5: 2012/03/14(水) 20:52:04.81 ID:o4bsUWIQ0


こんにちは!
あたし……あ、いや、わたくしは765プロダクションという芸能事務所で事務員をしております、音無小鳥と言います。
今日は、いつもテレビや雑誌で活躍するみんなの日常を記録して、皆様によりたくさん!
765プロのアイドルたちの魅力を伝えていこうかと思います!


「おはようございます、小鳥さん! って……あれ?」


今日の一番乗りは、天海春香ちゃん。
通勤するのに結構時間かかるのに、春香ちゃんはいつもみんなより早く事務所のドアをくぐります。

彼女は一生懸命な努力家で、気が付いたらみんなの中心に立っている、そんな存在ですね!
歌やダンスだけでなく、いつか舞台にも挑戦したいっていうお話もあって、
今後はもっともっと活躍の幅が広がっていきますよ~。

だけど……。

7: 2012/03/14(水) 20:55:33.10 ID:o4bsUWIQ0


「小鳥さん、ビデオカメラで何を撮って、って……うわぁあああ!?」


がっしゃーん。
あらあら……ちょっとドジで、すぐ転んじゃうところは、初めてここに来たときから今でも変わらないみたいですね。
……すごい音したけど大丈夫、春香ちゃん?


「っつぅ~……。あははは、大丈夫です……あ、プロデューサーさんも! おはようございます!」

「いま気付いたのか……おはよう、春香」


この人は、我らが765プロの敏腕マネー……じゃなくて、敏腕プロデューサーです!
まだまだ新人さんで、ちょっと頼りないところもあるけど、いつもアイドルたちのために頑張ってくれています!
彼はとっても優しくて、みんなのことを家族同然に大切にしてくれて、あと、えっと……そ、それに……。


「ちょ、ちょっと洒落にならない言い間違いですね……ははは」


  ――それに、あたしは……彼に、恋をしていました。

8: 2012/03/14(水) 20:58:46.18 ID:o4bsUWIQ0


「って、俺を撮るのはだめですよ。はい、没収」


ああ! まだ始まったばっかりだったのに……ん、あれ?
どうしてプロデューサーさんがカメラを構えているの? それはあたしの仕事では……。


「春香、やれ」

「はい! え~、この方が! 先ほどまでカメラマンを担当しておりました、765プロの事務をしてくださっている
 音無小鳥さんです! いつでもやさしくて、みんなの頼れるお姉さんなんですよ!
 ほらほら小鳥さん。笑顔ですよ、笑顔!」

「ちょ、ちょっとあたしのことは撮らないでよ~」


や、やだわもう。まあ、あとで自分で編集するからそのときカットすればいっか……。

9: 2012/03/14(水) 21:01:56.00 ID:o4bsUWIQ0


「音無さ~ん、カメラ回ってますよ~? なんか喋ってくださ~い?」


もじもじしているあたしに対して、彼はそんなことを言うけど……な、何を喋ったらいいのかしら。
以前だったら、にこやかにうふふふ~とでも言ってのけたけど……なんだかそんな余裕は今はないわ。

う、うぅ……カメラ越しに、彼がこちらを見ている……。
……ま、まあ? あとで消すとはいえ、やっぱりあたしも女ですもの。カメラ写りは良くありたいわよね。
お化粧大丈夫かしら? 前髪は問題ない? 小じわは……。

って何考えてるの、全部問題ありありよ!!
さっきまで彼が話してたのは誰? 春香ちゃんよ! 若くてお肌もぷるぷるしててかわいくて、アイドルなのよ!
その後にあたしのことなんて、見ないで~!!


  ――2×歳にして、あたしはわりと、ガチな片思いをしていたのです。

10: 2012/03/14(水) 21:04:17.96 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


「ふぅ~~……さすがに、重いわ。疲れたぁ……」


今日の仕事がやっと終わって、あたしはひーこら言いながら家に帰ってきました。
スーパーで買い込んだ大量の安売り食材とお酒はレジ袋の中に眠ったまま、テーブルの上に置きっぱなし。
放置プレイを決め込んでやります!

そして、着ている服もろくに脱がずにベッドにダイブして、今日の出来事を思い出していました。


「……うへへ……プロデューサーさん……」


前言撤回です。今日の出来事じゃなくて、今日の彼とのやりとりを、です。

14: 2012/03/14(水) 21:14:45.32 ID:o4bsUWIQ0


『アイドルたちのプライベートシーンを撮影してファンの方に届けるのは良いアイデアですけど、
 このカメラ完全に音無さんの私物ですよね』

『え、そ、そんなのは持ってないですよ……』

『こないだ一緒に買いに行った俺の前で白を切ると? 散々悩んで、何件も店回ったじゃないですか』

『え!? 一緒に買い物!? ど、どういうことですか! 小鳥さん! プロデューサーさん!』

『ん、あーそれは音無さんがカメラ欲しいんだけどよくわからないって言うから』

『ち、違うのよ? 決して勇気出してデート誘ったとかじゃなくて……ピヨピヨ』


16: 2012/03/14(水) 21:18:08.64 ID:o4bsUWIQ0


やがてあたしはむくりと立ち上がり、鞄の中をごそごそ。目的は先ほどのビデオカメラです。
“アイドルのプライベートもあたしのものよ作戦”は途中で失敗したけれど、
メモリの中には短いながらもバッチリ春香ちゃんの姿が記録されています。
かわいいなぁ、春香ちゃん。転んじゃう姿もまた……くぅ。


「あ……プロデューサーさん……」


プロデューサーさんがあたしに話しかけてくれているわ。
……か、顔はまあ、普通よね。可もなく不可もなくって感じ?
身長は高めだし、それなりにお値段はってそうなスーツもばっちり着こなしてるけど、まあ、うん。


「う~~……。どれだけ何を考えようと、やっぱ……かっこよく見えちゃうわよ」


それになんだか……見ていると安心する。
う、うぅ。こうやってビデオに写った彼を見ていると、なんか覗きみたいで、悪いことをしている気分だわ……!

19: 2012/03/14(水) 21:21:23.13 ID:o4bsUWIQ0


「うへへへぇ……。っと、うわ、こっからはあたしか……あとで編集しなきゃ……」


……ほんと、いやだなあ。
こうして客観的な視点から見ると、春香ちゃんとあたしとの差がすごいわね……。

なんで春香ちゃんはあんなにお肌綺麗なの?
化粧水一本しか使ってないって言ってたけど、そんなの嘘よね? 嘘だと言って……。
あたしは化粧台の上に無造作に置かれている大量のお肌ケアグッズを見ながら、時の流れの早さを恨みました。


「いつか春香ちゃんもこうなるのよ、そうよ……ぐすっ」

20: 2012/03/14(水) 21:24:32.93 ID:o4bsUWIQ0


『や、やめてください、いまは撮らないでぇ~! ちょっとお化粧しなおしてきますから~!』

『大丈夫ですよ、音無さん。そんなのしなくても全然問題ないですって』

『え、ほ、ほんとですか? ……ってプロデューサーさん、うしろ――』


ぷつん。
最後にあたしのにやけ顔を映して、録画は終了してしまいました。
あたしのカメラはお怒りの律子さんによって本当に没収されてしまったのです……およよ。
だから今日の仕事が終わるまで、あたしは他の子を録画することもできませんでした。

これはやり方を変える必要があるわね……。

21: 2012/03/14(水) 21:28:02.97 ID:o4bsUWIQ0


「プ~ロデューサーさぁん……そんな、問題ないよ、だなんて。小鳥はそのままでもかわいいよ、だなんて。うひひ……」


もう、もう! お上手なんだから!
あたしは若干の脳内補正がかかった記憶を、枕に顔を埋めながら思い出していました。
足は自然とバタバタしています。いいじゃない、妄想は恋する乙女の特権よね!

