2: 2017/12/08(金) 01:15:46.69 ID:dW68xNSs0
がたごと、がたごと。ケッテンクラートは走る。
じゃりじゃり、じゃりじゃり。ガラスを踏んだ音がする。
かたかた、かたかた。詰んだ荷物の音がする。
びゅーびゅー、びゅーびゅー。建物の間を風が吹き抜ける音がする。
ぐーぐー、ぐーぐー。ユーの眠る音がする。
がたごと、がたごと。塔に向かって。
じゃりじゃり、じゃりじゃり。入り組んだあてのない道を行く。
びゅーびゅー、びゅーびゅー。向かい風は私の服に突き刺さる。
ぐーぐー、ぐーぐー。ユーはいつも通りだ。
がたごと、じゃりじゃり、びゅーびゅー、ぐーぐー。
がたごとじゃりじゃりびゅーびゅーぐーぐー。
1: 2017/12/08(金) 01:14:33.03 ID:dW68xNSs0
3: 2017/12/08(金) 01:16:46.43 ID:dW68xNSs0
無数に連なる廃墟は、私とユーと、この音達を吸い込んでは、無に変える。
音は無音になり、私とユーは、存在を廃墟と同じ、空虚に変える。
それがいつも通り、普段の日常。なんて、言ったらいいんだろう。本風に言い換えるなら。
言い換えなければ、バカみたいに寒い風を、私一人が耐え忍んで、ケッテンクラートを運転する。
その後ろで、私のことなんか気にしないで、バカみたいに眠るユーと、揺れる荷物、履帯が踏み潰すガラスの音と、じゃりの音。
これがいつも通り、普段の日常。
がたごと、じゃりじゃり。びゅーびゅーぐーぐー。
がたごとじゃりじゃり、びゅーびゅー、ぐーぐー。
がた、ごと、じゃり、じゃり、びゅー、びゅー、ぐー、ぐー。
4: 2017/12/08(金) 01:18:01.90 ID:dW68xNSs0
私が読んだ本に書いてあった。昔の人は、音楽を聴いて、リラックスしてたって。
リラックスすると、段々呼吸はゆっくりになって、頭が回らなくなって、しまいには体は風邪をひいたみたいに、熱を帯びるらしい。そして眠くなる。
こうとも書いてあった。
昔の人は、音楽を聴いて、高翌揚していたって。高翌揚すると、段々呼吸は荒くなって、頭の回転が速くなって、しまいには体は風邪をひいたみたいに、熱を帯びるらしい。そして眠くなる。
私はため息をついた。廃墟が吸い込む前の音達を間近で受ける私には、その大昔の人たちの教えをしっかりと感じている。
がたごとじゃりじゃりびゅーびゅーぐーぐー。
もしかしたら、ユーもその教えを身に受けているから、いつも眠っているのか。そう考えると妙に納得できた。でもムカつくのはムカつく。
がたごとじゃりじゃり、びゅー、びゅーぐーぐー。
眠い。眠いけど、寝たら建物にぶつかる。後々のことを考えると、そっちの方がもっと面倒だ。
がたごとじゃり、じゃり、、びゅーびゅーぐーぐー。
5: 2017/12/08(金) 01:19:08.24 ID:dW68xNSs0
寒い。
がたごとじゃりじゃり、、びゅーびゅー、ぐーぐー、、。
眠い。
がたごと、、、じゃりじゃり、、びゅーびゅー、、ぐー、、ぐー、、、、。
がた、、、、ぐー、、、。
、、じゃ、、、びゅー、、。
、、、。
私は、落ちる。眠りの、底へ。深く、深く、誘われていく。
ユーリ「ねぇちーちゃん」
チト「.....うぁ!?」
急に現れたユーの声に私は驚いて、思わずブレーキペダルをおもいっきり踏んだ。
それに驚いたユーも大きな声をあげ、私のブロディヘルメットにぶつかると、鈍い音を響かせる。
ごつんと、新しい音は廃墟が吸い込んで、また無に変えた。
ユーリ「もうちーちゃん!危ないって!」
チト「....ユーだって急に大きな声、出さないでよ」
それでなに。と私は振り返って言うと、ユーは空を見上げて、手を伸ばした。白い吐息と一緒に言葉が紡がれる。
