1: 2010/11/06(土) 22:52:13.30 ID:bLIExlkJ0
いつもと同じ校舎。いつもと同じ教室。いつもと同じ机。そして、いつもと同じ……文字。
正確に言えば書かれていることは毎回違うのだが、いちいち確認などしない
黒子「…………」ゴシゴシ
通学カバンの中に常備しておくようになった雑巾を濡らしてきて、机を拭く。
一ヶ月ほど前からだっただろうか、このくだらない嫌がらせが始まったのは。よくもまあ、続くものだと内心
ガンッ!!
黒子「ッ……」
女生徒A「あーら、ぶつかってしまいましたわ。ごめんあそばせ」
正確に言えば書かれていることは毎回違うのだが、いちいち確認などしない
黒子「…………」ゴシゴシ
通学カバンの中に常備しておくようになった雑巾を濡らしてきて、机を拭く。
一ヶ月ほど前からだっただろうか、このくだらない嫌がらせが始まったのは。よくもまあ、続くものだと内心
ガンッ!!
黒子「ッ……」
女生徒A「あーら、ぶつかってしまいましたわ。ごめんあそばせ」
2: 2010/11/06(土) 22:56:58.04 ID:bLIExlkJ0
どうやら、この女の脳内では後ろから蹴りをお見舞いすることをぶつかる、と表現するらしい。
後ろから蹴られたせいで机にぶつかり派手な音が響いたが、周りの生徒はほとんど反応を見せない
せいぜいが、好奇の視線を向けて小さく笑い声を零すくらいだ。
黒子「いえ……、気にしておりませんのよ」
女生徒A「ええ、そうですわよね。わざとではありませんもの」
女生徒B「それより白井さん、朝から何をしていらっしゃいますの?」
自分達で仕込んでおいて、何をしているのか、などとは見上げた役者根性だ。
こちらはどのような言葉を返しても無駄だと分かりきっているというのに。
女生徒A「まあ、机が随分と汚れていらっしゃいますわ。……何か、たくさん文字が書いてあるようですわね」
女生徒B「あらあら、『レベル5の腰巾着』だなんて、ひどいことを仰る方がいますのね」クスクス
消す途中だった文字を読み上げて、笑うのを隠そうともしない。
周りで視線を向けていた連中も、同じようにクスクス笑っている
後ろから蹴られたせいで机にぶつかり派手な音が響いたが、周りの生徒はほとんど反応を見せない
せいぜいが、好奇の視線を向けて小さく笑い声を零すくらいだ。
黒子「いえ……、気にしておりませんのよ」
女生徒A「ええ、そうですわよね。わざとではありませんもの」
女生徒B「それより白井さん、朝から何をしていらっしゃいますの?」
自分達で仕込んでおいて、何をしているのか、などとは見上げた役者根性だ。
こちらはどのような言葉を返しても無駄だと分かりきっているというのに。
女生徒A「まあ、机が随分と汚れていらっしゃいますわ。……何か、たくさん文字が書いてあるようですわね」
女生徒B「あらあら、『レベル5の腰巾着』だなんて、ひどいことを仰る方がいますのね」クスクス
消す途中だった文字を読み上げて、笑うのを隠そうともしない。
周りで視線を向けていた連中も、同じようにクスクス笑っている
3: 2010/11/06(土) 23:00:47.11 ID:bLIExlkJ0
謂れのない罵倒にも慣れきってしまった。
以前は、自分でも知らぬ間にスキルアウト相手に売春をやっていることになっていた。
その落書きを見て、憤るよりも失笑してしまったものだ。本当にくだらない。今更、こんな程度で――
ザッバァン!
黒子「くっ……」
いきなり水が襲いかかってきた。水圧に耐えられずに尻もちをつく。
黒子「ごほっ、げほっ、はぁはぁ……」
女生徒A「あーら、ご・め・んあそばせ。文字を消すのを手伝おうとしましたのに、手元が狂ってしまいましたの」
スッ
女生徒A「申し訳ありませんの、わたくしは貴女と違って能力の制御が上手でなくて。わざとではありませんのよ?」
以前は、自分でも知らぬ間にスキルアウト相手に売春をやっていることになっていた。
その落書きを見て、憤るよりも失笑してしまったものだ。本当にくだらない。今更、こんな程度で――
ザッバァン!
黒子「くっ……」
いきなり水が襲いかかってきた。水圧に耐えられずに尻もちをつく。
黒子「ごほっ、げほっ、はぁはぁ……」
女生徒A「あーら、ご・め・んあそばせ。文字を消すのを手伝おうとしましたのに、手元が狂ってしまいましたの」
スッ
女生徒A「申し訳ありませんの、わたくしは貴女と違って能力の制御が上手でなくて。わざとではありませんのよ?」
4: 2010/11/06(土) 23:04:51.99 ID:bLIExlkJ0
わざわざバケツに水を用意しておいて、わざとではないと言い張るのももはや気にならない。
卑しい笑みを浮かべながら差し出された手を、無視して立ち上がる。
黒子「ええ、貴女が未熟であるのは存じておりますのよ。お気になさらず」
皮肉めいたこちらの言葉にも動じず笑みを浮かべている。何度似たような会話を繰り返したことか。
女生徒B「そのままではお風邪をおひきになってしまいますわ。シャワールームに行ってらしては?」
女生徒A「ええ、そうしたほうがよろしいですわ。先生には言っておきますのでごゆっくりどうぞ」
黒子「……そうさせていただきますの」
教室のドアを出てから、テレポートを使って一番近いシャワールームへと急ぐ。
授業や測定を除いて校内での能力の使用は禁止されているが、今だけは勘弁してほしい。
急がなくてはならないしなにより……、万が一にでもあの方には見られたくない。
卑しい笑みを浮かべながら差し出された手を、無視して立ち上がる。
黒子「ええ、貴女が未熟であるのは存じておりますのよ。お気になさらず」
皮肉めいたこちらの言葉にも動じず笑みを浮かべている。何度似たような会話を繰り返したことか。
女生徒B「そのままではお風邪をおひきになってしまいますわ。シャワールームに行ってらしては?」
女生徒A「ええ、そうしたほうがよろしいですわ。先生には言っておきますのでごゆっくりどうぞ」
黒子「……そうさせていただきますの」
教室のドアを出てから、テレポートを使って一番近いシャワールームへと急ぐ。
授業や測定を除いて校内での能力の使用は禁止されているが、今だけは勘弁してほしい。
急がなくてはならないしなにより……、万が一にでもあの方には見られたくない。
8: 2010/11/06(土) 23:10:37.76 ID:bLIExlkJ0
ガラッ
教師「……白井か。最近遅刻が多いぞ」
黒子「……申し訳ありませんの」
周りからの視線は無視して席に着く。
ぶちまけられていた水は跡形もなく、机の落書きも消えていた。
教師「えー、今日は午後からシステムスキャンの予定が組まれている。自身の能力に合った検査場所に……」
教師からの印象も悪くなる一方だ。
今の自分が嫌がらせを受けていると言ったところで信じてくれる人はほとんどいないだろう。
もはや、教師に訴えかける気力も無くしていた。
9: 2010/11/06(土) 23:15:07.78 ID:bLIExlkJ0
――― 一月前 ―――
バッシャァン!
女生徒A「あーら、ごめんあそばせ白井さん。わざとではありませんのよ」
黒子「ぐっ、ごほっ、な、なんのつもりですの……?」
女生徒A「なんのつもりもなにも、手元が狂ってしまっただけのことですわ」
黒子「喧嘩を売っておられるので? 言っておきますが、わたくしはこんなことをされて黙っていられるほどお淑やかじゃありませんのよ?」
女生徒A「あーら、心外ですわ! わたくし、わざとではないと申し上げておりますのに」
黒子「……謝罪するつもりもないのならば、それ相応の報いを受けていただきますわ」グッ
女生徒B「きゃぁーーーーーー!!」
黒子「!?」
Aの傍らに立っていた他の生徒がいきなり声を張り上げた。
それと同時に、Aが左腕を抑えてうずくまる。
11: 2010/11/06(土) 23:20:39.70 ID:bLIExlkJ0
教師「なんだ! なにがあった?」
女生徒B「し、白井さんがAさんを……」
教師「な、白井が?」
黒子「っ!? わ、わたくしは何も」
女生徒B「Aさん! 大丈夫ですか!?」
女生徒A「え、ええ。なんとか……」
Aはいかにも自分が被害者だとでも言うように振る舞う。
そして、この異様な光景に対して、周りからなんの声も上がらないのだ。
教師「白井、ここじゃなんだから指導室の方へ……」
黒子「お、お待ちください! この服の濡れ方を見て下さい! あの方がわたくしに能力で水を!」
女生徒B「し、白井さんがAさんを……」
教師「な、白井が?」
黒子「っ!? わ、わたくしは何も」
女生徒B「Aさん! 大丈夫ですか!?」
女生徒A「え、ええ。なんとか……」
Aはいかにも自分が被害者だとでも言うように振る舞う。
そして、この異様な光景に対して、周りからなんの声も上がらないのだ。
教師「白井、ここじゃなんだから指導室の方へ……」
黒子「お、お待ちください! この服の濡れ方を見て下さい! あの方がわたくしに能力で水を!」
14: 2010/11/06(土) 23:25:19.68 ID:bLIExlkJ0
女生徒A「わ、わたくし、確かに転んで水を被せてしまいましたが、能力などは全く……」
女生徒B「白井さん……、何を仰っていますの……?」
黒子「な……! そんな言い訳が……」
教師「白井!」
教師の恫喝が響く。
なんだ、この状況は。
何故、周り全員が自分に非難の目を向けているのだ。これではまるで本当に――
教師「白井、一度指導室に行こう。ただ話を聞くだけだ」
黒子「……わかりましたの」
この時、自分はまだ楽観視していた。
自分に非はないのだから、きちんと説明すれば分かってもらえる、と。
しかし――
女生徒B「白井さん……、何を仰っていますの……?」
黒子「な……! そんな言い訳が……」
教師「白井!」
教師の恫喝が響く。
なんだ、この状況は。
何故、周り全員が自分に非難の目を向けているのだ。これではまるで本当に――
教師「白井、一度指導室に行こう。ただ話を聞くだけだ」
黒子「……わかりましたの」
この時、自分はまだ楽観視していた。
自分に非はないのだから、きちんと説明すれば分かってもらえる、と。
しかし――
16: 2010/11/06(土) 23:30:13.68 ID:bLIExlkJ0
教師A「なあ白井、間違いっていうのは誰にでもあるもんだ。もしかしたらAの態度にも悪かったところが――」
黒子「ですから! 何度も申し上げてるようにわたくしは何も!」
教師A「ああ、もちろん白井が立派な生徒だということは分かっている。先生も白井が悪いだなんて思っちゃいない」
教師A「ただ、お前は風紀委員でもあるし、窘めるための行動が誤解を呼んでしまったんではないかと……」
白井「だから、最初に能力を使って水をかぶせてきたのはあちらで……」
ガラッ
教師B「失礼します」
教師A「ああ、どうも。白井、少し待っててくれ」
教師A「それで……」
教師B「ええ、やはり……」
教師A「そうですか……。ありがとうございます」
教師の顔つきが更に神妙になり、こちらに向き直る。
黒子「ですから! 何度も申し上げてるようにわたくしは何も!」
教師A「ああ、もちろん白井が立派な生徒だということは分かっている。先生も白井が悪いだなんて思っちゃいない」
教師A「ただ、お前は風紀委員でもあるし、窘めるための行動が誤解を呼んでしまったんではないかと……」
白井「だから、最初に能力を使って水をかぶせてきたのはあちらで……」
ガラッ
教師B「失礼します」
教師A「ああ、どうも。白井、少し待っててくれ」
教師A「それで……」
教師B「ええ、やはり……」
教師A「そうですか……。ありがとうございます」
教師の顔つきが更に神妙になり、こちらに向き直る。
17: 2010/11/06(土) 23:35:50.79 ID:bLIExlkJ0
教師A「白井、やはり周りの生徒にもAが能力を使ったのを見た者はいないと……」
白井「なっ……、そんなはずは!」
教師A「その、もしかしたら勘違いということもある。ジャッジメントの活動が忙しくて疲れが溜まってるんじゃないか?」
もはや解決したと言わんばかりに自分を気遣った言動を見せる。
白井「わたくしは、本当に……」
教師A「大丈夫だ。Aの腕も外傷はないようだし、自分の不注意が原因だから謝りたいと言ってたそうだ」
教師A「さあ、一緒にAのところへ行こう」
―――――――――――
黒子「……」
計測員「記録、67m15cm、指定位置との誤差68cm、総合評価レベル4」
白井「なっ……、そんなはずは!」
教師A「その、もしかしたら勘違いということもある。ジャッジメントの活動が忙しくて疲れが溜まってるんじゃないか?」
もはや解決したと言わんばかりに自分を気遣った言動を見せる。
白井「わたくしは、本当に……」
教師A「大丈夫だ。Aの腕も外傷はないようだし、自分の不注意が原因だから謝りたいと言ってたそうだ」
教師A「さあ、一緒にAのところへ行こう」
―――――――――――
黒子「……」
計測員「記録、67m15cm、指定位置との誤差68cm、総合評価レベル4」
18: 2010/11/06(土) 23:40:10.37 ID:bLIExlkJ0
能力も、最近は不調を極めていた。
最大重量、飛距離、誤差共に、悪化の一途を辿っている。
唯一、自身の転移はまだ行えるためレベル4のままではあるが……。
ドンッ
黒子「っ!」
意識が疎かになっていて前方に視線を向けていなかった。
ぶつかってしまった人が目の前に、尻もちをついている。
黒子「も、申し訳ありません。ボーっとしていまして……」
手を差し出すもその手が掴まれることはなかった。
婚后「……」スッ
黒子「……婚后さん」
婚后「あなたみたいな方に名前を呼んで頂きたくありませんわ。どいてくださらなくて?」
黒子「も、申し訳ありませんの」
最大重量、飛距離、誤差共に、悪化の一途を辿っている。
唯一、自身の転移はまだ行えるためレベル4のままではあるが……。
ドンッ
黒子「っ!」
意識が疎かになっていて前方に視線を向けていなかった。
ぶつかってしまった人が目の前に、尻もちをついている。
黒子「も、申し訳ありません。ボーっとしていまして……」
手を差し出すもその手が掴まれることはなかった。
婚后「……」スッ
黒子「……婚后さん」
婚后「あなたみたいな方に名前を呼んで頂きたくありませんわ。どいてくださらなくて?」
黒子「も、申し訳ありませんの」
20: 2010/11/06(土) 23:45:15.58 ID:bLIExlkJ0
婚后「……」スタスタスタ
黒子「…………」
三週間程前から――
いや、正確には数回、『能力使用』の罰を受けてから婚后光子は驚くほど冷たくなった。
最後にまともに会話をした時、必死に弁明した自分に投げかけられた言葉を今でもはっきりと覚えている。
黒子(『貴女が私利私欲のために能力を使う人だとは思わなかった』――でしたわね)
たとえ身に覚えがなくとも痛い言葉だった。婚后光子の強い侮蔑の気持ちが込められていたからだろうか。
時折調子っぱずれた言動を見せるが、それでもライバルとして、友人として付き合っていた相手で、寂しさはあった。
ただ、救われる部分もあったのだ。
理不尽な嫌がらせを加えてくる他の連中と違って婚后光子は何をしてくるでもない。
避けられている理由だって、妥当なものなのだ。ただ、その根拠が捻じ曲げられた事実だというだけで。
大丈夫、大丈夫だ。またきっと、笑いあえるようになる。
――少なくとも、この人とは。
黒子「…………」
三週間程前から――
いや、正確には数回、『能力使用』の罰を受けてから婚后光子は驚くほど冷たくなった。
最後にまともに会話をした時、必死に弁明した自分に投げかけられた言葉を今でもはっきりと覚えている。
黒子(『貴女が私利私欲のために能力を使う人だとは思わなかった』――でしたわね)
たとえ身に覚えがなくとも痛い言葉だった。婚后光子の強い侮蔑の気持ちが込められていたからだろうか。
時折調子っぱずれた言動を見せるが、それでもライバルとして、友人として付き合っていた相手で、寂しさはあった。
ただ、救われる部分もあったのだ。
理不尽な嫌がらせを加えてくる他の連中と違って婚后光子は何をしてくるでもない。
避けられている理由だって、妥当なものなのだ。ただ、その根拠が捻じ曲げられた事実だというだけで。
大丈夫、大丈夫だ。またきっと、笑いあえるようになる。
――少なくとも、この人とは。
21: 2010/11/06(土) 23:50:40.85 ID:bLIExlkJ0
――――――――
ガチャ
幾度も出入りして慣れきったはずのドアが異様なまでに重く感じた。
それでも、力を込めて踏み出す。自分はジャッジメントなのだから。
黒子「こんにちは、ですの」
固法「……ハァ」
初春「……」
固法先輩はこれみよがしにため息をつき、初春はこちらに意識を向けようとしない。
この反応にも、もうあまり心が痛まなくなってしまった。……辛いはずなのに、なぜだろうか。
スタスタ ドサッ
黒子「……」
自分の席について、パソコンに向かう。
仕事をしている間は気が紛れるから、幾分か楽だ。
ただ、今日は仕事が無い。報告書が一枚必要だったはずだが、初春が書いているようだ。
23: 2010/11/06(土) 23:55:24.77 ID:bLIExlkJ0
初春「はぁー、ようやく終わりましたよぉ」
固法「お疲れ、初春さん。コーヒーでも飲む?」
初春「コーヒーよりココアの方が……」
固法「はいはい」
固法先輩は言葉上は呆れながらも笑顔でいる。
初春も疲れを見せながらも会話を続ける。
――どちらもここ一ヶ月、自分にだけ向けられていないものだ。
何が、自分の何が悪いのだろう。
そんな自問はいくらでもしたし、本人たちにだって聞いてみたのだ。
結局原因は分からず、分かるのは自分がここにいることさえ嫌がられているという事実だけで――
固法「お疲れ、初春さん。コーヒーでも飲む?」
初春「コーヒーよりココアの方が……」
固法「はいはい」
固法先輩は言葉上は呆れながらも笑顔でいる。
初春も疲れを見せながらも会話を続ける。
――どちらもここ一ヶ月、自分にだけ向けられていないものだ。
何が、自分の何が悪いのだろう。
そんな自問はいくらでもしたし、本人たちにだって聞いてみたのだ。
結局原因は分からず、分かるのは自分がここにいることさえ嫌がられているという事実だけで――
24: 2010/11/07(日) 00:00:42.46 ID:P7kDy1Z/0
ガチャ
佐天「ちわー、初春。遊びにきたよん」
初春「あ、佐天さん!」
固法「……佐天さん、ここは遊びに来るところじゃないって何度も」
佐天「あー……、固法先輩! ムサシノ牛乳買ってきたんでどうか!」
固法「冷蔵庫にいっぱいあるわよ。……はぁ。佐天さんはコーヒーとココアどっちがいい?」
佐天「ココアがいいですっ! 牛乳混ぜてミルクココア!」
初春「さ、佐天さん、自分で飲んじゃうんですね……」
固法「まったく……仕方ないわねぇ」
微笑ましい光景。
つい、一月前までは自分もその輪の中にいたはずなのに。今は……。
26: 2010/11/07(日) 00:05:55.11 ID:P7kDy1Z/0
佐天「あれー? 白井さん来てたんですねぇ」
黒子「……何か用ですの?」
佐天「何か用って、……しらじらしいなぁ。っていうか、よくここにいられますね」
嘲るような口調で語りかけてくる。
この人も、友人だと思っていた人なのに。
黒子「……私がここに居て何か問題が? 私はジャッジメントですの。そんな風に言われる筋合いは……」
佐天「へー、ご立派ですねぇ。大能力者様はどれだけ人に嫌われようがお構いなしってことですか」
黒子「っ!」
佐天「ていうかあたしはただ、ここまで疎ましがられて顔を出せるなんて凄いなぁって思っただけですしー」
一つ一つの言葉が突き刺さる。
この人達にも自分は……。
黒子「……何か用ですの?」
佐天「何か用って、……しらじらしいなぁ。っていうか、よくここにいられますね」
嘲るような口調で語りかけてくる。
この人も、友人だと思っていた人なのに。
黒子「……私がここに居て何か問題が? 私はジャッジメントですの。そんな風に言われる筋合いは……」
佐天「へー、ご立派ですねぇ。大能力者様はどれだけ人に嫌われようがお構いなしってことですか」
黒子「っ!」
佐天「ていうかあたしはただ、ここまで疎ましがられて顔を出せるなんて凄いなぁって思っただけですしー」
一つ一つの言葉が突き刺さる。
この人達にも自分は……。
27: 2010/11/07(日) 00:10:52.36 ID:P7kDy1Z/0
固法「まあまあ、いいじゃない佐天さん」
佐天「えー、だって固法先輩だって初春だって気分悪くないですか?」
固法「ま、否定はしないけどね。でも、割り切ればなんとかなるものよ」
佐天「初春は?」
初春「……いえ、私は特に」
佐天「二人とも我慢強いんですねー。あたしには無理かも」
固法「嫌なことくらい我慢できなきゃ、ジャッジメントなんて――
ガダン!!
「!!」
佐天「……どーかしました? 白井さん。そんなに勢いよく立ちあがって」
言われて気付いた。座っていた椅子が倒れていることに。
ああ、そして自分は口を開いてしまう。原因が分かるまで我慢しようと決めたはずなのに。
佐天「えー、だって固法先輩だって初春だって気分悪くないですか?」
固法「ま、否定はしないけどね。でも、割り切ればなんとかなるものよ」
佐天「初春は?」
初春「……いえ、私は特に」
佐天「二人とも我慢強いんですねー。あたしには無理かも」
固法「嫌なことくらい我慢できなきゃ、ジャッジメントなんて――
ガダン!!
