1:2019/12/25(水) 21:00:04.465 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「ぐはぁっ!」ドサッ

ヒーロー「ここまでだな、悪党。警察に突き出してやる」

悪人「く、くそっ……まさかドブの中で張り込んでるとは思わなかった……!」

ヒーロー「どんなにみっともなかろうと、世のため人のためになるならその手段を選ぶ」

ヒーロー「これが俺の“ヒーロー道”だからな」

悪人「へっ、立派なもんだ」

悪人「それに比べて俺は……ガキの頃から母親に虐待されて……」

ヒーロー「あ、ちょっと待って」

悪人「?」

ヒーロー「悲しい過去とかワンパターンだから話さなくていい」

悪人「え」
3:2019/12/25(水) 21:03:40.639 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「これでシャバともお別れなんだから、最後ぐらい自由に話させてくれよ!」

ヒーロー「えー……」

ヒーロー「悲しい過去って、聞いてて辛気臭くなるからできれば聞きたくないんだよなぁ」

悪人「そんなぁ……」

ヒーロー「それにどうせ、子供の頃から虐待されて、親の愛を知らず育って」

ヒーロー「色々あって人間嫌いになって、悪の道に走っちゃう……とかそういう話だろ」

悪人「いや、まあ、そうなんだけど」

ヒ―ロー「じゃあいいよ。話さなくて」

悪人「話させてくれよぉ!」

ヒーロー「うーん……だったらこうしよう」
5:2019/12/25(水) 21:06:09.051 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
ヒ―ロー「悲しい過去じゃなく、“楽しい過去”なら話してもいい!」

悪人「楽しい過去……!?」

ヒーロー「一つぐらいあるだろ?」

悪人「楽しい過去……うーん……」

ヒーロー「何かないのか? ないなら捕まえちゃうけど」

悪人「ちょっと待てよ! ……あ、一つだけある!」

ヒーロー「よし、話してみろ」
9:2019/12/25(水) 21:09:15.579 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「俺は中学生の頃、ひどいイジメにあっていてな」

ヒーロー「ちょっと待て、いきなり悲しいじゃないか」

悪人「いや、これから楽しくなるんだって」

ヒーロー「ホントかぁ~?」

悪人「ホントホント、だからとりあえず黙って聞いてろ」

ヒーロー「分かったよ」
13:2019/12/25(水) 21:12:21.892 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「朝学校へ行くと上履きが隠されてたり、机に花が置かれてたり、教科書を破かれたり」

悪人「わざと窓ガラスを割って俺のせいってことにしてきたり、弁当をゴミ箱に捨てられたり……」

悪人「徹底的にイジメ抜かれた。地獄だったよ」

ヒーロー「先生に相談しなかったのか?」

悪人「もちろんしたさ。だが、まともに取り合ってくれなかった」

悪人「卒業まで我慢しろ、相手しなければ鎮静化する、なんていわれてな」

ヒーロー「それはひどいな……」
14:2019/12/25(水) 21:15:39.957 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「ある日、俺はいじめてくる奴らに報復を決心した」

ヒ―ロー「おお」

悪人「しかし、まともにやり合ったら敵わない」

悪人「ちょうどその頃、俺がハマってた漫画の主人公が、頭がよくて策で敵を倒す感じのキャラでな」

悪人「俺も真似して、策を練ることにした」

ヒーロー「分かった、その策が見事にハマって……」

悪人「待て。終わりまで聞け」
15:2019/12/25(水) 21:18:23.502 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「とはいえ、しょせん中学生……」

悪人「思いつく策なんてたかが知れてるし、あまり大がかりな作戦を実行する金も力もない」

悪人「しょうもない策を思いついては却下を繰り返し、時間だけが過ぎていった」

悪人「そんな時だ」

ヒーロー「お?」

悪人「テレビで、戦争や戦闘について特集してたんだ」

ヒーロー「なるほど、その番組をヒントにものすごい策を閃いて……」

悪人「だから、割り込むなって!」
17:2019/12/25(水) 21:21:17.950 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「そのテレビ番組の中で、ゲリラの戦闘術を紹介する場面があった」

悪人「奇襲だとか狙撃だとか、真似できそうもないものばかりだったんだが……」

悪人「一つだけ、俺が真似できそうなのがあった」

ヒーロー「なんだよ?」

悪人「汚物を塗りたくった武器で敵を攻撃するってやつだ」

ヒーロー「!」

悪人「策の方向性はこれで決まった」
18:2019/12/25(水) 21:24:11.488 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「だが、さすがに人間のを使う気にはなれなくてな」

悪人「俺は犬のフンを集め始めた」

ヒーロー「あ、分かった!」

ヒーロー「犬のフンでいじめっ子に復讐してめでたしめでたしで終わるんだろ!」

悪人「だからいちいち予想すんな! 最後まで聞けぇ!」

ヒーロー「分かった分かった……もう予想しないから許して」
20:2019/12/25(水) 21:29:39.121 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「ただ、犬のフンを集めるっていっても大変だった」

