1:2017/03/09(木) 21:33:48.170 ID:Vs3aXJy30.net
-教室-


ヴィーネ「はぁ。ガヴったら、また今日も学校休んで……」

サターニャ「どーせ、いつものズル休みでしょー?」

ヴィーネ「先生は体調不良だって言ってたけど……たぶん仮病でしょうね」

サターニャ「ほっときゃいいのよ、ほっときゃ」

ヴィーネ「でもまあ一応、様子を見に行ってみるかな」

サターニャ「はぁ、あんたってほんと、お人好しねぇ」

ヴィーネ「うぐっ」

サターニャ「そんなんだから、悪魔としての評価が下がる一方なのよ」

ヴィーネ「う、うるさいわね。それにガヴは友達だもの。友達の心配くらい悪魔でもするでしょ」

サターニャ「あー、はいはい」


ヴィーネ(もう、なんで私が気落ちしないといけないのよ)

ヴィーネ(……ガヴの馬鹿)
3:2017/03/09(木) 21:37:12.311 ID:Vs3aXJy30.net
-校門前-


ヴィーネ(そうだ、ガヴに何か買っていこうかしら……って、あれはラフィ?)

ラフィエル「――」

ヴィーネ(……あ、誰かと電話中みたい)


ラフィエル「――そうですか、ガヴちゃんが……」

ヴィーネ(ん、ガヴの話?)


ラフィエル「――はい、はい……それでは、もう……」

ヴィーネ「……」


ラフィエル「――長くは、ないのですね?」

ヴィーネ(……えっ?)
4:2017/03/09(木) 21:40:26.321 ID:Vs3aXJy30.net
ラフィエル「――わかりました。はい、それでは」


ヴィーネ「ラ、ラフィ?」

ラフィエル「あ、あら。ヴィーネさん」

ヴィーネ「ごめん。その、盗み聞きするつもりじゃ、なかったんだけど……」

ラフィエル「あ、ごめんなさい、ヴィーネさん!」

ヴィーネ「えっ?」

ラフィエル「わ、私、急用があるのでお先に失礼しますね!」タタタッ

ヴィーネ「あ、ちょっと! ラフィ!」


ヴィーネ「……」

ヴィーネ(なにそれ……いつもの仮病じゃ、ないの?)


ヴィーネ(……ガ、ガヴが……もう長くないって)

ヴィーネ(嘘よね? そんな……そんな事って……)
13:2017/03/09(木) 21:44:14.979 ID:Vs3aXJy30.net
-ガヴリールの部屋-


ラフィエル「これ、頼まれていたお薬です」

ガヴリール「……ありがとな、ラフィエル」

ラフィエル「いえいえ、他ならぬガヴちゃんのお願いですから」


ガヴリール「……この事、誰にも言ってないよな?」

ラフィエル「はい、誰にも」

ガヴリール「それならいい。もしあいつに伝わったら、目の色変えて心配しそうだしな」

ラフィエル「……ヴィーネさんですか?」

ガヴリール「うん。だってあいつ、あんな性格だろ?」

ラフィエル「ええ、わかります」


ガヴリール「お節介で、いつも他人の事ばっか気にして……」

ガヴリール「もっと自分の事を考えろっての」

ラフィエル「優しいんですね」

ガヴリール「……そんなんじゃないし」
14:2017/03/09(木) 21:48:30.189 ID:Vs3aXJy30.net
ラフィエル「でもヴィーネさんにとって、ガヴちゃんは特別だと思いますよ」

