1: 2017/05/31(水) 23:21:39.033 ID:IbffcjmS0
-ガヴリールの家-
タプリス「天真先輩、またゲームばかりして……たまには、外にでも出かけましょうよ」
ガヴリール「断る」
タプリス「もう、何時間やってるんですか」
ガヴリール「昨日の夜から始めたから、十二時間くらいか」
タプリス「えぇっ!? 一睡もしてないんですか!?」
タプリス「そんなんじゃ、体壊しちゃいますよ……」
ガヴリール「大丈夫だって。この後、寝るから」
タプリス「それじゃあ、休日終わっちゃうじゃないですか」
ガヴリール「休日なんだから、何をやってもいいだろ」
タプリス「それは、そうですけど……」
タプリス「睡眠時間を削るほど、面白いものなんです?」
ガヴリール「お前も興味が出てきたか?」
タプリス「興味といいますか、どうして先輩がそこまで熱中できるのかが知りたいです」
ガヴリール「この気持ちをたった一言では、とても言い表せないな」
ガヴリール「実際にプレイした人にしか、わからんよ」
タプリス(先輩を更生させるには、まずゲームをやめさせないと、話になりません)
タプリス(ですが、やめさせるにしたって、ただ飽きるのを待つだけでは)
タプリス(いつまで、時間がかかるかわかりませんし)
タプリス(どうして続けてしまうのか、を知らないと対策の打ちようがありませんね)
タプリス(……ここは、わたしも一度)
タプリス(体験してゲームのことを理解するのが、得策でしょうか)
タプリス「先輩。わたし、ネットゲームというものを、一度やってみたいんですけど」
2: 2017/05/31(水) 23:23:18.465 ID:IbffcjmS0
-数日後 インターネットカフェ パーティルーム-
ガヴリール「ここならPCも5台あるし、好きなだけ騒いでいいから、ちょうど良いだろ」
タプリス「すみません、今日はわたしの我儘にお付き合い、いただいて……」
ヴィーネ「いいのよ、タプちゃん。私もネットゲームがどんなものか」
ヴィーネ「少しだけ興味があったし」
ラフィエル「ネットゲームはやったことはありませんが」
ラフィエル「みなさんで一緒にわいわい遊べるのは、良いですね」
サターニャ「ふんっ、このサタニキア様が付き合ってあげるんだから、感謝しなさい」
サターニャ「やるからにはもちろん、私がNo1だけどね」
ガヴリール「今日やるのは、そういうゲームじゃねーよ」
ガヴリール「今、私がやってるのとは違うけど」
ガヴリール「初心者向けで操作が簡単な、MMORPGだ」
ガヴリール「大規模多人数同時参加型オンラインRPG、ともいう」
ガヴリール「簡単に言うと、一つの世界の中を、みんなで一緒に冒険する、ゲームだな」
ヴィーネ「へぇ、ゲームの中に、たくさんのプレイヤーがいるのね」
ガヴリール「とりあえずはゲーム起動して、どの職業にするかまで決めないとな」
タプリス「て、天真先輩」
ガヴリール「なんだ」
タプリス「き、起動ってどうやるんですか」
ガヴリール「まぁ、だいたい予想してたけど。起動は、こうやってだな……」
サターニャ「ガヴリール! 街から外に出たら、いきなり敵にやられたんだけど!」
ガヴリール「お前は少し、みんなを待ってろ……」
3: 2017/05/31(水) 23:24:48.170 ID:IbffcjmS0
ラフィエル「ガヴちゃん、私はアーチャーをやってみようと思うのですが」
ラフィエル「初期のステータスは、どのように振ったほうが良いでしょうか」
ガヴリール「アーチャーなら、最初は器用さを全振りでOK」
ラフィエル「わかりました」
ヴィーネ「ガヴ、ソードマンは?」
ガヴリール「ソードマンは、少しだけ器用さを振った後、力を上げていくと良い」
ヴィーネ「わ、わかったわ」
タプリス「天真先輩、マジシャンは……」
ガヴリール「マジシャンは、知力全振りだ。何があっても、全振りだ」
タプリス「りょ、了解です」
ガヴリール「サターニャは……、キャラメイクは完了してたよな」
ガヴリール「職業は何にしたんだ?」
サターニャ「私は、アサシンを目指すわ。このかっこよさ、私にピッタリよ!」
ガヴリール「ということはシーフだな。ステータスはちゃんと振ったか?」
サターニャ「当たり前じゃない。力に全て振ったわ!」
ガヴリール「お前なぁ……、シーフが攻撃を回避できないと、後々、困るぞ……」
ガヴリール「頼むから、レベル上がったら敏捷を上げてくれな」
サターニャ「攻撃される前に倒せばいいじゃない」
ガヴリール「できるならな。まぁ、いいや。好きなようにやってみろ」
ガヴリール「失敗から学ぶこともあるしな」
ガヴリール「というか、回復役が一人もいないな。私がやろう」
タプリス「す、すみません、お手数おかけしてしまって」
ガヴリール「気にするな、本業だし」
ガヴリール「それよりお前は、人のことより、操作を覚えるのに集中してくれ」
タプリス「わ、わかりました」
5: 2017/05/31(水) 23:26:17.662 ID:IbffcjmS0
-ゲーム内 最初の街 武器屋-
サターニャ『別に装備なんて、いらないでしょ』
ガヴリール『いきなり外に行って、敵にやられたお前が言うか』
ガヴリール『ここで自分が装備できる武器で、一番安いものを買ってくれ』
ラフィエル『一番安い、といっても、今の所持金だとぎりぎりですね』
ラフィエル『他の装備は買わなくて良いんですか?』
ガヴリール『もちろん近距離で敵と戦う職業には、防具も重要だけど』
ガヴリール『まずは何と言っても、武器だ。敵を倒せないと意味がない』
ラフィエル『なるほど……』
タプリス『天真先輩! 買えました! この杖ですよね』
ガヴリール『おい馬鹿。それはプリースト用の杖だ。お前は、装備できないぞ』
タプリス『えぇっ!? そんな……』
ガヴリール『私がマジシャン用の杖を買うから、交換な』
タプリス『は、はい。すみません……』
ガヴリール『これで全員、買ったな? あと買ったものは装備しないと意味ないからな』
ガヴリール『あ、そういえば、ヴィーネは何を買ったんだ』
ガヴリール『ソードマンは装備できる武器が多いけど』
ヴィーネ『私は槍を買ったわ。やっぱり、普段使い慣れてるから』
ガヴリール『槍か……、まぁいいか』
ヴィーネ『えっ、もしかして、まずかった?』
ガヴリール『いや、大丈夫だろ。たぶん』
ヴィーネ『そう? 本当に?』
ガヴリール『……お金貯まったら、片手剣にした方がいいかもな』
ヴィーネ『やっぱり駄目なんじゃない、もう!』
7: 2017/05/31(水) 23:27:47.555 ID:IbffcjmS0
-ゲーム内 最初の街 近隣フィールド-
ガヴリール『ようやく準備が整ったところで、敵を倒しに行くぞ』
サターニャ『やっと私の実力を見せられる時が来たのね!』
タプリス『て、敵って、どこにいるんですか?』
ガヴリール『ほら、あそこにいるだろ。あの、ゼリー状の』
ヴィーネ『あの丸っこい、可愛いやつ?』
ガヴリール『そうだな』
タプリス『あ、あれを倒すんですか。なんか、可哀想です……』
ガヴリール『そんなこと言ってたら、いつまでたっても進まないぞ』
サターニャ『いくわよ! 先制攻撃!』
ゼリー状の魔物『ポッ』
ヒュンッ グシャ
ゼリー状の魔物『』
サターニャ『あれ、私、攻撃してないのに勝手に砕けたわ』
ラフィエル『あ、すみません。私の矢の攻撃で倒しちゃったみたいです』
サターニャ『ふんっ、まぁいいわ。次こそは……』
ヒュンッ グシャ
ゼリー状の魔物『』
サターニャ『え? また?』
ラフィエル『ごめんなさい~』
ヒュンッ グシャ
ヒュンッ グシャ
8: 2017/05/31(水) 23:29:17.571 ID:IbffcjmS0
サターニャ『ちょっと! 私が攻撃する前に倒しちゃうの、やめなさいよ!』
ラフィエル『そ、そう言われましても……』
ガヴリール『私たち五人にしては、敵が弱すぎたみたいだな』
ガヴリール『次のMAPに行くぞ』
タプリス『動かすのに精一杯で、何もできませんでした……』
-ゲーム内 迷いの森-
サターニャ『なんだか冒険っぽくなってきたじゃない』
ガヴリール『迷子になるんじゃないぞ。特にタプリス』
タプリス『は、はい』
ヴィーネ『すごいわね。さっきのゼリー状の魔物がたくさんいるわ』
ラフィエル『いくつか色の種類があるみたいですね』
ガヴリール『ああ、赤とオレンジは、どうってことないけど』
ガヴリール『緑のやつは少し強いから、ちゃんと全員で一体ずつ確実に倒すぞ』
タプリス『わ、わかりました』
緑のゼリー状の魔物『ポポッ』
ヴィーネ『いたわ、緑の魔物!』
ガヴリール『よし、ヴィーネ、一発目を頼む』
ヴィーネ『わかった!』
ヒュンッ パシンッ
緑のゼリー状の魔物『!?』
ガヴリール『やばっ。ラフィエル、ヴィーネが叩く前に矢を撃ったな?』
ラフィエル『ごめんなさい、さっきの癖で』
ガヴリール『画面内で円を描くように、魔物から逃げろ! 決して近づくなよ!』
ラフィエル『わ、わかりました!』
10: 2017/05/31(水) 23:30:47.852 ID:IbffcjmS0
ガヴリール『他の全員は、魔物に集中攻撃。タプリス、さっき教えた魔法の使い方』
ガヴリール『わかるな? ゆっくり、キーを押してするんだ』
タプリス『はい、大丈夫です! いきます、ファイアーボルト!』