「!!」
佐天「……どーかしました? 白井さん。そんなに勢いよく立ちあがって」
言われて気付いた。座っていた椅子が倒れていることに。
ああ、そして自分は口を開いてしまう。原因が分かるまで我慢しようと決めたはずなのに。
28: 2010/11/07(日) 00:16:21.33 ID:P7kDy1Z/0
黒子「……先程も言った通りですの。少なくとも貴女にはそんな風に言われる筋合いはありませんわ」
佐天「ふーん。それはあたしがジャッジメントじゃないからですか」
黒子「……ええ」
違う。そうじゃない。
立ち上がったのはこれ以上聞きたくなかっただけなのだ
黒子「貴女はそもそも部外者でしょう? それなのにジャッジメントのことにベラベラと……」
友人で、ずっと楽しくやってきた相手にあんなことを言われて悲しくて、やりきれなくて、逃げ出したくて……。
黒子「私はジャッジメントとしてここに来ておりますの。そこに文句を言われては黙っていられませんの」
佐天「……あたしみたいなレベル0には強気に文句言えるんですね」
黒子「……わざわざそんな言い方をするとは、余程能力のことを気にしてらっしゃるんですのね」
こんな言い方をしたいんじゃない。和解したいのに、できるはずなのに。
――それでも、胸の奥のどす黒いモノを少しだけでも吐き出したくて。
佐天「ふーん。それはあたしがジャッジメントじゃないからですか」
黒子「……ええ」
違う。そうじゃない。
立ち上がったのはこれ以上聞きたくなかっただけなのだ
黒子「貴女はそもそも部外者でしょう? それなのにジャッジメントのことにベラベラと……」
友人で、ずっと楽しくやってきた相手にあんなことを言われて悲しくて、やりきれなくて、逃げ出したくて……。
黒子「私はジャッジメントとしてここに来ておりますの。そこに文句を言われては黙っていられませんの」
佐天「……あたしみたいなレベル0には強気に文句言えるんですね」
黒子「……わざわざそんな言い方をするとは、余程能力のことを気にしてらっしゃるんですのね」
こんな言い方をしたいんじゃない。和解したいのに、できるはずなのに。
――それでも、胸の奥のどす黒いモノを少しだけでも吐き出したくて。
31: 2010/11/07(日) 00:20:00.73 ID:P7kDy1Z/0
固法「……二人とも、そのくらいにしておきなさい」
佐天「はーい。すみません」
黒子「……申し訳ありませんの」
倒した椅子を元に戻して、座りなおそうと――
佐天「けど、ジャッジメントとして、だなんてよく言えたもんですよねー」
黒子「……なんですって?」
自分が思っていたよりずっと刺々しい声が出た。
しかし、ここだけは、こればっかりは退くわけにはいかない。
黒子「佐天さん、いくら貴女でも私のジャッジメントとしての誇りを侮辱するなら許容できませんのよ?」
佐天「ジャッジメントとしての誇りだなんて、よっくもまあ」
黒子「……貴女、これ以上は本気で」
佐天「その誇りに傷をつけてるのは白井さん自身じゃないですか。常盤台でのこと、知らないとでも思ってるんですか?」
黒子「っ!!」
佐天「はーい。すみません」
黒子「……申し訳ありませんの」
倒した椅子を元に戻して、座りなおそうと――
佐天「けど、ジャッジメントとして、だなんてよく言えたもんですよねー」
黒子「……なんですって?」
自分が思っていたよりずっと刺々しい声が出た。
しかし、ここだけは、こればっかりは退くわけにはいかない。
黒子「佐天さん、いくら貴女でも私のジャッジメントとしての誇りを侮辱するなら許容できませんのよ?」
佐天「ジャッジメントとしての誇りだなんて、よっくもまあ」
黒子「……貴女、これ以上は本気で」
佐天「その誇りに傷をつけてるのは白井さん自身じゃないですか。常盤台でのこと、知らないとでも思ってるんですか?」
黒子「っ!!」
33: 2010/11/07(日) 00:25:34.90 ID:P7kDy1Z/0
佐天「なんですか? その顔は。まさか本当に知られるはずがないとでも思ってたんですか?」
黒子「ち、ちがっ」
佐天「ただの一般人の立場から言わせてもらえば、そんな人に助けてなんて言えませんよ。暴力振るうスキルアウトと同じじゃないですか」
佐天「初春や固法先輩ならともかく、白井さんが誇りなんて言葉を使えるような人だとは、あたしには思えませんけど」
黒子「……ちが、わたくし、は……」
佐天「……そんな顔されても困るんですけど、そもそも自業自得じゃ――」
固法「佐天さん」
佐天「……はーい」
佐天さんが近くの席に腰掛ける。
そして、自分は――
黒子「ち、ちがっ」
佐天「ただの一般人の立場から言わせてもらえば、そんな人に助けてなんて言えませんよ。暴力振るうスキルアウトと同じじゃないですか」
佐天「初春や固法先輩ならともかく、白井さんが誇りなんて言葉を使えるような人だとは、あたしには思えませんけど」
黒子「……ちが、わたくし、は……」
佐天「……そんな顔されても困るんですけど、そもそも自業自得じゃ――」
固法「佐天さん」
佐天「……はーい」
佐天さんが近くの席に腰掛ける。
そして、自分は――
37: 2010/11/07(日) 00:31:14.45 ID:P7kDy1Z/0
固法「……白井さん、座ったら?」
黒子「……」
固法「……白井さん?」
黒子「……申し訳ありません。今日は、もう帰らせていただきますの」
固法「そ。わかったわ」
机の上の荷物をまとめて鞄に突っ込んで、ドアに向かう。
ガチャ
黒子「……失礼しますの」
固法「ええ、気をつけて」
佐天「……」
初春「……」
キィ バタン
黒子「……」
固法「……白井さん?」
黒子「……申し訳ありません。今日は、もう帰らせていただきますの」
固法「そ。わかったわ」
机の上の荷物をまとめて鞄に突っ込んで、ドアに向かう。
ガチャ
黒子「……失礼しますの」
固法「ええ、気をつけて」
佐天「……」
初春「……」
キィ バタン
40: 2010/11/07(日) 00:35:50.82 ID:P7kDy1Z/0
黒子「はっ、はっ、はっ」
支部を出て、寮への道をひたすら走った。
なんとなく、今はテレポートを使わないほうがいいような気がした。
黒子「はぁ、はぁ」ピッ ピッ
ウィーン
黒子「はっ、はっ」タッタッタ
ガチャガチャ バタン!
黒子「はっ、はっ、はぁ、はぁ……」
ドサッ
黒子「はぁ、はぁ、はぁっ、ぐすっ」
なんで、なんでこんなことになってしまったんだろう。
たった一ヶ月前まで、普通にしてたはずなのに。
支部を出て、寮への道をひたすら走った。
なんとなく、今はテレポートを使わないほうがいいような気がした。
黒子「はぁ、はぁ」ピッ ピッ
ウィーン
黒子「はっ、はっ」タッタッタ
ガチャガチャ バタン!
黒子「はっ、はっ、はぁ、はぁ……」
ドサッ
黒子「はぁ、はぁ、はぁっ、ぐすっ」
なんで、なんでこんなことになってしまったんだろう。
たった一ヶ月前まで、普通にしてたはずなのに。
44: 2010/11/07(日) 00:40:14.27 ID:P7kDy1Z/0
黒子「ひぐっ、はっ、ごほっ! げほげほっ!」
クラスメイトの皆とも、婚后光子とも
初春とも、佐天さんとも、固法先輩とも、ずっと仲良くやれていたはずなのに。
黒子「はぁ、はぁ……」
自分の何が悪かったのだろう、どこがいけなかったのだろう。
誰でもいいから、教えてほしい。何故、なぜ、なぜ――
黒子「ずっ、はぁ……」
だめだ、落ち着かなければ。ここは自分だけのスペースではない。
落ち着け、あの人にだけは絶対――
ガチャ
黒子「っ!?」
美琴「たっだいまー。って、あれ? 黒子いないの?」
クラスメイトの皆とも、婚后光子とも
初春とも、佐天さんとも、固法先輩とも、ずっと仲良くやれていたはずなのに。
黒子「はぁ、はぁ……」
自分の何が悪かったのだろう、どこがいけなかったのだろう。
誰でもいいから、教えてほしい。何故、なぜ、なぜ――
黒子「ずっ、はぁ……」
だめだ、落ち着かなければ。ここは自分だけのスペースではない。
落ち着け、あの人にだけは絶対――
ガチャ
黒子「っ!?」
美琴「たっだいまー。って、あれ? 黒子いないの?」
45: 2010/11/07(日) 00:44:26.76 ID:P7kDy1Z/0
パチン
暗かった部屋が一気に明るくなる。
美琴「なんだ、いるじゃない。……あ、ゴメン、もしかして寝てた?」
黒子「え、ええ。今日はジャッジメントが早く終わりましたので。ちょっと髪を整えてきますわね」
美琴「え、う、うん」
なるべく顔をあげないように、お姉様の横を通り過ぎる。
少し強引だが今の顔を見せるわけにはいかない。
―――――――――
ジャー パシャパシャ
鏡に目を向けたが、目の周りも大丈夫そうだ。
後は、気持ちを落ち着けるだけ。
黒子「ふぅ……」
ガチャ
黒子「すみませんの。お帰りなさいませ、お姉様」
53: 2010/11/07(日) 00:49:01.76 ID:P7kDy1Z/0
美琴「ん、ただいま。アンタは随分早かったのね」
黒子「ええ。今日は割り当ての仕事があまりありませんでしたので」
美琴「ふーん。だったら買い物に誘えばよかったわねぇ。せっかくゲコ太キャンペーンやってた店があったのに」
黒子「……お姉様。またあの両生類のストラップですの? いくつも持っていらっしゃるではありませんの」
美琴「ちっ、違うわよ! ほらこれ! 今回のは限定版で、ケロヨンの兄貴のケロヤンキーホルダーよ! 今までのとは全っ然違うのよ!」
黒子「またそのような謳い文句に騙されて……、カエルにリーゼントをかぶせただけではありませんの」
美琴「なっ! アンタどこ見てんのよ! ウインクしてるでしょ、ウインク! このリーゼントとのギャップが最大の……」
黒子「まったく……」
周りの人はみな変わってしまったというのに、お姉様だけは相変わらずで居てくれてる。
正直、心底ありがたかった。
もし、もしも万が一お姉様まで同じようになっていたらと思うと――
黒子「ええ。今日は割り当ての仕事があまりありませんでしたので」
美琴「ふーん。だったら買い物に誘えばよかったわねぇ。せっかくゲコ太キャンペーンやってた店があったのに」
黒子「……お姉様。またあの両生類のストラップですの? いくつも持っていらっしゃるではありませんの」
美琴「ちっ、違うわよ! ほらこれ! 今回のは限定版で、ケロヨンの兄貴のケロヤンキーホルダーよ! 今までのとは全っ然違うのよ!」
黒子「またそのような謳い文句に騙されて……、カエルにリーゼントをかぶせただけではありませんの」
美琴「なっ! アンタどこ見てんのよ! ウインクしてるでしょ、ウインク! このリーゼントとのギャップが最大の……」
黒子「まったく……」
周りの人はみな変わってしまったというのに、お姉様だけは相変わらずで居てくれてる。
正直、心底ありがたかった。
もし、もしも万が一お姉様まで同じようになっていたらと思うと――
56: 2010/11/07(日) 00:53:10.18 ID:P7kDy1Z/0
美琴「――だから、ヤンキーでありながら夢はアイドルっていうギャップがね……、って黒子?」
黒子「え? は、はい」
美琴「どうかしたの? なんかボーっとしてたみたいだけど」
黒子「……いえ、お姉様の趣味の悪さに呆れかえっていただけですの」
美琴「な、なによ。いいじゃないかわいいんだし。あ、もう夕食の時間ね。行こっか」
確かに、もうすぐ夕食の時間だ。
そう思っただけで、気が重くなってしまう。
食堂へ行っても、食べるのはお姉様とだ。それに、その状況なら周りも露骨な視線をぶつけたりはしないだろう。
しかし――
美琴「お腹減ったわねー、今日のメニュー何かしら。って、黒子? 行かないの?」
黒子「あ、その、わたくし……」
美琴「?」
黒子「え? は、はい」
美琴「どうかしたの? なんかボーっとしてたみたいだけど」
黒子「……いえ、お姉様の趣味の悪さに呆れかえっていただけですの」
美琴「な、なによ。いいじゃないかわいいんだし。あ、もう夕食の時間ね。行こっか」
確かに、もうすぐ夕食の時間だ。
そう思っただけで、気が重くなってしまう。
食堂へ行っても、食べるのはお姉様とだ。それに、その状況なら周りも露骨な視線をぶつけたりはしないだろう。
しかし――
美琴「お腹減ったわねー、今日のメニュー何かしら。って、黒子? 行かないの?」
黒子「あ、その、わたくし……」
美琴「?」
58: 2010/11/07(日) 00:57:06.93 ID:P7kDy1Z/0
黒子「いえ、実は支部で軽く食べてきましたの。ですから、夕食は……」
美琴「へぇ……」
黒子「お、お姉様?」
急に真剣な顔になって近づいてくる。いったい何を――
プニ
美琴「……あれ? あんまりお肉ついてないわね」
黒子「お姉様……」
美琴「あー、ごめんごめん。またダイエットでも始めたのかと思ってさ」
黒子「そんなにダイエットばかりしているわけではありませんの。それより遅れてしまいますわよ」
美琴「うげっ、ほんとだ。じゃあ行ってくるけど……、ほんとにいいの?」
黒子「ええ、お気になさらず」
美琴「そう、じゃあねー」
ガチャ バタン
美琴「…………」
美琴「へぇ……」
黒子「お、お姉様?」
急に真剣な顔になって近づいてくる。いったい何を――
プニ
美琴「……あれ? あんまりお肉ついてないわね」
黒子「お姉様……」
美琴「あー、ごめんごめん。またダイエットでも始めたのかと思ってさ」
黒子「そんなにダイエットばかりしているわけではありませんの。それより遅れてしまいますわよ」
美琴「うげっ、ほんとだ。じゃあ行ってくるけど……、ほんとにいいの?」
黒子「ええ、お気になさらず」
美琴「そう、じゃあねー」
ガチャ バタン
美琴「…………」
61: 2010/11/07(日) 01:01:24.85 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――――
ガラッ
女生徒「…………」
黒子「ふう」
教室に入る時の皆の視線にもすっかり慣れてしまった。
そうしているだけならいいのに、今日もどうせなにか……。
黒子「あら」
思わず声が出てしまったが、机になんの落書きもされていないのは久しぶりだ。
今日は雑巾の出番はなさそうだ。
……こんなことで少しだけ気分が良くなってる自分に笑ってしまう。
黒子(まったく……、人間の環境適応能力ってものは存外馬鹿にできませんのね。このまま、何も思わなくなって――)
黒子「いつっ!?」
66: 2010/11/07(日) 01:05:58.82 ID:P7kDy1Z/0
椅子に手を伸ばした瞬間、右手に強い痛みが走った。
右手の手のひらは深く傷ついて、血がだらだらと流れている。
黒子(一体何が……?)
と、一瞬戸惑ったがあっさりと解決した。
黒子(……ああ、椅子に刃物を仕込んで、それを視覚系能力で見えなくしただけですのね)
椅子のちょっと上に、自分の血だけが不自然に浮いている。
更によく見れば、その血は何かに沿うように流れている。それを見て、思わず苦笑が漏れた。
黒子(いつかお姉様が言ってましたわね。最先端科学を謳っても、私達の生活にはほとんど関係がない、と)
言う通りだ、と思う。
最先端の能力開発を担う都市でも最高峰の学校。
しかし、その中ではテレビドラマくらいでしか見ないくだらないいじめを大真面目にしている。
右手の手のひらは深く傷ついて、血がだらだらと流れている。
黒子(一体何が……?)
と、一瞬戸惑ったがあっさりと解決した。
黒子(……ああ、椅子に刃物を仕込んで、それを視覚系能力で見えなくしただけですのね)
椅子のちょっと上に、自分の血だけが不自然に浮いている。
更によく見れば、その血は何かに沿うように流れている。それを見て、思わず苦笑が漏れた。
黒子(いつかお姉様が言ってましたわね。最先端科学を謳っても、私達の生活にはほとんど関係がない、と)
言う通りだ、と思う。
最先端の能力開発を担う都市でも最高峰の学校。
しかし、その中ではテレビドラマくらいでしか見ないくだらないいじめを大真面目にしている。
72: 2010/11/07(日) 01:10:13.47 ID:P7kDy1Z/0
今回のだって、根本的には教科書にカッターの刃を仕込むのとなんら変わりがない。しかし――
黒子(自分が被害者だと、くだらないと一蹴できないものですわね)
案外と痛いものだ。身体的な意味だけでなく精神的にも。
黒子「……」チラ
女生徒「……」クスクス
まあ、いい。
いちいち真に受けていては身が持たない。
床に血が少し落ちてしまっているが、放っておけば誰かが片付けるだろう。刃物も一緒だ。
少なくとも教師に見つかるようなヘマはしないはず。
それよりも手の治療をしなければいけない。意外と傷が深そうだ。
確か、鞄の中に止血剤が入っていたはず。それを使えばいいだろう。
本来なら包帯を巻くべきなのかもしれないが、それではお姉様に怪しまれてしまう。
ジャッジメントの活動で、と嘘をついても、初春辺りに問いただされればあっさりバレる。
幸い傷は手のひらで、隠すのも容易だ。
医務室に行く必要もない。化粧室に行ってさっさと処置をしてこよう。
黒子(自分が被害者だと、くだらないと一蹴できないものですわね)
案外と痛いものだ。身体的な意味だけでなく精神的にも。
黒子「……」チラ
女生徒「……」クスクス
まあ、いい。
いちいち真に受けていては身が持たない。
床に血が少し落ちてしまっているが、放っておけば誰かが片付けるだろう。刃物も一緒だ。
少なくとも教師に見つかるようなヘマはしないはず。
それよりも手の治療をしなければいけない。意外と傷が深そうだ。
確か、鞄の中に止血剤が入っていたはず。それを使えばいいだろう。
本来なら包帯を巻くべきなのかもしれないが、それではお姉様に怪しまれてしまう。
ジャッジメントの活動で、と嘘をついても、初春辺りに問いただされればあっさりバレる。
幸い傷は手のひらで、隠すのも容易だ。
医務室に行く必要もない。化粧室に行ってさっさと処置をしてこよう。
75: 2010/11/07(日) 01:14:59.03 ID:P7kDy1Z/0
――――――――――
らい……、白井……?
教師「白井!」
黒子「はっ、はい!」
教師「どうした? ボーっとして。体調でも悪いのか?」
黒子「い、いえ。大丈夫ですの」
教師「そうか……。では、次のページを開いて――」
黒子(はぁ……)
手はまだ痛むが血は止まっている。
さすがにこれが続くようなら黙っているわけにはいかないが、そうそう心配せずとも大丈夫だろう。
あのレベルの事を続ければ、隠し続けるのは難しいことくらい分かっているはずだ。
さしあたっての問題は……
『――その誇りに傷をつけてるのは白井さん自身じゃないですか』
76: 2010/11/07(日) 01:20:06.68 ID:P7kDy1Z/0
胸が痛くなってくる。
今の自分は、何も言い返せない。
濡れ衣だと、自分は何もやっていないと主張し続けていたならば、まだ反論できた。
しかし、いつか皆も分かってくれるだろうと自分に言い訳して、認めてしまったからにはもう……。
そもそも、誰が無実を晴らしてくれる事を期待しているのか。
初春や固法先輩は自分の能力使用の件には今まで触れてこなかったが、昨日の反応からしても自分にいい感情は持っていないだろう。
味方になってくれる人など誰も――
『どうかしたの? なんか――』
『――ほんとにいいの?』
……違う。駄目だ。お姉様には頼ってはいけない。
そう、それは絶対にしてはいけない。するわけにはいかない。
今の自分は、何も言い返せない。
濡れ衣だと、自分は何もやっていないと主張し続けていたならば、まだ反論できた。
しかし、いつか皆も分かってくれるだろうと自分に言い訳して、認めてしまったからにはもう……。
そもそも、誰が無実を晴らしてくれる事を期待しているのか。
初春や固法先輩は自分の能力使用の件には今まで触れてこなかったが、昨日の反応からしても自分にいい感情は持っていないだろう。
味方になってくれる人など誰も――
『どうかしたの? なんか――』
『――ほんとにいいの?』
……違う。駄目だ。お姉様には頼ってはいけない。
そう、それは絶対にしてはいけない。するわけにはいかない。
80: 2010/11/07(日) 01:24:01.77 ID:P7kDy1Z/0
――何故?
決まっている。お姉様にこんなことで迷惑をかけるわけには――
(……?)
こんなこと?
クラスメイト全員からいじめを受けて、ジャッジメントの仲間にも虐げられて。
仲良くしていた友人からも冷たい言葉を投げかけられるこの状態が「こんなこと?」
相談すればいい。
内容は結局分からなかったが、お姉様が思い悩んでいた時、何度も打ち明けて欲しいと思っていたではないか。
別に話を重くする必要はない。ちょっと周りのみんなとうまくいかないとでも打ち明ければいい。
お姉様を経由すれば、皆からもっと話が聞くことができるはず。そうすれば原因を把握できるかもしれない。
そう、お姉様に相談して――
黒子(ぐっ!? はっ、はっ……なん、ですの)
83: 2010/11/07(日) 01:28:49.74 ID:P7kDy1Z/0
うまく呼吸ができない。苦しい。脳が考えることを放棄したがっている。
心配をかけたくないなんて建前だ。ただ――怖かったんだ。
頭の片隅で考えることさえ怖かった。今のたった一つの拠り所さえ失ってしまうかもしれないことが。
いつもならありえないと一蹴できる。御坂美琴を無条件に信頼できる。
ただ、初春飾利が固法美偉が、婚后光子が佐天涙子がこんな風になるのはありえないことでは無かったのか。
黒子「はっ、はぁ、はぁ……」
教師「白井? どうしたんだ」
今まで御坂美琴は自分の能力使用の件について触れてこなかったが、もしも、もう呆れられているとしたら?
いや、そんなはずはない。少なくとも彼女の態度に変なところは無かった。大丈夫なはず。
でも、それでも、万が一があったら――。
心配をかけたくないなんて建前だ。ただ――怖かったんだ。
頭の片隅で考えることさえ怖かった。今のたった一つの拠り所さえ失ってしまうかもしれないことが。
いつもならありえないと一蹴できる。御坂美琴を無条件に信頼できる。
ただ、初春飾利が固法美偉が、婚后光子が佐天涙子がこんな風になるのはありえないことでは無かったのか。
黒子「はっ、はぁ、はぁ……」
教師「白井? どうしたんだ」
今まで御坂美琴は自分の能力使用の件について触れてこなかったが、もしも、もう呆れられているとしたら?
いや、そんなはずはない。少なくとも彼女の態度に変なところは無かった。大丈夫なはず。
でも、それでも、万が一があったら――。
86: 2010/11/07(日) 01:32:57.09 ID:P7kDy1Z/0
ガタン! ドサッ
教師「白井!? 大丈夫か!?」
黒子(ああ……、無理、ですわね)
知り合いや友人を秤にかけるなんて最低な行為かもしれない。
でも、それでも、御坂美琴は特別なのだ。万が一、彼女に嫌われ、無視され、気にも留められなくなったら――。
自分にとって、それはもう恐怖でしかない。
たとえ僅かな可能性ですら、あってほしくない。
教師「白井! くそっ、医務室へ――」
今まで通りでいい。昨日までと同じように接してもらえればいい。
相談なんて聞いてもらわなくても、慰めてなんてもらわなくても、普通に会話できるだけで十分だ。
それだけで自分は大丈夫だ。
彼女まで変わってしまうことなどない。このまま過ごしていける。
黒子「はぁ、はぁ……」
疲れているからだ。こんなことを考えてしまうのは。
最近、よく眠れていたとは言い難い。少しだけ眠ってしまおう。
寝て起きて、すっきりすればこんな危惧は消え去っている筈だ。
万が一の心配も、億が一にもありえないくだらない妄想も――
教師「白井!? 大丈夫か!?」
黒子(ああ……、無理、ですわね)
知り合いや友人を秤にかけるなんて最低な行為かもしれない。
でも、それでも、御坂美琴は特別なのだ。万が一、彼女に嫌われ、無視され、気にも留められなくなったら――。
自分にとって、それはもう恐怖でしかない。
たとえ僅かな可能性ですら、あってほしくない。
教師「白井! くそっ、医務室へ――」
今まで通りでいい。昨日までと同じように接してもらえればいい。
相談なんて聞いてもらわなくても、慰めてなんてもらわなくても、普通に会話できるだけで十分だ。
それだけで自分は大丈夫だ。
彼女まで変わってしまうことなどない。このまま過ごしていける。
黒子「はぁ、はぁ……」
疲れているからだ。こんなことを考えてしまうのは。
最近、よく眠れていたとは言い難い。少しだけ眠ってしまおう。
寝て起きて、すっきりすればこんな危惧は消え去っている筈だ。
万が一の心配も、億が一にもありえないくだらない妄想も――
88: 2010/11/07(日) 01:36:53.80 ID:P7kDy1Z/0
――――――――
誰かの手が頬にあることを、半覚醒した脳が知覚する。
よく知った手の感触だ。
黒子「あ……」
美琴「あ、起こしちゃった?」
カーテンで仕切られた場所。嗅ぎ慣れない匂い。少し硬いベッド。
そして、傍らに立つ人物。
黒子「わたくし……」グッ
美琴「っとと、何してるの。寝てなさい」
起き上がろうとした肩を押さえられる。
黒子「お姉様……? どうして」
美琴「アンタねぇ……、こっちは授業中に倒れたなんて聞かせられて焦りまくったってのに」
黒子「え……?」
ああ、そうか。授業の途中に倒れたのか、自分は。
90: 2010/11/07(日) 01:40:50.88 ID:P7kDy1Z/0
美琴「起きたら熱測って言われたから……ちょっと動かないでよ」ピッ
美琴「熱は……無いみたいね」
体温計を確認すると、それを元の場所に置きに行った。
その背中を見続けた。
黒子「申し訳ありませんお姉様。ご心配をおかけしてしまって……」
美琴「ていっ」ビシッ
黒子「あたっ! な、何をなさいますの」
美琴「そう思うんだったら無理なダイエットなんてやめなさいよねー。ったく、アンタが倒れるなんてよっぽどよね」
黒子「あ、その……」
美琴「言い訳無用。先生、睡眠不足とも言ってたわよ。後で食事持ってくるから、きちんと寝ておきなさい」
美琴「熱は……無いみたいね」
体温計を確認すると、それを元の場所に置きに行った。
その背中を見続けた。
黒子「申し訳ありませんお姉様。ご心配をおかけしてしまって……」
美琴「ていっ」ビシッ
黒子「あたっ! な、何をなさいますの」
美琴「そう思うんだったら無理なダイエットなんてやめなさいよねー。ったく、アンタが倒れるなんてよっぽどよね」
黒子「あ、その……」
美琴「言い訳無用。先生、睡眠不足とも言ってたわよ。後で食事持ってくるから、きちんと寝ておきなさい」
93: 2010/11/07(日) 01:44:14.91 ID:P7kDy1Z/0
ダイエットをしているわけではないのだが、昨日の夕食の件からも、弁解は難しそうだ。
まあ、いいだろう。そもそも倒れた理由はあの――
ドクンッ
黒子(くっ!?)
美琴「黒子っ!? ちょっとアンタ大丈夫?」
目の前にお姉様の顔がある。瞳だけ逸らして言葉を返す。
黒子「……ええ、大丈夫ですの」
美琴「……そう。じゃあ後で来るから――」
黒子「……いえ、今日はもう帰りますの」
美琴「え? 帰るってアンタ……」
まあ、いいだろう。そもそも倒れた理由はあの――
ドクンッ
黒子(くっ!?)
美琴「黒子っ!? ちょっとアンタ大丈夫?」
目の前にお姉様の顔がある。瞳だけ逸らして言葉を返す。
黒子「……ええ、大丈夫ですの」
美琴「……そう。じゃあ後で来るから――」
黒子「……いえ、今日はもう帰りますの」
美琴「え? 帰るってアンタ……」
96: 2010/11/07(日) 01:48:13.77 ID:P7kDy1Z/0
黒子「今日はジャッジメントは非番ですし、タクシーを利用しますので大丈夫ですの。寮で大人しく寝てますわ」
美琴「そう……。まあ、自分のベッドで寝るほうがいいか。んじゃ、玄関まで行きましょ。あ、鞄持ってこなきゃいけないわね」
黒子「いえ、もう次の授業が始まりますわ。お姉様はお戻りくださいまし。わたくしは大丈夫ですわ」
美琴「いいわよ、ちょっとくらい遅れても。それより……」
黒子「いえ、常盤台のエースであるお姉様に遅刻などさせるわけにはまいりませんの。ささ、お戻りください」
美琴「……わかった。無理すんじゃないわよ。携帯出れるようにしておくから、何かあったらすぐ電話寄越しなさいよ」
黒子「ええ、わかりましたの。それではまた後で」
美琴「まったく……、倒れたっていうのに相変わらずねアンタは」
そう、なにもおかしくなどない。
いつもの自分と同じように対応しているはずだ。
――最後まで、お姉様と目を合わせられなかったこと以外は。
美琴「そう……。まあ、自分のベッドで寝るほうがいいか。んじゃ、玄関まで行きましょ。あ、鞄持ってこなきゃいけないわね」
黒子「いえ、もう次の授業が始まりますわ。お姉様はお戻りくださいまし。わたくしは大丈夫ですわ」
美琴「いいわよ、ちょっとくらい遅れても。それより……」
黒子「いえ、常盤台のエースであるお姉様に遅刻などさせるわけにはまいりませんの。ささ、お戻りください」
美琴「……わかった。無理すんじゃないわよ。携帯出れるようにしておくから、何かあったらすぐ電話寄越しなさいよ」
黒子「ええ、わかりましたの。それではまた後で」
美琴「まったく……、倒れたっていうのに相変わらずねアンタは」
そう、なにもおかしくなどない。
いつもの自分と同じように対応しているはずだ。
――最後まで、お姉様と目を合わせられなかったこと以外は。
99: 2010/11/07(日) 01:51:56.21 ID:P7kDy1Z/0
――― 数日後 ―――
公園のベンチにただ座っているだけ、というのも案外気が休まらないものだ。
まあ、九割方自分の心境のせいだろうが。
黒子(はぁ……)
溜息が零れる。身体的には、倒れた日以来なんの問題も無い。
しかし、それ以外はいろいろと変わってしまった。
ジャッジメントの活動を初めてサボった。
支部の扉の前まで行ったのに、あの日の言い争いを思い出してしまって、扉を開ける勇気が出なかった。
お姉様ときちんと話せていない。
お姉様が最近、能力研究に頻繁に駆り出されていて、一緒にいる時間が少し減ったという理由もあるが、それだけではない。
今まで通り。表面上はそう言えるような状態なのに、何を話したかすらあまり覚えていないという有り様だ。
100: 2010/11/07(日) 01:56:15.08 ID:P7kDy1Z/0
変わってしまったのは周りではなく自分か。
参った。どうやら自分は思っていたよりもずっと弱かったらしい。耐えられる、と思っていたのに。
最近、誰と話してもどこにいても、気分は良くならない。
このまま、元に戻らないならいっそ――
「白井、か?」
黒子「は、はい?」
唐突に声を掛けられて、返事が上ずってしまった。
顔をあげてみると、そこに居たのは――
黒子「貴方は……」
上条「やっぱ白井か。どうした? 具合でも悪いのか?」
参った。どうやら自分は思っていたよりもずっと弱かったらしい。耐えられる、と思っていたのに。
最近、誰と話してもどこにいても、気分は良くならない。
このまま、元に戻らないならいっそ――
「白井、か?」
黒子「は、はい?」
唐突に声を掛けられて、返事が上ずってしまった。
顔をあげてみると、そこに居たのは――
黒子「貴方は……」
上条「やっぱ白井か。どうした? 具合でも悪いのか?」
104: 2010/11/07(日) 01:59:58.70 ID:P7kDy1Z/0
黒子「あ、いえ、少し休んでいただけですわ」
上条「ふーん、そっか。お前いっつも忙しそうだもんなー」
そう言いつつ自然に右隣に座る。
近すぎず、遠すぎでもない距離で。
黒子「貴方は……何か用事があるのでは?」
上条「まあな。近くのスーパーで特売やるんだけど、まだ時間があるからさ」
黒子「……随分と所帯じみていらっしゃいますのね」
上条「ふ、ふん。お嬢様にはわからないんですよー。特売が貧乏学生にとってどれほど重要か」
黒子「ふふっ、無駄遣いをしているだけではありませんの?」
上条「無駄遣いなんて……いや、あれさえ無ければなぁ」
黒子「?」
上条「ふーん、そっか。お前いっつも忙しそうだもんなー」
そう言いつつ自然に右隣に座る。
近すぎず、遠すぎでもない距離で。
黒子「貴方は……何か用事があるのでは?」
上条「まあな。近くのスーパーで特売やるんだけど、まだ時間があるからさ」
黒子「……随分と所帯じみていらっしゃいますのね」
上条「ふ、ふん。お嬢様にはわからないんですよー。特売が貧乏学生にとってどれほど重要か」
黒子「ふふっ、無駄遣いをしているだけではありませんの?」
上条「無駄遣いなんて……いや、あれさえ無ければなぁ」
黒子「?」
112: 2010/11/07(日) 02:04:31.81 ID:P7kDy1Z/0
上条「ん、いや、気にすんな」
黒子「よくわかりませんわね……」
ふぅ。と息をついて背もたれに寄り掛かる。
少しだけ、心が休まった気がする。
上条「……」ジー
黒子「……なんですの? 人のことをジーっと見て」
上条「え? あ、いや、なんでもないぞ」
黒子「そんな言い方をされては気になりますわ。言いたいことがあるなら仰ってくださいまし」
どうせ、この一ヶ月で罵倒には慣れたのだし。とは付け加えないでおく。
上条「いや。取り越し苦労だったなって思ってさ」
黒子「……え?」
黒子「よくわかりませんわね……」
ふぅ。と息をついて背もたれに寄り掛かる。
少しだけ、心が休まった気がする。
上条「……」ジー
黒子「……なんですの? 人のことをジーっと見て」
上条「え? あ、いや、なんでもないぞ」
黒子「そんな言い方をされては気になりますわ。言いたいことがあるなら仰ってくださいまし」
どうせ、この一ヶ月で罵倒には慣れたのだし。とは付け加えないでおく。
上条「いや。取り越し苦労だったなって思ってさ」
黒子「……え?」
114: 2010/11/07(日) 02:08:32.05 ID:P7kDy1Z/0
上条「最初見かけたとき元気なさそうだったからさ。何かあったのかと思ったんだけど、勘違い……だよな?」
ああ、なるほど。
上条さん。お姉様がご執心なされている殿方。
この人はこういう人なのか。随分とお節介なようだが、――案外、ありがたいものだ。
黒子「ふっ、何を仰ってますの。貴方に心配されるほど落ちぶれてはいませんわ」
上条「そーですかっと、それは安心だな」
お姉様以外の人と、こんな風に普通に話せたのはいつ以来だろうか。
黒子「ええ。それよりよろしいんですの? 特売の時間とやらは……」
上条「ああ、そうだ……って、白井!? どうしたんだ!?」
黒子「? なんですの? 急に声を張り上げて」
上条「いやお前……それ」
黒子「えっ?」
自分の頬辺りを指差されたのを見て頬に手をやると水滴が手に付いた。
これは――
ああ、なるほど。
上条さん。お姉様がご執心なされている殿方。
この人はこういう人なのか。随分とお節介なようだが、――案外、ありがたいものだ。
黒子「ふっ、何を仰ってますの。貴方に心配されるほど落ちぶれてはいませんわ」
上条「そーですかっと、それは安心だな」
お姉様以外の人と、こんな風に普通に話せたのはいつ以来だろうか。
黒子「ええ。それよりよろしいんですの? 特売の時間とやらは……」
上条「ああ、そうだ……って、白井!? どうしたんだ!?」
黒子「? なんですの? 急に声を張り上げて」
上条「いやお前……それ」
黒子「えっ?」
自分の頬辺りを指差されたのを見て頬に手をやると水滴が手に付いた。
これは――
119: 2010/11/07(日) 02:12:37.76 ID:P7kDy1Z/0
上条「お前、やっぱり何か――」
黒子「……いえ、違うんですの」
上条「……?」
別に悲しかったり、辛かったりする時だけ涙が出るのではない。かといって、今の心境は嬉しいとも違う。
強いて言えば安心。そう、安心しただけ。
黒子「その、ありがとうございますの」ペコリ
上条「……はい? え? なんで」
普通というのは尊いものだ。それを、再確認できた。
取り戻すための努力をしよう。諦めてなどいられない。
それと、少し視野が狭くなっていたようだ。
あの人が唯一の普通なわけではなかった。やはり、馬鹿な考えだった。
黒子「……いえ、違うんですの」
上条「……?」
別に悲しかったり、辛かったりする時だけ涙が出るのではない。かといって、今の心境は嬉しいとも違う。
強いて言えば安心。そう、安心しただけ。
黒子「その、ありがとうございますの」ペコリ
上条「……はい? え? なんで」
普通というのは尊いものだ。それを、再確認できた。
取り戻すための努力をしよう。諦めてなどいられない。
それと、少し視野が狭くなっていたようだ。
あの人が唯一の普通なわけではなかった。やはり、馬鹿な考えだった。
120: 2010/11/07(日) 02:15:41.18 ID:P7kDy1Z/0
黒子「理由は分からなくてよろしいですわ。お礼だけは受け取ってくださいまし」
上条「……よくわかんねーけど、ま、いいか。それよりほら、これ使えよ」
そう言って、ポケットティッシュを差し出してくる。
街頭で配っているような安っぽいものだが、ありがたく頂いておこうと、右手を差し出して――
黒子「ありがとうござ――、 !!」バッ
慌てて引っ込めた。
上条「……よくわかんねーけど、ま、いいか。それよりほら、これ使えよ」
そう言って、ポケットティッシュを差し出してくる。
街頭で配っているような安っぽいものだが、ありがたく頂いておこうと、右手を差し出して――
黒子「ありがとうござ――、 !!」バッ
慌てて引っ込めた。
123: 2010/11/07(日) 02:19:02.74 ID:P7kDy1Z/0
上条「え?」
黒子「わ、わたくしハンカチくらい持ってますので、いりませんわ」
上条「あ、ああ、それもそうか。すまんな」
黒子「謝られても困りますわ。心遣いには感謝しておりますので。それより貴方時間のほうは……」
上条「うおっ、やべぇ! もうとっくに始まってる! じゃあ白井、またな」
黒子「ええ、それではまた」
公園の入り口へと駆けていく背中を見つめた。
さっきの反応は少し申し訳なかった。気が緩んでいて右手の傷を見せてしまうところだったのだ。
ただ、よくよく考えればあの人にはお姉様と違ってジャッジメントの活動で怪我をしたと言えばごまかせた。
お姉様の目から傷を必死に隠していたため、咄嗟に反応してしまったのだ。
まあ、あのお節介そうなあの殿方に心配の種を増やさせるのも悪いので、良かったとしておこう。
――よし、今日は支部に顔を出そう。今日からまた、頑張ってみよう。
ベンチから立って歩き出す。
視界の端に公園の入口が見えて、そこにさっき走り去ったはずのあの方の姿が見えた気がしたが気に留めなかった。
上条「―――、 ―――」
黒子「わ、わたくしハンカチくらい持ってますので、いりませんわ」
上条「あ、ああ、それもそうか。すまんな」
黒子「謝られても困りますわ。心遣いには感謝しておりますので。それより貴方時間のほうは……」
上条「うおっ、やべぇ! もうとっくに始まってる! じゃあ白井、またな」
黒子「ええ、それではまた」
公園の入り口へと駆けていく背中を見つめた。
さっきの反応は少し申し訳なかった。気が緩んでいて右手の傷を見せてしまうところだったのだ。
ただ、よくよく考えればあの人にはお姉様と違ってジャッジメントの活動で怪我をしたと言えばごまかせた。
お姉様の目から傷を必死に隠していたため、咄嗟に反応してしまったのだ。
まあ、あのお節介そうなあの殿方に心配の種を増やさせるのも悪いので、良かったとしておこう。
――よし、今日は支部に顔を出そう。今日からまた、頑張ってみよう。
ベンチから立って歩き出す。
視界の端に公園の入口が見えて、そこにさっき走り去ったはずのあの方の姿が見えた気がしたが気に留めなかった。
上条「―――、 ―――」
128: 2010/11/07(日) 02:24:00.30 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――
そう、大丈夫だ。
いつも通りにすればいいだけ。
ガチャ
黒子「こんにちはですの」
初春「……」チラッ
固法「あら、白井さん。今日は来たのね」
黒子「固法先輩、初春。無断で休んで申し訳ありませんでしたの」
初春「……」カタカタ
固法「いいわよ。もしかしたら辞めるかもと思ってたし」
黒子「いえ、そんなつもりは全くありませんの。これからも続けていくつもりですの」
固法「そう」
131: 2010/11/07(日) 02:27:34.86 ID:P7kDy1Z/0
相変わらず冷たい反応だが、無視されるわけでも、罵倒されるわけでもない。
今はこれでいい。すぐに取り戻せるとは思ってない。
黒子「初春は今何をしていますの?」
初春「……報告書の作成です」カタカタ
黒子「それでは、わたくしは他の仕事をやらせていただきますわ」
たかだか数日程だが、気分的には久しぶりに感じる自分のデスクに座る。
黒子(さて……、始めましょうか)カタカタ
固法「……」
今はこれでいい。すぐに取り戻せるとは思ってない。
黒子「初春は今何をしていますの?」
初春「……報告書の作成です」カタカタ
黒子「それでは、わたくしは他の仕事をやらせていただきますわ」
たかだか数日程だが、気分的には久しぶりに感じる自分のデスクに座る。
黒子(さて……、始めましょうか)カタカタ
固法「……」
133: 2010/11/07(日) 02:30:05.88 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――
ガチャ
美琴「あ、黒子? おかえ「おーねぇさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ガバァ
美琴「わっ、ちょ、ちょっと! いきなりなによ!?」
黒子「足りなくなっていたお姉様エナジーを目一杯補給しますの!」ムフー
美琴「……まったく、アンタはもう」ポンポン
黒子「お姉様……」
いつものように引き離されることはなく、背中を軽くたたかれる。
自分でもおおよそまともではないとは思っていたが、やはりお姉様にも見抜かれていたようだ。
――心配してくれていたのだ。自分を。
138: 2010/11/07(日) 02:33:50.99 ID:P7kDy1Z/0
黒子「ぐへへへへ、お姉様の慎ましやかなお胸の感触が……、ああ! 黒子は、黒子はぁ!」スリスリスリスリ
美琴「調子に、乗るなっ!」バチィ
黒子「あぁうっ!!」
美琴「さぁーって、もう食堂に行かなきゃねー」
黒子「あぁん、待ってくださいですのー、おねぇさまぁん♪」
ガチャ バタン
―――― 翌日 ―――
黒子(さて……)
美琴「調子に、乗るなっ!」バチィ
黒子「あぁうっ!!」
美琴「さぁーって、もう食堂に行かなきゃねー」
黒子「あぁん、待ってくださいですのー、おねぇさまぁん♪」
ガチャ バタン
―――― 翌日 ―――
黒子(さて……)
139: 2010/11/07(日) 02:36:31.63 ID:P7kDy1Z/0
教室の扉の前で一つ息をつく。
今日からは、徹底的に抗うと決めた。
誰かが解決してくれるのを待つのではなく、諦めて現状を嘆くのでもなく。
理不尽な行為は糾弾する。謂れのない非難には反論する。
至極、真っ当なことをしていくだけだ。
黒子(よし!)
ガラッ
教室に入った途端、周りから遠慮無しに視線が向けられる。
気にせず、顔を上げて自分の席に向かう。
黒子(さて、机には……あら?)
机は昨日帰った時と同じように綺麗なままだった。
少しだけ気が削がれたような気分になるが、何も無かったなら問題はない。
朝から嫌な気分にならずにすんだ、そう捉えて鞄を置く。
今日からは、徹底的に抗うと決めた。
誰かが解決してくれるのを待つのではなく、諦めて現状を嘆くのでもなく。
理不尽な行為は糾弾する。謂れのない非難には反論する。
至極、真っ当なことをしていくだけだ。
黒子(よし!)
ガラッ
教室に入った途端、周りから遠慮無しに視線が向けられる。
気にせず、顔を上げて自分の席に向かう。
黒子(さて、机には……あら?)
机は昨日帰った時と同じように綺麗なままだった。
少しだけ気が削がれたような気分になるが、何も無かったなら問題はない。
朝から嫌な気分にならずにすんだ、そう捉えて鞄を置く。
142: 2010/11/07(日) 02:39:58.31 ID:P7kDy1Z/0
――と、気が抜けたらトイレに行きたくなった。
やはり、少なからず緊張してしまっていたのだろう。
黒子(今のうちに行ってきましょうか)
朝から言い争うことになるかもしれないと予想していたので、時間はある。
先程入ってきたドアへ向かう。その最中も視線は変わらず投げかけられる。
気分は良くないが、見られているだけなら文句は言えない。
黒子(ま……、そのうちまた何か仕掛けてくるでしょう)
ガラッ
扉を開けて廊下に出る。それでもまだ、背中に視線を感じる。
――なんとなく、寒気がした。
今まで向けられていた視線は、こんなにも冷たいものだっただろうか――。
やはり、少なからず緊張してしまっていたのだろう。
黒子(今のうちに行ってきましょうか)
朝から言い争うことになるかもしれないと予想していたので、時間はある。
先程入ってきたドアへ向かう。その最中も視線は変わらず投げかけられる。
気分は良くないが、見られているだけなら文句は言えない。
黒子(ま……、そのうちまた何か仕掛けてくるでしょう)
ガラッ
扉を開けて廊下に出る。それでもまだ、背中に視線を感じる。
――なんとなく、寒気がした。
今まで向けられていた視線は、こんなにも冷たいものだっただろうか――。
146: 2010/11/07(日) 02:44:02.48 ID:P7kDy1Z/0
ジャー パシャパシャ
黒子(ふぅ……)
少し冷たく感じる水で手を洗い、ハンカチを取り出す。
黒子(何か……変ですわね)フキフキ
明確ではない。あくまで、「何か」だ。
この学校自体の空気が、昨日までとは何か違うような気がする。
黒子(わたくしの気のせい、だとよろしいのですが……)スタスタ
化粧室を出て元来た道を戻る。
その際も、やはり冷たい視線に晒される。
黒子(やはりなにか……、っが!?)
ガッダァン!
体が一瞬宙に浮き、近くのロッカーに叩きつけられた。
149: 2010/11/07(日) 02:47:28.34 ID:P7kDy1Z/0
黒子「がはっ、な、なに、が……」
背中に何かがぶつかってきた。認識できたのは、そのくらいだ。
ボン! コロコロ・・・
黒子(の、能力測定用のボール? 誰がこんなものを……?)
ボールが飛んできた方向を振り返ると、弱々しい風を感じた。
おそらく、ボールを飛ばした能力者のものだろう。
――その風を、自分はよく知っている気がした。
婚后「……」スッ
黒子「こ、婚后、さん……?」
何も言わず去って行く。
もはや、自分にはわからないことばかりだった。
背中に何かがぶつかってきた。認識できたのは、そのくらいだ。
ボン! コロコロ・・・
黒子(の、能力測定用のボール? 誰がこんなものを……?)
ボールが飛んできた方向を振り返ると、弱々しい風を感じた。
おそらく、ボールを飛ばした能力者のものだろう。
――その風を、自分はよく知っている気がした。
婚后「……」スッ
黒子「こ、婚后、さん……?」
何も言わず去って行く。
もはや、自分にはわからないことばかりだった。
152: 2010/11/07(日) 02:50:44.55 ID:P7kDy1Z/0
―――――――
黒子(大丈夫そうですわね……)
背中と足が少し痛むが、深刻な程ではない。
不意を打たれて吹っ飛ばされたが、物が物だけに大きなダメージにはならなかったようだ。
黒子(しかし、婚后さんがあんなことを……)
いや、違う。正確にはそうと決まったわけではない。
婚后さんがやったという証拠はないし、たまたまあの場所を通り過ぎただけかもしれない。
彼女が自分を痛めつけるために能力を使ったなどと、信じたくない。
ガラッ
自分の教室に戻る。
余計なトラブルがあったせいか、時間は割とギリギリだった。
黒子(とりあえず席に……、 !!)
黒子「な……!?」
158: 2010/11/07(日) 02:53:44.45 ID:P7kDy1Z/0
思わず声が出た。それほどに酷い光景だった。
机に置いていた鞄が、中身と一緒にズタズタに切り裂かれている。
鞄、教科書、ジャッジメントの腕章に至るまで全てが。
黒子(ふ、ふざけた真似を……)ギリッ
黒子「どなたですの!! こんなことをしたのは!」
周りの生徒に睨みを利かせて、声を張る。
しかし、周りから帰ってくるのは冷たい視線のみだ。いつものような嘲笑すら零れない。
風力使いなら、こんなことは簡単にできる。
いや、そうでなくとも刃物があれば誰にでも――
黒子「くっ……、貴女! ずっとここに居たのなら見たでしょう!? 誰が一体こんなことを――」
バシッ
女生徒「気安く触らないでいただけます?」
机に置いていた鞄が、中身と一緒にズタズタに切り裂かれている。
鞄、教科書、ジャッジメントの腕章に至るまで全てが。
黒子(ふ、ふざけた真似を……)ギリッ
黒子「どなたですの!! こんなことをしたのは!」
周りの生徒に睨みを利かせて、声を張る。
しかし、周りから帰ってくるのは冷たい視線のみだ。いつものような嘲笑すら零れない。
風力使いなら、こんなことは簡単にできる。
いや、そうでなくとも刃物があれば誰にでも――
黒子「くっ……、貴女! ずっとここに居たのなら見たでしょう!? 誰が一体こんなことを――」
バシッ
女生徒「気安く触らないでいただけます?」
162: 2010/11/07(日) 02:56:42.93 ID:P7kDy1Z/0
黒子「なっ……」
肩に置いた手を強く払われる。その表情は、ただひたすら冷たくて――
黒子「くっ……、こんなことをして恥ずかしいとは思いませんの!? 言いたいことがあるなら直接――」
ガラッ
教師「おはよう。……なんだ? なにをしているんだ?」
黒子「先生!」
もはや我慢するべきではない。
ここまで派手にやっできたのだから、お望み通り公表してやろうではないか。
黒子「これをご覧ください! 誰かがわたくしの鞄を……」
教師「……鞄?」
凄惨に切り裂かれた品々を指で指し示す。
教師は、机の近くまで見にきて、ボロボロの教科書を手に取る。
教師「……で、これがどうしたんだ?」
肩に置いた手を強く払われる。その表情は、ただひたすら冷たくて――
黒子「くっ……、こんなことをして恥ずかしいとは思いませんの!? 言いたいことがあるなら直接――」
ガラッ
教師「おはよう。……なんだ? なにをしているんだ?」
黒子「先生!」
もはや我慢するべきではない。
ここまで派手にやっできたのだから、お望み通り公表してやろうではないか。
黒子「これをご覧ください! 誰かがわたくしの鞄を……」
教師「……鞄?」
凄惨に切り裂かれた品々を指で指し示す。
教師は、机の近くまで見にきて、ボロボロの教科書を手に取る。
教師「……で、これがどうしたんだ?」
166: 2010/11/07(日) 02:59:19.81 ID:P7kDy1Z/0
黒子「……は?」
教師「予備の教科書なら、職員室で事務員さんにお願いすれば貰える。早く行ってこい」
黒子「なに、を……」
一体何を言っているんだ。
この状況を目にして言うことがそれか。
黒子「お待ちください! 教科書の代わりだとかそういった話ではなくて! こんな卑劣な真似をする輩が――」
教師「いい加減にしろ! 白井!!」
黒子「っ」ビクッ
教師「一体誰がこんなことをするっていうんだ! 言ってみろ!」
黒子「っ……、現にこういう状態になっているではありませんか! 誰かが嫌がらせを――」
教師「いい加減にしろ、と言ったはずだ! お前の言い訳が一度だって正しかった試しがあったか?」
教師「誰かが能力を使ったからだの……、今度は何だ? 自分がやられたから人の鞄を切り裂きますとでも言うつもりか!?」
黒子「ふ、ふざけないでくださいまし!」
教師「ふざけているのはお前だろう!」
教師「予備の教科書なら、職員室で事務員さんにお願いすれば貰える。早く行ってこい」
黒子「なに、を……」
一体何を言っているんだ。
この状況を目にして言うことがそれか。
黒子「お待ちください! 教科書の代わりだとかそういった話ではなくて! こんな卑劣な真似をする輩が――」
教師「いい加減にしろ! 白井!!」
黒子「っ」ビクッ
教師「一体誰がこんなことをするっていうんだ! 言ってみろ!」
黒子「っ……、現にこういう状態になっているではありませんか! 誰かが嫌がらせを――」
教師「いい加減にしろ、と言ったはずだ! お前の言い訳が一度だって正しかった試しがあったか?」
教師「誰かが能力を使ったからだの……、今度は何だ? 自分がやられたから人の鞄を切り裂きますとでも言うつもりか!?」
黒子「ふ、ふざけないでくださいまし!」
教師「ふざけているのはお前だろう!」
170: 2010/11/07(日) 03:02:54.08 ID:P7kDy1Z/0
教師「真面目な生徒だと思っていたが、最近は素行が悪い上、ジャッジメントの活動もサボっているそうだな」
教師「そんな生徒一人の妄言と、品行方正な生徒達のまとまった言い分。どっちを信じるべきかなど分かりきっているだろう」
教師「おおかた、同情を買おうと思って自分でそんな真似をしたんだろうが……、まずは自分自身の行動を見つめ直したらどうだ?」
黒子「…………」
教師「ほら、とりあえず座れ」
黒子「くっ……」ダッ
教師「白井!」
ガラッ ダッダッダッ
教師「まったく、アイツは……」
教師「そんな生徒一人の妄言と、品行方正な生徒達のまとまった言い分。どっちを信じるべきかなど分かりきっているだろう」
教師「おおかた、同情を買おうと思って自分でそんな真似をしたんだろうが……、まずは自分自身の行動を見つめ直したらどうだ?」
黒子「…………」
教師「ほら、とりあえず座れ」
黒子「くっ……」ダッ
教師「白井!」
ガラッ ダッダッダッ
教師「まったく、アイツは……」
174: 2010/11/07(日) 03:06:15.82 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――――
おかしい。絶対におかしい。
よもや、教師まであんな風になってしまうとは。
能力使用の時はあくまで生徒の目撃証言などから判断していたはずだ。
だが、今回は端から決めてかかっている。自分の言い分を聞くつもりが一切無い。
確かに、言っていることは合っている。
教師達から見れば、自分は事件を幾度も起こした不良生徒扱いだというのは仕方がない。
今回だって周りの生徒に問えば、自分に味方するものはいないというのも正しいだろう。
ただ、あの惨状をみて真っ先に自分を叱責するのはいくらなんでもおかしい……はずだ。
それに、朝のボール。
冷静に考えてみて、学年の違う婚后光子が偶然あそこを通っただけとでもいうのか。
考えたくはない、考えたくはないが、あれをやったのが婚后光子だったとしたら――。
今までだって十分おかしかった。しかし、今は輪をかけておかしくなっている。
黒子(何故、何故こんなことに……)
179: 2010/11/07(日) 03:09:59.55 ID:P7kDy1Z/0
――だめだ。考えてばかりでは自分の頭までおかしくなってしまう。
黒子(とりあえず、戻って――)
ふと、時計を見るともう下校時刻になっていた。一体、何時間ここにいたのだろう。
よくアンチスキルに見つからなかったものだ。
そう思いながら、自分が座っていたベンチに振り返る。
――何故、この公園に来たのだったか。
黒子(……支部に、行きましょう)
学校をサボってしまったのは仕方がない。
ジャッジメントの活動はしっかりとしよう。
公園を出て、支部への道を歩き出す。
そこで、見つけた人影。
黒子(あ……)
黒子(とりあえず、戻って――)
ふと、時計を見るともう下校時刻になっていた。一体、何時間ここにいたのだろう。
よくアンチスキルに見つからなかったものだ。
そう思いながら、自分が座っていたベンチに振り返る。
――何故、この公園に来たのだったか。
黒子(……支部に、行きましょう)
学校をサボってしまったのは仕方がない。
ジャッジメントの活動はしっかりとしよう。
公園を出て、支部への道を歩き出す。
そこで、見つけた人影。
黒子(あ……)
185: 2010/11/07(日) 03:12:53.36 ID:P7kDy1Z/0
上条「……」スタスタ
上条「……」ピタッ
上条「……」クルッ スタスタ
黒子「え……?」
確かに、目が合った。一瞬足を止めていたし、距離はあったが確実にお互いを認識した。
しかし、何事も無かったかのように方向を変えて歩いて行った。
黒子(……行き、ましょう)
元々、あの人とは仲良くしていたわけではない。むしろ、自分は敵視していた。
別に普通だ。おかしくないはずだ。――そう、言い聞かせた。
黒子(……ふふっ)
零れた笑いはどういう意味なのか、自分にも分からなかった。
上条「……」ピタッ
上条「……」クルッ スタスタ
黒子「え……?」
確かに、目が合った。一瞬足を止めていたし、距離はあったが確実にお互いを認識した。
しかし、何事も無かったかのように方向を変えて歩いて行った。
黒子(……行き、ましょう)
元々、あの人とは仲良くしていたわけではない。むしろ、自分は敵視していた。
別に普通だ。おかしくないはずだ。――そう、言い聞かせた。
黒子(……ふふっ)
零れた笑いはどういう意味なのか、自分にも分からなかった。
205: 2010/11/07(日) 03:22:44.91 ID:P7kDy1Z/0
>>202
寝て起きたらすぐ9時までにはやる
まじでごめん。おやすみ
寝て起きたらすぐ9時までにはやる
まじでごめん。おやすみ
232: 2010/11/07(日) 08:51:51.54 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――
ガチャ
黒子「こんにちは、ですの」
固法「あっ、白井さん。いいとこに来たわね」
黒子「はっ、はい。なんでしょう?」
珍しく普通に声をかけられた。
嬉しい気持ちよりも、驚きが先に来てしまった。
固法「○○高校の生徒からスキルアウトが暴れているって通報があってね、アンチスキルに連絡して出動するとこだったんだけど、どうする?」
黒子「……はい! わたくしが行きますの!」
固法「ん、わかった。けど、あくまでも怪我人の救護等を優先。アンチスキルが到着するまで無茶はしない。いいわね?」
黒子「ええ、わかっておりますわ」
固法「初春さん。サポートを――」
と、そこで携帯が振動する。
その場で確認すると――
233: 2010/11/07(日) 08:56:01.03 ID:P7kDy1Z/0
初春「白井さんの携帯に現場の地図とスキルアウトの情報を送りました。それを参考にして行動してください」
黒子「……ええ。ありがとうございますの、初春」
携帯を確認してそのまま出ようとして、慌てて気づいた。
黒子「固法先輩。その……、予備の腕章はありませんでしょうか?」
固法「腕章? 無くしたの?」
黒子「いえ、その……」
固法「……ま、後でいいわ。ほら、これ使いなさい」
黒子「ありがとうございますの」
借りた腕章を腕に着ける。そういえば、こういう仕事も久々だ。
黒子「それでは、行ってまいりますの」
固法「ええ」
ガチャ バタン!
固法「……」クス
黒子「……ええ。ありがとうございますの、初春」
携帯を確認してそのまま出ようとして、慌てて気づいた。
黒子「固法先輩。その……、予備の腕章はありませんでしょうか?」
固法「腕章? 無くしたの?」
黒子「いえ、その……」
固法「……ま、後でいいわ。ほら、これ使いなさい」
黒子「ありがとうございますの」
借りた腕章を腕に着ける。そういえば、こういう仕事も久々だ。
黒子「それでは、行ってまいりますの」
固法「ええ」
ガチャ バタン!
固法「……」クス
234: 2010/11/07(日) 09:00:43.46 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――
テレポートを使って現場に向かう。
その間に、スキルアウトの情報を確認する。
黒子(構成員20人程度、資金力、人脈共に特に目立ったものは無し。武装も並以下)シュン
黒子「只のチンピラの集団と変わりありませんわね……」シュン
とはいえ、油断は禁物だ。
自分の能力も好調とは言えない。気をつけていかないと――
黒子「……?」
もう、現場にかなり近いはずだが、何も騒ぎが起きてない。
周りに怪我人なども全くいない。
黒子(まあ、いいですわ。本拠地は路地裏の廃屋ですわね……)
235: 2010/11/07(日) 09:04:41.34 ID:P7kDy1Z/0
他に労力を割かなくていいのは好都合だ。
これならば、自分一人で解決できる。
失った信用も取り戻せる。
一応、慎重を期して路地裏を進む。
黒子(あれが、そうですわね)
進んだ先で建物を見つけた。二階建てだが、見た目はボロボロだ。
しかし――
黒子(あまりにも静か過ぎでは……?)
人の気配は確かにする。
しかし、騒ぎが起きた形跡がないのだ。
どうする、アンチスキルの到着を待つか?
黒子(いえ、構いませんわ)
事前情報からすれば自分一人でも楽に制圧できるレベルだ。
規模は小さくとも悪人は悪人。見逃していい理由はない。
それに……、自分が頼まれた仕事だ。
これならば、自分一人で解決できる。
失った信用も取り戻せる。
一応、慎重を期して路地裏を進む。
黒子(あれが、そうですわね)
進んだ先で建物を見つけた。二階建てだが、見た目はボロボロだ。
しかし――
黒子(あまりにも静か過ぎでは……?)
人の気配は確かにする。
しかし、騒ぎが起きた形跡がないのだ。
どうする、アンチスキルの到着を待つか?
黒子(いえ、構いませんわ)
事前情報からすれば自分一人でも楽に制圧できるレベルだ。
規模は小さくとも悪人は悪人。見逃していい理由はない。
それに……、自分が頼まれた仕事だ。
237: 2010/11/07(日) 09:09:48.17 ID:P7kDy1Z/0
黒子(……よし)
バァン!
黒子「ジャッジメントですの! 通報を受けてまいりました。大人しくお縄につきなさい!」
スキルアウトA「へえ……、ホントに来たよ」
スキルアウトB「結構かわいいじゃん?」
スキルアウトC「そーかぁ? ただのガキじゃねえか」
品の無い笑みを浮かべてこちらをジロジロと舐め回すように見てくる。
黒子「何をごちゃごちゃと仰っていますの? 抵抗する気が無いならばこちらとしても楽なのですが」
スキルアウトA「冗談。捕まるつもりなんてサラサラねえよ」
黒子「そうですの。ならば少々痛い目を見て――」
キィィィィン!!
黒子「ぐっ!?」
バァン!
黒子「ジャッジメントですの! 通報を受けてまいりました。大人しくお縄につきなさい!」
スキルアウトA「へえ……、ホントに来たよ」
スキルアウトB「結構かわいいじゃん?」
スキルアウトC「そーかぁ? ただのガキじゃねえか」
品の無い笑みを浮かべてこちらをジロジロと舐め回すように見てくる。
黒子「何をごちゃごちゃと仰っていますの? 抵抗する気が無いならばこちらとしても楽なのですが」
スキルアウトA「冗談。捕まるつもりなんてサラサラねえよ」
黒子「そうですの。ならば少々痛い目を見て――」
キィィィィン!!
黒子「ぐっ!?」
238: 2010/11/07(日) 09:13:38.55 ID:P7kDy1Z/0
頭が割れるように痛む。
能力を発動させようとしたのに、強制的に演算を中止させられた。
黒子(これは……)
音の発生源に目を向けるとそこには――。
黒子(キャパシティ、ダウン?)
スキルアウトB「おーおー、へばっちゃってまあ」
スキルアウトC「俺らレベル0にはわかんねえ感覚だなぁ」
黒子(な、なぜ……? しかも、あの大きさは――)
キャパシティダウンはとある科学者が発明した対能力者用の装置だが、発明者は既に捕まっている。
能力者の演算を阻害する装置などが公に認められるはずもなく、現在は生産されていないはずだ。
しかし、裏社会は需要があれば供給を無理やりにでも作り出すもの。
能力を発動させようとしたのに、強制的に演算を中止させられた。
黒子(これは……)
音の発生源に目を向けるとそこには――。
黒子(キャパシティ、ダウン?)
スキルアウトB「おーおー、へばっちゃってまあ」
スキルアウトC「俺らレベル0にはわかんねえ感覚だなぁ」
黒子(な、なぜ……? しかも、あの大きさは――)
キャパシティダウンはとある科学者が発明した対能力者用の装置だが、発明者は既に捕まっている。
能力者の演算を阻害する装置などが公に認められるはずもなく、現在は生産されていないはずだ。
しかし、裏社会は需要があれば供給を無理やりにでも作り出すもの。
241: 2010/11/07(日) 09:17:56.41 ID:P7kDy1Z/0
実際、今までもキャパシティダウンの存在は何件か報告があった。
ただ、それらはスキルアウトの中でもかなり大きなグループに限定された話だ。
装置を買うにはツテと、大金が必要となるからだ。
黒子(こんな、小さな集団の、どこに、あれだけ巨大な、装置を買う資金が……?)
スキルアウトA「オラァ!!」
ドゴッ!
黒子「がふっ!」ドサ
正面から腹部を思いっきり殴られ思わず膝をつく。
ガッ
黒子「ぐ……」
スキルアウトA「おいおい、なっさけねーなぁ? ジャッジメントさんよぉ。捕まえるんじゃ、なかったのか、よっ!」ゴッ
黒子「ぐあっ!」
髪を掴んで引っ張り上げられた挙句、もう一発拳が入った。
ただ、それらはスキルアウトの中でもかなり大きなグループに限定された話だ。
装置を買うにはツテと、大金が必要となるからだ。
黒子(こんな、小さな集団の、どこに、あれだけ巨大な、装置を買う資金が……?)
スキルアウトA「オラァ!!」
ドゴッ!
黒子「がふっ!」ドサ
正面から腹部を思いっきり殴られ思わず膝をつく。
ガッ
黒子「ぐ……」
スキルアウトA「おいおい、なっさけねーなぁ? ジャッジメントさんよぉ。捕まえるんじゃ、なかったのか、よっ!」ゴッ
黒子「ぐあっ!」
髪を掴んで引っ張り上げられた挙句、もう一発拳が入った。
244: 2010/11/07(日) 09:23:20.71 ID:P7kDy1Z/0
黒子(まず、い、どうにか、打開策を……)
しかし、変わらずにキャパシティダウンが鳴り響いている。
十一次元の座標の計算が全くできずに、能力を使う糸口さえ見えない。
スキルアウトC「よお、俺にもやらせろよ、なっ!」ドゴッ ゴッ ゴッ
黒子「がはっ! がっ、あが」
倒れているところに蹴りを浴びせられて、何度も踏みつけられる。
スキルアウトC「オラオラ! どーしたぁ? お得意のテレポートでも使ってみろよ!」ガッ ガッ
黒子「ぐ、ぐぁ……」
まさか、こいつら、まさか……。
スキルアウトC「おーら、トドメ、だっ!」ドゴッ
黒子「がっ……」ガク
――疑念を抱きながら、意識はそこで途切れた。
しかし、変わらずにキャパシティダウンが鳴り響いている。
十一次元の座標の計算が全くできずに、能力を使う糸口さえ見えない。
スキルアウトC「よお、俺にもやらせろよ、なっ!」ドゴッ ゴッ ゴッ
黒子「がはっ! がっ、あが」
倒れているところに蹴りを浴びせられて、何度も踏みつけられる。
スキルアウトC「オラオラ! どーしたぁ? お得意のテレポートでも使ってみろよ!」ガッ ガッ
黒子「ぐ、ぐぁ……」
まさか、こいつら、まさか……。
スキルアウトC「おーら、トドメ、だっ!」ドゴッ
黒子「がっ……」ガク
――疑念を抱きながら、意識はそこで途切れた。
247: 2010/11/07(日) 09:27:43.11 ID:P7kDy1Z/0
―――――――――
黒子(ぐ……、ここ、は?)
目が覚めた時周りには誰も居なかった。
窓一つ無い、暗い部屋に放置されていた。
体の節々が痛む上に、ロープがぐるぐると巻きつけられている。
絶対絶命のピンチ、と言いたい所だが――。
シュン!
黒子(ここは、地下、ですの?)
キャパシティダウンは近くに見当たらず、音も無かった。
この状況なら、体に巻かれた縄くらいは転移できる。
ポケットに入ったままだった携帯電話を取り出して開くと、少し明るくなる。
地下だからか電波は入りづらいようだ。とりあえずポケットにしまう。
248: 2010/11/07(日) 09:31:37.98 ID:P7kDy1Z/0
黒子(痛むのは……腹部、腕、肩。下半身がほぼ無事なのが幸いですわね)
痛みをこらえながら歩き出す。
暗闇にも目が慣れて、階段が視認できた。
黒子(おそらく、あそこがさっき連中の居た所へ繋がる階段……)
どうする。この体調では自身の転移は厳しいかもしれない。
できても精々一度か二度。戦闘は……行えない。
しかし、ここは地下で外の様子は伺えない。
目で見えない場所にテレポートするのはリスクが高すぎる。
下手な場所に転移すれば、体がそのまま埋まってしまうかもしれないのだ。
黒子(様子を……)
音を立てないように慎重に階段を上がって、ドアに辿り着く。
そっと、ドアに耳を当てて音を聞く。
痛みをこらえながら歩き出す。
暗闇にも目が慣れて、階段が視認できた。
黒子(おそらく、あそこがさっき連中の居た所へ繋がる階段……)
どうする。この体調では自身の転移は厳しいかもしれない。
できても精々一度か二度。戦闘は……行えない。
しかし、ここは地下で外の様子は伺えない。
目で見えない場所にテレポートするのはリスクが高すぎる。
下手な場所に転移すれば、体がそのまま埋まってしまうかもしれないのだ。
黒子(様子を……)
音を立てないように慎重に階段を上がって、ドアに辿り着く。
そっと、ドアに耳を当てて音を聞く。
249: 2010/11/07(日) 09:36:13.61 ID:P7kDy1Z/0
黒子(…………?)
変だ。全く音がしない。
今がチャンスか。少なくとも、扉の向こうに大勢はいないはず。
一人、もしくは二人相手なら逃げ出すこともできるかもしれない。
機を逸して、人数が増えればもう逃げ出すことはできなくなる。
黒子「……っ」
唾を飲み込む。
大丈夫だ、なんとかなる。人数が少なければ戦うことだって――
そう自分に言い聞かせて、扉に手をかけた。
ギィ・・・
擦れるような音が響いてしまい、鼓動が早まる。
扉を開けた先には――、今までと同じ暗闇が広がっていた。
変だ。全く音がしない。
今がチャンスか。少なくとも、扉の向こうに大勢はいないはず。
一人、もしくは二人相手なら逃げ出すこともできるかもしれない。
機を逸して、人数が増えればもう逃げ出すことはできなくなる。
黒子「……っ」
唾を飲み込む。
大丈夫だ、なんとかなる。人数が少なければ戦うことだって――
そう自分に言い聞かせて、扉に手をかけた。
ギィ・・・
擦れるような音が響いてしまい、鼓動が早まる。
扉を開けた先には――、今までと同じ暗闇が広がっていた。
250: 2010/11/07(日) 09:40:37.81 ID:P7kDy1Z/0
黒子(……誰も、いない?)
そう、何故かそこには人の姿が無かった。
縛って放置しておいて見張りの一人も置かないなどありえるのか。
いや、今は理由なんてどうでもいい。今が絶好の機会なのは変わらない。
できれば、キャパシティダウンは壊したいがそんなことをしている暇もない。
黒子(はっ、はっ、はっ)
外はすっかり暗くなっていた。
痛みの激しい肩を押さえて走り、裏路地を抜ける。
呆気にとられるほどあっさりと逃げ出すことができて、――同時に力が抜けた。
黒子(助かった……?)
いろいろ腑に落ちない点はあるが、脱出できた。
周りに人もいる。ここまでくれば大丈夫なはずだ。
そう、何故かそこには人の姿が無かった。
縛って放置しておいて見張りの一人も置かないなどありえるのか。
いや、今は理由なんてどうでもいい。今が絶好の機会なのは変わらない。
できれば、キャパシティダウンは壊したいがそんなことをしている暇もない。
黒子(はっ、はっ、はっ)
外はすっかり暗くなっていた。
痛みの激しい肩を押さえて走り、裏路地を抜ける。
呆気にとられるほどあっさりと逃げ出すことができて、――同時に力が抜けた。
黒子(助かった……?)
いろいろ腑に落ちない点はあるが、脱出できた。
周りに人もいる。ここまでくれば大丈夫なはずだ。
252: 2010/11/07(日) 09:49:32.56 ID:4jRkrtJDP
黒子(……く)
安心したら痛みが増してきた。
制服にも汚れが目立つ。この格好のままいるのは不味い。
黒子(一度支部に行って、予備の制服を――)
そう、支部に戻って着替えを――
黒子「ぐずっ……」ゴシゴシ
涙が溢れてきた。
つい、今日の朝に決意したばかりだったのに。
『へえ……、ホントに来たよ』
『お得意のテレポートでも使ってみろよ!』
自分が来ることも、自分の能力もばれていた。
そもそも現場では、なんの騒ぎも起きておらず、アンチスキルも来なかった。
考えたくなどないが、あの二人が自分を痛めつけるためにスキルアウトに情報を流したとしか――。
安心したら痛みが増してきた。
制服にも汚れが目立つ。この格好のままいるのは不味い。
黒子(一度支部に行って、予備の制服を――)
そう、支部に戻って着替えを――
黒子「ぐずっ……」ゴシゴシ
涙が溢れてきた。
つい、今日の朝に決意したばかりだったのに。
『へえ……、ホントに来たよ』
『お得意のテレポートでも使ってみろよ!』
自分が来ることも、自分の能力もばれていた。
そもそも現場では、なんの騒ぎも起きておらず、アンチスキルも来なかった。
考えたくなどないが、あの二人が自分を痛めつけるためにスキルアウトに情報を流したとしか――。
255: 2010/11/07(日) 09:54:33.82 ID:4jRkrtJDP
黒子(なんで、なんで……)
自分が一体何をしたんだ。
ジャッジメントともあろうものがスキルアウトと繋がるなんて異常にも程がある。
いつから、一体いつからこんなことになってしまっているのだ。
もう誰も、誰も――
ブゥーン ブゥーン
黒子(メー、ル……?)ピッ
『黒子ー、今日遅くなるって聞いて無かったけどなんかあった? もう、夕食終わっちゃったわよ』
黒子「お姉様……」
そうだ。お姉様がいる。
お姉様だけは変わらずにいてくれる。
お姉様にだけは心配をかけてはいけない。
短く返信して、支部への道を急ぐ。
自分が一体何をしたんだ。
ジャッジメントともあろうものがスキルアウトと繋がるなんて異常にも程がある。
いつから、一体いつからこんなことになってしまっているのだ。
もう誰も、誰も――
ブゥーン ブゥーン
黒子(メー、ル……?)ピッ
『黒子ー、今日遅くなるって聞いて無かったけどなんかあった? もう、夕食終わっちゃったわよ』
黒子「お姉様……」
そうだ。お姉様がいる。
お姉様だけは変わらずにいてくれる。
お姉様にだけは心配をかけてはいけない。
短く返信して、支部への道を急ぐ。
258: 2010/11/07(日) 09:58:59.31 ID:4jRkrtJDP
ガチャガチャ ガチャ
支部はもう施錠されていて、誰も居なかった。
もういい。その方が好都合だ。
自分の私物入れにある、予備の制服と鞄を取り出し服を脱ぐ。
お腹には痣ができていて、肩もかなり腫れていた。
氷を使って少し冷やしたが、簡単に腫れは引かないだろう。
どちらにしろ服で隠れる部分だし、後は治るまで隠せばいい。
予備の制服を着て、鞄に元の服を詰める。
借りた腕章は机の上に置いた。
それから、外に出て鍵を閉める。
――そして、最後にその鍵を腕章の上に転移して支部を後にした。
261: 2010/11/07(日) 10:03:44.16 ID:4jRkrtJDP
―――――――――
いつも通りに、いつも通りに。
ガチャ
黒子「お姉様、ただいま帰りましたわ」
美琴「お帰りー、随分遅かったわね。忙しかったの?」
黒子「ええ、書類仕事が山積みでして、もうクタクタですの」
美琴「大変ねー。おにぎり作ってもらっておいたから食べなさい」
黒子「ありがとうございますの。ですがそれより先に、お風呂に入らせていただきますわ。疲れをとりたいんですの」
美琴「そう。お湯は張ってあるからゆっくりしてきなさい」
黒子「お姉様、それより是非一緒に洗いっこなど……」
美琴「するかっ!」
黒子「あぁん、もう、つれませんのね」
262: 2010/11/07(日) 10:08:42.72 ID:4jRkrtJDP
いつも通りに、いつも通りに。
黒子「お姉様。もう起きませんと遅刻してしまいますわよ」
美琴「んー、わかってる。って、アンタもう準備終わってるの?」
黒子「ええ、わたくし今日は早めに登校しなければなりませんので」
美琴「ふーん、そうなんだ」
黒子「ええ。ですから、お先に失礼しますわ」スタスタ
ガチャ バタン
264: 2010/11/07(日) 10:13:08.50 ID:4jRkrtJDP
いつも通りに、いつもどおりに。
ガラッ
女生徒「……」
黒子「……」スタスタ
黒子「……」
『氏ね 御坂様から離れろ 消えろ 不良女 ゴミ屑 常盤台の面汚し――』
黒子(……くだらないですわ)ドサッ
黒子(一時間目は能力開発論でしたわね……)カリカリ
265: 2010/11/07(日) 10:19:01.13 ID:4jRkrtJDP
いつもどおりに、いつも、どおり、に――。
キーンコーンカーンコーン
黒子「……」スッ
女生徒A「白井さん。お待ちになってくださいな」
黒子「……どいてくださいまし」
サバァン!
黒子「……ごほっ」
女生徒A「机へのメッセージにも反応をいただけませんで、つまらないですわ。少しお付き合い下さいな」
黒子「どいて、くださいまし」
ゴスッ
黒子「がはっ……」
267: 2010/11/07(日) 10:24:30.26 ID:4jRkrtJDP
女生徒A「お付き合い下さいとわたくしが申しておりますの。黙って付いてくればよろしいのですわ」
黒子「……どいて、くだ」
女生徒B「さぁ、行きましょう。白井さん」
女生徒C「Aさん、どこに連れて行きますの?」
女生徒A「能力測定を行う教室に行きましょう。あそこなら誰も来ませんわ」
黒子「どいて、く」
パァン!
黒子「くぁ……」
女生徒A「いつまで気持ち悪く呻いておりますの。行きますわよ」
黒子「……どいて、くだ」
女生徒B「さぁ、行きましょう。白井さん」
女生徒C「Aさん、どこに連れて行きますの?」
女生徒A「能力測定を行う教室に行きましょう。あそこなら誰も来ませんわ」
黒子「どいて、く」
パァン!
黒子「くぁ……」
女生徒A「いつまで気持ち悪く呻いておりますの。行きますわよ」
270: 2010/11/07(日) 10:30:21.64 ID:4jRkrtJDP
―――――――
ドゴォン!
黒子「がふっ……」
女生徒A「相変わらずCさんの念動力は素晴らしいですわ。人の体くらいの重さなど軽々飛ばせますのね」
女生徒C「いえ、大したことは……、しかし、反応が薄すぎてつまらないですわね」
女生徒B「十数人の能力をまともに受けてますし、もう限界なのでは?」
女生徒A「下手なことになると、面倒ですしね……、このくらいにしておきましょうか」
黒子「…………な、ぜ」
女生徒A「? なにか仰いまして?」
黒子「……なぜ、あなたたちは、こんな、ことを、する、んです、の……?」
273: 2010/11/07(日) 10:35:16.79 ID:4jRkrtJDP
女生徒A「……ふ、おーっほっほっほ、何を言い出すかと思えば!」
女生徒B「今更ですわね」
黒子「…………」
女生徒A「いいですわ、答えてあげます」
ガッ
女生徒A「白井さん。わたくしたちが貴女にこんなことをするのか、でしたわね。簡単ですわ」
グイッ
女生徒A「それは、貴女のことが 大 嫌 い だからですわ。おーっほっほ!」
黒子「きら、い……?」
女生徒A「ええ、それ以外に理由があって?」
女生徒B「今更ですわね」
黒子「…………」
女生徒A「いいですわ、答えてあげます」
ガッ
女生徒A「白井さん。わたくしたちが貴女にこんなことをするのか、でしたわね。簡単ですわ」
グイッ
女生徒A「それは、貴女のことが 大 嫌 い だからですわ。おーっほっほ!」
黒子「きら、い……?」
女生徒A「ええ、それ以外に理由があって?」
274: 2010/11/07(日) 10:39:41.64 ID:4jRkrtJDP
ああ、そうか。
自分が嫌われているからこんな仕打ちをされるのか。
黒子「ういは……この……てんさ……こんご」
女生徒A「何を言って……」
初春も
固法先輩も
佐天さんも
婚后さんも
みんな、自分の事が嫌いだから。
じゃあ――
黒子「おね…さま、も……?」
自分が嫌われているからこんな仕打ちをされるのか。
黒子「ういは……この……てんさ……こんご」
女生徒A「何を言って……」
初春も
固法先輩も
佐天さんも
婚后さんも
みんな、自分の事が嫌いだから。
じゃあ――
黒子「おね…さま、も……?」
275: 2010/11/07(日) 10:46:19.22 ID:4jRkrtJDP
女生徒A「! ふ、何をくだらないことを。御坂様だけ例外だとでも?」
黒子「……!」
女生徒A「御坂様はお優しい方ですから、貴女は気付けなかったかもしれませんが、嫌っているに決まっているでしょう?」
黒子「……あ」
女生徒B「クスクス、むしろどうして御坂様に好かれていると思えたのか教えてほしいですわね」
やっぱり、そうか。
女生徒C「どうせ、御坂様が憐れんで接してくださってることにも気付けなかったのでしょう」
お姉様も、自分のことを――。
だったら、もういいだろう。
我慢して、生活していって何がある?
ここにいても、何も無い。
もう、すべてがどうでもいい――
女生徒A「知らぬは当人ばかりなり、ですわね。御坂様のお気持ちなど皆――」
バァン!!!
女生徒「!?」
黒子「……?」
黒子「……!」
女生徒A「御坂様はお優しい方ですから、貴女は気付けなかったかもしれませんが、嫌っているに決まっているでしょう?」
黒子「……あ」
女生徒B「クスクス、むしろどうして御坂様に好かれていると思えたのか教えてほしいですわね」
やっぱり、そうか。
女生徒C「どうせ、御坂様が憐れんで接してくださってることにも気付けなかったのでしょう」
お姉様も、自分のことを――。
だったら、もういいだろう。
我慢して、生活していって何がある?
ここにいても、何も無い。
もう、すべてがどうでもいい――
女生徒A「知らぬは当人ばかりなり、ですわね。御坂様のお気持ちなど皆――」
バァン!!!
女生徒「!?」
黒子「……?」
279: 2010/11/07(日) 10:51:33.50 ID:4jRkrtJDP
女生徒A「なんですの? 一体どなたが……」
女生徒B「あ……み、御坂、様?」
美琴「……」スタスタ
周りを取り囲んでいた連中の一部が慌てて避ける。
そうして出来た道を一直線にこちらに向かってくる人物。
少し俯いているため表情は伺えない。
黒子「お、ねえ、さま?」
女生徒A「み、御坂様……」
美琴「ふふ、あはははは……」
力無く笑い始める。
やはり表情はわからない。
女生徒B「あ……み、御坂、様?」
美琴「……」スタスタ
周りを取り囲んでいた連中の一部が慌てて避ける。
そうして出来た道を一直線にこちらに向かってくる人物。
少し俯いているため表情は伺えない。
黒子「お、ねえ、さま?」
女生徒A「み、御坂様……」
美琴「ふふ、あはははは……」
力無く笑い始める。
やはり表情はわからない。
281: 2010/11/07(日) 10:56:22.23 ID:4jRkrtJDP
女生徒C「御坂様……?」
周りから掛けられる声を気にも留めない。
そのまま、笑い続けながらも、拳を作った右手を振り上げる。
黒子「お姉様……?」
自分も、周りも、時が止まってしまったように動けない。
その僅かな間の後、室内の全員の視線を集めた御坂美琴の右拳は――
周りから掛けられる声を気にも留めない。
そのまま、笑い続けながらも、拳を作った右手を振り上げる。
黒子「お姉様……?」
自分も、周りも、時が止まってしまったように動けない。
その僅かな間の後、室内の全員の視線を集めた御坂美琴の右拳は――
285: 2010/11/07(日) 10:59:12.84 ID:4jRkrtJDP
――そのまま、御坂美琴自身の右頬に振り下ろされた。
293: 2010/11/07(日) 11:04:36.42 ID:4jRkrtJDP
ゴッ、と鈍い音が響き、ようやく皆が現状を理解した。
女生徒A「み、御坂様! なんてことを……、Bさん! すぐに冷やすものを!」
女生徒B「え、ええ! ただいま――」
美琴「黙れ」
その、たった一言で騒ぎ始めていた生徒達は口を紡いだ。
それどころか皆、動きまで止めている。
いや、正確には動けないでいる。と言ったほうが正しいようだ。
美琴「……」スッ
そんな中、お姉様は自分の近くに膝をついた。
その、表情がようやく見えた。
お姉様のこんな表情をどれだけの生徒が見たことがあるだろうか。
怒りでも、悲しみでもない。共に過ごしてきた自分にはわかる。
この表情は――悔しくてたまらない時のお顔だ。
女生徒A「み、御坂様! なんてことを……、Bさん! すぐに冷やすものを!」
女生徒B「え、ええ! ただいま――」
美琴「黙れ」
その、たった一言で騒ぎ始めていた生徒達は口を紡いだ。
それどころか皆、動きまで止めている。
いや、正確には動けないでいる。と言ったほうが正しいようだ。
美琴「……」スッ
そんな中、お姉様は自分の近くに膝をついた。
その、表情がようやく見えた。
お姉様のこんな表情をどれだけの生徒が見たことがあるだろうか。
怒りでも、悲しみでもない。共に過ごしてきた自分にはわかる。
この表情は――悔しくてたまらない時のお顔だ。
296: 2010/11/07(日) 11:10:50.95 ID:4jRkrtJDP
美琴「ハッ、なっさけないわねぇ、私も」
そう言いながらハンカチを取り出して、血の出ている顔を拭いてくれる。
美琴「誰に聞いても、黒子が能力使ったって。皆、黒子が能力使うところを見たって」
その口調は痛々しくて、それでも口を開き続ける。
美琴「先生たちも、黒子自身が認めたって、黒子みたいな子にも間違いはあるだろうって」
――おそらく、どうしても自分が許せなくて。
美琴「……そんな程度のことで、ちょっとでも、黒子を疑った」
黒子「お姉、様……」
美琴「そんなはずない。黒子は絶対そんなことしないって胸を張って言い続けるべきだったのに……ほんと、情けない」
黒子「おねえ、さま……」
美琴「アンタはずっと私を慕ってくれたのに、その気持ちと同じくらい私はアンタを信じられたはずなのに……」
そう言いながらハンカチを取り出して、血の出ている顔を拭いてくれる。
美琴「誰に聞いても、黒子が能力使ったって。皆、黒子が能力使うところを見たって」
その口調は痛々しくて、それでも口を開き続ける。
美琴「先生たちも、黒子自身が認めたって、黒子みたいな子にも間違いはあるだろうって」
――おそらく、どうしても自分が許せなくて。
美琴「……そんな程度のことで、ちょっとでも、黒子を疑った」
黒子「お姉、様……」
美琴「そんなはずない。黒子は絶対そんなことしないって胸を張って言い続けるべきだったのに……ほんと、情けない」
黒子「おねえ、さま……」
美琴「アンタはずっと私を慕ってくれたのに、その気持ちと同じくらい私はアンタを信じられたはずなのに……」
300: 2010/11/07(日) 11:14:57.35
泣いた;;
298: 2010/11/07(日) 11:12:13.14
上条さんは一体なんだったんだよ
302: 2010/11/07(日) 11:15:56.86 ID:4jRkrtJDP
ギュッ・・・
美琴「情けないお姉様で、ごめんね……黒子」
黒子「あ゛…、おね、え、さま゛ぁ」ボロボロ
違う。そんな言葉をかけてもらえる資格なんてない
自分は、もっと酷いことを考えたこともあった。
もしかしたら、お姉様が――――なんてことさえ考えた。
ずっと心配してくれていたのに。
ずっと心を痛めていてくれたのに。
報いる気持ちを持てなかったのは自分なのに。それでも。
――お姉様の腕の中は、ただひたすら暖かくて――
黒子「うあ゛うああ゛あ゛あ゛あぁん!! お゛ねえざばぁぁぁぁ!!」
美琴「黒子……」ギュウ・・・
まるで赤ん坊のように、みっともなく、泣き続けた。
304: 2010/11/07(日) 11:21:13.58 ID:4jRkrtJDP
――――――
美琴「さ、立てる?」
黒子「……ええ、なんとか。すみません、お姉様」
美琴「いいから、いいから。どーんと頼んなさい」
黒子「……は、はい」
お姉様に肩を借りて立つと、周りの生徒達が何かを言いたそうにしている。
だが、お姉様は全く意に介さず、ドアに歩を向ける。
やがて、意を決したのか、その内の一人がお姉様に声を掛けた。
女生徒A「あ、あの、御坂様」
美琴「……」
女生徒A「その、これは」
美琴「さっき」
女生徒A「」ビクッ
美琴「黙れって、言ったわよね」
310: 2010/11/07(日) 11:25:54.27 ID:4jRkrtJDP
それ以上話すことなどないと言わんばかりに歩き出す。
しかし、Aも簡単には引き下がらない。
女生徒A「その、御坂様の不興を買ってしまったかもしれませんが、わたくしたちは御坂様の――」
美琴「私が今どれだけ、ブチギレてるか知りたい?」バチバチバチィ
女生徒A「ひっ」
美琴「それ以上口を開くつもりなら相応の覚悟をしなさい。今、手加減なんて言葉はないわよ」
女生徒A「あ、あ……あ」ペタン
美琴「……、さあ、行こっ、黒子」
黒子「……ええ」
お姉様と同じように一度も振り返らず、その場を後にした。
しかし、Aも簡単には引き下がらない。
女生徒A「その、御坂様の不興を買ってしまったかもしれませんが、わたくしたちは御坂様の――」
美琴「私が今どれだけ、ブチギレてるか知りたい?」バチバチバチィ
女生徒A「ひっ」
美琴「それ以上口を開くつもりなら相応の覚悟をしなさい。今、手加減なんて言葉はないわよ」
女生徒A「あ、あ……あ」ペタン
美琴「……、さあ、行こっ、黒子」
黒子「……ええ」
お姉様と同じように一度も振り返らず、その場を後にした。
314: 2010/11/07(日) 11:30:10.21 ID:4jRkrtJDP
―――――――――
ガチャ パチン
美琴「よっ、と」
寮の部屋まで辿り着きベッドに座らされる。
とにかく落ち着ける場所に戻ろうと決まって、結局はここに戻ってきた。
美琴「黒子……ごめんね。どこか、ホテルとかの方が良かっただろうけど、今からじゃ外泊許可取れないからさ」
黒子「いえ……、文句などある筈がありませんの」
本心からの言葉だった。
おそらく、お姉様は常盤台の生徒がいる寮ではないところで休めるようにしたかったらしい。
しかし、そんな風に心を砕いてくれることが、何より嬉しい。
321: 2010/11/07(日) 11:37:25.31 ID:4jRkrtJDP
美琴「お風呂は……、辛いわよね」
黒子「……ええ、申し訳ありませんの。今は、ちょっと」
今はとにかく体が重い。
怪我の程度がどれ程かはわからないが、それよりも疲れがどっと押し寄せていた。
いろいろな意味で限界だったところで、あれだけ感情を発して、もう体に力が入らなくなっている。
とりあえず、ゆっくり眠りたい。
美琴「そうね。えーっと、着替え出すわよ」
ゴソゴソとチェストを漁って服を取り出してくれる。
こんな時だというのに、自分の寝巻を見て「いや……、これはさすがに」などと、吟味している姿が可愛らしかった。
結局、取り出された寝巻は比較的シンプルなものであった。
黒子「……ええ、申し訳ありませんの。今は、ちょっと」
今はとにかく体が重い。
怪我の程度がどれ程かはわからないが、それよりも疲れがどっと押し寄せていた。
いろいろな意味で限界だったところで、あれだけ感情を発して、もう体に力が入らなくなっている。
とりあえず、ゆっくり眠りたい。
美琴「そうね。えーっと、着替え出すわよ」
ゴソゴソとチェストを漁って服を取り出してくれる。
こんな時だというのに、自分の寝巻を見て「いや……、これはさすがに」などと、吟味している姿が可愛らしかった。
結局、取り出された寝巻は比較的シンプルなものであった。
325: 2010/11/07(日) 11:41:00.37 ID:4jRkrtJDP
美琴「着替えは……どう? できそう?」
黒子「えーと、なんとかそれくらいは……」
と、答えてから手伝ってもらっても良かったなと後悔した。
だが、普段ならともかく、今は服の下はあまり見せたくないことになっていそうだったので自制する。
黒子「くぅ……」
思わず声が出てしまい、お姉様が手を貸そうとしてくれたが、それを制した。
一度動かし始めれば、後は流れで何とかなる。
体を動かすたびに走る痛みは、できる限り無視することにした。
黒子「えーと、なんとかそれくらいは……」
と、答えてから手伝ってもらっても良かったなと後悔した。
だが、普段ならともかく、今は服の下はあまり見せたくないことになっていそうだったので自制する。
黒子「くぅ……」
思わず声が出てしまい、お姉様が手を貸そうとしてくれたが、それを制した。
一度動かし始めれば、後は流れで何とかなる。
体を動かすたびに走る痛みは、できる限り無視することにした。
328: 2010/11/07(日) 11:42:43.34 ID:4jRkrtJDP
黒子「ふぅ……」
なんとか、制服を脱ぎ終えることができた。
寝巻は制服に比べれば着脱しやすいので、そう苦労することはないはず。
だが――
黒子「あの、お姉様。黒子の体に興味を持っていただけるのは嬉しいのですが……、さすがにそこまで見られると」
美琴「え? あ、ご、ごめん」
そう言って慌てて視線を逸らす。
お姉様が見ていたのは、体の傷だろう。
今日の連中は顔や足など目に見える所にはほとんど攻撃を加えなかった。
昨日のスキルアウトも同じだったので、服で隠れる部分。とりわけ、上半身に傷が集中していたのだ。
傷を見るお姉様の顔は、今にも泣き崩れそうで――。とても見ていられなかったのだ。
なんとか、制服を脱ぎ終えることができた。
寝巻は制服に比べれば着脱しやすいので、そう苦労することはないはず。
だが――
黒子「あの、お姉様。黒子の体に興味を持っていただけるのは嬉しいのですが……、さすがにそこまで見られると」
美琴「え? あ、ご、ごめん」
そう言って慌てて視線を逸らす。
お姉様が見ていたのは、体の傷だろう。
今日の連中は顔や足など目に見える所にはほとんど攻撃を加えなかった。
昨日のスキルアウトも同じだったので、服で隠れる部分。とりわけ、上半身に傷が集中していたのだ。
傷を見るお姉様の顔は、今にも泣き崩れそうで――。とても見ていられなかったのだ。
331: 2010/11/07(日) 11:47:33.19 ID:4jRkrtJDP
なんとか着替えを終えると、同じように着替えを済ませたお姉様が近くにきていた。
美琴「んじゃ、ゆっくり寝なさい。私がついてるからさ」
黒子「あ、あの、お姉様」
美琴「ん? なに?」
黒子「あ、いえ、その」
美琴「?」
黒子「そ、添い寝してくださいましっ!」
自分でも考えてなかった言葉が出た。
美琴「んじゃ、ゆっくり寝なさい。私がついてるからさ」
黒子「あ、あの、お姉様」
美琴「ん? なに?」
黒子「あ、いえ、その」
美琴「?」
黒子「そ、添い寝してくださいましっ!」
自分でも考えてなかった言葉が出た。
336: 2010/11/07(日) 11:52:17.17 ID:4jRkrtJDP
本当は、きちんと礼が言いたかったのだ。
助けてくれてありがとうと、味方でいてくれてありがとうと。
ただ、目線があったら急に気恥ずかしくなってしまった。
そういえば、長いことお姉様と目を合わせて会話していなかったことを思い出す。
黒子「あ、いえ、今のは」
美琴「ん、わかった」
え、あれ?
今、お姉様はなんと?
美琴「んーしょ、っと。黒子、もうちょい詰めてくれる?」ゴソゴソ
黒子「へ、あ、はい」モゾモゾ
あ、あれ?
今、同じ布団の中でお姉様が寝ている。
今まで、何度お願いしても一緒になど寝てくれなかったのに。
よくわからないが、これは――。
助けてくれてありがとうと、味方でいてくれてありがとうと。
ただ、目線があったら急に気恥ずかしくなってしまった。
そういえば、長いことお姉様と目を合わせて会話していなかったことを思い出す。
黒子「あ、いえ、今のは」
美琴「ん、わかった」
え、あれ?
今、お姉様はなんと?
美琴「んーしょ、っと。黒子、もうちょい詰めてくれる?」ゴソゴソ
黒子「へ、あ、はい」モゾモゾ
あ、あれ?
今、同じ布団の中でお姉様が寝ている。
今まで、何度お願いしても一緒になど寝てくれなかったのに。
よくわからないが、これは――。
342: 2010/11/07(日) 11:56:57.37 ID:4jRkrtJDP
黒子「チャンス?」
美琴「? 何言って、って、うおい!」
黒子「んはぁ、は、お姉様の感触が、匂いが、エナジーがぁぁ!」
美琴「ちょ、ちょっと!? 大人しくしなさいよ。アンタ傷が……」
黒子「ふ、ふふふ、お姉様エナジーを目一杯補給する絶好機に痛いなどと、言っては――」
ビキィ!
黒子「あ、が、がふ……」ガク
美琴「ちょっとぉ!? 言わんこっちゃ……、な゛っ!?」
黒子「ひゅー、ひゅー、おね゛えざばの、匂、味……」
美琴「ゾンビかアンタは! 大人しくしろぉ!!」
黒子「お゛ねーさばぁぁ……」
・
・
・
美琴「いい? 無茶な動きはしない。今度破ったら出て行くからね」
美琴「? 何言って、って、うおい!」
黒子「んはぁ、は、お姉様の感触が、匂いが、エナジーがぁぁ!」
美琴「ちょ、ちょっと!? 大人しくしなさいよ。アンタ傷が……」
黒子「ふ、ふふふ、お姉様エナジーを目一杯補給する絶好機に痛いなどと、言っては――」
ビキィ!
黒子「あ、が、がふ……」ガク
美琴「ちょっとぉ!? 言わんこっちゃ……、な゛っ!?」
黒子「ひゅー、ひゅー、おね゛えざばの、匂、味……」
美琴「ゾンビかアンタは! 大人しくしろぉ!!」
黒子「お゛ねーさばぁぁ……」
・
・
・
美琴「いい? 無茶な動きはしない。今度破ったら出て行くからね」
344: 2010/11/07(日) 12:01:38.71 ID:4jRkrtJDP
黒子「すみません……、本能が抑えきれなくて」
美琴「本能って……、アンタも大概よね、もう」
そう言われても、仕方がない。
出来ることと、出来ないことはあるのだ。
とはいえ、この自分がこの状態ではお姉様は自分を窘めることはできない。
実際、さっきも能力を使うどころか、押さえつけようとすらしなかった。
そもそも、ここまでしておいてまだ布団にいてくれることが奇跡みたいなものだ。
純粋に自分を心配してくれての行動だからだろう。
そんな状況で襲おうとしてしまった自分がちょっとだけ恥ずかしかった。
黒子(今日はもう一切お姉様に触れることはしませんの!)
と、決意を改めてお姉様に背中を向けて寝ることに決めたのだが……。
美琴「本能って……、アンタも大概よね、もう」
そう言われても、仕方がない。
出来ることと、出来ないことはあるのだ。
とはいえ、この自分がこの状態ではお姉様は自分を窘めることはできない。
実際、さっきも能力を使うどころか、押さえつけようとすらしなかった。
そもそも、ここまでしておいてまだ布団にいてくれることが奇跡みたいなものだ。
純粋に自分を心配してくれての行動だからだろう。
そんな状況で襲おうとしてしまった自分がちょっとだけ恥ずかしかった。
黒子(今日はもう一切お姉様に触れることはしませんの!)
と、決意を改めてお姉様に背中を向けて寝ることに決めたのだが……。
348: 2010/11/07(日) 12:06:50.87 ID:4jRkrtJDP
美琴「黒子」クイクイ
気勢を削がれる形で声を掛けられる。
一つ深呼吸をして、気合いを入れなおして振り向くと――
黒子「はい、なんでし、!!」
ギュッ
唐突に、抱き締められた。
黒子「お、お姉様?」
美琴「ま、まあ、これくらいならたまにはいいかと思ってさ。あ、でも、余計なことしたら……」
黒子「……お姉様」スリ
美琴「……ん」ポンポン
――やはり、お姉様の腕の中は暖かかった。
ずっと、誰とも、まともに話さえできなくて。
それでも、やっぱり、この人だけは……。
気勢を削がれる形で声を掛けられる。
一つ深呼吸をして、気合いを入れなおして振り向くと――
黒子「はい、なんでし、!!」
ギュッ
唐突に、抱き締められた。
黒子「お、お姉様?」
美琴「ま、まあ、これくらいならたまにはいいかと思ってさ。あ、でも、余計なことしたら……」
黒子「……お姉様」スリ
美琴「……ん」ポンポン
――やはり、お姉様の腕の中は暖かかった。
ずっと、誰とも、まともに話さえできなくて。
それでも、やっぱり、この人だけは……。
350: 2010/11/07(日) 12:11:22.92 ID:4jRkrtJDP
黒子「お姉様」
美琴「……ん?」
黒子「わたくし、その、最近、周りとうまくいってなくて」
美琴「……うん」
黒子「その、クラスメイトの方たち、も最初はあんな風ではなくて、でも、その、わたくしが、能力を――」
美琴「……うん」
黒子「能力を、使って、怪我をさせたって、皆に言われて、反論したのですけど、皆……、信じてくれなくて」
美琴「……」ギュッ
黒子「婚后、さんも、佐天、さんも、わたくしを……」
美琴「……」
黒子「最後には、固法先輩と初春も、わ、わたくしのことを、その」
美琴「……ん?」
黒子「わたくし、その、最近、周りとうまくいってなくて」
美琴「……うん」
黒子「その、クラスメイトの方たち、も最初はあんな風ではなくて、でも、その、わたくしが、能力を――」
美琴「……うん」
黒子「能力を、使って、怪我をさせたって、皆に言われて、反論したのですけど、皆……、信じてくれなくて」
美琴「……」ギュッ
黒子「婚后、さんも、佐天、さんも、わたくしを……」
美琴「……」
黒子「最後には、固法先輩と初春も、わ、わたくしのことを、その」
353: 2010/11/07(日) 12:16:08.37 ID:4jRkrtJDP
美琴「……」
黒子「か、勘違い、かもしれないのですけど、スキ…アウトが、知ってて、能力を封じられて、それで……」
美琴「……」
黒子「それで、わ、わたくし」
ポタッ・・・
ああ、まだ泣き足りないのか自分は。
さっき、あれほど泣いたというのに。
抱きすくめられた身体から右手だけを動かして目元を擦り、――そこからまだ、涙が流れていないことに気付く。
自分でなければ、この涙を流しているのはただ一人。
自分の僅か上から零れ落ちる雫が、また頬を打った。
美琴「ずっと……、一人で、我慢してたのね」
黒子「か、勘違い、かもしれないのですけど、スキ…アウトが、知ってて、能力を封じられて、それで……」
美琴「……」
黒子「それで、わ、わたくし」
ポタッ・・・
ああ、まだ泣き足りないのか自分は。
さっき、あれほど泣いたというのに。
抱きすくめられた身体から右手だけを動かして目元を擦り、――そこからまだ、涙が流れていないことに気付く。
自分でなければ、この涙を流しているのはただ一人。
自分の僅か上から零れ落ちる雫が、また頬を打った。
美琴「ずっと……、一人で、我慢してたのね」
360: 2010/11/07(日) 12:20:55.48 ID:4jRkrtJDP
黒子「おねえさ、ま……」
美琴「ばか、ばかばか。一言、言えばいいじゃない。辛いって、言ってくれてもいいじゃない」
黒子「ぐずっ…、す、すみませ、ん」
美琴「……ばか、ばかっ……! 何で、なんで気付いて、あげられなかった、のよ、ばかぁ……」
黒子「……お、おね」
美琴「い、っしょにいたのに、いつも、見てたのに、なんで、わたしはぁ……」
黒子「ち、が、わたく、むぐっ」
ギュゥゥ・・・!
美琴「辛かったよね、苦しかった、よね、ずっと、ずっっと、さみしかった、よね……?」
黒子「おね、ぐずっ、おね、えさまぁぁぁぁ……」
美琴「ごめん……、ごめん、ね、黒子……」
言えなかったと、気付けなかったと自分の非を責め合って。
ずっと、疲れ果てて眠るまで、二人で泣き続けた――。
美琴「ばか、ばかばか。一言、言えばいいじゃない。辛いって、言ってくれてもいいじゃない」
黒子「ぐずっ…、す、すみませ、ん」
美琴「……ばか、ばかっ……! 何で、なんで気付いて、あげられなかった、のよ、ばかぁ……」
黒子「……お、おね」
美琴「い、っしょにいたのに、いつも、見てたのに、なんで、わたしはぁ……」
黒子「ち、が、わたく、むぐっ」
ギュゥゥ・・・!
美琴「辛かったよね、苦しかった、よね、ずっと、ずっっと、さみしかった、よね……?」
黒子「おね、ぐずっ、おね、えさまぁぁぁぁ……」
美琴「ごめん……、ごめん、ね、黒子……」
言えなかったと、気付けなかったと自分の非を責め合って。
ずっと、疲れ果てて眠るまで、二人で泣き続けた――。
368: 2010/11/07(日) 12:24:36.94 ID:4jRkrtJDP
――――――――――
黒子「ん、む……?」
窓から明るい光が差し込んでいることに気が付き目を窄める。
痛む体を起こして脳に覚醒を促す。
黒子「あ……わたくし、は」
だが、久々に深く眠ったようで、うまく頭が働かない。
寝る前に、確か、隣には……。
そうだ。お姉様が――
ガチャ
美琴「……、あ、起きた? おはよ」
372: 2010/11/07(日) 12:27:53.08 ID:4jRkrtJDP
黒子「あ、おはようございまふ……ます」
美琴「ぷっ、くく……、まふ、ってアンタ……」
黒子「っ――!! おはようございますの!」
美琴「ごめん、ごめん。それより朝ごはん食べよ」
黒子「はい、ですの……くっ」
美琴「ほら無理しない。ベッドに座ってて。今、テーブルごと持ってくから」
よっと、なんて言いながら準備を進めてくれる。
だが、壁掛けの時計を見るともう登校時刻を過ぎていた。
美琴「ぷっ、くく……、まふ、ってアンタ……」
黒子「っ――!! おはようございますの!」
美琴「ごめん、ごめん。それより朝ごはん食べよ」
黒子「はい、ですの……くっ」
美琴「ほら無理しない。ベッドに座ってて。今、テーブルごと持ってくから」
よっと、なんて言いながら準備を進めてくれる。
だが、壁掛けの時計を見るともう登校時刻を過ぎていた。
373: 2010/11/07(日) 12:32:49.13 ID:4jRkrtJDP
黒子「お姉様。もう、学校に行きませんと……」
美琴「今日は、創立記念日!」
黒子「……そんなわけないですの、わたくしのことはいいですから」
美琴「じゃあ、自主休学ってことで。それより、ご飯とパンどっちがいい? 一応、おかゆもあるけど」
黒子「もう……、パンでお願いしますわ」
美琴「はいはーい。じゃあ、私はご飯ね。いただきまーす」
黒子「いただきます」
久しぶりの、本当に久しぶりの穏やかな時間。
体の痛みをほとんど感じなくなるほどに、心が温かくなった。
美琴「今日は、創立記念日!」
黒子「……そんなわけないですの、わたくしのことはいいですから」
美琴「じゃあ、自主休学ってことで。それより、ご飯とパンどっちがいい? 一応、おかゆもあるけど」
黒子「もう……、パンでお願いしますわ」
美琴「はいはーい。じゃあ、私はご飯ね。いただきまーす」
黒子「いただきます」
久しぶりの、本当に久しぶりの穏やかな時間。
体の痛みをほとんど感じなくなるほどに、心が温かくなった。
374: 2010/11/07(日) 12:37:03.42 ID:4jRkrtJDP
美琴「さ、お風呂入っちゃいなさい。いい加減気持ち悪いでしょ?」
黒子「ええ、そうさせてもらいますわ。では、お姉様もぜひ一緒に」
美琴「くーろーこー? また、調子に乗って……」
黒子「冗談ですのっ!」
ガチャ バタン!
まったく、お姉様は本当にガードが固い。
こんな時くらい――。
美琴「く、黒子?」
黒子「はい?」
美琴「そ、その、体洗うのとか大変じゃない? その、もし、大変だったら……、一緒に、入っても」
黒子「あ……」
まったく、これだからこの人は――。
黒子「ええ、そうさせてもらいますわ。では、お姉様もぜひ一緒に」
美琴「くーろーこー? また、調子に乗って……」
黒子「冗談ですのっ!」
ガチャ バタン!
まったく、お姉様は本当にガードが固い。
こんな時くらい――。
美琴「く、黒子?」
黒子「はい?」
美琴「そ、その、体洗うのとか大変じゃない? その、もし、大変だったら……、一緒に、入っても」
黒子「あ……」
まったく、これだからこの人は――。
378: 2010/11/07(日) 12:40:56.40 ID:4jRkrtJDP
黒子「あらあら、お姉様ってば一緒に入りたいなら入りたいと言ってくだされば黒子はいつでも」
美琴「ち、違うっての!」
黒子「……大丈夫ですわ。お気遣い感謝しております」
美琴「そ、そう……」
服の下の傷はまだ痛々しい。体は大分動くようになっているのでひどい怪我ではなさそうだが。
とりあえず、シャワーを体に当てると――
黒子「ひぎぃ!」
美琴「ちょ、黒子! 大丈夫!?」
黒子「こ、これは中々強烈ですの……」
疲れをとるための風呂でぐったりと疲れてしまった。
美琴「ち、違うっての!」
黒子「……大丈夫ですわ。お気遣い感謝しております」
美琴「そ、そう……」
服の下の傷はまだ痛々しい。体は大分動くようになっているのでひどい怪我ではなさそうだが。
とりあえず、シャワーを体に当てると――
黒子「ひぎぃ!」
美琴「ちょ、黒子! 大丈夫!?」
黒子「こ、これは中々強烈ですの……」
疲れをとるための風呂でぐったりと疲れてしまった。
388: 2010/11/07(日) 12:49:26.44 ID:4jRkrtJDP
―――― 数日後 ――――
美琴「よし! じゃあ行こっか」
黒子「ええ」
あれから、数日ぶりの登校になる。
制服を着たのも、鞄を持ったのも数日ぶりだ。
美琴「んー、いい天気ね」
黒子「ええ、本当に」
隣には当然のようにお姉様がいる。
さすがに、学校を休んだのは最初の一日だけだが、それ以外はずっと付きっきりでいてくれる。
その学校も、自分が復帰できるまで一緒に休むと言われたことに強く反論してなければ、今日まで休んでいただろう。
390: 2010/11/07(日) 12:53:30.86 ID:4jRkrtJDP
自分は大丈夫だ。もう、誰に何を言われようが気にしない。
お姉様がいる。それだけでいい。
黒子「……」
「……? く…こ?」
美琴「黒子!」
黒子「は、はい。なんですの?」
美琴「もう着いたわよ」
黒子「え? あ……」
言われたとおりいつの間にか、校門間近まで来ていた。
周りには他の生徒も――
黒子「……」ブルッ
美琴「……黒子? その、今日は無理して教室に行かなくてもいいのよ? 勉強は他の所でも……」
黒子「……いえ、大丈夫ですわ」
お姉様がいる。それだけでいい。
黒子「……」
「……? く…こ?」
美琴「黒子!」
黒子「は、はい。なんですの?」
美琴「もう着いたわよ」
黒子「え? あ……」
言われたとおりいつの間にか、校門間近まで来ていた。
周りには他の生徒も――
黒子「……」ブルッ
美琴「……黒子? その、今日は無理して教室に行かなくてもいいのよ? 勉強は他の所でも……」
黒子「……いえ、大丈夫ですわ」
391: 2010/11/07(日) 12:57:40.09 ID:4jRkrtJDP
美琴「……ん、わかった。お昼は一緒に食べるわよ。アンタのとこまで行くから」
黒子「ええ、わかりましたわ」
いつまでも甘えてはいられない。
気持ちを入れ替えて、歩き出す。
―――――――
黒子「……」スーハー
ガラッ
女生徒「……」
やはり、冷たい視線が突き刺さる。
だが、ほんの少しだけ違う感情も混ざっている感じだ。
黒子(落書きは……ありませんわね)
無いとは思っていたが、やはりホッとした。
黒子「ええ、わかりましたわ」
いつまでも甘えてはいられない。
気持ちを入れ替えて、歩き出す。
―――――――
黒子「……」スーハー
ガラッ
女生徒「……」
やはり、冷たい視線が突き刺さる。
だが、ほんの少しだけ違う感情も混ざっている感じだ。
黒子(落書きは……ありませんわね)
無いとは思っていたが、やはりホッとした。
393: 2010/11/07(日) 13:00:48.05 ID:4jRkrtJDP
周りの雰囲気は、どうすればいいのかわからない、と言ったところか。
和解しようと思っている筈はないが、お姉様の件は知れ渡っているのだろう。
もう、こちらに視線を向けていない者も多い。とりあえず、安心できた。
ガラッ
教師「おはよう」
「おはようございます」
教師「白井……、来たのか」
黒子「ええ、ご心配をお掛けしました」
教師「……ああ」
それ以降、特筆すべきことは特になかった。
自分が思っていたよりずっと淡々と時間は過ぎていく。
これならば――、大丈夫そうだ。
和解しようと思っている筈はないが、お姉様の件は知れ渡っているのだろう。
もう、こちらに視線を向けていない者も多い。とりあえず、安心できた。
ガラッ
教師「おはよう」
「おはようございます」
教師「白井……、来たのか」
黒子「ええ、ご心配をお掛けしました」
教師「……ああ」
それ以降、特筆すべきことは特になかった。
自分が思っていたよりずっと淡々と時間は過ぎていく。
これならば――、大丈夫そうだ。
394: 2010/11/07(日) 13:04:17.61 ID:4jRkrtJDP
キーンコーンカーンコーン
教師「それでは、ここまでにします」
黒子「ふぅ……」
これで、午前の授業は終わ――
ガラッ!
美琴「おっす、黒子。来たわよ」
黒子「え、お姉様、はや」
美琴「さ、ほら、もたもたしない」
黒子「え、ひ、引っ張らないでくださいましー」
美琴「お腹減ったなー」
そんな風に連れて行かれ昼食をとった。
昼の間、午前中のことを何も聞かれなかったことに少し驚いたが、雰囲気で察したのかもしれない。
結局、授業が始まるギリギリまでお姉様と一緒にいて、帰りの約束をしてから別れた。
396: 2010/11/07(日) 13:08:56.59 ID:4jRkrtJDP
―――放課後
黒子「お・ね・え・さ・ま!」ダキッ
美琴「おっと、お疲れ。帰ろうか」
黒子「はいですの」
朝と同じように二人で並んで歩き出す。
思っていたよりあっさりと一日が終わった。
再び皆と打ち解けるのは難しいだろうが、普通に生活するぶんには問題ない。
まあ、お姉様がいてくれるだけで十分だし、他は必要ない。
今のまま、過ごしていければそれでいい。
美琴「……」
黒子「お姉様?」
400: 2010/11/07(日) 13:12:57.15 ID:4jRkrtJDP
美琴「え? な、何?」
黒子「いえ、考え事をされているようでしたので……なにかあったんですの?」
美琴「あー、いや、うーんとね」
黒子「?」
お姉様にしては珍しく歯切れが悪い。
なにか、悪いことでもあったのだろうか。
美琴「えーと、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、さ」
黒子「はい、なんでしょう?」
美琴「アンタが言ってたスキルアウトのこと、なんだけど……」
ああ、成程。それで言いにくそうにしていたのか。
黒子「お姉様。気になさらずになんでもお聞きください」
黒子「いえ、考え事をされているようでしたので……なにかあったんですの?」
美琴「あー、いや、うーんとね」
黒子「?」
お姉様にしては珍しく歯切れが悪い。
なにか、悪いことでもあったのだろうか。
美琴「えーと、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、さ」
黒子「はい、なんでしょう?」
美琴「アンタが言ってたスキルアウトのこと、なんだけど……」
ああ、成程。それで言いにくそうにしていたのか。
黒子「お姉様。気になさらずになんでもお聞きください」
401: 2010/11/07(日) 13:16:53.47 ID:4jRkrtJDP
美琴「……うん、ありがと。えっと、そいつらキャパシティダウンを持ってたのよね?」
黒子「ええ。それも、結構な大きさのものでしたわ」
美琴「そっか……」
黒子「お姉様、それがなにか?」
美琴「んー、いや、明日は休みだし、そいつらにちょーっとお礼かましにいこっかなーなんてさ」
黒子「お姉様……、そんなことしていただかなくてよろしいですわ。黒子は十分……」
美琴「いや……、ちょっと気になるのよね」
黒子「……何が、でしょう?」
美琴「キャパシティダウンを手に入れられるくらいの連中ってのがね……、変なことに巻き込まれる前に潰したいのよ」
黒子「しかし、あの連中はごく小規模なグループでしたわ。放っておいても特には……」
美琴「それが気になるのよ。規模の割にキャパシティダウンなんて大層なものを持ってる。なんか……、嫌な感じがしてさ」
黒子「お姉様……」
黒子「ええ。それも、結構な大きさのものでしたわ」
美琴「そっか……」
黒子「お姉様、それがなにか?」
美琴「んー、いや、明日は休みだし、そいつらにちょーっとお礼かましにいこっかなーなんてさ」
黒子「お姉様……、そんなことしていただかなくてよろしいですわ。黒子は十分……」
美琴「いや……、ちょっと気になるのよね」
黒子「……何が、でしょう?」
美琴「キャパシティダウンを手に入れられるくらいの連中ってのがね……、変なことに巻き込まれる前に潰したいのよ」
黒子「しかし、あの連中はごく小規模なグループでしたわ。放っておいても特には……」
美琴「それが気になるのよ。規模の割にキャパシティダウンなんて大層なものを持ってる。なんか……、嫌な感じがしてさ」
黒子「お姉様……」
408: 2010/11/07(日) 13:21:52.51 ID:4jRkrtJDP
確かにそうだ。
よくよく考えれば、初春や固法先輩の手引きがあったとしても、キャパシティダウンなど手に入らない。
もしも、あのグループにキャパシティダウンを手に入れられるだけの「何か」があるとしたら。
そして、その連中が自分たちに何かしてくるとしたら――。
黒子「……」チラッ
美琴「……」
自分はいい。何かしてきたならば撃退するだけだ。
ただ、もしもお姉様に何かしてきたら――。
心配するなど、おこがましい話だ。
お姉様がスキルアウトごときに敗れるなど万に一つもありえない。
だが、問題はそこではない。
自分のことで、お姉様に迷惑をかけることなど――絶対に我慢ならない。
よくよく考えれば、初春や固法先輩の手引きがあったとしても、キャパシティダウンなど手に入らない。
もしも、あのグループにキャパシティダウンを手に入れられるだけの「何か」があるとしたら。
そして、その連中が自分たちに何かしてくるとしたら――。
黒子「……」チラッ
美琴「……」
自分はいい。何かしてきたならば撃退するだけだ。
ただ、もしもお姉様に何かしてきたら――。
心配するなど、おこがましい話だ。
お姉様がスキルアウトごときに敗れるなど万に一つもありえない。
だが、問題はそこではない。
自分のことで、お姉様に迷惑をかけることなど――絶対に我慢ならない。
412: 2010/11/07(日) 13:25:53.14 ID:4jRkrtJDP
黒子「確かに、面倒なことになる可能性は否定できませんわね……」
美琴「でしょ? だから――」
黒子「わかりました。わたくしが行って潰してきます」
美琴「えっ、ちょっとアンタ」
黒子「大丈夫ですの。キャパシティダウンも、あることが分かっていればなんとでもなりますわ」
美琴「アンタ怪我治りきってないでしょうが。いいから私にまかせておきなさい」
黒子「いーえ。お姉様にご迷惑をかけるつもりはありませんの」
美琴「……わかったわよ」
黒子「ええ、それでは」
美琴「んじゃ、一緒に行くならいいわよね?」
黒子「って、お姉様。それでは何の意味も……」
美琴「あ、断っても無駄よ。断ったら私、四六時中アンタを付け回すから」
黒子「……空間移動の能力を持っているわたくしを、追い切れると?」
美琴「あ、それもそうか。なら、勝手に行ったらアンタと絶交する」
美琴「でしょ? だから――」
黒子「わかりました。わたくしが行って潰してきます」
美琴「えっ、ちょっとアンタ」
黒子「大丈夫ですの。キャパシティダウンも、あることが分かっていればなんとでもなりますわ」
美琴「アンタ怪我治りきってないでしょうが。いいから私にまかせておきなさい」
黒子「いーえ。お姉様にご迷惑をかけるつもりはありませんの」
美琴「……わかったわよ」
黒子「ええ、それでは」
美琴「んじゃ、一緒に行くならいいわよね?」
黒子「って、お姉様。それでは何の意味も……」
美琴「あ、断っても無駄よ。断ったら私、四六時中アンタを付け回すから」
黒子「……空間移動の能力を持っているわたくしを、追い切れると?」
美琴「あ、それもそうか。なら、勝手に行ったらアンタと絶交する」
415: 2010/11/07(日) 13:29:50.77 ID:4jRkrtJDP
黒子「!!」
冗談だ。それくらいわかっている。
それでも、その言葉は今の自分には――。
ギュッ
美琴「ごめんね。最低なこと言って」
黒子「あ、お姉様……?」
美琴「でもね、分かってほしい。私はもう二度とアンタに苦しい思いをさせたくない」
黒子「あ……」
美琴「話を出したのは私だけど……、一人で行くなんて言わないで。お願い」
黒子「お姉様……」
そうだ。なんて馬鹿な事を。
今まで、どれだけお姉様に頼ってきたのだ。
それを今更、迷惑をかけたくないなどとは……、この期に及んでまでどれだけ傲慢なのだ自分は。
冗談だ。それくらいわかっている。
それでも、その言葉は今の自分には――。
ギュッ
美琴「ごめんね。最低なこと言って」
黒子「あ、お姉様……?」
美琴「でもね、分かってほしい。私はもう二度とアンタに苦しい思いをさせたくない」
黒子「あ……」
美琴「話を出したのは私だけど……、一人で行くなんて言わないで。お願い」
黒子「お姉様……」
そうだ。なんて馬鹿な事を。
今まで、どれだけお姉様に頼ってきたのだ。
それを今更、迷惑をかけたくないなどとは……、この期に及んでまでどれだけ傲慢なのだ自分は。
418: 2010/11/07(日) 13:34:06.88 ID:4jRkrtJDP
黒子「すみません、お姉様……」
美琴「ううん、謝る必要なんかないわ。こっちこそ――」
黒子「お姉様にこそ、謝る理由などありませんわ。どうか謝らないでくださいまし」
美琴「……ん、わかった」
そういって少しだけ離れる。
黒子「お姉様。わたくしと一緒に来てくださいまし」
美琴「もちろん。黒子と私なら楽勝よ」
黒子「ええ、その通りですわ」
そうだ。お姉様がいてくれれば何の問題もない。
余計な心配事はさっさと潰しておこう。
美琴「ううん、謝る必要なんかないわ。こっちこそ――」
黒子「お姉様にこそ、謝る理由などありませんわ。どうか謝らないでくださいまし」
美琴「……ん、わかった」
そういって少しだけ離れる。
黒子「お姉様。わたくしと一緒に来てくださいまし」
美琴「もちろん。黒子と私なら楽勝よ」
黒子「ええ、その通りですわ」
そうだ。お姉様がいてくれれば何の問題もない。
余計な心配事はさっさと潰しておこう。
419: 2010/11/07(日) 13:37:55.12 ID:4jRkrtJDP
――― 翌日 ―――
美琴「この路地の奥ね……」
黒子「ええ、気をつけてくださいまし」
夕方まで待ってここに来た。
準備を万端に整えて、お姉様を先導してスキルアウトの本拠地に向かう。
少しだけ、心臓の鼓動が速くなる。
嫌な思い出が――
ポン
美琴「黒子……」
後ろにいるお姉様の手が肩に置かれる。
それだけで、嘘のように落ち着いてくる。
今の自分は、一人ではない。
誰よりも頼もしい存在が、一緒にいてくれる――。
426: 2010/11/07(日) 13:42:07.32 ID:4jRkrtJDP
黒子「ありがとうございますの、お姉様。行きましょう」
美琴「オッケー」
そのまま歩いていくと廃屋が見えてきた。
人の気配もある。
黒子(お姉様……)
美琴(ん、ちょっと待って……)
打ち合わせ通りに、お姉様がキャパシティダウンを探知する。
それを、お姉様が壊しに行って、その間に自分は制圧を開始する。
万が一、キャパシティダウンが発動しても、お姉様程の能力なら完全には抑えられない。
照準は合わせられなくても、近くに電気を放つことはできる。
美琴「オッケー」
そのまま歩いていくと廃屋が見えてきた。
人の気配もある。
黒子(お姉様……)
美琴(ん、ちょっと待って……)
打ち合わせ通りに、お姉様がキャパシティダウンを探知する。
それを、お姉様が壊しに行って、その間に自分は制圧を開始する。
万が一、キャパシティダウンが発動しても、お姉様程の能力なら完全には抑えられない。
照準は合わせられなくても、近くに電気を放つことはできる。
429: 2010/11/07(日) 13:46:03.76 ID:4jRkrtJDP
この連中は拳銃の類は持っていなかったし、反撃についても然程心配はない。
そもそも、お姉様の攻撃範囲からすれば、キャパシティダウンが見つかればそれで終わりだ。
後は、全員行動不能にしてアンチスキルに通報したら、立ち去るだけ。
美琴(外……、廃屋の後ろね。室内じゃないみたい)
黒子(ならば、お姉様はそちらに。わたくしは廃屋に向かいますわ)
美琴(私が行くまで絶対に無理はしないのよ。二分もあれば壊せるから)
黒子(ええ、わかっていますわ)
美琴(うし、じゃあ先に行くわ)
スッ タッタッタ
お姉様の背中を見送って、深呼吸をする。
黒子(ふー、よし。行きますの)
そもそも、お姉様の攻撃範囲からすれば、キャパシティダウンが見つかればそれで終わりだ。
後は、全員行動不能にしてアンチスキルに通報したら、立ち去るだけ。
美琴(外……、廃屋の後ろね。室内じゃないみたい)
黒子(ならば、お姉様はそちらに。わたくしは廃屋に向かいますわ)
美琴(私が行くまで絶対に無理はしないのよ。二分もあれば壊せるから)
黒子(ええ、わかっていますわ)
美琴(うし、じゃあ先に行くわ)
スッ タッタッタ
お姉様の背中を見送って、深呼吸をする。
黒子(ふー、よし。行きますの)
432: 2010/11/07(日) 13:50:48.43 ID:4jRkrtJDP
バタン!
黒子「……」
スキルアウトA「なんだぁ? ん? お前……」
スキルアウトB「なんだよ。逃げられたのにまた捕まりに来てくれたのか。嬉しいぜ、さっさと食っとけばよかったって後悔して――」
シュン! ドゴッ
スキルアウトB「がっ!」ドサッ
黒子「黙ってくださいな。野蛮人共」
スキルアウトC「おーおー、随分強気だなぁ。前は床を這いつくばってたっていうのにな」
黒子「ふふ、強気にもなりますわ。あなたたちの切り札はもう……」
スキルアウトA「あ?」
434: 2010/11/07(日) 13:53:58.33 ID:4jRkrtJDP
バタン!
美琴「黒子!」
黒子「お姉様! キャパシティダウンは」
美琴「ええ、ぶっ壊してきたわよ」
よし。これで、もう終わりだ。
黒子「さあ、もう手は無いでしょう? 大人しくしてくださいな――」
スキルアウトA「くくく……」
黒子「何を、笑っているので?」
スキルアウトA「さあな」
まさか、まだ何か策が……?
445: 2010/11/07(日) 13:59:15.54 ID:4jRkrtJDP
いや、ありえない。
たとえ、あったとしても関係ない。
レベル4とレベル5を止められる策などあるはずがない。もう、自分たちの勝ちだ。
黒子「大人しくするつもりは――、無いんですのね?」
スキルアウトA「くっくっく……」
黒子「ならば、痛い目を見ていただきますわ」
そう宣言して、テレポートを――
バチバチィ!
黒子「…………え?」ドサ
たとえ、あったとしても関係ない。
レベル4とレベル5を止められる策などあるはずがない。もう、自分たちの勝ちだ。
黒子「大人しくするつもりは――、無いんですのね?」
スキルアウトA「くっくっく……」
黒子「ならば、痛い目を見ていただきますわ」
そう宣言して、テレポートを――
バチバチィ!
黒子「…………え?」ドサ
465: 2010/11/07(日) 14:03:56.89 ID:4jRkrtJDP
電流が走った。自分の体に。
状況がわからない。
能力者? いや、誰かが能力を使ったのは確認できなかった。
――違う
状況がわからないはずがない。
目の前にいるのはスキルアウト。能力を持っている可能性は低い
――違う
能力を使ったのが見えなかったのは、見えない場所から能力を使われたからだ。
見えない場所。そう、死角から。
――違う、違う!
死角から能力を受けただけだ。――電気系の能力を。
ただ、それだけのこと。
――ち、がう
この電撃の、力強さ、痛み、痺れ。
わからないはずがない。だって――。
自分は世界で二番目にこの能力をよく知っている。
状況がわからない。
能力者? いや、誰かが能力を使ったのは確認できなかった。
――違う
状況がわからないはずがない。
目の前にいるのはスキルアウト。能力を持っている可能性は低い
――違う
能力を使ったのが見えなかったのは、見えない場所から能力を使われたからだ。
見えない場所。そう、死角から。
――違う、違う!
死角から能力を受けただけだ。――電気系の能力を。
ただ、それだけのこと。
――ち、がう
この電撃の、力強さ、痛み、痺れ。
わからないはずがない。だって――。
自分は世界で二番目にこの能力をよく知っている。
470: 2010/11/07(日) 14:08:10.95 ID:4jRkrtJDP
美琴「……」バチバチバチ
黒子「あ、が……」
美琴「ったく、なに易々と逃げられてんのよ。使えないわね」
スキルアウトA「……ああ、すまねえな」
黒子「なに、が……?」
美琴「ヘッドホンつけられるキャパシティダウンあったでしょ。持ってきなさい」
スキルアウトC「お、おう。わかった」
状況が、わからない。
何故、お姉様とスキルアウトが会話を……?
黒子「……お、おねえ」
美琴「よっと」バチィ
黒子「がっ! あ…あ」
黒子「あ、が……」
美琴「ったく、なに易々と逃げられてんのよ。使えないわね」
スキルアウトA「……ああ、すまねえな」
黒子「なに、が……?」
美琴「ヘッドホンつけられるキャパシティダウンあったでしょ。持ってきなさい」
スキルアウトC「お、おう。わかった」
状況が、わからない。
何故、お姉様とスキルアウトが会話を……?
黒子「……お、おねえ」
美琴「よっと」バチィ
黒子「がっ! あ…あ」
482: 2010/11/07(日) 14:11:58.98 ID:4jRkrtJDP
美琴「黒子、どうかしたの? きったない顔しちゃってさぁ」
黒子「……おね、え、さま、なんで」
美琴「なんで、ねえ……。ま、アンタに分かるわけないか」
美琴「仕方ないから、最初から答えをあげるわ」
黒子「こた……?」
美琴「そ。簡単に言うと、アンタが最近苦しんでたの全部私が原因」
わからない。お姉様の言ってることが――。
苦しんでたのが、全部……?
美琴「もっと直接的に言うと、アンタが周りから嫌われてたことがね」
な、に? 違う、そんなはずがない。
いや、そんなことはありえない。
黒子「……おね、え、さま、なんで」
美琴「なんで、ねえ……。ま、アンタに分かるわけないか」
美琴「仕方ないから、最初から答えをあげるわ」
黒子「こた……?」
美琴「そ。簡単に言うと、アンタが最近苦しんでたの全部私が原因」
わからない。お姉様の言ってることが――。
苦しんでたのが、全部……?
美琴「もっと直接的に言うと、アンタが周りから嫌われてたことがね」
な、に? 違う、そんなはずがない。
いや、そんなことはありえない。
487: 2010/11/07(日) 14:16:05.42 ID:4jRkrtJDP
黒子「…そ、なこと、できる、はずが……」
美琴「なによー、酷いこと言うわねー」ビリィ
黒子「が……は」
美琴「ま、確かにアンタの言う通り私にはそんなことはできない」
当たり前だ。この状況が一人によって作り出されたものだなんてことがあるはずが……。
美琴「んじゃー、キーワード。教えてあげる」
黒子「きー……?」
そう言って、お姉様は耳元に口を近づけて、一言だけ呟いた。
『心理掌握』
美琴「なによー、酷いこと言うわねー」ビリィ
黒子「が……は」
美琴「ま、確かにアンタの言う通り私にはそんなことはできない」
当たり前だ。この状況が一人によって作り出されたものだなんてことがあるはずが……。
美琴「んじゃー、キーワード。教えてあげる」
黒子「きー……?」
そう言って、お姉様は耳元に口を近づけて、一言だけ呟いた。
『心理掌握』
493: 2010/11/07(日) 14:20:57.26 ID:4jRkrtJDP
ドクン!
黒子「あ……、ああ!!」
脳の一部が覚醒する。
無理矢理閉められた扉が開け放たれる。
心理掌握。常盤台のもう一人のレベル5。
能力は……学園都市最高の精神能力者。
黒子「あ……」
美琴「わかった? 女王サマにちょっと協力してもらったってわけよ」
スキルアウトC「お、おい、持ってきたぜ」
501: 2010/11/07(日) 14:25:04.11 ID:4jRkrtJDP
美琴「ん」
美琴「よし、じゃあ最後に」
バチバチバチィ!
黒子「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!! あ、あ……」ピクピク
スチャ
美琴「さて、あんたら好きにしちゃっていいわよ。二日は動けないはずだから」
スキルアウトC「おい! 起きろ!」
スキルアウトB「……いてて」
美琴「アンタ、こいつみたいなの好みなんでしょ。お好きにどうぞ」
美琴「よし、じゃあ最後に」
バチバチバチィ!
黒子「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!! あ、あ……」ピクピク
スチャ
美琴「さて、あんたら好きにしちゃっていいわよ。二日は動けないはずだから」
スキルアウトC「おい! 起きろ!」
スキルアウトB「……いてて」
美琴「アンタ、こいつみたいなの好みなんでしょ。お好きにどうぞ」
506: 2010/11/07(日) 14:29:52.91 ID:4jRkrtJDP
スキルアウトB「……ああ、ありがとよ。さっそく、好きにさせてもらう、ぜっ!」
ドゴッ!
スキルアウトB「こんの、くそアマがぁ!! ふざけやがって!」ボゴッ ボゴ
黒子「……、が」ピク
スキルアウトB「はぁ、はぁ。さぁーて、いただくとしますかね」カチャカチャ
黒子「……で」
美琴「……? ちょっと待ちなさい」
スキルアウトB「あ? 何言って」
美琴「待て、って言ったのよ」バチィ
スキルアウトB「っ!! あ、す、すまん」
美琴「なんか言った?」
黒子「……、なん、で……」
ドゴッ!
スキルアウトB「こんの、くそアマがぁ!! ふざけやがって!」ボゴッ ボゴ
黒子「……、が」ピク
スキルアウトB「はぁ、はぁ。さぁーて、いただくとしますかね」カチャカチャ
黒子「……で」
美琴「……? ちょっと待ちなさい」
スキルアウトB「あ? 何言って」
美琴「待て、って言ったのよ」バチィ
スキルアウトB「っ!! あ、す、すまん」
美琴「なんか言った?」
黒子「……、なん、で……」
513: 2010/11/07(日) 14:34:13.92 ID:4jRkrtJDP
美琴「ああ、理由か。そうね。知りたいわよね。つっても、アンタはもう知ってるわよ」
黒子「……え」
美琴「誰かに言われたの、覚えてるでしょ? 私がこんなことしたのはね……」
美琴「アンタのこと、 大 嫌 い だから。鬱陶しくて、面倒で、気持ち悪くて、顔も見たくなくなったからよ。わかった?」
黒子「あ、あ、あ…」
美琴「さて、帰るわ。じゃあね」
スキルアウトA「お、おい! 金は……」
美琴「ん、ああ、わかってる。明日振り込んでおくわ。あと、終わったら教えた番号に掛けなさいよ。回収してくれるから」
スキルアウトA「お、おう。わかった」
――そして、御坂美琴はこの場から去り
意識を 失った
黒子「……え」
美琴「誰かに言われたの、覚えてるでしょ? 私がこんなことしたのはね……」
美琴「アンタのこと、 大 嫌 い だから。鬱陶しくて、面倒で、気持ち悪くて、顔も見たくなくなったからよ。わかった?」
黒子「あ、あ、あ…」
美琴「さて、帰るわ。じゃあね」
スキルアウトA「お、おい! 金は……」
美琴「ん、ああ、わかってる。明日振り込んでおくわ。あと、終わったら教えた番号に掛けなさいよ。回収してくれるから」
スキルアウトA「お、おう。わかった」
――そして、御坂美琴はこの場から去り
意識を 失った
521: 2010/11/07(日) 14:37:49.69 ID:4jRkrtJDP
―――― 数日後 ――――
美琴「――ええ、本当に感謝しています」
??「いえ、お互いにとっていい取引でしたわ」
美琴「……そう言ってもらえれば幸いです」
相変わらず、息が詰まる。
黒子の件がなければ話したくはない人物だ。
常盤台のもう一人のレベル5。「心理掌握」
526: 2010/11/07(日) 14:41:58.00 ID:4jRkrtJDP
心理掌握「けれど、御坂さんも酷い人ですわね。慕っていた後輩に、あんな仕打ちをなさるなんて」
美琴「……」
心理掌握「ふふっ、わたくしが言えたことではないですよね。すみません」
美琴「いえ……」
心理掌握「そうそう、事後処理の方でしたが……」
自然と唇を噛んでしまう。
これ以上の借りは作りたくないのだが……。
心理掌握「『回収』は滞りなく終えました。ついでに、あの方達の記憶を少し乱しておきました。これで、今回の件が表に出ることはないでしょう。」
心理掌握「まあ、スキルアウト風情が常盤台のレベル5との繋がりを示唆しても、信じる人などいないでしょうが」
美琴「……ありがとうございます。よろしければ私のほうからも、何か対価を……」
心理掌握「いえいえ。この件に蓋をしたいのはわたくしも同じです。それに、対価ならばもう充分戴いてますわ」
美琴「……」
心理掌握「ふふっ、わたくしが言えたことではないですよね。すみません」
美琴「いえ……」
心理掌握「そうそう、事後処理の方でしたが……」
自然と唇を噛んでしまう。
これ以上の借りは作りたくないのだが……。
心理掌握「『回収』は滞りなく終えました。ついでに、あの方達の記憶を少し乱しておきました。これで、今回の件が表に出ることはないでしょう。」
心理掌握「まあ、スキルアウト風情が常盤台のレベル5との繋がりを示唆しても、信じる人などいないでしょうが」
美琴「……ありがとうございます。よろしければ私のほうからも、何か対価を……」
心理掌握「いえいえ。この件に蓋をしたいのはわたくしも同じです。それに、対価ならばもう充分戴いてますわ」
530: 2010/11/07(日) 14:45:38.02 ID:4jRkrtJDP
バサッ
様々な書類が合わさって出来た束で、わざとらしく音を立てている。
私が、この数週間で上げた成果だ。
心理掌握「各能力実験における成果や、能力に関する様々な論文など。さすが御坂さん。この短期間で得た物とは思えませんわ」
美琴「……恐縮です」
今回、支払ったのはそれらの手柄。
私が上げた成果を心理掌握の派閥が上げた成果にしたというわけだ。
私にとっては大した意味をなさないが、組織を大きくしていくのに必ず必要となる名声が得られる。
これで、満足してくれればいいのだが……。
心理掌握「……」
美琴「どう、なさいましたか?」
540: 2010/11/07(日) 14:49:56.48 ID:4jRkrtJDP
心理掌握「やはり、御坂さんの御力をわたくしの派閥にこれからも生かしていただきたいと思うのですが……、いかがでしょう?」
……やっぱり、そうくるか。
心理掌握「貴女が手を貸してくだされば、この派閥は類を見ないほどの大きなものになりますわ」
心理掌握「わたくしより上位の能力者である貴女を下に置くつもりはありません。わたくしと同等の地位を用意します」
美琴「私に、そのような価値は……」
心理掌握「いえ、わたくしの派閥内にも貴女に敬意を示す方は大勢いらっしゃいます。……ちょっと嫉妬してしまうほどに」クスクス
心理掌握「富や名声等、手に入らぬものはありませんわ。きっと、貴女を満足させるにふさわしい組織が……」
美琴「……」
心理掌握「……今回も、色よい返事は戴けそうにありませんね」
美琴「……申し訳ありません。私は……」
心理掌握「いえ。そんな御坂さんだから皆さんが慕うのでしょう」
……やっぱり、そうくるか。
心理掌握「貴女が手を貸してくだされば、この派閥は類を見ないほどの大きなものになりますわ」
心理掌握「わたくしより上位の能力者である貴女を下に置くつもりはありません。わたくしと同等の地位を用意します」
美琴「私に、そのような価値は……」
心理掌握「いえ、わたくしの派閥内にも貴女に敬意を示す方は大勢いらっしゃいます。……ちょっと嫉妬してしまうほどに」クスクス
心理掌握「富や名声等、手に入らぬものはありませんわ。きっと、貴女を満足させるにふさわしい組織が……」
美琴「……」
心理掌握「……今回も、色よい返事は戴けそうにありませんね」
美琴「……申し訳ありません。私は……」
心理掌握「いえ。そんな御坂さんだから皆さんが慕うのでしょう」
542: 2010/11/07(日) 14:54:22.21 ID:4jRkrtJDP
とりあえず今回は、といったところか。
これからも、事あるごとにこういった誘いがあるのだろう。
……高くついてしまったか。
心理掌握「それと、皆さんにかけた能力ですが、とりあえずこのままにしておくことにしました」
美琴「このままに……ですか?」
心理掌握「ええ、特に問題はないと判断しました。おそらくは、各々で折り合いをつけていただくことになるでしょう」
美琴「……なるほど」
心理掌握「なにぶん、単一的な思考改竄とはいえ、百人以上に能力を使うなどあまりなかったので。問題があればその都度ということに」
美琴「……」ゴソゴソ
心理掌握「ここまで大規模に能力を使ったのも御坂さんの頼みだからこそで……、……どうされました?」
美琴「こちらを、お受け取りください」
これからも、事あるごとにこういった誘いがあるのだろう。
……高くついてしまったか。
心理掌握「それと、皆さんにかけた能力ですが、とりあえずこのままにしておくことにしました」
美琴「このままに……ですか?」
心理掌握「ええ、特に問題はないと判断しました。おそらくは、各々で折り合いをつけていただくことになるでしょう」
美琴「……なるほど」
心理掌握「なにぶん、単一的な思考改竄とはいえ、百人以上に能力を使うなどあまりなかったので。問題があればその都度ということに」
美琴「……」ゴソゴソ
心理掌握「ここまで大規模に能力を使ったのも御坂さんの頼みだからこそで……、……どうされました?」
美琴「こちらを、お受け取りください」
548: 2010/11/07(日) 14:58:17.23 ID:4jRkrtJDP
また、書類の束を差し出す。
心理掌握「これは……、能力実験の報酬、ですか? これをわたくしたちに?」
美琴「ええ」
キャパシティダウンを買ったお金を除いて、全ての報酬を渡す。
できる限り、借りを作らないように渡せるものは渡しておく。
言外に、尻尾を振るつもりはないという意思を込めて。
書類を受け取った一瞬、表情を無くしたが、すぐに笑顔に戻った。
心理掌握「……ありがたいですわ。資金はいくらあっても困りませんもの」
意図は伝わったようだ。一つ息をついて、話題が移る。
心理掌握「そういえば、今回のことでわたくしの能力に関してもいくつか分かったことがありますのよ」
美琴「……なんでしょう?」
あまり興味はないが、延々と勧誘を続けられるよりはましだ。
心理掌握「これは……、能力実験の報酬、ですか? これをわたくしたちに?」
美琴「ええ」
キャパシティダウンを買ったお金を除いて、全ての報酬を渡す。
できる限り、借りを作らないように渡せるものは渡しておく。
言外に、尻尾を振るつもりはないという意思を込めて。
書類を受け取った一瞬、表情を無くしたが、すぐに笑顔に戻った。
心理掌握「……ありがたいですわ。資金はいくらあっても困りませんもの」
意図は伝わったようだ。一つ息をついて、話題が移る。
心理掌握「そういえば、今回のことでわたくしの能力に関してもいくつか分かったことがありますのよ」
美琴「……なんでしょう?」
あまり興味はないが、延々と勧誘を続けられるよりはましだ。
550: 2010/11/07(日) 15:01:47.56 ID:4jRkrtJDP
心理掌握「今回のようにある人物を嫌うように操作した場合、元々対象と親しい人には少々効果が薄いということはお話しましたよね」
美琴「ええ」
そのお陰で、面倒なことをしたのだ。忘れるはずがない。
心理掌握「ただ、例外もあるようでして……」
美琴「例外?」
心理掌握「ええ。思考を操作する方に、対象に対してなんらかの負の感情があると、それに絡めることで効果が大きくなります」
美琴「最初、私に指示した行為と同じように……ですか」
心理掌握「ええ。理解が早くて助かります」
今回のことを実行する下準備として、下級生を中心に、私が黒子を疎ましがっているという話を仄めかしてほしいと頼まれた。
派閥の生徒も協力して噂を広めてくれたらしい。噂、といっても内容は真実だが。
美琴「ええ」
そのお陰で、面倒なことをしたのだ。忘れるはずがない。
心理掌握「ただ、例外もあるようでして……」
美琴「例外?」
心理掌握「ええ。思考を操作する方に、対象に対してなんらかの負の感情があると、それに絡めることで効果が大きくなります」
美琴「最初、私に指示した行為と同じように……ですか」
心理掌握「ええ。理解が早くて助かります」
今回のことを実行する下準備として、下級生を中心に、私が黒子を疎ましがっているという話を仄めかしてほしいと頼まれた。
派閥の生徒も協力して噂を広めてくれたらしい。噂、といっても内容は真実だが。
552: 2010/11/07(日) 15:05:34.20 ID:4jRkrtJDP
心理掌握「あの行動は、御坂さんの人望を有効利用して、思考を改竄を楽に、且つ強力にするのに役立ちました」
心理掌握「それと似た効果を確認できた方が、あの第一七七支部にいたのです。お名前は……忘れてしまいましたが」
負の感情、か。
嫌悪するまでには至らなくても、悪感情を抱くことくらいある。
ただ、初春さんや固法先輩のどこに……
美琴(……あ)
そういえばあの時、あの場所にはもう一人いた。
人との差異に悩んだ少女が。
美琴(なるほどね……。嫉妬か。ま、コイツが無理に引っ張りだしたんだろうけど――、っとだめだめ)
余計な事を考えるべきではない。
思考を読まれて機嫌を悪くされても面倒だ。
心理掌握「それと似た効果を確認できた方が、あの第一七七支部にいたのです。お名前は……忘れてしまいましたが」
負の感情、か。
嫌悪するまでには至らなくても、悪感情を抱くことくらいある。
ただ、初春さんや固法先輩のどこに……
美琴(……あ)
そういえばあの時、あの場所にはもう一人いた。
人との差異に悩んだ少女が。
美琴(なるほどね……。嫉妬か。ま、コイツが無理に引っ張りだしたんだろうけど――、っとだめだめ)
余計な事を考えるべきではない。
思考を読まれて機嫌を悪くされても面倒だ。
555: 2010/11/07(日) 15:09:09.00 ID:4jRkrtJDP
心理掌握「すみません。あまり面白くない話でしたね」
美琴「いえ、興味深いお話でした。……そろそろ、私は」
心理掌握「そうですか、わかりました。外にいる者に送らせます。お気をつけて」
一瞬、なんとなく嫌な感じがした。
おそらく、能力で送れと伝えたのだろう。
美琴「なにからなにまで、お心遣い感謝します」
女王サマに背を向けて歩き出す。
と、そこで声を掛けられた。
心理掌握「御坂さん」
美琴「……なんでしょうか」
心理掌握「どうか、派閥入りの件考えておいて下さい。わたくしたち皆、貴女と共に歩みたいと思っていますのよ」
美琴「……失礼します」
心理掌握「……ええ」
心理掌握「……」クス
美琴「いえ、興味深いお話でした。……そろそろ、私は」
心理掌握「そうですか、わかりました。外にいる者に送らせます。お気をつけて」
一瞬、なんとなく嫌な感じがした。
おそらく、能力で送れと伝えたのだろう。
美琴「なにからなにまで、お心遣い感謝します」
女王サマに背を向けて歩き出す。
と、そこで声を掛けられた。
心理掌握「御坂さん」
美琴「……なんでしょうか」
心理掌握「どうか、派閥入りの件考えておいて下さい。わたくしたち皆、貴女と共に歩みたいと思っていますのよ」
美琴「……失礼します」
心理掌握「……ええ」
心理掌握「……」クス
560: 2010/11/07(日) 15:13:13.80 ID:4jRkrtJDP
―――――――――
美琴(はぁ……、疲れた)
探り合いのような関係は面倒だ
しかし、こっちの頼みを受けてもらったからには今後、無視していくわけにもいかないだろう。
つくづく、高い買い物になった。
美琴(……ま、いいか)
終わったことをグチグチ行っても仕方ない。
それより、今日はこれから――。
女生徒A「あ、あのっ、御坂様」
美琴「ん? なにかしら」
隣の人の存在を忘れていた。
心理掌握の派閥の一員だ。
564: 2010/11/07(日) 15:17:18.79 ID:4jRkrtJDP
美琴(ああ……、そういえばこの子)
女生徒A「あのっ、せ、先日は、私、御坂様の……」
美琴「Aさん。この前は、貴女に酷いこと言っちゃったわね。ごめんなさい」ペコリ
女生徒A「不興を……、え? み、御坂様! わたくしなどに頭を下げるなど、お止めください!」
美琴「ううん、事情が分からなかったとはいえ、あんなこと言ったんだもの。謝らなきゃだめだわ」
女生徒A「そ、そんな、どうか頭を上げてくださいまし! わたくしは全然気にしておりませんの!」
美琴「……そっか。ありがとうね」
女生徒A「い、いえ、御坂様。どうかお気になさらないでください」
美琴「ほんとにありがとう。もし、貴女さえよければこれからも仲良くしてもらえないかな?」
女生徒A「あ……、 わ、わたくしでよければ是非とも! 望外の喜びですわ!」
美琴「うん、よろしくね。あ、ここまででいいわ」
女生徒A「はい! お気をつけてくださいまし」
女生徒A「あのっ、せ、先日は、私、御坂様の……」
美琴「Aさん。この前は、貴女に酷いこと言っちゃったわね。ごめんなさい」ペコリ
女生徒A「不興を……、え? み、御坂様! わたくしなどに頭を下げるなど、お止めください!」
美琴「ううん、事情が分からなかったとはいえ、あんなこと言ったんだもの。謝らなきゃだめだわ」
女生徒A「そ、そんな、どうか頭を上げてくださいまし! わたくしは全然気にしておりませんの!」
美琴「……そっか。ありがとうね」
女生徒A「い、いえ、御坂様。どうかお気になさらないでください」
美琴「ほんとにありがとう。もし、貴女さえよければこれからも仲良くしてもらえないかな?」
女生徒A「あ……、 わ、わたくしでよければ是非とも! 望外の喜びですわ!」
美琴「うん、よろしくね。あ、ここまででいいわ」
女生徒A「はい! お気をつけてくださいまし」
571: 2010/11/07(日) 15:20:54.66 ID:4jRkrtJDP
美琴「ふぅ……」
面会は意外と早く済んだ。
本命の用事までは、まだ時間が――。
ブゥーン ブゥーン
携帯が着信を伝える。
美琴(初春さん……)
ピッ
美琴「もしもし?」
初春「あ、御坂さん。こんにちは。お時間……大丈夫でしたか?」
美琴「うん、平気よ。どうかした?」
575: 2010/11/07(日) 15:23:50.70 ID:4jRkrtJDP
初春「あ、その用事ってわけじゃなくて、ちょっとお話したいなぁって……」
美琴「黒子の、こと?」
初春「……はい」
美琴「……辛い?」
初春「……いいえ。私も白井さんのことは許せません。でも、なんて言うか……」
美琴「折り合いをつけるのは難しいわよね。黒子と初春さんは……」
初春「……はい。尊敬していた、人ですから」
していた、か。
本当にあの人の能力は厄介だ、と実感した。
美琴「黒子の、こと?」
初春「……はい」
美琴「……辛い?」
初春「……いいえ。私も白井さんのことは許せません。でも、なんて言うか……」
美琴「折り合いをつけるのは難しいわよね。黒子と初春さんは……」
初春「……はい。尊敬していた、人ですから」
していた、か。
本当にあの人の能力は厄介だ、と実感した。
581: 2010/11/07(日) 15:27:22.53 ID:4jRkrtJDP
美琴「それより、外での黒子の監視、ありがとね」
初春「いえ、私が役に立てたならよかったです。……あの」
美琴「ん?」
初春「白井さんは、……もう戻ってこないんでしょうか?」
美琴「……常盤台での件が問題視されて改善の余地なしと見なされた上、ご両親も家に戻らせることを希望したらしいわ。多分……」
初春「そう、ですよね……。すみません、変なこと聞いて……」
美琴「……」
初春「あ! そのですね、他に要件ありました。少し前に御坂さんのお友達連れてきてくれたじゃないですか?」
美琴「え、あ、ああ、そんなこともあった、わね……」
初春「よく考えれば名前もお聞きしてなかったんですよー。あの人にまた会いたいです!」
初春「いえ、私が役に立てたならよかったです。……あの」
美琴「ん?」
初春「白井さんは、……もう戻ってこないんでしょうか?」
美琴「……常盤台での件が問題視されて改善の余地なしと見なされた上、ご両親も家に戻らせることを希望したらしいわ。多分……」
初春「そう、ですよね……。すみません、変なこと聞いて……」
美琴「……」
初春「あ! そのですね、他に要件ありました。少し前に御坂さんのお友達連れてきてくれたじゃないですか?」
美琴「え、あ、ああ、そんなこともあった、わね……」
初春「よく考えれば名前もお聞きしてなかったんですよー。あの人にまた会いたいです!」
586: 2010/11/07(日) 15:30:14.36 ID:4jRkrtJDP
美琴「あ、あはは。あの人、ほら、忙しいから……」
初春「ああ、あの溢れるお嬢様オーラ! まさに、ザ・お嬢様! って感じです!」
美琴「う、うん。じゃあ、また機会があれば……」
初春「はい! 是非お願いします!!」
美琴「う、うん。またね~……」
美琴(はぁ……)
また、面倒事を抱えてしまった。
まあ、心理掌握との件に比べればましか。
というかむしろこれも心理掌握の件、とまとめられるものだし。
美琴(ま、せっかくこれから楽しいことがあるんだから、ひとまず忘れよう!)
タッタッタ
電話で予想以上に時間をくった事に気付いて駆け足で目的地に向かう。
初春「ああ、あの溢れるお嬢様オーラ! まさに、ザ・お嬢様! って感じです!」
美琴「う、うん。じゃあ、また機会があれば……」
初春「はい! 是非お願いします!!」
美琴「う、うん。またね~……」
美琴(はぁ……)
また、面倒事を抱えてしまった。
まあ、心理掌握との件に比べればましか。
というかむしろこれも心理掌握の件、とまとめられるものだし。
美琴(ま、せっかくこれから楽しいことがあるんだから、ひとまず忘れよう!)
タッタッタ
電話で予想以上に時間をくった事に気付いて駆け足で目的地に向かう。
589: 2010/11/07(日) 15:34:12.14 ID:4jRkrtJDP
美琴(嫌い、か……)
美琴(なんで、あそこまで嫌いになったんだっけな……)
美琴(鬱陶しいとか、気持ち悪いとか……いろいろ)
美琴(……)
美琴(……ま、いっか。嫌いなものはしょうがないわよね)
タッタッタ
美琴(あ、そうだ。黒子? 私、アンタに一つだけ感謝してるのよ)
―――――――――――
美琴(おっ……、時間前なのに来てる。やば……緊張してきた)
美琴「お、おっす」
上条「ん、ああ。来たか」
美琴「う、うん。その、今日はありがと、ね……」
上条「いや、これくらいなんでもないさ。さ、どこに遊びに行く?」
美琴「あ、うーんと。そうね……」
美琴(なんで、あそこまで嫌いになったんだっけな……)
美琴(鬱陶しいとか、気持ち悪いとか……いろいろ)
美琴(……)
美琴(……ま、いっか。嫌いなものはしょうがないわよね)
タッタッタ
美琴(あ、そうだ。黒子? 私、アンタに一つだけ感謝してるのよ)
―――――――――――
美琴(おっ……、時間前なのに来てる。やば……緊張してきた)
美琴「お、おっす」
上条「ん、ああ。来たか」
美琴「う、うん。その、今日はありがと、ね……」
上条「いや、これくらいなんでもないさ。さ、どこに遊びに行く?」
美琴「あ、うーんと。そうね……」
597: 2010/11/07(日) 15:40:08.34 ID:4jRkrtJDP
―――― 少し前 ――――
ブゥーン ブゥーン
美琴(電話? 誰が……、!!)
美琴「……」スーハー
ピッ
美琴「も、もしもし」
上条「御坂。今ちょっといいか?」
美琴「う、うん。ど、どうかしたの……?」
上条「いや、実は今白井に会ったんだけどさ、その、なんつーか様子が……」
美琴(あ……、ちっ)
美琴「……それで?」
602: 2010/11/07(日) 15:44:45.07 ID:4jRkrtJDP
上条「本人は何でも無いって言ってたんだけど……、なんか気になっちまって、さ」
美琴(話は聞いてないか……、なら)
美琴「三十分後に、いつもの公園に来れる?」
上条「ああ、行くよ」
美琴「ん、じゃあ後で」
ピッ
ピッ ポチポチ
プルルルル
初春「もしもし」
美琴「あ、初春さん? 今、黒子が何してるか分かる?」
美琴(話は聞いてないか……、なら)
美琴「三十分後に、いつもの公園に来れる?」
上条「ああ、行くよ」
美琴「ん、じゃあ後で」
ピッ
ピッ ポチポチ
プルルルル
初春「もしもし」
美琴「あ、初春さん? 今、黒子が何してるか分かる?」
603: 2010/11/07(日) 15:50:00.87 ID:4jRkrtJDP
初春「あ、はい。○○公園にいます。さっきまで高校生くらいの男の人とお話してました」
美琴「ごめん。今からそっち行くから、その映像見れるようにしておいてくれないかしら」
初春「? はい、わかりました」
美琴「お願いね」
ピッ
美琴(まったく……)
普段は目の敵にしているくせにこんな時だけ……。
できれば、あの手段は使いたくない。通じる通じないの問題ではなく。
一応、言い訳は用意しているが、できればもっと効果的な――。
美琴「ごめん。今からそっち行くから、その映像見れるようにしておいてくれないかしら」
初春「? はい、わかりました」
美琴「お願いね」
ピッ
美琴(まったく……)
普段は目の敵にしているくせにこんな時だけ……。
できれば、あの手段は使いたくない。通じる通じないの問題ではなく。
一応、言い訳は用意しているが、できればもっと効果的な――。
605: 2010/11/07(日) 15:54:09.89 ID:4jRkrtJDP
――――――――
美琴(こういう時は早いのね……)
美琴「ごめん、遅れちゃって」
上条「いや、いいよ」
美琴「……そこ、すわろっか」
上条「……ああ」
こっちの雰囲気から、楽しい話では無いことを感じ取ったのか神妙な面持ちだ。
美琴「黒子が元気無い理由、だったわね……」
上条「……ああ」
美琴「先に聞いておきたいんだけど……、聞いて欲しくない、って言ったら納得してくれる?」
611: 2010/11/07(日) 15:58:37.61 ID:4jRkrtJDP
上条「……いや、多分、無理だ」
美琴「……ま、アンタはそういう奴よね」
上条「……すまん」
美琴「ううん。ありがとう、黒子を心配してくれて。じゃあ、話すけど――、絶対他の人には言わないこと。いいわね?」
上条「わかった」
・
・
・
美琴「――、これで、全部」
上条「ウソ、だろ……? 白井が、スキルアウトに……?」
美琴「その、スキルアウトたちはキャパシティダウンっていう、装置を持ってて、それで、黒子の能力を、封じて、それ、から……」
ガッ、っと肩を掴まれる。
上条「いい、もういい。すまねえ……御坂」
御坂「……ううん」
美琴「……ま、アンタはそういう奴よね」
上条「……すまん」
美琴「ううん。ありがとう、黒子を心配してくれて。じゃあ、話すけど――、絶対他の人には言わないこと。いいわね?」
上条「わかった」
・
・
・
美琴「――、これで、全部」
上条「ウソ、だろ……? 白井が、スキルアウトに……?」
美琴「その、スキルアウトたちはキャパシティダウンっていう、装置を持ってて、それで、黒子の能力を、封じて、それ、から……」
ガッ、っと肩を掴まれる。
上条「いい、もういい。すまねえ……御坂」
御坂「……ううん」
613: 2010/11/07(日) 16:02:06.60 ID:4jRkrtJDP
上条「……くそっ、ちくしょう!」
話を聞き終えたこいつは、髪をガシガシかいて悔しがっている。
本当に、心の底から――
上条「……御坂」
美琴「……なに?」
上条「すまん。お前にも嫌な思いさせちまった。せっかく忠告してくれたのに――」
美琴「ううん、いいの。――それに、謝るのは私のほう」
上条「……?」
美琴「だって私、心配してくれてるアンタに、これから最低なこと言うから」
話を聞き終えたこいつは、髪をガシガシかいて悔しがっている。
本当に、心の底から――
上条「……御坂」
美琴「……なに?」
上条「すまん。お前にも嫌な思いさせちまった。せっかく忠告してくれたのに――」
美琴「ううん、いいの。――それに、謝るのは私のほう」
上条「……?」
美琴「だって私、心配してくれてるアンタに、これから最低なこと言うから」
619: 2010/11/07(日) 16:05:23.95 ID:4jRkrtJDP
上条「最低なこと……?」
美琴「……今、アンタさ、何か黒子のためにできないか、って考えてない?」
上条「……ああ、俺に何かできれば――」
美琴「アンタにできること、一つだけあるの」
上条「! ほんとか!?」
美琴「うん。あのね、アンタにお願いしたいことは――」
美琴「……黒子に、しばらく近づかないであげてほしいの」
上条「そ、それって……」
美琴「……あんなことがあったから、やっぱりその、男が、……怖いみたいなの」
上条「……」
美琴「……今、アンタさ、何か黒子のためにできないか、って考えてない?」
上条「……ああ、俺に何かできれば――」
美琴「アンタにできること、一つだけあるの」
上条「! ほんとか!?」
美琴「うん。あのね、アンタにお願いしたいことは――」
美琴「……黒子に、しばらく近づかないであげてほしいの」
上条「そ、それって……」
美琴「……あんなことがあったから、やっぱりその、男が、……怖いみたいなの」
上条「……」
625: 2010/11/07(日) 16:09:44.13 ID:4jRkrtJDP
美琴「幸い、常盤台は女子校だし、先生たちも考慮してくれてるから、日常生活にはあまり支障はないわ」
上条「……」
美琴「だけど……、ううんむしろ逆に、普段周りに男がいないから……、直るきっかけがなくて……」
美琴「そんな素振り、なかった?」
上条(もしかして……)
~~~~~~~~~~
「ありがとうござ――、 !!」バッ
「え?」
「わ、わたくしハンカチくらい持ってます――」
~~~~~~~~~~
上条(……あれが、そうだとしたら、白井のやつ、もしかしてずっと無理して――)
美琴「心当たり……あった?」
上条「……」
美琴「だけど……、ううんむしろ逆に、普段周りに男がいないから……、直るきっかけがなくて……」
美琴「そんな素振り、なかった?」
上条(もしかして……)
~~~~~~~~~~
「ありがとうござ――、 !!」バッ
「え?」
「わ、わたくしハンカチくらい持ってます――」
~~~~~~~~~~
上条(……あれが、そうだとしたら、白井のやつ、もしかしてずっと無理して――)
美琴「心当たり……あった?」
629: 2010/11/07(日) 16:12:50.30 ID:4jRkrtJDP
上条「……あった、かも、しれない」
美琴「……首突っ込みたがるアンタに、こんなこと言うのはなんだけどさ。今は、それが一番の有効策なの」
上条「……そ、っか」
美琴「……」
上条「……わかった。これからは気をつける」
美琴「……ありがと」
上条「で、でもさ、他になんかあるだろ? そうだ、そのスキルアウトの連中は……」
美琴「私が、そんなクソ野郎どもをほったらかしにしとくと思う?」バチバチバチィ
上条「……じゃあ」
美琴「もうとっくに、壊滅させてアンチスキルに引き渡したわ」
上条「……そっか。そりゃ、そうだよな」
美琴「……首突っ込みたがるアンタに、こんなこと言うのはなんだけどさ。今は、それが一番の有効策なの」
上条「……そ、っか」
美琴「……」
上条「……わかった。これからは気をつける」
美琴「……ありがと」
上条「で、でもさ、他になんかあるだろ? そうだ、そのスキルアウトの連中は……」
美琴「私が、そんなクソ野郎どもをほったらかしにしとくと思う?」バチバチバチィ
上条「……じゃあ」
美琴「もうとっくに、壊滅させてアンチスキルに引き渡したわ」
上条「……そっか。そりゃ、そうだよな」
636: 2010/11/07(日) 16:17:49.20 ID:4jRkrtJDP
美琴「……うん、だから」
上条「お前は、大丈夫なのか?」
美琴「……へ?」
上条「大事な後輩がそんな目に遭って、一人でスキルアウト相手にして……」
美琴「あ、あたしはいいのよ! 今、辛いのは黒子だし……」
上条「……そうだな。でも、お前も無理するなよ。相談くらいなら乗るからさ」
美琴「え……あ、うん。じゃあ、その、お願いする、かも」
上条「……白井、早く元気になるといいな」
美琴「……うん」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
上条「お前は、大丈夫なのか?」
美琴「……へ?」
上条「大事な後輩がそんな目に遭って、一人でスキルアウト相手にして……」
美琴「あ、あたしはいいのよ! 今、辛いのは黒子だし……」
上条「……そうだな。でも、お前も無理するなよ。相談くらいなら乗るからさ」
美琴「え……あ、うん。じゃあ、その、お願いする、かも」
上条「……白井、早く元気になるといいな」
美琴「……うん」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
638: 2010/11/07(日) 16:20:20.07 ID:4jRkrtJDP
テクテク
上条「白井と連絡……とってるのか?」
美琴「……ううん、まだ。その、ご両親が、学園都市であんなことがあったから……、神経質になってるみたいで」
上条「……そっか。また、会えるかな」
美琴「……当たり前よ。あの娘は強い娘だから、また、元気になって、必ず……」
上条「そう、だよな。よし、どこ行くか決めたか?」
美琴「あ、アンタが決めて。アンタの行きたいとこでいい……」
642: 2010/11/07(日) 16:23:16.48 ID:4jRkrtJDP
上条「そーだなー、じゃあ――」
「キッカケ」をくれて、ありがとう、黒子。
ま、多分コイツは仲の良い後輩と離れた知り合いを元気づけてやろう、くらいにしか考えてないだろうけどね。
それでも、こうして一緒に居ていい理由ができたからやっぱりありがとう。
お礼に、しばらくの間アンタの事覚えててあげるわ。嬉しいでしょ?
思い返すことは、ないだろうけどさ。
上条「……か、御坂? どうしたんだ? ボーっとして」
ポン
「キッカケ」をくれて、ありがとう、黒子。
ま、多分コイツは仲の良い後輩と離れた知り合いを元気づけてやろう、くらいにしか考えてないだろうけどね。
それでも、こうして一緒に居ていい理由ができたからやっぱりありがとう。
お礼に、しばらくの間アンタの事覚えててあげるわ。嬉しいでしょ?
思い返すことは、ないだろうけどさ。
上条「……か、御坂? どうしたんだ? ボーっとして」
ポン
650: 2010/11/07(日) 16:25:48.67 ID:4jRkrtJDP
パキィン!
662: 2010/11/07(日) 16:29:25.42 ID:4jRkrtJDP
上条「……え、今」
美琴(え……あ)
ポタッ・・・
上条「み、御坂……、お前……?」
美琴「そ、っか。あは、はは……」ボロボロ
上条「一体、どうしたんだ……?」
美琴「どう、した……?」
美琴「そう、ね、はは……、わたし、一体、どうしちゃってた、んだろうね……?」
End
美琴(え……あ)
ポタッ・・・
上条「み、御坂……、お前……?」
美琴「そ、っか。あは、はは……」ボロボロ
上条「一体、どうしたんだ……?」
美琴「どう、した……?」
美琴「そう、ね、はは……、わたし、一体、どうしちゃってた、んだろうね……?」
End
665: 2010/11/07(日) 16:29:41.46
え
664: 2010/11/07(日) 16:29:32.78
>ガッ、っと肩を掴まれる。
>上条「いい、もういい。すまねえ……御坂」
この時点でそげぶ発動せんかったん?
>上条「いい、もういい。すまねえ……御坂」
この時点でそげぶ発動せんかったん?
669: 2010/11/07(日) 16:30:15.87
>>664
頭を触れないと発動しないんだろ
頭を触れないと発動しないんだろ
672: 2010/11/07(日) 16:30:50.31
End ←なぜか読めない
674: 2010/11/07(日) 16:31:27.61
少しだけ救われた
乙
乙
682: 2010/11/07(日) 16:32:54.21 ID:4jRkrtJDP
終わり。支援と保守してくれた人ありがとう
683: 2010/11/07(日) 16:33:00.22
乙
688: 2010/11/07(日) 16:34:14.59
おぃ、あんまり脅かすなよw
で? 第2部はここでいつから再開すんの?
で? 第2部はここでいつから再開すんの?
697: 2010/11/07(日) 16:35:35.49
乙だがバッドエンド嫌いな俺からしたら
ちょっと悲しかった。
ちょっと悲しかった。
748: 2010/11/07(日) 17:05:25.09 ID:4jRkrtJDP
上条「そーだなー、じゃあ――」
「キッカケ」をくれて、ありがとう、黒子。
ま、多分コイツは仲の良い後輩と離れた知り合いを元気づけてやろう、くらいにしか考えてないだろうけどね。
それでも、こうして一緒に居ていい理由ができたからやっぱりありがとう。
お礼に、しばらくの間アンタの事覚えててあげるわ。嬉しいでしょ?
「キッカケ」をくれて、ありがとう、黒子。
ま、多分コイツは仲の良い後輩と離れた知り合いを元気づけてやろう、くらいにしか考えてないだろうけどね。
それでも、こうして一緒に居ていい理由ができたからやっぱりありがとう。
お礼に、しばらくの間アンタの事覚えててあげるわ。嬉しいでしょ?
749: 2010/11/07(日) 17:06:18.61 ID:4jRkrtJDP
それじゃ――
バイバイ 黒子
End
752: 2010/11/07(日) 17:07:59.18 ID:4jRkrtJDP
>>748
>>749
これが元のエンド
みっともない言い訳してすまん
ありがとうございました。
>>749
これが元のエンド
みっともない言い訳してすまん
ありがとうございました。
引用元: 黒子「また……ですのね」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります