1: 2011/07/28(木) 10:06:01.16 ID:0bTRCMGX0
――ここは魔王に支配された世界
現れたのは闇に差す一筋の光。
そう、勇者である。

~魔王城~

高貴なる勇者「我は勇者なり!さあ、来るがいい。穢れし邪念の者どもよ!」

戦士「これが最後のダンジョンだと思うと、感慨深いものがあるな……と、敵か」ジャキッ


雑魚A「やっべ。勇者来たぜ」

雑魚B「オマエ何とかしろよ、俺はその間に逃げる」

2: 2011/07/28(木) 10:07:52.38 ID:0bTRCMGX0


雑魚A「……勇者が美女だったなんて……あのヤロー羨ま、し……」
雑魚B「見蕩れて死ぬとか……無いわー……どっちが魔物だって話……あぁ、星が見える……」



戦士「一太刀か、流石だな。まぁ雑魚に時間はとっていられねぇ」

高貴なる勇者「然り。……思えば長かったものだ、これまでの道のりは」

戦士「――城を飛び出して来たお前とぶつかったあの日から、もう三年か」

戦士「腕っ節一辺倒だった俺も魔法を修めて万能戦士になれる訳だな……」

高貴なる勇者「その頃の私は口先だけで、態度が大きい上に礼儀も知らない、生意気な小娘だった」

高貴なる勇者「そんな私に、戦士は優しかったな。甘やかす事こそ無かったが、そのおかげで成長出来た」

高貴なる勇者「……戦士がいなければ、私はどこかで野垂れ死んでいたのだろうと思う」

戦士「は、どの口が言うんだか。こんなにも図太いお前さんがよ」

3: 2011/07/28(木) 10:09:37.49 ID:0bTRCMGX0
高貴なる勇者「……このようなところで伝えるのも変な話だが」

戦士「おう」

高貴なる勇者「戦士にはとても、とても――感謝している」

戦士「何を今さら。くすぐったくなるぜ」

高貴なる勇者「本当はもう一つ、言いたい事があるのだが……」

戦士「ん?」

高貴なる勇者「それは国へ帰ってから、伝える事にしよう」

戦士「全部終わったその時に、か。楽しみにしてるよ」

4: 2011/07/28(木) 10:11:22.83 ID:0bTRCMGX0


~玉座の間~

邪神官「」ドサッ

高貴なる勇者「城内の敵はあらかた片付いたな……しかしこの城、何か妙だ」

戦士「気付いたか、勇者。俺もここには違和感を感じる」

高貴なる勇者「本拠地だというのに、魔物の統率があまりにとれていない」

戦士「個々の実力はかなりのものなんだが、な」

高貴なる勇者「まるで……」


*「――勇者か」

5: 2011/07/28(木) 10:13:53.54 ID:0bTRCMGX0
高貴なる勇者「ッ…何奴!」

戦士「――ご立派な角、文様の鎧、毒々しい真っ赤な外套、ねぇ。テンプレ過ぎねえか、オイ」

魔王「……」

高貴なる勇者「貴様、魔王だな!ここまで玉座に接近してなお気配を隠せるとは、流石は邪念の将という事か」

戦士「気付けばそこら中、瘴気に満ちてやがる……化け物め」

高貴なる勇者「世界を混沌と絶望におとしめた貴様の所業、たとえ神が堕ちようと――」

高貴なる勇者「この勇者が許しはしない!」


魔王「……生を謳歌する勝者の歓喜、無惨に死にゆく敗者の悲哀。誕生と滅亡……この世のすべては流転する」

魔王「お前達の生き様、そして――死に様。この魔王が見届けよう」

6: 2011/07/28(木) 10:15:29.02 ID:0bTRCMGX0


戦士「ぐ、武器が……ッ」

高貴なる勇者「……剣が、魔法が……通じないだと……!?」

魔王「……」

高貴なる勇者「何故だ、何故……!」

魔王「……お前達はよく抗った」


高貴なる勇者「まだだ、まだ敗北した訳ではないッ!!」

戦士「生憎と俺は何でも屋なのさ……傷の治癒を含めた全身回復措置、能力増強措置、完了。行けッ!」

高貴なる勇者「――この身に流れる熱き血潮と、両の手に握る『天上の祭剣』の名に懸け」

高貴なる勇者「我が最大最高の一撃を持って、この戦いを終わらせる!」

8: 2011/07/28(木) 10:19:51.21 ID:0bTRCMGX0
魔王「這いずり回るか」


高貴なる勇者「剣よ、雷撃を纏え!」ピシャァ!ゴロゴロ…

高貴なる勇者「……総ての悪意を討ち滅ぼさん!!」ゴオッ!

戦士「かましてやれ、勇者!!」



魔王「……」

高貴なる勇者「――消えよ!穢れの頂、混沌の王よ!!!」

ドッ!


9: 2011/07/28(木) 10:21:57.41 ID:0bTRCMGX0




魔王「……我に傷をつけた最初の者が、よもや女になるとはな」

高貴なる勇者「天より授かった剣でさえ……そんな……こんな事が――」

魔王「礼をしよう」

戦士「危ない、勇者!」バッ

ガッ!

高貴なる勇者「戦士!?」

戦士「ッ……最後の最後で、俺はお前の壁にしかなれねぇのかよ……畜生」

高貴なる勇者「い、嫌だ。戦士……死ぬな、死なないでくれ」

戦士「馬鹿野郎……前を見なきゃ駄目だろうが。お前は勇者なん、だ……ぜ」

10: 2011/07/28(木) 10:23:20.87 ID:0bTRCMGX0
高貴なる勇者「戦士……?」

魔王「矢尽き刀折れ、今ただ一人の仲間も潰えた」

魔王「希望などありはしない」

魔王「世界は永劫の争いの螺旋に成り立っている」

魔王「残す言葉は――あるか」

高貴なる勇者「…………父上、母上……申し訳ありません」

高貴なる勇者「この不肖の娘、倒れていった者達に顔向けが出来ませぬ……」ドサッ

高貴なる勇者「次を願う事が許されるなら……戦士と――」

高貴なる勇者「――いや。……そのような資格など、私には無い、な……」


魔王「――終わりか。……静かに眠るといい」

勇者は敗れ、そして。
――世界は終わってしまった。

11: 2011/07/28(木) 10:25:20.07 ID:0bTRCMGX0
――ここは魔王に支配された世界
現れたのは闇に差す一筋の光。
そう、勇者である。

断ち切る勇者「けっ。だりーな」

盗賊「まぁ、そう言うなよ」

商人「そうですぞwwwせっかく全ての伝説の武器・防具を手に入れたのですからw」

断ち切る勇者「黙れデブ」

踊り子「しっかし、不思議よねー」

盗賊「……剣、兜、盾、鎧。それらを総称して『精霊王の霊装』と呼ぶ。どれも素晴らしい性能だな」

断ち切る勇者「名前なんざどうでもいい。使えりゃ見た目がクソでもな」

踊り子「いやアタシが言いたいのはさ……武器はともかく、その防具」

断ち切る勇者「なんで計ってもいねえのに俺のサイズにジャストフィットしてんだよ、気持ち悪ぃ」

12: 2011/07/28(木) 10:27:48.25 ID:0bTRCMGX0

~峡谷の城塞~

キングトロール「……ぐふふふふ、来たか勇者」

商人「なんだか親近感を感じまs

断ち切る勇者「黙れデヴ」

盗賊「何という巨躯、何という威圧感。これは強敵の予感……」


キングトロール「踊り子ちゃんマジ工口いwwwペロペロしたうぃwwww」ハァハァ

踊り子「やっちまえ勇者」

13: 2011/07/28(木) 10:32:10.33 ID:0bTRCMGX0



キングトロール「」


断ち切る勇者「トロールのなます切りいっちょ上がり、と」

踊り子「きゃー勇者ちゃんかっこいーっ!愛してるぅー」

盗賊「何という見かけ倒し……いや、勇者が強くなりすぎたのか」

商人「――トロールさん、貴方とはもっと違う形で出会いたかった……」


断ち切る勇者「旅も佳境。いよいよだぜ、魔王さんよお」

14: 2011/07/28(木) 10:33:37.28 ID:0bTRCMGX0

~魔王塔・闇の柱~

雑魚C「ここだけの話なんだけどさ」

雑魚D「んだぁーよ」

雑魚C「今の魔王様って何歳なんだろな」

雑魚D「ぷっw」

雑魚C「何で笑うのさ」

雑魚C「……前にあんなことがあったんだから、興味でない?」

雑魚D「どーでもいいよ。仕える奴がトカゲ爺だろうが鎧の大男だろうが」

雑魚C「でもさぁ」

雑魚D「どっちにしろ、おれらみたいな底辺が考える事じゃねーべ」

雑魚C「そうは言っても気になるじゃん。少なくとも1000歳は超えてると思うのさ」

雑魚D「どーしてよ」

雑魚C「だっておいら千年近く生きてるもの」

雑魚D「……え、ちょ、あのすいませんした大先輩様」

雑魚C「だから大抵の魔族の歳が……ってどしたのさ急に、いいって」

15: 2011/07/28(木) 10:37:48.65 ID:0bTRCMGX0

ドガァッ!

断ち切る勇者「うぃーす。攻め落としに来たぞゴルァ」

盗賊「乱暴な。鍵はあるのに」

踊り子「何ここカビ臭ーい」

商人「オゥフww珍しい魔物キタコレww」

雑魚C「門番何やってんのさ」

雑魚D「五十年ちょっとで調子のってすんませんした」




雑魚C「……まぁ長生きしてるだけじゃ強くはなれないよねー……」

雑魚D「……ほんとすんませんした……」




踊り子「もーやだぁ。少しくらい掃除しなさいよぉー」

盗賊「悪の拠点とはそういうものだ。しかし、いささか度が過ぎるな」

商人「やや?これは……」

断ち切る勇者「黙れDE-BU」

商人「ちょww聞いてくださいってw」

踊り子「手短に頼むわよ。あんたの話いっつも長いんだから」

16: 2011/07/28(木) 10:39:50.53 ID:0bTRCMGX0

商人「まずこの石畳に張った苔!これが実は ……(省略)……なのですよwww」



踊り子「だぁから長いっての……眠ーくなってきたわ。商人、あんた魔法使いの才能あるわよ」

盗賊「まとめると――ここは魔王の居城ではない、と?」

踊り子「えー!?でも実際いるんでしょ、ここに魔王」

商人「両方とも正解ですwwしかし完璧ではありませんなぁw」

盗賊「だが、こういった空間を好む魔物もいるのではないだろうか」

商人「仰る通りですが、ここ一帯の土壌と風土からして城がこんな状態の訳が無いのですw」

踊り子「訳わかんないわよ……」

商人「ぞんざいに言えば『あまりに不自然だ』と、言っているんですよw」

商人「では盗賊殿、この城を見てあなたはどのような感想を抱きますかな?」

盗賊「盗みを働く者としての見地からすると……『主の不在』を如実に示していると言える」

商人「YES。しかし魔王はどうやら在宅してらっしゃるようなのですよw」

踊り子「そうみたいね。アタシ感受性強いから、今も上から降り続けてる瘴気に押し潰されそうよ」

商人「では何故……魔王城はこのような有様なのでしょうね?」

踊り子「掃除サボったのかしら。広いし面倒臭そう」

盗賊「部下が山程いるだろうに……ところでさっきから全く喋らない奴がいるんだが」


断ち切る勇者「……Zzz……」

商人「敵地で爆睡するその剛胆さ――やはり勇者ですねぇ!」

17: 2011/07/28(木) 10:41:36.20 ID:0bTRCMGX0

踊り子「ぱふぱふしてみましょーか」

商人「それは良いアイデア。ではまずはこの卑しい豚めにwww」

盗賊「もう俺が叩き起こしたよ」

断ち切る勇者「……ろーでぃん……ろーでぃん……セーブデータを確認しています……」カリカリ…

踊り子「勇者ちゃん。この糞卑しい糞豚の話、聞いてた?」ビシィ!ビシッ!

商人「ホオォウッ!……新たな世界が、今ッ!ワタクシの目の前に広がっているッッ!!」びくんびくん

盗賊「この短時間に縛って吊るして鞭で叩くとは……って踊り子の技じゃないだろ、それ」

断ち切る勇者「本日中にセーブされたデータがございます、このデータで開始しますか>はい」ピ口リン♪

盗賊「はぁ……犯罪者の俺が一番常識人ってのはどういう事なんだ」

断ち切る勇者「スマン。寝落ちしてた」

盗賊「リアルにな」


踊り子「そらそら」ビシ!バシィッ!

商人「ゥンン!……高まるリビドー……限界の向こう側へッ!!!」キラキラ

断ち切る勇者「なんだありゃ」

盗賊「……もう俺が説明するから。そっちは見ちゃいけません」

かくかくしかじか…

断ち切る勇者「――成程、全然分からん」

盗賊「うん期待はしてなかった」

商人「良い汗を……かきました」ツヤツヤ

踊り子「何か損した気分だわ。ある程度抵抗された方がこっちとしてはやりがいがあるのよね」ジロ…

盗賊「」ゾクッ



商人「それで、勇者殿。ご理解いただけましたか?念には念を入れて……」

断ち切る勇者「うるせーよデヴ。ここまで来てぐだぐだ言ってもしょうがねえだろ」

商人「……退く事も選択肢の一つとして用意しておいた方が宜しいかとー」

断ち切る勇者「敵に見せる背中は無ぇな」

商人「このアホ……あ、いえ。私が考えるにこの原因は……」

断ち切る勇者「わぁーったよ。要するに――ぶっ倒せばいいんだろ」

盗賊(こいつ駄目だ)

踊り子「それでこそ勇者ちゃんよ」

商人(もうどうにでもなーあれ♪)

19: 2011/07/28(木) 10:43:56.99 ID:0bTRCMGX0

~魔王塔・闇の柱/中間フロア~


盗賊「酷い臭いだな、これは……」

踊り子「――!!!……な、何よこれ」

商人「屍の山、と言ったところですなw」

盗賊「しかし、全てモンスターの物だぞ」

断ち切る勇者「おい。このローブ巻いたでかいの、こんなモンスターいたっけか?」

商人「どれどれ。んー、私の記憶には似た骨格も表皮もありませんな。新種ですかねw」

踊り子「ね、ねぇ。なんだかアタシ寒気がするよ」

断ち切る勇者「安心しろ。俺も震えてる」


断ち切る勇者「……こんな奴までねじ伏せて、てっぺんにいやがるのか……」ニヤリ

20: 2011/07/28(木) 10:45:37.72 ID:0bTRCMGX0

ゴォオン…

~魔王塔・闇の柱/最上階~


魔王「……」


断ち切る勇者「よう」

断ち切る勇者「初めましてだな、魔王さん」

盗賊「これが……魔王……」

踊り子「……はっは。心臓わし掴みにされてるみたいだわ」

商人「……ありー?……むぅん……なんだろなこの感じ……」

断ち切る勇者「――今までのてめえの非道、きっちり型にはめてもらおうか!」



魔王「……瞳に、声に。お前の滾る闘志が満ち満ちているな、勇者よ」

魔王「辿り着きし者共……ここが、旅の終着点。――全てを持ってして来るがよい」


21: 2011/07/28(木) 10:48:02.18 ID:0bTRCMGX0



断ち切る勇者「ちぃ……ッ」

踊り子「どーなってんのよ、なんで何もかも通用しないのよ!?」

商人「道中で手に入れた魔封じの玉も封印の楔も効果がありませんな……」

魔王「……」

盗賊「こちらが消耗するばかり……このままでは」

断ち切る勇者「落ち着け、てめぇら。ラスボス戦なんだぜ?これくらい緊張感があって丁度良い」

踊り子「勇者ちゃん……」

商人「こういう時、彼は本当に頼りになりますなーwww」

商人(……私の目利きが効かない魔物……ですか)


盗賊「弱点も見つからない……ッ!」

魔王「……目障りだ」ゴッ!

盗賊「まずっ……」

踊り子「何やってんの、危なっかしい!直接攻撃が駄目なら――『竜の息吹』!!」ゴウゥッ!

盗賊「石の床を溶かす熱線……これなら」チリチリ…


魔王「……効かぬな……」

踊り子「もー!どうしろってのよ!」

断ち切る勇者「焦げもしねえ、か。……俺がサシでやる。おまえら、手ェ出すな」

商人「寂れた居城、見た事も無いモンスターと屍の山、通じない魔王所縁のアイテム……」

商人「……もしや」


断ち切る勇者「行くぜ、魔王。この世で誰が一番強いか、その身に教えてやる!」

22: 2011/07/28(木) 10:50:59.77 ID:0bTRCMGX0

盗賊「凄まじい……あれが勇者の本気」

踊り子「押してる――けど、魔王は傷一つ付いて無いわ……」

商人「いやしかし……非現実的過ぎる……けれど、それなら……」ブツブツ


断ち切る勇者「――オラオラオラオラぁ!!!どうした、魔王さんよぉ!!」」

魔王「……精緻にして、繊細。随所に牽制の騙しも織り込んでいるな」

魔王「直情的な外見からは想像も出来ぬ剣の腕よ」

魔王「だが」ブンッ!

断ち切る勇者「!」


断ち切る勇者「あ……ッぶねえな、コラ!」ザッ…

魔王「……剣術、身のこなし、資質。……勇者よ、お前はまごう事なき一流の武芸者だ」

魔王「しかし、それでは。それだけでは。……我には届かぬ」

断ち切る勇者「あぁん?……どういうことだ」


商人「――勇者さん、いけません!」

断ち切る勇者「黙れデヴ。今俺は」

商人「そいつは、その怪物は――!!!!」

魔王「……」ヒュッ

23: 2011/07/28(木) 10:54:50.14 ID:0bTRCMGX0

ザクッ!

商人「ぐぶっ。あ……血が、ははw……は……」

断ち切る勇者「な……ッ!」

盗賊「商人!今、回復を……」

魔王「……」ゴオ!

ジュウウ…

踊り子「あぁっ、袋が炎に!」

盗賊「ち、治癒の奇跡は……」

踊り子「魔法なんてもう出し尽くしたわよ!手持ちの回復アイテムはあんたに使っちゃったじゃない!」

盗賊「くそっ……!」ダッ

魔王「……」


盗賊「大丈夫か、傷を……うっ!」

商人「み、みなさん。私は、もう構いません。それより、勇者殿に……」ヒュー…ヒュー…

踊り子「もう喋っちゃ駄目よ!首から、溢れて……」

商人「……あれは……この世界の生物では……ゲフッ、がほ……ぁ」

商人「」パク…パク…

盗賊「な、なんだ。何を伝えたいんだ!?」



断ち切る勇者「おい」

魔王「……どうした」


断ち切る勇者「――てめえの相手は、俺だろうが」

24: 2011/07/28(木) 10:59:51.73 ID:0bTRCMGX0

断ち切る勇者「おおおおおおおおおおおおおおぉッ!」ドッ!

ギャリイイィイィッ!

魔王「赫怒、そして憎悪。勇者の抱く感情ではないな」シュウウ…

断ち切る勇者「黙れ黙れ黙れ黙れぇッ!」ギュオ!

魔王「……告げたろう。――それでは届かぬと」ガシッ…

断ち切る勇者「俺の剣を、素手で!?」

ゴッ!

断ち切る勇者「がはっ……」ザザァ!


踊り子「勇者ちゃん!!」

盗賊「ッ……なんて奴だ!」


商人「  」ゴボッ…

盗賊「商人!……くッ……血が、止まらない……」

踊り子「あ、アタシが押さえるから!代わって!」

断ち切る勇者「…………盗賊」

盗賊「な、なんだ。勇者!……俺に手伝える事なら何でも――」チャキ…!



断ち切る勇者「二人を連れて、この城から逃げろ」

25: 2011/07/28(木) 11:03:02.86 ID:0bTRCMGX0

盗賊「え……」


断ち切る勇者「でけぇの一発、やるからよ……お前らがいると邪魔で撃てねえ」

踊り子「ふ、ふざけないで。ここまで、ここまで来たのよ!?最後まで、一緒に……」

断ち切る勇者「早く行けって言ってんだよ!!」

盗賊「……くッ」ダッ

ガシッ

踊り子「な……離しなさいよ!アタシは、ここに――!」

魔王「逃げられるとでも?」バッ

ガキィッ!


魔王「……」

断ち切る勇者「させるかよ」

魔王「……無駄な行為だ。どのみち全てが滅ぶ」

断ち切る勇者「だれが、いつ『お前に勝てない』って言ったよ」

断ち切る勇者「勝算は……あるんだぜ」ゴゴゴゴ…

魔王「この光――今までどこにそんな余力を」

断ち切る勇者「目ぇ腐ってんじゃねえのか。こいつはお前のしょぼい瘴気とは格が違うぜ」

魔王「命の炎……魂の光か」

断ち切る勇者「俺の、人生ありったけをぶつければ……」

断ち切る勇者「いくらお前が頑丈だろうと。ただじゃあ済まねえ筈だ」

26: 2011/07/28(木) 11:05:22.16 ID:0bTRCMGX0

魔王「……」

魔王「死ぬぞ、貴様。我が手を下さずして」

断ち切る勇者「上等。もろともてめえを巻き込んで心中してやる」


魔王「……何故、勇者になった」

断ち切る勇者「――俺が最強なのかをこの手で立証するため」

魔王「強くありたいと願う、か。存外青臭い理由だな」

断ち切る勇者「……さっきよ、あんた俺じゃ『届かない』っつったよな?」

断ち切る勇者「それだけはいけねえ。俺は否定されるのが一等嫌いなんだよ」

断ち切る勇者「口にされちまったら、もうしょうがねえ。俺は命を削ってでも届かせてみせる」

魔王「……」


断ち切る勇者「……」ツー…

魔王(口端から吐血。最早後戻りは出来ないと……)

魔王「倒せる確証など無いというのに」

断ち切る勇者「割に合うとか合わねえとか、まどろっこしいのは嫌いでね」

魔王「憐憫すら感じるよ。悲壮な男だ、お前は。その情熱があれば、数えきれぬ別の未来もあったのではないか」


断ち切る勇者「知らねえ。俺は、この殺し合いの世界しか知らねえ」

断ち切る勇者「剣で切り開く世界が、俺の心の真ん中なのさ」

断ち切る勇者「……俺は数えきれない魔物を殺して強くなった」

断ち切る勇者「妙な言い草だが」

断ち切る勇者「それに報わなけりゃならねえ」

27: 2011/07/28(木) 11:07:45.58 ID:0bTRCMGX0

魔王「最強。それが叶う称号が、勇者か。……それは本当に適っているのだろうか」

魔王「……口が過ぎたな。どうにも、お前は他人に思えない」

魔王「我も、かつては――いや、遠い過去に意味など、無いか」


断ち切る勇者「……霊装の主が告げる。『王命の喚起』――俺に力を貸しやがれ、精霊共!」

断ち切る勇者「強く、強く、強く。もっと――強く!!」ゴゴゴゴ…

魔王「……」

オオオオオオ…


断ち切る勇者「これが、最後の剣」

断ち切る勇者「――俺の、命の一振り」

28: 2011/07/28(木) 11:11:01.76 ID:0bTRCMGX0



踊り子「離して、離してよっ!」バシッ

盗賊「……」

踊り子「最低よ、こんなのって……」

盗賊「……俺が、悔しくないとでも思ってるのか」

踊り子「盗賊、あんた」

盗賊「……情けないよな。盗賊ギルドから独り立ちして、勇者一行に入って」

盗賊「目に映るものすべてが輝いて見えて。変われたと、そう、思ったのに」

盗賊「俺はなんて……弱いんだ!」



踊り子「……商人は……?」

盗賊「――もう、冷たくなってしまった」


踊り子「なんでよ……どうしてこんな事に」

盗賊「涙を流すのは後だ。勇者は俺たちを生かしたんだぞ」

踊り子「うん。……うん、わかってる」



*「ウ、う……ア」ズル…

盗賊「!?」

29: 2011/07/28(木) 11:13:50.76 ID:0bTRCMGX0

怪物の死体「ヴアアァァぁ…」

盗賊「あれは……広間にあったローブの死骸!?」

踊り子「まだ、動けるの!?」


怪物の死体「……ワ…れ…ハぁ……」

怪物の死体「……わ…レ、こ…そが……」ギュオッ

ドシュッ!

盗賊「う…ぐぅッ」ドサ

踊り子「ひいっ……盗賊、盗賊!!」

盗賊「……なん、だ……こいつは……」ドクドク…

怪物の死体「、あ……オ……ぅ、ナ」

怪物の死体「……り……ィ……」シュウウ…


盗賊「今度こそ……息絶えたよう、だな」

踊り子「でも、盗賊が!」

盗賊「俺は……いいさ。勇者に背を向けた時から、俺の運命は……決まっていたのだろう」

踊り子「そんな……そんな事、言わないで」

盗賊「らしくないな、踊り子。おまえはいつだって……元気で高飛車なのが取り柄なのに」

踊り子「……バカぁ……」ポロポロ

盗賊「泣いてる、のか。俺、もう……目が…………」

30: 2011/07/28(木) 11:16:02.55 ID:0bTRCMGX0


踊り子「……ねえ。また皆で世界を旅しようよ」


踊り子「いろんな国や町に寄ってさ。おいしい物食べて」


踊り子「あぁ、盗賊。あんたスリの癖が直らないってぼやいてたわね……」


踊り子「船は商人が競り落としたのよね。魔物は出るけど、楽しかったなぁ」


踊り子「商人の奴、いっつも女の尻追ってたよね。……まぁアタシが一番美人なんだけどさ」


踊り子「どこに行っても滅茶苦茶で、危険じゃないところなんて無かったくらい」


踊り子「それくらい、旅をしたね」


踊り子「いつも皆を引っ張って、いつも皆を困らせて、いつも皆を助けてくれた」


踊り子「勇者ちゃん。アタシ、勇者ちゃんのこと――大好き」


31: 2011/07/28(木) 11:18:42.17 ID:0bTRCMGX0



断ち切る勇者「――――――」


ザアアアアァァ……

魔王「蛮勇と無謀を、勇気と履き違えたか」

魔王「無様にして滑稽」

魔王「……だが」

魔王「お前の技は響いたぞ」

魔王「確と、我の――魂にな」



勇者は敗れ、そして。
――世界は、終わってしまった。


32: 2011/07/28(木) 11:21:58.41 ID:0bTRCMGX0

――ここは魔王に支配された世界
現れたのは闇に差す一筋の光。
そう、勇者である。

~丘陵地帯の集落~

武道家「っしゃあ!戦闘終了!」

賢者「もう魔物の気配は感じませんね、お疲れ様」

祝福された勇者「……お、おつかれ」


村人「あ、ありがとうございます!」




賢者「本当によろしいのでしょうか、こんな手厚い待遇を無償で……」

村長「いえいえ、我々にはこのような事でしか勇者様達に力を貸せませんから」

宿屋の主人「勿論、今日泊まることになったウチもサービスするよ!」

武道家「いぇーい!食って食って食いまくるぞー!」ガツガツ

賢者「あらあら」

祝福された勇者「……」チビチビ

村人「なぁ、勇者様。旅の話を聞かせてくれないか?息子に話してやりたいんだ」

祝福された勇者「」ビクゥ!

村人「?」

賢者「……」

33: 2011/07/28(木) 11:28:12.42 ID:0bTRCMGX0



祝福された勇者「……」

賢者「フフ、お腹いっぱいになってしまいましたね」

武道家「はひー、もぉ食べらんない。破裂する」ポンポン

賢者「もう、武道家ったら。女の子なのにはしたないわよ」

武道家「う、うっせーな!別にいいじゃんかよー」

武道家「あたしはその分動くんだかんなー!」

祝福された勇者「…………はぁ」

賢者「あぁ、そういえば。――勇者様?」

祝福された勇者「ビクッ!……な、何」


賢者「……先程の様子、あれはどうなさったのでしょうか」

祝福された勇者「え、ど……どう、って」

賢者「集落の方達と会話をせず、あまつさえテーブルに突っ伏して」

賢者「私や武道家は、ずっと貴方の代わりに旅の話をしていたのですよ」

祝福された勇者「ご……ごめんなさい」


武道家「――あ?なんて言ったんだよ」


34: 2011/07/28(木) 11:30:54.27 ID:0bTRCMGX0

祝福された勇者「え……ご、ごめんなさいって……」

武道家「声が小せーんだよ」

武道家「それにほとんど口も開いてねーし」

祝福された勇者「あ……あ、う……ぼ、僕は」

武道家「話す時は人の目見て話せよ!くそっ、ホント苛つくな」

祝福された勇者「……」

武道家「……ったく、どーしてアンタが勇者なんだよ」


祝福された勇者「…………うるさい」

武道家「お、やんのか?」

祝福された勇者「……うるさいって言ってるんだ」

武道家「いいよ、別に。やればいーじゃん」

武道家「――アンタが自分で焼いた故郷みたいにさ!」

祝福された勇者「!!」

祝福された勇者「……言うな……」

武道家「あたしなんか簡単に死ぬぜ、勇者様の魔法なら!テメーの母親と同じよう――」

祝福された勇者「うああああああああああ!!!」


賢者「やめなさい、二人とも」

祝福された勇者「……ッ」

武道家「ちっ。根性無しが」

賢者「武道家。あなたの先生は『人の家族を貶してもよい』と教えられたのですか?」

武道家「し、師匠がンな事言う訳ねーだろ!」

賢者「……なら、勇者様に謝りなさい」

祝福された勇者「!」

武道家「――はッ。あたしが全部悪いってのかよ!大体こいつがナヨナヨしてんのが悪いんだろ!?」

賢者「話を逸らさないで下さい。亡くなられた方に対して、そのような事を言うべきではないと私は……」

武道家「あぁ『不慮の事故』って奴でな!――清廉潔白で公明正大な勇者サマなら、あたしも文句は言わないさ」

祝福された勇者「……」


賢者「――勇者様は、何か反論は無いのですか」

祝福された勇者「え……」

賢者「あれだけ彼女に言われて、言い返さないのですか。先の言葉はあなたのお母様を貶めたのですよ」

祝福された勇者「ぼ、僕は……」

賢者「口では返さないのですか。では一体どうするというのですか」

祝福された勇者「……あ、あの……うぅ……」

祝福された勇者「…………」


賢者「……もう遅いですし、今日は休みましょう。せっかく部屋もいただいたのですし」

武道家「フン。そーだな、寝る、もー寝る!豚でも牛でもなってやろーじゃねーか!」

賢者「ふふっ。さぁ、勇者様も」

祝福された勇者「……わかったよ」

35: 2011/07/28(木) 11:34:12.72 ID:0bTRCMGX0



武道家「すぴー……ひょろろろ……」

賢者「……すー……すー……ん?」ピクッ

祝福された勇者「……」ムクリ

ガチャ…バタン

賢者「……勇者様?」

賢者「――武道家、起きてください」ユサユサ




武道家「ひゃっ……寝込みを襲うなんて……そんなのダメぇ、勇者ぁ///」

賢者「……」

武道家「……そうまでしなきゃあたしに勝てないってのぉ?……この根性無…………はっ」

賢者「……」

武道家「……」

賢者「……」

武道家「い、いやあの。これは、その、ね?」

賢者「付いて来てください」

武道家「……なんか言ってくれよ」

36: 2011/07/28(木) 11:36:18.12 ID:0bTRCMGX0

祝福された勇者「……」ザッ…ザッ…


賢者「ほら、あそこ」

武道家「ホントだ。あいつ、こんな夜中に何しに……?」

賢者「ひょっとして――私達と一緒にいては出来ないような事なのでしょうか」

武道家「え」

賢者「彼も年頃の男の子ですし、どうやら私の知らない事情がありそうですね」

武道家「えっ」

賢者「ふぅむ、外れの森まで行ったようです……」

武道家「えっ///」


武道家「……お、おい。あのさ、それって……あれなんじゃねーの」

賢者「?……あれ、とは何ですか」

武道家「ほら、あいつも一応男だしー……た、たまってるんじゃねーかな」

賢者「はい?……うーん、私には合点が行きませんね。もう少し具体的にお願いします」

武道家「え、えと。その…………やっぱいいや。な、何でも無いぜ!」

賢者「具合でも悪いのですか、武道家?」

武道家「ええーい、なるようになれ!見ちまったらそん時はしょうがねー!」

37: 2011/07/28(木) 11:40:54.45 ID:0bTRCMGX0

~外れの森~

祝福された勇者「結局……武道家と仲直り出来なかったな」
祝福された勇者「……どうして、僕は……いつも」

祝福された勇者「何が神託だ、何が『選ばれし者』だ」

祝福された勇者「僕は何も選んじゃいない……ッ!」
祝福された勇者「あの時、死んでいれば良かったんだ。町を襲った魔物に喰われて……」

祝福された勇者「そうしたら、そうなっていたら」

祝福された勇者「――僕はこの力で故郷の皆を……母さんを[ピーーー]事は無かったんだ!」

38: 2011/07/28(木) 11:47:02.64 ID:0bTRCMGX0



賢者「……勇者様……」

武道家「……」

賢者「そうですね。まだ本当なら、親の庇護の元で育つ時期」

賢者「厳しく接して来たのは自分なりの情でしたが……私ではとても、彼の親代わりにはなれないようです」

武道家「……」

武道家「……あたし、嫌いだ」

賢者「武道家、あなた……」

武道家「――『勇者』のあいつが、嫌いだ」

賢者「けれど、彼が勇者で無かったら。私たちは彼に会う事は無かったのでしょう」

武道家「……」

賢者「いえ、武道家。あなたは違いましたね」


賢者「あなたは、彼と同じ故郷の――」

武道家「関係ないよ」
武道家「――もう、関係の無い事なんだよ、それは」

賢者「そんな……それではあまりに」

武道家「……あたしの背中にある火傷のこと、あいつには教えないで」

武道家「世界が平和になったその時に……自分の口から伝えたいの」

賢者「そう。……宿に帰りましょうか、武道家。今夜は彼を一人にさせてあげましょう……」

39: 2011/07/28(木) 11:48:27.04 ID:0bTRCMGX0



祝福された勇者「……臆病だな、僕は」

祝福された勇者「賢人様から賜ったこの錫杖がないと、一人で外に出る事も出来ないなんて」

祝福された勇者「これは、僕が勇者であることの証だっていうのに……」

祝福された勇者「……今の僕には、それしか確かな物が無いんだ……」

41: 2011/07/28(木) 11:51:03.63 ID:0bTRCMGX0


チチチ…

祝福された勇者(……夜更かししちゃったけど、十分身体は休めたみたいだ)

祝福された勇者「今日、僕らが向かうのは魔王の巣食う地底魔城。少しの油断も許されない……」

賢者「勇者様、おはようございます」

祝福された勇者「あ、賢者。おはよ……」


武道家「――新しい朝だぁーっ!行くぞ勇者ぁーっ!!」

祝福された勇者「う……え?」

武道家「もう魔王の住処まで目と鼻の先!気合い入れてくぞ、おーっ!!」

祝福された勇者「お、おーっ」

武道家「元気が足りなぁーい!」

祝福された勇者「ど、どうしたの武道家……昨日はあんなに」

42: 2011/07/28(木) 11:54:09.88 ID:0bTRCMGX0

武道家「あの、さ。――勇者!」

祝福された勇者「ひゃいっ!」ビクゥ!


武道家「……昨日の事はあたしが全面的に悪い!すいませんでした!」

祝福された勇者「はひ!?……あ、うん……その、僕も気が立ってたと思う。ごめんよ」

祝福された勇者「武道家がうじうじした僕を嫌ってたのは分かってたはずなのに……」

武道家「だ、だからな。そのお詫びというか、この戦いが終わったら……」



武道家「――勇者の言う事何でも聞いてやるよ」ボソッ




祝福された勇者「え……それって、どういう」

武道家「さ、さー行くぞ!」

賢者「……ええ、行きましょうか♪」

44: 2011/07/28(木) 11:56:22.19 ID:0bTRCMGX0

~地底の魔城~

雑魚E「やいやいやい!」

雑魚F「ここは俺たち地獄の門番……」


祝福された勇者「即死魔法」


雑魚E「」

雑魚F「」



雑魚E(霊魂)「な、何が起こったのか(ry」

雑魚F(霊魂)「マジかよ……俺たちの出番こんだけかよ……」



武道家「どっせぇい!」

ドゴオ!

巨大石像「」ガシャア…

賢者「さ、傷を治しますよ」

祝福された勇者「……随分入り組んでる。それに長い迷宮だ」
祝福された勇者「でも、徐々に核心に近づいている感覚がある」

祝福された勇者「決戦の時……か」


45: 2011/07/28(木) 11:59:53.91 ID:0bTRCMGX0

~地獄門~

祝福された勇者「……あれ……?」

武道家「どーした、勇者。ここまできてビビってんのか?」

祝福された勇者「……違う……どうなって……」

賢者「勇者様、どうなさったのですか」

祝福された勇者「――扉の向こうから漂う力の『波』が、違う」

賢者「……何が起きたのでしょうか」

祝福された勇者「わ、わからないよ。とにかく進むしか無いみたいだ」

ギギ、ギ…


祝福された勇者「!」


オオオオオオオ…

魔王「……」

武道家「出たな、諸悪の根源!」

賢者「恐ろしい邪悪……勇者様……!」


祝福された勇者「……違う」
祝福された勇者「旅の先々で感じた魔王の気配……それが地獄門で、途絶えた」

祝福された勇者「その代わりにいるのが、今目の前にいる、怪物だよ」

賢者「え……!?」

武道家「じゃ、じゃああれは魔王じゃないってのかよ!」

46: 2011/07/28(木) 12:01:53.16 ID:0bTRCMGX0

魔王「……」

祝福された勇者「そうじゃない。これほどの力の波動……あれは魔王に相違ないよ」

賢者「では、一体あれは……」

祝福された勇者「なんにせよ、僕たちのする事は変わらない。魔王を倒して世界を救う、それだけだよ」

祝福された勇者「……変わったのは、その魔王が僕の想像以上の怪物になったってことだ」

武道家「しゃらくさいぜ!とっとと始めよ!」



魔王「――丁度良い。肩慣らしも済んだ処」

魔王「お前が、勇者か。……幼いな、その身で我に挑むか。だが、強さは年月を――選ばない」

47: 2011/07/28(木) 12:06:27.36 ID:0bTRCMGX0



武道家「勇者、腕が……腕が!」

祝福された勇者「だい……じょうぶだよ。痛覚はもう、遮断したから」

賢者「そんな事を言っている場合では……治療を!」

祝福された勇者「その魔法陣から出ちゃダメだ、二人とも!賢者は武道家を!」


魔王「……何という才覚か。貴様の魔法――最早数える事すら忘れたよ」

祝福された勇者「まだまだ、僕の舞台から君を降ろしはしない……ッ」


祝福された勇者「『劫火』」

       「『氷柱』」

       「『暴風』」

       「『断層』」

祝福された勇者「――『砕けろ、世界よ』!!」

魔王「……」ドドドドドドドド!!




祝福された勇者「これで……少しは……」



魔王「……惜しいな、勇者」ザッ…


賢者「大魔法を受けて……無傷!?」

48: 2011/07/28(木) 12:09:07.30 ID:0bTRCMGX0

祝福された勇者「……うっ、ゴホッ、ゴホ!」グラッ…

祝福された勇者(強力な魔法の連発で……体が……)


魔王「……」…ス

武道家「――やらせないよッ!!」

賢者「攻撃翌力強化、防御力強化!……武道家、頑張って!」

魔王「……」

祝福された勇者「だ、駄目だ。武道家……ッ!」

祝福された勇者(僕は何をやってるんだ。今、今立ち上がらなきゃ……!)フラッ…


武道家「反撃なんか許さないんだからぁ――!!」

ガガガガガガガガガガ!!

魔王「やはり……やはりこの勇者でも、届かない」

武道家「くっそ、手応えはあるのに……ちっとも……!」

賢者「私が遠隔魔法で支援を!」

魔王「……終わらせよう……」チリッ



祝福された勇者「ゴホッ……みんな――――!!」

……


49: 2011/07/28(木) 12:10:55.18 ID:0bTRCMGX0


賢者(……あれ。どうして私、空を見上げているのかしら)


賢者(ここは地底なのに、視界には灰色の空)

賢者(それに、ぽっかりと雲に空いた――穴)


賢者(……こんな……これほどの力の差が)

賢者(――勇者様は……武道家……あ)


賢者「武道家……あなたどうして目を開いたまま倒れているの?」


賢者「……ダメじゃない」

賢者「あなた、勇者様に言わなきゃ……伝え……なきゃ……」


賢者(……あぁ……段々、暗く……勇者様……ごめん、な……さ…………)


50: 2011/07/28(木) 12:14:04.73 ID:0bTRCMGX0


祝福された勇者「あ、あ……あぁあ……ッ」

魔王「我が呪法を耐えるか。神の眷族並みの魔法防御力も持ち合わせているようだ」

祝福された勇者「貴、様」ブチッ

――パリィン…!


魔王「……」

祝福された勇者「――万象の杖。『ここに全てを捧げる』」

魔王「……む?」

祝福された勇者「――最大出力――限界突破。余剰魔力を含めた全弾を装填――」

魔王「暴走している……力に呑まれたか」




祝福された勇者「  『円に始まりは無く、終局は訪れず』  」




51: 2011/07/28(木) 12:16:51.39 ID:0bTRCMGX0




魔王「……見ろ。お前の術で砕けた邪気がこの星全域に伝播するぞ」

魔王「世界を滅ぼす程の魔法も、我を死に至らしめる事は不可能だったようだな――」

魔王「いや、これも無意味なやりとりか」

魔王「聞こえていたとしても――理解できはしないだろう」

祝福された勇者「…………ぁ、」


魔王「――壊れた世界の壊れた勇者よ。もう、休め」



勇者は敗れ、そして。
――世界は終わってしまった。

52: 2011/07/28(木) 12:20:59.36 ID:0bTRCMGX0



・・

・・・














~???~

*「……!」

*「ここは、どこだ」

*「俺はまだ生きているというのか」

*「あ、あいつもひょっとして…………いない、か。俺だけ……はは」

*「くそ……くそぉッ……畜生」


「――おお、目が覚めたかね」

53: 2011/07/28(木) 12:23:40.88 ID:0bTRCMGX0

*「誰だ」


「私かね。私は――神だよ」

*「……な!?」

神「あぁ、誤解を避ける為言っておくが、私は君が最も理解しやすい言語に自らを充てたに過ぎない」
神「この姿も、今君がいる『星霜圏』についても、ね」

*「(確かに男にも、女にも見える……)俺は、どうしてここに」

神「それは私より君の知るところだろう……と言いたい処なのだが、生憎私は永遠の暇を持て余している」


神「語ろうじゃないか、あの破壊者――魔王と、この位相世界について」


54: 2011/07/28(木) 12:26:52.00 ID:0bTRCMGX0

神「この宇宙は全てが剣と魔法の世界」

神「構成された世界にはありとあらゆる種族が跋扈し、コミューンを形成し、それらに様々な形式で依存し敵対し、ヒトが生を営んでいる」

神「そんな世界が何層も何層も……クリエイターの私も数えきれぬ程成長し重なりあった結果」

神「この星霜圏――宇宙の外があるのだ」


*「話が見えん……つまり、俺がいたような世界が無限にあるということか」

神「それだけで十分だよ。認識が追いついているようで何より。これでも分かりやすく噛み砕くのに苦心しているのでな」

*「こんなトンデモ空間に連れて来られてしまったら、なあ。順応は早い方がいいだろ」

神「宜しい」


神「さぁ、続きだ。……そんな宇宙の片隅に、ある日『何か』が発生した。後に判明するのだがこれこそが」

神「――魔王だ」

55: 2011/07/28(木) 12:30:58.38 ID:0bTRCMGX0

神「私が事の重大さに気付いたときには、十数個の世界が崩壊していた」

神「理解できなかったのだ。魔王はとても純粋で、純真だった」

神「戦闘行為……いや魔王的衝動とでも言おうか。あれの正体はそれそのものだったのだ」

神「それ以外になんの混じり気もなく、完膚無きまでに――奴は『魔王』だった」

*「……おい、ちょっと待て。『十数個の世界』……だと?」

*「魔王は俺のいた世界を支配していたんじゃないのか」


神「鋭いね。あれはその世界の魔王を殺害し――君臨する。力尽くで位相の境界を抜けて、な」

*「なんで、そんな事を……」



神「待っているのさ――勇者を」

*「!!」

神「理由は訊いてくれるなよ、あれは『魔王』だ。それ以外の何者でもなく、それだけでしかない存在だ」

神「だから勇者を求める。そこに理由はいらない。本能のような物だと思ってくれていい」

神「ひとつの世界の魔王、またはそれに値するものを滅ぼし、現れる勇者を倒した上で、その世界を消す。その繰り返し」

*「そんな……そんなの、無茶苦茶じゃねぇか」

神「自らと相対する絶対の勇者的存在を求めて、延々と、永遠と、永劫と……」

神「――まさに今、この時も」


56: 2011/07/28(木) 12:33:15.65 ID:0bTRCMGX0

*「……お前が、止めろよ」

神「無論、過去に全力を持ってあれを抹消しようとしたさ。だが、結果は数個の世界を巻き込んだ上の無惨な敗北」
神「その戦争で私はあれに肉の体を削られ、灰燼と化された」

