1: 2020/09/30(水) 20:50:23.380 ID:dpd4TO2r0
男「へぇ~、いい家ですね」
社員「お値段は……これぐらいで」
男「え、こんな格安で買えるんですか!?」
社員「はい……」
男(いくらなんでも安すぎる……なにか秘密がありそうだな)
社員「ただし、この家は……事故物件です」
男「事故物件……!(やっぱり……!)」
男「つまり、それって……出るってことですよね?」
社員「ええ、出ます」
社員「お値段は……これぐらいで」
男「え、こんな格安で買えるんですか!?」
社員「はい……」
男(いくらなんでも安すぎる……なにか秘密がありそうだな)
社員「ただし、この家は……事故物件です」
男「事故物件……!(やっぱり……!)」
男「つまり、それって……出るってことですよね?」
社員「ええ、出ます」
4: 2020/09/30(水) 20:53:30.299 ID:dpd4TO2r0
男(うーん、たしかに幽霊が出るのは怖いけど……)
男(こんな格安で家を買うチャンスなんて多分二度とないぞ……ローン組む必要もない)
男「中に入ってもよろしいですか?」
社員「もちろんどうぞ」
男「お邪魔します」
ドッドッドッ…
男「ん?」
男(こんな格安で家を買うチャンスなんて多分二度とないぞ……ローン組む必要もない)
男「中に入ってもよろしいですか?」
社員「もちろんどうぞ」
男「お邪魔します」
ドッドッドッ…
男「ん?」
6: 2020/09/30(水) 20:56:16.592 ID:dpd4TO2r0
ドッドッドッドッドッ…
男「なんだこれ……エンジン音?」
社員「はい、エンジン音です」
男「バイクでも置いてあるんですか?」
社員「いえ、久々の来訪者を受け……家が走りたがっているのです」
男「は?」
社員「こちらへどうぞ」
男「なんだこれ……エンジン音?」
社員「はい、エンジン音です」
男「バイクでも置いてあるんですか?」
社員「いえ、久々の来訪者を受け……家が走りたがっているのです」
男「は?」
社員「こちらへどうぞ」
8: 2020/09/30(水) 20:59:46.408 ID:dpd4TO2r0
社員「操縦席です」
男「操縦席!?」
社員「このキーを、その穴に差し込むと起動できます」
男「はぁ……」
ギュルルルッ
ドドドドド…
男「うおお、本格的に動き出した!」
社員「アクセルを踏むと発車します。いや、発家かな」
男「アクセル……? こう?」
男「操縦席!?」
社員「このキーを、その穴に差し込むと起動できます」
男「はぁ……」
ギュルルルッ
ドドドドド…
男「うおお、本格的に動き出した!」
社員「アクセルを踏むと発車します。いや、発家かな」
男「アクセル……? こう?」
10: 2020/09/30(水) 21:02:33.783 ID:dpd4TO2r0
ギュウウウウウンッ!
男「おわっ!?」
男「は、速――」
社員「ハンドル切って! ぶつかりますよ!」
男「制御できな――」
ドガシャァン!!!
シュゥゥゥゥゥ…
社員「また事故ったか……」
男(出るって……スピードのことだったのか……)
男「おわっ!?」
男「は、速――」
社員「ハンドル切って! ぶつかりますよ!」
男「制御できな――」
ドガシャァン!!!
シュゥゥゥゥゥ…
社員「また事故ったか……」
男(出るって……スピードのことだったのか……)
12: 2020/09/30(水) 21:05:31.056 ID:dpd4TO2r0
社員「ううむ……またしても売れなかった」
社員(あの家を乗りこなすのは、やはり相当なテクの持ち主じゃないと無理だ……)
社員(だけど、そんな人いるわけが――)
ブオオオオオオンッ!
社員「!」
社員(今走っていったバイク……なかなかの腕前だった)
社員(ちょうどあそこにある駐車場に入った……追いかけてみよう!)
社員(あの家を乗りこなすのは、やはり相当なテクの持ち主じゃないと無理だ……)
社員(だけど、そんな人いるわけが――)
ブオオオオオオンッ!
社員「!」
社員(今走っていったバイク……なかなかの腕前だった)
社員(ちょうどあそこにある駐車場に入った……追いかけてみよう!)
