1: 2011/02/09(水) 11:36:33.43 ID:06MmlFCO0
紬「お茶淹れたわよ~」

唯「やった~!」

律「待ってました!」

澪「全く…。今日は飲んだら練習するからな」

梓「ホントですよ、もう」

紬「まあまあまあまあ。とりあえず一息つきましょう」

紬「はい、梓ちゃん」

梓「どうも。ありがとうございます」

紬「みんなもどうぞ~」

2: 2011/02/09(水) 11:37:24.49 ID:06MmlFCO0
律「ふっふっふー」

唯「ふっふっふ~」

梓「…なんですか二人して」

唯「いや~。嬉しそうだな~ってね」

律「なんだかんだ言っても楽しみですものねー」

梓「そりゃそうでしょう。せっかく淹れてもらってますし」

梓「ムギ先輩のお茶は美味しいですから」

梓「でも。私はこの後ちゃんと練習しますので」

唯「ああん、あずにゃんのいけず~!」

律「いけずー!」

澪「もう。少しは梓を見習えよ」

4: 2011/02/09(水) 11:38:19.71 ID:06MmlFCO0
いつもと変わらない軽音部の風景。
知らない人が見たら何をしているのかと思うでしょう?
実際私も初めはそう思いましたから。

いわゆるティータイムです。
お茶を飲んで、お菓子を食べて。みんなでおしゃべりして。

繰り返しますが、私たちは軽音部です。
練習ですか? ええ、しますよ。
……率先してお茶を楽しんでいる約二名様がやる気を出した時くらいは。

別に非難しているわけではありません。私だってお茶は楽しみです。
それに、この空気といいますか、これが私たちのやり方なんです。

ティータイムは私たちにとって、とっても大事な時間で。

だから、私も。紅茶を淹れてあげたいなって。
いつからか、そう思ってたんです。

5: 2011/02/09(水) 11:39:17.76 ID:06MmlFCO0
澪「ごちそうさま」

唯「今日もムギちゃんのお茶は美味しいね~!」

紬「ふふ。ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しいわ」

紬「じゃあ片付けしちゃうわね~」

梓「お手伝いしますよ。ムギ先輩」

紬「あら。ありがとう」

唯「おっ!あずにゃんえらいね~」

律「梓は本当にできた子や」

澪「お前らもたまには手伝ってやれよ」

7: 2011/02/09(水) 11:40:22.60 ID:06MmlFCO0
澪「二人とも、私も手伝うよ」

梓「お気になさらず。澪先輩もゆっくりしてて下さい」

澪「梓にだけやらせるのも悪いよ」

梓「私もいつも手伝ってるわけじゃないですし」

梓「今日は後輩の顔を立てると思ってください」

梓「次の機会には、澪先輩にお願いしますよ」

澪「…そうか?そこまでいうなら、今日はお願い」

澪「梓はいい子だな」

ふっと頭に暖かい感触。
ちょっと大きくて、弦楽器をいじる人間特有の硬さを感じる手。
澪先輩の手が、私の頭を優しく撫でてくれます。

梓「…えへへ」

澪「よしよし」

紬「あらあら素敵♪」

8: 2011/02/09(水) 11:41:19.22 ID:06MmlFCO0
紬「紅茶の淹れ方?」

梓「はい。教えていただきたいなと思って」

お手伝いをしながら、ムギ先輩に聞いてみました。

紬「紅茶に興味があったなんて嬉しいわ~」

梓「いつも美味しくいただいてますから。ありがとうございます」

紬「いいのよ~。気にしなくて」

とは言っても、ムギ先輩の持ってくるものは高級品だ。
家で飲むような安物の紅茶とは、なんというかすべてが違います。
お礼の一つでも言いたくなるものです。

梓「できたら、私も淹れてみたいなって」

紬「まあ!じゃあ今度、みんなで紅茶淹れてみよっか?」

梓「あ、えと。できたら二人でやりたいんですけど……」

9: 2011/02/09(水) 11:42:20.07 ID:06MmlFCO0
紬「あらあら。うふふふ」

梓「…どうしたんですか?」

紬「いいわよ~。じゃあ皆にはナイショで」

紬「時間があるときに、二人で練習しましょうか」

変な勘違いをされている気がする。
いや、この笑みはきっとしていますね。
主に乙女の妄想的な意味で。

紬「梓ちゃんのお相手はだれなのかしら~」

梓「…そういうのじゃないですよ」

梓「きっと、ムギ先輩の考えてるのとは、ちょっと違うと思います」

紬「ふふ。じゃあそういう事にしておきましょうか」

嬉しそうな先輩を見てると何だか変に否定するのも悪い気がします。
……私もムギ先輩には甘いものです。

10: 2011/02/09(水) 11:43:22.00 ID:06MmlFCO0
――――

それから、私たちは二人になれるときに、密かに特訓を始めました。

紬「それじゃあ始めるわよ」

梓「はい!先生!」

紬「あら、先生だなんて。…ちょっといいわね~」

ぽわぽわ~。なんて効果音が実に似合います。
妄想モードに入ってしまわれました。

まあ、邪魔するのも悪いですし、可愛いのでしばらく見ていましょう。

紬「…はっ。いけないいけない」

梓「おかえりなさい。先生」

紬「…こほん」

紬「一口に淹れ方っていっても、茶葉によって適している方法も違うの」

梓「部室にもけっこういっぱいありますよね」

紬「うん。だからよく使う何種類かの淹れ方を教えるね」

11: 2011/02/09(水) 11:44:14.34 ID:06MmlFCO0
紬「じゃあ、最初はこの茶葉からいきましょうか」

紬「これは唯ちゃんが好きなやつね」

梓「やっぱり皆さん好みがあるんですね」

紬「ええ。まあ、聞いたわけじゃないんだけどね」

紬「これを飲んでる時が一番嬉しそうかな~って」

流石というかなんというか。
まずはこういった気配りが大事なのかもしれません。

梓「勉強になります」

紬「あらあら。まだ初めてないわよ?」

梓「いえ。大事なことを教えてもらったような気がします」

12: 2011/02/09(水) 11:45:10.81 ID:06MmlFCO0
紬「これはミルクティーにすると美味しいの」

紬「唯ちゃんに入れてあげるのは、砂糖をちょっとだけ多めに」

梓「…なんというか、イメージにぴったりですね」

紬「そうね。優しくて温かい唯ちゃんにぴったりかも」

紬「その人の性格も出るのかしら?」

梓「どうなんでしょうかね?」

本格的な紅茶は淹れる手順もけっこう色々あって。
恥ずかしながら、今まで適当に淹れてた私では知らないことも多かったです。

慣れた手つきでてきぱきとこなしていくムギ先輩。

なんだか魔法みたいだなぁって。
ふと、そんなふうに思いました。

13: 2011/02/09(水) 11:46:01.71 ID:06MmlFCO0
ほとんどムギ先輩にやってもらいましたが
なんとか初めての一杯が出来上がりました。
甘そうないい香りがします。

紬「これで唯ちゃんも大喜びよ!」

梓「でも、まだまだ一人できちんとはできそうにないですから」

紬「じゃあこれからも練習あるのみね」

梓「はい。またお願いします!」

紬「淹れてあげるの楽しみね~。ふふふ…」

ムギ先輩はまた何だか上機嫌です。…妄想してますね?

紬「やっぱりゆいあずはいいわよね~」

梓「…なにいってるんですか」

紬「いいのいいの」

14: 2011/02/09(水) 11:46:48.65 ID:06MmlFCO0
紬「いっつもくっついてるじゃない」

梓「唯先輩が勝手に抱きついてくるだけですよ」

紬「でもすっごく嬉しそうよ?」

梓「まあそりゃ、嫌じゃないですけど…」

梓「そんなに傍から見て嬉しそうにしてますか?」

紬「ええ。とっても!」

梓「目標はポーカーフェイスになること。にします」

紬「恥ずかしがらなくてもいいのに」

紬「でも、唯ちゃんはいいな~」

梓「どうしたんですかいきなり」

梓「…もしかして、ムギ先輩もあんな風にしたいんですか?」

15: 2011/02/09(水) 11:47:39.26 ID:06MmlFCO0
紬「えへへ。実は」

梓「もう…暑苦しいだけですよ?」

紬「いいじゃない。スキンシップ。とってもいいわよ!」

紬「肌を触れ合わせるのって、親愛の証だと思うの」

梓「そんな大げさな…。まあ、仲がいい証拠だとは思いますけど」

紬「でしょ! だからもっとみんなとスキンシップしたいんだけどな」

梓「していいと思いますよ?ムギ先輩なら誰も嫌がったりしませんって」

紬「そうかしら…?」

梓「はい。私だったら嫌がりませんよ。絶対」

紬「あらあら!ほんとに?」

なんだろう。いますっごく恥ずかしいことを、サラッといった気がします。

17: 2011/02/09(水) 11:48:30.83 ID:06MmlFCO0
梓「ええ。だから、その」

梓「抱きしめたくなったら、ご自由にどうぞ」

って、これ冷静に考えたらすっごい恥ずかしいこと言ってるよね!?

