1: 2020/09/07(月) 21:40:02.544 ID:aRO9lsdL0
ピンポーン

男「はい。あ、お隣の……」

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「へ? なんで?」

女「作りすぎていたら、おすそ分けしてもらおうと思いまして……」

男「あいにく作ってませんけど……」

女「そうですか、失礼します」

バタン

男(なんだったんだ、いったい)

7: 2020/09/07(月) 21:43:28.355 ID:aRO9lsdL0
ピンポーン

男「はい」

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「作ってませんけど……」

女「そうですか」

男「あ、ピザならありますけど!」

女「肉じゃががいいんです。失礼します」

バタン

男「……」

8: 2020/09/07(月) 21:46:21.881 ID:aRO9lsdL0
ピンポーン

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「今日はコンビニ弁当なもんで」

女「そうですか、失礼します」

バタン

男(これで三日目だぞ……あんなに肉じゃがを食べたいとは変わった人がいたもんだ)

男(よし、だったら作ってみるか!)

男(家いる時は、どうせ暇持て余してるしな……)

11: 2020/09/07(月) 21:49:27.941 ID:aRO9lsdL0
男(自炊なんかほとんどしないから、ネットで作り方を調べてみるか)

男(えー、このサイトでいいかな)

男(ふむふむ、材料はジャガイモと牛肉は当然として、ニンジン、タマネギ、糸こんにゃく……)

男(調味料は醤油、砂糖、日本酒、みりんといったところか)

男(そこまで難しい料理でもないな。これならレシピ見ながら十分作れる)

男(明日チャレンジしてみよう!)

13: 2020/09/07(月) 21:53:37.175 ID:aRO9lsdL0
男(ジャガイモ、ニンジン、タマネギを切って……肉も切って……)トントントン

男(こいつらを軽く炒めて……)ジャッジャッ

男(水を入れて、ほぐしながら煮込んで……)グツグツ

男(調味料入れて……)パッパッ

男(弱火にして……アルミホイルで落し蓋……こうでいいのか?)

グツグツグツ…

男「よし、できた! 初めてにしてはそれっぽくなったじゃん!」

17: 2020/09/07(月) 21:55:19.340 ID:aRO9lsdL0
ピンポーン

男「はーい」

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「作りすぎてます、作りすぎてます! 来なかったらどうしようかと」

女「ホントですか」

男「さあ、どうぞ」

女「ありがとうございます。いただきます」

22: 2020/09/07(月) 21:59:01.546 ID:aRO9lsdL0
女「器を返しに来ました……」

男「ご丁寧にどうも。全部食べて下さって。そんなにおいしかったですか?」

女「いえ……」

男「へ」

女「はっきりいって味はイマイチでした。芋は煮すぎて柔らかすぎてボロボロでしたし」

女「アクを全然取っていないので、全体的にえぐ味が目立ちました」

女「それと砂糖を入れすぎです。肉じゃがといえば甘辛いものですが、あなたのは甘すぎました」

女「では失礼します」

バタン

男「……」

23: 2020/09/07(月) 21:59:33.674
ワロタ

24: 2020/09/07(月) 21:59:52.090
イラッとするなあ

25: 2020/09/07(月) 22:00:59.464
うっかり肉じゃが作りすぎるような奴に繊細な味を求めてどうする

26: 2020/09/07(月) 22:02:09.937 ID:aRO9lsdL0
男「な……」

男「なんだあの女ァァァッ!?」

男「普通、おすそ分けされといて、あんなボロクソにいうか!? 常識ってもんがねえのか!?」

男「だけど……このまま黙ってたんじゃ男がすたる!」

男「あの女は明日もまた、肉じゃがを食わせろって来るはずだ」

男「今度こそ“うまい”って言わせてやる!」

28: 2020/09/07(月) 22:05:44.274 ID:aRO9lsdL0
次の日――

ピンポーン

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「作ってますよ!」

女「これはこれは、どうもありがとうございます」

男「いえいえ、作りすぎちゃったもんでね」

男(昨夜この女にいわれた欠点は直したつもりだ……さぁ、どうだ!?)

31: 2020/09/07(月) 22:08:22.705 ID:aRO9lsdL0
女「ごちそうさまでした」

男「どうです、今度はおいしかったでしょ?」

女「いえ」

女「今度は芋を始めとした野菜がちゃんと煮えておらず、固すぎました」

女「まるで生野菜をかじる小動物になった気分でしたよ」

女「それと、今度は醤油を入れすぎてますね。非常にしょっぱかったです」

女「失礼します」

バタン

男「……」

34: 2020/09/07(月) 22:09:55.096
容赦ねえな

37: 2020/09/07(月) 22:12:03.017 ID:aRO9lsdL0
男「むうう……なんだあの女ァ!」

男「あいつにいわれた欠点は直したはずなのに、またダメ出しとは!」

男「もういい! 肉じゃがなんか作らん! 明日からは居留守使う!」

男(だけど……)

男(このままじゃやっぱり収まりがつかねぇぇぇぇぇ!)

男(まさか、自分がここまで負けず嫌いだとは思わなかった!)

男(明日も肉じゃが作ってやる!)

38: 2020/09/07(月) 22:12:57.232
そうか、こういうのに文句も言わずに付き合ってやるのが主人公力なのか・・・

40: 2020/09/07(月) 22:14:35.974 ID:aRO9lsdL0
ピンポーン

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「さあ、どうぞ!」



男「どうでした!?」

女「おいしくありませんでした」

男「くそぉぉぉぉう!」

43: 2020/09/07(月) 22:17:28.478
煮る時間は以外と短いよね
うまさは肉質がすべて

44: 2020/09/07(月) 22:18:41.326 ID:aRO9lsdL0
男「独学だけじゃ厳しい!」

男「もしもし? あのさ、お袋。肉じゃがの作り方を教えて欲しいんだけど……」

男「いや、なんでって……自炊ぐらいするだろ……」



男「そういやお前料理得意だったよな? ちょっと時間ある?」

友「なんだよ突然?」



男「今日の3分クッキングは肉じゃがだ! 予約しとこう!」

男「調理器具も本格的なのを――……」

45: 2020/09/07(月) 22:21:36.749 ID:aRO9lsdL0
男「……どうでした?」

女「……」

女「だいぶ、よかったです。芋はほくほくで、肉はよくほぐれていて、いい味でした」

男「おおっ……!」

女「ですが」

男「!」

女「この肉じゃがは既存の品のコピーという感じで、“あなたの味”という感じがしませんでした」

女「あなたならば、さらに高みへいけるはず……」

男「高み……!」

47: 2020/09/07(月) 22:22:56.079
これもう妖怪だろ
怪異に取り込まれて肉ジャガの具にされて終わりだろ

48: 2020/09/07(月) 22:24:54.360 ID:aRO9lsdL0
男(そうか……今の俺はようやく“肉じゃが道”のスタート地点に立ったばかり)

男(ここからは自分の足で、自分の肉じゃが道を歩まねばならない!)

男(新たな登頂ルートを探す冒険家のように……)

男「ありがとう、そういってもらえると嬉しいよ」

男「肉じゃが道……極めてみせる!」

女「あなたならできます。頑張って下さい。あなたにお芋とお肉の加護があらんことを……」

54: 2020/09/07(月) 22:30:09.182 ID:aRO9lsdL0
……

……

ピンポーン

女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」

男「作りすぎてますよ」

女「ありがたく頂戴します」

バタン

男(今日のは試行錯誤を重ねた、自慢の一品だ)

男(さぁ……どうなる?)

56: 2020/09/07(月) 22:32:53.988 ID:aRO9lsdL0
男「いかがでした?」

女「……」

女「とても……」ウルッ

男「?」

女「とても……おいしかったです……!」

女「私、こんなにおいしい肉じゃがを食べたの、初めて……」

女「一口食べるごとに、歓喜と感動が押し寄せてくるような味でした……」

男「ありがとう」

57: 2020/09/07(月) 22:33:09.935
うおおおおおお

58: 2020/09/07(月) 22:33:48.584
ついに

62: 2020/09/07(月) 22:35:28.129 ID:aRO9lsdL0
男「だけどね」

女「!」

男「肉じゃがってのはまだまだこんなもんじゃないと思ってる」

女「まだ先があるというのですか……ッ!」

男「ああ、歩けば歩くほど、進めば進むほど、肉じゃが道の奥深さが分かってきた」

男「もしかしたら、極みに到達することなんか、不可能なのかもしれない」

男「だけど、宇宙の果てはどこにあるのか研究する学者たちのように――」

男「俺もさらなる高みを目指すよ」

63: 2020/09/07(月) 22:36:20.196
かっけえ・・・

65: 2020/09/07(月) 22:37:00.819
肉じゃが道…それはあまりに長く、あまりに険しい

69: 2020/09/07(月) 22:39:23.869 ID:aRO9lsdL0
やがて――

友「なにこれ!? メチャうめえ! 店出せるって!」

女友「ホント! こんなおいしいの初めて!」

仲間「お前にこんな特技があったとはな……」

男「喜んでもらえて嬉しいよ」



男(時は来た!!!)

72: 2020/09/07(月) 22:41:41.218 ID:aRO9lsdL0
ピンポーン

女「はい」

男「……」

女「あなたは……!」

男「今日は作りすぎたのではなく、あなたのために肉じゃがを作ってきました」

男「どうぞ召し上がって下さい」

女「いただきます」

75: 2020/09/07(月) 22:47:00.309 ID:aRO9lsdL0
女「……!」

女(これは――)

女(もはや言葉で表現すらできないほどの……圧倒的おいしさ!)

男「この肉じゃがとともに、ぜひあなたに伝えたかった言葉があります」

女「なんでしょう?」

男「趣味もなくだらだらと生きてた俺に、こんな素晴らしい生きがいを与えて下さったのはあなたです」

男「俺はぜひ、あなたを伴侶としたい」

男「結婚して下さい!」

女「喜んで!」

76: 2020/09/07(月) 22:47:20.196
おめでとう

83: 2020/09/07(月) 22:50:15.795 ID:aRO9lsdL0
二人は≪肉じゃが専門店≫を開業した――

ワイワイ… ガヤガヤ…

妻「あなた、肉じゃが二人前!」

男「あいよ!」



「この肉じゃがうめぇ~!」

「ああ……たまらないわ……」

「ここのご主人、肉じゃがだけを徹底的に作り続けたらしいぜ」

87: 2020/09/07(月) 22:53:41.793 ID:aRO9lsdL0
記者「肉じゃが専門店、大繁盛ですね!」

男「おかげさまで、夫婦で二人三脚、何とかやってます」

男「最初はどうなることかと思いましたが、軌道に乗ることができて嬉しいです」

記者「毎日、大勢のお客さんが来て、すぐ売り切れになってしまうとか」

男「そうなんです」

記者「まさに嬉しい悲鳴というやつですね!」

男「んー……もっとも本当に悲鳴が上がったりもしますけどね」

記者「へ?」

90: 2020/09/07(月) 22:55:57.972 ID:aRO9lsdL0
妻「ねえ、あなた。肉じゃがは? 作りすぎてないの?」

男「あー、すまん。全部売っちまったよ」

妻「そんなぁ~! たーべーたーいー! たーべーたーいー!」

男「ごめんな、今度から気を付けるから……」







おわり

91: 2020/09/07(月) 22:56:29.353
乙!

95: 2020/09/07(月) 23:01:58.048
乙面白かった

引用元: 隣人女「あの……肉じゃが作りすぎてませんか?」