1: 2013/05/06(月) 22:11:50.22 ID:zr/rAwf0o

「あぁ、三年にもなると補習のプリントの量も多いな……」

ガラガラ

律子「あ……」

「あれ、秋月……何してんの」

律子「いや、別に……」ササッ

「忘れ物?」

律子「違うわよ」

「何だっていいけど、暗くならないうち帰った方が良いぞ」

律子「…………」

https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367845909

2: 2013/05/06(月) 22:13:21.06 ID:zr/rAwf0o
「…………」カリカリ

律子「…………」

「……帰らないの?」

律子「…………補習だから」

「嘘? お前が?」

律子「はぁ……そういう言い方やめてよ」

「悪い。でも、まさか……いや、何も言わない」

律子「はぁ……」

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「……やっぱり、アイドルって大変なのか?」

律子「何よ急に……」

「いや、秋月が補習受けるくらいだし、相当なのかなって」

律子「まぁ、それなりかな。今回のテストはちょっとぬかっただけ」

「ふーん……」

3: 2013/05/06(月) 22:14:28.20 ID:zr/rAwf0o
律子「あなたは?」

「俺?が、何?」

律子「えーと、何で補習に?」

「ああ、地頭が悪いからかな。今のところ補習皆勤」

律子「勉強してる?」

「呆れたような顔するなよ。一応してる」

律子「一応ねぇ……」

「秋月はどのくらい勉強してる?」

律子「……最近はあんまり」

「あんまりね……」

律子「中々忙しいのよ」

「だろうな。そういえば一昨日、テレビ出てるの見た」

律子「……そう」

「…………」カリカリ

律子「それで……?」

「それで?」

律子「どうだった」

「どうって……別に。あ、秋月発見、ってそれくらい」

律子「発見……あっそ」

4: 2013/05/06(月) 22:15:31.85 ID:zr/rAwf0o
「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「おし、とりあえず古典は終わり」トントン

律子「いちいち言わなくってもいいじゃない」

「わっ、いたのか」

律子「さっきまで話してたでしょうが」

「補習はいつも一人だったから、習慣的に」

律子「いっつも独り言言ってたの?」

「どうかな。半ば無意識だから」

5: 2013/05/06(月) 22:16:39.05 ID:zr/rAwf0o
律子「……ちゃんと将来のこと考えてる?」

「一応」

律子「一応ねぇ……」

「秋月は?」

律子「考えてるわよ。あなたと違って」

「明確なビジョンを持ってるやつの方が少ないと思うけど」

律子「大まかな進路くらい決めたほうがいいんじゃないの」

「心配してくれてるのか?」

律子「ええ、まぁ」

「……そうか」

律子「将来、自棄になって犯罪とか犯さなきゃいいな、と」

「そういう心配かい」

律子「ふふっ」

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「……あれ、もう外暗いな」

律子「本当」

「そろそろ帰るか」

律子「うん」

6: 2013/05/06(月) 22:17:30.74 ID:zr/rAwf0o
――――

「まだ少し肌寒いな」

律子「うん」

「補習、何教科引っかかったんだ?」

律子「一教科だけ」

「勝った。俺は四教科だ」

律子「……卒業できるの?」

「不真面目なのは成績だけ」

律子「正直笑えないわ」

「同感」

律子「今週いっぱいは補習出なきゃならないんだっけ」

「金曜日は課題の提出日だから、実質木曜日まで」

律子「さすが補習マスター」

「褒めても何も出ないぞ」

律子「嫌味言ったんだっつーの」

7: 2013/05/06(月) 22:19:26.84 ID:zr/rAwf0o
「……仕事は大丈夫なのか?」

律子「今日はもともと何も無かったから」

「明日からは?」

律子「レッスンだけど、休もうかなと」

「事情話せばどうとでもしてくれるんじゃないか」

律子「特別扱いって嫌いなの」

「そう……」

律子「…………あ、私ここ左に」

「そうか、俺は右。じゃ」

律子「家まで送るよ、とか言ってくれないの?」

「言っても断るだろ?」

律子「まぁ」

「また明日」

律子「うん、明日」

8: 2013/05/06(月) 22:21:10.58 ID:zr/rAwf0o
――――

律子「ふー……」

「あれ、もう終わったのか」

律子「うん。あんまり量も多くなかったし、昨日家でちょっと片付けたから」

「そうか。俺はまだまだかかるな」

律子「うわ、そのプリントの山……全部やるの?」

「四教科ともなると中々量がすごいんだ」

律子「手伝おっか?」

「いや、いいよ。自分の力でやる」

律子「あっそー」

「…………」カリカリ

律子「…………」

「ふぅー……」

律子「……分からないの?」

「ああ、うん」

律子「どれ……これはね、代入を……」

「ああ、なるほど。ありがとう」

律子「いえいえ」

9: 2013/05/06(月) 22:22:46.79 ID:zr/rAwf0o
「…………」カリカリ

律子「…………」ジーッ

「……あれ?」

律子「どうしたの」

「いや、ちょっと……」

律子「ここは(1)で出た値を使えば……ほら」

「本当だ。ありがとう」

律子「いえいえ」

「…………うーん」カリカリ

律子「今度は何よ、どれ」

「……なぁ、暇なのか?」

律子「……ここはね、公式使わないと出ないから」

「おいっ、無視するな」

律子「……何よ」

「暇ならもうさっさと課題出してレッスンとやらに行ったら?」

律子「それ、ありなの?」

「さぁ。期日前に終わったことないから分からないけど」

律子「あっそ……」

10: 2013/05/06(月) 22:23:41.74 ID:zr/rAwf0o
「秋月相手なら、先生も計らってくれると思うけど」

律子「……特別扱いって嫌いなの」

「そうだったな」

律子「……いいじゃない別に」

「いいのかな別に」

律子「いいのよ。ほら、手を止めない」

「先生、ここ解りません」

律子「さっきと同じように解けばいいのです」

「同じようにってのが分からないんだなぁ」

律子「数学なんてコツ掴めばちょちょいのパーよ。ほれ、もう一息」

「……こう?」

律子「そうそう。なんだ、案外やればできるんじゃない」

「やればできるは魔法のことば……」

律子「はいはい、ネガティブ発言禁止ー」

11: 2013/05/06(月) 22:25:26.81 ID:zr/rAwf0o
「後ろ向きだった?」

律子「違ったの?」

「いや、確かに後ろ向きだったかも。改める」

律子「ポジティブな人は素敵よ」

「なーやんでもしーかたない」

律子「……双海姉妹のファン?」

「いや……別に」

律子「そう……よかった」

「何がよかった?」

律子「いや、口リコンじゃなくてよかった」

「なるほど」

12: 2013/05/06(月) 22:27:17.50 ID:zr/rAwf0o
――――

「さて次は……あれ」

律子「あ、数学終わったね」

「意外と早く終わった」

律子「私の協力あってこそ!」フフン

「うん、そうだな。ありがとう」

律子「もっと褒めてくれていいのよ」

「何て褒めればいい」

律子「えっ、とぉ……、例えば眼鏡が素敵、とか」

「そんなこと言ってほしい?」

律子「いや、ごめん、別にそうでもないや」

「眼鏡が素敵」

律子「もー……ばか」

「帰るか」

律子「うん」

13: 2013/05/06(月) 22:28:36.97 ID:zr/rAwf0o
――――

律子「それでね、美希がおにぎりを……」ペチャクチャ

「うん、うん」

律子「雪歩は最近男の人に慣れてきて……」ペチャクチャ

「へぇ……」

律子「いとこの涼ってのがいるんだけど……」ペチャクチャ

「はは……。あ、ここ左だろ?」

律子「あれ、あ、うん。そうそう」

「じゃあ、また明日」

律子「うん。また明日……」

14: 2013/05/06(月) 22:30:40.99 ID:zr/rAwf0o
――――


「……じゃあ、ここは?」

律子「ここは第四文型だから……」

「なるほど、あ、辞書持ってないか?」

律子「何、持ってきてないの? しょうがないなぁ、はい」

「ありがとう。よいしょ」ペラ

律子「……プリントの山もだいぶ減ったわね」

「そうだなぁ、今回ばかりは期日過ぎるかも、って思ってたけど」

律子「金曜日までに終わりそうね」

「うん。本当にありがとう」

律子「うむ。しかし、まだ礼を言うには早いぞよ」

「明日までよろしく頼みます」フカブカ

律子「うん、頼まれました」

「……後は大物が控えてるんだよな」

律子「ま、一段落ついたし、今日のところは帰らない?」

「そうするか」

15: 2013/05/06(月) 22:31:50.72 ID:zr/rAwf0o
――――

テクテク


律子「あなたって何か趣味あるの?」

「また急な……」

律子「いいでしょ別に」

「これといって趣味は……。強いて言えば音楽かなぁ」

律子「へぇ、どんなの聴いてるの?」

「~~とか、==とか」

律子「あ、知ってる知ってる。この間CMで流れてた」

「うん。声が好きでさ……」

律子「あ、わかるわかる。あの声はそうそういないよね」

「曲もメロディが良くてつい何回も……」

律子「CDとか持ってるの?今度貸してよ」

「いいけど、汚すなよ?」

律子「あれぇ? 信用無い?」

「いや、そういうわけじゃ」

ペチャクチャ

17: 2013/05/06(月) 22:34:56.25 ID:zr/rAwf0o
「あ、ここ……」

律子「……右だっけ?」

「うん、また明日」

律子「また明日」

「…………」

律子「どうしたの?」

「いや……送っていこうか?」

律子「……いいの?」

「断らないの?」

律子「夜道をか弱い女の子一人、歩かせるつもり?」

「それもそうかな」

律子「じゃあ、よろしくね」

「うん」

18: 2013/05/06(月) 22:37:40.04 ID:zr/rAwf0o
――――

「…………」カリカリ

律子「……枝毛発見」チョイチョイ

「…………ここは」

律子「どれどれ。ここはさっきと一緒の公式」

「嘘? すごく面倒臭い計算になるけど」

律子「楽なことばかりじゃないのよ」

「そう……」

律子「答えが綺麗に終わらないのもあるから……」

「よし……」カリカリ

律子「その調子その調子」

「…………うーん」

律子「……どう?出来そう?」

「あらかた終わったんだけど、この最後の問題だけ分からない」

律子「どれ、私が……」ペラッ

「…………」

律子「…………」カリカリ

「…………」

律子「…………うーん」

「どうですか」

律子「いや、ちょっと待って……」

19: 2013/05/06(月) 22:39:16.03 ID:zr/rAwf0o
「…………」

律子「教科書持ってる?」

「あるよ。はい」

律子「…………」パラパラ

「……解けそう?」

律子「待って、今話しかけないで……うーん」

「…………ふぁ」

律子「あくび禁止!」

20: 2013/05/06(月) 22:40:03.00 ID:zr/rAwf0o
――――

律子「……ぐぬぬ」

「どうでした」

律子「難しくて解けない……」グッタリ

「そろそろ帰るか?」

律子「うーん、いや、後十分だけやってみる」

「そうか」

21: 2013/05/06(月) 22:41:06.31 ID:zr/rAwf0o
――――

律子「はぁ……あーあー」

「そんなに落ち込むことかな」

律子「一応得意教科だから、できるつもりだったんだけど」

「まぁ、そういう時もあるよ」

律子「うーん、悔しいなぁ」

(明日まで出来るかな……)