紬「ふっふっふ~」

紬「あ~ずにゃ~ん!」

梓「にゃああ!?」

早速抱きつかれました。
なんといいましょうか。あったかくて。柔らかくて。
優しそうないい匂いがしました。

紬「ふふ。梓ちゃんすごく抱き心地がいい」

梓「抱き心地…ですか。そんなにいいですか?」

18: 2011/02/09(水) 11:49:55.85 ID:06MmlFCO0
紬「ええ。とっても!」

紬「唯ちゃんがいつも抱きついてるのも分かるわ~」

梓「…そうですか。ありがとうございます」

私も、抱かれ心地が良くて、すごく気持ちいいですよ。
……なんて言葉が出かかりましたが。
その瞬間すごく恥ずかしくなったのでやめておきました。

そのかわりに…

梓「私なんかでよければ、これからも」

梓「その、お好きなようにどうぞ」

19: 2011/02/09(水) 11:50:40.40 ID:06MmlFCO0
紬「ありがとう。梓ちゃん」

ぎゅっと。少しだけ抱き寄せられます。

子供みたいに嬉しそうな顔をしてるムギ先輩。
それにつられて、私も自然と笑顔になります。

…この笑顔が見れるなら、安いもんです。

唯先輩とは、感触も、匂いも、違ったけれど。
優しくて、暖かくて、どこか似ているような。

二人とも、そんな人だからでしょうか?
似たもの同士なのかなぁって。
朧気に、そんなことを考えていました。

20: 2011/02/09(水) 11:51:25.24 ID:06MmlFCO0
紬「唯ちゃんは誰にでもこんな風にできて、ちょっと羨ましい」

梓「あの人にはもう少し遠慮というものを学んで欲しいです」

紬「いいじゃない。あれが唯ちゃんらしさよ」

梓「まあ、そうですけど。誰かれ構わず抱きついたりは…」

梓「…なに笑ってるですか?」

紬「梓ちゃん、ヤキモチ?」

梓「…!!そんなんじゃないです!」

紬「照れなくてもいいのに~」

梓「そんなんじゃないんですってばぁ!」

こんな変なところまで、ちょっと似ているみたいです

21: 2011/02/09(水) 11:52:22.92 ID:06MmlFCO0
――――

紬「じゃあ今日はこれね」

梓「これ私もけっこう好きですよ」

紬「これはりっちゃんが好きなやつね」

梓「へぇ。律先輩はこれなんですか」

紬「あら、ちょっと意外そうね」

梓「言っちゃ悪いですが、律先輩のイメージじゃなかったです」

紬「そう?わたしはりっちゃんらしいかな~って思ったけど」

梓「珍しく意見の相違が出ましたね」

紬「…ふふ。それにしても」

梓「??」

22: 2011/02/09(水) 11:53:17.28 ID:06MmlFCO0
紬「梓ちゃんはりっちゃんには割と遠慮がないというか」

紬「気兼ねなく接してるよね」

梓「そうでしょうか? …まあ、言われてみるとそうかも知れません」

梓「変に気を使ったりとかは、ない気がしますね」

紬「そこがりっちゃんのすごいところよね~」

梓「…そうですね」

梓「気を使わせないようにしようって、そういう風に気を配ってくれてるというか」

梓「そういう人なんだなってのは、何となく分かってきました」

紬「そうね~。だからかしら」

23: 2011/02/09(水) 11:54:04.27 ID:06MmlFCO0
紬「りっちゃんはいいなーって。思う時があるの」

梓「ムギ先輩が……ですか?」

紬「私は、そういう風にするのが得意じゃないみたいで」

紬「梓ちゃんだってそうでしょう?」

梓「え…?」

紬「りっちゃんに対するみたいに、私と接しようとは思わないでしょ?」

梓「あ……。その。まあ、確かにそうですね」

紬「誰にでもくだけて接してもらえる。そういう空気を作り出せる」

紬「そういう優しさって、いいなぁって」

紬「私には、難しいかな…って。たまに思っちゃうから」

言いたいことは分かります。律先輩はそういう人で。
ムギ先輩は、そういう関係に憧れみたいなのを持ってるみたいです。

でも、だからって。寂しそうな顔しないでください。

24: 2011/02/09(水) 11:54:52.85 ID:06MmlFCO0
梓「いいんじゃないでしょうか。違ってても」

紬「…梓ちゃん?」

梓「律先輩は律先輩。ムギ先輩はムギ先輩で」

梓「ただ、優しさのカタチが違うだけなんですよ」

梓「優しさであることに変わりはありません。ちゃんとみんな分かってるはずです」

梓「それはどっちが良い悪いとかじゃないんだって、私は思います」

梓「お二人とも、私にとっては優しくて、いい先輩ですから」

梓「他の皆さんだって!接し方が違ったとしても」

梓「ちゃんとムギ先輩に心を許してるはずですよ!」

私だってそうです。皆さんだってそうに決まってます。

梓「だから、ムギ先輩は今まで通りでいいと思います」

梓「無理して変わったりしても、それは。ムギ先輩じゃなくなっちゃいます」

私はそんなの、なんか嫌です。

25: 2011/02/09(水) 11:55:48.12 ID:06MmlFCO0
紬「…あ~ずにゃ~ん」

梓「にゃ!?」

また抱きつかれてしまいました。
あったかいです。あと、やっぱり気持ちいいかもしれません。
…自分で思ってる以上にこういうの好きなんでしょうか?

紬「優しいのね、ほんと」

梓「そんなことないです。分かったような気になって」

梓「生意気なこと言ってるだけですよ。きっと」

紬「それでも、ありがとう」

26: 2011/02/09(水) 11:56:38.74 ID:06MmlFCO0
梓「…私でよければ、何でも話してください」

梓「聞くくらいなら。出来ますので」

梓「あ、それと。抱きつきもサービスしますよ」

紬「あずにゃんは優しいね。いいこいいこ」

梓「もう…。ほんとに唯先輩みたいですね」

その日に淹れた紅茶は、飲み慣れた中の一つ。
さっぱりしてて、爽やかな香り。
きっと、誰の口にも合うような、そんな紅茶。

なんとなく、律先輩っぽいかなって。
初めて、そんなふうに思いました。

27: 2011/02/09(水) 11:57:27.32 ID:06MmlFCO0
……

紬「うーん。そうねぇ…」

梓「どうしたんですか?」

紬「りつあず!とかはどうかしら?」

梓「…はい?」

紬「いいコンビだと思うんだけど?」

梓「はあ? …なんと答えたらいいんでしょうか?」

紬「ああ!あずりつ!の方がいいのかな」

梓「そういう意味じゃないです…」

ムギ先輩がそういう趣味があるみたいってのは聞いてましたけど。
やたら引っ張りますね。
律先輩と、私。そんなにいいものなんでしょうか?

29: 2011/02/09(水) 11:58:23.39 ID:06MmlFCO0
――――

紬「じゃ~ん。今日はこれです」

梓「これは…澪先輩の好きなやつ、ですか?」

紬「すごい!よく分かったわね~」

梓「まだ、何となくでしたけど」

梓「前に言われたので、見てました。そしたら。多分これかなって」

梓「美味しそうにしてましたね。確かに」

紬「まあまあ!すごいじゃない」

それが自然にできるムギ先輩のほうがもっとすごいと思いますけど。

30: 2011/02/09(水) 11:59:16.47 ID:06MmlFCO0
紬「じゃあここで問題。どんな風にして飲むのが好きでしょう?」

梓「ストレートで。…って、澪先輩をよく知らない人なら答えそうです」

紬「澪ちゃん大人っぽくてカッコイイから、イメージはあるわね」

梓「正解はお砂糖たっぷりですね。この間もたくさん入れてました」

梓「澪先輩は甘いのが好きです。多分軽音部の中で一番」

紬「正解で~す。だから、お砂糖入れても風味があんまり変わらないこれ」

梓「なるほど。勉強になります」

31: 2011/02/09(水) 12:00:17.59 ID:06MmlFCO0
紬「だいぶ手馴れてきたわね」

梓「そうですか?ありがとうございます」

紬「そうだ。もう一つ。紅茶を入れるときに大事なことがあったの」

梓「他にも、何かあったんですか?」

紬「そうね。これは私の勝手な持論で。味が変わるものじゃないけれど」

梓「…聞きたいです。ぜひ、聞かせてください」

ムギ先輩は、ちょっとだけ、恥ずかしそうに。
でもしっかりと言ってくれました。

紬「淹れてあげる相手への思いを込めること」

紬「どうしたら相手が喜んでくれるのかな、って。考えてあげること」

33: 2011/02/09(水) 12:01:10.47 ID:06MmlFCO0
紬「紅茶だけじゃないけどね」

紬「なんに対してもね。そういう風に考えるようにしようかなって」

紬「それで相手が笑ってくれたら。とっても素敵だと思うの」

紬「その笑顔が、私をあったかくしてくれるから」

うん。実にムギ先輩らしいです。
やっぱりこの人は、こういう優しさが似合うような。
そんな気がします。

紬「…ごめんね。なんか、カッコつけたこと言っちゃって」

梓「そんなことないです!とってもムギ先輩らしくて、素敵でしたよ」

34: 2011/02/09(水) 12:02:06.19 ID:06MmlFCO0
梓「そういえば、ムギ先輩と澪先輩は仲いいですよね」

紬「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」

紬「お話しする時間が一番長いからかしらね」

梓「曲はほとんどお二人で作ってますしね」

紬「そうね~。そのおかげもあって、昔からいろんな話もしてるし」

梓「澪先輩も何だかムギ先輩を頼りにしてるみたいですしね」

紬「そうかしら。だったら嬉しいわ」

紬「澪ちゃんはいつもしっかりしてるから、私も助けられてるし」

梓「他二名の先輩方にももう少ししっかりして欲しいものです」

35: 2011/02/09(水) 12:03:18.95 ID:06MmlFCO0
紬「でもね、澪ちゃんもほんとはもっとはしゃぎたいんじゃないかって」

紬「そんな風に思うこともあるの」

梓「何となく分かります。合宿の時とかそうですから」

梓「スイッチ入ると途端にはしゃぎますよね」

紬「ふふ。そうね。梓ちゃんは、そんな澪ちゃんは嫌?」

梓「まさか。普段しっかりしてますし、そういう時くらいは楽しまないと」

紬「梓ちゃんもそんな感じだものねえ~」

梓「…何だかお恥ずかしいです。普段練習ってばっかり言ってるのに…」

紬「いいじゃない。可愛いわよ」

梓「可愛い、ですか」

36: 2011/02/09(水) 12:04:10.16 ID:06MmlFCO0
紬「澪ちゃんは真面目でしっかりしてるから」

紬「自分がそういう立場でいることで、バランスを取ろうとしてる」

紬「そういう所もあると思うの」

紬「私も皆といると、楽しすぎてついつい羽目を外しちゃうから」

紬「だから澪ちゃんばっかりにそういう役目を押し付けてないかって」

紬「梓ちゃんにも、ね。私は楽しみ優先にしちゃうことあるから」

紬「嫌だなぁって、思うこともあるでしょう?」

…まったく。この人は。
そんなこと心配してたなんて。

39: 2011/02/09(水) 12:05:10.45 ID:06MmlFCO0
梓「ハッキリ言いますけど。ありませんよ。そんなこと」

紬「…え?」

梓「私もそうですし、澪先輩だってそうです」

梓「私たちは普段から練習練習って言うことが多くて」

梓「ムギ先輩がそんな心配をするのも分かりますけど…」

梓「でも、そんなことで嫌だなんて思いません」

梓「唯先輩や律先輩にだってそうです。別に嫌いだとか思いませんから」

梓「まあ、もうちょっと真面目にして欲しいとは思ってますけど」

梓「なんというか。否定的な意味じゃなく、もう諦めました」

梓「こうするのが私たちらしいんだ、って」

梓「だから安心してください」

41: 2011/02/09(水) 12:06:06.91 ID:06MmlFCO0
梓「澪先輩も言ってましたよ」

梓「私は真面目すぎて融通がきかないこともあるから」

梓「ムギ先輩はそういう自分と他の二人をうまく取り持ってくれて」

梓「軽音部のバランスを取ってくれてるんだって」

梓「そういう所、すごく感謝してるんだって」

紬「澪ちゃんがそんなことを?」

梓「恥ずかしがり屋ですから。面と向かっては言いづらいんでしょう」

梓「付き合いの短い私のほうが、逆に言いやすいんでしょうか」

紬「…えへへ。なんか嬉しいな。そんな風に思ってもらえてると」

42: 2011/02/09(水) 12:07:02.28 ID:06MmlFCO0
梓「澪先輩も、ちゃんと分かってますよ」

梓「もちろん、私も。 いつもありがとうございます」

紬「いえいえ。こちらこそ」

梓「なんかいいですね。お二人の関係」

紬「そうかしら?」

梓「ええ。なんか落ち着いてて。大人っぽいっていうか」

梓「私は好きですよ。そういう信頼関係」

そうこうしているうちに、お茶も出来上がったようです。

とっても甘いのに、その引き締まった風味は崩れない。
これはきっと、澪先輩の好きな味だ。

44: 2011/02/09(水) 12:07:56.19 ID:06MmlFCO0
……

紬「澪ちゃんは不思議な人よね」

梓「不思議…ですか」

紬「一番大人っぽいのに、それでいて一番子どもっぽい所とか」

梓「あー。確かに。中身を知ったらビックリするタイプですね」

紬「でも、とっても魅力的だと思うわ」

梓「そうですね。素敵な人だと思いますよ」

紬「梓ちゃんは澪ちゃん大好きだものね~」

梓「大好きって…。まあ、真面目な人ですし」

梓「美人ですし、可愛いところとかも含めて、その」

梓「好きではありますよ」

45: 2011/02/09(水) 12:08:59.39 ID:06MmlFCO0
紬「梓ちゃんと澪ちゃんて似てるし、姉妹みたいで可愛いわよね」

梓「そりゃ、たまに似てるって言われますけど」

梓「私は澪先輩ほど美人じゃないですし」

紬「梓ちゃんだってとっても可愛いのに」

梓「そうですか…?というか、あんまり可愛い可愛い言わないでください」

紬「どうして?」

梓「……恥ずかしいです」

紬「ふふ。そんなところもそっくりなのに」

紬「似たもの姉妹の、みおあず!ってのも素敵…」

梓「またですか…」

この人はなぜおおっぴらに妄想するんでしょうか?
嫌ではないですが…なんかくすぐったいです。

46: 2011/02/09(水) 12:09:44.51 ID:06MmlFCO0
――――

紬「はい。それでは今日の講義を始めます!」

梓「ぱちぱちぱち」

紬「梓ちゃんもだいぶ上手くなってきたわね~」

梓「ありがとうございます。せんせい」

紬「ふふ。それじゃあ、今日はどれにしようかしら?」

梓「あの、今日は教えて欲しいのがあるんですけど…」

紬「あらあら!いいわよ~。どれかしら?」

紬「梓ちゃんの好きなやつ? それも分かるのよ~」

ちょっと子供っぽく自慢気なムギ先輩が可愛いです。
でも、ごめんなさい。今日のはそれじゃないんです。

梓「今日は、これにしませんか?」

48: 2011/02/09(水) 12:10:32.21 ID:06MmlFCO0
私は茶葉の缶の中から一つを取り出します。

紬「え?これでいいの」

梓「はい。これでいいと思います」

紬「梓ちゃんの好みも分かってると思ったんだけど…」

沈んでしまいました。違うんです。そうじゃないんですよ~!

梓「いえ。これは私のじゃなくて…」

梓「これ、ムギ先輩の好きなやつですよね?」

あ、ちょっと驚いてる。意外に分かりやすいんだよね。
ころころ表情が変わるのは、可愛いと思います。

紬「言ってなかったと思うんだけど」

梓「はい。言ってませんね。でも」

梓「このお茶飲んでる時が、なんというか、一番幸せそうに見えたので」

梓「だぶん、そうなんじゃないかな、と」

49: 2011/02/09(水) 12:11:33.26 ID:06MmlFCO0
自分で言っておいてなんだけど、ちょっと恥ずかしくなってきた。

紬「…ふふ。そうね。正解」

梓「教えてくれても良かったのに」

紬「自分のこととなると、何だか恥ずかしくなっちゃって」

相変わらず、変なところで控えめな人です。
…そんなところもなんだか可愛いです。思っていてもちょっと言えませんが。
私が恥ずかしいので。

紬「それに、押し付けがましくないかしら?」

梓「全然そんなことないですよ!」

梓「ムギ先輩にそんなこと言われたら、私なんてもう…」

梓「中野梓の半分は図々しさで出来ています。とか言わないといけないですよ!」

紬「ふふ…。あははは!梓ちゃん面白い!」

梓「もう!けっこう真面目に言ったんですよ!」

梓「…まあ、そういうことですよ」

50: 2011/02/09(水) 12:12:24.42 ID:06MmlFCO0
紬「梓ちゃんはすごいわね」

梓「まだまだムギ先輩には及びません」

紬「謙遜しなくてもいいのに~」

謙遜なんかじゃないです。
そういう所でこの先輩にはかなわないと思います。

紬「そうね。それじゃあ今日はこれで」

梓「はい。よろしくお願いします」

それはとっても上品な香りがして。
でもとっても飲みやすくて。

やっぱり、ムギ先輩みたいかなって。
そんなふうに思いました。

51: 2011/02/09(水) 12:13:10.33 ID:06MmlFCO0
梓「あの…ムギ先輩。ちょっとお聞きしたいんですけど」

紬「あら。なにかしら?」

聞いていいのかな?とも思ったけど。
ムギ先輩は全く隠したりする気がないみたいだし。
なんでか、そんな話ばっかりになるので。

…ちょっと。ちょっとだけ。気になっただけなんですよ?

梓「ムギ先輩って、その。……女の人が好きなんですか?」

紬「あら。そういうお話?」

梓「あ!すいません!突然変なコト言ったりして」

梓「嫌だったらいいんです。すいません…!」

紬「まあまあ落ち着いて。別に気にもしないし。大丈夫よ」

53: 2011/02/09(水) 12:14:23.50 ID:06MmlFCO0
紬「それにね!コイバナっていうのかしら?」

紬「そういうのしてみたかったし!」

梓「はぁ、それなら。まあよかったですけど…」

これが一般的な女子高生が話すような類のものかどうかは。
ちょっと疑問符が付くところですけど。

紬「梓ちゃんこそ大丈夫?そういうお話でも」

そういうってのは、やっぱり女の子同士ってのについてのことなんだろう。

梓「私は、まあ。大丈夫といいますか」

梓「よく分からない。って言ったほうが正しいですかね」

紬「普通はそうだと思うわよ」

梓「別にそれで差別したりとか、そういう気もないんですけど」

梓「純粋に、どんなこと思ってるのかなって言う興味ですかねぇ…」

54: 2011/02/09(水) 12:15:26.76 ID:06MmlFCO0
紬「そうね。せっかくだし、今日はそういうお話してみる?」

梓「はい。ムギ先輩がよければ。お願いします」

紬「まさかお願いしますって言われる日が来るとは思ってなかったわ」

梓「私もお願いする日が来るとは思ってませんでしたよ」

……

紬「うーん。なんて答えたらいいのかしら」

紬「女の子同士が仲良くしてるのを観るのは好きね~」

紬「何だかとっても素敵じゃない?」

梓「そういうものなんですかね?」

紬「これは感覚だし。分からない人には分からないんじゃないかしら」

紬「どんなものを可愛いと思うかって人によって違うでしょ?」

紬「その延長線みたいなものだと思うから」

梓「はぁ。なるほど」

紬「無理に理解しようとしなくてもいいと思うけどね。私は」

55: 2011/02/09(水) 12:16:22.49 ID:06MmlFCO0
梓「でも…観てるだけでいいんですか?」

梓「なんといいますか、その、先輩自身は…」

紬「私は女の子が好きなのかってことかしら」

梓「…はい。あの、ほんとに聞いて大丈夫ですか?」

紬「いいわよ。大丈夫」

紬「実はね、よくわからないの」

梓「はい?」

意外、といえば意外な答えが帰ってきました。
いままで、そういう、百合って言うんでしたっけ?
そういう嗜好の人達というのは、その人自身もそうなんだろうと。
そんなふうに思っていたので。

紬「というよりも、まだちゃんと人を好きになったことがないから…」

紬「恋をしたことがないのよ」

56: 2011/02/09(水) 12:17:24.17 ID:06MmlFCO0
紬「だから、どうなのかしらね?」

紬「私自身、同性愛に対して偏見を持ってるわけじゃないから」

紬「もしかしたら女の子を好きになるのかもしれないし」

紬「普通に、って言い方はあんまり好きじゃないけど…」

紬「男の人に恋をするのかもしれないし」

紬「そういうわけで。よくわかんない。かな」

梓「なるほど…」

紬「変な言い方だけど、好きになった人が好きな人なのよ」

紬「人として、惹かれるものがあるかどうかが大事で」

紬「性別で見てるわけじゃないって言うか、そんな感じ」

梓「ちょっと難しいですけど、何となく分かります」

紬「まあ。こういう考えは変わってるし。マイノリティだってのも分かるんだけどね」

57: 2011/02/09(水) 12:18:07.91 ID:06MmlFCO0
紬「ごめんね。恋も知らないお子様の話じゃ、面白くなかったでしょ?」

梓「いえ!とんでもない。 こちらこそ変に突っ込んだこと聞いちゃって」

梓「ためになった。って言っていいんでしょうか?」

紬「ええ。こんな話でよければ」

紬「でも…。やっぱり、変だって思ったりしない?」

梓「最初に言いましたよ。それで差別とかするつもりはないって」

梓「私にはまだ、よく分からない世界ではありますけど…」

梓「でも。私そういう所で人を変に扱ったり卑下したりするのは好きじゃないです」

梓「だから。分からなくても。それで変だなんて言ったりしません」

58: 2011/02/09(水) 12:19:01.82 ID:06MmlFCO0
紬「そう言ってもらえると私も気が楽だわ。ありがとう」

梓「いえいえ。…というか先輩ってあんまりそういうの隠そうとしないですよね」

紬「思い切ってそれなりにオープンにしておいたほうがいいのよ」

梓「そういうもんなんですかね?」

紬「ええ。それに、軽音部のみんなに変に隠し事とかしたくないし」

紬「みんななら、大丈夫かなって。なんとなくだけど、そう思ってるから」

梓「そうですね。みなさん、そんなこと気にする人じゃ無さそうですし」

梓「あ、私もそうですから。ご安心を」

紬「ふふ。ありがとう」

梓「…でも、私と他の先輩方で妄想するのはちょっと」

紬「嫌?」

梓「……というよりは、はずかしいので。すっごく」

59: 2011/02/09(水) 12:19:51.97 ID:06MmlFCO0
紬「え~。そんなぁ」

梓「そんなぁ。じゃないです!もう」

紬「梓ちゃんもみんなも可愛いからとってもいいのに!」

梓「力説されましても…」

私はやっぱりそういう事考えたことはないし。
ましてや、先輩方の誰かとなんて…

紬「そういう梓ちゃんは好きな人とかいないの?」

梓「うぇぇ?!私ですか!?」

紬「そう。梓ちゃん! 誰かに恋してないのかな~!」

梓「…残念ながら、私もそういうのには疎い方でして」

梓「今のところは、そういう人はいないですかね…」

61: 2011/02/09(水) 12:20:41.42 ID:06MmlFCO0
紬「なぁんだ。残念」

ムギ先輩は意外にこういう話に興味があるのかな?
ほんとに残念そうだし、さっきから妙に食いつきがいいというか。

よくよく考えたら、私たちってそういう浮ついた話が全くないなぁ…

紬「唯ちゃんとかは?」

梓「だからそんなんじゃないですってば」

紬「じゃありっちゃん!」

梓「…考えたこともなかったです」

紬「澪ちゃんともお似合いだと思うの!」

梓「まあ澪先輩はカッコイイとか思いますけど、そういう気はないです」

紬「はぁ…残念」

梓「落ち込まないでください。なんかこっちが悪いみたいです…」

でも、もし。もしもだよ。
私が先輩の誰かとそういう事になったんら……

62: 2011/02/09(水) 12:21:42.82 ID:06MmlFCO0
…………
……………………

はっとして我に戻ったときには
私はムギ先輩に押し倒されていました。

目の前にムギ先輩の顔があります。

大きな眼に整った顔立ち。
晴れた日の空のような、澄んだ蒼の瞳。
その特徴的な眉でさえ、この人にとっては魅力を引き出すアクセントだ。

柔らかい曲線を描く、この人の優しさを体現したようなブロンドの髪が
挿し込む夕日を浴びてきらきらと輝いている。

雪みたい、と例えたくなるような白くて綺麗な肌。
それによって強調される、桜色をした柔らかそうなピンクの唇。

私は視界に入るその全てに心を奪われていて。
目を反らすことが出来ません。

…いや、なぜそんなことをする必要が有るのでしょうか?
こんなに美しいものから、目を反らす必要なんて、ありません。

63: 2011/02/09(水) 12:22:26.30 ID:06MmlFCO0
「梓ちゃん」

私の名前。それを発しただけで。
その音が、私の耳に届いただけで。
心臓が、どくんどくんと跳ね上がる。

顔も体も、ビックリするくらい熱い。
でも、なんでだろう。それは全く不快じゃなくて。
むしろとっても心地いい。

「今の梓ちゃん、とっても可愛いわ」

「ムギ、せんぱい…?」

そっと。ガラス細工でも触るかのように。
私の頬に手を添えてくる先輩。

あったかくて、柔らかいその手が優しく頬を撫でて。
さらに私の動悸を早めます。

「食べちゃいたいくらい」

64: 2011/02/09(水) 12:23:18.58 ID:06MmlFCO0
「いいわよね? …あずさ」
「あ…」

私の名前。「あずさ」って。呼んでくれた。

もうだめだ。
私の中、もうこの人でいっぱいだ。
他のこと、考えられない。

「……はい。いいですよ。ムギ先輩」
「だめよ。梓」

「二人の時は、紬、って。そう呼びなさい」
「はい。……つ、つむぎ」
「ふふ。よろしい」

近づいてくる顔。
心を満たすような、紬のいい匂い。

そして、そのまま。私たちの唇が……


……………………
…………

65: 2011/02/09(水) 12:24:05.90 ID:06MmlFCO0
「……さちゃん?」
「…ずさちゃん?」

梓「ほへ?」

紬「梓ちゃん?」

……

梓「!!? うわぁぁぁ!?」

紬「うひゃあ!?」

びっくりしました。いきなり先輩の顔が真正面にありました。

さらにびっくりしたのは、……その。
あんな妄想をしていた直後だったので。

66: 2011/02/09(水) 12:24:59.38 ID:06MmlFCO0
梓「ああああ!?あの、すいません!大丈夫ですか!?」

紬「え? 私はなんともないんだけど」

紬「梓ちゃんの方こそ大丈夫?急にぼーっとしちゃって…」

梓「はい!なんでもないんです!大丈夫ですじょ!」

紬「じょ?」

噛んだ。恥ずかしい。帰りたい。

紬「…ふふふっ。あはははは!」

梓「……/// も、もう!そんなに笑わないでください!」

梓「私だって恥ずかしいんですから!」

紬「ははっ。…ふー。ごめんごめん」

紬「でも、大丈夫そうでよかったわ」

67: 2011/02/09(水) 12:25:55.84 ID:06MmlFCO0
梓「すいません。ほんとに…」

紬「いいのいいの。ちょっと疲れちゃった?」

梓「あー、いえ。そういうわけでは。ほんとに大丈夫ですから」

あんな話をしたからでしょうか?
……まさか、自分がこんな妄想をしてしまう日が来るとは
夢にも思ってませんでしたよ。

そりゃ、ムギ先輩は綺麗ですし。
当然、その。嫌いなわけなくて。……す、好き、ですけど。

でもでも!それはそういう好きじゃなくてですね!
あくまで!人として!先輩としてですから!

紬「梓ちゃん?顔赤いよ?ほんとに…」

梓「あああ!はい!大丈夫ですよ!ほらほら!」

だめだ!もう考えるのはよそう。

ああ、先輩でこんなことを考えてしまうなんて…
お父さん、お母さん。梓はいけない子なんでしょうか…?

68: 2011/02/09(水) 12:27:05.31 ID:06MmlFCO0
――――
――――――――

紬「梓ちゃん、ティータイムは好き?」

いつだったか、ふと。そんなことを尋ねられました。

梓「どうしたんですか、急に」

紬「うん。ちょっと、ね。」

紬「梓ちゃんが入ってきたときのこと、思い出してて」

梓「ああ、あの時の…」

そう、この軽音部に入ったばかりの頃。
私はそのゆるい空気に何故か馴染めなくて。

『ティーセットは全部撤去すべきです!!』
『あ…』
『それだけはかんべんしてぇ!!』
『なんで先生が言うんですか!?』

70: 2011/02/09(水) 12:27:56.38 ID:06MmlFCO0
今となっては、懐かしいと、そう言ってもいい記憶。
あれからそんなに季節はたってはいないけど。
何故だか、随分と昔のような、不思議な気分でした。

それはきっと。私が変わったから。
そう感じるんだと、思います。

梓「あの時はなんといいますか…すいませんでした。ほんとに」

紬「ううん。いいの。私たちこそ、あの時は悪いことしたかなぁって」

紬「真面目に音楽がしたい人が来て、ああだったらと思うと」

紬「やっぱり、そうなっちゃうかなって」

梓「まぁ、それはそうなんですけど…」

実際、私がそうでしたからね。
なにやってるんだろう。この人達って。

71: 2011/02/09(水) 12:29:07.32 ID:06MmlFCO0
でも、今は違う。

梓「…質問の答えですけど」

あの頃の私が見たらびっくりしそうだね。

梓「大好きですよ。ティータイム」

それはとっても素敵な時間で。

梓「それがなかったらきっと」

私たちに、必要なもの。
私の大好きな、この軽音部に、必要なものだから。

梓「私たちは、私たちじゃないと思うので」

72: 2011/02/09(水) 12:30:00.54 ID:06MmlFCO0
梓「…なんて。ちょっとカッコつけちゃいましたね」

梓「…って。にゃ…」

そう言うやいなや。ふわっとした感触に包まれます。
…ほんと、最近この人には抱きつかれてばかりです。

紬「梓ちゃんにそう言ってもらえるなんて」

紬「私、すごく嬉しいよ」

梓「私は、思ったままを言ってるだけですので」

紬「だから嬉しいの。ありがとう」

梓「お礼なんて言わないでください」

梓「それを言わなくちゃいけないのは、私の方です」

73: 2011/02/09(水) 12:30:50.51 ID:06MmlFCO0
…ああ、きっとそうだ。

どうして、紅茶を淹れてあげたいって思ったのか。
分かった気がしました。

きっと、この人に。淹れてあげたかったから。

私たちを支えてくれてるこの人に。
暖かくて優しいこの人に。
素敵な時間を創ってくれてるこの人に。
誰よりもその時間を大切にしているこの人に。

私も何かしてあげたいって。

ありがとうございますって。伝えたかったからだ。


――――――――
――――

74: 2011/02/09(水) 12:31:50.88 ID:06MmlFCO0
――――

「はい。それじゃあ今日はこれで。みなさん、さようなら」

ちょっとだけ早く終るHR。
僅かな時間だけど。それでも浮き足立つクラスメイトたち。

…そうだ。今なら私が一番乗りだ。
そろそろ、いい頃合かな。私もだいぶうまくなったと思う。

そう思うと居ても立ってもいられなくなって。

純「あーずさ!今日も軽音部に…」

先生が出ていくのとほぼ同時に教室を抜け出します。

純「行くんですね分かります」

憂「梓ちゃん何だか最近楽しそうだよね~」

純「まあ前から軽音部大好きっ子ではあったけどさ」

76: 2011/02/09(水) 12:33:09.06 ID:06MmlFCO0
純「なんだろう。この声すらかけてもらえない疎外感」

憂「純ちゃん寂しい?」

純「よくわからん。梓が楽しそうなのはいいんだけどさー」

憂「わたしもー。最近の梓ちゃんなんか嬉しそう」

純「…恋でもしてるのか?」

純「それで私たちなんか眼中に無いってのか!そうなんだね!?」

憂「それはどうか分からないけど…」

憂「…純ちゃん寂しい?」

純「あーもう!寂しいよちくしょー!」

純「もっと私らにもかまえ!」

憂「まあまあ。今日はジャズ研ないんでしょ?一緒に帰ろ?」

純「私の味方は憂だけだ~!」

78: 2011/02/09(水) 12:34:27.78 ID:06MmlFCO0
…………

がちゃ

紬「あら、梓ちゃん一人?」

梓「こんにちは。ムギ先輩。今日は私が一番みたいですね」

紬「まぁ。いい香りね」

梓「すみません。勝手に使っちゃって」

紬「好きに使ってねって言ったでしょ?大丈夫よ」

梓「ありがとうございます。それなりに練習もできたので」

梓「今日は私が淹れてみようかな…って」

紬「まあまあ!楽しみね~!」

紬「梓ちゃんも上手に淹れられるようになったし」

紬「きっとみんなビックリするわよ」

梓「そうですかね。……喜んでもらえるでしょうか?」

紬「大丈夫よ。私が保証するわ」

79: 2011/02/09(水) 12:35:32.86 ID:06MmlFCO0
そう言ってもらえるなら、大丈夫でしょうか。
何だか安心しました。

紬「でも、この紅茶…」

梓「はい。ムギ先輩の好きなやつですよ?」

紬「…最初に淹れるの、それで良かったの?」

梓「いいんですよ。なに言ってるんですか」

梓「もちろん、先輩方みんなに淹れてあげたいですけど」

でもやっぱり。あなただったと思うから。
喜んでもらいたいって、そう思ったから。

梓「ムギ先輩に淹れてあげたいって思ったのがきっかけだったんです」

梓「だから一番最初に、ムギ先輩に。好きな紅茶を淹れてあげようって」

梓「そう決めてましたので」

80: 2011/02/09(水) 12:36:31.29 ID:06MmlFCO0
今までの時間を思い出しながら。
手順は間違えないよう、ゆっくりと。丁寧に。
それと、一番大事なこと。
淹れてあげる相手への思いを込めて。

……よし。できた。

この紅茶を一番美味しく淹れるには。
ううん。正確には、この人が一番喜んでくれるには、ですね。

梓「…お口にあうか分かりませんが」

紬「とんでもない。私が一番側で見てきたんだもの」

紬「梓ちゃんの腕前はちゃんと分かってるつもりよ」

紬「…いい香りね」

とても似合った上品な仕草で。香りを楽しんだ後。
そっと一口。口に運んで。

紬「…これ」

81: 2011/02/09(水) 12:37:18.73 ID:06MmlFCO0
ふふ。やりました。
本日二度目ですね。驚いていただけたようです。

喜んでもいただけてたら、なおのこと嬉しいですけど。

梓「ストレートが一般的みたいですけど」

梓「風味を崩さない程度に、少しだけ砂糖を」

梓「それが、ムギ先輩のお気に入り。ですよね?」

紬「…大正解」

紬「おいしいわ。…本当に」

紬「今まで飲んだことのある紅茶の中で一番よ」

梓「大げさですよ。私なんてまだまだです」

紬「そんなことない」

82: 2011/02/09(水) 12:38:09.26 ID:06MmlFCO0
その蒼い瞳でまっすぐ見つめられて。
その顔は本当に嬉しそうにはにかんでいて。

紬「本当に。美味しかったから。嬉しかったから」

紬「だから。ありがとう。梓ちゃん」

ムギ先輩の言ってたこと。分かった気がします。
それだけで、私も本当に嬉しくなる。
こころがほっとあったかくなる。

梓「喜んでいただけて、私もとっても嬉しいです!」

あなたにそんな気持ちになって欲しくて。頑張りましたから!

