1:2018/08/29(水) 01:39:13.046 ID:po3pZEBAD.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。

    ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。

    この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。

    そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。

    いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。

    さて、今日のお客様は……。

    星川輝(43) ラノベ作家

    【憧れの宇宙旅行】

    ホーッホッホッホ……。」
3:2018/08/29(水) 01:41:29.771 ID:po3pZEBAD.net
夜。マンションのある一室で、一人の中年男性が机に向かい、パソコンを操作している。

パソコンの画面はどうやらワードのようであり、男は何かの書き物をしているようだ。

テロップ「星川輝(43) ライトノベル作家」

星川(この原稿を仕上げれば……。取り合えず、当分の飯代くらいは稼げる……)


2日後、昼。喫茶店。席に座り、仕事の話をする星川と編集者。星川は、編集者に原稿を渡す。

テロップ「沢英志(36) 丸川書店、『電流文庫』編集者」

星川「これが、今回の原稿です」

沢「ありがとうございます。先生」

沢は一応星川に挨拶をしたものの、顔つきや態度はどことなく高慢そうに見える。

沢「ねぇ、星川先生。前から気になっていたことがあるので、先生に言おうと思っていたんですけど……」

星川「言わなくても分かりますよ。どうせ、僕の作品の方向性についてでしょ……」

沢「その通りですよ。はっきり言ってですね、先生の作品は一言で言うと……。『古い』んですよ」
5:2018/08/29(水) 01:43:25.101 ID:po3pZEBAD.net
編集者が去り、席で一人になる星川。星川は頭を抱え込む。

星川(憧れのラノベ作家になって、もう20年以上……。だが、僕は物書きとして最大のスランプを迎えている……)
   (本当に憂鬱だ……。遠くの彼方の宇宙にでも逃げ出したい気分だよ……。宇宙……)
   (やはり、いつものあそこへ行くしかないな……)


ある自然公園。緑に囲まれた敷地内を散歩する一般人たち。公園内には星川もいる。

星川が向かった先は、銀色の小型のドームのような建物――プラネタリウムだ。

暗い室内の天井に、大宇宙と星空の映像が映し出される。それとともに音楽も響く。

星川(ここは、僕の一番好きな場所だ……)

プラネタリウムの映像を見ながら、うっとりした表情になる星川。

星川が座っている席の隣には、あの男――喪黒福造がいる。横にいる星川を、一瞬チラリと見つめる喪黒。


プラネタリウムを出る星川。そっと彼の側へと忍び寄る喪黒。

喪黒「星川輝先生……、ですね!?」

星川「え、ええ……。そうですけど……」

喪黒「先生は、この公園のプラネタリウムがお好きなのですね?」
6:2018/08/29(水) 01:45:26.883 ID:po3pZEBAD.net
星川「ええ、まあ……。僕は小さいころから、宇宙というものに興味がありましたから……」

喪黒「実はですね……。そんな先生にいい話があるんですが……」

喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。

星川「……ココロのスキマ、お埋めします?」

喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」

星川「ふーーん……。で、そのセールスマンのあなたが僕に一体何の用なんです?」

喪黒「今後の先生のお仕事のために、役に立つかもしれない話があるんですよ」


BAR「魔の巣」。喪黒と星川が席に腰掛けている。

喪黒「星川先生といえば、アニメ化された『とある超能力者(サイキック)の学園戦記』の原作者ですよね?」

星川「ええ、一応そうですけど……。それは、あくまでも過去の栄光ですよ」
   「今の僕はスランプに苦しんでいて、何を書いても編集者や読者に酷評される有様……」
   「『面白くない』『マンネリだ』『作品が古すぎる』……と」

喪黒「創作者というのは、誰もが一度はスランプの壁にぶち当たるものなんですよ」
   「でも……。スランプを克服して傑作を生み出すことで、作家としてより大きくなっていくんです」

星川「それができればいいんですけどね……。今の僕は、才能に限界を感じているんですよ」
7:2018/08/29(水) 01:47:41.252 ID:po3pZEBAD.net
喪黒「じゃあ……。思い切って、先生のお好きな分野について書いてみたらどうです!?」

