ?」
まどか「だから、わたしを誘ってくれたんでしょ?」
仁美「……ごめんなさい。気を使わせちゃって」
446: 2012/08/30(木) 21:39:21.29 ID:UCzHARH00
まどか「気にしないでっ。ため込んでるもの全部はき出してスッキリして欲しいなって」
仁美「鹿目さん……! ありがとうございます……」
まどか「ウェヒヒッ、さやかちゃんが上条くんの事好きなのかなってのは前々から思ってたけど……」
まどか「まさか仁美ちゃんも好きだったなんて……オッたまげたよぉ」
仁美「秘密にしてくださいね」
まどか「うん」
まどか「それで……さやかちゃんに、宣戦布告っていうのかな? 言いたかったんだね」
仁美「……はい」
447: 2012/08/30(木) 21:40:24.40 ID:UCzHARH00
仁美「ずっとずっと、美樹さんに言いたかった。私はあなたの恋敵だと、宣言したかった」
仁美「しようと思った矢先に! 連絡がつかなくなるだなんて……」
仁美「美樹さんがいないのに、私の思いを伝えるのは……卑怯なんです」
仁美「もし私が美樹さんより先にこの思いを伝えたら、結果がどうあろうとも、私が後悔する……」
仁美「……美樹さんが戻ってこないと、私の恋が前へ進めない」
仁美「……私、美樹さんの事情も知らないで、実際いなくなってしまったというのに、自分のことばっかり……」
仁美「今、美樹さんのことを心配している上条くんに、私という人間は、どうよく思われようかと考えて……」
仁美「あろうことか、あろうことか美樹さんがいなくてチャンスと思っている私も少なからず存在している……」
448: 2012/08/30(木) 21:41:41.62 ID:UCzHARH00
仁美「自己嫌悪しているんです……」
まどか「そうなんだ……」
仁美「……こんな私の愚痴に、どこまで付き合っていただけるのですか?」
まどか「無論、仁美ちゃんがスッキリするまでだよ。わたし達、親友だもん」
仁美「鹿目さん……!」
まどか(さやかちゃん……どこに行っちゃったんだろう)
まどか(そんな……親にも仁美ちゃんにも上条くんにもクラスのみんなにも。わたし達にまで心配させてまで……どこで何をしているんだろう)
――――
――
449: 2012/08/30(木) 21:42:25.27 ID:UCzHARH00
――廃墟
ジャイロ「…………」グータラ
「よぉ、こんなとこにいんのか、あんた」
ジャイロ「ん……? ああ、おまえは……」
杏子「あーっと……ジャイアンだっけ?」
ジャイロ「ジャイロだ。ジャイロ・ツェペリ。で、杏子。どうしてここに?」
杏子「いや、そのぉ……まぁ何だ。ほむらからこの辺にいるだろうって言われてさ」
ジャイロ「まぁ、橋の下とか路地裏とか、色々移り移りしてる暮らしているぜ」
杏子「あたしもそうだったよ」
450: 2012/08/30(木) 21:43:20.40 ID:UCzHARH00
杏子「食うかい?」
ジャイロ「ん?」
杏子「ま、あんたにも迷惑かけたからな……迷惑料ってわけじゃあないが」
ジャイロ「Dioが全て悪いんだ。気にするな。それにほむらと仲間になったってことは、俺ともそういうわけだ」
杏子「……んー、まぁ、その辺はケジメってことで」
ジャイロ「そうか」
ジャイロ「そうそう。おまえさんのことはほむらから聞いているぜ」
杏子「……なんて?」
ジャイロ「浮浪少女」
杏子「間違っちゃあいないが……今はマミの家に世話なってるんだぜ。帰る家があるっていいな」
ジャイロ「ああ、帰る場所があるってのはいいもんだ」
451: 2012/08/30(木) 21:44:18.58 ID:UCzHARH00
ジャイロ「よかったな。師弟関係だったが仲違いしてた、とも聞いているぜ」
杏子「限られた資源を食うにはテリトリー張って一人で狩るってのが一番だからな」
杏子「世話好きでお節介で……挙げ句に共闘だなんだって、甘ちゃんだからな。まーそこが好きなとこでもあるんだけどさ」
杏子「過程はどうあれ仲直りできてよかっ……何言わせんだテメェ!」
ジャイロ「自分で言ったんじゃあねーか」
杏子「そ、それで、あんたの方は何してるんだ?」
ジャイロ「何って……別に何ってこともないが……」
ジャイロ「おまえは何の用なんだよ」
杏子「ん、ちょっとした相談事」
ジャイロ「相談?」
杏子「……あのさ」
杏子「実は昨日、色々あった後……さやかの家の場所を聞いて……行ってみたんだ」
杏子「そしたらこっそりと家から飛び出るさやかを見つけたんだ」
ジャイロ「さやかを見たのか?」
杏子「ああ。思わず隠れて尾行したんだ。その頃には深夜だったと思う」
杏子「あたしは感じなかったが、使い魔か何かの気配でも感じたのだろうか魔法少女の姿になって、夜の公園を覚束ない脚でフラフラと……」
ジャイロ「それで、どうしたんだ?」
杏子「話しかけようとしたんだが……」
452: 2012/08/30(木) 21:45:19.75 ID:UCzHARH00
杏子「さやかが、前を歩いてた男二人組の片方と肩がぶつかって……」
杏子「肩が折れたーとか叫んでたからまぁそういう奴なんだろう」
杏子「助けにいこうかと思ったんだけど、突然、さやかがそいつの脚を『斬った』んだ」
ジャイロ「!」
杏子「脚の肉がベロンってなって、そいつは悲鳴をあげて、どっから湧いたのか人が集まってきた。……その時にはさやかは既にいなかった」
ジャイロ「……それ、マジか? 見間違いでなく?」
杏子「マジだ。完全にプッツンしてって感じだったぜ」
杏子「野次馬に紛れて斬られた奴のとこに行ったら暗くて顔がよく見えなかった、日本刀のようなものを持っていた、変なコスプレをしていたってサツに喚いてた」
ジャイロ「…………」
杏子「で、さやかは見失っちまったし、しゃーないからあたしは帰った。そして、今朝……。単刀直入に言う」
453: 2012/08/30(木) 21:45:59.26 ID:UCzHARH00
杏子「さやかが失踪した」
ジャイロ「……どういう理由で?」
杏子「その反応。まだほむらから聞いてなかった?」
杏子「昨日から家に帰っていない。ケータイも家に置きっぱ。……家出少女と言えば可愛げはあるがな」
ジャイロ「いや、失踪したこと自体は聞いた」
ジャイロ「俺が聞いたのは、『何故、今なんだ』ってことだ。こないだまでは至って普通だったぞ」
杏子「……Dioが原因だろうな」
ジャイロ「昨日、さやかとおまえが喧嘩したって聞いたんだが?」
454: 2012/08/30(木) 21:46:56.48 ID:UCzHARH00
杏子「……さやかはDioのせいで本当に望んでいる願いが叶えられなかった」
杏子「その恨みを胸に、あたしがDioとグルだと思い込み、あたしを襲撃した」
杏子「それまでのことはあたしは誰とも会ってないからよくわからんが、あたしを殺すためにその憎悪を押さえ込んで鍛錬していたっぽいんだ」
杏子「で、その憎悪が爆発してさやかはあたしを殺そうとして、ほむらに助け垂れた。偽善者なほむら達とはこれ以上一緒にいられないってな。で、今」
ジャイロ「なるほど。わかりやすいな」
杏子「なぁ、ジャイコ」
ジャイロ「ジャイロだ! 二度と間違えるな! 俺の名はジャイロ! ジャイアンでもジャイコでもない!」
杏子「すまんね。……で、あたしはどうすればよかったんだ?」
杏子「やっぱあの時追った方がよかったのかな」
杏子「ほむら達は今日知ったが、あたしはさやかが失踪する瞬間を見ていたんだ」
杏子「マミにどうして黙ってたんだ、って怒られたらどうしようって思って言えなくてさ……」
杏子「あんたなら冷静に聞いてくれると思って、話した」
455: 2012/08/30(木) 21:48:04.19 ID:UCzHARH00
ジャイロ「……そうだな。追わなかったという選択が正解だ」
ジャイロ「もし下手に動いてさやかに気付かれてたら何されたか……」
杏子「…………」
ジャイロ「怖いのか?」
杏子「いや……経験はあたしの方がある。本気で戦うとなれば、あたしは負けるはずがない」
杏子「あの時は……気圧されたというか、油断したというか、人殺しの目をしてたというか……とにかく躊躇しちまったんだよ」
杏子「あたしらしくねーことだけど、怖いというより心細い」
ジャイロ「何でもいいが、黙っていたのはいただけないがな」
杏子「……そうだな」
ジャイロ「それで? 話はこれだけか?」
杏子「ん、それだけだ。まぁ、挨拶しておきたかっただけさ。じゃあな」
ジャイロ「おう」
456: 2012/08/30(木) 21:48:47.75 ID:UCzHARH00
――
――――
ほむら「こんにちは、ジャイロ」
ジャイロ「今日は来客が多いな」
ほむら「杏子が来たの?」
ジャイロ「ああ。心配してるようだった」
ほむら「そう……。根は優しい子だからね」
ジャイロ「……それで?」
ほむら「なに?」
ジャイロ「それで? と言ったんだ。俺にどうしてほしい?」
ほむら「話が早くて助かるわ」
457: 2012/08/30(木) 21:49:38.07 ID:UCzHARH00
ほむら「あなた、確か医者なのよね」
ジャイロ「本職は法務官だがな」
ほむら「手術で回転の技術って使うのよね。前に言ってた気がする」
ジャイロ「回転は処刑と医術のために発展したモンだ」
ほむら「確か回転で視神経を繋げて失明を治す手術とかあるのよね」
ジャイロ「……何が言いたい?」
ほむら「断裂した腕の神経を何とかすることは?」
ジャイロ「回りくどいこと言ってないでとっとと言え」
ほむら「上条恭介の腕を診てほしい」
ジャイロ「さやかの大切な幼なじみのことだな。Dioの襲撃の後、一度だけ伝言のために会った」
ほむら「そうよ」
458: 2012/08/30(木) 21:50:26.61 ID:UCzHARH00
ジャイロ「ダメだ」
ほむら「…………」
ほむら「それは……治せないという意味? したくないという意味?」
ジャイロ「よく診てみないとわからんからな。後者の意味合いで言った」
ほむら「何故?」
ジャイロ「『納得』しないからだ。納得は全てを優先する」
ほむら「……納得?」
ジャイロ「今、そいつの腕を治したとして、さやかはどうなる?」
ほむら「喜ぶ?」
ジャイロ「いいや、余計に話が拗れるな」
459: 2012/08/30(木) 21:51:16.92 ID:UCzHARH00
ジャイロ「仮におまえは『まどかを守るとかどーでもいーや』と思って何も対策をとらないとする」
ほむら「…………」
ジャイロ「これは例え話だ。……で、もしマミと杏子が二人でまどかとさやかを契約させずにさらにワル何とかを倒しちまったらどうなる?」
ほむら「……私はいらなかったんだって思う」
ジャイロ「そうだ。壁越推量だがその後おまえは無力感に悩まされて生き続けるだろう」
ほむら「いえ、多分自殺するわ。時も止められないし、何も出来なかった最弱の魔法少女になるし」
ジャイロ「所詮例え話だしどうでもいいわ。で、本題はさやかだ」
ジャイロ「さやかの望みは彼の腕を治すことだ。それが叶えられなかったからといって俺が治してしまえば……」
ほむら「美樹さやかは自分の存在価値を見失うと?」
ジャイロ「そういう解釈もアリだ。願う必要がなかったんだからな。さやかは無力感に精神が押しつぶされる」
ジャイロ「……いや、あいつのことだから悪者が大切な幼なじみに手を加えたとキレて治すどころじゃないな」
460: 2012/08/30(木) 21:52:09.63 ID:UCzHARH00
ジャイロ「そもそも一番大事なのは患者の意志だ。いきなり現れたこんなナリの奴が腕を治すなんて言ったらどうなる?」
ほむら「どうみても医者じゃないものね。歯にゴーゴーとか書いてある人……もう色々とアレだし」
ジャイロ「喧嘩売ってんのか。まぁ、自称さやかと面識があるらしき不審者だからな。彼にとっての俺は」
ジャイロ「そんな奴が医者でも……信頼している幼なじみの後押しがあればまた変わるはずだ」
ジャイロ「何にしてもさやかが納得する選択をしなければならない」
ジャイロ「俺達が自分勝手に満足してはいけないんだ。納得しなければ先へと進まない」
ほむら「……三日後」
ジャイロ「ん?」
ほむら「三日後、進展させるわ」
ジャイロ「それならいいんだがな」
461: 2012/08/30(木) 21:53:03.95 ID:UCzHARH00
三日後
――屋上
マミ「美樹さんが行方不明になって三日……。美樹さんから接触はあった?」
まどか「ありません……。マミさんはどうでした? ほむらちゃんは?」
マミ「特にないわ。暁美さんも無理に捜さないほうがいいと言ってるし……」
ほむら「キュゥべえが言うには少なくとも生きてはいるみたいよ」
ほむら「そういうキュゥべえはさやかに口止めされているし、そもそも一定の場所に留まっていないらしいわ」
まどか「……わたしがあの時、励ましの言葉なり言えてれば……」
ほむら「まどか、あなたが気にすることはないのよ。引きこもるならまだしも、失踪するなんて誰も予想できなかった」
まどか「はぁ……」
杏子「捜しだして無理矢理しょっ引いてやりたいな。あたしじゃ刺激するだけだけど……あいつには家族がいる。心配してくれる奴がいるから……」
マミ「佐倉さん……。あなたが行けば私達が心配するじゃな――」
462: 2012/08/30(木) 21:54:19.30 ID:UCzHARH00
マミ「って佐倉さん……」
杏子「よっ」
杏子「忍び込んできた」
マミ「もう! 佐倉さんったら。学校に来ちゃダメって言ったでしょ?!」
杏子「いいじゃん。バレなきゃ」
ほむら「心細いんでしょ」
杏子「…………」
ほむら「いつも通り外を出歩いてもどこかで美樹さやかにエンカウントするかわからない」
ほむら「かと言って家にいても落ち着かないしマミの家ということで美樹さやかが尋ねてくる可能性がある」
まどか「……怖いの?」
463: 2012/08/30(木) 21:55:52.11 ID:UCzHARH00
杏子「ちげーし! ちっげーし! 何馬鹿言ってくれちゃってんの!?」
マミ「まぁ……ごめんね。気を使ってあげられなくて」
杏子「違うっつってんじゃん!」
マミ「ギュッてあげるわ」
杏子「バーカ! バーカ!」
まどか「あ、あはは……」
マミ「あなたはもう独りぼっちなんかじゃないんだから、いつでも頼ってくれてもいいのよ」
マミ「学校に忍び込むのはいただけないけども」
杏子「う、うん……」
464: 2012/08/30(木) 21:56:48.86 ID:UCzHARH00
杏子「いや、まぁ……何て言うか」
杏子「元はと言えばあたしのせいだし……」
マミ「大丈夫。美樹さんと絶対仲直りさせてあげるから……」
杏子「……うん。あたし……実は、ほんとは「マミパイで圧迫祭りして」ほしかったり……」
杏子「アフレコすんな」
ほむら「ダメかしら」
まどか「……今のはないよ。ほむらちゃん」
ほむら「ちょっと妬いちゃったわ」ファサ
杏子「なんだよ……からかうなよ……」
マミ「あらまぁ。それじゃあ、暁美さん、ギュッてしてあげる」
ほむら「……いいの?」
まどか「!」
ほむら「ほんとに抱きしめてくれる? 頭も撫でてくれる?」
マミ「えぇ。もちろん」
ほむら「でも断る」
マミ「……」
465: 2012/08/30(木) 21:57:43.10 ID:UCzHARH00
まどか「じゃあわたしがっ」ギュッ
ほむら「ちょ、ま、まどか、じょ、冗談のつもりだったのに……っ」
まどか「わたしも力になりたいなって」ナデナデ
杏子「……」ジー
マミ「……」ジー
ほむら「は、恥ずかしいからやめて……///」
ほむら「そっ、それよりも美樹さやかのことよ」
マミ「それもそうね」
ほむら「取りあえず、三日前話したでしょ。今日、集まって話し合うわ」
杏子「おう」
マミ「ええ。ちゃんと予定を空けておいたわ」
まどか「わたしもパパとママに言っといたよ」
466: 2012/08/30(木) 21:58:44.88 ID:UCzHARH00
まどか「ほむらちゃんちにお泊まりっ♪」
マミ「メインは美樹さんのことなんだけど……」
まどか「ウェヒヒッ、もちろんわかってますよぉ~」
杏子「それで? 具体的に何を話すんだよ」
マミ「私も日にちを設定したあたり、少し気になってたわ」
ほむら「今日がタイミングいいという意味合いよ」
杏子「タイミング?」
ほむら「美樹さやかを迎えに行くわ」
467: 2012/08/30(木) 21:59:19.24 ID:UCzHARH00
――ほむら宅
ほむら「――と、言うわけで、みんなに集まってもらったわけだけど」
まどか「ほむらちゃんのおうちー」
マミ「な、何だかすごい部屋ね……」
ほむら「魔法でちょっと……ね」
ジャイロ「……こいつがワルプルギスの夜ってやつか?」
ほむら「えぇ。そうよ。……そうね」
ほむら「本題は美樹さやかだけど、予めワルプルギスの情報でも見ておいて」
ほむら「これがワルプルギスの資料よ。渾身の出来」
マミ「へぇ……」
ほむら「その間にお茶を淹れるわ」
杏子「お茶菓子はあるのか?」
ほむら「開口一番にそれなの? ちゃんと用意してあるから座ってなさい」
まどか「ほむらちゃん。手伝うよっ」
ほむら「いいのよ。まどか。お客さんなんだから」
まどか「お泊まりしてお世話になるんだからそれくらい……」
ほむら「いいのよ。座ってて」
まどか「むー」
468: 2012/08/30(木) 22:00:35.42 ID:UCzHARH00
ジャイロ「出没地……戦場ではビルが宙を舞う。大きさ……攻撃パターン……」
ジャイロ(何度かループしただけある。悪くない情報だな)
杏子「何かほむらの秘密はないだろうか」ゴソゴソ
マミ「こらこら、人の家の物を漁ろうとしないの。でも私も気になっちゃう」
ジャイロ「他人のものを盗み見る教育を受けて育ったのか?」
杏子「学校行ってない」
ジャイロ「行けよ」
杏子「行ったらマミに怒られるもん」
まどか「そういう意味じゃないよ杏子ちゃん……」
杏子「お、眼鏡発見。そういや視力は悪いんだってな」
まどか「ほむらちゃんは赤渕派なんだね」
マミ「眼鏡っ子時代の写真とかないかしら」
まどか「アルバムとか見てみたいなって思ってしまうのでした」
ほむら「実家にあるわ」
469: 2012/08/30(木) 22:01:39.00 ID:UCzHARH00
杏子「げっ」
マミ「あっ」
まどか「ぎくっ」
ほむら「人の部屋を漁ろうだなんて余計なことを考えないで」
ほむら「はい。お茶とクッキー」
まどか「い、いただきまーす」
杏子「うめぇ」サクサク
ほむら「さて、と、美樹さやか対策会議開催よ」
ほむら「まぁ、こうやって集まって話す機会もなかったし、ついでに色々話しておきたいことを話したいわね」
ほむら「……ところで、ワルプルギスの資料を見て何か思ったことはあるかしら?」
杏子「すまん。見てない」
ほむら「だと思ったわよ」
マミ「残念ながら、私も強力であることしかわからないわ」
まどか「マミさんも見てないけどね」
マミ「ギクリ」
470: 2012/08/30(木) 22:02:44.83 ID:UCzHARH00
まどか「ほむらちゃん。そういう話はさやかちゃんを加えてから話し合うべきじゃないかな」
まどか「さやかちゃんを迎えにいってから……」
ほむら「それはそうだけど……やっぱり、気になって落ち着かないのね」
まどか「うん」
ほむら「ワルプルギスの話も大事だけど、まずは本題である美樹さやかのことね」
マミ「はーい」
杏子「うーい」
ジャイロ「…………」
471: 2012/08/30(木) 22:03:28.70 ID:UCzHARH00
ジャイロ「……なあ、ほむら。今……歌思いついた。考えたのよ。作詞作曲、ジャイロ・ツェペリだぜ」
杏子「は?」
ジャイロ「聴きたいか? 歌ってやってもいいけどよ」
ほむら「ずいぶんあなた……暇そうじゃあないの……」
ジャイロ「聴きたいのかよ? 聴きたくねーのか? みんなはどうなんだ? ……俺は二度と歌わねーからな」
まどか「…………」
マミ「…………」
ほむら「…………じゃあ、聴きたい」
ジャイロ「そうか。いいだろう。タイトルは『魔法少女の歌』だ。オホン、ン、歌うぜ」
まどか(何を考えてるんだろう……)
472: 2012/08/30(木) 22:04:20.63 ID:UCzHARH00
ジャイロ「ほむら☆マギカ♪ ほむら☆マギカ♪」
ジャイロ「ほむほむほむほむほむほむほむほむほむほむほむほむ♪」
ジャイロ「ほむら☆マギカ♪」
ジャイロ「……つぅ――歌よ。どォよ? 歌詞の2番は『巴☆マギカ』で繰り返しよ」
ジャイロ「マミマミマミマミマミマミ……♪ ちなみにマギカっつーのはラテン語で『魔法の』って意味ね」
ほむら「…………」
杏子「…………」
まどか「…………」
マミ(ラテン語! そういうのもあるのね!)
473: 2012/08/30(木) 22:05:20.06 ID:UCzHARH00
ジャイロ「……どよ? どうなのよ?」
ほむら「いいわジャイロ。気に入った」
ジャイロ「マジすかッ!?」
ほむら「あっ……ヤバイわ! スゴクいい! 耳にこびりつくわ! ほむほむのとこが」
ほむら「傑作って言うのかしら……癖になる! 動画投稿サイトなら視聴回数ミリオン越え間違いないわ!」
ジャイロ「マジすか! マジそう思う? 実は俺も密かにそう思うのよ。だろォ~~~!? 譜面にできる?」
ジャイロ「ただよォ~……杏子はどうするか考えてないんだよ。三番の歌詞な。キョーキョーじゃ言いづらいし、佐倉からとってサクサクってのも気に入らねー」
ほむら「あんあんでいいわ。あんあん」
杏子「おい」
ジャイロ「何でだ? キョーコって名前だろ」
杏子「うん」
ほむら「あんあんでいいのよ」
杏子「おい」
474: 2012/08/30(木) 22:05:54.60 ID:UCzHARH00
まどか「…………ねぇ、真面目にやろうよ」
ほむら「ほむほむほむほむ♪」
まどか「……」
マミ「…………」
マミ「マミマミマミマミ♪」
まどか「!?」
杏子「…………」
杏子「あんあんあんあん♪」
まどか「!!??」
まどか「…………遊んでる場合じゃないのに」
まどか(……まどまどまどまど♪)
ジャイロ「さやかはどうしようかねぇ」
マミ「で、その美樹さんは今どこにいるのかしら」
まどか「急に本題に回帰したよ。流石マミさん」
杏子「ほむら、今夜迎え行くって言ったよな。居場所、知ってるんだろ?」
475: 2012/08/30(木) 22:06:41.74 ID:UCzHARH00
ほむら(今までの時間軸からすれば、居場所は全く分からないということもない。時期や動機が違うから確証はない……が、ただ一つだけ確かなことがある。それは……)
ほむら「……『シートン動物記』の著者E・T・シートンは『追跡不可能な動物はいない』と言ったわ」
杏子「動物扱い!?」
マミ「プロファイリングとかと言ってあげて……」
まどか「そ、それで……さやかちゃんを追跡できるの!?」
ほむら「簡単なことよ。魔女と使い魔が現れるとこにいるわ」
ジャイロ「さやかにとっては、魔女・使い魔退治が正義の形。その正義が……今の美樹さやか唯一の心の支えみたいなもの。先回りしようってことだな」
ほむら「Exactly(その通りよ)」
杏子「……で、でもよ、魔女も使い魔もどこに現れるかなんて……」
ほむら「私にはわかる」
マミ「え? どういうこと?」
476: 2012/08/30(木) 22:07:42.16 ID:UCzHARH00
ほむら「使い魔はちょっと自信ないけど、魔女の出現位置は大体わかる。今日がその日」
杏子「ワルプルギスのことも言ってたし……予知の能力でもあるのか?」
マミ「……ま、まあわかるならそれに越したことはないとして、……でもそこに美樹さんも現れるとは限らないわ」
まどか「もしかしたら……もう遠いとこに行っちゃったのかも」
ほむら「美樹さやかには迷いと未練がある。だから少なくとも見滝原にいるはずよ。多分」
まどか「未練? ……ってちょっと待って、今小さく多分って言わなかった?」
ほむら「大丈夫よ。美樹さやかは大体でいいの。見滝原にいるなら、見滝原の結界に現れる」
ジャイロ「で、何故いると言えるんだ?」
ほむら「彼女の上条恭介に対しての思いはなんだかんだで私はよくわかってる。本人自身が口で否定するようなことまでね」
ほむら(それに今まで幾多の時間軸で、何が起こっても美樹さやかが探せないほど遠くへ行くことはなかったもの。確か……多分)
477: 2012/08/30(木) 22:08:46.20 ID:UCzHARH00
ジャイロ「ほう」
まどか「いつの間にそんな仲良くなってたの……?」
ほむら「別に仲良くないわ」
ほむら「それじゃ、美樹さやかの捕獲は魔女・使い魔待ちということで……。みんな。『二つ』話しておくことがあるわ」
杏子「話しておくこと?」
ジャイロ「……あの話か?」
ほむら「えぇ。そうよ」
まどか「あの話?」
ジャイロ「前もって言っておくが……。これから話す二つのことは全て事実だ。誰にも真偽を証明する術はないがな。俺は信用したが」
ほむら「だからみんなも信じて欲しい。もしも、実は私は吸血鬼でしたとか言い出しても信じてちょうだい」
478: 2012/08/30(木) 22:09:41.75 ID:UCzHARH00
まどか「……? よくわからないけど、今更わたしはほむらちゃんのこと疑わないよ」
マミ「……重要なことなのね。わかったわ」
杏子「何かヤバそうな話って感じだな……」
ほむら「一つ目は、もし美樹さやかが無茶をしてて、見つけた時には既にソウルジェムが穢れきっていた場合を想定してみんなを混乱させないよう予め話しておきたいこと」
ほむら「二つ目は、私の目的……もとい、私が何を願って魔法少女になったか教えてあげる」
ジャイロ「三つ目として俺のことも話していいか」
ほむら「好きにしてちょうだい」
まどか「ソウルジェムが穢れきると……?」
マミ「それなら別に……穢れきったら魔法が使えなくなるんでしょ?」
ほむら「キュゥべえにそう言われたの?」
マミ「……いいえ」
ジャイロ「わかんねーか。ソウルジェムはおまえ達の魂だ」
479: 2012/08/30(木) 22:10:23.69 ID:UCzHARH00
まどか「ま、まさか死――」
ほむら「死ぬだけならまだいいわよ」
マミ「……あ、暁美さん。何を隠しているの?」
ほむら「私は隠してなんかいない。言えなかった、ってより言わなかっただけ。あなた達にとって辛く厳しい現実だから」
杏子「……言えよ」
ジャイロ「もし錯乱して暴れるようなら……ちょっと手荒なことをするかもしれねー」
まどか「ど、どれだけの……秘密が……」
ほむら「本当は前もって言っておきたかった。でも、なかなか言い出せなくて……」
マミ「……いいから言ってッ!」
ほむら「……いい? マミと杏子。覚悟を決めなさい。これから美樹さやかを捕まえにいくんだから絶望しないでよ」
マミ「……」ゴクリ
杏子「……お、おう」
ほむら「ソウルジェムが完全に穢れると――――」
480: 2012/08/30(木) 22:10:52.71 ID:UCzHARH00
――
――――
さやか「うおおおおおおお!」
使い魔「」スカッ
使い魔「」スカッ
さやか「スティンガァ――――ッ!」
ザシュッ
魔女「」ブシャッ
さやか「ゲフッ……よし。全滅」ボタボタ
さやか「脇腹を貫かれて……向こう側の景色が見えそうだな……」
さやか「……途中で左目を犠牲にしたのはまずかったかな。まあ治すからいいけど」
パァッ
481: 2012/08/30(木) 22:11:41.84 ID:UCzHARH00
さやか「……ふぅ」
QB「さやか」
さやか「キュゥべえ。……何の用?」
QB「グリーフシードを回収にきたよ」
さやか「へぇ……今度はあの人から戻ってくるよう言えと言われたとかそういう伝言じゃないんだ」
QB「どうせ聞く耳持たないだろう」
さやか「まあね」
482: 2012/08/30(木) 22:12:29.33 ID:UCzHARH00
QB「……君の戦い方は合理的ではない。マミ達から教わった戦い方も無視している」
さやか「うっさいな。関係ないでしょ」
QB「その代わりと言ってはなんだけど、君は僕が見てきた中で最も早く成長している」
QB「この短期間でよくここまで強くなったものだと舌を巻くよ」
さやか「あたしは強くならないといけないんだよ……ほむらとあの人を超えて……本当の意味での救世主になるんだ……」
さやか「それに、治癒魔法を極めないといけないの。でも、負傷した人は見たくない。だから、こうして自分をたくさん治して熟練度をあげる」
さやか「今のあたしの治癒魔法じゃ、恭介の腕は治せない。だから、極めないと。頑張って熟練すればきっと、あれくらい治せるようになるはずだ……ならないといけない」
QB「可能性はあるかもね。でも……」
さやか「何」
483: 2012/08/30(木) 22:13:27.55 ID:UCzHARH00
QB「僕にはグリーフシードの無駄遣いに見えるね」
さやか「あっそ。はい、使用済み」
QB「キュップイ」パクッ
QB「この様子だとちゃんとソウルジェムの穢れの管理はできてはいるようだし……僕はあれこれ口だしはしないよ」
さやか「…………」
さやか「……そういやさ、ソウルジェムって濁りきるとどうなるの?」
QB「濁らせないに越したことはないよ」
さやか「仮に、だよ、もしもだよ」
QB「魔女になるよ」
さやか「は?」
484: 2012/08/30(木) 22:14:31.57 ID:UCzHARH00
さやか「……今、何て言った?」
QB「ソウルジェムは持ち主が絶望するなりして穢れきると、グリーフシードになる。つまり魔女になるんだ」
さやか「う、嘘……」
QB「本当だよ」
さやか「嘘! だ、だって……そんなこと……聞いてない」
QB「言ってないからね」
さやか「じょ、冗談、だよね……?」
QB「本当だよ」
さやか「そ、そんな……なんで……」
QB「いやなのかい? ソウルジェムさえ無事なら死なない。便利な体じゃあないか」
さやか「…………」
486: 2012/08/30(木) 22:17:14.06 ID:UCzHARH00
さやか「あ、あはは……」
さやか「ゾンビ……だけじゃなかった……」
さやか「魔法少女って……魔女の卵だったんだねぇ……」
さやか「……そりゃそうだよね。あたし、死なないことに託けてあんなに無茶して……それくらいの代償……あるよね」
さやか「じゃあ今まであたしが殺してきた魔女って……」
さやか「……人殺し、か……。はは、なにそれ……あたしが言えたことじゃないじゃん」
さやか「…………」
さやか「魔女になるなら……死ぬしか…………ないかなぁ…………」
さやか「あはは………もうあたし、ヤバイかなぁ……あははは」
さやか「ははは……はは、は……」
さやか「………………」
487: 2012/08/30(木) 22:18:24.49 ID:UCzHARH00
「そこちょっとシ・トゥ・レィ~~~」0 ← レイ
さやか「…………」
ジャイロ「よっ。探したぜ」
さやか「…………」
ジャイロ「おいおい。何シカトしてくれちゃってんのよォ~……まあいい。隣座るぞ」
さやか「…………」
ジャイロ「黒いなぁおまえさんの魂。これ、グリーフシードの土産。使いかけだけど」
さやか「…………」
シュゥ…
ジャイロ「浄化完了、と」
488: 2012/08/30(木) 22:19:24.34 ID:UCzHARH00
QB「ジャイロ。どうして君がここに……」
ジャイロ「おい、どういうことだキュゥべえ。こいつは何で落ち込んでいる?」
QB「僕は事実を話しただけだ」
ジャイロ「……そうかよ。ほれ。使用済みだ。くれてやるぜ」
ポイッ
QB「キュップー」パクッ
QB「……うん?」
グルゥッ
QB「あれ? どうして僕は後ろを向いているんだ?」
トテットテッ
QB「あ、あれ? 何が……? どうして僕の体は……」
ジャイロ「グリーフシードを回転させておいた。そのまま回転に操られて失せな」
QB「ぼ、僕は邪魔って、わけ、かい?」
ジャイロ「ああ。邪魔だ」
QB「わけがっ、わからっ、ないよっ、そうならっ、そうとっ、言ってっ、くれればっ、いいのにっ」トコトコ
489: 2012/08/30(木) 22:20:09.95 ID:UCzHARH00
ジャイロ「……」
さやか「……何の用?」
ジャイロ「魔女化を防いでやった感謝の言葉は?」
さやか「何の用、と聞いているのよ」
ジャイロ「…………」
ジャイロ「んー、なんだ。ちょっと聞きたいんだけどォ~」
さやか「…………」
ジャイロ「『さやさや』と『みきみき』……どっちが良いよ?」
さやか「…………」
ジャイロ「おいおいおい、聞いてんだろォ~がよォ~。もしもォ~し?」
490: 2012/08/30(木) 22:20:52.14 ID:UCzHARH00
ジャイロ「あのな? 魔法少女の歌があんだよ。作詞、作曲ジャイロ・ツェペリね」
ジャイロ「んで、おまえも魔法少女だから4番の歌詞として追加しようと思っているんだが……オホン、ン」
ジャイロ「さやか☆マギカ♪ さやか☆マギカ♪ ……の後が問題でよォ~~」
ジャイロ「さやさやさやさやさや……♪ もしくは、みきみきみきみきみきみき……♪」
ジャイロ「……どよ? どっちが良い? 美樹さやか。ちなみに1番の歌詞はほむら☆マギカとほむで繰り返しよ」
さやか「………馬鹿じゃないの」
ジャイロ「ノリが悪ぃな。じゃあ俺が勝手に決めるぜ。さやさやな。さやさや」
491: 2012/08/30(木) 22:22:07.84 ID:UCzHARH00
ジャイロ「さやさやさやさやさやさや♪」
さやか「……空気読んでよ」
ジャイロ「空気は吸うモンだ」
さやか「一人にしてっつってんの」
ジャイロ「嫌だね。家出少女は家に帰れ」
さやか「……魔法少女が魔女になるなら……みんな死ぬしかないんだよ。だったら、誰にも迷惑をかけずに……」
ジャイロ「魔女にならなきゃいい話だろうが。ほむらもマミも杏子も、全員そうやって生きてきた」
ジャイロ「大体、それを覚悟して契約したんだろうが。抜き差しならない状況だったとは言え、覚悟があるとおまえ言ったじゃあねーか」
さやか「他人事だと思って……!」
ジャイロ「つっても俺は既に死んでるからな」
492: 2012/08/30(木) 22:23:13.71 ID:UCzHARH00
さやか「死ん……? え?」
ジャイロ「不思議に思わないのか? 俺にキュゥべえが見えるのは」
ジャイロ「俺はな……『異次元の人間』だ」
さやか「ハァ?」
ジャイロ「今から百年以上前、俺は死んだ。そして魔女の力でこの世界に呼び出されたんだ。あの世からじゃあないぜ。多分」
さやか「……馬鹿じゃないの」
ジャイロ「じゃあ魔法少女でない俺にキュゥべえが見える理由を説明してみろよ」
さやか「……あんた、使い魔なの?」
ジャイロ「わからんね。ひょっとしたらそうかもな」
ジャイロ「異次元の死んだ魂を呼び寄せる魔女とかいても不思議じゃない」
493: 2012/08/30(木) 22:24:16.82 ID:UCzHARH00
さやか「…………怖い?」
ジャイロ「ん?」
さやか「死ぬって怖い?」
さやか「……あんたはどんな思いで死んだわけ?」
ジャイロ「……そうだな」
ジャイロ「…………」
ジャイロ「俺にはよォ……気の置ける奴がいるんだよ。生前の話な」
ジャイロ「そいつは俺の親友でもあり、回転の弟子でもあり、ライバルでもあった……。俺はそいつにできる限りのことを教えた。そして俺はそいつから多くのことを学んだ」
ジャイロ「はっきり言って凄い奴さ。俺はそいつを死後の今でも尊敬している。そいつとの出会いは偶然だが、今でこそそれは運命で、なるべくしてなったのだと信じている」
ジャイロ「で、話を戻すと……俺は自分の運命全てに納得していた。彼に出会えて、そして技術を託せたからな」
494: 2012/08/30(木) 22:25:45.24 ID:UCzHARH00
ジャイロ「だから、死ぬことそのものは、別に恐怖ってわけじゃなかったな」
さやか「…………ふぅん」
ジャイロ「おまえはどうなんだ」
さやか「…………」
さやか「……あたしが怖いのは」
さやか「あたしが怖いのは……魔女になること。あんなのと同じに……なること……」
さやか「だけど……それよりもっと怖いことがある」
さやか「それは未練があるということ。その未練ある限り、あたしは死にきれない」
さやか「それを解消さえできれば……死ぬのも魔女になるのも別に怖くないかもしれない」
さやか「その未練を克服する……今のあたしは、それが生き甲斐。それ以降なら……案外魔女になるのも受け入れられるかも」
ジャイロ「寂しい奴だねぇ」
さやか「うるさい! こんなゾンビみたいな体になって! あたしは! あたしは……!」
さやか「こんなことなら『魔法少女』なんて最初から知らなければよかったッ!」
さやか「奇跡も魔法も、なければよかったッ! 期待しなけりゃよかったッ!」
さやか「こんな体じゃキスしてなんて言えないよ……」
495: 2012/08/30(木) 22:26:16.99 ID:UCzHARH00
ジャイロ「…………」
ジャイロ「魔法はさておきだが」
ジャイロ「ツェペリ一族は奇跡の存在を信じている」
ジャイロ「おまえが魔法少女の素質を持ち、願いを叶える資格を得たことは奇跡だと思う。Dioにその奇跡を食いつぶされたがな」
ジャイロ「俺がこの世界に来れたのも、おまえ達と出会えたのも、奇跡だと思うし俺はそれに感謝しているんだ」
ジャイロ「俺はその奇跡に敬意を表して、その奇跡に報いたいと考えている」
さやか「…………?」
ジャイロ「俺は、医者でもある。手術の経験がある」
さやか「……だから、なに」
ジャイロ「恭介って坊主の腕を治せる可能性がある」
さやか「ッ!」ガタッ
496: 2012/08/30(木) 22:28:58.43 ID:UCzHARH00
ジャイロ「座ってろ。これは俺個人の気持ちだが……」
ジャイロ「Dioが潰した『感謝すべき奇跡』を何とかしてやりたいと思っているんだ。同じ異次元の者の責任としても、な」
さやか「……ほ、本当?!」
ジャイロ「回転の力で、断裂しているであろう神経を繋げるんだよ。実際に診てみないとわからんが……鉄球の回転があれば、可能性はある」
さやか「……ほ、ほんとなの!?」
ジャイロ「あくまで『可能性』だ。できないってことも考えられる」
さやか「そ、それは、まあ……失敗も……あるかもだし」
ジャイロ「それだけじゃあない。俺には障害が多すぎる」
さやか「……それって、どういう……?」
ジャイロ「まず、手術をするにあたって俺は無免許医師ってことになる。そりゃー生まれた世界が違うからな。闇医者ってやつ?」
ジャイロ「そんでもって『借りる』必要がある。器具や薬品やらをな。手術室だってねーし」
さやか「…………」
497: 2012/08/30(木) 22:29:45.24 ID:UCzHARH00
ジャイロ「何が言いたいかっつーと、ほむら達の協力は不可欠だ。おまえ一人じゃそれができない」
ジャイロ「……そしてそれを頼むのはおまえなんだ」
さやか「……ど、どうして!」
ジャイロ「理由を言わないといけないのか? 言わなきゃわからんのか?」
さやか「…………」
ジャイロ「おまえが頼めばほむらは動く。ほむらが動けば俺は動ける」
ジャイロ「さやかが治してくれって言ってたぜと俺がほむらに伝えて……それを誰が証明する?」
ジャイロ「ま、一番大切なのは彼の意志なんだが、とにかくおまえが言わなきゃならん」
ジャイロ「それと、闇医者の仲介人が必要だ。そいつは信頼される奴でないとならない」
さやか「…………」
ジャイロ「さぁ、どうする」
498: 2012/08/30(木) 22:30:29.82 ID:UCzHARH00
さやか(…………)
さやか(あたしが治癒魔法を極めれば……いつかは治せるようになるはずだ)
さやか(だけど……)
さやか(それはいつ?)