6: 2017/12/08(金) 01:19:52.20 ID:dW68xNSs0
ユーリ「雪、降ってきそーだなーって思って」
私も空を見た。灰色の空模様に、灰色の雲がもくもくと現れ始め、すぐにでも雪が降り始めそうだった。でも今に始まったことじゃない。
チト「いつも降ってるようなもんだから、気にしなくてもいいだろ」
いつも空から落ちてきては、降り積もる雪。年がら年中降っていて、寒くて仕方ない。
ユーリ「危機回避だよちーちゃん。風邪ひいたら氏んじゃうし、早め早めの対策を....」
珍しく真面目な顔をしたユーはそう言った。そして偉そうに腰に手を当て鼻を鳴らした。
チト「....まぁそれもそうだな」
その通りだと思った私は、ユーの意見に珍しく従うことにした。
私はケッテンクラートのスロットルを少しだけ強める。
かといって、そんなに速く走らせるわけじゃない。無駄に燃料を消費させるのと、その場しのぎの暖をとることの釣り合いがとれないからだ。
7: 2017/12/08(金) 01:21:03.67 ID:dW68xNSs0
ユーが鼻歌を始めた。
がたごと、ふーんふふーん、じゃりじゃり、ふーーんふーん、かたかた、ふーん、びゅーびゅー、ふーーんふん、ぐーぐー。
廃墟は無機質な物の音を吸い込んでも、ユーの出す間抜けで、ばらばらなリズムは吸い込めないみたいだ。
鼻歌で空虚は存在を掴み取り、灰色は青色に。そんな色のついた鼻歌は、形になって空に上がっていっては、色んなところに存在をくっつけている様子が想像できたからだ。
右に左に、時に行き止まりを後退したり、階段をゆっくりのぼる。
ここはどう、と聞いては、違うと言われ、あっちはよさそうと言うと、それも違うと言われる。
あっちにこっちに、存在打ち付ける。
灰色にくすんだ外壁は虹色に。
どんよりとした空模様は真っ青に、そして赤と緑の雲が流れて行く。
車輪が踏みつけた跡は黄金色に。
私たちの進む道は、ただの無色。だけど私たちが通った道は色とりどりの色模様が広がる。そんな想像。
ユーリ「ちーちゃん!あそこがよい!」
チト「わかった」
8: 2017/12/08(金) 01:22:01.56 ID:dW68xNSs0
私たちが進む先にある、ぽつんとたたずむプレハブ小屋の小さな建物。
その小屋の前には丸い、剥がれた赤色に挟まれた白の線が施された、看板みたいなのが立っていた。
ユーリは私のヘルメット叩いてそこがいいと言った。
やかましく頭を叩くから、仕方ないけど、見るからに頼りない、壊れてしまいそうなその小屋の隣にケッテンクラートを止め、私は中を覗く。
中を覗く、と言ってもその小屋は入り口を大きく解放していた。
解放していたというか、扉はなく、誰でもすぐに入ることができるようだった。
中には大きな椅子があった。破れていて、同じく赤色だった赤は、くすんでいた。
ユーリ「どうよちーちゃん。風情があるでしょ」
チト「まぁ、もう降りそうだし、ここでいいか」
私は椅子に腰を下ろした。柔らかかったけど、埃が舞って咳き込んだ。
そしてユーも私の隣に座った。いちいち動作が大きくユーだ。もちろんおもいっきり飛んで座ったから、埃が舞い、私はまた咳き込む。
9: 2017/12/08(金) 01:22:53.84 ID:dW68xNSs0
チト「....おい」
ユーリ「ごめんごめん!いやーそれにしてもいいところ見つけたねぇ」
チト「....そうだな」
ぐーぐーと、ユーのもう一つの音がなった。いびきと同じこの音は、腹が減ったという音だ。ユーは私を見つめると。
ユーリ「ちーちゃんお腹すいた」
そう言い立ち上がる。そして歩き出してケッテンクラートのがある方へ向かって行く。
どうせやることなんて、わかってる。でも私もユーと同じでお腹が空いている。
いつもの空腹は、いつもより空腹だ。だから止めない。
戻ってきたユーはレーションの入った袋と、カメラを持ってきて、にこにこしている。
チト「なんでカメラがいるんだよ」
ユーリ「なんとなく?カメラが私を呼んでいたのさ」
自分でも疑問だったくせに、適当に理由をつけて納得したようで、満足そうだ。
そしてゆっくりと私の隣に座ると、レーションの入った袋を開ける。
ぽつり、ぽつり。新しい音。でも聞き覚えのある音だ。
ぽつり、ぽつり。ぐーぐー。
10: 2017/12/08(金) 01:23:35.17 ID:dW68xNSs0
チト「雨だ」
ユーリ「あれぇ雪じゃないの?」
チト「雨だな」
ユーリ「そのうち雪に変わる。私の勘がそう言っている」
はいちーちゃんと言って私にレーションを渡した。
魚のレーション。青空の下、冷たい川辺で洗濯をした時の、あの魚を真似た、レーション。
残念だけど味は魚味じゃなくて、レーション味。
砂糖の甘さだけで素っ気なく、魚を初めて食べた時の、あの味には遠く及ばない。
その魚のレーションの頭の部分を口に咥え、ウィンクをして、カメラを自分に向けていた。
その間抜けなユーに、間抜けさを足した姿を見た私は、思わず聞いてしまう。
チト「何してるんだユー」
ユーは魚を口から外して、わかってないな、とでも言いたげな顔をして、ため息を吐いた。
ユーリ「こうやって食べてる自分を記録に残そうとしてるんだよ」
11: 2017/12/08(金) 01:24:09.38 ID:dW68xNSs0
チト「いやそれはわかるんだけどさ。なんでそんなことする必要があるんだってこと」
ユーリ「....お腹空いた時にさ。あーこれ美味しかったなぁー、とか思ったり、この時の私はご飯食べてたなーって、記録見るたび思い出せば、お腹も膨れると思った。うん!そう思った!」
チト「今適当に考えただろ」
はい、とユーはそう言って私にカメラを押し付けてきた。
カメラ。カナザワの、カメラ。白くて板みたいなのに、使おうとすると中からレンズが飛び出してくる、器械。たくさんの記録が中には残っている。
カメラを渡してきたユーは、さっきと同じ様にレーションを口に咥えて、ウィンクをしている。
準備万端なユーの姿に、結局私が撮るのかと思うと、何だかムカついてしょうがないから、カメラをユーに押し返して。
チト「自分で撮れ」
そう言ってやると。ユーはカメラを起動してまた私に押し付けてきた。
ユーリ「えーだって撮れるわけないもん!ピント合わせるの大変だし、それに自分を自分で撮るなんてバカみたいじゃん!カメラは人を撮るためにあるんだよ!?」
12: 2017/12/08(金) 01:25:25.66 ID:dW68xNSs0
チト「でもユーを撮って後で見返しても、私はお腹は膨れない。だったら撮る意味ないだろ」
押し返す。
ユーリ「じゃあちーちゃんも撮ればいいじゃん!」
押し付ける。
チト「あーもうめんどくさい!撮らないものは撮らない!」
そう大きな声で言いながら、カメラを押し返した。そして私は椅子に足を乗せた。
そして寒さを凌ぐために小さく縮こまる。私はレーションを食べた。
レーション。イシイが食糧生産施設の場所を教えくれたからできた、レーション。砂糖多めで幸せもたくさん詰まった、甘くて、しっとりとした、レーション。
もぐもぐ、もぐもぐ。
もぐもぐ、、、もぐもぐ、、、。
私は急に静かになった隣に、急に不安になった。
さすがに言いすぎたかな、と思いつつ視線だけをユーに向けた。
やっぱり、少し悲しそうな顔をしている。いたたまれない。
チト「....撮らないけど、ピントが合ってるかどうかは教えてやる」
灰色は虹色に。どんよりとした空模様は青色に変わり、青と赤の雲が流れていく。空虚から存在を塗りたくる。
