1: 2019/03/17(日)00:33:06 ID:6GD

彡(^)(^)「いやあ花見は楽しいなあ、ファミチキもビールもあるし」

(´・ω・`)「こんな丘の上に桜があったんだねえ」

(´・ω・`)「一本だけだけど、きれいな桜だね、なんて品種だろう?」

彡(^)(^)「桜なんか咲いてたら何でもええわ、とにかくビールや」

彡(゚)(゚)「……ん?」

彡(゚)(゚)「よく見たら、この桜……」

彡(゚)(゚)「ニセモノちゃうか?」

(´・ω・`)「え?」

3: 2019/03/17(日)00:34:33 ID:6GD

(´・ω・`)「まあソメイヨシノじゃないみたいだね」

(´・ω・`)「かなり古い桜みたいだけど」

彡(゚)(゚)「いや、そういうことやなくて」

彡(゚)(゚)「なんか根本的に桜じゃない気がする……」

(´・ω・`)「?」

彡(゚)(゚)「こらお前、ほんまに桜か?(蹴飛ばす)」

(´・ω・`)「やきう君ダメだよ、桜を蹴ったら」

桜「いたた、けるなや」

(´・ω・`)「桜がしゃべったああああああああああ!!」

4: 2019/03/17(日)00:36:43 ID:6GD
桜「そら桜かて色んな種類あるからな、喋るもんもおるわ」

(´・ω・`)「そ、そんなバカな」

桜「別に、とって食うわけやないわ、騒がんでもええ」

(´・ω・`)「でも会話できる桜なんて存在するわけが……」

桜「ふむ」

桜「ほんなら酒の肴に、わしの話でもしたろか」

桜「あれは数百年前のことや」

彡(゚)(゚)「ちょ、ちょっと待ってくれ」

(´・ω・`)「やきう君? どうしたの」

彡(゚)(゚)「腰が抜けたんや、起こしてくれ」

(´・ω・`)「……」

6: 2019/03/17(日)00:38:40 ID:6GD
―はるか昔―


彡(^)(^)「わっはっは、飲めや歌えや」

彡(^)(^)「カネならなんぼでもあるでー、桜の時期は三日三晩飲み明かすんやー」

(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「やれやれ、町一番のお大尽が催す花見と聞いたが」

(´・ω・`)「こんなもので満足するようでは底が知れる」

彡(゚)(゚)「ん?」

7: 2019/03/17(日)00:39:42 ID:6GD

彡(゚)(゚)「なんやお前は、ワイの宴は三国一やぞ」

彡(゚)(゚)「酒は灘から運ばせた、料理は京都の一流の人間が作ったんや」

彡(゚)(゚)「桜かて吉野の山から三十本も運んできたんや、ひと財産ぐらいのカネがかかっとる」

彡(゚)(゚)「これが楽しくないやつなんて、おるわけない」

(´・ω・`)「確かに料理と酒は一流だ」

(´・ω・`)「だが、桜の楽しみ方としてはまるでダメだな」

9: 2019/03/17(日)00:41:08 ID:6GD

(´・ω・`)「まあ、凡人に過ぎぬお前に言っても詮なきことか」

彡(゚)(゚)「聞き捨てならんで! ワイほど桜が好きな人間は他におらん!」

彡(゚)(゚)「これ以上の花見があるというなら見せてみい!」

(´・ω・`)「……よかろう」

(´・ω・`)「では明日、私の庵(いおり)に来るがいい」

(´・ω・`)「北に三つの山を超え、山頂に桜が咲く場所だ、遠目にもすぐに分かる」

彡(゚)(゚)「わかった、明日やな」




彡(゚)(゚)「なんでモデルがワイと原住民なんや?」

桜「イメージしやすいやろ」

13: 2019/03/17(日)00:43:33 ID:6GD

(´・ω・`)「来たか」

彡(゚)(゚)「へんぴなとこに住んでるなあ」

彡(゚)(゚)「ふむ、庵の周りを桜が囲んで……」

彡(゚)(゚)「まあ中々の桜やけど、ワイは日本中の桜を見てきたからな」

彡(゚)(゚)「上野の山や嵐山の桜には遠く及ばんで」

14: 2019/03/17(日)00:44:47 ID:6GD
(´・ω・`)「ふむ、そこには大量の桜があると聞くな」

彡(゚)(゚)「せや、数百本、いや数千本あるで」

(´・ω・`)「しかし、お前はその桜をすべて見たのか?」

彡(゚)(゚)「? いや全部というか、遠目にざーっと広がってるのを見たけど」

(´・ω・`)「花の一つ一つ、花弁の一枚一枚を見たか?」

彡(゚)(゚)「いや、そんな細かいもん見えるわけが……」

(´・ω・`)「では、この水で目を洗いなさい」

(´・ω・`)「この庵の裏手に清水が湧いておる、それに様々な薬草を溶かしたものだ」

彡(゚)(゚)「なんやねん、別に目なんか洗ったって……」チャプチャプ

16: 2019/03/17(日)00:47:18 ID:6GD

彡(゚)(゚)「おお、なんか目がスッキリして……」

彡(゚)(゚)「おお!? 見える、花びらが全部見える!」

彡(゚)(゚)「一枚一枚クッキリと見える! すごい迫力や!!」

(´・ω・`)「人間の網膜には、およそ120万から150万の神経節細胞がある」

(´・ω・`)「網膜が受けた光刺激が神経節細胞に伝わるわけだが、網膜の視細胞自体は一億ほどある」

(´・ω・`)「視細胞を活性化させれば、遥かに高い解像度での視界を得られるわけだ」

彡(゚)(゚)「全っ然分からんけどすごい眺めや……桜がこんなに綺麗やったとは」

18: 2019/03/17(日)00:48:15 ID:6GD

(´・ω・`)「そういえば聞いたことあるなあ」

(´・ω・`)「あるテレビ番組で、桜の花びらをすべて数える実験をしたら、一本の桜から59万枚の花びらが落ちたとか」

桜「その番組作ったやつアホやな……」

彡(゚)(゚)「人のこと言えへんと思う……」

19: 2019/03/17(日)00:49:35 ID:6GD
彡(゚)(゚)「ほんまに綺麗な眺めや、これに比べたら、上野の山の桜も霞む……」

彡(゚)(゚)「あいたた、でもなんか頭が痛い」

(´・ω・`)「目を閉じなさい」

彡(-)(-)「こ、こうかいな」

(´・ω・`)「しばらくすれば水の効果は切れる」

(´・ω・`)「解像度が数百倍になるということは、情報量も数百倍になるということ」

(´・ω・`)「その状態に耐えるためには、何年もの修業が必要なのだ」

21: 2019/03/17(日)00:50:28 ID:6GD

彡(-)(-)「し、修行したら、ずっとこの状態でおれるんか?」

(´・ω・`)「そうだ、そして毎日目を洗えば、いずれはその目が正常になる」

彡(゚)(゚)「お願いや! ワイを弟子にしてくれ!」

彡(゚)(゚)「その目を手に入れたいんや! 何でもする!」

(´・ω・`)「……わかった、では今日からここに住むがいい」




彡(゚)(゚)「えぇ……お金持ちやったんやろ、財産を手放すんかいな」

桜「出家みたいなもんや、そのぐらい決意が硬かったんや」

彡(゚)(゚)「ワイやったらじゃがりこ腹いっぱい食べてからやなあ、人生の目標やねん」

(´・ω・`)「人生の目標、五千円でお釣りくる説」

22: 2019/03/17(日)00:52:01 ID:6GD
―数年後―


(´・ω・`)「苦しい修行によく耐えた」

(´・ω・`)「お前は心身ともに鍛えられ、特別な目を手に入れたのだ」

彡(゚)(゚)「ありがとうやで」

(´・ω・`)「だが、まだ十分とは言えぬ」

彡(゚)(゚)「そうなんか?」

(´・ω・`)「ちょうど桜の時期だ、この酒を目に塗ってみなさい」

彡(゚)(゚)「はあ、ちょっと目に染みるけど」ぬりぬり

彡(゚)(゚)「おお……! なんや!? 桜の花に色がついてる!」

彡(゚)(゚)「紫に橙に桃色や、めっちゃ極彩色や!」

23: 2019/03/17(日)00:53:17 ID:6GD
(´・ω・`)「それは昆虫の視界だ」

(´・ω・`)「昆虫は紫外線を見ることができるため、人間とはまったく異なる風景を見ている」

(´・ω・`)「人間には淡い色に見える花も、昆虫の目から見れば極彩色に見える場合もあるのだ」

(´・ω・`)「どうだ、チョウやハチが花に誘われる気持ちがわかるだろう」

彡(゚)(゚)「これは群がってしまうわあ」

彡(゚)(゚)「この世のものとは思えぬ美しさや、どんな絵や宝石もこれには……」

彡(゚)(゚)「あ、だんだん色が戻って……」

(´・ω・`)「特別な霊酒とはいえ、効果はせいぜい一分だ」

25: 2019/03/17(日)00:54:22 ID:6GD

(´・ω・`)「この目を身につける修行は、先の修行の比ではない」

(´・ω・`)「細胞レベルでの体質改善と、悟りを開くのにも似た精神修養が必要なのだ」

彡(゚)(゚)「なんでもやるわ! あの目が欲しいんや!」

(´・ω・`)「わかった、稽古をつけてやろう」




彡(゚)(゚)「紫外線なんか見えたら日焼けしてまうやろ」

桜「は?」

(´・ω・`)「あ、いつもこんなんなんで気にせずに」

桜「今のはワシちょっとキレそうになったで」

彡(゚)(゚)「沸点ひくい……」

27: 2019/03/17(日)00:56:54 ID:6GD
―数十年後―

(´・ω・`)「よく修行を乗り越えた、お前はすでに人間を越えた目を持っている」

(´・ω・`)「目だけではなく、体力も、精神力も人間を遥かに超えている」

彡(゚)(゚)「やったで」

(´・ω・`)「お前は立派なわしの後継者だ」

(´・ω・`)「お前にももう分かっているだろう、わしは仙人だ」

彡(゚)(゚)「え、全然分からんかった」

(´・ω・`)「え、じゃあ何だと思ってたんだ」

彡(゚)(゚)「…………」

彡(゚)(゚)「すごく暇な人?」

(´・ω・`)「……悲しい」

28: 2019/03/17(日)00:59:24 ID:6GD

彡(゚)(゚)「まあ頭のええ人やとは思ってたけど」

彡(゚)(゚)「今はワイにも分かるけど、世の中でまだ知られとらん知識も持ってるし」

(´・ω・`)「仙人だぞ、何でも知っておる」

彡(゚)(゚)「どのぐらい頭がいいのかと言うと、そのへんのトンボとかミミズとも会話できるほどで」

(´・ω・`)「逆に頭悪そうに聞こえるからやめろ」

29: 2019/03/17(日)01:02:01 ID:6GD

(´・ω・`)「まあいい、わしはまた己の修業に入る」

(´・ω・`)「お前はわしの後継者として修行を積むがいい、いずれ土地神になることもできよう」

彡(゚)(゚)「…………」

彡(゚)(゚)「いや、待ってくれ、まだや」

彡(゚)(゚)「ここで何十年も修行してわかったんや、ワイはまだまだ桜を真に愛でてるとは言えんのや」

(´・ω・`)「なんだ? お前の目はすでに見えぬものなどない目だぞ」

彡(゚)(゚)「目やないんや、本当に桜を愛でるには……」

30: 2019/03/17(日)01:03:04 ID:6GD

彡(゚)(゚)「……という事が必要なんや」

(´・ω・`)「なんだと……」

(´・ω・`)「しかしそれは、わしですら想像もしてなかった事」

(´・ω・`)「仮にできたとしても何十年、いや何百年もかかるかも……」

彡(゚)(゚)「ワイはやってみせる!」

彡(゚)(゚)「何十年、何百年かかっても、必ず……!」

31: 2019/03/17(日)01:05:08 ID:6GD
―現在―


彡(゚)(゚)「ほーん……つまり、こういうわけやな」

彡(゚)(゚)「桜を真に愛でるには、ワイ自身が桜になることや、ドン! と」

桜「今のドンって何や?」

(´・ω・`)「それで、その男は桜になってしまった、という話ですね」

桜「ちがう」

彡(゚)(゚)「は?」

桜「キミら、話の中に出てくるやきう民がわしやと思ってるか」

彡(゚)(゚)「へ? 違うんか?」

桜「仙人だった原住民がわしや」

(´・ω・`)「ええええええええ」

34: 2019/03/17(日)01:08:02 ID:6GD
(´・ω・`)「ど、どうしてそんな姿に? やっぱり桜を愛でるために」

桜「これは寿命を長くするためや」

桜「わしは、あの男のやることを待つために、この土地で桜になることにしたんや」

(´・ω・`)「やること……?」

彡(゚)(゚)「話が見えんで、何が起きたんや」

桜「キミら、桜の欠点って何か分かるか?」

(´・ω・`)「欠点ですか? ええと、比較的病気に弱かったり、剪定するとそこが腐りやすかったり……」

35: 2019/03/17(日)01:09:22 ID:6GD
桜「そういうのもあるけど、最大のものは、開花の時期が短いことや」

彡(゚)(゚)「時期……?」

桜「そう、長い品種でも、せいぜい二週間も咲いてへん。すぐに葉桜になってしまう」

桜「もし、二ヶ月、三ヶ月と花をつける品種があったら、あるいは一年中咲き続ける桜があったとしたら、どうなると思う?」

彡(゚)(゚)「どうなる、と言われても」

桜「この世が極楽になるんや」

彡(゚)(゚)「は?」

36: 2019/03/17(日)01:09:41

37: 2019/03/17(日)01:10:40 ID:6GD
桜「争いもなくなる、悲しいことも穏やかになる、そして毎日がそこはかとなく幸せになるんやな」

桜「あの男は、まず桜を変えるべきと考えたんや。山を降りて、残っていた財産を売り払って園芸屋を始めた」

桜「そして無数の桜を交雑させて、新しい品種を生み出した、それを全国に広めたんや」

(´・ω・`)「それは、もしかして……」

桜「しかし、それも開花が多少長くなったに過ぎん。あいつは仙人界へ登って、そこでまだ改良を続けてる」

桜「仙人界では時間がものすごい速さで流れる、きっと近いうちに、素晴らしい桜ができることやろう」

彡(゚)(゚)「…………」

(´・ω・`)「…………」

38: 2019/03/17(日)01:13:52 ID:6GD
(´・ω・`)「すごい話だったねえ」

彡(゚)(゚)「正直眉唾ものやったけど、壮絶な話やったなあ」

(´・ω・`)「あの丘でずっと待ち続けてるらしいけど」

(´・ω・`)「あの桜もかなりの古木だったし、昔話が本当なら、男が作ったのはソメイヨシノのことじゃないかな」

(´・ω・`)「ソメイヨシノができたのは1800年ごろだし」

(´・ω・`)「品種改良と言っても、簡単にはいかないみたいだね」

彡(゚)(゚)「そうやなあ」

39: 2019/03/17(日)01:16:39 ID:6GD
(´・ω・`)「でもまあ、長く咲き続ける桜ができたら、世の中が極楽になるって」

(´・ω・`)「それはさすがに妄想の域だと思うけど」

(´・ω・`)「そもそも、桜が喋るからって、言ってることが全部本当という証拠もないわけで……」

彡(゚)(゚)「……」

彡(゚)(゚)(せやろか?)

彡(゚)(゚)(ワイらは見たことがないから、そう思うだけで、もし一年中、町が桜で満たされていたら」

彡(゚)(゚)(そこには、ワイらが想像できないような社会が生まれるのかも……)

彡(゚)(゚)(そう考えると、なんや素晴らしい目標に思えてくるで……)

40: 2019/03/17(日)01:17:32 ID:6GD
彡(゚)(゚)「……まあ、それはともかく、あの丘」

(´・ω・`)「うん?」

彡(゚)(゚)「あの丘に人が寄り付かんかった理由って、あの桜やろな……」

(´・ω・`)「…………」

(おしまい)

41: 2019/03/17(日)01:19:19
春らしい話だった、やっぱり杜子春思い出すけど

45: 2019/03/17(日)01:22:48
季節やね
風情のあるスレやったな
サンキューイッチ

46: 2019/03/17(日)01:22:51
おつおつ

引用元: 彡(゚)(゚)「この桜……ニセモノや!」