さやか(あたしはいつまで戦える? それまでに生きていられる? いつまでこんな生活できる?)
さやか(でも、頼めば……手術を依頼すれば……恭介の腕が……近い内に治る可能性がある)
さやか(手術ができない、失敗する確率と……あたしが死ぬ確率。どっちが上だ?)
さやか(いや……待て)
さやか(どうしてあたしは、手術をすること前提で考えているんだ?)
さやか(こいつが……あたしを懐柔しようと嘘を……可能性はある)
さやか「…………」
さやか「……転校生の差し金なんだな」
ジャイロ「あ?」
さやか「危なかったよ。魔女化の事実を聞いて衰弱した精神に、治せるかもという甘い言葉に……騙されるとこだった」
ジャイロ「…………」
499: 2012/08/30(木) 22:31:19.05 ID:UCzHARH00
まどか「もう、やめようよさやかちゃん……」
さやか「っ!?」
ほむら「美樹さやか。あなたはどこまで愚かなの」ファサ
マミ「美樹さん。あなたの戦い方、しっかりと見させてもらったわ」
さやか「ま、まどか……?! それに転校生……マミ、さん……!?」
まどか「さやかちゃんを……迎えにきたんだよ」
さやか「む、迎えに……? あたしを……?」
ほむら「あなたがここに来ることはわかっていた。だから先回りしたのよ」
さやか「…………」
500: 2012/08/30(木) 22:32:01.46 ID:UCzHARH00
マミ「美樹さん。帰ったら説教よ。不登校の件も含めてね」
さやか「……何が、説教ですか」
マミ「…………」
さやか「あなたは杏子の仲間でしょ!?」
さやか「あいつは間接的に人を殺している!」
さやか「鉄球の材料は廃材を盗んだもので!」
さやか「転校生は、魔法武器じゃない、本物の銃を使う。あれはどこかから盗んできたもの!」
さやか「銃器の窃盗なんて重罪じゃないですか!」
さやか「犯罪者! あなたはそいつらに味方してるッ! まどか! あんたもだ!」
まどか「さやかちゃん……」
ジャイロ「前の時間軸の持ち込みってんならよお――逆に罪はないんじゃあねーのォーッ」
さやか「は? 時間軸? 何を言って……」
マミ「美樹さん」
さやか「ハッ……」
501: 2012/08/30(木) 22:33:31.06 ID:UCzHARH00
パシンッ
さやか「……!」
まどか「ビンタ……」
ほむら「…………」
マミ「いい加減にしなさいよ。美樹さん」
マミ「あなたが勝手なことをして、どれだけの人が迷惑を被っているの?」
マミ「あなたのご両親、友達、幼なじみ、みんな心配しているのよ」
マミ「もちろん私達だって」
マミ「やむを得ない理由でゾンビみたいな体になったから幼なじみの子に顔を合わせられない?」
マミ「私は小さい頃、事故に遭って……死にかけたところをやむを得ず生きたいと願った……」
マミ「あなたも知らないはずはないわよね」
マミ「それって、生きたいと願った私を侮辱しているって解釈しちゃっていいの?」
さやか「…………」
502: 2012/08/30(木) 22:34:48.79 ID:UCzHARH00
マミ「私にはあなたが……自分が悪いことをしていると自覚していない真の邪悪に見える」
さやか「…………」
マミ「確かに、私の仲間のやったことは誉められたことじゃないわ。法では決して裁けない」
マミ「決して正当化するつもりで言うんじゃあないけれど、少なくともあなたがそれ攻める資格はないわ」
マミ「でもそうじゃない。魔法少女は誇り高きものだって話したのに……今のあなたときたら……」
マミ「イラっときたからって一般人に怪我をさせるし、何も知らない私達を利用して魔法少女の基本を身につけた」
マミ「しつこいようだけど、あなたはみんなを心配させて、気を使わせた」
マミ「あなたのご両親はきっと、娘を知らぬ間に傷つけてしまったのではないか、内なる悩みに気づけなかった……と心を痛めていることでしょうね」
マミ「両親がいるだけでも幸せなことなのに」
マミ「……ついでに言うとさらっと私のテリトリーを好き勝手に使ってくれたわよね」
マミ「私が言えたことじゃないけど、中学生だし、そういう自分で自分がわからなくなるのは仕方ないとは言え……」
マミ「何が救世主よ。笑わせてくれるわ」
さやか「…………うぅ」
503: 2012/08/30(木) 22:36:22.24 ID:UCzHARH00
さやか「……ってますよ」
マミ「何?」
さやか「わかってますよそんなの……」ポロポロ
まどか「涙……」
さやか「あたしがやってることが……間違ってるって……」
さやか「少し冷静になりゃあたしみたいな馬鹿でもわかりますって……」
さやか「でも……あたし、所詮馬鹿だから……気付いたところでどうすればいいのかわからない……」
さやか「恭介の怪我を、腕を治す気満々だったのにそれができなくなった途端、あたしは自信がなくなって……」
さやか「この体になったから、奇跡を起こせなくなったから……あたしは、何だか恭介が怖くなって……」
さやか「後悔しそうだから! 人を救ったことを後悔したら……! そんなことしたら……!」
504: 2012/08/30(木) 22:37:32.98 ID:UCzHARH00
さやか「あたしは覚悟をして、した契約なのに……『救わなきゃよかった』と考えちゃったら……」
さやか「後悔する前に誰かのせいにしないと、正当化しないと……あたしは……」
さやか「Dioはもういないから、杏子を否定しないと! あたしは、あたしは自分が最低最悪な存在だと認めてしまいそうで怖かった!」
さやか「あたしは救世主でいたかった! 正義の味方でいたかった! 悪者にはなりたくなかったんです!」
さやか「……マミさんも転校生もジャイロも……みんな否定しないとあたしの精神が耐えられない……!」
さやか「もう……もう本当は限界なんです……!」
さやか「魔女になるって知って……本当に、あたしはもうダメだって……ジャイロがいなかったら、みんながいなかったらあたしは本当に魔女に……!」
ジャイロ「…………」
さやか「ごめんなさい……許してもらえるとは思ってないけど、とにかくごめんなさい!」
さやか「ぐすっ……ごめんなさいぃ……うああぁぁぁ……うぅ……」
マミ「美樹さん……」
505: 2012/08/30(木) 22:39:01.45 ID:UCzHARH00
さやか「お願いします……あたしを、あたしを許してください……」
さやか「反省します……! 反省しています……!」
まどか「さやかちゃん……」
ほむら「…………」
マミ「……私達は、あなたを迎えに来たのよ」スッ
マミ「もし、あなたを見捨てるのだったら、魔女になる様を眺めてグリーフシードとして使わせてもらっていたわ」ナデッ
さやか「うぅ……本当に、申し訳ありませんでした……グスッ」
まどか「さやかちゃん。これ、使って……ハンカチ」
さやか「ぅん……まどか……ほんとにごめん……」
506: 2012/08/30(木) 22:39:49.09 ID:UCzHARH00
さやか「転校生……いや、ほむら……」
ほむら「何?」
さやか「ジャイロが医者って……本当? グスッ、信じていいの……?」
ほむら「えぇ。ジャイロは優秀な医者よ」
ジャイロ「モーチョー手術できるぜ」
さやか「どうか……どうか!」
さやか「恭介の腕を治して!」
さやか「……ください!」バッ
さやか「あたしの無念を……晴らすチャンスを……!」
さやか「お願い……します……!」
507: 2012/08/30(木) 22:43:30.28 ID:UCzHARH00
ほむら「…………」
まどか「…………」
ジャイロ「…………」
ほむら「……どうしましょっか」
マミ「暁美さん。あなたの意見を聞きましょう」
ほむら「…………」
ほむら「……私達が環境を用意しジャイロが手術する。美樹さやかはその代償に共闘する」
さやか「!」
ほむら「つまり、交渉するという形になるわ」
さやか「な、仲間……!?」
508: 2012/08/30(木) 22:44:05.46 ID:UCzHARH00
ほむら「近い将来、この街にワルプルギスの夜という魔女が現れる」
ほむら「簡単に言えば伝説の魔女。その強さは計り知れない」
ほむら「私は、その魔女を倒さなければならない」
ほむら「そこで、あなたを戦力として引き入れるということよ」
さやか「ワルプルギス……」
さやか「…………」
さやか「あたしが……仲間?」
ほむら「そう。戦力よ」
さやか「…………」
509: 2012/08/30(木) 22:45:05.78 ID:UCzHARH00
さやか「……あたしはあんたを殺そうとした。それに、魔女に簡単になりうるよ……さっきだって、下手したら……なってた」
さやか「そんなあたしが……仲間だなんて……」
ほむら「あなたが『NO』と言うなら、取引は無かったことになるし、そもそもあなた、それからどうやって生きるの?」
さやか「そ、そんな……!」
さやか「あ、あたしは召使いだろうがパシリにだろうが、何にだってなってやるさ! だけど……共闘は……!」
ほむら「あなたが躊躇する理由は覚ってあげるけど、私は、あなたを見捨てることに躊躇はない。ここは私達のテリトリーだけど、街を出ていくつもり?」
さやか「う、うぐぐ……」
まどか「……わたしも、同意見だよ。さやかちゃんは友達だけど……そういう交渉だもの。さやかちゃんが、今のままでいいなら……止められない」
さやか「ま、まどかまで……」
マミ「厳しいことを言うようだけど、私もよ。迎えに来たとは言ったけど、それと仲間にするしないは別の話」
さやか「うぅ……マ、マミさん……!」
さやか「あ……あたしは……」
510: 2012/08/30(木) 22:46:39.36 ID:UCzHARH00
さやか「あたしなんかが……入ったら……」
さやか「杏子に……きっと恨まれてるんだよ。あたし」
さやか「だから……必ずみんなに迷惑をかける……。派閥内で啀み合いが発生すれば……」
さやか「不信は……命取りになる。あたしはそれがイヤなんだ。足手まといになりたくない」
さやか「今更踏み込めないよ……みんなの輪に入れない……乱したくない……!」
ジャイロ「おまえの心情はどうでもいいが……俺ら四人はおまえができないと言うなら仕方ないという意見だ」
ジャイロ「四人は……な」
さやか「よ、四人『は』……?」
「……さやか」
511: 2012/08/30(木) 22:47:48.02 ID:UCzHARH00
さやか「え……」
杏子「……久しぶり、だな」
さやか「きょ、杏子……」
杏子「あたしも確かに、誉められるようなことは一切していない」
杏子「あんたの言う邪悪だという自覚がある」
杏子「別にあんたに許してもらおうだなんて思わないし、許してやるだなんて言わないけどさ……」
杏子「あたしは反省したんだ。使い魔を見逃したのも、見滝原を乗っ取ろうと考えてたことも」
杏子「……半歩だ」
杏子「さやかが一歩を踏み出せないと言うのなら、あたしの方から――半歩だけ近づくよ。ほむらもあたしに半歩だけ近づいてくれた」
さやか「…………」
杏子「全てはさやかの決断にかかっているが……それでも無念がさやかの脚を重くするってんなら、あたしもそれを共に背負っていく」
杏子「信用するしないわどっちでもいい。だが、ほむらに、あたし達に力を貸してほしいんだ」
さやか「うぅ……」
512: 2012/08/30(木) 22:48:29.54 ID:UCzHARH00
ほむら「彼女は使い魔を見逃すなりしてきてまで溜めたグリーフシードを全て私達に提供した」
さやか「……!」
マミ「そして佐倉さんは私の家に暮らす……帰る場所を手に入れた」
マミ「彼女は命を賭けて戦ってくれると誓ってくれたわ」
マミ「私達は絶望的と言われた幼なじみのための手術の場を提供する。その代わりにあなたは何を捧げてくれる?」
ジャイロ「俺は、Dioのヤローで無駄になっちまったおまえの無念を晴らしてやりたいと、思ってはいる」
ジャイロ「だが、じゃあ手術しようっつってしちまったら、誰も納得しない。だからしなかった」
ジャイロ「納得しなければ前へ進めないんだ。俺達もおまえも」
まどか「さやかちゃん。さやかちゃんを迎えにいくって言い出したのはほむらちゃんなの」
まどか「この場所のことも知っていた。そこにさやかちゃんがいることも……」
まどか「ほむらちゃんは、さやかちゃんを救いたいって思ってくれてるんだよ」
まどか「……ううん、『を』じゃなくて『も』……。マミさんも杏子ちゃんもわたしも……みんなを助けることを考えてくれている」
まどか「だから、今度こそ、謝ろう?」
さやか「…………」
513: 2012/08/30(木) 22:49:50.23 ID:UCzHARH00
さやか「みんな……あたしのために色々やってくれてたんだね……」
さやか「それなのにあたしってば……」
さやか「あたしって、ホント馬鹿……」
さやか「みんな……特にほむら。本当に……ごめんなさい」ドゲザ
ほむら「…………」
さやか「好き放題やったから、今、許してもらおうだなんて思わないけどさ……謝らせて」
さやか「あんたのこと誤解してたし……すぐにあんたをやっぱ敵だって思ったり……迷惑ばかりかけて……」
さやか「本当にごめん」
ほむら「…………」
ほむら「……あなたの失踪は『誘拐事件も視野にいれた家出』ということになっている」
ほむら「今すぐに帰りなさいと、言いたいところだけど今日はマミの家に泊まって、明日病院に来なさい」
マミ「え? 私の家? 聞いてない……。いえ、別にいいんだけど……」
ほむら「もう一日、学校をサボってもらう」
ほむら「病院で手術の話をしてもらうから。それと、ご両親に連絡の一つでも安心させておくように」
さやか「……うん」
514: 2012/08/30(木) 22:50:22.47 ID:UCzHARH00
――ほむら宅
まどか「さやかちゃん……誤解が解けて本当によかったね」
ほむら「そうね。手遅れにならなくてよかった」
まどか「さやかちゃん、今どうしてるかなぁ」
ほむら「説教を受けてるところじゃないかしら」
まどか「マミさん心配してたもんね」
ほむら「いえ、両親のことよ。電話か何かで延々と」
まどか「そっちなら……家出ってことで色々悩みを聞いてたりしてるんじゃないかな」
ほむら「さやかの両親を知らないから何とも言えないわ」
まどか「ウェヒヒ、それもそうだね」
515: 2012/08/30(木) 22:51:43.34 ID:UCzHARH00
まどか「これからどうするの?」
ほむら「そうね……。さっき話した通り、明日さやかとジャイロが手術の話をするわ」
まどか「どんな感じにするの?」
ほむら「まずジャイロが闇医者ということになる。だから闇医者、患者、依頼人の三人で話をさせるわ」
まどか「そ、そうなの……」
ほむら「まどかは普通にお見舞いしてちょうだい」
まどか「う、うん……。ほむらちゃんは?」
ほむら「見舞いするしないはともかく、私も病院に行くわ」
ほむら「さやかをつれてくから目立たせないためにも早退することにするわ」
ほむら「手術の予定の有無とか監視カメラの場所とか調べないといけないものね」
まどか「……へ、へぇ~」
516: 2012/08/30(木) 22:53:31.17 ID:UCzHARH00
ほむら「そろそろ寝ましょうか?」
まどか「そうだね」
ほむら「まどかは私のベッドを使って」
ほむら「私は隣でお布団敷いて寝るわ。でも室内で寝袋を使うのも一興かもしれないわね」
まどか「寝袋?」
ほむら「杏子と一緒にホームレス生活してみた時間軸があったからよ」
ほむら「ちなみに今はベッド置いているけど、お布団で寝たい気分になればベッドを盾にしまってお布団で寝ることもできる」
ほむら「実はたくさんの時間軸を遡行する上でこういう変化を持たせたりしてるのよ」
ほむら「ハンモックを自作しちゃったりして」
まどか「なるほど……スゴイうらやましいね……ところでほむらちゃん」
ほむら「なに?」
517: 2012/08/30(木) 22:55:18.64 ID:UCzHARH00
まどか「一緒に寝よ?」
ほむら「へ?」
まどか「だからぁ、ほむらちゃんのベッドに二人で……」
ほむら「そ、それはちょっと……」
まどか「えぇ~でも寝袋はどうかと思うよ? ほむらちゃんちなのに」
ほむら「一緒に寝るとなると恥ずかしいわ……そもそも寝袋で寝るだなんて言ってないし」
まどか「……えいっ!」
ギュッ
ほむら「あっ、ちょっと……」
518: 2012/08/30(木) 22:55:45.73 ID:UCzHARH00
まどか「えへへ……わたし、ぬいぐるみとかに抱きついて寝るの好きなんだ」
ほむら「えぇ……知ってるわ」
まどか「不安な時とか、何かに抱きついてると落ち着いて……」
ほむら「そう……」
まどか「…………」
ほむら「……わかったわ。一緒に寝ましょう」
まどか「ウェヒヒ、やったぁ。うれピー」
ほむら「もう……。電気消すわよ」
まどか「うん」
519: 2012/08/30(木) 22:56:29.06 ID:UCzHARH00
ほむら「大丈夫? 狭くない?」
まどか「大丈夫だよっ。わたし小さいもん」ギュー
ほむら「そう? ならいいけど……さも当然のように抱きついてくるのね」
まどか「……ほむらちゃんあったかい」
ほむら「何だか……やっぱり恥ずかしいわ……」
まどか「ウェヒッ」
ほむら「……ふふ」
まどか「……ほむらちゃんってほんとに優しいよね」
ほむら「ん? 急にどうしたの?」
まどか「だって、いつも気遣ってくれるもん」
まどか「さやかちゃんをマミさんの家に泊まらせて二人きりにしてくれるし……」
ほむら「ふ、二人きりって……私は別に杏子との親睦を深めさせるつもりで……」
まどか「ウェヒヒ、わかってるよ。ちょっとからかってみただけ」
ほむら「もう……」
520: 2012/08/30(木) 22:57:21.95 ID:UCzHARH00
ほむら「言っておくけど、私は優しくなんかないわ……まどかが特別なだけよ」
まどか「そんなことないよ。だって、さやかちゃんのことだって、色々頑張ってくれたじゃない」
まどか「杏子ちゃんだって面倒見てあげてたし、マミさんを助けようと戦った」
ほむら「この時間軸だって、ジャイロから言われなかったらマミも杏子もさやかも、いざという時は見捨てるつもりだったのよ」
ほむら「あなたを救うことを一番に考え、あの三人は、犠牲になるというなら、それはまあ仕方がない……」
ほむら「その程度のとらえ方しかしていなかったのよ」
ほむら「私は一つの目的のためにその人間性までも捨てる」
まどか「ううん……。そんなことない……」
まどか「そういうことを言っていても、本心ではみんなを救いたいって……」
ほむら「……望むだけなら誰にでもできる」
まどか「…………」
521: 2012/08/30(木) 22:58:49.59 ID:UCzHARH00
まどか「ねぇ、ほむらちゃんは、どこにも行かないよね?」
ほむら「……え?」
まどか「……たまに、ほむらちゃんが遠くへ行っちゃうそうな気がするの」
まどか「みんなで一緒にいたいのに、ほむらちゃんだけ、何も言わずにスッと消えてっちゃいそうな、そんな感じがするの」
まどか「どこかで、そんな感じの夢を見た気がするからかな……」
ほむら「…………」
ほむら「……大丈夫よ。今はあなたの側にいるから」
まどか「今は……?」
ほむら「さっ、明日は色々忙しい、学校だってあるんだからもう寝ましょう。私も疲れてるし」
まどか「えっ、あっと……」
ほむら「おやすみなさい。まどか」
まどか「……う、うん。おやすみ……」
まどか「……」
まどか(むぅ……せっかくのお泊まりなのに……。もっとお喋りしたいかったなぁ)
522: 2012/08/30(木) 23:00:47.96 ID:UCzHARH00
ほむら(……ごめんね。まどか)
ほむら(今の流れで……これ以上、これ以上話すと……)
ほむら(弱い私をさらけ出してしまいそう……。あなたに弱い私を見せたくない)
ほむら(だから、せっかくのお泊まりなのに、お喋りを無理にうち切って……本当にごめんね)
ほむら(あなたの優しさは……本当に、美しい、誇るべきものよ)
ほむら(でも……今の私には……それが辛いの)
ほむら(ジャイロに言われなかったら……最初から見滝原を去るつもりでいた私にとっては……)
ほむら「…………」
夜の見滝原には、剣(一説には刀)を持った中学生くらいの少女が現れる。という噂がある。
切り裂きジャックならぬ、スクワルタトーレ・アズーロ(青い切り裂き魔)と呼ばれ、無闇に絡まなければ危害はないとされる。
いくつか目撃情報があり、怪我をして血まみれだったり、無傷であったりとその姿は極端。
べっこう飴が好物だとかポマードと言うと逃げるだとか、多様な噂が尾ひれに付いていく。
見滝原の七不思議。その④
535: 2012/08/31(金) 21:11:13.13 ID:10Mt/YiY0
――病院
恭介「…………」
コンコン
恭介「……誰?」
「可愛い女の子と思った? 惜しい。さやかちゃんでした」
恭介「!?」
さやか「やっほ」
恭介「さ、さやかッ!?」
さやか「……えへ、久しぶり」
さやか「はい。お見舞い。抹茶クリーム団子」
536: 2012/08/31(金) 21:11:44.19 ID:10Mt/YiY0
恭介「さやかッ! 行方不明になったって聞いて心配したんだよ!」
恭介「どこに行ってたのさ!? 今まで何を……」
さやか「……恭介も心配してたの?」
恭介「当たり前じゃないか!」
さやか「そっか……うん。色々あってね」
恭介「説明してくれないかな。その色々を」
さやか「ひと口サイズのお餅で蜜のようなごまとかクリームがくるんであるんだよね」
さやか「ごま蜜団子が王道だけど抹茶クリーム味買ってみた。『敢えて』だ……敢えて別の味にした」
恭介「その説明じゃないよッ!」
さやか「あはは……冗談だよ」
恭介「誘拐事件かもしれない」
恭介「……って言うもんだから、警察の人に何か知らないか聞かれたよ」
さやか「そっか……迷惑かけてほんとにごめんね」
537: 2012/08/31(金) 21:12:40.87 ID:10Mt/YiY0
恭介「……さやか」
さやか「うん? 何?」
恭介「ごめん……ってどういう意味なんだい?」
さやか「え?」
恭介「いつだったかな、髪の長い人が尋ねてきて……」
恭介「さやかが謝ってたって言ってたんだけど……あれからさやかは見舞いに来てくれなくなったね」
恭介「いや、何だかその辺の記憶が曖昧なんだけど……」
さやか「じゃあ夢じゃないかな」
恭介「そ、そうかい? うーん……」
恭介「それよりも、学校でも大騒ぎだっただろう」
538: 2012/08/31(金) 21:13:54.23 ID:10Mt/YiY0
さやか「あ、学校には行ってないよ。実を言うとまだ家にも帰ってない」
恭介「な、何だって!?」
恭介「だったらすぐに帰るべきだよ!」
さやか「もちろん帰るけど、今は色々あるんだよ」
さやか「ところで恭介、あたしがお見舞いに来れなくてボッチ生活だった?」
恭介「いやいや……クラスの友達も来てくれたよ。中沢くんとか……。特に志筑さんは本当気を使ってもらったし」
さやか「仁美が……仁美にも心配かけたなぁ」
恭介「彼女には会ったかい?」
さやか「いや、まだだよ」
さやか「次からちゃんと学校に行くからね。うん。もう大丈夫」
恭介「そうかい……? ならいいんだけど」
539: 2012/08/31(金) 21:14:51.68 ID:10Mt/YiY0
さやか「……ねぇ、恭介」
恭介「何だい?」
さやか「その腕、さ……」
恭介「……言わないでくれ。もう、望みはないって言われたんだ。希望もないし、奇跡も起きない」
恭介「さやかも知らないことはないだろう……?」
さやか「もし、治るとしたら……それは本当に恭介の望み?」
恭介「……当たり前じゃないか」
さやか「治るなら……何でも捨てられる?」
恭介「ばっ、馬鹿にしないでくれ……。音楽は僕の全てだからね」
恭介「僕は今マイナスなんだ。……ゼロに向かって行きたい」
恭介「せめてチャンスを手に入れて、自分のマイナスをゼロに戻したい」
さやか「そう。わかってるよ」
恭介「さやかは僕を苛めているのかい?」
540: 2012/08/31(金) 21:15:28.90 ID:10Mt/YiY0
さやか「……もし」
さやか「もし、その腕が治るとして……」
さやか「それが誰かの魂とかと引き替えに、とかだったら……どうする?」
恭介「え……?」
さやか「例えば……そうだな。あたしでいいか。あたしが化け物か何かになる代わりに、腕が治るとしたら……どうする?」
恭介「……な、何を言っているんだい?」
さやか「例え話だってば。『た・と・え・』だよ」
恭介「……へ、変な話はしないでくれ! 所詮は例え話じゃないか……ッ。気分が悪いよ。ほんと」
さやか「そだね……ごめん」
541: 2012/08/31(金) 21:16:06.89 ID:10Mt/YiY0
さやか「……こっからが本題なんだ」
恭介「え?」
さやか「たった一つだけ、あるんだ」
恭介「一つ? 何が……?」
さやか「ただ、覚悟が必要になるね。恭介に、そういう覚悟はある?」
恭介「……何が、言いたいんだい?」
さやか「あたしの知り合いの知り合いにさ……まぁ、なんつーか……」
さやか「うーん。良い言葉が思いつかないけど……闇医者がいるんだよね」
恭介「!?」
さやか「あたし馬鹿だから詳しくないけどさ……無免許だけど……それはもう何かすごい技術があるの」
さやか「もう見込みがないと言われた恭介の腕も……可能性がある。あくまで可能性」
542: 2012/08/31(金) 21:17:12.23 ID:10Mt/YiY0
さやか「今の段階で、腕を治せるかもしれない唯一の方法だよ……」
恭介「……!」
さやか「どう? 賭けてみたい?」
恭介「ま、まさか、さっきの例え話って……」
さやか「…………」
恭介(あの失踪は……その人を捜して……?)
さやか「答えて」
恭介「…………」
恭介(闇医者……さやかを犠牲にしてまで、この、腕を……?)
恭介(さやかが犠牲だって……? 想像するだけで怖気がする)
恭介「じょ、冗談はよしてくれ……」
さやか「冗談なら、こんな話はしない」
恭介「…………冗談と言ってくれ」
さやか「マジだよ」
恭介「そんな冗談は笑えないって!」
さやか「冗談なんかじゃないッ!」
恭介「……ッ!」
543: 2012/08/31(金) 21:18:37.64 ID:10Mt/YiY0
恭介「…………」
恭介「……それなら、いい」
さやか「……え?」
恭介「卑怯だよ……。さやかを犠牲にしろなんて……。さやかは大切な友達だ」
恭介「そこまでして、さやかに辛い目を合わせてまで腕を治すだなんて……」
恭介「僕は必ず後悔する。……そこまでして腕は、いいよ」
さやか「恭介…………」
恭介「ごめんよ……せっかく捜してくれたのに」
さやか(……え? 捜す? 何を?)
恭介「さやかを失うくらいならこの腕を受け入れるさ。……そんなこと、できるわけがない」
恭介「……まさか、さやかをそこまで心配をかけさせていたなんて……本当にごめんよ」
さやか「そっか……。ありがとう……」
544: 2012/08/31(金) 21:19:10.48 ID:10Mt/YiY0
さやか「だってさ。ドクター」
恭介「え?」
「失礼するぜ」
恭介「え、え……!?」
ジャイロ「勝手なことを言うようだけどよォ~……別の生き甲斐を見つけるとか……そういう意志はないのか?」
ジャイロ「俺はQ太郎・ジョースターだ。もちろん偽名だ。で……さやかが言った通り、俺らはちょいとした知り合いだぜ」
さやか「クラスのみんなには内緒だよ」
恭介「…………」
恭介「……あれ?」
恭介「失礼ですが……あの……ジョースターさん。どっかでお会いしたことありませんでした?」
ジャイロ「……覚えがないならないんだろ」
恭介「は、はぁ……」
恭介(夢か何かで、会ったような……)
545: 2012/08/31(金) 21:20:06.73 ID:10Mt/YiY0
ジャイロ「さて、俺は『納得』が全てを優先すると考えている」
ジャイロ「おまえさんの腕を治すこと、それは正しいのか、納得する必要がある」
ジャイロ「おまえが自分のためなら他人を省みないような野郎か否かとか、覚悟があるかとかを判断する」
ジャイロ「そしておまえはそれなりの覚悟があると見受けられた」
ジャイロ「ちなみに今の例え話の下りはそういう冗談だ。嘘も方便ってな」
恭介「そ、そうなのか? さやか」
さやか「うん」
ジャイロ「部分的にはな」
恭介「え?」
ジャイロ「いや、何でもない」
546: 2012/08/31(金) 21:20:33.21 ID:10Mt/YiY0
ジャイロ「いいか、ミスター上条」
ジャイロ「この手術。保険がなければ、成功する保証もない。失敗すればそれなりのリスクを負うかもしれねぇ」
ジャイロ「それこそ、今後の『表』の医学が発展してやっぱり治すことができるようになったとして……」
ジャイロ「その治療が受けられないかもしれない」
ジャイロ「それにしつこいようだが、治せる可能性があるだけだ」
ジャイロ「実際によく診てみないことには治せるか否かはわからない」
ジャイロ「やっぱ無理だったとなったら、おまえさんを『一度希望を持たせておいて突き落とされた』と落ち込ませるだけかもしれねぇ」
ジャイロ「どうだ? それでも、受けてみっか? あぁ、費用は心配しなくていい」
恭介「…………」
さやか「あたしは……受けてみてもいいと思うな」
548: 2012/08/31(金) 21:21:02.92 ID:10Mt/YiY0
さやか「他人事みたいにって思うかもしれないけどさ……もし無理なら無理で途中でやめてもらえるんだし……」
さやか「あたし、こないだまで恭介がまたバイオリンを弾けるようになることが一番の望みだっ
さやか「でも……やっぱり恭介が元気なのが一番なんだなって気付いたよ」
さやか「受けないのもいい。受けて失敗したとしても。あたしは恭介を支えるよ。依然変わりなく」
恭介「…………」
恭介「……さやか」
さやか「何?」
恭介「ネットにひっかかったボールはどちら側に落ちるのか?」
恭介「……何もしなければ永久に闇に浮かんだまま。どちらにも落ちない」
恭介「かと言って、結局のところネットに弾かれたテニスボールはどっちに落ちるのかだれにもわからない」
恭介「そんな時こそ……いてほしいのが女神なんだよ。それならどっち側に落ちても……納得がいく」
549: 2012/08/31(金) 21:21:54.79 ID:10Mt/YiY0
恭介「さやかを女神と言うには誤用の方の役不足だけどさ……」
さやか「何だよそれぇ! さやかちゃん女神だろ!」
恭介「も、もし……もし治せなかったら……手術に失敗して本当に望みが絶たれたら……」
恭介「ボールが自分のコートに落ちた時……別の生き甲斐を探すのを手伝ってくれないかな……」
恭介「引っ張ってほしいんじゃあない。支えてほしいとも言わない」
恭介「手伝ってくれれば……後押ししてくれればそれでいい」
さやか「あぁ……うん。わかってるよ」
さやか「でも、失敗したら、でしょ? 祈ろうよ。ネットに弾かれたボールが相手のコートに落ちることを」
恭介「……ああ。僕は奇跡の存在を信じることにする」
550: 2012/08/31(金) 21:22:30.47 ID:10Mt/YiY0
さやか「奇跡も魔法も、あるんだよ」
ジャイロ「俺のは『技術』だがな。で、手術を受けるつもりなんだな?」
恭介「……はい!」
ジャイロ「それじゃ、準備を今からするとして……今夜にでも」
恭介「こ、今夜!? いくらなんでも急すぎじゃ……!?」
ジャイロ「とにかく今夜だ。これからおまえさんのお友達が来るけど、そいつらにも秘密だぜ」
ジャイロ「じゃあな」
恭介「は、はぁ……よろしくお願いします」
さやか「うん。ありがとう。ドクター」
551: 2012/08/31(金) 21:23:04.29 ID:10Mt/YiY0
「あっ」
ジャイロ「おっと、しつれい。ぶつかっちまったかい?」
「い、いえ……」
ジャイロ「そうかい」
さやか「およっ」
恭介「この声は……」
仁美「し、失礼します」
仁美「こんにちは、上条く……」
さやか「…………」
仁美「え……!?」
仁美「み、美樹さんッ!?」
恭介「志筑さん……」
552: 2012/08/31(金) 21:23:46.19 ID:10Mt/YiY0
さやか「や、やぁ、仁美……心配かけたね……」
仁美「い、いつ……! いつ帰ってきたんですか……!?」
さやか「昨夜……だね」
仁美「みんな心配してたんですよ!? 何をしてたんですか!?」
恭介「志筑さん!」
仁美「!」
恭介「さやかにも……色々考えることがあったんだ。十分反省しているようだし……攻めないであげて」
さやか「恭介……」
仁美「……か、上条くんがそうおっしゃるなら……」
仁美「あの、上条くん。来て早々申し訳ないのですが、少し美樹さんと二人で話したいことが……」
さやか「え?」
恭介「ああ、僕のことは気にしないで。ゆっくり話しておいで」
仁美「ありがとうございます。そんな時間はかけませんので……」
さやか「仁美……」
仁美「美樹さん。ちょっとツラ貸してくださいまし」
さやか「お、おう……。もしかして怒ってる?」
553: 2012/08/31(金) 21:24:19.38 ID:10Mt/YiY0
廊下
ジャイロ「――と、いうわけだ」
ほむら「えぇ。わかったわ。それじゃ、よろしく頼むわね」
ジャイロ「おまえこそな。じゃ」
ほむら「えぇ」
ほむら「…………」
まどか「ほむらちゃんっ!」
ほむら「まどか。来てたのね」
まどか「うん! 仁美ちゃんも来てるよ~」
まどか「それで……さやかちゃんは?」
ほむら「今夜の患者とお話してるんじゃないかしら」
まどか「患者……と、いうことは……」
ほむら「ええ……。しゅじちゅ決定よ」
まどか「あ、噛んだ」
ほむら「///」
まどか(かわいい)
554: 2012/08/31(金) 21:24:48.99 ID:10Mt/YiY0
まどか「それで、大丈夫なの?」
ほむら「え、ええ。話をつけたわ。彼も覚悟を……」
まどか「そうじゃなくて、しゅじゅちゅの準備……わ、わたしも噛んじゃった///」
ほむら「ふふ。可愛らしいわ」
ほむら「とにかく、その辺り大丈夫よ。監視カメラや間取りを把握したわ。流石に中までは入れなかったけど」
ほむら「今夜はしゅぢゅちゅの予定はないし、急患が五、六人一気に搬送されない限り問題ない」
まどか「そっか。ねぇ……わたしに力になれること、何かないかな?」
ほむら「そうね……。……成功を祈る。それでいいんじゃない?」
まどか「……そうだね。わたし、上条くんのしゅずちゅが成功するようお祈りする!」
ほむら「それがいいわ。……それじゃ、私は帰るわね」
まどか「えー、もう帰っちゃうの?」
ほむら「ジャイロ達と打ち合わせするのよ」
まどか「そっか……。しゅじつ、頑張ってね!」
ほむら「ええ、もちろん」
555: 2012/08/31(金) 21:25:26.94 ID:10Mt/YiY0
さやか「えーっと……」
仁美「美樹さん……」
さやか「いや、ほんと、みんなには迷惑かけて申し訳ないと思ってるよ……」
さやか「本当に面目ない」
仁美「ち、違うんです……私が言いたいことは……」
さやか「うん?」
(ずっと前から私……上条くんのこと、お慕いしておりました……)
(それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません)
さやか「……? 仁美?」
仁美「…………」
仁美「わ、私……」
仁美「私……!」
556: 2012/08/31(金) 21:26:11.91 ID:10Mt/YiY0
仁美「さ、寂しかった……」
仁美「……んですから」
さやか「そ、そっか……ほんっ……とに、ごめんね」
仁美「…………」
さやか「し、しかし、寂しかったか……あはは、仁美ったら可愛いねぇ!」
さやか「仁美もあたしの嫁になるのだぁ~」ナデナデ
仁美「……っ!」
仁美「やめてくださいッ!」
さやか「えっ……」ピタッ
仁美「あ……そ、その……鹿目さんはともかく、私には……」
さやか「そ、そっかぁ……ご、ごめんね?」
さやか「えーっと……話って終わり?」
557: 2012/08/31(金) 21:26:44.93 ID:10Mt/YiY0
さやか「あたし、恭介に挨拶もしたし、今日はもう帰ろうかなって……親も心配してるだろうし」
仁美「え、えぇ……あの、まぁ……すみません。わざわざ引き留めて」
さやか「あはは、気にしない気にしないっ」
さやか「じゃあ、その……また、学校でね」
仁美「は、はい……さようなら」
さやか「うん……」
仁美「…………」
仁美「…………思わず、大声出しちゃった」
558: 2012/08/31(金) 21:27:23.21 ID:10Mt/YiY0
仁美(……何故)
仁美(何故、私は言えなかったのでしょうか。上条くんが好きであることを……)
仁美(もしかして、美樹さんに引け目を感じている?)