13: 2020/09/30(水) 21:08:11.017 ID:dpd4TO2r0
青年「ひとっ走りすると気持ちいいなー」
社員「すいませーん!」
青年「ん?」
社員「さっきの走り見てました。すごいバイクさばきでしたね」
青年「そりゃどうも」
社員「そんなあなたを見込んで、頼みがあるんですが――」
青年「頼み?」
社員「すいませーん!」
青年「ん?」
社員「さっきの走り見てました。すごいバイクさばきでしたね」
青年「そりゃどうも」
社員「そんなあなたを見込んで、頼みがあるんですが――」
青年「頼み?」
15: 2020/09/30(水) 21:11:40.771 ID:dpd4TO2r0
青年「うーん、話を聞いた限り、俺じゃ乗りこなせそうにないな。家なんて運転したことないし」
社員「ダメですか……」
青年「だけど……あの人なら乗りこなせるかもしれない」
社員「あの人とは?」
青年「俺の先輩にあたる、“伝説の走り屋”さ」
社員「走り屋……! ぜひ連絡先を教えて下さい!」
青年「住んでる場所なら……」
社員「ダメですか……」
青年「だけど……あの人なら乗りこなせるかもしれない」
社員「あの人とは?」
青年「俺の先輩にあたる、“伝説の走り屋”さ」
社員「走り屋……! ぜひ連絡先を教えて下さい!」
青年「住んでる場所なら……」
16: 2020/09/30(水) 21:14:43.040 ID:dpd4TO2r0
社員「ここだ」
社員「すいませーん!」
社員「すいませーん!」
ガラッ…
走り屋「うるさいな……。なんだい、セールスならお断り……」
社員「あなたが……伝説の走り屋さんですか」
走り屋「フッ、懐かしい呼び名だな……」
社員「すいませーん!」
社員「すいませーん!」
ガラッ…
走り屋「うるさいな……。なんだい、セールスならお断り……」
社員「あなたが……伝説の走り屋さんですか」
走り屋「フッ、懐かしい呼び名だな……」
18: 2020/09/30(水) 21:18:02.163 ID:dpd4TO2r0
走り屋「……俺はもう走りはやめたのさ」
社員「なぜです?」
走り屋「無茶をして、単車(あいぼう)がイカれちまってね……。それ以来、走りへの情熱を失っちまった」
社員「ですが、新しいバイクを買えば……」
走り屋「あいつ以外と走る気はねえ……」
走り屋「どんなすごいバイクや車見ても、カムバックしようって意欲が湧かなかった」
社員「……でしたら、家はどうです?」
走り屋「家?」
社員「なぜです?」
走り屋「無茶をして、単車(あいぼう)がイカれちまってね……。それ以来、走りへの情熱を失っちまった」
社員「ですが、新しいバイクを買えば……」
走り屋「あいつ以外と走る気はねえ……」
走り屋「どんなすごいバイクや車見ても、カムバックしようって意欲が湧かなかった」
社員「……でしたら、家はどうです?」
走り屋「家?」
20: 2020/09/30(水) 21:21:44.348 ID:dpd4TO2r0
社員「この家です」
社員「今までに何度も事故を起こしており、“事故物件”として扱われています」
走り屋「……!」
走り屋「なんだこれ……。すげえ……すげえマシンだ!」
社員(さすがだ……一目で走る家だと見抜いたようだ!)
社員「乗ってみませんか」
走り屋「……」
走り屋(すまねえ……相棒。俺はどうしてもこいつに乗ってみてえんだ!)
走り屋「乗らせてくれ!」
社員「今までに何度も事故を起こしており、“事故物件”として扱われています」
走り屋「……!」
走り屋「なんだこれ……。すげえ……すげえマシンだ!」
社員(さすがだ……一目で走る家だと見抜いたようだ!)
社員「乗ってみませんか」
走り屋「……」
走り屋(すまねえ……相棒。俺はどうしてもこいつに乗ってみてえんだ!)
走り屋「乗らせてくれ!」
21: 2020/09/30(水) 21:24:36.759 ID:dpd4TO2r0
社員「こちらが操縦席です」
走り屋「おお……!」キョロキョロ
社員「マニュアルは――」
走り屋「いや、大丈夫だ」
社員「え?」
走り屋「分かるんだよ……マニュアルなんか読まなくても。動かし方が。走り屋の本能ってヤツでな」
社員「そういうものですか……!」
走り屋「おお……!」キョロキョロ
社員「マニュアルは――」
走り屋「いや、大丈夫だ」
社員「え?」
走り屋「分かるんだよ……マニュアルなんか読まなくても。動かし方が。走り屋の本能ってヤツでな」
社員「そういうものですか……!」
22: 2020/09/30(水) 21:27:11.076 ID:dpd4TO2r0
走り屋「んじゃ……行くぜ」
ドッドッドッドッドッ…
ブオオオオオオオ…
社員「おおっ! あっさりと制御した!」
走り屋(すげえ……ハンドル、アクセル、ブレーキ……全てが手足に吸いつくようだ)
走り屋「んじゃ、発家するぜェ!」
社員「どうぞ」
ギュンッ!!!
ドッドッドッドッドッ…
ブオオオオオオオ…
社員「おおっ! あっさりと制御した!」
走り屋(すげえ……ハンドル、アクセル、ブレーキ……全てが手足に吸いつくようだ)
走り屋「んじゃ、発家するぜェ!」
社員「どうぞ」
ギュンッ!!!
24: 2020/09/30(水) 21:30:28.832 ID:dpd4TO2r0
ギュウウウウウウンッ!
走り屋「いい速度だ……家ごと風になったようだぜ」
社員「流石です」
走り屋「もっと飛ばしていいか!?」
社員「もちろんです!」
ギュウウウウウウウウウウウンッ!
走り屋「Fooooooo! あの頃の……クールでホットな気持ちがよみがえるぜ!」
走り屋「いい速度だ……家ごと風になったようだぜ」
社員「流石です」
走り屋「もっと飛ばしていいか!?」
社員「もちろんです!」
ギュウウウウウウウウウウウンッ!
走り屋「Fooooooo! あの頃の……クールでホットな気持ちがよみがえるぜ!」
25: 2020/09/30(水) 21:33:33.897 ID:dpd4TO2r0
ギャルルッ!
ギャルルルルッ!
走り屋「ほらほらほらぁ! ヒャホーッ!」
社員(なんという絶妙なハンドルさばき! 障害物を危なげなく紙一重で避けている!)
走り屋「愛車を失った時に俺は誓った……」
走り屋「もう二度と事故らねえってなァ!」
ギュゥゥゥゥゥゥンッ!!!
ギャルルルルッ!
走り屋「ほらほらほらぁ! ヒャホーッ!」
社員(なんという絶妙なハンドルさばき! 障害物を危なげなく紙一重で避けている!)
走り屋「愛車を失った時に俺は誓った……」
走り屋「もう二度と事故らねえってなァ!」
ギュゥゥゥゥゥゥンッ!!!
26: 2020/09/30(水) 21:36:37.671 ID:dpd4TO2r0
社員「いやはや……驚きですよ。いきなりここまで乗りこなすなんて」
走り屋「俺こそ驚きだよ。こんな家があるなんてな」
社員「光栄です」
走り屋「この家を作った奴は……いったい何者なんだ?」
社員「彼は元々……空に憧れる青年でした。いえ、空というよりは宇宙、でしょうか」
走り屋「ほう」
社員「毎晩、星を眺めては……空飛ぶ円盤のようなマシンを作りたいと夢を抱いていたんです」
走り屋「空飛ぶ円盤……未確認飛行物体ってヤツか」
走り屋「俺こそ驚きだよ。こんな家があるなんてな」
社員「光栄です」
走り屋「この家を作った奴は……いったい何者なんだ?」
社員「彼は元々……空に憧れる青年でした。いえ、空というよりは宇宙、でしょうか」
走り屋「ほう」
社員「毎晩、星を眺めては……空飛ぶ円盤のようなマシンを作りたいと夢を抱いていたんです」
走り屋「空飛ぶ円盤……未確認飛行物体ってヤツか」
27: 2020/09/30(水) 21:40:07.419 ID:dpd4TO2r0
社員「しかし、彼は親の意向で建築の方面に進むことになり、空や宇宙への夢は諦めました」
社員「ですが、心の奥底では夢を燃やし続けていました」
社員「やがて彼は……飛べぬのなら、せめて地上を、と“走る家”の建築を始めたのです」
走り屋「空飛びたかっただけあって、なかなかブッ飛んだ野郎だねえ。嫌いじゃないぜ」
走り屋「……で、今そいつはどうしてるんだ?」
社員「亡くなりました……。この家を作り……力尽きてしまったのです」
走り屋「そうかい……」
社員「ですが、心の奥底では夢を燃やし続けていました」
社員「やがて彼は……飛べぬのなら、せめて地上を、と“走る家”の建築を始めたのです」
走り屋「空飛びたかっただけあって、なかなかブッ飛んだ野郎だねえ。嫌いじゃないぜ」
走り屋「……で、今そいつはどうしてるんだ?」
社員「亡くなりました……。この家を作り……力尽きてしまったのです」
走り屋「そうかい……」
28: 2020/09/30(水) 21:43:13.438 ID:dpd4TO2r0
走り屋「なら飛んでみるか」
社員「え?」
走り屋「その建築家も、どうせならこの家で飛んで欲しいって思ってるだろ」
社員「無茶です! 飛べるようには出来て――」
走り屋「いや……飛べるさ。俺の手にかかればな」
走り屋「……」クイックイッ ガクンッガクンッ
社員(私ですら知らない操縦法……!? 早くも編み出していたのか!)
走り屋「行くぜェ!!!」
社員「え?」
走り屋「その建築家も、どうせならこの家で飛んで欲しいって思ってるだろ」
社員「無茶です! 飛べるようには出来て――」
走り屋「いや……飛べるさ。俺の手にかかればな」
走り屋「……」クイックイッ ガクンッガクンッ
社員(私ですら知らない操縦法……!? 早くも編み出していたのか!)
走り屋「行くぜェ!!!」
30: 2020/09/30(水) 21:46:11.385 ID:dpd4TO2r0
ギュオッ!!!
フワッ…
社員「!?」
走り屋「どうだい……飛べただろ」
社員「す、すごい……!」
走り屋「マシンの性能以上のもんを引き出す……それが真の走り屋ってもんさ」
社員「飛んでる……! 飛んでるぅ……!」ウルッ
ギュオオオオオオッ!
走り屋「そろそろ着陸させるか」
ギュオオオオオッ! ドスンッ…
フワッ…
社員「!?」
走り屋「どうだい……飛べただろ」
社員「す、すごい……!」
走り屋「マシンの性能以上のもんを引き出す……それが真の走り屋ってもんさ」
社員「飛んでる……! 飛んでるぅ……!」ウルッ
ギュオオオオオオッ!
走り屋「そろそろ着陸させるか」
ギュオオオオオッ! ドスンッ…
33: 2020/09/30(水) 21:49:15.655 ID:dpd4TO2r0
社員「ありがとうございました……」
走り屋「この家、気に入ったよ。買わせてもらうぜ。いくらだ?」
社員「いえ……お代は結構です」
走り屋「は? なにいってんだ。それじゃあんた、大損じゃねえか」
社員「大損? いえいえ、私は十分儲けさせてもらいました。これ以上ないほどに」
社員「だって……夢が叶ったんですから」
走り屋「……え?」
走り屋「この家、気に入ったよ。買わせてもらうぜ。いくらだ?」
社員「いえ……お代は結構です」
走り屋「は? なにいってんだ。それじゃあんた、大損じゃねえか」
社員「大損? いえいえ、私は十分儲けさせてもらいました。これ以上ないほどに」
社員「だって……夢が叶ったんですから」
走り屋「……え?」
35: 2020/09/30(水) 21:52:25.737 ID:dpd4TO2r0
社員「ありがとう……」
社員「おかげでやっと成仏できます……」
走り屋「あんた、まさか……!」
社員(さようなら……)
社員(どうか、この家を大切に……事故のないよう……)
シュゥゥゥゥ…
走り屋「……」
走り屋「飛んでいっちまったか……。まるで空飛ぶ円盤のように……」
社員「おかげでやっと成仏できます……」
走り屋「あんた、まさか……!」
社員(さようなら……)
社員(どうか、この家を大切に……事故のないよう……)
シュゥゥゥゥ…
走り屋「……」
走り屋「飛んでいっちまったか……。まるで空飛ぶ円盤のように……」
36: 2020/09/30(水) 21:55:22.476 ID:dpd4TO2r0
……
……
ブロロロロロ…
青年「いやー、走り屋さんが復帰したと聞いた時は嬉しかったですよ!」
走り屋「新しい相棒が見つかったからな」
青年「それにしてもいい家ですね。自在に走らせることができるなんて!」
走り屋「ああ……いい家をもらえたよ」
……
ブロロロロロ…
青年「いやー、走り屋さんが復帰したと聞いた時は嬉しかったですよ!」
走り屋「新しい相棒が見つかったからな」
青年「それにしてもいい家ですね。自在に走らせることができるなんて!」
走り屋「ああ……いい家をもらえたよ」
37: 2020/09/30(水) 21:58:07.198 ID:dpd4TO2r0
青年「この家は事故物件扱いされてたらしいですけど、とんでもない! 優良物件じゃないですか!」
走り屋「優良物件とはちょっと違うな」
青年「え?」
走り屋「この家は……UFO物件さ」
―おわり―
走り屋「優良物件とはちょっと違うな」
青年「え?」
走り屋「この家は……UFO物件さ」
―おわり―
38: 2020/09/30(水) 22:01:25.680
いい落ちだな
面白かった乙
面白かった乙
39: 2020/09/30(水) 22:03:31.562
乙
良い話だった
良い話だった
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります