1: 2017/05/05(金) 21:02:58.928 ID:aL/Qm9o600505
-メロンパンフェス会場前-
タプリス(天界のお父さん、お母さん)
タプリス(今日、わたしは、悪魔である胡桃沢さんという先輩と)
タプリス(メロンパンフェスというものに来ています)
タプリス(全国各地から、30種類以上の超有名メロンパンが大集結)
タプリス(まさに、メロンパン好きによる、メロンパン好きのための)
タプリス(国内最大級のメロンパンの祭典です)
タプリス(大型連休に加えて、晴天にも恵まれ)
タプリス(会場は多くの人で賑わっています)
タプリス(ですが……)
タプリス「どうして、こんな長蛇の列に並ばないといけないんですか!」
サターニャ「……いいから、黙って待ちなさい」
3: 2017/05/05(金) 21:06:53.806 ID:aL/Qm9o600505
タプリス「それに、メロンパン買うだけなら一人でもよかったのでは」
サターニャ「ここは購入数制限があって、一人三つまでしか買えないのよ」
サターニャ「あんたがいれば、少しでも多くのメロンパンを味わえるでしょ」
タプリス「で、でしたら、みなさんも誘えば、もっと買えたのに……」
サターニャ「……何言ってるの、ここは戦場よ」
サターニャ「ぞろぞろと大人数で歩くことなんて、できるわけないじゃない」
サターニャ「遊びでやってんじゃないのよ」
タプリス「いやいやいや……」
係員「まもなく、開場致します!」
サターニャ「それじゃあ行くわ、タプリス」
タプリス「えっ、あ、はい」
タプリス(す、すごい人ですね、押し潰されそう)
サターニャ「私から離れるんじゃないわよ、ほら、手」
タプリス「……あ、ありがとうございます」
サターニャ「……」
タプリス「……」
タプリス(こういう時だけ、頼もしいというか、先輩っぽいというか)
タプリス(……なんだかずるいです)
4: 2017/05/05(金) 21:09:03.928 ID:aL/Qm9o600505
-メロンパンフェス会場内-
タプリス「すごい……いろんなメロンパンがありますね」
タプリス「りんごメロンパンに、オレンジメロンパンって」
タプリス「もう、よくわかりませんね。美味しそうですけど」
サターニャ「素晴らしいラインナップだわ」
タプリス「カレーメロンパンってのも、ありますよ」
タプリス「でもこれ……、いわゆるカレーパンですよね」
サターニャ「いえ、ちゃんと生地はメロンパンになっているのだから」
サターニャ「れっきとしたメロンパンよ」
タプリス「へ、へぇ……」
サターニャ「私はもう、三つ決めたわ。あんたは?」
タプリス「え? あ、ちょっと待ってください、すぐ決めますから!」
5: 2017/05/05(金) 21:11:04.981 ID:aL/Qm9o600505
-メロンパンフェス会場 外-
タプリス「いただきます」パクッ
タプリス「ん~、美味しいです!」
サターニャ「外はカリッと香ばしく、中はふんわりさっぱりした食感」
サターニャ「奇をてらった商品も悪くないけれど」
サターニャ「やっぱり、普通のが最高ね。一番、違いがよく分かるわ」
タプリス「普段、『おいしい』と『すごくおいしい』の二種類しか言わないのに」
タプリス「メロンパンだけ、本気すぎませんか」
7: 2017/05/05(金) 21:13:08.761 ID:aL/Qm9o600505
サターニャ「……決めたわ」
タプリス「え、何をですか?」
サターニャ「私も、ここにメロンパンを出品する!」
タプリス「な、なに言ってるんですか、無理に決まってますよ!」
サターニャ「ここまでのメロンパン通、かつ」
サターニャ「大悪魔である私に、不可能はないわ!」
タプリス「いやいやいや……、全国の選りすぐりの品が集まってるんですよ?」
サターニャ「そうと決まれば、さっそく帰って、調理開始よ」