仁美(私は、美樹さんを心配していた上条くんを見ていた。美樹さんがいない間、告白は絶対にしないと誓っていたけど……)
仁美(本気で心配している上条くんに、美樹さんがいない間に少しでも良く思われたいと考えてしまっていた背徳感?)
仁美(美樹さんが帰ってきたことがわかって……一瞬だけ、美樹さんがいない状況を惜しんでしまったという罪悪感?)
仁美(……何故言えなかったのか。冷たくしてしまったのか。そこのところがよくわからない……)
仁美(親友である美樹さんが戻ってきた。とても嬉しいことなのに、心から喜べていない奇妙な私がここにいる)
仁美(……必ず)
仁美(必ずいつか、宣戦布告する)
559: 2012/08/31(金) 21:28:14.15 ID:10Mt/YiY0
仁美(……ただし帰ってきて慌ただしい中、思いを伝える猶予を一日だけ与えましょう。というのも卑怯な話……。美樹さんも動揺するだろう……)
仁美(予定を変更する)
仁美(全てが落ち着くまでは……お互い、上条くんに絶対告白してはいけない。抜け駆けはしない。告白は「その全てが落ち着く日」が過ぎてから早い者勝ち)
仁美(そのルールを持って、宣戦布告をする。私と美樹さんは恋敵という関係だということを宣言する)
仁美(全てが落ち着く日は……美樹さんに決めさせる)
仁美(これは失踪した美樹さんを差し置いて上条くんに少しでもよく思われようとした、上条くんに心配されているのに少しでも嫉妬してしまった自分への罰)
仁美(ルールは絶対。私は絶対破らないし、美樹さんもそういうルールは必ず守るという性格)
仁美(……たまに美樹さんは私の知らない世界で生きているような気がするけど……そういう性格であることは胸を張って言える。親友だから)
仁美「……しかし」
仁美「お見舞いに持ってきた……抹茶クリーム団子16コ詰めセット」
仁美「まさか美樹さんが同じ物を買ってきていただなんて……しかも味まで」
560: 2012/08/31(金) 21:28:43.94 ID:10Mt/YiY0
――深夜の病院
ほむら「マミ」
マミ「えぇ」
シュルッ
カチャ
マミ「リボンを窓の隙間から通して鍵を開けた」
ほむら「マミは彼を抱えて。時を止めて待ち合わせ場所に一気に行くわよ」
マミ「えぇ。わかったわ」
ほむら「それにしても、いつぞや私を犯罪者呼ばわりしてたあなたが建造物侵入罪と誘拐紛いだなんてね」
マミ「懐かしいわね。でもこれは人助けだからいいのよ」
ほむら「……あぁ、そう」
561: 2012/08/31(金) 21:29:33.36 ID:10Mt/YiY0
――外
ジャイロ「さやか。来たか。遅いじゃあねーか」
さやか「ごめんごめん。親に色々言われてさー。お話終わってそく抜け出して来たよ」
杏子「……よぉ」
さやか「あ、うん……」
ジャイロ「おい、さやか。持ってきたか?」
さやか「う、うん……これでいいかな」
ジャイロ「ああ。悪くない」
杏子「……何だそれ?」
さやか「花」
杏子「それは見て分かる。……何でだ?」
ジャイロ「見舞いだ。見舞い」
杏子「その意図は何となくわかるけど……」
さやか「あたし、力になりたくて……でも、医療とかさっぱりだから……せめてと思って、ジャイロがじゃあ持ってこいって……」
杏子「そうかよ。何でもいいけど。ほら、忍び込むぞ」
562: 2012/08/31(金) 21:30:07.54 ID:10Mt/YiY0
さやか「……大丈夫なの?」
杏子「鍵はほむら達が何とかしてくれている」
さやか「そうじゃない。監視カメラとか……」
杏子「あたしは何度もホテルに忍び込んでいし、あんたの学校にも忍び込んだこともある」
さやか「へぇ……って学校にも来たの!? まぁいいけど……で、どうするの?」
杏子「あたしの固有魔法は幻影・幻覚だ。魔法の力で監視カメラや警備員は侵入者に気付かない」
杏子「本当は幻術なんか使いたくないんだけどな……とにかく、そのまま堂々と歩けばいい」
さやか「……」
ジャイロ「だ、そうだ。ほれ、いくぞ」
563: 2012/08/31(金) 21:30:46.00 ID:10Mt/YiY0
――手術室前
ほむら「揃ったわね」
マミ「こんばんは。みんな」
さやか「マミさん……」
ほむら「……さやか、何よ。その花は」
杏子「ジャイロが持ってこさせたらしい」
ほむら「ジャイロは……まぁ何するかわからないからいいわ。美樹さやか。あなたはどうして愚かなの」
さやか「え、この花ダメなの? でもジャイロが葉っぱが大きければなんでもいいって……」
ほむら「花のことじゃない。鉢植えよ。お見舞いに鉢って、常識というものが……」
マミ「まあいいじゃない」
564: 2012/08/31(金) 21:35:50.94 ID:10Mt/YiY0
マミ「胡蝶蘭ね」
さやか「花言葉は『幸福が飛んでくる』だそうです!」
マミ「ピンク色だから『あなたを愛します』って意味もあるわよ」
さやか「!?」
ほむら「お熱ね」
さやか「そ、そんなつもりじゃ……///」
さやか「あぅ……おのれまどかめ……! お見舞いの花を聞いたら『胡蝶蘭のピンクがいいよ』とか言いよって……!」
マミ「鹿目さん……」
565: 2012/08/31(金) 21:36:22.43 ID:10Mt/YiY0
ガチャ
ジャイロ「おい、準備できたぜ」
さやか「え、あの……その格好でやるの? なんか、そういう服あるじゃん。緑色の」
ジャイロ「大丈夫。普段着でも魔法で無菌状態だ」
マミ「手術着のロッカーの鍵はリボンじゃこじ開けられないの」
ほむら「ピッキングもずっとやってないからやり方忘れちゃったわ」
さやか「…………」
ほむら「……さて、杏子。引き続き幻影を使って私達の存在を覚らせないようにして」
杏子「ああ。わかった」
マミ「グリーフシードはここに置いておくわ」
567: 2012/08/31(金) 21:36:56.45 ID:10Mt/YiY0
さやか「あたしは……何をしてればいい?」
ジャイロ「特にすることはないな。来たいっていうから来させたに過ぎないし」
ジャイロ「まあ強いて言えば……魔法を使えば切開した後の縫合の手間が省けて助かる。痕も残らない」
マミ「美樹さんがわざわざやる必要もないとは言わないわ」
さやか「…………」
ほむら「それじゃ、さやかは出番まで待機。その間は……祈ってればいいんじゃないかしら」
さやか「ほむらとマミさんは?」
ほむら「私とマミはジャイロの助手につくわ」
さやか「えぇっ!? ふ、二人が助手ゥ!?」
568: 2012/08/31(金) 21:37:38.66 ID:10Mt/YiY0
ほむら「仕方ないでしょう。ねぇ?」
マミ「えぇ。私には医術も回転の心得もないけどね」
さやか「だ、大丈夫なの? 一気に不安なんだけど……」
マミ「助手と言っても執刀とかしないから大丈夫よ」
マミ「多分」ボソッ
さやか「何それ? ……ってちょい待て! 今小さく多分って言いませんでした!?」
ほむら「大丈夫よ。魔法だってあるんだし、問題ないわ」
ほむら「きっと」ボソッ
さやか「きっとォッ!?」
ジャイロ「おい、うるせーぞ」
ほむら「杏子の魔法で何とかなってるとは言え……大声でのツッコミは関心しないわ」
さやか「う、うぅ……誰のせいだと……」
569: 2012/08/31(金) 21:38:09.78 ID:10Mt/YiY0
ほむら「安心しなさい。こんな格好だけど、魔法の力で消毒とかしなくても大丈夫だし」
マミ「髪の毛一本落とすような真似しないわ」
マミ「ツェペリさんも魔法パワーで消毒済みよ。と、いうわけで感染症のリスクはゼロ!」
さやか「へ、へぇ……」
ジャイロ「おい、さっさとしろ。いつ急患が来るかわからないんだからな」
ほむら「焦りは禁物よ」
マミ「それじゃ、待っててね。佐倉さんと二人で……」
杏子「……」
さやか「はい……」
570: 2012/08/31(金) 21:38:50.18 ID:10Mt/YiY0
さやか「…………」
杏子「…………」
さやか「……手術中のランプは流石につかないか」
杏子「…………」
さやか「…………」
杏子「…………」
<メス!
<アセ!
さやか「あ、手術が始まったみたい……」
杏子「あぁ」
さやか「……ね、ねぇ、どんぐらいかかると思う?」
杏子「知らん」
571: 2012/08/31(金) 21:39:19.63 ID:10Mt/YiY0
さやか「…………」
杏子「…………」
さやか(き、気まずい。……和解したとは言え、やっぱり……一度襲った相手だもんなぁ)
さやか(昨日もマミさんの家で杏子と三人で過ごした)
さやか(トランプとかして遊んだんだ)
さやか(マミさん加えた三人だと普通に話せるんだけど……)
さやか(二人きりだとこんな感じになっちゃうんだよなぁ……)
さやか(くはー……手術終わるまでじっと黙ってるわけにはいかないしなぁ……)
杏子「…………」
572: 2012/08/31(金) 21:40:16.31 ID:10Mt/YiY0
ゴソゴソ
杏子「食うかい?」
さやか「え、あ、う……」
さやか「えーっと……」
さやか「びょ、病院で飲食はマナー違反だよっ」
杏子「うっせぇ食え」
さやか「……ん」
シャクッ
さやか「何だこれ! ンマイなァー!」
杏子「うるさい」
さやか「……ごめん」
さやか「…………」
574: 2012/08/31(金) 21:40:57.67 ID:10Mt/YiY0
さやか「あ、その袋のロゴマーク……」
さやか「これって、見滝原ふるうつ屋の……そこそこ有名どこのじゃん」
杏子「そうなのか」
さやか「……とってもおいしい。ありがとう」
杏子「ふん……」
さやか「…………」
杏子「…………不安か?」
さやか「そ、そりゃ……ね。失敗したらどうしようとかさ……」
杏子「そん時はそん時で考えな」
さやか「……はぁ、あたしの魔法で治せればいいのに」
杏子「そういやそうだよな。ダメなのか?」
さやか「……とにかくできなかったの」
さやか「だから一人で修行したんだから……」
杏子「……そうか」
575: 2012/08/31(金) 21:41:30.44 ID:10Mt/YiY0
杏子「なあ……さやか」
さやか「うん?」
杏子「あたし達がほむらからソウルジェムが魔女になる話を聞いた時だが……」
さやか「あぁ、大変だったらしいね」
杏子「あぁ、マミがなかなか泣きやまなかったな」
杏子「まぁそれはいいや。で、実はあの後、ほむらの話を聞いたんだ」
杏子「あんたはまだ知らないよな」
さやか「……ほむらの話?」
杏子「ほむらが何を願って魔法少女になったのか」
さやか「あれ以来ほむらとは手術のこと以外ではあまり話してないんだよね……」
576: 2012/08/31(金) 21:42:30.63 ID:10Mt/YiY0
さやか「ほむらの願いってどんなの? 病気だったっていうから退院したいとか……」
杏子「ほむらが魔法少女になったその理由と覚悟を聞いて……」
杏子「マミは魔女化の真実を受け入れたんだ。と言っても過言じゃあない」
さやか「……え」
杏子「暁美さんがそんな過去があっただなんて……私、こんなことで泣いてて情けないわ(裏声)」
杏子「ってな」
さやか「……ほむらの覚悟」
杏子「ほむらには『使命』があったんだ。肉体的な『命』を超越した大いなる『使命』がな」
杏子「二度も同じことをほむらに言わせたくないから、あたしがあんたにそれを伝える。あたしはその役を買って出た」
杏子「手術中に湿っぽい話になるかな。だが、聞いてくれ。どうせ時間を持てあますんだからな」
杏子「正直突拍子もないことだが、あたし達は疑わない。本当のことだと受け入れた。いいか?」
さやか「……教えてよ。杏子」
杏子「ほむらは未来から来た」
さやか「へ?」
577: 2012/08/31(金) 21:43:35.18 ID:10Mt/YiY0
――手術室
パタン…
ジャイロ「よし。準備はいいかおまえら」
ほむら「ええ」
マミ「ところで、上条くんは寝ているの?」
ジャイロ「ああ。回転でな。まぁどっちかと言えば気絶に近いんだが」
マミ「き、気絶……」
ほむら「魔法の麻酔はするけどね」
マミ「魔法の麻酔って何か怪しい響きね」
578: 2012/08/31(金) 21:44:23.67 ID:10Mt/YiY0
マミ「それにしても、しゅじちゅちちゅの中ってこんな風になっているのねぇ~」
ほむら「噛んだのをそのまま話を続けて誤魔化すのはやめなさい」
マミ「///」
ほむら「それで、しゅじゅちゅ……」
マミ「あなたも噛んでるじゃない」
ほむら「……の準備はいいんでしょうね///」
ジャイロ「ああ、大丈夫だ」
マミ「ツェペリさん、美樹さんのお花は?」
ジャイロ「ああ、ここでいい」
ほむら「……何で持ってきたのよ。無菌でないといけないのに」
マミ「いいじゃない。魔法で無菌よ」
ほむら「もう……」
マミ「…………」
579: 2012/08/31(金) 21:44:49.99 ID:10Mt/YiY0
マミ「……暁美さん」
ほむら「何?」
マミ「メス!」
ほむら「え? あ、はい」サッ
マミ「えへへ……一度やってみたかったのよねこれ」
ほむら「そ、そう……」
ほむら「…………」
ほむら「汗!」
マミ「はいっ」スッ
ほむら「マミ……」
マミ「暁美さん……」
ピシガシグッグッ
ジャイロ「コントはよそでやれ」
580: 2012/08/31(金) 21:46:35.60 ID:10Mt/YiY0
ほむら「堪能したわ」ホムッ
マミ「それで、しゅ、じゅ、つ……の手順は?」
ジャイロ「まずは神経の損傷具合を確認しないことには始まらないわな」
マミ「レントゲン? この機械かしら?」
ほむら「これが電源ボタン? 何にしても使い方わからないのだけど……」
ジャイロ「そんな機械は使わない。バットを持ってきてくれ」
マミ「バット? えっと……これでいいの?」ガチャ
マミ「何に使うの?」
ジャイロ「そこに水を注ぐんだ」
ほむら「ミネラルウォーターとかでもいいのかしら?」
ジャイロ「清潔なものならなんでもいい」
581: 2012/08/31(金) 21:47:25.56 ID:10Mt/YiY0
マミ「あ、そういえば暁美さん。器具の消毒は?」
ほむら「ウォッシャーディスインフェクターっていうのを映画で見たことあるわ」
マミ「映画情報なの……」
ほむら「まあ器具も魔法で滅菌すればいいでしょう」
マミ「それもそうね。手ぇ洗う?」
ほむら「私達には必要ないわ。気持ちはわかるけど」
マミ「そうよね。消毒不要と言っても洗いたくなるわよねぇ」
ジャイロ「おい早くしろよ」
マミ「落ち着いてツェペリさん」
ほむら「そうよ。最近のしゅづっ……オペはリラックスするためにBGMを流したり雑談しながら執刀するものなのよ」
ジャイロ「……やれやれだぜ」
582: 2012/08/31(金) 21:48:24.00 ID:10Mt/YiY0
マミ「で、バットに水を張ったけど……それをどうするの?」
ジャイロ「ここに置いてくれ。そして、俺は鉄球の回転を患者の腕にあてる」
ドシュゥゥゥゥ
シルシルシルシルシル
ほむら「あ……」
ブワァァァ
マミ「水面に何か……地図のようなものが浮かび上がった……。これは?」
ジャイロ「回転で彼の神経の正確な配置を図として浮かびあがらせる」
ほむら「エコーのようなもの?」
ジャイロ「まぁ似たようなもんだろ。知らんけど。……見ろ、腕の神経のここの部分。一つだけじゃない。いくつも損傷している」
マミ「神経が断裂しているのね……」
ほむら「でも、治るんでしょ?」
ジャイロ「ああ。確かに難しい傷だ。だが鉄球の回転なら手術できる。この程度なら修復は可能だ」
583: 2012/08/31(金) 21:50:06.35 ID:10Mt/YiY0
マミ「回転をどう使うの?」
ジャイロ「ああ。損傷箇所が何カ所もあるからとりあえずまず腕を切開して……」
ジャイロ「損傷した神経に針をあてるだろ。そしてその針に鉄球の回転を伝わらせ……神経を一本一本つなぎ合わせるんだ。それの繰り返しさ」
マミ「き、緊張するわ……」
ジャイロ(この「針」による手術法は……失敗したことがある。視神経を繋ぎ止める手術だったが、回転が乱れて……)
ジャイロ(一度や二度の失敗を引っ張って次の手術に悪影響を与えるなんてことはないが、あの時は……)
ジャイロ(マミ……俺もだぜ。俺も今、緊張している。だが、必ず成功させてみせる)
ジャイロ「マミはバットをリボンか何かで固定してくれ。そしてメス」
マミ「はいっ」シュルッ
ジャイロ「ほむらは鉄球を回転させて患者をそのまま麻酔させておいてくれ」
ほむら「わかったわ」シルシルシル
584: 2012/08/31(金) 21:51:56.77 ID:10Mt/YiY0
マミ「……それで、美樹さんが持ってきたお花は何の意味が?」
ジャイロ「……手術が長引くほど赤色をよく見ることになるからな。補色の緑を見ないと目が疲れる」
ジャイロ「胡蝶蘭は葉が大きい。緑を見る必要がある」
ほむら「……緑なら何でもいいじゃない。布とか」
ジャイロ「……いいだろっ。花でも何でも」
マミ「お花が好きなの? 案外ロマンチスト?」
ジャイロ「うるせー。切るぞ。吐くなよ」
ほむら「そうは言っても……」
マミ「美樹さんのアレな状態を見たからこれくらい大したことないわ」
ジャイロ「…………」
585: 2012/08/31(金) 21:53:08.10 ID:10Mt/YiY0
――
――――
さやか「…………」
杏子「あんたの恭介って坊やへの思い、よくわからんけど……」
杏子「ほむらのまどかへの……いや、あたし達への思いは……多分それを上回ってるんじゃないかな」
杏子「あたしは自分が情けなくなったよ」
杏子「なんつーか、あたし……結構最近まで、自分の事だけ考えて生きてきたんだなって……」
杏子「さやかに襲われた時、ほむらから共に戦ってくれと頼まれた時……」
杏子「神様って言うとおおげさだけど、そんな感じのが救いの手を差し出してくれたような感覚だった」
杏子「で、ほむらの覚悟を聞いた時……メラメラとわきのぼってくる気持ちがあった」
杏子「これが『仁』ってやつか……って思ったよ」
杏子「あたしは、生きるためとかグリーフシードのためとか……そういうの関係なく戦う理由を見つけられた」
杏子「あたしは……ほむらに感謝している。その報恩のためにあたしは命をかけられる」
さやか「…………」
586: 2012/08/31(金) 21:54:36.93 ID:10Mt/YiY0
さやか「あたし……」
さやか「あたしは……恭介の腕を手術をする、っていう交換条件で……共闘を結んだ」
さやか「だけど……だけどさ……」
さやか「そんな話聞かされて『それだけ』で済むわけないじゃん……!」
杏子「…………」
さやか「ほむらの覚悟が言葉でなく心で理解できた!」
さやか「あたしはほむらを誤解していた……その浄罪のためにも、あたしもほむらに命を預けるよ!」
杏子「……へっ、あの坊やに振られて魔女になるような真似すんなよ」
さやか「何をぉーっ!」
杏子「さやか……」
さやか「杏子……」
ピシガシグッグッ
587: 2012/08/31(金) 21:56:05.88 ID:10Mt/YiY0
――AM 0:00
さやか「…………眠い」
杏子「寝ろよ」
さやか「やだー」
杏子「リンゴ食うかい?」
さやか「夜食は太っちゃう~」
杏子「早く食わないと傷んじまう。元々売り残りを安くしてもらったやつなんだからな」
さやか「あぁ……そうだね。勿体ないもんね」
杏子「ああ。傷むとマズイからな。美味い内に食わないと勿体ない」
さやか「食べるのかよ……勿体ないってそういう意味で言ったんじゃないんだよ……」
588: 2012/08/31(金) 21:56:43.91 ID:10Mt/YiY0
杏子「ほら食え。まだマミんちの冷蔵庫を1/4は占領してる程あんだからな。怒られたんだかんな」
さやか「はいはい……」
コツコツ
さやか「ん?」
警備員「…………」
さやか「ふぇーふぃひんふぁ」
杏子「飲み込んでから言え」
さやか「……ん。警備員か……、魔法でバレないとは言えこんな近くを通られると……ねぇ?」
杏子「ビクビクすんな。堂々としてりゃあいいんだ。そんなんじゃ忍び込んだホテルでゆっくり眠れないぞ」
さやか「あたしは忍び込むとかしないし……」
警備員「? ……なんかリンゴの匂いがするな」ボソッ
さやか「!?」
589: 2012/08/31(金) 21:57:43.51 ID:10Mt/YiY0
さやか「ちょ! きょ、杏子! やばい!」
杏子「何だよ? うるさいぞ」
さやか「リンゴの匂いがするって! バレた!」
杏子「あぁ、そりゃこんだけ食べれば匂いくらいするだろ。この魔法、匂いは誤魔化せない」
さやか「や、やばいよ! バレたってマミさん達に伝えなきゃ……!」
杏子「落ち着けっての。その必要はない。座ってろ」
さやか「へっ? な、何を言ってるの杏子! 流石にバレるって!」
杏子「匂いが何だってんだよ……よいしょっと」
590: 2012/08/31(金) 21:58:40.66 ID:10Mt/YiY0
杏子「よっ! 名札曲がってるぞオッサン」
警備員「…………」
さやか「きょ、杏子!?」
杏子「西の戸って書いてサイコ……変わった読み方って言われないか? ニシドって呼ばれない?」
警備員「…………」
杏子「あたしの名字はサクラっつーんだ。読み間違えはされないけど、下の名前と勘違いされたことがあるぜー。桜な」
警備員「…………」
さやか「え……?」
杏子「お勤めごくろうさ~ん」
警備員「…………気のせいか?」
コツコツ…
杏子「……な? こんだけやっても気付かない。言ったろ? 監視カメラにも警備員にも侵入者に気付かないって」
さやか「あの警備員……気のせいで済ませた……。マジに気付かれてない……。あんなに近づかれたのに……いくらなんでも」
杏子「匂いがしたから何だってんだよ。ビビりすぎ」
さやか「だってぇ……」
591: 2012/08/31(金) 22:00:18.45 ID:10Mt/YiY0
杏子「黒い琥珀の記憶――メモリー・オブ・ジェット」
さやか「え? 何だって?」
杏子「今、あたしが使ってるこの技の名前。解説してやるよ。昨日、いや、一昨日名付けた」
杏子「ジェットってのは宝石の名前……。琥珀ではないが、黒琥珀とも呼ばれている。宝石言葉は『忘却』だ」
杏子「特定の人間以外から決して『認識』されない魔法。この技が発動している間、あたし達の存在感は『無くな』っている」
さやか「存在感……? よくわからないけど、早い話が『そーゆー幻術』なんだよね」
杏子「まあな」
杏子「とにかく、要するに誰にも気付かれないってことさ。もうちっとあたしを信頼しろということが言いたいんだよあたしは」
杏子「今のオッサンはせいぜい『何か人の気配がする気がするなぁ、夜の病院って怖ぇなぁ』くらいの認識できてないぜ」
さやか「……そ、そっか」
杏子「あたし達は今、誰にも見えないし声も聞かれない。勿論、蹴り飛ばしたり名札を引きちぎったりとかしたらヤバイ」
さやか「う、うん……」
さやか「ふ~ん……誰にも気付かない、ねぇ……」
592: 2012/08/31(金) 22:01:15.15 ID:10Mt/YiY0
さやか「……お?」
さやか「今度はあっちに患者っぽい人と看護師が一緒に歩いてるよ? ちょっと行ってみていい?」
杏子「盗み聞きか? ほどほどにしろよ」
さやか「おうよー」
コソコソ
さやか「バァ!」
さやか「おばけかと思った!? 残念! 美少女でした!」
患者「まさか君が働いてる病院に入院するだなんて、これは運命だね」
看護師「んもォ~ショウくんたらァ~ん」
さやか「すげぇ、ほんとに気付いてない。何か面白い」
患者「最近お店に来てくれなかっただろう? 俺がいなかったから? ハハッ、じゃあ俺が退院したらすぐ店来てよ?」
さやか「ホストか何かか? こいつ。ホストってのはどうも気にくわない」
さやか「こういうタイプのツラは似たようなのがうようよいるからさやかちゃん区別できないぃ~」
593: 2012/08/31(金) 22:02:33.34 ID:10Mt/YiY0
看護師「んねぇ~、ここってぇ~、変な傷跡があるのォ~~恐竜のおばけが出るって噂なのォ~~~」
患者「怖いのかい?」
看護師「さっさと改修して欲しいのに院長がァ~、オカルトとかァ、そういうの好きなヤツでぇ~」
看護師「残すって言うのよォ~~~ちょっとした名物みたいになってるけどォ、ワタシこわぁ~~い!」
患者「騒ぐなよ……。夜の病院は響くんだ。黙らないとシタ入れてキスするぜ?」
看護師「きゃ~~~。……でも、いいのォ? だってショウくんは……」
患者「君が一番さ……。この体は売り物だけど、この心は君だけのものさ……」
看護師「どうせお客さん全員に同じ言ってるんでしょぉ……? でも、嬉しい……」
イチャコラ イチャコラ
さやか「…………」イラッ
594: 2012/08/31(金) 22:03:18.95 ID:10Mt/YiY0
ドゴォッ!
看護師「!?」
患者「!?」
杏子「なっ! 馬鹿ッ!」
患者「ヒ、ヒィィィ――ッ! お、おばけェェェ――! ゲピィ―――ッ!」
看護師「ギニャァ――! さ、先行かないでェェェショウくぅぅぅぅぅん!」
さやか「ちっ……壁殴っちまった……イライラするわ……」
杏子「バッカてめぇ! 声は聞こえないけどよぉ! こんなことしたら響くに決まってるだろ!」
さやか「けっ! ざまぁみろ!」
杏子「どうするんだよ!?」
さやか「うん?」
595: 2012/08/31(金) 22:05:08.61 ID:10Mt/YiY0
杏子「幽霊が出るって噂になったら営業妨害だぜ! ましてや病院!」
さやか「大丈夫だよ~。あんなチャラ男とサボリ女の言うことなんかまともに聞かれないさ!」プンスコ
さやか「すぐ風化するよ!」
杏子「いやいやいや……」
ガチャッ
マミ「ねぇ? 今の何? おばけって聞こえたけど」
さやか「え?」
さやか「あ、あぁ、いや~、えへへ……丁度うとうとしてよく見てなかったからわかんないです~」
さやか「ね、杏子?」
杏子「お、おう。な、何かとみ、見間違えたんじゃあねーの?」
596: 2012/08/31(金) 22:06:00.57 ID:10Mt/YiY0
マミ「……? まぁいいけど……。美樹さん。疲れてるようなら仮眠してていいのよ?」
さやか「いえいえ、みんなが頑張ってるのにあたしだけ寝てなんかいられません!」
マミ「ふふ、そう? 無理しないでね。佐倉さんは寝ちゃダメよ? はい、グリーフシード」
杏子「おう。さんきゅ……」
マミ「あと一時間くらいで終わるそうよ」
さやか「……! は、はいっ」
杏子(そういやさっきの患者の顔、どっかで見たことあるような……気のせいだな)
とある病院の深夜0時17分。患者と看護師イチャついていると大きなラップ音が発生したらしい。
近くにはリンゴの匂いがし、別の警備員の話ではその場所で人の気配を感じたと語る。
その病院の第五手術室には壁ドンをするリンゴが好物の霊がいるとされ、リンゴを供えると手術が成功すると噂されている。
ちなみにその霊はファンタズマ・ロッソ(赤い幽霊)と呼ばれている。
――見滝原の七不思議。その⑤
597: 2012/08/31(金) 22:10:43.87 ID:10Mt/YiY0
――AM 1:22
ガチャ
ほむら「…………」
さやか「先生……恭介の様態は……」
ほむら「…………」
さやか「何とか言ってください! 先生!」
ほむら「…………」
さやか「先生……!」
さやか「あ、ああぁぁ……」
さやか「ああああぁぁぁ……!」ガクリ
さやか「返して! 恭介を返してよぉ!」
598: 2012/08/31(金) 22:13:33.27 ID:10Mt/YiY0
ほむら「その台詞は決めてたのね?」
さやか「うん」
杏子「馬鹿だよな」
ほむら「愚かね」
さやか「んなっ!?」
さやか「……それで、どうなの?」
ほむら「まだ終わってないわよ」
杏子「さやかの縫合のターンだぜ」
ほむら「ほら、いいからさっさと来なさい。縫合するから」
さやか「はぁい」
ほむら「マミに消毒してもらいなさい」
さやか「はぁい」
599: 2012/08/31(金) 22:14:43.65 ID:10Mt/YiY0
マミ「ディシンフェジオネ(消毒)!」
ズギャンッ!
さやか「……ど、どうも」
さやか「あの、それで……手術はどうなの?」
ジャイロ「ああ……」
ジャイロ「ま、やるだけのことはやった。切れた神経は全て繋げた。いつかは事故以前と同じようになるだろう」
ジャイロ「それがいつになるかは後のリハビリ次第だぜ」
さやか「……!」
さやか「じゃあ……成功したの!?」
ジャイロ「そうだな」
さやか「よ、よかったぁ……」
ほむら「よくないわよ。まだ終わってないんだからね」
さやか「あ、う、そうだった」
さやか「わぁ、エグイなー。あたしの腕もこんなんなったわー」
マミ「そういうのいいから……」
さやか「はい。ザ・キュア~」パァ…
600: 2012/08/31(金) 22:17:38.30 ID:10Mt/YiY0
ジャイロ「――さて、これで手術は完全に終わった」
マミ「お疲れさまでした先生」
ほむら「結構なお手前で」
さやか「おあいそ」
ジャイロ「コントはよそでやれ」
マミ「それじゃあ、どうする?」
ほむら「まずは片付けるわ。さやかは杏子と待ってなさい」
さや「はーい」
ほむら「それが終わったら患者を病室に戻して、解散ね」
601: 2012/08/31(金) 22:19:10.39 ID:10Mt/YiY0
杏子「……どうだった?」
さやか「成功したって……」
杏子「そうか! よかったじゃあねぇか」
さやか「うぅ……」
杏子「おい、どうした」
さやか「よかったぁ……グスッ、治って……ずっと、ずっと不安だったよぉ……エグッ」
杏子「そうか……」
杏子「よかったな。これでおまえの願いは報われたんだな」
さやか「……うん」
杏子「もう後悔はないか?」
602: 2012/08/31(金) 22:21:07.60 ID:10Mt/YiY0
杏子「後はあの坊やは、リハビリってやつをするんだな。支えてやれるな?」
さやか「……うん」
杏子「ならよし」
さやか「…………」
さやか(恭介……。もし、あたしが最初から恭介の腕を治していたとすれば……)
さやか(あの時は、後悔しないって、後悔なんかあるわけないと胸を張って言える自信はあった)
さやか(なのに……魔女になるかもしれないと知ってから、ソウルジェムと魂の関係を知ってから……)
さやか(後悔するか、しないか。今、何とも言えないんだよね……。何か、わかんなくなってきた)
603: 2012/08/31(金) 22:22:47.31 ID:10Mt/YiY0
杏子「……さやか?」
さやか「え? 何?」
杏子「何ボケっとしてるんだよ」
さやか「いや、何でもないよ……」
杏子「……これからは悩みがあったらあたしが、みんなが一緒に背負ってやるからな。遠慮なく言えよ」
さやか「ん。ありがと……」
さやか(あたしは馬鹿だから、難しいことを考えると頭がこんがらがる)
さやか(何にしても、恭介の腕が治ったという結果がある。それでいいんだ。今は)
604: 2012/08/31(金) 22:23:42.52 ID:10Mt/YiY0
ジャイロ「…………」
ジャイロ(……感傷だ)
ジャイロ(俺が彼の腕を治したのは、完全に感傷によるものだ。……感傷。父上を思い出すな)
ジャイロ(ウェカピポの妹の手術に失敗してしまった時……父上は「もし成功していたらもっと悲劇的な事が起こっただろう」と言った)
ジャイロ(……気がかりではある。俺の行動は正しい判断だったのか。本当に治してよかったのだろうか、と)
ジャイロ(俺というイレギュラーな存在が……招かれざる存在の俺が手術したことで、「そういうこと」が起きないだろうか、と)
ジャイロ(こればっかりは……未来のことだからわからねえ。そう考えるのは無責任かな……?)
