1:2020/03/21(土) 16:30:13.569 ID:jOOl+9Q20.net
男「同じ職場で働いてて、ずっと前から好きでした!」

男「付き合って下さい!」

女「ごめんなさい……」

男(ダメだったか……)

女「私、死体しか愛せなくて……」

男「え」

女「だけど、そんな風にいわれるのは初めてで、嬉しい……」

女「よかったら、私の家に来ない?」

男「あ、じゃあ……お邪魔します」
2:2020/03/21(土) 16:30:46.223 ID:szgls5LCF.net
意味がわかると怖い話
3:2020/03/21(土) 16:32:12
死体は探すより作る方が簡単だもんな
5:2020/03/21(土) 16:33:39
― 女の自宅 ―

女「これ……インターネットで集めた死体の画像集」

女「よかったら見て。もちろん、グロテスクなものはないから」

男「は、はい……」

女「どうやら私、いわゆるネクロフィリアという人種らしくて」

男「ネクロフィリア……?」

女「日本語でいうと死体愛好家、といったところ」

男「ああ、なるほど……ハハ」
7:2020/03/21(土) 16:36:20
女「だけど私、ネクロフィリアがいきすぎちゃって……」

男「?」

女「死体を動かせるようにもなったの」

男「……へ?」

女「二人とも、入ってきて」

入ってきたのは――

ガイコツ「ちぃーっす!」カタカタ

ゾンビ娘「こんにちは!」

男「えええええ!?」

女「そう……私、ネクロフィリアでネクロマンサーなの」
8:2020/03/21(土) 16:37:11
ガイコツはしたいと言えるのか
9:2020/03/21(土) 16:39:27
ガイコツ「こいつが家に誰か連れてくるなんて初めてだな! お前すげえ快挙だぜ!」

男「どうも……」

ゾンビ娘「あたし、ゾンビだけどよろしくね!」

男「よ、よろしく……」

男「えぇと、この二人は?」

女「自殺の名所をさまよってた時見かけて、術をかけたら動けるようになったの」

男(なんてリアクションしていいのか……)

女「付き合うことはできないけど、あなたとは仲良くなれそう……これからも遊びに来てね」

男「うん……そうするよ」
11:2020/03/21(土) 16:43:16
― 相談センター ―

男(僕は市営の相談センターで相談員をしている)

男(人々の悩みを聞いて、励ましたり、アドバイスするのが仕事だ)



所長「おーい、相談者が来た。応対してくれ」

男「分かりました」

男「今日はどのようなお悩みで?」

相談者「実は、思春期の息子のことで……」



男(大変な仕事だけど、やりがいはある)
13:2020/03/21(土) 16:45:27
男(一方の彼女は事務員をやってる)



所長「この書類、頼むよ」

女「分かりました」



男(真面目で、仕事もできて、センターに欠かせない存在だ。だからこそ僕も惚れたのだ)

男(死体を愛してようが、動かせようが、好きだって気持ちは今でも変わりない)

男(僕と付き合ってくれることはないだろうけど、これからも仲良くしたい)
16:2020/03/21(土) 16:48:32
― 女の自宅 ―

男「やぁ、また遊びに来たよ」

女「いらっしゃい」

男「ほら、ガイコツ君、カルシウムのサプリメント」

ガイコツ「サンキュー!」

ガイコツ「うめぇ~!」バリボリ

ガイコツ「ふぅぅぅ……骨が頑丈になった気がするぜ!」シャキーン

男「錠剤はいったいどこに消えてるんだろう……」

女「それはいいっこなしよ」
17:2020/03/21(土) 16:51:24
男「ゾンビちゃんにはリボン買ってきたよ」

ゾンビ娘「わっ、ありがとう!」

さっそく頭にリボンを飾る。

ゾンビ娘「どう、似合う?」

男「うん、とっても似合うよ」

ガイコツ「イカしてるぜ!」

女「可愛いわ……。赤いリボンが、不健康な肌色によくマッチしてる」

ゾンビ娘「えへへっ、ありがとう!」
18:2020/03/21(土) 16:54:21
……

男「今日はゲームでもやろうか」

ガイコツ「格ゲーか? よっしゃ、俺が相手になってやらぁ!」



ゾンビ娘「どっちも頑張れ~!」

女「キャラクターが殴り合って、どちらかが死体になるゲームね?」

ゾンビ娘「いや、そんな物騒なゲームじゃないよ!?」
19:2020/03/21(土) 16:57:30
ドカッ! バキッ! ドガガガッ!

ガイコツ「あれ? うおっ! ――強っ!」

男「…………」ニヤリ

ガイコツ「お前なんでこんな強いんだよ!」

男「昔、引きこもりの少年と向き合うため、一緒にゲームしてたことがあるからね」

男「こう見えてゲームは強いよ」

ガイコツ「く、くそ~!」



女「体力がゼロになって、倒れてるキャラクターも悪くないわね」

ゾンビ娘「うーん、そうかなぁ……」
20:2020/03/21(土) 16:59:56
クオリティーが高い
21:2020/03/21(土) 17:00:28
ドゴーンッ!

ガイコツ「うぐぐ……また負けた。少しは接待しろよな!」

男「あいにく、ゲームに関しては僕は手加減しない主義なんだ」

ガイコツ「ひっでえ! そんなんじゃ女にモテねえぞ!」

ゾンビ娘「そういえば、引きこもりの子はどうなったの?」

男「今は元気に学校に通ってるよ。たまにメール交換もしてる」

女「あなたがその子と真剣に向き合ったおかげね」

男「真剣になりすぎて、僕の方がマジになっちゃったこともあったけど」

アッハッハ…
22:2020/03/21(土) 17:03:32
……

ゾンビ娘「お兄さん、この前はリボンありがと!」

男「どういたしまして。気に入ってもらえたようで嬉しいよ」

ゾンビ娘「あたしお礼をしたいんだけど……」

男「お礼? なんだろ」

ゾンビ娘「あなたのこと、噛んでもいい?」

男「噛む……?」
23:2020/03/21(土) 17:05:49
ゾンビ娘「ただし、噛んだらあなたもあたしの仲間になっちゃうけど」

男「仲間に……!?」

ゾンビ娘「そ、つまりゾンビになるってこと。映画みたいに」

ゾンビ娘「あたし、寂しいんだよね~。他に仲間がいなくてさ。ガイコツはゾンビって感じじゃないし」

ゾンビ娘「だけどあなたがゾンビになってくれたら、きっと……」

男「…………」

男「もし、それが君の救いになるのなら……かまわないよ」
24:2020/03/21(土) 17:08:36.440 ID:jOOl+9Q20.net
ゾンビ娘「……ぷっ」

ゾンビ娘「アハハハッ! 冗談に決まってるじゃん! 噛んだってなんにもならないよ!」

男「なんだ、からかわれたのか」

男「今一生懸命、ゾンビになった後、どう暮らしていくかシミュレーションしてたのに」

ゾンビ娘「アハハ、面白い人!」



ガイコツ「あいつ……いい奴じゃねえか」

女「……うん」
25:2020/03/21(土) 17:10:15.286 ID:wTw8mb1Br.net
うんいいぞ
26:2020/03/21(土) 17:12:31.515 ID:jOOl+9Q20.net
― 相談センター ―

男「どうぞおかけ下さい」

婦人「初めまして……」

相談者は老年に差しかかろうという婦人だった。

男「今日はどういったご相談で?」

婦人「実は、先日主人を亡くしまして……」

婦人「子供もおらず、二人でずっと生きていこうと思った矢先に……」

男(長年連れ添ったご主人との死別か……さぞかし辛いだろうな)
29:2020/03/21(土) 17:14:25
……

男「――どうかお気持ちを強く持って下さい」

婦人「ありがとうございます。色々と吐き出したおかげで、ずいぶん気持ちが和らぎました」

男(気持ちが和らいだ、といっても一人になれば、やはり心細くなるだろうな)

男(焦っちゃいけない。心の傷はそう簡単に癒えることはないんだ)

男(時間をかけて、じっくりやっていこう)
31:2020/03/21(土) 17:17:38
所長「おい、今日は一人の相談者に時間かけすぎだぞ」

男「すみません。しかし、あのご婦人の心のケアはじっくりやらないと……」

所長「俺たちはしょせん市営のカウンセラー、やれることなんて限られてる」

所長「相談者にあまり入れ込んでもしゃあないぞ。流れ作業でいいんだ。程々にしとけ」

男「ですが、これが私のやり方ですから」

所長「ちっ! ったく、普段は大人しいくせに、こういう時は頑固だな」

男「申し訳ありません」



女「…………」
32:2020/03/21(土) 17:20:15
ある日、街中を歩く二人。

女「あの……」

男「ん?」

女「お礼をいいたいの」

男「お礼?」

女「いつも、あの二人と遊んでくれてありがとう」

女「このところ、あの二人とても生き生きしてるの。あ、もう氏んでるけど……」

男「僕だって楽しんでるからお互い様だよ」
35:2020/03/21(土) 17:24:43.946 ID:jOOl+9Q20.net
女「あなたは偉いわ。身内でもない人のためにあんなに尽くせるんだから」

女「生きてる人でなく、死体を愛でてる私とは大違い……」

男「そんなことないよ。僕がカウンセラーをやってるのは結局自分のためさ」

女「どういうこと?」

男「僕、中学生の頃、いじめを受けてるクラスメイトから相談を受けたことがあったんだ」

男「だけど、僕も部活や勉強で忙しかったから、僕は一度“自分で頑張れ”と突き放してしまった」

男「そうしたらその夜、突き放してしまったことが気になって気になって眠れなくなっちゃって」

男「次の日には『昨日はごめん……』と相談に乗りに行ったんだ」

男「その後、彼とは友達になって、僕もぐっすり眠れるようになった」

男「思えばあの時からかな。カウンセラーのような職業につこう、と思ったのは」

男「だから、僕が人に尽くすのは、自分が快眠したいからなんだよ」

女「“情けは人のためならず”ってわけね」
36:2020/03/21(土) 17:27:29.731 ID:jOOl+9Q20.net
男(今なら、聞けるかも――)

男「…………」

男「どうして君は死体を――」

男「!」ハッ

男「あれは……!」



会社員「…………」

スーツを着た会社員が道端で倒れていた。
38:2020/03/21(土) 17:29:17.982 ID:jOOl+9Q20.net
男「大丈夫ですか!?」

会社員「…………」シーン

男「大変だ! 意識がない! すぐ救急車を……!」

男「もしもし……!」

女「…………」

男(救急車は呼んだけど、間に合うか……!? とりあえず心臓マッサージを……!)
39:2020/03/21(土) 17:33:54
女「私、ネクロマンシーをやってみるわ」

男「へ?」

男「だって、それって死体を動かす術じゃ……?」

女「私が学んだネクロマンシーは死体に魂を入れてムリヤリ動かす術……」

女「だとするなら、死にかけてるこの人の命を留めておくこともできるかもしれない……」

男「ホントかい!?」

女「とにかく……やってみる。あなたも処置をお願い」

女は救急車が駆けつけるまでの数分、怪しげな呪文を唱え続けた。
40:2020/03/21(土) 17:36:30
ピーポーピーポー…

救急隊員A「おおっ、ギリギリのところで生きているぞ!」

救急隊員B「これなら助かるかもしれない!」

ブロロロロロ…

走り去る救急車。



女「…………」

男(彼女の呪文の効果かは分からないが、どうやらあの人は助かりそうだ。本当によかった)

男(死体が好きというけど……決して命を見捨てたりする人ではないんだな)
41:2020/03/21(土) 17:40:06
ある日――

― 女の自宅 ―

女「あ、冷蔵庫に食べ物がない」

女「ちょっと出かけてくるわ。男さん、留守番お願いできる?」

男「いいよ。行ってらっしゃい」

ゾンビ娘「行ってらっしゃーい!」

ガイコツ「牛乳買ってきてくれ! あと煮干し! それと納豆や豆腐も!」

女「注文が多い骸骨ね」

男(カルシウム豊富そうなのばかり……)
43:2020/03/21(土) 17:45:11
三人になった家で、

男「そういえば……君たちはどうして亡くなったの?」

ゾンビ娘「あー、それ聞いちゃう?」

男「あ、いや、職業柄つい……」

ゾンビ娘「話してもいいけど、とっても胸糞悪くなると思うよ」

ガイコツ「俺の場合、サスペンス要素も混じってるぜ! 二時間ドラマになるぐらいのな!」

ゾンビ娘「それでも聞きたい?」ニヤニヤ

ガイコツ「聞きたいかぁ~?」カタカタ

男「…………」ゴクッ

男「や、やっぱり……聞かないでおく」

ゾンビ娘「アハハ、おどかしすぎちゃったかな」

ガイコツ「ま、あんたがカウンセラーLV99ぐらいになったら話してやるよ」

男「うん、そうするよ」
44:2020/03/21(土) 17:48:25
ガイコツ「それにカウンセリングってのは、あくまで生きてる奴を助けるためのもんだからな」

ガイコツ「だから……あんたならあいつを助けられるかもしれねえ」

男「あいつって?」

ガイコツ「俺たちのご主人だよ」

男「? 彼女……なにか悩みでもあるの?」

ガイコツ「自分たちのことは話さないで、他人のことを話すのは卑怯かもしれねえが……」

ガイコツ「あんたにゃ話しておきてえ」

ガイコツ「あの娘は交通事故で家族をいっぺんに失ったんだ」

男「え……!」
45:2020/03/21(土) 17:50:37
ガイコツ「俺らも詳しくは知らねえんだが……」

ガイコツ「警察に発見された時、あいつはもう息してない家族にすがりついて泣いてたらしい」

ガイコツ「それからあいつは、家族を生き返らすため、ネクロマンシーを身につけた」

ガイコツ「結局、ある程度死体が残ってないといけない術だったから、それは叶わなかったが……」

ガイコツ「あいつが自殺の名所にいたのも、死体ウォッチングのためじゃなく、自分が死ぬためだったんだ」

男「…………ッ」

ガイコツ「あいつは死体しか愛せないんじゃねえ……生きてる人間を愛するのが怖いんだ」

男「そうだったのか……」
46:2020/03/21(土) 17:52:48
ガイコツ「俺らもあいつに動けるようにしてもらってから、それなりに付き合いは長い」

ガイコツ「あいつは今も過去に囚われ、苦しんでる」

ガイコツ「あんた、カウンセラーなんだろ? なんとか助けてやってくれよ!」

ゾンビ娘「あたしからもお願い!」

男「…………」

そこへ――

女「ただいま」
47:2020/03/21(土) 17:55:27
ゾンビ娘「あ、お帰りなさーい!」

ガイコツ「腹減っちまったぜ!」

ゾンビ娘「胃なんかないのに?」

ガイコツ「うるっせーな。こういうのはな、気分なんだよ!」

女「ほらほら、死体なのに騒がない。すぐ夕食にするわ」

ワイワイ…

男「…………」

女「? どうしたの?」

男「あ、いや、なんでも! 僕も手伝うよ!」

女「ありがとう」

男(彼女が死体しか愛さない理由は分かった……)

男(だけど、僕なんかにいったい何ができるんだろうか……)
48:2020/03/21(土) 17:59:32.320 ID:jOOl+9Q20.net
― 相談センター ―

婦人「こんにちは」

男「どうぞお座り下さい」

男(これでこの人と会うのも五回目くらいか。今日もじっくりと向き合っていこう)

男「最近はいかがですか?」

婦人「主人の死についてはもう大丈夫です。すっかり持ち直しました」

男「え……?」

その後も雑談を続けるが――

婦人「今日もありがとうございました。あなたと話してると心が落ち着きます」

男「いえ、こちらこそ」

男(元気になってる……?)
49:2020/03/21(土) 18:01:47.948 ID:jOOl+9Q20.net
女「元気になってるなら、いいことじゃないの?」

男「うん……だけど、違和感があるんだ」

女「違和感?」

男「昔、こんなことがあった」

男「イジメを受けてた子が、ある時から急に元気になったんだけど」

男「よくよく調べたら、もっと立場の弱い子をいじめてたことが分かったんだ」

女「まあ……」

男「この違和感は、ちょうどあの時と似てるんだ……」
51:2020/03/21(土) 18:05:26
女「ということは、その奥さんが誰かをいじめてるってこと?」

男「それは分からないけど……なにか健全とは言い難い解決法に走ってるんじゃないかと」

男「連絡を取って、僕はもう少しあのご婦人のカウンセリングを続けることにするよ」

女「また所長に小言いわれるかもしれないわよ」

女「“元気になったらもう放っておけ”があの人のモットーだから」

男「そうなったら、そうなったさ」
52:2020/03/21(土) 18:08:35
― 相談センター ―

男「このところ、お元気になられましたね。私としても安心しましたよ」

婦人「あら、分かる?」

男「ええ、なにかあったんですか?」

婦人「知りたい?」

男「ぜひ」

婦人「うーん……これだけ親身になってくれてるあなたになら、教えてもいいかも」

婦人「実はね……主人が生き返るの」

男「え」
54:2020/03/21(土) 18:11:31
……

男「これ……どう思う? 人が生き返るなんてこと、あると思う?」

女「ないわ」

男「!」

男(驚くほどきっぱりと……)

女「あなた、私のこと、二人から聞いたでしょう?」

男「え! あ……ごめん……」

女「謝ることなんてないわ。いずれ話そうと思ってたし」
55:2020/03/21(土) 18:14:23
女「私は家族を生き返らせる術を求めて、色んなところを旅した」

女「様々な宗教や呪術といったものに触れた」

女「やがて、ついにある国でネクロマンシーを学ぶことができた」

女「だけど、それでもすでに埋葬が終わってしまった家族を生き返らすのは無理だと分かった」

女「絶望した私は自殺をしようと、“自殺の名所”と呼ばれるある森へ行ったの」

男「そこで、あの二人の遺体と出会った……」

女「そう。そして私はつい……あの二人に術を施してしまった」

女「大した覚悟もなく、買ったばかりの包丁の切れ味を試すように……」
56:2020/03/21(土) 18:17:28
女「結果は……生き返るどころか、動くガイコツとゾンビが誕生してしまった」



ゾンビ娘『なんで余計なことしたのぉ……!』

ガイコツ『ふざけんなよ、てめえ……!』カタカタ



女「二人ともものすごく怒ったわ。当然よね。私のやったことは生命への冒涜もいいところだもの」

女「安らかに眠ってた二人を、強引に起こしてしまったんだもの」

男「…………」
57:2020/03/21(土) 18:20:40.549 ID:jOOl+9Q20.net
女「術者が氏ねば、動き出した死体も止まる。だけど、私は生きることにしたの」

女「私にはあの二人を起こしてしまった責任があるから……」

女「同時に、もう二度と死体を動かすために術を使わないと誓った」

女「断言できる。人が生き返る術なんてないわ」

男「……話してくれてありがとう」

男「おかげで決心がついたよ」

男「本人が立ち直ってるのなら放っておくべきかも、とも思ったけれど……」

男「僕はあの人を……止める。カウンセラーとして」
58:2020/03/21(土) 18:23:06
― 相談センター ―

男「この間の話の続きをしたいんですが……よろしいですか?」

婦人「ええ」

男「ご主人が生き返るというのはどういうことです?」

婦人「私、≪蘇命会≫という会に入会しまして」

男「≪蘇命会≫……?」
59:2020/03/21(土) 18:26:46
婦人「そこでは“生命代”というお布施をすれば、会員としての格が上がっていくんです」

婦人「そして最上位になった会員は、見返りとして、大切な人を生き返らせてもらえるんです!」

男「…………!」

男「ちなみに最上位の会員になるには、どのくらいのお金が必要で……?」

婦人「噂では、1000万円ぐらいは必要になるといわれてますね」

男「……そうですか」

男(こんなの、どう考えても……)グッ…
61:2020/03/21(土) 18:30:53
男「はっきり申し上げましょう」

男「それは……詐欺ではないですか?」

婦人「!」

婦人「なにをおっしゃるの。そんなわけないわ!」

婦人「≪蘇命会≫の会長さんは、あなたにも負けず劣らずのとてもいい方なのよ!」

男「いい人だったら、生き返らせるのにお金は取らないでしょう」

婦人「それは……あの方にだって生活があるからよ」

婦人「あなただってお金がなければ生きていけないでしょ?」

男「それはもちろん、その通りです」

男「ですが私だったら、そこまで高額の代金は頂きません」

婦人「ふん、どうだかね!」

男「…………」
62:2020/03/21(土) 18:33:38.249 ID:jOOl+9Q20.net
婦人「それに……私にとって主人は全てだった」

婦人「だから、主人を生き返らせるために、私が全てをなげうつのは当然のことでしょ?」

男「人は生き返りませんよ」

婦人「な……!」

男「僕は……この世の誰より人を生き返らす術を探した人を知っています」

男「その人でさえいってました。“人を生き返らす術はない”と」

婦人「だからなんだっていうのよ! 知ったことじゃないわよ!」
63:2020/03/21(土) 18:36:41
婦人「あなたは大切な人を亡くしたことがないからそんなことがいえるのよ!」

男「ええ、おっしゃる通りです」

男「だからこそ……こんな綺麗事をいうんです」

男「もし僕も大切な人を亡くしてしまったら……おそらくあなたを止めることはできないでしょうから」

男「今しかないんです」

男「お願いします。そんな怪しい会は抜けて下さい。お願いします」

婦人「うっ……!」

男は一歩も引かない。淡々と、しかし力強く退会を訴える。

話し合いは長引いていく……。
64:2020/03/21(土) 18:40:50
所長「……ったく。いつまで一人と話してるんだ……」

所長「悩み相談なんか適当に流れ作業でこなしていけばいいんだ」

所長「相談者に入れ込みすぎるなといってるのに。バカな奴だ……」

女「だけど私……ああいうバカ、好きですよ」

所長「えっ! そ、そうか」

所長(珍しいな。彼女がこんなこというなんて……)

女「…………」
65:2020/03/21(土) 18:44:06
……

……

婦人「私だって分かってるのよ。怪しいって。騙されてるって」

婦人「だけど、すがりたいのよ……騙されてると分かっていても……」

男「そのお気持ちはよく分かります」

男「しかし、あなたはこれからも生きていかなければならない」

男「先ほどおっしゃったように、そのためにはどうしてもお金が必要です」

男「まして旦那さんと二人三脚で築いた財産、こんなことで失ってはいけません」
66:2020/03/21(土) 18:46:33
婦人「どうして……?」

男「?」

婦人「あなた、どうして私のためにここまでして下さるの?」

婦人「私を助けたところで、給料が上がるわけでもないんでしょ?」

男「答えは決まってます」

男「だってあなたがもし騙されたまま大金を失ったら、僕が快眠できませんからね!」

婦人「…………」

婦人「フフッ」
68:2020/03/21(土) 18:49:31
婦人「そうね……」

婦人「これまでずっとお世話になったあなたを不眠症にするわけにはいかないものね」

男「助かります」

婦人「だけど、どうすればいいのかしら……」

男「一緒にその≪蘇命会≫に行きましょう。会長さんにお願いして、正式に退会するんです」

男「そうすれば気持ちの整理もつけられると思いますから」

婦人「分かりました、お願いします」
69:2020/03/21(土) 18:52:38
― 女の自宅 ―

ガイコツ「6時間もかけて説得したのか!? アホだなお前!」

ゾンビ娘「普通だったら見ず知らずのおばさんのためにそこまでしないって」

男「おかげで所長には呆れられたけどね」

女「それで……どうするの?」

男「今度、ご婦人と≪蘇命会≫に行ってくるよ。きっぱり退会してくる」

男「それで、気持ちに踏ん切りもつくと思うし」

女「そう……」
72:2020/03/21(土) 18:55:44.103 ID:jOOl+9Q20.net
男が帰宅して――

ガイコツ「あいつもやるもんだねえ。ソメイヨシノ……だっけに乗り込むなんて」

ゾンビ娘「そりゃ桜でしょうが!」ペシッ

ガイコツ「おいおい頭蓋骨を叩くな。割れちゃう割れちゃう」

ゾンビ娘「いいや、叩く!」ペシッ

女「…………」

女「ねえ、二人とも」

ガイコツ「なんだ?」

ゾンビ娘「んー?」

女「ちょっとお願いがあるんだけど……」

…………

……
73:2020/03/21(土) 18:58:51
― ≪蘇命会≫本部 ―

婦人「ここです」

男「入りましょう」

婦人「大丈夫でしょうか……。退会させてもらえるでしょうか……」

男「大丈夫です。僕がついてますから」
75:2020/03/21(土) 19:01:49
≪蘇命会≫会長は、厳かな衣装に身を包んでいた。

会長「ようこそいらっしゃいました」

会長「今日はどういったご用件で? “生命代”をお納めに来られたのですかな?」

婦人「いえ、違います」

婦人「入ったばかりで申し訳ないんですが、私、ここを退会しようと思いまして」

会長「おや? なぜです? ご主人を生き返らせてあげたくはないのですか?」

男「…………」
76:2020/03/21(土) 19:04:42
会長「会いたいでしょう? ご主人に」

会長「“生命代”を支払い、最上位会員になれば、愛していたご主人にまた会えるのですよ?」

婦人「会いたい……ですけど」

婦人「主人はこんなこと望んでいないと思うんです」

婦人「大金を払って、自分を生き返らせるなんて……」

男「よくおっしゃいました」

会長「……先ほどから気になっていましたが、あなたは?」
77:2020/03/21(土) 19:07:29
男「私はこの方のカウンセリングを担当していた者です」

男「今日は、二人で話し合い、正式に≪蘇命会≫を退会するためにやってきたのです」

会長「カウンセリング……なるほど」

男「ですから、すみやかに退会の手続きをお願いします」

会長「分かりました」

会長「ただし、退会の儀式を行わねばなりませんので、あなたはもうお引き取り下さい」

男(これは……ご婦人を一人きりにするつもりだな。そうはいかない)
79:2020/03/21(土) 19:10:55.298 ID:jOOl+9Q20.net
男「その儀式、私も参加させて下さい」

会長「ダメです。神聖な儀式に、部外者を参加させるわけにはいきません」

男「でしたら、どのくらいかかるか教えて下さい」

会長「それも教えられませんね。まあ、かなり時間はかかると思いますが」

男「……分かりました。今日は儀式は結構です。帰りましょう」

婦人「は、はい」

男(本当は穏便に退会したかったけど、警察に相談するしかないな)

会長「おっと、そういうわけにはいきませんねえ」
80:2020/03/21(土) 19:13:40.898 ID:jOOl+9Q20.net
部下「…………」ズイッ

屈強な部下が、出入り口を塞いだ。

男「これは……どういうことです?」

会長「私もねえ。これで人を見る目はあるつもりです」

会長「“ここであなたたちを帰すと面倒なことになる”という予感がするのです」

男「だとしたら、どうだというんです? どいて下さい」

すると――

バキィッ!
82:2020/03/21(土) 19:17:22
男「ぐっ……!」ドザッ

婦人「あっ……!」

会長「少々予定を変更しましょう」

会長「傷心を慰めてくれたカウンセラーが目の前で殴られれば、奥さんの気も変わるかもしれませんし」

部下「…………」シュッ

ドカッ!

男「ぐはっ!」
84:2020/03/21(土) 19:20:46
婦人「や、やめて下さい!」

男「大丈夫です……。この男は僕が何とかしますから……あなたは逃げて下さい……」

婦人「でもっ!」

会長(嫌な目をしている……)

会長(こんな状況になってもまだ、“相談者を救ってみせる”って目だ……!)

会長「おいっ! そいつをとことん叩きのめしてやれ!」

部下「はい」ガシッ

男「ぐ……!」

婦人「やめて下さい! 退会しませんからっ! “生命代”はお支払いしますからっ……!」
85:2020/03/21(土) 19:23:33
コツーン… コツーン…



会長「……ん?」

婦人「?」



「あなた……人を生き返らせるのが得意なんですってね」コツコツ…



男(こ、この声は……!)
86:2020/03/21(土) 19:25:05
キター!
87:2020/03/21(土) 19:26:23
まるっとぬるっと全てお見通しだ
88:2020/03/21(土) 19:26:27
女「だったら……この子たちも生き返らせてあげてくれない?」

ガイコツ「ちぃーっす!」カタカタ

ゾンビ娘「チャオ!」

死体を引き連れ、ネクロマンサーが現れた。

会長「!?」

部下「うわあっ!」

婦人「きゃああああっ!」

男「…………!」

男(どうして……!? 彼女たちが……!?)
90:2020/03/21(土) 19:29:26.554 ID:jOOl+9Q20.net
女「ねえ、あなた」

会長「ひっ!」

女「この二人を生き返らせてよ。もちろん、ちゃんと生前の姿に、元通りの生活が出来るようにね」

女「できるんでしょ?」

ガイコツ「お願いしまーす!」

ゾンビ娘「入会希望でーっす!」

会長「ひ、ひいいい……! できるわけが……!」

会長(なんだ? なんだこいつら? 私は悪夢でも見てるのか?)

会長「何してる! こいつら……叩き出せ!」

部下「は、はいっ!」
91:2020/03/21(土) 19:32:41
部下「でりゃあっ!」

バゴンッ!

ガイコツ「ぐわぁっ!」バラバラ

あっけなく粉砕される。

部下「どりゃあっ!」

ベキッ!

ゾンビ娘「ぎゃんっ!」

首の骨が折れる。

男「ああっ!」

会長「ハ、ハハハ……よ、よくやった!」

女「…………」
93:2020/03/21(土) 19:35:41
ガイコツ「おいおい、遺骨は丁寧に扱えって学校で習わなかったか?」カタカタ

ゾンビ娘「んも~、あたしの可愛さが台無しじゃん」メキメキ…

二人ともすぐ元通りになる。

会長&部下「!?」

女「いくらやっても無駄よ……。二人とも氏んでるんだから」

会長「お……おいっ! もっとだ! もっと殴りまくれ!」

部下「で、ですが……!」
94:2020/03/21(土) 19:40:14
男「そうはさせない」バッ

男が死体コンビの盾となる。

女「ちょっと……なにやってるの? 二人はいくらやられてもへっちゃらなのよ」

ガイコツ「そうだぜ、お前が盾になってもしょうがねえだろ。意味ねえから」

ゾンビ娘「そうそう。もう氏んでるから守らなくて大丈夫!」

男「へっちゃらだとしても、いつも遊んでる二人が殴られるのは嫌だから」

男「生きてるとか氏んでるとか関係ない。二人とも、僕の大切な友達だから」

女「もう……ホントに頑固なんだから」

ガイコツ「ったく、泣かすようなこといってくれるぜ」

ゾンビ娘「うん……あたし水分少ないから、泣いたら干からびちゃうよ」グスッ

男「さあ、殴るなら僕をやれ!!!」

部下(いくら殴っても死なない奴らに、いくら殴っても引かない奴……)

部下「もういやだぁぁぁぁぁ!!!」タタタッ

会長「あ、コラ! お、おいっ! ――待てぇっ!」
95:2020/03/21(土) 19:43:24.232 ID:jOOl+9Q20.net
男「会長さん」

会長「な、なんだ!」

男「ご婦人を……退会させてもらえますね?」

会長「わ、わわわ、分かった……! 分かりましたぁ……!」



女「これで一件落着ね」

ガイコツ「文字通り粉骨砕身したかいがあったぜ」

ゾンビ娘「やったーっ!」
97:2020/03/21(土) 19:46:34
男「それともう一つ」

会長「…………?」

男「もしかして、あなたも……元はカウンセラーのような職業だったのでは?」

会長「!」

男「ですが、人々を励ますうち、今のような商売を思いついてしまい、道を踏み外してしまった……」

会長「だ、黙れッ!」

男「もし、僕の推理が当たってるのなら、できればもうこんなことはやめて欲しい。罪を償って欲しい」

男「失礼します」ペコッ



会長「ぐ、ぐぐっ……」ガクッ

一人残された会長は、うなだれるしかなかった――
100:2020/03/21(土) 19:50:05
≪蘇命会≫を出て――

婦人「ううん……」

男「気を失って……まだ目が覚めそうにないな」

女「たしか、この人は旦那さんを亡くしていたのよね?」

男「うん」

女「だとしたら、今なら私の術で旦那さんに会わせてあげることができるかもしれない」

男「!」

女「ちょっとやってみるわね」

女は怪しげな呪文を唱え始めた。
101:2020/03/21(土) 19:53:26
……

……

婦人「……ん」

男「気が付きましたか! よかった!」

婦人「すみません……倒れてしまったみたいで……」

男「いえいえ。ああ、≪蘇命会≫は退会できましたよ。ご安心下さい」

婦人「そうですか……」

婦人「ところで、今……不思議な夢を見ていたんです」

男「夢?」

婦人「ええ……亡き主人に出会ったんです」

男「…………!」
103:2020/03/21(土) 19:56:35
男「ご主人はなんと?」

婦人「こっちは元気でやってる、だから君も長生きしてくれ、といってくれました」

男「そうですか……」

婦人「これからはもう、カウンセリングにかからずに済みそうです」

婦人「だけど、ちょっとさびしいですね」フフッ

男「またいつでも遊びに来て下さい」

婦人「はい」
105:2020/03/21(土) 20:00:11
男「今回の件は、君たちに助けられちゃったな。本当にありがとう」

女「どういたしまして」

ガイコツ「それに、そっちこそ俺らをかばってくれたじゃねえか」

ゾンビ娘「あたし嬉しかったよ! 生きててよかった……じゃなくて氏んでてよかったって思えたもん!」

男「ハハ、これで少しはカウンセラーLV99に近づけたかな?」

女「だけど……こんな怪我しちゃって……」スッ

男「ん、大丈夫だよこのぐらい」

女「ううん、ダメ」

男「え」

女「私、あなたに傷ついて欲しくない。死体になって欲しくない……」

男「…………!」
108:2020/03/21(土) 20:03:55
男「ありがとう」

女「!」

男「なるべく死体にならないよう……努力する。だから、これからも一緒に生きていこう」

女「うん……」

抱き合い、キスをする二人。



ゾンビ娘「ちぇっ、私もお兄さん狙ってたのに、やっぱり敵わないな~」

ガイコツ「フッ、まあいいじゃねえか。俺らは死人らしく、あいつらを見守ってやろうぜ」

ゾンビ娘「そうだね!」

ガイコツ「で、時折おちょくる!」カタカタ

ゾンビ娘「それいい!」
110:2020/03/21(土) 20:07:31
……

……

― 相談センター ―

所長「まったく……君は今日も時間かけすぎだ。効率が悪すぎる」

男「すみません」

所長「しかし、君の世話焼きのおかげで、センターの評判が上がってきてるしな」

所長「上からも私の評価がうなぎ登りだし、好きにやってくれたまえ!」

男「ありがとうございます」

所長「ワッハッハッハ……」
111:2020/03/21(土) 20:10:36
女「まったく所長にも困ったものね。現金だこと」

男「だけど、ああやってお墨付きをもらえてホッとしてるよ」

男「ところで、僕はこれで仕事終わりだけど、君は?」

女「私も今終わったところ」

男「じゃあ、君んちに寄らせてもらってもいい?」

女「もちろんよ。あの二人も待ってるわ」

男「よぉし、だったら今日はいっそ豪勢に――」
114:2020/03/21(土) 20:14:33
グツグツ…

ガイコツ「お、今日は牛鍋か!」

女「うん、男さんがいいお肉買ってくれたの」

ゾンビ娘「いただきまーす!」

TV『続いてのニュースです……。≪蘇命会≫の代表が警察に自首し、逮捕されました……』

TV『容疑者は元は相談員をしておりましたが、後に≪蘇命会≫を立ち上げ……』

TV『推定される被害総額は数億円に上る見通しで……』

女「あ、これって」

男「うん……あの人だ」

男(心を入れ替えてくれたのか……よかった……)
115:2020/03/21(土) 20:18:20
ガイコツ「お前ら、もう付き合ってんだからあーんくらいしたらどうだ?」

ゾンビ娘「そうそう。ラブラブなとこ見てみたい~!」

女「そうね。じゃ、あーん」

男「あ、あーん」

女「どう? 牛の死体、おいしい?」

男「表現はともかく……おいしいよ」モグモグ
117:2020/03/21(土) 20:21:18
男「き、君に食べさせてもらったから……おいしさが倍増したかな、なーんて」

女「やだ、もう。からかわないで」ポッ

男「ご、ごめん」ポッ

ガイコツ「あーあ、熱々だねえ! こっちまで燃えちまいそうだよ! もう骨なのに!」

ゾンビ娘「まったくだね、末長くお幸せに~!」







~おわり~
118:2020/03/21(土) 20:23:03
面白かった乙
119:2020/03/21(土) 20:23:16
123:2020/03/21(土) 20:28:58
最初は家行ったらぶっ頃されて内臓食われる話だと思った


よかった
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1584775813