サターニャ「フェスは明日までだから、急がないといけないわ」タタタッ
タプリス「あ、ちょっと胡桃沢先輩! 待ってください!」
8: 2017/05/05(金) 21:15:00.814 ID:aL/Qm9o600505
-サターニャの家-
タプリス「ところで胡桃沢先輩、パン作りの経験はあるんですか?」
サターニャ「ふふっ、正直、作ったことはないわ」
タプリス「えぇ……」
サターニャ「でも一応、お菓子作りは小さい頃からずっと見てきたから」
サターニャ「おおよその流れは全て、頭に入っているし」
タプリス「あ、先輩の実家って洋菓子店でしたっけ」
サターニャ「まあ、期待してなさい。最高のメロンパンを作り出してみせるわ」
タプリス(ふ、不安しかないです……)
9: 2017/05/05(金) 21:16:14.729 ID:aL/Qm9o600505
-次の日の朝 サターニャの家-
サターニャ「ぜぇ……ぜぇ……、完成よ」
タプリス「ふにゃ……え、完成したんです? というか、徹夜ですか!?」
サターニャ「これよ!」バンッ
タプリス「……先輩」
サターニャ「なによ。あまりの出来に、言葉もないのかしら」
タプリス「なんといいますか、パンっていうより」
タプリス「でっかい、おせんべいみたいになってますけど……」
サターニャ「これだから素人は……とにかく、これを今から持っていくわ!」
タプリス「ちょ、待ってくださいって! もうっ!」
13: 2017/05/05(金) 21:17:39.642 ID:aL/Qm9o600505
-メロンパンフェス会場内-
運営委員「そういうのは、お断りしていますので……」
サターニャ「なんでよ! 私の最高傑作よ!」
運営委員「これが……ですか?」
サターニャ「み、見た目はちょっと悪いかもしれないけど」
サターニャ「食べたら美味しいんだから! ちょっと食べてみてよ!」
タプリス「胡桃沢先輩、あまり無茶を言うのは……」
運営委員「わかりました、それではいただきますね」
14: 2017/05/05(金) 21:20:54.390 ID:aL/Qm9o600505
タプリス「え、食べてもらえるんですか。あ、ありがとうございます!」
運営委員「……」モグモグ
サターニャ「……」ゴクリ
運営委員「あなた、メロンパンが大好きと言っていましたよね?」
サターニャ「え? ええ、もちろんよ」
運営委員「これを自分で食べてみましたか?」
サターニャ「……」
サターニャ「まだ、食べてない」
タプリス「えぇっ! 味見してないんですか!?」
運営委員「では、今食べてみてください」
サターニャ「……わ、わかったわ」パクッ
サターニャ「……」モグモグ
サターニャ「……ッ」
運営委員「私がこれから何を言おうとしているか、わかりましたか?」
サターニャ「……」
タプリス「胡桃沢先輩……?」
サターニャ「……邪魔をして悪かったわね」
サターニャ「帰るわよ、タプリス」
タプリス「えっ、先輩? ちょ、待ってください!」
15: 2017/05/05(金) 21:24:11.697 ID:aL/Qm9o600505
-サターニャの家-
サターニャ「……」
タプリス(胡桃沢先輩……余程ショックだったんでしょうか)
タプリス「先輩、そんなに落ち込まないでください」
タプリス「しょうがないです、全国トップレベルのパン職人さんたちが」
タプリス「腕をふるっている本気のメロンパンたちなんですから」
タプリス「わたしたちのような素人が、勝てる相手では……」
サターニャ「……勝つ?」
タプリス「えっ」
サターニャ「そうよ、それよ! 最初から比べる必要なんてなかったんだわ!」
タプリス「先輩?」
サターニャ「ふふっ、あのメロンパンたちに勝つとか負けるとか」
サターニャ「どうでもいいことなのよ!」
タプリス「は、はぁ……」
サターニャ「決めたわ! 私は必ず作ってみせる!」
