1: 2012/03/31(土) 20:04:32.13 ID:8KYB/8IE0
気がつけば、薄暗い部屋のベッドに横たわっていた。


ここはどこ?
どうしてこんなところに?

記憶が混乱しているのか、うまく思い出せない。
私が混乱していると、部屋にノックの音が響いた。

「失礼するよ。」
一人の研究者が部屋に入ってきた。


「お目覚めかね、御坂美琴。」

3: 2012/03/31(土) 20:05:52.05 ID:8KYB/8IE0
「……私は……?」

「君は昨日の実験中に倒れてしまったのだよ。
 あれから急いで医務室に運んだのだが、今まで目が覚めなかったのだよ。」

「そう……」

「体調はどうだ?」

「問題ないわ。さっきまで少し記憶が混乱してたけど。」

「それはよかった。では実験は続行できそうか?」

「……おそらくね。でももう少し休ませてもらえる?」

「いいだろう。では実験は明日から再開だ。今日はゆっくり休むといい。」

そういうと研究者は部屋から出て行った。

4: 2012/03/31(土) 20:08:12.34 ID:8KYB/8IE0
研究者と会話をしているうちに、私の記憶もはっきりしてきた。

私は何故、こんな薄暗い研究所にいるのか。

私は、ここで何をしているのか。



数か月前。

私は職員室に呼ばれ、数人の研究者を紹介された。
なんでも、彼らが私の今後の能力開発における専属のスタッフとなるらしい。
しかも、皆学園都市の研究員としては一線級の者ばかりとのことだった。


いくら常盤台の生徒とはいえ、大して珍しくもない電撃使いの、
しかも強能力者にすぎない私に、その様な待遇が与えられたかは分からなかったが、
より良い条件で能力を鍛えられるということで、私は大いに喜んだ。

5: 2012/03/31(土) 20:09:33.92 ID:8KYB/8IE0
それから私は、特別メニューの能力開発、及び研究協力という名目で、
彼らの研究所に住み込みで開発を受けるようになった。

能力開発のカリキュラムは、過酷なものであった。



来る日も来る日も実験室にこもらされ、開発のための実験。

食事や睡眠など、生活に必要な行為以外の時間は、ほぼ全て開発にあてられた。

学校でクラスメイトと他愛もない会話をしたり、

放課後に買い物に出かけたり、

そんな学生らしい生活などとは無縁の毎日だった。

6: 2012/03/31(土) 20:12:09.55 ID:8KYB/8IE0
そんな実験漬けの生活の中で、私は次第に疲弊していった。


辛い、苦しい、寂しい。

こんなに辛いなら、もう超能力者になんてなれなくていい。

こんなに苦しいなら、もう開発なんて受けたくない。

こんなに寂しいなら、学園都市になんて来たくなかった。


いつかは超能力者になってやるというその思いすら、すでに薄れかけていた。



「私、なんでこんなところにいるんだろ……」

7: 2012/03/31(土) 20:13:56.85 ID:8KYB/8IE0
ある日、休暇と外出の許可をもらい、私は街に繰り出した。
あの研究所に身を寄せて以来、こうして外出するのも久しぶりだ。


今日は普段の鬱憤を晴らすため、思い切り遊んでやる!



さて、意気込んで街に出たはいいが、まずはどうしたものか。


行きたいところはいろいろある。
久しぶりにショッピングもしたいし、ゲームセンターにも行きたい。
屋台でお菓子を買い食いするのも悪くない。

まあいい。その辺は歩きながらでも考えよう。



そう思った私は、まずは適当に朝食を済ませるべく、コンビニに向かった。

8: 2012/03/31(土) 20:15:03.68 ID:8KYB/8IE0
まあ朝だし、パンとかの軽めのものでいいかな。
私は陳列棚からサンドイッチを掴み、籠に放り込んだ。

飲み物は……缶コーヒーにでもしようか。



そう思って飲み物のコーナーに向かうと、



一人の少年が、ふと目についた。

10: 2012/03/31(土) 20:15:49.63 ID:8KYB/8IE0
白い少年だった。

肌も、髪も、新雪のように白い。

しかしその瞳は鮮血のように紅く、見る者に鮮烈な印象を与えるものだった。




まるでウサギみたい。

それが彼の第一印象であった。

11: 2012/03/31(土) 20:18:40.56 ID:8KYB/8IE0
「…………」


少年は缶コーヒーのコーナーを見つめていた。どれを買うか迷っているのか。

私も思わず少年の行動を凝視してしまっていた。



少年は少し考えるような仕草をすると、次の瞬間、



同じ銘柄の缶コーヒーを、何本も籠に放り込んだ。



「ええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!」



あまりにも予想外の事態に、私は思わず大声をあげて驚いていた。

12: 2012/03/31(土) 20:19:39.08 ID:8KYB/8IE0
やってしまった。恥ずかしい。
少年は驚いたようにこちらを見ている。

「……何か文句あンのか、テメェ?」

少年は私を睨み、威圧するように問いかけてきた。
正直、非常に気まずい。

「あ、あのう、えっと……」

まさかアンタの馬鹿みたいな買い方に驚いて声をあげてしまった。などとは言えず、



「あ、アンタが今買い占めた銘柄、私も買いたかったなー…なんて……」

取り繕うように苦しい言い訳を返した。

13: 2012/03/31(土) 20:20:29.69 ID:8KYB/8IE0
少年は呆れたように溜息をつくと、
自分の籠の中から缶コーヒーを一本取り出し、私に差し出した。



「あ、ありがとう……」

私がおずおずと手を出して缶コーヒーを受け取ると、



「フン……」

少年はこれで満足かと言わんばかりに、そっぽを向いた。

14: 2012/03/31(土) 20:21:37.08 ID:8KYB/8IE0
それにしても、この少年は何者なのか。

見たところ歳は私と同じか、少し年上だろう。ということは学生か。
その割には制服を着ておらず、黒いシャツとジーパンというラフな格好だ。
今日は平日で、しかも登校時間はとうに過ぎている。
学生ならば大遅刻は確定だ。


