1: 2020/07/15(水) 21:10:21.374 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「娘さんを僕にください!」

父「……」

父「私はこれでも大企業に勤めており、今は部長をやっている」

父「妻と娘を養ってこれたのは、そのおかげだと自負している」

父「さて、私の大切な一人娘と結婚しようという君は、いったいなんの仕事をしてるのだね?」

漫画家「ま、漫画家です……」

父「漫画家だと!? そんな不安定な職の奴に娘をやれるかぁ!!!」

娘「お父さん!」

母「あなた」

6: 2020/07/15(水) 21:13:41.389 ID:4Bj/cXdq0
娘「彼はちゃんと連載だって持ってるんだから!」

父「ほう、じゃあいわゆる単行本というやつは出したのかね?」

漫画家「現在、7巻まで出てます……」

父「7巻……ふん、とんだひよっ子ではないか! とても安定してるとはいえんな!」

娘「そんなことない! 人気も出てきてるんだから!」

父「ならば、その漫画とやらを読ませてもらおうか?」

漫画家「分かりました……1巻だけ持ってきてますので、どうぞ」

父「ふん……絵柄からして私好みではない……」

漫画家「……!」

9: 2020/07/15(水) 21:15:06.003
どんな絵柄が好みなんだ

10: 2020/07/15(水) 21:15:58.503
好みがある時点で相当だよ

11: 2020/07/15(水) 21:16:12.690 ID:4Bj/cXdq0
父「ふむ……ほう……」

父「おっ! ほう……ふむ……」

娘「お父さん?」

父「ちょっと黙って! 話しかけないで!」

父「おお……。む……ほう、ほう……うん……。そうきたか……ほぉう……」

父「ふぅ」パタンッ

漫画家「いかがでしたか?」

父「つまらんな。これほどまでにつまらない漫画を読んだのは生まれて初めてだ」

漫画家「そう、ですか……」

父「で、2巻は?」

漫画家「いや、1巻しか持ってきてないですけど」

父「なんでだよ!!!」

17: 2020/07/15(水) 21:20:23.153 ID:4Bj/cXdq0
父「こんないいところで1巻終わらせといて、2巻持ってきてないだとぉ~!?」

父「貴様は私を舐めてるのか!」

漫画家「も、申し訳ありません!」

娘「お父さん、安心して」

父「む?」

娘「あたしがちゃーんと7巻まで持ってきてあるから」

父「おお、そうか! ではさっそく……」

20: 2020/07/15(水) 21:23:31.971 ID:4Bj/cXdq0
父「ふぅ……つまらなかった……」パタンッ

父「で、8巻は?」

漫画家「まだ出てないですけど……」

娘「7巻までだってさっきいったじゃない」

父「なんだとぉ~!? 8巻はいつ出るんだよ!」

漫画家「今の連載ペースだと……多分二ヶ月後ぐらいかな、と」

父「そ、そんなに待たねばならんのか……」

21: 2020/07/15(水) 21:24:16.433
ワロタ

23: 2020/07/15(水) 21:26:15.202 ID:4Bj/cXdq0
父「……」ガックリ

娘「お父さん! ガッカリしてないで、話の続きを……」

母「ダメよ、こうなったらしばらくこのままだわ。また日を改めて、ね?」

娘「まったくもう……」



帰り道――

漫画家「あの反応じゃ手応えなかったなぁ……」

娘「いや、ありまくりだったと思うけど」

25: 2020/07/15(水) 21:29:13.758 ID:4Bj/cXdq0
父「……」

父(あれから、漫画喫茶などで単行本になってない現在連載分まで読み、完全に追いついてしまった!)

父(しかし、主人公は未だ強敵と戦っている最中……)

父(いったいどうなってしまうんだ!? 主人公は勝てるのか!? 気になって夜も眠れん! 仕事も手につかん!)

父(こうなったら……)

父「もしもし?」

娘『どうしたの、お父さん』

29: 2020/07/15(水) 21:32:25.950 ID:4Bj/cXdq0
父「あのさ、彼氏が連載してる漫画、これからどうなるのか教えてくれない?」

娘『んなもん、あたしが知るわけないでしょ!』

父「いや、彼ならお前にだけ今後の展開とかこっそり教えてるだろ?」

娘『そんなことするわけないでしょ!』

父「教えてくれよぉ、主人公がどうなっちゃうのか気になるんだ!」

娘『そんなに聞きたいなら、彼に直接電話すれば?』

父「そうしよう! 番号教えてくれ!」

娘『えっ!?』

32: 2020/07/15(水) 21:35:23.303 ID:4Bj/cXdq0
ピリリリリ…

漫画家「……知らない番号だな」

漫画家「もしもし?」

父『やぁ、君かね。君の彼女の父です』

漫画家「!? ……ど、どうしたんですか!?」

父『君の描いてる漫画がこれからどうなるのか教えて欲しくてね』

漫画家「どうなるかって……教えられるわけないじゃないですか!」

父『頼むっ! ヒントだけでもいいんだ! 絶対バラさないから!』

漫画家「……分かりました」

36: 2020/07/15(水) 21:37:41.270 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「あまり詳しくはいえませんけど」