サターニャ「全てを超越した絶対的なメロンパン……」
サターニャ「その名も、超絶メロンパンを!!」
16: 2017/05/05(金) 21:26:53.194 ID:aL/Qm9o600505
タプリス「なんか、食べたら失神しそうなメロンパンですね……」
サターニャ「そう、あまりのおいしさにね」
タプリス「ほ、褒めたつもりじゃなかったんですけど……」
タプリス(でも、理由はともあれ、何か真っ当なこと一つに)
タプリス(打ち込んでいくのって、きっと良いことですよね……)
タプリス(それに胡桃沢先輩を、悪の道から遠ざけることもできそうです)
タプリス「わかりました! わたしにもお手伝いさせてください!」
サターニャ「えっ、いいの?」
タプリス「えぇ、一緒に頑張って作っていきましょう!」
サターニャ「わかったわ! 一緒に、絶頂メロンパンを完成させるわよ!」
タプリス「名前さっそく間違えてますって」
――
サターニャ「さて、それじゃあ作っていくわよ!」
タプリス「ちょっと待ってください! 考えなしに作っても……」
タプリス「また、おせんべいができるだけですよ!」
サターニャ「じゃあ、どうしろっていうのよ」
タプリス「ま、まずはレシピ通りに、普通のメロンパンを作るのが」
タプリス「よいかなぁと思うんですが」
サターニャ「私が作るのは、超絶メロンパンよ?」
サターニャ「普通のなんて作っても、仕方ないわ!」
17: 2017/05/05(金) 21:29:56.034 ID:aL/Qm9o600505
タプリス「いやいやいや……基本もわかってないのに」
タプリス「応用なんて、できるはずないじゃないですか」
タプリス「それに、先輩言ってましたよね」
タプリス「普通のが一番、違いがよく分かるって」
サターニャ「た、たしかに一理あるわね……」
タプリス「最初は、普通のメロンパンを、難なく作れるようになるまで」
タプリス「頑張ってみましょう!」
サターニャ「難なくって、どれくらいよ」
タプリス「こればかりは……何度も作ってみるしかないですよね」
サターニャ「まぁ、やるしかないわね。大悪魔の私に、二言はないわ!」
-数日後 サターニャの家-
サターニャ「これで、どうかしら」
タプリス「すごい! ちゃんとパンができてるじゃないですか!?」
サターニャ「それ、褒めてるの? それとも貶してるの?」
タプリス「褒めてますって! おせんべいからパンに進化ですよ!」
サターニャ「ふんっ、とにかく食べてみなさい!」
タプリス「は、はい。いただきます」パクッ
タプリス「……」モグモグ
サターニャ「ど、どうよ?」
18: 2017/05/05(金) 21:33:07.013 ID:aL/Qm9o600505
タプリス「お……」
サターニャ「お?」
タプリス「おいしいじゃないですか!」
サターニャ「ほ、本当? 嘘じゃないわよね?」
タプリス「嘘なんかついてどうするんですか、これはおいしいです」
サターニャ「ふっ、さすが私ね、わかってたわ。これで……」
サターニャ「超絶メロンパンの完成よ!」
タプリス「あ……」
サターニャ「どうしたのよ?」
タプリス「え、えっと……、たしかにおいしいことはおいしいんですが……」
サターニャ「何よ、はっきり言いなさい」
タプリス「あくまで手作りのおいしさっていうか、お店のものと比べると」
タプリス「どうしても劣っちゃうといいますか……」
サターニャ「そ、そう……」
タプリス「あ……で、でも! そう感じるのは、わたしだけかもしれませんし!」
タプリス「他のみなさんにも食べてもらいましょう!」
20: 2017/05/05(金) 21:35:57.131 ID:aL/Qm9o600505
-ヴィーネの家-
ヴィーネ「意外とおいしい」
ガヴリール「意外とうまいな」
ラフィエル「意外と美味しいですね」
サターニャ「意外とって何よ、あんたたち! 失礼すぎるでしょ!」
ヴィーネ「いや、サターニャが料理するイメージなんてなかったし」
ヴィーネ「実際してないでしょ?」
サターニャ「それはそうだけど、メロンパンだけは別なのよ!」
ガヴリール「で、これをどうしたいんだ?」
サターニャ「なはっ、聞いて驚きなさい」
サターニャ「これを、超絶メロンパンとして世に広め、世界中に認識させるのよ!」
サターニャ「全てを超えた、絶対的なメロンパンであるとね!」
ガヴリール「で、これをどうしたいんだ?」
サターニャ「ちょ! 今言ったでしょうが!」
ガヴリール「すまん、あと二回くらい言ってくれ」
サターニャ「せめて次で聞く努力くらいしなさいよ!」
21: 2017/05/05(金) 21:39:07.369 ID:aL/Qm9o600505
ヴィーネ「たしかに、おいしいとは思うけど……」
ヴィーネ「やっぱり手作りの域を超えられるかというと、厳しいわね」
タプリス「そ、そうですよね……」
サターニャ「何よ! みんなおいしいって言ってくれたじゃない!」
サターニャ「おいしければ絶対、みんな認めてくれるわよ!」
タプリス「胡桃沢先輩……」
ラフィエル「だったら、こういうのはどうでしょう」
サターニャ「な、何よ……」
ラフィエル「ガヴちゃんの働くエンジェル珈琲に、ですね」
ラフィエル「サターニャさんのメロンパンを置いてもらって」
ラフィエル「どれくらい売れるかを試してみるんです」
サターニャ「あ、あんたにしては、良い案じゃない!」
ガヴリール「おいおい、なに勝手に決めてんだよ」
ラフィエル「ガヴちゃん、ガヴちゃん」コソコソ
ラフィエル「お友達としては、時には厳しく、現実を教えてあげるのも」コソコソ
ラフィエル「必要だと思いますよ、それに……」コソコソ
ラフィエル「その方が面白いじゃないですか」コソコソ
ガヴリール「ああ、最後しか聞こえなかった」
22: 2017/05/05(金) 21:42:15.449 ID:aL/Qm9o600505
-数日後 エンジェル珈琲-
マスター「ええ、いいですよ」
ガヴリール「マ、マジすか……ド素人が作るパンっすよ?」
マスター「これで、私のコーヒーを飲んでくれるお客さんが」
マスター「一人でも増えれば、私は嬉しいからねぇ」
マスター「それに、現役女子高生が作るメロンパン、売れそうじゃないですか」
ガヴリール「あ、それは引くっす」
ラフィエル「そうですかそうですかぁ」
タプリス「少し鳥肌が……」
ヴィーネ「そんな人じゃないと思ってたのに……」
マスター「ち、違うからね! 私はコーヒー、一筋だからね!」
サターニャ「あんたたち、置いてくれるって言ってんだから」
サターニャ「こんないい人に、文句言ってんじゃないわよ!」
マスター「く、胡桃沢くん……」ジーン
サターニャ「じゃあ、任せたわ! 値段は一個、1万円でお願いね!」
マスター「高すぎ、ですねぇぇぇぇっ!!」
23: 2017/05/05(金) 21:44:56.296 ID:aL/Qm9o600505
-次の日 エンジェル珈琲-
サターニャ「はぁっ!? 一個も売れなかったですって!!」
ガヴリール「ああ。もちろん値段は、下げに下げて50円にしたんだが」
サターニャ「50円って、普通のメロンパンの半分以下じゃない!」
サターニャ「それなのに一個も売れなかったなんて……」
ガヴリール「まあ、この店に来る客が少ないってのもあるが」
マスター「……」グサッ
ガヴリール「現実はこんなもんだ」
サターニャ「そんな……」
マスター「胡桃沢くん、そんなに落ち込まないで」
マスター「私も食べさせてもらったけど、よく出来てて美味しかったよ」
サターニャ「ほ、本当!?」
マスター「ただ……」
サターニャ「ただ?」
マスター「お金を出して買ってもらえる、ってのは簡単なことじゃないんだ」
マスター「それこそ世の中、お金さえ出せば」
マスター「いくらでも安くて良い物が手に入るからね」
マスター「余程、何かに秀でていないと、難しいことなんだよ」
サターニャ「……」
タプリス「胡桃沢先輩……」
24: 2017/05/05(金) 21:47:52.572 ID:aL/Qm9o600505
ガヴリール「まぁわかったなら、これで諦め――」
サターニャ「……嫌よ」
タプリス「えっ」
サターニャ「私は誓ったの! 全てを超えた、絶対的なメロンパンを作るって!」
サターニャ「あの、メロンパンフェス運営委員の鼻を明かしてやるんだって!」
タプリス「……」
サターニャ「ちょっとやって、売れなかったから、なに!?」
サターニャ「私が挑み続けている限り、私に負けはないのよ!!」
マスター「……ッ」
ガヴリール「言いたいことは、それだけか」
サターニャ「……ええ」
サターニャ「マスター、店で大声出して悪かったわね」
サターニャ「メロンパン……置いてくれて、ありがとう」
サターニャ「タプリス、行くわよ」
タプリス「あっ……」
マスター「ちょっと待って!」
25: 2017/05/05(金) 21:51:16.853 ID:aL/Qm9o600505
サターニャ「何よ、まだ何かあるの」
マスター「私の知り合いにね、パン屋を営んでいる女性がいるんだけど」
マスター「前に人手が不足しているって、言っていたんだ」
マスター「も、もし、胡桃沢くんが良かったら」
マスター「そこで働いてみないか?」
サターニャ「えっ」
タプリス「く、胡桃沢先輩! そ、それってチャンスですよ!」
マスター「もちろん、君のやる気があれば、だけど」
サターニャ「どうして……そんなこと教えてくれるのよ」
マスター「さっきの、君の言葉を聞いてね」
マスター「なんか若い頃の自分を思い出したんだ」
マスター「ただ、がむしゃらに、コーヒー作りに没頭していた頃をね」
タプリス「マスターさん……」
マスター「まぁなんだ、しがない中年のお節介と思ってくれて構わないよ」
ガヴリール「……もう少し、この店の心配もした方が良いと思うけどな」
マスター「……」グサッ
マスター「そ、それで、どうするんだい?」
サターニャ「……そんなの、決まってるじゃない」
サターニャ「このサタニキア様が、そこで働いてあげるわ!!」
26: 2017/05/05(金) 21:53:54.783 ID:aL/Qm9o600505
タプリス(こうして、胡桃沢先輩のパン作りの修業の日々が始まりました)
タプリス(学校が終わると一目散に飛び出していって、パン屋へ通い)
タプリス(休日も返上して、働き続けました)
タプリス(最初に、パン屋の店長さんが女性と聞いた時は、少し安心したものですが)
タプリス(実は、男性も顔負けの豪快で勝ち気な方でして)
タプリス(しょっちゅう、胡桃沢先輩とは衝突して)
タプリス(口喧嘩を店中に響かせていたみたいです)
タプリス(それでも今まで続いているのを見ると)
タプリス(意外と馬が合うのかもしれません)
タプリス(そして、店の仕事の合間を見ては、メロンパンを作り続け)
タプリス(その結果に一喜一憂して、時には苦悩しながら、腕を磨いていきました)
タプリス(そう、胡桃沢先輩のメロンパンに対する熱い思いは)
タプリス(衰えることを知らなかったのです)
タプリス(そして……)
タプリス(数ヶ月の時が、流れました)
27: 2017/05/05(金) 21:57:04.209 ID:aL/Qm9o600505
-数ヶ月後 エンジェル珈琲-
ドンッ
サターニャ「これを、ここに置いてほしいの」
マスター「こ、これは……なんて綺麗なメロンパンなんだ」
サターニャ「……超絶メロンパン、328号よ」
マスター「た、食べてみてもいいかい?」
サターニャ「ええ、どうぞ」
マスター「……」パクッ
マスター「!!??」
