1: 2011/06/19(日) 04:11:16.07 ID:HgnoklUA0
女「生きるのがつらい?」

女「こんなビルから飛び降りて死んだってなんにもならないよ」

女「……なにもないから死ぬ?」

女「死んだら楽になるからって?」

女「死んでも楽になんかならないよ」

5: 2011/06/19(日) 04:16:05.61 ID:HgnoklUA0
女「嫌なことたくさんあったんだね」

女「裏切り、冤罪、借金、怠惰……」

女「ああ最後のは自業自得かな?」

女「……へえ、まだ自分は悪くないって言える元気はあるんだ」

女「じゃあ生きる?」

女「……生きる気力なんて無いよね」

8: 2011/06/19(日) 04:20:33.09 ID:HgnoklUA0
女「ちょっとは愚痴ってごらんよ。気は楽になるかもね」

女「……」

女「ああ、でも今ちょっと楽になるくらいじゃダメなんだよね。それくらい追い詰められてるんだもんね?」

女「……病気?」

女「そんなに?」

女「へえ、そうなんだ」

9: 2011/06/19(日) 04:24:07.50 ID:HgnoklUA0
女「治らないって? 絶対?」

女「……ふーん」

女「それでも生きた方がいいと思……って、他人にこんな無責任な事言われたくないよね」

女「そういう気持ちだけは、わかるよ」


女「……」

女「うん、勝手に言ってるよ。他人だもの」

女「他人だから……友達もみんな勝手な事言ってきたんだよ?」

11: 2011/06/19(日) 04:28:56.60 ID:HgnoklUA0
女「友情なんて言葉、好き?」

女「便利だよね、こういう押し付けるには最高で、後々厄介に残る言葉って」


女「うまくいけば、友達」

女「失敗すれば、ただの他人」

女「結局は他人と遊びごっこしてるだけなのに。同じ事なのにね」

女「……ムカムカしてきた? いたんだね、そういう友達……ああ、他人か」


12: 2011/06/19(日) 04:33:13.30 ID:HgnoklUA0
女「なんでみんな生きてるんだろうね」

女「生きるのが楽しい人もいるんだろうけど、さ」

女「まるで遺伝子に組み込まれてるみたいに、人は学校に行っていつかは働いて」

女「生命ってそういうものなのかな?」

女「……つらくてもつらくても、お金のために働いてなにかを手にいれてさ」

女「新しいものを買うためにまた働くんだ、って」

女「不思議だよね」

14: 2011/06/19(日) 04:36:27.99 ID:HgnoklUA0
女「あ、でもその途中でさ」

女「人は恋愛するんだよね」

女「あの人のために働いて、幸せな家庭を作るんだって」

女「あなたにそんな目標あった?」

女「……」


女「そう、なんだ」


女「でも確かに恋愛してればいいってもんじゃないよね」

女「昔の事なんて結局は傷になるんだから」

16: 2011/06/19(日) 04:41:34.04 ID:HgnoklUA0
女「……もう外が明るいね」

女「恋人の話題になったら、急に押し黙っちゃったね」

女「まあ、友情も恋愛も同じようなものよね」

女「他人がやかましいくらいに絡んでくる、ただそれだけ」

女「結局あなたは一人なんですもの」

女「最後にはこうして……一人でビルの屋上に立ってるんだから、ね」

18: 2011/06/19(日) 04:46:18.18 ID:HgnoklUA0
女「私? 私は違うよ、ただ……ここに来たあなたについてきただけ」

女「飛び降りたりなんかしないよ?」

女「……」

女「もう死ぬの?」

女「まだ死なないの?」

女「いつ飛び降りるの?」

女「いつになったら、私に楽をさせてくれるの?」

20: 2011/06/19(日) 04:52:22.96 ID:HgnoklUA0
女「私はあなたを直接押してあげる事なんて出来ないの」

女「だってそんな事したら、あなたは当たり前のように死んじゃうでしょう?」

女「ビルから落ちれば、死ぬ。わかりきってることよね?」

女「私はあなたの意志で一歩を踏み出してほしいの」

女「あ、怒ったんだ……でもその方があなたも気持ちいいでしょう?」

女「さあ……その枠を飛び越えて、こっちへ」

女「落ちなよ」

23: 2011/06/19(日) 04:56:34.18 ID:HgnoklUA0
女「……」

女「なんだ、結局やめるんだ」

女「え、私と話したから?」

女「まあ死ぬ前にちょっとでも話せれば、気持ちは変わるのかもしれないね」

女「よっぽど思い詰めた人間じゃなければ……」

女「……」


女「死神?」

女「あはは、違うよ」

女「私は悪魔だよ」

25: 2011/06/19(日) 04:59:47.93 ID:HgnoklUA0
女「……なーんて、驚いた?」

女「そんなに驚けるなら、あなたはまだ大丈夫だよ」

女「……うん」

女「ほら、早く病院に戻りなよ。抜け出してきてるんでしょ?」

女「……」

女「いいんだよ、お礼なんて」

26: 2011/06/19(日) 05:03:50.98 ID:HgnoklUA0
女「うん、うん」


女「じゃあ……またねバイバイ」

女「……」


女「あんなに落ち込んでいたのに。ちょっとは立ち直った感じ、かな」

女「あんな会話のどこに元気になる要素があったのか……私にはわからないや」

女「でも命の灯がもう一度灯るってのはいいね」

女「それをあらためて吹き消す瞬間なんて、もう最高」

29: 2011/06/19(日) 05:08:35.50 ID:HgnoklUA0
女「ビルの一部が崩れて、ちょうど下にいたあなたはペッチャンコ」

女「落ちるのは人間だけじゃないんだよ」

女「……まあ、少しでも時間が狂えばあなたは助かっちゃうんだけどね」

女「それが人生のわからないところだよね」

女「まあ、今死ねなくても半年後には病院のベッドの上でまた……」


女「……さて、そろそろかな」


30: 2011/06/19(日) 05:16:20.85 ID:HgnoklUA0
男(……生きていれば、か)

男(見知らぬ少女に言われた言葉だけで……こんなに気楽になれるものなのか)

男(……もう少し生きてみようか)

男(この扉を開けたら、もう一度)

男(もう一度だけ、やり直してみよう)


32: 2011/06/19(日) 05:23:31.11 ID:HgnoklUA0
男(……ああ、そろそろ夜明けだ)

扉を開け、私は希望を持って一歩を踏んだ。

そこに地面はある。

でも……屋上から降ってくる小さな地面もまた、私に勢いよく近付いていた。

男(よし……頑張ろう!)

ガツッ!


……最期にやる気を持ちながら死ねたのは、果たして幸せな事だったのだろうか。

朦朧とする意識の中で屋上を見上げると、そこには。

先ほどの少女が笑いながらこちらを見ていた。

女「……死んでも楽になんかならいよ」

女「他人に殺されてしまえば、気は楽かもしれないけどね」


とても妖艶で何かを喋っていたが、どうやら私にはもうそれを聞き取る事は出来そうになかった……。

彼女はいつまでもこちらを笑顔で見つめていた。

……。

33: 2011/06/19(日) 05:25:40.46 ID:HgnoklUA0
……

女「あら、可愛い赤ちゃん」

女「お名前はなんて言うの?」

女「……ふーん」


女「でもお母さんがこんな深夜に赤ん坊かかえて……どうしたのかな?」

女「しかもこんな病院の屋上で」

35: 2011/06/19(日) 05:28:53.77 ID:HgnoklUA0
女「へえ殺しちゃうんだ。こんなに可愛いのに」

女「お母さんだってあんなに可愛いって言って……え、演技? 怪しまれないように。ふーん」

女「……あとは赤ちゃんを落として、さも誰かに落とされたみたいに泣きわめけばいいだけ、ね」

女「でもそんなにうまくいくかな?」

女「だって……赤ちゃん落ちたくないって泣いてるよ?」

37: 2011/06/19(日) 05:34:11.15 ID:HgnoklUA0
女「……」

女「よかったね赤ちゃん。悪いお母さんはいなくなったよ」

女「お母さん、あなたの代わりに落ちてくれたって」

女「……お礼なんていいのよ」

女「ふふっ、ごめんね。私、人間には直接触れないんだ」

女「だからあなたを人のいる場所まで運んだりは出来ないの」

女「……」

女「大丈夫、あと15時間もすれば誰か助けに来てくれるわよ」

38: 2011/06/19(日) 05:38:16.77 ID:HgnoklUA0
女「じゃあそれまで生きてたら……またね」

女「ああ、お母さんがいない方が騒がれて、もしかしたらもう少し発見が遅れるかもしれないけど」

女「……人間だもん。それくらい耐えられよね?」

女「まだそうやって元気に泣けるうちは大丈夫」

女「……」


女「バイバイ」

39: 2011/06/19(日) 05:39:33.91
ちょっと好き

40: 2011/06/19(日) 05:46:01.81
なるほど、女が主軸で様々な人が地に落ちたり天に昇ったりしてるのか

引用元: 女「死んでも楽になんかならないよ」