神「肉を失ったものは、もう現界に関わる事が出来なくなる。例えそれが、神であろうとも――」

*「それなら……どうすりゃいいんだよ!」



神「『勇者』を探せ。絶対的な魔王と戦う事の出来る、絶対的な勇者を」

神「魔王は勇者でなくては倒せない。これは不文律だ」

*「……」

*「――俺の世界にいた勇者は、勝てなかった」

*「薄れる記憶の中で……最後にあいつが首を刎ねられた瞬間が。この目に焼き付いて、離れないんだよ」


57: 2011/07/28(木) 12:35:33.07 ID:0bTRCMGX0

神「違うな。……勝てなかったのではない。届かなかったのだ」

*「何?」


神「その勇者は果たして血肉の全てに至るまで『勇者』だったかね」

*「……わけのわからねぇ事を」

神「敵は『魔王』だ。その全てが、魔王という情報で構成された存在だ」

神「ならばこちらに出来る対抗策は、『勇者』そのものである情報体を舞台に引っ張り上げるほか無い」

*「いるのかよ、そんなの」

神「――いる。確実に。私も実物を見た訳ではないが、その因子が深く根差した個体がいる事は事実だ」

神「しかし、それがヒトかどうかまでは……わからない」

*「どういう意味だ」


神「いや――情報の齟齬が発生している。ヒトの、人間の姿形をしている事は確かだ」

神「だが『勇者』が何を求め、どういった行動をとるのかは分からない」

神「『魔王』を私が理解出来なかったように……『勇者』もまた、独自の価値観でしか動かない可能性がある」
神「ヒトの倫理の通じる個であればよいのだが――」

*「……」

58: 2011/07/28(木) 12:36:48.70 ID:0bTRCMGX0

*「…………はぁー……」


*「……わかった、やるよ、俺」

*「『勇者』を、探しにいく」

神「……!」



神「……ここで私の話し相手として一生を過ごしてくれても構わんのだが、な」

*「そうもいかねえだろ。俺は、あんたが欲しくてたまらないものを持ってるんだから」


*「――まだ肉のある俺なら、世界に関わる事が出来る。だよな?」

神「気付いていたか」

*「だから助けてくれたんだろ、俺の世界の崩壊から」

神「……出来る精一杯の抵抗だった。私はもう『魔王とその真実を知る者』に託す事しか出来ないのだ」

*「へへっ。意外に腰は低いんだな、神様ってのは。この借りは……必ず返すぜ」

神「君が気にかける事は無い。私も、所詮は箱庭の主人を気取りたいだけさ――」


59: 2011/07/28(木) 12:38:01.51 ID:0bTRCMGX0

神「――ヒトの身でこの星霜圏を潜った事により、お前の肉体は位相を超える事が出来る」

神「どんな世界へ行くも、思いのままだ」

*「了解。さっさと勇者を捕まえて、俺も一緒に魔王を退治に行くとすっか!」

神「位相へ下る前に、もう一つだけ注文してもいいだろうか」

*「おう。この際探し物の一つや二つ、増えたって構いやしねーよ」


神「……勇者の手に、究極の剣を」
神「それでようやく『勇者』は『魔王』と同じ一つの個、神に等しき情報体と成る」


*「はッ。――純粋な勇者、純粋な魔王、それに究極の剣、ねぇ。テンプレ過ぎねえか、オイ」

*「んじゃ、行ってくる。元気でな、神様!」



神「――最早二度と会う事は叶わぬだろうな……肉を持ち生き延びた事。お前も物語の――」

……


60: 2011/07/28(木) 12:41:55.35 ID:0bTRCMGX0

――ここは魔帝に支配された世界
天空の国から地の底まで、境界の全てを侵し……残るは矮小な人間のみを残した世界
絶望が蹂躙するこの世界に現れたのは、闇に差す一筋の光。
そう、勇者である。


~大陸の王国~

兵士「勇者様が出立されるぞー!!」

ワーワー

女戦士「……騒がしいな」

女勇者「気持ちは嬉しいんだけどね」

国民A「これで貿易も復活します……何と感謝すればよいのか」
国民B「あの街道を塞いでいた魔物の所為で我々は本当に苦労していた……ありがとうございます」
国民C「それに復興作業まで手伝っていただいて……」

女勇者「みなさんにそう思ってもらえるだけで、ボクは満足です」ニコ

魔法使い「フンっ。真に賞賛されるべきはこのわ・た・く・しですのに」

僧侶「……ああ神よ、我々の旅に祝福があらんことを……おなか空きましたぁ、かみさまー」


少年「……」ぶんっ…ぶんっ…


女戦士「まったく、どいつもこいつも。……ん?何だ、あのガキ」


61: 2011/07/28(木) 12:43:16.19 ID:0bTRCMGX0

魔法使い「んまぁ、あの子供。誰もが救国の英雄の旅立ちに涙しているというのに……モチロン救国の英雄とはこの」

女戦士「城の芝生で素振りか。剣の方は錆びて使い物にならんだろうが、あの歳の子供には重かろうに」

僧侶「見たところまだ十二、三歳でしょうか?……へんな子供ですねぇ。――あ、こっち見た」

女勇者「身なりも貧しいみたい……親はいないのかな」

魔法使い「それ見なさい、わたくしを賞賛しないものだから兵士につまみ出されましたわ!」

女戦士「おまえ性根腐ってるぞ」


老婆「勇者様……あの子にはあまり触れないでいただけますか」

女勇者「――何故ですか?」

62: 2011/07/28(木) 12:44:47.69 ID:0bTRCMGX0
老婆「……この国に仕える兵士の一家が、十年前の魔帝軍との大規模な戦闘で行方不明になり……」

老婆「あの子が、その一族の一人息子らしいのですが……国に帰って来れたのも人買いに連れられての事」
老婆「……そうしてあの子は、その様子を哀れんだ民間学校の先生に買われたはいいものの」

老婆「どうも出来が良くなかったらしく、未だに読み書きができないそうなのです」
老婆「その先生も亡くなられてしまった今、あの子は本当に身寄りが無くなって……」

老婆「ですが、それから日がな一日剣を振り続けるのです。どこから拾って来たのやら」
老婆「誰が話しかけても声を返さず、黙々と剣を振る」

老婆「――父親の面影を追いかけているのやもしれませぬ。あの子は……悲しい子なんですよ」

63: 2011/07/28(木) 12:46:24.17 ID:0bTRCMGX0

女戦士「それは……重いな」

僧侶「ハードな人生ですぅ……」

魔法使い「……ほんのちょっと同情してさしあげても良くってよ」

女勇者「う……グスっ……うぅ…ヒック」ボロボロ

女戦士「いやお前はどんだけだよ」


女勇者「……よ、よぉし!」ズカズカ

魔法使い「勇者さん、どうなされたのかしら」


64: 2011/07/28(木) 12:47:51.96 ID:0bTRCMGX0

女勇者「そこの君!」

少年「……」ぶんっ…ぶんっ…

女勇者「聞いてくれっ!」

少年「……」ぶんっ…ぶんっ…

女勇者「ボクは、世界を救うよ!」

女勇者「君が笑える世界を作る!!」


少年「……」ぴた…


僧侶「あ」

魔法使い「剣を、止めましたわ」


65: 2011/07/28(木) 12:49:02.59 ID:0bTRCMGX0

少年「おねえさん……勇者なのか?」

女勇者「そうだ、そうだよ。――ボクが勇者だ!」


少年「……綺麗だ」


女勇者「へっ!?……あ、あぁいや、そ、そうかな?///」

少年「おれの知ってる女の人で一番、おねえさんが綺麗だよ」

女勇者「……そ……それほどでも///」カァァー

魔法使い「あらら、口説かれてますわよ」

僧侶「勇者さんウブ過ぎますぅ」

女戦士「だからどんだけ弱いんだよ……大丈夫か、あたしらの勇者」

66: 2011/07/28(木) 12:49:58.70 ID:0bTRCMGX0

少年「――おれを、仲間に入れてくれないか」


女勇者「えっ!?」

少年「……この国はあと五年後に、選定の儀が行われる」

少年「けど、そんなの待ってられないんだ」

女勇者「ちょ、ちょっと待って……!」

少年「どんな事だってする。だから」

女勇者「き、君。困るよ」


女戦士「――おい」

67: 2011/07/28(木) 12:51:51.61 ID:0bTRCMGX0

女勇者「戦士……」

女戦士「外に出たとして、おまえみたいなガキに何が出来る」

少年「……魔物と、戦ったり……」

女戦士「過去に戦闘経験は、あるのか。どうなんだ」

少年「……」

女戦士「いいか、この世界には『知らないもの』が虎視眈々とおまえを狙っている」

女戦士「……傷は痛い。血が出すぎれば死ぬ。毒をもらう事だってある」
女戦士「どれだけ身体を鍛えても、魔法で受けた痛みは和らぐ事は無い」

女戦士「そして森に、海に、切り立つ山々。旅の途中でも――そして、敵は魔物だけとは限らない」
女戦士「おまえの決意は立派だが、ここまで旅をして来たあたしらには言葉では示せない」

少年「……おれは……」

魔法使い「ま、十年早いですわね。立派な殿方に成長したなら愛人くらいにはしてさしあげますわ」

僧侶「あはは……この色ボケ勘違いはさておき、今の気持ちを大事にしていれば、君はきっと強くなれますよぉ」
僧侶「戦士さん、一番世話焼きなんだからぁ。興味無いなら声もかけないもんねぇー」

女戦士「……あ、あたしの勝手だろ」

魔法使い「僧侶さん、先程の台詞、どなたについて仰ったのかわかりませんが……ちょっと来て下さいまし」ビキビキ


少年「……」

女勇者「……ごめんね。君を仲間にする事は出来ないけど、きっと救ってみせるから」

女勇者「この、かけがえのない世界を。……だから、待ってて!」

68: 2011/07/28(木) 12:57:25.10 ID:0bTRCMGX0


少年「――約束は、出来ない」
少年「でも、待ってるよ……勇者のおねえさん」



道具屋「行っちまったなぁ、勇者様達」

老人「みんな美人さんだったのー」

武器屋「くそぅ、稼ぎ時だと思ったのに。見た事もない武器を全員が……」

防具屋「アンタぁ!店番どうしたんだい!?」

武器屋「……俺の妻も昔は……昔は天使だったんだ……」



老婆「――おや、珍しいことだねえ。今日は素振りはお休みかい?」

少年「……」

69: 2011/07/28(木) 12:58:26.29 ID:0bTRCMGX0

~???~

赤い魔族「――どれだけの拠点が潰された」

青い魔族「数えるのも億劫になる位、だの。妾は面倒臭いのは嫌いじゃ」

黒い魔族「ウゴゴ……魔帝様に申し開きが立たんぞ」

白い魔族「……勇者一行は少数で行動し、奇襲を仕掛ける戦法をとっている」

赤い魔族「こちらから仕掛けるのも難しい……か」

青い魔族「ふぅ……兵士として強化された魔物を次々と消されては立つ瀬が無いよの」

黒い魔族「……俺様の領地に侵入したなら、即座に息の根を止めてやる……」


白い魔族「勇者め……この事を魔帝様には漏らすな。我らの手で終わらせるのだ」

70: 2011/07/28(木) 13:00:36.71 ID:0bTRCMGX0

~禁縛の牢獄~

女勇者「はぁッ!」ズバッ

獄長「ゴボォ……ッ」ドロォ…

魔法使い「やりましたわ!さすが、わたくし率いる中でも随一のしもべ!」

女戦士「調子のんな」

エルフ「こんなところに助けが来るなんて……なんとお礼をすればよいのでしょう……」

僧侶「あなた体中に傷が……酷いですぅ、治療して差し上げますぅ……」



女戦士「まだ奥に少数のエルフがいるようだが、生存者はそれだけか……地獄のようだな」

魔法使い「エルフは全滅したと聞き及びましたが、このような場所に監禁されているなんて」

エルフ「……女王と、その側近は魔の手を逃れる事に成功しましたが……」

エルフ「立ち向かおうとした者達も多く、ほとんどのエルフは……」

エルフ「……残された我々がどのような扱いを受けていたのかは……察して下さい」

僧侶「大丈夫です。空気読めないのは魔法使いさんだけですよぉー」

魔法使い「……ちょっと僧侶さん、こっちに来て下さいまし」ビキビキ

女勇者「許せない……魔帝軍!」ギリッ

71: 2011/07/28(木) 13:02:40.51 ID:0bTRCMGX0

僧侶「これでよし、と。良ければ近くの集落にお連れしましょうかぁー?」

エルフ「いえ、そこまでしていただかなくても……」

魔法使い「何言ってるんですの。人の親切はありがたく受け取っておきなさいな」

エルフ「みなさん……」

エルフ「……」

女勇者「?」

エルフ「……私、みなさんにお伝えしなければならない事があります」

女戦士「その様子からすると、魔帝軍の内部情報といったところか」

エルフ「――はい。ですが……」

女勇者「……教えてください。どんな事でも構いません」



エルフ「…………魔帝が、孤島の城にいるという話を……耳にしました」

僧侶「孤島の城って……世界の中心と呼ばれる大結界の湖にある、あの王城ですかぁ!?」

女戦士「魔帝の本拠地だと!?……罠じゃないのか、勇者」

エルフ「赤い髪の魔族が獄長と話していた事です。私、すぐ隣で聞いていましたから……おそらく事実でしょう」

魔法使い「!……あなた、あのおぞましい怪物の……その首輪、下着同然の格好。……惨い話ですわね」

僧侶「ほらやっぱり空気読めない~……」

魔法使い「……今のは話の流れでしょうが」ビキビキ

女勇者「赤い髪の魔族……マグマ・ピックを領土とする幹部、炎の魔人」

女勇者「――ボクは信じるよ、君の話を」

72: 2011/07/28(木) 13:04:08.72 ID:0bTRCMGX0

~とある森の中~

*「……」

老練の戦士「おい、そこのお前。何をしている――ここは危険だぞ」

*「……おじさん、強そうだ」

老練の戦士「お前は強くなりたいのか?」

*「……」

*「……ううん……」

老練の戦士「ならば、何故このような処にいる。ここは己の腕を磨く土地」

老練の戦士「覚悟を持たぬ者が来るべき場所ではない」

*「わからなく、なってしまったんだ」


*「自分が何の為に生まれて、何をすればいいのか」

*「答えが無いのはわかってる……でも、知りたいんだ。このまま時間が過ぎていくだけなのかな……」

73: 2011/07/28(木) 13:05:55.17 ID:0bTRCMGX0

老練の戦士「……」

老練の戦士「お前、俺の弟子にならないか?」

*「……どうして」

老練の戦士「俺はな、ずっと旅をしてきた。長い長い、旅だ」

老練の戦士「我ながら情けないが、この歳になってさえ見つけられないモノも、ある」

老練の戦士「だがそれでいいとは思っていない。大切なのはあきらめない事だ」

老練の戦士「――ひとつは、見つける事が出来た。……随分時間がかかってしまったがな」


老練の戦士「おまえに、俺のすべてを教えよう」

老練の戦士「知識も、技術も、強さも……そして、かけがえのないものも」

老練の戦士「これは手助けだ。お前が答えを見つけられるようにな」

*「何でそこまでしてくれるんですか……?」


老練の戦士「――俺にはもう、時間がない。保って三年、いや、おそらくそれを待たずに死ぬだろう」

*「!」

老練の戦士「何の事は無い、ただ、自分の命の期限を理解しただけだよ」

老練の戦士「しかしまだ、まだ死ねない。――出来る限りの悪あがきを、してみたくなったのさ」


老練の戦士「……それにお前はどことなく、あいつに似ている」

74: 2011/07/28(木) 13:06:41.74 ID:0bTRCMGX0

~胎動する孤島・対岸~


女勇者「知らなかった、大結界にこんな隠し通路があったなんて……」

魔法使い「赤い雲が島のほとんどを覆い隠していますわ……」

僧侶「……言葉で言い表すのも嫌悪を催します……不吉ですぅ……」

女戦士「この辺りの魔物……一体一体が段違いに強い。あのエルフの言葉は真実だったのか」

女戦士「……まさか、地方を統べる四人の幹部より先に魔帝と対決する事になろうとはな」

女勇者「――魔帝はすべての魔族を屈服させて頂点に立った。それなら、その頂点を崩せばいい」


女勇者「終わらせるんだ、今日……ここから」

75: 2011/07/28(木) 13:08:02.84 ID:0bTRCMGX0


~孤島の入り江・審判の塔~

僧侶「やっと孤島に辿り着きましたぁ。この時点で結構疲れちゃいました……」

女戦士「しっかりしろ。魔帝の居城が目の前にあるんだぞ」

魔法使い「そうですわよ、僧侶さん。わたくし達は、勇者さんを助ける為にここにいるのですから」


僧侶「魔法使いさんがマトモな事言ってる……もしや、何かの前触れ?」

魔法使い「……」ビキビキ

女戦士「よーしよし、その辺で」

女勇者「……みんな、ありがとう」

女勇者(けれど、魔帝を倒す事が出来るのは勇者の一太刀)

女勇者「ボクが、ボクが世界を救わなきゃ――いや、救うんだ!」

76: 2011/07/28(木) 13:09:05.86 ID:0bTRCMGX0



天神『――』

地祇『――』

女戦士「なんだ、こいつら。敵か?」

女勇者「いや、ただの石像……みたいだよ」

魔法使い「ふん。わたくしの鼻はごまかせませんわ。この石像からは」

僧侶「とても強い、神の啓示――でしょうか。そのような力を感じますです」

魔法使い「……あなた、もしかして狙ってやっているのかしら?」

僧侶「むむ、何のことですかぁ?」


天神『――来る』



女勇者「喋った……!?」

地祇『――幾万の世界を滅ぼし』

天神『――幾億の死を引き連れて』

天神・地祇『『一巡した位相へ。破壊者が再び帰ってくる』』

天神『今一度、無にしようというのか』

地祇『あれの生まれしはじまりの場所、この世界にて』

天神『繰り返そうというのか』

地祇『誰も、何も、抗う事すら許さぬ魔物の王よ』

天神『――力無き者よ、去るがいい』

地祇『まだ変革は訪れぬ。――時を、時を待つのだ』



女戦士「何だっていうんだ、思わせぶりな口調しやがって。身構えて損したよ」

僧侶「今のって……警告、ではないでしょうか」

魔法使い「あらあら。あーいうのは魔族お得意の『脅迫』ですわよ、僧侶さん」

僧侶「で、でもぉ……」

女戦士「心配するな。あたしらがついてるじゃないか」

女勇者「……」

女勇者(あの石像達、ずっとボクだけを見つめていた)

女勇者(……破壊者が帰ってくる……今一度……はじまりの場所、この世界……)

(『――力無き者よ、去るがいい』)

女勇者「うん。大丈夫、大丈夫さ!――きっと!」

77: 2011/07/28(木) 13:11:07.79 ID:0bTRCMGX0



~孤島の王城~

改造魔獣「」グチャア……

翼竜「」ズズ……ン

女勇者「みんな、怪我はしていない?」

魔法使い「だ、誰に物申しているつもり……かしら」ゼイゼイ

僧侶「敵が強いですぅ。私も攻撃魔法を使った方が良いでしょうか」

女戦士「過剰な消耗は控えろ、二人とも。まだ大将が残ってるんだからな」


女勇者「……こんなに雲が近くに見える……王宮に迫っているみたいだ」




魔法使い「――初めて見る魔物に驚きはするものの、そこまで被害はありませんわね」

女戦士「そうだな。あたしらが強くなった証拠だろう」

僧侶「きっと、魔帝にも勝てるよねぇー」

女勇者「みんな、気を引き締めなきゃ」

女戦士「わかってるよ、勇者」

魔法使い「わたくしはいつでもどこでも全力全開ですわ!」

僧侶「……あなたは少し自重した方がいいですぅ」

女勇者(……戦士……魔法使い……僧侶……)

女勇者(本当に頼もしくなったなぁ。……ボクがここにいられるのは、みんなのおかげだよ)

78: 2011/07/28(木) 13:12:57.64 ID:0bTRCMGX0


~王宮の回廊~


僧侶「ぴっかぴかですぅー……気持ち悪いくらいに」

魔法使い「魔族といえど統率者、ということですわね」

女戦士「あの、扉の向こうに……」

女勇者「――魔帝が、いる」ゴクリ


ドガアアァァ!

勇者一行「!?」



魔法使い「な、何ですの!?」

女戦士「扉が内側から……何か強力な力に吹き飛ばされた」

僧侶「む、向こうから突っ込んでくるなんて斬新ですぅ……」

女勇者(なんだろう……胸騒ぎがする)

女勇者「……扉の、向こうに行こう。ここにいても変わらないよ」

ザッザッザッ……



79: 2011/07/28(木) 13:13:53.82 ID:0bTRCMGX0


~王宮・孤島の胎内~


「――貴様、何者だ……?」

*「……」



僧侶「銀の長髪、見るものに畏れを抱かせる美丈夫……」

女戦士「やつが――魔帝か!」

魔法使い「ですが……あの男が魔帝として、隣の大男は……?」

女勇者「力を持った魔族の謀反、かな」


魔帝「余に――剣を向けるか。どこの馬の骨とも知れぬ魔物よ」

*「……消えろ。お前に興味など無い」

魔帝「余を知らぬと。いよいよ命が惜しくないようだ……何が望みか、侵入者」

*「その座を寄越せ」

魔帝「クカカッ、世迷い言を。これは余を余たらしめる証左よ――退けというなら」

魔帝「己が力で奪い取るといい!」


*「……そうさせてもらおう」

80: 2011/07/28(木) 13:15:59.97 ID:0bTRCMGX0


女戦士「お、おい。ちょっと待て」

僧侶「魔帝が、負けそうですよ……?」

魔法使い「相手の魔物は魔帝の攻撃を避けようとさえしませんわ……」

女勇者「……ボク達は今、とんでもないものを見ているのかも」



魔帝「が、があああッ!――おのれ、おのれ下等種族め!」

*「……」

魔帝「……余はこれが真の姿ではない。その鉄仮面、引き裂いてくれるわ……」メキメキ…!


女戦士「やばいぞ、伏せろ!」

ゴオッ!!



デーモン「――余ノ怒リニ触レタモノヲ……生カシテハオカン!!」

81: 2011/07/28(木) 13:17:03.58 ID:0bTRCMGX0

勇者は目を見開き、戦士は立ち尽くし、僧侶は神に祈り、魔法使いは力無く膝をついた。
「悪魔だ」勇者は視線の先――姿を変えた魔帝を見上げて呟いた。
女と見紛う容姿は一転して鬼の形相へ変貌し、流れる銀の髪は逆立ち天を衝く。
四対の黒翼が王宮の天井絵を覆い隠し、その中心点に座する双眸が怜悧に大男を貫いた。
これが、魔帝。この世界に君臨する、最恐にして最凶にして最狂にして最強の存在。
対する鉄屑の固まりは、荘厳な邪気を放つ支配者を見つめる。
まるで芋虫が――太陽へ立ち向かおうとでも云うかのように。

*「…………幻滅だな」

しかし芋虫が口にしたのは、存外に醒めた声だった。
その態度に訝しみ、渋面となった魔帝に、鎧の大男は続けて言い放つ。

*「お前の役目は前菜だというのに、それにすら至らぬ」

禁句、などと言うにも軽卒過ぎる、文字通り神さえ恐れぬ無遠慮な台詞であった。
悪魔と化した魔帝のこめかみに太い青筋が浮かんだ。感情の昂りと共に地鳴りが響き、王宮が震える。

デーモン「貴様、ドコマデモ不遜ヲ貫クカ――余ノ前カラ塵トナリ、失セロ!!」

怒りをひた隠すように凶悪な笑みを表情筋に張り付けた魔帝は、天を仰ぎ腕を掲げた。
空間に集束する黒い球体が生じる。それは不気味に軋りながら地獄の狂気を漏らし、成長する。
その黒球がこの島ごと消し飛ばせる威力を秘めていることを、勇者は直感で理解したが、時既に遅し。
不敵な高笑いと同時に、地形を崩す一撃が――


*「虫が羽虫になったところで、潰せば死ぬのに変わりはあるまい」

――振るわれる、その前に。
黒球ごと、魔帝そのものが――ひしゃげた。

82: 2011/07/28(木) 13:18:59.52 ID:0bTRCMGX0

魔法使い「えっ」


僧侶「嘘」


女戦士「……変身した魔帝が、一撃で……」


女勇者「つ、潰れて……うっ……」



オオオオオオオ…


*「……」
*「……さて、この状況。非常に不本意だが」

*「――客人の相手をしよう」

83: 2011/07/28(木) 13:21:07.65 ID:0bTRCMGX0

女戦士「ッ……逃げるぞ、勇者」

女勇者「おぇ……ど、どうして……」

女戦士「彼我の実力差もわからねえのか!あんなの、あたしらの手に負える訳ねえだろ!」ガッ

僧侶「は、早くぅ!」ダッ!

魔法使い「こんなの、こんなの想定外にも程がありますわ!」ダダッ!


*「……不可解な行動をする」トッ


女勇者「は、はぁっ……ハッ……」タッタッタッ…

ズズゥン!

女勇者「……ッ!」




*「我が名は魔王」

魔王「故に、我が眼前から逃走は――許されない」


84: 2011/07/28(木) 13:22:48.10 ID:0bTRCMGX0





魔王「なんだその火花は。我と戯れるだけの度量も無く、ここへ来たのか」

ザクッ

魔法使い「か……はっ」




魔王「神に祈るか。お前達人間は都合のいい時だけ信心深くなる」

ズバァッ

僧侶「あ……ぁ」




魔王「どうした。我の知る中にはお前より強い女など、星の数もいるぞ」

ドシュッ

女戦士「ッ……すまない……ゆう、しゃ」






85: 2011/07/28(木) 13:25:20.08 ID:0bTRCMGX0

女勇者「   」




女勇者「……今……何が、起きたの」

女勇者「ち、血が……血で……一面……」ヌル……

女勇者「うぁ、あああああああぁぁ」

女勇者「どうしてぇ、みんなぁ……」ボロボロ

ズン…ズン…

魔王「……」



女勇者「……よくも、よくもみんなを……」

女勇者「殺してやる……殺してやるッ……!」

ガッ… ドカッ…

魔王「……」

バキッ… バシッ…

女勇者「……棒立ちの……ままなのに……う、うぅっ」

女勇者「あああああああああ!」


86: 2011/07/28(木) 13:27:04.21 ID:0bTRCMGX0

女勇者「ふ、うぅ。くっ……ひぐっ……グス」

魔王「……」
魔王「……我は、今までに数えきれない勇者を目の当たりにした」

魔王「熟練の戦士と二人で挑んで来た、天上の祭剣を持つ王女」

魔王「……あれは女であったが、この魔王の胸に一文字の裂け目を創ったものだ」

魔王「仲間を逃がした上で我に向かって来た、強さの求道者」

魔王「……己の命を燃やしてまで放った剣は、右の腕を丸ごと落とされたぞ」

魔王「数多の魔法を息をするように使いこなす者もいた。誰より幼くして」

魔王「……丁度今のお前のようになると、世界ごと我を滅そうとしたな」

魔王「誰もが、様々な形の勇者であった。――お前は、何だ?」


魔王「それがお前の、すべてか?」


87: 2011/07/28(木) 13:29:18.72 ID:0bTRCMGX0

女勇者「う……くぅっ」

女勇者「……せ、世界を救うんだ……」キッ

女勇者「ボクは、誰もが笑える世界を作るんだ!」


魔王「……そうか」

魔王「お前の願いは叶うだろう」

女勇者「え……」

魔王「勇者が死に、この地上が一掃された後で」
魔王「――悪党の誰もが笑う世界にな」



女勇者「そ、んな……」ガクッ

魔王「……」


(『『破壊者が再び帰ってくる』』)


女勇者(――あの石像の言葉通りに……なってしまった)


バタァン!


赤の魔族「くっ……伝令が遅すぎた!」

青の魔族「よもや先回りされるとはの……」

黒の魔族「魔帝様ぁー!」

白の魔族「待て……なんだ、あれは」

88: 2011/07/28(木) 13:31:58.20 ID:0bTRCMGX0

黒の魔族「なぁっ!?……魔帝様が、ぺしゃんこに……」

青の魔族「……ま、魔帝様……」

赤の魔族「何だと……!?」


魔王「……」

女勇者「ひっ、ひぐっ……うっ」


黒の魔族「ウゴゴ……やつが、魔帝様を……!」

白の魔族「隣の女は……あの服装、まさか勇者か!?」

赤の魔族「……貴様ァ……ッ」メキメキ…!


イフリート「――消シ炭ニシテクレル!!」ゴゴゴゴゴ…

イフリート「ゴオオオオアアアアアアァッ!」ドウッ!

――バシィッ!

魔王「……ぬるいな」

イフリート「な……俺の炎拳をまともに喰らっておいて、平然と……!?」

青の魔族「イフリート!」

黒の魔族「お、俺様も……!」メキメキ…!

白の魔族「――やめろ。イフリートも、拳を引け」

イフリート「何ィ……?」

魔王「……」


白の魔族「……初めまして。我々は魔帝の幹部を務めていた者です」

89: 2011/07/28(木) 13:32:52.70 ID:0bTRCMGX0

魔王「……どういうつもりだ」

白の魔族「貴方も無関係ではありません。とても、重要な案件なのです。……まずは」

白の魔族「――魔帝就任、おめでとうございます」

イフリート「!?」

青の魔族「……何を考えておるのじゃ……」

黒の魔族「ウゴ?」

魔王「そんなものになったつもりは無い」

白の魔族「貴方にとってはどうでもいい事でも、こちらはそうはいかないのです」



白の魔族「我ら魔帝軍はこの世界を我が物としようと進行中です」

白の魔族「しかし……軍の全権を持つ首領を、貴方が殺害してしまったのですよ……」

白の魔族「……その責任を、取ってもらいたいのです」

魔王「我には何の関係もない話だ」

白の魔族「せめて、形だけでも……就いていただきたい」

魔王「この世界にも、もう用は無い」

白の魔族「……くっ……」タジ…

魔王「――勇者の首を刎ね、地上を塵殺し、我は次の位相へ飛ぶ」

ザッ…

魔王「……死ね」

90: 2011/07/28(木) 13:34:01.17 ID:0bTRCMGX0






女勇者「……う、うぅっ……ひっく……ふ、ぅう……」

魔王「……」

女勇者「こ、ころして。もう、いきていたく、ないよ」

魔王「……」




魔王「……」すっ

白の魔族(手を、降ろした!?)