「…ねえ、アンタ学校は?」

「あァン?コーヒーは譲ってやったろォ?とっとと失せろ。」

少年は面倒そうに私を追い払おうとする。


「いいじゃない、そのくらい教えてくれても。」

私は少しムッとして返す。
初対面の人間に対してそんな邪険にしなくてもいいのに。


「チッ…行ってねェよそンなモン。」

少年は面倒そうに答えた。

15: 2012/03/31(土) 20:23:11.16 ID:8KYB/8IE0
学校に行っていないということは、スキルアウトだろうか。

いや、それはなさそうだ。
基本的に能力を使えない(使えても取るに足らない程脆弱な)スキルアウトは、
身体一つで生きていかなくてはならない。

少年は痩せぎすの身体で、背も大して大きくは無い。
とてもこの身体でスキルアウトなどは務まらないだろう。



ということは、私と同じで実験協力や能力開発の特別メニューを受けているのだろうか。

だとすればそれなりに高位の能力者ということになるが……。



何故だか私は、少年に対して少しばかり興味がわいてきた。

16: 2012/03/31(土) 20:24:16.95 ID:8KYB/8IE0
「ねえアンタ、名前は?」

「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗れって習わなかったンですかァ?」


「う…それもそうね。
 私は御坂美琴。
 常盤台中学の1年生。
 能力は強能力者の発電能力者。」

「ふゥン。」


少年は生返事を返す。自分から名乗るよう促したくせになんなのだろう。

17: 2012/03/31(土) 20:25:38.12 ID:8KYB/8IE0
「で、アンタの名前は?私は名乗ったんだから今度は答えなさいよ。」

「……鈴科健太郎。
 学校は書類上通っているンだろうが、どこかは知らねェ。
 能力は教えねェ。」



「え、能力くらい教えてくれたっていいじゃん。」

「何で今日会ったばかりの奴にそこまで教えなきゃならねェンだ?
 ンなことしたらいつかテメェと頃し合いになった時、俺が不利じゃねェか。」


「アンタ随分捻くれた考えするのね。そんなんじゃ友達できないわよ。
 ていうかこれじゃあアンタのこと名前しか分からないじゃないの。」

「余計なお世話だ。あと、鈴科健太郎ってのも偽名だからよォ。」

「じゃあ結局何一つ教えてもらってないじゃない!!!」

18: 2012/03/31(土) 20:26:18.03 ID:8KYB/8IE0
「はあ…もういいわ。ところで鈴科。」

仕方ないのでそう呼ぶことにする。



「何だ?」

「アンタこの後暇?」

「あァ?だったら何だってンだ?」



「暇なのね?……なら、これから私と一緒に遊びに行かない?」




「……ハァ?」。

19: 2012/03/31(土) 20:28:28.03 ID:8KYB/8IE0
それは、ほんの気まぐれであった。

これから遊びに行こうにも、一人でいくのは少々寂しいと思っていたところだ。
かといって、友達を誘おうにも、今日は平日だ。



そんな中出会った、私と同じく学校に行っていない少年。

白い肌と髪に、紅い瞳を持つ、鮮烈な印象を持った少年。



彼に少しばかりの興味を持った私は、だめで元々と思い、遊びに誘ってみた。

20: 2012/03/31(土) 20:29:15.16 ID:8KYB/8IE0
「何言ってやがンだテメェは?」

彼が怪訝な顔つきでこちらを見てきた。



「あはは…やっぱり駄目?」

当然か。初対面の相手にいきなり誘われたら、普通は怪しむだろうし。



そう思っていたら、

「……別に構わねェ。」





意外にも、彼は私の誘いを受けた。

21: 2012/03/31(土) 20:30:14.03 ID:8KYB/8IE0
「え?ほんとにいいの?」

「二度は言わねェ。つーか自分から誘っておいて何言ってやがる。」

そう言われても、本当に意外だったのだから仕方ない。



「いや、だって、アンタどう見ても人付き合い悪そうだし、
コミュニケーション不全っぽいし。」
しまった、つい本音を漏らしてしまった。怒らせてしまったかな。

「いきなり人を誘った挙句そいつを罵倒するとか本当何なンですか?
つーかテメェこそ初対面の男をいきなり遊びに誘うビッチじゃねェか。」

「び、ビッチじゃないわよ!!!失礼ねアンタは!!!!!」
私は顔を真っ赤にして反論した。女の子に向かってなんてことを言うのだろう。
それほど怒っている様子は無いので安心はしたが。

「あァハイハイ。何でもいいから早く行くぞ。」

「むぅーーー!!!」



そうして、奇妙な縁から私達は一緒に遊ぶこととなった。

25: 2012/03/31(土) 20:34:11.20 ID:8KYB/8IE0
彼と遊んで回るのは予想以上に楽しかった。

ここのところずっと実験漬けで友達と遊ぶことがほとんど無かったからということもあったが、
何より同年代の男の子と遊ぶという経験がほぼ無かった私にとっては、
非常に新鮮な体験であったためだろう。


それに、彼は意外なほど優しかった。


私がゲコ太グッズを買いあさっていた時は、文句を言いつつも付き合ってくれたし、
ゲームセンターでは、私に合わせて一緒に遊んでくれた。
屋台でクレープやアイスクリームを買い食いした時は、何も言わずに私に奢ってくれた。

言動は実にぶっきらぼうだったし、憎まれ口も叩くが、
彼が私を気遣ってくれているのは随所に見て取れた。


だが、それを彼に指摘すると、彼は

「くっだらねェ。」

と、またそっぽを向く。
それがなんだかおかしくて、でも、どこか嬉しかった。

26: 2012/03/31(土) 20:36:11.30 ID:8KYB/8IE0
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、
気が付けばもうそろそろ下校時刻だった。

「んー、今日はよく遊んだわー。」

「ったく、朝からテメェみてェなガキのお守りをさせられるとは思わなかったぜ。
 おかげで折角の休みが潰れちまった。」


また彼が憎まれ口を叩いてくる。
それでも言葉とは裏腹に表情はどこか穏やかだった。

「女の子に向かってガキとか、アンタはホント失礼ね。
 そういうアンタはモヤシのくせに。」
だから私も、軽口で返す。

「なっ、テメェ……!……ククク…」

「フフフ…」



「「アハハハハハッッッッッ!!!!!」」

そして、二人でしばし、大声で笑いあった。

27: 2012/03/31(土) 20:37:34.03 ID:8KYB/8IE0
「今日は本当に楽しかったわ。ありがと。」

「フン。まあ、たまにはこォいうのも悪くはねェか。」

「アンタホントに素直じゃないわね。正直に楽しかったって言えばいいのに。」

「ほざけ。」

まったく、どこまでも素直じゃない。



「ねえ、携帯の番号教えてよ。また二人で遊びたいし。」

「…あァ。」



私たちは携帯の番号を交換した。
私が研究所に行ってから、初めての交換だ。


「じゃあ、元気でね、鈴科。」

「あァ、テメェもな、御坂。」

そう言って、その日私達は別れた。

28: 2012/03/31(土) 20:39:57.67 ID:8KYB/8IE0
彼…鈴科と出会ってから、しばらく経った。

あれ以来、私は生活に張り合いが出てきたように思う。
一時はあれほど嫌になっていた能力開発にも、やる気がわいてきた。

おそらく、彼のおかげなのだろう。



お互い忙しく、なかなか会う機会は得られないが、私達はよく連絡を取り合っていた。

彼とは他愛ない話もする時もあれば、能力開発についての相談をすることもあった。



彼はやはり高位の能力者らしく、相談すれば非常に頼りになった。

もっとも、相変わらず自身の能力については教えてくれなかったが。

30: 2012/03/31(土) 20:41:28.31 ID:8KYB/8IE0
Prrrrr……

部屋に戻ってきたところで、電話の着信音が鳴る。
表示を見ると、彼からの連絡だった。


『おォ。御坂か。俺だ。』

「鈴科。今日もお疲れ。」

私達はいつもの様に軽く挨拶を交わす。



『今日は身体検査だったンだろォ。どうだったンだ?』

「んー、まだ結果は強能力者だったわ。
でもこないだよりは手ごたえはあったかな。」

『そォか。まァそう思えるのなら前進はしてンのかもなァ。』

「そうだといいけどね。」



その後、しばらく私達は、雑談に興じていた。

31: 2012/03/31(土) 20:42:52.31 ID:8KYB/8IE0
『なァ御坂……一つ聞いてもいいか?』

ふと、彼の口調が変わった。どうやら真面目な話らしい。

「ん、何よ改まって。」



『お前はやっぱ、もっと能力を鍛えたいと思うか?』
何を聞いてくるかと思えば、そんな決まりきったことを。

「決まってるじゃない。こうして研究所で日々頑張ってるんだし。
 そりゃあ、今はまだ私は強能力者だけどさ、
 もっともっと頑張って、いずれは大能力者、いえ、
 超能力者にだってなってやるわよ!」


超能力者。
能力者の最高評価。
学園都市230万人の頂点。
全ての能力者たちの羨望の的。


そこに至る道は並大抵のものではないだろう。
そんな無謀なと、笑う者もいるだろう。


それでも、私はそれを目指したい。

その思いは、今の私に強く根ざしていた。

32: 2012/03/31(土) 20:44:16.29 ID:8KYB/8IE0
『クックック……超能力者ときたか。そいつは大きく出たなァ。』


「何よ?私には無理だって言いたいの?」

彼の笑いに、私はちょっと拗ねたように答えた。
確かに、少し前まで弱音を吐いていた自分では、考えられないなと、自分でも思ったが。


『いや、そンなつもりじゃねェけど。
 だが……もう一つ聞くぞ。』

彼の口調が、再び真面目なものとなった。



『もし超能力者になれたとしたら、お前はその後どォしたい?』

33: 2012/03/31(土) 20:45:35.51 ID:8KYB/8IE0
少々予想外の質問だった。
なれるかどうかではなく、なったら…か。

だが、それも私の中で答えは決まっていた。



「……少し前置きが長くなるけど、いい?」

『構わねェ。』

「……私ね、昔筋ジストロフィーの治療研究所に呼ばれたことがあったの。
 そこでは病気に苦しむ子供達が必氏になって治療に励んでいた。
 でも研究者が言うには、現在の医療技術ではどうしようもないって。
 どんなに頑張っても、遠からず病に侵されて氏んでしまうって。」

『…………』


彼は黙って私の話に耳を傾けていた。

34: 2012/03/31(土) 20:46:29.70 ID:8KYB/8IE0
「私はその時研究者に頼まれてDNAマップを提供したわ。
 でも、私にできるのはその程度のことだけだった。
 当時の私には力が無かったから。いいえ、今もね。」


「だから、その時思ったの。
 私がもっと優れた能力者になれば、もっといろいろなことができる。
 そうすれば、私の力が沢山の人の役に立つ。
 筋ジストロフィーに侵されていた彼らのような、
 理不尽な運命に曝された人たちを救う一助になれるかもしれない。ってね。
 それが、私が超能力者になりたい理由、なったらしたいこと。」



それは私の、本心からの思いであった。

35: 2012/03/31(土) 20:48:10.97 ID:8KYB/8IE0
『ハン。まったくお前は、他人様を助けるためにテメェを鍛えよォなンざ、
まるで漫画やアニメのヒーローだな。』


「茶化さないでよ、もう。
 ……でもね、もう一度そう思えるようになったのは、アンタのおかげなのよ。」

『あァン、急に何言ってやがンだ。』



「あの日アンタに会うまで、私は相当参ってたの。
 もう能力開発なんてやりたくない。パパとママのところへ帰りたいって位に。
 でも、アンタと思いっきり遊べば、そんな暗い気持ちは吹っ飛んじゃう。
 アンタに相談に乗ってもらったら、勇気が不思議と湧いてくる。
 今だってそう。」

『…それはお前が強ェだけだ。俺は関係ねェ。』

「それでも、お礼くらいは言わせてよ。」

『勝手にしろ。』

「フフッ…ありがとう。」



『超能力者共が皆お前みたいな奴だったら、
 このクソッタレな街も少しはマシになるのかもな……』

36: 2012/03/31(土) 20:50:34.63 ID:8KYB/8IE0
「ん、何か言った?」
彼が何か小声で言った気がしたが、私には聞き取れなかった。



『何でもねェよ。
 ……長々と話しちまったな。今日はこの辺にしとくか。』

「そうね。じゃあ、お休みなさい、鈴科。」

『おォ。』



そういって、その日は彼との会話を終えた。

37: 2012/03/31(土) 20:52:21.67 ID:8KYB/8IE0
~行間~

その日の夜。
薄暗い研究室で、数人の研究者が話し合っていた。


「どうなんだ、被験者の開発状況は?」

「はい、本日の身体検査の結果、総合評価は依然として3。
 個々の項目においては若干の進歩は見られますが……」

「大能力者への進化は依然として遠い……か。」

「はい。」



「ふむ……おかしいな。
 素養格付の結果、『御坂美琴は超能力者に至る』とのことだったが、
 その割には開発が遅々として進まない。」

「彼女の能力開発に当てる予算は、現段階で当初の予定を大幅に上回っております。
 このままでは、いずれ採算が取れなくなります。そうすれば、我々の首も…」

「やむを得ん。開発の方針を一部見直す。
 樹形図の設計者にお伺いを立てろ。」

「はい。ただちに。」

39: 2012/03/31(土) 20:57:44.88 ID:8KYB/8IE0
今日は久しぶりに休暇と外出の許可をもらった。



残念ながら彼とは都合が合わなかったため、一人だが。
仕方が無いとはいえ、なかなか互いの都合が合わないのはもどかしい。


その日は私一人で遊んで回った。
しかし、彼がいないとどこか物足りなかった。


そろそろ下校時刻に差し掛かる時間帯になった頃、
私は久しぶりに学校に行ってみることにした。

研究所に身を寄せるようになってからずいぶん経つ。
久しぶりにクラスメイトにも会いたいとも思った。
研究所からは下校時刻には帰って来いなどと、
過保護な親のようなことを言われていたが、少しくらいなら遅くなっても大丈夫だろう。

40: 2012/03/31(土) 20:59:29.74 ID:8KYB/8IE0
ばらくして、私は常盤台の校門近くまで来ていた。
ちょうど下校時刻ということもあって、辺りには学生達がごった返していた。


ふと、校舎から見知った顔が出てきたのを見つけた。
私は彼女に声をかけようと中に入ろうとした時、


校門から出てきた人物を見て、心臓が止まりそうになった。



一人の女子生徒だった。

見覚えのある顔だった。

よく見知った顔だった。

毎朝鏡で見る顔だった。



あれは、「私」だった。

41: 2012/03/31(土) 21:00:24.93 ID:8KYB/8IE0
どういうことだ?

何故私がもう一人いる?

何故もう一人の「私」は、何食わぬ顔で学校に通っている?

そもそもあの「私」は誰だ?



頭が混乱している。
目の前の現実が処理できない。

そして、混乱が治まらない私に、


「あらぁ、御坂さん。貴女さっき私とすれ違わなかったっけぇ?」



一人の女生徒が、話しかけてきた。

43: 2012/03/31(土) 21:02:54.36 ID:8KYB/8IE0
私はこの女を知っている。


背にかかるほどの長い金髪、
中学生とは思えないほどのグラマラスな体型、
少女の様なあどけなさと、大人の妖艶さを兼ね揃えた端正な顔立ち、
そして何より、その顔に浮かべた底の読めない薄気味悪い笑顔。


精神系能力者の頂点にして、常盤台の最大派閥を率いる女。


学園都市第四位の超能力者、『心理掌握』。



「食蜂操祈……!!!!!」

「そんな怖い顔しちゃ駄目よぉ。
 折角の可愛い顔が台無しだゾ☆」

44: 2012/03/31(土) 21:04:19.25 ID:8KYB/8IE0
「ふん、いつもは大勢の取り巻きを引き連れて猿山の大将気取ってるアンタが、
 私に一人で話しかけてくるなんて珍しいわね。」

「あらぁ、御坂さん、もしかして私の心配してくれているのぉ?やっさしーい。
 でも大丈夫よぉ。私だってたまには一人になりたいしぃ、
 こう見えてお猿さん達の躾けはちゃんとしてるしぃ。」
気味の悪い笑顔のまま私の嫌味を受け流す食蜂。相変わらず鼻に付く。


「それで用件は?
 あんたのことだから、何の用もなく一人で私に話しかけはしないでしょう?」


「まあねぇ。でもぉ、私に何かを聞きたいのは、貴女の方じゃなくて?
 例えばぁ、『貴女にそっくりな女の子』のこととかぁ。」

45: 2012/03/31(土) 21:06:12.41 ID:8KYB/8IE0
「……!!!何か知ってるのね。話しなさい!!!!!」

私は食蜂に食って掛かった。
この女は、何かを知っている。ならば、それを問い詰めなければ。



「焦らないでぇ。話してあげるからぁ。ゆっくり、二人っきりで。ね。」



そう言って食蜂は、笑顔を浮かべた。
その笑顔は見る人が見れば天使のように愛らしかっただろうが、
私にはそれがどうしようもなく不気味なものに思えて仕方なかった。

46: 2012/03/31(土) 21:07:29.24 ID:8KYB/8IE0
私は、食蜂と共に第三学区にある個室サロンの一室に来ていた。

「大丈夫よぉ。ここの防音力は完璧だしぃ、内緒話にはもってこいよぉ。
 チェックインの記録は私がフロントを洗脳したから残らないしぃ、
 万が一誰かに見られても、私がそいつの記憶を改竄しちゃうからぁ。」