梓「ムギ先輩への、感謝の気持ちなんです」

梓「いつも素敵な時間をくれるムギ先輩に」

梓「私たちを支えてくれてるムギ先輩に」

梓「私からの、ありがとう。です!」

ちょっと驚いて、でもそれから。
満面の笑みを見せてくれます。それにつられて、私も。
とびっきりの笑顔をお返しするんです。

83: 2011/02/09(水) 12:39:06.05 ID:06MmlFCO0
梓「それに、色々教えていただきましたし」

梓「ムギ先輩とたくさんお話できて。とっても楽しかったです」

紬「それは私も。梓ちゃんのこといっぱい知れた。嬉しかった」

梓「…でもずるいですよ。こんなに素敵なこと、一人占めしてたなんて」

紬「ふふ。ごめんなさい。でもこれからは、梓ちゃんも淹れてあげられるね」

梓「はい!でも、やっぱりまだまだですし」

あの時間がなくなるのが、なぜだかちょっと寂しくて。
もっと。仲良くなれたら。なんて。そんなことを思ったから。

梓「まだ、私の好きな紅茶、淹れ方教えてもらってませんし」

だからもうちょっとだけ、あの時間を。

梓「だから、もっと教えてください」

おいしい紅茶の、淹れ方を

紬「ええ。喜んで!」

84: 2011/02/09(水) 12:39:48.42 ID:06MmlFCO0
ガチャ

唯「こんちゃ~」

律「遅れてごめんよー」

澪「まったくこいつらは……」

紬「あらみんな。いらっしゃ~い」

梓「みなさんお疲れ様です」

律「おや、またまた珍しい組み合わせ」

唯「最近仲がいいですな~おふたりさん」

律「ねー!怪しいですわよねー」

唯「ね~!これはもしや…」

梓「はいはい。馬鹿やってないで座ったらどうです」

唯・律「バッサリきたー!?」

85: 2011/02/09(水) 12:40:32.40 ID:06MmlFCO0
澪「…あれ、それ。もしかして、梓が?」

紬「ええ!今日は梓ちゃんがみんなに紅茶、淹れてくれるって」

梓「はい。まだまだムギ先輩にはおよびませんが」

梓「皆さんに飲んでいただけたらな、と思いまして」

唯「おお~!あずにゃんすご~い!」

律「梓がねぇ!すごいじゃん!」

澪「わざわざ淹れてくれたのか。ありがとう」

86: 2011/02/09(水) 12:41:20.06 ID:06MmlFCO0
澪「へぇ…。すごくいい香り」

唯「美味しそうな匂いだねぇ~」

紬「梓ちゃんは私なんかよりずっと上手なのよ~」

梓「もう!ムギ先輩!ハードル上げないでくださいよ」

唯「ご褒美になでなでしてあげよう」

梓「終わったらにしてください。すぐ用意しますので」

律「しっかしどうしたんだ?急に色気づいちゃってー」

梓「律先輩もたまには色気づいたらどうですか?」

律「なかのぉー!そんなこというのはこの口かー!!」

94: 2011/02/09(水) 13:01:18.62 ID:06MmlFCO0
梓「いひゃいいひゃい!」

澪「こら律!邪魔しちゃ駄目だろ」

唯「そうだよりっちゃん!おとなしく待ってなさい」

律「唯にはなんか言われたくねーぞ!」

唯「へへ。あずにゃんの淹れてくれる紅茶楽しみ~」

律「でも梓が紅茶淹れられるとはなー」

梓「すごく失礼なこと言われてる気がします」

律「いやいや。本格的なのって難しいんじゃないかなーって思ってさ」

紬「ちょっと練習すれば誰でもできるから、りっちゃんもどう?」

律「いや、私はいかに美味しく飲めるかを突き詰めたい!」

96: 2011/02/09(水) 13:02:11.50 ID:06MmlFCO0
梓「そのためには淹れ方も知っといたほうがいいですよ」

律「いやいや、違うんだよ梓くん」

律「私は出されたものをいかに美味しそうに飲めるかを追求する!」

澪「またこいつは。何いってんだか」

唯「そうだよりっちゃん。つくる人のことを知るのは大事だよ!」

律「その割にはなにもする気がない唯には言われたかない」

唯「ムギちゃんやあずにゃんのお茶なら美味しいに決まってるから大丈夫!」

澪「こっちはこっちで…まったく」

98: 2011/02/09(水) 13:03:18.53 ID:06MmlFCO0
紬「ふふふ。みんな今日も仲良しね~」

梓「…まったく、もう」

なんて言いながらも、きっと私の顔は笑っていて。

さて。それじゃあ皆さんに、紅茶を入れてあげなくちゃ。
今日は、ムギ先輩の好きなこの紅茶。

次はどうしよう?

甘くて美味しいミルクティー?すっきりとしたあの紅茶?
お砂糖たっぷりの、あの紅茶にしようかな?

…あ、そうだ!今度憂と純にもご馳走しよう。
きっとふたりとも驚くよ!

それでみんなが笑顔になったら、きっと私も。とっても幸せ。



おしまい

99: 2011/02/09(水) 13:05:03.80

寒い日にほんわかできる温かい話でよかった!

100: 2011/02/09(水) 13:05:14.62
おつおつ
優しくて良い話だ

104: 2011/02/09(水) 13:06:49.89

紅茶を通して立ち位置や人間関係や百合について、アニメの世界観を壊さずに一歩踏み込んだ内容が素晴らしかった

引用元: 梓「おいしい紅茶の淹れ方を」