律子「……ね、時間ある?」

「ん、何で?」

律子「ちょっとファミレスでも寄らない?」

「ああ、いいよ。せっかくだから夕飯食べてくかな」

律子「さっきの問題、もう一回チャレンジしてみる」

「なるほど」

22: 2013/05/06(月) 22:42:07.24 ID:zr/rAwf0o
――――

「ふぅー食べた……」

律子「…………」カリカリ

「……飲み物持ってこようか」

律子「ん、ありがとう」

「…………」スタスタ

「…………」ジャー


「…………」コト

律子「…………」ゴク

「解けそう?」

律子「…………うーん」

「…………」

23: 2013/05/06(月) 22:43:49.11 ID:zr/rAwf0o
――――

律子「……だめだぁー。お手上げ!」

「お疲れさま。よくここまで頑張ったな」

律子「悔しい~!」

「俺も帰ってからやってみる」

律子「言い方悪いけど、私ができなかったのにあなたにできるかな?」

「挑戦する姿勢は大事」

律子「……そうね」

「そろそろ出るか」

律子「うん……って、あれ会計は」

「済ませた」

律子「ええー、そんな……悪いよ」

「今週、補修手伝ってくれたから、お礼に」

律子「暇つぶしに手伝っただけよ」

「何だっていいじゃない」

律子「そうかな」

「そうだよ」

24: 2013/05/06(月) 22:44:59.26 ID:zr/rAwf0o
――――

「くぁ……」

律子「おはよう。眠そうね」

「うん……昨日は遅くまでやったからな」

律子「出来たの?」

「いや……駄目だった」

律子「あらら。でも、ちょっと安心したわ」

「何で」

律子「解かれたら、あなたに教えてた私の立場が無いもの」

「そう……」

律子「今日、提出でしょう? 放課後、一緒に行きましょう」

「分かった。くぁ……ごめん、始業まで寝るよ」

律子「ん。おやすみー」

「zzz……」

25: 2013/05/06(月) 22:45:50.96 ID:zr/rAwf0o
――――

律子「ごめんごめん。待った?」

「いや、さほど。課題は持った?」

律子「うん、ばっちし」

「じゃ、行くか」

律子「うん」


テクテク


「この時間ならほとんどの先生は職員室に居るはず」

律子「いなかったら?」

「探します」

律子「補習も中々大変なのね」

「慣れればそうでもない」

律子「慣れたらだめでしょ」

「……よし、職員室だ」

律子「もう……」

「まず、俺が手本見せるから、一息おいてから入って」

律子「手本って……」

26: 2013/05/06(月) 22:47:28.76 ID:zr/rAwf0o
ガラガラ

「失礼します。3年○組の××です。補修の課題を提出しに来ました」

「あ、@@先生。課題終わりました。はい、すみません。ありがとうございました」


律子「よし……」

律子「失礼します。3年○組の秋月です。補習の課題を提出しに来ました」

律子「先生、補習の課題です」

先生「お、はいはい。と……」

律子「どうもありがとうございました」

先生「うん。次はこいつみたく補習受けなくて済むようにちゃんと勉強してくれよー」

「はは……」

律子「はい、頑張ります」

「あ、先生。ここの問題だけ、解けなかったんですけど」

先生「ん、ああ、これは解けなくて当たり前だ。超難関大の入試問題を混ぜといたんだよ」

律子「え、そうだったんですか?」

先生「うん。いじわるしてやろうと思ってな」

先生「でも、このプリントの書き込みを見ると、相当頑張ったみたいだな」

「……はい」

27: 2013/05/06(月) 22:48:24.83 ID:zr/rAwf0o
先生「どうせ解けない、って最初から諦めなかったお前は偉いよ」

「ありがとうございます」

先生「よしっ、じゃあ、後帰ってもいいぞ。課題に不備はないみたいだしな」

「はい、ありがとうございます。失礼します」

律子「失礼します」

ガラガラ


「ふぅ……」

律子「……と、これで補習は完遂?」

「うん。晴れて自由の身だ」

律子「久々のシャバの空気ね」

「今日は仕事は?」

律子「今週いっぱいは補習だからって、休みにしてもらったの」

「へぇ。……じゃ、帰るか」

律子「うん」

28: 2013/05/06(月) 22:51:03.62 ID:zr/rAwf0o
――――


テクテク

「……改めてありがとう。秋月が手伝ってくれなかったら間に合ってなかった」

律子「何よ急に。べ、別にお礼なんか……」テレテレ

「あ、そうだ。はい、CD」

律子「え? ああ、昨日だか一昨日だか貸してって頼んだっけ」

「このアルバムのラストは絶対聴くべき」

律子「はいはい。言われなくてもちゃんと全部聴くわよ」

「秋月って音楽好きなの?」

律子「人並みかな」

「ふーん」

律子「こっちのアルバムは何がおすすめ?」

「あ、そっちは5曲目と10曲目が……」

律子「へぇ……あ、この曲知ってるかも……」


ペチャクチャ






29: 2013/05/06(月) 22:52:05.99 ID:zr/rAwf0o
――――


「もう、紅葉の季節か……早いなー」

ガラガラ

律子「あ」

「よ。忘れ物か?」

律子「いや……先生があなたのこと探してたわよ」

「あー、進路調査のプリントか。今日中だっけ?」

律子「まだ出してなかったの? もー、だらしのない。今日中よ」

「ささっと書くか……」ガタッ

律子「…………」

「…………」カリカリ

律子「……」ヒョコッ

「……見るなよ」

律子「言いつつも隠さないのね」

「まぁ……」

30: 2013/05/06(月) 22:53:21.12 ID:zr/rAwf0o
律子「進学するんだ?」

「親がどうしてもって……」

律子「まぁ、ある程度はしょうがないと諦めなきゃ」

「秋月はどこの大学受けるんだ?」

律子「あ、私、大学受けないの」

「え、どういうこと?」

律子「就職! 今の事務所で働くことに専念することにしたの」

「おー、おめでとう。でいいのか」

律子「うん。この1年で勉強と仕事と両立が難しいって、改めて思い知らされてね」

「しかし、もったいない気もするな。いい大学目指せたろうに」

律子「二者択一。どっちかっていうと、社会に出て早く自立したいって思ってたし」

「そうか。頑張れよ」

律子「むしろ卒業後の方が負担は無いんだけどね」

「そうかな」

律子「頑張るのはあなたの方じゃない? 受験生」

「受験って響きがもう嫌だなぁ」

31: 2013/05/06(月) 22:54:11.90 ID:zr/rAwf0o
律子「そういえば、この間のテスト、中々よかったんでしょう?」

「ああ、そうそう。補習受けずに済む程度には」

律子「大成長! その調子で受験まで行けば大丈夫よ」

「そうかな」

律子「そうよ」






32: 2013/05/06(月) 22:56:10.34 ID:zr/rAwf0o
――――



「うえー寒い……」ガタ

律子「……こんな遅くまで何してたの?」

「あれ、秋月……お前こそ」

律子「私はちょっと野暮用が……」

「そう。俺はちょっと先生に教えてもらって……」

律子「受験生だもんね」

「周りの人よりだいぶ出遅れたけど、漸く本腰いれて勉強してるんだ」

律子「ふーん。じゃ、頑張ってるあなたに、はい」

「なにこれ」

律子「パパパーン、ちよこれーとー(だみ声)頭使ってるんだから、糖分補給しなきゃね」

「ありがとう……でも、なんでまた急に」

律子「今日は何の日でしょーか?」

「あ、バレンタインか」

律子「そそ」

33: 2013/05/06(月) 22:57:23.62 ID:zr/rAwf0o
「仕事でバレンタインイベントとか無かったのか?」

律子「それは一昨日だったから」

「へー。そうか、当日は混みそうだしな」

律子「会場が抑えられなくてね」

「ふーん」

律子「イベント中、ハプニングあって大変だったんだから」

「どんな?」

律子「春香がね…………」

「それはひどい」

律子「でしょー? 他にもね……」






34: 2013/05/06(月) 22:58:24.39 ID:zr/rAwf0o
――――


「…………」

律子「何してるの?」ポン

「わっ、と……おどかすない」

律子「おどかしたつもりないけど」

「急に声かけられると驚いちゃうんだよ」

律子「徐々に声かけたほうが良かった?」

「……それはそれで嫌だな」

律子「なーにーしーてーるーのー?」

「なーにーもー」

律子「もう卒業だもんね。早い早い」

「本当。思い返すと、何もしてなかった気がする」

律子「そう? 結構色々してなかった?」

「補習とか?」

律子「ふふっ、笑えないわ」

「笑ってんじゃーん」

35: 2013/05/06(月) 22:59:31.53 ID:zr/rAwf0o
律子「ま、受験の年だったからね。これから色々すればいいのよ」

「そうだなぁ」

律子「志望してた私大受かったんだっけ」

「一応」

律子「一応ね……」

「ちょっと不安だ。仲良い人と離れるし」

律子「気の持ちようでどうとでもなるわよ」

「……秋月はもう就職だものな。何か、遠い存在みたいに思えるよ」

律子「そう? この年で就職ってのは案外珍しくないんじゃない?」

「そうかな……」

律子「…………」

「…………」

律子「ね、卒アル、持ってるよね?」

「あるけど」

36: 2013/05/06(月) 23:00:40.09 ID:zr/rAwf0o
律子「メッセージ書こうよ」

「ああ、青春ぽいな」

律子「もう、茶化さない! ほら出して」

「はい」ゴソゴソ

律子「あれ、メッセージ書いてある」

「白紙かと思った?」

律子「正直ね。あなた、こういうの苦手そうだから」

「苦手だからってむげに断ったりはできないものな」

律子「なるほど。さて、じゃあ、ここに……」キュッキュッ


  愛はコンビニでも買えるけれどもう少し探そうよ
  秋月律子


律子「はいっ」

「……何が言いたいんだ」

37: 2013/05/06(月) 23:01:21.99 ID:zr/rAwf0o
律子「あんまり妥協しすぎちゃ駄目よ、と」

「根性見せろ、と」

律子「そうかもねー」

「努力します」

律子「あるいはこのフレーズ気に入ってるから、
   どこか書けるところないかなって……それだけかも」

「何だっていい。ありがとう」

律子「じゃあ、はい」スッ

「ああ、俺も書くのね……」

律子「あったりまえ!」

「どれ……ほとんど埋まってて書く場所無いぞ」

律子「あ、本当……どっか空いてない?」

「さすがアイドルともなると人気が……」

律子「ちょっと引いちゃうよね」

「そういう言い方よせよ」

律子「だって……」

「うんざりするのはわからないでもないけどさ」

律子「……うん、ごめん」

38: 2013/05/06(月) 23:02:17.25 ID:zr/rAwf0o
「……表紙か裏表紙に書いても?」

律子「うん。大丈夫。あ……できたら表紙に書いてほしいな」

「はい。……よし、決めた」


  君は今誰よりも尖っている
  ○○××


「はい」

律子「ありがとう。書いてから言うのなんだけど、
  すっごい恥ずかしいっていうか痛々しいこと書いたかも、っていうか」

「こういうことできるの、本当に今日までだし。
 むしろ良いことじゃないかな」

律子「それもそうかな? まぁ、いい思い出になるといいけど」

「…………」

律子「…………」

「……帰るか」

律子「……うん」

58: 2013/05/11(土) 09:20:15.68 ID:88caeG/0o
誰だよ田辺

61: 2013/05/11(土) 11:01:02.26 ID:k+hKekB8o
田辺を知らない人は『律子 バースデードラマCD』とかでググってみると良いよ
ニコニコで聞くことも出来る
いまCDが手に入るのかは知らん


個人的には田辺は好きなキャラクターだし、なにも悪くないと思うんだけどなぁ。少し鈍感なだけで。

とりあえず、あの話をバースデーCDでやった公式はGJだと思う。アイマスの世界が広がって、Pとだけふれ合うご都合主義キャラクターでなく、人間味が出たと思う。最後のPとの会話のくだりは蛇足だと思うけどね



63: 2013/05/11(土) 14:59:04.40 ID:rEP0cFqPo
――――









律子「ふぅ、荷解き完了!」

律子「あー疲れたー」ゴロン

律子「ふぅ…………」ゴロゴロ

律子「あ……」

律子「卒アル……懐かしいな」ヒョイ

律子「もう1年以上経ったのねー」


  君は今誰よりも尖っている
  ○○××


律子「あ、これ……うわー」

律子「ふふ……」

律子「すっごい痛々しい!」ケタケタ

律子「あははは」

律子「……今何してるのかな」

律子「ちゃんと大学通ってるのかな?」

律子「…………」ゴロゴロ

64: 2013/05/11(土) 15:00:19.72 ID:rEP0cFqPo
――765プロ事務所

律子「あいたたた……」

小鳥「どうしました律子さん」

律子「いや、ちょっと筋肉痛が……」

小鳥「あ、引っ越し終わったんでしたっけ。一人じゃ大変だったでしょう?」

律子「いえ、いとこと父が頑張ってくれたのでそこまでは」

小鳥「むふ……じゃあ、年ですかね」

律子「そんな。まだガラスの十代ですよ」

小鳥「うふふふふ」

律子「……話変わりますけど、社長は?」

小鳥「あ、有望そうな若者を見つけた!とかってはしゃいでたので」

律子「社長室で面接ですか?」

小鳥「はい。お茶でも持っていこうかしら」

65: 2013/05/11(土) 15:01:46.12 ID:rEP0cFqPo
高木「やぁ、諸君。……君ら二人だけか」

小鳥「あれ、面接終わったんですか?」

高木「うむ。ここ最近人手不足だったし、
  やる気もあるようだったから採用した」

律子「スカウトしたのって、アイドル候補の子じゃないんですか?」

高木「ああ、律子君、プロデューサーをもう一人欲しがっていただろう」

律子「はい。ということは……」

高木「うむ。入ってきてくれ」

ガチャ

高木「これからプロデューサーとして働く××くんだ」

P「よろしくお願いします」ペコリ

律子「あ」

P「あ」

小鳥「……どうしました、律子さん」コソ

律子「あ、いえ、なんでも……」

66: 2013/05/11(土) 15:03:53.66 ID:rEP0cFqPo
高木「P君はプロデュース業は未経験なので、
  暫くは律子君の傍で仕事を見て覚えてもらう」

P「……はい」

高木「律子君、彼の面倒をよろしく頼むよ」

律子「わ、分かりました」

小鳥「はいはーい! 質問です! 年はいくつですか」

P「えっと、19です」

小鳥「わ、律子さんと同い年じゃないですか」

律子「え、ええ、本当ですね」

高木「急にティンと来たので……声をかけたら快く承諾してくれた。期待してるよ」

P「……はい」

高木「私は午後から出かける。留守番と戸締り、よろしく頼むよ」

律子「はい、わかりました」

ガチャ バタン


律子「…………」

P「……えーっと」

67: 2013/05/11(土) 15:05:55.95 ID:rEP0cFqPo
小鳥「はいはい! 質問! 彼女いますか!」

律子「ちょっと小鳥さん! 何を……」

P「いません」

小鳥「いえいっ! 分からないことだらけで不安でしょうけど、
  頑張っていきましょうね!」

P「はい。よろしくお願いします」ペコ

律子「はぁ、もう……よろしくね」カタカタ

小鳥「そうだ律子さん、今日、たるき亭行きません?」

律子「どうしてです?」

小鳥「ささやかな歓迎会を」

律子「そんなこと言って、飲みたいだけなんじゃないですか?」

小鳥「うっ、そそそんなんじゃないですよぅ」

律子「大体、私も彼も未成年ですから、行ってお酒飲むの小鳥さんだけですよ」

小鳥「まぁまぁ、それはそうですけど、一緒に食事して親睦を深めましょうよぅ」

律子「なるほど、親睦……そうですね」

68: 2013/05/11(土) 15:07:32.07 ID:rEP0cFqPo
小鳥「というわけで、プロデューサーさん、この後下の居酒屋で飲み食いしましょうよ!」

P「……あ、はい。いいですね、ぜひ」

律子「プロデューサーって呼ばれるの、慣れないですか?」

P「……そうですね、ちょっとくすぐったいっていうか」

小鳥「すぐに良くなりますよぐへへ……」

律子「小鳥さーん、笑い方が女性のそれでないですよ」

小鳥「おっと失敬」

律子「少し待っててください。すぐに書類片付けるので」カタカタ

P「はい」

小鳥「彼女、格好良いでしょう? 765プロ一の有能事務員なんですよ」

P「へぇ……」

律子「事務員じゃないです。プロデューサーです」カタカタ

小鳥「何でもできちゃうんですよねー」

P「…………」

69: 2013/05/11(土) 15:09:44.43 ID:rEP0cFqPo
――たるき亭

小鳥「じゃあ、乾杯しましょうか!」

律子「はい。かんぱーい!」カシッ

P「かんぱーい」カシッ

ゴクゴク

小鳥「ぷはぁー! いやぁ、久しぶりに飲みました」

律子「家じゃ飲まないんですか?」

小鳥「独りで飲んでも楽しくないので」

律子「小鳥さん、お酒飲むとうるさいですからね」

小鳥「そっ、そんなことは! 真に受けないでくださいね!」

P「あはは、皆で盛り上がった方が楽しいですよね」

小鳥「おっ、こっちのプロデューサーさんは優しい方ですねー!」ゴクゴク

律子「私は優しくないんですか?」

小鳥「そうは言ってないですー」グビグビ

70: 2013/05/11(土) 15:11:53.32 ID:rEP0cFqPo
律子「あー、もう、そんなハイペースで飲んで、潰れないでくださいよ?」

小鳥「潰れても、明日はお休みだから問題なし!」

P「……本当に大丈夫なんですか?」

小鳥「二日酔いのバッドトリップには慣れてますから!」

P「慣れちゃ駄目でしょう、ははは」

律子「私達も飲めたら付き合うんですけど、あいにく未成年なので」

小鳥「結構結構、傍に居てくれるだけで」ゴクゴク

71: 2013/05/11(土) 15:14:19.27 ID:rEP0cFqPo
――――


小鳥「何で……何で……どうして……」グデー

律子「あーあー……やっぱり」

P「…………」

律子「帰すの大変だなぁ……さて、プロデューサー殿」

P「はい」

律子「久しぶり。元気してた?」

P「ん、それなり……かな?」

律子「えーと、聴きたいことは山ほどあるんだけど……」

P「…………」

律子「まず、大学は?」

P「ああ、えーと……うん……」

律子「その反応で大体察しはつくけど……」

P「……中退したんだ」

72: 2013/05/11(土) 15:16:23.97 ID:rEP0cFqPo
律子「やっぱり……いつ頃?」

P「去年の9月くらいに」

律子「休みの期間とか除いたら三か月足らずで辞めてるんじゃない」

P「ああ、そうだなぁ……」

律子「何で辞めたの?」

P「勉強についていけなくなったのと、親への負担が大きくて」

律子「ダメ人間」

P「分かってるよ」

律子「はぁ……それで、それからどうしてた?」

P「バイトを転々としてて……」

律子「そう……それでふらふらしてるところをウチの社長が気に入っちゃったわけね」

P「なるたけ頑張るつもり」

律子「……明日、暇?」

P「うん。暇だけど」

律子「ある程度仕事の内容の予習しておいた方がいいでしょう」

P「そうだな。ありがとう」

73: 2013/05/11(土) 15:17:11.10 ID:rEP0cFqPo
律子「あなた、全然変わってないわね」

P「身長はちょっと伸びた」

律子「そういうことじゃなくて」

P「秋月は垢抜けたな」

律子「そうかな?」

P「ああ、何か、あれだな、その、大人……っぽくなったかもしれない」

律子「すっと言いなさいよ、お世辞の一つくらい」

P「ごめん」

律子「本当変わらないわね。……でもちょっと安心した」

P「……そういえば秋月はアイドル辞めちゃったのか?」

律子「うん。裏方の方が性に合ってるから」

P「もったいない」

律子「二者択一。私がより活躍できる場を選んだだけよ」

P「お前も根っこは変わってないんだな」

律子「そう? 安心した?」

P「別に」

律子「あっそ……」

74: 2013/05/11(土) 15:18:55.25 ID:rEP0cFqPo
小鳥「…………うぐぐ」

P「この人、どうするんだ」

律子「私が連れてくわ」

P「悪いな」

律子「あなたに任せるわけにもいかないでしょ」

P「それはそうだ」

律子「さ、そろそろ出ましょうか」

P「うん。そうだな」

76: 2013/05/11(土) 15:20:54.44 ID:rEP0cFqPo
――――

P「春っても夜はまだ寒いな」

律子「んしょ、そうね。ほら、小鳥さん、自分で歩いて……」

小鳥「うーん」ズルズル

P「手伝おうか?」

律子「いや、大丈夫」

P「じゃ、せめて荷物を」ヒョイ

律子「ありがとう」

P「……明日仕事教えてくれるんだよな」

律子「うん。主に簡単な事務等」

P「いつどこで?」

律子「うーん、ま、やっぱり事務所かな。後でメールしとくから……。
  あ、そういえばあなたの携帯のアドレス知らないわね」

P「赤外線で登録しとくから、ちょっち携帯貸せよ」

律子「ああ、うん。……はい」

77: 2013/05/11(土) 15:22:34.31 ID:rEP0cFqPo
P「…………」ピピッ

律子「…………」

P「……はい」

律子「ん、ありがとう」

P「あ、俺、ここ右だ」

律子「私達は左だけど」

P「送っていくよ」

律子「うん。お願いします」







――――

78: 2013/05/11(土) 15:24:46.71 ID:rEP0cFqPo



律子「看板見えた? 真っ直ぐ行って……うん、そのコンビニを右に……」

P『あ、見えた見えた』

律子「あ、おっはー」

P「ふるぅー。悪いな、道分からなくなっちゃって……」

律子「慣れないうちはしょうがないわよ。さ、入って」ガチャ

P「靴は?」

律子「履いたままで大丈夫」

P「よし……」

律子「さて、これから仕事の予習に取り掛かります」

P「よろしくお願いします」フカブカ

79: 2013/05/11(土) 15:27:11.83 ID:rEP0cFqPo
律子「何からが良いかな……」

P「今更だけど、俺のする具体的な仕事って?」

律子「あれ、社長から多少説明はあったでしょ?」

P「ここがアイドル事務所ってことは話されたけど、
 プロデューサーとして何するか、具体的には何も」

律子「もー、ろくに説明もせず人を連れてくるんだから……」ブツブツ

P「……俺、こんな簡単に入社しちゃってよかったかな」

律子「まぁ、人が足りないのは事実だし、男手も必要だから、
  未経験ってことに目をつむればあなたが入ってくれてよかったわ」

P「この業界で未経験って致命的じゃないかな」

律子「誰だって最初は未経験なんだから気にしない気にしない」

P「そうかな」

律子「そうよ。さて、まず簡単なことから覚えていきましょうか」

P「うん」

律子「プロデューサーとしての仕事はアイドルの体調管理とかレッスンとか……」

80: 2013/05/11(土) 15:28:27.36 ID:rEP0cFqPo
律子「あと、マネージャーみたいなこともしてもらうと思う。
  あ、免許持ってる?」

P「ああ、うん。一応」

律子「一応ね……じゃあ、送り迎えなんかは私と兼任ということで」

P「うん、わかった」

律子「書類の作成は私が、整理は小鳥さんがしてるんだけど……」

P「簡単なやつなら教えてくれれば……」

律子「そうね。じゃあ、パソコンを……あ、使えるよね?」

P「一応」

律子「また一応……」







――――

81: 2013/05/11(土) 15:30:38.95 ID:rEP0cFqPo
律子「……と、事務仕事は粗方説明し終わったかな?」

P「うん。分かりやすかった。ありがとう」

律子「あなたのするメインの仕事は口で説明しても伝わらないし、
  来週から見て覚えて」

P「習うより慣れろだな」

律子「そそ。きりもいいところで、お昼食べに行く?」

P「ん。そうしようか」

律子「またたるき亭っていうのもなんだし……」

P「どこかしゃれおつなところ知らないの?」

律子「しゃれおつ……まぁ、無いことないけど」

P「案内してくれよ」

律子「一人じゃ入りにくかったし、ちょうどいいかな」

P「遠い?」

律子「少し歩くけど」

P「その方がお腹も減るし、いいよ。行こう」

律子「うん」








――――

82: 2013/05/11(土) 15:32:06.08 ID:rEP0cFqPo
チリーンチリーン イラッシャイマセー

P「少しって言ったけど、だいぶ歩いた気がする」

律子「そう? 単に運動不足なんじゃないの?」

P「いや、そんなことは……あるかも」

律子「ふふ。仕事で結構歩き回るから、体力ないときついわよ」

P「秋月は平気なのか?」

律子「平気ってわけじゃないけど、多少は慣れたから」

P「……しかもヒールだし」

律子「慣れたから」

P「すごーい」

律子「もっと褒めてくれていいのよ」

P「眼鏡が素敵」

律子「ありがと」

店員「いらっしゃいませ……ご注文は」

律子「たらこスパとエスプレッソ」

P「同じので」

店員「かしこまりました……」

律子「何で同じの頼むのよ」

P「たらこスパ食べたい」

律子「違うのを食べ比べてみたかったのに……」ブツブツ

P「俺は自分で注文しようと思ったら十五分くらいかかるんだ」

律子「そんな優柔不断だったっけ?」

P「それなりに」

律子「ふーん」

83: 2013/05/11(土) 15:33:14.36 ID:rEP0cFqPo
――――


P「なかなか美味しかったな」

律子「うん。今度事務所の誰か、連れて行ってみようかな」

P「何人くらい働いてるんだっけ?」

律子「えーと、私と小鳥さんと社長と……アイドルの子が12人」

P「12人……多い方か?」

律子「いやいや、全然」

P「……そうだよなぁ」

律子「でも量より質って言うでしょう。
  個性派揃いでなかなか他にはいないタイプばかりだから、
  他の事務所とは一味違うのよ」

P「へぇ……会うのが楽しみだ」

律子「あら、意外。人付き合い苦手だと思ってたのに」

P「別に嫌って訳じゃない。言葉通り苦手なだけ」

律子「そう。ま、苦手なぐらいがちょうどいいわよ。
  嫌ってくらい対人関係に揉まれなきゃならないんだもん」

84: 2013/05/11(土) 15:34:52.54 ID:rEP0cFqPo
P「得意じゃないとまずいんじゃないの?」

律子「うーん。説明しづらいな……」

P「甘いもの好きな知り合いがケーキ屋に就職したら、
 甘いものが嫌いになった……とかそういう類?」

律子「あ、そうそう。似てるかも」

P「……出来るだけ頑張ってみるよ」

律子「うん。私もいるし、」

P「改めてよろしくな」

律子「うん」







――――

85: 2013/05/11(土) 15:36:49.70 ID:rEP0cFqPo
P「…………」ソワソワ

律子「落ち着かない?」

P「う、うん……男女比がちょっと」

律子「すぐに慣れるわよ」

亜美「ねー、あのおっちゃん誰?」コソコソ

真美「さー? トイレ掃除のバイトかな?」コソコソ

P「……おっちゃんって年かな、俺」

律子「ぶふっ。後でちゃんと叱っとくから」

P「今笑ったろ」

律子「や、笑ってない笑ってない」

P「……とやかく言うつもりはないけど」

86: 2013/05/11(土) 15:38:44.45 ID:rEP0cFqPo
ガチャ

高木「やあ、おはよう。みんな集まっているみたいだね」

オハヨウゴザイマース

律子「おはようございます」

P「おはようございます」

高木「……さて、みんなにお知らせがある」

律子「はい、こちらにちゅうもーく」

小鳥「何が始まるんです?」

高木「第三次……ごほん。やめてくれたまえ」

小鳥「失礼しました」

高木「気を取り直して……新任のプロデューサーが入社することになった」

律子「いえーい」パチパチ

高木「さ、挨拶と自己紹介を頼む」

P「はい。××と申します。この度はこのような会社に、
 知識など無いに等しい自分の様な若造を入社させていただき誠に……」

律子「プロデューサー、そんなに固くならないでください。
  ……もっと自分の言葉でお願いします」

87: 2013/05/11(土) 15:39:38.34 ID:rEP0cFqPo
真美「ミキミキが寝ちゃったよー!」

亜美「おっちゃーん! 話が長くてつまらないよー!」

小鳥「そうだそうだー!」

高木「……見ての通り、アットホームな職場だ。
  これから一緒に頑張っていこう」

P「……ええ。みなさんどうか、よろしくお願いします」

春香「こちらこそよろしくお願いします!」

P「うん。えっと……君は」

春香「天海春香です! 春香って呼んでください!」

亜美「はるるん必死だね……」

真美「審査員に没個性って言われたの引きずってるのかな……」

P「よろしく、春香……えーと、
  他の子も自己紹介とかしてもらっても大丈夫?」

春香「はいはい! じゃあ順番に……」


ワイノワイノ

88: 2013/05/11(土) 15:40:55.43 ID:rEP0cFqPo
――――

春香「感じ良さそうな人だったね」

千早「ええ、物腰が柔らかくて……話し易い人ね」

伊織「…………」

春香「どうしたの伊織。難しい顔して」

伊織「……そんなに気に入るような奴かしら?」

春香「気に入らなかった?」

伊織「……少しね。何か、ずるそうな感じがして」

亜美「ハムカツな人ってこと?」

伊織「狡猾ね。でも、そういうずるさじゃなくてもっと違う……」

春香「考え過ぎじゃないかなぁ?」

伊織「そうだといいけど……」

律子「はーい、じゃあ、みんなレッスンに行ってー」

春香「あっ、急がなきゃ!」タッ

伊織「あ、春香、走ると……」

ドンガラガッシャーン

伊織「転んだわね」

89: 2013/05/11(土) 15:42:13.30 ID:rEP0cFqPo
――――

P「ふぅー」

律子「お疲れさま。どう? 感想は」

P「いや、みんな元気があって、何て言うか……わくわくした」

律子「わくわく?」

P「うん。いきいきとした職場で色んな人と一緒に働けると思うと」

律子「あなた、そんなキャラだっけ?」クス

P「仕事熱心は似合わないかな?」

律子「ううん。ただ、そうやって嬉しそうにしてるの、
  何気に初めて見たかも」

P「学生の頃は色々といっぱいいっぱいだったから」

律子「そういっぱい、いっぱい」

P「あ・な・た・の声をー」

律子「ふふ、私の曲、覚えてるんだ?」

90: 2013/05/11(土) 15:43:53.16 ID:rEP0cFqPo
P「……ところで、これからの俺の仕事は?」

律子「うーんと、私が面倒見るってことになってるけど」

P「最初のうちは秋月の横で仕事を見てればいいのか?」

律子「見るだけじゃ駄目。
  覚えて、理解して、自分でもできるようにならないと」

P「うん。分かってる」

律子「じゃあ、えっと、私がいつもやっている通り動くから。
  ついでに施設の説明も……」

P「分かった……あれ、事務所の外出るのか?」

律子「こんなちっぽけな建物にレッスンルームなんかあるわけないでしょう」

P「なるほど」

律子「さぁ、歩くわよー!」

P「車は?」

律子「駐車スペース」

P「……なるほど」

律子「ま、そう遠くないし、気張って行きましょう」

91: 2013/05/11(土) 15:45:07.93 ID:rEP0cFqPo
――――


ガチャ

律子「どう? 調子は?」

春香「あ、律子さん。と、プロデューサーさん」

真「お疲れ様です!」

P「……ダンスのレッスン?」

春香「はい! 真が一緒だと中々ハードで……」

真「春香はスタミナがないからなぁ」

春香「真の体力がありすぎるの!」

律子「はいはい。で、どこまで進んだ?」

春香「えーと、一応、通して踊れるくらいには」

律子「本当? どれ、ちょっと見せて」

春香「よーし、真、頑張ろうね!」

真「じゃあ、かけるよ」

   ~♪ ~♪

  スタッ タタッ モタッ

92: 2013/05/11(土) 15:47:01.81 ID:rEP0cFqPo
春香「……はぁ……はぁ」

真「ふぅ~っ……どうでした?」

律子「まぁ、先週よりはよくなってると思うわ」

真「うんうん。形に近づいてきてるよね!」

律子「何とか見えてきた感じね」

真「特にまずかったところは?」

律子「真は少し曲よりテンポが前のめりかな。
  春香はところどころもたってるから……春香、大丈夫?」

春香「はぁ……はぁ……だ、大丈夫です」

律子「本番じゃ歌いながらダンスこなさなきゃならないのに……。
  先が思いやられるわね」

春香「ご、ごめんなさい……」

律子「春香は普段の練習の他に体力をつけるトレーニングをした方が良いわね」

春香「はい……」

真「プロデューサーは何かありますか?」

P「俺? えーと、何か……というと」

律子「二人のダンスを見て何か感じたことは?」

P「ああ、うん……えーと、二人ともレベルが高いな、と思った」

春香「レベルが?」

真「高い?」

93: 2013/05/11(土) 15:47:37.52 ID:rEP0cFqPo
律子「……他には?」

P「えーと……ごめん、よく分からないや」

律子「はぁ……しょうがないわね」

真「……もうちょっとリズム意識したほうが良いのかな?」

春香「ね、今日、筋トレか何かにしない?」

真「筋トレ~? まぁ、いいけど」

律子「私らはボーカル陣の様子見に行ってくるわ」

真「はい。行ってらっしゃい」

P「ごめんな、上手くアドバイスできなくて」

春香「いえいえ、はじめのうちは誰だって上手くいきませんよ」

律子「さ、行きましょう」

P「う、うん……」

94: 2013/05/11(土) 15:48:27.81 ID:rEP0cFqPo
――――

律子「プロデューサー、もうああいうこと言うの止めてね」

P「ああ、二人のダンスを見て……か。うん、反省してる」

律子「そっちじゃなくて、出がけに言ったこと」

P「出がけに? 何て言ったっけ」

律子「『上手くアドバイスできなくてごめん』って」

P「ああ、分かった。けど、どうして?」

律子「そんなこと言われてもアイドルたちは困るだけだし、
  仮にも指導者の立場に居る人が見るからに自信無い素振り見せてたら不安でしょう」

P「ああ、確かに……そうだな」

律子「気を付けてね」

P「うん。……メモしておく」カリカリ

律子「良い心がけね」

95: 2013/05/11(土) 15:50:29.74 ID:rEP0cFqPo
――――


ガチャ

P「こんにちはー」

伊織「わっ、と……誰かと思えば」

千早「あ、こんにちは……」

律子「やっほー。どう? 調子は」

伊織「まあまあ」

千早「私はあんまり……」

伊織「最近調子悪いわよね……原因は探ってるんだけど」

律子「具体的にどういった不調なの?」

千早「高音と低音がかすれちゃって、上手く発音できないの」

律子「どれ、ちょっと声出して見せて」

千早「分かったわ。う、うん、あー」

  ら~……♪

P(すごい声量だな……)

96: 2013/05/11(土) 15:51:08.43 ID:rEP0cFqPo
千早「けほっけほっ……」

律子「うーん、水分補給は?」

伊織「してるわ」

律子「うがい」

伊織「それはさっき……」

律子「声変わり?」

伊織「まさか」

律子「うーん。プロデューサー、何か無い?」

P「えーと、いや……ごめん、分からない」

伊織「……分からないなりに何かしら言ったらどう?」

律子「伊織、トゲのある言い方しないでちょうだい」

伊織「別にそんな言い方……」

千早「水瀬さん。最高音のところは抜きにしてもう一度最初からやりましょう」

伊織「う、うん……」

97: 2013/05/11(土) 15:53:56.23 ID:rEP0cFqPo







――――

P「…………」カタカタ

律子「…………」カチカチ

小鳥「…………」カタカタ

真「じゃあ、また明日ー! お疲れ様でしたー!」

律子「はーい。お疲れ様……」カタカタ

P「秋月、こういう感じでいいのか」カチ

律子「どれ……うーん、もうちょっとスリムにできない?」

P「わかった……」カタカタ

小鳥「……HPのレイアウトですけど、
  派手なのとシンプルなのと、どっちが良いでしょうか」

律子「うちのファン層はネット慣れしてる人が多いはずですから、
  シンプルな洗練されたレイアウトが喜ばれるかと」

小鳥「分かりました。ありがとうございます……」カタカタ

P「…………」チラッ

時計「19時半」

律子「…………」カチカチ

小鳥「…………」カタカタ

P「ふぅー……」カタカタ

98: 2013/05/11(土) 15:55:37.24 ID:rEP0cFqPo
――――

小鳥「お先に失礼します。戸締りよろしくお願いしますね」

律子「はーい」

P「はい。お気をつけて」

バタン

律子「…………」カタカタ

P「…………これでどうだろう」

律子「文章の幅を揃えて……」カチカチ

P「はい……」カタカタ

律子「…………」カタカタ

P「…………」カチカチ

99: 2013/05/11(土) 15:56:42.36 ID:rEP0cFqPo






――――

律子「……窓の鍵は閉めた、元栓も大丈夫……よし、と」カチャ

P「戸締り完了?」

律子「うん。事務所を閉めるまでが仕事です」

P「じゃ、帰るか」

律子「あ、ふふ。うん」

P「……どうした?」

律子「いやぁ、学生時代が懐かしいな、って」

P「ああ、そうだなぁ……」

律子「……結構、寒いね」

P「うん……」

100: 2013/05/11(土) 15:57:24.68 ID:rEP0cFqPo
律子「……相変わらず音楽は好きなの?」

P「それなり。馬鹿みたいに買うことは少なくなったけど」

律子「馬鹿みたいに買ってたの?」

P「力の限り」

律子「力の限り?」

P「金尽きるまで」

律子「ああ、そういう……」

101: 2013/05/11(土) 15:58:05.51 ID:rEP0cFqPo
――――

P「あっちの駅だっけ?」

律子「うん。逆方向だね」

P「送ろうか?」

律子「……明日もお互い早いし、遠慮しとくわ」

P「うん。助かる」

律子「そういうのは思っても言わないものでしょうが」

P「思ったことを言い合える仲は素晴らしい」

律子「もう……じゃあね。また明日」

P「ん。明日……」

117: 2013/05/26(日) 20:30:50.63 ID:uPHgIndbo
P「竜宮小町?」

律子「うん。大分前から構想自体はあったんだけど……」

P「……誰を使うんだ?」

律子「伊織と亜美と、あずささんの三人」

高木「他の子と比べると幾分か人気、知名度の高い三人だ。
  765プロはこのユニットに勝負をかけるつもりだ」

律子「プロデュースは二人で兼任してたけど、
  この先私は竜宮小町に専念しなきゃならないと思う……」

P「そうか……ということは、俺は残りの9人を纏めて面倒見るのか?」

律子「うん……大変だろうけど、任せると思う」

P「……分かった」

高木「不安かい?」

P「…………そうですね、正直不安です」

高木「すぐにというわけじゃない。
  それに彼女たちも自分たちでできることは自分でするさ」

律子「私も手伝えることは手伝うつもりだから……」

P「ありがとう」

118: 2013/05/26(日) 20:32:04.05 ID:uPHgIndbo
高木「私もアドバイスくらいはしてやれるから、
  分からないことがあったら遠慮なく訊いてくれたまえ!」

P「ありがとうございます。
  それで、竜宮小町はいつから始動するんです?」

高木「二か月後に少し大きめのライブがあったろう。
  そこでユニットの発表と新曲の披露の予定だ」

P「二か月後……間に合いますかね」

律子「間に合わせるのよ」

P「秋月の腕の見せ所ってやつか」

律子「無論。三人にはもう話してあるけど、
  他の子にはメンバーが誰かは教えてないから、今日話しておかないと……」

P「打ち合わせとか、レッスンのあれこれとか色々あるしな」

律子「そそ。さー! 頑張ろう!」

高木「私はあまり口を出すつもりはないから、
  二人が中心になって好きにやってくれ」

P「分かりました」

律子「任せてください!」









――――

119: 2013/05/26(日) 20:34:18.08 ID:uPHgIndbo
春香「はぁ……はぁ……プロデューサーさん、どうでした?」

真「今のは割と良い感じでしたね!」

P「うん、そうだな。もう、完成でいいくらいじゃないか?」

真「そうですか? ……まだ完成までには遠くないですか?」

P「俺から見たら完璧に見えるけど……」

真「そりゃプロデューサーから見ればそうでしょうが……」

春香「はぁ……ふぅ……」

真「春香は相変わらずだね」

春香「や、やっぱり走り込みとか始めたほうがいいかな……」

P「あんまり無理するなよ?
  真も、自主トレはほどほどにした方が」

真「僕は別に無理なんかしてませんし、
  ずっと続けてることをやめるのは嫌なので」ムスッ

P「そうか……でも、重ねて言うけど無理はするなよ」

真「……はーい」

P「帰りは秋月に頼んである。俺は別の用事済ませてから事務所に戻るよ……」

春香「あ、はい。分かりました。ありがとうございました」ペコッ

真「ありがとうございましたー」

120: 2013/05/26(日) 20:35:52.09 ID:uPHgIndbo
――――


ブロロロロー

真「……ねぇ、律子ー」

律子「んー?」

真「空いた時間で良いから、レッスン見に来てくれないかな」

律子「えー、どうして? プロデューサーが行ってるでしょう」

真「そうなんだけど、あんまり実にならないっていうか……」

律子「……まだ新人だし、容赦してあげてよ。
  私も暇じゃないし」

真「でもさー……」

春香「まぁまぁ。これからプロデューサーさんだって経験積んでいくんだし、
  暫くの間はトレーナーさんと私達で何とかしていこうよ」

真「むー、分かったよ……」ムスッ

律子「そんなに言うなら、一応、私からプロデューサーに言っとくわ」

真「そりゃどうも……」

春香「言い過ぎないであげてくださいね!」

律子「分かってるわよ」

121: 2013/05/26(日) 20:37:07.80 ID:uPHgIndbo
――――

P「すみません、印刷お願いしても……」

小鳥「はいはい、大丈夫ですよ」

P「ふぅー……」カタカタ

律子「やっほー。お疲れさま。仕事にはもう慣れた?」

P「帰ってたのか、秋月。まぁ、ぼちぼち……事務はだいぶこなれた感じ」

律子「そうね。レッスンとかはどう? 上手くやれてる?」

P「レッスンは……その、あんまり」

律子「分からないこととかあったらすぐに訊いてね?
  おすすめの本、メモに書いておくから、時間あったら読んでみて……」サラサラ

P「ああ、ありがとう。ダンスとか歌とかそういう?」

律子「うん。基本的なことはこれらを読めば大丈夫だから。
  ま、暇なときにでも買って読んでみて」

P「ありがとう……」

律子「どういたしまして」

122: 2013/05/26(日) 20:38:11.23 ID:uPHgIndbo
ガチャ


伊織「ふぅー……くたびれた」

律子「あ、おかえりー」

伊織「ただいま。……あ、あんた帰ってたのね。ちょうどよかった」

P「おかえり。何か用か?」

伊織「今度のライブの企画案、あんたが作ってよ」

P「二か月後のか? いや、俺は……」

律子「あ、そうそう。あなたに企画任せようって私達で話してたの」

P「でも企画案なんて作ったことないし、ライブのことだって知らないし……」

伊織「ああもう、うじうじしないで!」

律子「まぁまぁ。ね、いい機会だし、お願いできない?」

P「…………」

伊織「何よ。その顔。不満なの?」

P「い、いや……」

伊織「はぁ……いいけど。一週間くらいしたら、
  試案でいいから見せられるようにしておいてちょうだい」

123: 2013/05/26(日) 20:38:59.65 ID:uPHgIndbo
P「わかった。秋月、今日大丈夫か?」

律子「ああ、うん、大丈夫だけど……」

伊織「ちょっと! 律子を付き合わせる気?」

P「えっ、いや、そういうつもりじゃなくて……」

伊織「じゃあどういうつもりよ」

律子「やめなさい伊織」

伊織「だいたいねぇ、律子はこいつに甘いのよ!
  765に入ってもう一か月も経つのにずっと律子に頼りっぱなしじゃない」

律子「私は甘やかしてるつもりは……」

P「…………」

伊織「……あんたも何か言ったら?」

P「……そうだな、うん。頼りっぱなしだったよ。反省する」

伊織「自分でできるところは自分でやりなさい。
  分からないことがあったらその都度訊いて」

P「……分かった」

124: 2013/05/26(日) 20:40:06.21 ID:uPHgIndbo
律子「で、でも企画書の書き方とか大丈夫かしら……」

伊織「今まで書類の作成はさせてたんでしょう?
  なら大丈夫よ」

律子「でも……」

伊織「子供じゃないんだから、最初から最後までおんぶにだっこじゃ駄目」

P「そうだな……伊織の言うように、一人でやってみるよ」

律子「…………」

伊織「律子も、分かってるわね?」

律子「わ、分かってるわよ……」

伊織「じゃあ、よろしく。くれぐれも期限は守りなさいよ。
  来週までって確かに言ったからね!」

P「分かった。気を付けて帰れよ」

伊織「ふん」


バタム








――――

125: 2013/05/26(日) 20:42:07.08 ID:uPHgIndbo
響「はいさーい。あれ、みんな集まって何してるんだ?」

律子「あ、おはよう響。これでみんな揃ったかな?」

春香「集まってますよー!」

美希「ZZZ……」グーグー

響「……何が始まるんだ?」

亜美「第三次大戦っしょー」

響「何それ」

千早「早く練習に行きたいんだけど……」

律子「すぐ済ますから。さて、集まってもらったのは他でもない、
  前々から計画してた竜宮小町のことよ」

美希「竜宮小町っ!?」ガバッ

真「美希、よだれ」

美希「ん……」ゴシゴシ

126: 2013/05/26(日) 20:45:43.17 ID:uPHgIndbo
律子「この度、プロデューサーが増えて、負担も大分減り、
  少しばかり余裕ができました」

伊織「私はむしろ増えた様に思うけど」ボソ

P「…………」ムッ

律子「えー、765プロも以前と比べると徐々に知名度は上がっていますが、
  まだまだ弱小事務所と言わざるを得ないのが現状です」

真美「寂聴? 寂聴事務所?」

伊織「それは尼さん」

亜美「ジャクソン? ジャクソン事務所?」

伊織「それはミュージシャン……いいから黙って話聞きなさいよ」

律子「そこでこの依然くすぶったままの現状を打破するトリオユニット、
  竜宮小町を私、秋月律子がプロデュースすることにしました」

美希「メンバーは誰なの!」

律子「そう焦らないで。
  メンバーは伊織、亜美、あずささんの三人です。三人に既に話はしてあります」

美希「えっ! み、ミキは……?」

律子「……リーダーは伊織が務めます。
  二か月後のライブでユニットの発表と新曲の披露をする予定です。
  そのライブは彼が中心になってプランニングします。何か質問は」

127: 2013/05/26(日) 20:47:09.06 ID:uPHgIndbo
美希「何でミキはメンバーじゃないの!」

律子「ミキはグループよりソロで活動した方が
  良い結果が出ると思ったからよ。……他には」

美希「…………」ションボリ

真「美希……」

律子「……他に質問がないなら、これにて解散。
  各自仕事、レッスンに行って」

春香「はーい」


ゾロゾロ








――――

128: 2013/05/26(日) 20:49:06.27 ID:uPHgIndbo
ブロロロロー


P「えーと、今日はダンスレッスンか。
  先週とは別のトレーナーさんだから、どの程度までできたか説明をしておかないとな」

春香「はーい」

真「結構、厳しめの人だったよね……気合入れないと」

美希「……ねぇ、プロデューサー、さん。
  ミキ、具合悪いから、今日のレッスンおやすみがいいの」

P「……どうしたんだよ急に」

美希「美希、女の子の日なの」

P「えー、ちょっと……待ってくれ」


キッ ガチャ バタン


RRRRRRR


律子『もしもし』

P「美希がレッスン休みたいって言ってるんだけど」

129: 2013/05/26(日) 20:51:37.44 ID:uPHgIndbo
律子『あー、そう……やる気ゼロ?』

P「うん。かけらも見られない」

律子『何とか盛り立てられない?』

P「それがその……生理だって言ってるんだけど」

律子『うーん。十中八九嘘だとは思うけど……』

P「急に落ち込んじゃって。先週は結構やる気あったのに……」

律子『竜宮小町のメンバーに選ばれなかったのがショックだったんでしょうね。
  あんまり甘やかしたくないけど、あの子、やる気ない時はとことん駄目だし、
  とりあえず今日のところは休ませて……』

P「分かった。ありがとう」ピッ

130: 2013/05/26(日) 20:53:15.87 ID:uPHgIndbo
P「……はぁー」

ガチャ バタン

春香「美希、本当元気ないよ? 心なしか顔色も悪いし……」

美希「もう、家帰って寝たいの」

真「ねぇ、美希。ショックなのは分かるけど、
  あくまで仕事なんだから私情を持ち込むのはどうかと思うよ?」

美希「別にショックなんか! ミキはほんとに具合悪いの!」

真「美希!」

P「止めないか二人とも。……美希、今日はもう無理か?」

美希「…………」

P「……今日はもう休んでもいい。
  秋月にもそう言っておいた。今日は春香と真でレッスンを受けてこい」

春香「わ、分かりました……」

131: 2013/05/26(日) 20:54:20.20 ID:uPHgIndbo
真「プロデューサー! 何でそう甘やかすんですか!」

P「……二人をスタジオまで送ってから美希の家まで車を回す。
  美希、いいな?」

美希「……はいなの」

真「……はぁー」

P「…………」








――――

132: 2013/05/26(日) 20:55:48.89 ID:uPHgIndbo
ガチャ

P「……おはよう」

律子「おはようっても、もう十一時だけどね。
  昨日は美希どうだった?」

P「ずっと元気なかったよ。
  家まで送る間話しかけても、上の空って感じで」

律子「そう……早く持ち直してくれるといいんだけど」

P「今日、あいつ午後から仕事入ってたよな?
  いつもだったら事務所来て、時間まで寝てるのに……」

律子「一応、連絡しておいた方がいいかしら?」

P「……俺がするよ」

律子「うん。お願い」

P「美希の電話番号は……と」カコカコカコ

133: 2013/05/26(日) 20:57:21.99 ID:uPHgIndbo
P「……もしもし、美希。
  今起きたのか? ……そうか、うん」

P「え、いや、午後から仕事が……おい、ちょっと」

P「……おい、理由は? 気分? 馬鹿言うな……おい」

ツー ツー

P「はぁ……」

律子「大体察しはついたけど」

P「今日は仕事の気分じゃないって……」

律子「ちょっと、美希の家まで行って連れてきてくれない?」

P「え、でも本人は嫌がって……」

律子「気分が乗らなくたって、仕事はこなさなくっちゃ。
  些細なきっかけで仕事が来なくなることだってあるんだから」

P「…………」

律子「いざって時のために代わりの子は呼んでおくし、
  向こう様に連絡もする。でも、これは美希に来た仕事なんだから」

P「分かった。行ってくる」

律子「ついでにトイレの電球も買ってきて」

P「……はい」

134: 2013/05/26(日) 20:59:46.36 ID:uPHgIndbo
――――


伊織「何で私が美希の代わりを……」ブツブツ

律子「もう少しでプロデューサーが帰ってくるはずだから」

伊織「賭けてもいいわ。あいつ、絶対美希を連れてこない」

律子「そんなこと……」


ガチャ

P「ただいま……」

律子「あ、おかえり。……美希は?」

P「……外に出たくないって、話も聞いてくれなくて」

伊織「……ね。言った通り」

律子「伊織。……じゃあ、向こうに電話を入れておかないと……」

伊織「こんな直前に、大丈夫なのかしら?」

律子「……そこまで大きい仕事ではないから、
  取り計らってくれると思うけど……」

135: 2013/05/26(日) 21:01:37.07 ID:uPHgIndbo
伊織「はぁー。あんたのミスだからね!」

P「……俺? 俺のミス?」

伊織「何よ、自分の所為じゃないです、みたいな顔して。
  そうよあんたのミス! 引っ張ってでも連れてきなさいよ!」

P「でも美希は……」

伊織「美希じゃない。今はあんたの話。
  確かに美希は気が乗らないって甘ったれた理由で出社拒否した」

P「…………」

伊織「でもそれ以上に甘えてるのはあんたよ」

P「…………」

伊織「納得できない? なら一生そのままでいたら」

律子「……電話しておいたわ。快く対応してくれた。
  プロデューサー。伊織を送ってもらえる?」

P「……ああ。行こう」

伊織「……ふん」スタスタ








――――

136: 2013/05/26(日) 21:03:25.00 ID:uPHgIndbo
伊織「ねぇ……ちょっと」

P「なんだ? 説教の続きか?」

伊織「違うわよ。さっきのはもう終わり。言うだけ言ったし。
  ライブの企画はどう? 思うように進んでる?」

P「まぁ、そうだな。ぼちぼち」

伊織「……どのくらい考えたの?」

P「セットリストとユニット発表のタイミングは決めた」

伊織「ふーん。今日、見せられる?」

P「まだ全然途中だけど」

伊織「いいわ、別に……」

P「…………」

伊織「ふぁ……後どれくらいかかるの?」

P「四十分から一時間」

伊織「はぁ……遠いわね」

P「県外だからな……ま、余裕で間に合う」

伊織「……なら良いけど」

137: 2013/05/26(日) 21:05:09.16 ID:uPHgIndbo
P「…………退屈か?」

伊織「うん。……ラジオつけてもいい?」

P「どうぞ」


プチッ ザー
『この季節はお茶が美味しいね』って言ったら、
『ゆきぴょん、それ一年中言ってるよねー』って言われちゃって――

P「あ、雪歩だ……」

伊織「ローカル番組でもレギュラーなんだから、すごいわよね」

P「人前じゃ恥ずかしくって喋れないって言ってたけど、
  すごくいきいきと喋ってるな……」

伊織「ラジオは色んな人が聞いてるけど、目の前にはいないからね。
  雪歩、意外とラジオが向いてるのかも……」

P「そうだな……」

138: 2013/05/26(日) 21:06:32.03 ID:uPHgIndbo
続いて曲のリクエストです
今回の募集テーマは『春』。たくさんの人からリクエストいただきました
ありがとうございます
一曲目はペンネーム『甘ヶ島マサチューセッツ』さんのリクエストで――








――――

139: 2013/05/26(日) 21:07:45.23 ID:uPHgIndbo
伊織「ふー、無事終わった」

P「お疲れさま」

伊織「あら、あんた来てたの」

P「場所が場所だからな。事務所戻るわけにいかないし。
  近くのカフェで事務やってた」

伊織「そ。じゃ、帰りましょう」

P「ああ。伊織の家ってどこらへんだっけな……」

伊織「何言ってんの、事務所に帰るのよ」

P「え……大丈夫か? 疲れてるだろ?」

伊織「あんたの企画、今日見るって言ったでしょう」

P「でもまだ途中だし」

伊織「それでいいって言ったでしょう」

P「そうだった……分かった。行こう」








――――

140: 2013/05/26(日) 21:09:29.68 ID:uPHgIndbo
P「企画書ってこんな感じで良いのかな」

伊織「どれどれ。……ちょっと見づらいけど、うん、大丈夫」

律子「あら、企画もう出来たの?」

P「あ、いや、まだ途中。伊織に添削を……」

伊織「ねぇ、セットリストだけど、そこそこ売れた曲ばっかりね」

律子「どれ、あ、本当……」

P「駄目なのか?」

伊織「うーん、ファン感謝祭的な側面もあるライブだし、
  有名どころだけだと、面白みがないんじゃないかしら」

P「そうか……」

律子「後、テンポの速い曲ばっかりで、体力もたないんじゃない?」

伊織「そうそう。この曲目じゃ、終盤になったらこっちもお客さんもへとへとよ」

P「緩急つけないとだめってことか」

律子「そうそう」

141: 2013/05/26(日) 21:10:59.63 ID:uPHgIndbo
伊織「少しマイナーなのを入れたりとか……あんただったら何選ぶ?」

P「マイナー? 例えば……」

伊織「例えば……ちょっと待って。
  あんた、これ以外の曲で知ってるのある?」

P「…………えーと」

伊織「呆れた……うちの事務所から出した曲くらい全部把握しておいてよ」

律子「ま、まぁまぁ、仕事覚えるので手いっぱいでそんな暇無かっただろうし……」

伊織「……そうなの?」

P「……そうかな」

伊織「あっそ。後でアルバム全部渡しておくわ。
  ちゃんと聴いておいてね」

P「ありがとう」

伊織「曲目考えるのはそれからでいいわ。
  ……ラストに『いっぱいいっぱい』を持ってきたのは
  良い案だと思うから、変えなくていい」

142: 2013/05/26(日) 21:13:13.70 ID:uPHgIndbo
P「分かった」

律子「え、あれ入れたの?」

伊織「素っ頓狂な声上げないで。
  素直に良いと思う。楽しみね」

律子「そ、そうね……」

ガチャ

春香「ただーいまー」

律子「あら、春香。忘れ物?」

春香「いえ……美希来てないですか?」

律子「……来てないわ」

春香「そっかぁ……ご飯でも誘おうかと思ったんだけど……」

伊織「春香、ちょうどよかった。ちょっとこれ見てくれる」

春香「んー? なにこれ」

伊織「ライブのセットリスト。プロデューサーの考えた」

春香「へー……うわ、キツそうな……これやるの?」

律子「安心して、書き直させる予定だから」

春香「ああ、良かった~……この曲目じゃ私倒れちゃうよ」

143: 2013/05/26(日) 21:14:43.53 ID:uPHgIndbo
P「はは……そんなにあれなのか」

伊織「やる側からしたらね」

春香「あ、ラストはいっぱいいっぱい? いいね!」

伊織「でしょう? こいつにしてはいいアイデア出したと思うわ」

律子「…………」

P「どうした、秋月」

律子「あ、いや、別に……何でも」

春香「そういえばプロデューサーさんって、
  みんなのこと名前で呼ぶのに、律子さんだけは名字で呼びますよね?」

P「ああ、そうだなぁ」

春香「ひょっとして律子さんのこと、怖いとか? うふふ。
  でも同い年だし、仲悪そうには見えないけど……」

P「学生の頃からずっと秋月、って呼んでたから癖になってんだろうな」

律子「そういえば、一度も名前で呼ばれたことない気がするわ」

144: 2013/05/26(日) 21:16:18.03 ID:uPHgIndbo
伊織「二人は同級生だったの?」

律子「高校の頃ね」

春香「わぁ、すごい偶然ですね! 同じ職場って……」

P「そうだな……」

春香「それくらい長い付き合いなら名前で呼んだらいいのにー」

伊織「同感。正直、律子を秋月って呼んでるの耳慣れないから、
  できることなら変えてくれない?」

P「でもなぁ」

律子「わ、私も変えてほしいかなー……」

P「秋月まで……」

春香「プロデューサーさんっ!律子ですよ、り・つ・こ!」

伊織「にひひっ、ほら、早く呼んであげなさいよ」

P「…………り、律子」

春香「きゃー!」

律子「あ……これ慣れるまで恥ずかしいかも」

145: 2013/05/26(日) 21:17:10.26 ID:uPHgIndbo
春香「恥ずかしがっちゃってぇ、このこのー」

律子「もー。はいはい、やめやめー!」

春香「り、律子(低音)」

伊織「ぶふっ! やめて春香……くくっ」

P「やめてくれって…………と、もうこんな時間だ」

春香「あ、本当ですね。そろそろ帰らなきゃ」

律子「今日はもうこの辺で切り上げちゃおっか」

P「そうだな、じゃあ、戸締りして……二人とも少し待てるか?
  途中まで車で送るよ」

春香「良いんですか? じゃあ、お言葉に甘えて……」

伊織「そうね。送ってもらおうかしら」

律子「私も乗せてもらってもいい?」

P「どうぞどうぞ」







――――

146: 2013/05/26(日) 21:20:00.06 ID:uPHgIndbo
律子「今日はありがとうね! また明日」

P「うん。また明日」

伊織「じゃあね」

P「……伊織の家ってどこらへんだっけ。
  ナビしてくれよ」

伊織「そこ直進して三つ目の信号を左に……」

P「はいはい」ブイーン

伊織「…………」

P「…………」

伊織「あ、この辺で良いわ。降ろしてちょうだい」

P「え、良いのか? ここからだと駅も歩くとなると結構遠いぞ?」

伊織「良いの。ちょっと用事を思い出したから、済ませてから帰るわ。
  ありがとね」

P「あ、ああ、くれぐれも気を付けて帰るんだぞ」

伊織「分かってるわよ。さっき渡したアルバム、ちゃんと今週中に全部聴くのよ!」

P「はいはい。じゃあな。また明日」

伊織「うん。じゃあね」

156: 2013/06/08(土) 22:24:34.19 ID:wc3wuKoAo






――――


ガチャ

伊織「おはよう」

P「ああ、おはよう」

伊織「……美希は?」キョロキョロ

春香「まだ来てないみたいだけど……」

伊織「そう……」ポスッ

春香「美希、来るかなぁ?」

伊織「来るわよ。多分」

春香「結構落ち込んでたよね。結構長引くと思うな……」

157: 2013/06/08(土) 22:25:41.79 ID:wc3wuKoAo
ガチャ

美希「おはようなの……」

春香「あれっ、美希、おはよう」

伊織「ほら、ちゃんと来たでしょうが」

春香「ご、ごめんごめん」

美希「……何の話?」

伊織「春香は心配性のドジって話」

美希「あはっ。ミキもそう思うな」

P「おはよう、美希。どうだ? 身体の調子は」

美希「あっ、プロデューサー……さん」

伊織「…………」

P「病み上がり……とはまた違うか。
  まぁ、あんまり無理はしすぎないようにな」

美希「……プロデューサーさん」

P「何だよ?」

158: 2013/06/08(土) 22:26:21.59 ID:wc3wuKoAo
美希「……昨日は、自分勝手な理由でお仕事さぼってごめんなさい」ペコッ

P「あ、ああ……反省してるなら良い。今度からは……」

チョイチョイ

伊織(もう少し厳しく!)