笑顔のままサラリと問題発言をしたが、今はそんな場合ではなかった。



「なら、さっさと本題に移らせてもらうわ。
 こんな密室であんたと二人っきりなんて、本来一秒だって我慢ならないんだから。」

「んもう、せっかちねぇ。そんなことじゃ、男の子にはモテないゾ☆」





「……あの女は誰?どうして私に成り変わって生活しているの?」

47: 2012/03/31(土) 21:09:01.29 ID:8KYB/8IE0
「……あの女は誰?どうして私に成り変わって生活しているの?」



「……ねえ御坂さん。『量産型能力者計画』ってご存知?」

「質問を質問で返さないで。私の質問に端的に答えなさい。」

「ごめんなさい。でも貴女の質問にも関係力があるのよぉ。
 だから答えてもらわないと。」



「……知らないわ。聞いたことも無い。」

一先ず私は正直に答えることにした。


「ふうん。やっぱりぃ。」

食蜂は相変わらず笑顔を浮かべたままだ。



「で、その計画が私の質問とどう関係があるわけ?」

48: 2012/03/31(土) 21:12:32.79 ID:8KYB/8IE0
「学園都市にはねぇ、前々から一つの計画の構想があるのよ。
 偶発的にしか生まれない超能力者のクローンを大量生産して、
 軍事に役立てようっていう、とびっきりイカレた計画。
 その第一弾が『量産型能力者計画』。その素体となったのが……」

「私ってわけ……!!!」

「そういうこと。」

ってことは、さっき見たのは、私のクローン……!!!



でも、クローンを作るならDNAマップが必要になるはず。
そんなものどこから……???



!!!あの時の研究者。
ということは、すでにあの頃、計画は始まっていた?

49: 2012/03/31(土) 21:14:27.14 ID:8KYB/8IE0
しかし、それでも腑に落ちない点がある。


「でも、それは超能力者を人工的に作る計画なんでしょう!?
 DNAマップを提供した当時の私はまだ低能力者だったし、
 今だって強能力者止まりなのよ!!!
 それなのに、何故その私が素体になったの!!!???」


「……御坂さん。また質問を質問で返して悪いんだけど、
 『素養格付』ってご存知?」

また、聞いたこともない言葉が出てきた。



「……知らないわ。」

「そうよねぇ。知ってるわけないわよねぇ。」

食蜂はくすくすと不快に笑っていた。



「教えなさい。どうせそれも関係があるんでしょ。」

「ふふ。いいわよぉ。」

50: 2012/03/31(土) 21:16:29.63 ID:8KYB/8IE0
「『素養格付』って言うのはねぇ、簡単に言うと、
 『その人に能力開発を行った場合、最大でどれだけの強度に到達できるか』
 っていうのを調べてリストにしたものなの。
 それを見れば、その子が将来的にどれだけの能力者になれるかが一目瞭然ってわけ。
 勿論、存在自体が極秘事項だから、調査も極秘に行っているけど。」


「つまり、私はその『素養格付』の結果、
 『超能力者になれる低能力者』であることが分かったため、
 前もってDNAマップを回収した……!!!」


「そういうことになるわぁ。まあ一種の青田買いよねぇ。」



そんなものまであったなんて……。

51: 2012/03/31(土) 21:20:23.01 ID:8KYB/8IE0
「余談だけどぉ、私の好きなゲームにもそんな設定力があったわぁ。
 そのゲームでは各キャラクター毎に上げられるレベルの限界力が決まってるの。
 例えば、主人公には限界力が無いからどこまでも上げられるんだけどぉ、
 他のキャラクターはせいぜい50以下、高くても70がいいとこ。
 そういうのが分かっていると便利よねぇ。
 だって、たくさん経験値をあげればそれだけ成長できる子と、
 たくさんあげても無駄な子が一目で分かるんだもの。」



食蜂の言いたいことは明白だった。

それはつまり、学園都市は事前に素養格付を見て、
才能のある学生には充実したカリキュラムを組むが、
逆に才能の乏しい学生には、いい加減なカリキュラムしか組んでくれないということだった。



残酷な話だった。

もしかしたら、スキルアウトに堕ちた学生の中にも、超能力者とは言わずとも、
そんな生活をしなくていい位の能力者に成れたものが居たかもしれないのに。

52: 2012/03/31(土) 21:25:14.15 ID:8KYB/8IE0
「もう量産型能力者計画は随分進んでいるわよぉ。
 クローンを作る理論は確立済み、
 試験個体となる検体番号00000号の試作、試験運用も既に進行中。
 あとは量産体制さえ構築できれば、完璧ねぇ。」


あのクローンが学校に通っていたのは、試験運用の一環か!



「ふふふ……」

「?何がおかしいのよ……!!!」

含み笑いをする食蜂を、私は怒りを隠さず睨みつけた。

笑いごとではない。人のDNAマップを使って勝手なことをして……。

しかし食蜂は、私の怒りなど意にも介していなのか、笑いを止めようとしない。

53: 2012/03/31(土) 21:30:26.04 ID:8KYB/8IE0
「でもねぇ、この計画はおそらく、いいえ、間違いなく中止されるわぁ。」

「へ?」

どういうことだ。

それだけ進んでいた計画が、この期に及んで中止?


何が何だか分からない。




「実はねぇ、ついこの間、
 研究者が樹形図の設計者にお伺いを立てたらしいんだけどぉ、
 絶望的なことが分かったらしいのよぉ。
 研究者にとっても、貴女にとっても。」

「……何よ?」



何だろう、とてつもなく、嫌な予感がする。

54: 2012/03/31(土) 21:33:39.22 ID:8KYB/8IE0
「これを読んでみて。今話した『量産型能力者計画』に関して先日提示された、
 樹形図の設計者の演算結果の写しよぉ。」

そう言って食蜂は、一束の資料を取り出し、私に手渡した。



資料の記載内容は、要約すれば概ね以下の通りだった。

『製造したクローン体の性能は、素体であるオリジナルの1%にも満たない。
 強度にしてせいぜい異能力者、強力なものでも強能力者程度である。
 遺伝操作、後天的教育等の如何なる手段をもってしても超能力者の人工的製造は不可能である。』


確かにこれなら計画は間違いなく頓挫するだろう。

いや、そんなことよりも。



「……何で、
 『すでに御坂美琴は超能力者である』かのような文面なのよ……!!!???」

55: 2012/03/31(土) 21:35:26.59 ID:8KYB/8IE0
食蜂は資料の写しを焼却しながら、私の疑問に絶望的な答えを投げかけた。


「当たり前じゃなぁい。だって、そもそも『量産型能力者計画』は、
 『学園都市第三位の超能力者「超電磁砲」御坂美琴の量産計画』なんだもの。
 ねぇ御坂さん、いいえ、















 検体番号00000号『試験個体(フルチューニング)』さん?」

57: 2012/03/31(土) 21:39:18.17 ID:8KYB/8IE0
まさか。そんな馬鹿なことが。あり得ない。



私がクローン?ではさっき見たのは私のクローンではなく、本物の私?
なら、私の方が偽物???


いや、私は私だ。
誰の本物でも、偽物でもない。私個人の人格と私固有の記憶を持つ、私という一人の人間だ。

でも私は御坂美琴じゃない。
でも私の記憶を辿れば、出てくる答えは『私が御坂美琴である』ということ。



つまり私は『御坂美琴であって御坂美琴ではない誰か』ということか。
なんだそれは。矛盾している。意味が分からない。




では、私は一体誰なんだ???????????????????????????

58: 2012/03/31(土) 21:40:55.70 ID:8KYB/8IE0
「あはははは!!!まさか貴女、今の今まで自分が
 『本物の御坂美琴』だとでも思っていたのかしらぁ???」

食蜂が嗤いながらこちらを見る。
その表情には侮蔑の感情がありありと浮かんでいた。



「あ、あ……私は……私は……」

言葉が出ない。自分でも何を言っているのか分からない。

59: 2012/03/31(土) 21:47:33.03 ID:8KYB/8IE0
「何で私がここまで知っているか分かるぅ?
 簡単よぉ。だって私が
 『00000号(貴女)の脳に御坂さんの脳内情報を複製した』んだもの。
 記憶だけじゃないわぁ。感情、意志、人格、その他諸々。全てよぉ。
 『00000号のコンセプトは超能力者の完全体。
 故に精神面においても可能な限り御坂美琴(オリジナル)に近づけて欲しい。』
 って言うのがクライアントの要求力だったからねぇ。」
もう止めて。


「大体貴女、私に会った時、私を心の中で『第四位』って呼んでたわよねぇ。
 古いわよぉその情報。だって今の私は『第五位』なんだもの。
 まあ超能力者になる前の御坂さん(オリジナル)の脳をそのままコピーしたんだから当然だけどぉ。」
もう、止めて。


「いいわぁ、貴女の表情力。御坂さんと同じ、勝気で強い意志を宿した表情力が、
 私の言葉を聞くたび、絶望に彩られていく様は、見ていて愉しいわぁ。
 特に今の表情力。それなんて最高。」
「もう。止めて。」


「出来損ないのお人形さんにしては面白い見世物だったわぁ。
 わざわざ個室サロンまで借りて機密事項を教えてあげた甲斐があったわぁ。」


「もう止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

私は堪らず大声で叫んだ。
食蜂はそれすらも愉快なのか、満面の笑みでこちらを見ていた。

62: 2012/03/31(土) 22:04:37.43 ID:8KYB/8IE0
「ま、出来損ないのお人形さんで遊ぶのはこの位にしておいてあげるわぁ。」

「………………」

もう、何も言い返す気力も無かった。


「ここの料金は私が出しておいてあげるわぁ。
 面白いものを見せてもらったお礼よぉ。」

「………………」


「あとぉ、今日のことは他言無用よぉ。
 ばれたら貴女だけじゃなく私までヤバイかもしれないしぃ。
 どうせ誰も信じないでしょうけどぉ。」

「………………」


「あ、そうそう。も一つお礼にいいこと教えてあげるわぁ。」

「………………」





「貴女多分、近いうちに殺されるわよ。」

64: 2012/03/31(土) 22:15:12.28 ID:8KYB/8IE0
え?????



「殺される???私が?????」

勝手に私を作ったくせに、今度は勝手に殺される?????





「だってそうでしょう?
 さっきの資料にもあったけど、どうやっても超能力者は人工的に作れない。
 『量産型能力者計画』は頓挫よぉ。
 そしたら次にやることはなあに?」


そんなもの、想像もしたくない。

65: 2012/03/31(土) 22:16:08.62 ID:8KYB/8IE0
「進行中の研究は全て即時停止。『量産型能力者計画』は永久凍結。
 当然、計画に関する証拠品は全て闇から闇に葬られるでしょうねぇ。
 そうなれば貴女も間違いなく『廃棄』される。
 貴女みたいな人間の人格力を持ったお人形さんなんて生きた不良債権、
 とっておいても何にもいいこと無いでしょうしねぇ。」


吐き気のするような話を食蜂は平然と捲し立てていく。

66: 2012/03/31(土) 22:18:17.98 ID:8KYB/8IE0
「あーあ、貴女ってかわいそぉ。
 研究者達の身勝手な計画のせいで勝手に作られて、
 今度は勝手に殺されちゃう。
 なぁんて理不尽で、なぁんて悲しい運命力なのぉ。」


食蜂は顔に掌を当てて泣くような仕草を見せた。

無論、涙など零れていなかった。


「ふふふふふ……
 あはははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そのうち泣き真似にも飽きたのか、その端正な顔を侮蔑で醜く歪め、
この上なく愉快そうに、声を上げて嗤い出した。



私は、怒ることも泣くこともできず、
食蜂のひたすら不愉快な嗤い声を、呆然としたまま聞いていた。

67: 2012/03/31(土) 22:21:06.31 ID:8KYB/8IE0
あれからどうやって帰ったのか、よく覚えていない。



気が付いたら研究所に帰ってきていた。

研究者が何やら私に小言を言っていたようだが、耳に入らなかった。

68: 2012/03/31(土) 22:22:52.04 ID:8KYB/8IE0
自室に戻ってからも、私の頭には食蜂の話が響いていた。


私には何も無かった。

私の能力も、人格も、記憶も、全ては模造品に過ぎなかった。
私の中にあった夢も、全ては借り物の絵空事だった。
名前と呼べるものすらない。あるのは事務的な検体番号だけだった。
私だけのものなど何も持っていなかった。


身勝手な欲望に作られた命。

借り物の人格に、偽物の記憶を持った、

出来損ないのがらくた人形。



それが私だった。


そして、そう遠くない未来、私(それ)は不良債権として「廃棄」される。
もう、それでも構わないと思った。

涙も出ない。

笑いすら出ない。

私はただベッドに座り、呆然としていた。

70: 2012/03/31(土) 22:39:47.77 ID:8KYB/8IE0
Prrrrr…

薄暗い部屋に、携帯電話の着信音が鳴り響く。おそらく鈴科だろう。
そうと分かっていても、私は電話を取る気にはなれなかった。


やがて、着信音は途絶えた。


ふと携帯を見ると、留守電が入っていた。やはり彼からだった。
私は無意識に、留守録を再生した。

部屋の中に、彼の声が響き渡った。

『あァー、俺だ。お前は今忙しいみてェだから伝言だけ残しとくわ。
 実は、ついさっき新しい実験の話が俺のとこに入り込ンで来てな。
 どォもその説明やら準備やらで、これから俺も忙しくなりそォだわ。
 そンなわけで、悪ィが暫く連絡できそうにねェ。
 研究者共の話じゃ一週間もすれば一段落着くらしィし、そン時にはまた連絡する。
 互いの都合が着いたら、また二人して馬鹿みてェに遊びまわろォぜ。
 じゃあ、元気でやってろよ。』

メッセージはそこまでだった。

71: 2012/03/31(土) 22:41:48.22 ID:8KYB/8IE0
一週間後か……多分その頃には私は廃棄されているだろう。

もう彼に会えないのは残念だけど、仕方な…い……。



あれ?



何かが私の頬を伝っていた。


私は頬を触る。

それは、私の涙だった。

72: 2012/03/31(土) 22:43:42.84 ID:8KYB/8IE0
自分が空っぽの人形だと聞かされても、

食蜂に出来損ないの人形と嘲られても、

自分がもうじき廃棄されると知っても、

涙なんて流れなかったのに。



何故、彼にもう会えないと思っただけで、こんなにも涙が溢れてくる?


……そんなこと、とっくに分かりきっていた。










私は、彼が好きなんだ。

73: 2012/03/31(土) 22:45:18.74 ID:8KYB/8IE0
自分のことは多くを語ろうとしない彼。

ぶっきらぼうで、口を開けば憎まれ口ばかりの彼。

一見冷たいようで、でも誰よりも優しい彼。



彼と遊べば嫌なことなんてみんな吹き飛んでいく。

彼と話せば不思議なくらい勇気が湧いてくる。



いつの間にか私は、そんな彼が、彼のことが、





どうしようもないくらい、大好きになっていた。

74: 2012/03/31(土) 22:47:27.52 ID:8KYB/8IE0
この気持ちの正体は分からない。

恋愛感情なのかもしれないし、友情なのかもしれない。



でも、この気持ちは、誰の借り物でもない。偽者でもない。

私の、私だけの、本物の気持ちだ。










ああ、なんだ。
私にもあったじゃないか。私だけの持ち物が。

75: 2012/03/31(土) 22:48:49.69 ID:8KYB/8IE0
彼にもう一度会いたい。

その純粋な願いが、私にもう一度、生きる気力を取り戻させる。



私は氏ねない。彼にもう一度会うまでは。

その生への執着が、私が次にどうするべきかを考えさせる。



私は生きる。たとえ何をしてでも。彼にもう一度会うために!

そのわがままな思いが、私が一人の「人間」であることを思い出させる。





私は、またしても、彼に救われたのだ。

76: 2012/03/31(土) 22:56:33.42 ID:8KYB/8IE0
その後、研究所はにわかに慌しくなった。

私も、自分の身辺整理や雑務の手伝いに駆り出され、それなりに忙しくなった。


何でも、現研究チームを解散し、
研究員たちは他の能力者の能力開発チームに移籍するそうだ。


表向きはそんな説明であったが、
実際は食蜂の言っていた計画中止の事務処理と、証拠品の廃棄作業であろう。

私は能力開発を他の研究チームに委託するとの事であったが、
大方移籍先と見せかけて処刑場(ゴミ処理施設)にでも移送する腹積もりだろう。



そんなものの手伝いを私にもさせるとは、何とも図太い連中だと思った。

自身が磔にされるための十字架を運んだ時の神の子も、同じ気持ちだったのだろうか。

77: 2012/03/31(土) 22:58:35.53 ID:8KYB/8IE0
数日後、研究所の整理はほぼ完了した。
研究員達も私も、一段落したという顔をしていた。

もっとも、お互い最後の大仕事が残ってはいるが。


「お疲れ様だ、御坂。」

研究員の一人が私に労いの言葉を向けてくる。

「ええ、アンタもね。」

私も汗を拭いながら答える。



「しかし、すまなかったな。御坂。
 我々の力が足りないばかりに、
君の開発が進まぬまま他所に委託することとなって。」


「いいのよ。アンタ達は精一杯やったんでしょ。
 それに、新しい研究所ではもっと頑張って、きっと超能力者になって見せるわ。
 その時には、何か奢りなさいよ。」

「ははは、期待しているよ。」


何とも空々しい会話だ。自分でも呆れてしまう。

78: 2012/03/31(土) 23:08:52.78 ID:8KYB/8IE0
「ところで、まだ大きい仕事が片付いていないわね。私が片付けとくわ。」

「え?目に付くものは粗方片付いたと思ったけど……」

「いいえ。まだ残っているわ……」





「研究員(アンタ)達っていう粗大ゴミがねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」





言うよりも早く、私は全力の電撃を研究員に浴びせた。

79: 2012/03/31(土) 23:10:30.47 ID:8KYB/8IE0
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

いかな強能力者といっても、私の電撃は2万Vは下らない。
私の電撃をまともに受けた研究員が黒焦げになって倒れた。



私は研究員の生氏も確認せず、全力で廊下を駆け出した。



「何事だ!!!???」

「大変だ!!!試験固体が暴走した!!!!!」

「くっ!!!まずい、すぐに取り押さえろ!!!!!」



研究所が一気に騒がしくなった。

勿論、私もただ手伝いをしていたわけではない。

研究所の監視カメラの位置、
複数の逃走経路の確保、
武器にできそうなものの仕込みと見繕い等は、抜かりなく行っていた。


私は走りながら逃走経路を吟味し、一番勝率が高いと思われる道に入り込んだ。

80: 2012/03/31(土) 23:11:57.54 ID:8KYB/8IE0
「止まれ試験個体!止まらんと撃つぞ!!!」

別の研究員がこちらに銃を構え、威嚇してきた。

もはやこの場で取り繕う必要は無いとみたか、私を御坂とは呼んでいない。



私は走りながら後ろを向き、研究員の手元に雷撃の槍を投げつけた。

「うあああああっっっ!!!」

研究員はたまらず銃を落とす。



その隙を逃さず、私は更に雷撃をぶつけた。研究員はその場に倒れこむ。

81: 2012/03/31(土) 23:13:49.57 ID:8KYB/8IE0
「いたぞ!こっちだ!!!」

「逃がすな!!!捕獲が不可能なら射殺も許可する!!!」



更に追っ手が来る。

今度は研究員ではなく、武装した集団だった。
いつも警備をしてた奴等だ。確か猟犬部隊とかいったか。
警備員に比べれば武装が過剰だし、態度も粗暴な連中だった。



まあこんなイカレた計画に関わっている時点で、後ろ暗い連中なのは想像に難くない。

手心は無用だ。

82: 2012/03/31(土) 23:16:27.06 ID:8KYB/8IE0
私は廊下の隅に入り込み、隠しておいた一斗缶を拾い、連中の足元に中身を撒いた。
缶の中の液体がそこら中に散乱する。

「うわっ!!!何だこれ!!!???」

「水か……???」

「いや、この臭い…まさかアルコールか……!!!!!」



「せいか~~~い。より正しくはメタノールね。」



奴等の足元に雷撃の槍を投げ、私は再び走り出した。
火花が飛び散り、床に撒かれたメタノールに引火し、辺りが火の海に包まれた。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


猟犬部隊の阿鼻叫喚の悲鳴が遠くに聞こえる。

次いで缶の中に残っていたメタノールにも引火したのか、
凄まじい爆発音が響き、連中の悲鳴はそこで途絶えた。

84: 2012/03/31(土) 23:17:21.89 ID:8KYB/8IE0
「ハア、ハア……」

あれからも私は、時に追っ手を能力で迎え撃ち、時に隠しておいた武器で迎撃し、
逃走を続けていた。



ここを抜ければ、もうすぐ出口だ。

そう、あと少しであった。それなのに、



「そこまでだ、試験固体。」



先回りされていたのだろう、猟犬部隊が数人、出口の前に立ちはだかっていた。

86: 2012/03/31(土) 23:19:24.36 ID:8KYB/8IE0
「抵抗は無駄だ、試験固体。大人しくしていれば危害は加えない。」

嘘をつけ。大体、銃を構えられながらそんなことを言われても説得力が無い。
さっき射殺も許可するとか叫んでいたくせに。



いつの間にか、ここへ来た出口も猟犬部隊が固めていた。
私は奴らに囲まれたような形になっていた。

これは非常にまずい。というよりもはや…



「……チェックメイト、と言うところかしら?」



私は諸手を挙げつつ、皮肉交じりに答えた。

87: 2012/03/31(土) 23:22:07.33 ID:8KYB/8IE0
「そんなところだ。
 これだけの数が集まっては、強能力者のお前程度ではどうしようもあるまい。」

猟犬部隊の一人が銃を構えつつ、手錠を持ってこちらに近づいてくる。



ここで捕まれば確実に処刑場に直行だろう。

敵は銃で武装した連中が十数人。しかも逃げ道は全て塞がれている。

まさに回避不能のデッドエンド。



しかし、これだけの絶体絶命の状況にも関わらず、

私は不思議なほど落ち着いていた。

88: 2012/03/31(土) 23:25:15.14 ID:8KYB/8IE0
自暴自棄になったわけではなかった。

氏の運命を受け入れたわけではなかった。



ただ、この状況を打破できる自信があったからだ。

根拠なんて無い。ただ、「そんな気がしている」だけ。

だが、そう思うと、頭の中が驚くほど冴えてくる。

ここまで来るのに随分体力を消費したはずなのに、呼吸は落ち着いている。



私に近づいてきた男が手錠をかけようと手を伸ばした瞬間、



「撃てええええええええええ!!!!!!!!!!」



銃を構えていた連中が一斉に引き金に手をかけた。

91: 2012/03/31(土) 23:26:11.30 ID:8KYB/8IE0
どうやらこいつごと私を射頃するつもりだったらしい。

だが、それより早く、私は電撃で作り上げた磁場で床の鉄材を持ち上げ、盾を作り上げていた。


あれだけ躊躇無く私を殺そうとしていた連中だ。

構成員の一人くらい平気で犠牲にできるだろう。



そんな私の勘は、見事に当たったらしい。

92: 2012/03/31(土) 23:28:45.17 ID:8KYB/8IE0
「あ、あ、あへ…………」

私に手錠をかけようとした男がへなへなとその場に座り込む。
どうやら仲間が自分諸共撃とうとしていたとは思わなかったらしい。

床に液体が水溜りを作り、近くに異臭が漂う。
この臭い……どうやらこの男、小便どころか糞まで漏らしたらしい。

同情はするが、密室に近いこの状態でこれは勘弁して欲しかった。



やがて銃声が鳴り止んだ。弾切れだ。
私はすかさず盾にしていた鉄材を、磁力で八方に飛ばして攻撃した。

「ぐぎゃっ!」「ひでぶ!」「たわば!」

短い断末魔の悲鳴と、トマトの潰れるような鈍い音が辺りに響き渡った。

93: 2012/03/31(土) 23:31:57.28 ID:8KYB/8IE0
視界が開け、辺りを見れば、
五体満足なのはお漏らし男を含め2人しか残っていなかった。
まともに動ける1人も、弾が切れた銃を持ったまま小刻みに震えていた。
その銃で殴りかかってくるという最低限の発想すら、もはや出て来ないらしい。

「ば、馬鹿な……何なんだその力は……?
 聞いてないぜ…強能力者程度だって聞いたから楽なもんだって思ってたのに……
 こりゃあどう見ても大能力者クラス、いや、それ以上……???」


震える声で猟犬部隊の一人が呟いた。
言われてみれば、確かに私にこれ程の力は無かったはず……


だが、もはや私にはどうでもいいことだった。


「悪いわね。私はこんなところで氏ぬわけにはいかないの。
 どうしてももう一度、会いたい人がいるのよ。だから……」

私は静かに彼らに呟き、そして、

「アンタ達は、私の為にここで氏んで。」



その場にいた全員を、雷撃で焼き払い、出口に向かって駆け出した。

94: 2012/03/31(土) 23:35:09.69 ID:8KYB/8IE0
その日を境に、「量産型能力者計画」の試験個体、
検体番号00000号、通称フルチューニングはその行方をくらました。


学園都市上層部は計画漏洩の可能性を危惧し、

猟犬部隊、アイテム、メンバー等複数の暗部組織に試験個体の捜索、及び抹殺命令を通達。



しかし、試験個体の捜索は困難を極め、

存在の痕跡どころか、その生氏すら掴むことはままならなかった。

95: 2012/03/31(土) 23:37:21.70 ID:8KYB/8IE0
数ヵ月後。学園都市某学区


すっかり日も暮れ、真っ暗になった街を、2人の少女が歩いていた。

「いやー、すっかり遅くなっちゃったね。初春。」

「ごめんなさい佐天さん。風紀委員の仕事が長引いてしまったせいで……」
花飾りの少女が、申し訳なさそうに長い黒髪の少女に謝罪をした。


「気にしない気にしない。
 初春を待ってたのは、私が好きでやったことだし。」
黒髪の少女は、本当に気にしていないといった様に笑顔で返す。


「でも……それでもこんな時間まで待ってもらって……」
花飾りの少女は、それでも気が済まないのか、表情は完全には晴れていない。

「全く初春は真面目っ子なんだからぁ。
 ……それにしてもすっかり暗くなっちゃったなあ。
 もしかしたら、『零(ゼロ)』に会っちゃったりして……」



それまで明るかった黒髪の少女から、笑顔が消えた。

96: 2012/03/31(土) 23:39:15.52 ID:8KYB/8IE0
「『零』?何ですか、また佐天さんの大好きな都市伝説ですか?」

「あれ、知らないの?じゃあ私が教えてあげようか?」

花飾りの少女の問いに、黒髪の少女は、突如目を輝かせていた。



「じゃあ聞きますよ。どうせ断っても教えてくるんですし……」

花飾りの少女は、また始まったと言わんばかりに、呆れたような、諦めたような顔をした。



「連れないなー初春ったら。まあいいけど。」

黒髪の少女はそんなことは大して気にしていないのか、軽く受け流して話し始めた。

97: 2012/03/31(土) 23:41:19.94 ID:8KYB/8IE0
「……『零』って言うのは、最近噂になってる女の子の通り魔なのよ。
 今みたいに暗い道を歩いていると、突然声をかけられるの。

 『ねえ、ウサギさん知らない?』
 『真っ白な肌に、紅い目をした』
 『ウサギさんみたいな男の子、知らない?』

 ってね……」

「そ……それで、どうなるんですか?」

花飾りの少女は、ビクビクしながら黒髪の少女の話を聞いていた。


「『知ってる』って答えると、焼き殺される。
 『知らない』って答えると、全身を切り裂かれて殺される。
 逃げたり無視したりすると、追いかけられて後ろから縊り殺される。

 って言われているわ。」


「それって、会った時点で終わりじゃないですか!!!」

花飾りの少女は、思わず叫んだ。

99: 2012/03/31(土) 23:44:48.42 ID:8KYB/8IE0
「まーまー、あくまで噂だし。
 それに会った時点で殺されるなら、目撃者はいないことになるじゃん。
 なら最初からこんな噂なんて流れないって。
 話としてはミステリアスで面白いけどね。」


「そ、そうですよね……まったく、脅かさないでくださいよ……」

黒髪の少女の説明に、花飾りの少女の方も、安堵したように胸をなでおろした。

「あはは、ごめんごめん……」





「ねえ、アンタたち…………」

突如、二人の後ろから誰かが声をかけてきた。

100: 2012/03/31(土) 23:46:19.99 ID:8KYB/8IE0
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

二人の少女は、一瞬で顔を真っ青にした。



「(ま、まさか……)」

「(これって……)」



二人は恐る恐る後ろを振り向く。

そこには一人の少女が立っていた。



顔面蒼白の二人に、少女は問いかけてきた。



「ウサギさん、知らない?」

おわり

102: 2012/03/31(土) 23:47:39.23
乙。なんとも救いようのないお話で

103: 2012/03/31(土) 23:51:19.27
乙 なかなか面白かった

108: 2012/03/31(土) 23:55:10.59 ID:8KYB/8IE0
エピローグ的なもの


「第三次世界大戦、終結。講和条約の話し合いも着々と進行中か……」

どこかの学区の路地裏で、私は新聞を読みながら軽食を摂っていた。



つい先日、ロシアと学園都市との間に勃発した戦争、第三次世界大戦。

巨大な浮遊戦艦が現れただの、天使が光臨しただの、
眉唾もののオカルト話が飛び交っていたが、
結局は最先端の科学技術にものを言わせた圧倒的な軍事力を誇る学園都市が勝利したらしい。



「ま、私にはどうでもいいことだけど。」

そう一人呟き、私は缶コーヒーを咽喉に流し込んだ。

109: 2012/03/31(土) 23:57:33.80 ID:8KYB/8IE0
あの研究所を脱走して、一年ほど経ったであろうか。



あれから私は、学園都市の追っ手から身を隠し、その中で鈴科の情報を聞いて回った。
しかし、結果は芳しくなかった。

やはり能力も学校も本名も分からないのは痛手であり、
彼に繋がるらしい有力な情報は得られなかった。


情報網に期待して一度とあるスキルアウトのグループを訪ねたことがあったが、
ろくな情報を持っていなかった上に私に変なことをしようとしたので、
そいつらを残らず叩きのめしてやった。



おかげで私の変な噂が広まったらしく、私に質問されると怯えて逃げる人が増えた。
そのせいで情報集めが一層やりにくくなってしまった。

110: 2012/04/01(日) 00:01:42.91 ID:3ekyFGEz0
「それにしても……」

妙な感じだ。
ここのところ、学園都市からの追っ手の気配をまるで感じない。



これまでは四六時中、追っ手の気配があちこちに感じられた。

だが、私は電磁レーダーで気配を感知し、彼らに先んじて逃げ、攻撃し、難を逃れてきた。
それでも、緊張を絶やすことはできなかったというのに。

111: 2012/04/01(日) 00:03:04.08 ID:3ekyFGEz0
どういうことだろう?
学園都市が私の追跡を諦めたとは思えないし…………

そんなことを考えていたら……



「あーーー!!!ようやく見つけたーーーーー!!!!!
 って、ミサカはミサカは探し人を見つけたことに歓喜してみたり!!!!!」

「へえ。こいつがミサカ達姉妹の『次女』なんだ。」



私に良く似た顔立ちをした、

小学生くらいの活発そうな少女と、

高校生くらいの目つきの悪い少女が、



こちらに歩み寄ってきていた。

112: 2012/04/01(日) 00:05:42.81 ID:3ekyFGEz0
「誰よ?あいにく私にはあんた達みたいな知り合いはいないんだけど。」


「そう邪険にするなよ。同じ遺伝子を分け合った姉妹じゃないか。
 なあ、試験固体(フルチューニング)。」



「!!!!!学園都市の追っ手か!!!???」



来ないなどと思った矢先にこれか。まったく休む暇も無い。

しかし、この少女達の顔立ち、今の『姉妹』という発言。
どうやら彼女達も、御坂美琴のクローンと見て間違いなさそうだ。

113: 2012/04/01(日) 00:07:20.88 ID:3ekyFGEz0
「へえ、クローンにクローンの刺客を差し向けて、
 クローン同士で頃し合いをさせようっての。
 学園都市の上層部は、相も変わらず趣味のいいことね。」

私は電撃を展開し、戦闘の意志を示した。



「あれえ。もしかして戦うつもり?まあミサカはそれでも構わないけど。」

同じくでかいほうのクローンも、戦闘の意思を見せてきた。



先手必勝。私は攻撃を仕掛けようとして、



「喧嘩しちゃダメーーーーー!!!!!
 って、ミサカはミサカは好戦的な二人の仲裁に入ってみたり!!!!!」





小さいほうのクローンに、勝負を預かられた。

115: 2012/04/01(日) 00:08:26.53 ID:3ekyFGEz0
「まったく、ミサカたちは試験固体を迎えに着ただけなのに、どうしてそうなるの!?
 って、ミサカはミサカは血の気の多い二人に憤ってみる!!!」

「悪い悪い。こいつが敵意むき出しにするもんだから、ついやる気が出ちゃってさ。」



よく分からないが、少なくとも刺客ではなかったらしい。
って、あれ?

「『迎えに来た』って、どういうことよ?」



「あなたをミサカ達のおうちに迎え入れるっていうことだよ。
 って、ミサカはミサカは満面の笑みで説明してみたり。」

116: 2012/04/01(日) 00:10:12.13 ID:3ekyFGEz0
私は、小さいほうのクローン―打ち止めと、でかいほうのクローン―番外固体に、
彼女達のことについて聞いていた。


「量産型能力者計画」から技術が流用された「絶対能力進化」とその顛末について。

被験者であった学園都市第一位、一方通行の暴虐と、彼が抱えていたであろう苦悩について。

一方通行と妹達の、奇妙な共生関係について。

0930事件や第三次世界大戦の裏で起こっていた、彼らの命がけの戦いについて。

そして、彼らの今の平穏な生活について。



話の中には、私が逃亡生活の中で集めた情報もいくつかあった。
しかし、それらの話をころころと表情を変えながら話す打ち止めは、
とても愛らしく、聞いていて飽きなかった。

番外固体も、口先では一方通行に憎まれ口を叩きながら話していたが、
彼女なりに彼を信頼しての行為のように思えた。

それがどこか彼を思い出させ、私は自然と笑みが浮かんだ。

117: 2012/04/01(日) 00:13:39.82 ID:3ekyFGEz0
「でねでね、その時一方通行は……」

「へー、打ち止めは、本当に一方通行が好きなのね。」

「うん、大好き!って、ミサカはミサカは淀みなく答えてみたり!」

「ミサカは嫌いだけどね。あんなカフェイン中毒者。」


自分達の同胞を1万人以上頃した相手を好き。
というのは、傍から聞けば奇妙にも思えるが、私はそれに疑問を持たなかった。


打ち止めの話の随所に感じられる、一方通行の不器用な優しさ。
私はそこに「彼」を重ねてしまった。

打ち止めもまた、私と同じ遺伝子を分けた人間だ。



私が「彼」に惹かれたように、
「彼」を思わせる一方通行に打ち止めが惹かれることに、何の不思議があろうか。

119: 2012/04/01(日) 00:16:01.81 ID:3ekyFGEz0
彼女らの話を聞いているうちに、私達はあるマンションの一室の前に来ていた。

「着いたよー。ここがミサカ達のおうち。
 って、ミサカはミサカはミサカ達の自宅を紹介してみる。」

「へー……ここがそうなの。」



「ただいまー!って、ミサカはミサカは元気良く帰宅宣言!」

「今帰ったよ。新たな居候を一人連れてね。」

「お、お邪魔します。」

私はおずおずと中に入り込んだ。



「おー、お帰りじゃん。」

「あら、お帰りなさい。打ち止め、番外固体。」



奥から緑のジャージを着た巨乳の女性と、穏やかな笑みを浮かべた女性が出てきた。

120: 2012/04/01(日) 00:17:25.36 ID:3ekyFGEz0
「ん、その子が試験固体か。話は二人から聞いているじゃん。
 私は黄泉川愛穂。よろしくじゃん。」

「芳川桔梗よ。よろしくね。」

「こ、こんにちは……
 検体番号00000号、試験固体(フルチューニング)です。」

私は少々緊張気味に挨拶をする。



「ハハハ、そう畏まらなくてもいいじゃん。
 お前も今日から私達の家族になるんだから。」

「あ、ありがとうございます。これからお世話になります。」

何とも気さくな人だ。
居候させてもらうということで少々気まずい気持ちだったのだが、
おかげで私も幾分か肩の力が抜けた。

121: 2012/04/01(日) 00:18:53.53 ID:3ekyFGEz0
「まあいいってことじゃん。
 おーい一方通行、新しい家族が来たじゃん。お前もこっち来て挨拶しろ。」

黄泉川が大声を上げて同居人を呼んだ。



「チッ……ンな大声出さなくても聞こえてるっての。」

奥から一人の少年が姿を現した。



その少年は、

新雪の様に白い肌と髪に、

鮮血の様に紅い瞳をした、



いつか見た、白い、白い

ウサギの様な少年だった。

122: 2012/04/01(日) 00:20:38.67 ID:3ekyFGEz0
「「………………!!!!!!!!!!!!!」」


まるで、夢を見ているようだった。

色々な思いが渦巻いて、うまく言葉が出せなかった。

いつの間にか目からは、とめどなく涙が溢れていた。



そんな私を見て、彼はいつか見た時と同じ、優しい笑みを浮かべて、

「よォ、久しぶりだな。『ミサカ』。」

そう言って、私に微笑みかけてきた。



私は、溢れる涙を拭うのも忘れ、でも心からの笑みを浮かべ、

「……久しぶり、鈴科。」

そう言って、彼に微笑み返した。





今度こそ本当に、おわり

124: 2012/04/01(日) 00:27:41.06

引用元: 御坂「ウサギさん、知らない?」