―刑務所―

男「ここが……刑務所」

看守「よろしく、新入り君」ﾆﾔ…

男「よろしくお願いします」

看守「ふん、犯罪者めが」ｷﾞﾛｯ

男「！」

看守「貴様の部屋はここだ」

看守「入れ！」ﾄﾞﾝｯ

男「ぐっ！」ﾄﾞｻｯ

１日目――

ボス「クックック……」

男「あなたは？」

ボス「この刑務所の囚人のボスだ」

眼帯「俺はナンバー2だ」

囚人A「よろしくっす！」

囚人B「オレ、オマエ、カンゲイ」

ボス「今日のところはもう寝な」

ボス「明日はこの刑務所でのルールをきっちり教えてやるぜ！」

男「……はい」

２日目――

ボス「この刑務所ではまず6:30に起床、7:00に朝食だ」

男「はい」

ボス「8:00から午前中の作業開始、12:00になったら昼飯」

男「ふむふむ」

ボス「13:00から午後の作業開始、16:00になったら終了」

ボス「その後、風呂、夕食などを済ませたら、21:00に就寝だ」

ボス「分かったか？」

男「はい、よく分かりました！」

ボス「なかなかの記憶力だ。じゃあ頑張れよ！」

３日目――

看守「では、カップ麺に入ってるかやくの袋とかに切れ目を入れる作業開始！」

男「……」ﾓﾀﾓﾀ

囚人A「遅いっすねー」

囚人B「オマエ、カタツムリ」

男「す、すみません」

囚人A「ここはこうやると、もっと早くできるっすよ！」ｻｯｻｯｻｯ

囚人B「ソウソウ」

男「ありがとうございます！」

４日目――

男「お背中流します」

ボス「ありがとよ」

ザバァッ！

男「ボスの背中……大きいですね」

ボス「まぁな」

ボス「なにしろ、この刑務所の囚人は俺が背負ってるようなもんだからよ！」

ボス「ガーッハッハッハッハ！」

眼帯「ふん……」

５日目――

看守「面会希望者が来てるぞ」

男「はい」



男「お袋！？」

母「元気かい？」

男「うん……最初は刑務所に入るのが嫌で取り乱したりしたけど、どうにかやってるよ」

母「お父さんにも来るようにいったんだけどね」

母「俺が会いに行くとあいつの負担になるから……なんていって」

男「ハハ、親父らしいや」

男「俺はこのとおり元気だから。心配しないで」

母「うん……お父さんにもそう伝えとくわ」

６日目――

男「……」ｽｯｽｯ

囚人A「作業にもだいぶ慣れてきたっすね～」

男「これも先輩たちの指導のおかげですよ！」

囚人A「先輩なんて照れるっすね～」

囚人B「オレ、センパイ！　オマエノセイチョウ、ウレシイ！」

男「ありがとうございます！」

７日目――

看守「今日は運動していい日だ！　しっかり運動しろ！」



眼帯「よし、ポートボールをやろう」

ボス「いや……ドッジボールだ！」

ボス「俺のチームと眼帯チームに分かれて、ボールをぶつけ合おうぜ！」

囚人A「ヒャッホー！　楽しみっす！」

囚人B「オレ、モトガイヤ、ヤル」

男「俺、ドッジ弾平大好きだったんですよ」

眼帯「……」

８日目――

囚人A「将棋でも指さないっすか？」

男「いいですね！　俺、強いですよ！」


男「王手！」ﾊﾟﾁｯ

囚人A「あちゃ～、強いっすね！」


囚人B「オウテ、ヒシャトリ」ﾊﾟﾁｯ

男「つ、強すぎる……！」

９日目――

看守「……」


男（看守さんが一人で写真を見てる……女性と女の子が写ってるけど家族の写真かな？）

男（いつも厳しい人だけど、こうして見てるとやっぱり普通の人だよなぁ）


看守「コラッ、何してる！？　貴様、作業はどうした！　サボタージュは許さんぞ！」


男「す、すみません！」

サボタージュｗｗ

１０日目――

看守「面会希望者が来てるぞ」

男「はい」



男「職場のみんな！？」

上司「このたびはとんだことになったな」

男「すみません、職場にもご迷惑を……」

上司「いや、ウチの会社はみんなお前の味方だ」

上司「社長も、お前が出所したら、前以上の条件で再び雇うといってくれている」

男「ホントですか……！」

同僚「へへっ、職場復帰後のお前のあだ名は前科者だな！」

男「このヤロウ！」

同僚「じゃな、頑張れよ！」

男「そっちこそな！」

何して捕まったんだ

１１日目――

男「……」ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

囚人A「だいぶ作業が早くなったっすねー」

囚人B「オレ、モウ、カナワナイ」

男「元々手先は器用ですから！」


看守「コラ、しゃべってないで手を動かさんか！」


囚人A「へへっ、すみませんっす！」

１２日目――

男「ところで皆さんって、刑期どのぐらいなんです？」

囚人A「オイラは90日っす」