女勇者「……みんなの、ところに、いきたい」



魔王「……」

魔王「これは勇者では無い」

魔王「――ただの女だ」

91: 2011/07/28(木) 13:35:14.25 ID:0bTRCMGX0

黒の魔族「……?」

青の魔族「良心の呵責かい、甘いのぅ。まぁ、可愛らしい娘じゃが」


魔王「……興が削がれたわ」

魔王「世界を壊すのはいつでも出来る。それに……我は飽いだのやも知れぬ」

白の魔族「で、では!」


魔王「――貴様らの将となろう。だが、我はここに座するのみだ」

白の魔族「構いません。これからはこの私が軍を統率し、世界を支配しますので……」


イフリート「……野郎。コレガ最初カラ狙イダッタノカ……」

黒の魔族「えぇと。あいつが魔帝様で、殺したのも魔帝様で……あり?」

青の魔族「虎の威を借る狐そのものじゃの。だが、面白くなって来たわ……」




勇者は敗れ、そして。
――まだ世界は終わっていない。

――この物語は、まだ――


92: 2011/07/28(木) 13:37:55.90 ID:0bTRCMGX0

――ここは魔王に支配された世界
現れたのは闇に差す一筋の光か、それとも。
そう、それは……


~五年後/大陸の王国~


道具屋「あの時国を救ってくれた勇者様達が魔王に敗れてから、もう五年か……」

老人「魔帝を遥かに上回る怪物……この世界はどうなってしまうんじゃ」

武器屋「人の多い土地はまだ何とか持っているが、瘴気の雲が空を覆って……これ以上侵攻されたら……」

防具屋「アンタぁ!すんごい武器作って魔王倒してきなっ!」

武器屋「あぁ……帰って来ておくれ、俺の天使……」



老婆「まったく、どいつもこいつも。……ん?あの子、今日はいないねえ」
老婆「今日という日はあの子にとって、特別であるはずなのに」

ザアアアアアア……


93: 2011/07/28(木) 13:40:14.46 ID:0bTRCMGX0

国王「……皆の諸君。待ちに待った、我らの未来が託される時だ!」

ザワ… ザワ…

国王「今日。闇色の雲すら押しのけて、日輪の照らすこの晴天の良き日」

国王「神託を受けるもの――勇者が生まれる」



国王「これより、選定の儀を執り行う!!」


オオオオオオオオー!!



ザワ… ザワ…

兵士「フフフ……ついにこの俺の隠されし力が」

主婦「ひょっとしたら、あたいかもしれないよ!」

中年「選ばれたら本気出す」

子供「ゆーしゃ、ゆーしゃ!」



大神官「……」

大神官「!」

大神官「……こ、これは……」



国王「……結果が出たか」

大神官「し、しかし」

国王「いかなる結果であろうと、それが世界の声だ」

大神官「……わかりました」



ザワ… ザワ…

大神官「……集まった国の民よ。心して聞きなさい」

大神官「神託は……神託は」

大神官「……」

「早く言え!」
「不安を煽るつもりか!」



大神官「…………勇者は、いない」

94: 2011/07/28(木) 13:41:57.14 ID:0bTRCMGX0

~とある森の中・小さな墓標~

*「……」

*「答えを伝えられなくなってしまったのが唯一、心残りだ」

*「まだ、世界は終わっていない」

*「――行ってくるよ、師匠」


ザッ…ザッ… ザッ…  ザッ…   ザッ…    …

95: 2011/07/28(木) 13:43:02.06 ID:0bTRCMGX0

~孤島の王城~


雑魚G「今日も今日とて見張り見張り~」

雑魚H「……な、なあ」

雑魚G「なんじゃらほい」

雑魚H「ひ、姫様。か……可愛いよな」

雑魚G「おぉーう新入り君、お目が高い!」
雑魚G「あの女は、かつて魔王様の命を狙った勇者なのだよ」

雑魚H「な、なんだってー!」

雑魚G「ところが魔王様に見初められ、殺されずに城で暮らす事になったんだぜい!」
雑魚G「手を出そうものなら……ぷちっと。先代魔帝のよーに……くーくっく」

雑魚H「ガクガクブルブル」


96: 2011/07/28(木) 13:44:06.56 ID:0bTRCMGX0

女勇者「……ボクは、何をしているんだろう」

女勇者「憎き敵の本拠地で、生かさず殺さず飼われている」

女勇者「こんなドレスまで着せられて……」ファサ

女勇者「髪も随分と伸びた。鍛え上げた筋力は衰えて、かわりに体は柔らかくなった」

女勇者「日ごとに、自分が女性である事を実感させられる」

女勇者「勇者にはもう、戻れないのかな……」


女勇者「……あの日から、魔王は玉座から微動だにしない」

女勇者「一言も発する事無く、まるで眠り続けているかのよう」

女勇者「そして、ボクは……自害する事も出来ない弱い女だ」

女勇者「いや――人類全ての裏切り者だ」


97: 2011/07/28(木) 13:46:45.86 ID:0bTRCMGX0


~深緑の樹海~


*「……」

ザッ…ザッ…ザッ……

樹木の怪物「キキィー!」

野生の猛獣「グルルルル」

*「……」

ザッ…ザッ…ザッ……

樹木の怪物「キ?」

野生の猛獣「がう……?」

ザッ…ザッ…ザッ……


エルフ「……不思議な人……」






~樹海最奥~


黒の魔族「ウゴゴ、俺様の支配下に侵入者だと……?」

*「……」

黒の魔族「獣や樹々に気取られず、どうやってここまで来た」


*「……おまえは、おれの敵か」

黒の魔族「フン、語らずか。どちらにせよ、ここは俺様の領地……命を喰らう樹海」

黒の魔族「立ち入りしヒトを生かして返す事など――有り得ん!」メキメキ…!

*「……」


ベヘモス「――コノ俺様ノ贄トナレ!!!」


98: 2011/07/28(木) 13:48:27.13 ID:0bTRCMGX0

黒衣の禿頭が変貌したのは、巨きく、そして醜く肥大した筋骨で全身を囲った甲冑の猪、ベヘモス。
周囲の大樹を押し倒し、引き千切りながら――その暴力的と評せざるをえない質量が襲いかかって来た。
はち切れそうな程に膨張したベヘモスの鉄蹄を伴う両腕が、『彼』へ叩き付けられる。
だが、それが振り下ろされ、盛大に粉塵を舞わせたその時には既に、姿はなく。
ベヘモスの脇の辺り、巨影の隅で銀の閃きが踊った。
噴出したどす黒い血飛沫が青々とした葉を汚す。
片腕を半ばまで抉られたベヘモスは怒気を露にして、後方へ流れるようにして移動した彼を睨んだ。
その手に収められている得物は、彼に不釣り合いな大きさの、それでいて古木の如く朽ちた――大剣。
人間の膂力で振るえるかどうかという、その巨大な刃物を、彼は重量を感じていないとでも言うかのように悠々と構えた。

*「ここに来るまでに、沢山の亡骸を見た」

ぽつりと、彼の口が漏らしたのは、独り言のように宙に消える一言。
少なくとも、殺し合いをしている者の口調ではなかった。

ベヘモス「ソレガ、ドウシタ!?当然――弱イ者ハ死ニ、強キ者ガ生キ残ル!」

当たり前だと言わんばかりに、ベヘモスは血管を全身に浮かび上がらせ、吼えるようにして言葉を返した。
抉られた方の腕を持ち上げ、膨張した筋肉をさらに隆起させる。そして無惨な断面を見せつける形で言葉を吐いた。

ベヘモス「コノ世ノ、摂理ダ!」

叫ぶと同時に、千切れかけたその腕が瞬く間に再生する。血管が伸びて繋がり、皮膚が被るようにして埋まった。
調子を確かめるように蹄を回すと、獰猛な笑みをこちらに向ける。
そのまま対象を肉塊へ変えてしまおうと突進してくるベヘモスに、彼は静かに宣告した。

*「――なら、今日はおまえの番らしい」


99: 2011/07/28(木) 13:49:01.63 ID:0bTRCMGX0


~孤島の入り江・審判の塔~

赤の魔族「……ベヘモスが死んだ、だと」

白の魔族「我々幹部を葬れる程の実力者が、まだ生きているというのか」

青の魔族「おまけに部下には只の一人も損害無し、と。内通者でもいるのかの」

赤の魔族「……口にしたくはないが、あの魔王を敵に回す気概のある者が……いると思うか?」

青の魔族「さぁの……少なくとも妾は御免じゃ」

白の魔族「頭を失い、樹海方面軍は自壊……数が取り柄の軍団だったというのに」

赤の魔族「気をつけるんだな。――次はお前達の領地かもしれんぜ」

青の魔族「それはお互い様じゃろうに。……ふ、お前様が死んだら涙でも流してやろうかの?」

白の魔族「冗談ではすまない事態だ。陸、海、空……どこでもいい、虱潰しにかかれ!」


100: 2011/07/28(木) 13:50:03.58 ID:0bTRCMGX0

~幽谷~

巨龍「――ここに人が来るたぁ珍しいこって、それも一人きりとは」

*「貴方が、伝えられている神の使いか」

巨龍「……よぉ、人間。お前なんだってワシの言葉がわかるんだよ」

*「習ったんだ、師匠に。それより、連れて行って欲しいところがある」

巨龍「あぁ?天空城はもう墜落した。天使も、神も死んじまったよ」

巨龍「それにワシはもう引退だ、引退!世界がどうなろうと知らねえよ」

*「違う……『海の大穴』だ。おれには船が無いから、自力で行けない場所はそこだけだ」

巨龍「海の……あの悪魔の口に?お前……何をしにいくつもりなんだよ」

*「頼む」

巨龍「……」


101: 2011/07/28(木) 13:50:52.76 ID:0bTRCMGX0

~とある森の中~

妖精女王「あなたが、あの者に神龍の聖地を?」

エルフ「……教えて良かったのか、わかりませんが……決して悪い方では無いと思うのです」

妖精女王「この森を教えられた恩がありますものね……咎めはいたしません」


妖精女王「勇者がいなくなったこの世界で、あの者は瞳に輝きを宿していた」

妖精女王「その輝きがなんなのか。それはわたくしにもわかりかねますが……」

妖精女王「我々はそれに祈りを託す他無いのですね」

エルフ「――あの方に、大地の守護があらん事を」


102: 2011/07/28(木) 13:52:46.77 ID:0bTRCMGX0

~海底神殿~

半魚人「」ビク…ビクッ

地獄蟹「」ブクブク

*「……」

青の魔族「――フフ、海の魔族は気性が荒かろう?」

青の魔族「手傷は無しか。使えぬ下僕どもよ……」

*「……おまえは、おれの敵か」

青の魔族「言わずもがな。……わざわざ、このような海の底まで足労だったのう」メキメキ…!

*「……」


レヴィアタン「――藻屑ニシテ餌トシヨウゾ……!」


103: 2011/07/28(木) 13:54:42.58 ID:0bTRCMGX0

青い衣の女が化生したのは、蠱惑的に濡れ、滑る鋭い鱗が連なる、長大な海蛇。
変じた瞬間、鰭を持つ大蛇レヴィアタンは、水流の早さでにじり寄り『彼』を急襲した。
およそ常人の目で追うのが不可能な速度で食らい付いてきた蛇頭の毒牙へ、即座に彼は対応――体の軸を逸らし回避する。
文字通り舌を打ち、翻ったレヴィアタンを待ち受けていたのは剣戟の嵐。
銀の光は骨に到達する程深々と鱗を貫き、分厚い鰭を刺身のように裁断し、さらに剣の巻き起こす風圧で海底神殿が傾いだ。

レヴィアタン「ァ、カハ……ココマデトハ……貴様……」

黙して語らず。着込んだ鎧の奥に感情は見えず。ただ寸分の隙もなく、彼は剣を構えこちらを見つめる。
己の内から流れ出た体液に塗れる蛇体が、ざわめいた。レヴィアタンは震撼する。
「こいつは、本物の怪物だ」と。
彼の握る大剣の切っ先を注視しながら、舌で甲高い音を鳴らし、レヴィアタンは大きな挙動で鎌首をもたげる。
その途端、床一面がめくれ上がり、奥から無数の奔流――海水の鏃が飛び出した。再度、彼の不意を打たんと。
自らの臓腑を貫かんと迫る液体の槍を目にして尚、微動だにしない兜の向こうで……光る瞳が少しだけ、揺れた。
銀色の流星。
勝利を目前とした海蛇は一瞬それに目を奪われ――そしてまた一瞬のあと、物理的に目を奪われた。

レヴィアタン「ギ、ギャアアアアァッ!!!」

痛い、痛いとのたうちながら転げ回り、悲鳴を軋ませ海底神殿の柱や壁をことごとく打ち崩していく。
それを視界の端に映しながら、彼は大剣を下段に構えた。まるで天井を撫ぜる海蛇の顎を、縫い止めるかのように。

*「……人は死せる時、人生の問いに答えが出るという」

神殿の間に厳かに響いた静謐さすら宿る声に、レヴィアタンは氷の彫像の如く動きを止めた。
その中で唯一動き回る、光を映していない隻眼に乗った色は、ゆっくりと戦慄に塗り潰され。

*「魔物は――どうなんだろうな」


104: 2011/07/28(木) 13:55:48.13 ID:0bTRCMGX0

~孤島の入り江・審判の塔~

赤の魔族「……」

白の魔族「レヴィアタンがやられた」

赤の魔族「――次は、俺だな」

白の魔族「貴方に限って、敗北は有り得ないのでは?」

赤の魔族「……見定めてやるぞ、人間……!」

白の魔族「……」

105: 2011/07/28(木) 14:00:45.91 ID:0bTRCMGX0

~火山の麓・黒曜石の町~

細工師「……また病人が増えたのか」

鍛冶屋「どうも火山灰のせいじゃないらしい。内地の方でも多発しているそうだ」

細工師「空を覆う闇色の霧……やはりあれのせいなのか」

鍛冶屋「五年前――魔王が出現してからか、あれが流れ始めたのは」

鍛冶屋「わしらもいつ倒れるか……ごほっ、ごほ」

細工師「後少しで霧は世界中を覆う。このままでは、魔物に侵略される前に世界は……」

*「……」



~火山~

*「……」

ザッ…ザッ…ザッ…

*「!」

火炎蜥蜴「……」

溶岩獣「……」

*(敵意はあるのに襲ってこない……)

*「……先へ進もう」

ザッ…ザッ…ザッ…

106: 2011/07/28(木) 14:03:36.92 ID:0bTRCMGX0

~灼熱の頂/マグマ・ピック~

赤の魔族「……貴様が我らの敵対者だな」

*「待ち構えていたのか」

赤の魔族「俺も武人を名乗る者。真の決着をつけるのに……横槍は無用だ」

*「……」

赤の魔族「よもや一人とは、恐れ入るよ。その胆力、思想、そして――勇気」

赤の魔族「勇者はもう、いないはずだがな……貴様の眼には炎が見える」

*「……おまえは、おれの敵か」

赤の魔族「問うなよ、人間。……久々の、手練の予感だ」メキメキ…!

*「……」

イフリート「コレホドマデニ、清々シイ高揚感ガ存在スルトハナ――知ラナカッタ」

107: 2011/07/28(木) 14:04:13.69 ID:0bTRCMGX0

視線が交差する。しばしの間があった。
瞬間、赤き色に身を包む壮年の男が燃え上がる。顕現したのは炎の魔人。

イフリート「今ナラ何ノ束縛モ無ク、拳ガ振ルエル」

魔人――イフリートは穏やかな声で『彼』に言った。
それは、どこか悟った者の響きを伴っていた。両者は判断したのだ。
今、目の前にいる相手は、自らの全力を持って値するのだと。

*「おまえは、一撃で仕留める。そうでなくちゃ……ならない」

だから、彼も一言一言を確かめるように、言葉を返した。
蒸せるような熱風が二人を煽り、吹き上げていく。その熱い風に乗せるように、イフリートは呟いた。

イフリート「フッ……人間。貴様ガソンナ男デ、良カッタヨ……」

脈動する活火山の暖色が、熱を持って彼等の影に色をつける。
ぶつかり合う視線は秘めた威力を押し付け合うように、互いの中間でピシピシと音を立てた。
にわかに空が澱む。瘴気の雲を突っ切って天を覆うのは――黒雲。

*「……剣よ、雷撃を纏え」

彼が紡いだ呪文に応じ、稲光が飛来する。
雷は身をよじる竜のように大剣に絡み付き、一拍の後、耳鳴りのする高音を奏でた。
魔人は大剣の纏う光に感嘆したのか、小さく息を吐くと自らも腰だめに体勢を変え、その逞しい両手を引き絞る。

イフリート「俺ノ……チカラノ全テ。ソノ身デ味ワウトイイ」

構えた掌の間に出現した赤色の粒は加速度的にその質量を増大し、小さな天体に相当するかの如く、輝きを放った。
それを合図に、太い笑みを浮かべ、イフリートは踏み出す。ほぼ同時に、彼も大剣を肩がけに走り出した。
かたや絶叫する雷撃の大剣。かたや凝縮された紅炎の檻。
振りかぶり――振り下ろす。

*「――総ての悪意を討ち滅ぼさん!!」

イフリート「――『鬼焔万丈』!!」

巨大な力の衝突に、火山が抉れる。視界を埋め尽くす閃光が蹂躙し――
そして。

108: 2011/07/28(木) 14:04:53.90 ID:0bTRCMGX0




~孤島の入り江・審判の塔~


白の魔族「……イフリートも消えたか……」

白の魔族「く、くく……ッ」

白の魔族「この短期間で、三人の幹部を……素晴らしい逸材だ」

白の魔族「敵対者には賞賛の言葉を送りたいものです……」

白の魔族「――後はあの玉座に居座る邪魔者を消せば……!」

白の魔族「世界は、この私の物だ」

109: 2011/07/28(木) 14:09:08.61 ID:0bTRCMGX0

~王宮・孤島の胎内~

女勇者「ボクを呼んで……何をするつもりだ」

白の魔族「なに、たいした事ではありませんよ」

白の魔族「貴女に私の立場を教えて差し上げるのです」

女勇者「――どういう」

白の魔族「魔王。君臨する絶対者……今は死んだように眠り続けています」

白の魔族「ここにいるだけで、世界に瘴気を撒き散らす害悪……」

白の魔族「――おそらくは何があっても、目覚めはしないでしょうね」

女勇者「な……!命が惜しくないのか!?」

白の魔族「ご安心を。私には切り札がございます」



白の魔族「何故ここが『孤島の胎内』と呼ばれているか、ご存知ですか?」

白の魔族「ここはかつて先代魔帝が玉座を勝ち取った場所……魔族の兵共の夢の跡です」
白の魔族「……床をよおく見てご覧なさい」

ぐじゅる… きしゃああ…

女勇者「!」

女勇者「――この場所は……生きているのか!?」

白の魔族「いかにも。魔界の強者を吸い続けたこの王宮は、既に一個の生命となっているのです」
白の魔族「そして私は秘密裏に『これ』を――飼い馴らしてきました」

女勇者「まさか……」

白の魔族「そのまさかですよ、勇者。この怪物に、魔王を捕喰させる」

白の魔族「さぁ、王宮よ。いまこそ神体と化し――魔王を喰らうがいい!!」

ミシッ。

グジュル…ゾブブッ

神体「オギャアアアアアアアアアアアアア!」

ドクン…ドクン…

女勇者「玉座ごと……魔王が呑み込まれていく……」

白の魔族「ふ、ふふははは!やった、やったぞ。宿願はこれに成った」

白の魔族「内なる敵は無し」

白の魔族「最強の狗を従え……今、ここに。新たな魔帝が誕生したのだ!」


110: 2011/07/28(木) 14:10:35.56 ID:0bTRCMGX0

プッ…

――ガラン!

女勇者「玉座だけ、吐き出した」

白の魔族「神体の胎は無間の地獄。もう、魔王は帰ってくる事は無い」

女勇者「……ならボクも、用済みだな」

女勇者「ボクは魔王の気まぐれで生き長らえていたのだから、その魔王が消えた以上……」

白の魔族「いや。まだ貴女には役目があるのですよ」


白の魔族「玉座を得た王には――それに相応しい妃が必要だ」

女勇者「……え……」

白の魔族「かつて人間達が希望を託した勇者を傍らに、私は世界を絶望で塗り潰す」

111: 2011/07/28(木) 14:12:00.79 ID:0bTRCMGX0

~孤島の入り江・審判の塔~

*「ここまで連れ添ってくれて、ありがとう。恩に着るよ」

巨龍「……なに、お前さんの背負う物に比べりゃこの程度。雑作も無いわ」

巨龍「ゆくのだな。魔王の居城へ」

*「ああ」

巨龍「魔王は、天空城を崩したかつての魔帝とは次元が違う」

巨龍「心して、臨むのだ」

*「――俺は戦いに行くんじゃない。答えを告げに行くだけさ」

巨龍(この眼)

巨龍(おそらく――この男は生きて帰ってくるつもりなど無い)

巨龍(しかし死ぬ気も、元より持ち合わせていない……どこへ行こうというんだ、お前は)




天神『――』

地祇『――』

*「石像……?いや、もっと神聖な何かを……」

天神『――強きもの』

*「!」

地祇『――我らを越え、世界を変えるもの』

天神『憶えておけ』

地祇『心に刻め』

天神『世界を変えるのは』

地祇『強き想い』

*「……」






*「……ここに感じる力の残り香……奴らの」

*「ベヘモス……レヴィアタン……イフリート」

*「知らない気配が、あとひとつ。……最後の幹部か」


*「――魔王」

*「この塔より臨む孤島の王城……そこが」

*「おれと、おまえの。さだめの流刑地だ」

112: 2011/07/28(木) 14:14:34.59 ID:0bTRCMGX0




~孤島の王城~


女勇者「……」

雑魚G「まさかあの魔王様がね~。あの青瓢箪ならぬ白瓢箪にやられっちまうとは」

雑魚H「こ、婚姻の……準備……」

雑魚G「さぁさ、勇者様。その着崩れたのを脱いで、この純白の花嫁衣装に身を包むんだな!」

女勇者「……」スルッ

雑魚H「あ、ああーッ!見れない、やっぱオデには見れないー!」

雑魚G「どうしたぃ、新入り君」

雑魚H「め、メスの裸なんてっ……オデには刺激が強すぎるー!!!」ダッ

雑魚G「……あらら、行っちゃった」



女勇者「……君は、どうにも魔族とは思えない」

雑魚G「うん?まぁこの通り、長い事勤め上げては来たが……腕の方はからっきしでね」
雑魚G「あっしにゃ掃除だの見張りだのの方が性に合ってるのさ。回廊、ぴっかぴかだったろう?」

女勇者「へんな魔物だね、君は……」

雑魚G「――あっしに言わせりゃあんたのが、ヘンさね」

雑魚G「……あんた、勇者様だろ?人間の誰もがあんたを敬い、尊んだはずじゃないのかい」
雑魚G「それが今では魔族の虜囚――いや、魔帝の花嫁ってか」

雑魚G「怖気がするよ。気持ち悪いったらありゃしない」

女勇者「……」


雑魚G「あっしがあんたなら、あの白いのを剣で一突きにしてやるのに」
雑魚G「――ほら、丁度そこにいい具合に切れそうな剣が置いてある」

女勇者「……どういうつもりなんだ」

雑魚G「さぁね、決めるのはあんたさ」

雑魚G「このまま永遠の時を魔物に嬲られて生きるのか」
雑魚G「その剣を取り、もう一度勇者様になってみるか」

雑魚G「あっしはね、イフリートの旦那ならともかく、あの白いのがデカイ面してんのが気に入らないだけさ」


女勇者「ボクに……その資格があるのかな」

雑魚G「知らねーや。でも、あっしは思うんだよね」

雑魚G「勇者ってのは、人に言われてなるようなもんなのかね、と」

113: 2011/07/28(木) 14:15:59.47 ID:0bTRCMGX0



~孤島の王城・大広間~


白の魔族「待っていたぞ、我が妃――勇者よ!」

女勇者「……」

白の魔族「さぁ、もっと私の近くに寄れ」

女勇者「……」スゥ

白の魔族「この美貌、この身にかけられた世界の希望」

白の魔族「それが全て、この私の物になる!」

白の魔族「ああ、このように満たされた気分は終ぞ味わった事が無い」

女勇者「……ッ」

白の魔族「――さぁ、誓いの口づけを交わそうぞ」




雑魚H「ひ、姫様……行っちまった……」

雑魚G「だから姫様じゃねーってんだよ、新入り君」

雑魚H「で、でもぉ……オデ……」

雑魚G「え、何。もしかして勇者様の事好きだったのかね、チミは?」

ギイイイイイイ…

*「……」

雑魚G「!」

雑魚H「!」


*「……おまえは、おれの敵か」


114: 2011/07/28(木) 14:17:20.75 ID:0bTRCMGX0

雑魚H「あ、あ……うぁ」

雑魚G「……」

雑魚G「……いいや、違うね」

雑魚G「あっしらじゃ、あんたの指一つでお陀仏さ」

雑魚G「あんたの敵は、扉の向こう」

雑魚G「きっと、満足させてくれるだろうさ」

雑魚G「――まだくたばっちゃいない怪物が、ね」

*「そうか」

*「……礼を言う」



バタァン!!

*「……」

白い魔族「――ここで来るか、敵対者」

女勇者「……!?」

白い魔族「私の野望への助力、感謝するよ」

*「――おまえに力を貸した覚えは無い」

女勇者「その声、どこかで」

白い魔族「……だが悲しいかな、貴様の命はここで露と消える。いでよ!」

ドクン…ドクン…

神体「オギャアアアアアアアアアアア!」

*「……」

白い魔族「――神体よ、その闖入者を喰らえ!」


115: 2011/07/28(木) 14:20:14.91 ID:0bTRCMGX0

ドドドドドド!

*「……」

白の魔族「ほう、避けないとは。この絶望的状況が理解出来たのか?」

神体「オギャアアアアアアアアアアア!!」


*「――いつまで、寝ているつもりだ」

神体「アアアアアアアアアアァ、ア……ギ!?」

白の魔族「どうした、神体」

神体「う、ぎゅる……アギャアアアァァアアァア!!!」

白の魔族「くっ、私の言葉が聞こえていないのか!?こうなれば、直接……」


女勇者「ッ――白の魔人……覚悟!」バッ

ドスッ!


白の魔族「か……あッ。我が妃、何故……!」

女勇者「――お前の妃なんて真っ平ゴメンだ」

女勇者「ボクは勇者、この身が囚われようと……この心は、いついかなる時もボク自身の物だ!」

白の魔族「おのれぇ……ッ」

神体「ギェエエエエエエエエエエエ!」

白の魔族「……ま、不味い!このままでは」

ドドドドド!

白の魔族「と、止まれ!止まるのです、神体!お前に役目を与えたこの私を――!!!」

ガブウッ!

…グチュッ、ブチリ……ゴクン。

神体「――ぎゃ、ギャギャぎゃぎゃぁアあアああアアアアアア!」ゴゴゴゴ…

116: 2011/07/28(木) 14:21:28.86 ID:0bTRCMGX0

パリィン…!

女勇者「神体が、空を突き割って……」

*「位相へ、逃げたか」

女勇者「……そうだ、君は」

*「向こうで奴が待っている」ス…

女勇者(兜を……)

女勇者「!」

女勇者「あ、あ……あ」

*「……」

少年「……五年ぶりだね――勇者のおねえさん」

117: 2011/07/28(木) 14:23:00.72 ID:0bTRCMGX0

女勇者「大陸の王国にいた、あの子……なのかい?」

少年「五年経って、ますます綺麗になったね」

女勇者「あ、うぁ……」ボロボロ

少年「どうしたの、おねえさん」

女勇者「……ボクは、君に語った言葉を偽ってしまった」

女勇者「こんな情けない姿を、見せることになってしまった……最低だ」


少年「――そんなことないよ」

女勇者「……?」



少年「……五年前のあの日、おれに世界を救うと誓ったあなたと」

少年「剣を持ち、白の魔人を討ったあなたの姿は……」

少年「おれの目には、変わらず勇者に映ったよ」

少年「鎧で固めていようが、豪奢な衣装を纏っていようが」

少年「あなたはおれが憧れた、あの日から――」

女勇者「……」

女勇者「……ボクは……勇者でいていいの?」

少年「この世界を魔帝から守る勇者は、あなたしかいない」

少年「――おねえさんじゃなきゃ、ダメなんだよ」



少年「そして、あの怪物を」

少年「魔王を倒せるのは――おれだけだ」

女勇者「ま、待って!ボクも、一緒に――!」


少年「……あなたは、生き残るべき人だから」
少年「おれの戦いに、連れては行けない」

少年「――けど、きっと救ってみせるから」

少年「この、かけがえのない世界を。……だから、待ってて」

118: 2011/07/28(木) 14:23:44.28 ID:0bTRCMGX0


女勇者「嘘つき……君は、約束なんて出来ないくせに」

女勇者「でも、待ってるよ。ずっと、ずっと」

女勇者「君がここに、帰ってくるのを」



119: 2011/07/28(木) 14:26:56.63 ID:0bTRCMGX0


~位相の狭間~

神体「オギャアアアアアアアアアアアァ!」

ドドドドドドドドドド!

魔王(……呼ぶ声がする)

ピシ…

神体「ギ、ィエアァア……」ボロ…ボロ…

魔王(我の眠りを妨げるのは――誰か)

神体「」サァァァァァァァ…

魔王「……」

魔王「……夢を見ていた」



魔王「永い……感情すら忘れる程の、夢を」

魔王「我は、一人きりで丸盆の上に立っていた」

魔王「照明も我を照らすのが一つあるのみ」
魔王「舞台には続々と役者が上がってくるが」

魔王「照明の数は一向に増える気配がない」
魔王「台詞を言い切った者が次々に降りてゆくから――」


魔王「――しかし、これは夢の続きか」

魔王「お前は何故、我と同じ丸盆に立ち」

魔王「お前は何故、そんなにも照らされているのか」


少年「……」


魔王「……」

魔王「――何故、お前は――」


120: 2011/07/28(木) 14:27:38.93 ID:0bTRCMGX0

少年「……おれに、世界を救うと誓った人がいた」

少年「だから、待っていてくれと。そう誓った人がいた」

少年「そしてその言葉を、おれは嘘にしたくない」

少年「おれに語った、その勇気を」


魔王「……」

魔王「――それだけか」

魔王「たった、それだけの為に。お前は我の前に立ちはだかるというのか」


121: 2011/07/28(木) 14:28:25.94 ID:0bTRCMGX0






少年「そうだ」

少年「おれは勇気の為に立ち上がり」

少年「勇気の為に剣を執り」

少年「勇気の為に命を懸ける」

少年「なぜなら、おれは――」



約束の勇者「――『勇者』だからだ!」




122: 2011/07/28(木) 14:29:28.17 ID:0bTRCMGX0

魔王「……」ゴオオオオオオオ…

魔王「……」

魔王「……フッ……」


魔王「お前を待っていた」


魔王「恋い焦がれ、狂おしい程に」

魔王「お前を、お前を、お前を――」





魔王「――待っていたぞ、勇者!!!」

約束の勇者「魔王――――――!!!」




123: 2011/07/28(木) 14:30:09.29 ID:0bTRCMGX0

――それは小さな勇気でした。
目的を持たず、ただ剣を振り続けるだけの一生を過ごすはずでした。

けれど、彼は出会ってしまいました。
勇気溢れる彼女は高らかに歌い上げます。自らの高い志を。
その燃え盛る勇気に、彼は己の空虚を突きつけられたのです。
小さな勇気には、彼女がこの世界で最も崇高な存在のように思えました。
自問自答を繰り返すしか出来ない彼は、次第に思い悩んで行く事となります。

悩み続けて、もう一度。彼は出会ってしまいました。
この宇宙と世界の全てを知る、老練の戦士と。
僅か数年の歳月を経て、彼は己の真実と向き合ってしまいます。
『汝の為すべき事を為せ』と。

勇気を知り、自分を取り巻く世界を知り。
本能が己の身のなんたるかを自覚した、その日から。
転がりだした意思は止まる事無く突き進む――その先に何があろうと。

その両手に、戦士の遺した大剣を握り締め。
少年は、その抱えた小さな勇気は、今――


124: 2011/07/28(木) 14:31:35.46 ID:0bTRCMGX0


魔王「――肉を裂き、心を砕く。そんな戦いを、我は……いつ忘れてしまったのか」

亜空を引き裂く魔王の烈腕が吼える。
返す大剣は次元を断ち切り咆哮する。
様々な世界の様々な時代から、流れ込んだ建造物の瓦礫を飛び回り、両者は唾競り合う。
連続した瞬間移動に光点が瞬く。時間の流れを無視し、消し飛ばす勢いで戦闘を行っているのだ。
位相の界面が歪曲する――余波で星の命を掻き消せる、膨大なエネルギーが爆ぜ合わさった。
音の消失。同時、魔王と勇者は飛び退り対峙する。

魔王「こんなにも、心が躍る」

約束の勇者「あぁ、おれもさ」

影は交差するたびに互いを切り裂き、致命的な衝動を蓄積していく。
魔王の鎧にヒビが走る。しかしその内から吹き出す瘴気に、より魔王の力は増していく。
それとは裏腹に、勇者の鎧が砕けて吹き出すのは、人である証、真っ赤な鮮血。
どれだけの間を、切り結んでいたのかはわからない。

決着の時が近づこうとしていた。

125: 2011/07/28(木) 14:32:56.18 ID:0bTRCMGX0

魔王「勇者よ。お前は我と相対した全ての勇者の中で、最もその名に相応しい」

魔王「肉体と精神とを作り上げる、それ全てが勇気」

魔王「為し得た勇者はお前だけだ」

魔王「――だが、足りぬ」

魔王「届かないのではない。お前には欠けたモノがある」

魔王「それはお前の『勇気』を我が戦った勇者達が持ち合わせていなかったと同じく」

魔王「彼等にあって、お前に無いものが……あるのだ」

魔王「それこそが、この死闘を左右した。――至極、残念でならない」



魔王は両の腕を広げる。
まるで勇者をかき抱くように。
そして――駆け出した。

魔王「さらば、我が人生最高の好敵手。これを――手向けとしよう」

魔王「持てる力のすべてを、くれてやる」

勇者は見据えていた。
まるで魔王を受け入れるように。
そして――駆け出した。

約束の勇者「魔王――お前は一つ勘違いしている」

約束の勇者「おれは決して、独りなんかじゃない」

疾走する。
魔王の両掌と、勇者の大剣。
全ての世界の外側で――常理を越えし超越者同士が激突した。

126: 2011/07/28(木) 14:33:31.07 ID:0bTRCMGX0

我が競り勝つ――魔王は確信していた。
勇者の刃を両掌から出る不可視の力で抑え込み、押し返して行く。
彼の身の幅もあるその大剣は、悠久の時を越えて来たように古びていた。
幾重にも布が巻かれ、何度も打ち直した痕が見てとれる。
とても、勇者の手にする得物ではなかった。

そして彼の背は空虚だった。
ただ独り、この場で大敵と向き合う。
それは魔王も同様だが、彼は『勇者』なのだ。
その背には彼を慕い、彼に連れ添う者達が必要であるはず。
盾となり勇者を守護する者――いない。勇者の全身は朱に汚れて。
彼に魔法の加護を与える者――いない。己の力のみで立ち向かう。
いかな強さを持ってしても、お前は人であるはずなのに、人でしかないというのに。

魔王「――これが、夢の終わり」

一層、魔王の全指に力が籠り。
勇者の武器は、木端微塵に散華した。

127: 2011/07/28(木) 14:34:27.14 ID:0bTRCMGX0

――カッ!

『我は勇者なり!』




魔王「――何?」


『さあ、来るがいい。穢れし邪念の者どもよ!』




魔王「……これは」


『初めましてだな、魔王さん』

『――今までのてめえの非道、きっちり型にはめてもらおうか!』

『なんにせよ、僕たちのする事は変わらない。魔王を倒して世界を救う、それだけだよ』

『まだまだ、僕の舞台から君を降ろしはしない……ッ』




魔王「まさか」


128: 2011/07/28(木) 14:35:23.31 ID:0bTRCMGX0

約束の勇者「……」


魔王「天上の祭剣、精霊王の霊装、万象の杖……我が崩した世界の宝具の数々」


約束の勇者「おれは、決して強くなんてないよ。魔王」

約束の勇者「だけどこの手には数千、数万、数億の勇気が」

約束の勇者「このちっぽけな勇気と、一つになってここにいる」


約束の勇者「これが、これこそが――究極の剣!」


129: 2011/07/28(木) 14:36:22.19 ID:0bTRCMGX0

魔王「……!」



約束の勇者「……繋いだ手と、手を」

約束の勇者「無限の絆に形取る」

約束の勇者「三千世界の勇気よ、集え!」




『――万象の杖。『ここに全てを捧げる』』

『これが、最後の剣。――俺の、命の一振り』

『――消えよ!穢れの頂、混沌の王よ!!!』




約束の勇者「おれの背を押す全ての世界――刮目せよ」


約束の勇者「今こそ……告げる。約束の勇者の、答えだ!!」

130: 2011/07/28(木) 14:37:48.63 ID:0bTRCMGX0












魔王「……見事だ」

魔王「なんと美しき、光景か」



――そして勇者の一太刀が、魔王の身体を貫いた。



131: 2011/07/28(木) 14:39:03.09 ID:0bTRCMGX0


魔王「……」

魔王「……思い出したよ」

魔王「我の、原初の記憶を」

魔王「かつて、我は何者でもなかった」

魔王「己の存在に、意味を……価値を見いだせず」

魔王「ただ、ただひたすら……」


魔王「――剣を振っていた」


魔王「襤褸を纏い、理由もなく……思えばどこから拾って来たのだろうな」

魔王「いつからか。気付けば、我は暴虐の限りを尽くす破壊者となっていた」

魔王「その時手にはもう、剣は無く……」

約束の勇者「……」



魔王「勇者よ」

魔王「何故、涙を流す」

約束の勇者「……」

約束の勇者「どうして、だろうな」

約束の勇者「勝利したというのに。哀しくてたまらないんだ」

魔王「……」

約束の勇者「おれは、お前に消えて欲しくないのかもしれない」

魔王「……勇者。我を破りし者よ」

魔王「届いたぞ。我に――お前の、答えは」サァァァ…

約束の勇者「魔王……!」

132: 2011/07/28(木) 14:39:36.71 ID:0bTRCMGX0

魔王「……我は滅びぬ」

魔王「いずれ再び、お前の前に立ち塞がるだろう」

魔王「永劫の刻の果て、輪廻の向こうで、我はまた破壊者として誕生する」

魔王「――止めに来るがいい」

約束の勇者「……あぁ、何度だって勝利してみせる」

約束の勇者「無限に続く争いの連鎖を超えて!お前を!」



魔王「いつ何時であろうと、どのような場所であろうと」

魔王「我はお前の――相手となろう。約束の勇者よ!」

そして今は、一時の別れを……



133: 2011/07/28(木) 14:41:17.56 ID:0bTRCMGX0


~大陸の王国~


国王「空が……一面の青い空が」

大神官「世界は、救われたのですか。一体、何故……」

国王「フ……理由等どうでもよい。だが、私にはわかる」

国王「世界を救ったのは、他ならぬ勇者だという事が」


道具屋「やったー!世界は、人類は助かったんだ!」

老人「ふぉふぉ。……わしももう少し、長生きしてみるかの」

武器屋「すげえ……見ろよ、お前。霧がさっぱり消えて……」

防具屋「アンタぁ!平和になっちまったら武器なんざ売れないじゃないのさっ!」

武器屋「……うん、そーだね。これからは生活用品でも作って生計を立てようか……はぁ、俺の天使」



老婆「――あたしにゃ、お見通しだよ。あんたが世界を救ってくれたんだろう?」

老婆「ねぇ」

ザアアアアアアアア……

134: 2011/07/28(木) 14:42:41.05 ID:0bTRCMGX0

~孤島の王城・大広間~

――ザッ…

女勇者「!」

約束の勇者「……」

女勇者「……」


女勇者「――おかえり」

約束の勇者「――ただいま」


約束の勇者「……!」

女勇者「どうしたの……?」

約束の勇者「魔王がこの世界に来たから、位相にズレが生じたんだ」

約束の勇者「この世界は『救われてしまった』……だから、連れて行くよ」



約束の勇者「おねえさんを、必要としている『世界』に」



135: 2011/07/28(木) 14:44:25.68 ID:0bTRCMGX0

~とある世界、とある城~

王様「……考え直してくれ、我が娘よ」

王女「父上。何度申されても私は結婚など致しませぬ」

王様「――魔王を倒したおまえの選んだ男ならば、誰もが新たな王と認めよう」

王様「求婚者はいずれも劣らぬ名家の嫡子達……何が気に入らぬというのだ」

王女「身分は関係ありません。私には――心に決めた人がいるのです」

王様「……ではその心に決めた人とやらを」


兵士「く、くそ。止まれ、止まれー!」

兵士「なんだこいつ。滅法強いぞ!」


王様「ぬぅ……今日は妙に騒がしいな」

バタァァァン!



戦士「あー……手間かけさせやがって……ようやく見つけたぞ」ぜーはー

王様「な、何者だ!」

王女「戦士……」

戦士「おい、お前!俺に何か言う事があったんじゃねえのかよ!」

王様「娘になんという無礼な!貴様――」

戦士「お前さんが言わねえのなら、俺が先に言っちまうぜ!」

王女「……!」


戦士「俺はっ!世界で一番!――高貴なる勇者を愛している!!」

王様「……はい?」

高貴なる勇者「――この、馬鹿者が。私から言いたかったというのに」

王様「えええええ――ッ!?」



136: 2011/07/28(木) 14:45:54.91 ID:0bTRCMGX0

~とある世界・とある船上~

ザザァ…

断ち切る勇者「……あー、疲れた……」

盗賊「お前がそんな弱音を口にするなんて、珍しい事もあるもんだな」

商人「それはそうでしょう。何しろ世界を救ったのですからwww」

断ち切る勇者「だまれでぶ」

踊り子「んふ。勇者ちゃん、おつかれ。……キスしてあげよっか」

商人「是非!わたくしの頬はいつでも空いておりますぞwww」

踊り子「勇者だっつってんだろこの豚」

商人「罵倒――素晴らしい。我々の業界ではご褒美です」

盗賊「はっはっは。全部、命あっての物種だからな」



断ち切る勇者「で、お前ら……これからどうすんだ」

盗賊「ん?どうって」

商人「それはモチロン」

踊り子「決まってるじゃない!」

盗賊・商人・踊り子「「「――もう一度、世界を旅しよう!」」」

断ち切る勇者「……」

断ち切る勇者「けっ。だりーな」

断ち切る勇者「…………本当に、退屈しないぜ」



137: 2011/07/28(木) 14:48:22.72 ID:0bTRCMGX0

~とある世界・とある都市~

武道家「……」

武道家「……」

武道家「……」イラッ

祝福された勇者「おーい!」タッタッタ…

武道家「!」パアァァ…!

祝福された勇者「お、おまたせー……」

武道家「もう、勇者ったら遅い!――って、どうして賢者がここにいるんだよ!」

賢者「私はこの子の姉のようなものですから♪」

祝福された勇者「あ、あはは……さ、さー行こうか!」

武道家「ちょ、ちょっと待てーぃ!」



ギュッ…

祝福された勇者「な、ちょっ、武道家」

賢者(あらあら……♪)

祝福された勇者「て、てっ……手が!?」

武道家「別に……賢者が付いて来ても、いいよ」

武道家「そ、その代わり今日一日、あたしのこの手を離したら許さないから」

祝福された勇者「……わかった。一生、離さない」ぎゅうっ

武道家「きょ、今日一日だって言ってるだろーが!このバーカ!」

賢者「ふふ、青春ねぇ」



138: 2011/07/28(木) 14:48:52.74 ID:0bTRCMGX0

~とある世界・とある酒場~

魔法使い「くぅ……日に日に人類は劣勢になっていきますわね」

僧侶「むむむ。この世界はどうなってしまうのでしょう……かみさまー」

女戦士「魔帝を打ち破る者が必要だ。世界を救う――勇者が」


*「みんなー……ってち、違う。……あ、あの!」

女戦士「む?」

僧侶「どなたですかぁ?」

魔法使い「わたくし達に何の用ですの?」



女勇者「――ボクの、仲間になって欲しい!」


139: 2011/07/28(木) 14:50:16.31 ID:0bTRCMGX0

――ここは魔王に支配された世界
現れたのは闇に差す一筋の光。
そう、勇者である。


~とある世界・とある王国~


母親「気をつけるのよ……」

友人「頑張れよーっ!」

幼馴染「べ、別にあんたのことなんか心配してないんだからねっ!」

シスター「勇者に幸のあらんことを……」


とある勇者「――おう、行ってくるぜ!みんな!」


140: 2011/07/28(木) 14:52:58.36 ID:0bTRCMGX0



とある勇者「ふんふふーん♪」

とある勇者「オレは……そんじょそこらの勇者モドキ共とはひと味違う!」

とある勇者「ぬぁんと!既に世界を救った後の求婚者リストを作っているのだーっ」ペカーン!

とある勇者「幼馴染のあの子とぉー、教会のシスターさんとぉー、王国の姫様とぉー……」

とある勇者「空白余りまくりんぐ!さぁ余白を世界のまだ見ぬオレの嫁で埋める為、旅立つぜ!」

とある勇者「このオレ様にかかれば魔王なんてちょちょいのちょ――」


ズズゥン…!



魔王「……ならば、手合わせしてもらおうか」ゴゴゴゴ…

とある勇者「――へっ?」

141: 2011/07/28(木) 14:54:01.99 ID:0bTRCMGX0

とある勇者「えぇと。うーんオレ、目ぇ悪くなったんかね」ゴシゴシ

とある勇者「……どう見ても魔王にしか見えない人が目の前にいるんですケド」


魔王「……」ゴゴゴゴゴゴゴ…

とある勇者「いや、そんなのってアリ!?オレまだ、何にも」


魔王「……消えろ」

とある勇者「ぎゃああああ!ヤダよ、死にたくないよ!母ちゃーん!!」

――ガッ!


142: 2011/07/28(木) 14:55:15.77 ID:0bTRCMGX0




――彼は勇気の為に立ち上がり


勇気の為に剣を執り


勇気の為に命を懸ける


何故なら、彼は――






143: 2011/07/28(木) 14:57:41.50 ID:0bTRCMGX0

魔王「……」

とある勇者「サヨナラ、みんな――ってアレ、まだ死んでない!?」


魔王「……何者だ」

*「おれか。おれは――」



約束の勇者「勇者。……約束の勇者だ!」






――汝、これからも曇りなき瞳の勇者たらんことを――

【魔王「お前を待っていた」】完

150: 2011/07/28(木) 16:22:14.23
なんか燃えた!

151: 2011/07/28(木) 16:43:11.93
>>1乙

おもしろかったよ!

引用元: 魔王「お前を待っていた」