星川「そうですか……。僕の好きな分野は……、やはりスペースオペラとか……」

喪黒「先生は小さいころから、宇宙に対する興味がおありでしたからねぇ」

星川「はい。幼いころの僕の将来の夢は、宇宙飛行士になることでしたし……」
   「少年時代の僕は、宇宙を題材としたSFものの物語が好きでした」

喪黒「確か、先生が新人賞を獲得した応募作も宇宙が題材でしたよねぇ?」

星川「そうです。当時の僕の応募作は、宇宙海賊を主人公とした作品でした」

喪黒「宇宙を題材としたラノベを書きたいでしょう?」

星川「そりゃあ、もう……。でも、今の日本ではスペースオペラが衰退して久しいですから……」

喪黒「とはいえ……。アメリカでは最近、スペースオペラがSFの世界でブームになっているんですよ」
   「ひょっとすると、日本でもスペースオペラのブームが再燃するかもしれません」
   「先生、いっそのことスペースオペラとか書いてみたらどうです!?」

星川「面白そうですね、それ……」

喪黒「じゃあ、決まりました。宇宙ものの物語を書くために、実際に宇宙に行ってみたらどうですか?」

星川「えっ!?」
8:2018/08/29(水) 01:49:52.220 ID:po3pZEBAD.net
喪黒「民間人専用の宇宙旅行に先生を招待しますよ。ロケットで地球を回って……」

星川「ほ、本当に宇宙に行けるんですか!?」

喪黒「もちろんですよ。シャトルでアメリカを出発し、1泊2日で地球の周りを飛ぶんです」


テロップ「1か月後―― アメリカ合衆国、ネバダ州」

夜、あるホテル。客室内にはパジャマ姿の喪黒と星川がいる。

喪黒「先生、今晩は早く寝てゆっくり睡眠をとってください。明日は早朝間もなく、例の人たちが来ますから……」

星川「その例の人たちというのが、僕らの宇宙旅行に関係しているのですね?」

喪黒「そうです。そのために、先生に重要なものを渡しておきましょう」

星川に、番号のついたあるカードを渡す喪黒。


翌日。ホテルの外にいる喪黒と星川。とある専用バスが見えてくる。

バスから降りたアメリカ人女性が、喪黒と星川に近づく。彼女は何かの制服を着ている。
9:2018/08/29(水) 01:52:14.486 ID:po3pZEBAD.net
例のカードを取り出す喪黒。

喪黒「星川先生、あのカードを出してください。ほら、私があなたに渡した例のもの」

星川もカードを出す。2人が持つカードを見て、アメリカ人女性は何かを了解したようだ。


フリーウェイを走る専用バス。喪黒・星川・女性は専用バスの中に乗っている。

喪黒「このカードは、『21世紀宇宙センター』の会員証なんです」

星川「じゃあ、さっきカードを貰ったことで僕も……」

喪黒「その通り。先生もここの会員なんですよ。あなた用のカード、私が事前に作っておきましたから」

砂漠の中に大型施設・21世紀宇宙センターが見えてくる。バスは施設の門の中へと入っていく。

スタッフに案内され、施設内の廊下を歩く喪黒と星川。

喪黒「これから、私たちは着替えを済ませて外に出るのですよ。シャトルに乗るために……ね」

星川「いやぁ……。それにしても、ずいぶん手際がいいんですね」

施設の外。発射台にスペースシャトルが固定されている。シャトルには、固体燃料補助ロケットが付いている。

コックピットの座席には、オレンジ色の船内与圧服を着た喪黒と星川、2人のアメリカ人男性がいる。
11:2018/08/29(水) 01:54:14.609 ID:po3pZEBAD.net
喪黒「もうすぐ、スペースシャトル『イカロス号』が発射します」

星川「いやぁ、わくわくしますね……。本当に、宇宙に行けるなんて……」

喪黒「私たちの案内役を務めるのは、ここの職員のウェルズさんとジョンソンさんです」

轟音とともに、シャトルに付いた固体燃料補助ロケットが炎を噴き出す。

船内にいる4人の身体に、圧力と振動が一気に襲いかかる。

星川「くっ……!!」

固体燃料補助ロケットが離れたシャトル・イカロス号は、上空の彼方へそのまま飛び去っていく。

ネバダ州の砂漠、都市部、アメリカ大陸、大西洋と太平洋……。どんどん地上から遠ざかるイカロス号。

そして、イカロス号の背景に見えてきたのは――。青色の地球と、漆黒の宇宙空間だ。


宇宙空間に浮かぶイカロス号。シャトルの内部では、喪黒、星川、ウェルズ、ジョンソンが宙に浮いている。

彼らは、21世紀宇宙センターから支給されたTシャツと短パンを身につけている。

星川「おおっ……!身体が浮いている……!地球にいた時よりも身体が軽いぞ!」

喪黒「ここは宇宙だから、当然、シャトルの中も無重力状態になっているのです」
13:2018/08/29(水) 01:56:17.003 ID:po3pZEBAD.net
ウェルズとジョンソンに誘われ、シャトルのフライトデッキに向かう喪黒と星川。

