1: 2009/05/01(金) 00:29:01.87 ID:3qkvpVnX0

女「やってしまった・・・・・」

女「やってしまったよ・・・・・」

女「・・・・・・」

女「どうしようか・・・・」

女「・・・・・・・」

3: 2009/05/01(金) 00:31:37.69 ID:3qkvpVnX0
木々に囲まれた林の中で

私は1人呟いた


女「・・・・・・」

女「・・・・まさか」

女「・・・・・」

女「・・・こんなとこで」


女「迷うなんて・・・・」


5: 2009/05/01(金) 00:34:11.99 ID:3qkvpVnX0

女「こうなったのも・・・・」

女「あんな事考えたからだ・・・・」

女「・・・・・・」

女「気まぐれで・・・・」

女「・・・・・・・」

7: 2009/05/01(金) 00:37:17.48 ID:3qkvpVnX0


事の発端は

さっきの思いつき

発端っていう程、大事ではないけど



休日の昼

そんな時間から塾にいた私は

無事勉強を終えて

家に帰ることにした

9: 2009/05/01(金) 00:40:45.10 ID:3qkvpVnX0
私の通っている塾は

家から自転車で数十分くらいの

まぁなんともいえない距離


ちなみにこの塾を選んだのは

他に近場の塾が無かったからで

別に有名なとこだからとかで選んだわけじゃないわけで

そんでもって



問題はそこじゃないわけで


10: 2009/05/01(金) 00:44:08.23 ID:3qkvpVnX0
塾 帰り道途中



女「はぁ・・・・」

女「なんで休みの昼から塾に行かなきゃ・・・・」


自転車をこいでいた私は


女「でも帰ったらどうしよう・・・・」

女「いつもと違って時間もあるし・・・・」


ふと思いついた


女「・・・そうだ」


女「いつもと違う道で帰ってみようかな・・・・・」

13: 2009/05/01(金) 00:48:35.49 ID:3qkvpVnX0


時間も有り余っていた私は

普通に帰るのもつまらないと思い


違う道を通ってみる事にした



女「どうせ家に帰っても暇だし・・・・」

女「それにいくらなんでも」


女「迷うなんてないだろうし・・・・」


そう



油断してた

14: 2009/05/01(金) 00:51:11.88 ID:3qkvpVnX0

そして今現在



女「・・・・それにしても」

女「ここはどこなんだろう・・・」


女「見たことも無い場所だよ・・・・」

女「・・・まぁいつも通らない道だから当たり前なんだけど」



初の試みを試した私は


案の定迷っていた

15: 2009/05/01(金) 00:55:45.42 ID:3qkvpVnX0
まさか迷うなんて思ってなかった

そして

それだけならよかった


だが私は

よりにもよってなぜか


林の中で迷っていた


女「・・・まさか公道だと思ってたあの林道が」

女「まんま林に続いてるなんて・・・・・」

16: 2009/05/01(金) 00:58:22.50 ID:3qkvpVnX0
女「周り木ばっかだし・・・・・」

女「足場も悪くて自転車こぎにくい・・・・・」

女「ホントどうしよう・・・・」

女「・・・・・・」


こういうのを方向音痴っていうのかな

自覚がなかった


女「・・・う~ん」

19: 2009/05/01(金) 01:02:16.69 ID:3qkvpVnX0
とりあえず辺りを見てはみるが、

やはり何度見ても周りは木ばかり



女「近くに木しか見当たらない・・・・」



どう見ても

やっぱり木ばかり・・・・


女「んん?」



・・・よく見ると


木と木の間から何かが見える

20: 2009/05/01(金) 01:06:59.21 ID:3qkvpVnX0
女「なんだろうあれ・・・・」


目を細める


女「あれは・・・・・」


首を左右に動かす


女「・・・・・・・」











女「・・・・家?」

21: 2009/05/01(金) 01:09:39.46 ID:3qkvpVnX0
いや

家というにはやけに大きく見える


こんな遠く且つ一部だけ見て

大きいと分かるくらい


女「なんだろうあれ・・・・」

女「なんていうか」


女「館みたいな・・・・」

23: 2009/05/01(金) 01:12:23.19 ID:3qkvpVnX0


女「・・・・・・」


私はまたまた

思いついてしまった


女「・・・・どうせだし」









女「見に行ってみようかな・・・・」

24: 2009/05/01(金) 01:15:42.65 ID:3qkvpVnX0
焦っているようにこそ見えるけど

正直さほど危機感は無かった


いくら林に迷ったとしても

まだまだ明るい昼間の時間

それに


いざとなればなんとかなるだろう

その程度くらいしか思ってなかったはず


だからこそ




私は好奇心に負けたんだと思う

25: 2009/05/01(金) 01:18:48.52 ID:3qkvpVnX0

女「・・・・・・」

女「凄い・・・」


私は

好奇心の元に着いた



これは・・・・


女「これは・・・・」


女「洋館、かな・・・・?」

26: 2009/05/01(金) 01:22:27.72 ID:3qkvpVnX0
林の中で私が見つけたのは

洋館らしき建物


周りの木々に負けないほどの

大きさと存在感がある建物


女「凄い・・・・」

改めて呆然とする











女「・・・・あれ」

27: 2009/05/01(金) 01:25:12.61 ID:3qkvpVnX0
私は洋館の前に

看板らしき物を見つけた


女「これは」

女「洋館の看板・・・?」


書かれている文字を見た



女「えっと・・・・」


女「・・・・『図書館』?」


29: 2009/05/01(金) 01:29:57.57 ID:3qkvpVnX0

女「これ・・・・」

女「図書館、なんだ・・・・・」


そうはとても見えない


でも図書館なら



女「・・・・・・」


女「・・・・入りたい」

女「もの凄く入りたい・・・・」


30: 2009/05/01(金) 01:33:27.51 ID:3qkvpVnX0
無類の本好きの私にとっては

とても興味を惹かれる


図書館に見えない外見

こんな林の中に孤立している建物

むちゃくっちゃ惹かれる


女「・・・・如何わしい店とかじゃないよね」



女「よし、入ろう」

女「入ってしまおう」

31: 2009/05/01(金) 01:37:40.14 ID:3qkvpVnX0

洋館の前まで近づいてみた

扉まで大きい


女「ノックとかは・・・いらないよね」

女「一応図書館なんだし」


ガチャ



私は迷子の事を少し気にかけながらも


ほとんどの意識を洋館に向けて


中に入った

32: 2009/05/01(金) 01:41:19.79 ID:3qkvpVnX0

洋館 中



女「うわぁ・・・・・・・」

女「やっぱり広い・・・・・」


女「しかも・・・・・」

女「本がいっぱい・・・・」


女「でも・・・・」

女「やけに暗い・・・・・・」

33: 2009/05/01(金) 01:45:13.07 ID:3qkvpVnX0

日中の真昼間とは思えないほど

光の入らない洋館


けれど

それは決して陰湿な暗さではなく

独特な静けさという感じ


なにより

暗くても分かる空気の広さは


幻想的な何かがある


35: 2009/05/01(金) 01:47:50.59 ID:3qkvpVnX0
暗くて奥のほうこそ見えないが

とにかくたくさんの本棚と

その本棚にしきつめられた本達


それらはしっかり確認できる


そして確認した時には


女「最近の図書館って小綺麗な感じがあったけど・・・・」

女「なんかここは変わってるなぁ・・・・・・」


私はとっくに

本達と洋館の虜になっていた

37: 2009/05/01(金) 01:51:35.68 ID:3qkvpVnX0
「・・・・お客様ですか?」


虜になっていた私の耳に

声が聞こえた


女「?」


声は

暗い奥のほうから聞こえる


「ああ、失敬失敬」


「今そちらに行きますんで」

39: 2009/05/01(金) 01:54:15.61 ID:3qkvpVnX0
奥から出てきたのは

スーツとネクタイを見事に着こなす

紳士みたいなおじいさん


女「もしかして」

女「ここの管理人の方ですか?」


管理人「ええ、その通りです」

管理人「私、ここの本の管理をしております」


女「そうでしたか・・・・」

女「すいません、勝手に入っちゃって・・・・」

40: 2009/05/01(金) 01:58:10.18 ID:3qkvpVnX0

女「料金とかっていくらですか?」

女「もし足りなかったら家に取りに帰りますんで・・・・」

管理人「いえいえ」

管理人「お金取りませんよ」

女「え?」

管理人「私」

管理人「正直、本の為になる物以外はさほど興味が無いんですよ」

管理人「かといってお金で本を買うというのも好きではなくて」

女「い、いいんですか?」

管理人「ええ」

41: 2009/05/01(金) 02:01:19.93 ID:3qkvpVnX0
まさか

タダでこんなにもたくさんの本を・・・・

罪悪感すら感じる・・・


でも


女「・・・・じゃあ」

女「お言葉に甘えて・・・・」


またしても

好奇心と使命感に負けた


なんて弱いんだ私は

42: 2009/05/01(金) 02:04:35.07 ID:3qkvpVnX0

とりあえず

手身近な本棚の本を取ってみた


記念すべき最初の本のタイトルは


女「『科学者の思い出』・・・・」

女「・・・・・・」

女「凄い面白そう・・・・」


私は

その本を読み始めた

44: 2009/05/01(金) 02:07:19.83 ID:3qkvpVnX0
--------------------------
ある所に科学者がいました

その科学者はいつも発明と研究につきっきりでした

家族を顧みる事もせず、ひたすら没頭しました

しかしある日

科学者はある所で、家族の大切さを知りました

そして科学者は

家族思いのいいお父さんになりました

しかし

科学者としての才能は無くなってしまいました
---------------------------

45: 2009/05/01(金) 02:11:16.38 ID:3qkvpVnX0

私は本を閉じた


女「ふぅ」

女「読み終わった・・・・」


女「さて次はっと・・・・・」


次の本を取る

今度のタイトルは


女「『記者の思い出』・・・・・」

女「・・・・・・」

女「同じシリーズ物なのかな?」

46: 2009/05/01(金) 02:14:49.77 ID:3qkvpVnX0
--------------------------
ある所に記者がいました

その記者は、どんな記事でも書く曲者でした

書かれた他人の気持ちなど知らずに

しかしある日

記者はある所で、心の大切さを知りました

そして記者は

ボランティアをするようになりました

しかし

記者としての才能は無くなってしまいました
----------------------------

47: 2009/05/01(金) 02:18:13.57 ID:3qkvpVnX0
私は本を閉じた


女「なんか・・・・」

女「どっちも切ないお話だったなぁ・・・」


管理人「おや」

管理人「もう2冊ですか」

管理人「読み終わるの早いですねぇ」


女「?そうですか?」


管理人「もしかして、本がお好きとか?」


女「・・・・ばれましたか」

49: 2009/05/01(金) 02:22:38.74 ID:3qkvpVnX0
管理人「こんな辺鄙なところまで来て下さるくらいですからね」

管理人「きっとそうだと思いましたよ」


女「えへへ・・・・」


管理人「やはり同じ趣向をお持ちの方と出会えると」

管理人「嬉しい物ですね」


女「いえいえ・・・・」

女「管理人さんには敵いませんよ・・・・」

50: 2009/05/01(金) 02:26:59.07 ID:3qkvpVnX0
管理人「そうだ」

管理人「最近入った新しい本があるんですよ」


女「そうなんですか?」


管理人「はい」

管理人「ぜひとも同士のアナタにも」


そう言って管理人さんは

さっきワタシが本を取った場所の

近くの本を取りだした


そしてその手のまま

私は本を差し出された

51: 2009/05/01(金) 02:31:42.53 ID:3qkvpVnX0
女「これですか?」


管理人「はい」

管理人「別に無理して読んでくださらなくても大丈夫ですよ」


女「いえ」

女「せっかく勧めてくださったんですし」

女「ありがたく読ませていただきますよ」


私は


本を開いた

52: 2009/05/01(金) 02:33:49.82 ID:3qkvpVnX0
その刹那



突然閃光が襲った



私は













本に吸い込まれたような気がした

55: 2009/05/01(金) 02:37:28.13 ID:3qkvpVnX0




壁も何もない空間


今多分


そんなところにいる


奥行きも隔たりもないばかりか

私はどこにも足を置いていない


なのに私は落ちることも無く


一定の位置を保っている



女「なに・・・・これ・・・・?」

56: 2009/05/01(金) 02:42:20.69 ID:3qkvpVnX0
女「さっきの図書館は・・・・?」




女「ここはどこ・・・・・?」




女「なんで・・・・・?」




女「何があったの・・・・・?」




女「私はどうなったの・・・・・?」

58: 2009/05/01(金) 02:47:44.00 ID:3qkvpVnX0
管理人「・・・・ぶですか?!」

管理人「大丈夫ですか?!」


女「え・・・・?」


気付いたら

私は長椅子に横になっていた


管理人「ああ良かった!目覚めた!」

管理人「びっくりしましたよ、急に倒れるもんですから」


女「あれ・・・・・」

59: 2009/05/01(金) 02:52:19.78 ID:3qkvpVnX0
管理人さんによると

どうやら私は

本を開いた瞬間に気を失ったらしい


なんでだろう


女「じゃああれは・・・・」


女「夢、かぁ・・・・・・」


管理人「大丈夫ですか?立てます?」


女「はい大丈夫です・・・」

女「なんとか・・・」

60: 2009/05/01(金) 02:55:11.74 ID:3qkvpVnX0
まだ少しクラクラする


管理人「・・・まだその様子だと」

管理人「ちょっときつそうですね」


女「ごめんなさい・・・・」


管理人「親御さんに迎えに来てもらった方がよさそうですね」

管理人「電話しますので電話番号教えてもらえます?」


女「はい・・・・」

62: 2009/05/01(金) 02:59:05.09 ID:3qkvpVnX0
女「電話番号は・・・」

女「・・・・・・」


あれ


女「・・・えーっと」


おかしい


女「・・・・・・」


女「・・・・いくつだっけ」




電話番号が出てこない

63: 2009/05/01(金) 03:03:08.12 ID:3qkvpVnX0
女「すいません・・・」

女「電話番号が頭に出てこなくて・・・・」


管理人「無理も無いですよその様子じゃあ」

管理人「きっとショックでド忘れちゃったんでしょう」


管理人「とりあえず」

管理人「鞄の中見せてもらってもいいですか?」

管理人「多分何かしらに電話番号が書いてあると思うので」


女「お願いします・・・」

64: 2009/05/01(金) 03:07:43.83 ID:3qkvpVnX0
その後なんとか番号も分かり

管理人さんに電話してもらった


管理人さんが

親に電話で場所の説明やらしている時も

私は

電話番号を思い出せなかった


管理人さんに教えてもらえば

済む話だったのだが

65: 2009/05/01(金) 03:11:35.55 ID:3qkvpVnX0
バタン

扉を開く音


母「女!大丈夫?!」


1人の女性が

飛び込んできた


管理人「この方がお母さんですか?」


女「・・・・・・」


管理人「まだ喋るのは少し厳しいですか・・・」

68: 2009/05/01(金) 03:15:32.35 ID:3qkvpVnX0
管理人さんは

女性に事情を説明した


管理人「先ほどよりは落ち着きましたが・・・」

管理人「まだつらそうですね・・・」


母「・・・そうですか」

母「本当にすいませんご迷惑をおかけして」


管理人「いえいえ」


母「女、立てる?」


女「・・・・・・」


管理人「私が外まで肩を貸しますよ」

70: 2009/05/01(金) 03:19:49.30 ID:3qkvpVnX0
肩を貸してもらった私は

なんとか外まで連れていってもらい

女性が乗ってきたらしい車に乗り込んだ


母「どうもありがとうございました」


管理人「いえいえ」

管理人「一応病院に行ったほうがいいかもしれません」

管理人「それではお大事に」


女性は軽く会釈をすると

車を走らせた

71: 2009/05/01(金) 03:22:34.06 ID:3qkvpVnX0
車の中



母「女、大丈夫?」


女「・・・・・はい」

女「なんとか・・・」


母「良かったぁ」

母「いきなり知らない人から倒れたって電話が来て」

母「お母さん焦っちゃったわよ」


女「・・・・・・」

72: 2009/05/01(金) 03:26:23.51 ID:3qkvpVnX0
母「でもその様子なら」

母「病院に行かなくても大丈夫そうね」


女性は

車の進行方向を変えた


女「・・・・・・」

女「あの・・・・」


母「どうしたの?」

母「そういえば今日はやけに他人行儀だけど」


女「その・・・・・」

74: 2009/05/01(金) 03:30:35.29 ID:3qkvpVnX0
女「一つ・・・・・」

女「聞いてもいいですか・・・・?」


私は

恐る恐る聞いた


母「あれ」

母「やっぱりまだ体調悪い?」


女「いや・・・・」

女「そうじゃないんですが・・・・」

75: 2009/05/01(金) 03:35:33.67 ID:3qkvpVnX0
女「あなたは・・・・・」























女「どなたですか?」

76: 2009/05/01(金) 03:40:14.28 ID:3qkvpVnX0
私は不思議だった

なんでこの女性が迎えに来たのか

私のお母さんでもないのに


あれ

そういえば

私のお母さんってどんな人だっけ

顔どころか何もでてこない


やっぱり体調が悪いせいだろうか

78: 2009/05/01(金) 03:44:56.12 ID:3qkvpVnX0
私がその言葉を告げた瞬間

その女性は目を見開き

唇を少しばかり振るわせた後






なぜか急カーブをし







車の進行方向を戻した

80: 2009/05/01(金) 03:49:32.44 ID:3qkvpVnX0
病院


その女性は車を駐車場に止め

私を引っ張り出した


女「な、なにを・・・・」

女「もう体調は大分良くなりましたけど・・・・」


母「いいから来なさい!」


何を怒っているのだろうか

私は


何か怒らせるような事をしたのだろうか

82: 2009/05/01(金) 03:54:27.16 ID:3qkvpVnX0
それから私は

名も知らない女性に手を引かれ

病院に入った


何度も大丈夫ですと言ったけれど

その女性は聞く耳を持たず

更に

女性の青ざめた顔を見て

私は

随分心配性な人だなぁとか思った

84: 2009/05/01(金) 03:59:25.93 ID:3qkvpVnX0
診察室



看護婦さんに呼ばれ

私たちは入った


医者「今日はどうされました?」


母「大変なんです!」

母「娘が・・・娘が・・・・・」


・・・娘?


医者「えっと」

医者「そこにいらっしゃるのが娘さんで?」



・・・え?

87: 2009/05/01(金) 04:04:51.40 ID:3qkvpVnX0
母「はい、そうなんです」

母「この子が・・・・・」


母「記憶喪失になっちゃったかもしれないんです」


・・・これって


医者「・・・・事情はよく分かりませんが」

医者「一体どういう経緯で?」


母「はい、実はかくかくじかじかで・・・・」




・・・・もしかして私の話?

89: 2009/05/01(金) 04:09:34.68 ID:3qkvpVnX0
医者「なるほど・・・・」

医者「あなたの事をまったく覚えてない、と」


どういうこと?


母「はい多分・・・・・」

母「きっとショックで倒れたのも何か関係が・・・・」


まさか


医者「とりあえず検査してみましょうか」

医者「そうすれば恐らく分かります」


母「お願いします・・・・」

91: 2009/05/01(金) 04:13:39.87 ID:3qkvpVnX0
涙ぐむ女性


おかしい

他人の為にここまでするどころか

泣くなんて

それに記憶喪失がどうとかって


なにより

車の中でお母さんって言ってた

じゃあもしかしてこの人・・・・



私のお母さんなの?

92: 2009/05/01(金) 04:17:55.32 ID:3qkvpVnX0
脳波測定スキャン血液検査etc


全ての検査を終えた私は

診察室に戻った


医者「検査は無事終わりました」

医者「もうすぐ結果がでるでしょう」


母「うう・・・うう・・・・」


まだ泣いている


女「・・・・・・・」

93: 2009/05/01(金) 04:22:03.48 ID:3qkvpVnX0
もしも私がこの人の子供だったら

例え覚えていなくても

私はきっと反省しなくてはならない


車の中で

私が告げた一言

『どなたですか?』


あれはきっと


この人を・・・・・・

96: 2009/05/01(金) 04:26:32.89 ID:3qkvpVnX0
数分後

検査結果らしき紙を

看護婦さんが届けてきた

医者はそれを受け取り

その内容を見た後


医者「・・・・・・・」

医者「う~ん・・・・・?」


困惑したような

そんな表情を浮かべた

97: 2009/05/01(金) 04:30:54.11 ID:3qkvpVnX0
母「どうでしたか・・・?」


自然と眉間に皺が寄る


医者「・・・・・・」

医者「・・・特に」



医者「特に異常は無いですねぇ・・・・・」


母「・・・・・・」

母「・・・・え?」

99: 2009/05/01(金) 04:34:55.56 ID:3qkvpVnX0
医者「脳内の伝達神経等に特に傷も見当たりませんし」

医者「血液内にも酸反応は無いですし」

医者「脳の大きさ形等も普通の人と大差ないです」


母「それじゃあ・・・・・」


医者「そうですねぇ」

医者「少なくとも医学的には何の問題もないはずなんですが」


母「そ、そんな・・・・・」


女「・・・・・・」

100: 2009/05/01(金) 04:37:24.70 ID:3qkvpVnX0

母「それじゃあ・・・・」

母「治療は・・・・・」


医者「残念ながら」

医者「“病気自体発症してない”という結論に行かざるを得ません」

医者「つまり」

医者「治療のしようが無いという・・・・・」


母「で、でも・・・・」

母「この子は実際に記憶が・・・・」

102: 2009/05/01(金) 04:43:39.45 ID:3qkvpVnX0
医者「こう言うのは非常にあれなのですが」

医者「それは、いくらでも説明が出来ます」

医者「例えばそう」


医者「そちらの娘さんが嘘をついていらっしゃるとか」


母「な・・・・」


医者「心苦しい上に申し訳ないのですが」

医者「こちらではそういう判断をせざるをえないんですよ」


母「・・・・・」

106: 2009/05/01(金) 04:48:48.69 ID:3qkvpVnX0


結局

入院どころか薬の処方すらしてもらえず

そのまま帰らされる事になった


女性はまた涙を浮かべながら

そっと

「信じてるからね私は」

そう呟き




私は表情に迷った

109: 2009/05/01(金) 04:51:45.68 ID:3qkvpVnX0

その後


病院を後にし

車にしばらく乗り続けた後


母「・・・・・女」

母「着いたよ」


ある場所に到着した


女「ここは・・・・・?」



母「ここはね」

111: 2009/05/01(金) 04:55:44.50 ID:3qkvpVnX0
母「あなたが一番長い時間いた場所で」

母「あなたが多分大好きだった場所で」

母「私も大好きな場所で」

母「何よりも最も大切な場所」


女「?」


母「・・・・・・・」


母「・・・おかえり、女」


母「ここがあなたのお家よ」

113: 2009/05/01(金) 05:00:52.90 ID:3qkvpVnX0
その女性はそう言った

ここがあなたの家なのよと


女「ここが・・・・・」


まったく思い出せないけど

微かな覚えすらないんだけれど


私は、信じる


女「ここが、私の家」



私のお母さんを

141: 2009/05/01(金) 13:25:52.94 ID:3qkvpVnX0


家の中


母「ここがリビングで、こっちが居間」

母「トイレはすぐ横で、個人の部屋は全部2階よ」


母は

家の中を案内してくれた

そして私も

必死に聞いたり見たい

でも


母「・・・・やっぱり思い出せない?」

142: 2009/05/01(金) 13:31:20.23 ID:3qkvpVnX0
やっぱり何も

思い出す事はなかった


女「・・・・ごめんなさい」


母「いいのよいいのよそんな」

母「ゆっくり思い出していきましょ」


母は微笑む

凄く薄く


母「それより」

母「今日は早いけどもう寝ましょう」

143: 2009/05/01(金) 13:36:31.55 ID:3qkvpVnX0
母「お風呂の入り方とかは分かる?」


コクリ


母「そう、良かった」

母「じゃあ夜ご飯作っとくね」

母「女が大好きだったものいっぱい作るから」


母「それに明日」

母「自転車も取りに行かなきゃね」



女「・・・・・うん」


145: 2009/05/01(金) 13:42:12.97 ID:3qkvpVnX0
食後


母「女の部屋はこの中ね」


女「ここが・・・・・」


母「そうそう」

母「あなた昔っから本が大好きでね」

母「部屋の中に多分たくさん本があるから」

母「もし読みたい本とかあったら読んでみるといいかも」


女「・・・・・・」

女「・・・・ありがとうございます」

146: 2009/05/01(金) 13:46:50.91 ID:3qkvpVnX0


部屋


女の子の部屋には見えないほどの

たくさんの本

もうこれは

部屋というより書斎に近い

しかもぬいぐるみどころか

可愛いものと印象を受けるものが何も無い


女「・・・・私って」

女「変わってたんだなぁ・・・・・」


女「まぁ本好きの私なら分からなくもないけど」

148: 2009/05/01(金) 13:51:29.77 ID:3qkvpVnX0
女「あれ」

女「でも何で私、自分が本好きって事は覚えてるんだろう」

女「記憶喪失って」

女「そういう記憶は残るのかな・・・」


少し不思議に思う


何故か私は、所々覚えている事がある

本好きな事とか

自転車をあの図書館に忘れた事とか


女「・・・・・・う~ん」

150: 2009/05/01(金) 13:56:18.62 ID:3qkvpVnX0
女「とりあえず」

女「もう寝させてもらおう・・・・」


私は端にあるベッドに入った


女「なんか・・・」

女「人の部屋で寝てるみたい」










スヤスヤ

151: 2009/05/01(金) 14:01:15.58 ID:3qkvpVnX0
翌日


お母さんと私は

出かける支度をした


お母さんは仕事を休み

私も学校はしばらく休む事になったらしい

学校の事も何も覚えていないけど


母「じゃあまずは」

母「自転車を取りに行きましょ」

153: 2009/05/01(金) 14:06:17.08 ID:3qkvpVnX0
女「歩きで・・・・・?」


母「うん」

母「ついでに町の風景も見て行きたいなって」

母「もちろん女の体調によるけど」

母「まだ歩くのはきつい?」


女「・・・・・いや」

女「大丈夫です」

女「それに」


女「私も自分の町が見てみたいです」

156: 2009/05/01(金) 14:10:13.63 ID:3qkvpVnX0



私たちは

色んなところを回った


母「ここが公園」

母「あなた昔はここの常連だったのよ」


母「ここがケーキ屋」

母「あなた本だけじゃなくて甘い物も好きだったのよ」


母「あなたの学校や塾は」

母「遠いから今度行きましょうか」

157: 2009/05/01(金) 14:15:12.58 ID:3qkvpVnX0
知らない人間から受ける

知らない町の知らない思い出


女「・・・・・・」


何も分からない私は

当然口から言葉なんか出ず


静かに眺めるだけだった



そして、そうしているうちに



何も感じないまま図書館に着いてしまった

159: 2009/05/01(金) 14:20:19.66 ID:3qkvpVnX0
自転車は外には無かった


母「あれ・・・・」

母「確か、ここだったわよね?」


私は頷く


母「預かってくれてるのかな・・・?」


母「・・・っていうかやっぱり大きいわね」

母「まるでお屋敷みたい」


母は

私と似たような事を言った


母「まぁとりあえず入りましょうか」

163: 2009/05/01(金) 14:27:55.56 ID:3qkvpVnX0
図書館 中



母「やっぱり広い・・・・・」

母「でもこの時間でも薄暗いのね・・・・」


母「この雰囲気タバコが吸いたくなる・・・・」

母「家に置いてきちゃったけど」


管理人「おや」

管理人「あなた方でしたか」


母「あ」

164: 2009/05/01(金) 14:32:28.57 ID:3qkvpVnX0
昨日と何一つ変わらない雰囲気

変わらない容姿


母「すいません勝手に入っちゃって」


管理人「いえいえ」

管理人「いつもの事ですよ」

管理人「それより、その後娘さんは・・・?」


母「それが変わらずで・・・・」

母「しかも病院も相手にしてくれなくて・・・」

166: 2009/05/01(金) 14:36:15.86 ID:3qkvpVnX0


管理人「そうですか・・・・」

管理人「それはお気の毒に・・・・」


母「それで」

母「とりあえず町を見せながらここまで来たんです」

母「何か思い出してくれるかなって思って」

母「あとついでに自転車も」


管理人「ああ」

管理人「自転車でしたら裏の方に止めてあります」


母「そうですか」

母「ありがとうございます」

168: 2009/05/01(金) 14:40:17.49 ID:3qkvpVnX0
やっぱり変だ

町も風景も覚えていないのに


なんで私はこのおじさんを覚えているんだろう


母「ではお邪魔になってしまっても悪いので」

母「帰りますね」

母「自転車の事といい娘の事といい」

母「本当にありがとうございます」


管理人「気にしないで下さい」


管理人「それより」

169: 2009/05/01(金) 14:44:46.15 ID:3qkvpVnX0
おじさんは言った


管理人「せっかくですし」

管理人「本を読んでいきませんか?」


母「え?」


管理人「悪くは無い本が揃っている自信はありますよ」

管理人「それに

管理人「娘さんも何かを思い出すかもしれませんし」


母「・・・・・・」

171: 2009/05/01(金) 15:00:24.99 ID:3qkvpVnX0
確かにそうだ

娘は多分、この図書館で記憶を失ったらしかった

ならもしかして


ここにいれば何かのきっかけで思い出すかも


母「・・・そうですね」

母「本好きな娘なら、ここは絶好の場所ですし」

母「もしかしたら何か思い出すかも」


母「・・・よろしかったら」

母「しばらくいさせてもらってもよろしいでしょうか?」


管理人「はい、全然大丈夫ですよ」

172: 2009/05/01(金) 15:03:08.96 ID:3qkvpVnX0

記憶喪失なのに

ところどころ残る記憶


そして

他にも残っているものがある


それは確か


私が倒れた時の事


174: 2009/05/01(金) 15:07:14.65 ID:3qkvpVnX0
母「ところで料金は・・・・?」


管理人「お代はいりません」

管理人「ご自由にどうぞ」


母「え・・・・・?」

母「無料、ですか・・・・?」


管理人「はい」


母「・・・こんなにもたくさんの本があるのに?」

175: 2009/05/01(金) 15:11:54.33 ID:3qkvpVnX0
管理人「はいそうですよ」

管理人「私、本の為になるもの以外は興味が沸かないんですよ」

管理人「かといってお金で本を買うのも好きじゃなくて」


母「そうなんですか・・・」

母「それじゃあ」

母「お言葉に甘えて・・・・」


母「女、管理人さんが好きな本読んでいいって」


女「・・・・・・・」

176: 2009/05/01(金) 15:15:32.77 ID:3qkvpVnX0


この会話も覚えている

このやりとりは前も聞いた


どういうことなんだろう

記憶が残ってたら

記憶喪失じゃないと思うんだけど


そしてなにより

私が倒れた時

178: 2009/05/01(金) 15:19:31.81 ID:3qkvpVnX0
管理人「そうだ」

管理人「新しく入った本があるんですよ」

管理人「この本なんですが」


そう言って管理人さんは

本を差し出してきた


母「これですか?」


母「・・・・・でもなんで私に?」


何故か娘じゃなくて

私に

179: 2009/05/01(金) 15:24:31.86 ID:3qkvpVnX0
管理人「いや、娘さんには一回勧めたので」

管理人「それに」

管理人「お母さんもずっと待ってるだけじゃあ暇でしょうから」


母「・・・・・・」

母「・・いいんですか?私まで」


管理人「ええ、どうぞどうぞ」


母「それじゃあ・・・・・」

母「読ませてもらっちゃおうかな・・・・」


母は本を受け取った

180: 2009/05/01(金) 15:28:15.49 ID:3qkvpVnX0
完全に思い出した


私は倒れる前に

勧められた一冊の本を開いた

その瞬間に、その本に吸い込まれたような

そんな感じがして

そうして気付けば倒れてて

大体の記憶を失ってた









大声で叫んだ

181: 2009/05/01(金) 15:29:46.86 ID:3qkvpVnX0
女「・・・・・だめ」





















女「その本を開いちゃだめ!」

183: 2009/05/01(金) 15:34:31.09 ID:3qkvpVnX0
そうだ


私があの時読んだ二つの本の話

そのどちらもが

一部の記憶だけ失った人のお話だった


そして私も

一部の記憶は残っている


じゃああの本は

私が開いたあの本は

母が開こうとしたあの本は

187: 2009/05/01(金) 16:00:20.88 ID:3qkvpVnX0
『私、本のためになるもの以外興味が無いんですよ』


じゃあ

本の為になるものには興味があるって事?


『こんな辺鄙なところまで』


それは

周りに気づかれない様にしてるって事?


『お金取りませんよ』


なら




別の何かは徴収するってこと・・・・?

188: 2009/05/01(金) 16:05:38.80 ID:3qkvpVnX0
私は驚いた

ずっと静かだった娘が


急に大声で叫ぶから

母「ど、どうしたのよ急に・・・」

母「もしかしてこれ読みたかった?」


女「・・・違うの」

女「その本は・・・・・」





女「・・・記憶を奪う本なの!」

189: 2009/05/01(金) 16:08:34.55 ID:3qkvpVnX0
管理人「・・・・・・」


母「い、いきなりどうしたのよ・・・・?」

母「よく意味が・・・・・」


女「私・・・・・」

女「私、覚えてる事があるの・・・」


母「覚えてる事?」

192: 2009/05/01(金) 16:12:24.49 ID:3qkvpVnX0
女「私も」

女「昨日お母さんと同じ様に本を勧められた」


女「それで」

女「そのとき本に吸い込まれるような感じがして」


女「その後気づいたら記憶が無くなってた」

女「だからきっとその本は・・・・」


母「・・・・・・」


管理人「・・・・・」


彼は無表情のまま

何も言わない

193: 2009/05/01(金) 16:16:01.87 ID:3qkvpVnX0

母「でもいくらなんでもそんな話・・・・」

母「それこそ小説じゃないんだから・・・・」


女「・・・・・・」

女「・・・・でも」



女「多分証拠もある」

194: 2009/05/01(金) 16:19:55.57 ID:3qkvpVnX0
そう言うと彼女は

いきなり本棚を探り始めた


あの例の2冊の本があった本棚を


管理人「・・・・・・」


彼は口を開かない




女「・・・・・・・」


女「・・・あった!」

女「これ!」

196: 2009/05/01(金) 16:23:15.32 ID:3qkvpVnX0
女「この本」


母「これ・・・・?」


娘が差し出した本

タイトルは


母「『女の子の思い出』・・・・・」


女「多分これだと思うんです」

女「読んでみてください」


母「・・・・うん」


何も理解できないながらも

とりあえず本を開いた

197: 2009/05/01(金) 16:29:08.21 ID:3qkvpVnX0
--------------------------
ある所に女の子がいました

その女の子はとにかく本が大好きでした

本の事になると他が見えなくなるくらい本好きでした

そんなある日

女の子はある所で、不思議な本を読みました

そして女の子は

その本の素晴らしさに虜になりました

しかし

女の子は、代わりに大事な事を忘れてしまいました
---------------------------

218: 2009/05/01(金) 19:17:29.68 ID:3qkvpVnX0


母「あ・・・・あ・・・・・・」

母「これ・・・・・・」

母「このお話・・・・・・」


女「多分」

女「・・・・私のお話」


女「きっとあの本は、開いた人の記憶とか思い出を奪って」

女「そのお話を本にする・・・・とか」


女「だからきっと私は記憶喪失なのに」

女「本の事とかは覚えてた」


219: 2009/05/01(金) 19:22:18.71 ID:3qkvpVnX0
女「昨日見た時はこの本は多分無かったですし」

女「今日入荷したにしても」

女「こんな古ぼけてるわけないです」


女「・・・・・・」

女「・・・・・管理人さん」


管理人「・・・・・・」


まだ口を開かない

221: 2009/05/01(金) 19:28:00.35 ID:3qkvpVnX0
長い沈黙

広い静寂


その静かさは

洋館の元々の暗さも合わさって

より一層不気味な時間になった


そして




管理人「・・・・・・フフ」


彼は口を開いた

223: 2009/05/01(金) 19:33:13.18 ID:3qkvpVnX0
管理人「・・・・素晴らしい」

管理人「実に素晴らしい!」


先ほどとは打って変わっての

響く大声


女「・・・・・・」


管理人「まるでそう!」

管理人「推理小説の犯人役にでもなったみたいに!」

管理人「追い詰められる緊張と興奮」


管理人「たとえ擬似でもこの年で味わえるとは」

管理人「本好きの私にはたまりません」

225: 2009/05/01(金) 19:37:47.23 ID:3qkvpVnX0

母「じゃあ・・・・・」

母「本当にそんな事が・・・・・」


管理人「ええそうです」

管理人「まさにその通りですよ」


管理人「そうだ」

管理人「説明も含めまして」


管理人「私のお気に入りの昔話を話しましょうか」


管理人「きっと本好きのあなたなら」

管理人「気に入るはずですよ」


女「・・・・・・」

226: 2009/05/01(金) 19:41:53.61 ID:3qkvpVnX0
--------------------------
昔、まだ若い青年がおりました

その青年は無類の本好きで

希少な本があると聞けば、辺境にまで赴く変わり者でした

そんな青年でしたから

当然の如く本の情報や噂には詳しく

本への欲求へ向かう内に

ふと気づけば

図書館を開館できるくらいまで本を持っていました
---------------------------

227: 2009/05/01(金) 19:45:27.17 ID:3qkvpVnX0
---------------------------
そんな青年がある日

とても興味をそそられる情報を手にいれました

『人の思い出をお話にする本』

青年はとても惹かれました

その情報を元に長年の苦労を費やし

青年は遂に

その本を手に入れました

そして



青年は、その本を開きました
----------------------------

228: 2009/05/01(金) 19:49:28.61 ID:3qkvpVnX0

母「じゃああなたも・・・・・」


管理人「ええ、開いてしまいましたよ」

管理人「おかげで今の私に残っている記憶は」

管理人「この洋館内の本の内容だけ」

管理人「あと、来たお客様を少々くらいですか」


管理人「・・・・でも私は」


管理人「あなたとは違う道を進んだんですよ」


女「違う道・・・・?」

229: 2009/05/01(金) 19:54:17.71 ID:3qkvpVnX0
管理人「そう」

管理人「私は昔の記憶を探そうだなんて考えなかった!」


管理人「終わった事などどうでもいい!」

管理人「いやむしろ!」

管理人「足枷が無くなってせいせいしました!」


女「そんな・・・・・」


管理人「あなたにも分かりませんか?」

管理人「何にも邪魔されずに、一つに熱中したいこの気持ちが」




「本好きの、あなたなら」

232: 2009/05/01(金) 19:57:42.64 ID:3qkvpVnX0
もしこの人が

冗談で言っているのなら

私はよくそんな悪い冗談が言えるものだと

軽蔑します


もしこの人が

本気で言っているのなら

私はなんでそうなってしまったのかと

憐れみを感じます


そう



つまりは

233: 2009/05/01(金) 20:01:44.15 ID:3qkvpVnX0
女「・・・・・分かりません」


女「そんなの、理解できません」


管理人「・・・・・・・」


彼は首を傾げる


管理人「・・・・なぜ」

管理人「なぜなんです?」

管理人「本が好きなのに?」



女「・・・確かに」


女「確かに本は好きです・・・・・」

234: 2009/05/01(金) 20:05:14.68 ID:3qkvpVnX0
私の隣に立っている女性


女「でも・・・・・・」


不安でいっぱいだった私を


女「私には・・・・・」


ひたすら引っ張ってくれた女性

笑いかけてくれた


お母さん


女「本よりも」

女「ずっと大事な物があるんです」

235: 2009/05/01(金) 20:09:27.56 ID:3qkvpVnX0
言い終えた私は

お母さんに笑いかけた


母「女・・・・・・」


管理人「・・・・そうですか」

管理人「やはり」

管理人「私ほどの本好きは早々いないものですね・・・」


管理人「・・・まぁいいでしょう」

管理人「別に同士がいなくとも、本は読めます」


管理人「それより」

237: 2009/05/01(金) 20:13:41.63 ID:3qkvpVnX0

管理人「残念ながら」

管理人「このお話は、ハッピーエンドにはなりえませんよ」


女「・・・・・」


管理人「一旦本になった記憶を取り戻す方法は」

管理人「持ち主の私にも分かりませんからねぇ」


母「・・・・・・」


管理人「それに私がたとえ知っていたとしても」



管理人「私は、円満で解決するお話が大嫌いでしてね」

238: 2009/05/01(金) 20:16:41.53 ID:3qkvpVnX0
管理人「都合の良い設定で都合よくみんな幸せ」

管理人「ああそんなのは反吐が出る!」


管理人「真に美しいのは」

管理人「敗北と支配に満ちたバッドエンド!」


管理人「それこそ小説!」

管理人「それこそが本当のお話!」


管理人「あなたの記憶は戻らない!」

管理人「それが現実!」

240: 2009/05/01(金) 20:22:05.77 ID:3qkvpVnX0
荒んだ声

引きつった形相

もうそこに紳士のおじさんの面影は無く

ただの狂人にしか見えない


もうこの人は

救いようが無い


本という呪いにかかり

抜け出せなくなった人

そんな彼を救うには




こうするしかない

242: 2009/05/01(金) 20:26:06.05 ID:3qkvpVnX0


母「・・・・あなたがおっしゃりたい事は」

母「よく分かりました」


管理人「それはそれは」

管理人「人に理解してもらえるのは嬉しい事です」

管理人「たとえ、それが上辺だけの理解でも」


母「・・・・・・そうですね」

母「きっと、上辺だけの理解でしょうね」

母「なので私は」


母「こういう選択を取ります」

244: 2009/05/01(金) 20:28:50.85 ID:3qkvpVnX0
母は





















ポケットからライターを取り出した

248: 2009/05/01(金) 20:33:16.17 ID:3qkvpVnX0
母が持っているのは

きっとタバコを吸うためのライター


母「タバコは置いてきちゃったけど・・・・」

母「まさか、こんなとこで役に立つなんてね」


彼の顔が

みるみる青ざめる


管理人「な、な、な・・・・・・・」


管理人「な、なにをす、する気ですか・・・?」

251: 2009/05/01(金) 20:38:05.30 ID:3qkvpVnX0
母「そんなの決まっています」

母「こうするんです」


母は

手に持っていた本とライターを掲げ


管理人「ま、まさか・・・・・」


管理人「や、やめてくれ・・・・・・」




シュボ



本に火をつけた

255: 2009/05/01(金) 20:52:12.84 ID:3qkvpVnX0

母はすぐに本を投げ捨てた

暗い館内を照らす火


本はみるみる燃えて行く


管理人「あああ・・・・・あ・あ・あ・あ・・・・」

管理人「なんてことを・・・・」


彼は

本に近寄った


管理人「早く・・・・消さないと・・・・」

管理人「早く・・・・・」

256: 2009/05/01(金) 20:55:21.74 ID:3qkvpVnX0
彼は本に手を伸ばした

すると火は

彼の服に燃え移った


管理人「ひ、ひゃああ・・・・・」

管理人「水・・・・水・・・・・・」


見るからに動揺している


管理人「燃える・・・燃えてしまう・・・!」

管理人「本も・・・・私も・・・・・!」

258: 2009/05/01(金) 20:59:22.63 ID:3qkvpVnX0
火の恐怖におびえたのか

はたまた焦りで何も見えていないのか

彼は突如走り回り始めた


そして当たり前のように

火は回りの本にも燃え移り


あんなに暗かった館内に


赤と黄色の照明が


ひたすら点滅を繰り返した

262: 2009/05/01(金) 21:04:47.02 ID:3qkvpVnX0


その後私たちは無事に逃げのび

この事は忘れる事にした


後日に人づてに聞いた話だと

あの図書館は一晩中燃え続けたらしく

周りの木々に飛び火してたら

近所まで危なかったと聞いた


それを聞いて少しばかり罪悪感を感じたものの

私達は



ほぼハッピーエンドの結末を喜んだ

264: 2009/05/01(金) 21:09:32.31 ID:3qkvpVnX0
とある日



受付「先生」


医者「ん?どうしたんだい?」


受付「実は」

受付「雑誌の記者の方がお見えになっていまして」


医者「ああ、そうだったね」

医者「ちゃんと事前に連絡もらってるから通してもらって」


受付「分かりました」

266: 2009/05/01(金) 21:13:26.68 ID:3qkvpVnX0
記者「どうもすいません」

記者「忙しいところをお時間を頂いて」


医者「いえいえ、構いませんよ」


記者「それじゃあさっそく、時間も限られていますので」


記者「実は今度」

記者「ちょっと変わった患者さん特集というのをやろうと思いまして」


医者「ほう」


記者「それで、是非現役のお医者様にお話を聞きたいなと」

記者「そんな考えで赴いた次第です」

267: 2009/05/01(金) 21:17:23.45 ID:3qkvpVnX0
記者「もちろん個人情報は聞きませんし書きません」

記者「出来れば程度で結構です」


医者「・・・・・・」

医者「・・・・なるほど」


記者「それで、何かありませんか?」


医者「うーん・・・・・」

医者「あ」


医者「そういえば、この前に記憶喪失の変わった患者さんが・・・・」

269: 2009/05/01(金) 21:21:11.55 ID:3qkvpVnX0
それから数十分に及ぶインタビューを終えた私は

帰る記者を見送った

だが


医者「・・・・おかしいなぁ」


首を傾げる


受付「?どうしたのですか?」


医者「いや」

医者「あの記者は敏腕で有名な人だったはずなんだが・・・・」

医者「なんだかあっけなく終わってしまったよ・・・・」


受付「・・・そうなのですか」

271: 2009/05/01(金) 21:24:18.08 ID:3qkvpVnX0
頭を掻きながら

メモを取った手帳を見る


記者「・・・・・・」

記者「・・・・だめだ」


記者「こんなんじゃ、話にならない」



そう一言呟くと

記者は

手帳を投げ捨て


どこかに向かって歩いていった

273: 2009/05/01(金) 21:26:25.08 ID:3qkvpVnX0
そう

物語は

常に繋がっている


あらぬところから

一本の線を見せながら


そして

その線を辿った先に








何かしらの結末がある


fin

274: 2009/05/01(金) 21:27:12.34

不思議な感覚です・・

275: 2009/05/01(金) 21:27:55.16

分かったような分からんような

278: 2009/05/01(金) 21:29:07.19
おつ!
不思議な話だった

283: 2009/05/01(金) 21:33:21.17 ID:3qkvpVnX0
>>280そうです、本の被害者達は実は繋がっているっていう感じにしました

皆様支援保守等ありがとうございました
次もしまた会いましたら是非宜しくお願いいたします

引用元: 女「やってしまった・・・」