……あら? いまなにか動くものが目に入ったような。


「…………」


ちらり。ふと横を見ると……。
いい年こいて恋してはしゃいで調子こいてる二十代後半らしき女の姿が、大きな姿見に写っていました。
……なにが乙女よ。年を取ると、現実に戻るのもこれで一発になるってもんです。はいはいべんりべんり……。

22: 2012/03/14(水) 21:31:40.88 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


彼に最初に惹かれたのは、暑かった夏も終わりを迎えようとしている時期のこと……だったと思います。
正確には覚えていません、気が付いたらこの気持ちはあたしの中ですっかり大きくなっていたからです。

とにかく、あの夏。
その頃あたしたちの事務所では、今後を左右するくらいの大事件が起こっていました。それは……。


「竜宮小町、ですか」


765プロのもうひとりのプロデューサーである、秋月律子さんプロデュースのユニット『竜宮小町』の結成です。
この件に関して、あたしは以前から社長と律子さんに聞かされていたことなので驚きはしませんでした。
しかし彼は、あまり顔には出しませんでしたが随分大きな衝撃を受けていたようです。

23: 2012/03/14(水) 21:34:57.72 ID:o4bsUWIQ0


「なにやってんだろうな、俺は……」


あの有名な歌番組に出演してから、竜宮小町の知名度は一気にはねあがりました。

彼はきっと、あの頃焦っていたんだと思います。
律子さんに負けないように頑張るんだけど、いろんなことがうまくいかなくて、
こんな風に落ち込んでる姿を何度も見せていました。

なんだかこっちまで元気がなくなっちゃうほどのへこみようだったので、あたしはとても彼の姿を見ていられませんでした。
そこで、なんとか力になれたら……と思ったのです。

25: 2012/03/14(水) 21:38:05.65 ID:o4bsUWIQ0


しかしながらあたしはただの事務員ですので、仕事面で力になれる場面はなかなかありません。
あたしに出来ることはただ、疲れた姿で事務所に帰ってくる彼を笑って迎え、お話を聞いてあげることだけでした。
やっぱり誰かを元気づけるには笑顔! ですものね。



「おかえりなさい、プロデューサーさん」

「ただいま戻りました……」

「今日も大変でしたね。お疲れでしょう、いまあったかいコーヒーを淹れますね」

「ありがとうございます、音無さん。いつもいつも、遅くまで残っていてくれて」

「ふふ、あたしもたまたま仕事があっただけですから気にしないでください。それより、今日は何があったんですか?」

「……それがですね、あの局のあのプロデューサーが――」

27: 2012/03/14(水) 21:41:40.29 ID:o4bsUWIQ0


「……すいません、音無さん。今日はなんだか愚痴っぽくなっちゃって」

「いえいえ。落ち込むときはがっつり落ち込んで、誰かに言うのが一番ですよ。
 よかったらこのあと、気晴らしにぱーっと飲みにでもいきませんか?」


あたしと彼が少しだけ仲良くなって、今のようにお話するようになったきっかけは、このときですね。
やっぱりいつまで経ってもお酒が人生の分岐点なのでした……。

32: 2012/03/14(水) 21:47:42.00 ID:o4bsUWIQ0


『でぇすから~、ちはやちゃんとやよいちゃんがぁ~、わかりますう? 
 ちはやよだけじゃなくてぇ、やよちはも中々味わい深いものがあるんですよぉ!』

『はい、はい! 実によくわかります! そこにいおりんも加わると、またこれがなかなかどうして
 良いスパイスになるんですよね!』

『そぉ~おなんです! でもあくまでいおりちゃんは主役じゃないから、涙目? みたいなぁ~!
 そぇがまたかわいい~!』

『わかります! でこちゃんには涙目がよく似合うんです! 愛おしさすら感じます!』

『えっへへ~、ぷろでゅーさーさん話せるじゃないですかあ~! ん~、じゃあ改めましてぇ……』

『『かんぱーい!!』』


最初に飲み会をしたとき何を話していたか、あたしは酔っていたのであまりよく覚えていません。
きっと765プロがこれからどうなっていくのかとか、アイドルたちのプロデュース方針とか、
そういう真面目な話だったんじゃないかと思います。はい。

33: 2012/03/14(水) 21:53:36.64 ID:o4bsUWIQ0


これをきっかけにその後も何度か一緒に食事をする機会があり、あたしたちの親睦は深まっていきました。

そして、ある日。あたしは……恋に落ちたのです。
そうそれは、月が輝き星が歌う、そんな夜のこと。……もう少し地上にズームインして言うと、


「ん、んぷ……うげぇえ゛ええろろろろろ……!」

「大丈夫ですか音無さん……」


あたしがたるき亭の前で、銀河を駆ける流星のように胃の中のものを吐いている、そんな夜のことでした。
え、うそ!? この日だったかしら!?

37: 2012/03/14(水) 21:58:56.03 ID:o4bsUWIQ0


「ご、ごべんなざい……あはは、でももうだいじょうぶですよ! えへへぇうぷぷぷ」

「おぉおおお!? ス、スーツが!!」


当時のことを思い出すとあたし、氏にたくなりますね。
これが恋のきっかけとか、このアラサー女子()は本気で言ってるの?
いやあたしのことなんですけれども。
なんかもう妄想する気力もなくなりそうです……。


「はい。ミネラル・ウォーターです。音無さんあんまりお酒強くないんだから……」

「す、すみませんでした……」


彼はそんなあたしに対して、いつも通り優しく接してくれました。
普通ドン引きするでしょう、どれだけ懐大きいんですか……。

39: 2012/03/14(水) 22:04:12.70 ID:o4bsUWIQ0


「ははは、そういう姿を見るのは初めてじゃないし、全然気にしませんよ」

「え、あたしあなたの前で吐いたの初めてだった気がしたけど……」

「それはきっと音無さんの意識が保たれてる中では、という話ですね」

「…………ぐすっ」


記憶を失って気が付いたら自宅で寝ていたということは何度かありましたが、
無意識のままげーげーしちゃってるとはそのときまで知りませんでした。
あ、だからスーツを急に変えたりしてたんだな、と思ったものです。クリーニング出してたのね、なーるほど。

あはは、よくよく考えたらこんなあたしが恋するなんてなんの冗談?
寝言は夢から覚める前に言いなさいって思います。うう……。


41: 2012/03/14(水) 22:09:25.48 ID:o4bsUWIQ0


「ちょ!? 音無さん、どうしたんですか……いきなり泣き出して」

「だってぇ……あたし、年上なのに……なんかあ、なさけなさすぎてぇ……」


こんなんだから彼氏いない暦=年齢なのよ。美希ちゃんにもあんな顔されちゃうのよ。
あーあ、もういやになっちゃう。


「泣かないでくださいよ……音無さんは、笑顔が一番かわいいんですから」

「……え?」


……え? ちょ、ちょっと今のところ、もう一回再生してもらえますか……か、かわいいって聞こえたような。

45: 2012/03/14(水) 22:16:52.15 ID:o4bsUWIQ0


「あ、いやそのなんと言いますか……すいません、ちょっとへんなこと言っちゃいました」

「…………ぴよ」


ちょっと! 当時のあたし! ピヨピヨ言ってないで追求してよ! も、もう一回だけでいいから……!


「ただ、音無さんが笑顔じゃないと……俺まで悲しくなるから、だから笑っていてほしいかなーって」

「…………」


……顔赤くしてないで。さっきの、さっき何て言ったかって、彼に聞いてよ……当時のあたし。
これ以上先は……。


「……ははは」

「……あたし、そういうの、いままで言われたこと、なかったです……」


……これ以上先は、聞いちゃだめよ。

47: 2012/03/14(水) 22:22:13.37 ID:o4bsUWIQ0


「えっと……俺がいままで音無さんのこと、禄に褒めてこなかったってこと……ですか」

「……ちがいます。ほかのどの男性からも、ってことです」

「ほ、ほかのって……」

「かわいいとか! そういうの! 今まで男のひとから直接言われたこと、なかったから! だから!」



「う、うれしい……うれしぃよお……えへへ……」

「!」


急ににやけ始めた酔っ払い女の顔を見て、当時のプロデューサーさんはどう思ったんでしょう。
あたしはそんな彼の顔を、なんだか恥ずかしくて直視できないでいました。
薄ら笑いを浮かべてちらちらするだけです。どう見ても気持ち悪いです、本当にありがとうございました。

でも、彼は……。

49: 2012/03/14(水) 22:27:42.81 ID:o4bsUWIQ0


「……やっぱり、かわいいです。音無さん。俺、アイドルの子たちの笑顔はたくさん見てきましたけど……
 音無さんのいまの笑顔が、一番だって言えます」

「!!?」


~~~!! もう! 思い出すだけで、もう! まーた足がバタバタし始めるじゃない! きゃー!
あたしたちの仕事上、こ、こういう言い方ってずるくないですか!? そりゃきゅんきゅんしちゃいますよ!! もう!!


……とにかく、あたしはこのときようやく、はっきりと自覚したのでした。
ああ、あたしは、彼に恋をしているんだと。

53: 2012/03/14(水) 22:33:30.29 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


「ねえねえ、ピヨちゃん」

「なにかしら、真美ちゃん?」

「ひっ!! なんかピヨちゃん、笑顔が不自然だよ……隈もあるし、寝不足? だいじょぶ~?」


あの日、年甲斐もなく胸をときめかせ恋に落ちてから、今日まで。
あたしはなるべくいつでも笑顔でいようと努めました。

もちろん笑顔がかわいいって、プロデューサーさんが言ってくれたからです。
そりゃあそんなのお世辞に決まっているんでしょうけど……。
それでも、あたしは少しでも彼に良い印象を持たせようとして必氏なのでした。

55: 2012/03/14(水) 22:39:12.76 ID:o4bsUWIQ0


「さっきのカメラマンごっこは終わっちゃったの? 昨日もはるるんにやってたらしいけどさ~。
 真美、まだインタビュー受けてないよ!」

「あ~、二日連続でやって律子さんに怒られちゃったから、きっとしばらくできないわねぇ……」

「え~! そりゃないっしょ! ピヨちゃんは真美といっちゃん仲良しじゃんよー!」

「ふふ。ごめんね、真美ちゃん。お詫びに、一緒にちょっと甘いものたべにいかない? パフェくらいならおごるわよ」

「ほんと!?」


この子は、双海真美ちゃん。いつでも元気いっぱいな双海姉妹のお姉ちゃんです。
あたしは765プロのアイドルの子たちみんなと仲が良いけど、特にこの子は特別で、本当の妹のような存在なのです。
最近では、亜美ちゃんのことでなんだか思うところがあるみたいなんだけど……。

あ、亜美ちゃんっていうのは真美ちゃんの双子の妹のことで、
先月律子さん率いる『竜宮小町』でデビューした、うちの期待の新人アイドルです!
ふたりともちょっと……いや、かなりいたずら好きなんですけど、とってもいい子たちなんですよ!

59: 2012/03/14(水) 22:44:38.33 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


「それで、真美ちゃん。何かあったのかしら?」

「もぐもぐ……な、なにかって~?」


真美ちゃんはパフェをつついているばかりでなかなか話を切り出そうとしないので、こちらから振ってみました。
それでもまだ言い出さないので、あたしは今度は直球で攻めてみることにします。


「亜美ちゃんとケンカした?」

「ぷふぅっ!!」


どうやらストライクのようです。
真美ちゃんが「仲良しじゃんよ~」って言ってあたしにくっついてくるとき、
だいたいそれは誰かとケンカしたときなのでした。


61: 2012/03/14(水) 22:50:15.20 ID:o4bsUWIQ0


「ピヨちゃんはなんでも知ってるね……」

「あはは、さすがになんでもは知らないわよ」


知っていることだけ……彼の心の手に入れ方も、あたしは知りません! 誰か教えて!


「ケンカした……ってわけじゃないよ。たださ、なんだか最近亜美と話してないなーって」

「ふうん……。寂しい、ってこと?」

「そりゃさみしいし、つまんないよ。一緒に兄ちゃんをいじることも減っちゃったしさ~。
 真美だけだと、なんか……兄ちゃんにも、どう絡んだらいいか、最近よくわかんなくなっちゃって」

「なるほど……」


あたしは神妙な顔つきのフリをして、真美ちゃんの表情の変化を読みます。
この表情は……見覚えがあるわね、鏡で毎日見ているもの。
あ、いやあたしはこんなかわいくはないけど、ほら。言いたいことはわかるでしょう?

たぶんいまの真美ちゃんにとっては、亜美ちゃんのこともあるけど、
プロデューサーさんのことも同じくらいもやもやしているんですね。

64: 2012/03/14(水) 22:55:41.65 ID:o4bsUWIQ0


真美ちゃん、それはきっと……。と言おうとしたところで、あたしはやっぱり教えてあげないことにしました。
こういうことは誰かに教えてもらうんじゃなくて、自分で気付くのが一番なのよ。
どうしてもどうしようもなくなったら、そのときにね。

ということで、目下のもうひとつの問題である亜美ちゃんのことを、もっと掘り下げてみようかしら。


「ねえ真美ちゃん。竜宮小町のこと、どう思う?」

「そりゃ、めっちゃすごいって思うよ。今じゃテレビいっぱい出てるしね!」


そうきたか……ならもう少し、突っ込んだ質問してみましょう。


「じゃあ、メンバーそれぞれについては?」

66: 2012/03/14(水) 23:01:09.72 ID:o4bsUWIQ0


「……いおりんはなんだかんだ言って、みんなをまとめるオーラ? があると思うな。よっ、リーダー! って感じ」

「あずさお姉ちゃんは、もうめっちゃ優しさムードむんむんだよね。
 もし違う人が選ばれてたら、こんな人気にならなかったんじゃない? バランス悪すぎ~」

「亜美は……よく、わかんない」


まだ自分が何をどう悩んでいるのか、それがよくわからないのね。
しかたないわねぇ、と内心微笑みながら、あたしはちょっと意地悪な質問をしてみます。


「よくわかんないって、亜美ちゃんの良いところなんて思いつかないってこと?」

「そーいうんじゃないよ! もちろん良いとこいっぱい知ってる。双子だもん、真美がいちばん知ってるよ。でも……」


と言うと、真美ちゃんは一生懸命眉間に力を入れて、なんだか難しそうな顔をしてしまいました。
何かを考えているみたいです。

68: 2012/03/14(水) 23:07:09.72 ID:o4bsUWIQ0


「……ピヨちゃんも知ってるっしょ~? 亜美と真美、前は変わりばんこでアイドルやったりしてたんだ。だから……」

「だから、真美ちゃんと亜美ちゃんの違いがわからないってこと?」

「……うん。たぶん、そう。律っちゃんがなんで、竜宮小町に亜美を選んだのか、真美にはわかんないんだ。
 バランスで選んだ、って律っちゃんは言ってたけど……」


だったら、真美でもいいじゃん……と言うと、真美ちゃんの目はうるうるし始めてしまいました。
あ、だめだめこれじゃああたしが泣かせたみたい! 真美ちゃんの泣き顔なんて見たくないのに……。


「ぐすっ、泣いてなんかないよ! コドモ扱いしないで! 真美はもう、中学生なんだよ!」


その台詞は、オトナの台詞じゃないわねえ。かわいいんだから。


「またそうやってからかって……これだから、オトナはやだね~……」

「じゃーあ、中学生の真美ちゃんに宿題を出します!」

70: 2012/03/14(水) 23:12:36.21 ID:o4bsUWIQ0


「律子さんはね、このユニットを組むにあたってメンバー決めをほんとに一生懸命悩んでたの。
 名前が水に関係してるからとか言う人もいるけど、あれは実際たまたまね」

「……なやみまくった結果、真美じゃなくて、亜美を選んだってこと?」

「そう。そして、バランスで選んだという律子さんの言葉に嘘はないわ。竜宮小町は、あれで本当に完璧なのよ」


みんなを引っ張っていけるリーダー、水瀬伊織ちゃん。
いつも元気! みんなのムードメーカー、双海亜美ちゃん。
そして……優しくて、ときにみんなのお姉さんでいてあげられる、三浦あずささん。

客観的に見てバランスが取れているのはもちろんのこと。
彼女たちにとってもきっと、このメンバーなら自然と100パーセントの力が出し合える。
竜宮小町は、そんなユニットなのよ。

73: 2012/03/14(水) 23:18:24.46 ID:o4bsUWIQ0


「……律っちゃんにとって、真美は、何がだめだったのかなぁ~」

「だめ、とかじゃないのよ。律子さんは本当に最後まで、亜美ちゃんか真美ちゃんかで悩んでいたけれど……。
 結局決め手になったのは、タイプの違いだったみたいね」

「タイプ~? それこそ、亜美と真美は一緒じゃん!」

「そりゃあ双子だもの、見た目は一緒に見えるわ。でも本当に大事なのは……心よ」

「こころ?」

「そう、こころ。真美ちゃん。あなたたちの心はとっても違っているのよ、だからよく考えてみてね」

「むむむ、それが宿題? う~、よくわかんない!」

75: 2012/03/14(水) 23:24:59.74 ID:o4bsUWIQ0


「ううむ……とりあえず、パフェごっつあんでした……」


いじいじしている真美ちゃんを連れて、あたしはファミリーレストランをあとにしました。
真美ちゃんはあたしが出した“宿題”について一生懸命考えているみたいです。
でもきっと、答えを出すのは難しいですよね。

彼女はまだ13歳の女の子で、いちばん心の変化が大きいお年頃なんだもの。
昨日まで思っていたことが今日違う、今日決意したことが明日やめたくなる。
気が付いたら自分という存在が自分でよくわからなくなる。
そんな……思春期なんですもの。


根をあげてきたらもういっこヒントあげようかしら。
まあ、あたしですら正解なんてものはわからないんだけどね。

自分で自分のことを考える、ということが何より大事な宝物になるのよ。
乙女よ、存分に悩みなさい!


76: 2012/03/14(水) 23:30:20.73 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


ついに! ついに決まりました! 何がって? んっふっふ~、ライブですよ、ライブ!
……なんて、ついちょっといろんな子の口調が混じっちゃいましたけど!
それくらい、あたしにとっても嬉しいことなんです!

765プロ感謝祭ライブの開催がついに決定したのです!
みんなで一緒に大きな舞台に立てるお仕事は、これが初めてですね。
竜宮小町の活躍や、芸能人事務所対抗運動会での優勝、ほかにもたくさん!
今までこつこつ積み重ねてきたみんなの努力のおかげなんです!

……あら? なにやらピアニストの方がぼそぼそと話しかけてきているわ……。


「小鳥ちゃん、嬉しいのはわかるけど、宣伝してないでちゃんと歌ってよ~」

「あ、はい。あはは……では、改めまして」


今あたしがどこにいるのかと言うと、各界の大御所さんたち御用達のシックなピアノ・バーです。
まだ事務所のみんなには内緒だけど、あたしはこうしてときどき人前に立って歌を歌わせてもらっているのです。
彼にも内緒。だって、恥ずかしいじゃないですか……。

79: 2012/03/14(水) 23:36:16.24 ID:o4bsUWIQ0


――ひとつ、生まれた種……弱く、小さいけれど……――


歌は、本当にだいすきです。
あたしの人生にとって、歌は常にそばにあるものなのです。

あたしのお母さんは、いつもあたしに歌を歌ってくれていました。
なんでも今で言うアイドルのように、社長たちにプロデュースされていたらしいけれど……
詳しくは知らされていません。

ただとにかく、それに加えてその他もろもろの縁があって、あたしは今の仕事に就いているんですね。
歌手としてデビューしかけたなんてことはみんなには本当の本当に秘密です……。


――深く、根を歩ませ……強く、今を生きてる……――


……いつか、この歌のように。あたしの思いも……彼の心に花咲く日が、くるのでしょうか。

80: 2012/03/14(水) 23:41:39.12 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


「兄ちゃん! もう! 信っじらんない! なんであんなことすんの!?」

「いやぁ……すまん、すまんって、真美……」


なにやら穏やかな雰囲気じゃありませんね。プロデューサーさんと真美ちゃんがケンカしているようです。
……というか、真美ちゃんが一方的にご機嫌ななめになっているみたいですね。

まわりのみんなもはらはらしながら聞いて……
あら、別にそうでもないわね。最近ではいつもことだからかしら。

82: 2012/03/14(水) 23:47:17.01 ID:o4bsUWIQ0


「もう、もう……なんで、勝手に覗くかなぁ……!」


どうやらケンカの発端は、彼が真美ちゃんの秘密トレーニングをこっそり見ていたことらしいです。
765プロ感謝祭ライブに向けて、近頃ではみんな歌にダンスに猛練習の日々が続いています。
最初はくじけそうになっていた雪歩ちゃんも、今ではとても良い表情で練習に打ち込むようになりました。
そんな中、真美ちゃんもほかのアイドルの子たちに負けないように内緒でひとり特訓をしていたようなのです。

……あ、ついに逃げ出しちゃったわ。


「あ、ちょ、真美!?」

「プロデューサーさん、真美ちゃんはあたしがなんとかしますから。あなたはじっとしていてください」


別にプロデューサーさんが悪いわけじゃないんですけどね。
でも真美ちゃんの気持ちもわからないでもないから……ここはあたしにまかせといてください。

83: 2012/03/14(水) 23:52:24.27 ID:o4bsUWIQ0

――――――――――――
――――――
―――


「真美ちゃん、大丈夫?」

「うぅ……ピヨちゃあん……」


真美ちゃんは案の定、屋上にいました。こっそり泣くにはここがいちばんですものね。
あたしはその小さな体をぎゅっと強く抱きしめて、彼女が泣き止むのを待つことにします。


しばらくして、少しばかり落ち着きを取り戻した真美ちゃんは、ぽつりぽつりと話し始めました。

84: 2012/03/14(水) 23:57:40.50 ID:o4bsUWIQ0


「兄ちゃんに……真美が頑張ってる姿を、なんか……見られたくなかったんだ。でも……」

「……なんであんなこと言っちゃったんだろ。ほんとは、怒るようなことじゃないって、わかってるのに」

「兄ちゃんの顔見てると最近……なんだかもやもやー! ってしてくるんだ……この、ここのあたりがめっちゃ痛くなる」


そう言って、真美ちゃんは小さな手で膨らみかけの胸のあたりを押さえつけました。
彼女にとってそれが何を意味することなのか、まだ自分でよくわかっていないようです。


……こんな風に苦しんでいるこの子の姿は何度か見てきましたが、
いまだあたしは、その気持ちの正体を彼女に教えてあげられずにいました。

86: 2012/03/15(木) 00:00:57.91


  ――真美ちゃん、それはきっと、プロデューサーさんのことが好きになっちゃったのよ。
     真美ちゃんはいま、初めての恋をしているの。


そう言ってあげれば、きっと彼女の気持ちは大きく変化するはずです。
感情のベクトルが、一気にいい方向に向くようになるはずです。
しかし、そのときあたしはひたすら黙ってばかりで、彼女のことを助けてあげることができませんでした。


あたしは、とても弱かったのです。
真美ちゃんが自分の恋心に気付いたとき。
あたしはこれまで通り、いつも通りの顔をしていられるのか……。
今までみたいに、あの人に思いを寄せていられるのか……。
それがわからなかったのです。


自分の気持ちには自分で気付くのがいちばんだから、なんて言い訳はもうしません。
正直に言って……あたしは、妹のように愛するこの子とライバル関係になるのが、怖かったのです。

87: 2012/03/15(木) 00:04:06.14 ID:4jf6Ds5I0


「んっふっふ……ピヨちゃんの胸は、なんだかほっとするね……」

「あら、そう? ふふ、ならいくらでも貸してあげるわよ。だから、安心してコドモに戻りなさい……」


真美ちゃんはもうすっかり落ち着いて、ちょっとだけ笑顔を取り戻したようです。
でもそんな顔を見ながら、今度はあたしのほうが泣きたくなってしまっていました。
でも……泣きません。


この子の前では、あたしは頼れるお姉さんでいなければならないのです。
真美ちゃんが安心するといってくれたこの胸の中に宿る、あたしの大きな恋心も……
きっとこの先、この子に打ち明けることはないでしょう。


そんなことができる強さは、今のあたしにはなかったのです。

88: 2012/03/15(木) 00:07:36.69 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


「ほら、真美ちゃん」

「う……に、兄ちゃん。さっきは……ごめんなさい」

「……そんなこと、気にするな。それより、真美が元気になったみたいで、本当によかった」


そう言って、プロデューサーさんは真美ちゃんの頭をやさしく撫でました。
真美ちゃんは少し恥ずかしそうにしていたけど、その顔はとても嬉しそうです。
さっきまでの笑顔とは違う、まったく別の意味を持った笑顔を浮かべていました。

92: 2012/03/15(木) 00:12:50.48 ID:4jf6Ds5I0


「ピヨちゃんは、やっぱり……頼りになるね。兄ちゃんと仲直りできて、よかったよ」


こっそりと、真美ちゃんが耳打ちしてきました。
いいのよ、気にしないで! と言おうとしたけれど……あたしはそれを口にすることができませんでした。
こんなにも純粋で、こんなにもあたしを慕ってくれている少女の前で……
あたしはただ、黙って笑っていることしかできなかったのです。

94: 2012/03/15(木) 00:16:58.19 ID:4jf6Ds5I0


「音無さん、さっきはありがとうございました」

「いいんですよ。真美ちゃんのことならおまかせあれ、です」


真美ちゃんを含めてアイドルの子たちがみんな帰宅したので、いま事務所の中にいるのはあたしたちだけです。
……なんだか、ちょっと気まずいわ。プロデューサーさんはそんなこと何も感じていなさそうだけど……。


彼は鈍感だから、あたしと真美ちゃんの仲が特別良いということにきっと気付いていません。
女同士の秘密、ってやつですね。


いまのプロデューサーさんは本当に安心しきった顔をしています。
あたしたちが帰ってくるまでの間、彼は真美ちゃんのことが心配で心配で仕方なかったのでしょうね。
なんだか……ちょっと、妬けてきちゃうかも。

95: 2012/03/15(木) 00:20:35.83 ID:4jf6Ds5I0


「さあ、明日からまた頑張りましょう!」


あたしはそう言って、必氏に笑顔を浮かべながら彼の背中を叩きました。
いま彼に直視されたら、この仮面がぼろぼろと剥がれてしまいそうで怖かったからです。
だから、こんな風にごまかしたのです。

そのあとあたしは、顔をなるべく上げないようにしながら、ひとりでさっさと自分のデスクへと戻っていきました。


だから……


「ほんと……がんばらなきゃ。笑顔、笑顔……」


こんな風にひとりごとを言っているあたしのことを、彼が知ることはありません。


ライブはもう目の前。
あたしたちには、自分の気持ちを隅に置いてでもやらなきゃいけないことが、たくさんありました。

97: 2012/03/15(木) 00:25:47.45 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


「ふぅ~……なんだかんだありましたけど、ようやく終わりましたね」

「ええ。音無さんも本当に、お疲れ様でした」


あたしたちはそれぞれいろいろな思いを抱きながら、やっとこの日を迎え……そして、終わらせることができました。
765プロ感謝祭ライブは、間も無くそのすべてを終了しようとしています。

台風のせいで竜宮小町が遅れちゃったりしましたが、みんなが頑張ってくれたおかげでライブは大成功!
たしかに伊織ちゃんたちが到着してからの盛り上がりは、それまでとは比になりませんでした……でも。
765プロは竜宮小町だけじゃないんだぞー! ってことが存分にアピールできたんじゃないかと思います。

101: 2012/03/15(木) 00:31:08.08 ID:4jf6Ds5I0


「……音無さん。今日このあと、食事でも行きませんか?」

「ぴよっ! は、はい喜んでー!」

「ははは……どこかの居酒屋の店員みたいですね」


プロデューサーさんからの急なお誘いにびっくりして、あたしはてんぱってへんな声を出してしまいました。
は、恥ずかしい……。


彼と食事に行くのは、ずいぶん久しぶりのことです。
最近はライブに向けてお互い忙しかったし……なんだか、あたしの方から彼を誘うことが、できなくなっていたのです。
というかあまり、彼の顔が見れなくなっていたのです……。


それでもあたしは、やっぱり彼と一緒にいれることが嬉しくて……ついつい、この顔をほころばせてしまうのでした。

102: 2012/03/15(木) 00:35:33.95 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


「――美希の頑張り、というところがやっぱり大きかったですね。あいつの底力を見せてもらいましたよ」

「そそそうですね。美希ちゃん、ほ本当にすごかったもの」


あたしたちはいつも行くような居酒屋じゃなくて、ちょっとお高そうなレストランで食事をしていました。
店内は仄かな光に照らされていて、ピアノ・クラシックのBGMがかすかに流れています。
なんだか慣れない雰囲気なので、あたしはちょっと声が上ずってしまいます。ぴ……ぴよぴよ。

104: 2012/03/15(木) 00:40:39.70 ID:4jf6Ds5I0


「もちろん、他のみんなも全力を出し切れたと思います。これから765プロは、どんどん変わっていきますよ!」

「……ふふ、プロデューサーさん、とっても嬉しそうですね」


話題はもっぱら、先ほどのライブの話。仕事の話かよ、と思うかもしれませんが……
あたしたちにとっては、あの子たちのことを喋っているときがいちばん心穏やかになるのです。

プロデューサーさん、本当に嬉しそう。今日までずっと頑張ってきましたからね……。
なんだか、あたしまで余計に嬉しくなっちゃいます。えへへ……。

106: 2012/03/15(木) 00:46:43.25 ID:4jf6Ds5I0


「そういえばプロデューサーさん……みんなと打ち上げ、しなくてよかったんですか?」

「ああ、いいんですよ。みんなあんなに疲れきっていたんだから、今日は早く休ませてあげるべきです」


お酒が入り少し酔ってしまっていたあたしは、
「たしかに、元気だったのあずささんとか伊織ちゃんだけでしたからね~」なんて言いながらも、
頭の中で違うことを考えていました。


(こういうちゃんとしたところで食事をしているあたしたちの姿は……他の人の目からはどう見えるのかしら)

(や、やっぱりこ、恋人同士? うへへ、まだだけどね……そ、その、いずれは、ね?)



ところで、ちょっとプロデューサーさんには聞きづらいことだったんですけれど……。
このレストランも、どうやら彼が前から予約してくれていたみたいなんです。

入り口で「うわうわ、こんなところ入れるの!?」って動揺していたあたしの目の前で、
フロント係の人に自分の名前をさっと挙げるプロデューサーさん。正直かっこよすぎわろた、と思いました。

そんなことされたら、期待しちゃいますよ……。なんなんですか、もう……。

110: 2012/03/15(木) 00:53:00.55 ID:4jf6Ds5I0


「音無さん」

「ひゃ、ひゃい!」


妄想の中にいたあたしは、突然彼に話しかけられてびっくりしてしまいます。
ま、またへんな声でた……。


彼はなんだか、ライブ開幕を目前にしたあのときのような、真剣な顔つきをしています。
……プロデューサーさん?

113: 2012/03/15(木) 00:56:22.41 ID:4jf6Ds5I0


正面に座っている人の顔しか見えないような、最低限かつ最高の照明。
いまあたしの目には、彼の顔しか映っていません。


耳触りのとても良いピアノの旋律が、鼓膜をやさしく刺激しています。
しかし、これがなんていうタイトルの曲だったのか、あたしは知ってるはずなのになかなか思い出せませんでした。


あたしは……そのときになってまた改めて、緊張してしまっていたのです。
さっきまでのような、高級そうなお店の雰囲気に圧倒されての緊張とは違います。


そこには、彼がいました。それだけで、あたしのこの胸の鼓動は、こんなにも早くなってしまうのです。

116: 2012/03/15(木) 01:01:59.35 ID:4jf6Ds5I0


とっても良いムードの店内で、東京の満開の夜景をバックに、彼の真剣な顔。
こ、これって……?
……え、こ、これはまさか!? これは都市伝説として語り継がれる、あの……



プ、ププ、プロポーズ!!?



う、うそ、まだあたしたちは恋人同士でも無いのに、心の準備ができてないわ……!


「音無さん、俺は、その……」

「ちょちょちょと待ってください、い、いま歯にはさまった魚の骨とりますから」


なにを言っているの!! ちょっと!! あたし、何を言っているの!! ふざけんじゃないわよ!!

118: 2012/03/15(木) 01:06:14.22 ID:4jf6Ds5I0


あたしは心の中で大粒の涙を流しながら、口を手で隠して魚の小骨を取り除きました。
この骨が……この骨がいけないのよ……。


「お待たせしました……ぐす」

「ははは、すっきりしましたか」

「…………いじわる」


店内が薄暗くて、本当によかったと思いました。
きっとそのときのあたしの顔は真っ赤になってしまっていたからです。
おいしいワインのせいだけでなく、それこそ彼と一緒にいるこの空間に酔ってしまっていたからです。


そ、それでは続きを聞かせてください……どうぞ。

121: 2012/03/15(木) 01:11:31.15 ID:4jf6Ds5I0


「音無さん、俺は……」

「は、はい……」

「…………」


なんで黙るのぉ~……。
重い沈黙のなかで、あたしは少しでも気を紛らわせるためにグラスに入ったワインをぐいっと一気に呷りました。
ぷはぁっ、こうなれば無敵ね!

もう、もうやけだ……こ、こっちから言っちゃおうかな!
け、けけ結婚してくださいって、言っちゃおうかな! よーし、ピヨちゃんいっくぞ~!


「「あの!」」


あたしはとことんタイミングを読めない女のようです。だから彼氏いない暦=年齢なのね。よくわかります。

123: 2012/03/15(木) 01:14:59.92 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


そのあと結局……彼はあたしに何も言わないまま、あたしも彼に何も言えないまま、
気まずい雰囲気のままお店を出てしまいました。もう、なんだったのよ……。

帰り道の途中、あたしはなんだか泣きたくて泣きたくて仕方ありませんでした。でも、泣きません。
まだ彼は、あたしの近くにいます。もうだんだんと駅が見えてきたから、もうすぐお別れですが……。

最後まで、彼の前では笑顔でいなきゃ……。
泣くのは家に帰ってから……ひとりになってからで、いいのよ。


「音無さん……大丈夫ですか?」

「え……?」


気が付くと、あたしは足元がおぼつかなくなっていました。なんだかふらふらします。
店内では緊張していたからわからなかったけれど、あたしは随分と深く酔っていたようです。


「だ~いじょうぶですよ……だ、だいじょうぶぶぷ」

「やばいじゃないですか! ちょっと、あの公園で休みましょう」

126: 2012/03/15(木) 01:22:11.42 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


「ぺっ、ぺ…………えぐっ、ぅ……う、ぅぁあああん……う、うぅ」


公園のトイレでひとり吐きながら、あたしはとうとう、小さな声で泣きだしてしまいました。




     自分で自分が、いやになる……。
     こんなに、こんなに好きなのに……! 
     なんで、自分から言えないのよ……!

     なんで、彼は言ってくれないの……? 
     彼はやっぱり、あたしのことなんて、興味ないの……?

     じゃあ、もう! もう期待させるようなこと、しないでよ! 
     その優しさのせいで、あたしはどれだけ、どれだけ……!

     ……ちがう。ちがうのよ……。
     ほんとは……わかってるの。
     あたしが、あたしがほんとは頑張らなきゃ、いけないのに……。



128: 2012/03/15(木) 01:29:34.41 ID:4jf6Ds5I0


「……真美ちゃん」


ふと、真美ちゃんの顔が浮かんできました。こんなあたしなんかを一番に慕ってくれる、あの少女のことです。




     真美ちゃん……あたしは本当は、こんなにだめで……
     あなたが思っているような、頼れるお姉さんじゃないのよ。

     こんなにも、自分の気持ちと戦うのに必氏で……!
     彼のそばにいることに、必氏で……!

     頑張ろう、頑張ろうと思っていても……
     でも、なにもかも、うまくいかなくて……!

130: 2012/03/15(木) 01:34:33.78 ID:4jf6Ds5I0




     もし、もしも……あたしのこの気持ちが、彼に届けば……。

     あなたがいつか……いいえ、近い将来。
     自分の恋心に気付いたときに、ひどく傷ついてしまうことがわかっているのに。
     そのことで、彼に対して……ぐるぐると迷って、悩んでしまうことが、わかっているのに。


     それでも……!


     それでも、この気持ちは隠せないのよ……!
     こんなにも、あたしは自分勝手なのよ……!

     今のあなたにも……将来のあなたにも……
     どんなあなたにも、負けないくらい……!
     あのひとのことが、こんなにも、だいすきなのよ……!





「う、うぅ……ぅぁあ゛あぁあああん! まみ゛、まみ゛ぢゃぁああん! ごえ゛ん、ごめん、ねぇえ……!!」


135: 2012/03/15(木) 01:40:21.52 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


「うぅ……ん、んぐ……。…………、…………よし」


あたしは、まだまだ本当はコドモです。真美ちゃんのことを笑っていられないくらいに。
でも……涙を自分で止められるくらいには、オトナになってしまっているのです。


「…………戻ろう。あのひとが、待ってる。」


そして、今度こそ……あたしはこの気持ちに、決着をつけるのよ。
もう決めた、決めてしまった。あたしは、この彼を思う気持ちを、正面からぶつけてやるんだ。


鏡に映った、涙でぐしゃぐしゃの顔を見ながら、あたしはつぶやきました。

あたしはこんなに、綺麗じゃない。
けれど、彼の前だけでは……笑顔で、いつも通りのあたしでいなきゃ。

138: 2012/03/15(木) 01:45:12.83 ID:4jf6Ds5I0

――――――――――――
――――――
―――


「…………」


プロデューサーさんは、公園のベンチでひとり座ってあたしのことを待っていてくれました。
さっき見せてくれたような、真剣な顔つきはどこかへ行ってしまったようです。


その顔はなんだかとても落ち込んでいるようで、あたしはそんな顔を見ながら、以前の彼の姿を思い出していました。
あれは……そう、彼が焦っていろんなことを失敗してしまっていた、あの夏です。
思えば、あの頃彼を元気づけようとして話しかけたとき、あたしはすでに恋に落ちてしまっていたのかもしれません。


あのときのあたしに出来たことは、笑顔で彼を元気づけてあげること、ただそれだけでした。
そしてそれは、いまも、これからもきっと変わらないことなのです。

140: 2012/03/15(木) 01:48:18.10 ID:4jf6Ds5I0


あたしたちは少し、急ぎすぎていたのかもしれません。
あたしたちの本来のカタチは、きっと良いムードのお店でロマンチックな告白だとか、
そういうかっこいいものじゃなくて……
もっと、簡単なことだったんです。


ただお互いがお互いのために、少しでも力になってあげたい。
そう思う気持ちがあれば、きっといろんなことがうまくいくのです。


「どうしたんですか、プロデューサーさん。そんな顔して……」


142: 2012/03/15(木) 01:51:42.41 ID:4jf6Ds5I0


「……音無さん。具合はもう、大丈夫なんですか?」

「あたしのことはいいんですよ。それより……今日は、何があったんですか?」

「…………実は、今日はですね」


日中降り続いた雨はもうあがり、月の光がふたりの姿をやさしく照らしていました。
あたしがやり始めたこの“お芝居”の意味に、彼はすぐ気が付いたようです。


144: 2012/03/15(木) 01:55:08.03 ID:4jf6Ds5I0


「今日、とても大切なライブがあったんです。アイドルたちの今後を左右するような……だから」

「だから今日まで、俺はずっと気を張ってきたんです。彼女たちがこんなに頑張っているんだから、
 俺も、あの子たちのために頑張らなきゃいけないって」


そうだったんですか……。
でも、いまこうして浮かない顔してるってことは……もしかして、ライブ失敗しちゃったんですか?


「ライブは、大成功しました。みんな本当によくやってくれたので、最高のステージを作り上げることができましたよ」


そう、それは良かったです。プロデューサーさんも、本当にお疲れ様でした。
でも、それならどうして……。


「……このライブが終わったら、やりたいことがあったんです。俺はずっとずっと前から……これを決意していたんです」


……やりたいこと?


「俺は……」

145: 2012/03/15(木) 01:58:53.58 ID:4jf6Ds5I0


「大切なひとに、自分の思いを伝えたかったんです。でも、俺はすんでのところで……怖気づいてしまいました」


…………そう、だったんですか。


「きっとその人も、こんな俺に対して呆れてしまっていると思います。へたれ、だと思っているのかも」


……あなたが想うその人がどの人なのか、わからないから……あたしにはその気持ちはわかりません。
でもきっとその人も、自分がいまどんな気持ちでいるかなんて、はっきりわかっていないと思いますよ。


「……そうでしょうか」


少なくとも、それくらいであなたのことを嫌いになったりは、していません。
だって、あなたが大切に想うくらいのひとなんですから。きっと……最高に良い女です。


だから……。

148: 2012/03/15(木) 02:02:14.14 ID:4jf6Ds5I0



「だから……元気を、出してください」



あなたがいつか言ってくれたように、あたしも……あなたと同じなんですから。



「……音無さん」

「……ふふ。しゃきっとしてくださいね、あなたが笑顔じゃないと、あたしも悲しくなっちゃいます」



153: 2012/03/15(木) 02:06:36.72 ID:4jf6Ds5I0


長い、長い沈黙がありました。あたしたちはふたりとも、今の“お芝居”の本当の意味について考えていたのです。


しかしその答えはきっと、あたしたちをずっと見守ってきた月にしかわからないことでしょう。
それくらいあたしたちは、自分の考えを、気持ちを、うまく形にできずに戸惑い……
ただひたすら、月が浮かぶ空を見上げることしかできなかったのです。


あたしは、必氏に考えます。
やっと……ここまできたんだ。今度こそ、はっきりと……彼に言わなきゃ。いけない……のに。


154: 2012/03/15(木) 02:10:46.54 ID:4jf6Ds5I0


――いつか咲こう、きっと。諦めないで……葉をひろげて、うんと……茎を伸ばして――


歌はいつでも、あたしのことを励ましてくれます。いつも何度でも、歌だけは……あたしの味方でした。
でも、歌っているときはあんなにすらすらたくさんの思いを口にできるのに……
そのときあたしは、なかなか言葉を紡ぎだすことができませんでした。


やっぱり結局のところ、あたしは怖かったのです。
こんな場面になってまで、あたしはどこまでも、臆病なコドモのままだったのです
彼の心が、この胸に宿る小さい種を拒絶したら? ……きっとあたしはそのとき、すぐにでも枯れてしまいます。


そしてあたしのこの想いは、ちゃんとした形を取ることもできずに、誰にも聴こえないメロディにのって……。
月が輝き星が歌う、そんな煌く夜の闇の中へと……消えてしまいました。

156: 2012/03/15(木) 02:13:42.16 ID:4jf6Ds5I0


「…………」


さっきまでの決意はどこかへ消えてしまったように、
あたしはこの思いを吐き出せないまま、深く深くうつむいてしまいます。
いつか彼がかわいいと言ってくれたような、そんな笑顔ではいられませんでした。


「音無さん」


でも……彼は、そんなあたしに言葉をかけてくれたのです。


いつだって、そうです。
あたしのこの心を揺らすのは、いつだってあなたの言葉なのです。

157: 2012/03/15(木) 02:17:24.76 ID:4jf6Ds5I0



「……どうしたんですか? まだ……悩み事があるんですか?」


あたしは先ほどの“お芝居”の続きをするかのように、肝心なことから逃げるかのように、返事をしてしまいました。
彼の顔を見れば、もうすっかりそのステージは終わっているということはわかっていたのに。


「……あります。ずっと悩んできたことです。それは、やっぱり……あなたに言わなきゃいけないことなんです」


「俺は……」

159: 2012/03/15(木) 02:19:49.93 ID:4jf6Ds5I0


「本当は、知っています。あなたが……いつでも笑顔でいようとするあまり、心の中で泣いているということを」


……! あ、あたしが、心の中で泣いてる? なにを……。


「俺の悩みは、まさにそれです。音無さんが、心からの笑顔を浮かべられない……。
 それが、多くの場合俺のせいだということが、いま抱える最大の悩みなんです」


あなたのせい、で……? そんなこと……。


「そんなこと、ありますよ」

161: 2012/03/15(木) 02:30:07.56 ID:4jf6Ds5I0


「俺は、いつだって音無さんの笑顔に救われてきました。そしていつも、あなたの笑顔を探していたんです。
 だから、俺にはわかります」

「音無さんの笑顔がかわいい、といつかの俺は言いました。でも、それは本当は……正しくありません。
 もちろんあなたの笑顔は素敵ですが……正確に言うと、俺の本当の気持ちは違います」


「俺は……あなたの笑顔が、だいすきなんです」

「いや、すみません。本当はそれも、違うんだ……」




深呼吸して、彼は続けます。
あたしには、いま何が起こっているのかわからなくて、ただただ黙っていることしかできませんでした。




「俺は、あなたのことが、だいすきなんです。恋人になって、ずっと……一緒にいてほしい」

165: 2012/03/15(木) 02:37:13.36 ID:4jf6Ds5I0


あたしは彼の顔を直視することができずに、ただじっと、足元に広がるアスファルトを見つめていました。

全身の感覚が、その本来の働きを失っているのがわかります。
なんだか視界がぼやけています。体中に巡る血の熱さのせいで、うまく空気の温度をつかむことができません。
はっきりと感じられるのは……うるさいくらいに響き渡る、この心臓の鼓動だけです。


……彼はいま、なんて言ったの? なにを、あたしに伝えたの?
い、いいえ……わかってる、本当はわかってるのに……この流れで、“それ”以外のことは、ないって……。


「……ぇ、え……な、なに、を……」


あたしは、なにを言ったらいいの? どんな答え方を、すればいいの?


168: 2012/03/15(木) 02:40:21.37 ID:4jf6Ds5I0


彼が勇気を出してその想いを伝えてくれたのだということは、さすがのあたしにもわかっていました。
でも……。


「……っぐ……んぐっ……」


ずっと、ずっと夢見てきたことが目の前の現実として現れたというのに……あたしは、もう何も考えられません。
自然と、また再び、目頭が熱くなってきました。頭も少し、痛いです。


想いは、言葉という形を持ってしまうと、これほどまでに人の心を動かすのです。
どこまでもやさしく、どこまでも暴力的に……こんなにもあたしの心を、揺さぶってしまうものなのです。

171: 2012/03/15(木) 02:43:56.89 ID:4jf6Ds5I0


今日この日まで、あたしは少しでも彼の気を引くために笑顔でいようと心がけていました。
本当はつらいときも……ひたすら、彼の心にあたしのことを焼き付けてやろうと必氏だったのです。
あたしは、泣かない。少なくとも彼の前では、悲しみの涙を流さない。


でも、それはすこし間違っていたことなのでした。
ここに来てようやく、あたしはそのことに気が付くことができたのです。


「んぐ! ……え、えへ……へ……」


いまあたしは……彼の言葉が信じられないくらいに嬉しくて、嬉しくて……ついつい、泣きそうになっています。
涙が、あたしのこの瞼の裏をどんどんとノックしているのがわかります。
泣いていい、それは悲しくて流す涙じゃないんだから、彼の前で思いっきり泣いていい。


だけど、やっぱりあたしは泣きません。
なぜなら……。

172: 2012/03/15(木) 02:47:13.90 ID:4jf6Ds5I0



「えへへ……。あなたのこと……あたしも、だいすきです……ず、ずっと」



なぜなら……、
彼がかわいいって、初めてあたしのことを褒めてくれた笑顔が、自然とこぼれてきたのですから。

それは、今までのやせ我慢のような、本当は心の中で泣いているような……。
そんな、“ごまかし”の笑顔ではありませんでした。



「ずっと、ずーっと……一緒ですよ」



おわり

176: 2012/03/15(木) 02:55:11.03
乙!

引用元: 小鳥「ずっと、ずーっと一緒ですよ」