マスター「な、なんだこの、メロンパンは!!」
マスター「カリッ、フワッ、モフッ!! それぞれの食感が、頭の中を反芻していく!!」
マスター「止まらない! 手と口が止まらない! 止めてはいけない!!」
マスター「私にはこのメロンパンを!! 食べる義務がある!!」
マスター「私は、このパンと、一緒にならなければ、ならないぃぃぃぃっ!!」
マスター「ぜぇ……ぜぇ……す、すごいよ、胡桃沢くん」
マスター「もちろん君の努力の賜物だとも思うが……」
マスター「これは天性の才能だよ! 君はメロンパンを作るために生まれてきたんだ!」
サターニャ「……当然ッ! 既に知っていたことだわッ!!」
28: 2017/05/05(金) 21:59:58.751 ID:aL/Qm9o600505
-数週間後 エンジェル珈琲-
タッタッタッ
ガヴリール「らっしゃっせー」
タプリス「先輩! 次のお客さん来ています! 早くしてください!」
ガヴリール「……なんでこんな、クソ忙しくなるんだよ」
ヴィーネ「文句言わないの。私たちも手伝ってるでしょ!」
ラフィエル「それにしても、サターニャさんのメロンパンが」
ラフィエル「こんなにも人気が出るなんて、思わなかったですね」
ヴィーネ「さっき、県外ナンバーの車も来ていたわ」
ガヴリール「マジかよ、サターニャ最低だな」
マスター「こ、こんなに私のコーヒーを飲んでもらえるなんて」ウルウル
タプリス「マスターさん、マジ泣きしてます……」
ガヴリール「で、その元凶のあいつは、どこ行ったんだよ」
タプリス「なんかまだまだ、改善の余地があるとかで」
タプリス「実家の洋菓子店に、修行にいくって言ってました」
ガヴリール「もう、やりたい放題だな……」
29: 2017/05/05(金) 22:03:04.986 ID:aL/Qm9o60
-さらに数ヶ月後 サターニャの家-
タプリス「聞きましたか、胡桃沢先輩!」
サターニャ「何をよ」
タプリス「今度、先輩のメロンパンが商品化されて、コンビニに置かれるそうです!」
サターニャ「そう、興味ないわ」
タプリス「えっ!? ど、どうしてです!?」
サターニャ「あんな機械で作った量産品なんて」
サターニャ「私のメロンパンだなんて言えないもの」
タプリス「で、でも。それでもっと有名になれば」
タプリス「先輩のメロンパンを食べてくれる人が増えますよ!」
サターニャ「……ま、そんなことよりも」
タプリス「ス、スルー!?」
サターニャ「これからは、原材料にもこだわっていきたいと思うのよ」
サターニャ「小麦はもちろんとして……」
サターニャ「現在の超絶メロンパンの隠し味になっているメロン果汁」
サターニャ「これらを、農家と連携して、一から栽培していこうと思ってるわ」
タプリス「そ、そこまで……するんですか……」
サターニャ「というわけで、しばらく家を空けるから」
タプリス「えぇっ、学校はどうするんです!?」
サターニャ「もう休学届は提出済よ、それじゃ次の大型連休に会いましょう」
タプリス「ちょ、胡桃沢先輩!? えぇぇぇっ!!」
30: 2017/05/05(金) 22:06:39.703 ID:aL/Qm9o60
タプリス(その後、胡桃沢先輩は本当に、舞天市を去ってしまい)
タプリス(日本各地の農家を転々としている、と聞いています)
タプリス(たまに電話をしたときに、喜々として成果を報告する先輩は)
タプリス(本当に無邪気で子供っぽくて)
タプリス(わたしも、ついつい笑みが溢れてしまいます)
タプリス(一方で、名物がなくなってしまったエンジェル珈琲は)
タプリス(また以前のように閑古鳥が鳴くようになり)
タプリス(マスターさんの体重は、減っていくばかりのようです)
タプリス(先輩のみなさんも、胡桃沢先輩がいなくなってしまって)
タプリス(ぽっかりと空いてしまった胸の穴を)
タプリス(特に話題にすることもなく、埋め合っていると聞いています)
タプリス(そうして、月日はどんどんと流れ……)
タプリス(運命の、メロンパンフェスの日がやって来たのです)
31: 2017/05/05(金) 22:09:29.022 ID:aL/Qm9o60
-数ヶ月後 メロンパンフェス会場前-
タプリス「お久しぶりです、胡桃沢先輩」
サターニャ「ええ、久しぶり」
タプリス「なんだか、以前にも増して、健康的な感じになりましたね」
サターニャ「そう? そんな変わんないでしょ」
タプリス「そうですね。外見以外は、変わってないみたいで安心しました」
――
サターニャ「この一年、氏に物狂いで作り続けてきて」
サターニャ「ついに……この日を迎えることができたわ」
タプリス「はい、長かったようで短かったような、そんな感じがします」
サターニャ「……ありがとね、タプリス」
タプリス「えっ、先輩?」
サターニャ「たぶん、あんたが最初に、私を手伝ってくれたおかげで」
サターニャ「ここまで来ることができた。だから、ありがとう」
タプリス「そ、そんな……わたしなんて何も……」
タプリス「全ては、先輩の行動による成果ですよ、だって……」
タプリス「わたしずっと、先輩のこと見てきましたから、わかるんです」
サターニャ「……そう。じゃあ今日、新たな1ページが刻まれる私の武勇伝を」
サターニャ「あんたにはこれから、広めてもらわないとね!」
タプリス「はいっ!」
サターニャ「それじゃ、行くわよ!!」
32: 2017/05/05(金) 22:12:44.688 ID:aL/Qm9o60
運営委員「あなたはたしか……去年、持ち込みをしてきた方、ですね」
サターニャ「ふっ、覚えていてくれたみたいで光栄ね」
運営委員「まさか今年も……」
サターニャ「ええ、そのまさかよ」
運営委員「何度も言いますが、そういうのはお断りしていますので……」
サターニャ「これを食べても、同じ口が叩けるかしら」
ドンッ
運営委員「こ、これは……」
サターニャ「私を、去年の私と同じと思わないことね」
サターニャ「さぁ食べてみなさい! 私の最高傑作を!」
タプリス「わたしからもお願いします、食べてみてください……」
運営委員「……わかりました、それではいただきます」
サターニャ「……」
タプリス「……」ゴクリ
運営委員「……」パクッ
運営委員「……ッ」
33: 2017/05/05(金) 22:16:01.540 ID:aL/Qm9o60
運営委員「口の中に入れた瞬間の、蕩けるような食感」
運営委員「そして広がる、芳醇な甘み」
運営委員「私が今まで食べてきた中で恐らく……ナンバー1です」
サターニャ「これでわかったでしょう、私の実力が」
運営委員「ええ、一年前の物とは……全くの別物ですね。美味しいです」
タプリス「やった! やりましたね、先輩っ!」
サターニャ「ふっ、当然よ!」
運営委員「ですがこれを……」
タプリス「えっ」
運営委員「このメロンパンフェスで、売ることはできません」
サターニャ「はぁっ!? ど、どうしてよ!?」
タプリス「納得できないです! 理由を教えてください!」
運営委員「だってこれ、パンじゃなくて……」
運営委員「ただのメロンじゃないですか」
サターニャ「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
おしまい
34: 2017/05/05(金) 22:20:03.735
乙
35: 2017/05/05(金) 22:21:04.263
タプちゃん気づけよ
36: 2017/05/05(金) 22:21:38.434
乙
果汁入りは邪道
果汁入りは邪道
37: 2017/05/05(金) 22:26:12.515
ワロタ
乙
乙
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります