1: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:24:19.70 ID:bUEcKGDH0
>グループホーム"ふぁんた爺"


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・介護記録
勇者 様

9:30 起床後、光の装備一式に更衣されていたので、声かけにてトレーナーに着替えて頂く

12:00 魔王を倒しに行くと言われるが、昼食の為席について頂く

14:50 再度魔王を倒しに行くと言われ、おやつの為席について頂く

15:30 風船バレーの風船が魔物に見えたらしく、風船を一刀両断されご満悦の様子

16:30 入浴。「今日は一杯戦ったから血と汗を流さないとね」と笑顔見られる

18:00 明日の旅支度をされてから入床

18:30 巡回。入眠確認
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ヘルパー「勇者さんの様子いつもと変わりなし、と」

勇者(76)「すやすや」

ヘルパー「勇者さん、入所したばかりでまだ落ち着かないけど、その内馴染んでくれるといいなぁ」

2: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:24:41.29 ID:bUEcKGDH0
>翌日


ヘルパー「あら勇者さん、どこに行くのかな~?」

勇者「ちょっと装備品を揃えに行くの」

ヘルパー「あら~。この街の武器屋さんは、お菓子屋さんになっちゃったんだよ~」

勇者「そうなのかぁ」

ヘルパー「そうだ。買い物なら、皆の分のおやつ買いに一緒に行こうか!」

勇者「それもいいねぇ」


3: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:25:22.22 ID:bUEcKGDH0
>翌日


ヘルパー「あら勇者さん、お出かけ?」

勇者「街の人たちから情報を集めようかと思ってね」

ヘルパー「それはねー、勇者さんの特技の"思い出す"を使うといいよ!」

勇者「えーと…『魔王は闇の力を使うから、光の装備を揃えるといい』『北の神殿には魔王軍の幹部がいるそうだよ』『天界のオーブを揃えるのだ』」

ヘルパー「わぁ凄い、勇者さん記憶力とってもいいねー!」

勇者「ところで、あんた誰だっけ?」

ヘルパー「私はモブの介護ヘルパーだよー! さぁ、お風呂入ろうか!」

勇者「いいねぇ風呂」ニコニコ


4: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:25:49.66 ID:bUEcKGDH0
>翌日


ヘルパー「あれ勇者さん、どこか行くの?」

勇者「仲間を探しに行くの」

ヘルパー「ここにいる皆も仲間だよ~。皆で折り紙折ろうよ!」

勇者「わし、こういうの得意でなくてねぇ」

ヘルパー「じゃあ一緒に折ろうか~。はい、こうやって折って~」

勇者「うーん、難しいねぇ」

ヘルパー「そうだね。でも一緒に苦難を乗り越えてこそ、本当の仲間だよね!」

勇者「よし頑張る」

ヘルパー「その意気だよ勇者さん!」


5: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:26:17.83 ID:bUEcKGDH0
>翌日


勇者「えぇーと」キョロキョロ

ヘルパー「勇者さーん!」タタタッ

勇者「あ、あんたか。迎えに来てくれたの?」

ヘルパー「ごめんねぇ、バタバタしてて外に行ってたの気付けなくて。怪我とかない?」

勇者「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

ヘルパー「勇者さん、迷子になってたの~?」

勇者「魔王を倒しに行こうとして、道がわからなくなってねぇ」

ヘルパー「そうなんだ~。あのね、魔王は60年前に倒したよ!」

勇者「……そうだっけ?」

ヘルパー「そう! 勇者さんが倒したんだよー!」

勇者「…あぁー!」


7: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:26:40.64 ID:bUEcKGDH0
勇者「そういえば魔王を倒した後、わし結婚したんだったね」

ヘルパー「そうそう。仲間の賢者さんとね!」

勇者「それで2人の子供に恵まれて…」

ヘルパー「よく会いに来てくれるし、親孝行なお子さんだよね~」

勇者「で、小説家と音楽家と画家の孫がいて……」

ヘルパー「凄いよね~、皆、芸術家だよ!」

勇者「すっかり忘れてたよ」

ヘルパー「うんうん良かったねぇ、思い出せて」

勇者「……はぁ」

ヘルパー「?」


8: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:27:10.22 ID:bUEcKGDH0
>翌日


勇者「……」

ヘルパー「あら勇者さん、今日はお出かけしないんだ」

勇者「うん、もう魔王は倒したからね」

ヘルパー「あら」

ヘルパー(入所して1ヶ月くらいになるし…。勇者さん、施設に馴染んできたのかな?)

勇者「……」ボー

ヘルパー「勇者さん? 皆と一緒にお歌歌わない?」

勇者「そういうの得意でなくてねぇ。わしは聞いてるよ」

ヘルパー「うんうん、それじゃホールの方に行こうか!」

勇者「……はぁ」

ヘルパー「……」


9: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:27:37.26 ID:bUEcKGDH0
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・介護記録
勇者 様

7:00 巡回時臥床中。開眼しているものの離床されず

8:00 トレーナーに更衣された後、朝食

12:00 お部屋で過ごしていたところをお呼びし、昼食

14:00 レクにお誘いするも気乗りしないようで、お断りされる

15:00 ティータイム。話を振るも会話に参加されず、食べ終わるとすぐに自室へ戻られる

16:30 「全然汗かいてないから」と入浴をお断りされる

17:00 「お腹すいてないの」と夕食を半分残される

18:00 入眠確認
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ヘルパー「うーん。勇者さん、外出願望と共に元気が無くなったなぁ」

ヘルパー「老人性のうつかなぁ? 病院行って診てもらった方がいいかも」


10: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:28:04.76 ID:bUEcKGDH0
>翌日


勇者「わしは病気じゃないよ」

ヘルパー「それを証明する為に、行ってみない? ちょっと先生とお話しするだけだから、ね?」

勇者「わしがそういう病院に行ったら、変な噂がたつじゃない」

ヘルパー「そんなことないよ~」

勇者「…わしはもう、噂にもならないんだね」

ヘルパー「え?」

勇者「魔王を倒したから、あとは忘れられていくだけなんだ」

ヘルパー「……勇者さん、ちょっとお出かけしない?」

勇者「病院?」

ヘルパー「ううん、病院は行かない。街をぶらぶらしようよ、ね?」

勇者「うん、それならいいよ」


11: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:28:35.56 ID:bUEcKGDH0
勇者「町並みもすっかり変わったねぇ」

ヘルパー「昔はどうだったの~?」

勇者「武装してる人が沢山いて、冒険者向けの店が立ち並んでいてね」

ヘルパー「へぇ~。私の世代だと、絵画とかで見たことある光景だわ~」

勇者「その頃は、皆武装していたもんだよ」

ヘルパー「時代が時代だからねぇ。勇者さんの世代は強い人が多いよね~」

勇者「その頃、芸術家というものは軽んじられていたんだけど…時代は変わったもんだねぇ」

ヘルパー「そうだね~。今お孫さん達、大活躍だもんね!」

勇者「もう、戦いを生業としている人は、ほとんどいないんだねぇ」

ヘルパー「平和だからね~」


12: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:29:01.46 ID:bUEcKGDH0
ヘルパー「勇者さんにとっては、魔王討伐の旅をしていた頃が1番輝かしい時代だったんだね」

勇者「わかるの?」

ヘルパー(1番戻りたいって思う年齢に戻るのも、認知症の症状だからね)

勇者「人々が魔王に恐怖していた時代が懐かしいなんて、勇者失格だねぇ」

ヘルパー「そんなことないよ。勇者さんが輝いていた時代だもん」

勇者「その輝いている時代が過ぎて、もう"勇者"の価値はなくなったねぇ」

ヘルパー「……」

勇者「子育てが終わって、おっ母も見送って…余生が長いなぁ」

ヘルパー「ねぇ勇者さん、街を歩いていて気付かない?」

勇者「ん」

ヘルパー「勇者さんが存在している価値は、この街の光景にこそあるんだよ」

勇者「え?」


13: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:29:36.57 ID:bUEcKGDH0
ヘルパー「勇者さんが魔王を倒したから、人々は武装をといてお洒落を楽しめるようになった」

ヘルパー「勇者さんが平和をくれたから、冒険者向けのお店じゃなくて、皆が楽しめるお店が街に並ぶようになった」

勇者「……」

ヘルパー「街の光景だけじゃないよ。勇者さんが魔王を倒さなかったら、お孫さん達は夢を叶えられなかったじゃない?」

勇者「……」コクン

ヘルパー「ほらね、勇者さんは私達の世代に"今この時"をくれた。魔王を倒したらそれで終わり、じゃないよ」

勇者「終わりじゃない……?」

ヘルパー「まだまだ『余生』には早すぎるよ。勇者さんが勝ち取った"今この時"を生きていかないと、もったいないよ」

勇者「今、この時……」


14: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:30:04.03 ID:bUEcKGDH0
>その後


勇者「できたよ~」ニコニコ

ヘルパー「あら勇者さん! 鶴、綺麗に折れたね~」


あれから、勇者さんは沢山笑顔を見せてくれるようになった。


勇者「ちょっと魔王倒しに行ってくる」


それでも、勇者さんが1番輝かしかった時代に戻ることは度々あるけれど。


ヘルパー「じゃあ、私もパーティーに入れて。一緒に行こうか~」

勇者「うん」ニコニコ


そういう時はこうやって、一緒に街を歩くのだ。


勇者「…あぁ、この街は平和だねぇ」

ヘルパー「うんうん。平和って素晴らしいね~」

勇者「そうだねぇ」ニコ


自分がもたらした平和だと知ってか知らずか、勇者さんは街の光景を見ると穏やかになるのだ。

そして私達も忘れてはいけない。この平和をくれた勇者さんに対する感謝の心を。


ヘルパー「さて帰ろう勇者さん。皆が勇者さんを待ってるよ」

勇者「うん、帰ろうか」



終わり


15: ◆WnJdwN8j0. 2016/05/09(月) 20:30:54.53 ID:bUEcKGDH0
勇者の老後ってこんな感じでしょうかね。

実際の介護現場は、外出願望に余裕のある対応ができない所がほとんどだと思いますね。
現場環境の改善は難しいでしょうが、せめて自分が要介護者になった時、ヘルパーさんに迷惑をかけないようにしたいものです。


関連作品をご紹介致します。

介護ヘルパー「魔王討伐に来ました」

介護ヘルパー「よくぞ来たな、勇者よ!!」

女騎士「くっ、殺せ!」介護ヘルパー「お風呂だよ、お風呂!」

魔王「世界の半分をやろう!」介護ヘルパー「受け取れませんねぇ」


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/05/09(月) 22:09:56.59 ID:r0UTde/4o

引用元: 勇者「魔王を倒しに行く」 介護ヘルパー「60年前に倒したよ~」