父『うんうん』

漫画家「主人公はあれくらいでくじけたりしませんよ」

父『そ、そうか!』

父『うおおおおおお! ありがとう! これで仕事に集中できる!』プツッ…

漫画家「これでよかったのかな……」

39: 2020/07/15(水) 21:41:31.626 ID:4Bj/cXdq0
父「今、世の中は不景気で、我が社も苦境に立たされておる」

父「こういう時こそ、みんなの力を合わせて乗り切るのだ!」

父「よいか、くじけてはならん!」

ハイッ!

社員A「部長……すげえ気合入ってんな。こっちまで熱くなってくるよ」

社員B「まるで物語の主人公みたいだぜ」

42: 2020/07/15(水) 21:45:42.247 ID:4Bj/cXdq0
父「さて、今週号はどうかな、と」

父(あれ載ってない……おかしいな? 目次は、と……)

父「え!?」

『作者体調不良のため、しばらく休載いたします』

父「な、なんだとぉ!? 休載!?」

父(こうしちゃおれん!)

43: 2020/07/15(水) 21:47:14.390 ID:4Bj/cXdq0
娘(彼、体壊しちゃったから、こういう時こそあたしが支えてあげないと!)

娘「やっほー! 調子はどう?」



父「おかゆを作ったぞ」

漫画家「ありがとうございます。いただきます」



娘「お父さん!?」

45: 2020/07/15(水) 21:49:17.179 ID:4Bj/cXdq0
娘「ちょっと、なんでお父さんがここにいるのよ!?」

父「雑誌に休載の告知が出てたから、飛んできたのだ」

父「どうだ、うまいか?」

漫画家「おいしいです」ハフハフ

父「娘が風邪ひいた時は、よく作ったものだ」

娘「ったく……あたしの彼女としての立場はどうなんのよ」

47: 2020/07/15(水) 21:50:01.847
かわいい

51: 2020/07/15(水) 21:53:35.562 ID:4Bj/cXdq0
……

娘「……」フゥ…

父「娘よ、どうした?」

娘「彼がね、すっかり落ち込んじゃってて……」

父「彼が? なぜだ?」

娘「漫画の今の展開が、読者から不評らしくてさ。よせばいいのに、彼も色々と感想を見ちゃったらしくて……」

父「……!」

54: 2020/07/15(水) 21:55:44.811 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「……」

父「息子よ」

漫画家「あ、お父さん、なぜここに?」

父「娘から、君がスランプになってると聞いて飛んできたのだ」

漫画家「そうだったんですか……。すいません、ご心配をかけて……」

父「かまわん。それより話を聞かせてくれ」

60: 2020/07/15(水) 21:58:45.684 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「今、僕の漫画では主人公が敵に追い詰められる展開が続いていて……」

漫画家「僕としてはここが主人公の踏ん張りどころだと思ってるのですが……」

漫画家「ネット上などで結構叩かれてるのを見ちゃいまして……」

漫画家「編集からも、今すぐ主人公が挽回する展開にすべきといわれてて……」

漫画家「どうすればいいのか、と……」

父「今の君は、主人公と同じ立場にあるようだな」

漫画家「え」

父「ピンチの連続で、心が折れそうになっている」

漫画家「そう、ですね……。おっしゃる通りです……」

父「だが――」

63: 2020/07/15(水) 22:01:30.527 ID:4Bj/cXdq0
父「君の描く主人公はどんな窮地でもくじけたりしなかった。今までも、そしてこれからも」

父「それは君も……同じはずだ」

漫画家「!」

父「主人公の絶体絶命をとことん見せたいのなら、そうすべきだ。中途半端はいかん」

父「深い谷を這い上がったその先にこそ、感動があるのだから!」

父「読者とて、君の描きたかったことをきっと分かってくれるはず!」

父「自分を信じろ! 読者を信じろ! そして……私を信じるのだ!」

父「たとえ世界中の読者が君を非難しても、たとえ打ち切りになってしまったとしても、私は君の味方だ!」

漫画家「……はいっ!」

66: 2020/07/15(水) 22:04:09.332 ID:4Bj/cXdq0
娘「彼、スランプを乗り越えたみたい!」

娘「主人公が長いピンチを乗り越えた後の大逆転展開が、大好評らしいし!」

娘「もし、主人公があっさり逆転してたら、こうはならなかったかも」

父「フッ、世話の焼ける……」

娘「ん、なにかいった?」

父「いや、なんでもない」

70: 2020/07/15(水) 22:07:14.371 ID:4Bj/cXdq0
……

漫画家「うーん……」

娘「あら、今度はどうしたの?」

漫画家「近頃、展開がマンネリ化してるような気がするんだ」

娘「そうかなぁ?」

父「まあ、分からんでもないな。今やってる章は、前の章とストーリーがやや似通っている」

漫画家「そうでしょう」

娘「ハハ、二人だけにしか分からない世界……」

75: 2020/07/15(水) 22:10:14.877 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「マンネリを打破するにはどうしたらいいだろう?」

娘「そうねえ……ただ変わったことすればいいってわけでもないんでしょ?」

漫画家「うん、奇をてらうだけじゃダメだ。呆れられてしまう」

父「だったら、新キャラを出したらどうだね?」

漫画家「新キャラを?」

父「たとえば、こういう……」カリカリ…

79: 2020/07/15(水) 22:13:15.520 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「あ、これいいですね!」

娘「おもしろーい!」

漫画家「このキャラ、ぜひ出しましょう! 絶対ウケますよ!」

父「え!? いや、まずいよ。素人が思いつきで作ったキャラなんか出したら……」

父「私のキャラのせいで、漫画が打ち切りになったら立ち直れないよ」

漫画家「そこは僕の腕の見せ所です。任せて下さい!」

娘「やっちゃえやっちゃえ!」

父「ああ……打ち切りになりませんように……」

80: 2020/07/15(水) 22:16:17.760 ID:4Bj/cXdq0
娘「お父さん、この新キャラ大人気じゃない!」

父「そうみたいだな」

娘「嬉しくないの? 自分が作ったキャラが人気になったんだよ」

父「別に……すでに私の手を離れているからな。大して嬉しくもない」

娘「そんなもんかね」

父「……」



母(私は知っている。真夜中にガッツポーズしてたのを)

81: 2020/07/15(水) 22:17:04.305
ここにきて母ご登場

85: 2020/07/15(水) 22:20:14.324 ID:4Bj/cXdq0
編集者「キャラもだいぶ増えてきましたし、ここらで人気投票をやりましょうか」

漫画家「いいですね、一度やってみたかったんです!」

編集者「一位は誰になると思いますか?」

漫画家「そうですね。うーん……主人公かライバルか……ヒロイン……」

編集者「新キャラも結構いい順位いけそうですよね」

漫画家(お父さんの作ったキャラか。10位以内に入れるといいな)

87: 2020/07/15(水) 22:23:04.297 ID:4Bj/cXdq0
編集者「見て下さいこれ。ハガキを段ボール箱一杯に送ってきた人がいますよ」ドサッ

漫画家「うわ……すごい」

編集者「全部新キャラに投票してますね。しかも、やたら字が達筆だ」

漫画家「どんな人だろう? 名前は……」



漫画家(お、お父さん……!?)

90: 2020/07/15(水) 22:27:24.209 ID:4Bj/cXdq0
……

娘「あら、スマホでなに見てるの?」

漫画家「ビクシブってサイトを見てるんだ」

娘「ビクシブ?」

漫画家「イラストや小説を投稿できるサイトでね。僕の作品のイラストも結構描かれてるよ」

娘「わっ、ホントだ。すごい!」

娘「だけど、いやらしいのも多いね……。これなんか男キャラ同士で……」

漫画家「まあ、それはしょうがないよ」

93: 2020/07/15(水) 22:30:13.985 ID:4Bj/cXdq0
娘「しかも一人だけ、毎日のように投稿してるじゃない」

漫画家「ホントだ」

娘「上達ぶりがすごいね。最初は落書き同然なのに、最新のイラストはまるでプロよ」

漫画家「下手すりゃ、作者である僕より上手いかも」

娘「アハハ、いっそ描くの代わってもらえば?」

漫画家「ええと、この投稿者の名前は……」

娘「お父さんじゃん!!!」

96: 2020/07/15(水) 22:33:37.327 ID:4Bj/cXdq0
娘「イラストを投稿するなとは言わないわ」

娘「だけどなんで本名なのよ! 普通ペンネームみたいなのつけるでしょ!」

父「え、本名じゃいかんのか?」

娘「だって、会社の人に知られたら恥ずかしいでしょ! たしか部長なんでしょ!?」

父「別に」

娘「~~~~~~!」

父「むしろ、ビクシブを知ってる若い子から、社内報にイラスト描いてくれって頼まれたぞ」

娘「もうお好きにどうぞ」

98: 2020/07/15(水) 22:36:42.293 ID:4Bj/cXdq0
……

店員「ありがとうございましたー」

娘(彼、ケーキ大好きだもんね)

娘(今日は締め切り間近だから、差し入れだけして帰ろう)



娘「やっほー、ケーキ買ってきたよー」

99: 2020/07/15(水) 22:39:11.487 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「これ背景頼む」

アシA「はい!」カリカリ

漫画家「ここの群衆頼む」

アシB「はい!」カリカリ

漫画家「お父さんはビルをお願いします」

父「うむ!」カリカリ



娘「ええええええ!?」

100: 2020/07/15(水) 22:42:26.310 ID:4Bj/cXdq0
娘「お父さん!」

父「おお、娘か。みんな、娘が差し入れを持ってきたぞー。少し休憩しよう」

アシA「ありがとうございます!」

アシB「ありがとうございます!」

娘「なにしれっとアシスタントに混ざってんの! チーフアシみたいな風格だし!」

父「今日は会社休みだからな」

父「それに漫画を手伝えば最新のストーリーも読めるし、一石二鳥!」

父「さて、ケーキを食べるとするか。まずイチゴから……」

娘「ったく、休日は家でごろ寝してる世のお父さんを見習ってよ……」

102: 2020/07/15(水) 22:45:30.226 ID:4Bj/cXdq0
……

漫画家「お父さん……」

父「なんだ」

漫画家「僕の作品はあれから巻数を重ね、雑誌の一翼を担うまでになりました」

漫画家「改めて申し上げます」

漫画家「娘さんを僕にください!」

父「……」

父「よかろう」

漫画家「長かった……やっとお父さんに認めてもらえたよ!」

娘「もはや何も言うまい」

106: 2020/07/15(水) 22:49:34.899 ID:4Bj/cXdq0
司会者「新郎新婦のご入場です!」

パチパチパチパチパチ…

漫画家「今日はありがとうございます!」

娘「あたしたち、幸せになりまーす!」



父「くううっ……!」グスッ

母「あなたったら大泣きして」

父「違う、あくびだ! 昨日ずっとイラスト描いてて睡眠不足だから……」

107: 2020/07/15(水) 22:52:21.517 ID:4Bj/cXdq0
結婚後、しばらくして――

漫画家「えっ、本当かい!?」

娘「うん……」



漫画家「えっ、本当ですか!?」

編集者「おめでとうございます」

110: 2020/07/15(水) 22:56:16.696 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「お父さん、今日は二つご報告があります」

父「ほう」

漫画家「嬉しい知らせと、さらに嬉しい知らせがありますが、どっちにしますか?」

父「贅沢な二択だな。私は好きなものは先に食べる主義でな……」

父「“さらに嬉しい知らせ”から頼む」

漫画家「分かりました」

115: 2020/07/15(水) 22:59:22.646 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「妻に……赤ちゃんができました!」

娘「……」ポッ

母「まあ、おめでとう!」

父「おお……ついに私も孫の顔を見られるのか! 嬉しいぞ! 元気な子を産むのだぞ!」

娘「お父さんったら大声出して」

漫画家「もう一つは……」

117: 2020/07/15(水) 23:02:19.723 ID:4Bj/cXdq0
漫画家「僕の漫画のアニメ化が決まりました!」

父「やったぁぁぁぁぁ! よくやったぞぉぉぉぉぉ! ついに決まったかぁぁぁぁぁ!」

漫画家「あ、あれ……心なしか初孫の知らせより喜んでるような……」

娘「心なしかじゃないわよ」







おわり

118: 2020/07/15(水) 23:03:00.841
おつ!

120: 2020/07/15(水) 23:03:24.449
面白かった

121: 2020/07/15(水) 23:04:03.373

娘の立場がねぇな

122: 2020/07/15(水) 23:05:09.937

父「なんで俺くんが?」

引用元: 父「漫画家だと!? そんな不安定な職の奴に娘をやれるかぁ!!!」