13: 2017/12/08(金) 01:26:13.47 ID:dW68xNSs0
ユーリ「やった!じゃあお願いねちーちゃん!」
カメラの画面を私に向けた。画面には、改めて口にレーションを咥えて、ウィンクをするユーがボケて映っている。
画面越し、それも表情も、何もかもぼやけてて見えないのに、ユーの笑顔が画面からは見えた。
少しずつ、絞りを回す。それに合わせては徐々にピントが合ってきて、被写体の像が明らかになってきた。
チト「ボケてないよ」
こんがり焼けてたのに、今ではしっとりとした魚のレーションを口に咥え、ウィンクをする、今日何度もみた、ユーのウィンクと笑顔がしっかりと映っている。
ユーリ「自分を撮る.....。自分撮り.....。自撮り....」
チト「略すな」
カシャ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
15: 2017/12/08(金) 11:33:19.23 ID:dW68xNSs0
ユーリ「てってんくらーと」
ざーざー。
チト「ケッテンクラート」
ざーざー。ぽた、ぽた。
ユーリ「ケッテンクラート....」
ざーざーぽたぽた。ざーざーぽたぽた。
チト「そう、ケッテンクラート」
ユーリ「てってんくらーと」
チト「一秒もたってないのに忘れるな」
ユーリ「いっつも思うんだけどさ、あれ、ずっと外に出しっぱだよね」
ざーざーぽたぽた、もぐもぐ。
チト「....そういえばそうだな」
ざーざー、ぽたぽた。もぐもぐ、もぐもぐ。
ユーリ「風邪ひいたりしないのかな?」
チト「しない」
雨脚が強くなってきた。ユーが言うには雪に変わるらしいけど、そんな絶対ありえないくらい降り続いている。それで私たちは相変わらず、ちびちびとレーションをかじっては、外を見つめる。
ユーリ「でもケガはするよね」
チト「してない」
ユーリ「壊れてるじゃん。たまに」
チト「....まぁ壊れてるな」
ざーざーぽたぽた、もぐもぐもぐもぐ。
ざーざー。
チト「ケッテンクラート」
ざーざー。ぽた、ぽた。
ユーリ「ケッテンクラート....」
ざーざーぽたぽた。ざーざーぽたぽた。
チト「そう、ケッテンクラート」
ユーリ「てってんくらーと」
チト「一秒もたってないのに忘れるな」
ユーリ「いっつも思うんだけどさ、あれ、ずっと外に出しっぱだよね」
ざーざーぽたぽた、もぐもぐ。
チト「....そういえばそうだな」
ざーざー、ぽたぽた。もぐもぐ、もぐもぐ。
ユーリ「風邪ひいたりしないのかな?」
チト「しない」
雨脚が強くなってきた。ユーが言うには雪に変わるらしいけど、そんな絶対ありえないくらい降り続いている。それで私たちは相変わらず、ちびちびとレーションをかじっては、外を見つめる。
ユーリ「でもケガはするよね」
チト「してない」
ユーリ「壊れてるじゃん。たまに」
チト「....まぁ壊れてるな」
ざーざーぽたぽた、もぐもぐもぐもぐ。
16: 2017/12/08(金) 11:34:08.86 ID:dW68xNSs0
ユーリ「ケッテンクラート、ここに運ぼうよ」
覚えてたのか。そう思ったけど、細かいことをいちいち気にしてたら、ユーの全てが気になってしまう。そこは流しておいて、私は最後の一口を口に放り込む。
チト「ここ、狭くて運べない」
二人とこの椅子だけでもう窮屈なここに、ケッテンクラートは運べない。
さすがに鈍感なユーも、それには気がついたみたいで、残念そうな顔をして、レーションをかじり続ける。
まぁでもユーの言うことは、よくわかる。いつも外に出しっぱなしだ。
私達もいつも外で寝てるようなもんだけど、ケッテンクラートと違って、雨ざらし、雪ざらしってわけじゃない。
かわいそうだな。素直にそう思った。
膝の上に置いていたカメラを椅子に置くと、ユーは不意に立ち上がった。
チト「....今度はなんだ」
ユーリ「ここに運べないなら、せめて....レーションだけでも食べさせてあげよう!」
雨に濡れてまで、ケッテンクラートにレーションを食べさせることを決意したのか、小さくガッツポーズをしたユーは、同意を求めるように、私を見た。
覚えてたのか。そう思ったけど、細かいことをいちいち気にしてたら、ユーの全てが気になってしまう。そこは流しておいて、私は最後の一口を口に放り込む。
チト「ここ、狭くて運べない」
二人とこの椅子だけでもう窮屈なここに、ケッテンクラートは運べない。
さすがに鈍感なユーも、それには気がついたみたいで、残念そうな顔をして、レーションをかじり続ける。
まぁでもユーの言うことは、よくわかる。いつも外に出しっぱなしだ。
私達もいつも外で寝てるようなもんだけど、ケッテンクラートと違って、雨ざらし、雪ざらしってわけじゃない。
かわいそうだな。素直にそう思った。
膝の上に置いていたカメラを椅子に置くと、ユーは不意に立ち上がった。
チト「....今度はなんだ」
ユーリ「ここに運べないなら、せめて....レーションだけでも食べさせてあげよう!」
雨に濡れてまで、ケッテンクラートにレーションを食べさせることを決意したのか、小さくガッツポーズをしたユーは、同意を求めるように、私を見た。
17: 2017/12/08(金) 11:34:51.69 ID:dW68xNSs0
チト「どうやって」
ユーリ「ほら、燃料入れるところから」
チト「壊れるからやめろ」
ユーリ「ちーちゃんは血も涙もないの!?」
チト「いやケッテンクラートを殺そうとしてる方が血も涙もないぞ」
ユーリ「じゃあ私がケッテンクラートを同じものを食べる!」
どうしてそうなった。そう思った頃にはもう遅く、ユーは雨の中に向かって走っていった。
私も急いで立ち上がりユーの後を追いかける。
チト「おいレーションもったいないからやめろ!」
ユーリ「えーなんでー?もしかしたら、魚級に美味しくなるかもしれないんだよ?」
すぐにずぶ濡れになったユーは、燃料の入ったタンクを抱えて、こっちに戻ってきていた。
雨の中では食べないらしい。私は雨を遮るように手をかざして、そんな賢いユーにこう言った。
18: 2017/12/08(金) 11:36:52.65 ID:dW68xNSs0
チト「お前ガソリンの味しらないだろ」
ユーリ「ちーちゃんは知ってるの?」
チト「修理中に何度か口に入ったからな」
ユーリ「レーションにつけて食べたことはないでしょ?」
チト「....結果は見えてるけど、まぁ勝手にしろ。あと残すなよ。もったいないから」
ユーリ「あい」
廃墟に戻ってすぐ、私はずぶ濡れになったコートを脱いだ。ユーはコートを脱ぐことよりも、燃料缶の蓋を開けようとしていた。
きゅぽん。
チト「ほんとのやるのか?」
ユーリ「もち。同じ釜の飯を食うってね~」
ふーん、ふふーん。ぽちゃ。
ユーはレーションを燃料の中に、躊躇いもなく突っ込んだ。そして数を数え始めた。そして五秒だった時、ユーはレーションを引っこ抜いて、珍しそうに上に持ち上げた。
ユーリ「なんかきらきらしてるー」
ぽたぽた。
チト「早く食え。垂れてる燃料が勿体無い」
ユーリ「いただきます!」
もぐもぐ。もぐもぐ。
チト「うまいか?」
もぐもぐ、もぐもぐ。ごくり。
ユーリ「うんまずい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
19: 2017/12/08(金) 11:38:00.33 ID:dW68xNSs0
ケッテンクラート。私たちが塔を目指す時に渡された乗り物。ずっと一緒だ。でも遅い。
ユーは私にこう言った。なんの前触れもなく。振り続ける雨を見ながら。
物って氏ぬの?