P「……えー、幸い、今回は律子と伊織がフォローしてくれたからいいものの、
  フォローできなかったら、美希だけじゃなく、事務所全体の信用にも関わる」

美希「はい……」

P「今後は引きずってでも仕事に連れて行くつもりだから、覚悟しておいてくれ」

美希「分かったの」

P「……今日はすぐレッスンだ。準備しておけ」

美希「はいなの」

ガチャ バタン

P「……今の感じはどうだった?」

伊織「ん。まぁまぁね」

P「よし。じゃ、俺も準備するかな……」

159: 2013/06/08(土) 22:28:02.04 ID:wc3wuKoAo
伊織「頑張ってね」

P「……伊織は今日から竜宮で練習か」

伊織「そそ。律子のレッスン厳しいから、気合入れないと」

P「へぇ……あいつのレッスンって、具体的にどんな感じなんだ?」

伊織「具体的に……。今日の午後からは竜宮と他と合同で練習するし、
  他に仕事がなければ見に来れば? いい勉強になると思うけど」

P「ああ、そうだな。うん。そうする」

律子「伊織ー、そろそろ出るわよー」

伊織「分かってる。じゃ、プロデューサー。また後で……」タタッ







――――

160: 2013/06/08(土) 22:29:29.30 ID:wc3wuKoAo

ガチャ

P「お疲れさん。飲み物買ってきたぞ」

春香「あ……プロデューサーさん。ありがとうございます」

真「ねえ美希、もう一回通してやろうよ」

美希「何回もやんなくたって、ミキすぐできちゃうもん」グデー

真「普段から練習しないといざって時に失敗するんだよ?
  それに、美希一人のライブじゃないんだからね。チームワークが……」


P「……美希、どうしたんだ?」

春香「今日、ずっとあの調子なんです……」

161: 2013/06/08(土) 22:30:16.07 ID:wc3wuKoAo

美希「さっきだって二人のミスで詰まってたの」

真「確かにそうかもしれないけど」ムッ

美希「ミキはもうパーペキなの。練習しなくても二人よりずっと上手くできるもん」

真「…………」

春香「二人とも! プロデューサーさん来たし、一回見てもらおうよ!
  あんまりピリピリしないでさ……」

真「別にピリピリなんてしてないよ」

美希「……そうなの。真くんがいちいち突っかかってくるだけなの」

春香「ま、まぁまぁ……じゃ、音楽かけるね」

162: 2013/06/08(土) 22:32:13.01 ID:wc3wuKoAo

美希「~♪~♪」スタタッタン

真「はぁ……ふっ……」タタッ

春香「ふっ……とと……」タッモタッ

――――


春香「はぁ……ふぅー……」

美希「ふぅー、どうだった? プロデューサーさん」

P「いや……凄かったよ。多少粗いところもあったけど、
  リズムに乗って、キビキビした動きで……」

美希「でしょ?」

真「でも、全然息があってなかったよ……」

美希「ミキは完璧だったよ? それは二人が練習不足だからだって思うな」

真「…………」

美希「……あんまり怖い顔しないでほしいの」

真「…………」グッ

美希「……な、何なの?
  ミキ、疲れちゃったから、もう寝るね……あふぅ」

真「…………もういい!」ダッ

P「真! おい、どこへ……!」

163: 2013/06/08(土) 22:33:25.52 ID:wc3wuKoAo
P「真!」タッタッタッ

真「……プロデューサー」ピッガコンッ

P「…………」ホッ

真「飲み物、買うだけですよ」カコップシッ

P「怒って、どこかに行っちゃったのかと思った」

真「……そこまで子供じゃないです。
  頭にはきましたけど」ゴク

P「…………」

真「あ、飲み物、さっき買ってくれたんでしたね……
  忘れてた……ま、いっか」

P「美希のこと、あんまり……」

真「分かってます。でも、美希の言うこともあながち間違ってないです」

P「…………」

真「……ボクが練習不足っていうのも、十分に分かってるつもりです。
  だけど、なおさら、美希には自分たちを引っ張ってほしいです……」

164: 2013/06/08(土) 22:34:33.52 ID:wc3wuKoAo
P「美希にはそれは……」

真「無理だって言いたいんですか?」

P「…………戻ろう」

真「…………」







――――

165: 2013/06/08(土) 22:35:10.32 ID:wc3wuKoAo

律子「ここのターンはちゃんとバランスとらないと
  すぐに次の動きにつなげられないから、少し重心を低くして……」

春香「はい、こうですか?」

律子「それだと、ちょっと下げすぎかな」

春香「じゃ、これくらい……」

律子「そうそう……と、ちょっと待ってね。……美希!」

美希「くー……くー……」

伊織(美希! ……美希!)コソ

美希「わっ、は、はい!」ガバッ

律子「…………どういうつもり? 居眠りなんて」

美希「……み、ミキはダンス、大丈夫だから……」

律子「はぁ……それ本気で言ってる?」

美希「…………や、その」

166: 2013/06/08(土) 22:36:09.39 ID:wc3wuKoAo
律子「あのね美希、一人で上手く踊るくらいだったら、誰だってできるわ」

美希「でも……」

律子「あなたは他のみんなと違ってライブの経験だって浅い。
  二倍も三倍も練習しなきゃ追いつかないのよ?」

美希「ミキの方が……上手く……」

律子「……練習に参加する気が無いなら、帰ってもいいわよ」

美希「…………やる」

律子「そう……なら、途中の転調のところから……」

167: 2013/06/08(土) 22:38:07.66 ID:wc3wuKoAo
――――


律子「切りもいいし、そろそろ終わりにしましょう」

春香「はぁ~終わったぁ~……」ペタ

真「スー……ハァー……春香、だらしないよ。ほら立って……」

春香「はぁ、ごめん……真」

律子「もう帰っていいわよー。事務所に荷物置いてるなら、ちゃんと取って帰ってね」

春香「はい、わかりましたぁ」

真「じゃあ、また明日」

美希「……ミキも帰る」

P「……俺、送っていくよ」

律子「あ、うん。私、まだ書類仕事あるから」

P「了解。俺も送ったら事務所戻る」

律子「はぁい。じゃ、お願いね」

168: 2013/06/08(土) 22:39:11.45 ID:wc3wuKoAo
――――

P「じゃあ、また明日……」

真「はい。ありがとうございました」

春香「ありがとうございました! 美希も、また明日ね!」

美希「うん……また明日」

P「…………」

美希「……あふぅ」

P「美希の家って確かこの大通りの向こうだったな」

美希「うん…………ねぇ、プロデューサーさん」

P「なに?」

美希「やる気って、どうしたら出るの?」

P「……気にしてるのか? ……律子に言われたこと」

美希「律子、さんは関係ないの」

169: 2013/06/08(土) 22:40:18.98 ID:wc3wuKoAo
P「…………」

美希「ミキ、自分に足りないのってやる気だと思うの」

P「……うん」

美希「やる気さえあったら、ミキ何だって出来ちゃうのにって……」

P「……そうだな。美希は天分があるし、努力すれば……」

美希「てんぶん、って何?」

P「生まれついた才能。センスとか運動神経とか……」

美希「そうだね。ミキ、てんぶんあるの。努力しなくたって、何だってできちゃうの」

P「でも……才能に頼ってばかりいると、いつか駄目になっちゃうんだ」

美希「……どうして?」

P「……それは、逃げるってことじゃないか」

美希「何から逃げるの?」

P「…………」

170: 2013/06/08(土) 22:40:46.13 ID:wc3wuKoAo
美希「……プロデューサーさんの言ってること、よく分からないの」

P「……ごめん」

美希「……ミキのやる気の出し方、一緒に考えて」

P「……考える。美希が一生懸命になれるように」

美希「約束ね」

P「…………」








――――

171: 2013/06/08(土) 22:41:53.55 ID:wc3wuKoAo
P「えーと、今日録るのは……」

雪歩「生放送を一本と来週流す予定のラジオドラマです」

P「ああ、そうだそうだ……雪歩は良く把握してるな」

雪歩「い、いえ……当たり前のことですから」

P「本来なら俺が……あ、もう時間か。頑張ってな」

雪歩「はいっ」

172: 2013/06/08(土) 22:42:59.48 ID:wc3wuKoAo


~♪
――お茶の間の皆さんこんにちは。萩原雪歩です
先週の放送では春をテーマにリクエストを募集していましたが、
今週から春から夏へ……季節の移り変わりをテーマにリクエストを募集します
電話、ファックスは――


ヴーヴー

P「ん、電話……? ……ちょっと、失礼」

P「…………もしもし。ああ、小鳥さん、どうしました」

P「えっ……と、ちょっと待ってください。確認します……」パラ

P「…………」

P「……すみません。折り返し電話します、と伝えてください……」

173: 2013/06/08(土) 22:44:29.98 ID:wc3wuKoAo

P「…………」パラパラ

P「やっぱり、被ってる……」

P「ラジオが木曜で……こっちの収録も木曜で……」

P「あ、字を……読み間違えたのか……?」

P「…………ど、ど、どうする」

P「そうだ、律子……!」カコカコ


P「…………」ソワソワ


『――ただいま電話に出ることができません。電波の届かない場所か……』


P「ああ……」

P「…………」

P「とりあえずメール……」カコカコ

P「…………」ソワソワ

P「……返信が来ない。どうする……どうする……」

174: 2013/06/08(土) 22:46:05.26 ID:wc3wuKoAo
――――


雪歩「プロデューサー、お疲れさまです。
  あとラジオドラマの録音とリクエストの確認だそうです」

P「あ、ああ……分かった。俺、ちょっとコンビニに、行ってくる……から」

雪歩「あ、はい……」

P「…………」




ヴーヴー


…………

175: 2013/06/08(土) 22:46:33.77 ID:wc3wuKoAo





ヴーヴー





ヴーヴー





176: 2013/06/08(土) 22:47:24.98 ID:wc3wuKoAo
ピーと言う発信音の後に…………




   ピー……


 『もしもし、プロデューサーさん。音無です。
  みんな、心配してますよ? ……お願いします。連絡ください……』




177: 2013/06/08(土) 22:48:06.96 ID:wc3wuKoAo



P「…………」ピッ

P「…………」

P「気を付けてたはずなんだけどな……」


178: 2013/06/08(土) 22:48:58.70 ID:wc3wuKoAo
――――

ガチャ

P「…………」


律子「はい……はい、本当に申し訳ありませんでした……はい」

律子「そんなっ……いえ、そうです。ご迷惑をおかけしました……」

律子「はい……すみませんでした……失礼します……」

179: 2013/06/08(土) 22:50:00.21 ID:wc3wuKoAo


律子「……プロデューサー」

P「……おはよう、昨日はごめん。無断で休んで」

律子「…………」

P「……本当にごめん」

律子「……それより、他に言うことがあるでしょう」

P「…………」

律子「……連絡、返せなくて悪かったと思うわ。けど……」

P「…………」スッ

律子「…………何よこれ」

P「辞表。悪いんだけど、律子から社長に渡してくれないか」

律子「そういうことは訊いてない……どういうつもり?」

P「スケジュールの確認を怠ってダブルブッキングの挙句、現場から逃げて……」

律子「だからって……」


P「責任とって、辞めるよ」

180: 2013/06/08(土) 22:51:08.26 ID:wc3wuKoAo
律子「…………」バンッ

P「…………」

律子「…………」ギッ

P「……何だよ」

律子「そうやって逃げたの?」

P「…………」

律子「バイト、転々としてたって言ってたわね。今みたいに、
  つまづくたび辞めては違うところに行ってたんでしょう……?」

P「……違う」

律子「目を見て言ってよ……!」

P「…………」

181: 2013/06/08(土) 22:52:08.33 ID:wc3wuKoAo
律子「大学もそうだったんでしょ?
  何にも果たさず、全部無駄にして!」

P「違う!」

律子「じゃあ何よ!」

P「…………」

律子「……ぐすっ……もう、帰って……!」ポタポタ

P「…………世話になったな」


ガチャ バタン


P「…………」

伊織「あっ……。あんた、昨日は……」

P「……じゃあな」

伊織「じゃあな、って……どこ行くのよ?」

P「…………」スタスタ

伊織「…………」

182: 2013/06/08(土) 22:53:33.51 ID:wc3wuKoAo


ガチャ


伊織「おはよう……ねぇ、さっき」

律子「……あんの馬鹿ーっ!」ガシャッ

伊織「り、律子っ!? 何してるの!」

律子「もういや…………うぅっ……ぐすっ……」ボロボロ

伊織「…………あいつと何かあった?」

律子「……うぇっ……すんっ……」

伊織「…………」







――――

183: 2013/06/08(土) 22:54:32.78 ID:wc3wuKoAo


~♪
悩んでもしーかったないっ
まぁそんな日も――

P「借りたアルバムは、返さなきゃまずいか……」

P「あと、ロッカーの鍵とそれと……」

P「…………新しいバイト、見つかるかな」

P「…………」

P「……もう寝よう」

P「…………明日から、どうするかな」



     カチッ…

184: 2013/06/08(土) 22:55:28.36 ID:wc3wuKoAo
――――



ピンポーン… ピンポーン…

P「…………ん」

P「……八時半」モソ

ピンポーン

P「…………」

ガチャ

P「……はい」

185: 2013/06/08(土) 22:56:19.14 ID:wc3wuKoAo
伊織「…………」

P「伊織……」

伊織「上がるわよ」

P「いや、でも……」

伊織「…………」ズカズカ

P「…………」

伊織「案外綺麗な部屋ね」

P「…………物が少ないからな」

伊織「……ふぅ」

P「……お茶でも淹れようか」

伊織「結構よ」

P「…………」

186: 2013/06/08(土) 22:58:03.80 ID:wc3wuKoAo
伊織「……昨日のことだけど」

P「…………もう、いいだろ。終わったことだ」

伊織「終わってない」

P「…………」

伊織「律子は、あんたの辞表を預かったままよ」

P「…………どうして」

伊織「単純に、辞めてほしくないんじゃないの」

P「…………」

伊織「律子、この二日間謝り通しで、あんたの尻拭いに追われてろくに寝れず……」

伊織「それで、当の本人は辞表出してそれで終わりって思ってる」

P「そんなつもり……」

伊織「そう見えるのよ。それが嫌なら、自分の失敗の後始末は自分でするべきよ」

P「……だめにしたな、俺は」

伊織「一つや二つ、失敗はするものよ。肝心なのは失敗をどう処理するか」

P「…………」

187: 2013/06/08(土) 22:59:02.94 ID:wc3wuKoAo
伊織「…………」

P「…………借りてたアルバム、返すよ」

伊織「……全部聴いたの?」

P「一応」

伊織「……そういえば、企画、今日で約束の一週間だけど」

P「…………ほら」

伊織「……ん、どれどれ」ペラ


伊織「……良いじゃない。ズル休み中に書いたの?」

P「……まあな」

伊織「ふーん。いい根性してるわね」

P「……皮肉か?」

伊織「半分はね。これ、持っていくわよ」

P「どうぞ……」

188: 2013/06/08(土) 22:59:50.17 ID:wc3wuKoAo
伊織「…………本当に辞める気でいるの?」

P「その企画書で、俺の仕事は終わりで良いだろ」

伊織「…………」パンッ

P「いって……」

伊織「明日、来なさいよ。じゃないと今度はグーでいくから」

P「…………」

伊織「じゃ、もう行くから」

P「……今日、仕事か?」

伊織「これから撮影。もう手間かけさせないでね」

P「悪かったよ…………また明日」

伊織「……うん。また明日ね、プロデューサー」








――――

189: 2013/06/08(土) 23:01:31.57 ID:wc3wuKoAo



P「はぁー……」

P「ふぅー……」


P「…………」ウロウロ


高木「……Pくん」

P「あっ。お、はようございます……」

高木「……入りづらいかい?」

P「…………」

高木「少し、社長室で話をしてみる気はないかな」

P「…………すみません」

高木「いやいや」

190: 2013/06/08(土) 23:02:10.51 ID:wc3wuKoAo
――――

高木「…………」

P「……先日はすみませんでした」

高木「新人の頃は誰でもするものさ、ダブっちゃうのはね」

P「…………」

高木「数年もすれば笑い話になるよ」

P「俺、期待を裏切りました。駄目にしました。全部」

高木「……律子君に辞表を渡したそうだね」

P「…………」

高木「辞めて、きれいさっぱり終わり、なんて考えたのかい?」

P「……そんなこと」

191: 2013/06/08(土) 23:03:04.08 ID:wc3wuKoAo
高木「君が辞めたとして、多分、律子君が君の後始末をするだろう。
  マイナスをゼロにするまで、暫くかかって、漸くもとに戻って……」