ジャイロ(だが……さやかが本来叶えたかった願いは、Dioのせいで叶えられなかった。だからさやかの奇跡が今、報われたという真実がある)
ジャイロ(俺は納得している)
605: 2012/08/31(金) 22:26:22.01 ID:10Mt/YiY0
――翌日
昼休み 屋上
杏子「それでストロベリー&チョコチップスのアイスがさー」
杏子「あ、それで思い出したんだけど、今朝大変だっただろあんたら」
まどか「唐突すぎるよ杏子ちゃん!」
ほむら「さやかが上条恭介の腕に奇跡が起きたみたいなこと言ってやかましかったわ」
杏子「違う違う、そっちじゃなくて、家出家出」
まどか「あー……もう大変だったよ。みんなからどうしてたんだーって聞かれまくってて」
マミ「それはもうお昼に私達で集まることができないくらいに大変みたいよ」
ほむら「今頃生徒指導室で色々言われてるところじゃないかしら」
杏子「ふ~ん……」
606: 2012/08/31(金) 22:28:32.68 ID:10Mt/YiY0
杏子「家出した生徒のフォローってどんななんだ? 覗いてっていい?」
マミ「ダメよ……あなた、さも当然のように侵入してるけど校舎内はまずいわよ」
杏子「案外バレないよ? ここのジャージでも拝借すれば校舎内も確実に歩けるんだけどなぁ」
杏子「まぁ、マミがそう言うならやめとくよ」
マミ「そういや美樹さんは家出中どこで寝泊まりしてたのかしら」
杏子「聞いた話ではあたしと同じようにホームレス生活をして、病院の屋上とかで寝てたそうだぜ」
ほむら「えぇ。流石にそれは色々まずいから表向きはその間は口裏を合わせて私の家に世話になっていたということにするのよ」
まどか「えっ……それって大丈夫なの?」
ほむら「放課後、私も呼び出されるかもしれないから今日は一緒に帰れないわ」
まどか「えぇー……」
607: 2012/08/31(金) 22:31:20.00 ID:10Mt/YiY0
マミ「私の家ってことにしてもよかったのに……」
ほむら「マミは受験生だからね」
杏子「……なんだかんだでほむらもアレだよな。お人好しっていうか」
ほむら「さやかの人としての尊厳を配慮した結果よ」
ほむら「私も本当は嫌よ。よりによってさやかと同居していたことになるんだから……」
まどか「さやかちゃん、調子に乗って変なこと言わなきゃいいんだけど……」
杏子「バイセクシャルキャラになっちまうかもな」
マミ「暁美さんと美樹さんが数日間同棲してたという第三のニュースがおこるかもね」
ほむら「…………」
マミ「ごめんなさい」
マミ「その時は私達がフォローするわ」
ほむら「……えぇ、そうね」
608: 2012/08/31(金) 22:32:26.14 ID:10Mt/YiY0
――放課後
さやか「いやー、今日は色々と大変でしたわー!」
まどか「も~、調子いいんだから」
さやか「ちょっと方向性が違うけど、ほむらが来た初日もこんな感じだったよね」
まどか「うん。ちょっとどころじゃないよね」
さやか「ほむら~、ありがとねぇ~ん」
ほむら「チッ」
さやか「舌打ちされた!?」
ほむら「家出中のあなたを匿って黙っていた私が生徒指導室に呼び出されたことはわかっているわよね」
さやか「う、はい……反省してます」
609: 2012/08/31(金) 22:34:16.56 ID:10Mt/YiY0
ほむら「まぁ、調子に乗って『同棲してました』とかほざかなかっただけいいとするわ」
さやか「それはもう、さやかちゃんはそういう分別できますから! あははー!」
ほむら「何故舌打ちしたかわかるわよね?」
さやか「……はい。ほんと、ご迷惑をおかけして申し訳なく存じてございましてであります」
ほむら「それじゃあ、私は先生に尋問されてきます」
さやか「ごめんなさいでした……」
まどか「さやかちゃん……」
ほむら「それじゃ」
まどか「うん、バイバイ。ほむらちゃん」
ほむら「えぇ、さよなら。まどか」
さやか「頑張れよー」
ほむら「チッ」
さやか「舌打ちされた!?」
610: 2012/08/31(金) 22:37:26.21 ID:10Mt/YiY0
さやか「ほむらには悪いことしちゃったなぁ……」
まどか「さやかちゃんには自業自得なところ、あるんだよ」
さやか「わかってますってば……」
まどか「それじゃあ、わたしマミさんのとこ行ってくるね」
さやか「うん」
さやか「…………」
さやか「お待たせ。仁美」
仁美「…………美樹さん」
611: 2012/08/31(金) 22:43:36.37 ID:10Mt/YiY0
――ファストフード店
仁美「ずっとあなたに言いたかった」
仁美「美樹さんがいなくなってから、なおさら言いたかった」
仁美「ずっと前から私……」
仁美「上条くんのこと、お慕いしておりました」
仁美「側にいて、支えてあげたい。そう考えております」
仁美「それでも、抜け駆けや横取りをするようなことは、したくありません」
仁美「宣言します。私は、あなたの恋敵になります」
さやか(……仁美から呼び出された。内容は、恭介への思いを伝える宣戦布告)
さやか(仁美が恭介のことが好きで、あたしをライバル視している。……正直驚きだった)
さやか(ほむらが、いや、杏子から聞かされた。前の時間軸の話)
612: 2012/08/31(金) 22:47:13.24 ID:10Mt/YiY0
さやか(別の時間軸では……あたしは魔法少女になって恭介の腕を治して……)
さやか(魔法少女の体になったことで、仁美が恭介が好きであることを告白して……)
さやか(何かまぁ色々あって、あたしは自棄になり、魔女になったらしい)
さやか(ほむらは、そんなあたしも救おうとしてくれた)
さやか(きっと、多くの時間軸でほむらは影ながらあたしの恋を応援してくれていたのだろう)
さやか(いや、恋の応援をしたんじゃあない。あたしが絶望しないように頑張ってくれたんだ)
さやか(……そして、あたしはそれを何度も無駄にしてしまったのだろう)
さやか(挙げ句に魔女のあたしは杏子と共倒れするとか色々やっちゃって……)
さやか(あたしはこの時間軸でも自棄になった。前の時間軸のあたしと動機が違うからどっちの方が自棄ってるかはわからないけど……)
さやか(きっとそんな感じに、何度も暴走してほむらの願いを邪魔したんだ)
さやか(もう、あたしは……これ以上ほむらに迷惑かけたくない)
613: 2012/08/31(金) 22:48:03.35 ID:10Mt/YiY0
さやか「そうか……仁美、恭介が……そうなんだね……うん」
仁美「美樹さんも、好きなのでしょう?」
さやか「…………」
さやか「仁美……」
さやか(仁美は、どの時間軸でも恭介が好きだったのだろうか)
さやか(仁美は今まで何度恭介と付き合ったのだろう)
さやか(その一方で、あたしは何度恭介に怯えていたのだろう)
さやか(あたしは何回絶望して何回後悔して何回失恋したのだろう)
さやか(後悔なんてあるわけない。あたしは、何度同じ事を言ったんだろう)
さやか「……あたし」
614: 2012/08/31(金) 22:50:34.39 ID:10Mt/YiY0
さやか「あたしは……」
さやか(これは……ほむらに迷惑をかけたくないから言うんじゃあない)
さやか(紛うこと無きあたしの本心だ。多くの時間軸でしまい込んでいたであろう気持ちだ)
さやか(こんな体じゃキスしてなんて言えない……それでもいい)
さやか(あたしは馬鹿だからあれこれ考えるのは後回しだ)
さやか(あたしはただ、後悔しない生き方をして、絶望して魔女にならない、素直なあたしになる)
さやか(今、言わなければ後悔する。そして、ここで宣言しなければ、あたしは仁美に負ける)
さやか「あたしは……恭介が好きだ」
さやか(あたしはあたしの心に決着をつける義務がある!)
615: 2012/08/31(金) 22:51:30.29 ID:10Mt/YiY0
仁美「…………」
さやか「仁美、あんたがいつから、そしてどれだけ恭介が好きかなんてのは興味ない」
さやか「それはあたしの方が前から好きだとかそんなことを考えたくないからだ」
さやか「親友からライバルになるのに心苦しいとか思わない」
さやか「後悔なんかしたくない。もう退きたくない。受けて立つよ」
さやか「……それで、恋敵って具体的にどうするの?」
仁美「…………」
仁美「正直……」
さやか「ん?」
仁美「正直なところ、私は美樹さんを見くびっていました」
仁美「上条くんへの気持ちがあやふやで、あたふたしながら私に一方的に言われ、取り残される」
仁美「そういう展開を予想しておりましたわ。失礼ながら」
さやか「へぇー……言ってくれるね」
617: 2012/08/31(金) 22:57:15.74 ID:10Mt/YiY0
仁美「今の私は、上条くんの腕が治りつつあることを知らなかったのに、敗北感を覚えています」
さやか「あたしはあたしがいない間にずっと仁美が恭介にいたと思うと、そういう気持ちになる」
仁美(今、私のこの気持ちを伝えたら……有名バイオリン奏者の腕が治る見込みができたから告白するみたいで癪で仕方ない)
さやか(恭介にとってみればあたしがジャイロ……医者を紹介した存在。恩着せがましい感じで告白なんざ言いにくいったらありゃしない)
さやか/仁美((しかし、その差が、躊躇が、自分自身を食いつぶすことになる))
さやか「…………」
仁美「……ルールを考えておきました」
さやか「ルール……」
仁美「全てが落ち着くまでは……お互い、上条くんに絶対告白してはいけない。抜け駆けはしない。『全てが落ち着く日まで』は形式上停戦です」
仁美「これが『ルール』ですわ」
仁美「その『全てが落ち着く日』は美樹さんが指定してください。その言葉はどう解釈しても構いません」
仁美「もし、このルールを破って先に告白をすれば……私はあなたをその程度の人間として、絶交いたします」
さやか「……その逆も然りだよ。仁美」
仁美「ええ……。上等ですわ」
618: 2012/08/31(金) 22:58:11.82 ID:10Mt/YiY0
さやか「……その指定した日までに、恭介から告白されたら?」
さやか「あるいは……考えたくはないことだけど、恭介があたし達以外に惚れたら?」
仁美「前者は受け入れてもいいでしょう。相思相愛ということになりますから祝福します」
仁美「後者は考えてません」
さやか「はは……そん時は振り向かせようと努力すればいいさ。あるいは、縁がなかったということで吹っ切っちゃえ」
さやか(今までの時間軸ではどうなのか聞いておく必要があるな。恭介はバイオリン以外にベタ惚れになることがあるのか)
仁美「……ですね」
さやか「……さて、全てが落ち着く日か。……ふむ」
さやか(全てが落ち着く日……。……そうだな。今はワルプルギスの夜のことも考えたい)
さやか(ワルプルギスが現れるまでは、恭介は学校に通えるようにもなるんじゃないかな)
さやか(ワルプルギス。恭介の退院。全てが落ち着いた時と言うのは……こんなものかな)
619: 2012/08/31(金) 22:59:19.33 ID:10Mt/YiY0
さやか「今から一ヶ月後。全てが落ち着く日はそれがいい」
仁美「わかりましたわ」
さやか「それまでの間、恭介のリハビリの手伝いは交代交代で行おう」
仁美「えぇ。そうしましょう」
動かなくなった少年の腕を無償で治した現代のブラックジャックが見滝原にいるらしい。
中学生が闇医者の話をしていたのを看護師がたまたま聞いていたのだが、実際その次の日に「奇跡的に」治ったのだという。
噂には尾ひれが付く。実際は無償ではないし現代人でもない。
――見滝原の七不思議。その⑥
620: 2012/08/31(金) 23:01:49.21 ID:10Mt/YiY0
――
――――
ほむら「――と、まぁ先生に色々言われたけれど、さやか失踪事件は完全に解決したわ」
ジャイロ「大変だなぁ」
ほむら「全くよ。何を言われたか覚えれないけども」
ジャイロ「だがまぁ、これでやれることはやりつくしたんじゃあないか?」
ほむら「そうね。まどかも未契約だし、あとはワルプルギスを越えるだけだわ」
ジャイロ「そうか」
ほむら「この日のためにどれだけ苦労してきたことか……」
ほむら「みんなあなたのおかげよ。ありがとう。今度こそ、私はこの回転の力で奴を越えてみせるわ」
ジャイロ「…………」
621: 2012/08/31(金) 23:02:28.93 ID:10Mt/YiY0
ジャイロ「なあ……お互い秘密を言い合おうぜ」
ほむら「え? どうしたのいきなり?」
ジャイロ「人に隠してること、ひとつくらい……あるだろ? 今……この場所で言い合おう」
ほむら「……」
ジャイロ「俺から言うぞ。俺がこの世界にやってきて最初に仕入れた物をおまえに教える」
ジャイロ「それは服でも食い物でも車軸油でもなくてよォ……」
ジャイロ「俺が最初に用意したのは『クマちゃん』だ。クマのぬいぐるみ……。一人の時はいつもそばにクマちゃんを置いている」
ジャイロ「俺の親友は何とも思わなかったようだがおまえ達には馬鹿にされるだろうから言わなかった」
ジャイロ「さあ……オマエの番だぜ!」
ほむら「…………」
622: 2012/08/31(金) 23:03:44.84 ID:10Mt/YiY0
ほむら「……おったまげたわ! 今年最大のヒットよ。『クマちゃん』!?」
ほむら「おもちゃ屋さんとかに置いてあるやつ? 可愛いの? 超ブッタマゲNo1! まどかも好きなやつ?」
ほむら「それ本当なの? ジャイロ。いい歳してどうかしてるわ」
ジャイロ「おいッ! 早くしろ! てめーの番だろッ!」
ジャイロ「まどか達……特にさやかなんかにはそのことを口にするな! おめーこそそーゆー趣味あるんじゃないか?」
ほむら「可愛いのは好きだけど……女の子だし別に問題ないでしょ……そうね」
ほむら「……言うけども……でも……言ったら引くと思うわ」
ジャイロ「引くから秘密なんだろ! さっさと言えッ!」
ほむら「……実は……なんて言うか……コホン。エヘン」
623: 2012/08/31(金) 23:04:52.42 ID:10Mt/YiY0
ほむら「……『パッド』ってわかる? その……もりあげるやつ。AAからCになる」
ほむら「何て言うか……実は、かなり前だけどいくつかの時間軸中……それをずっと着けて生活してたことあるのよ」
ほむら「ある時、片方ズレ落ちた。そしてみんなの前で片方だけCカップ状態になった」
ほむら「それ以来、二度と着けないと誓った」
ほむら「以上ッ! 誰にも言わないでよ! あっ! やっぱり引いてるッ! だから引くって言ったのよ///」
ジャイロ「それを人にしゃべったら俺がヤバイくらいに引かれるわ。通報されても仕方がないレベル」
ほむら「女子の秘密を聞こうだなんて行為がそもそもデリカシーがないのよ。全く」
ジャイロ「……」
ほむら「……」
ジャイロ「絶対に言うなよ」
ほむら「あなたこそ」
624: 2012/08/31(金) 23:06:13.37 ID:10Mt/YiY0
ほむら「…………」
ほむら(後は、ワルプルギスの夜が訪れ、戦うだけだ)
ほむら(マミは生きている。そして信頼を得た)
ほむら(杏子はその時ばかりの共闘なんかでなく、完全な仲間となった)
ほむら(さやかは自分の気持ちに素直になり、仁美の宣戦布告を受け入れるだろう)
ほむら(まどかは未契約。そして私には新しい武器がある)
ほむら(さらにジャイロ・ツェペリという強力な味方がいる)
ほむら(今までで一番いい状況じゃないかしら……こんな気持ちでワルプルギスを迎え討つのは初めてだわ)
ほむら(鹿目さん……ついに私、あなたとの約束を果たせそう……)
625: 2012/08/31(金) 23:06:30.81 ID:S1f81b0Fo
ほむほむwwwwwwww
626: 2012/08/31(金) 23:11:17.41 ID:10Mt/YiY0
――繁華街 路地裏
「店長! 俺の給料減額ってどういうことスか!」
「……」
男「そ、それも半分も! 納得いかないです! どうしてなんスか!?」
店長「……ショウ。おまえさん……十日ほど入院してただろ?」
店長「その分の損失もあるが……それはまあいいさ。それでバイクで事故ったとかならまだいい」
店長「喧嘩売ったガキに逆上されて怪我して入院した……っておまえの弟分から聞いてんだよ」
男「あ、あいつ……! ち、違います! デタラメだ!」
627: 2012/08/31(金) 23:13:08.34 ID:10Mt/YiY0
店長「今にして思えばそのガキが最近噂の『青い切り裂き魔』なのかもしれねぇな……」
店長「まぁいいさ。それよりも、その病院で、同じく噂の『赤い幽霊』にビビってたそうじゃないか」
男「ほ、本当に聞いたんスよ! ラップ音!」
店長「真偽はいい」
店長「それよりもおまえさん、お客様を置いて真っ先に逃げたそうじゃあないか……お客様がおまえさんを陥れようと嘘をついてると?」
男「う……」
店長「いいか……この仕事はな……顔も大事だが何より大事なのは『信用』なんだ」
店長「ガキに斬られたのがデマだとしよう」
店長「だとすればおまえさんは同僚に信用されていないことになる。陥れようとされてたことになるからな」
店長「そういう世界だ。そういうのもいるだろう……」
628: 2012/08/31(金) 23:13:47.79 ID:10Mt/YiY0
店長「で、ガキに怪我させられたというのが本当だとする……」
店長「だったらおまえさんは今、俺に嘘をついたことになるよな。違うって。まぁ、少女にやられるなんざカッコワルイからな……」
男「ぐっ!」
店長「そしてここが一番重要。おまえさんは、青い切り裂き魔。赤い幽霊……その両方にビビったという事実にせよ噂にせよ、汚名があるんだよ」
店長「『そういうキャラ』で生きるのもいいが、おまえさんはオカルトにビビるキャラで信用を得ていない。お客様への信用が地に堕ちた」
男「ぐ、ぬぬ……!」
店長「おまえさんはいまどん底スレスレのマイナスだ。ゼロに戻すためには色々することがある。結果、戻せないこともある……これが現実だ」
男「う、ううぅ……そ、そんな……勘弁してくださいよ……! せ、せめて1/3額カット……半分はヒドイっスよ!」
店長「嫌なら辞めろ。おまえさんの代わりはいくらでもいるのだからな」
629: 2012/08/31(金) 23:19:09.66 ID:10Mt/YiY0
男「…………く、くそォォ、くそォ……!」
男「俺は……いずれNo1になるはずだった男だ! こ、こんな事が……ッ!」
男「マヌケなクソアマ共のために媚びを売り……」
男「クソみてぇな下積みも乗り超え……新人をいびり潰してこの世界を生き延びてきたのに……ッ!」
男「クソッ! 全てはあのガキのせいだ!」
男「夜道が暗いせいで顔が見えなかったが……」
男「全部あいつが悪い! 俺は被害者だ! あのクソッタレ青い切り裂き魔の被害者だ!」
男「気を使えよ! 同情しろよ! チクショオッ! チクショウッ!」
男「あのブスナースめ……! よくもあのことを抜かしてくれたな……!」
男「これだから女はッ!」
630: 2012/08/31(金) 23:19:51.44 ID:10Mt/YiY0
「フフフ……」
キィ…
男「!?」
車椅子の男「おまえ……気に入ったぞ……」
男「何だテメェ! 見せモンじゃねぇーぞッ!」
車椅子の男「……どうだ。俺にかわれないか?」
男「買われ……? ふざけんな! 誰がそんな……このホモ野郎!」
車椅子の男「……かわれないか、と言ったが。おまえは『買う』を連想したそうだが……」
車椅子の男「俺が言いたいのは『飼う』だ。車椅子を押すとかして……な」
631: 2012/08/31(金) 23:22:07.97 ID:10Mt/YiY0
車椅子の男「車椅子に乗ったはいいがどうにも操作に慣れないんだ……」
車椅子の男「雇わせてくれ……そして俺の下僕にならないか?」
車椅子の男「おまえみたいな奴、こんなちんけな世界に押し込めるにはチト勿体ない」
車椅子の男「善悪のブレーキが全くないような人間はなかなかいないからおまえで妥協するって感じなんだが……」
車椅子の男「なぁ……この手首に巻いているこいつを見てくれ」
男「…………」
車椅子の男「この時計、同じようなのをいくつも持ってるから前払いでくれてやってもいい。スイスのブレゲって職人が作った時計だぜ。質に出すなよ」
男「……ッ!」
男「………………」
男「……いくら、くれるんだ? 俺は、あんたのために何をすればいい……?」
車椅子の男「フフフ……」
某店・ホスト・ショウ
この男はある日をさかいに仕事をピタリとやめ……謎の彼方に消える……
『Dio』は知っている!
633: 2012/08/31(金) 23:24:03.56 ID:10Mt/YiY0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Dio「お、落ちるッ! ヤバイ!」
Dio「だ、だがッ! 恐竜化ッ!」ズギャンッ
Dio「恐竜の脚力で着地して、衝撃を耐えてや……」
Dio「…………」
Dio「……ダメだ! この高さ……コンクリートのような硬い地面ではその衝撃に耐えられない……!」
Dio「そ、即死する……」
Dio「おのれ……! あの取るに足らぬ小娘の分際で……このDioが……」
Dio「このDioがアァッ!」
Dio「ウオオオアアァァァァァアアァッ!」
634: 2012/08/31(金) 23:25:27.48 ID:10Mt/YiY0
ゴ ゴゴゴ ゴ ゴゴ ゴ
Dio「…………」
Dio「……くそっ!」
Dio「やはりこれしか防御する『方法』がないとはな……」
Dio「しかし勝利には犠牲はつきものでもあるわけだ」
シュルッ
Dio「恐竜の尻尾……」
ズァッ
Dio「ぐうっ! くッ! ガアァッ!」
Dio「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
メキベキ ボムギ
Dio「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァッ!」
ドサァッ
Dio「グハァッ! アアァッ!」
635: 2012/08/31(金) 23:26:24.36 ID:10Mt/YiY0
Dio「ガ……クク……ウ……」
Dio「……ハァ――ハァ――ッ!」
Dio「恐竜化……尻尾を切り落としてクッションにした」
Dio「そ、即死は……免れた……グウッ!」
Dio「だが……グアアッ、クッ、あ、脚が……」
Dio(この両脚はもう使えない……切断も視野に入れる必要があるな)
Dio(くそっ! 命がある分マシか……いや、死んでいるんだがな……)
Dio(しかしこの状態で……ジャイロ・ツェペリと魔法少女共を殺せるか……?)
Dio(…………いや、諦める程のことではない)
Dio(ジョニィ・ジョースターは……両脚が不自由ながら、追っ手に狙われながら、SBRレースの7thステージまで来たんだ)
Dio(奴は気にくわないがその点は尊敬できる。奴に幾多の障害を乗り超えられたのなら……俺にもできる……!)
Dio(這い上がってやる……! そしてとことん上から支配してやるぞ愚民共!)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
636: 2012/08/31(金) 23:28:21.94 ID:10Mt/YiY0
Dio(あの時……最後の最後!)
Dio(尻尾を切り落としてクッションにしていなければ……どうなっていたか!)
Dio(俺は死力を尽くしあれから社会の中に逃れた……)
Dio(車椅子を奪い、金目の物を奪い……奪って、今まで以上に飢えて生きてきた。そしてそれで準備を整えた!)
Dio(この脚を癒し、命を取り戻すには「契約」が必要だ……)
Dio(恐竜共の偵察によれば……ターゲットは鹿目まどか。こいつはまだ契約をしていない)
Dio(舞台はワルプルギスの夜。丁度いい下僕は手に入ったぞ)
Dio(待っていろ。ジャイロ・ツェペリ。暁美ほむら。巴マミ。佐倉杏子。美樹さやか……)
Dio(このDio、必ず試練を克服してみせる! おまえらはこのDioの「供え物」となるのだ!)
648: 2012/09/01(土) 08:44:01.66 ID:ShonYw3S0
――ワルプルギスの夜当日
避難所
まどか「……」ソワソワ
ほむら「まどか」
まどか「あ、ほむらちゃんっ」
ほむら「周りに誰もいないわね? それで、話って何?」
まどか「呼び出しちゃってごめんね。こんな時に……」
ほむら「大丈夫よ。みんなは先に待ってるけど、まだ現れるのに時間はあるわ」
まどか「そっか。ほんとにごめんね」
ほむら「いいのよ」
649: 2012/09/01(土) 08:44:34.93 ID:ShonYw3S0
まどか「……あのね」
ほむら「何?」
まどか「えっと……その」
まどか「これ!」スッ
ほむら「……? これは?」
まどか「ほむらちゃん。これ……お守り!」
ほむら「お守り? ……四つ葉のクローバーね」
まどか「四つ葉のクローバーの押し花の栞」
まどか「四つ葉のクローバーは幸運の象徴。それで、わたしの大切な物。ほむらちゃんにあげる」
まどか「わたしには、みんなの力になれないから……せめて、ほむらちゃんに持っててほしいの」
650: 2012/09/01(土) 08:45:58.22 ID:ShonYw3S0
ほむら「まどか……」
まどか「そしてこの言葉をほむらちゃんに捧げるよ!」キュポッ
ほむら「サインペン?」
まどか「LUCK!(幸運を)」キュッ
まどか「そしてわたし達の未来のために」キュポッ
ほむら「赤ペン?」
まどか「PLUCK!(勇気をッ!)」キュッ
まどか「どう?」
ほむら「どう? と言われても……」
ほむら「えっと……うん」
ほむら「ありがとう。まどか」
まどか「ウェヒヒ、どういたしまして」
651: 2012/09/01(土) 08:47:34.67 ID:ShonYw3S0
まどか「ねぇ、ほむらちゃん。わたしって……どういう人だった?」
ほむら「え……っと。今度は何かしら?」
まどか「ほむらちゃんの最高の友達のわたしってどんな人?」
ほむら「…………」
ほむら「まどか、あなたは特別な存在よ」
まどか「えっ、嬉しいなぁ。ウェヒヒ……」
まどか「って、そうじゃないの。ほむらちゃんと出会った頃の……魔法少女だった時間軸のわたしはどんな人だった?」
ほむら「……そうね」
ほむら「転校したばかりで右も左もわからなくて、おろおろしていた私に優しくしてくれた」
ほむら「まるで妹のように、色々教えてくれたし理解してくれた」
ほむら「自信の持てない私を引っ張ってくれた……私の憧れ」
まどか「そっか……」
まどか「…………」
652: 2012/09/01(土) 08:48:37.24 ID:ShonYw3S0
ほむら「……でもね」
ほむら「あなたは鹿目さんじゃないけど、あなたはまどかなのよ」
ほむら「決して変わらないわ。あなたが私の大切な人であることは……。だから鹿目さんに嫉妬する必要はないわ」
まどか「……わたし、ほむらちゃんを引っ張れるわたしになれるかな?」
ほむら「なれると思う……いえ、なれるわ。同じ鹿目だもの」
まどか「じゃ、じゃあさ……。みんなでワルプルギスを超えて……」
まどか「そしたら、一緒にお出かけしよう? わたしがリードしてあげるから!」
ほむら「…………」
ほむら(……全て丸く収めろと、全員生きて乗り越えろと、ジャイロは言った)
ほむら(そう。私も……。……ジャイロは私に自分自身も救えと言った)
ほむら(だから、無論、生きて帰りたい。そうは思う)
ほむら(そう言っている余裕がないというのはわかっていけど)
ほむら「……そうね。それもいいかもしれないわ」
まどか「うん!」
ほむら(実を言うと……約束はできない。私はただ、全力で向かうのみ)
653: 2012/09/01(土) 08:49:24.32 ID:ShonYw3S0
――外
ジャイロ「ほむらを除くおまえ達に先に言っておきたいことがある」
杏子「お?」
さやか「で?」
マミ「ん?」
ジャイロ「ほむらじゃあねーが、俺はワルプルギスを越えたら、ここを去るつもりでいる」
さやか「!?」
マミ「……えぇっ!?」
杏子「ちょ、な、いきなり何言ってんだよ!」
ジャイロ「落ち着け。正確には、近い内に消えるつもりだ」
ジャイロ「Dioは落下して死んで消えた。俺も死ねば消えるはずだ」
さやか「いやいやいやいやいや! どういうことよ!?」
マミ「死ぬだなんて……正気なの!?」
654: 2012/09/01(土) 08:50:36.10 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「いいか、俺は、本来招かれざる者だ。この世界は俺の世界じゃあない……」
ジャイロ「だったら消えるのがこの世の常ってもんだろう」
マミ「だ、だからってそんな……!」
ジャイロ「おまえ達は帰る場所がある。あるいは帰る意味を見つけた」
ジャイロ「俺もだ。俺には帰る場所があるんだよ。そこに帰らなければならないんだ。……わかるだろ?」
杏子「…………帰る場所、か」
ジャイロ「異世界人ってのはそんなもんだ」
ジャイロ「どうせ俺は死んだ魂のようなもんなんだ。帰ったって文句はないだろ?」
マミ「そんな……だとしても、自分から死ぬだなんてそんなの絶対おかしいわよ!」
さやか「そうだよ! せっかく生き返ったってんならさ……なんて言うか……こう……」
655: 2012/09/01(土) 08:51:10.58 ID:ShonYw3S0
さやか「あたし達と出会えたのは奇跡だって、感謝すべきだって言ったじゃん! 一緒に魔女を倒し続けようよ!」
ジャイロ「感謝はしているが、それと去ることは別の話だ」
マミ「あなたは命の恩人……私はまだその恩を返せてないわ。そんなあっさりと去られたら後味の悪いものを残す……」
ジャイロ「恩を返したいのか?」
ジャイロ「もう既に色々頑張ったじゃあねぇか。恩だなんて今更水くさい」
ジャイロ「どうしてもってんなら、俺の分もほむらに還元しろってこった」
さやか「あたしはまだ、ジャイロと一緒に戦ったりとかしたいよ……!」
杏子「まぁ……仕方ないよな」
マミ「え……?」
さやか「な、何言ってんだよ杏子!」
656: 2012/09/01(土) 08:53:43.34 ID:ShonYw3S0
杏子「あたしはさ……今、早く家に帰りたいと思っている」
杏子「何故なら、そこにはマミがいて……あたしの居場所なんだっていう……ここにいていいんだっていう安心感があるからだ」
杏子「同じだよ。ジャイロにとって、ジャイロの魂にとっては、そっちがジャイロの居場所なんだ」
杏子「死後の世界なんてのは想像もつかないけどさ……多分、死後の世界は死んだ奴にゃ安息の世界なんだろ」
杏子「一方、ジャイロにとってこの世界は……はっきり言って安息はない。所詮、本当の居場所じゃあないんだ」
さやか「安息……」
杏子「……それにさぁ、魔女の影響でここに来たって言うんだろ?」
杏子「仲間ならさ、魔女の呪いから解放させるとかしてさ」
杏子「何つーの? 魂の安らぎ? そーゆーののために何とかしてやるのが当然じゃないか?」
マミ「佐倉さん……」
657: 2012/09/01(土) 08:55:23.94 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「杏子……」
ジャイロ「……大体、そんな感じだ」
さやか「…………わかったよジャイロ。寂しいっちゃ寂しいけど、何言っても無駄っぽいもんね」
マミ「元の世界に帰るだけだもの。……そう、ただ元に。それがツェペリさんにとっての真実なのよね……うん」
杏子「……そういう訳だジャイロ」
杏子「別に自殺を容認している訳じゃねーが、あたし達はあんたの決意を止めないぜ」
マミ「さよならくらい言ってから去って欲しいわね。暁美さんにも鹿目さんにも」
ジャイロ「おまえ達……わかってくれてありがとよよ」
ジャイロ「何つーか、輝いて見えるぜ。黄金の精神、みたいな。ニョホホ」
さやか「……で? そのことをほむらには言わないの? それとも既に話したの?」
ジャイロ「いいや話してないぜ」
658: 2012/09/01(土) 08:56:14.62 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「それをほむらに言わないのは、動揺させるからだ」
さやか「あたしらも十分動揺したんだけど……」
ジャイロ「ほむらは……別の時間軸で『ワルプルギスを越えたら見滝原を去る』と宣言したことがある」
杏子「ああ、そうらしいな」
ジャイロ「俺は、ほむらが言ったことをしようとしているんだ。必要以上に動揺させてしまうだろう」
ジャイロ「あいつは動揺してはいけない。精神的な迷いや揺らぎが回転に影響を与えてしまうんだ」
マミ「そ、そうなの……?」
ジャイロ「ああ。俺はほむらに、最後のレッスンをするつもりでいる」
マミ「……れ、レッスン?」
杏子「こ、このタイミングでかよ?」
ジャイロ「……これは、必ずできなければならない」
さやか「できなくちゃって……何で前もって教えなかったの!?」
ジャイロ「…………」
659: 2012/09/01(土) 08:57:21.87 ID:ShonYw3S0
ほむら「みんな、お待たせ」
さやか「あっ」
ほむら「何よ『あっ』って」
杏子「……おう。ほむら。まどかは何の用だって?」
ほむら「えぇ……お守りをもらったわ。これ」
マミ「クローバー? ぷらっく……勇気がどうかしたの?」
ジャイロ(クローバーか……)
さやか「いいなー。何でほむらだけなのさー。まどかめぇ……えこひいきだよ!」
ジャイロ「幸運の象徴か……。おまえ薄幸そうだもんな」
ほむら「余計なお世話よ」
ジャイロ「大切にしまっておけよ」
ほむら「勿論。栞は落とさないように盾にしまってっと……」
ほむら「さぁ、もうすぐ現れるわ。ワルプルギスの夜が……」
660: 2012/09/01(土) 08:58:56.64 ID:ShonYw3S0
さやか「緊張してきた……ゴ、ゴクリ」
杏子「いよいよか……」
マミ「…………」
ジャイロ「なぁほむら」
ほむら「ジャイロ?」
ジャイロ「こんな時になんだが、おまえは次のステップに進む資格を得た」
ほむら「え?」
ジャイロ「俺が教えた回転はまだ入門編に過ぎない」
ほむら「なっ……!?」
661: 2012/09/01(土) 08:59:23.27 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「これから新たな領域をレッスンする」
ほむら「ど、どういうことよ!」
ジャイロ「言葉通りだ。おまえの回転はまだ、俺と同じ回転ではないということだ。それを教える」
ほむら「ちょ……どうしてこんなタイミングで言うのよ! おかしいでしょ!」
さやか「あ、そうだった。そーだよジャイロ!」
ジャイロ「言っただろう。おまえは今、その資格を得たんだ」
ジャイロ「おまえは、精神的にも肉体的にもさらなる段階へ進む資格がなかった」
ジャイロ「例えば……鉄球の回転以外の武器ではどうせ通用しないだろう、とか……今までの自分の努力を見下している。そーゆー精神的な未熟さを言っている」
ほむら「そ、それは……」
662: 2012/09/01(土) 09:00:09.50 ID:ShonYw3S0
杏子「そうなのか? ほむら……」
ほむら「……少し。……いえ、結構思ってる」
マミ「暁美さん……」
ジャイロ「まあ、所詮は青臭いガキだ。そういうのを甘く見てやってもいい。それを考慮して、今、資格を得たんだ」
ジャイロ「できもしないことを教えてもその場で足踏みするばかりで先に進めなくなる。だから黙っていた」
ジャイロ「だが、今のおまえにならできる。だから教えるんだ」
ジャイロ「これは試練だ。これができなければ、おまえは奴を越えても勝ったと言えるのか、イマイチなとこだ」
ほむら「…………」
ジャイロ「いいか。レッスン4だぜ。確か……多分」
ジャイロ「レッスン4『敬意を払え』……だ!」
ほむら「け、敬意……?」
663: 2012/09/01(土) 09:01:21.65 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「まず最初に言っておく。ほむら。おまえはこれから『できるわけがない』というセリフを……4回だけ言っていい」
ジャイロ「いいな……4回だ。俺も子どもの頃オヤジからそう言われた」
ほむら「……?」
杏子「な、何言ってんだこんな時に?」
ジャイロ「結論から言うと鉄球の秘密とは『無限への追求』だ。これがツェペリ家の目指したもの……」
ジャイロ「その無限という概念を、俺の先祖は鉄球という技術に応用しようとしたんだ」
ジャイロ「黄金長方形という形がある。聞いたこちあるか?」
マミ「確か……9:16の比の……最も美しいとされている長方形のことよね」
ジャイロ「あぁ。そうだ。正確には1:1.618の黄金率のことをいう」
ジャイロ「この……美しさの基本とされたこの比率は、名芸術家達の美の遺産に偶然か必然か、隠されているんだ」
664: 2012/09/01(土) 09:02:31.80 ID:ShonYw3S0
ほむら「……何が言いたいの?」
ジャイロ「黄金長方形には次の特徴がある。黄金長方形から、正方形を一つ、9:9の比率で作る。すると残った小さい長方形もまた、およそ9:16の黄金長方形となる」
ジャイロ「それにまた正方形と作ってみる。この残りもまた黄金長方形。さらにまた作る。さらにまた、さらにまた……『無限』に正方形が作られる」
ジャイロ「それらの中心点を連続して結んでいくと……無限に続くうず巻きが描かれる」
ジャイロ「これが『黄金の回転』だ」
マミ「!」
ほむら「ま……まさかッ!!」
ジャイロ「おまえはこの通りに回していない。だから限界がある」
ジャイロ「『黄金長方形の軌跡』で回転せよ!」
ジャイロ「それこそツェペリ一族が追求した回転は無限の力だッ!」
ほむら「できるわけがない!」
665: 2012/09/01(土) 09:03:22.48 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「…………」
ジャイロ「今、言ったか? できるわけがない。……と?」
ほむら「う……。い、いや、そういう回転があるってのはわかったわ。で、でもっ! それを……私ができるの?!」
ジャイロ「やるしかない。いいか。あと3回だけ『できない』と言っていいぜ。おまえが3回目に言った時、これをやる。俺の『ベルトのバックル』だ」
ほむら「バックル……?」
マミ「まさか、黄金長方形のスケール……?」
ジャイロ「ああ。このバックルの形はそういう比率だ」
ジャイロ「この黄金長方形の軌跡上で正確に回転させれば、おまえの鉄球もまた! 無限の回転となる!」
さやか「そんなのがあるの!?」
杏子「何で最初から出さないんだよ!」
666: 2012/09/01(土) 09:04:34.28 ID:ShonYw3S0
ほむら「そ、それがあるなら……やってみるわ! ジャイロ! 見せ――」
ジャイロ「だめだ」
ほむら「え?」
ジャイロ「『できない』と3度目に言った時と言ったろう」
マミ「あ、あなたって人は……!」
さやか「遊んでる場合じゃないんだぞ……!」
杏子「……ッ! この気配!」
ほむら「来る……ッ!」
667: 2012/09/01(土) 09:05:29.29 ID:ShonYw3S0
ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
さやか「こいつがワルプルギス……!」
マミ「今までに出会ったどの魔女よりも強烈なプレッシャー……!」
杏子「でけぇ……! さすが伝説級。こりゃほむらが苦戦するのも無理ないな」
ジャイロ「ビルが舞っているな……蜃気楼でも見ているかのような異常な光景だぜ……」
ほむら「…………」ゴクリ
ほむら(相変わらず、胸が締めつけられるような感覚……!)
ほむら(こいつに……みんなが……まどかが……!)
668: 2012/09/01(土) 09:06:25.01 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「ほむら。おまえが先陣を切れ」
ほむら「わ、私が?」
杏子「一気に攻めちまおうぜ?」
ジャイロ「いや、ほむらが普段ワルプルギスに立ち向かう際、まずどうやって攻撃をしていたのかを確かめたい」
ジャイロ「奴が攻撃するのであればその攻撃を見極めておきたいからな」
さやか「な、なるほどよぉー」
ジャイロ「そして、取りあえず回転をぶつけてみてくれ」
ジャイロ「今のおまえの回転における威力……『基準』が欲しい」
ジャイロ「魔法で強化する必要は特にないし、黄金長方形を意識してもしなくてもいい。まずは一撃だ」
マミ「私はどうすればいいかしら? 撃って援護する? 届くけど」
ジャイロ「使い魔かなんかを追っ払っていればいいだろう」
ジャイロ「まずは様子見だ」
ジャイロ「いいか、俺らがおまえの行動を見るわけだから、時はなるべく止めるな。魔法は最低限中最低限だ」
ほむら「注文が多いわね……。わかったわ。それじゃ、行ってくる。援護は任せたわ」
マミ「ええ。気をつけてね」
669: 2012/09/01(土) 09:07:15.79 ID:ShonYw3S0
さやか「……ほむらは、あんな化け物に一人で挑んだこともあるんだよね」
杏子「そうだな。全く、すげー奴だよ。んー……あれはなんだ? 打ち上げ花火?」
マミ「どう見てもミサイル的な何かでしょ……盾にしまっていたのよ」
ジャイロ「おーおー、派手にやってくれるじゃあねーか」
杏子「あんな武器を隠し持っていやがったのか……つくづく敵に回したくないねぇ」
さやか「あれで様子見なのか……どんだけ強いんだろう……ワルプルギス」
マミ「……暁美さんが鉄球を持ったわ」
さやか「あんな遠くからわかるんですか?」
杏子「よく見えるもんだなぁ」
マミ「まぁね」
670: 2012/09/01(土) 09:08:54.03 ID:ShonYw3S0
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
ギャンガァァァァァ
ほむら「タンクローリーだッ!」
ドッギャァァァンッ!
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハ」
ほむら「そして追い打ち! 鉄球No4!」
ほむら(黄金長方形……黄金長方形……黄金長方形……)
シルシルシルシルシルシルシルシル
ほむら「いけッ!」
ブォンッ
671: 2012/09/01(土) 09:13:23.37 ID:ShonYw3S0
シルシルシルシルシルシル
ほむら(う、感覚でわかる……)
ほむら(さっきと同じ威力……不変)
ほむら(……しかし、まずは一撃!)
ほむら(この状態で……最低限の魔力で投擲する今の威力を10として……)
ほむら(魔法を使って強化した威力を最大5倍と考えたら……)
ほむら(黄金長方形とやらは、何倍くらい強くなるのだろうかッ!)
ほむら「くらえワルプルギスッ!」
672: 2012/09/01(土) 09:13:58.16 ID:ShonYw3S0
メキョォッ
ほむら「爆煙で見えないが、当たった音がした!」
ギャアァァァ――ッ!
ほむら「!?」
ほむら「……な、何の音!?」
ほむら「ワルプルギスの声ではない……」
ほむら「けど……どこかで……」
ほむら「どこかで聞いた……!」
ほむら「この『鳴き声』は……ッ! まさか! そんな!」
673: 2012/09/01(土) 09:15:59.85 ID:ShonYw3S0
『また会ったな』
ほむら「ッ!? この声……!」
バサッ バサッ
ほむら「そして、この音……」
ほむら「……う、嘘、でしょ?」
翼竜「ギィィィィィィ――ッ!」
翼竜「ギャァァァァ――ッス!」
ほむら「恐竜が……何匹も……!」
ほむら「さっきのは……鉄球が翼竜に当たった音!」
674: 2012/09/01(土) 09:17:21.26 ID:ShonYw3S0
『地獄からはい上がってきたぞ暁美ほむら』
ほむら「そして……そしてこの声!」
ほむら「Dioッ!」
ほむら「な、何故……Dio……死んだはず!」
Dio『既に死んでいるんだがな』
ほむら「目の前にいるのは……プテラノドンのような恐竜が五、六匹……」
ほむら(どこが……Dioはどこにいるんだ……?)
ほむら(ど、どこから声が……!)
675: 2012/09/01(土) 09:19:25.74 ID:ShonYw3S0
ほむら「……ハッ!」
使い魔「」ボシュンッ
ほむら「使い魔……? そして、消えた……」
ほむら「何故……?」
ほむら「私の投げた鉄球は、ワルプルギスをかばって翼竜に……?」
ほむら「……まさか!」
ほむら「使い魔も恐竜にできるのかッ!?」
Dio『その通りだぜ……。魔女もできればよかったのになぁ……』
Dio『まぁ恐竜にできたらできたで、浮いてるからまず落下して自重で死ぬがな』
ほむら「冗談じゃないわ……リアルゴジラじゃないの……!」
676: 2012/09/01(土) 09:21:47.23 ID:ShonYw3S0
Dio『さて、無駄話ももういいだろう』
Dio『おまえらは……俺の最大の試練だ。おまえらを超えて、まどかの力を利用して、俺はこの世をとことん上から支配してやる』
ほむら「まどかを……ッ!」ギリッ…
翼竜「クヮ――――――ッ!」
ほむら「来る!」
Dio『まずはおまえだ! 暁美ほむら! おまえの死体は丁寧に輪切りにしてドブネズミどもの餌にしてくれる!』
ほむら「……仕方ない!」
カチッ
翼竜「――ガゥ?」
Dio『……いない……な』
Dio『時を止めて……。……チッ、逃がしたか』
677: 2012/09/01(土) 09:22:39.48 ID:ShonYw3S0
ほむら「…………」
杏子「ば、馬鹿な……! Dioが生きてやがるだって……!?」
さやか「死んだはずじゃ……いや、既に死んでるのか。なんでここに……!?」
ジャイロ「確かに病院から落下して……あの高さからは普通助からない」
ジャイロ「死体が無かったから死んだら消えるのかと思ったんだがな……」
マミ「何故いるのかもそうだけど……使い魔を恐竜にするですって……?」
ほむら「…………」
マミ「まさかDioまで相手にしなくちゃいけないだなんてね……」
杏子「チト荷が重いぜ……」
ほむら「…………」
さやか「……ほ、ほむら?」
678: 2012/09/01(土) 09:23:26.74 ID:ShonYw3S0
ほむら「ジャイロォッ!」
マミ「!?」
ジャイロ「……何だ?」
ほむら「もうレッスンがどうこう言ってる場合じゃあないわ! 黄金長方形の回転の秘密を教えて! 今すぐにッ!」
ジャイロ「…………」
ジャイロ「それはダメだ」
さやか「へ?」
ほむら「……は?」
ジャイロ「できるわけがないと、あと三回言ってからだ」
マミ「ふ、ふざけているの!? 今すぐに暁美さんに教えてあげて!」
ジャイロ「ダメなもんはダメだ。慌てるな。おまえならできるぞ」
杏子「こ、こいつ……遊んでんのか!?」
679: 2012/09/01(土) 09:24:09.35 ID:ShonYw3S0
ほむら「そんなすぐにできるわけないでしょ! あなたは子どもの頃から訓練を受けている!」
ほむら「それを習得一ヶ月の私にやってみろ言われても無理!」
ほむら「できるわけがないっ! できるわけがないっ! さあ3回言ったわよ! バックルを見せ……」
ジャイロ「今のは1回にしか勘定しねぇからな。あと2回だ」
ほむら「さ、最初の時もビー玉で見せてくれたじゃないの!」
ジャイロ「それを例に出すか。ならあの時と同じだ! 俺は既に! おまえに全て説明しているし見せている! レッスン4だッ! 敬意を払え!」
さやか「何だとォ~~ッ……言葉遊びしてる場合じゃあないんだぞ!」
マミ「そうよ! Dioがいるのよ! ワルプルギスの夜に集中しなければならないッ!」
ジャイロ「ああ、そうだ。俺もDioが生きていたとは思わなかった。かなりヤバイと思う」
ジャイロ「だが! それは俺の言う『敬意』の答えを教えることは別問題だッ!」
ジャイロ「勝つなら急いでレッスン4を理解しなければならねーなッ!」
ほむら「…………」
680: 2012/09/01(土) 09:25:02.91 ID:ShonYw3S0
ほむら「ふッ! ……ッざけないで! 今すぐバックルを寄越しなさいッ!」ガシィッ
杏子「ほ、ほむら!?」
ほむら「あなたこの状況を何だと思っているのッ!?」
ほむら「お遊びしてる場合じゃあない! 何が資格よ! 何が敬意よ!」グイィッ
ほむら「この状況で何故黄金の回転をしないの! 奴を舐めているの!?」
ほむら「まさか『どうせやり直せるから失敗してもいいや』だなんて思ってないでしょ――ねェ――ッ!」
マミ「あ、暁美さん! 落ち着いて!」
ジャイロ「……」
ゴチンッ
ほむら「あたッ!」
681: 2012/09/01(土) 09:26:31.41 ID:ShonYw3S0
さやか「げ、げんこつ!?」
ジャイロ「テメーふざけたこと抜かしてんじゃあねーぞッ!」
ジャイロ「ツェペリ一族の回転の技術を見下してやがるのかッ!」
ジャイロ「『できない』と4度言うまでやれない! 絶対にッ!」
ジャイロ「それがツェペリ家の『掟』だ! 『掟』を破ったらおまえは敗北するッ!」
ほむら「は、敗北してまた時間を遡ったらッ!」
ほむら「イレギュラーなあなたの魂なんかどうなるかわかったもんじゃあないのよッ!」
ジャイロ「俺を脅してるつもりか? そん時はそん時だ」
ほむら「…………」
ほむら「もう、いいわよ……わかったわ……」
ほむら「言い合ってても埒が明かない」
さやか「ほむら……」
682: 2012/09/01(土) 09:27:17.24 ID:ShonYw3S0
ほむら「私はDioの恐竜に鉄球をぶつけて倒した。そして恐竜は使い魔に戻って消えていった」
ほむら「使い魔を恐竜にできるということがわかったわ」
ほむら「それだけじゃない」
ほむら「Dioの声はしたけど、Dioの姿は見れなかったのだけど」
さやか「見えなかったって……姿を消す能力が?」
ジャイロ「いや、奴の能力は恐竜になるか恐竜にさせるだけだ」
マミ「保護色……の線はなさそうね。もしできるなら既に暗殺するでしょうし」
ほむら「ジャイロ。あなたはDioと過去に会っている。何か心当たりは?」
ジャイロ「あるぜ。何というか……Dioは消えていない。あの翼竜の中に隠れている」
杏子「な、中……?」
ジャイロ「フェルディナンドという大地万歳野郎がやったミノ隠れならぬ恐竜隠れだ」
ジャイロ「あの翼竜どものどれかの『体内』に、Dio隠れているはずだ」
ジャイロ「それ以外に言えることは……Dioは能力を使って使い魔を利用しているということは、考えようによっては……」
ほむら「私達、ワルプルギス、Dioの三つ巴という形になるわね」
さやか「な、なるほど。でも……どうすれば……」
683: 2012/09/01(土) 09:28:06.34 ID:ShonYw3S0
杏子「……あぁ、もう面倒くさい。あれこれ考えても仕方ねーぜ」
杏子「今のは所詮、様子見だろ。だったら、こっからが本番のようなもんだ」
杏子「次は何をすればいいのかを教えろ!」
ほむら「ワルプルギス単体ならまだしも、余計な物がついていたら……どうすればいいのか」
ジャイロ「…………」
ほむら「こうなったら、どの翼竜にDioがいるかわからないというなら……片っ端からぶっ放すわ!」
ほむら「12.7mmM2重機関銃。射程距離400m。その威力は弾丸がかすっただけで手足くらい簡単にふっとぶ!」ジャキィッ
さやか「お、おいおい……近接のあたしと杏子が巻き込まれちゃうよ!」
杏子「落ちつけって……慌てても何もならねー」
マミ「…………」
マミ「それよりも一つ、私に考えがあるわ」
さやか「え?」
マミ「まず、暁美さんは魔女から距離を取って、遠方から攻撃を行って、注意を惹いて!」
マミ「それから――」
684: 2012/09/01(土) 09:28:50.47 ID:ShonYw3S0
――
――――
Dio『ワルプルギスの夜……おぞましいパワーをひしひしと感じる』
Dio『使い魔を利用させてもらうぜ……』
Dio『ワルプルギス。おまえを最大限に利用して、魔法少女共とジャイロを葬ってくれる』
Dio『……しかし、なんだな』
Dio『このDioがフェルディナンドとかいうカスの技を真似するはめになるとは、世の中はわからんな』
Dio『この脚さえ動けばもっと楽なやり方はあったんだろうが……』
Dio『全く。体内からでは視界がグッと狭まるのは痛いな……』
クン、クン
Dio『ムッ……この臭いは……杏子か。杏子が近づいてくるぞ』
Dio『恐竜共ッ! 奴を包囲しろ!』
Dio『一匹だけ待機していたらこの中に俺がいることを知らせるようなものだ……おまえも向かえ』
翼竜「ギィィィィィ――!」
685: 2012/09/01(土) 09:30:06.34 ID:ShonYw3S0
ガクンッ
翼竜「ギッ!?」
Dio『うおっ!?』
Dio『な、なんだ……! 何かにぶつかったぞ……?』
ズルッ
Dio「恐竜の口から肩までだけ這い出た」
Dio「……ッ!?」
Dio「なっ! なんだこの光景は……!」
Dio「リ、『リボン』……?」
Dio「ワルプルギスを『囲う』ように……リボンが縦横無尽に走っているッ!?」
Dio「リボンが別のリボンに結びつき……まるぜ蜘蛛の巣だ!」
Dio「まずい! コウモリならまだしも、恐竜ではッ! この『動かない障害物』ではッ!」
686: 2012/09/01(土) 09:31:23.65 ID:ShonYw3S0
翼竜「ギャア――ッ!」
ドゲッ
翼竜「シャア――ッ!」
ド ド ドドド ドド ド
マミ「佐倉さんのロッソファンタズマの分身それぞれに私のリボンを持たせて飛び回らせた」
マミ「そして数多のリボンは互いに絡み合う……」
マミ「リボンの包囲網よ」
マミ「さらにリボンの包囲網の部分部分に鉄球が回転している」
687: 2012/09/01(土) 09:33:30.40 ID:ShonYw3S0
マミ「その効果でリボンはワイヤーのように硬質化されているわッ!」
マミ「ワルプルギスを囲うのように走るワイヤーリボン!」
マミ「人間にとっては立体的で不安定な足場の舞台!」
マミ「けど……翼竜ならどうかしらッ?」
マミ「コウモリならこの程度のトラップは簡単に躱せるでしょうけど……」
マミ「恐竜は『動いているものしか見えない』とツェペリさんに聞いたわ」
マミ「つまり! 動かないワイヤーのような、硬質な障害物にぶつかる!」
マミ「くらいなさいDioッ! 半径100m『ガッビア・トッカ(リボンの鳥かご)』を――ッ!」
マミ「直径200mの私の結界に愚弄されるがいいわ!」
688: 2012/09/01(土) 09:38:02.16 ID:ShonYw3S0
杏子(Dioはどこに入ってやがる?)
翼竜「ギャアァ――――!」
翼竜「シェイヤアァ――――!」
杏子(わからんが、とにかく全員とっちめりゃあいい! おまえらは自由に飛び回れないんだからな。倒すのは容易!)
Dio『お、おのれ……マミめ……』
Dio『しかし杏子……あいつ……』
Dio『分身ができるのか……全く、やっかいなことをする』
Dio『だが……分身なぞ無駄だ……』
Dio『恐竜の嗅覚でおまえの臭いを感知することで……本体の居場所はお見通しなのだ』
Dio『おまえから見て十一時の方向! 行けッ!』
グォォォォッ
翼竜「ギシャアァァ――――ッ!」
杏子「よし! 今度はおまえだ! ぶっ殺――」
翼竜「WRYYYYYYYYYYY!」
689: 2012/09/01(土) 09:38:32.36 ID:ShonYw3S0
ザシュッ!
杏子「す……!?」
杏子「ガ、ガフッ……!」
杏子「きょ、恐竜の口から……」
杏子「口から『腕』がッ……!? そしてあたしの腹を……!」
翼竜「余計なことをしてくれるな。杏子……」
杏子「ディ、Dio……!」
ズルリッ
Dio「ソウルジェムが槍の影になっていた故、即死の一撃は与えられなかったが……」
Dio「グニグニした胃に触っているぞ杏子……胃を切り裂いて胃液を体内にブチ撒けられたいか?」
杏子「グ……ぐェ……あ……!」
Dio「人間が体の内側から溶けていく様は俺も見たくないし暇もない」
Dio「さあ、ソウルジェムを砕かせるんだ。楽に逝けるぜ。きっと」
690: 2012/09/01(土) 09:39:17.96 ID:ShonYw3S0
杏子「……恐竜の中に……テメーがいること……わからないと、思ったか……?」
杏子「そして……見破ると……思ったぜ。ゲフッ、本物のあたしをよォ~……」
杏子「臭いとかそういうので……たくさんのロッソファンタズマの中から……本物のあたしを……な」
Dio「何……ブツクサ言っているんだ?」
杏子「だからあたしは、ソウルジェムを槍で防御したんだ……おまえが来ることが、口から腕を伸ばして攻撃してくるのが、わかっていたからな……!」
杏子「そしておまえは、あたし自身を餌にした罠にまんまとかかったってわけさ」
Dio「貴様……何が言いたいんだ」
杏子「あたし……食べ物を粗末にするのは……嫌なんだよ。デッサンとかで食パンを消しゴム代わり使うのもいただけねー」
杏子「調味料って……食い物だよな」
スッ…
杏子「あたしは『そーゆーの』持ったことないんだよな。魔法少女だから……必要ないんだからなぁ」
Dio(あれは……缶? いや、あれは……まさか! マズイ!)
691: 2012/09/01(土) 09:39:48.54 ID:ShonYw3S0
プシュゥゥ――ッ!
Dio「うおォッ!」
杏子「マスタードスプレーだッ!」
杏子「カラシと唐辛子の催涙ガス! ほむらから貰った護身用グッズだ! くらいやがれェェ!」
Dio「うおォォッ! 目が……! 鼻が……!」
杏子「これでおまえの自慢の嗅覚もマヒして機能しない!」
杏子「則ち、もう本物のあたしは見破れない!」
Dio「退けッ!」
翼竜「ギャアァ――――!」
杏子「勝ったッ!」
杏子s「「「「『ロッソ・ファンタズマ』躱せるかァ――ッ!」」」」
バァ――z__ッ!
692: 2012/09/01(土) 09:40:45.22 ID:ShonYw3S0
キュゥ――ン…
杏子「……ん?」
杏子「何の音だ?」
ボッ
杏子「ッ!?」
杏子「あれは……ワルプルギスの――ッ!」
杏子「な……なんだよ……何でこのタイミングでこっちに攻撃が来てんだよ! おかしいだろうがッ!」
杏子「今さっきまで……奴はほむらを狙っていたのに……標的はほむらだったのに!」
杏子「何でこっちを狙うんだよ! これじゃまるでDioを助け……!」
杏子「うおあああああああ! ヤバイ! 逃げろォォォッ!」バァッ
ドギャァ――ンッ
693: 2012/09/01(土) 09:41:51.15 ID:ShonYw3S0
ほむら「マミの策は……なかなかいいわね」
ほむら「杏子がマミのリボンで足場を作り、私達の移動性能を高める」
ほむら「そして私はリボンを伝って適当なビルに乗って……」
ほむら「狙撃しつつ、ワルプルギスと使い魔、恐竜の注意をこっち向ける」
ほむら「さやかとジャイロは何をしているのかしらね……」
ドギャァ――ンッ
ほむら「!?」
694: 2012/09/01(土) 09:43:15.23 ID:ShonYw3S0
ほむら「わ、ワルプルギスが……攻撃した!?」
ほむら「嘘……何で……? 何で奴の狙いが杏子の方!?」
ほむら「ど……どういうことなのよ……何でワルプルギスは杏子を……」
ほむら「杏子はDioと戦っていた!」
ほむら「ワルプルギスとは無関係!」
ほむら「奴は遠距離攻撃をしている私に注意が向いていたはずなのに……」
ほむら「これじゃあまるでDioを助けたかのよう……」
ほむら「……ん? ワルプルギスの顔に……何か……」
ほむら「……ハッ! あ、あれは……!」
695: 2012/09/01(土) 09:43:41.52 ID:ShonYw3S0
ギャーギャー ギャースッ
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハ」
バサバサ KISYAAAAAAA
ほむら「ワルプルギスの顔の周りに翼竜が集っている……」
ほむら「新たに供給された使い魔は、私の所、恐竜、地上へ向かっている……つまり、魔女は恐竜も敵という認識をしている」
ほむら「……そうか」
ほむら「もし、顔に羽虫が寄ってきたら……払いのけようとする」
ほむら「Dioは恐竜を使って、『利用』したんだ……! ワルプルギスにまとわりつかせて!」
ほむら「な……なんてこと……!」
ほむら「Dioまでいて……それも、ワルプルギスを利用できるだなんて」
696: 2012/09/01(土) 09:44:40.84 ID:ShonYw3S0
ほむら「……ない」
ほむら「……勝てるわけが……勝てるわけがない!」
ほむら「回転がどうとかそういう問題じゃない……勝てない……!」
ほむら「こうしている間にも新たに恐竜が作られて……じり貧に……」
ほむら「そうなれば……グリーフシードの残り的に……私達が……!」
ほむら「結局、この時間軸ではダメだったと言うの……?」
ほむら(少しだけ希望で喜ばせておいて……そして私から全てを奪い去って行く……!)
ほむら(この喪失感は……背徳のツケ……。今までの時間軸で見捨ててきた全ての……)
ほむら「できるわけがない……こんなんじゃ……勝てるわけが……」
ほむら「できるわけがない」
ほむら「…………」
ほむら(…………3回目。か)
ほむら「……ん?」
ほむら「あそこのビル……人影が……」
ほむら「……ジャイロとさやか?」
697: 2012/09/01(土) 09:45:34.59 ID:ShonYw3S0
マミ「そ、そんな……」
マミ「何て馬鹿げた威力なの……! あの炎の矢は……!」
マミ「折角作った鳥篭も台無しだわ……ぽっかりと穴が空いちゃって」
マミ「佐倉さんは……直撃は免れたが爆風でこっちに飛んでくるわね」
マミ「このままだと地面に突撃する!」
マミ「トッカッ!」
シュルシュルシュルシュルシュルシュル
杏子「グッ!」ボスッ
マミ「リボンを編み込んでネットを作った」
杏子「あ……ありがとよ……マミ……」
698: 2012/09/01(土) 09:46:59.85 ID:ShonYw3S0
マミ「佐倉さん! 大丈夫!?」
杏子「……んなわけがないだろ……今の攻撃で右膝下が吹っ飛んじまったよ」
マミ「……凄まじいわ」
杏子「そうだな。だが話してる場合じゃあない……また使い魔が湧いてきたぜ。恐竜はあと二、三匹ってとこかな」
使い魔「――」
マミ「使い魔といい恐竜といい、忙しいわね……!」
バシュンッ
杏子「やれやれ。片足で戦うのは難しいな」
杏子「マミ、治してくれよ」
マミ「ちょっと立て込んでるんだけど……っと!」
杏子「さやかは? トイレ?」
マミ「さっきツェペリさんと一緒に上で行ったわ」
杏子「上? ……あぁ、そういうことね」
マミ「大丈夫?」
杏子「大丈夫!」
699: 2012/09/01(土) 09:52:58.51 ID:ShonYw3S0
フラフラ…
Dio「くそ……視界がチト霞むが……何となく見えてきた……。ビルがどの辺に浮いてるかくらいはわかる……」
Dio「翼に飛び火したか……おい、不安がるな。おまえは指示通り一番高いビルに行けばいいんだ」
翼竜「SYAAAAA……」
Dio「可哀想に……おまえの体、焦げ臭いぞ。大丈夫。そこの浮いてるビルに止まるんだ。あと5m……3……1……」
バサバサッ ドシャッ
ズルリッ
Dio「よし。たどり着いたな。この高さなら下にいるあいつらには気付かれないだろう……」
Dio「さて、おまえはもう用済みだ。しばらく休んで視覚を何とかして……その後は新しい恐竜を来させ――」
「休む暇なんか与えねェ――……」
700: 2012/09/01(土) 09:53:55.14 ID:ShonYw3S0
Dio「!?」
ジャイロ「よォー……久しぶりだなオイ」
さやか「あの時はよくもあたしに酷い目に遭わせてくれたよね」
Dio「ジャイロ・ツェペリ……美樹さやか……?!」
Dio「な、何故貴様らがここに……!」
さやか「簡単だよぉ。マミさんのリボンの足場を乗り継いでだよぉ」
ジャイロ「あんな高所で不安定な綱渡りはツララをケツに突っ込まれた気分だったぜ」
Dio「クッ……何故だ……何故俺がここに来ることがわかった……!」
さやか「あ、ひょっとして気付いてないのかな?」
Dio「な、何をだ……?」
701: 2012/09/01(土) 09:55:10.76 ID:ShonYw3S0
さやか「現代の護身グッズの合理性をだよォ~~……」
ジャイロ「鏡の類はないもんな……」
さやか「あんたにかけられたマスタードスプレーのことだよ……」
Dio「き、貴様ら……!」
さやか「さっきのスプレー! 『ピンク色の塗料』が同時に噴射されるのだ!」
さやか「塗料がつくことで、犯人がすぐにわかるからな……合理的でしょ」
Dio「……ハッ!」
翼竜「ガウゥゥゥ……」
Dio「お、俺の恐竜が……ダークピンクに……」
さやか「塗料がついていれば、そいつはそれを噴射された、則ちターゲットだってわかるからね……しかもそう簡単には落ちない」
さやか「途中で乗り換えればそれをあたし達が見逃さない。だからあんたは翼竜の中に潜むほかなく、この塗料に気付かなかったんだ」
ジャイロ「どっちみち、空飛ぶピンクを探せばいいんだよ。まぁ高い場所に行くだろうと予想はしていたがな」
702: 2012/09/01(土) 09:56:58.28 ID:ShonYw3S0
Dio「ひ、退け! 恐竜!」ガシィッ
Dio「飛べッ! ジャイロは手ぶらッ! 鉄球を持って投げるまでの隙ができるッ!」
翼竜「ギャウー!」
バサッ
Dio「ここは逃げ――」
さやか「そうはさせるかッ!」
ザシュッ
Dio「な……ッ!?」
翼竜「GYAAAAAAAA――!」
Dio「な……なにィィィ!? 恐竜の……翼が……」
グラッ
Dio「お、落ちるッ!」
ズルッ ガシィッ
703: 2012/09/01(土) 09:58:52.79 ID:ShonYw3S0
Dio「ハァ……ハァ……!」
ジャイロ「やはり……落下しないように恐竜から抜け出したな」
さやか「落ちまいと必死にビルにしがみつく姿は実に情けないねぇ」
Dio「何故だ……! 何故恐竜が……近づかれていないのに!」
さやか「……フッフッフ。翼竜ちゃんは、マスタードスプレーで目がふさがれちゃったから自慢の動体視力も残念賞……」
Dio「さやか……?」
Dio「ハッ! け、剣が……! 『刀身がない』ッ!?」
さやか「へへーん!」バーン
さやか「マミさんにも秘密の奥の手だよ……この剣先を飛ばすのは! ……もっとも一本しかないから無くしたらまた作らないといけないんだけどねっ」
さやか「名付けてラストショット! 剣先を飛ばして翼竜をやったッ!」
Dio「こ……この……! 薄っぺらなたかがカスの小娘のくせにッ!」
704: 2012/09/01(土) 10:00:19.78 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「回転をくらうがいいぜ」
ギャンッ
Dio「うおあッ!」
シルシルシルシルシルシル
グルンッ ドサッ
さやか「回転で捕まり状態から半回転しィ~~……あたし達の足下に!」
さやか「築地のマグロみたいにドサァーってね。ニョホホ」
Dio「ク、クソッ……!」
ジャイロ「大人しくしてろよ。そのまま回転で動きを止めてやる」
シルシルシルシル
Dio「うっ……グク、ぬぬ……!」
ジャイロ「さて、と。このDioをぶちのめすか。脚の不自由なその体……俺はおまえさんにカワイソーだとか思わねぇ」
Dio「く……ぐく……!」
705: 2012/09/01(土) 10:02:10.27 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「聞け、Dio。俺は今からおまえを抱えて、こっから飛び降りるぜ」
Dio「な、何ィッ!?」
ジャイロ「わざわざ高いビルへ逃げたのが運の尽きだ」
ジャイロ「まあ……下から見えないし行くのに骨が折れるからこのビルに逃げるのが順当だろーがな」
ジャイロ「こんなとこから……おまえを蹴り落とすのもいいが、おまえは恐竜を呼び出したりとかするかもしれねーからよぉ……」
ジャイロ「共倒れってのがおまえを葬る一番確実な方法だ。しかもこれが唯一無二のチャンスさ」
Dio「お、おまえ……! し、死ぬ気かッ!」
ジャイロ「おまえ何かを抱えて飛び降りなくちゃならないってのは嫌ってもんだぜ」
ジャイロ「Dio。とにかくおまえはちょっと黙ってろ。心を静かに……」
シルシルシルシルシル
Dio「ウ……あ……」
Dio「…………」
706: 2012/09/01(土) 10:02:47.87 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「聞け、Dio。俺は今からおまえを抱えて、こっから飛び降りるぜ」
Dio「な、何ィッ!?」
ジャイロ「わざわざ高いビルへ逃げたのが運の尽きだ」
ジャイロ「まあ……下から見えないし行くのに骨が折れるからこのビルに逃げるのが順当だろーがな」
ジャイロ「こんなとこから……おまえを蹴り落とすのもいいが、おまえは恐竜を呼び出したりとかするかもしれねーからよぉ……」
ジャイロ「共倒れってのがおまえを葬る一番確実な方法だ。しかもこれが唯一無二のチャンスさ」
Dio「お、おまえ……! し、死ぬ気かッ!」
ジャイロ「おまえ何かを抱えて飛び降りなくちゃならないってのは嫌ってもんだぜ」
ジャイロ「Dio。とにかくおまえはちょっと黙ってろ。心を静かに……」
シルシルシルシルシル
Dio「ウ……あ……」
Dio「…………」
707: 2012/09/01(土) 10:06:53.01 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「おまえはバラバラにしても石の下からミミズのようにはい出てきそうなくらいにしつこいからな。こうするしかねー」
さやか「…………ねぇ、ジャイロ」
ジャイロ「あん?」
さやか「本当にこうするしかないかなぁ」
さやか「あたし……やっぱヤだよ。恭介の腕治してくれたり、恩があるのに……」
ジャイロ「気にするな。俺はこの世界にとっては招かれざる存在なんだよ。元に戻るだけさ……ただ元にな」
708: 2012/09/01(土) 10:07:19.38 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「俺だけにDioに引導を渡す権利があり、義務なんだ。俺はDioの道連れになるつもりで戦う」
ジャイロ「ほむら以外の全員は、俺が死ぬことを承諾しただろ?」
さやか「それは、そうだけどさ……」
ジャイロ「まぁ、さようならと言えないのが心残りではあるが……まぁ仕方あるまい」
ジャイロ「それらを覚悟したからこそ、おまえは俺とここに来たんだぜ」
ジャイロ「ま、当のほむらに黙ってこんなことするのもあれだが……あいつに限って許してくれないだろうからな。黙って逝くぜ」
さやか「うん……でも、寂しいよ……。マミさんや杏子だって……」
ジャイロ「人の死を乗り越えてこそ、人は成長するもんなんだよ」
ジャイロ「杏子が言っただろ? 俺を魔女の呪いから解放するって」
さやか「……わかったよ。うん。あたし達で決めたことだもんね」
さやか「あたし、あんたのことずっと忘れないからね!」
ジャイロ「いつかは忘れてもいいぜ」
さやか「うーん……そう言っちゃうかあんた……」
709: 2012/09/01(土) 10:14:52.48 ID:ShonYw3S0
さやか「……さて、これからジャイロは死んじゃうわけだけど」
ジャイロ「何だ?」
さやか「バックルは? 渡しとくよ?」
ジャイロ「いや、ほむらは4回目の『できない』をまだ言っていないはずだ。だからやれない」
さやか「ちょ……! 死んだら渡せないじゃん! 新手の詐欺まがいなことを……!」
ジャイロ「掟は掟だからな……。それに、バックルなんか今更意味はない」
さやか「え? ど、どういうこと?」
ジャイロ「ほむらに伝えてやってくれ。『おたくはすでに答えを掴んでいる。回転させようとする意志を持つならなぜそれを使わない?』と……」
ジャイロ「これはバックルなんかよりずっと良いヒントだ」
さやか「…………」
さやか「愛弟子に最期の伝言するのに、それだけじゃ寂しくない?」
ジャイロ「ニョホホ、おまえ気が利くじゃあないか。それじゃお言葉に甘えて……だが、覚えられるのか?」
さやか「あたしを馬鹿にしないでよね!」
710: 2012/09/01(土) 10:18:08.11 ID:ShonYw3S0
――
――――
ジャイロ「さてと、あとはよろしく頼むぜ」
さやか「うん……」
ジャイロ「あばよ」
さやか「イイヤツに生まれ代われよっ!」
ジャイロ「ニョホホッ、だといいな」
ジャイロ「……オラ、起きろDio。死ぬ時間だぜ……しょっと」
ガシィッ
Dio「……はっ!」
ジャイロ「それじゃ、飛び降りるで」
ブワッ
Dio「ッ!」
712: 2012/09/01(土) 10:21:41.60 ID:ShonYw3S0
さやか「…………」
さやか「あたしが無意気の内にとっていたのは敬礼のポーズであった」ビシィッ
さやか「それにしても何だか……ずいぶんとあっさりとした別れだなぁ……」
さやか「何でだろう? ジャイロのことは、尊敬も感謝もしているのに……」
さやか「不思議と、泣くとか『そーゆーの』がない。大切な仲間の一人との別れだってのに」
さやか「思えば杏子もマミさんもそうだったな……割とあっさりジャイロの死を受け入れた」
さやか「悲しいし、寂しいし、未来の娯楽施設を見せてその反応を見てみたかったってのに……」
さやか「……魔女の呪いから解放するっていう意識だからかな?」
さやか「これが、救済する側の気持ちってやつなのかな」
さやか「あーもー! あたしの頭じゃ考えがまとまらないからもう何でもいいや!」
713: 2012/09/01(土) 10:23:03.10 ID:ShonYw3S0
ゴオォォォ――――――z____ ッ!
Dio「う、うおおおおおおッ!?」
ジャイロ「この高さならよォ――……落ちるのがコンクリだろうが水だろうがどっち道、即死だぜ」
ジャイロ「おまえは病院の時に続いて、また落ちるんだ」
ジャイロ「再びな……」
Dio「お、おのれ……! ジャイロ・ツェペリ……!」
ジャイロ「再びなァ――――――ッ!」
Dio「フン! だが……面白いぞジャイロ・ツェペリ! おまえの覚悟には敬意を表してやる!」
Dio「だがッ! この俺がおまえの腕を切り落として逃げないとでも思ったか!?」
ジャイロ「ッ!」
Dio「WRYYY! 貧弱! 貧弱ゥ!」
グアァッ!
714: 2012/09/01(土) 10:24:13.12 ID:ShonYw3S0
ガキィッ!
Dio「……な」
ジャイロ「ぐああッ! 痛っ……てぇな! ちくしょう!」
Dio「ば、馬鹿な……! 恐竜化した俺の手刀はおまえの腕を切り飛ばすはずだ……。俺は骨ごと腕を切り落とすこともできる……!」
Dio「何故腕が繋がっている! 何故掴む腕の力が緩まないんだ!」
ジャイロ「ニョホホ。ホホ」
シルシルシルシル
Dio「ッ! 回、転……!」
ジャイロ「ホ」
ジャイロ「気付いたか? 何も俺が無策でつっこむわけねーだろ」
ジャイロ「テメーにしては冷静じゃあないな。まあ無理もない」
Dio「ジャイロ・ツェペリッ! 皮膚を硬質化したなッ!」
ジャイロ「おうよ。今の俺はそこら辺の拘束具よりも頑丈だぜ」
715: 2012/09/01(土) 10:29:35.21 ID:ShonYw3S0
Dio「は、離せジャイロォ……!」
ジャイロ「嫌だね」
Dio「いいか、よく聞け。どうせ俺達は既に死んでいるんだぞ……!」
Dio「今こうして空気が吸えるのはきっと生き返れという神の啓示だ!」
Dio「生に執着するのが生き物ってもんだろう!?」
Dio「手を組もうじゃないか! 俺達が手を組めばニューヨークのマンハッタン島くらいなら簡単に手に入るぞッ!」
Dio「まどかの力があれば俺達は生き返って何だってできるんだッ!」
Dio「何なら他の魔法少女の素質のある奴を探せば、契約の力で何でも叶うぞ! ちょっと脅せば大丈夫だ!」
Dio「おまえにも永遠の喜びを与えようじゃないか!」
Dio「なあいいだろう! おまえにも出世欲はあるはずだ! おまえにも、人の上に立つ才能がある!」
ジャイロ「なんつーか……おまえ、小物臭がハンパないな。まぁ、生への執着心と良いように捉えてやる」
Dio「クッ!」
716: 2012/09/01(土) 10:31:13.99 ID:ShonYw3S0
ジャイロ「いつまでもこの世にへばり付いてんじゃあねェーぜッ! お互いによオォ――ッ!」
Dio「ふざけるなァァァァ――――ッ! ジャイロォォォ――――ッ!」
ジャイロ「うるせぇーぞ! ボケッ!」
Dio「やめろオオオオオオオオWRYYYYYYYYYYYYYYYYY――――ッ!」
ジャイロ「テメーごときにしがみついて死ぬ俺の気持ちも考えろよなッ!」
Dio「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!」
ジャイロ「…………」
Dio「――――」
ジャイロ(……じゃあな)
メメタァッ
717: 2012/09/01(土) 10:37:08.59 ID:ShonYw3S0
――避難所
タツヤ「タァァァ~~~~~…………」
タツヤ「ボ」
知久「よしよし」
詢子「お酒飲みたいんだが」
知久「我慢してよ詢子さん」
詢子「酒! 飲まずにはいられない!」
知久「そういえばまどかは?」
詢子「さあ? 外の景色でも見てるんじゃないの?」
詢子「ほら、子どもの頃、台風の時とかってなんかわくわくしなかった? そんなノリでさ」
知久「あぁ、そんな頃もあったような気がするよ」
タツヤ「イギーッ」
718: 2012/09/01(土) 10:45:47.81 ID:ShonYw3S0
まどか「…………」
QB「彼女達の元へ行くのかい?」
まどか「行きたいけど……」
まどか「わたしが行っても、邪魔なだけだよ……」
まどか「外の様子、見てるだけ……」
QB「…………」
QB「君は無力感を覚えている」
QB「全員が戦っているのに、自分だけ安全な場所にいることに心を痛めている。違うかい?」
まどか「…………」
QB「君が契約されすれば、ワルプルギスの夜を倒せるというのに……」
まどか「わたしが契約してワルプルギスを超えても、それはほむらちゃんを悲しませちゃう」
まどか「ほむらちゃんは幸せになるために、わたしを幸せにするために未来からやってきた」
719: 2012/09/01(土) 10:49:41.17 ID:ShonYw3S0
QB「やれやれ。人間の価値観というものは本当に理解ができない」
QB「ねぇ、まどか」
QB「ワルプルギスの魔女は何故、舞台装置の魔女と呼ばれているのを知っているかい?」
QB「ワルプルギスは自分自身で舞台を作り上げ、魔法少女を役者をした舞台を演出する」
QB「その脚本は、魔法少女の敗北が結末なんだよ」
まどか「…………」
QB「ワルプルギスを超える力がないと、その舞台の結末。もとい崩壊の運命からは逃れられない」
QB「負けることが運命だ。その運命を切り開けるのは君の契約――」
まどか「キュゥべえ……それは違うよ」
720: 2012/09/01(土) 10:51:56.74 ID:ShonYw3S0
まどか「運命っていうのは自分で切り開くものなんだよ」
まどか「運命の一言で諦めれちゃうようなら、ほむらちゃんは今、この時間軸にはいない」
まどか「……それに役者じゃない存在が乱入しているんだもの」
QB「ジャイロ・ツェペリ……」
まどか「それに、ほむらちゃんには、その技術(アドリブ)があるもん」
まどか「とにかくわたしは、そうそう契約はしないから」
QB「本当に君は……」
まどか「魔法少女になる以外に鹿目さんを超える方法……何かないかなー」
QB「鹿目……? あぁ、前の時間軸の君のことか」
QB「そんなこと考える必要はないんじゃないかな。君がその鹿目なんだから」
まどか「キュゥべえにはわたしの心が一生わからないだろうね――」
721: 2012/09/01(土) 10:53:35.84 ID:ShonYw3S0
ガシャアァァァンッ!
まどか「!?」
QB「!?」
まどか「な、何の音……!」
QB「ガラスが割れた音だね」
まどか「……え」
まどか「あ……あれって……そんな……」
『ルゥゥゥゥ…』
まどか「う、嘘……そんな……あ、あり得ない……どうして……!」
722: 2012/09/01(土) 10:55:32.81 ID:ShonYw3S0
恐竜「ブハァ――……ッ」
まどか「恐、竜……!?」
まどか「でぃ、でぃ……」
まどか「Dio……!?」
まどか「そ、そ、そ、そんな……ど、どど、どうして……た、確かに……確かに消えたって……!」
QB「スタンド能力というものは本体が死ねば消滅するはずなのに……」
QB「……あの時、病院で……あの高さから落ちたのに……奇跡的に生きていたのか……!」
まどか「う、う、うぅ……」
まどか「うあああああああ!」
QB(まどかが恐怖している!)
723: 2012/09/01(土) 10:58:12.06 ID:ShonYw3S0
恐竜「ギャアァァ――――ッ!」
ダンッ
QB「気付かれた!」
まどか「ああああ……あああ……あああああ……」
恐竜「グルルルルル……」
QB「まどか! 逃げるんだ!」
まどか「あ、あわ、あわわ……」
ガクガク
まどか「あ、脚が……脚が震えっ……!」
まどか「ひっ、ひぃ……ッ!」
724: 2012/09/01(土) 10:59:01.65 ID:ShonYw3S0
――まどかは思った。
Dioがいる! 病院の高い階からコンクリートの地面に落下して消えたと聞いていた!
本人ではないが、恐竜が実際にいる! ガラスを突き破って! 侵入した! つまり生きている!
何があったのかわからないが、何にしてもいるという事実がある!
……目的はわたし! Dioが病院を襲撃した時、さやかちゃんとキュゥべえを捕まえて契約を迫ったように……
今! わたしとキュゥべえを捕まえて、契約させるつもりだ!
ここに恐竜が現れたということは、Dioは、わたしがここにいることを知っていたということになる!
そして本体が来ていないということは……きっとDioはワルプルギスの所にいる!
725: 2012/09/01(土) 10:59:57.66 ID:ShonYw3S0
まどか「い、い……」
まどか「いやあぁぁぁぁ……!」
ペタン
QB「まどか! 座り込んではダメだ! 逃げなくちゃ!」
まどか「こ、腰が、抜け……た、立てないよぉ……!」
恐竜「グフゥー」
まどか「ひぃぃぃっ!」
ドスンッ
まどか「ごふッ!?」
726: 2012/09/01(土) 11:01:15.90 ID:ShonYw3S0
QB「まずい! あの時と同じだ……!」
QB「恐竜がまどかを踏みつけた!」
恐竜「グルルルゥ……」
キョロ キョロ
QB「警戒している……仲間がいないかどうか確かめているんだ」
まどか「お、重い……痛い……苦しい……た、助けて……誰か……」
まどか(声が震える……大声が出ない……怖い……怖い怖い怖い怖い)
まどか(誰か……誰か助けて……ママ、パパ……ほむらちゃん……!)
まどか「痛い、痛い、痛い……痛いよ……痛いよぉ……!」
QB「まどか! しっかりするんだ!」
まどか(――ん? 脚に……傷跡みたいなものが……ある)
727: 2012/09/01(土) 11:04:04.97 ID:ShonYw3S0
QB「まどか!」
QB(まずい……Dioにまどかを奪われたら……)
QB(契約すること自体は問題ない。しかし……今はダメだ)
QB(Dioにまどかを渡すわけにはいかない)
恐竜「ブハァ――……」
QB(うっ、目が合った)
QB(……確か恐竜は、Dioの言葉に反応していた)
QB(なら……言葉が通じるかもしれない!)
QB「まどかを離してくれ!」
728: 2012/09/01(土) 11:05:14.42 ID:ShonYw3S0
恐竜「グルル……」
ギリッ
まどか「ああああ……っ! お、重い……! 苦しい……!」
QB(まずい……さやかの時と違って……さやかがうつ伏せだったのに対してまどかは仰向け)
QB(生物は防御をする時、腹を抱えるようにして背中を丸める。それは内臓を防御するためだ)
QB(まどかは今、かなりのダメージを与えられている!)
QB(さらに、恐竜が間近に見えることによる恐怖!)
QB(さやかの時以上の恐怖と苦痛を味わわされている……!)
QB(今、契約をさせるにも……恐竜がいては、踏まれていてはそれができない)
729: 2012/09/01(土) 11:06:40.93 ID:ShonYw3S0
QB(助けなければ……しかしどうやって?)
QB(……恐竜はDioの言葉を認識していた)
QB(言語は通じないだろうか? 今はとにかく考え得るあらゆる方法で試してみよう)
QB(Dioは日本語で指示していたが、テレパシーで別の言語による指示を送っていた可能性もある)
QB(あらゆる言語で試してみよう)
QB「Release her!」
QB「Placere dimittere Madoka!」
QB「Si prega di rilasciare il suo!」
QB「マドカヲ離シテクレ!」
730: 2012/09/01(土) 11:07:09.35 ID:ShonYw3S0
恐竜「グゥゥ――……」
まどか「う……く……ぐぐ……」
まどか(キュゥべえの声に反応している……?)
まどか(何の音なのかわからなくて音のする方を確認しているのかな? 犬が首を傾げるみたいに)
まどか(何にしても……キュゥべえに注目している)
まどか(い、今がチャンス!)
まどか(脚の傷跡……何かによって『斬られた傷』がふさがってきたって感じの傷……)
まどか(そ……そこに……やるしかない!)
まどか「く……」
モゾッ
まどか「ケ、ケータイの角……」
まどか(動体視力……視界外なら……!)
まどか(ごめんなさい!)
ブォンッ
ゴスンッ!
731: 2012/09/01(土) 11:08:59.21 ID:ShonYw3S0
恐竜「ギャアァァ――――――スッ!」
まどか「ひっ、怯んだ! 今の内に抜け出すッ!」
ズルッ
まどか「お、おあぉっ!」
ダッ
まどか「ぎゃっ!」ベチャ
QB「まどか! 大丈夫かい?!」
まどか「こ、転んじゃった……けど大丈夫!」
まどか「キュゥべえ……! 隙をつくってくれてありがと!」
まどか「はぁ……はぁ……」
まどか「痛いだろうなぁ……ごめんなさい。恐竜にされた人……あるいは動物さん……」
まどか「わたしも痛かったから両成敗ってことで……いたた……」
732: 2012/09/01(土) 11:10:23.04 ID:ShonYw3S0
恐竜「ギャウゥゥゥ……」
QB(うつ伏せだったらまどかは攻撃できなかった。仰向けはまずいと思ったが、逆によかった)
QB(これが火事場の馬鹿力というものなのかな。それともまどかの精神力が思いの外成長していたのかな)
QB(これなら魔法少女になった後は素晴らしい活躍をしてくれるだろう。だが……今の状況は……)
QB「状況は何も好転していない……」
まどか「どうしよう……」
まどか(助けを呼ぶのはダメ……巻き込んでしまう)
まどか(それ以前に恐竜を目の当たりにするわけにはいかない!)
まどか(どうすればいい……? わたしに何ができる?)
まどか(わたしは……無力だ)
733: 2012/09/01(土) 11:11:13.88 ID:ShonYw3S0
QB「まどか。急いで契約するんだ!」
まどか「キュゥべえ……」
QB「じゃないと、またあの時の二の舞だ! 魔法少女になって戦うんだ!」
QB「そして、そのままほむら達に加勢しようじゃないか!」
まどか(……確かにそうだ)
まどか(今、何をどう考えても、わたしが恐竜と戦うには、魔法少女になるしか手だてはない)
まどか(じゃないと、またあの時と同じように……)
まどか(わたしとキュゥべえはあの鋭い牙の生えた口でくわえられ……)
まどか(人質にされる! 敗北が決定してしまう!)
まどか(……契約しか……契約しかないの!?)
まどか(それは……嫌だッ!)
734: 2012/09/01(土) 11:12:43.60 ID:ShonYw3S0
まどか「…………」
まどか(……いつだったかな)
まどか(ジャイロさんが……前に『ルーシー・スティールさん』っていう人の話をしてくれた……)
まどか(ルーシーさんは……その命を賭けて、修羅場をくぐり抜けたらしい!)
まどか(聖なる遺体だとか、スタンドだとか大統領だとか、詳しい事情はわからないけど……)
まどか(いつ消されても、殺されてもおかしくないような権力に対して、立ち向かったらしい!)
まどか(夫を守るためにッ!)
まどか(ルーシーさんは……確か14歳で……52歳のスティーブンさんって人のお嫁さんだ)
まどか(年齢差と14歳で結婚していることもそうだけど……年齢がわたしとそんな変わらないということにわたしは驚いた!)
まどか(ルーシーさんはスタンドという能力を持っていないし、鉄球の回転のような技術もない)
まどか(それでも! 愛する夫のために命を賭けた! あらゆる恐怖に対抗した!)
735: 2012/09/01(土) 11:14:24.85 ID:ShonYw3S0
まどか(きっとその人は幸せになっただろう……)
まどか(わたしも幸せになりたい……ほむらちゃんも、幸せになるために時間を遡行してきたんだ……)
まどか(14歳のルーシーさんができたのなら、わたしだって……!)
まどか(見滝原を……みんなを……ほむらちゃんを救うために!)
まどか(わたしがDioに捕まったら……全てが台無しになる)
まどか(わたしなんかのために……ほむらちゃんの重ねてきた努力を無駄にはできない!)
まどか(やるしかない! やらなきゃやられる!)
まどか(でも……どうやって?)
736: 2012/09/01(土) 11:15:38.45 ID:ShonYw3S0
まどか(ルーシーさんならどうするだろう)
まどか(ルーシーさんと違うとこは……わたしの命がある意味で保証されていることだ)
まどか(Dioの目的はわたしの契約の力。必要なときになるまで殺しはしない)
まどか(でも……それが何だっていうの?)
まどか(ただの人間が……丸腰で恐竜と対峙して、勝てるわけがない)
まどか(本当に契約だけ?)
まどか(契約すればほむらちゃんを悲しませる……契約しなければ敗北する)
まどか(うぅ……ほ、ほむらちゃん……)
737: 2012/09/01(土) 11:16:05.68 ID:ShonYw3S0
QB「まどか! ただの人間に、恐竜を相手できるわけがない!」
QB「契約するんだ! 今すぐに! 恐竜が警戒している今の内に!」
まどか(ただの人間……)
まどか(わたしは……ただの中学生だ。普通の人と同じに……家族を愛し友人を愛し国を愛する……)
まどか(ダメだ……。ただの中学生でしかないんだ……)
まどか(契約するしか……もう手だてはない……!)
まどか(敗北だけは避けなければ……わたしも、戦わなくちゃ……!)
まどか「キュ、キュゥべえ……わたし……」
まどか(ごめんなさい……。ごめんなさい。ほむらちゃ――)
738: 2012/09/01(土) 11:17:08.76 ID:ShonYw3S0
ほむら『まどか、あなたは特別な存在よ』
まどか「――ハッ!」
まどか(今……ほむらちゃんの声が聞こえたような……)
まどか(いや、違う。今のはわたしの思い出だ……ほむらちゃんがわたしに言ってくれた言葉)
まどか「…………」
まどか(……そうだよ)
まどか(違うんだよ!)
まどか(わたしはただの人間じゃあないんだ……)
まどか(特別……)
まどか(普通の人とは違うことがあった!)
739: 2012/09/01(土) 11:18:18.12 ID:ShonYw3S0
まどか「…………」
QB「どうしたんだい?」
まどか(わたしには『キュゥべえ』がいる!)
まどか(ただの人間が……ただの、それも丸腰の女子中学生が恐竜に勝てるはずがない……)
まどか(しかし……丸腰の女子中学生のわたしに、勝つ可能性があるとするのなら!)
まどか(それはキュゥべえがいるということだ!)
まどか(それこそ、わたしが普通と違うとこ!)
まどか(キュゥべえが見える……)
まどか(そして……それは「わたしだけ」じゃない)
QB「ど、どうしたんだい。まどか」
まどか「キュゥべえ! わたしに協力して!」
QB「契約かい? もちろ――」
まどか「契約はしない! でも、協力して!」
QB「……」
740: 2012/09/01(土) 11:19:29.47 ID:ShonYw3S0
QB「契約をしないなら、僕は力になれないよ」
まどか「ど、どうして!?」
まどか「どっちにしても、今契約しようとしたらその隙に襲われる!」
QB「確かに。それは盲点だったかもしれない」
QB「いいかい。Dioの目的はまどかの契約の力だ。なら、まどかの命はある意味保証されているというわけだ」
QB「そして……過程はどうであれ、まどかが契約するという結果が残る」
QB「なら僕がわざわざ助ける必要性がない」
QB「契約さえすれば、まどかの力はDioなんか足下にも及ばない」
まどか「そ、そんな……」
QB「しかし、まどかが契約をしてしまうとなると……」
まどか「え?」
QB「ほむらはまた時間を巻き戻してしまう」
QB「このままじゃいたちごっこというわけだ」
QB「それどころか、ほむらは記憶と回転の技術を引き継いでしまう」
QB「ますますまどかとの契約ができなくなるんだよ」
QB「そもそも魔法少女として力を使う前にDioに殺される危険性も10%くらいはあり得るからね」
まどか「……」
QB「利益を考慮すると協力したい気持ちもあるけど、僕は力になれないよ」
QB「僕には魔法も技術も力もないからね」
まどか「キュゥべえ……」
741: 2012/09/01(土) 11:21:09.97 ID:ShonYw3S0
まどか「……ありがとう」
QB「お礼を言われる理由がわからないよ」
まどか「それでも、ありがとう……」
まどか「協力はしてくれるんだよね?」
QB「……ああ、そうか。全く。人間の言葉は本当に要領を得ない」
QB「僕は力にはなれないよ。噛みつくことも庇うこともできない。そんな僕がいたところで……」
QB「まあ、何をするのかは聞かないけど、勝算はあるのかい?」
まどか「……わからない。賭けになるかも。……けど、やらなきゃやられる」
QB「僕は何をすればいい?」
まどか「わたしの肩に乗ってっ」
742: 2012/09/01(土) 11:22:01.22 ID:ShonYw3S0
まどか(この恐竜と対峙する上で……)
まどか(目的がわたしなら……ある意味ではわたしの命は保証されている!)
まどか(少なくともこの恐竜には殺されはしない! 手加減をされる!)
まどか(だから多少無茶しても……大丈夫だ!)
まどか(みんなの足手まといになりたくないと思ったからには……)
まどか(ならないために! 覚悟を決める!)
まどか(思いついてしまった『策』に……わたしは人間の魂を賭ける!)
まどか(成長するんだ! 成長しなければ栄光は掴めない! 明るい未来も! ほむらちゃんの幸せも!)
743: 2012/09/01(土) 11:28:14.43 ID:ShonYw3S0
恐竜「ギィィィヤァァァ――――ッ!」
グアァァ
QB「来るよ! まどか!」
まどか「勇気を出して……わたし……!」
まどか「勇気とは怖さを知ることッ!」
まどか「キュゥべえ! 覚悟を決めてッ!」
まどか「いっくよォ――――ッ!」
ダッ
QB「な……何だって!?」
QB「逆に突っ込んだッ!?」
QB「何を考えているんだまどか!」
744: 2012/09/01(土) 11:28:53.08 ID:ShonYw3S0
QB「このままだと正面衝突! 捕まりに行くようなものだ!」
まどか「うん捕まるだろうね! でも怯えて立ちつくしている方が捕まえてくれと言ってるようなものッ!」
まどか(契約をしなければ、恐竜に負けたら、わたしは人質にされ、みんなの敗北が決まる。それは嫌だ!)
まどか(ほむらちゃんを悲しませたら、わたしが負ける!)
恐竜「ウガアアアァァァ――――――ッ!」
まどか「うおあああああああ――――ッ!」
まどか(わたしが恐竜に勝ってみんながDioとワルプルギスに勝つ! これが完全なる勝利!)
まどか「ゴメン! キュゥべえ!」
QB「!」
QB「うわあぁぁっ!」
恐竜「ガアァァァァッ!」
まどか「おらぁッ!」
ザグゥッ!
745: 2012/09/01(土) 11:30:10.00 ID:ShonYw3S0
ボタ…ボタ…
まどか「あ……ああ……うあ……」
QB(恐竜の牙が……まどかの腕に……深々と刺さった……!)
QB(下手をすれば……神経が切れて、上条恭介と同じように……腕が動かなくなるかもしれないというのに……!)
QB(まどかは信じている……全員が生きて帰ってきて、この傷を癒してくれるということを……だが……)
QB「無茶苦茶な……! 君は……なんてことを……!」
まどか「ふぐぅっ……うぅ……うぅぅぅ」ポロポロ
まどか「み、見てのとおりだよ……キュゥ……べえ……グスッ」
746: 2012/09/01(土) 11:30:50.03 ID:ShonYw3S0
まどか「敢えて……『恐竜の口に腕を突っ込んだ』……」
まどか「い……いたい……すごくいたいよぉ……血もいっぱい出るし……エグッ、涙まで出てくる……」
まどか「でも……怖いのは痛みなんかじゃない……みんなの足を引っ張るのは嫌だ……」
まどか「人質にされて、ほむらちゃんの今までの努力を無駄にするのが……ずっと怖い……」
まどか「わたしが……わたしもがんばらないと……明日は訪れない……!」
まどか「ワルプルギスの夜を超えた! 暁が見れないッ!」
まどか「明日って今なんだよッ!」
まどか「みんなで幸福に生きてみせる!」
まどか「栄光は……わたし達に……ある……!」
747: 2012/09/01(土) 11:33:51.52 ID:ShonYw3S0
恐竜「グッ……ガッ……」
まどか「杏子ちゃんと初めて出会った病院での出来事……」
まどか「恐竜は……さやかちゃんとキュゥべえをくわえて、持ってきて……Dioが脅迫をした」
まどか「Dioはジャイロさんと同じようにキュゥべえが見えていた」
まどか「そしてそのDioの能力である恐竜は……キュゥべえを見て触れることができた。だからつれてこれた」
まどか「Dioは……キュゥべぇに干渉できる」
まどか「その能力である恐竜もまた……キュゥべえに干渉できる……!」
まどか「キュゥべえは……恐竜に物理的干渉ができるッ!」
まどか「はぁ……はぁ……」
まどか「ごめんね。キュゥべえ……」
恐竜「ググッ……ゲッ、ガ……ギ」
まどか「腕を突っ込んで……」
まどか「恐竜の『喉』に『キュゥべえ』を『詰め』た……」
恐竜「ギギ……ギギギィ……」
QB「全く……わけが……わからないよ。君がこんな……乱暴な手段を選択するなんて」
まどか「恐竜は息ができなくて窒息する!」
748: 2012/09/01(土) 11:34:48.87 ID:ShonYw3S0
恐竜「ガ……」
ドサァッ
恐竜「」ヒクヒクッ
QB「なんて……なんて無茶をするんだまどか……」
QB「僕で窒息させるだなんて……僕を乱暴に扱ったこともそうだけど」
QB「なによりその負傷。生身でそんなことを……」
QB「左腕が真っ赤じゃないか」
まどか「うっ……」
ガクゥッ
まどか「け……決着ゥ~……!」
まどか「はぁ……はぁ……」
QB「君の命がけの行動。……僕は敬意を表すよ」
まどか「か……勝っちゃった」
まどか「わ、わたし……なんかが……恐竜を……魔法少女じゃないのに……」
まどか「やった……! やったよみんな……! わたしが……わたしが倒したんだ……!」
まどか「ウェ、ウェヒヒ……。血だらけだけど……ジンジン痛むけど……すごく、晴れ晴れとしてる……」
749: 2012/09/01(土) 11:36:40.58 ID:ShonYw3S0
まどか「わたしでも……」
まどか「わたしでもできるなら……」
まどか「わたしでもできるなら、今更Dioなんかがいても……」
まどか「みんな、大丈夫だよね!」
まどか「……うぅ、う、腕が熱い……!」
まどか「この傷……どうしよう……」
まどか「恐竜と一戦交えたなんて言えないもんね……」
QB「契約すれば何とでもなるよ。その傷も、この状況も」
まどか「……普通に。後でさやかちゃんに治してもらえばいいし」
ショウ「…………」
QB「おや、恐竜の姿が元に戻っているよ」
まどか「あ、ほんとだ……」
まどか「そっか。気を失うとDioの能力が解除されるんだったっけ」
758: 2012/09/01(土) 19:20:25.09 ID:5N6V7dFc0
――
――――
ほむら「……あ、あああ……ああ……そ、そんな……」ワナワナ
ほむら「ジャ……ジャイロ……じ、自分から……」
ほむら「あんな高さから落ちたら……ジャイロ、即死じゃないの……」
ほむら「ジャイロ……! 何で……何でそんな……」
ほむら「そ、そんなのってないわよ……! どうして……?」
ほむら「Dioを倒すためとは言え……どうして……! うぅ……!」
ほむら「あなたが死んだら……わ、私は……!」
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
使い魔「――」
使い魔「――」
759: 2012/09/01(土) 19:22:07.26 ID:5N6V7dFc0
ほむら「私達だけで……ワルプルギスを倒せと言うの……?」
ほむら「無茶に決まってるじゃない! 何回やったと思っているのよ……!」
ほむら「ジャイロが消えてしまった以上……それを打開する唯一の希望、黄金の回転の答えを知る術がないじゃない!」
ほむら「知ったとしても、倒せるかどうかもわからない!」
ほむら「ジャイロ……あなたはどうしてそんな……Dioと共倒れだなんて……他に方法は……あったはず……!」
ほむら「どうしてさっさと教えてくれなかったのッ!?」
ほむら「いきなり言われたって、できるわけがないじゃない……!」
ほむら「できるわけが……」
ほむら「……ハッ!」
ほむら(できるわけがない、と4回……)
ほむら「う、うぅっ……!」
『4回言ったな……できるわけない……と』
760: 2012/09/01(土) 19:23:37.43 ID:5N6V7dFc0
ほむら「!?」
『おまえはよォー……たった一ヶ月という短い期間で……黄金長方形、ツェペリ一族と同じステップに立つ可能性を得られた。それは、奇跡だ』
ほむら「じゃ、ジャイロ……? ジャイロなの……? あなた……どうして……!」
『掟は掟と言っていたが、バックルはやれねぇ……。申し訳ないと思う。……だが、おまえなら必ずできる。回転を信じろ……そして敬意を払うんだ』
『ここでヒントをやろう。おたくはすでに答えを掴んでいる。回転させようとする意志を持つならなぜそれを使わない』
ほむら「答えを……既に?」
『……じゃあな。俺はあっちへ行くぜ。そうゆうことなら……そうゆうことでいいんだ。俺の趣味は……約束したよな……誰にも言うなよ』
ほむら「ま、待って! ジャイロ! どこにいるの! いかないでッ!」
『じゃあな……元気でな』
ほむら「ああぁ……そんな……!」
761: 2012/09/01(土) 19:25:59.22 ID:5N6V7dFc0
ほむら「ジャイ……ロ……!」
ほむら「さようなら……ジャイロ」
ほむら「……さようなら」
「……って伝えろって言われてさぁ」
ほむら「!?」バッ
さやか「めちゃ辛いけどさァ~~……メソメソするのは終わってからにしようね!」
さやか「それにしても、ほむら。ずいぶんと感情的だなぁ。ちょっとビビッたよ」
さやか「伝言しただけなのに。そんなに似てた? 声。ちょっとだけ意識したけど」
ほむら「さやか……? いつの間に……」
さやか「えぇ~? 気付かなかったの? 浮いてるビルとリボンワイヤーをピョンピョコピョンと乗り継いで来たんだよ? ホントに気付かなかったの?」
ほむら(今のは……幻聴……?)
762: 2012/09/01(土) 19:27:36.94 ID:5N6V7dFc0
さやか「まあいいか」
さやか「ねぇほむら、今の4回目の『できない』だよね? すごいな。ジャイロ。そこまで計算してあたしに『4回言ったな』って言えっつったんだよー」
ほむら「……」
さやか「ほら、涙を拭きなよ。ネガティブになるなんてほむららしくない」
ほむら「……あら、泣いてたの? 私……」
さやか「あたしのマントで涙を拭きなよ」
ほむら「いらないわよ。そんな埃まみれの汚いの」
さやか「……そうそう。やっぱほむらは生意気なくらいが丁度いい」
ほむら「どの口が……ま、そうね。諦めるなんて、私らしくなかったわ」ゴシゴシ
さやか「ねぇ、ジャイロの趣味ってどういうこと?」
ほむら「……秘密よ。これは絶対に秘密」
さやか「ええぇ~……」
763: 2012/09/01(土) 19:30:25.60 ID:5N6V7dFc0
ほむら(黄金長方形……『既に全て説明した』……私は『既に答を持っている』……)
ほむら「考えるのよ。暁美ほむら……」
ほむら「答えを持っているということは今の私が回すことができるということ……」
ほむら「全て説明したということは答えは導き出せるということ……」
待って……いったいツェペリ家は何が言いたい?
764: 2012/09/01(土) 19:32:18.37 ID:5N6V7dFc0
黄金長方形? 美しさの基本?
芸術家達やジャイロの先祖は……それをどこから学んだ?
学者から聞いたとか、定規で測ったわけじゃあないはず……。
それはコピーってやつで本物じゃあない……。本物があるはず! 本物の美のスケールが!
本物はどこにある? 本物に気付かなくては……黄金の回転は、永遠に回せない……。
本物って……何? 美しいって何?
私が持っている美しい物? ……鹿目さんとの出会い?
ほむら「美しい物……」
さやか「美しいといえば美少女のさやかちゃん!」
ほむら「黙ってて」
さやか「スイませェん……」
765: 2012/09/01(土) 19:34:13.61 ID:5N6V7dFc0
キュ―ゥン――
ほむら「……ハッ!」
さやか「あっ!」
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハ」
さやか「ヤバイ! 炎の矢が来るッ! 魔女自身の意思だ!」
ほむら(う、美しいって……何なのよ!)
ほむら(くっ……)
さやか「ほむらぁっ!」ガシッ
さやか「そこのビルに飛び移れぇっ!」
バァッ
766: 2012/09/01(土) 19:35:34.18 ID:5N6V7dFc0
ドサァッ
さやか「ぐへぁ!」
ほむら「ああっ!」
ほむら「い、痛つつ……」
ドッバァァァ!
ほむら「……え?」
ゴァァァァァ
ほむら(炎の矢が……さっきまで乗っていたビルをバラバラにした、その破片が!)
ほむら(も、ものすごい破片飛沫が! その爆発さながらのスピード!)
ほむら(ま、まずい! 時を止めないと!)
ほむら「ま、間に合わ――」
767: 2012/09/01(土) 19:37:03.04 ID:5N6V7dFc0
バッ!
ほむら「!?」
さやか「当たる面積を最大にして気合ガード!」
ドガガガガガガッ
さやか「うがあぁぁぁぁぁ!」
ほむら「さ、さやか!」
ドガンッ
さやか「タコスッ!」
カチッ
768: 2012/09/01(土) 19:43:56.31 ID:5N6V7dFc0
ほむら「時を止めて瓦礫を何とかした」
ほむら「さやかッ!」
ほむら「あ、あなた……! 私を庇うなんて……なんて馬鹿なこと……」
さやか「へ、へへ……あたし、ほむらに迷惑かけたからさ……」
さやか「それどころか……恭介を治して……くれた恩がある……も……」
さやか「どうってこと……ないさ……」
ほむら「今治療して――」
さやか「……ん」
カクッ
ほむら「さ、さやかァッ!?」
ほむら「……き、気を失っただけ、か……」
ほむら「この傷……頭に瓦礫がぶつかったからか……」
769: 2012/09/01(土) 19:46:25.84 ID:5N6V7dFc0
ほむら「ごめんなさい。さやか……私のせいで……。そして、ありがとう。助けてくれて……」
ほむら「…………」
ほむら「この状況……ジャイロのように……タフなセリフを吐きたい」
ほむら「ジャイロなら……『こりゃ頭が馬鹿になっちまうな。ニョホホ』とか言うでしょうね……」
ほむら「さやか……あんな風に庇ってくれるだなんて……」
ほむら「あなた……なんか、ちょっぴりカッコイイじゃないの……」
ほむら「……あ」
ほむら「さやか……」
ほむら「さやかで思い出したわ」
ほむら「ずっと、どっかで引っかかってたのよね……」
770: 2012/09/01(土) 19:48:30.63 ID:5N6V7dFc0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
マミ「それで、美樹さんが持ってきたお花は何の意味が?」
ジャイロ「……手術が長引くほど赤色をよく見ることになるからな。補色の緑を見ないと目が疲れる」
ジャイロ「胡蝶蘭は葉が大きい。緑を見る必要がある」
ほむら「……緑なら何でもいいじゃない。布とか」
ジャイロ「……いいだろっ。花でも何でも」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ほむら「……花」
ほむら「あの手術の日……」
ほむら「ジャイロがさやかに持ってこいと言われたものは、花……」
ほむら「ジャイロは、手術をする時、花を見ていた。無菌にしておくべきなのにわざわざ持ち込んで」
ほむら「緑を見る分なら何でもいいはずなのに。よりによって手術室に土を持ち込む? 普通……」
771: 2012/09/01(土) 19:49:07.80 ID:5N6V7dFc0
ほむら「……いや、待って」
ほむら「既に説明した」
ほむら「…………」
ほむら「あの時はいつもの気まぐれかと思ってたけど……」
ほむら「もし……もしも……」
ほむら「それが『必然』だとすれば?」
ほむら「……つまり、ジャイロは手術する時……『回転』させる時……『花』が『必然』だとすれば?」
ほむら「あの理に叶っていない行動が、きたるべきレッスン4のために『布石』だとしたら? ヒントになるから隠していたとすれば?」
ほむら「回転は……花が必然だった?」
ほむら「……花? 植物?」
ほむら「今まで、ジャイロが回転させる時……どうだった?」
772: 2012/09/01(土) 19:54:32.32 ID:5N6V7dFc0
ほむら「初めて会った時……ジャイロは野草を持っていた」
ほむら「薔薇園の魔女ではジャイロは薔薇の感想を言っていた」
ほむら「お菓子の魔女ではジャイロは肩に葉っぱをくっつけてきてた」
ほむら「病院ではまどかがガーベラの花かごを持ってきていた」
ほむら「手術の時はジャイロは胡蝶蘭をガン見していた」
ほむら「それ以外の魔女や使い魔の時はどうだったかしら……?」
ほむら「今は……街路樹とかは全て飛ばされてそれらが『ない』と仮定して、その回転を『改めて見せられなかった』とする」
ほむら「そして……私が『持っているもの』……クローバーの押し花……」
773: 2012/09/01(土) 19:56:34.06 ID:5N6V7dFc0
ほむら「…………」
ほむら「……ジャイロ」
ほむら「あなたの言いたいこと、黄金長方形の軌跡っていうのは……」
ほむら「美の基本っていうのは……」
ほむら「今、私が考えていることで正しいの?」
ほむら「私が今、見えているもので正しいの?」
ほむら「既に持っているもの?」
ほむら「私が既に見てきたもの?」
ほむら「じゃあ……投げちゃうわよ?」
774: 2012/09/01(土) 19:58:01.01 ID:5N6V7dFc0
スッ
ほむら(…………)
ほむら(まどかから貰った……この『クローバー』の押し花の栞……)
ほむら(深い観察から……芸術家達が学んだ同じスケールで……自然から――クローバーの葉から学ぶ、本物の美のスケール……)
ほむら「既に答えを持っている」
ほむら「本物の美。それは自然。神の創造物。『自然』こそが、全ての『美の基本』……」
ほむら「美の基本から、黄金長方形を見出したッ! 黄金の比率を発見したッ!」
ほむら「さやか……」
ほむら「あなた、鋭いわね」
ほむら「美樹、美しい樹。美=樹=自然……面白い奇跡だわ」
ほむら「ジャイロは……『これ』を見て鉄球を回転させていた……!」
775: 2012/09/01(土) 19:58:41.29 ID:5N6V7dFc0
ほむら「まどかからの……贈り物」
ほむら「四つ葉のクローバーの栞。幸運の象徴……」
ほむら「黄金長方形」
『ほむらちゃん。これ……お守り!』
ほむら「ま……」
ほむら「まどかぁ……!」
ガォンッ
776: 2012/09/01(土) 19:59:40.25 ID:5N6V7dFc0
ほむら「――ッ!?」
ギャルギャルギャルギャルギャル
ギャルギャルギャルギャルギャル
ほむら「何……この回転は……!?」
ほむら(明らかに……違う! 感覚でわかる!)
