ガヴリール「なに騒いでるんだ？」

まち子「あ、天真さん。ちょっとアニメの話をしていたのよ」

田中「天真さんはアニメは好き？」

上野「好き？」

ガヴリール「アニメか。あんまり詳しくないけど、今年の冬にやってた『ガブリエルドロップアウト』っていうアニメは面白かったな」

田中「へー！　知らなかった！　どんなアニメなの？」

ガヴリール「優等生だった天使が、下界の娯楽にのめり込んで駄天してしまうっていうお話だ」

上野「なんだかすっごく面白そうー！」

ガヴリール「主人公の天使が超絶美少女で最高だぞ。ブルーレイが大好評発売中だ」

田中「天真さんが言うなら間違いないね！　ブルーレイ買うわ！」

上野「私も！」

ガヴリール「毎度あり」ﾎﾞｿｯ

まち子「何か言った？」

ガヴリール「『あにまるフレンズ』か。チラッと見た気がするな。キャラが動物なんだっけ？」

上野「そうなの！　動物がモチーフになってて、とっても可愛いの！」

田中「私が好きなのは、やっぱり主人公のサーバルキャットちゃんかな！」

上野「私はミステリアスなツチノコちゃん！　あの叫び声がたまらないんだよね～」

ガヴリール「ツチノコ？　サーバルキャットってのは知ってるけど、ツチノコなんて動物は初めて聞いたぞ？」

まち子「ツチノコは日本古来より伝わるUMA、未確認動物なの」

ガヴリール「どんな動物なんだ？」

まち子「『槌の子』と書くんだけど、藁打ち槌や横槌みたいな丸々した体のヘビだと言われてるわ」

ガヴリール「丸いヘビ？」

まち子「体は短くて、自分の尻尾に噛みついて輪っかになって、山道を転がっていくそうよ」

ガヴリール「さっぱり想像がつかない……」

田中「まち子、絵に描いてあげれば？」

まち子「そうね。紙とペン貸してくれる？」

田中＆上野「「あいあーい♪」」

ガヴリール「おお、絵めっちゃ上手いな委員長」

まち子「ありがとう」

ガヴリール「うーん、これって、ただ餌を丸飲みしただけのヘビじゃないか？」

まち子「そういう意見もあるわね。他にもトカゲと見間違えたとか、作り物だとか」

田中「数百年間、目撃談は多々あるけど、捕獲に成功したことは一度もないんだよね」

上野「見つからないからこそロマンがある！　く～、ミステリアス～！」

ガヴリール「ふ～ん。まあ、いようがいまいがどうでもいいけどな」

まち子「今でも町興しイベントでツチノコ捜索隊とかやってるわよね」

田中「そうそう！　いつか見つかるといいな～」

上野「なんたって、見つけたら賞金１００万円だもんね！」

ガヴリール「１００万円？」ﾋﾟｸｯ

ガヴリール「賞金が出るって本当か？」

まち子「ええ。色んな自治体で捕獲イベントがあるのよ。生け捕りじゃないとだめみたいだけど」

ガヴリール「委員長、ツチノコはどこにいるんだ？　教えてくれ！」

まち子「それが分かれば苦労しないわよ！」

ー昼休みー

ガヴリール「てなことがあったんだ」

ラフィエル「これだけ文明の発達した社会でも、未解明なことってあるんですねー」

ヴィーネ「そのツチノコってどんな姿なの？」

ガヴリール「これ、委員長に描いてもらったんだ」ﾍﾟﾗｯ

ヴィーネ「どれどれ。あら？　これって……」

ガヴリール「どうしたヴィーネ？」

ヴィーネ「ねぇ、サターニャ。このヘビって……」

サターニャ「うん？　ああ、こいつってアレじゃない？」

ガヴリール「知ってるのか！？」

サターニャ「ええ。魔界に生息するウロボロスっていうヘビよ」

ガヴリール「なんだって！？」

ラフィエル「ウロボロス……確か下界では『死と再生』『不老不死』などを意味するシンボルです」

ガヴリール「天使学校の下界の宗教学で習った気がする。でもあれって竜じゃなかったか？」

ラフィエル「諸説あるそうですよ。国が違えば形も変わりますし」

