1: 2011/01/23(日) 00:15:21.73 ID:BV1VdblsO
唯「ねぇムギちゃん」

紬「・・・・・・」

唯「私ね。今朝、夢を見たんだ」

紬「・・・・・・」

唯「とっても楽しい夢」

紬「・・・・・・」


2: 2011/01/23(日) 00:19:15.39 ID:BV1VdblsO
唯「夢の中の私は空を飛んでたんだぁ~」

紬「・・・・・・」

唯「風が気持ち良かった。あ、ムギちゃんもいたんだよ」

紬「・・・・・・」

唯「夢の中のムギちゃんは鳥さんだった」

紬「・・・・・・」

唯「とっても可愛い鳥さんだった・・・」

4: 2011/01/23(日) 00:24:09.17 ID:BV1VdblsO
唯「でも、何でかな?ムギちゃんは鳥籠の中に入ってたんだよ。鳥籠の扉は開いてたのに・・・」

紬「・・・・・・」

唯「どうして、鳥籠から出ようとしなかったのかな?」

紬「・・・・・・」

唯「ムギちゃん?」

紬「・・・・・・」

唯「泣かないで、きっと病気・・・良くなるから。泣かないで」

5: 2011/01/23(日) 00:33:55.80 ID:BV1VdblsO
紬「・・・・・・」

唯「涙、拭かないと・・・私が拭いてあげるね」

紬「・・・・・・」

唯「・・・夢の世界って何でも出来るよね」

紬「・・・・・・」

唯「ムギちゃんは鳥さんになれるし、私は空を飛べる」

紬「・・・・・・」

6: 2011/01/23(日) 00:39:49.29 ID:BV1VdblsO
唯「でも、夢から覚めるとちょっと悲しいよね」

紬「・・・・・・」

唯「私、さっきまで空を飛んでたのに、夢だったんだって・・・少しの間だけ現実の世界を否定したくなるよね」

紬「・・・・・・」

唯「・・・夢の世界なら何でも出来る。夢の世界なら何でも許されちゃう」

紬「・・・・・・」

8: 2011/01/23(日) 00:47:39.49 ID:BV1VdblsO
唯「ムギちゃんの見る夢が楽しい夢だといいな」

紬「・・・・・・」

唯「ムギちゃんごめんね。私、そろそろ帰らなきゃ・・・」

紬「・・・・・・」

唯「明日もまた病室に来るよ。さようなら。ムギちゃん」

紬(唯ちゃん・・・さようなら)

10: 2011/01/23(日) 00:53:41.18 ID:BV1VdblsO
病室から出て行った唯ちゃん。
入れ替わりで、斎藤が入って来る。

斎藤「紬お嬢様、澪様からいただいたお花の水をお取り返し致します」

紬(・・・斎藤ありがとう)

斎藤「唯様、明日も来るとおっしゃってましたね」

紬(盗み聞きしていたね・・・)

11: 2011/01/23(日) 00:58:59.27
何がどうなっているんだ…

12: 2011/01/23(日) 01:01:48.09 ID:BV1VdblsO
斎藤はさっきまで泣いていたのか、目が少し腫れている。

盗み聞きしてた事を許そうと思った。

紬(私の為に泣いてくれる人を怒るなんて出来ないわ・・・それに今の状態じゃ怒れないもの)

斎藤「行って来ます」

太陽の日差しが私の顔を照らしとても眩しい。
目を閉じたいけど、閉じられない。

私の体は自分では動かす事が出来ないから・・・。

13: 2011/01/23(日) 01:10:54.65 ID:BV1VdblsO
嗜眠性脳炎。今、私はこの病気のせいで体が動かせ無いらしい。

高校生の時、時々痙攣しちゃうぐらいで私の体には何にも起きなかった。

だけど、大学に入りこれから唯ちゃん達と楽しい大学生活を過そうとした春の四月。

私の体は途端に動かなくなった。

神様は本当に残酷ね。

14: 2011/01/23(日) 01:17:01.55 ID:BV1VdblsO
まだまだ、この病気は悪化するらしい。

今は体が動かせ無いけど、次に何にも考えられ無くなる。

お父様が泣く泣く言ってた。
それを聞かされた私は悲しかったけれど、涙を流さないように頑張った。

涙を流したら、余計お父様が悲しむと思って泣けなかった。

植物みたいになっちゃうなんて嫌だ。

16: 2011/01/23(日) 01:24:57.14 ID:BV1VdblsO
太陽の日差しが私の胸辺りを照らし頃、斎藤は帰って来た。

斎藤は小さい時から一緒にいる。

だから、斎藤が近くにいると安心出来るの。

目元にガサガサした斎藤の手の感触。

瞼を閉じさせてくれたみたい。

本のページをめくる音。

斎藤「むかしむかしある所に浦島太郎と言う男がいました」

17: 2011/01/23(日) 01:25:54.12
現代日本でこんな病気になることはまずないが
なったとしたら流行が心配だな
次は唯があぶないかも……

19: 2011/01/23(日) 01:32:28.64 ID:BV1VdblsO
今日も1日中ベッドの中で過ごし斎藤の昔話を聞きながら眠る。

唯ちゃん明日も来るって言ってたわね。

唯ちゃん大学生活、楽しんでるのかしら?

私も一緒に大学生活を過ごしたいわ。

初恋の人と一緒に初めての事をいっぱいしたい。
ね?唯ちゃん。

21: 2011/01/23(日) 01:41:20.31 ID:BV1VdblsO
ギターの音。紅茶の匂い。

そして、自分の両足で立っている私。

夢だって気付くのに一秒も掛からなかった。

普通の人には現実的な事だけど、今の私には非現実的。

少し片足を前に出してみる。簡単に動いた。

久しぶりに歩いた。夢だけど飛び上がるぐらいに嬉しかった。

22: 2011/01/23(日) 01:46:20.82 ID:BV1VdblsO
ソファーに誰か座っている。

ギターを抱え、体が上下に揺れている。

紬「唯ちゃん?」

無意識に唯ちゃんの名前を呼んでいた。

声も出るみたいね。

唯「あ、ムギちゃん!」

唯ちゃんは振り返り私を見て微笑んだ。
私もすぐに微笑みを返した。

24: 2011/01/23(日) 01:52:49.17 ID:BV1VdblsO
何時も見ている唯ちゃんの顔。

唯ちゃんの顔を見る度に思う事がある。

暖かい。

春のように暖かい。冬のような心を持った人でも、唯ちゃんを見れば春になる。

私が唯ちゃんに惹かれた理由は暖かいから。

唯「んー?ムギちゃんボーとしてどうしたの?」

紬「ううん。何でも無いわよ」

25: 2011/01/23(日) 02:00:43.10 ID:BV1VdblsO
唯「そっかぁ~」

唯ちゃんはえへへと笑う。

そう言えば、これは夢。

今日、お見舞いに来た唯ちゃんの話を思い出した。

夢の世界は何でも出来る。夢の世界は何をしても何でも許される。

それなら、高校生の時に言えなかったあの言葉。

いや、一生彼女に言えないだろうあの言葉を今ここで、言おう。

27: 2011/01/23(日) 02:08:07.47 ID:BV1VdblsO
夢の中でしか、言えないなんて私はとっても臆病ね。

女の子同士。そんな壁を取っ払って現実でもこの言葉を言えたらいいのに。

いや、私に桃太郎のような勇気があったとしても今はもう無理ね。

声が出ないもの・・・。

紬「ゆ、唯ちゃん?」

唯「どうしたの~?」

28: 2011/01/23(日) 02:14:10.29 ID:BV1VdblsO
紬「あ、あのね・・・」

心臓が高鳴る。息が苦しくなる。

紬「す・・・」

大丈夫。夢だから、目を覚ましたら無かった事になる。

唯「す?すき焼き!はい、次はきだよムギちゃん!」

紬「き・・・ギター!」

違う・・・そうじゃ無いの。

30: 2011/01/23(日) 02:22:22.23 ID:BV1VdblsO
唯「タ・・・タかぁ~」

紬「ゆ、唯ちゃん!」

唯「待ってよ~今考えてる所だから~」

紬「好きなの!!」

もし、唯ちゃんに告白するのならいくつも告白の言葉を考えてた。

だけど、今私の頭の中はこの言葉しか無かった。

・・・やっと唯ちゃんに私の思いを伝える事が出来た。

33: 2011/01/23(日) 02:29:35.57 ID:BV1VdblsO
唯「す、好き!?わわわ」
紬「驚かしちゃってごめんなさい・・・いきなりこんな事言ってごめんなさい」

唯「す、好きって・・・友達として・・・だよね?」

紬「恋のお相手として・・・好きなの」

唯「わわわわっ!告白されちゃった!」

紬「ご、ごめんなさい・・・」

34: 2011/01/23(日) 02:40:43.28 ID:BV1VdblsO
唯「あ、謝ら無くていいよ!あ、あのね?」

紬「えぇ・・・」

唯「ムギちゃん私に色々してくれたよね?ギターとかケーキとか紅茶とか」

紬「・・・・・・」

唯「毎日ありがとうねムギちゃん・・・それから私も好きだよ」

紬「・・・え?」

唯「みんなの為に頑張ってるムギちゃんが好き。はしゃいでるムギちゃんが好き。キーボード弾いてるムギちゃんが好き!全部、ぜーんぶ好き!」

35: 2011/01/23(日) 02:47:44.78 ID:BV1VdblsO
紬「唯ちゃん今好きって・・・」

頬っぺたを摘まんでみる。痛い、夢じゃ無い。
あ・・・夢ね。

唯「うん!ムギちゃんが好き?」

紬「わ、私の何処が好きなの?」

唯「好きって言う事に理由はいらないんだよ。今、ここにいるムギちゃんが好き」

紬「ゆ、唯ちゃん・・・」

これが、 夢だなんて・・・。
いや、夢だからこそ私の都合の良いように事が進んでるのかも知れない。

37: 2011/01/23(日) 02:57:46.43 ID:BV1VdblsO
でも、今は・・・。

紬「あ、あのね。キ、キスしていい?」

唯「い、いいよ!」

目が覚めた時の事を考えずに。

紬「じゃあ・・・」

目の前にいる唯ちゃんを愛そう。

1日だけど、目の前にいる唯ちゃんを愛そう。

唯「んっ・・・」

私よりも柔らかい唇。
長い時間、キスをした。
そして、私は目が覚めた。

39: 2011/01/23(日) 03:03:31.56 ID:BV1VdblsO
―――

唯『今日は何処行く?』

唯『付き合ってから1ヶ月の記念日だよ~』

唯『ムギちゃん好き』

唯『今日は映画館でデートしよう!はい決まり~』

唯『ムギちゃん!?ムギちゃんは・・・もう二度とムギちゃんは体が動かせないんですか!?』

―――

41: 2011/01/23(日) 03:09:45.23 ID:BV1VdblsO
紬(頭・・・痛い)

割れるように、頭が痛い。

それに、さっきから頭の中で響く唯ちゃんの声。

記念日だとかデートだとか・・・。

おかしい、私の頭に何か違和感がある。

病気とか誰かが私の頭にイタズラしたとかじゃ無くて、記憶に違和感がある。

何故か、私が体験して無い思い出が思い出せる。

42: 2011/01/23(日) 03:19:30.83 ID:BV1VdblsO
瞼に固い指の感触。

これは斎藤じゃ無い・・・誰かしら?

唯「ムギちゃんおはよう」

紬(・・・唯ちゃん?)

さっき見た夢の中で体験した感触が唇に。

唯ちゃんによって瞼が開かれた。あり得ない物を見た。

紬(ゆ、唯ちゃん!?)

唯ちゃんが私にキスをしている。

43: 2011/01/23(日) 03:30:43.46 ID:BV1VdblsO
唯「今日はムギちゃんが告白して来た日だね~」

紬(私が唯ちゃんに・・・告白?)

私が見た夢の話を唯ちゃんはしているの?
そんな事無いと思うけど・・・。

まさかこれも夢?
でも、体は動かないわね。

じゃあどうして?どうして唯ちゃんは私にキスをしてきたの?私が告白したって言ってるの?

分からない。

44: 2011/01/23(日) 03:41:41.85 ID:BV1VdblsO
唯「じゃあ学校行かなきゃバイバイ、ムギちゃん」

紬(さ、さようなら唯ちゃん)

唯ちゃんは私の頬っぺたにキスをして学校へと行った。

紬(ど、どういう事?)

夢の中で告白した事が現実でも告白したような事になっているの?


45: 2011/01/23(日) 03:51:11.71 ID:BV1VdblsO
体験して無いはずの思い出を思い出してみる。

唯ちゃんと映画館でデートした思い出。

公園でキスをした思い出。

憂ちゃんが修学旅行中に、私と唯ちゃんが・・・。

どれも、私が体験した覚えが無い思い出ばかりだ。

やっぱり、夢の中で告白した事が現実にも反映されているの?

あり得ない事だけど、それ意外に考えが浮かば無い。

事実、夢の中で告白し、その後の事も鮮明に思い出せる。

46: 2011/01/23(日) 04:02:49.38 ID:BV1VdblsO
しばらく考えても、最終的に夢の中の出来事が現実になったって考えになってしまう。

本当に私が唯ちゃんに告白した事は現実になってしまったの?

だとしたら、嬉しいんだけど・・・悲しい。

せっかく、唯ちゃんとお付き合い出来るようになったのに・・・。

もっと、色々な事を唯ちゃんとしたかった。

唯ちゃんとの思い出だけじゃ無くて自分の体で色々体験したかった。

64: 2011/01/23(日) 16:20:31.98 ID:BV1VdblsO
何か良く分からない内に唯ちゃんとお付き合いする事が出来たけど・・・。

お付き合い出来たら出来たで色々悲しいものね。

こんな、体だから唯ちゃんとデートしたりする事が出来ない。

体が動かせないってツラいわね。

紬(唯ちゃんが来るまで何をしよう)

何時も考えてる事だけど、何時も以上に唯ちゃんの事を考えてしまうわ。

65: 2011/01/23(日) 16:27:28.02 ID:BV1VdblsO
ふわりと暖かい風が吹いて、桜の花びらが私の病室に迷い込んで来た。

斎藤が病室に入って来る。

斎藤「おはようございます。紬お嬢様」

紬(おはよう。斎藤)

斎藤はあまり良く眠れていないらしい。

昔より老けたから目の下のくまが何時も以上に目立ち、顔色が悪い。

68: 2011/01/23(日) 16:35:06.01 ID:BV1VdblsO
斎藤によって瞼を閉じられた。そうねお昼寝の時間ね。

また、夢を見るのかしら?また、夢で私が何かすると現実が変わるのかしら?

斎藤「おやすみなさい」

紬(おやすみなさい)

鳥のさえずりを子守唄歌にして眠る。


69: 2011/01/23(日) 16:45:21.38 ID:BV1VdblsO
紬「ここは・・・病室?」

律「ム、ムギ!本当に目を覚ましたんだな!」

澪「ムギ・・・」

梓「・・・ぐすっ」

私の手を握るりっちゃん。
私を真っ直ぐに見詰める澪ちゃん。

梓ちゃんは泣いている。

紬「み、みんなどうしたの?」

澪「久しぶりにムギが目覚めたって斎藤さんから連絡が合ったから急いで来たんだ・・・」

71: 2011/01/23(日) 16:56:15.11 ID:BV1VdblsO
覚えている。何もかも覚えている。

私が大学生に入る。二日前。

病気の症状が悪化し始めた時。

私の体は大きな痙攣と共に動かなくなった。

だけど、動かなくなってから1日だけ体が自由になった日がある。

その日の事を私は夢で見ている。

72: 2011/01/23(日) 17:01:54.29 ID:BV1VdblsO
律「良かった・・・ムギが目を覚まして」

梓「ずっと・・・寝たきりになると思ってました・・・本当に良かったです」

紬「みんな・・・」

澪「ムギ・・・今日のお祝いにさ花を買って来たんだ」

紬「お花?」

律「うん、唯が来てからみんなで渡そうと思うから楽しみにしててな」

紬「ええ・・・」

73: 2011/01/23(日) 17:11:07.88 ID:BV1VdblsO
この日、私はずっと後悔していた。

1日だけの目覚め。
あの頃の私は、まさか1日でまた体が動かなくなるだなんて思って無かった。

また、何時もと変わらない毎日をみんなと過ごせると思っていた。

また、体が動かせなくなる・・・そんな事はもう二度と無いって思ってしまった。

翌日には体がまた動かせなくなるのに・・・。

75: 2011/01/23(日) 17:30:21.45 ID:BV1VdblsO
夢だとしてもこれが現実になるとしても言わなきゃ。

みんなにさようならを言わなきゃ。

唯「はぁはぁはぁはぁ」

澪「ゆ、唯・・・」

唯「ムギちゃんが目を覚ましたって・・・聞いたから・・・はぁはぁ」

紬「唯ちゃん・・・」

唯「ムギちゃん!」

唯ちゃんは私に抱き着いた。
シャンプーの香りに混じる汗の匂いはとっても、いい匂いがした。

76: 2011/01/23(日) 17:36:50.09 ID:BV1VdblsO
唯「良かった。もう体が動かなくならないよね?」

唯ちゃん強く私を抱き締める。

柔らかい肌、擦れる布の音。

私は目を閉じて、唯ちゃんの背中に腕を回す。

紬「みんなに聞いて欲しい事があるの。これが最後の会話かも知れないから」

77: 2011/01/23(日) 17:47:54.34 ID:BV1VdblsO
澪「最後の会話って・・・そんな悲しい事言うなよ・・・」

梓「そうですよ・・・私、皆さんと同じ大学に行くって決めたばかりなんですから・・・」

紬「ごめんなさい。でも、聞いて欲しいの。私、明日からまた体が動かなくなっちゃうの」

律「そんな・・・いや、まだ分からないだろ?もう、病気が完治したって事もあるかも知れないだろ?」

紬「ううん。病気はまだ、完治してないの・・・」

79: 2011/01/23(日) 17:59:59.76 ID:BV1VdblsO
唯「・・・・・・」

紬「みんな。色々、心配させてごめんね。それと今までありがとう。・・・さようなら」

唯「・・・心配かけていいよ!だからさようならだなんて言わないで・・・さようならじゃないよ。
私は何時でもムギちゃんに会いに行けるんだよ?さようならって言わないでよ。
本当にムギちゃんが何処かに行ってしまう気がするから・・・」

80: 2011/01/23(日) 18:07:49.07 ID:BV1VdblsO
紬「ごめんなさい・・・」

唯「もし、ムギちゃんがまた体が動かなくなっても、私はさようならなんて言わないよ」

紬「・・・・・・」

唯「ムギちゃんの体が動かなくなっても私は変わらない。変わらないよ。何時もと変わらずにムギちゃんと一緒に1日を過ごすよ。それがムギちゃんにとっても私にとっても完璧な世界なんだから」

81: 2011/01/23(日) 18:14:13.33 ID:BV1VdblsO
―――

唯『ムギちゃん・・・』

梓『ムギ先輩・・・』

澪『・・・・・・』

律『ムギの病気は治るんですか?』

斎藤『分かりません。でも治る事を信じましょう。奇跡を信じましょう』

―――

84: 2011/01/23(日) 18:32:08.57 ID:BV1VdblsO
私の体が揺れる。
これは地震じゃない、私の体が大きな痙攣を起こしているみたい。

誰かが私の手を強く握っている。

固い指先。唯ちゃんだ。

唯「ムギちゃん!いやっ!嫌あっ!」

動かない手に・・・意志を強く込めて唯ちゃんの手を強く強く握ろうとする。

今、確かに手が動い・・・た。

唯「・・・・・・ムギちゃん?」

何時もみたいに・・・唯ちゃんは・・・私に・・・微笑ん・・・だ。

85: 2011/01/23(日) 18:39:52.82 ID:BV1VdblsO
春が過ぎ夏が来た。
夏が過ぎ秋が来た。
秋が過ぎ冬が来た。

季節の移り変わりを実感する事なく私の思考は元に戻った。

暖かい毛布に身を包んで、ボーとした頭で天井を見詰める。

唯「雪が降っているね」

声が聞こえた。
唯ちゃんの声。

唯「長い時間、寝ていたね。寂しかったよ」

86: 2011/01/23(日) 18:49:23.33 ID:BV1VdblsO
紬(唯ちゃん・・・)

唯「寝ている間、私の声は聞こえた?」

紬(ごめんなさい。聞こえてなかったわ・・・)

唯「・・・ムギちゃんの紅茶飲みたいな」

紬(私も唯ちゃんの為に紅茶作りたいわ・・・)

唯「毎日ね。白雪姫のお話みたいにムギちゃんにキスをしていたんだよ。私がキスすれば目が覚めるんじゃないかな・・・って」

88: 2011/01/23(日) 18:59:32.55 ID:BV1VdblsO
紬(・・・・・・)

唯「でも、私は王子様じゃ無かったみたい。何回、キスしてもムギちゃんは目を覚まさなかった」

唯ちゃんの目から涙が落ち、私の頬で静かに流れる涙と混ざってはじけた。

唯「・・・あのね。私、最低なんだ」

紬(唯ちゃんは最低何かじゃないわ・・・ずっとお見舞いに来てくれたもの)



89: 2011/01/23(日) 19:07:21.61 ID:BV1VdblsO
唯「ムギちゃんの事、考えるとね。忘れてしまいたいって思うんだ・・・こんな悲しい気持ちになるなら、忘れてしまった方が楽なんだろうな・・・って」

紬(・・・・・・)

唯「最低だよね。自分の事しか考えられない私・・・本当に最低だよ・・・」

紬(そんな事無いわよ・・・悲しい事を忘れたいって考えは全然最低何かじゃ無いわ・・・)

90: 2011/01/23(日) 19:15:26.44 ID:BV1VdblsO
唯「・・・喉乾いちゃった。お外行ってくるね」

紬(・・・・・・)

斎藤「紬お嬢様・・・」

紬(斎藤・・・なぁに?)

斎藤「誠に伝え難いのですが、紬お嬢様にどうしてもお伝えしなければいけない事なので・・・平沢様、大学へ行ってないと秋山様から聞きました」

紬(唯ちゃんが大学に・・・行ってない?)

91: 2011/01/23(日) 19:23:35.37 ID:BV1VdblsO
斎藤「春、お嬢様の思考が止まってから毎日ここへ来るようになりました」

紬(・・・・・・)

斎藤「・・・平沢様が帰って来たようです。失礼しました」

唯「・・・ムギちゃんごめんね。一人にして」

紬(私の・・・せいで唯ちゃんが・・・大学に行かなくなったんだわ・・・)

92: 2011/01/23(日) 19:34:21.14 ID:BV1VdblsO
紬(私が病気だから・・・私が唯ちゃんに告白しちゃったから・・・)

唯「寒いね・・・」

紬(唯ちゃんごめんなさい・・・ごめんなさい)

唯「ムギちゃん・・・どうして泣いてるの?な、泣かないで・・・お願いだから泣かなで・・・私まで悲しくなるよ・・・」

紬(・・・・・・)

唯「ぐすっ・・・うぅ・・・」

94: 2011/01/23(日) 19:48:28.29 ID:BV1VdblsO
それから、二時間。私達は二人で泣き続けた。

私は唯ちゃんの事で、唯ちゃんは私の事で、ずっと泣き続けた。

辺りはすっかり暗くなり、唯ちゃんは私に別れのキスをして帰って行った。

紬(もし・・・)

今日も夢を見るなら、あの別れが最後のキスだろう。

唯ちゃんが言った言葉を思い出す。
「ムギちゃんの事忘れてしまいたい」

101: 2011/01/23(日) 20:21:45.61 ID:BV1VdblsO
斎藤「お嬢様おやすみなさい」

紬(おやすみなさい)

夜の闇が私を包む。
久しぶりに眠気を感じるからか、揺りかごでゆらゆらと揺らされている気分になった。

頭の中で、唯ちゃんが浮かびやがて消える。

それが、何回か続いた後・・・私は夢の世界へと足を踏み入れた。


104: 2011/01/23(日) 20:32:47.29 ID:BV1VdblsO
姫子「ねぇ、部活何にする?」

朧「うーん。何にしようかな」

ここは・・・教室?

辺りを見渡して見てみる。

私がいる教室はどうやら一年生の教室のようだ。

しずか「ねぇ、あなたは何の部活に入るの?」

紬「・・・私?」

しずか「う、うん・・・」

紬「私は・・・合唱部に入ろうと思っているの・・・」

105: 2011/01/23(日) 20:38:40.80 ID:BV1VdblsO
そっか、私が部活に入る前の・・・。

しずか「合唱部かぁ合唱部なら確か音楽準備室が部室だったよね?」

紬「・・・そこは確か軽音部の部室よ。今度は間違わ無いようにしなきゃ」

立ち上がって私は教室を後にした。

しずか「あの人・・・何で泣いているんだろう・・・」

106: 2011/01/23(日) 20:45:35.98 ID:BV1VdblsO
手すりに亀の置物。
それを、懐かしむように少しだけ触れる。

この階段を上れば、私が三年間、過ごして来た部室に辿り着く。

一段上る度に溢れるみんなとの思い出を噛み締める。

音楽準備室の扉の前に立つと楽しげな声が聞こえる。

きっと、りっちゃんと澪ちゃんね。

109: 2011/01/23(日) 20:53:02.60 ID:BV1VdblsO
紬「さようなら・・・」

音楽準備室を後にして、そのまま合唱部の部室に向かう。

唯「あのー・・・」

紬「・・・」

唯ちゃんが目の前にいる。

唯「迷子になっちゃったんですけど・・・職員室って何処ですかぁ?」

紬「そうね・・・あそこの音楽準備室に居るとっても楽しい人達に聞いてみたらいいと思うわよ。・・・さようなら唯ちゃん」

唯「ほえ?あ、ありがとうございます!」

110: 2011/01/23(日) 20:58:10.67 ID:BV1VdblsO
―――

唯「私、初めて会った時からあなたの事が好きでした」

―――

111: 2011/01/23(日) 21:02:55.12 ID:BV1VdblsO
また、大きな痙攣と共に私の時は止まった。

最後に唯ちゃんが告白した相手が私には誰だか分からない。

ただ一つ確かな事は。もう、これから。唯ちゃんやみんなが私のせいで悲しむ事は無いだろう。

これでいい・・・。
みんなが笑顔でいてくれればそれでいい。

それが私にとって、完璧な世界だから。

112: 2011/01/23(日) 21:10:17.48 ID:BV1VdblsO
律「梓も明日から私達の大学かぁ~」

梓「は、はい!また皆さんとバンド出来るかと思うと楽しみです!」

律「まあ、私達は4人揃わないとダメダメだからな~」

澪「なぁ、何かさ・・・久しぶりに部室に来てみると・・・寂しいよな」

律「い、いきなり。どーした?」

梓「それ、私も思っていました。と言うか部活に入り初めてからずっと・・・何か寂しいなって」

113: 2011/01/23(日) 21:19:07.27 ID:BV1VdblsO
律「まあ4人には少し広すぎる部室だからな。でもさ、確かに何か忘れてしまっているような気がするよ。・・・時々私達がこうやって話してるとさ、時々紅茶のいい匂いがするんだ」

澪「律もしてたのか!」

梓「何か今もして来ました」

律「ああ、あれ?澪どうして泣いてるんだ?」

澪「律こそ・・・」

梓「か、悲しくないのに・・・どうして涙が出るんでしょうね・・・」

115: 2011/01/23(日) 21:24:10.29 ID:BV1VdblsO
唯「ムギちゃんおはよう。今日は前に言ってた部活のメンバーと一緒に遊ぶんだ」

紬「・・・・・・」

唯「私達、付き合い初めてから随分経ったね」

紬「・・・・・」

唯「ムギちゃんの手暖かい・・・」


117: 2011/01/23(日) 21:31:03.20 ID:BV1VdblsO
冬が過ぎて春を迎える。

春のような暖かいムギちゃんの眼差しは冬のように冷たく、常に寂しさを感じる。

ムギちゃんの動かない手を私は握りしめる。
ムギちゃんの手を握りしめていると、感じる。

何処にも行かないでって意思が伝わってくる。

私が感じているだけで、ひょっとすると、ムギちゃんはそんな事思っていないのかも知れない。

118: 2011/01/23(日) 21:44:38.77 ID:BV1VdblsO
だけど、ムギちゃんがもしそう思っているなら、私はムギちゃんから一生離れない。

鳥籠の中に閉じ込められ、自由が無い鳥。
じゃあ、私が鳥を鳥籠の中から出してあげればいい。

・・・ムギちゃん?

ムギちゃんが見ている夢の世界の私は、変な事していない?
私が見てる夢よりも幸せ?
ちゃんといい恋人でいる?
ムギちゃんの見ている夢が幸せなら私はそれだけで嬉しい。

夢の世界はその人が望む一番の完璧な世界なんだから。


END

119: 2011/01/23(日) 21:45:43.77

やるせない…

120: 2011/01/23(日) 21:47:37.63
すげえ引き込まれた
おつ

引用元: 紬「パーフェクトワールド」