ガヴリール「は? 急になに言って……」


ラフィエル「私たちの周りって、見ていて心配になるような人が沢山いると思うんですけど」

ガヴリール「まぁ……サターニャとかな」

ラフィエル「はい。ただヴィーネさんのガヴちゃんへの接し方は、ですね」

ラフィエル「他の人よりも頭一つ以上、飛び抜けていると思います」

ガヴリール「そ、そうか?」

ラフィエル「ええ。私、いつもみなさんを少し離れた所から見てますから、わかるんです」

ガヴリール「ヴィーネが、私の事……」


ラフィエル「お二人はあまりにも近い距離にいますから。逆に気づきにくいかもしれません」

ガヴリール「……」
15:2017/03/09(木) 21:52:28.585 ID:Vs3aXJy30.net
ラフィエル「それでは、私はこれで失礼しますね」

ガヴリール「……なぁ、ラフィエル」

ラフィエル「なんですか?」

ガヴリール「さっきの、その……特別っていうのは、ヴィーネに直接なにか聞いたのか?」

ラフィエル「いえ、特には」

ガヴリール「じゃあどうして……」

ラフィエル「そうですね。強いて言うならば……」

ガヴリール「……」

ラフィエル「女の勘、でしょうか」ニコッ

ガヴリール「なんだそれ」

ラフィエル「……お体、大事にしてくださいね、ガヴちゃん」


バタン


ガヴリール「……」

ガヴリール(今まで考えた事なかったな、そんなの)
16:2017/03/09(木) 21:56:28.592 ID:Vs3aXJy30.net
-ガヴリールの家の前-


ヴィーネ(どうしよう、気がついたらここまで来ちゃってたけど)

ヴィーネ(今更、私にできる事があるのかな……)

ヴィーネ(……ええい、もう、なるようになれ!)


ピンポーン ピンポーン



-ガヴリールの部屋-


ガヴリール(あー、この鳴らし方、ヴィーネだな……)

ガヴリール(黙ってても入ってくるだろうし、仕方ない、か)


ガチャ


ヴィーネ「……ガ、ガヴ?」

ガヴリール「よう、どうした」


ヴィーネ(珍しくベッドに寝てる……やっぱり……)
17:2017/03/09(木) 22:01:04.860 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「……ど、どうしたじゃないわよ。学校も休んでるし、一言くらい連絡くれても」

ガヴリール「ああ、ごめん忘れてた」

ヴィーネ「わ、忘れてたって……」


ヴィーネ(……もしかして、私や他の人に心配かけないため?)


ガヴリール「ごめんって」

ヴィーネ「べ、別にいいけど……それよりお腹すいてない? お粥で良かったら作るけど」

ガヴリール「あー……、えっと、そうだな」

ヴィーネ「あまり食欲ない?」

ガヴリール「いや、やっぱり貰おうかな」

ヴィーネ「う、うん、わかった。すぐ作るね」


ヴィーネ(なんだろう、今の曖昧な返事……お粥すら食べるのがつらいの?)
18:2017/03/09(木) 22:04:45.342 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「……」

ガヴリール「……」


ヴィーネ(聞くのが怖い。でも、このままじゃ何も変わらない)

ヴィーネ(何か私にだって……手助けできる事があるかもしれない)

ヴィーネ(……聞こう)


ヴィーネ「……できたわよ、ガヴ。今そっちに持っていくね」

ガヴリール「おう、サンキューな」


ヴィーネ「ところでガヴ。お、お医者さんには、行ったの?」

ガヴリール「ん、行ったよ」

ヴィーネ「そ、それで……どうだった?」

ガヴリール「ああ……二、三日だって」


ガシャン!
19:2017/03/09(木) 22:08:30.593 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ(う、嘘……)

ヴィーネ(ガヴが、あと二、三日の命……だなんて)


ガヴリール「お、おい、大丈夫か?」

ヴィーネ「ごめっ、ごめんなさい……平気、平気だからっ」

ガヴリール「怪我してないか?」

ヴィーネ「だ、大丈夫。ほんとにごめんね。すぐ……すぐ作り直すから」

ガヴリール「お、おう」


ヴィーネ「……」ガタガタ


ヴィーネ(そんな……そんな事って……)

ヴィーネ(じゃあ今までずっと、病状を隠してたって事?)


ヴィーネ(まさか、今の自堕落な生活も……)

ヴィーネ(自分の余命を知ってしまって、人生に絶望してしまったから?)
20:2017/03/09(木) 22:12:25.040 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ(ガヴだって最初は……)

ヴィーネ(世のため人のために自分を犠牲にする事も厭わない、心の優しい子だった)


ヴィーネ(でも、自分があと残り僅かで氏んでしまうと知ったら、どうだろう)

ヴィーネ(誰かのためになんて、生きられるだろうか)

ヴィーネ(自分を犠牲になんて……できるだろうか)

ヴィーネ(いや……そんなの……いくら天使だからって)


ヴィーネ「……ガヴ、待たせちゃってごめんね。お粥、今度こそできたから」

ガヴリール「おう、悪いな」


ヴィーネ(余計なお世話だってわかってる。お節介だって、わかってる)