ヴィーネ「へぇ、下界ではずいぶんと神聖視されてるのね」

サターニャ「あんなの山道を転がってくるだけの可愛いやつよ」

ラフィエル「ということは、遥か昔に、魔界から持ち込まれたヘビが世界各地に散らばったということでしょうか？」

ヴィーネ「そうかもね。捕獲されなかったのも、魔界の動物は死ぬとすぐに灰になって散ってしまうから」

ラフィエル「保管できず剥製も作れないので、絵や文献にしか登場しない幻の生物になってしまったと」

ガヴリール「世界中にある未確認動物や神話の怪物の正体は、魔界や天界からやってきた動物かもしれないってことか」

サターニャ「よく分かんないけど、人間って面白いわね」

ガヴリール「なあ、サターニャ。そのウロボロスってやつ、持ってこられないか？」

サターニャ「無理よ。魔界の動物を持ち出すことは厳しく管理されてるんだから」

ガヴリール「そこをなんとか」

サターニャ「ダメだってば。私だってアレキサンダーを泣く泣く実家に置いてきたのよ？」

ガヴリール「でもお前、調理実習の時に魔界の魚を持って来てたろ？」

サターニャ「食用が目的なら、ちゃんと申請すれば持ってこれるけど、食べずに飼育したりすると罪になるのよ」

ガヴリール「じゃあウロボロスちゃんと食べるから！」

サターニャ「あれは食用じゃないわよ！　しつこいわね！　なんでそんなに欲しいのよ！？」

ガヴリール「そ、それは……」

ガヴリール（賞金のことは黙っておこう……）

ガヴリール「いや、神聖視されるほど凄いヘビなら、一度は見てみたいなぁと思って……」

ヴィーネ「ごめんね、ガヴ。写真とかも持ってこられないのよ」

サターニャ「天界ほどじゃないけど、魔界のゲートも段々厳しくなってきてるのよね」

ガヴリール「分かったよ……諦めるよ」

ー帰り道ー

ガヴリール「はぁ。せっかくツチノコの正体が分かったっていうのに」

ガヴリール「持ってこれないんじゃしょうがないよなぁ……」

ﾋﾟｮﾝ

ガヴリール「ん？」

ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

ガヴリール「あ、あれは！？　ツチノコ！？」

ガヴリール「なんでこんなところに？　まさか魔界から逃げ出してきたのか？」

ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

ガヴリール「ひゃ……」

ガヴリール「百万円だああああ！！」

ガヴリール「よーし、いい子だ、こっちにおいで～」

ﾋﾟｮﾝ

ガヴリール「確かに槌みたいに丸っこいヘビだな。ちょっと可愛いかも」

ﾋﾟｮﾝ

ガヴリール「ふっふっふ、百万円あれば、課金しまくって最強装備が手に入るぞ……」

タプリス「あ、わーい！　天真せんぱーい！」

ガヴリール「！？」

タプリス「先輩！　今お帰りですかー？」

ガヴリール（まずい……発見者が増えると賞金の分け前が減ってしまう……！）

ガヴリール「タプリス！　こっちに来るな！」

タプリス「え？　……って、なんですかこのヘンテコな生き物は！？」

ガヴリール（ちっ、見られた……）

ガヴリール「タプリス！　こいつは毒のある危険な生き物なんだ！　お前は逃げろ！」

タプリス「ひぃっ！？　毒！？　怖いです、怖いですぅ！」

ガヴリール「ここは私に任せるんだタプリス！」

ガヴリール（早くどっか行ってくれ！）

タプリス（うぅ、怖いですぅ。でも、私だって聖なる天使！　いつまでも甘えてちゃダメです！）

タプリス（ここは憧れの天真先輩に良いところを見せるチャンスです！）

タプリス「こいつは私がやっつけます！　見ててください天真先輩！」

ガヴリール「や、やめろ！　タプリス！」

タプリス（ああ、先輩が私の身を案じてくれています。すごく嬉しいです……）

タプリス「これでも喰らうですうううう！」

ｷｭｲｲｲｲﾝ　ﾄﾞｯｶｱｱｱｱﾝ！

ツチノコ「チイイイイ！！」

ﾎﾞﾛﾎﾞﾛ　ｻｧｱｱｱ……

タプリス「やりました！　やっつけたです♪」

ガヴリール「……」

タプリス「天真先輩！　見てくれてましたか！？　私やりました！」

ガヴリール「……タプリス？　ちょっとこっちにおいで？」ﾆｺﾆｺ

タプリス（先輩の優しい笑顔……いっぱい褒めて貰うですぅ♪）

ガヴリールドロップアウト

『やぶへび』

ー完ー

終わりです。読んでくださってありがとうございました。

乙

ガヴリール「タプリス、お前ってやつは……」

タプリス「はい！　私、頑張りました！」ｷﾗｷﾗ

ガヴリール（うっ、なんて綺麗な眼をしてるんだ……）

ガヴリール（よく考えたら、私が危険な生き物だなんて言ったから……）

ガヴリール（怖かっただろうに、私を守るために勇気を出して戦ってくれたんだな……）

ガヴリール（それに比べて私は賞金を独り占めしようとして嘘を……）

ガヴリール「タプリス、ありがとうな。お前のお陰で助かったよ」

タプリス「いえ、天真先輩のためなら私なんだってできる気がします！」

ガヴリール「でもなタプリス。お前を危険な目に遭わせたくないんだ。だから……」

タプリス「天真先輩？」

ｷﾞｭｯ

ガヴリール「もう無茶するなよ？　私にいっぱい甘えてくれていいんだぞ？」

タプリス「ひゃあ！　てっ、天真先輩……！？」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

ガヴリール「分かったか？　タプリス？」

タプリス「ふぁい……、わかりましゅたぁ……」ﾌﾟｼｭｰ

ー天界ゲートー

ゼルエル「どうした？　ガヴリール？　私に何か用か？」

ガヴリール「呼び出してごめん、姉さん。実はお願いがあって……」

ゼルエル「なんだ改まって？　言ってみろ」

ガヴリール「実は……かくかくしかじか」

ゼルエル「お前というやつは、馬鹿なことを！」

ガヴリール「ごめんなさい姉さん！　いくらでもお説教は聞きます！　だからタプリスのために……」

ゼルエル「無害な生き物を殺生してしまうとは天使としてあるまじき行為だ」

ガヴリール「うん……罰は私がいくらでも受けるから、あのヘビを蘇生させてください！」

ゼルエル「ふむ。確かに私の力なら小さな生き物くらい蘇生させるのは容易い」

ガヴリール「お願いします、姉さんだけが頼りなんです……」

ゼルエル「事情は分かった。後は私に任せておけ」

ガヴリール「本当！？　ありがとうゼルエル姉さん！」

ガヴリール（その後、あのツチノコ、いやウロボロスは、姉さんの働きかけによって蘇生した）

ガヴリール（魔界ゲートのずさんな管理が原因ということもあり、すんなり申請は通ったらしい）

ガヴリール（今頃は元気に魔界の山道を転がっていることだろう）

ガヴリール（そして私は……）

ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

タプリス「天真せんぱーい！」

ガヴリール「おお、タプリス。いつも悪いな」

タプリス「いいんですよ！　天真先輩の為にお料理を作れるなんて私は幸せです！」

ガヴリール（罰として仕送りをガッツリ減額されてしまったので、生活が厳しくなり……）

ガヴリール（お腹を空かせている私を見て、タプリスが押し掛けてくるようになった）

ガヴリール「今日の献立はなんだ？」

タプリス「はい！　カツ丼に唐揚げ、焼きそばとたこ焼き、デザートにジャンボパフェです！」

ガヴリール「あはは、めちゃめちゃヘビーだな……」

ガヴリールドロップアウト

『幸腹な蛇足』

ー完ー

ほんとに終わりです。読んでくださってありがとうございました。