1: 2011/01/04(火) 21:00:43.33 ID:AWqFW/ImO
ヤグルマの森にて――


ホイーガ「タブンネ姐さんたちって人間に酷い扱いされてんのに、何で毎度毎度律儀に出て行くんスか?」

タブンネ「それはほら、私たちって経験値沢山あげられるみたいだから」

クルミル「にしたってさぁ。僕ならあんだけボコボコにされたら、人間嫌いになっちゃうよ」

ホイーガ「そうっすよ!」

タブンネ「そうかなぁ・・・」

ホイーガ「人間が来たってエモンガの糞ヤロウに任せときゃいいんっスよ! あとここなら猿三兄弟とか」

タブンネ「で、でもトレーナーさんたちは私たちを必要としてるみたいだし・・・」

ホイーガ「ああもう、タブンネ姐さんたちは優しすぎるっスよ!」

クルミル「そうだよ! 人間たちが姐さんたちの事何て呼んでるか知ってる? サンドバッグとか言ってるんだよ!?」

タブンネ「・・・うん、知ってるよ」

ホイーガ「だったら何で?!」

タブンネ「それは――」



タブンネ「それでも私たちは、人間が好きだから」


ホイーガ「姐さん・・・」

ビリジオン(ああ、なんと心の優しいポケモンなのでしょう――)

ビリジオン(この心優しいタブンネたちに、幸あらんことを祈ります)


9: 2011/01/04(火) 21:13:25.66 ID:AWqFW/ImO
空手家「おらサンドバッグさっさと出てこいやぁー! だらだら歩くのも苛つくんだよ糞がッ」

タブンネ「あ、トレーナーさんが呼んでる」

ホイーガ「?!」

クルミル「ちょっと姐さん!」

タブンネ「話の途中でごめんね。ちょっと行ってくるから」

ホイーガ「待ちなよ姐さん! 姐さあああん!!」

10: 2011/01/04(火) 21:16:43.63 ID:AWqFW/ImO
空手家「ひゃっはっは! やっぱ反応があるサンドバッグは殴り甲斐があるぜ!」

タブンネ「ぴぃ・・・ぴぃ・・・」

空手家「最期に一発・・・チェストォ! ひゃっは!」

タブンネ「ぴ・・・・・・」

空手家「あーすっきりしたぜ。また頼むぜ? サンドバッグちゃん! ひゃはははは!」

タブンネ「・・・・・・」

12: 2011/01/04(火) 21:21:11.77 ID:AWqFW/ImO
ホイーガ「姐さん!!」

タブンネ「う・・・あ・・・」

クルミル「酷い、酷すぎるぞ今の人間! ポケモンに戦わせるんじゃなく直接殴って来たぞ!」

ホイーガ「それより今はタブンネ姐さんを手当しないと! かなりヤバくないかこれ!?」

クルミル「う、うん。とりあえずきのみを食べさせて」

タブンネ「あ、あり・・・が・・・」

ホイーガ「ああこんな時どうしたら!」

クルミル「僕たちだけじゃどうにもならないよ!」

16: 2011/01/04(火) 21:26:36.26 ID:AWqFW/ImO
?「どうかしたのかい?」

ホイーガ・クルミル「!!」

?「あ、大変だ! このタブンネ酷い怪我してるじゃないか!」

クルミル「さ、さわるな!」

?「えっ」

クルミル「人間なんか信用出来るか! 姐さんをどうするつもりだよ?!」

?「いや、このタブンネはすぐにポケセンに連れて行かなきゃ死んじゃうよ」

クルミル「うるさい!」

ホイーガ「クルミル落ち着け」

クルミル「でも!」

ホイーガ「癪だけど、今はこの人間に頼るしかないんだ」

クルミル「っ!」

17: 2011/01/04(火) 21:29:55.48 ID:AWqFW/ImO
?「話はついたかな? じゃあ連れて行くよ」

ホイーガ「姐さんを頼んます」

クルミル「姐さんに何かあったらただじゃおかないからな・・・!」

?「どうなるかは分からないけど、君たちは無事を祈っててあげて」

クルミル「こいつッ!」

ホイーガ「クルミル! ・・・分かりやした、お願いしやす」

?「うん。じゃあまた!」

19: 2011/01/04(火) 21:35:44.61 ID:AWqFW/ImO
ポケセン――
?「すみません、このタブンネを治療してあげてください!」

ジョーイ「はー、い? 酷い怪我じゃない! すぐ集中治療室で処置しますね!」

?「お願いします」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

20: 2011/01/04(火) 21:39:03.38 ID:AWqFW/ImO
ヤグルマの森――

クルミル「くそっ、もう三日も経つのにあの人間、戻ってこないぞ!」

ホイーガ「まあまあ、落ち着けよ」

クルミル「これが落ち着いてられるか! タブンネ姐さんが帰ってこなかったら僕は・・・!」

ホイーガ「無事を祈ろう。それしか今の俺らには出来ないんだからな」

クルミル「・・・くそっ、くそっ!」

22: 2011/01/04(火) 21:45:35.63 ID:AWqFW/ImO
?「おーい!」

ホイーガ・クルミル「!!」

?「ごめん、今帰ったよ」

クルミル「姐さん、姐さんは?!」

タブンネ「・・・心配かけてごめんね」

ホイーガ「姐さん!」

クルミル「よかった、無事だったんだ!」

?「いや、実際かなり危なかったよ」

ホイーガ「・・・そんなに酷かったんスか」

?「うん。個体値が優秀だったから生き延びたもんだってさ」

タブンネ「本当にごめんなさい・・・私のせいでこんなに迷惑をかけて」

クルミル「そんな、姐さんのせいじゃないよ。悪いのは人間さ!」

ホイーガ「そうっスよ。姐さんは気にしないでくださいス」

タブンネ「二人とも・・・ありがとう、ありがとう・・・」

?「・・・・・・」

25: 2011/01/04(火) 21:52:30.41 ID:AWqFW/ImO
?「あのさ」

三人「?」

?「そいつはどんな格好してた?」

タブンネ「どうしてそんなことを聞くんですか?」

?「いや、ちょっと」

ホイーガ「空手家だったっス」

タブンネ「ホイーガ!」

ホイーガ「姐さん、もうやめましょうよ。いい加減見限るべきっスよ人間なんて」

タブンネ「そんな・・・」

クルミル「姐さんは、こんな事されてもまだ姐さんはあんな甘いこと言うの?」

?「甘いことって?」

クルミル「うん、人間が好きだって」

?「・・・」

28: 2011/01/04(火) 21:59:47.56 ID:AWqFW/ImO
タブンネ「私は、私たちは、人間が好きなの・・・どんなことされたって、好きなの」

ホイーガ「姐さん・・・」

?「・・・そうか。分かったよ」

クルミル「納得出来ないよこんなの!」

ホイーガ「俺にもっと力があれば・・・! やりきれねーよ、ジッサイ」

?「君たちにこれを渡しておくよ」

タブンネ「? これは?」

?「げんきのかたまりと、かいふくのくすり。とりあえず200こ置いとくから、使って」

ホイーガ「え、そんな高価なもんアンタ、いいのか?」

タブンネ「そうです、これは受け取れません」

35: 2011/01/04(火) 22:08:12.27 ID:AWqFW/ImO
?「いいんだ。君に受け取って欲しいんだよ」

タブンネ「でも」

?「・・・人間はタブンネに酷い事を沢山している。だからこれはその罪滅ぼしのつもりなんだ。頼むよ」

タブンネ「でも・・・」

ホイーガ「そういうことなら受け取っておきやしょう姐さん。これから先必ず必要になるブツっスよ」

クルミル「そうだよ。元はと言えば人間が悪いんだから」

タブンネ「・・・」

?「それにさ」

タブンネ「え?」

?「それに、こんなに酷い事をしているのに、君は人間を好きって言ってくれた。だからこれは感謝の気持ちでもあるんだ」

タブンネ「あ・・・」

?「受け取ってくれないかな?」

タブンネ「それなら・・・はい。ありがとうございます・・・」

?「いえいえ、こちらこそ」

39: 2011/01/04(火) 22:13:23.09 ID:AWqFW/ImO
ホイーガ「? 姐さん、泣いてる?」

クルミル「ほんとだ! まだどこか痛いの? 大丈夫?」

タブンネ「違う、違うの。こ、こんなに、優しくしてもらった事、無くて、はじ、はじ、めてで・・・」

?「タブンネ・・・よしよし」

?(・・・)

?(こんなに優しいポケモンを傷つけるなんて・・・許せないよな)

42: 2011/01/04(火) 22:17:31.24 ID:AWqFW/ImO
タブンネ「ひっく・・・ひっく・・・うう・・・」

?「よしよし、つらかったね。ごめんね」

タブンネ「あ、うああ・・・あああああ!!」

クルミル「姐さん・・・」

ホイーガ「・・・」

?「大丈夫、よしよし。大丈夫だから。よくがんばったね。えらいえらい、タブンネはえらいよ」

タブンネ「うううううう!!」

?「よしよし・・・」

45: 2011/01/04(火) 22:22:07.42 ID:AWqFW/ImO
小一時間後――

?「落ち着いた?」

タブンネ「は、はい・・・お見苦しいところをお見せしてすみません・・・」

?「はは、そんなかしこまらなくていいのに」

タブンネ「いや、その・・・はい」

クルミル「まあなにはともあれ、姐さんが無事で良かったよ。人間にも良い奴が居たんだね」

?「それはどうも」

クルミル「ま、あの空手家は許さないけどね。次来たらただじゃおかないよ」

タブンネ「駄目だよクルミル、そんなことしちゃ」

クルミル「えー」

ホイーガ「あのさ!」

三人「?」

55: 2011/01/04(火) 22:29:52.70 ID:AWqFW/ImO
ホイーガ「俺、アンタに着いて行きたいんスけど!」

?「僕に?」

クルミル「ホ、ホイーガ?」

ホイーガ「俺、自分の弱さが情けないっス。フシデの時から世話んなってる姐さんを守れなかった自分が、許せないんっスよ!」

タブンネ「ホイーガ・・・」

?「それで?」

ホイーガ「アンタに着いてったら、強くなれそうな気がする・・・だから俺、俺!」

?「・・・いいよ。連れてってあげる」

ホイーガ「あ、ありがとうございます!」

?「ただし」

ホイーガ「は、はい?」

?「ちょっとだけ待っててくれないかな」

65: 2011/01/04(火) 22:35:00.41 ID:AWqFW/ImO
ホイーガ「あ、それはもちろん構わないっス!」

?「じゃあ決まりだね」

タブンネ「ホイーガ、行っちゃうの?」

ホイーガ「ええ。姐さん、強くなって帰って来るっス。姐さんに受けた恩を返せるぐらい、強く・・・」

クルミル「はぁ、寂しくなるね。でもまあ、必ず帰って来てよね」

ホイーガ「もちろん。その時までにはお前もクルマユになってろよな」

クルミル「わかってるよ。任せなって」

66: 2011/01/04(火) 22:38:11.80 ID:AWqFW/ImO
?「それじゃあ、ちょっと待っててね」

ホイーガ「はいっス! あ、二つ、いいっスか?」

?「ん? いいよ、なになに?」

ホイーガ「まずはお名前を聞きたいっス」

タブンネ「あ、私もお聞きしたいです」

クルミル「僕も僕も」

?「あれ、名前言ってなかったっけ。ごめんごめん。僕の名前は――トウヤって言うんだ」

74: 2011/01/04(火) 22:43:50.70 ID:AWqFW/ImO
ホイーガ「トウヤのオジキっスね、分かりやした!」

トウヤ「オジキって、はは。それでもう一つは?」

ホイーガ「ああ、それはっスね」

ホイーガ「何で俺らポケモンと会話出来てるんっスか?」

クルミル「そういえばそうだね。あまりにふつうなんで忘れてた」

トウヤ「ああ、それはね。友達、いや、親友に教えて貰ったんだよ」

タブンネ「親友さん、ですか?」

トウヤ「そう、親友。彼は、誰よりもポケモンを大切にしている男だったよ――」

タブンネ「・・・」

タブンネ(哀しそうな眼をしてる・・・聞いちゃまずい事だったのかな)

82: 2011/01/04(火) 22:49:52.32 ID:AWqFW/ImO
トウヤ「さて、こんなとこかな?」

ホイーガ「そっスね。ありがとうございやした」

トウヤ「いえいえ。それじゃあまた後で」

ホイーガ「はい、ここらで待ってますんで!」

トウヤ「うん。分かった」

トウヤ「ケンホロウ出てきて、そらをとぶ!」

ケンホロウ「――承知」

トウヤ(さて・・・奴は夢の跡地に居るらしいな)

89: 2011/01/04(火) 22:55:13.01 ID:AWqFW/ImO
夢の跡地――

空手家「つーかさ、マジタブンネ殴るの楽しいよな」

暴走族「えーリアルに殴んのは可哀想じゃね?」

エリトレ♂「ばっかおめーポケモンに可哀想も糞もねーよ」

暴走族「えー」

エリトレ♂「俺なんか家にタブンネ拉致って椅子にしてっからね」

空手家「うっほ! エリトレはマジ鬼畜だなぁーオイ!」

エリトレ♂「あー? 普通だよふつー」

暴走族「いやふつーじゃねーだろ?」

空手家「鬼畜だよな?」

エリトレ♂「鬼畜か?」

三人「ぎゃっはっはっはっはっはっはっ!!」

トウヤ(こいつらか・・・)

99: 2011/01/04(火) 23:00:39.86 ID:AWqFW/ImO
トウヤ「おい」

空手家「・・・あ?」

トウヤ「五日前、タブンネを殴ったのはお前だな」

暴走族「あー? なんだテメェこら?」

空手家「まあまてよ。ああ、俺だよ」

トウヤ「そうか」

空手家「で、おたく何? あのタブンネは野生だったはずだけど?」

トウヤ「・・・野生だからってあんなことしていいとでも?」

空手家「は? 当たり前じゃん。なあ?」

エリトレ♂「当たり前っつーか常識っしょ?」

暴走族「なあ?」

三人「ぎゃっはっはっはっはっはっ!!」

トウヤ(こいつら――)

トウヤ「もういい、分かった」

112: 2011/01/04(火) 23:10:09.34 ID:AWqFW/ImO
空手家「は? 何が分かったって?」

トウヤ「・・・お前等が、正真正銘のクズだって事が、さ」

暴走族「んだこらテメェ!」

エリトレ♂「ただで帰れると思うなよ? ガキが!」

トウヤ「ああ、もう喋るな――ゼクロム、やれ」
ゼクロム「オオオオオ!!!」

エリトレ♂「え、な、なんだよこのポケモン!」

暴走族「ひ、ひぃいっ?!」

ゼクロム「さて。久しぶりの出番だが・・・我が主よ、本気で良いのか?」

トウヤ「ああ。むしろ手を抜いたら許さないよ」

ゼクロム「ふ、承知した」

暴走族「ぎゃああああああああ」

エリトレ♂「ば、バカ! ポケモンの技を人間に使う奴があるかよ!」

トウヤ「・・・あいつは踏みつけられる方がいいらしい」

ゼクロム「おお、それは気づかなかった。承知した」

エリトレ♂「え、あ、うぎっ!!」

121: 2011/01/04(火) 23:16:58.07 ID:AWqFW/ImO
空手家「なんだよ・・・」

暴走族「アア……ヴ……ウエ゙……」

エリトレ♂「げ、が、あ゛、あ゛」

空手家「なんなんだよこれ!」

トウヤ「なんなんだって、お前等がタブンネにした事だろ?」

空手家「そんな・・・!」

トウヤ「ポケモンを傷つけるなら、ポケモンに傷つけられたって仕方ないよね」

空手家「いや、いやいや待てよ! そんなイカツい奴にやられたら死・・・!」

トウヤ「あのタブンネは死にかけたよ」

空手家「た、助けてくれよ! 同じ人間だろ? なあ!」

トウヤ「同じ人間? お前等は鬼畜だって自分で言ってたじゃないか」

ゼクロム「――長い。もういいか?」

トウヤ「ああ、ごめんね。もういいよ」

空手家「あ、あ・・・うわああああああああああああああああああああああああ」

132: 2011/01/04(火) 23:23:05.92 ID:AWqFW/ImO
ヤグルマの森――

トウヤ「お待たせ、ホイーガ」

ホイーガ「いや全然、大丈夫っス!」

タブンネ「あの・・・」

トウヤ「ん? なに?」

タブンネ「本当に何から何までありがとうございました。何とお礼をしていいか・・・」

トウヤ「ああそんな事。大したことじゃないし気にしないで」

タブンネ「でも」

トウヤ「んー、じゃあ、一つだけ」

タブンネ「は、はい!」

トウヤ「もうちょっと体は大事にして。そんなんじゃ体が保たないよ」

タブンネ「・・・」

136: 2011/01/04(火) 23:27:58.78 ID:AWqFW/ImO
トウヤ「人間の中には、残念だけど酷い奴も居るんだ。だから、誰彼構わずに出て行っちゃ駄目だよ」

タブンネ「・・・」

トウヤ「人間が好きだっていうのは分かるけど、さ」

クルミル「姐さん・・・」

タブンネ「それは、出来ません」

ホイーガ「姐さん!?」

トウヤ「・・・そっか。なら」

トウヤ「早くホイーガを一人前にしなきゃね」

ホイーガ「あ、は、はいっス! 早く強くなって姐さんを守るっス!」

140: 2011/01/04(火) 23:36:45.06 ID:AWqFW/ImO
トウヤ「さて。そろそろ行こうか」

ホイーガ「はい・・・」

タブンネ「元気でね、ホイーガ」

クルミル「しっかり強くなって来なよ」

ホイーガ「はいっス、頑張ってくるっス」

トウヤ「じゃあ、行ってきます。かな?」

ホイーガ「っスね。行ってきますっス!」

タブンネ「うん、行ってらっしゃい!」

クルミル「達者でね!」

ホイーガ「二人も、お元気で!!」

トウヤ「またね!!」

――――――

トウヤ「さて。まずはサザナミタウンにでも行こうか」

ホイーガ「どこまでも着いて行くっス!!」

141: 2011/01/04(火) 23:37:28.62 ID:AWqFW/ImO
終了

146: 2011/01/04(火) 23:41:26.96 ID:AWqFW/ImO
とにかくタブンネの健気な気持ちを書きたかった

ついでにタブンネを虐待する奴を懲らしめたかった
今では反省している


少しでも読んでくれた人たちありがとう
タブンネちゃんにちょっぴりでもいいから感謝の気持ちを持ってくれたら嬉しい

147: 2011/01/04(火) 23:42:10.62

引用元: タブンネ「それでも私たちは、人間が好きだから」