1:2020/02/03(月) 22:00:38
漫画家「……」カリカリ…



彼は今執筆していた。

累計一億部以上を売り上げる超人気漫画≪鋼鉄戦士アイアン≫



――のスピンオフ作品≪クローン戦士テツ≫を。



漫画家「あと少し……」カリカリカリ
3:2020/02/03(月) 22:03:14
漫画家「ふぅー……終わった」

漫画家「もしもし、編集部さんですか。次回の≪クローン戦士テツ≫出来上がりました」

漫画家「はい……はい……。よろしくお願いしまーす」

漫画家「はぁ……」

漫画家(≪クローン戦士テツ≫は好調だ)

漫画家(アイアンのクローンである“テツ”を主人公にしたスピンオフ作品で、それなりに売れている)

漫画家(だけど本当は俺だって……スピンオフなんかじゃない作品を……)
4:2020/02/03(月) 22:05:01
自分より若い作者のヒット作のスピノフ任されるキャリアも画力もあるマイナー漫画家の心境は
5:2020/02/03(月) 22:05:29
ご本人が描くならまだ良心的だわ
6:2020/02/03(月) 22:06:11
ファミレスで、一人ネーム作りをする漫画家。

漫画家「……」

漫画家(ここは見開きでバーンと……)

男「ちょっとよろしいですか?」

漫画家「はい?」

男「≪鋼鉄戦士アイアン≫の作者さんですよね? サインください!」

漫画家(ネームの絵を見てアイアンの作者と思ったのかもしれないが、違うっての……)
7:2020/02/03(月) 22:09:01.393 ID:mjp9sxUE0.net
漫画家「あの……」

男「お願いします! ファンなんです! どうか!」

漫画家「いや、俺は……」

男「そう……」

男「≪鋼鉄戦士アイアン≫ではなく、≪クローン戦士テツ≫の作者さんですよね?」

漫画家「!」

漫画家(なんだこいつ……)
9:2020/02/03(月) 22:12:22
男「≪クローン戦士テツ≫……いい作品ですよねえ」

男「アイアンのクローンとして生まれたテツの生き様を、面白おかしく、時にかっこよく描いてる」

男「絵柄は本家そっくりですし、売れ行きもなかなかじゃないですか」

漫画家「どうも……」

男「印税も結構入ってきてるでしょうし、そこらの漫画家より遥かに恵まれた生活をしてらっしゃる」

漫画家「あの、サインが欲しいんならさっさと――」

男「ですが……あなた、それで本当に満足ですか?」

漫画家「……!」
10:2020/02/03(月) 22:15:06.010 ID:mjp9sxUE0.net
漫画家「何がいいたい?」

男「あなた本当は……どこぞの名作の外伝みたいな漫画ではなく」

男「自分がきっちり“本編”を描いてみたいんじゃないんですか?」

男「それこそ、≪鋼鉄戦士アイアン≫のような、ね」

漫画家「……」

男「いいんですか、このままで? あなたはずっとスピンオフ作家に甘んじるつもりですか?」

漫画家「そりゃあ俺だって……」
11:2020/02/03(月) 22:18:11.903 ID:mjp9sxUE0.net
漫画家「描いてみたいさ!」

漫画家「他人のスピンオフじゃなく、正真正銘の主人公の物語を描いてみたいさ!」

漫画家「だけど俺みたいなまともな経歴もない、どこの馬の骨とも分からない漫画家に」

漫画家「そんな漫画描かせてくれる出版社なんてあるわけないだろう!」

漫画家「俺みたいな奴が漫画で食ってくためには、こうするしかないんだよ!」

漫画家「編集者のいうとおりに漫画を描くしかないんだ!」

男「なるほど……」
13:2020/02/03(月) 22:21:30.345 ID:mjp9sxUE0.net
男「たしかに今、あなたが≪アイアン≫のブランドに頼らない作品を描いても」

男「ウケる保証はありませんし、テツがそれなりにヒットしている現状がある以上」

男「編集部もあなたにスピンオフでない作品を描かせてはくれないでしょう」

漫画家「だろ?」

男「しかし……あなたがスピンオフ作家から脱出する方法が一つだけあります」

漫画家「……なんだよ?」

男「ずばり、≪鋼鉄戦士アイアン≫を乗っ取るのです」

漫画家「は……!?」
14:2020/02/03(月) 22:24:05.273 ID:uyCoqEm5r.net
!?
15:2020/02/03(月) 22:24:37.093 ID:mjp9sxUE0.net
漫画家「乗っ取るってどうやって……!?」

男「さいわい、≪鋼鉄戦士アイアン≫は現在、長く休載中です」

男「まあ、売れっ子作家にはよくあることです。≪狩人×狩人≫の作者しかり」

男「アイアンの作者は下積み時代が長く、ハングリー精神旺盛な漫画家として有名でしたが」

男「やはり売れるとだらけてしまうのでしょう。初心忘れる、というやつですね」

漫画家「まさか……!」

男「ええ、作者が休んでる今、あなたが勝手に続きを描いてしまえばいいのです」

男「で、勝手に続きを連載してしまう、と……」

男「既にあなたは絵柄は完コピできていますから、あとは話を考えて描くだけです」
17:2020/02/03(月) 22:27:28
漫画家「そんなこと、できるわけがない!」

漫画家「そんなことしたら≪アイアン≫の作者サイドに訴えられて終わりだ!」

男「いいえ、終わりません。乗っ取れます」

漫画家「なんでそんなこと言い切れる!」

男「なぜなら私は……それをやれる力を持ってるからです」

漫画家「信じられない……」

男「世の中“信じられない”ということほど、真実だったりするものです」

男「あなたが描きさえすれば……必ず乗っ取れる! あなたにはその資格がある!」

男「あなたこそが≪鋼鉄戦士アイアン≫の作者になるべきなのです!」

漫画家「バカな……できるわけが……」

男「世の中“できるわけがない”と思われてることは、だいたい可能なものなのですよ」
20:2020/02/03(月) 22:30:16
男「悩んでる時間はあまりありませんよ」

男「≪アイアン≫の作者が長期休載に入ってる、今だけがチャンスなんです」

漫画家「……」

漫画家「やるよ……やらせてくれ」

男「あなたならそうおっしゃってくれると思ってました」

漫画家「ただし……やる以上、適当なものは描けない」

漫画家「≪アイアン≫を改めて読み直して、じっくり構想を練らせてもらうが、いいか?」

男「もちろんです」
23:2020/02/03(月) 22:33:44
漫画家(さっそく≪鋼鉄戦士アイアン≫を読むとしよう。もちろん、今までに何度も読んでるけど――)

漫画家「……」ペラ…

漫画家「……」

漫画家「……」ペラペラ…

漫画家「……」

漫画家(悔しいが、やはり面白いな……)

漫画家(だが、ただ楽しむだけじゃダメだ……)

漫画家(もし俺がアイアン作者だったら、続きをどう描くか考えながら読まないと……)

漫画家(俺ならやれる! なんとしてもスピンオフ作家から脱出してやる!)
24:2020/02/03(月) 22:36:01
しばらくして――

男「お待ちしておりました」

漫画家「……」

男「続きは描いていただけましたか?」

漫画家「ああ、描いた。これが原稿だ」

男「読ませて頂きます」
26:2020/02/03(月) 22:39:11
男「おお……素晴らしい!」

男「絵柄の再現はもちろん、話の展開もいかにもアイアンの作者が考えそうな……」

男「バッチリですよ。これなら必ずや乗っ取れます!」

漫画家「乗っ取る? 何をいってるんだ?」

男「え?」

漫画家「俺こそが≪鋼鉄戦士アイアン≫の作者だ。最初からそうだった。そうだよな?」

男「その通りです……」ゴクッ
28:2020/02/03(月) 22:42:31.188 ID:mjp9sxUE0.net
こうして長い休載から明けた≪鋼鉄戦士アイアン≫は――



「おもしれえ! やっぱりアイアンの作者すげーや!」

「いつもいつも次回が楽しみでしょうがないよ!」

「なぜかテツが休載になっちゃったのは残念だけど、やっぱり本編のがいいわ!」



読者から大好評を得た。

『これ違う作者が描いたんじゃ?』『作者変わったんじゃ?』という声は一切出なかった。
30:2020/02/03(月) 22:45:19.214 ID:mjp9sxUE0.net
編集者「新しく始まった新シリーズも大人気ですよ、先生!」

漫画家「当たり前だ」

漫画家「俺こそが≪鋼鉄戦士アイアン≫の作者なのだから」

漫画家「面白くできて当然なんだ! ハーッハッハッハッハッハッハ!」





漫画家(俺はもう、スピンオフ漫画家なんかじゃない――)
31:2020/02/03(月) 22:48:28.031 ID:mjp9sxUE0.net
……

……

男「“彼”にバトンタッチしてから発売した単行本も、バトンタッチ前以上に売れています」

男「新シリーズも好評ですし、全てが順調ですよ」

男「しかし、正直いって……ここまで上手くいくとは思いませんでしたよ」

男「……編集長」

編集長「うむ、そうだな」
32:2020/02/03(月) 22:51:38
編集長「あの日――」



『先生のご自宅にお邪魔したら、先生が亡くなられていました!』

『なんだとぉっ!?』



編集長「≪鋼鉄戦士アイアン≫の作者は急死してしまった」

編集長「作品はいいところで、とてもじゃないが“作者急逝で終わらす”わけにはいかなかった」

編集長「かといって、彼の後継者になりそうな漫画家などいるはずもなかった」

編集者「いたとしても、“別人が続きを描く”ということに拒否反応を示す読者は多かっただろう」

編集長「だが、さいわいなことに彼は独り身で、彼の死を知る者は我々編集部やごく一部の関係者だけだった」

編集長「そこで我々は――」
33:2020/02/03(月) 22:54:55
編集長「≪鋼鉄戦士アイアン≫を長期休載すると同時に、ある研究所にクローン製造の依頼をした」

編集長「≪アイアン≫作者の死体を材料に、クローンは無事誕生し、それを急成長させ」

編集長「成長したクローンに自分は漫画家である、という記憶を植えつけた」

編集長「クローンだけあって、絵柄の再現については比較的容易だった」

編集長「だが、それだけではまだ足りない」

編集長「≪鋼鉄戦士アイアン≫が名作たりえたのは、作者のハングリー精神があったからだ」

男「だから我々は彼にあえてスピンオフ作品を描かせ、屈辱感を味わわせた」

男「“スピンオフじゃなく本編を描きたい”と思わせるよう仕向けた」

男「そして頃合いを見て、私が“本編を乗っ取りませんか”と接触する……」

編集長「“信じられない”と思えることが真実で――」

編集長「“できるわけない”と思われた計画は大成功したというわけだ」
34:2020/02/03(月) 22:57:26
男「もはや、彼は代理などではなく、本人そのものです。しかも肉体的には若返り、健康になっている」

男「今後ますます作品のクオリティは上がり、人気も伸びていくことでしょう」

編集長「うむ……彼は晴れて≪クローン戦士テツ≫から≪鋼鉄戦士アイアン≫になれたというわけだ」









― 完 ―
35:2020/02/03(月) 23:00:09

何十年後かには現実になってるかも
36:2020/02/03(月) 23:12:08.515 ID:W22eEUnP0.net
急展開こええ
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1580734838