男「すごい！　俺の三倍だ！」

囚人B「オレ、95日」

囚人A「くそっ……もうちょい悪いことしてれば……」

眼帯「俺は5年だ」

男「5年！？　格が違う！」

ボス「ふん、俺は10年だぜ」

男「じゅ、10年！？　義務教育より長い！」

囚人A「すっげーっ！」

囚人B「サスガ、ボス」

眼帯「……」

１３日目――

看守「今日の夕食は刑務所名物“くさいメシ”だ！」



男「うわっ、くっさ！」

囚人A「なにしろ、くさやとドリアンとブルーチーズっすからね」

囚人B「ダケドオレ、クサイメシ、スキ！」

男「たしかに味はいいですよね」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

意図して究極に臭くしててワロタ

１４日目――

看守「今日は運動していい日だ！　しっかり運動しろ！」



眼帯「よし、ドロケイでもするか」

ボス「バカヤロウ！　ドロケイってなんだよ！　ケイドロだろうが！」

囚人A「さっそく始めるっす！　オイラ警察やるっす！」

囚人B「オレ、ドロボウ」

男「ケイドロなんて小学校の時以来だな、懐かしいなぁ……」

眼帯「……」

１５日目――

看守「面会希望者が来てるぞ」

男「はい」



男「女ちゃん！？」

女「ごめんなさい……！　私のせいでこんなことになっちゃって……」

男「いや、俺は俺のためにやったんだ。君のせいじゃないよ」

女「だけど……！」

女「私のこと……嫌いになったでしょ？」

男「嫌いになんてなるもんか！　俺は今でも、君のことが大好きだよ」

女「ありがとう……！」

女「ガラス越しに……キスしてもいい？」

男「いいとも！」


ﾁｭｯ

１６日目――

看守「ええい、貴様ら、全然作業がはかどってないではないか！」



囚人A「今日の看守さん、メチャクチャ怖いっすね」

囚人B「イツモヨリ、キビシイ」

男（何かあったのかな……？）

１７日目――

看守「……」

男「看守さん、何かあったんですか？」

看守「貴様如きに話すようなことではない」

男「しかし、話せば楽になるということもありますよ」

男「あくまで独り言するつもりで、話してみませんか」

看守「……いいだろう」

看守「実は……娘が重い病気に侵されていてな」

看守「今日……手術なのだ」

看守「だが、成功率は……50％……。果たしてうまくいくかどうか……」

男「……」

男「……成功しますよ！　絶対に！」

男「願掛けとして、今日俺はメシ抜きでいいです！」

看守「……ありがとう」

１８日目――

看守「ええい、貴様ら、全然作業がはかどってないけど許す！」ﾆｺﾆｺ…



囚人A「今日の看守さん、メチャクチャ優しいっすね」

囚人B「ニコニコ、シテル」

男（手術成功したんだな……おめでとうございます）

１９日目――

ボス「ガッハッハ、俺が一番風呂だ！」ｻﾞﾊﾞｧｯ

囚人A「豪快な入浴っぷりっすね～」

囚人B「ボス、オフロ、ダイスキ！」

男「さ、次は眼帯さんですよ。どうぞ」

眼帯「いや……お前ら先に入れ」

囚人A「いいんすか？　やったーっ！」ｻﾞﾊﾞｯ

囚人B「オレ、オフロ、ダイスキ！」ｻﾞﾊﾞｯ

男（眼帯さん、どうしたんだ……？）

２０日目――

看守「面会希望者が来てるぞ」

男「はい」



男「弁護士さん！？」

弁護士「どうですか、刑務所暮らしは」

男「おかげさまで順調ですよ」

弁護士「ところで、あなたを支援する団体が、なんとしてもあなたの刑期を短縮させたいと」

弁護士「運動を起こす準備を進めているのですが……」

男「せっかくの話ですが、お断りして下さい」

男「俺は今の生活も気に入ってますから……きっちり30日間過ごすつもりです」

弁護士「分かりました。そう伝えておきましょう」

２１日目――

看守「今日は運動していい日だ！　しっかり運動しろ！」



眼帯「カバディでもやろうか」

ボス「カバディなんて誰もルール知らねえよ！　鬼ごっこにしようぜ！」

囚人A「オイラ足遅いんすよね～」

囚人B「オレ、100メートル、11秒」

眼帯「……」ﾋﾟｸﾋﾟｸｯ…

男（眼帯さん……）

囚人Bが地味にハイスペック

２２日目――

眼帯「……ボス」

ボス「なんだ？」

眼帯「俺はもうあんたのやり方にうんざりなんだよ！」

眼帯「いつもいつもあんたの影でいる囚人生活は終わりだ！」

眼帯「明日、俺と決闘しろ！　あんたに勝ったら、俺がボスとして君臨する！」

ボス「飼い犬が、ついに飼い主に牙をむきやがったか……」

ボス「いいだろう、叩き潰してやる！」



囚人A「ひぇぇ～、あの二人、仲良しコンビだと思ってたのに！」

囚人B「オレ、トテモ、フアン……」

男（恐れてたことが、ついに現実に……！）

２３日目――

眼帯「いくぞボス！」

ボス「返り討ちにしてやるぜ！」

眼帯「うおおおお！」ﾀﾞｯ

ボス「うりゃあああ！」ﾀﾞｯ


男「やめろぉぉぉっ！」ﾊﾞｯ


バキィッ！！！


ボス「な！？」

眼帯「俺たちのパンチに挟まれて……」

男「あなたたちはこの刑務所の囚人の秩序だ……争っちゃいけない……」

男「仲良く、して……」ﾄﾞｻｯ

２４日目――

ボス「あいつはまだ目を覚まさないのか……！」

眼帯「すまねえ……俺がボスに逆らったりしたから……！」

ボス「おめえのせいじゃねえ。ナンバー2であるおめえを軽く扱ってた俺が悪いんだ」

眼帯「ボス……！」

囚人A「ああ……あんないい奴、シャバにだっていないっすよ！」

囚人B「オレイノル、カミサマニ」

ボス「みんなであいつが目を覚ますことを祈ろう……！」

２５日目――

男「おはようございます！」

ボス「おおっ、目を覚ましたか！」

眼帯「よかった！」

ボス「あのまま眠ったままだったら、たとえ氏刑になっても償えねえからな……」

眼帯「本当によかった……」

男「あの……ところでお二人は――」

ボス「もちろん、和解したよ！」ｶﾞｼｯ

眼帯「お前のおかげでな！」ｶﾞｼｯ

男（これで……この刑務所の秩序は保たれる……！）

２６日目――

看守「所長」

刑務所長「ん？」

看守「あの男、前々から懸念事項であった囚人のボスとナンバー2の不和を解消したようです」

刑務所長「ふん、さすがよのう」

刑務所長「お前も個人的にあの男を気に入っているのだろう？」

看守「い、いえ……」

刑務所長「あの男……シャバの人間にするには惜しい男よ」

２７日目――

男「うおおおおおおおおお！」ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

囚人A「負けねっす！」ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

囚人B「ウオオオオオ」ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ



看守「作業がはかどりすぎてるな……これはこれで困ったものだ」

２８日目――

看守「今日は運動していい日だ！　しっかり運動しろ！」



ボス「……」

ボス「今日はお前が決めていいぜ」

眼帯「いいのか！」

眼帯「じゃあ……尻相撲だ！」

ボス「おもしれえ！」

囚人A「いいっすねえ！」

囚人B「オレノヒップ、デカイ」

男（尻相撲か……よーし、俺の尻さばきを見せてやる！）

２９日目――

男（明日でいよいよ懲役30日が終わる……）

男（なのに――）


ボス「……」ﾂｰﾝ

眼帯「……」ﾂｰﾝ

囚人A「……」ﾂｰﾝ

囚人B「……」ﾂｰﾝ


男（なぜかみんな冷たい……）

男（やっぱりこんな短期間じゃ、俺はみんなの仲間になりきれなかったのか……）

３０日目――

囚人A「おい、こっち来るっすよ」

男「はい……」

ボス「ジャーン！」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…

男「ステーキにシャンパンにケーキまで……！　これは……！？」

ボス「おめえの出所祝いのパーティーだよ！」

眼帯「今晩は飲み明かそう」

囚人A「刑務所の所長も特別に許可をくれたっすよ！」

囚人B「サプライズ、ダイセイコウ」



男「みんな……ありがとう！」ｳﾙｯ…

次の日――

看守「さ、行くぞ」

男「長いようで短い一ヶ月でしたけど、お世話になりました」

看守「もう戻ってくるなよ……体に気をつけてな」

男「はい……」

看守「それと――」

看守「娘のために、メシを抜いてくれたことは忘れないよ」

男「看守さん……」

母「あ、出てきたわ！」

父「ふむ……」

上司「出所おめでとう！」

同僚「よう、前科者！」

弁護士「おめでとうございます」


ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…！


男「ハハハ……こんなに集まってもらって、ありがとうございます」

女「あ、あの……」

男「君も来てくれたのか！」

女「うん……あなたが出てきたら、ずっと言おうって決めてた言葉があるの」

男「なんだい？」

女「えぇっとね……」

女「お帰りなさい！」

男「ただいま！」


30日の懲役を終えた男は今、社会復帰への第一歩を歩み出す――







おわり

え
結局なんなんだこれ

何したんだよ結局