ヴィーネ(私はいつだって……他人の顔色ばかり気にしてる)

ヴィーネ(でも、それでも私は……ガヴに何かをしてあげたい)


ヴィーネ(……そうよ、私は悪魔なんだから)

ヴィーネ(少しくらい我儘になったって、いいじゃない)

ヴィーネ(自分の気持ちに正直になったって……いいじゃない)
22:2017/03/09(木) 22:16:22.697 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「……お粥、食べさせてあげるね」

ガヴリール「えっ? あ、いいよ、自分で食べ――」

ヴィーネ「お願いガヴ。私にさせてほしいの」ジッ

ガヴリール「えっ、あ、うん。わかった」


ガヴリール(……おかしい)

ガヴリール(なんか妙におどおどしてると思ったら、急に押しが強くなったり)


ガヴリール(……ヴィーネが私の事を特別、か)

ガヴリール(これは、まさかほんとに……)


ヴィーネ「はい、あーん」

ガヴリール「あ、あーん」モグモグ

ヴィーネ「熱くない? 大丈夫?」

ガヴリール「うん、平気。おいしい」

ヴィーネ「そう、よかった」ニコッ

ガヴリール「……ッ」カァァ
23:2017/03/09(木) 22:20:23.681 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール(ヴィ、ヴィーネってこんな風に笑うんだ)

ガヴリール(なんて言ったらいいんだろ……)

ガヴリール(まるで全てを受け入れてくれるような、そんな感じ)


ヴィーネ「ガヴ、どうしたの? って、顔が少し赤くなって……」

ガヴリール「え? あ、あぁー、もしかしたら熱が少し上がってきたのかも」

ヴィーネ「ご、ごめんなさい! やっぱりお粥、無理して食べて……」

ガヴリール「へっ? あ、違う違う! そうじゃないって!」

ヴィーネ「ほ、本当?」

ガヴリール「ほんとにほんと。あー、お粥おいしいから、もっと食べたいなぁ……なんて」

ヴィーネ「……よかったぁ。まだまだあるからね。はい、あーん」

ガヴリール「……あーん」モグモグ


ガヴリール(でもまぁ、なんだろ)

ガヴリール(不思議と……悪い気はしないかな)
25:2017/03/09(木) 22:24:26.789 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール「ごちそうさまでした」

ヴィーネ「はい、お粗末さまでした。片付けちゃうね」ガチャ


ガヴリール「ヴィーネ」

ヴィーネ「なーに?」

ガヴリール「その、なんだ」

ヴィーネ「……?」

ガヴリール「……おいしかったよ」

ヴィーネ「あ……うんっ」ニコッ


ガヴリール「じゃあ……す、少し寝るから」カァァ

ヴィーネ「あ、ちょっと待ってガヴ」

ガヴリール「ん?」


ヴィーネ「寝る前に、体、拭いてあげるね。汗かいてるでしょう?」

ガヴリール「えっ、いいって。寝たらどうせ、また汗かくだろうし」

ヴィーネ「そしたらまた、拭いてあげるから」

ガヴリール「うっ……」

ガヴリール(……断りづらい)
26:2017/03/09(木) 22:29:11.923 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「じゃあ、まず上だけ脱いでもらっていい?」

ガヴリール「う、うん」スッ


ヴィーネ(前から華奢な体だと思ってたけど……やっぱり病気のせいよね)

ヴィーネ「背中から拭くから、タオル、熱かったら言ってね」

ガヴリール「わかった」


ヴィーネ(だけど、いくら進行の早い病気だったとしても、こんな短期間でなんて……)

ヴィーネ(もしかして、天界にいた時から患っていた?)


ヴィーネ(じゃあ、なんで下界に一人で――)

ヴィーネ(……ッ!?)

ヴィーネ(ま、まさか……そんな事って……)


ヴィーネ(病気に冒されたから、余命が僅かとなってしまったから、天界を追放された?)
27:2017/03/09(木) 22:32:26.678 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ(天使としては、もう役に立たないと判断されて……)

ヴィーネ(家族とも引き裂かれて……)

ヴィーネ(たった一人で、下界に……?)

ヴィーネ(そんな、そんな残酷な事ってあるの……?)