ざーざー。ぽたぽた、ぽたぽた。
チト「そりゃ氏ぬだろ」
私たちだってそのうち氏ぬ。どうやって氏ぬのか知らないけど、氏ぬ。
餓氏、溺氏、焼氏、落下氏、圧氏。ありとあらゆる氏に方が、私達には用意されている。
このどれかに当てはまらなくて、勝手に氏ぬこともあるけど。今の私達に一番身近な氏は、数えきれない。
ユーリ「じゃああの喋る器械も、そのうち?」
チト「うん。でも私達よりかは、長生きするだろうね」
私達よりは長生きする。物の氏に方は、私達の氏に方よりも、少ないし、何より物は頑丈だから。そのことをユーに教える。
20: 2017/12/08(金) 11:39:03.73 ID:dW68xNSs0
ユーリ「じゃあケッテンクラートも?」
チト「ケッテンクラートも」
ユーリ「このレーションも?」
チト「レーションも」
ユーリ「この銃も?」
チト「銃も」
ユーリ「カナザワも?イシイも?」
チト「そうだな。みんなみんな」
みんなみんな。そのうち氏ぬ。
ざー、ざー、、、。ぽたぽた、、、ぽた、ぽた。
ユーリ「じゃあ私達も?」
ざー、、、、、、ざー、、、、ざー、、、。
チト「....どうした急にしおらしくなって」
ユーリ「私たちってさ、物に生かされてるなって思って」
チト「物に生かされてる?」
ユーリ「そう、物に」
チト「ケッテンクラートも」
ユーリ「このレーションも?」
チト「レーションも」
ユーリ「この銃も?」
チト「銃も」
ユーリ「カナザワも?イシイも?」
チト「そうだな。みんなみんな」
みんなみんな。そのうち氏ぬ。
ざー、ざー、、、。ぽたぽた、、、ぽた、ぽた。
ユーリ「じゃあ私達も?」
ざー、、、、、、ざー、、、、ざー、、、。
チト「....どうした急にしおらしくなって」
ユーリ「私たちってさ、物に生かされてるなって思って」
チト「物に生かされてる?」
ユーリ「そう、物に」
21: 2017/12/08(金) 11:40:06.54 ID:dW68xNSs0
ユーリは起動したままのカメラをいじる。絞りのピントを意味もなく、合わせては、ぼかしたり。
ユーリ「私達の代わりにケッテンクラートは歩いて、私達の代わりに、レーションが犠牲になって私達を生かしてる。それに、私達の代わりにこの服が寒さを受けてる。頭だって、このヘルメットが代わりに守ってくれてる」
代わりに、代わりに。ユーリは私達の持ってる全ての物の名前を言う。
ユーリ「ちーちゃんはさ。物はそのうち氏ぬって言ったよね。じゃあ、物が氏んで、私達二人だけになっちゃったらさ。私たちって」
生きていけるのかな。
チト「........」
、、、、、、、、、、、、、。
チト「わからん」
ユーリ「そだね。わかんないね」
22: 2017/12/08(金) 11:41:10.17 ID:dW68xNSs0
魚のレーション。青空の下、冷たい川辺で洗濯をした時の、あの魚を真似た、レーション。
カメラ。カナザワの、カメラ。白くて板みたいなのに、使おうとすると中からレンズが飛び出してくる、器械。たくさんの記録が中には残っている。
レーション。イシイが食糧生産施設の場所を教えくれたからできた、レーション。砂糖多めで幸せもたくさん詰まった、甘くて、しっとりとした、レーション。
ケッテンクラート。私たちが塔を目指す時に渡された乗り物。ずっと一緒だ。でも遅い。
私達は、物に生かされていた。でも私はこう思っていた。
私は、自分と、ユーの二人だけで生きていると。
困難も苦難も、辛い時も怖い時も、私はユーと二人で生きていたと。
23: 2017/12/08(金) 11:42:55.57 ID:dW68xNSs0
いいや違う、物の元を辿れ。私たちがあてのない旅に出たのは、誰のおかげだ。ケッテンクラートを渡したおじいさんのおかげだ。
ふざけてカメラで遊んで、暇つぶしをできているのは、誰のおかげだ。カナザワのおかげだ。
こうしてレーションを食べて、生きていられるのは、誰のおかげだ。イシイのおかげだ。
そもそも、この旅の終着点はよくわからんけど、塔に向かう目標だって、私が決めたわけじゃない。
私達は、何も選択していない。色んな人に用意してもらった物と目的を使って旅をしている。
私達は、生きていない。本当だったら、もう氏んでいるんだ。
チト「.....私たちってさ、よく生きてるよね」
ユーリ「そだね。運がいいのか悪いのか。まぁどっちでもいいや。それにちーちゃん言ったよね。物は私達よりも早く氏なないって」
チト「そう言ったな....」
ふざけてカメラで遊んで、暇つぶしをできているのは、誰のおかげだ。カナザワのおかげだ。
こうしてレーションを食べて、生きていられるのは、誰のおかげだ。イシイのおかげだ。
そもそも、この旅の終着点はよくわからんけど、塔に向かう目標だって、私が決めたわけじゃない。
私達は、何も選択していない。色んな人に用意してもらった物と目的を使って旅をしている。
私達は、生きていない。本当だったら、もう氏んでいるんだ。
チト「.....私たちってさ、よく生きてるよね」
ユーリ「そだね。運がいいのか悪いのか。まぁどっちでもいいや。それにちーちゃん言ったよね。物は私達よりも早く氏なないって」
チト「そう言ったな....」
24: 2017/12/08(金) 11:45:53.71 ID:dW68xNSs0
ユーは椅子に大きく腕を広げ、たくさん白い息を吐いた。
ユーリ「私達より後に氏んじゃうなら、別に問題ないよね」
なんてユーらしい答えなんだ。そうだな。物はそうは簡単に氏なない。私達より、後の氏ぬ。
だから、ケッテンクラートが壊れて、私たちが歩くこともない。
カメラが壊れて、記録も記憶もなくなることはない。
レーションが底を尽きて、空腹に喘ぐこともない。
それは、私達よりも後に起こることだから。もしも前後が逆になることは、ない。そう思いたい。
そうなってしまったら。無防備で、生かされていた私達は、どうなるんだろう。その不安をユーに話した。するとユーは、いつもの調子でこう言うんだ。
ユーリ「その時は、また誰か助けてくれるでしょ」
チト「....誰も助けてくれなかったら?」
ユーリ「その時は!」
ユーは立ち上がって私の手を引いた。急にそんなことをされたら、私はバランスを崩して倒れそうになった。でも倒れない。
ぽたぽた。ぽたぽた。
ユーの笑顔。いつも通り。バカみたいに明るいその顔。
ユーリ「ちーちゃんが好きなあれだよあれ。片方が支えるあれ。ちーちゃんが倒れそうになったら、私が支える」
今度はユーはバランスを崩して私を引っ張る。ユーは私より全部がでかい。支えきれずにユーの上に倒れこむ。
ユーリ「私が倒れそうになったらちーちゃんが支える。どう!?かんぺきでしょ!」
チト「倒れてるんだけど」
ユーリ「まぁなんとかなるでしょ」
チト「またそれ....」
でもまぁ、あんまり考えることじゃない。それは遠い先の話だ。私はユーの柔らかい胸に顔を埋める。暖かい。
チト「でもまぁ、ユーの言う通りだな。倒れそうになったらどっちかが支える。そうすれば、私たち二人が終わるまで、終わらないよな」
ユーリ「そう!そんな感じ!」
たぶん終わる時は、ユーと一緒だろう。私は一人じゃ生きられない。ユーも同じだ。一人じゃ生きられない。
この世界を旅すると決めた時。この世界に生まれついた時から、私とユーは、一つの存在なんだから。
とくん、とくん、とくん、とくん。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
25: 2017/12/08(金) 11:46:33.12 ID:dW68xNSs0
おしまいです。
26: 2017/12/08(金) 12:32:30.92
乙
引用元: 【少女終末旅行】つながり
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