喪黒「このシャトルは、最新式のAIによる自動操縦で動いています。だから、操縦室は無人です」

フライトデッキの天井にいる喪黒、星川、ウェルズ、ジョンソン。天井の窓ガラスから見える光景は……。

星川「地球だ!!地球が見える!!青い宝石のような地球が……、宇宙の中に浮かんでいる……!!」

喪黒「ね?私たちは本当に宇宙に来たんですよ」

ウェルズ「本番ハ、コレカラデスヨ」

喪黒「おっと、そうでした……。もっとすごいものを、これから見ることができるんですからねぇ……」

星川「もっとすごいもの……!?」

ジョンソン「ソウデス。外ニ出テ、実際ノ宇宙空間モ体験シテミマショウカ」


宇宙空間。船外活動用の白い宇宙服を着て、シャトルの外へ出る4人。宇宙服は命綱でイカロス号につながれている。

宇宙服を着たある一人の男。その人物のヘルメットの黒いガラスの奥には、星川の顔がある。

星川(本物の宇宙だ……。雄大で神秘的な宇宙……。何という美しさなんだ……)
   (僕は宇宙の中にいるんだ……。まるで、宇宙と一つになったような気分だ……)
   (この宇宙の大きさに比べると……、僕が今まで悩んでいたことはちっぽけなものに見える……)
15:2018/08/29(水) 01:58:36.499 ID:po3pZEBAD.net
イカロス号。喪黒、星川、ウェルズ、ジョンソンはシャトルの内部に戻っている。

ウェルズ「私タチモ、ソロソロ食事ヲシマショウ」

星川「宇宙食を食べるんですね?」

右手に箸を持ち、左手に銀色のパックを2つ持つ4人。箸で温められた米をパックから取り出し、もう一方のパックに入れると……。

シャトルで食べるためのインスタントカレーライスの出来上がりだ。

星川「おいしい!」

喪黒「シャトルの中で食べるインスタントカレーは格別ですなぁ」

ジョンソン「過去ノ宇宙飛行士タチモ、シャトルノ中デインスタントカレーヲ味ワッテイマシタ」


ミッドデッキ。4段式ベッドにいる喪黒、星川、ウェルズ、ジョンソン。寝袋に入った彼らの身体は、ベルトで寝具に固定されている。

星川「ここで僕たちは睡眠をとるんですね」

喪黒「そうですよ。私たちが地球に帰還するのは明日です」

目を閉じる4人。宇宙空間に浮かぶイカロス号。シャトルの側には、青い海と白い雲で縞模様になった地球の一部が見える。
16:2018/08/29(水) 02:00:46.010 ID:po3pZEBAD.net
翌日。コックピットの座席に座る喪黒、星川、ウェルズ、ジョンソン。

4人はオレンジ色の船内与圧服を着ている。

喪黒「さあ、これから地球へ戻りますよ」

大気圏へと突入するイカロス号。摩擦熱によりシャトルは真っ赤に染まる。

星川「身体が……、焼けるように熱い……!!」

喪黒「私も身体が熱いです……!今は我慢しましょう、我慢……!!」

上空に入り、徐々に下へ下へと向かっていくイカロス号。シャトルの下の方の光景には、アメリカ大陸が見える。

アメリカ、ネバダ州。21世紀宇宙センター。イカロス号は、滑走路の上に着陸する。


滑走路。青いフライトスーツを着た喪黒、星川、ウェルズ、ジョンソン。

4人は、屈強なスタッフに身体を支えながらヨタヨタと歩いている。

星川「あ…、歩くのがとても辛い……。しかも……、まるで目が回っているようで気持ち悪い……」

喪黒「星川さん……。私たちはこれから当分の間……、この施設でリハビリを行うことになっています……」
18:2018/08/29(水) 02:03:17.252 ID:po3pZEBAD.net
リハビリを行う喪黒、星川ら4人。ダンベルを持つ喪黒と星川。自転車エルゴメーターに乗る喪黒と星川。

メディシンボールを持ち、バランス運動を行う喪黒と星川。ラダーの上で転倒防止運動を行う喪黒と星川。


夜、ホテル。客室にはパジャマを着た喪黒と星川がいる。どうやら、2人は一定期間のリハビリを終えたようだ。

喪黒「星川さん、宇宙旅行はいかがでしたか!?」

星川「もう、何と言うか……。言葉では言い尽くせない経験や感動の連続で……」
   「僕の価値観が根底からひっくり返りそうですよ……。あの経験は、僕の人生を変えてしまいそうです……」

喪黒「どういたしまして……。その代わり、先生には約束していただきたいことがあります」

星川「約束!?」

喪黒「そうです。ネバダ州の21世紀宇宙センターを訪れるのは3年に1回。それも、会員カードを持った人に限ります」
   「いいですね、約束ですよ!?」

星川「わ、分かりました。喪黒さん」


テロップ「1年後―― 日本、東京」

ある大型書店。星川輝の新作ライトノベル『ロスト・ギャラクシー』が山積みにされている。

星川の新作ラノベを手にする若者の客たち。電車の中では、座席に座る女子高生が『ロスト・ギャラクシー』を読んでいる。
19:2018/08/29(水) 02:05:37.687 ID:po3pZEBAD.net
昼、自然公園。プラネタリウムの中には、いつもの通り星川がいる。

しかし、宇宙に行く前のころの彼とは明らかに違う。虚ろな表情で映像を見つめる星川。

星川(本物の宇宙を実際に見てからは……。プラネタリウムの映像が物足りなく感じるようになった……)

公園のベンチに座り、鞄からiPodを取り出す星川。

星川(ホルストの『惑星』でも聴くか……)

音楽を聴く星川。ただ、彼の顔はやはりうつろな表情のままだ。

星川(宇宙に行って以来……。俺は物事に対して、何の感情も起きなくなってしまった……)
   (宇宙空間を見た衝撃と感動が大きすぎたため、地球に帰ってからの生活が虚ろなものになってしまった……)

夕方、ある食堂チェーン店。虚ろな表情で定食を食べる星川。

星川(確かに、食事の味は感じる……。でも……。おいしいとも、まずいとも感じない……)

夜。マンションの仕事部屋。星川はパソコンに向かい、原稿を執筆している。

仕事中も星川は、相変わらず虚ろな表情をしている。

星川(虚しい……。もう一度、生の宇宙空間を体験できれば、本当に気持ちいいだろうな……。あと2年待つのか……)
20:2018/08/29(水) 02:08:25.290 ID:po3pZEBAD.net
喫茶店。「電流文庫」編集者の沢がある人物を伴って、星川の席にやって来る。

沢「星川先生。今日は特別な人物を連れてきましたよ」

テロップ「篠江貴浩(45) 実業家・ダイブドア元社長」

星川「あ、あなたはダイブドア創業者で知られる……。『シノエモン』こと篠江貴浩さん……!」

篠江「ええ、そうですよ。俺があの有名な『シノエモン』ですよ」
   「ねぇ、星川先生……。確かあなた、1年前に……。宇宙旅行を実際に経験したそうですよね!?」

星川「いや、僕はそんな……」

篠江「とぼけても無駄ですよ。俺はロケット開発事業に参入して以来、宇宙開発に関する様々な情報が入っています」
   「先生、あなた……。ネバダ州にあるロケットに乗って、宇宙へ行ったそうじゃないですか」

星川「よくご存知ですね……。ところで、僕に一体何の用なんです!?」

篠江「俺も宇宙に連れて行ってくださいよ。俺も例のロケットに乗って、実際に宇宙に行ってみたいんです」

星川「えっ!?」

沢「実はですね、篠江さんが私に話を持ちかけてきたんですよ。例の宇宙旅行を果たしたならば、そのお礼として……」
  「星川先生の『ロスト・ギャラクシー』のアニメ化に全面協力してやる……と」

篠江「俺はマスコミ界や広告代理店に顔が利きますから……。『ロスト・ギャラクシー』がアニメ化された暁には……」
   「作品を思う存分ステマして社会現象にしてあげますよ。先生や『電流文庫』にとっては、いい話でしょう!?」
21:2018/08/29(水) 02:11:37.376 ID:po3pZEBAD.net
沢「そういうわけですよ。だから星川先生、篠江さんの話に乗りましょうよ!あと、ついでに何ですが……」
  「私も宇宙旅行に行ってみたいんですよ!」

星川「どうも、断れる雰囲気じゃなさそうですから……。仕方ありませんね……」


テロップ「数日後―― アメリカ合衆国、ネバダ州」

21世紀宇宙センターの女性職員に、会員カードを見せる星川。

星川「ここにいる2人は会員じゃないけど、連れて行っていいですか!?」

女性職員が英語で3人に何かを話す。いつの間にか専用バスの中に乗る女性職員、星川、沢、篠江。

スタッフに案内され、星川、沢、篠江は施設内の廊下を歩く。

滑走路から発射されるイカロス号。シャトルに付いた固体燃料補助ロケットが炎を吐く。

船内の星川、沢、篠江、ウェルズの身体に圧力と振動が襲う。4人はオレンジ色の船内与圧服を着ている。

宇宙空間へ飛び立つイカロス号。シャトルの背景には、地球と宇宙空間が見える。

シャトルの内部で無重力空間に浮く星川、沢、篠江、ウェルズ。彼らはTシャツと短パンを身につけている。

沢「浮いてる!!身体が浮いてるぞ!!」

篠江「俺は本当に宇宙にいるんだ!!」
23:2018/08/29(水) 02:14:55.169 ID:po3pZEBAD.net
ウェルズの後をついて、船内の無重力の中を飛ぶ星川、沢、篠江。4人がフライトデッキへ向かうと、そこには……。

21世紀宇宙センターから支給されたTシャツと短パンを身につけた意外な人物――喪黒福造がいる。

星川「も、喪黒さん!!あなた、いつの間にシャトルの中に……」

喪黒「やぁ、星川先生……。どうやらあなた、私との約束を破ったようですね!」

星川「なっ!?」

喪黒「私はあなたに言ったはずです。21世紀宇宙センターを訪れるのは3年に1回、会員カードを持った人のみ……と」

星川「そ、それは……!!」

喪黒「先生、あなたは前の宇宙旅行からまだ1年しか経っていません。それに、沢さんと篠江さんはここの会員ではありませんよ」

星川「す、すみません……!どうしても断れなかったんです……!」

喪黒「弁解は無用です。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」

喪黒は星川たちに右手の人差し指を向ける。

喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」

星川・沢・篠江「ギャアアアアアアアアア!!!」

喪黒のドーンからしばらくした後……、シャトル内部にブザーの音が響く。ヴーーッ、ヴーーッ!!!
26:2018/08/29(水) 02:18:09.709 ID:po3pZEBAD.net
沢・篠江「ど、どうしたんだ一体!?」

星川「何が起こったんですか、ウェルズさ……。ああっ、ウェルズさんがいない!」

さっきまで3人の側にいたウェルズの姿が消えている。もちろん、喪黒も船内からすでにいなくなっている。

そして、シャトル内部ではあちこちで火花が吹く。バチッ!!バチッ!!

急いでフライトデッキから逃げる星川、沢、篠江。3人が無重力の中を飛んでいた時、天井から火が噴き出す。

炎に包まれ、全身が火だるまになる沢と篠江。

沢・篠江「うわああああああ!!!」

2人を置いて、宙に浮きながら蒼白な顔で逃げ惑う星川。船内の壁が爆発し、星川は熱風に巻き込まれる。

宇宙空間の中で、無音のまま爆発し粉々に砕けるイカロス号。シャトルだった無数の破片や残骸が、宇宙の中を漂う。


21世紀宇宙センター。滑走路の上には、青いフライトスーツを着た喪黒が立っている。

喪黒「現代の人類は、科学の力で多くの謎を解明したかに見えますが……、宇宙に関する謎は未だ解明が進んでいません」
   「まさしく……。宇宙という未知で神秘的な空間は、人類にとっては最大で最後のフロンティアとも言えるでしょう」
   「そもそも人間は、潜在的に宇宙への憧れを持っています。なぜなら、人間もまた宇宙が生み出した一部なのですから……」
   「だから、星川さんたち3人もまた……。人間にとって究極の故郷である宇宙への里帰りを果たしたのかもしれませんねぇ」
   「オーホッホッホッホッホッホッホ……」

                   ―完―
29:2018/08/29(水) 02:26:00.688 ID:L6Q4EXD60.net
星川輝先生の次回作のご期待ください!
30:2018/08/29(水) 02:26:52.676 ID:WBWTdy/k0.net
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1535474353