悪人「探してみると、これが意外と落ちてないんだよ」

ヒーロー「イジメはあるけど、マナーはいい地域だったんだな」

悪人「そうなんだよ。マジでなかなか落ちてないの。一日中探して見つからない時もあった」

悪人「犬の散歩してる人をつけ回して、すげえ怒られたり」

悪人「ちゃんと袋を用意してる人に“そのフンもらえませんか?”って頼むこともあった」

ヒーロー「完全に変質者じゃないか」
22:2019/12/25(水) 21:32:06.449 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「しかし、苦労のかいあって、どうにか大量のフンを集められた」

悪人「小さいサイズとはいえ、ゴミ袋がフンで一杯になったからな」

ヒーロー「臭かっただろ」

悪人「ああ、臭かった」

悪人「とてもじゃないけど家には持ち帰れないから、近くの林に持ち込むことになった」

悪人「そしたら、今度はハエみたいな虫がたかってきて……思い出すだけで……」

ヒーロー「悲しい過去でも楽しい過去でもなく、汚い過去になってきたな」
23:2019/12/25(水) 21:34:24.750 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「さっそく俺は、カッターナイフや授業で使う彫刻刀なんかにフンを塗り始めた」

ヒ―ロー「うん」

悪人「けど……」

ヒーロー「けど?」

悪人「いじめてくる奴らとはいえ、こんなもんで斬り付けるのはさすがに可哀想だと思ったんだ」

ヒーロー「おお」

悪人「そしてなにより、俺自身が臭いに耐えきれなかった。鼻にティッシュ詰めても臭くてさ」

ヒーロー「そっちが本音だろ」
25:2019/12/25(水) 21:37:19.214 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「作戦を中止した俺は、フンをゴミ処理場みたいなところに捨てに行くことにした」

ヒーロー「なんで林に放置しなかったんだ?」

悪人「後で見つかって、騒ぎになるのが怖かったからだ」

悪人「騒ぎになったら、あちこちでフンを拾ってた俺が犯人だってバレるのは間違いないからな」

悪人「だから、ちゃんとした場所に捨てたかった」

ヒーロー「飼い主に“フンをください”なんて頼んでるしな」
26:2019/12/25(水) 21:40:28.838 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「俺は袋一杯の犬のフンを抱えながら、ゴミ処理場へと歩いた」

悪人「すると……」

悪人「路地裏で不良数人に絡まれてる子供を見つけたんだ」

ヒーロー「ほう」

悪人「多分カツアゲかなんかされてたんだろうな」

悪人「最初は見て見ぬふりしようと思った」

悪人「だってイジメに勝てない俺が、カツアゲするような不良になんか絶対勝てるわけないからな」
27:2019/12/25(水) 21:43:16.876 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「だが、俺は不良に絡まれてる子供が他人には思えなかった。助けてやりたいと思った」

悪人「なんていうか、心が爆発したんだ」

悪人「そして――」



『や、やめろおおおおおおおおおっ!!!』



悪人「俺は不良どもに挑んだ」
30:2019/12/25(水) 21:46:21.751 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「犬のフンを投げて、なすりつけて、もうメチャクチャだった」

悪人「ドン引きして逃げる奴もいたが、中には逆上して殴りかかってくる奴もいた」

悪人「だが、俺は殴られても、フンまみれになって戦って……」

悪人「ついに不良どもは全員逃げていった」

ヒーロー「……」
31:2019/12/25(水) 21:49:22.409 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「すると、助けた子供が……」



『みっともないだろ……こんな弱くて、臭くて、ボロボロで……』

『いいえ! ぼく、あなたみたいな人になりたいです!』



悪人「……って言ってくれたんだ」

悪人「あれが俺の人生で唯一といっていい楽しい思い出だろうな」

悪人「ただし、結局イジメには勝てず、人生ひん曲がってこうなっちまったがよ」
33:2019/12/25(水) 21:52:16.077 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「はい、これで終わり! 少しは楽しめたか?」

ヒ―ロー「……」

悪人「? ……どうした?」

ヒーロー「……」

悪人「おい、何とかいえよ」

ヒーロー「やっと……」

悪人「え?」

ヒーロー「やっと会えた……」
35:2019/12/25(水) 21:55:14.040 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「やっと会えた……って、お前まさか!? あの時の……!」

ヒーロー「はい、その子供は……俺です。間違いありません」

悪人「なんだと……!」

ヒーロー「俺はあの時助けてくれたあなたみたいになりたくて、ヒーローになろうと決めたんです」

ヒーロー「どんなにみっともなくとも、人々を助けられるヒーローになろうって……」

悪人「……そうだったのか」
36:2019/12/25(水) 21:58:29.742 ID:4FdXLFqr0XMAS.net
悪人「ガッカリしたろう……」

悪人「憧れの男が、こんな悪人になっちまって」

ヒーロー「……」

ヒーロー「すいません、悲しい過去をまた一つ増やしてしまって」

悪人「いや、そんなことはないさ」

悪人「昔助けたガキが立派になって、ワルに落ちぶれた俺を捕まえてくれる……こんな嬉しいことはない」

悪人「おかげで……楽しい過去が二つに増えたよ」





おわり
39:2019/12/25(水) 22:01:12.289 ID:dnJQ453wrXMAS.net
こんなしんみりした話になるとは
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1577275204