高木「それから、君の抜けた穴を全員で埋めなきゃならない」

高木「新しいプロデューサーを雇うかもしれないね……君の様な新人か、
  あるいは他のプロダクションから引き抜くか……」

P「…………」

高木「……今や765プロにとって、君が思っている以上に君の存在は大きいんだよ」

高木「無責任な行動は止めてほしい」

P「本当にすみませんでした……」

高木「分かってくれたなら、いい。
  ……彼女たちに元気な顔を見せてやってくれ。みんな心配していたんだ」

P「はい。失礼します」

高木「うむ」

P「……ありがとうございました」ペコリ

192: 2013/06/08(土) 23:05:06.27 ID:wc3wuKoAo
――――

ガチャ

P「……おはようございます」

小鳥「あっ、プロデューサーさん」

律子「…………」

P「…………律子」

律子「…………」スッ

P「…………辞表」

律子「本気で辞めるつもりなら……私じゃなくて社長に渡して」

P「…………」クシャクシャヒョイ

ポスッ


小鳥「……ナイッシュー!」

律子「…………」

P「…………律子、俺が悪かった」

律子「……馬鹿」

P「……改めてよろしく」

律子「こちらこそ」

193: 2013/06/08(土) 23:05:51.76 ID:wc3wuKoAo
P「…………企画書、伊織に渡してたんだけど、読んだか?」

律子「うん。読んだ……。具体的な時間の割り振り、計算と、
  あと必要なこと、ものなんかも書き出しておいて……」

P「……わかった」

律子「今日のスケジュールはホワイトボードに書いてあるから」

P「ありがとう。本当に……」

ガチャ

真「おはようございます」

春香「おはようございまーす! あっ、プロデューサーさん」

P「おはよう。……迷惑かけたな、悪かった」

春香「迷惑だなんて……そんな」

真「…………」

春香「真っ」

真「あ、うん、おかえりなさい。プロデューサー」

P「……ただいま」

194: 2013/06/08(土) 23:07:54.21 ID:wc3wuKoAo
春香「えと、今日は三人でダンスレッスンでしたね!」

P「……うん、そうだ。美希は……まだ来てないな」

真「電話に出ないので、多分寝てます」

P「そうか……じゃあ、途中で拾ってから行くか。
  少し早めに出よう。二人とも準備しておいてくれ」

春香「はい」

真「……はい」

195: 2013/06/08(土) 23:09:11.39 ID:wc3wuKoAo
――――

ピンポーン


P「…………」

ガチャ

「はい……」

P「おはようございます。初めまして……星井美希さんのお宅、ですよね。
  私、美希さんのプロデューサーのPと申します」

「どうも、ご丁寧に……私、美希の姉の奈緒です」

P「朝にすみません。実は今日、午前中にレッスンなんですが、
  まだ美希さんがその……寝てると聞いて……」

「まぁ、わざわざ起こしに?」

P「はい」

「すみません、すぐたたき起こしてきますので」タタタ

P「あ、いや……」

196: 2013/06/08(土) 23:10:21.21 ID:wc3wuKoAo

 こらー!起きろ馬鹿!
な、なななんなのなのお姉ちゃん!?
 さっさと準備しろー!
分かった!分かったからー!布団剥ぐの止めてー!
ドタバタ


P「…………」

「……ふぅー、本当に申し訳ありません。十分もしたら来ますから」

P「いえ……ありがとうございます」

「……美希、最近どうですか?」

P「最近……まぁ、その、ぼちぼちです」

「……本当?」

P「…………いや、本当のこと言うとあんまり」

「やっぱり。近ごろは以前に増して腑抜けてるっていうか……」

P「すみません、もっと上手くやる気を引き出せれば……」

197: 2013/06/08(土) 23:11:37.43 ID:wc3wuKoAo
「ううん。やる気って、そりゃ周りの影響もあるけど、結局は自分で出すものだし」

P「……そうでしょうか」

「そそ。きっかけを待つのは馬鹿ですよ。
  きっかけがすぐに訪れる人もいれば、そうでない人もいるし……」

P「…………」

美希「……はぁっ、準備完了なの!」ドタドタ

P「ん、じゃあ、行ってきます。どうもありがとうございました」ペコリ

美希「お姉ちゃん、行ってきます」

「はあい、行ってらっしゃーい」フリフリ







――――

205: 2013/06/23(日) 21:17:03.74 ID:mctNH5Ldo

「……はい、もう一度」

春香「追いかけて~♪」


美希「くぁ……あふぅ」

P「眠そうだな。コーヒーでも買ってきてやるか?」

美希「別にいいの。……ミキ、飽きちゃった」

P「そう言うなよ。人の練習見るのも為になる」


春香「~♪」

「もっと肩の力抜いて」

春香「は、はいっ」


美希「……春香、もっと楽しんで歌ったらいいのに」

P「美希は歌ってて楽しいか?」

美希「…………最近はどうだろ。分かんないや」

P「そっか」

美希「前はすっごく楽しかったんだけど……歌もダンスも。
  今は、前ほど楽しくなれないの」

P「…………」

206: 2013/06/23(日) 21:17:56.76 ID:mctNH5Ldo

「ふぅー……じゃあ、ラスト三回、みんなで通して、今日は終わりにしましょう」

春香「はい」

真「はーい」

美希「……はいなの」


P(ライブまで約一か月か……)

~♪ ~♪


――――

207: 2013/06/23(日) 21:19:32.55 ID:mctNH5Ldo

P「…………」カタカタ

ガチャ

律子「お疲れさま。はい、コーヒー」コト

P「あ、帰ってたのか。ありがとう……」

律子「まだかかるよね?」

P「……二時間は要る」ゴク

律子「手伝えること、ある?」

P「……大丈夫。一人でやれるよ」

律子「そう……。今日は美希、どうだった?」

P「……以前と同じ、とまではいかないけど、
  大分やる気を取り戻してると思うよ」カタカタ

律子「そっか。美希、レッスンは休まずやってるけど……まだちょっと心配だなぁ」

P「美希のことは俺が何とかする。約束したし」

律子「……分かった。任せる」

P「……うん」カタカタ

208: 2013/06/23(日) 21:20:24.27 ID:mctNH5Ldo
律子「ところで最近どう?」

P「どうって……俺?」

律子「そそ。何だか、元気がないから」

P「…………あのさ、俺、へまをした、よな」

律子「うん。まぁ」

P「自分の気持ち自体はもう、沈んでないし、頑張ろうって思ってるんだけど」

律子「だけど?」

P「…………楽しいって思っていいのかな」

律子「うん? どういうこと?」

P「失敗したけど、みんな許してくれて……本当、いい人達だよな。
  でも、それで、俺は以前みたいに楽しんでいいのかな」

律子「確かに失敗したけど、ちゃんと謝って、
  それから頑張ってるじゃない」

209: 2013/06/23(日) 21:22:22.02 ID:mctNH5Ldo
P「……『逃げたくせして、反省もせずはしゃいじゃって』とか、思われたりしないかな」

律子「はぁ……気にしすぎだって」

P「そうかな……」

律子「あのね、こっちとしてはもう水に流したことなんだから、
  いつまでもうじうじしててほしくないわけ」

P「…………」

律子「それはそれ、これはこれ」

P「……そうだよな」

律子「と、いうことで落着!

P「……ありがとう」

律子「切り替えていきましょう。ライブまで、日も浅いことだし」

P「……衣装の発注は?」

律子「済ませた。セットリストは?」

P「ほぼ確定。ただ、終盤の流れとアンコール曲で迷ってて」

律子「ふーん。どれどれ」

210: 2013/06/23(日) 21:23:12.33 ID:mctNH5Ldo
P「人気曲か新曲か、どっちが盛り上がるかな」

律子「一度やった曲をアンコールでってこと……どうなんだろう」

P「以前まではどうだったんだ?」

律子「……実はこれくらいの規模のライブを765の全員でやるって、初めてなのよ。
  フェスとか、他との合同なら何回かやったことあるんだけど……」

P「じゃあ、手探りで何とかしていくしか……」

律子「うん。当日多少無茶な変更があっても対応できるように、
  余裕を持たせておきましょ」

P「休憩は三回に分けて……」

律子「そうね……あと、トークの時間もそれなりに」

P「分かった。やってみる」

律子「あんまり、根詰め過ぎて倒れないでね?」

P「大丈夫だよ」カタカタ

律子「…………」

211: 2013/06/23(日) 21:23:39.09 ID:mctNH5Ldo
P「ところで律子、ってさ。アイドルん時、ライブしたことあったよな」

律子「ああー、数えるくらいだけどね……デパートの屋上とか、ちっちゃいライブハウスとか」

P「懐かしいな」

律子「懐かしい?」

P「あ、いや……俺の友達が追っかけやっててさ」

律子「追っかけ……ろくでもない友達ね」

P「……そうだな、ろくでもない奴だったよ。
  律子にばれないよう、握手会の時はわざわざ変装したりしてさ」

律子「ふーん」

P「……懐かしいな」カタカタ

律子「…………」

――――

212: 2013/06/23(日) 21:24:09.09 ID:mctNH5Ldo

~♪~♪


伊織「……っと」

春香「ハァ……ハァ……」

真「ふぅ……今、いい感じだったね!」

律子「いや……本当、息ぴったりだったわ」

P「一時はどうなるかと思ったけど、この調子なら間に合うな」

美希「はぁ……はぁ、疲れたの……」

P「美希も、すごく良かったぞ?」

美希「ミキ、最初からこれくらいできてたよ?」

P「そうか? ずっと上手くなってるよ」

美希「むー……」

律子「うん! ようし、忘れないうちに体に覚え込ませましょう!」

春香「律子さん! 少し休憩させてくれませんか?」

律子「あ、そうね。じゃあ十五分の休憩~」

春香「ほっ……」

213: 2013/06/23(日) 21:24:38.71 ID:mctNH5Ldo
ナイスハルルン!
 サスガオソレヲシラナイセンシダネ

ワイノワイノ



P「……なぁ、律子」

律子「はいはい。なんでしょ」

P「そろそろ、本番で使う衣装を着て練習したほうが良いんじゃないか?」

律子「私も、それは考えてたんだけど……、
  汚れたり、破損したりしないか心配で」

P「なるほど……なら、練習しないまでも、慣れておくために着る時間作ろう」

律子「うん。じゃあ、明日にでも……」

214: 2013/06/23(日) 21:25:30.88 ID:mctNH5Ldo

春香「…………」ジー

伊織「どうしたのよ、春香」

春香「……最近、プロデューサーと律子さんの距離が近い気が」

伊織「物理的に?」

春香「物理的にも、精神的にも」

伊織「……まぁ、言われてみればそうかもね」

春香「OH! 見て! さりげないボディタッチ!」

伊織「あんまり他人の恋愛をじろじろ見るもんじゃないわ」

春香「ご、ごめん……っていうか、恋愛関係なの? 二人は」

伊織「……さぁ?」

春香「あ、テキトーに言ったでしょ」

伊織「まぁ……」

215: 2013/06/23(日) 21:26:05.09 ID:mctNH5Ldo

律子「はーい、練習さいかーい!」


伊織「さてと、もうひと踏ん張り」

春香「持ってくれよオラの身体……!」

伊織「今何倍?」

春香「二倍くらい」

伊織「しょっぱいわね」

律子「そこ! 無駄話しなーい」

伊織・春香「「はーい」」







――――

216: 2013/06/23(日) 21:26:40.00 ID:mctNH5Ldo

カッチカッチカッチカッチ……


ガチャ

律子「あれ、まだいたんだ……」

P「……おそよう」

律子「ライブの前日なんだし、早めに帰ってゆっくり休んだらいいのに」

P「俺もそう思ったんだけどさ、なんか、落ち着かなくて……」

律子「最終確認?」

P「うん。そういう律子は何をしに?」

律子「私もあなたと一緒」

P「そっか」

律子「確認って言っても、昼間ほとんどやっちゃったよね」

P「そうだな……」

律子「…………帰る?」

P「来て早々?」

律子「散歩がてら。夜風に当たって……」

P「いいよ。じゃあ、ゆっくり帰ろう」

――――

217: 2013/06/23(日) 21:27:26.11 ID:mctNH5Ldo
P「もう梅雨入りしたんだっけ?」

律子「れ、どうだったかな。雨、最近降った……よね?」

P「うん。火曜日に」

律子「あー、そうだそうだ。ライブの前は忙しくって気にする余裕が……」

P「明日、雨降らなきゃいいけど」

律子「そうね。ま、降ったら降ったで、
  竜宮小町の名に合うステージになるだろうけど。ふふっ」

P「……初ステージか」

律子「お互い、初よね」

P「そっか。律子、プロデュースは初めてだったか。
  俺が来る前は、誰がプロデューサーを?」

律子「あなたが来る前は……」

P「……どうした?」

律子「いや……えと、ごめんね。
  あなたが来る前は八つ上のプロデューサーが居てね。その人が仕切ってた」

218: 2013/06/23(日) 21:28:18.15 ID:mctNH5Ldo
P「その人は……」

律子「あなたが来る少し前に765を辞めて、
  県外の事務所へ行っちゃった。引き抜き、かけられてね」

P「そうだったのか」

律子「懐かしいなぁ……」

P「…………寂しそうだな」

律子「えっ、そ、そうかな……」

P「……深くは聞かないでおく」

律子「うん。……そうしてもらえると有難いな」

P「本当は聞きたくてしょうがないけど」

律子「それ言っちゃあ、格好良いのが台無しよ」

P「俺は正直者だから……」

律子「いずれ、話したくなったら話すわ」

P「期待してる」

律子「期待できるような、面白い話ではないけどね」

P「…………」

219: 2013/06/23(日) 21:28:53.52 ID:mctNH5Ldo
律子「……よし。明日のライブ、頑張りましょう」

P「言われなくても分かってるよ」

律子「家帰ったらすぐ寝るのよ?」

P「はいはい」

律子「あ、でも寝る前に歯磨きしなさいね?」

P「分かってるって」

律子「……ちゃんと目覚ましセットしてね?」

P「……俺は小学生か」

律子「ふふ。じゃ、ここで……また明日!」

P「……じゃあな」








――――

220: 2013/06/23(日) 21:29:35.87 ID:mctNH5Ldo
――ライブ会場



雪歩「す、す、す、すごい沢山……人が」

真「落ち着いて、雪歩。しかし……うわぁ、本当すごいね」

春香「真は……き、緊張しないの……?」

真「どうだろう。してるけど……それより、
  早く、練習の成果を見てほしいっていう気持ちの方がおっきくて」

伊織「すごい心臓ね……」

春香「伊織は緊張してる?」

伊織「……してるわ。見てこの手汗」

春香「うわっ、すごっ……タオル持ってこよっか」

伊織「うん……ありがと」

221: 2013/06/23(日) 21:30:34.55 ID:mctNH5Ldo
亜美「いおりん、素直だねぇ~。前だったら意地でも
  『緊張なんかしてない!』って言ってたのにね~」

真美「ほんとほんと~」

春香「伊織。はい、タオル」

伊織「もー、うるさいわね……」ゴシゴシ

あずさ「でも、伊織ちゃん。心なしか前より落ち着いてるわね」

律子「そうですね。始めの頃はステージ上がる前からガチガチだったのに……」

伊織「そ、そう? まあ、私も成長したってことね」

222: 2013/06/23(日) 21:31:28.74 ID:mctNH5Ldo

――まもなく開演ですが、その前にいくつか諸注意を放送させていただきます。
  携帯電話の電源はお切りください。会場内でのお食事はご遠慮くださるよう……

P「……放送が入った。もうすぐだぞ」

律子「…………」ゴクリ


――……以上のマナーを守り、出演陣、ファンの皆様、共に最高のライブにしましょう。
  それでは、開演です!


P「よし、行け! 行ってこい!」


春香「はいっ!」

真「行こう美希!」

美希「うん!」


P「…………」ドキドキ

律子「アイドルより緊張してるわね」

P「そ、うだな……お前から見て、盛り上がりはどうだ?」

223: 2013/06/23(日) 21:32:23.96 ID:mctNH5Ldo
律子「……どうかな、ちょっと肩透かしを食らった感じ」

P「や、やっぱり」

律子「ストップ。落ち着いて。最初から全員で飛ばすのは、
  派手で盛り上がるだろうけど、後で余裕がなくなるかも……」

P「た、確かにそう言ったさ。俺がそうした。けど……」

律子「私は全面的に賛成したわ。感覚も掴めないまま、後でばてるよりよっぽど良いと思う」

P「……後は、もう」

律子「うん。見守ろう。何せ、ビギナーなんだから」

P「……ああ」






224: 2013/06/23(日) 21:33:01.06 ID:mctNH5Ldo

――これにて第一部を終了します。二十分間の休憩の後、第二部を開始致します。
  お手洗いは一階、二階にございます。物販はロビーにて……


春香「うあぁ~……つ、疲れた……」

律子「お疲れさま。休憩、少ししかないわよ!
  トイレ行きたい人は早めに! 二部のオープニング出る人はすぐに着替えて!」

P「飲み物、こっちに置いておいたから勝手に取って行ってくれ!」

真「はぁっ……はぁっ、了解です!」

亜美「真美の衣装こっちでしょ?」

真美「わわ、本当だ! 急げ急げ!」

やよい「すみません! トイレ行ってきます!」

律子「手空いてる人は他の人のこと手伝ってあげて!」

雪歩「わ、分かりました」

響「タオル、タオル無いかー!?」

美希「タオルなら……あっち、なの。はぁ、はぁ……」

225: 2013/06/23(日) 21:33:30.25 ID:mctNH5Ldo


  ブー

――間もなく、第二部を開始致します。
  携帯電話の電源をご確認ください……


伊織「嘘、もう? ……一息つく間もなかったわね」スック

律子「ようし、二部のオープニングは……」

あずさ「行きましょうか」

亜美「んっふっふ~。竜宮小町、お披露目だね!」

P「頑張れよ。MC、とちるなよ」

伊織「失敗なんかあるわけないわ。よく見ときなさい」

P「……ああ」

律子「…………」ドキドキ

P「落ち着けよ」

律子「わ、分かってる!」


――――

226: 2013/06/23(日) 21:35:40.76 ID:mctNH5Ldo
伊織「こんにちはーっ!」

あずさ「こんにちは~」

亜美「真美じゃないぜー! 亜美だぜー!」

伊織「ファンのみんな……聞いて驚きなさい!」

伊織「水瀬伊織、三浦あずさ、そして双海亜美の私達三人で……」

伊織「新ユニットを結成したわ!」

    オオオオオオ!


P「す、すごい盛り上がりだ……!」

律子「ようし、さすが伊織」

227: 2013/06/23(日) 21:36:51.91 ID:mctNH5Ldo

伊織「……静かにーっ!」

    シィーン


伊織「こほん。これから、ユニットの名前を発表するわ」

伊織「ユニットの名前は……」

亜美「言っちゃって、いおりん!」

伊織「その名も! 竜宮小町!」


    ウオオオオオオオオ!


伊織「今日は私達の初舞台! 聴いて! 曲は――」

228: 2013/06/23(日) 21:37:23.62 ID:mctNH5Ldo
――――

美希「SMORKY THRILL……」


P「…………美希。準備、済ませておけよ?」

美希「うん。……分かってる」

P「……飲み物は?」

美希「大丈夫。……ありがとう」

P「…………」







――――

229: 2013/06/23(日) 21:39:19.06 ID:mctNH5Ldo


     ワアアアアア!


伊織「ありがとう! ありがとう!
  これから、応援よろしくねー!」

あずさ「お願いします~!」

亜美「よろよろ~!」


  タッタッタッ……

律子「良かった! 三人ともすっごく良かったわ!」

あずさ「ありがとうございます! お客さんもすごく盛り上がってくれて……」

亜美「超楽しかったー!」

伊織「ふぅ……まぁ、私にかかればこんなもんよ。
  もちろん二人がいてこそだけど」

律子「ご苦労様、伊織。すごい汗ね……今、タオル持ってくる」

伊織「あ、ありがとう……」

230: 2013/06/23(日) 21:39:47.95 ID:mctNH5Ldo

P「……よし、竜宮小町の発表でかなり盛り上がってるみたいだ」

春香「その後で私達が出て、大丈夫ですかね……?」

真「大丈夫大丈夫! 自信持って行こう!」

春香「……うん、そうだよね! 私達、一生懸命練習してきたもん!」

P「ああ、その調子だ!」

美希「…………」

春香「……美希? どうしたの?」

美希「え……あ、いや……何でもないの」

真「ようし……行こう!」

美希「あっ、うん……」


   ワアアア……!

――――

231: 2013/06/23(日) 21:40:47.07 ID:mctNH5Ldo
律子「ようしよしよし、盛り上がってるなぁ」

P「…………」

律子「……どうしたの?」

P「美希、何か変だ」

律子「美希が? ……言われれば確かに、少しぎこちないかも」

P「…………」ソワソワ

律子「…………」


美希「――♪ ――――♪」


P「ターン忘れたなアイツ……」

律子「いや、それくらい大丈夫……のはず」


美希「――♪ ――……!」ガッ ドサ


P「あっ! ……美希っ!」

律子「ちょっと! ストップ!」ガシッ

P「り、律子」

232: 2013/06/23(日) 21:42:46.09 ID:mctNH5Ldo
律子「駄目よ、あなたが出てっちゃ」

P「……でも!」


美希「っ……! ……――♪」


P「美希っ! 良かった……! すぐに戻れた」

律子「……うん、さすが美希!」









春香「ありがとうございましたー!」

真「ありがとう!」

美希「……ありがとうなの!」


      ワァア……!

233: 2013/06/23(日) 21:43:16.17 ID:mctNH5Ldo














――以上でライブを終了致します。
  お荷物、お忘れ物が無いよう、十分にご確認の上ご退場をよろしくお願いします。
  グッズの販売は一回のロビーにて……








――――

234: 2013/06/23(日) 21:44:47.00 ID:mctNH5Ldo
ガチャ

P「……おはよう」

春香「あ、おはようございます!」

律子「ンフンフンフ……」ニヤニヤ

P「……律子、あいつなんかあったのか?」

春香「いやぁ、朝からあんな感じで……」

P「……よう、律子、機嫌良さそうだな」

律子「あっ、おはよー。昨日はよく休めた?」

P「おかげさまで。それ、収益?」

律子「そ、エクセルにてまとめを」

P「これは……すごいな」

律子「うん。もうにやけが止まらなくって」

P「なるほどね」

236: 2013/06/23(日) 21:47:05.98 ID:mctNH5Ldo


律子「予想以上だったわ。これを元手にさらなる前進を……」

P「竜宮小町のアピールもばっちりだったしな」

律子「新曲の発売とTVの出演と……もう、予定が詰まっちゃって」

P「俺も、負けないように頑張らないと」

律子「今日は事務仕事優先でお願いね」

P「あいよ」


真「おはようございまーす」ガチャ

伊織「おはよう」

P「や、おはよう。……美希、来ないな」

伊織「はぁ……あれで意外とナイーブなのよね、美希って」

P「…………」


――――

235: 2013/06/23(日) 21:45:23.34 ID:mctNH5Ldo

律子「よしっと……一段落ついた」

P「コピー用紙まだ補充しなくても大丈夫だよな?」

律子「うん。大丈夫。ありゃ、もうお昼か……どっか食べに行く?」

P「あ、俺、ちょっと用事あるから」

律子「ああ、そう……分かった」








――――

237: 2013/06/23(日) 21:48:23.62 ID:mctNH5Ldo

ピンポーン

P「…………」

ガチャ

美希「はーい……あっ、ぷ、プロデューサーさん」

P「やっほー。……時間、あるか?」

美希「…………」

P「大したことじゃないんだ。倒れてたりしたら困るってんで、様子見に来たんだよ。
  ついでだし、ちょっと話でもどうかと思って」

美希「……いいよ。上がってなの」

P「お邪魔します。お姉さんは?」

美希「学校……。プロデューサーはお仕事大丈夫なの?」

P「今は昼休みだ」

美希「そっか……」

238: 2013/06/23(日) 21:49:20.81 ID:mctNH5Ldo
P「今日何時くらいに起きた?」

美希「今さっき」

P「夜更かしでもしたか?」

美希「…………眠れなくて」

P「そう……」

美希「…………」

P「ライブ、すごい利益が出たって、律子が喜んでたよ」

美希「……へぇ」

P「また同じくらいの規模でライブをやるって計画立ててさ」

美希「…………そっか」

P「……そろそろ行くよ」

美希「分かった。……その、ありがとう」

P「じゃあな。また明日」

美希「……うん」


――――

239: 2013/06/23(日) 21:49:55.97 ID:mctNH5Ldo

P「む…………」カタカタ

律子「どう? 事務は終わりそう?」

P「ああ、そうだな。後もう一歩で」

律子「そっか……さすが仕事早いわね」

P「それを言うならお前もな」

律子「ふふっ。……今日終わるなら、明日休みにしようか」

P「昨日休んで、明日も? 大丈夫なのか?」

律子「休める暇があるうちに休み、取っておきましょうよ」

P「……そうだなぁ。確かに、じゃあ、頼むよ」

律子「みんなにも連絡しておくわ。明日は全面的にお休みにします、って」

P「はーい」







――――

240: 2013/06/23(日) 21:51:09.36 ID:mctNH5Ldo

P「……教則本のコーナーは、ここか」

P「どれどれ……」

P「えーと、これとこれと……」

P「よし、後はこれも買っておくか……」

P「……~♪」

ドン バラバラ


P「わっと……す、すみません、よそ見してました」

律子「あ、いえ、私も……あっ、プロデューサー」

P「……誰かと思えば、律子」

律子「何だか意外なところで会ったわね」

P「本当にな」ヒョイ

律子「……その本」


『よく分かるダンス基礎』『自宅でできるボイストレーニング』
『基礎体力』『ひきこもりの心理』『カラーコーディネート』

241: 2013/06/23(日) 21:52:13.78 ID:mctNH5Ldo
P「あ、ああ……すぐに全部読めるか不安だけど」

律子「……勉強熱心ね。あー、私もそういうの買ってこうかな……」

P「……律子は、何を探しに?」

律子「えっ……とね、その……」

P「あ、その作家……恋愛小説の有名な人だよな」

律子「う、うん……」

P「俺も好きだったな……新刊出たのか」

律子「へぇ、意外。恋愛小説読むんだ?」

P「色々、読むよ……今はあんまりだけど。学生の頃は」

律子「ふーん」

P「じゃ……」

律子「あ、待って。……この後予定ある?」

P「家に帰って買ったの読もうかと」

242: 2013/06/23(日) 21:52:39.97 ID:mctNH5Ldo
律子「そっか。お昼まだでしょ?」

P「まだだけど、本買ったらすかんぴんだし……」

律子「ね、あなたの家お邪魔しても良い? お昼、作ってあげよっか?」

P「あ、ああ、律子がそうしたいなら、良いよ。うん……」

律子「じゃ、その……レジ済んだら待ってるから」タタッ

P「……はーい」







――――

243: 2013/06/23(日) 21:53:11.65 ID:mctNH5Ldo


P「ふぅー、ご馳走様」

律子「ふふ……お粗末様でした」

P「律子って、意外と料理上手いんだな」

律子「あれ? 意外だった?」

P「……いや、意外でもないかな。予想通り上手かった」

律子「んふふ。でしょー?」カチャカチャ

P「おいおい、皿洗いくらい……」

律子「片付けるまでが料理なのよ」

P「……まぁ、そういうなら。じゃ、せめて手伝いを」

律子「要らないったら。せっかくの休みなんだからゆっくりしてて」

P「……では、お言葉に甘えて」

律子「うんうん。ごゆっくり」

P「何だか気が引けちゃうな」

律子「~♪~♪」ゴシゴシ

244: 2013/06/23(日) 21:54:35.92 ID:mctNH5Ldo
――――


P「…………」ペラ

律子「あら、もう夕方……? そろそろ帰ろうかな」

P「そうか。なら送ってくよ」パタン

律子「うん。ありがとう」


ガチャ バタン


P「もう、日が落ちても暖かいな」

律子「本当……」

P「……ゆっくり休めた?」

律子「うん。あなたの部屋、何だか居心地良くって……長居しちゃったね」

P「別に気にしなくていい。……明日からまた忙しくなるな」

245: 2013/06/23(日) 21:55:02.23 ID:mctNH5Ldo
律子「竜宮小町の新曲の発売、すぐだしね」

P「いつだっけ? 来週ってことは覚えてるんだけど」

律子「来週の水曜日」

P「そっか。きっと買いに行くよ」

律子「ふふ、ありがと」

P「……俺も負けないくらい頑張るからな」

律子「うん。分かってる」

P「…………」







――――

246: 2013/06/23(日) 21:56:18.26 ID:mctNH5Ldo
「春香、言ってた筋肉痛は治ったのか?」

春香「はい、一日休んだらすぐに!」

P「それは良かった」

真「……あの、プロデューサー。今日トレーナーさんに
  『リズムをちゃんと取れてない』って言われたんですけど……」

P「真はリズム感無い訳じゃないんだけどな。タメを意識すると良い、って本に……」

真「タメ? ウンタンウンタン、の『ウン』ですか?」

P「そうそう。音符より、休符を意識すると自然と上手くいく、らしい」

真「なるほど……ありがとうございます」

P「うん。……ところで、今日、律子は」

春香「今日、竜宮小町のデビューシングル発売でしたよね。
  あっちこっち回ってるんじゃないですか?」

P「あ、そうかそうか……今日だったな」

真「ボク、帰りにCD屋さん寄って、買おうと思ってるんですけど。
  ……売り切れませんよね?」

P「ど、どうだろう」

春香「私も買いたいんですけど……」

P「うーん。二人は午後いっぱいレッスンだよな?」

春香「はい」

247: 2013/06/23(日) 21:56:52.20 ID:mctNH5Ldo
P「俺、午後はトレーナーさんに任せて外回り行こうと思ってたんだけど、
  ついでに買ってこようか? 二人の分」

真「え、本当ですか!」

P「……実は俺、こっそり買おうかと思ってたんだ」コソ

春香「ふふふ、プロデューサーさん、不真面目なんだぁー」

P「言うなよ」

真「じゃ、お願いしても良いですか? お金、後で払うので……」

P「ああ、ライブお疲れさまってことで、良いよ。俺が買ってやるよ」

春香「い、良いんですか?」

P「ああ」

真「やーりぃ! プロデューサー、後で生活費が無くなった、
  なーんて泣きつかないでくださいね!」

P「馬鹿言え。じゃ、行ってくるよ」

春香「はーい。行ってらっしゃーい」

――――

248: 2013/06/23(日) 21:58:32.30 ID:mctNH5Ldo
P「えーと、竜宮小町はと……」

P「あったあった……凄い大々的なポップだな」

P「真、春香、俺……よし、と」

P「……レジ行く前に、他も見てくかな」スタスタ

P「お、このバンド、新曲出てたのか……知らなかった。
  アルバムも……どうしよ。もっとお金持ってくるべきだったな」

P「…………」

P「見れば見るほど惨めになるし、この辺でやめとこ……」スタスタ


美希「お! あったの。よかった~」

P「…………あれ、美希?」

249: 2013/06/23(日) 21:59:20.77 ID:mctNH5Ldo
美希「あ、プロデューサーさん」

P「買物か?」

美希「う、うん……」

P「何を買うんだ?」

美希「え……と、その。プロデューサーさんと同じの」

P「竜宮小町か……どれ、美希の分も買ってやるよ」ヒョイ

美希「あっ、い、いいの?」

P「ああ、ライブで、美希は頑張ったから」

美希「……ミキ、頑張った? 肝心なところでドジして……
  会場のテンション下げちゃったのに」

P「それはそれだよ。失敗した後だって頑張ったじゃないか」

美希「…………」

P「あんまり、結果にこだわるなよ」

美希「でも……」

250: 2013/06/23(日) 21:59:55.42 ID:mctNH5Ldo

――アリガトウゴザイマシタ


P「ほら、美希」

美希「……ありがとう」

P「明日から練習来れるか?」

美希「……う、うん」

P「なら良い。……じゃあな。また明日」

美希「ん……また明日」









――――

251: 2013/06/23(日) 22:00:52.73 ID:mctNH5Ldo

ガチャ

P「…………おはよー」

伊織「あら、おはよう」

P「……早いな、伊織」

伊織「今日は県外のラジオ局に出かけなきゃならないからね」

P「ああ、そうだったな。もう全国区だものな」

伊織「ま、当然と言えば当然ね……」


ガチャ

美希「おはようございます……なの」ゴシゴシ

伊織「うぇっ!? 美希……こんな時間にくるなんて、もしかして、幽霊?」

美希「違うの……たまたま目が覚めて。
  それで、二度寝したら多分二度と起きないから……」

P「なるほど。えらい」

伊織「た、確かにえらいわ」

252: 2013/06/23(日) 22:01:36.98 ID:mctNH5Ldo
美希「……ちょっと。眠気覚ましにレッスンルームで体動かしてくる……」フラフラ

P「行ってらっしゃい……」

ガチャ バタン

伊織「……珍しいこともあるもんだわ」

P「いや、本当に……」

伊織「私、準備してくる。プロデューサーが送り迎えするんだったわよね?」

P「ああ、そうそう」

伊織「じゃあ、十時には車出せるようにしておいてね」

P「はーい……」


P「十時か……まだ時間あるな」


――――

253: 2013/06/23(日) 22:02:10.30 ID:mctNH5Ldo


P「…………」スタスタ

P「…………」ガチャ

  ~♪ ~♪

美希「はっ……! っ……!」タタッスタッ


P「…………SMORKY THRILL」

美希「ふっ……あっ……」ピタ

P「……目、覚めたか?」

美希「…………」スタスタ


 ~♪ プツ……


美希「……うん。それなり」

P「本当に……竜宮小町、好きなんだな」

美希「…………好きなのかな。よく分かんない」

254: 2013/06/23(日) 22:02:46.46 ID:mctNH5Ldo
P「…………」

美希「ミキ、駄目だよねこんなんじゃ。しなきゃいけないことほったらかして、
  しなくていいことに一生懸命になって……」

P「そんなことない。……今、踊ってて楽しかったろ?」

美希「……うん」

P「それはそれ、これはこれ」

美希「ふふ、プロデューサーさん、それ好きだね」

P「ああ、大好きだ」

美希「……ね。ミキ、もう一回最初から踊るから見てて」カチッ

P「……ああ」

 ~♪ ~♪








――――

255: 2013/06/23(日) 22:03:20.85 ID:mctNH5Ldo

ブロロロロー


伊織「ふぅん、美希がねぇ……」

P「ああ、すごく上手かった。PV公開してまだ日も浅いのに」

伊織「…………」

P「違う目標、見つけてくれるといいんだけどな」

伊織「はぁ……もう」

P「何だよ」

伊織「今の美希、ちょっと前のあんたそっくり」

P「……そうかな」

伊織「そうよ」

P「でも、ちょっとずついい方向に向かってる気はする」

伊織「……まあ、同感」

P「だろ?」

256: 2013/06/23(日) 22:04:17.20 ID:mctNH5Ldo
伊織「はぁ…………退屈ね」

P「ラジオ点けるか?」

伊織「……そういう気分じゃない。ね、音楽かけていい?」

P「ああ、いいよ。そっちの棚に……」

伊織「こっち?」パカッ

P「あっ、そっちじゃなくて……!」

伊織「わぁお。……あんた律子のファンだったの?」

P「くぁあ~……」ガックリ

伊織「何よ、そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃない」

P「…………はぁ~」

伊織「すごいわね、これ……ほとんど初回限定だわ。
  廃盤になってるやつもあるし……」

P「……みんなには、特に律子には内緒にしといてくれ」

伊織「あら、どうして?」

P「どうしてって……」

257: 2013/06/23(日) 22:05:05.92 ID:mctNH5Ldo
伊織「ま、言わないでおくけど……」

P「あーあ……」

伊織「ね、学生の時、律子と同級生だったんでしょ?」

P「前も言ったじゃないか。そうだよ」

伊織「あの時はあんた、何もないって言ってたけど、実のところどうなの?
  本当に何もなかったの?」

P「…………」

伊織「内緒にするから~、お願い」

P「…………表面的には何もなかったよ」

伊織「……ふーん。表面的ってことは」

P「俺、律子のことずっと好きだったんだ」

伊織「今は?」

P「…………今だって好きだよ」

伊織「きゃぁ~!」

P「止めろ!」

258: 2013/06/23(日) 22:06:11.44 ID:mctNH5Ldo
伊織「くくく、ごめんごめん。学生の時の話、もっと聞かせて?」

P「……高校一年と三年の時、クラスが一緒だった。
  一年の時から好きだったよ。何て言うか、しっかり者でさ。誰が相手でも媚びたりしないし……」

伊織「ふーん」

P「そういうところ、ずっと好きなんだなぁ。
  三年に上がってからか、律子がアイドルになって……」

伊織「うん」

P「あの堅物がテレビで踊って、CDまで出して……
  俺、全部見たよ。CDは出るたび買ったし、イベントも……」

伊織「単純なのね」

P「……クラスはすごい騒ぎだったね。みんな、アイドルの律子に夢中だった」

伊織「へぇ……」

P「それまで律子に見向きもしなかったような奴まで、
  律子に気に入られようって必死だった」

伊織「あんたは?」

259: 2013/06/23(日) 22:07:24.76 ID:mctNH5Ldo
P「……俺は、気に入られようっていう下らない大多数の中で、
  あえて気に入られないように努めた」

伊織「…………」

P「そうすれば、多少興味を惹けるかなって。
  ……今思えば下らないよな。俺も」

伊織「本当ね」

P「まぁ、その目論見は半分成功して、半分は失敗した。
  結局俺は律子に何も伝えられないまま学校卒業して」

伊織「目に浮かぶわ」

P「それで……大学行ったはいいけどさ。何もしなくて」

伊織「だめ人間の見本ね」

P「中退した後あっちこっちでバイトしてさ。本当に何も残らない生活だな。
  そんな中、律子がアイドル辞めちゃったって……さ」

伊織「どんな気持ちだった?」

P「どうだったかな。あんまりショックじゃなかったけど……」

伊織「…………」

260: 2013/06/23(日) 22:08:09.25 ID:mctNH5Ldo
P「……で、まぁ、色々あって今に至る」

伊織「色々と端折りすぎ。でも、まぁ、面白かったわ」

P「ははは。Pくん純情物語、完」

伊織「まだ終わってないんでしょう?」

P「……そうだな。終わってない」

伊織「しっかりしてよね。傷つかないようにするだけだったら、
  誰にだってできるんだから」

P「身に染みて分かってる。……さ、着いたぞ」

キッ ガチャ

伊織「じゃあ、また後でお願いね。プロデューサー」

P「頑張ってこいよ」

伊織「言われなくても分かってるわ」







――――

261: 2013/06/23(日) 22:09:12.27 ID:mctNH5Ldo

小鳥「コーヒーです。どうぞ……」コト

P「……あ、ありがとうございます」ズズ

小鳥「……いやぁ、静かですね」

P「珍しく仕事入ってますからね」

小鳥「以前なら確かに珍しいですけど、今や全然じゃないですか?
  ほら、今週ぎちぎちですよ」

P「あー、本当だ。随分成長したんだなぁ」

小鳥「ですねぇ……」


 サァア……

P「…………」

小鳥「……風が気持ちいい。もう、初夏ですね」

P「あれ、美希って今日……」

小鳥「あ、美希ちゃんはレッスンも無いんですよね」

P「あー、羨ましいなぁ」

小鳥「でも、学生ですから、学校がありますよ」

P「あ、そっか……」

小鳥「うふふ……」

262: 2013/06/23(日) 22:10:21.86 ID:mctNH5Ldo

RRRRRRRR


小鳥「あら、すみません……はい、765プロです」ガチャ

小鳥「あら、律子さん。はい、はい……ええっ!」

小鳥「はい、はい……今代わります。プロデューサーさん!」

P「あ、はい……もしもし、律子」


律子『も、もしもし……あの、スケジュール表、
  テレビ出演と伊織が一人でやる撮影、どうなってる?』

P「スケジュール表…………別々の日になってるけど」

律子『あー、きっと書き間違えたんだ……! 今日、被っちゃったみたいで』

P「ダブルか……優先順位は?」

律子『出来れば撮影。結構無理言って頼んだから……でも、
  テレビは伊織が欠けたんじゃ……』

P「出演って、主に何をするんだ?」

律子『歌番組。少しだけトークして、歌って踊る……だけど、伊織以外には……』

263: 2013/06/23(日) 22:11:22.60 ID:mctNH5Ldo
P「……よし、伊織は撮影に行かせろ。一人、伊織の代わりをこなせるやつがいる」

律子『う、嘘? 本当? 信じて大丈夫?』

P「……三時からであってるな?」

律子『う、うん……場所は――だから。
  私、伊織を送る……二人はもうスタジオ着いてるから』

P「分かった」ガチャッ


P「……音無さん。留守番お願いします」

小鳥「は、はい……行ってらっしゃい」


ガチャ バタン


P「…………」カコカコ

P「頼む、出ろ……出ろ……」

264: 2013/06/23(日) 22:12:56.16 ID:mctNH5Ldo

美希『……もしもし、プロデューサーさん?』


P「もしもし、美希か。今どこに?」

美希『どこって……学校だけど』

P「……落ち着いて聞いてほしい。竜宮小町でダブルブッキングした。
  それで、伊織の代わりにテレビ出演、お願いできないか」

美希『えぇ! そんな……急に言われても』

P「トークはそこそこに歌って踊ってそれで終わり……、
  頼む、美希しかいないんだ」

美希『…………』

P「俺に見せたろ。SMORKY THRILLを。同じようにカメラの前で躍るだけだ」

265: 2013/06/23(日) 22:13:55.70 ID:mctNH5Ldo
美希『…………』

P「頼む……」

美希『……分かった。ミキ、やる。
  先生に言って早引けさせてもらうね。どこで待ってたらいい?』

P「美希の学校って××の近くだったよな? そこで待っててもらえるか?」

美希『分かった』

P「……ありがとう、美希」


プツッ ツー ツー……



――――

266: 2013/06/23(日) 22:14:26.82 ID:mctNH5Ldo

亜美「も、もうすぐ始まっちゃうよ」

あずさ「プロデューサーさんなら大丈夫……すぐに来るわ」

亜美「で、でも……いおりんの代わりって誰が……」


P「すまん! 遅くなった!」

美希「伊織の代打なの!」


亜美「に、兄ちゃーん!」

あずさ「プロデューサーさん……美希ちゃん……!」

P「すみません。到着が遅れて……美希、すぐ着替えろ」

美希「了解なの!」タタタ

267: 2013/06/23(日) 22:15:32.31 ID:mctNH5Ldo

あずさ「プロデューサーさん、その……美希ちゃんは」

P「大丈夫です。ともすれば、伊織よりできるはずですから」

亜美「でもでも、ミキミキとは一度も合わせてないよ……?」

美希「はぁっ……! 準備完了なの!」タタッ

P「うお、さすが早いな」

あずさ「ほ、本番前に打ち合わせだけでも……」

「間もなく撮影開始しますので、スタンバイの方お願いします!」

美希「あーらら、本当にぶっつけなの」

P「ともかく、上手いことやってくれ……」

美希「おっけーなの」

亜美「…………」ドキドキ



――――

268: 2013/06/23(日) 22:16:25.88 ID:mctNH5Ldo
「はい、じゃあもう一枚」カシャ

伊織「…………」

「うん、オッケー! 少し休憩にしようか」

伊織「ありがとうございました!」ペコ

律子「…………」ソワソワ

伊織「律子……本当に大丈夫なのよね?」

律子「だ、大丈夫なはず……」

伊織「……生放送よね? 控室にテレビあったから、ちょっと見てみましょうよ」

律子「そ、そうね……」

269: 2013/06/23(日) 22:17:48.41 ID:mctNH5Ldo


律子「…………」ドキドキ

伊織「……ん、このチャンネルね」ピッピッ


『今、話題の新生ユニット! 竜宮小町の三人です!』

『こ、こんにちは~』

『こんちはー!』

『こんにちは! ミキなの!』

『おや……竜宮小町のメンバーは水瀬伊織、三浦あずさ、
  双海亜美の三人と聞いていましたが……』

『あのね、実は伊織がスケジュール詰まっちゃって来れなくなっちゃって……
  だから、今日はミキが代わりに来たの』

『そうだったんですか……さすがに人気を窺わせますね』

『実はこれくらい忙しくなったのって初めてなの……ミスしちゃってごめんね!
  でこ……じゃなかった伊織ファンのみんな。今日はミキで我慢してね!』

  ドッ ハハハハハ……

270: 2013/06/23(日) 22:18:29.74 ID:mctNH5Ldo

律子「上手くやってるわね……」

伊織「そ、そうかしら?」

律子「…………さ、問題の新曲披露だけど」ゴクリ

伊織「…………」ゴクリ


コンコン


「すみませーん。そろそろ再開を……」

律子「わっ、は、はい……!」

伊織「もう! 一番見たいところだったのに」タタタ








――――

271: 2013/06/23(日) 22:19:08.48 ID:mctNH5Ldo

P「うん……うん……分かった。じゃあ、俺は美希送れば……うん、じゃあ」ピッ

美希「ねぇねぇ、律子、何て言ってた?」

P「肝心の個所は観れなかったけど、トークはすごく良かったって……ベタ褒めだったよ」

美希「うわ~……! やったぁ!」

P「はは……じゃ、帰ろう」ガチャ

美希「うん!」バタン


ブロロロロー


P「俺、本当、大成功だったと思う。一度も合わせてないのに、ノーミスだったし」

美希「でも、伊織じゃなくてがっかりした人、いるよね。やっぱり」

P「そりゃ、いるだろうな。けど、美希のキャラクターをアピールできたし、
  悪いことばっかりじゃないよ」

美希「それはそれ?」

P「これはこれ」

美希「あはっ、そうだよね。ミキ……今日、本当楽しかったなぁ」

272: 2013/06/23(日) 22:20:46.80 ID:mctNH5Ldo
P「……俺からも言ってみようか。美希を竜宮小町に……」

美希「……ううん。いい」

P「え……?」

美希「今日、あずさと亜美と一緒にやって分かったの。
  楽しかったけど……ミキ、少し違うかなって」

P「…………」

美希「ミキね。竜宮小町じゃない、もっと違うことに挑戦したい」

P「……それでいい」

美希「プロデューサーさん! ミキ、もう一回頑張る!」

P「ああ……分かった」

美希「……ちゃんと約束守ってくれたね」

273: 2013/06/23(日) 22:21:26.99 ID:mctNH5Ldo
P「……そうかな。美希がやる気になったのは」

美希「プロデューサーさんがミキを連れ出して、ミキを信じてくれて……」

P「大袈裟だよ。ともかくさ……」スッ

美希「…………」

P「また、改めてよろしく」

美希「……うん!」ギュッ








――――

274: 2013/06/23(日) 22:21:53.91 ID:mctNH5Ldo
美希「――――のここって、一人ずつの方が良いと思うな!」

真「そう? みんなで一緒の方が……」

千早「私は星井さんの意見に賛成」

美希「さすが千早さん!」


律子「……最近美希、頑張ってるわね」

P「本当にな。また大きなライブを企画してるっていうのが、
  良い刺激になったんじゃないかな」

律子「刺激ねぇ……どう? 企画は」

P「それなりだよ。ただ、新曲と旧曲のバランスが難しくってさ」

律子「うーん……そうだ。一回、みんなで選曲会議とかしてみよっか?」

275: 2013/06/23(日) 22:22:39.68 ID:mctNH5Ldo
亜美「何何ー? 曲の会議ですとー?」

美希「律子さんっ! ミキ、マリオネットの心は絶対やりたいの! ソロで!」

真「えぇー、美希だけソロの時間貰えるってズルくない?」

千早「ソロだったら私も……」

春香「わ、私は遠慮しとこうかな、えへへ……」


律子「……はぁ、どうする?」

P「一人一人、まず要望を聞いていって、
  それから、バランスとか色々考えて行こう」

律子「はーい。じゃあ、後でメモ翌用紙でも配るから、したい曲を考えておいてね。
  まぁ、全部出来るかは分からないから、期待しすぎないように!」


   ハーイ








――――

276: 2013/06/23(日) 22:23:25.53 ID:mctNH5Ldo

春香「あー、あー、あっあー」


「どうですかー?」


春香「は、はい! 大丈夫です!」




律子「……で、ここでライトの色を変えて……」

「はい、分かりました」



P「みんな、どうだ? 前の会場より、ちょっと大きいくらいだけど」

真「いやぁ、もう、今からわくわくしてきます!」

響「床の感じがちょっと違うから、少し、慣れておかないと……」キュッ

美希「ステージ、高くて見晴らしがいいの!」

277: 2013/06/23(日) 22:23:53.66 ID:mctNH5Ldo

律子「……後どれくらい時間あります?」

「三十分は余裕ですよ」

律子「ありがとうございます。じゃあ、軽く合わせて今日は……」








――――

278: 2013/06/23(日) 22:24:34.72 ID:mctNH5Ldo

律子「ふぅー、疲れた……」

P「お疲れ。今回はリハーサルできてよかったよな」

律子「ああ、お疲れさま。本当ね。前は何だかんだで駆け足だったから、
  そんな時間も殆ど取れなかったけど……」

P「……後、二週間か。みんなのやる気も最高潮だし、
  良い状態で望めるな」

律子「うん。私もそう思う」

P「……ところで、明日、明後日はみんなオフだっけ?」

律子「ああ、そうそう。最近、ちょっと忙しかったから。
  ……ライブも近いけど、息抜きしてほしくって」

P「なるほど。土日くらい、ゆっくり休みたいものな……」

律子「そうそう……根詰め過ぎてもね」

P「まったく同意見だ」







――――

279: 2013/06/23(日) 22:27:02.44 ID:mctNH5Ldo

P「くぁ……」

『――スーパームーンとは月が地球に最も接近する時と
   満月が重なる現象で明日の夜に……』


P「……スーパームーンね」

P「…………」

P「…………」カコカコ


P「…………もしもし、律子」

P「……明日さ、暇あるか?」

P「ああ、いや、どこへ行こうってんじゃないんだ」

P「俺……? ああ、いいけど。分かった。うん」

P「いいのか? うん。じゃあ、場所とか……そうだな」








――――

280: 2013/06/23(日) 22:29:24.50 ID:mctNH5Ldo
ピンポーン

ガチャ


律子「おっ、来た来た。どうぞー」

P「ん、おじゃましまーす」

P「……電話で話は聞いてたけど、本当にすごい量だな」

律子「ねー。実家から大量に送ってきてさ……
  成人したてだってのに何考えてんだか」ブツブツ

P「つまみ、買ってきたよ」

律子「お! さすが気が利くわね! ナイス!」

P「……けど、俺、まだ未成年だから飲めないよ?」

律子「へ? あれ、誕生日……
  あ、そうだそうだ……まだだったわあなた……」ガックシ

P「悪いけど、飲んでるところを見るだけだな」

281: 2013/06/23(日) 22:32:37.83 ID:mctNH5Ldo
律子「あー……もう、何で先に言わないのよ。
  言ってくれたら他にも用意したのに……」ブツブツ

P「まぁまぁ……。そうだ、律子が酔う前に。これ」スッ

律子「えっ……と、これは?」

P「開けて」

律子「…………」カコッ

P「どうかな……ネックレス」

律子「どうって……綺麗、すごく……」

P「良かった」

律子「……どれどれ、ふふ、似合う?」チャラ

P「似合ってる。……月より綺麗だ」

律子「ど、どこでそんな台詞を覚えるのかしら……もう」

P「顔真っ赤」

律子「うるさいっ! あなただって顔真っ赤のくせして……
  飲む! 今日は徹底的に飲むわ!」カシュッ

282: 2013/06/23(日) 22:33:40.17 ID:mctNH5Ldo
P「はは……改めて、誕生日おめでとう。律子」

律子「んく……んく……ぷはぁ。ありがと。素直に嬉しい」

P「…………何か音楽、かけていいかな」

律子「良いわよ。そっちの棚にあるから……テキトーに」グビグビ

P「あっ、これ……律子、買ったのか」

律子「ああ、懐かしい。前にふと聴きたくなってつい」

P「…………」カパッ カチャ


    ~♪ ~♪

283: 2013/06/23(日) 22:34:21.84 ID:mctNH5Ldo
律子「…………ね、隣、座ってよ」

P「…………」スッ

律子「……目を閉じてすぐ、浮かび上がるのって誰?」

P「律子」

律子「嘘だぁ」

P「本当だよ」

284: 2013/06/23(日) 22:35:29.32 ID:mctNH5Ldo
律子「……んくっ、ぷは……最近さー、あの子たち見て、私も、
  もう少しアイドル続けてればなーって思うの」グイ

P「…………」

律子「あなたが来る前のプロデューサー、私の担当だった」

P「そうなのか」

律子「凄い人だったのよ? 実力やルックスじゃ劣ってた私を、
  あの手この手で売り出して……」

律子「私ね、私……続けるつもりだったんだ、アイドル」

P「…………」

律子「……ようやく、私が実力とちょっぴりの自信を手に入れた頃、
  異動しちゃって……」

P「ああ、前に言ってたな……」

律子「…………」

P「後悔してるのか? そこで、諦めたことを」

律子「……後悔はないつもりだったんだけど、
  諦めたつもりじゃなかったんだけど」グビ

285: 2013/06/23(日) 22:36:16.86 ID:mctNH5Ldo
P「…………一本貰うぞ」カシュ

律子「……未成年だから、飲まないんじゃないの?」

P「…………」グビ

律子「…………」

P「ふぅー……」

律子「肩、頭乗せて良い……?」

P「……どうぞ」

律子「はぁー……」

P「…………」ゴクゴク

律子「月が綺麗ね」

P「本当にな」

286: 2013/06/23(日) 22:37:28.57 ID:mctNH5Ldo
律子「…………」

P「…………律子」スッ

律子「な、何……」


チュッ


律子「ん……」

P「…………」ギュッ

律子「……もうちょっとムードってものが」

P「あっただろ、ムード」

律子「…………眠いわ」

P「寝てもいい」

律子「…………うん。ありがとう」ギュウ



律子と同級生 終わり

287: 2013/06/23(日) 22:38:32.61 ID:mctNH5Ldo
柔かな心を持った はじめて君と出会った
少しだけで変わると思っていた 夢のような唇を
すり抜けるくすぐったい言葉のたとえ全てがウソであっても
それでいいと 憧れだけ引きずって でたらめに道歩いた
君の名前探し求めていた たどり着いて 分かち合う物は
何も無いけど恋のよろこびにあふれてる
偽りの海に身体委ねて恋のよろこびにあふれてる
今から箱の外へ二人は箱の外へ未来と別の世界
見つけた そんな気がした

290: 2013/06/23(日) 22:41:31.85 ID:mctNH5Ldo
これにて完結です。
お付き合いいただき本当にありがとうございました。
反省したい点など沢山ありすぎて、挙げると切りがないので書きません。

無事完結までできたのは、みなさんが読んでいてくれたからです。
本当にありがとうございました。

293: 2013/06/24(月) 00:14:37.28 ID:b1isl3l2o

結婚式前夜とかも見てみたい

294: 2013/06/24(月) 10:30:42.11 ID:iwLJ1Gsgo
すげー面白かった、いいもん読んだ

引用元: P「律子と同級生」 律子「いえーい」