ほむら(この回転は……! この回転は……!)
使い魔「――」ブアッ
ほむら「…………」ヒョイッ
ズギャンッ!
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
使い魔「!」
ドグチアァッ
777: 2012/09/01(土) 20:00:52.56 ID:5N6V7dFc0
ほむら「つ、使い魔が……バラバラに……」
ほむら「感覚だけでなく、実感と共にわかった……威力が、圧倒的に違う……!」
ほむら「これが……」
ほむら「これがッ!」
ほむら「これが無限の回転ッ!」
ほむら「黄金長方形の軌跡ッ!」
ほむら「ジャイロ! 私はツェペリ一族の領域に踏み込んだわッ!」
778: 2012/09/01(土) 20:04:12.98 ID:5N6V7dFc0
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハ」
ほむら「…………」
ほむら「レッスン4……『敬意を払え』」
ほむら「ワルプルギスの夜……」
ゴゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴ ゴ ゴ
ほむら「あなたは、何度も私を嘆かせた。何度もマミをさやかを杏子を、そしてまどかを絶望させてきた」
ほむら「私はどれだけあなたを憎んだか。いつしか私はあなたを殺すことを常に考えていた」
ほむら「ワルプルギス! 私の気持ちを聞かせてあげる……」
ほむら「女子中学生として恥ずべきことだが正直なとこ、今の暁美ほむらは……」
ほむら「恨みをはらすために! ワルプルギスの夜! 貴様を殺すッ!」
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
ほむら「夜はとっとと明けてもらうわッ! あなたを殺さなければ、私に、私達に、暁は来ないッ!」
779: 2012/09/01(土) 20:05:38.56 ID:5N6V7dFc0
カチッ
ほむら「……ワルプルギス」
ほむら「あなた……喰らうのは初めてよね。回転の力」
ほむら「死ぬほど味わいなさい……私の回転を。私の究極の回転を」
ほむら「勇気と幸運のクローバーッ!」
ほむら「そして肉体を強化する魔法で、回旋筋腱板、足腰の筋肉、全身を強化するッ!」
ググッ
ほむら「全身のエネルギーを、鉄球に込めるッ!」
ほむら「肉体の限界と、無限の回転!」
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
ほむら「これが私の全て! 私の全力だッ!」
ブォンッ
780: 2012/09/01(土) 20:10:58.43 ID:5N6V7dFc0
ワルプルギス「」
ピタァ…
ほむら「……一球だけだと思った?」
ブンッ
ピタッ
ほむら「残念。ストックの鉄球を全部投げさせてもらうわッ!」
ほむら「これもッ! これもッ! これもッ!」
ブンッ! ブンッ! ブンッ! ピタアァ――ッ
ほむら「私の全てだアァァァァ――――z____ ッ!!」
ドォ――――z____ ッ!!
ほむら「壮観だわ……ワルプルギスに鉄球がたくさん襲いかからんとしている」
781: 2012/09/01(土) 20:13:50.67 ID:5N6V7dFc0
ほむら「そして時は動き出すッ!」
ド ガガ ガ ガガガォンッ!
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
シュルシュルシュルシュルシュルシュル
ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハ…ハハハハハハ…ハ…」
ガリガリガリガリガリガリ
シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシル
ピシッ ピキピキ……ベリッ ベギベギベギ
ほむら(ワルプルギスの体が……顔面が割れていく……!)
ワルプルギス「Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」
ボゴォッ!
ほむら「ワ……ワルプルギスの顔、体……そのものが……音を立てて完全に割れていく」
ほむら「…………勝った」
782: 2012/09/01(土) 20:15:51.70 ID:5N6V7dFc0
ほむら「……ついに」
ほむら「私は……ついに……」
ほむら「奴を超えたんだ……悲願だった……」
『おい! おい! ほむら!』
ほむら「…………テレパシー」
杏子『やったなオイ! ついに倒したんだな! ほむらオメーマジでやるじゃねぇかおい!』
マミ『よくやったわ! でもワルプルギスが死ぬということは、今あたなと美樹さんが乗ってるビルも落下する! すぐに戻って!』
ほむら(黄金の長方形の回転は……正解だった……)
ほむら(ありがとう……ジャイロ。ありがとう……それしか言えない)
ほむら「……さて」
ほむら「ワルプルギスが消滅するまでの時間、私がすべきことがある……」
783: 2012/09/01(土) 20:18:08.61 ID:5N6V7dFc0
ほむら(……もう)
ほむら(もうソウルジェムが真っ黒だわ)
ほむら(……グリーフシードのストックも尽きた)
ほむら(このままだと……魔女になる)
ほむら(そう……魔女に……)
ほむら「…………」
ほむら「さやか……」
ほむら「あなたは生きなければならない。私の残った命……あなたのために使ってあげる」
ほむら『みんな……聞こえるかしら?』
784: 2012/09/01(土) 20:19:57.49 ID:5N6V7dFc0
ほむら『……私にはまだやることがある』
マミ『あ、暁美さん? 何を言ってるの……?』
ほむら『私のソウルジェムは……真っ黒になってしまった。浄化もきっともう間に合わない』
杏子『お、おい! なにをする気だ!?』
ほむら『もうダメなのよ……ソウルジェムがもう真っ黒……ここで破壊しないと、私は魔女になってしまう』
杏子『は、破壊!? おい! 待て! 何言ってんだよ!』
マミ『へ、変なこと言わないで! 鹿目さんが待っているのよ!』
ほむら『まどかには、暁美ほむらはあなたと出会えて嬉しかった。普通の女の子として幸せに暮らして欲しい。と伝えてちょうだい』
杏子『おい! ふざけんなよこの野郎!』
マミ『そうよ! 生きて帰るって約束したんでしょ?!』
785: 2012/09/01(土) 20:22:57.90 ID:5N6V7dFc0
ほむら『さやかはここから落下したらそのままこのビルの下敷きになるとかして死んでしまう』
ほむら『何も二人も死ぬことはない。私はさやかを救うわ』
ほむら『私はここで死ぬ』
ほむら『死ななければならないの』
マミ『暁美さん! 聞こえてるんでしょ! すぐに浄化すればまだ間に合うわ!』
ほむら『もし私の早とちりでワルプルギスが死んでいなかったら……その時はよろしく』
ほむら『ティロフィナーレ一発で済むんじゃないかしら』
杏子『おい! 馬鹿! 早まるな! 今行くから待っ――』
ほむら『まどかを……さやかを……そして見滝原をよろしく』
786: 2012/09/01(土) 20:24:03.16 ID:5N6V7dFc0
マミ「あ、暁美さん!? 暁美さんっ!」
マミ「……魔法少女の姿を解いてる……テレパシーが通じない……!」
杏子「ち、ちきしょう……! ま、魔力が……!」
杏子「動けよクソッ! あたしの体ァッ! あたしはまだ……ほむらに借りを返せてねぇぞッ!」
マミ「いや……! 暁美さんは、私の大切な友達なのに……! 私は誰も失いたくないのにッ!」
杏子「ほむら……頼む! 嘘だと言ってくれ! 冗談だと言ってくれ! ほむら! ほむらァッ!」
杏子「やめろオオオオォォォォォッ!!」
マミ「やめてエエエエェェェェェッ!!」
787: 2012/09/01(土) 20:25:17.06 ID:5N6V7dFc0
ワルプルギス「ハ……ハハ……ア……ハ……」
ほむら(ワルプルギスはもう息絶える……完全に消え去るまで……)
ほむら(足場が落下するまでもって十数秒というとこかしら)
ほむら(魔法少女の姿はもう維持できない。元よりもう鉄球が一つも残っていない。だから……「コレ」を使う。破壊を兼ねて)
さやか「」
ほむら(さやかを助ける。ソウルジェムを破壊する。両方やらなきゃいけないところが、辛いところね)
ほむら(肉体強化の反動で、全身が痛いけど……すぐに終わる)
ほむら「…………」
シルシルシルシル……
ほむら(まどかからもらったこの栞……)
ほむら(これを使って……本を読みたかった)
ほむら(休日の夕方、温かくも涼しくもない部屋で、ソファーに座って、温いコーヒーを飲みながら……)
ほむら(小説を……勿論ハッピーエンドの物語を読みたい。そう、考えていた……)
ほむら(そしてまどかに感想を言って、良かったら読んでみてって言って渡したかった)
ほむら(だけど……ごめんね。まどか)
ほむら(一度も使えなかったどころか、これ……どこかへ無くしちゃうかも……)
788: 2012/09/01(土) 20:26:34.96 ID:5N6V7dFc0
ほむら「……さて、さやか。聞こえてないでしょうけど、覚悟を決めなさい」
ほむら「まず、この高さから落ちるだけなら魔法少女なら死なない」
ほむら「でも、足場……もといビルが降り注いでくる」
ほむら「きっと瓦礫で肉体もソウルジェムもぐしゃぐしゃになるわ」
ほむら「お互いスプラッタよ」
ほむら「だから今から、私のソウルジェムを回転させて……」
ほむら「あなたの体を『硬質化』する。あなたの魂を庇ってあげる」
ほむら「あなたの肉体と魂を救ってみせるわ」
ほむら「大丈夫。私の魂は粉々になるでしょうけど、あなたの体と魂を守るのに何てことないわ」
ほむら「なんたって、無限の回転なんだもの」ファサ
ほむら「…………」
789: 2012/09/01(土) 20:28:22.19 ID:5N6V7dFc0
ほむら「ジャイロ。あなたのおかげで私は目的を達成できたわ」
ほむら「ありがとう……本当にそれしか言えないわ……。ありがとう」
ほむら「マミ、杏子、そしてさやか。私がいなくなった後……まどかを、見滝原をよろしく」
ほむら「お父さん。お母さん。……今まで何から何まで迷惑かけて、親不孝な娘でごめんなさい」
シルシルシルシルシルシル…
ほむら「さようなら。まどか。あなたと出会えて……本当によかった。あなたと友達になれて、本当に幸せだった」
ほむら「まどか。幸せにね」
ワルプルギス「」
ドシュゥ……
バァァァ――――z____ ッ
790: 2012/09/01(土) 20:29:34.73 ID:5N6V7dFc0
――
――――
ガラガラ…ガラ…
杏子「この中だ……! この……ビルの……瓦礫の中に……! さやかがいるッ……!」
ガタンッ
杏子(さやかは生きている。それは間違いない。あのほむらが死なせないと言ったからだ)
杏子(あいつの言うことは全て、信用できる)
杏子(だからこそ……だからこそ、さやかの名しか呼べない)
杏子(ほむらの名を口にするのが怖いんだ)
杏子(ほむらの名を口にして、もし返事が来なかったら……)
杏子(瓦礫をどけるガラガラて音だけしか聞こえなかったら……)
杏子(認めたくない……ほむらの名を呼ぶのが恐ろしくてたまらない……!)
791: 2012/09/01(土) 20:30:40.12 ID:5N6V7dFc0
マミ「……ッ! こ、こっちに来てッ!」
杏子「なんだッ! いたかッ!?」
さやか「」
杏子「さやかッ!」
マミ「美樹さんを避けるように瓦礫が……偶々じゃあない……まるで全ての瓦礫が弾かれたかのように……」
杏子「さやかのソウルジェム……。無事だ。息もある!」
杏子「怪我をしているな……だがこの程度ならなんてこともない」
杏子「だ、だが……一つ、気になることがあるんだ。マミ……」
マミ「…………」
792: 2012/09/01(土) 20:33:33.92 ID:5N6V7dFc0
杏子「さやかの周りに落ちてる……破片のようなものって、さ……」
マミ「…………」
杏子「ビルの窓の……だよな? な?」
マミ「…………」
杏子「そうなんだろッ!?」
杏子「そうだと言えよバカヤローッ!」
マミ「…………」ギリッ
杏子「なあッ!?」
マミ「ソウルジェムの破片に決まってるじゃないッ!
マミ「……暁美さんのッ!」
杏子「――ッ!」
杏子「うぅ……うぅぅ……」
793: 2012/09/01(土) 20:34:30.12 ID:5N6V7dFc0
杏子「クゥゥゥゥ……ッ!」
マミ「遺体をッ!」
杏子「ッ!?」
マミ「……遺体を、探し、ましょう……!」
杏子「……ああ」
マミ「…………くっ」
杏子(……今一番に泣き叫びたいのはあたしよりマミの方だ。付き合いはあたし以上に長いんだからな……)
杏子(あたしにも感情をおさえろってことか……)
杏子「…………ん?」
794: 2012/09/01(土) 20:35:04.96 ID:5N6V7dFc0
杏子「……ハッ!」
ツツ…
杏子「ち……血が」
マミ(……………………)
ガクガク
杏子「が……瓦礫の下から血が……」
杏子「ほむらが……いるのは……そ、そのでかい瓦礫の下……ほむら……が……そこに……」
795: 2012/09/01(土) 20:36:36.57 ID:5N6V7dFc0
杏子「ほむら…………が……そこに…………ほむら」
マミ「……」ワナワナ
マミ「あああ……っ!」
ブワッ
マミ「暁美さん…………うぅぅ……」
ガクリ
杏子「ほむら――――――ァァァッ!!」
杏子「うあああああああああああああ――――ッ!!」
マミ「うぅ……そんなのって……そんなのって……!」
杏子は叫んだ。ほむらの名を! マミは流した。悲しみの涙を!
けれどもほむらの名をよんでも返ってくるのは残酷な静寂だけ……
ジャイロ・ツェペリに次いで、暁美ほむらも死んだのだ……杏子とマミは静寂によってこの事実を実感した……
796: 2012/09/01(土) 20:40:31.39 ID:5N6V7dFc0
その身尽きてもその魂は死なず……
暁美ほむら十四歳ここに眠る。
814: 2012/09/02(日) 09:49:06.26 ID:PfocnRup0
――さやかは目を覚ました後、まどかからほむらの死を知った
かなりのショックだったが、まどかも杏子もマミも、ほむらの死を受け入れていた
だからさやかもそれを受け入れた
さやかは帰宅すると自分の部屋へ行き2時間眠った。そして……目をさましてからしばらくしてほむらが死んだことを思い出し……泣いた……
スーパーセルによる建造物の倒壊、洪水などにより、見滝原の生徒児童及び学生に三週間の休校を言い渡された
ワルプルギスの夜を超えてから、一週間が経っていた
815: 2012/09/02(日) 09:52:08.71 ID:PfocnRup0
――某県S市
さやか「やぁみんな。ワルプルギスぶり! 略してワルぷり!」
杏子「おい。遅いぞ」
さやか「ごめ~ん」
マミ「全くもう……集合時間10分前には来てって言ったじゃない」
さやか「いや~、初めて来るとこなんで電車とかで戸惑っちゃって」
さやか「まどかと一緒に行ければ良かったんだけどなー」ジトー
まどか「……ウェヒヒ、ごめんね?」
さやか「まどかも顔を見るのはワルぷりだね」
さやか「いや~、早く休校解かれないかなぁ」
816: 2012/09/02(日) 09:55:52.86 ID:PfocnRup0
マミ「そうね。でも……私は受験生だから、その埋め合わせが今から怖いわ……」
さやか「お忙しいとおっしゃるならば! 魔女狩りはあたしにお任せあれですよ!」
杏子「たのもしーなー(棒読み)」
さやか「あんたってやつは……」
まどか「あはは……」
さやか「おっ、まどか。どうしたその包帯は」
まどか「ん、これ? 昨日パパにお料理教えてもらってたら指切っちゃって怪我しちゃった」
さやか「どんくせぇ~」
まどか「ひど~いっ」プンスカ
さやか「あははっ」
まどか「ウェヒヒッ」
マミ「ふふっ」
杏子「へへっ」
さやか(……ほほ~?)
817: 2012/09/02(日) 10:00:04.26 ID:PfocnRup0
さやか(みんな……変わらないじゃんか)
さやか(ほむらとジャイロがいなくなって一週間……)
さやか(みんな笑ってる。ちゃんと、乗り越えられてるんだなって)
さやか(だったらあたしも……いい加減に……)
さやか(はは……おかしいよね。ほむら、ジャイロ)
さやか(あたしってどっちかといえばそーゆーキャラなのに……)
さやか(もしかしたらこの中で一番あんた達を引きずってるかもしんない)
さやか(こうやって、寂しいって感情を押し殺してる感)
さやか(……いや、みんなも今のあたしみたいに隠しているのかな?)
818: 2012/09/02(日) 10:02:04.62 ID:PfocnRup0
マミ「……さて、と。全員揃った所で、早速用事を済ませましょう」
杏子「おい、さやか。気をつけろよ。ここは他の魔法少女のテリトリー。下手に動くな」
さやか「そうだね。……敵意持たれない?」
マミ「……かもね。でも、行かなきゃ」
まどか「ところで、何をしにここまで?」
マミ「ある人物に会うためよ」
さやか「ある人物?」
杏子「……ああ。重要な奴だ。だから魔法少女でないまどかも連れてきた」
まどか「どんな人だろう……」
杏子「……むっ?」
819: 2012/09/02(日) 10:03:21.70 ID:PfocnRup0
杏子「……おい、背後から誰かがあたし達を見てるぜ」
さやか「へ?」
マミ「!」
「……」
タッタッタッ
まどか「あっ、あのうしろ姿は……!」
杏子「追うぞ!」
さやか「あ、うん!」
820: 2012/09/02(日) 10:04:57.87 ID:PfocnRup0
――公園
まどか「あっ。いた!」
「ほらほら、喧嘩しないで」
少女Ⅰ「私の邪魔をする奴は縛り首だ」
少女Ⅱ「この前のは僕のせいじゃないって世界だ」
「がっついちゃあダメ。ちゃんとソウルジェムは考えてグリーフシードのストックも持ってるからね」
少女Ⅲ「ようこそ……少女の世界へ……」
マミ「作戦会議でもしてるのかしら?」
杏子「チームみたいだな」
まどか「中心になってるあの子……誰かに似てるような……」
さやか「……あのうしろ姿はッ! まさかあいつは……」
マミ「待って。私が話をする。みんなここにいて……」
821: 2012/09/02(日) 10:06:56.16 ID:PfocnRup0
ザッ
マミ「私の名は巴マミ。この二人とともに見滝原と風見野の魔法少女をしているものよ。こっちの子は魔法少女ではないけど」
「帰ってッ!」
マミ「ッ!」
クルッ
「話はききません! 聞きたくないッ!」
眼鏡少女「帰ってッ!」
さやか「あっ!」
杏子「ほむら!」
まどか「ほむらちゃん……?」
眼鏡少女「みんな行くよ!」
少女Ⅰ~Ⅲ「はーい」ゾロゾロ
まどか/さやか/杏子「まっ、まさか!」
マミ「…………」
822: 2012/09/02(日) 10:08:50.34 ID:PfocnRup0
マミ「暁美さんの従妹よ」
マミ「ああやって他の魔法少女を束ね、教育して暮らしている……」
まどか「従妹」
マミ「でも……従姉の暁美さんの死を報告するのは……つらいことよ」
さやか「………………」
マミ「あの子は私達が暁美さんを見殺しにしたと思い込んでいる」
さやか「そ、そんな……」
まどか「協力は期待できそうにないですね……」
マミ「そうね……。……あ!」
杏子「魔女の気配だ……!」
まどか「孵化するのを待っていたんだ。だから今行って……」
823: 2012/09/02(日) 10:11:44.83 ID:PfocnRup0
杏子「仕方ない。魔女はあいつらに任せて、その後で話つけよう」
マミ「そうね……」
まどか「うん……」
さやか「…………」
さやか「……いや、あたし……追って話してくるよ。ほむらはあたしを助けようとして……だから……」
杏子「ほむらの死はさやかのせいじゃない……。だが……あたしらは待ってるよ。危なくなったら戻れよな」
さやか「…………うん」
824: 2012/09/02(日) 10:15:07.75 ID:PfocnRup0
――結界
さやか「…………」トボトボ
さやか「とは言え落ち込むよなぁ……」
さやか「ほむらは……あたしを守ることを考えたから浄化が間に合わないって判断したんだろうし……」
さやか「従妹……か」
さやか「いるなんて知らなかったな」
さやか「そういえばあたし……ほむらのこと何も知らない……」
さやか「あたしはほむらのどんな音楽が好きなのかもわからなかったな……」
コツン
さやか「ん? 何か落ちてる……」
825: 2012/09/02(日) 10:16:08.76 ID:PfocnRup0
さやか「こ、これは……この赤渕眼鏡……」
さやか「さっきの……ほむらの従妹の……!」
さやか「ま、まさか!」
ダッ
魔女「――ッ!」
少女Ⅰ「ま……魔法少女だった時はステキな美人だったと思うな。もう呻き声でわかるのよ。私は」
少女Ⅱ「うん。なにか高貴な印象をうける」
少女Ⅲ「声優のA(エーミリー)・加藤の声に似てませんか?」
魔女「――!」グアッ
ズギャァ――ン
少女Ⅰ「やっばぁーいッ!」
少女Ⅱ「クッ! さすが魔女! 僕達のおべっかが通用しないとは!」
826: 2012/09/02(日) 10:18:02.79 ID:PfocnRup0
さやか「危ないッ!」
少女Ⅲ「ッ?!」
ズバァッ
魔女「――!」
少女Ⅲ「あ、あなたはさっきの……!」
さやか「ハン! ワルプルギスと比べりゃあんたなんかショボっちぃね!」
魔女「――――ッ!」
さやか「あ! 逃げた!」
さやか「くっ……追いかけたいとこだが……」
さやか「それよりあんた達! 大丈夫か!?」
少女Ⅱ「う、うん……」
さやか「怪我をしているね……。今治してあげるよ」
少女Ⅰ「どうも……」
827: 2012/09/02(日) 10:21:30.48 ID:PfocnRup0
少女Ⅰ「……あッ!?」
使い魔「SYAAAAAAAAAAAAA!」
さやか「使い魔!? うわぁっ!」
ドゴアァァッ!
さやか「ふぐゥッ!」
少女Ⅲ「ああっ! 見知らぬ人!」
ドサッ
さやか「ぐ……クゥ!」
さやか「ま、まずい……足の腱を切れたか……!」
さやか「ヤバッ!」
使い魔「KWAHHHHHH!」
828: 2012/09/02(日) 10:22:04.31 ID:PfocnRup0
さやか「ここで問題だ! このえぐられた足でどうやって使い魔をかわすか?」
3択―ひとつだけ選びなさい
答え①美少女のさやかちゃんは突如反撃のアイデアがひらめく
答え②仲間がきて助けてくれる
答え③円環の理。現実は非常である
さやか「あたしが丸をつけたいのは②だけど……」
さやか「マミさん達はほむらの従妹達に任せると言ったから結界の外にいる」
さやか「今テレパシーで呼び出すにも時間がかかる」
829: 2012/09/02(日) 10:26:01.86 ID:PfocnRup0
さやか「ここは①しか考えられな――」
コンッ、カラカラカラ
さやか「……ん?」
コロコロコロ……
さやか「……空き缶?」
使い魔「…………」
ゴアッ!
さやか「!?」
830: 2012/09/02(日) 10:27:18.47 ID:PfocnRup0
ドギャァッ!
使い魔「TEEEEEEEEEEEEE!」
さやか「あ、空き缶から何か飛び出した!?」
「缶の中に鉄球を入れた。金属板への入れ方は秘密にしとくわ」
さやか「鉄球を……すごい。て、手品みたいだ……」
さやか「え? ……て、『鉄球』?」
「手品……そうね。それじゃあ私のことを、魔術師の炎……マジシャンズ・ホムホムって呼んでもいいわよ? 魔法少女だけどね」
さやか「……ほむ、ほむ?」
「ふふ……」
さやか「……!」
使い魔「」
ボシュゥ――
831: 2012/09/02(日) 10:28:52.41 ID:PfocnRup0
さやか「あ……ああ……!」
さやか「あんたは……! まさか!」
さやか「その顔! その声! み、見間違えるものかッ!」
さやか「あ……! あ……!」
さやか「暁美ほむら!」
ほむら「YES! I AM!」バァーン
ほむら「ほむ、ほむ♪」
さやか(答え――②!)
832: 2012/09/02(日) 10:31:37.25 ID:PfocnRup0
さやか「う……嘘……ゆ、夢? 幻覚?」
ほむら「…………」
さやか「さ……触れる……。人間だ。本物だ……! 声も……体温も……!」ペタペタ
ほむら「何を言ってるのよ。さやか」
さやか「ほ、ほむら……本物……! 本物だ……!」
ほむら「本物よ」
さやか「う……ううぅ……ほ、ほむらぁ……」ウルウル
ほむら「ほら、泣かないの」
さやか「だ、だってぇ……」
さやか「ううぅぅ……」ゴシゴシ
さやか「ど、どうしてここにいるの? あんた、死んだはずじゃ……」
ほむら「えぇ……色々あってね」
ほむら「でも今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」
833: 2012/09/02(日) 10:33:10.62 ID:PfocnRup0
さやか「そ、そうだね……そうだよね! だって、だって実際に生きてて、助けてくれたもん!」
ほむら「そう。あなたがピンチな瞬間を隠れて探っていたわ」
さやか「は?」
ほむら「そういう時に助けた方がかっこいいじゃない」ファサ
さやか「あ、あんた……そんなキャラだったっけ……」
さやか「……あ!」
さやか「そ、そうだ! さっきテレパシーで助けを呼ぼう!」
さやか「今! 今みんないるんだよ! まどかも! みんな!」
ほむら「落ち着きなさい。さやか」
さやか「それが落ち着いてられますかァーッ!」
マミ「美樹さん! どうしたの!?」
さやか「きたッ!」
834: 2012/09/02(日) 10:34:08.95 ID:PfocnRup0
さやか「おい! みんな驚かないでよ! 誰に出会ったと思うッ!?」
マミ「美樹さん! 急に呼び出すもんだから心配したわよ!」
まどか「ど、どうしたのそのキズは?!」
杏子「敵に襲われたのか?」
さやか「傷なんてすぐ治るからいいよ! いい!? ソウルジェムポ口リするなよ杏子! 驚いて漏らすんじゃあねーぞまどか! 誰に出会ったと思う!? マミさん!」
杏子「?」
まどか「?」
マミ「?」
さやか「なんとッ! 喜べ!」
さやか「パンパカパ~~ン♪」
さやか「ほむらが生きてたんだよォ! オロロ~~~~ン!」
ほむら「ほむっ」トォジョーッ
マミ「さ! 魔女を追うわよ!」
835: 2012/09/02(日) 10:36:24.07 ID:PfocnRup0
杏子「まどか。変身だ」
まどか「うん」パァッ
さやか「!?」
ほむら「みんな。奴は手強いわよ」
杏子「ようほむら」
まどか「ほむらちゃん。久しぶり。元気?」
ほむら「ええ。最近ちょっと寝不足気味だけどね」
マミ「暁美さん、ちゃんと休まないとダメよ。すぐそうやって無理するんだから」
ほむら「そうね。気を付けるわ」
ほむら「でも、こっちの都合も一段落ついたしそろそろ見滝原に帰れるわ」
まどか「やったぁ! ほむらちゃんが帰ってくる~♪」ギュッ
836: 2012/09/02(日) 10:38:21.27 ID:PfocnRup0
ほむら「ふふ、急に抱きつくだなんて今日のまどかは甘えんぼさんね」
まどか「ウェヒヒッ、ほむらちゃんの顔が見られて嬉しいよぉ~」
ほむら「私もみんなの元気な顔が見れて嬉しいわ。私がいない間ちゃんと魔法少女できた?」
まどか「うんっ!」
さやか「……おい。ちょいと待て。あんたら」
杏子「あ、そうそう。例の件はどうなった?」
ほむら「大体はまあ。なんやかんやで落ち着いたわ」
まどか「それは何よりだけど……ほむらちゃんちょっと痩せた?」
マミ「ちゃんとエネルギーになるもの食べてる?」
杏子「食うモン食わないと育つとこ育たないぜー」ケタケタ
ほむら「う、うるさいわねっ」
さやか「こら! 待てといっとるんだよッ! てめ――――らッ!」
837: 2012/09/02(日) 10:40:46.84 ID:PfocnRup0
さやか「何? 何よ何さ何だってばよ!?」
さやか「死んだと思ってたヤツが生きてたというのに!」
さやか「まどかは契約していないはずなのに!」
さやか「何なの!? その平然とした会話は!」
マミ「あ……美樹さん。ごめんなさいね」
マミ「ワルプルギスの夜で暁美さんが死んだというのは、あれは嘘よ」カル~ク
さやか「ギャニィ――ッ!?」
まどか「あー、でも嘘じゃないと言えば嘘じゃないかな?」
ほむら「えぇ。確かに私は死んだわ」
さやか「へ? え?」
838: 2012/09/02(日) 10:44:21.75 ID:PfocnRup0
ほむら「でも私が生き返ったのはまどかが契約してくれたからなのよ」
さやか「生き返っ……!?」
まどか「うん。しちゃったんだ」
マミ「武器は弓と矢よ」
さやか「……み、みんな既にほむらが生きてるってこと知ってて黙ってたの?」
さやか「杏子ッ! あんたもか!」
杏子「さやかがは口が軽いから一般人にほむらが裏で色々してたのを知られるのはまずい」
杏子「さやかには内緒にしようって言ったのはあたしだ」
さやか「……」ズル…
839: 2012/09/02(日) 10:45:31.56 ID:PfocnRup0
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……ここは、どこなんだろう」
「辺りが真っ暗で何も見えない……」
「取りあえず、歩いていけばなにかわかるかな?」
「…………」
「何だろう。この感じ……懐かしいというか」
「そうだ……。思い出した。この感覚」
「――とお喋りしてる時、――と一緒に帰っている時……そういうのに似てる」
「何だかわからないけど、このまま歩けばみんなに会える気がする……」
「……うん?」
「何だろう。遠くで光りが見える……そっちに行ってみよう」
840: 2012/09/02(日) 10:46:16.52 ID:PfocnRup0
――ワルプルギス撃破後
杏子「落ち込みムードなのに……あたしらを馬鹿にしてるかのようないい天気だな」
マミ「えぇ……今までこんな空、見たことあったかしら」
杏子「ホームレス時代は一日中雲を数えてた日もあったが……あたしは初めてだ。こんな空は」
マミ「そう……」
杏子「…………」
マミ「…………勝った……のね」
杏子「犠牲は……出たがな……」
マミ「……えぇ」
杏子「ほむらは……まどかを契約させなかった。……これが、ほむらの悲願だ」
杏子「悲願は達成された。ほむらは……救われていたんだ」
杏子「そしてジャイロは元の世界に戻った。いるべき場所に帰っていったんだ……」
841: 2012/09/02(日) 10:46:58.47 ID:PfocnRup0
マミ「そうね……」
マミ「……ワルプルギスにはみんなが貸していたのよ」
マミ「ずっと昔から大勢の人間が……あらゆるものを貸していた」
杏子「戻って来ねえものが多すぎるがな……」
マミ「ええ。多すぎるし、大きすぎるわ。でも、二人のおかげで、私達は生きている」
マミ「私達が失ったものワルプルギスの夜なんかよりもずっと大きい……しかし、二人のおかげよ……」
マミ「二人のおかげで私達は生きているのよ……」
ほむら! ジャイロ! 終わったよ……
842: 2012/09/02(日) 10:47:31.47 ID:PfocnRup0
まどか「みんなっ!」タッ
マミ「鹿目さん……!?」
杏子「何でここに……」
まどか「ハァ……ハァ……空が、晴れたから……もしかしたらと思って……ハァ……」
マミ「そ、その腕どうしたの!?」
まどか「えぇ……ちょっと、色々ありまして……」
まどか「わたしより、みんなこそひどい怪我を……」
杏子「……ああ。ついにワルプルギスを倒したんだ。……これは名誉の傷さ」
まどか「杏子ちゃん、マミさん……埃まみれで……ビルの瓦礫?」
マミ「……ええ。そうよ」
QB「まさか勝てるとは……お手柄だよ。みんな」
マミ「キュゥべえ……」
843: 2012/09/02(日) 10:48:43.73 ID:PfocnRup0
まどか「や、やったんだね! ついに、ほむらちゃんの願いが達成されたんだよね!」
マミ「……えぇ、そうね」
まどか「わたしも頑張ったんだからっ!」
まどか「ほむらちゃんにさやかちゃん、ジャイロさんはっ?」キョロキョロ
杏子「……さやかはここだ。頭を打って気を失っているが、問題はない」
まどか「あ、さやかちゃん……よかった。大丈夫そうで何よ――」
まどか「……ん、今、何て?」
マミ「…………」
まどか「さやかちゃん『は』……?」
まどか「…………ね、ねぇ、どういう意味かな?」
まどか「あ、あれ……? 二人は……? ほむらちゃんと……ジャイロさんはどこ? ねぇ?」キョロキョロ
844: 2012/09/02(日) 10:49:19.53 ID:PfocnRup0
QB「……まさか、マミ」
マミ「逝ってしまったわ。元の世界に、冥土の世界に、導かれて……」
まどか「…………え?」
杏子「ジャイロは……Dioを道連れにして、消滅しちまった……」
まどか「え? ……え?」
杏子「そしてほむらは……自らの穢れたソウルジェムを……さやかを守るために回転させた」
マミ「美樹さんを生かすため、自らの魔女化を防ぐために……そして、暁美さんのソウルジェムは砕け散った」
まどか「嘘……でしょ……? 嘘だよね?」
マミ「暁美さんの遺体は『これ』の下よ」
まどか「……ッ!」
杏子「魔法で少しでも修復しておこうと思ったんだがな……」
まどか「あ……あ……!?」ガタガタ
QB「避難が間に合わず犠牲になった……で通るね。この状態なら」
845: 2012/09/02(日) 10:51:17.47 ID:PfocnRup0
まどか「う、うああ……ああ……! ああああ……あ……!」ポロポロ
まどか「あああ、あ……ほ、ほむら……ちゃ……あああああ……!」
まどか「ほむらちゃんが……! ジャイロさんが……!」
まどか「あんまりだよ……! ひどすぎるよ……!」
まどか「約束したのにッ! 一緒に……一緒にお出かけするって、約束したのにッ! そんなの! そんなの……ッ!」
まどか「どうしてッ!? わたしは幸せになるためにッ! ほむらちゃんのために覚悟を決めたのにッ!」
マミ「落ち着いて! 鹿目さん!」
まどか「いやだ! いやだぁぁぁッ! わたし頑張ったのにッ! 頑張ったのにィッ! いやだよぉぉぉッ!」
まどか「うあああああぁ……いやぁ……いやだよぉ……! こんなのってないよ……!」
杏子「落ち着けよッ!」ガシィッ
まどか「ッ!」
846: 2012/09/02(日) 10:52:05.17 ID:PfocnRup0
杏子「ジャイロは最期の道標を示した。そしてさやかはそれを伝えた」
杏子「結果としてほむらは勝ったんだ! なるべくしてなったんだよ……!」
マミ「暁美さんは……覚悟をしていたのよ……。鹿目さんと美樹さんを……そして、私達を守る……ために……」
まどか「うぅぅ……」
まどか「そんなの……そんなのやだよォ……いやだァ……うぅ……」
QB「たった五人で戦って、ワルプルギス……それもDioが加担しているのに犠牲が二人で済んだ。それだけでも十分じゃないかな」
杏子「おまえは黙ってろ……」
QB「…………」
QB「ジャイロ・ツェペリは無理だけど、暁美ほむらを犠牲者でなくすることができるよ」
マミ「!」
847: 2012/09/02(日) 10:54:34.18 ID:PfocnRup0
まどか「……契約?」
QB「そうなるね。Dioもいない。ワルプルギスも超えた今、契約してもさほど問題はないんじゃないかな」
まどか「……何で……ジャイロさんはだめなの?」
QB「わからない。けどわかる。恐らく完全にこの世から……概念ごと消えてしまったから……かな」
杏子「概念……?」
QB「とにかく、暁美ほむらは生き返る。潰れた肉体と砕けたソウルジェムに復元ができるよ」
まどか「…………」
まどか「……キュゥべえ」
QB「どうするんだい? まどか」
848: 2012/09/02(日) 10:55:24.23 ID:PfocnRup0
まどか「…………」
マミ「鹿目さん……あなた……」
まどか「……わたし、ほむらちゃんが……」
杏子「…………」
マミ「契約をしたら……暁美さんの遺志はどうなるの?」
マミ「暁美さんは……あなたを契約させないために……!」
まどか「マミさん……だけど……だけど……っ!」
マミ「暁美さんはあなたのために……ッ!」
グイッ
849: 2012/09/02(日) 10:55:56.93 ID:PfocnRup0
マミ「……佐倉さん」
杏子「……マミ。……魔法少女の素質がある以上、願いを叶える権利はあるんだ」
杏子「あいつは、まどかを幸せにしたいんだろう? きっと、いや、間違いなく、今のままではまどかは……親友を失ったから不幸になる」
マミ「……そう、ね。例え今阻止をしても、キュゥべえにしつこく追いつめられてしまう……その度に鹿目さんは苦しむでしょうね」
マミ「暁美さんの覚悟を無下にするわけじゃないけど、私なんかでは、あなたの覚悟を止められない……」
杏子「他人のために願いを叶えるのは馬鹿のすることだ。だが……この願いはまどかのためでもあり、みんなのためでもある」
杏子「まどかはもちろん、あたしもマミもさやかも……みんなほむらと一緒にいたいからな」
まどか「……ありがとう。二人とも」
QB「さて、君にはどんな途方もない願いも叶えられる素質がある」
QB「それでも無理なこともある。さっきも言ったけどジャイロ・ツェペリは生き返らせることはできない」
QB「その理由は闇の中だ。とにかくできないんだ。いいね?」
まどか「うん」
QB「それじゃあ聞こう。まどか、君の願いは――」
850: 2012/09/02(日) 10:58:36.86 ID:PfocnRup0
(…………)
(…………空?)
(あれ……?)
(私は確か……えっと……何をしていたんだっけ)
(ここは天国? いえ違う……。そうだ……確か私は……)
「……まさか」
まどか「ほむらちゃんっ!」
「……!」
「ま……まどかッ!」
851: 2012/09/02(日) 11:01:15.73 ID:PfocnRup0
ほむら「まどか! あなたなのね……!」
まどか「そうだよ。ほむらちゃん!」
ほむら「ッ! ……そ、その格好……ッ!」
まどか「えへ……契約しちゃった。……ごめんね?」
ほむら「そ、そんな……どうして……」
まどか「わたしはほむらちゃんが大好きだから……ほむらちゃんがいない未来なんて、わたしは……嫌なの」
まどか「最高の友達……なんでしょ? それは、わたしにとってもそうだから……わたしは、みんなと一緒にいたい」
ほむら「まどか……」
マミ「……ツェペリさんは、私達の心の中だけに存在する概念となったわ。生き返らなかった」
杏子「ほむらは、まどかを幸せにする。だが、ほむら。あんたが幸せになることを望む奴もいるんだ。そういうやつのために生きやがれ」
ほむら「まどか……マミ……杏子……」
ほむら「…………ジャイロ」
852: 2012/09/02(日) 11:01:59.26 ID:PfocnRup0
ほむら「…………あ、そうだ。さやかは?」
マミ「気を失ってるわ」
さやか「」
ほむら「あ……よかった……。何とか助かったのね」
ほむら「…………」
ほむら「私…………」
杏子「ほむら?」
853: 2012/09/02(日) 11:02:40.53 ID:PfocnRup0
ほむら「……私……変な『夢』を見たわ」
ほむら「……夢の中で暗闇を歩いていると……光が見えて……」
ほむら「私の憧れた人に会ったの。初めて会った時の『鹿目さん』……」
ほむら「『どこへ行くのほむらちゃん』……って『鹿目さん』が私に聞くの。私は『鹿目さんについて行く』って言った……」
ほむら「だって『鹿目さん』はいつだって私を引っ張ってくれたし……自信に満ちあふれていたから……安心できたから……」
ほむら「そしたら『鹿目さん』は……『あなたが決めて』って言うの……『ほむらちゃん……行き先を決めるのはあなただよ』って」
ほむら「……私はちょっと考えて……『見滝原に行く』って答えたら目が醒めた……」
ほむら「とてもさびしい夢だったわ……」
まどか「…………」
854: 2012/09/02(日) 11:03:44.45 ID:PfocnRup0
まどか「ひどいよ……ほむらちゃん……わたしを幸せにするって……一緒にお出かけするって約束したのに……!」
ほむら「まどか……」
まどか「わたしの幸せは……みんなもそうだけど……ほむらちゃんがいないと成り立たない」
まどか「わたしは……『鹿目さん』として引っ張ることはできないけど……『まどか』としてほむらちゃんを支えたい」
まどか「わたしは……大好きなほむらちゃんを守るわたしになりたい」
ギュッ
まどか「わたしの幸せは……みんな一緒じゃないと、意味がないんだから……」
ほむら「う……うぅ……」
ほむら「ごめんね……。あなたを、置いて逝こうとして……」ポロポロ
ほむら「私も……まどかが好きだから……私も、みんなと一緒にいたいよぉ……!」
ほむら「まどかぁ……グスッ……うぅ……」
まどか「ほむらちゃん……! わたし、あなたに会えてよかった! ……本当にありがとう!」
ほむら「まどかぁ……私も……私もあなたがいてくれてあなたと出会えて……うぅ……」
マミ「これで、良かったのよね」
杏子「ああ。どうせ未来のことなんてわかんねーし、どうにでもなるだろ」
マミ「楽観的ね……あなたらしいわ」
855: 2012/09/02(日) 11:05:16.94 ID:PfocnRup0
「あ、あの~……」
まどか「え?」
少女Ⅰ「……魔法少女の人よね? 私もそうなんだけど……私、死んだはずなんスよぉ」
杏子「は?」
少女Ⅱ「だからさァ、僕達は生き返ったということになるんだよ。とにかくそうなんだ。ドゥーユーアンダースタンド?」
少女Ⅲ「わけがわからないよ」
マミ「……」
少女Ⅳ「『今夜はビート・イット』のパロディ「今夜はイート・イット」を歌ったのはだ~れだ?」
少女Ⅴ「アル・ヤンコビック」
少女Ⅵ「……やれやれ、本物のようね。そんなくだらねーことしってんのは」
ほむら「……え? 何?」
856: 2012/09/02(日) 11:07:45.90 ID:PfocnRup0
ワイワイガヤガヤ
まどか「えっ? えっ? ええっ?」
杏子「」ボーゼン
マミ「」アングリ
ほむら「」ポカーン
ザワザワザワザワ
マミ「な……何が起こっているのッ!? この子達は誰ッ!?」
ほむら「まどか……あなたは、何て願ったの?」
857: 2012/09/02(日) 11:08:52.16 ID:PfocnRup0
まどか「えっと……さやかちゃんの真似して……『ワルプルギスによって傷ついた、死んだ人を元に――』って感じで……」
ほむら「ッ!」
まどか「キュゥべえは無理だって言ったけど、ダメ元でジャイロさんも元に戻るかなぁーって思ってそう願ったんだけど……やっぱりダメだったみたい」
QB「やってくれたね。まどか」
魔法少女達「「「「「「「「キュゥべえッ!!!!」」」」」」」」」
杏子「ンガッ、耳がっ……!」キーン
QB「僕がかつて契約した魔法少女もいれば別個体の僕と契約した魔法少女もいる……。とんでもない光景だよ」
マミ「かつて?」
ほむら「まどか……あなた、何ということを……」
まどか「ふぇ?」
858: 2012/09/02(日) 11:09:55.84 ID:PfocnRup0
QB「まどか。冷静になって聞いてよ。君の願いによってこれまでにワルプルギスとの戦いで死んだ魔法少女達が帰ってきたんだよ」
QB「ワルプルギスに伴う災害で犠牲になった人間はあくまで災害で死んだことになって対象外らしいけど」
まどか「ええっ!?」
QB「この結果は僕も予想外だ。僕だってほむらの肉体と魂が復元されるだけだと思ったんだ。だけど、実際はこの結果だ」
ワイワイガヤガヤ
少女Ⅶ「なんかわからんけどこの方が私達を救済してくれたんだ!」
少女Ⅷ「やったー!」
ワーワーヤイノヤイノワイワイキャーキャー
まどか「え……えっと……」
少女Ⅸ「胴上げだー!」ワーッショイ
少女Ⅹ「やったーバンザーイ!」ワーッショイ
まどか「ちょ、やっ、やめてぇぇぇっ!」
ピョーイピョーイ
まどか「きゃあ! お、降ろしてっ! ちょ、ちょっと! ひゃあ!」
859: 2012/09/02(日) 11:10:33.53 ID:PfocnRup0
ほむら「……なに? これ」
杏子「……わからん」
マミ「……この子達、今まで死んでいたってことは……行方不明になっているのよね。色々大丈夫かしら」
杏子「……どうしようか」
ほむら「そうね……あの魔法少女の集団を何とかしないとね」
マミ「どうしましょう……」
ほむら「学校はしばらく休校になるだろうし、ならないにしてもしばらく欠席するなりして、その間にどうにかするわ」
マミ「どうにかって……どうするのよ」
ほむら「そうね……まずはそれぞれの帰る場所へ帰ってもらって……でも身寄りが既にない場合もあるか……」
ほむら「身よりがいないとて私やマミの家に居候させるわけにもいかない。かと言って施設に預けるというのも……身元調査もしないといけない」
ほむら「……色々裏工作しないといけないようだから。私に任せて。みんなには迷惑かけたからね」
マミ「私達も協力するわよ」
杏子「あたしもな」
860: 2012/09/02(日) 11:11:39.44 ID:PfocnRup0
ほむら「そう……ありがとう」
マミ「……ところで、美樹さんはどうする?」
さやか「」
杏子「あ……忘れてた」
ほむら「…………」
杏子「……なあ、ほむら死んだことにしとこうぜ」
マミ「え? 何で?」
杏子「行方不明者が一斉に帰ってきたとなったら大ごとだ。さやかは口が軽いだろ? 事情を知ってたらうっかり話しそうだ」
ほむら「……確かに、偽造とか隠蔽とか身元探しとか……色々しなきゃいけないし、そういうことにしといた方がいいわね」
マミ「あ~……なるほど。そうね。釘を刺しても志筑さんや上条くんあたりにうっかり喋っちゃいそう」
マミ「美樹さんには悪いけど……、そういうことにしておきましょう」
ほむら「……そうね。まどかには私から言っておくわ。ついでにまどかが魔法少女になったことも伏せておきましょう」
杏子「おう。おもし……忙しくなりそうだな」
マミ「ドッキリじゃないのよ?」
――――
――
861: 2012/09/02(日) 11:12:14.23 ID:PfocnRup0
――ほむら宅
QB「僕は君達人間から学んだことがある。それは、人間はすぐに成長するということだ」
QB「君がジャイロ・ツェペリと出会い、新たな武器を手に入れて……」
QB「たった一ヶ月で君は、その武器でワルプルギスを超えた」
QB「何度もループしたというのにね。遠回りこそが一番の近道だったわけだ」
ほむら「……何か、用?」
ほむら「私はあなたの顔は見たくないんだけど」
QB「まぁ、仕方ないよね」
QB「話を聞いてよ」
QB「ジャイロ・ツェペリという人間は、実に不思議なものだった」
QB「魔女の影響で現れたと考えれば……その魔女はお手柄だったというわけだ」
862: 2012/09/02(日) 11:13:09.06 ID:PfocnRup0
ほむら「……」
QB「ただの人間の技術であんなことになるなんて……」
QB「純粋に僕は驚いた。そこで、物は相談なんだけど……」
QB「無限の回転。僕達に『研究』させてほしい」
ほむら「研究? ……何が目的?」
QB「魔法少女が絶望する感情のエネルギーは膨大で魅力的だけど……」
QB「はっきり言って効率的じゃあないんだ」
QB「感情の研究はまだまだだけど、上の方では『ワルプルギスの夜を倒した力』ということで、回転の技術に注目する一派ができた」
QB「だから研究させてほしいんだ。僕は君にその交渉をしにきた」
ほむら「もう騙されないわ」
QB「騙すだなんてとんでもない。そもそも僕は最初から騙してなんか……いや、その話はよそう」
QB「これは、契約とかそういう話ではなく、直々の要望なんだ」
863: 2012/09/02(日) 11:14:17.66 ID:PfocnRup0
ほむら「要望……」
QB「まず前置きなんだけど……」
QB「君達やまどかはまだ気付いていないがまどかには特異な能力がある」
ほむら「ええ……そうね。私が時間を繰り返すほど、まどかに因果が集中する」
QB「そうだね。だからまどかはあそこまでの素質があった」
QB「そして彼女は、願いにより君を含む大勢の魔法少女のソウルジェムと肉体を復元してしまった」
QB「問題はその復元なんだ」
ほむら「……何が問題なの?」
QB「常に冷静で聡明な君なら、少し考えたらわかるんじゃないかな?」
864: 2012/09/02(日) 11:17:09.60 ID:PfocnRup0
QB「結論から言おう」
QB「理論上、まどかはソウルジェムを『穢れた状態』から穢れる『前の状態』に戻すことができる」
ほむら「……それって」
QB「簡単に言えば、まどかはソウルジェムを『浄化できる』……ということだ」
ほむら「……ッ!」
ほむら「そ、それは……かもしれないという話でなく?」
QB「確定的だね」
ほむら「……だとすれば、あなたにとって都合が悪い。何故それを私に話したの?」
QB「どうせいつかわかることだからね」
865: 2012/09/02(日) 11:17:48.90 ID:PfocnRup0
QB「それでここからが問題なんだ。……そうだね」
QB「普通、グリーシード一個でソウルジェムを二人分浄化できるとしよう」
QB「穢れの程度やその器量によって燃費が違うからね。例えばの話だ。例えばグリーフシード一個でソウルジェム二個」
ほむら「えぇ……」
QB「まどかの能力の場合……まどかがグリーフシードを一つ使ってその魔力を浄化に使うとすれば」
QB「……グリーフシード一個で恐らく十人分のソウルジェムを浄化できてしまう」
ほむら「十人……!」
QB「魔法少女全員が集団を結成したとすれば……単純に考えて回収能率は十分の一になるね」
QB「感情エネルギーの回収率が悪くなる。魔女にならないからね」
866: 2012/09/02(日) 11:20:22.12 ID:PfocnRup0
ほむら「…………」
QB「しかもまどかが成長すればするほど、その能力が強まるほど、その能率は悪くなる」
QB「かと言って、恐竜に立ち向かうくらいに精神的に成長した彼女を絶望させて魔女に……というのも非常に難しい」
ほむら「恐竜? まどかが?」
QB「あぁ、君は知らなかったね。その辺りはまどかに聞いておくれ」
QB「話を戻すと……そんなまどかがいる以上、いっそ新しいエネルギーの研究に手を出してみよう。というのがさっき話した一派の考えの一つだ」
QB「僕は君達と知り合いだから、その一派として研究する命を授かった」
QB「そもそも僕がこの能力を容認させたんだからね。責任がある」
ほむら「…………」
QB「研究させて欲しいんだ。だから要望と言った」
868: 2012/09/02(日) 11:20:58.16 ID:PfocnRup0
ほむら「……黄金の回転は私しかできないわよ」
QB「わかってるよ。だから君にとっていい交換条件を考えている」
QB「僕は新しいエネルギー開発の協力を要請する。そして開発に成功した暁には……」
QB「全ての魔法少女を普通の人間に戻す……というのはどうだろう?」
ほむら「!」
QB「感情より効率的なエネルギーができたら、魔法少女の制度と並行って意向もあったんだけど……」
QB「君の性格から推測するにそういうことを望むと思ってね」
870: 2012/09/02(日) 11:22:32.18 ID:PfocnRup0
QB「死なないために契約した魔法少女は死の運命をねじ曲げたまま。蘇生を望まれれば生き返った者も存命のまま。君達も死ななきゃ生き続ける」
QB「何なら君の心臓病もおまけに治してあげたっていい。しつこいようだけど感情を超えるエネルギーができたらね」
ほむら「そんな……随分と都合のいい……怪しいわね」
QB「本来なら失った命が元に戻ること自体都合がいい話じゃないか」
QB「それくらい僕達は今切羽詰まっているという世界なんだよ」
QB「君達の未来のためにも、宇宙のためにも、エネルギーは必要なんだ」
ほむら「……わかったわ。キュゥべえ。その話、乗ってあげる」
QB「本当かい? ありがとう」
871: 2012/09/02(日) 11:24:35.72 ID:PfocnRup0
QB「そこでお願いがあるんだ。早速協力を要請したい」
ほむら「…………」
QB「色んな魔法少女に回転を使えるようにしてほしいんだ」
ほむら「……え?」
QB「データはたくさんあった方がいいし、今後も魔女や使い魔は普通に現れるから……つまりいつ君が死んでも、絶望してもおかしくないままなんだ」
QB「君を死なせないということはできないからね。替えが必要。……当然の欲求だろう?」
ほむら「……私に、教育しろ、と」
QB「そうだよ。ツェペリ一族の技術を伝える組織でも集団でもコミュニティでも作ってほしいんだ。僕もできる範囲でなら協力する」
QB「集団を作られては感情エネルギーという視点では困るけど、研究素材を増やすにはやむを得ない」
QB「魔法少女同士で争うのを嫌っていただろう? Win-Winな希望だと思うんだけどね」
ほむら「……」
全国各地で行方不明になっていた少女達が、見滝原で起きたスーパーセルの日に、突然、一斉に発見された。
この出来事は、神隠しにかけて「神返し」として、少女を攫った悪い神から見滝原の善良な神が救った……という都市伝説となっている。
ちなみにその善良な神は『まど神様』と呼ばれ、その悪い神に挑んだ魔法少女だけがその真相を知っている。
――見滝原の七不思議。その⑦
872: 2012/09/02(日) 11:25:38.73 ID:PfocnRup0
~~~~~~~~~~~~~~~
少女Ⅰ~Ⅲ「ドッキリ大成功~! ヒャッハー!」
ほむら「ドッキリじゃないわよ」
さやか「こ、こいつらは何なんだよ!」
ほむら「仲間」
さやか「仲間ァッ!?」
まどか(最初はわたしも……さやかちゃんにドッキリをしかけるのかと思ったけどね……)
まどか(さやかちゃんをずっと落ち込ませてたのは心は痛んだよ)
少女Ⅰ「ハッピー」
少女Ⅱ「うれピー」
少女Ⅲ「よろピくねー!」
さやか「うっせ! うっせ!」
まどか(元気そうだし……でもま、いっか~って思ったのでした)ツン
875: 2012/09/02(日) 11:26:40.90 ID:PfocnRup0
さやか「そ、そうだ! ほむら!」
ほむら「ん?」
さやか「あんたの従妹がこの結界にいる! 眼鏡が落ちてたからきっとヤバイことに……!」
ほむら「あれは私の変装よ」
さやか「」ズコーッ
ほむら「眼鏡、拾ってくれてありがとう。魔法少女の格好してたらバレちゃうからね。そういう理由もあって隠れてた」
マミ「それにしても変装するってのは知ってたけど眼鏡と三つ編みだなんて……」
杏子「眼鏡と髪型だけで変わるもんだよな。本当にほむらなのかちょっとわからなかったもん」
まどか「すごい可愛かったよっ。またあの格好して欲しいなって」
ほむら「そ、そんなこと言われても……///」
876: 2012/09/02(日) 11:27:20.78 ID:PfocnRup0
さやか「に、にゃにお~~んッ! そこまでやるか……よくもあんたら……一人ぼっちは寂しいんだぞ。グスン」
まどか「ウェヒッ、ごめんね。さやかちゃん」
杏子「普段の行いということで勘弁しろよ」
さやか「ひどい……」
マミ「ちゃんとそれなりに理由があるのよ?」
さやか「理由?」
ほむら「例えばそうね……あなた、部活に入ったらそのことを友達や家族に話すでしょ?」
さやか「まあ……そうだね」
ほむら「だからよ」
さやか「…………」
さやか「……え? 何? まさか魔法少女部を作るって学校に申請するの?」
杏子「まさかだろ」
877: 2012/09/02(日) 11:29:06.54 ID:PfocnRup0
ほむら「私達は魔法少女の『組織』を作るつもりでいる」
さやか「何だって!?」
ほむら「名称未定。メンバーは現在9名。私達4人は勿論、あの3人もそう。そしてもう2人。……あなたが加入すれば記念すべき10人目よ」
ほむら「主な活動目的は、魔法少女同士の集まりを作ろう。……というというのが暫定的なものよ」
ほむら「帰る場所、その意味を求める魔法少女のため……と言えば聞こえはいいんだけどね」
ほむら「まだ大したことは決まっていないから、追々決めていく予定よ」
杏子「色々トラブルは起こりそうだけど、ほむらが作るって言ったからにはあたしは従うんだけどな」
マミ「人付き合いの苦手な暁美さんが? って最初は思ったけどね、面白そうでしょ?」
まどか「魔法少女同士で啀み合うなんて、そんなの絶対おかしいもの!」
さやか「グリーフシードは大丈夫なの? 奪い合いにならない?」
ほむら「その必要はないわ。ね、まどか」
まどか「え? わたし?」
ほむら「ふふっ」
まどか「?」
878: 2012/09/02(日) 11:30:02.82 ID:PfocnRup0
ほむら「ちなみに、鉄球の回転の後継者も育てたいとも考えている」
さやか「回転を?」
ほむら「去ってしまった者から受け継いだ物はさらに『先』へ進めなければならない」
ほむら「ジャイロから受け継いだ黄金長方形の回転を伝えたいのよ」
ほむら「そして、私は回転の技術を研究し続ける。どういう事情があってかはまぁ、追々話すわ」
まどか「魔法少女の組織。とっても楽しそうでしょ? さやかちゃん!」
さやか「うーん……そりゃ、まぁ興味はあるけど……」
ほむら「決まりね」
さやか「わーお。入るって言ってないのに。いやまぁ入るけどさ」
まどか「……ねぇ、ほむらちゃん」
ほむら「なぁに?」
まどか「わたしね……ずっと考えたんだけど、わたしも回転やってみたいなって」
879: 2012/09/02(日) 11:30:52.44 ID:PfocnRup0
ほむら「……厳しいわよ?」
まどか「大丈夫だよ! わたしだって魔法少女だもん!」
ほむら「……い、いえ、どっちかと言うとまどかに厳しくできない私が厳しい……」
まどか「やっぱダメかな……」
ほむら「そ、そんなことないわ! ちゃんと教えてあげるから」
まどか「ウェヒィ~、やったぁ!」
マミ「相変わらず鹿目さんには甘いんだから」
ほむら「いいじゃない。最高の友達なんだから」
杏子「私情を混合しちゃうのはまずいぜー」
ほむら「善処するわ」
さやか「それならあたしもやってみようかな~」
ほむら「音を上げさせてあげる」
さやか「差別だ!」
ほむら「これは区別よ」
880: 2012/09/02(日) 11:32:12.75 ID:PfocnRup0
マミ「さ、雑談はこれくらいにして……魔女をいい加減追いましょう」
ほむら「ああ、そうだったわ。行きましょう。まどか」
まどか「うんっ!」
さやか「存在を忘れられそうになるもんじゃないでしょ」
杏子「おい、さやか。あいつらを引率しろよ」
さやか「えぇ!? あたしが!?」
少女Ⅰ~Ⅲ「お願いしまーす」
さやか「え!? ちょ、え!? ま、待ってよぉ!」
さやか「あ、聞いてねぇやあいつらちくしょー」
さやか「……そういやあんた達ってまどかがに生き返らせてもらったんだよね?」
少女Ⅱ「そーだよ」
さやか「ほむらも生き返らせたし……なんか神様みたいだねぇ……」
さやか「まどか。神様。……まど神様ってかぁ? あっはっは! さ、いこっか」
少女Ⅰ「…………」
881: 2012/09/02(日) 11:33:12.22 ID:PfocnRup0
――結界最奥
魔女「――――」
まどか「……」ドキドキ
ほむら「まどかは魔女の相手をするのは初めて?」
杏子「ああ。もっぱら使い魔が相手だったからな」
さやか「あたしが知らない間に? マミさんと杏子にグリーフシードあげるから休んでなさいって半強制的に言われてた間に?」
ほむら「あら、そんな事情があったのね。どうでもいいけど」
さやか「ちょ」
マミ「鹿目さん。私達がついてるからそんな緊張しなくていいのよ」
ほむら「そうよ。なんてったって、私がいるもの」
まどか「ウェヒヒ、そ、そうだよねっ」
魔女「――――」
まどか「……」ドキドキ
ほむら「まどかは魔女の相手をするのは初めて?」
杏子「ああ。もっぱら使い魔が相手だったからな」
さやか「あたしが知らない間に? マミさんと杏子にグリーフシードあげるから休んでなさいって半強制的に言われてた間に?」
ほむら「あら、そんな事情があったのね。どうでもいいけど」
さやか「ちょ」
マミ「鹿目さん。私達がついてるからそんな緊張しなくていいのよ」
ほむら「そうよ。なんてったって、私がいるもの」
まどか「ウェヒヒ、そ、そうだよねっ」
882: 2012/09/02(日) 11:34:43.91 ID:PfocnRup0
杏子「ほむらの方こそ、時間停止ができなくなったようだが大丈夫なのか?」
さやか「え、そうなの?」
ほむら「ええ。まどかとの出会いをやり直せたからね」
ほむら「でも心配には及ばないわ。鉄球があるもの」ファサ
マミ「でも、無茶しないでね?」
さやか「まどかのためならどんな無茶もしかねないよねー」
ほむら「あなたはハラワタブチ撒けながら戦うのはやめなさいよ」
さやか「う、ここであの時のことを蒸し返すか……」
杏子「さやか。あんた体なまってねーだろうな」
さやか「大丈夫だよ。わかんないけど、いざって時は回復するし」
杏子「…………」
883: 2012/09/02(日) 11:35:19.07 ID:PfocnRup0
QB「ほむら! ほむら!」ピョンコピョンコ
マミ「あら、キュゥべえ。久しぶりね」
ほむら「……何よ。人懐っこい小動物みたいに寄りつかないで」
まどか「そういえばキュゥべえも全然見なかったなぁ」
さやか「……ほむらと一緒にいたの?」
QB「うん。しばらく一緒に行動してたんだ」
ほむら「つきまとっていた、の間違いでしょ」
杏子「で、ほむらに何の用だ?」
QB「そうだよ、ほむら」
QB「僕に例の回転を見せてくれるって約束してたのにすっぽかすなんてひどいじゃないか」
まどか「そんな約束してたの?」
QB「実に興味深いからね。今まで渋ってなかなか見せてくれなかったんだ」
QB「僕の熱心な交渉の結果、やっと見せてくれることになったんだよ」
884: 2012/09/02(日) 11:35:54.60 ID:PfocnRup0
ほむら「何が熱心よ。粘着の間違いじゃないの?」
QB「僕にはわからないな」
杏子「何で鉄球の回転を?」
QB「考えてみてよ。あのワルプルギスを倒した力だよ?」
QB「上では黄金長方形の回転を新エネルギーの可能性として研究してみようという一派ができたんだ」
QB「もし無限の回転という言葉をそのままの意味で捉えたら、半永久的に回転する発電機のモーターだよ」
まどか「ちょっとよくわからない例えだね」
QB「研究する価値があるよ。回転の後継者を育てて欲しいと言ったのは何せ僕なのだから」
マミ「ああ、そういう事情があったのね」
杏子「ほえー。キュゥべえに協力するなんてますますほむららしくねーじゃん。まぁいいけど」
QB「回転の後継者を育てる、その組織の運営を手伝う。ちゃんと取引したじゃないか。なのにほむらは……」
ほむら「ハァ……。うるさいわね。もう。何にしたって、魔女が出たんだから仕方ないでしょ」
QB「君以外にも魔法少女がいるんだし、いいじゃないか。そもそもここは君達のテリトリーじゃない……」
ほむら「あなた私が何で単独行動してたかわかってないじゃない」
ほむら「ここのテリトリーの主は既に組織に加入しているのよ。10人の内の残りの2人よ」
さやか「いつのまにそんな……」
ほむら「それに、この魔女は私が決着をつけなければならない」
QB「僕にはわからないな」
杏子「何で鉄球の回転を?」
QB「考えてみてよ。あのワルプルギスを倒した力だよ?」
QB「上では黄金長方形の回転を新エネルギーの可能性として研究してみようという一派ができたんだ」
QB「もし無限の回転という言葉をそのままの意味で捉えたら、半永久的に回転する発電機のモーターだよ」
まどか「ちょっとよくわからない例えだね」
QB「研究する価値があるよ。回転の後継者を育てて欲しいと言ったのは何せ僕なのだから」
マミ「ああ、そういう事情があったのね」
杏子「ほえー。キュゥべえに協力するなんてますますほむららしくねーじゃん。まぁいいけど」
QB「回転の後継者を育てる、その組織の運営を手伝う。ちゃんと取引したじゃないか。なのにほむらは……」
ほむら「ハァ……。うるさいわね。もう。何にしたって、魔女が出たんだから仕方ないでしょ」
QB「君以外にも魔法少女がいるんだし、いいじゃないか。そもそもここは君達のテリトリーじゃない……」
ほむら「あなた私が何で単独行動してたかわかってないじゃない」
ほむら「ここのテリトリーの主は既に組織に加入しているのよ。10人の内の残りの2人よ」
さやか「いつのまにそんな……」
ほむら「それに、この魔女は私が決着をつけなければならない」
886: 2012/09/02(日) 11:36:44.50 ID:PfocnRup0
魔女「――――」
ほむら「さ、決着をつけるわよ。重力の魔女『エリナ』……」
まどか「重力の魔女……?」
杏子「エリナ……?」
ほむら「私は勝手にそう名付けて呼んでるだけよ」
マミ「暁美さんが名前を付けるなんて、何だか新鮮ね」
ほむら「……なんだか釈然としないけど、まあいいわ」
QB「それで、この魔女に何の因縁があるというんだい?」
ほむら「この魔女がジャイロをこの世界に連れてきたのよ」
ほむら「ジャイロがこの世界に来たとき、目の前にいたのがこいつだった。根拠はそれで十分」
まどか「そ、そうだったんだ……!」
887: 2012/09/02(日) 11:39:35.49 ID:PfocnRup0
杏子「ジャイロは異次元がどうこうって言ってたよな」
まどか「パラレルワールドの境界を操る呪い? っていうのかな?」
さやか「えーっと、うーん?」
ほむら「ま、あなたにとって難しい話でしょうから簡単に言ってしまえば……」
ほむら「エリナは多数存在する異次元の、さらにその次元の過去にいた者を呼び寄せることができる」
ほむら「……と、いったところかしら。異次元の一言で解決できない『何か』という可能性もあるけれどね」
マミ「私個人の意見で言えばエレナってよりルーシーって名前の方が似合いそうよ」
ほむら「何を基準でそう言ってるのよ……。まぁいいわ。武器を構えて」
まどか「うん!」
888: 2012/09/02(日) 11:40:10.43 ID:PfocnRup0
少女Ⅰ「きゃーっ! まど神様ーっ!」
少女Ⅲ「ヤッベ! カッコイイ! 5人ともヤッベ! あんたどっち? どっちにすんのよ!」
少女Ⅱ「僕はほむほむ派です」
マミ「可愛い後輩達の手前、かっこわるいとこ見せられないわ」
ほむら「そういって調子のってマミるなんてないように」
マミ「マミるって何!?」
まどか「ちょ、ちょっと待って。まど神様ってなに?」
さやか「さ、さぁ~? な、何だろうねぇ~?」
杏子「んー、やっぱ、ワルプルギスと比べたら見劣りするなぁ」
さやか「あたしと同じようなこと言ってる……」
889: 2012/09/02(日) 11:40:51.48 ID:PfocnRup0
ほむら「さ、みんな。戦闘開始よ」
まどか「うん! わたし、足を引っ張らないよう頑張る!」
マミ「私は鹿目さんの援護に期待してちょうだい!」
杏子「ちゃっちゃとやっつけて飯食い行こーぜ。小腹が空いたよ」
さやか「あたし達の戦いはこれからだッ!」
890: 2012/09/02(日) 11:41:29.72 ID:PfocnRup0
――「魔法少女の蘇生」という願いが反映され、わたし(鹿目まどか)はソウルジェムを「浄化」する能力を手に入れた。
詳しい原理はよくわからないけど、わたしが穢れたグリーフシードに触れることで、穢れが消えていくのだ。
結論から言えば、わたしはグリーフシード一個で九、十人分のソウルジェムを一気に浄化できる。
都合の良い能力だけど、因果の力がどうこうでできちゃったらしい。グリーフシードの回収率が減ったとか言ってキュゥべえは何やら困ってた。
そしてその因果の力でわたしは究極の魔女になりうるため、全力を出してはいけないという奇妙な戦闘スタイルになった。
一方、ほむらちゃんは「わたしとの出会いをやり直す」ことを達成したため、時間を止める能力を失ってしまった。
「足手まどいになるだろうから、ワルプルギスを越えたら見滝原を去るつもりだった」と言っていたが、今は鉄球の回転がある。
その必要もない。何より、ずっと一緒にいると約束をしたのだから。
ちなみに一度死んだことで盾の能力が一時的に消滅し、中身の全てが消滅したらしい。
892: 2012/09/02(日) 11:42:19.77 ID:PfocnRup0
『エリナ』から三週間が経った。
行方不明者が一斉に帰ってきた。
この奇想天外なニュースに全国各地が注目し、今でもマスコミ関係者がワルプルギスが出没した地域をうろついている。
水底に得体の知れない鉄の球や銃弾が多量に沈んでいた。というニュースが流れるのはずっと先の話だ。
この奇妙な事件の真相……「まど神様」の伝説は、魔法少女達の間で、何年も何十年も語り継がれるだろう……。
魔法少女達とキュゥべえはと言うと――
893: 2012/09/02(日) 11:42:56.99 ID:PfocnRup0
生き返った魔法少女達は……
大半の子はそれぞれの帰る場所へ帰っていった。彼女達が帰った先では既に他の魔法少女がテリトリーとして戦っているかもしれない。
彼女達がその魔法少女達と、対立をするのか、共闘を結ぶのか、残念ながらわたしに知る術はない。
一方、既に帰る場所がない(身寄りがない等)魔法少女達は、見滝原や風見野に残り、「組織」のテリトリー内で活動している。
ただ困ったことに彼女達はわたしのことを意地でも「まど神様」と呼んでくる。
キュゥべえは……
ほむらちゃんの「無限の回転」に興味を抱き、新たなエネルギーがどうとか言ってわたし達……特にほむらちゃんと積極的に接してくるようになった。
新たなエネルギーを求めて感情の研究だけでなく、無限の回転を研究したがっているみたい。
その研究に集中するためかほむらちゃんに釘を刺されてか、詳しい事情はわからないけど最近は契約をしていない。
感情に代わるエネルギーが生み出せれば、みんなを普通の女の子に戻すとほむらちゃんと約束したらしい。それはとっても嬉しいなって。
894: 2012/09/02(日) 11:43:38.81 ID:PfocnRup0
マミさんは……
お出かけ中に芸能関係の人にスカウトされ、受験と魔法少女とレッスンを兼ねながら驚異的な速さで『恋のティロ・フィナーレ』という曲でアイドルデビューを果たした。
ライブやイベントの最中に魔法少女を探しだし「組織」へ勧誘しているらしい。もちろん多忙の中わたし達の面倒も見てくれている。
アイドル、進学で忙しくなったらマミさんは魔法少女を引退することも視野に入れている。寂しいけど、マミさんのやりたいことならそれでいいと思う。
ちなみに杏子ちゃんの将来を考えてか、杏子ちゃんをアイドル、またはバックダンサーとしてデビューさせる計画を立てている。
杏子ちゃんは……
依然マミさんの家でお世話になりながら「組織」の一員として魔女と戦いつつ後輩魔法少女達の面倒を見ている。
さやかちゃんとは一時期色々あったけど、今ではとっても仲が良い。二人で遊んでいる所をよく目にする。
学校へ行くつもりはさらさらないようで、風見野で年齢を誤魔化してアルバイトをしつつ暮らしているらしい。
いつか普通の人間に戻れた時のことを考えると、杏子ちゃん芸能界デビュー計画の成功を祈るばかりである。
さやかちゃんは……
わたし達の中で一番「組織」という集団を楽しんでいる。……後に「まど神様」という名前を広めた張本人と発覚した。
魔法少女として腕をあげながら、杏子ちゃんとは最高のコンビになっている。将来的には剣術を人に教えたいらしい。
勉強面では魔法少女を兼ねてなので苦戦を強いられ(わたしもだけど)ていて、ほむらちゃんに勉強を教えてもらっている。
上条くんのバイオリンコンサートの日程が決まったと喜んでいた一方で、その上条くんを巡る仁美ちゃんとの女の戦いは、災害の影響もあって少し長引きそうだ。
895: 2012/09/02(日) 11:44:50.37 ID:PfocnRup0
わたし(鹿目まどか)は……
勉強と魔法少女を両立しながら、浄化する能力と弓矢の練習に明け暮れる「普通の子」として暮らしている。
たまに魔法少女の運命がどうこう考えると溜息が出るけど、みんなと一緒ならどんなことでも乗り越えられると信じてる。
「組織」の名前は未だ決まってないけど、その組織の一員として、みんなに迷惑かけないよう努力は惜しまない。
浄化してもらうためにグリーフシードを持って複数人組の魔法少女が訪れることがあり、たまに本当に神様となった気分になる。
ほむらちゃんは……
盾の中身がリセットされ時間停止の能力がなくなったことをきっかけに、銃器とは決別した(というより補充ができない)。
わたし達と同じように暮らす一方で、魔法少女、回転の後継者を育成している。その中にはわたしもいる。
だからほむらちゃんはわたしの最高の友達兼師匠兼先生だ。ほむらちゃんもこの生活に満足してくれている。
そして、鉄球の回転の新しい領域を研究している。だからほむらちゃんはもっともっと強くなるだろう。
ほむらちゃんもわたしも、みんな……ジャイロさんには本当に感謝している。
896: 2012/09/02(日) 11:45:26.96 ID:PfocnRup0
――こうして何度も繰り返された一ヶ月は……ほとんどの人々にとっていつもの一ヶ月と同じように、当たり前のように過ぎていった。
バ ァ ――――z____ ン
さやか「奇跡も魔法も……」ほむら「私のは『技術』よ」 (完)
939: 2012/09/02(日) 22:40:15.34 ID:OKlPqGu10
乙!
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