1: 2012/04/07(土) 20:17:10.63 ID:gAva7l+u0

男「委員長、また鱗落としてましたよ?」

委「ん? そうか、すまないな。拾っておいてくれたか?」

男「はい。でも、最近多くないですか?」

委「気をつけてはいるんだが、生憎と私は完全無欠ではないからな。」

男「委員長が落とすところを見られたわけでもないから、大丈夫だろうけど。」

委「理解者が傍に居るというのは心強いものだな。」

男「理解者ですかー……」

委「不服か?」

男「まあ、今は理解者でいいかな。」

2: 2012/04/07(土) 20:18:11.88 ID:gAva7l+u0

委「皆に知れ渡ってしまうと居づらくなる。私はまだここに居たいからな。」

男「ばれたら身を隠すってことですか?」

委「許されるならこのまま暮らしていきたい。だが、君のような者はそうそういないだろう?」

男「それ、僕が変人ってことです?」

委「悪く言えばそういう事になる。しかし、悪く思ってなどいないよ。」

男「それは光栄ですね。」

委「最初に気付いたのが君で良かったとさえ思っているさ。」

男「あの時の委員長、うろたえてて可愛かったですね。」

委「それを言うな。」

3: 2012/04/07(土) 20:18:52.63 ID:gAva7l+u0

男「最初は小道具にまでこだわった遅咲きの厨二病かと思いました。」

委「厨二病? 何の病気だそれは。」

男「思春期特有のはしかのようなものです。主な症状は過剰なまでの個性の強調?」

委「よくわからないな。今度調べておこう。」

男「言っておきますが、辞書には載ってないですよ。調べるならはしかの方で。」

委「心得た。」

男「それにしても、委員長って、ほんとに委員長って感じですよね。」

委「同じものを比較しているようにしか聞こえないが?」

男「委員長はいーんちょで、委員長は役職です。さらに言えば眼鏡でもあります。」

委「いーんちょ?」

7: 2012/04/07(土) 20:21:39.08 ID:gAva7l+u0

男「いーんちょっていうのは委員長のことですよ。今決めました。」

委「キミは私を混乱させたいのか? それとも馬鹿にしているのか?」

男「その反応とか、すごく委員長っぽいです。」

委「真面目に聞かなくていい部類の話か?」

男「んー……先生はせんせーだけど、せんせーの役職は先生ですよね?」

委「あだ名の類か? ふむ、人間っぽいな。」

男「いーんちょは人間っぽいのが嬉しいんですか?」

委「よくわからないが、悪い気はしない。模倣することは人間を知る近道だと思うからな。」

男「今でも十分に人間を演じられてはいると思いますけど。」

委「しかし、今まではあだ名など無かった。より人間に近づくことができたわけだ。」

9: 2012/04/07(土) 20:24:06.39 ID:gAva7l+u0

男「人間になりたいんですか?」

委「なれないよ。溶け込んで生きて行くために情報を集めているだけだ。」

男「じゃあ、人間みたいになりたいんですか?」

委「それはわからない。正確には、まだ結論が出ていないと言うべきか。」

男「人間に溶け込んで生きるのは何故なんでしょう?」

委「それは簡単だ。そうしないと生き辛いからだ。」

男「いーんちょもいろいろと大変なんですね。」

委「実感も湧いてないのに同情されるのは気分のいいものではないな。」

男「あ、ごめんなさい。ちょっと軽率でしたね。」

委「いや、人間だったらやりそうな反応を実践してみただけだ。本心じゃない。」

10: 2012/04/07(土) 20:26:47.78 ID:gAva7l+u0

男「ところで、この鱗ってどこから落ちてくるんですか?」

委「衣服に付着していたものが落ちているだけだ。今は鱗は生えていない。」

男「今は?」

委「この姿は擬態だからな。自宅では本性で過ごすのだが、そのとき服に着くのだろう。」

男「仮の姿ってことですか。じゃあ、本当は全然違う見た目なんですか?」

委「上半身は人間と同じだよ。だから偽る必要はないし、偽ってもいない。」

男「じゃあ、顔とか胸は天然ものなんですね。」

委「それは重要なことなのか?」

男「少なくとも僕にとっては。」

委「キミにとっては?」

男「全身が鱗で覆われてるタイプは嫌です。」

13: 2012/04/07(土) 20:30:08.25 ID:gAva7l+u0

男「本当の姿を見せてもらう事ってできます?」

委「可能か不可能かで言えば可能だが、後悔しないか?」

男「後悔するような要素があるんですか?」

委「本性を見たら、私のことを嫌わないか?」

男「見てからでないとなんとも……ザイダベックくらいビフォーアフターが違うんですか?」

委「たとえの基準にわかりづらい物を用いるべきではないな。」

男「ですね。」

委「やめておこう。本性を見られたら相手を頃すか、愛さなければならないからな。」

男「どこの女性聖闘士ですか。」

委「まあ、それは冗談としても、今はリスクを冒したくない。」

男「いーんちょも冗談言うんですね。」

委「覚えたことは実践していかないとね。」

16: 2012/04/07(土) 20:32:53.60 ID:gAva7l+u0

男「どんな感じなのか、聞くだけならいいですか?」

委「そうだな、今は足を生やしているが、本来の私には足が無い。」

男「じゃあ、何が生えてるんですか?」

委「何も生えてはいない。そのまま胴が続いていて尾が付いている。」

男「うーん……ちょっと想像できないな。」

委「だいたいこのあたりから鱗に覆われているぞ。」

男「スカートをたくし上げないでください。」

委「おっと、見苦しいものを見せたな。すまない。」

男「見苦しいとか、むしろ眼福ですが。恥じらいを持つべきかと。」

委「とは言っても所詮擬態だからな。恥ずかしくもない。好きなだけ見るがいい。」

19: 2012/04/07(土) 20:35:33.80 ID:gAva7l+u0

男「とりあえず、スカートを戻し……なんで付いてるんですか?」

委「付いてる?」

男「パンツが不自然に盛り上がってますよね? いーんちょの性別は?」

委「メ…いや、女性だな。」

男「ですよね。」

委「私の擬態は間違っているのか?」

男「女性には付いてちゃいけないものが付いてます。」

委「いけない?」

男「いけなくはないか……愛好者もいるし。」

委「間違っているのだな?」

20: 2012/04/07(土) 20:37:59.25 ID:gAva7l+u0

委「参考のためにいろいろな画像を見たが、細部は見れぬよう加工してあってな。」

男「塗りつぶしてあったり、画素が極端に荒かったりですか?」

委「うむ。だから彫刻を参考にしたのだが、女性をモチーフにしたものはココが省略されている。」

男「だから男性の彫刻を参考にしたというわけですね。」

委「その通りだ。」

男「省略してあるんじゃなくて何もついてないことを忠実に再現してるだけですよ。」

委「では詳しく教えてくれないか。擬態を完全なものにするために細部が知りたい。」

男「僕も実物は見たことが無いので、教えてあげることはできませんね。」

委「そうか、それは残念だ。」

22: 2012/04/07(土) 20:42:42.93 ID:gAva7l+u0

男「擬態ってどうやってるんですか?」

委「?」

男「声が出なくなる代わりに足ができる薬を飲んだり?」

委「今、君と会話をしているのは?」

男「いーんちょですね。」

委「私は今、筆談をしているか?」

男「いえ、喋ってますよね。」

委「そんなおとぎ話と一緒にされても困る。」

男「じゃあ、泡になって消えちゃったりはしないんですね。」

委「少なくとも私は、な。」

24: 2012/04/07(土) 20:48:42.73 ID:gAva7l+u0

委「体組織を丸ごと組み換えたり、作り変えているだけだ。」

男「なんか夢のない話ですね。」

委「ファンタジックである必要はない。」

男「それはそうですが、ちょっと残念です。」

委「何が残念なものか。今でこそこうしているが、最初は大変だったのだぞ。」

男「今も局所的には大変なことになってますが。」

委「これはその……次から改善する。」

男「是非、そうしてください。」

25: 2012/04/07(土) 20:52:26.40 ID:gAva7l+u0

委「二足歩行に慣れない頃はよく転んだものだ。」

男「バランスの取り方が難しいとかですね。」

委「それもあるが、足首にも関節があることを知らなかったりしてな。」

男「姿形だけ真似たら大失敗……と。」

委「力の配分なども習得するまでには時間を要した。」

男「歩く・走る・跳ぶ、全部涙ぐましい努力の賜物なんですね。」

委「あとは排泄もだな。」

男「そんな事まで特訓が必要だったんですか?」

委「我慢する時どこに力を込めるのかが分らなくてな。よく下着を汚……」

男「やめて! そんないーんちょ想像したくない。」

26: 2012/04/07(土) 20:56:24.33 ID:gAva7l+u0

委「そういえばこの眼鏡も、本当は必要ないものだ。」

男「伊達眼鏡なんですか。なら、どうして眼鏡をかけるんですか?」

委「理由は二つあるが、教えられるのは片方だけだ。聞きたいか?」

男「はい。」

委「眼鏡をかけると印象が地味になると聞いた。そして、私はあまり目立ちたくない。」

男「地味な人を演じるための変装アイテムってことですか。」

委「そういうことだな。」

男「まあ、特殊な嗜好の人もいるんですけどね。」

27: 2012/04/07(土) 21:00:19.72 ID:gAva7l+u0

男「目立ちたくないのに毎回委員長に立候補してるのは何故でしょう?」

委「役職を盾にいろいろな事に介入できるだろう? 調査がはかどると考えてな。」

男「熱心ですね。」

委「だが、私はそんなに目立っているか?」

男「人目を引くという意味では目立ってません。」

委「では、どういう意味では目立っているのかな?」

男「ステレオタイプすぎるところですね。」

委「先入観との差異が無いということか、それなら好都合じゃないか。」

男「イメージ通りなら、あれこれ詮索する必要が無いですもんね。」

28: 2012/04/07(土) 21:03:34.77 ID:gAva7l+u0

委「そろそろ下校時刻だ。また明日の放課後だな。」

男「楽しい時間はあっという間ですね。」

委「君はこれが楽しいのか?」

男「このために学校に通ってるようなものですね。」

委「それは良くないな。」

男「ドライな反応ですね。」

委「両親に学費の負担を強いているなら、まずはそれに応えるべきだ。」

男「僕、奨学生なんです。学費を負担するのは未来の僕ですよ。」

委「そうか……だが、本分は勉強であることに変わりはない。」

男「もちろん勉強もないがしろにはしてませんよ。」

委「……であればこそ、私も心置きなく君とのやりとりを楽しめるというものだ。」

男「やっぱり、いーんちょはカッコいいです。」

30: 2012/04/07(土) 21:07:23.41 ID:gAva7l+u0

――――――――――

男「おはようございます。」

委「おはよう。」

男「……ん? 僕の顔、何かついてますか?」

委「何も。ただ、私が挨拶を返すのは君だけだと思ってな。」

男「いーんちょは僕以外には挨拶を返さないんですか?」

委「いや、返せないという方が正しいのだが。」

男「クラスメイトは怖くないですよ?」

委「わかっているくせにそういう事を言う。やはり、君は面白いな。」

男「エー? ナンノコトデスカ?」

委「そこまでとぼける事はないだろう? そういうところは少し腹立たしい。」

男「照れ隠しというやつですよ。」

31: 2012/04/07(土) 21:13:39.94 ID:gAva7l+u0

委「なぜ照れる?」

男「褒められ慣れてないもので。」

委「私としては、君以外にも挨拶を返してみたいのだがな。」

男「返される方ですもんね。」

委「まあ、私の方がもっと歩み寄らなければ無理なのだろう。」

男「その辺のバランス感覚は難しいですね。ヤマアラシのジレンマ?」

委「慣用句か? 放課後までにそれも調べてみよう。」

男「放課後が待ち遠しいですね。」

委「それまでの授業をおろそかにして欲しくはないのだが。」

男「わかってますよ。」

33: 2012/04/07(土) 21:19:27.92 ID:gAva7l+u0

委「私なりに調べてみたのだが、どうも解釈が複数あるようだな。」

男「ハリネズミのジレンマ?」

委「ヤマアラシだよ。」

男「ああ、そうでした。」

委「それに慣用句ではなく、哲学や心理学の類の用語のようだ。」

男「そうなんですか。」

委「君はどういう解釈に基づいてこの言葉を使ったんだい?」

男「解釈も何も、それっぽい言葉を挙げただけで真意なんかないですよ。」

委「いろいろと台無しだな。」

男「肩肘張って問答するのは苦手です。」

34: 2012/04/07(土) 21:25:31.59 ID:gAva7l+u0

男「いーんちょは苦手なものとかってあります?」

委「色々とあるな。」

男「たとえば?」

委「火とかな。熱いのは嫌だろう?」

男「丸焼き的な意味で?」

委「丸ごとでなくとも身を焼かれるのが得意な者がいるか?」

男「いませんね。」

委「おそらくだが、君が期待している返答は、人間と異なる苦手要素だな?」

男「最初からそう訊ねればよかったですね。」

35: 2012/04/07(土) 21:30:23.73 ID:gAva7l+u0

委「哺乳類だ。」

男「イルカとか、シャチとか、クジラですか?」

委「いや、確かにそれらも哺乳類だが、違う。人の世に混じって暮らす犬や猫のことだ。」

男「ケモノが嫌い?」

委「彼らは人間と違って擬態が通じない。見破られてしまう。」

男「可愛がろうとしても逃げられちゃう?」

委「苦手なものの話しだろう? 逆だ、盛大に威嚇される。」

男「意外ですね。犬や猫が怖いなんて。」

委「怖くなどないぞ。」

男「あれ?」

委「だが、行く先々で威嚇されてみろ。存在否定されてるようでこたえるぞ。」

36: 2012/04/07(土) 21:36:10.96 ID:gAva7l+u0

男「とりあえずですね、僕と友達になりませんか?」

委「うむ、申し出は嬉しいのだが、私自身が友達と言うものが良くわからない。」

男「友達は友達ですよ。きっと人間らしさに磨きがかかりますよ。」

委「概念はわかっているつもりだ。しかし、自分に当て嵌めて実践する自信は無い。」

男「難しく考え過ぎです。のび太とジャイアンだって、広義の解釈では友達なんだから。」

委「では、差し当たって私は何をすればいい?」

男「僕のことを友達だと認めてください。定義に関しては納得しなくてもいいですから。」

委「とりあえず、理解者と呼ぶべき時は友達と置き換えて呼んでみようか。」

男「その返事、いーんちょらしくてカッコいいですね。」

38: 2012/04/07(土) 21:40:18.75 ID:gAva7l+u0

男「いーんちょ、いつもお昼はどうしてるんですか?」

委「昼休みという意味なら読書だ。昼食という意味なら食べていない。」

男「午後の授業、お腹すきません?」

委「食生活が違うからな。その心配はない。」

男「お昼は食べちゃダメなんですか?」

委「そんなことは無い。用意する手間や、購買部で使う金を惜しんでいるだけだ。」

男「じゃあ、今度からはお昼一緒に食べませんか?」

委「友達らしく、ということかな?」

男「そうですそうです。食べながらの会話で友情パワー炸裂です。」

委「考えておこう。」

39: 2012/04/07(土) 21:45:27.96 ID:gAva7l+u0

――――――――――

男「♪~……♪~♪~……」

委「…………」

男「♪・♪・♪~……♪~」

委「…………」

男「♪~…おわ!?」

委「む? どうした、やめてしまうのか?」

男「いーんちょ、帰り道はこっちじゃないはずでしょう?」

委「確かに逆方向だな。」

男「何でいるんですか?」

委「君の口笛が聞こえたからな。聴き入っていた。」

40: 2012/04/07(土) 21:53:47.44 ID:gAva7l+u0

男「そのためにわざわざ引き返して付いてきたんですか?」

委「そういうことになるな。」

男「いつからいたんですか?」

委「前の曲が終わったあたりからかな。」

男「恥ずかしくて氏にそうです。」

委「恥じる事などない。私はもっと聴きたいと思っている。」

男「聴かれるのが恥ずかしいんですよ。」

委「そうなのか。」

42: 2012/04/07(土) 21:57:06.49 ID:gAva7l+u0

委「曲名はあるのかい?」

男「Pollyanna……」

委「ポリアンナ?」

男「なんか、女性名ですけど、楽天家みたいな意味もあるみたいです。」

委「楽天家なのか? 少し物悲しいメロディに感じたが。」

男「一人っきりのときに流れる曲ですからね。」

委「それはともかく、続きを聴かせて欲しいのだが。」

男「この曲は二人になると流れなくなるんですよ。」

43: 2012/04/07(土) 22:01:12.32 ID:gAva7l+u0

委「では他の曲を奏でてくれ。」

男「曲を変えても恥ずかしいわけで、そういう問題じゃないんです。」

委「曲じゃなくても構わないのだが。」

男「いーんちょって変わってますよね。」

委「しょうが無いさ。人間ではないのだから。」

男「そういうところは是正していきましょう。」

委「君が言うのなら、そうした方がいいんだろうね。でも、なぜだい?」

男「郷に入りては郷に従えです。」

委「帰ったら辞書を引いてみるよ。」

44: 2012/04/07(土) 22:08:33.68 ID:gAva7l+u0

――――――――――

男「今日は休憩時間中、ずっと何か書き留めてましたね。」

委「君はそれをずっと見ていたというわけか。」

男「ずっとじゃないですよ。ストーカーみたいに言わないでください。」

委「ではどうして私がずっと書き留めていたと言い切れる?」

男「見かける度に同じ姿勢で筆を遊(すさ)ばせていれば印象にも残るってものでしょう?」

委「そうか……奇怪に映ってはいなかっただろうか?」

男「それは無いと思いますけどね。」

46: 2012/04/07(土) 22:13:42.64 ID:gAva7l+u0

委「人間がその他の動物と決定的に違うところはなんだと思う?」

男「言葉を喋ることですかね?」

委「会話ならイルカ同士もしているらしいぞ?」

男「じゃあ、料理でしょうか? 調理して食べる動物っています?」

委「私が望む答えはもっと壮大なものだな。それには料理も含まれる。」

男「当たる気がしないですね。」

委「単純だぞ。文化だ。」

47: 2012/04/07(土) 22:17:22.87 ID:gAva7l+u0

男「言われてみればそうですかね、今の暮らしは文化が積み重なったもの。」

委「時の流れとともに変化し、人間の営みもそれに伴ってうつりかわる。」

男「で、なぜ今そんな話をしだすんですか?」

委「人間を理解するにあたって、重要なものの存在に気が付いた。」

男「それが文化だと?」

委「いや、文化はずっと学び続けているよ。今だってそうさ。もっと狭い話なんだ。」

男「要領を得ませんね。」

委「芸術だよ。」

48: 2012/04/07(土) 22:23:41.57 ID:gAva7l+u0

男「いろいろと飛躍してませんか?」

委「生き物というのは基本的に、食べる・寝るを繰り返している。」

男「それだけじゃ、増えずに絶滅してしまいますね。」

委「だが、人間はそれ以外にも力を注ぐものがある。それが芸術だ。」

男「つまり、理解を深めるために芸術にも食指を伸ばそうと?」

委「その通りだ。」

男「じゃあ、今日はずっと芸術に没頭してたんですか。」

委「現段階で私にできそうな創作活動を考えてみたのだよ。」

男「あんまりいい予感はしないですね。」

49: 2012/04/07(土) 22:29:47.23 ID:gAva7l+u0

男「絵でも描いてたんですか?」

委「私に絵心など理解できないよ。ただの模写にしかならない。」

男「作曲とか?」

委「私は楽譜を読むことができない。読めないものが書けるはずもないだろう?」

男「いーんちょ、この流れはよくないです。非常によろしくない。」

委「私はね、君の意見は、いつだって真摯に受け止めてきたつもりだ。」

男「そうだったんですか。」

委「君は無知な私に対して、その理由までもわかり易く教えてくれたからな。」

男「そんな高尚なものでもないかと。」

委「だからこそ、聞く前から否定する今の君に失望している。」

51: 2012/04/07(土) 22:36:18.49 ID:gAva7l+u0

男「ごめんなさい。ちょっと無神経でしたね。」

委「でも、今から君は挽回してくれるんだろう?」

男「なんですかその無茶振り。」

委「話が逸れたな。私が今日試みたのは……」

男「ポエムですよね?」

委「見抜かれていたか。」

男「ある意味、登竜門ですからね。」

委「君はそれをよくないと断じたが、その意図を聞かせてくれ。」

54: 2012/04/07(土) 22:41:55.89 ID:gAva7l+u0

男「それは遅効性の猛毒のようなものです。」

委「なんというか、とても抽象的だな。」

男「それは時に時限爆弾になり、時に古傷に姿を変えて、いーんちょを襲います。」

委「にわかには信じ難いな。」

男「僕は、自ら綴った詩によって、身を滅ぼしかけた執事の話を知っています。」

委「私はそれほどの劇物を作り出してしまったと言うのか?」

男「いーんちょはまだ間に合います。早急に処分しましょう。」

委「そうか、遅効性だから早めに対処することで中和できるのだな?」

男「その通りです。」

56: 2012/04/07(土) 22:46:35.53 ID:gAva7l+u0

委「危ないところだった。」

男「まあ、サマーの詩のような特異点もありますが。」

委「芸術というのは恐ろしいものなのだな。」

男「爆発しますからね。」

委「そして、私はふりだしに戻ってしまった。」

男「なんで急に芸術に興味を持ったんです?」

委「君がいると人間の調査が捗るからな。裾野を広げる余裕ができた。」

男「つまり僕のせいなんですか。」

委「君のせいじゃない。君のおかげだ。」

58: 2012/04/07(土) 22:53:13.62 ID:gAva7l+u0

男「まずは娯楽からアプローチしたらどうですか?」

委「芸術は娯楽の一種なのでは?」

男「そういう堅いものじゃなくて、漫画とかゲームとか小説とかです。」

委「身の丈に合ったものから始めろと言うのだな?」

男「いえ、そういった方面なら僕も協力しやすいってことです。」

委「君が協力してくれるなら願ってもない事だ。」

男「学校には持ち込めませんけどね。」

59: 2012/04/07(土) 22:59:56.25 ID:gAva7l+u0


委「丁度良かった、ちょっと教えてほしいのだが、いいかい?」

男「学校に漫画持って来ちゃダメじゃないですか。」

委「授業中に読んだわけじゃない。それに、これは必要なことなんだ。」

男「いーんちょはそういうのを注意する立場だと思うんですけどね。」

委「では、君の家に行こう。校外なら問題ないだろう?」

男「それは……無理ですね。ちょっと散らかってますし。」

委「私はそんな事は気にしないぞ。」

男「僕が気にするんです。」

委「むう……困ったな。」

60: 2012/04/07(土) 23:02:51.51 ID:gAva7l+u0

男「からかっただけです。僕も持ってくることありますし。」

委「ならば、今度から厳重注意だな。」

男「まあまあ、教えますから見逃してください。」

委「では早速だが、ここの最後のいちじくの葉という言いまわしを説明してくれないか。」

男「いちじくの葉はですね、絵画なんかで陰部を隠すのに使われるものでして……」

委「ふむ。」

男「障害物が取り払われて丸見えになり、悶々とした気分が晴れて満足という事じゃないでしょうか。」

委「なるほど。よくわかった。」

男「しかし、ハイレベルなものを読んでますね。」

61: 2012/04/07(土) 23:08:27.00 ID:gAva7l+u0

委「次はこれなんだが、ここのケツの穴にツララを突っ込まれた気分と言うのは?」

男「…………」

委「君にもわからない揶揄なのか。」

男「えと、台詞の勢いを感じられれば、それでいいんじゃないですかね?」

委「試してみればわかるだろうか?」

男「試さないでくださいよ。」

委「私は試さないよ。擬態で試しても正しい感覚が得られるとは思えない。」

男「次にお前は、君に試してみて欲しいのだ。と言う。」

委「君に試してみて欲しいのだ……ハッ!」

男「パーフェクトです、いーんちょ。」

63: 2012/04/07(土) 23:14:44.27 ID:gAva7l+u0

――――――――――

委「今日は私も昼食を持参した。」

男「お、いいですねー。じゃあ、一緒に食べましょうか。」

委「それは構わないのだが、人目はなるべく避けたい。」

男「僕なんかと噂になるのは嫌ですか。」

委「なるほど、そういう見識もあるのか。」

男「納得しないでくださいよ。」

委「実を言うと、弁当と呼べる代物ではないのでな。人に見られたくない。」

男「失敗作が恥ずかしいんですか? なんとなく、らしくない感じですね。」

委「なるほど、そういう見識もあるのか。」

男「その一言で、サプライズの予感MAXですね。」

65: 2012/04/07(土) 23:21:50.93 ID:gAva7l+u0

委「保健室か……薬品の匂いを嗅ぎながら食べるのか?」

男「屋上はなぜか白い煙が立ち込めてますし、中庭は人目がありますからね。」

委「まあ、タバコの匂いよりは我慢できる。さっさと食べて退室しよう。」

男「弁当箱の中、全部卵なんですね……」

委「君たちと同じものが食べられないわけではないが、消化にコツがいるからな。」

男「そういえば食生活が違うって言ってましたっけ。」

委「それに、君たちが食べるものは私にとって味が濃すぎる。」

男「だから茹で卵なんですか。」

委「いや、これは茹でてないぞ。」

男「生卵!?」

66: 2012/04/07(土) 23:26:06.93 ID:gAva7l+u0

委「火を使う事に慣れていないのでな。現状ではこれが最適解だ。」

男「ワイルドというかダイナミックというか……」

委「私ばかり見ていないで君も箸を進めるべきだ。」

男「そうですね。なにか欲しいものがあれば、分けましょうか?」

委「いや、気を使わないでくれ。私はこれで十分だ。」

男「…………」

委「……どうした?」

男「あー……はいはい、どうぞ。カマボコが気になったんですね。」

委「なっ? むぅ……そこまで言うなら、いただくとしよう。」

67: 2012/04/07(土) 23:31:09.67 ID:gAva7l+u0

男「お茶飲みます?」

委「今度こそ遠慮しておくよ。水の方が好きなんだ。」

男「ふいー……和やかな気持ちになりますね。」

委「で? これから何が始まるのかな?」

男「もう終わりましたけど?」

委「……え?」

男「え?」

委「では、何のために一緒に昼食を?」

男「食事こそが目的であって、手段じゃないですよ?」

委「なるほど、わからん。」

70: 2012/04/07(土) 23:39:22.50 ID:gAva7l+u0

――――――――――

男「いーんちょ、また鱗落としてましたよ。」

委「ん、またか……」

男「気をつけてくださいね。」

委「言われるまでもないのだが、落ちていると目立つものか?」

男「どうでしょう? 僕が意識し過ぎなのかもしれないですね。」

委「見つけて拾ってくれるのはありがたく思っているぞ。」

男「ちょっとした対策を思い付いたんで、これ持って帰ってもいいですかね?」

委「正直なところ、あんまり気分のいい事ではないな。」

男「そうなんですか?」

委「たとえば、君の抜け毛を誰かが拾い集めて持って帰る。そう考えたら?」

男「相手によりますが、興奮を抑えきれませんね。」

委「……じゃあ、好きにするといいさ。」

71: 2012/04/07(土) 23:40:45.48 ID:gAva7l+u0

男「あ……いーんちょ、引いてます?」

委「若干な……しかし、君の言う対策のほうに興味がある。」

男「悪用はしないんで、安心して預けてください。」

委「心配してはいないが、悪用というのがどういう用途を指すのかにも興味が湧いた。」

男「あー……それはですね……」

委「どんな用途であれ、悪用される可能性があるなら私にも責任が生じると思う。」

男「えと、たとえば……味噌汁に入れてダシを取ったりとか?」

委「勘違いをしているようだから、一つ忠告しておこう。」

男「は、はい。」

委「それは君が考えているほど悪い事ではない。それに、いいダシが出るとも思えない。」

男「やっぱり、いーんちょはサイコーです。」

72: 2012/04/07(土) 23:47:40.58 ID:gAva7l+u0

委「ところで対策というのは教えてはくれないのか?」

男「それは明日のお楽しみです。」

委「明日? 一朝一夕でなんとかなるものなのか?」

男「あー……あんまり期待されても困るんですけどね。」

委「期待をしてはいけないが、安心して任せろ……か?」

男「じゃあ、不安に押しつぶされそうになりながら明日まで待ちますか?」

委「どのみち今すぐは教えてはくれないようだな。」

男「そうです。」

委「わかった、今日のところは悪用の件ともども誤魔化されておこう。」

男「わーい、バレてた。」

73: 2012/04/07(土) 23:51:45.35 ID:gAva7l+u0

――――――――――

男「いーんちょ、いま時間大丈夫ですか?」

委「昨日言っていた対策のことかな?」

男「そうです。」

委「大丈夫だと言いたいところだが、目安箱の集計がまだ終わらなくてね。」

男「それって真面目に投函してる生徒いるんですか?」

委「ほとんどはいたずら書きか、ゴミが投函されているが、真っ当なものもあるよ。」

男「手伝いましょうか?」

委「それは駄目だ。この作業は守秘義務を尊重しなければいけないからね。」

男「じゃあ待ってます。見とれててもかまいませんか?」

委「なるべく早く終わらせるとしよう。」

74: 2012/04/07(土) 23:54:26.01 ID:gAva7l+u0

男「終わりました?」

委「とりあえずはね。これ以上のことは次回の委員会で議論すべきだろうし。」

男「じゃ、さっそくこのイヤリングを見てください。」

委「君が加工したのか? 器用なものだな。」

男「いえ、百均で買ったやつに瞬着で貼り付けただけですよ。」

委「で、これがどう対策になるというのかな?」

男「いーんちょがコレを付けていれば、落ちてる鱗はコレの部品だと思い込むんじゃないでしょうか。」

委「ふむ。隠すのではなく、わかりやすい答えを晒しておくわけか。」

男「そしたら、拾って届けてくれる人も出てくるんじゃないかと。」

76: 2012/04/07(土) 23:59:37.02 ID:gAva7l+u0

委「発想は悪くないが、これを使うことはできないな。」

男「ちょっとダサすぎましたか?」

委「いや、悪くはないと思う。私の美的感覚はアテにはならないだろうが……」

男「お洒落をして目立つのを避けたい?」

委「それ以前の問題だよ。」

男「?」

委「ピアスやイヤリングは校則違反だ。」

男「あー……」

委「ヘアピンやカチューシャも華美な装飾が施されたものは禁ず、とある。」

男「八方塞がりですね。」

77: 2012/04/08(日) 00:01:09.67 ID:YOt0mr2K0

委「どこも塞がってはいないぞ。キーホルダーやストラップならお目こぼしがある。」

男「そっか、身につけるものに拘りすぎてましたね。」

委「君のセンスに任せるから、作ってみてはもらえないか?」

男「それは構いませんが、もう鱗ないですよ。」

委「じゃあこれを使うといい。目安箱に入れてあった。」

男「僕以外にも拾ってる人がいたのか……」

78: 2012/04/08(日) 00:08:09.22 ID:YOt0mr2K0

委「まあ、ゴミとみなして捨てたというところかな。」

男「それを捨てるなんてとんでもない!」

委「いやいや、私もゴミ同然だと思うのだが……」

男「でも、ちょっと少ないですね。」

委「必要なら言ってくれ、明日むしって持ってくる。」

男「痛くないんですか?」

委「ニキビを潰す程度のものだよ。」

79: 2012/04/08(日) 00:15:14.55 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

男「いーんちょ、最近調子悪いんですか?」

委「そう見えるかい?」

男「お肌カサカサだし、机の周りも抜け毛すごいじゃないですか。」

委「よく見ているな。」

男「そこは僕の個人的な視点が大きいです。でも、誰が見ても心配すると思いますよ。」

委「しかし、言ってきたのは君だけだぞ?」

男「ほら、いーんちょ近寄りがたいオーラ出てますから。」

委「それは仕方がない。交友を深めていけばボロを出さないとも限らない。」

男「でも、みんな心の中では気にかけてると思います。」

81: 2012/04/08(日) 00:20:49.30 ID:YOt0mr2K0

委「私がどうなろうと気にする必要はないんだがな。」

男「冷たいこと言いますね。」

委「そうか?」

男「友達を気遣うのは当たり前のことですよ。」

委「そうか、友達か……」

男「いきなり居なくなったりしないですよね?」

委「居なくなるとは?」

男「遠くへ行っちゃったり、入院したり、あと……」

委「あと?」

男「氏んじゃったり。」

82: 2012/04/08(日) 00:25:06.51 ID:YOt0mr2K0

委「なんだ、そんな事を心配していたのか。」

男「そんな事って言い切れる事態かどうかもわからないから不安なんじゃないですか。」

委「じゃあ、安心してくれてかまわないぞ。そんな事と言い切れる程度の事態だ。」

男「ならいいんですけど……正直、見るに耐えないというか……」

委「体調の管理は万全だ。」

男「そうは見えないから、心配してるんですけどね。」

委「もう一度言う、安心してくれ。それとも、私は信用できないか?」

男「わかりました。ひとまず安心しときますね。」

委「よろしい。」

男「でも、何かあったら言ってくださいね。力になれるとは思えませんが。」

83: 2012/04/08(日) 00:28:56.44 ID:YOt0mr2K0

委「ところで君は今週末、何か予定があるかい?」

男「特に何もないです。」

委「では、ちょっと私に付き合ってはくれないか。」

男「お? それはデートのお誘いですか?」

委「そう思うのか?」

男「少しくらいは期待したっていいじゃないですか。」

委「私が人間なら、そういう反応を喜ぶべきなのだろうな。」

男「その発言で僕の期待は粉々に打ち砕かれてしまったわけですが。」

委「で? 時間は割いてもらえるのかな?」

男「いいですよ。ご一緒します。」

84: 2012/04/08(日) 00:34:48.92 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

委「やあ、待たせたかい?」

男「いえ、僕もさっき来たところです。ほんの2時間ほど前にね。」

委「おかしいな、1時間ほど前に私が来たときは見かけなかったが。」

男「すいません嘘です。というか、一回来て帰ったんですか?」

委「いや、私のも嘘だ。人間らしいやり取りだろう?」

男「そうですね。花マルを差し上げますよ。」

85: 2012/04/08(日) 00:40:00.81 ID:YOt0mr2K0

委「では行こうか。」

男「あ、そういえば聞いてなかったんですけど何をするんですか?」

委「大人の階段を上る手伝いを頼むよ。」

男「えーと……目的地としては何処へ行くんですか?」

委「私の家……というか、部屋だな。」

男「できれば緊張する猶予くらい与えて欲しかったですね。」

88: 2012/04/08(日) 00:47:45.89 ID:YOt0mr2K0

委「何もないところだが、上がってくれ。」

男「では、お邪魔します。」

委「どうかな? 緊張しているかい?」

男「多少は……それよりも本当に何もないことに驚いてますが。」

委「絶対に必要なもの以外は置かないことにしているからな。」

男「でっかい水槽でもあるのかと思ってました。」

委「水槽なんてそれこそ必要のないものだろう。」

男「自宅では本性で過ごすって聞いてたもので。」

委「君は勘違いをしているよ。まあ、敢えて明言を避けてきた私も悪いのだが。」

男「じゃあ、答え合わせをお願いします。」

90: 2012/04/08(日) 00:50:35.78 ID:YOt0mr2K0

委「君は私を何だと思っていたんだい?」

男「人魚ですね。マーメイド。」

委「だろうね。」

男「違うんですよね?」

委「失望させてしまうかもしれないが、私は蛇女だ。」

男「ああ……え?」

92: 2012/04/08(日) 00:53:08.04 ID:YOt0mr2K0

委「今日はこれから本性を披露しようと思っている。」

男「いいんですか?」

委「それを見て醜いと思うかもしれないが、できればこれまで通り接してやって欲しい。」

男「わかりました。」

委「それが無理なら、嫌っても構わないが、私のことは今後も秘密にしておいて欲しいな。」

男「嫌うってことはないと思います。秘密に関しても心配無用ですよ。」

委「そう願いたいものだ。私は君を手にかけたくはない。」

男「発言には一層の気を遣うようにしますね。」

93: 2012/04/08(日) 00:56:45.39 ID:YOt0mr2K0

委「本邦初公開……でもないか。どうかな?」

男「なんていうか……長いですね。」

委「他に何か感想はないのかな?」

男「強いて言えば、上は着てください。」

委「気持ち悪くはないのかい?」

男「落ち着いたらそんな感想も浮かぶかもしれません。とりあえず上は着てください。」

委「混乱しているから、冷静な判断は下せないということか。」

男「そうです。僕は自分で思ってたより小心者でした。それより上をですね……」

委「わかったわかった。これでいいかな?」

男「おお、新しいジャンルを垣間見た気がします。」

委「たかがシャツ一枚でか?」

97: 2012/04/08(日) 01:01:28.10 ID:YOt0mr2K0

男「で、今日僕を招いた目的は何でしょう? このお披露目だけじゃないですよね?」

委「君は察しがいいな。さっきも言ったが、手助けを頼みたい。」

男「勢力争いに加勢しろとか、そういうのは多分無理ですけど。」

委「察しがいいと言ったのは取り消すことにしよう。」

男「今はその程度のユーモアセンスしか働かないんですよ。大人の階段でしたっけ?」

委「コホン、脱皮をする。」

男「え?」

委「脱皮の直後はひどく衰弱してしまう。その間の世話を焼いてほしいのだ。」

男「じゃあ、もうやっちゃってください。今の僕に考える時間を与えないほうがいいです。」

委「それもそうだな。」

100: 2012/04/08(日) 01:07:22.30 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

男「いーんちょ、グロいです。あと、工口いです。」

委「別に……経過まで見る必要は……なかったのだが。」

男「この抜け殻はどうするんですか? 燃えるゴミの日?」

委「すまない……軽口につき合う余力も……ない。」

男「何からすればいいですか?」

委「ベッドまで……たのむ……尾は引きずってもいい。」

男「身体ヌルヌルですけど拭いたほうがよくないですか?」

委「表皮が定着するまでは駄目だ……今はすごく刺激に弱い……」

男「となると僕が素手で触れるのも激痛なのでは?」

委「抜け殻の内側から……残っている粘液をすくって、手に塗れば……な?」

男「カンベンしてください。」

委「贅沢を言える立場じゃないな、私が耐えよう。」

男「あーもー! わかりました! やりますよ!」

103: 2012/04/08(日) 01:11:10.19 ID:YOt0mr2K0

委「ありがとう。重くはなかったかな?」

男「思ったよりは重かったですね。」

委「君は正直だな。」

男「それより、なんかすいませんでした。」

委「どうして謝るんだい?」

男「いや、抱きしめるような感じになっちゃってたので。」

委「気にしているのかい?」

男「あれは、不可抗力というか、ヌルヌルで上手く支えられなかったからで……」

委「私を床に放り出さなかった事に感謝したいくらいなのだが。」

105: 2012/04/08(日) 01:13:57.68 ID:YOt0mr2K0

委「ふむ、だいぶ楽になって来たな。」

男「もう大丈夫なんですか?」

委「本調子には程遠いが、あと小一時間もすれば起きられそうだ。」

男「じゃあ、僕はそろそろ……」

委「帰ると言うのかな?」

男「いけませんか?」

委「引きとめたら居てくれるのかい?」

男「悩むと思います。」

委「とりあえず、服を洗濯した方がいいと思うよ。」

男「あー……確かに。」

106: 2012/04/08(日) 01:17:18.69 ID:YOt0mr2K0

委「君たちは裸を見られるのは嫌だろう? だったら、今のうちに洗ってしまうといい。」

男「脱ぐとしても上だけですが、ちょっと言ってることがわからないですね。」

委「私はまだ目を開けることができないからね。」

男「じゃ、洗ってしまいます。」

委「その後で構わないから、私の眼鏡を持ってきてくれないか。」

男「あれは伊達眼鏡なんじゃないんですか?」

委「それでもあれは必要なものなのさ。」

107: 2012/04/08(日) 01:21:24.42 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

委「遅くまですまなかったね。今日はすっかり君に甘えてしまった。」

男「僕の方こそ、頼ってもらえて少し嬉しかったですよ。」

委「今なら、正常な判断はできそうだね。」

男「何の事ですか?」

委「私のことを気持ち悪いとは思わないか?」

男「思わないです。」

委「本当に?」

男「思った方がいいんですか?」

委「そんな事はないさ。」

男「でも、とても驚きました。」

108: 2012/04/08(日) 01:25:38.42 ID:YOt0mr2K0

委「本当に助かったよ。また次も、お願いしてもいいかい?」

男「こういうのは頻繁にあるんですか?」

委「年に数回かな。」

男「今まではどうしてたんです?」

委「どうしようもないときは自分で何とかしてきた。」

男「どうにかなるときはどんなとき?」

委「今日の君のように、手伝ってくれる人がいたときだ。」

男「それはちょっとショックですね。」

委「どうしてだい?」

男「理由がわからないなら、それはきっと勉強不足だからです。」

委「説明してはくれないのかな?」

男「宿題ということにしましょう。」

110: 2012/04/08(日) 01:29:15.44 ID:YOt0mr2K0

委「そういえば、ここへ人を招いたことはあるが、無事に帰るのは君が初めてだ。」

男「他の人はどうなったんですか?」

委「それが私からの宿題というのはどうかな?」

男「そういう問題じゃないと思いますが。」

委「私は今日、君に一つだけ嘘をついている。それがヒントだ。」

男「全然ヒントになってませんよ。」

委「じゃあ、ヒントを足そう。頃したりはしていないよ。」

男「本当ですね?」

委「嘘は一つだけだよ。」

111: 2012/04/08(日) 01:34:15.39 ID:YOt0mr2K0

男「月曜日には登校できそうですか?」

委「うん、大丈夫だ。」

男「じゃあ、月曜日に答え合わせをしましょう。」

委「送ってあげられなくてすまないね。気をつけて帰ってくれ。」

男「いいんです。無理はしないでください。おやすみなさい。いーんちょ。」

委「ああ、おやすみ。」

委「…………」

委「どうしてだろうか? 不意に彼を困らせてみたくなった。」

委「……これは勉強の成果なのかな?」

113: 2012/04/08(日) 01:36:32.66 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

男「いーんちょ、まだ体力が戻ってないんですか?」

委「そう見えるかい?」

男「見えます。」

委「難しい宿題に悩まされて、先週末は寝付けなかったんだ。」

男「奇遇ですね、実は僕も難問に頭を抱えてて寝不足なんです。」

委「だからと言って授業中の居眠りは看過できないな。」

男「寝てません。ちょっとウトウトしてただけです。」

委「じゃあ、明日からは授業に集中できるよう答え合わせをしよう。」

117: 2012/04/08(日) 01:52:43.42 ID:wpA+DKwa0

委「私のついた嘘は、まだ目を開けられないというものだ。」

男「じゃあ、見てたんですか?」

委「見てはいないさ。」

男「で、それが無事に帰れなかった人達とどう関係するんですか?」

委「私は目が合った相手に暗示を掛けることができるんだ。」

男「じゃあ、僕にも何か暗示を掛けてるんですか?」

委「心配しなくてもいいよ。この眼鏡のもう一つの理由がまさにそれだ。」

男「眼鏡越しだと暗示にかからない?」

委「ご名答。」


118: 2012/04/08(日) 01:53:47.03 ID:wpA+DKwa0

男「実践とか、お願いしてもいいですかね?」

委「君でかい?」

男「疑ってるわけじゃないですよ。一応、身を持って知っておきたいなと。」

委「じゃあ、眼鏡を外すから、私の目を見てくれないか。」

男「なんか照れますね。」

委「そんな余裕があるのかい? 君の手足は石になってしまったぞ?」

男「え? うあ……これ、マジで……」

委「それにとても喉が渇いている。そうだろう?」

男「そういえば……」

委「もう治ったけどね。」

男「あれ……ホントだ。」

121: 2012/04/08(日) 01:57:21.87 ID:wpA+DKwa0

男「何でもできちゃうんですか?」

委「あくまで暗示だから、相手の知識に寄るよ。赤ん坊には効かない。」

男「他の人達にはこれにかかったんですね。」

委「拒絶されてしまったからね。私に関する事を全て忘れて帰ってもらったんだ。」

男「僕にそうしなかったのは……」

委「君は私の姿を見ても態度を変えなかった。だから必要ないと判断したのさ。」

男「僕の場合、ある程度タネ明かしがあったからじゃないかと。」

委「しかし、蛇女とまでは知らなかった。むしろ人魚であることを期待していただろう?」

男「あんまり関係ないんじゃないですかね。」

委「期待を裏切られたとは思わなかったのかい?」

男「まあ、多少は……」

122: 2012/04/08(日) 01:59:16.74 ID:wpA+DKwa0

男「でも、裏切られたのはいーんちょじゃないですかね?」

委「どういう意味だい?」

男「あれはいーんちょにとって弱味になる部分だと思うんです。」

委「そうなるね。」

男「そこまでさらけ出して手のひらを返されるのは辛いと思います。」

委「……ん?」

男「いーんちょ?」

委「そうか、なるほど、そういうことか。」

男「もしもーし? いーんちょ?」

123: 2012/04/08(日) 02:01:23.07 ID:wpA+DKwa0

委「ああ、すまない。」

男「何か閃いたんですか?」

委「私は今までの……君以外の人とはそれほど親密になれていなかったんだろうね。」

男「んー……それに関しては僕からはなんとも。」

委「でも、親密になれなかったのは当然のことなんだ。」

男「はあ。」

委「私は君と交流を持つ前は、相手との距離に曖昧な認識しかもっていなかった。」

男「あー……それはありそうですね。」

委「そんな関係でいきなり本性を晒しても、一方的な押し付けでしかないじゃないか。」

男「お、なんかレベルアップできたっぽいですね。」

委「一皮むけたのさ。文字通りね。」

124: 2012/04/08(日) 02:03:18.56 ID:wpA+DKwa0

男「次は僕の解説になるわけですが。」

委「よろしく頼む。」

男「さっき弱味って言いましたけど、僕はそれを見る資格を持ってると思ったんです。」

委「資格というと?」

男「弱味を見せても構わない、いーんちょにとって特別な人間なんだと。」

委「その通りだな。」

男「でも、その特別は僕だけじゃなかった。」

委「結果としては、現時点では特別なのは君だけだと思うが?」

男「まあそうですね。だからこれは出題ミスです。」

委「それにショックを感じた理由がわからないのだが。」

男「出題ミスなんです。追及は無駄です。徒労です。」

125: 2012/04/08(日) 02:08:43.91 ID:wpA+DKwa0

――――――――――

男「読書の習慣が復活したんですね。」

委「でも、実用書を読むのはもうやめたんだ。」

男「何を読んでるんですか?」

委「小説だよ。」

男「僕としては漫画を読むほうが楽ですけど。」

委「本は知識を増やすために読むものだと思い込んでいた。」

男「面白いですよね。物語でも知識でも文字に違いは無いはずなのに。」

委「文字にはこんな使い方もあったんだ。漫画を読んだからそれに気づけたんだと思うよ。」

男「僕はどちらかと言うと、活字は苦手ですけどね。」

127: 2012/04/08(日) 02:13:35.36 ID:wpA+DKwa0

委「文章から得られる情報を、情景として思い浮かべる……前はできなかったことだ。」

男「そんな事は無いと思いますけど。」

委「物語をなぞる事は、私にとっては知識を得る事と等しい価値をもつものだと思う。」

男「擬似体験ってことですか?」

委「これに書かれていることを実際の体験で得ようと思うと、きっと膨大な時間が必要だろう。」

男「その機会自体が無い事だってあり得ますからね。」

委「人の感情がどう変化するのか、その参考にもなるよ。」

男「あ、それはあんまり参考にしない方がいいです。」

委「そうなのか。」

128: 2012/04/08(日) 02:17:55.34 ID:wpA+DKwa0

委「近頃は、自分の行動がどんな結果に結び付くのかを想像することもあるんだ。」

男「本の中の世界に入り込んじゃう?」

委「それとはまた別だよ。もし私が授業中や休憩中にこうしたら、他の人はこうするとか。」

男「シミュレーションですか。」

委「そうだね。」

男「逃走中の銀行強盗がこのクラスに立て籠ったら、どう対処するか。みたいな?」

委「なっ!?」

男「まあ、それは冗談としても……」

委「君は私の心が読めるのか?」

男「……いーんちょ、それはダウトです。」

129: 2012/04/08(日) 02:22:05.52 ID:wpA+DKwa0

――――――――――

委「最近ね、人の感情というものがわかりかけてきたと思うんだ。」

男「わかった。とは、言い切らないんですね。」

委「そんなに傲慢ではないさ。推し量れるものでないことを理解しているからね。」

男「えーと、今日は何かデリケートなお話なんです?」

委「感情について考えているとね。君の事が浮かんでしまうんだ。」

男「それは僕にとって喜んでもいい事なカンジですか?」

委「期待させたのなら詫びなければいけない。むしろ失礼な事を言ってしまうかもね。」

男「ぬか喜びには慣れました。気にしないで続けてください。」

委「岡目八目という言葉を知っているだろうか?」

男「いきなり現国の話になった!?」

130: 2012/04/08(日) 02:26:22.91 ID:wpA+DKwa0

男「関係ない人の方が、当事者よりも物事を正確に見られることですよね。」

委「君の話はまさにこれだと思うんだ。」

男「どういう事ですか?」

委「君は何事においても客観的すぎる。私にはそう感じられる。」

男「うーん……まあ、そうかもしれないですね。」

委「同年代の人と比べても、随分と達観しているしね。」

男「僕の物言いはウザいですか?」

委「そんなことじゃない。そうじゃないんだ。」

132: 2012/04/08(日) 02:29:24.86 ID:wpA+DKwa0

委「単刀直入に聞くが、君は本当に人間なのか?」

男「また話がブッ飛びましたが……」

委「君がくれるアドバイスは、先達や先輩が体験談に基づいて下すそれに思える。」

男「そんな大層なものじゃないですって。」

委「君の感情も、どこか現場の外にいて、全体を見ながらコントロールできているような……」

男「とりあえず、僕は人間ですよ。性格については育ちの悪さによるものかと。」

委「悪いなんて思ってないぞ。」

男「じゃあ、育ちの良さによるものってことで。」

委「とにかく、人間なのは間違いないんだね。」

133: 2012/04/08(日) 02:33:09.53 ID:wpA+DKwa0

男「僕が人間ってことについては、安心ですか? 残念ですか?」

委「どっちもある。複雑なところだな。」

男「前に僕は奨学生だって言ったの、覚えてますか?」

委「覚えている。私もそうだからな。」

男「あ、それは初耳だ。」

委「続けてくれないか。」

男「あ、はい。僕は両親に早くに氏なれちゃって、親戚に預けられたり施設に入ったりしたんです。」

男「だからですね、人の顔色を窺ったり、こじれない人付き合いの方法を身につけなきゃいけなかった。」

委「それを私にも教えてくれているというわけか。」

134: 2012/04/08(日) 02:36:09.51 ID:wpA+DKwa0

男「でも、教えてるだけであって、いーんちょにはそういう接し方はしてないつもりですよ。」

委「そうなのか。」

男「無意識にやっちゃってたことがあったとしたらノーカンでお願いします。」

委「教えてくれるのはなぜかな? 私にそう接しないのはどうしてなんだい?」

男「怒らないでくださいね?」

委「顔には出さないよう努力しよう。」

男「自分と同類だと思うようになったからです。」

委「私と君が、かい?」

男「はい。」

委「だったら怒る理由が無い。むしろ嬉しく思うよ。」

135: 2012/04/08(日) 02:40:41.98 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

男「♪・♪~♪・♪~……」

委「…………」

男「♪・♪~♪・♪~……」

委「口笛は恥ずかしいんじゃなかったのかい?」

男「ああ、今は別にいいんです。そういう気分なんで。」

委「それも何かの曲なのかな?」

男「これはBein'Friendsって曲ですね。」

委「じゃあ、聴き入ってもいいのかな?」

男「どーぞ……♪・♪・♪~……」

137: 2012/04/08(日) 02:44:27.76 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

委「やはり、君に訊くのがよさそうだ。教えてくれないか?」

男「成績ならいーんちょのほうが優秀じゃないですか。」

委「授業の内容だったら、私がわからないほど難しいものを君に訊ねることは無いよ。」

男「相手が落ち込むような台詞を平然と言ってのけるッ! そこにシビれる!」

委「憧れる?」

男「そっちのお勉強も順調なようですね。」

委「そうでもないんだ。だから君に教えてもらいたいのさ。」

男「わかりました。教えましょう。」

138: 2012/04/08(日) 02:51:56.68 ID:YOt0mr2K0

委「萌えるとは何だ?」

男「え?」

委「もちろん草木が芽吹くことではない。」

男「可愛い! の、類義語ですかね。」

委「可愛いというのは形容詞だぞ?」

男「じゃあ、可愛いく思う。と、言うべきでしょうか。」

委「どのように使い分けるんだ?」

男「決まりはないと思います。個人の裁量ですね。」

140: 2012/04/08(日) 02:56:26.13 ID:YOt0mr2K0

委「なぜそんな言葉ができたのだろうね?」

男「可愛いを口にするのは恥ずかしい、欲情すると口に出すのは後ろめたい。そんな感じでは?」

委「真意は伏せたいが、評価はしたいということかな?」

男「僕がそう思うだけであって、それが正しいとは言えないですけど。」

委「解釈が違うかもしれないのに、意思疎通に使える柔軟性を持つ言葉か……」

男「それほど真剣に考えることもないかと。」

委「じゃあ、これに関しては深く考える必要はなさそうだ。」

男「これ? それ以外にもあるってことですか?」

委「いくつかある。書き留めてきたからね。」

男「わかりました。わかる範囲でよければ教えます。」

142: 2012/04/08(日) 03:01:07.94 ID:YOt0mr2K0

委「次はやおいというものについて教えてもらいたい。」

男「ちょ! 一体どんな本からその言葉を拾ってきたんですか!?」

委「特に参考図書があるわけじゃない。単語として見掛けただけだよ。」

男「それは主に作品のジャンルを表す言葉です。山無し、意味無し、オチ無し、の頭文字です。」

委「それだけか?」

男「そういった、起承転結の無い物語を表す言葉です。」

委「そんな物語に需要があるのだろうか?」

男「ないです。だから、これも深く考えちゃダメです。」

143: 2012/04/08(日) 03:07:01.42 ID:YOt0mr2K0

――――――――――

男「おはようございます。いーんちょ。」

委「ああ、おはよう。」

男「なんとなくですけど、機嫌がよさそうですね。」

委「実はさっき、君以外のクラスメイトに挨拶を返したんだ。」

男「よかったじゃないですか。」

委「きっと、君のおかげなんだろうな。」

男「もっともっと馴染んでいけるといいですね。」

委「でも、それは難しい事だ。私には絶対に打ち明けられない事があるからね。」

144: 2012/04/08(日) 03:15:02.27 ID:YOt0mr2K0

男「そこに引け目を感じる必要はないですよ。」

委「そうなのかい?」

男「友達同士でも多少の隠し事はあるもんです。」

委「多少どころの話じゃないと思うけれどね。」

男「僕からすれば多少どころの話です。」

委「そうか。ありがとう。」

男「どういたしまして。」

147: 2012/04/08(日) 03:21:37.48 ID:YOt0mr2K0

委「今日は折り入って話があるんだ。」

男「何でも言ってください。」

委「少し自信がついたからね。自力で友達と呼べる相手を作ってみようと思ってね。」

男「それで僕に相談がしたいと?」

委「いや、相談はしない。あくまで自分ひとりで挑んでみるつもりだ。」

男「少し危なっかしい気もしますね。」

委「私もそう思う。でも、失敗から学べることもあると思う。」

男「確かに。」

148: 2012/04/08(日) 03:27:00.69 ID:YOt0mr2K0

委「だから、君との友達関係を一旦解消したい。」

男「え?」

委「こういう事は、手続き的に対応できるものじゃないことはわかっているよ。」

男「でも、相手が僕なら納得してくれるだろう。と?」

委「その通りだ。」

男「しょうがないですね……断ったら、いーんちょが困りますよね。」

150: 2012/04/08(日) 03:33:57.54 ID:YOt0mr2K0

委「人間の友達関係について、君からは色々なことを学ばせてもらった。」

男「これからは実践あるのみってことですね。」

委「それもあるが、君には今後、恋愛関係について教えてほしいんだ。」

男「え!?」

委「かか、勘違いしないでくれ! その、あくまで人間の理解を深めるためだ。」

男「……あれ?」

委「でも! 卵を産む手前くらいまでなら!」


――――――――――――――――――――おわり

155: 2012/04/08(日) 03:51:21.74
面白かった
人外委員長って新しくて良いな

158: 2012/04/08(日) 07:12:56.80
おっ

引用元: 男「委員長、またウロコ落としてましたよ?」