ガヴリール「……ヴィーネ?」

ヴィーネ「……」ガクガク


ヴィーネ(だけど、それでもガヴは……)

ヴィーネ(下界へ降りた直後の、一番つらかった時でも)

ヴィーネ(みんなのために、世の中のために頑張ってた)


ヴィーネ(道に迷って困っていた私の事だって……助けてくれた)


ヴィーネ(そして、心まで……病んでしまった)
28:2017/03/09(木) 22:36:35.195 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ(でも、心が病気になってしまった後だって)

ヴィーネ(他人を拒絶して、一人ぼっちになって……)

ヴィーネ(周りには素っ気ない態度をとっていても……)

ヴィーネ(大事な時にはいつだって、私たちに付き合ってくれた)


ヴィーネ(一緒に買い物に、付き合ってくれた)

ヴィーネ(一緒に海に、付き合ってくれた)

ヴィーネ(一緒にハロウィンに、付き合ってくれた)

ヴィーネ(一緒に……、一緒に……)


ヴィーネ「……」

ガヴリール「ヴィーネ、どうし――」


ぎゅぅ


ガヴリール「ヴィ、ヴィーネ?」

ヴィーネ「ガヴ、一人でつらかったよね……苦しかった、よね?」
30:2017/03/09(木) 22:40:45.828 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「ごめんね、気づいてあげられなくて……ほんとにごめんね」

ガヴリール「な、えっ……?」


ガヴリール(急に抱きついてくるなんて……どうしたんだ)

ガヴリール(……やっぱり、そうなのか? ヴィーネは私の事……)


ヴィーネ「私がそばにいるから。一人になんて、させないから」

ヴィーネ「……最後の最後までずっと、一緒にいるからっ」


ガヴリール(さ、最後って……死ぬまでって事?)

ガヴリール(それってつまり、一生、添い遂げるって事だよな)


ガヴリール「ヴィーネ……」

ヴィーネ「……ッ」ギュゥ


ガヴリール(これは……そういう事、なんだよな)
31:2017/03/09(木) 22:41:09.229 ID:Qqr/8Qrl0.net
ヴィーネちゃん優しい
32:2017/03/09(木) 22:44:49.292 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール(それから暫くして……)

ガヴリール(ヴィーネは無言で腕を解くと、私の体を拭くのを再開した)

ガヴリール(まるで壊れ物を扱うように、優しく、優しく、丁寧に)

ガヴリール(正直くすぐったかったけど、嫌な気持ちにはならなかった)

ガヴリール(タオルの熱を通じて……ヴィーネの気持ちが伝わってきた気がした)


ヴィーネ「これくらいで、いいかな」

ガヴリール「……うん。ありがと」


ヴィーネ「ねえ、ガヴ」

ガヴリール「ん?」


ヴィーネ「……他に、何かしたい事はない?」

ガヴリール「したい事?」

ヴィーネ「うん。私、ガヴのためだったら何でも……」
34:2017/03/09(木) 22:48:51.170 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール「何でもって……ヴィーネそれは」

ガヴリール(……普通の友達には、言わないぞ)


ヴィーネ「も、もちろん、私にできる事だけど」

ガヴリール「……そうか」

ガヴリール(ヴィーネの気持ちが、本当なのかどうか)

ガヴリール「……それじゃあ」

ガヴリール(もう確かめる……しかないな)


ガヴリール「私と……キス、してくれないか」

ヴィーネ「……えっ」


ガヴリール(……もしかしたら私、とんでもない事を言ってるかも)

ガヴリール(でも本気じゃないなら、そんなの出来ないって言って、笑って終わるだろう)


ヴィーネ「……」


ガヴリール(だけど……もしも、OKだったら)

ガヴリール(私は……ヴィーネを、受け入れるのか?)
35:2017/03/09(木) 22:52:35.421 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ(キ、キスしたいだなんて……)

ヴィーネ(それって、つまり……そういう事、なの?)


ヴィーネ「……」チラッ

ガヴリール「……」


ヴィーネ(真剣な目をしてる……)

ヴィーネ(なんだろう、この気持ち……)

ヴィーネ(私がガヴのために何かをしてあげたいのに、これじゃ……)


ガヴリール「……」


ヴィーネ(……違う、違う。きっと、そうじゃない)

ヴィーネ(ガヴだって、天使とはいえ女の子だもの)

ヴィーネ(恋愛とか、そういう事がしたかったんだよね……)

ヴィーネ(だったら、私は……)


ヴィーネ「……私で本当にいいの?」
36:2017/03/09(木) 22:56:33.542 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール(ヴィーネ……否定しなかった)

ガヴリール(もう今更、冗談でした、なんて言えるはずがない)

ガヴリール(……覚悟を決めろ、私)


ガヴリール「……」コクッ

ヴィーネ「……じゃあ、するね?」スッ


ガヴリール「……」ドキドキ

ガヴリール(ヴィーネが近づいて……、あ、吐息が……)

ヴィーネ「……」ドキドキ


ガヴリール(ヴィーネは本気で私に向かってきてくれてるのに)

ガヴリール(私だけがこんな曖昧な気持ちで、本当にいいのか?)

ガヴリール(嫌だったら避ければいい。でも……体が動かない)

ガヴリール(いや違う……動かないんじゃない)

ガヴリール(ああ、そうか……私は……)


ザッ ザザァァッ


ガヴリール「……ッ!?」

ヴィーネ「な、なに?」
38:2017/03/09(木) 23:00:53.874 ID:Vs3aXJy30.net
ザァァァァッ


ガヴリール「な、何の音だ?」

ヴィーネ「えっと……この紙袋の中から、みたい?」ガサガサ

ガヴリール「それは確か、ラフィエルから貰った薬の……」


ぽろっ


ガヴリール「あ、ヴィーネ、何か落ちたぞ」

ヴィーネ「なんだろう、これ。黒いサイコロみたいな……」


ガヴリール「……はぁ、そういう事か」

ヴィーネ「ガヴ?」

ガヴリール「ヴィーネ、ちょっとそれ貸して」

ヴィーネ「あ、うん」スッ


ガヴリール「すぅ……」

ガヴリール「ラフィエル、聞いてるんだろ! 十分以内に、ここに来い! いいな!」


ヴィーネ「……えっ?」
40:2017/03/09(木) 23:04:35.812 ID:Vs3aXJy30.net
ラフィエル「あらら~、ばれちゃいましたか」

ガヴリール「……とりあえず、言い分を聞こうか」

ラフィエル「私としては、ガヴちゃんもヴィーネさんも、大事なお友達ですから」

ラフィエル「これは絶対に見守らないとダメだと思いまして~」


ガヴリール「……ったく、どこからどこまでが本当だよ」

ラフィエル「ガヴちゃんと話した内容については、嘘偽りはありませんよ?」

ガヴリール「う……じゃあお前、ヴィーネには何か仕込んだな?」

ラフィエル「仕込みだなんて、とんでもない~」

ガヴリール「あくまで、しらを切るのな」


ガヴリール「ヴィーネ」

ヴィーネ「は、はい」

ガヴリール「ラフィエルから、私に関する事で何かされなかったか?」
42:2017/03/09(木) 23:08:13.418 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「何かをされたというか……」

ヴィーネ「私は、ラフィエルが電話してるのを聞いちゃって」

ヴィーネ「ガヴが、その……病気だって聞いて」


ガヴリール「……病気?」

ヴィーネ「うん……それで、その……ガヴがもう……長くないって」

ガヴリール「なっ!?」


ヴィーネ「だからね、私、ガヴのために何かしてあげたいって……」

ガヴリール「はぁ……なるほどな、全てに納得がいったわ」

ヴィーネ「えっ? 納得?」

ガヴリール「……ヴィーネ、落ち着いて、よく聞けな」

ヴィーネ「う、うん」


ガヴリール「私はな……ただの風邪だ」

ヴィーネ「……」

ガヴリール「……」


ヴィーネ「……へっ?」
43:2017/03/09(木) 23:12:34.210 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール「おい、ラフィエル……どういう事だ?」

ラフィエル「確かに私は電話で、もう長くはないという話はしていましたが……」

ラフィエル「実家のお隣の家のワンちゃんが、もうそろそろ寿命だという話でして」

ヴィーネ「……ッ」

ラフィエル「ほら、ガヴちゃんにも、よく懐いてましたよね」

ガヴリール「……それはそうだけど」チラッ


ヴィーネ「ガヴ……お医者さんから、二、三日だって言われたのは?」

ガヴリール「あれは……二、三日もありゃ治るって医者に言われたんだ」

ヴィーネ「……そ、そうだったんだ」


ヴィーネ「……」ペタンッ

ガヴリール「だ、大丈夫か?」


ヴィーネ「そっか……全部、全部、私の勘違いだったんだ……」

ガヴリール「い、いや。ラフィエルも私も、言葉足らずな所があったし……な?」

ラフィエル「は、はい」


ヴィーネ「……」ポロポロ

ガヴリール「ヴィ、ヴィーネ!?」
44:2017/03/09(木) 23:17:00.505 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「……よかった、ぐすっ……よかったよぉ」ポロポロ

ガヴリール「……えっ」


ヴィーネ「だって私、ガヴが、ぐすっ……ガヴが死んじゃう……って」

ガヴリール「ヴィーネ……」


ヴィーネ「もう死んじゃうっていうのに、ぐすっ……ガヴったら妙に落ち着いてて……」

ヴィーネ「周りに心配かけないようにしてるんだ、って思ったら……」

ヴィーネ「もっと別れるのが、ぐすっ……つらくなって……」

ガヴリール「……ッ」


ぎゅぅ


ヴィーネ「……ガヴ?」

ガヴリール「大丈夫、私は死なない。居なくなったりもしない」

ヴィーネ「嘘……じゃないよね?」

ガヴリール「嘘じゃない、私はずっとここにいるから」ナデナデ

ヴィーネ「うっ……うぅ……」
45:2017/03/09(木) 23:20:55.167 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール「ラフィエル、言いたい事は山ほどあるけど、今日はもう」

ラフィエル「わかりました。それでは、私は失礼しますね」


ヴィーネ「……」

ガヴリール「落ち着いたか?」

ヴィーネ「……」コクッ


ガヴリール「そっか、よかっ……」クラッ

ヴィーネ「ガ、ガヴ!?」


ガヴリール「ははっ、大丈夫だって言った直後で情けないけど」

ヴィーネ「や、やっぱり悪い病気なんじゃ……」

ガヴリール「ちょっと熱がぶり返して、目眩がしただけだって」

ヴィーネ「ほんとに? 本当に大丈夫?」

ガヴリール「ああ、寝てりゃ治るよ」
47:2017/03/09(木) 23:24:42.206 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール「じゃあ、少し眠るから」

ヴィーネ「うん……」

ガヴリール「お粥も食べたし、体も拭いてもらったし、私が寝たらもう帰っていいからな」

ヴィーネ「で、でも……」

ガヴリール「風邪うつしちゃ悪いし、ヴィーネも疲れただろ。いらん心配かけてごめんな」

ヴィーネ「ガ、ガヴが謝る事じゃない。私が勝手に変な勘違いしたから……」

ガヴリール「それじゃこうしよう。どっちも悪かったって事で」

ヴィーネ「ガヴ……」


ガヴリール「それじゃ、おやすみ」

ヴィーネ「……うん。おやすみなさい」



ヴィーネ「……」

ガヴリール「すぅ……すぅ……」

ヴィーネ「……ガヴ、寝ちゃった?」
50:2017/03/09(木) 23:29:38.248 ID:Vs3aXJy30.net
ぎゅっ


ヴィーネ(ガヴの手、温かい。少し熱いくらい)


ヴィーネ(……全ては私の勘違いだったのに、まだモヤモヤする)

ヴィーネ(行き場を失った気持ちが、私の中をぐるぐると回り続けてるみたい)

ヴィーネ(だって、あれは……)


 『私と……キス、してくれないか』


ヴィーネ(あれも、私の勘違いだったの、かな)

ヴィーネ(私と会う前に、ラフィとも何か話していたみたいだし)


ヴィーネ(もし……あの時、紙袋から変な音がしてなかったら)

ヴィーネ(たぶん私は、私たちは……)


ヴィーネ(私、ガヴの力になりたいという気持ちを……建前にしようとした?)

ヴィーネ(そうなっても……よかった?)


ガヴリール「すぅ……すぅ……」

ヴィーネ「ねぇ……教えてよガヴ」
52:2017/03/09(木) 23:34:56.505 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール(まだ小さかった頃の夢を見た)

ガヴリール(ひどい高熱を出して、私は寝込んでいて)

ガヴリール(本当にしんどくて、不安で押し潰されそうになって)

ガヴリール(そんな時にずっと、私の手を握ってくれていたのは)

ガヴリール(誰だった、だろう)



ちゅんちゅん


ガヴリール「……あれ、朝?」

ガヴリール「そうか、朝まで寝ちゃったのか、私」

ガヴリール(ん……手が温かい)


ヴィーネ「すぅ……すぅ……」


ガヴリール「はぁ……帰れって言ったのに」

ガヴリール「そんな所で寝てたら、お前が風邪ひいちゃうだろ」スッ


ヴィーネ「ん……ガヴ……すぅ……」


ガヴリール「でも、ありがとな。ヴィーネ」

ガヴリール「私にとっても……たぶんお前は、特別だと思うよ」
54:2017/03/09(木) 23:40:10.621 ID:Vs3aXJy30.net
後日

-ヴィーネの部屋-


ヴィーネ「くちゅん!」

ヴィーネ(うぅ……また風邪をひくなんて情けない)

ヴィーネ(今度サターニャにでも風邪をひかないコツ、聞いてみようかしら)


ピンポーン ピンポーン


ヴィーネ(……あ、この鳴らし方、ガヴっぽい)


ガチャ


ガヴリール「おーい、生きてるかー?」

ヴィーネ「やっぱり」

ガヴリール「やっぱりってなんだよ。人がせっかく来てやったのに」

ヴィーネ「な、何しに来たのよ」

ガヴリール「いやね……ヴィーネがさぁ、もう長くないって聞いて」ニヤニヤ


ヴィーネ「~~~~ッ!」ポカポカ
57:2017/03/09(木) 23:45:13.597 ID:Vs3aXJy30.net
ガヴリール「いたっ、痛いって!」

ヴィーネ「……冷やかしならお帰りください、お客様」

ガヴリール「まあ、それだけ元気そうなら大丈夫だな」


ヴィーネ「って、何その荷物」

ガヴリール「ん? ノートPCとクッション」

ヴィーネ「それは見たらわかるけど……」

ガヴリール「ああ、今日私、ここに泊まるから」

ヴィーネ「はぁ? 何を勝手に……」


ガヴリール「仕返し」

ヴィーネ「えっ?」

ガヴリール「あの時ヴィーネだって、帰れって言ったのに帰らなかったじゃん」

ヴィーネ「そ、それは……」


ガヴリール「だから……さ、その仕返し」
60:2017/03/09(木) 23:50:15.045 ID:Vs3aXJy30.net
カチッ カチカチッ


ガヴリール「ヴィーネ、おなかすいたー」

ヴィーネ「仮にも病人の私に、ゴハンをねだるってどうなのよ……」

ガヴリール「だって、ヴィーネの方が料理上手じゃん」

ヴィーネ「ガヴも簡単な料理くらい練習したら?」

ガヴリール「えぇ~、めんどいし、私はヴィーネのおいしいゴハンをずっと食べたいなー」

ヴィーネ「はぁ……もう、仕方ないわね」スッ

ガヴリール「わーい」


ヴィーネ「……あ、あれ」クラッ


ドサッ


ガヴリール「ヴィ、ヴィーネ?」

ヴィーネ「……」

ガヴリール「おい、大丈夫か! し、しっかりしろ! ヴィーネ!」
62:2017/03/09(木) 23:55:23.446 ID:Vs3aXJy30.net
ヴィーネ「……ふふっ」

ガヴリール「ん?」

ヴィーネ「あはっ、あはは!」

ガヴリール「おい、まさか……」

ヴィーネ「ふふっ、うーそ!」

ガヴリール「こ、こいつ……」


ヴィーネ「ガヴの必死な顔、ゲットー……なんちゃって」

ガヴリール「……性格悪いぞ」


ヴィーネ(そう、私たちの関係はきっと……)

ヴィーネ(きっと、このくらいが心地よくて、ちょうど良い)



ヴィーネ「だって、悪魔ですもの」


                                      ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                                       d⌒) ./| _ノ  __ノ
                                      ---------------
                                      制作・著作 NHK
63:2017/03/09(木) 23:56:26.968 ID:0i6jgRaY0.net
乙 よかった
64:2017/03/09(木) 23:56:34.377 ID:3elY8Xyz0.net
イイハナシダナー
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1489062828