フィーン ドドドドドッ グシャ
緑のゼリー状の魔物『』
ガヴリール『よくやった、タプリス。うまいぞ』
タプリス『えへへ、やりました』
ガヴリール『あと、ラフィエルの逃げっぷりも上手かったな』
ラフィエル『必氏に逃げていただけですが……』
ガヴリール『今みたいに、こっちが攻撃しないと襲ってこない敵は』
ガヴリール『基本的に、最初に攻撃した人を狙ってくるから』
ガヴリール『最初に攻撃するのは、耐久力のある近接職が好ましいんだ』
ヴィーネ『なるほど。それで、私が最初に攻撃したほうが良いのね』
ガヴリール『そういうこと。じゃあ、これをしばらく続けるぞ』
――
ガヴリール『結構、狩ったな。みんなの動きも良い感じだ』
ヴィーネ『ええ。でもなんか、楽勝って感じになってきたわね』
ガヴリール『そろそろ、狩場を変えてもいいかもな』
ラフィエル『あれ、そういえば、サターニャさんがどこにもいませんね』
ガヴリール『おいサターニャ、どこにいるんだ!』
サターニャ『ふふっ、私が大量に緑の魔物を連れてきてあげたわよ!』
ゴゴゴゴゴッ
11: 2017/05/31(水) 23:32:21.227 ID:IbffcjmS0
天使のゼリー状の魔物『ジェリンッ』
ガヴリール『お、おい、よく見ろ! 真ん中に天使の羽根を付けた魔物がいるだろ!』
タプリス『ま、魔物にも天使がいるんですね……』
サターニャ『え? 何か違うの?』
ガヴリール『そいつはMAPに1体しかいない中ボスだ!』
ガヴリール『今の私たちでは、まだ勝てないから――』
ドガッ バキッ
サターニャ『ぎゃー! 一瞬でやられた!』
ガヴリール『やば、こっちくる!?』
ヴィーネ『私がみんなを守らなきゃ!』
ガヴリール『おい、ヴィーネよせ!』
ドガッ バキッ
ヴィーネ『ああっ! 私もやられたわ!』
タプリス『あわわわわ……』
ガヴリール『……こりゃ、諦めるしかないな』
ドガッ バキッ ドガッ バキッ ドガッ バキッ
-ゲーム内 最初の街
ヴィーネ『もう、サターニャがあんなの連れてくるから!』
サターニャ『なによ、楽勝とか言ってたから、刺激を与えてあげたんじゃない!』
タプリス『お、お二人ともケンカはしないで……』
13: 2017/05/31(水) 23:33:52.676 ID:IbffcjmS0
サターニャ『はぁ、なんだかもう、飽きちゃったわ』
ヴィーネ『私も、ちょっとね……』
ラフィエル『そうですね。時間も結構、経ちましたし、そろそろ終わりにしませんか?』
ガヴリール『まぁ、合う合わないは、誰にだってあるからな』
ガヴリール『今回は終わりにしようか』
タプリス『は、はい……』
-その日の夕方 ガヴリールの家-
ガヴリール「やっぱり、ネットゲームの良さをわかってもらうのは、難しいな」
タプリス「……」
ガヴリール「タプリス?」
タプリス「わたしは……その、楽しかったです」
ガヴリール「本当に?」
タプリス「ええ、魔法使いになって、魔法で敵をやっつけるのって」
タプリス「昔から憧れていたこともあって」
ガヴリール「……そうか。そうかそうか!」
ガヴリール「いや、そういう人もいるぞ。魔法が大好きだから、ネットゲームをする人」
ガヴリール「お前が良かったら、もう少しだけ続けてみるか?」
タプリス「で、でも、わたし、パソコン持ってませんし」
ガヴリール「私のお古で良ければ、ノートPC貸してやるぞ」
ガヴリール「あのゲームなら、それでも十分動くからな」
タプリス「ほ、本当ですか?」
ガヴリール「ああ、気の済むまで、やってみるといい」
タプリス「あ、ありがとうございます!」
14: 2017/05/31(水) 23:35:20.964 ID:IbffcjmS0
-その日の晩 タプリスの家-
タプリス(ネットゲーム自体、楽しかったのもあるんですけど)
タプリス(ここでやめてしまったら、天真先輩がどうしてゲームを続けてしまうのか)
タプリス(という理由が、わからず終いになってしまいますからね)
タプリス(頑張って、もう少し続けてみましょう)
タプリス「えっと、起動の仕方は、っと……」
-ゲーム内 砂漠の街
タプリス(うぅ、天真先輩は別のゲームをやっていますから)
タプリス(無理に誘えませんし、ここは一人で慣れていくしかありませんね)
タプリス(一応、魔物を倒して手に入れたものを売って)
タプリス(少しはお金が手に入りましたけど……)
タプリス(そうだ、武器屋です。お金が貯まったら武器屋に行けって)
タプリス(天真先輩が言ってましたよね)
タプリス(この街の武器屋は……っと)
男シーフ『お嬢ちゃん、何かお探しかい』
タプリス(えっ!? わ、わたし、話しかけられちゃってます!?)
タプリス(急いで返事しないと!)
タプリス『えっと、武器屋を探してまして』
男シーフ『武器を買おうとしてるのか、そいつはちょうどよかった』
男シーフ『今、俺、すげえ強い武器持ってるんだけど、マジシャンにしか使えなくて』
男シーフ『よかったら、お嬢ちゃん、買わない?』
タプリス『本当ですか!? ぜひ買いたいです!』
15: 2017/05/31(水) 23:36:48.331 ID:IbffcjmS0
男シーフ『ちなみに、お嬢ちゃん、お金いくら持ってるの?』
タプリス『えっと、1万ゴールドですけど』
男シーフ『チッ、まぁいいや。この武器、本当は10万ゴールド以上するんだけど』
男シーフ『特別に1万ゴールドで売ってあげるわ』
タプリス『す、すごいです! よろしいのですか?』
男シーフ『もちろん、じゃあ取引出すね』
女アサシン『ちょっと待って』
男シーフ『あぁっ!? なんだてめぇ』
女アサシン『その杖、大量に出回ってる安い杖だろ。相場は100ゴールドってところか』
女アサシン『それを初心者ひっ捕まえて、1万ゴールドで売ろうって』
女アサシン『どうかしてるんじゃないの?』
男シーフ『あんたには関係ないだろ! これは、俺とお嬢ちゃんの取引だ!』
男シーフ『なぁ、お嬢ちゃん。一度、買うって言ったんだから、買うよな?』
タプリス『えっと』
女アサシン『別に、どっちを信じようが、あなたの自由だけどね』
タプリス『ご、ごめんなさい。その杖、やっぱり買えないです』
男シーフ『ああ、そうかい。まぁ1万ゴールドなんて貰っても、しょうがないしな』
男シーフ『ったく、偽善者が』スタスタスタッ
タプリス『あ、あの、助けていただいて、ありがとうございました』
女アサシン『別にあなたを助けたつもりはないよ』
女アサシン『あの男の行いが許せなかっただけ』
タプリス『それでも、わたしはとても助かりましたから、お礼を言わせてください』
タプリス『本当に、ありがとうございました』
16: 2017/05/31(水) 23:38:22.237 ID:IbffcjmS0
女アサシン『あなた、始めて何日目?』
タプリス『えっと、今日始めたばかりです』
女アサシン『このゲームにはね、ああいう、詐欺師をロールプレイしている奴が』
女アサシン『たくさんいるんだよ。だから安易に他人を、信じない方が良い』
タプリス『こ、今後は、気をつけたいと思います』
タプリス『それでは、わたしは武器屋に行きますので』
女アサシン『そう、それじゃあね』
タプリス(えっと……、武器屋は……)
タプリス『……』キョロキョロ
女アサシン『はぁ、見てられない』
-ゲーム内 魔法の街 武器屋-
タプリス『すみません、案内までしていただいて』
女アサシン『私もちょうど、用があったし。別にいいよ』
女アサシン『それよりほら、武器、買うんでしょ?』
タプリス『は、はい。あ、これかな、か、買えました!』
女アサシン『よかったわね』
タプリス『ありがとうございます!』
女アサシン『じゃあ、私はこれで』
タプリス『はい、お世話になりました!』
女アサシン『大体いつも、私は砂漠の街にいるから』
タプリス『えっ?』
女アサシン『何か困ったことがあったら、来なさい』
17: 2017/05/31(水) 23:39:56.376 ID:IbffcjmS0
タプリス(こうして、わたしはゲーム内で、少しぶっきらぼうですけど、お優しい)
タプリス(女アサシンさんこと、キャラクター名はリルさん、に出会いました)
タプリス(ゲームを進めていく中で、リルさんには何度も助言をもらい)
タプリス(時には、戦いに付いてきていただいて、直接教えてくれたりして)
タプリス(お世話になりっぱなしでした)
タプリス(こんな親切な方に出会えて、本当に良かったと思っています)
-数日後 ゲーム内 北の台地-
リル『敵に追われている時に、目の前にファイアーウォールを出して』
リル『敵の進行方向に移動すると、敵は火の壁に引っかかって何もできなくなるから』
リル『他の魔法で安全に倒すことができるの』
タプリス『なるほど、そういう使い方があるんですね』
タプリス『目の前にやってきた敵を、食い止めるだけかと思ってました』
リル『ここの赤い芋虫は動きが遅いから、その練習には、うってつけ』
リル『しばらく、ここに通うといいわ』
タプリス『リルさん、ありがとうございます!』
リル『私、今プリーストだし。ここで少し見てようかな』
リル『絶対タプリスは、最初やられるだろうし』
タプリス『ひ、ひどいです! わたしだって、これくらい』
赤芋虫『オペッ』
タプリス『来ました! ファイアーウォール!』
ドォンッ
タプリス『次に移動を……』
18: 2017/05/31(水) 23:41:21.958 ID:IbffcjmS0
リル『移動が1マスずれてる。それじゃ敵は引っかからずに向かってくるわ』
赤芋虫『オペッ』
タプリス『えっ!?』
ガスッ ガスッガスッ
タプリス『』チーン
リル『リザレクションっと』
タプリス『うぅ、ありがとうございます。失敗してしまいました』
リル『まぁ、これに関しては、慣れるしかないわね』
タプリス『が、頑張ります!』
- 一週間後 ゲーム内 ウィザードギルド -
タプリス『こうして転職ができるのも、全てリルさんのおかげです!』
タプリス『ありがとうございました!』
リル『まぁ、その通りだけどね』
タプリス『そこは、あなたが頑張ったからよ、とか言ってほしかったですっ』
リル『そうねぇ。10%くらいは、あなたの頑張りのおかげ、かな』
タプリス『うぅ、ひどい』
リル『ほら、それよりも早く、転職してみせて』
タプリス『は、はい!』
パァァァァッ
タプリスは マジシャン から ウィザード に転職した!
19: 2017/05/31(水) 23:42:50.720 ID:IbffcjmS0
タプリス『わわっ、これがウィザードの衣装』
タプリス『露出が減って、よかったぁ』
リル『かわいいわよ、とっても。馬子にも衣装って感じ』
タプリス『それ、褒めてませんよね』
リル『どうかしら。まぁ、おめでとう、タプリス』
タプリス『ありがとうございます、リルさん!』
リル『それじゃあ、はい、これ。転職祝い』
タプリス『これは、花の髪飾り?』
リル『あなた、まだ、頭に何も装備してないんだもの』
リル『これからは、少しくらい着飾ってもいいかもね』
タプリス『リルさん、嬉しい、本当に嬉しいです!』
タプリス『ずっと、大切にしますねっ!』
リル『まぁ、喜んでもらえたなら良かった』
-数日後 ガヴリールの家-
ガヴリール「そうか、結構続けてるんだな」
タプリス「はい、わたし、ウィザードに転職までしたんですよ!」
ガヴリール「へぇ、すごいな」
タプリス「と言っても、一人で転職できたわけじゃなくて」
タプリス「ゲーム内で親切にしてくださった方が、色々教えてくれたおかげで」
タプリス「転職できたんですけどね」
ガヴリール「ふーん、親切にしてくれる方、ね」
タプリス「はい、基本的にクールで格好良い印象なんですけど」
タプリス「知り合っていろいろお話すると、とても優しい方だったんです!」
ガヴリール「まぁ、MMORPGじゃ、人付き合いは大切だからな」
ガヴリール「よかったじゃないか」
タプリス「はいっ」
20: 2017/05/31(水) 23:44:21.378 ID:IbffcjmS0
タプリス(それからも、ゲーム内でリルさんとの交流は続き)
タプリス(わたしはウィザード、リルさんは、プリーストで)
タプリス(毎日一緒に狩りに行くようになっていました)
タプリス(リルさんの操作は本当に上手くて)
タプリス(下手なわたしは、何度も助けられながら、ではありましたが)
タプリス(二人で様々な場所を巡ることができたのは、すごく楽しかったです)
タプリス(そして、狩りが終わってから、寝るまでの少しの時間には)
タプリス(世間話や、学校で悩んでることとか、相談に乗ってもらったりもして)
タプリス(少しずつネットゲームの良さがわかりかけてきた、ある日のこと)
タプリス(それは、起こったんです)
-数ヶ月後 ゲーム内 砂漠の街-
タプリス(リルさん、今日はいるかな……、あ、いました!)
タプリス(でも、誰かとお話してるみたいですね)
女騎士『もうログインしないとか言ってたのに、最近は結構ログインしてるのね』
リル『まぁ、ね』
女騎士『それよりもさ、ギルドマスターから言われてた』
女騎士『ウィザードの補充の件は、どうなったの』
リル『あてはあるよ』
タプリス(えっ、ウィザード? 補充?)
女騎士『早くしてよ。ウィザードは、攻城戦の防衛で魔法撃つだけの道具なんだから』
女騎士『その辺の初心者でも、捕まえてさ』
タプリス(……!?)
21: 2017/05/31(水) 23:45:52.281 ID:IbffcjmS0
リル『だから、準備はしてるって』
女騎士『そう、それならいいんだけど』
女騎士『くれぐれも、遅れないようにね』スタスタスタ
タプリス『あの、リルさん』
リル『タプリス? もしかして、今の聞いてた?』
タプリス『わたし、魔法撃つだけの道具だったんですか?』
タプリス『始めから、それが目的で、わたしに優しくしてくれたんですか?』
リル『……』
タプリス『リルさん、教えてください』
リル『そう、だと言ったら?』
タプリス(……ッ)
タプリス『信じてたのに』
タプリス『リルさんは、そんな人じゃないって、信じてたのに』
リル『私、始めに言ったよね。安易に人を信じない方が良いって』
タプリス『じゃあ、やっぱり』
リル『そうよ。私はそのために、あなたに近づいた』
タプリス(そんな……、そんなことって……)
タプリス『ごめんなさい、わたし、失礼します』
シュゥゥン
-タプリスの家-
タプリス「うっ……うぅ……」
タプリス「ひどいです……あんまりです、リルさん……」
22: 2017/05/31(水) 23:47:38.068 ID:IbffcjmS0
タプリス(こうしてわたしは、信じていた人に裏切られるということを)
タプリス(ネットゲームで経験しました)
タプリス(その後は、ネットゲームを続けられなくなり)
タプリス(現実の生活でも、沈みがちな毎日を送っていましたが)
タプリス(周りの先輩たちのおかげで、なんとか元気を取り戻すことができました)
タプリス(そして、少し時間を置いてみて、改めて実感したんです)
タプリス(ネットゲームの中のキャラクターは、機械ではなく)
タプリス(生きた人間が動かしているのだと)
タプリス(そしてこれが、ネットゲームを続けてしまう理由なのだとも)
-数ヶ月後 ガヴリールの家-
ガヴリール「……」
タプリス「天真先輩は、すごいです」
ガヴリール「なにが?」
タプリス「ネットゲームを、続けることができて」
ガヴリール「……」
タプリス「わたしには、無理でしたから」
ガヴリール「……そうか、そうだな」
ガヴリール「きっとお前は、優しすぎたんだよ」
タプリス「……」
ガヴリール「そうだ……、お前がやってたゲームな」
ガヴリール「今週末で、サービス終了だってさ」
タプリス「えっ」
23: 2017/05/31(水) 23:48:48.191 ID:IbffcjmS0
-週末 タプリスの家-
タプリス(……サービス終了)
タプリス(もう、そのゲームをすることはできないって、天真先輩は言ってました)
タプリス(でも今更……)
タプリス(今更あの人と話して、どうするんです)
タプリス(きっとまた、傷つくだけじゃないですか)
タプリス(……でもやっぱり)
タプリス(会いたい、です。会って、お礼が言いたい、です)
タプリス(……ログインしましょう)
-ゲーム内 砂漠の街-
タプリス(すごい人の数です。最終日なので、みなさん、ログインしてるんですね)
タプリス(……果たして、あの人はいるでしょうか)
タプリス(いないって可能性もあるんですよね)
タプリス(……いないって思ったら、少しだけ安心してしまう自分が、情けないです)
タプリス(いつもの場所に着きました。あの人は……)
タプリス(……ッ)
リル『久しぶりだね』
タプリス『リルさん』
タプリス『今日はあなたに、お話があって来ました』
リル『そう。でも、ここは人が多いから、場所を変えようか』
25: 2017/05/31(水) 23:50:17.727 ID:IbffcjmS0
-ゲーム内 砂漠の街 城の一室-
リル『ここ、良い場所でしょ。静かで誰も来ないし』
リル『私のお気に入りの場所、だったんだ』
タプリス『あなたに、お礼が言いたかったんです』
リル『お礼?』
タプリス『あなたがどんな理由でわたしに近づいたとしても』
タプリス『わたしには、やっぱりあなたと一緒に過ごした時間が』
タプリス『楽しかったんだって、わかったんです』
タプリス『だから、わたしにかけがえのない思い出をくれて』
タプリス『ありがとうございました』
タプリス『わたしをここまで育ててくれて、本当にありがとうございました』
タプリス『わたしが言いたいのは、それだけです』
リル『そっか。タプリスは、いい子だね』
リル『いい子すぎて、眩しすぎる』
タプリス『リルさん?』
リル『少しだけ、私の昔話に付き合ってもらってもいい?』
タプリス『は、はい』
リル『私もね、あなたと同じように』
リル『最初にこの世界を見た時は、本当に感動したの』
リル『このキャラたち一人ひとりの向こう側には、操作してる人がいるんだって』
リル『そこでたくさんの人と出会って、一緒にお喋りして』
リル『色んな人に助けてもらって』
リル『この世界の何もかもが、本当にキラキラしてて、すっごく楽しかった』
26: 2017/05/31(水) 23:52:15.653 ID:IbffcjmS0
リル『そんな時だったかな、ギルドに入ったのは』
リル『そのギルドのマスターさんが本当に良い人でね』
リル『この人が作るギルドなら、素敵な場所になるだろうなって、ずっと思ってた』
リル『実際に、最初はそうだったんだけどね』
リル『でも、だんだんと時間が経って、人が多くなって、ギルド攻城戦も始まって』
リル『経験値効率だ、金銭効率だ。効率効率、ばっかり気にするようになって』
リル『あんなに良い人だったマスターも、人が変わってしまって』
リル『酷いノルマを押し付けられる毎日が、ずっと続いて』
リル『いつのまにか、疲れきってしまったんだ、精神的にね』
リル『時間って、怖いよね。すごく、怖い』
リル『だから、ギルドを抜けて、このゲームも、やめたの』
リル『心をすり減らしてまで、ゲームをしたくなかったから』
タプリス『そんな辛い思いをしたのに』
タプリス『どうしてまた、ここに戻ってきたんですか?』
リル『友達の付き添い。ネットゲーム初心者だっていうからさ』
リル『このゲームを薦めてあげたの。ひどいでしょ』
リル『自分が疲れ果ててしまったゲームを、友達に教えてあげたんだから』
リル『でも、このゲーム自体に罪はないし、良い出来なのは確かだからさ』
リル『友達なら、私とは違った楽しみ方をしてくれるかもって、期待もあったの』
タプリス『それで、そのお友達は、どうだったんですか?』
リル『やめちゃった』
27: 2017/05/31(水) 23:54:18.281 ID:IbffcjmS0
リル『最初は楽しんでいたみたいだけど、何か辛いことが起きてしまったみたいで』
リル『そのままログインしなくなっちゃった』
リル『たぶん、合わなかったんじゃ、ないかな』
タプリス『そう、ですか』
タプリス『あとあなたは、またギルドに戻ったんですよね』
リル『戻ってないよ、ギルドには』
タプリス『それじゃあ、どうして、ウィザードの補充なんかを』
リル『一応あんなギルドマスターでも、昔お世話になった人だからね』
リル『なるべく、力を貸してあげたいと思っただけ』
リル『始めは、そう思ってた』
タプリス『始めは?』
リル『タプリスに色々教えて、一緒に狩りに行くうちにね』
リル『なんか、昔の自分を思い出したんだ』
リル『ゲームを始めた頃の、みんなに助けてもらって嬉しかった、っていう』
リル『気持ちを、思い出したんだ』
リル『それで、タプリスと遊んでいれば、あの頃の自分に戻れるかなって』
リル『いつのまにか、私、期待してたのかも』
リル『だから、今更、信じてもらえないかもしれないけど』
リル『私はあなたを、タプリスのことを道具だなんて思ったことはないし』
リル『ギルドに売り飛ばすようなことも、するつもりはなかった』
タプリス『それじゃあ、どうして』
タプリス『あの時、そう言ってくれなかったんですか』
リル『怖かったのかもしれない。あなたが、私と同じ道を歩んでしまうことが』
リル『それならあの時に、やめてしまった方が、あなたのためになると思ったの』
31: 2017/05/31(水) 23:57:38.653 ID:IbffcjmS0
タプリス『そんなの、リルさんの都合の良い解釈ですよ』
リル『そうだね、そう思う。自分の考えを、あなたに押し付けてただけ』
タプリス『あの時、もっとちゃんと話しておけばよかったです』
タプリス『そうしたら、わたし。もっともっと楽しい思い出を作れたはずなのに』
タプリス『どうしてこう、なっちゃったんでしょうね』
リル『私が、もっと素直になっていれば、よかったのかな』
タプリス『そうですよ、きっとそうです』
リル『そうやって、タプリスに言われちゃうのは、なんか悔しいかも』
タプリス『なんですか、それ。ひどいです、もう……』
リル『やっぱり、このやりとりが、懐かしくて、心地いい』
タプリス『今日ログインして、本当に良かったです』
リル『私も』
タプリス『最後の時まで、一緒にいても、いいですか?』
リル『いいよ。いて』
リル『あともう、1分切っちゃった』
タプリス『リルさん』
リル『なに?』
タプリス『わたしと出会ってくれて、ありがとうございました』
タプリス『あなたにもらった髪飾りは、消えてしまうけど』
タプリス『ここでの思い出は、わたし、一生忘れません』
リル『タプリス』
タプリス『はい?』
リル『それは重すぎ』
タプリス『もう、わたし真剣に言ってるのに!』
リル『大丈夫だよ、タプリス』
リル『きっと、また会える』
タプリス『はい、リルさん』
[サーバーとの接続が切断されました]
32: 2017/06/01(木) 00:00:10.575 ID:o8JoYKYu0
-数週間後 ガヴリールの家-
タプリス「天真先輩、そんなに長時間連続でゲームしたらダメです」
タプリス「ちゃんと睡眠をとって、ごはんを食べて、ゲームしてください」
ガヴリール「なんかお前、叱り方が変わったな」
タプリス「えっ? そうですか?」
ガヴリール「前なら、頭ごなしにゲームするなーって、言ってたのに」
タプリス「それはその……、わたしだって学んだんです」
タプリス「ネットゲームだって、悪いことばかりではないってこと」
ガヴリール「そうかそうか。じゃあ、お前にゲームをやらせたのは」
ガヴリール「無駄ではなかったってことだな」
タプリス「ま、まぁ、そうですね。素敵な出会いもありましたし?」
ガヴリール「へぇ、素敵な出会いねぇ。その人のこと、好きだったの?」
タプリス「す、好きとかそういうのじゃありません!」
タプリス「ただ、普段は強そうに見えるのに」
タプリス「時折見せる内面の弱さのギャップが素敵というか……」
ガヴリール「やっぱり好きなんじゃん」
タプリス「ち、違いますってば!」
33: 2017/06/01(木) 00:01:55.950 ID:o8JoYKYu0
ガヴリール「あ、そういえば、タプリス」
タプリス「はい?」
ガヴリール「あのゲームな、続編が始まったぞ」
タプリス「ほ、本当ですか!?」
ガヴリール「お前に貸したノートPCでも、たぶんできると思うけど」
タプリス「どんな感じなんです?」
ガヴリール「私、一回ログインしたから、ゲーム画面見せてやるよ」
――
ガヴリール「こんな感じだ」
タプリス「へぇ、なんか雰囲気は、あのゲームと似てますね」
ガヴリール「だろ? でも、結構、中身は変わっててだな……」
タプリス「って、ちょっと待ってください、先輩。そのキャラクター名……」
ガヴリール「ん? あ、やばっ、アカウント間違え――」
タプリス「……リル?」
ガヴリール「ああ、このアカウントはだな。えっと……違くて」
タプリス「……もしかして、わたしを騙してたんですか?」
ガヴリール「え、えっと、ほら、あれだ。ロールプレイ! お姉さん風の!」
ガヴリール「私の内面の弱さが出ちゃったかなー、なんちゃって」
タプリス「……ッ」
ぎゅぅ
ガヴリール「タ、タプリス?」
37: 2017/06/01(木) 00:06:01.824 ID:o8JoYKYu0
ぎゅぅぅぅぅぅ
ガヴリール「ぐええええええっ!」
タプリス「バカ! 先輩のバカバカバカ! 大バカ!」
タプリス「どういうつもりですか! 何がしたかったんですか!」
タプリス「やめちゃった友達って、わたしのことだったんですか!?」
ガヴリール「落ち着け、落ち着けって!」
タプリス「……ぐすっ、理由を、聞かせてください」
ガヴリール「……」
タプリス「先輩、お願いです」
ガヴリール「……お前のことが、危なっかしくて心配だったんだよ」
タプリス「えっ」
ガヴリール「あとは自分の趣味に、興味を持ってもらえたことが、嬉しくてさ」
ガヴリール「それで手伝いたかったんだけど、なんか少し照れくさかったというか」
ガヴリール「だから、正体は隠してた。ごめん」
ガヴリール「でも、あの最後の時、お前に話したことは、私の本心だったから」
タプリス「先輩……」
ガヴリール「許してくれないか?」
タプリス「……しょうがないですね」
タプリス「正直に話してくれたので、許してあげます」
タプリス「その代わり……」
ガヴリール「その代わり?」
タプリス「わたしと、このゲーム、一緒にやってくださいね!」
おしまい
38: 2017/06/01(木) 00:07:14.735
おつ
39: 2017/06/01(木) 00:07:19.677
おつ
41: 2017/06/01(木) 00:15:07.669
やっぱリルさんだったか……
MORPGは人間関係が難しくて俺には無理かも乙
MORPGは人間関係が難しくて俺には無理かも乙
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