1: 2013/05/30(木) 07:27:38.71 ID:oN50NLDC0
駅員「え、なんて?」

女の子「電車に乗ってる間に切符なくしちゃったんです」

駅員「うん、その後」

女の子「だからここに住もうと思うんですけど」

駅員「ここって、駅舎?」

女の子「改札からそっちには絶対入らないようにしますので」

駅員「いやいやいやいや待って待って待って待って」

女の子「?」

駅員「お金は? 持ってないの?」

女の子「あいにく、切符に全財産をつぎ込んでしまいましたので」

5: 2013/05/30(木) 07:29:20.81 ID:oN50NLDC0
駅員「君、どこから乗ったの?」

女の子「どこでしたっけ?」

駅員「僕に聞かれても」

女の子「なんか……ホームセンターのある街ではあるんですけど」

駅員「こんな田舎には、ホームセンターなんてどこにでもあるからねえ」

女の子「どこにでも、ですか?」

駅員「田舎だからねえ」

女の子「そのうち、この駅のホームにもできますか?」

駅員「そういう予定はちょっとないねえ」

女の子「ゆーきゅーの時を経てもですか?」

駅員「悠久の時を経てもちょっと駅中にホームセンターはできそうにないね」

9: 2013/05/30(木) 07:31:08.40 ID:oN50NLDC0
駅員「ホームセンターがあったらどうだっていうのかな?」

女の子「ええ。差し当たってはここで暮らすために寝袋でも買わなきゃ、と思いまして」

駅員「でも、お金ないんでしょ?」

女の子「あ」

駅員「ん?」

女の子「あ、ありませんよ?」

駅員「……ホントはあるんじゃないの?」

女の子「ありません。ありませんよ。ありません」

駅員「まあいいけどさ」

女の子「信じてませんね。なんなら今この場でお財布に火を点けて見せますよ」

駅員「そこまでしなくても」

女の子「なんなら今この場で駅ごと灰にして見せますよ」

駅員「ほんとそこまでしなくても」

14: 2013/05/30(木) 07:33:42.32 ID:oN50NLDC0
駅員「まあいいや。今日のところは見逃してあげるから」

女の子「見逃す?」

駅員「無人駅に当たった、と思いなよ。今勤務してるのも僕だけだしさ」

女の子「どういうことでしょう」

駅員「ほら、改札開けてあげるから家に帰りなさい」

女の子「……そんなことはできません」

駅員「でも」

女の子「切符をなくしたのはわたしなのに、駅員さんはなにもしてないのに、迷惑をかけるわけにはいきません」

駅員「いやもう今の段階で結構……」

15: 2013/05/30(木) 07:36:15.46 ID:oN50NLDC0
女の子「大丈夫です」

駅員「なにが」

女の子「ポケットに切符がなかった時点で、もうこのホームで暮らす覚悟はできてます」

駅員「いやもうちょっとなにか出来ることを考えるべきだったんじゃ」

女の子「トイレの水だけ使ってもいいですか?」

駅員「そりゃまあいいんだけど。いや論点はそこじゃないっていうか」

女の子「食べ物、ですか」

駅員「いやそうじゃなくてね」

女の子「大丈夫です。ホームの端っこのほうに野イチゴ生えてました。見ました」

駅員「でも野イチゴってきっと冬は生えてないよね」

女の子「冬でも生える草はあるので、大丈夫です」

駅員「草かあ」

18: 2013/05/30(木) 07:39:40.77 ID:oN50NLDC0
駅員「そんなことしなくてもさ、ほら、それじゃお金貸してあげるから」

女の子「お金?」

駅員「そう。僕がここは立て替えておいてあげるってことで。君はまた返しにきてくれればいい」

女の子「そんなの、だめです」

駅員「どうして」

女の子「他人からお金を借りちゃだめだって、そう言われて育ちました」

駅員「よく躾けられたんだねえ」

女の子「はい。育ちが良いです」

駅員「育ちが良い子は『切符を無くしたから駅に住もう』って発想とは無縁だと思うんだけどな」

女の子「そういうもんですか。世の中は」

駅員「世の中はそういうもんだねえ」

19: 2013/05/30(木) 07:42:38.81 ID:oN50NLDC0
女の子「でもですね」

駅員「うん?」

女の子「はい。母は『他人にお金を借りては駄目だ』とは言いましたけど『身内に頼るな』とは言いませんでした」

駅員「最終的に頼れるのは身内だけだもんね」

女の子「ええ。それでですね、あの、もしよかったらなんですが」

駅員「うん」

女の子「わたしと身内になりませんか」

駅員「なんか君はすごい子だなあ」

女の子「結婚してください。わたしと」

24: 2013/05/30(木) 07:46:35.03 ID:oN50NLDC0
駅員「よく知らない人にそういうことを言うのは良くないことだよ」

女の子「よく知らなくないです」

駅員「そうなの?」

女の子「はい。わたし、よくこの駅使いますから。駅員さんのこと、よく見てます」

駅員「そうなんだ」

女の子「電車を発射させた後、必ずお尻を二回掻くこととかも知ってます」

駅員「忘れてくれないかな、できたら」

女の子「だめですか?」

駅員「ん?」

女の子「結婚」

駅員「ああ」

28: 2013/05/30(木) 07:49:34.26 ID:oN50NLDC0
駅員「僕と君が結婚すれば、君はここから出られるんだよね?」

女の子「そういうことになりますね」

駅員「君は、結婚できるの?」

女の子「あと夏が二回くれば、わたしは結婚できるようになるって母は言ってました」

駅員「そっかあ」

女の子「だめですか?」

駅員「いいよ」

女の子「ほんとですか?」

駅員「うん。ほんとに」

女の子「ありがとうございます」

33: 2013/05/30(木) 07:52:09.66 ID:oN50NLDC0
駅員「それじゃ、気を付けて帰るんだよ」

女の子「はい。あの、忘れちゃだめですよ」

駅員「結婚?」

女の子「はい。二回夏がきた後に、わたしまた駅員さんに話しかけます」

駅員「うん。待ってるからね」

女の子「それじゃあ、さようなら」

駅員「はい。さようなら」




そうして今日も廃された無人駅の日は暮れる。




おわり

34: 2013/05/30(木) 07:52:35.52
えっこわい

36: 2013/05/30(木) 07:54:03.14
切ねぇ

37: 2013/05/30(木) 07:57:32.26
寺生まれのTさん「今日のところは見逃してやるか」

41: 2013/05/30(木) 08:27:32.93
しっとりしてて面白かったわ

引用元: 女の子「切符無くしちゃったんで今日からここに住んでいいですか?」