1: 2011/12/27(火) 00:17:05.65 ID:xGeGXXgU0
全ては、中古屋で買ったゲームから始まった──
一度クリアしたらすぐ忘れそうなほど、ありきたりなタイトルのマイナーRPG。
値段は驚きの100円。
私は風呂上がり、さっそくプレイしてみた。
男「うわっ、オープニングからしてクソゲー臭……」
男「100円でも高いかも」
男「なんか無理ありすぎないか? このストーリー」
けなして、けなして、けなしまくる。
まるで日頃のストレスをぶつけるかのように。
一度クリアしたらすぐ忘れそうなほど、ありきたりなタイトルのマイナーRPG。
値段は驚きの100円。
私は風呂上がり、さっそくプレイしてみた。
男「うわっ、オープニングからしてクソゲー臭……」
男「100円でも高いかも」
男「なんか無理ありすぎないか? このストーリー」
けなして、けなして、けなしまくる。
まるで日頃のストレスをぶつけるかのように。
2: 2011/12/27(火) 00:17:51.84 ID:xGeGXXgU0
ゲームはなかなかはかどらない。
あることないことゲームのせいにしつつ、右往左往する。
男「あぁ~くそ、やられた……。一人旅RPGは俺にはキツイわ」
男「敵強すぎだろ~」
男「バランス悪いなこれ」
はっきりいって、私のゲームの腕はジャンルを問わずお粗末だ。
こだわりと向上心がないせいなのだろう。
高難度と評判のゲームには初めから手をつけない。
縛りプレイなどまずやらないし、クリア後のお楽しみにも興味は薄い。
初回プレイで攻略サイトを見ることもまるで抵抗がない。
もちろん、今回もそうした。
あることないことゲームのせいにしつつ、右往左往する。
男「あぁ~くそ、やられた……。一人旅RPGは俺にはキツイわ」
男「敵強すぎだろ~」
男「バランス悪いなこれ」
はっきりいって、私のゲームの腕はジャンルを問わずお粗末だ。
こだわりと向上心がないせいなのだろう。
高難度と評判のゲームには初めから手をつけない。
縛りプレイなどまずやらないし、クリア後のお楽しみにも興味は薄い。
初回プレイで攻略サイトを見ることもまるで抵抗がない。
もちろん、今回もそうした。
4: 2011/12/27(火) 00:18:53.39 ID:xGeGXXgU0
グーグルで一件だけ、攻略サイトが出てきた。
といっても簡素な作りで、管理人の自己紹介と
大雑把に攻略の流れが書かれているだけ。
男「うおっ、あるのかよっ!」
男「世の中広いねぇ~」
男「こんなマイナーなゲームの攻略サイト作るとか、どんだけ暇人だよ」
などと失礼なことをいいつつ、しっかり利用する。
ゲームの進捗速度が少し上がった。
数日が過ぎた。
といっても簡素な作りで、管理人の自己紹介と
大雑把に攻略の流れが書かれているだけ。
男「うおっ、あるのかよっ!」
男「世の中広いねぇ~」
男「こんなマイナーなゲームの攻略サイト作るとか、どんだけ暇人だよ」
などと失礼なことをいいつつ、しっかり利用する。
ゲームの進捗速度が少し上がった。
数日が過ぎた。
5: 2011/12/27(火) 00:19:48.08 ID:xGeGXXgU0
苦戦しつつ、世界を駆け抜けるテレビの中の主人公。
攻略サイトを信じるならば、
今ゲームは終盤一歩手前、といったところだろうか──
そして私は出会ってしまった。
男「さっきセーブポイントあったし、そろそろボスか?」
男「お、なんかいる」
男「───!」
電流が走った。
攻略サイトを信じるならば、
今ゲームは終盤一歩手前、といったところだろうか──
そして私は出会ってしまった。
男「さっきセーブポイントあったし、そろそろボスか?」
男「お、なんかいる」
男「───!」
電流が走った。
6: 2011/12/27(火) 00:20:51.11 ID:xGeGXXgU0
敵がいた。
1キャラしか通れない狭さの通路に、門番のように陣取っている。
倒さねば、先に進めない仕組みだろう。
マップ上のグラフィックは、女だ。
話しかけると、一言セリフを吐いて戦闘に突入。女の口調だ。
戦闘グラフィックもやはり女だ。
男「………」
私はコントローラーを床に置いた。
1キャラしか通れない狭さの通路に、門番のように陣取っている。
倒さねば、先に進めない仕組みだろう。
マップ上のグラフィックは、女だ。
話しかけると、一言セリフを吐いて戦闘に突入。女の口調だ。
戦闘グラフィックもやはり女だ。
男「………」
私はコントローラーを床に置いた。
7: 2011/12/27(火) 00:22:12.18 ID:xGeGXXgU0
彼女は重要キャラでもなんでもない。
せいぜい、この先にいる中ボスの前座ポジション。
戦闘前、一言セリフがあるだけ。
倒せば無言で、あるいは一言くらい残して消えるだろう。
それだけのキャラ。
なのに。
──なのに。
私はこの女敵に惚れてしまった!
せいぜい、この先にいる中ボスの前座ポジション。
戦闘前、一言セリフがあるだけ。
倒せば無言で、あるいは一言くらい残して消えるだろう。
それだけのキャラ。
なのに。
──なのに。
私はこの女敵に惚れてしまった!
11: 2011/12/27(火) 00:27:12.62 ID:xGeGXXgU0
男「な、なんだこいつは……」
心臓が激しくおどる。
粗いグラフィックで表現された彼女は、私を射抜いた。
何故だ?
容姿? 性格? 戦術? 敵キャラというポジション?
分からない。分かる訳がない。
気づいたら──
男「あ」
防御ばかりしていた主人公は倒されてゲームオーバーになっていた。
心臓が激しくおどる。
粗いグラフィックで表現された彼女は、私を射抜いた。
何故だ?
容姿? 性格? 戦術? 敵キャラというポジション?
分からない。分かる訳がない。
気づいたら──
男「あ」
防御ばかりしていた主人公は倒されてゲームオーバーになっていた。
12: 2011/12/27(火) 00:29:10.63 ID:xGeGXXgU0
セーブしたところからやり直し。
もう一度彼女に挑む。
だが、見ただけで胸を締めつけられる。
さっきよりも重症だ。
男「ぐぅっ……」
男「なんなんだよ、これ」
男「ぁ……あぁ……」
所詮は中ボスの前座である。
普通にプレイすれば、倒せるはず。
だが、無理だった。
本日、二度目のゲームオーバー。
もう一度彼女に挑む。
だが、見ただけで胸を締めつけられる。
さっきよりも重症だ。
男「ぐぅっ……」
男「なんなんだよ、これ」
男「ぁ……あぁ……」
所詮は中ボスの前座である。
普通にプレイすれば、倒せるはず。
だが、無理だった。
本日、二度目のゲームオーバー。
13: 2011/12/27(火) 00:38:20.53 ID:xGeGXXgU0
三敗、四敗、五敗。
いつの間にか深夜になっていた。
男「はぁ、はぁ、はぁ……。ダメだ、今夜は寝よう」
しかし眠れない。
講義やバイトにも身が入らない。
かといってゲームをやめられない。
女敵を倒せず連敗しまくる日々。
男「俺、どうしちまったんだ……」
いつの間にか深夜になっていた。
男「はぁ、はぁ、はぁ……。ダメだ、今夜は寝よう」
しかし眠れない。
講義やバイトにも身が入らない。
かといってゲームをやめられない。
女敵を倒せず連敗しまくる日々。
男「俺、どうしちまったんだ……」
14: 2011/12/27(火) 00:38:39.33 ID:xGeGXXgU0
またもグーグルに頼る。
ゲームに出てくる“あの女敵”を調べまくる。
しかし──
このゲームを扱っているサイトは数件見つかったが、
彼女について触れてるサイトは皆無だった。
当然だ。ただでさえマイナーなゲームな上、その中にさらにマイナーな、
攻略の壁になるわけでもない敵キャラなど誰が取り上げる?
製作者ですら忘れているかもしれない。
男「くそっ、くそっ、くそっ!」
男「誰でもいい! 誰かと……誰かと!」
男「この気持ちを共有したい!」
ゲームに出てくる“あの女敵”を調べまくる。
しかし──
このゲームを扱っているサイトは数件見つかったが、
彼女について触れてるサイトは皆無だった。
当然だ。ただでさえマイナーなゲームな上、その中にさらにマイナーな、
攻略の壁になるわけでもない敵キャラなど誰が取り上げる?
製作者ですら忘れているかもしれない。
男「くそっ、くそっ、くそっ!」
男「誰でもいい! 誰かと……誰かと!」
男「この気持ちを共有したい!」
15: 2011/12/27(火) 00:40:09.69
わかりすぎて困る
16: 2011/12/27(火) 00:41:36.41 ID:xGeGXXgU0
男「そうだ!」
私は攻略サイトを思い出した。
管理人のメールアドレスが載っていたはず。
そこに、
『攻略役立ちました。ところで中盤に出てくる女敵、可愛いですよね』
という旨のメールを送る。
すると返事は、
『役に立てて嬉しいです。でも、女敵はチョット覚えてないです。ごめんなさい(笑)』
男「俺だけか!」
男「世界で俺一人だけなのか!?」
男「彼女を愛しているのは!」
私は攻略サイトを思い出した。
管理人のメールアドレスが載っていたはず。
そこに、
『攻略役立ちました。ところで中盤に出てくる女敵、可愛いですよね』
という旨のメールを送る。
すると返事は、
『役に立てて嬉しいです。でも、女敵はチョット覚えてないです。ごめんなさい(笑)』
男「俺だけか!」
男「世界で俺一人だけなのか!?」
男「彼女を愛しているのは!」
17: 2011/12/27(火) 00:42:16.00
落ち着け
18: 2011/12/27(火) 00:52:00.49 ID:xGeGXXgU0
マイナーキャラを扱うサイトや掲示板に、書き込んでみるが、レスはつかなかった。
ネット広しといえど、彼女を愛しているのは本当に私一人だけらしい。
私は同類項を探すのを諦めた。
ならば、元の平凡ゲームプレイヤーに戻るために、彼女を克服しなくては。
男(全てはこいつを倒せば解決する……!)
男(全クリまでの流れも丸暗記しちゃったし)
男「倒して、一気にクリアして、ゲームを処分する!」
男「それで終いだ!」
なのに、倒せない。
誰かのせいで非暴力主義を貫く主人公は、今日も女敵に倒されるのだった。
男(これはもはや病気の域だ。ネットゲームがやめられない奴の方がマシなくらいだ)
男「俺は、もう終わりだ……」
ネット広しといえど、彼女を愛しているのは本当に私一人だけらしい。
私は同類項を探すのを諦めた。
ならば、元の平凡ゲームプレイヤーに戻るために、彼女を克服しなくては。
男(全てはこいつを倒せば解決する……!)
男(全クリまでの流れも丸暗記しちゃったし)
男「倒して、一気にクリアして、ゲームを処分する!」
男「それで終いだ!」
なのに、倒せない。
誰かのせいで非暴力主義を貫く主人公は、今日も女敵に倒されるのだった。
男(これはもはや病気の域だ。ネットゲームがやめられない奴の方がマシなくらいだ)
男「俺は、もう終わりだ……」
19: 2011/12/27(火) 00:52:22.11 ID:xGeGXXgU0
「なにがオワリだって?」
男「………?」
女敵「いや、なんかオシマイだって言ってたじゃない」
男「うわっ!?」
女敵「あ、ごめんなさい。驚かせて」
振り向いたら、あの女敵がいた。
ドットでもポリゴンでもCGでもないのに、
全てがゲーム上の印象そのままだった。
粗いグラフィックでセリフも一言しかない彼女を、もしゲームから出したら──
目の前にいる女性は、まさにそれだった。
男「………?」
女敵「いや、なんかオシマイだって言ってたじゃない」
男「うわっ!?」
女敵「あ、ごめんなさい。驚かせて」
振り向いたら、あの女敵がいた。
ドットでもポリゴンでもCGでもないのに、
全てがゲーム上の印象そのままだった。
粗いグラフィックでセリフも一言しかない彼女を、もしゲームから出したら──
目の前にいる女性は、まさにそれだった。
22: 2011/12/27(火) 01:01:48.96
二次から三次へ
24: 2011/12/27(火) 01:07:14.60 ID:xGeGXXgU0
男「俺はとうとうノイローゼになったようだ。幻覚症状だ」
女敵「失礼ね、幻覚なんかじゃないわ」
男「じゃあ、あんたはいったいなんなんだよ!?」
言葉とは裏腹に、私の胸は高鳴っていた。
幻覚でもよかった。
ノイローゼよ、ありがとう、だ。
女敵「アタシに興味持ってる奇特な人間は、アナタ?」
男「奇特……」
女敵「もしかして違った?」
男「いやいやいや(大当たりです)」
女敵「失礼ね、幻覚なんかじゃないわ」
男「じゃあ、あんたはいったいなんなんだよ!?」
言葉とは裏腹に、私の胸は高鳴っていた。
幻覚でもよかった。
ノイローゼよ、ありがとう、だ。
女敵「アタシに興味持ってる奇特な人間は、アナタ?」
男「奇特……」
女敵「もしかして違った?」
男「いやいやいや(大当たりです)」
25: 2011/12/27(火) 01:07:30.19 ID:xGeGXXgU0
男「ところで、あなたは?」
女敵「今更説明することもないでしょ」
男「ってことは、やっぱりあのゲームの敵キャラ……」
女敵「そうよ」
男「なぜ、俺のところに……」
女敵「だから、アナタがアタシに興味あるらしいから」
男「あ、ああ、そうだった」
会話が一周してしまった。
女敵「今更説明することもないでしょ」
男「ってことは、やっぱりあのゲームの敵キャラ……」
女敵「そうよ」
男「なぜ、俺のところに……」
女敵「だから、アナタがアタシに興味あるらしいから」
男「あ、ああ、そうだった」
会話が一周してしまった。
26: 2011/12/27(火) 01:07:49.55 ID:xGeGXXgU0
男「え、と……これは夢とかじゃないんだよね?」
頬をつねる。
痛い。
女敵「もちろん現実よ」
男「しかし君はゲームのキャラ……」
女敵「そうよ」
男「なぜゲームの外に出てこれたんだ?」
女敵「う~ん、アタシもよく分からないのよね」
女敵「あっちで、アタシに強烈な興味を持ったヒトの思念みたいなものを感じて」
女敵「アタシも会ってみたいなぁ、と思ったら」
男「ここに来ていた、と?」
女敵「えぇ」
頬をつねる。
痛い。
女敵「もちろん現実よ」
男「しかし君はゲームのキャラ……」
女敵「そうよ」
男「なぜゲームの外に出てこれたんだ?」
女敵「う~ん、アタシもよく分からないのよね」
女敵「あっちで、アタシに強烈な興味を持ったヒトの思念みたいなものを感じて」
女敵「アタシも会ってみたいなぁ、と思ったら」
男「ここに来ていた、と?」
女敵「えぇ」
27: 2011/12/27(火) 01:14:48.00 ID:xGeGXXgU0
男「あっちでも、君は門番をやってるの?」
女敵「いいえ、あっちの世界を適当にたむろしてるだけ。退屈なものよ」
男「ドラマ撮影が終わって、あとは視聴者の反応を見るだけの役者、って感じかな……?」
男「さっきまで君は楽屋にいた、とでも考えればいい?」
女敵「えぇ。といっても、演技じゃなくて本気だけどね」
女敵「アナタの操作キャラ(主人公)側のキャラは大嫌いよ」
男「ふうん」
男(強烈な思念を感じたからって、ゲームキャラが現実に来るなんてありえるのか?)
男(これがアリなら、こういう事件がそこら中で起きてるはずだ)
男(………)
男(ゲームキャラが現実に来られる条件は、自分を強烈に愛している人間が一人の時のみ、とか?)
男(──だとすれば、まだ分かる気がする)
男(いやもうどうだっていい! とにかく彼女は俺の為に来てくれたんだ!)
女敵「いいえ、あっちの世界を適当にたむろしてるだけ。退屈なものよ」
男「ドラマ撮影が終わって、あとは視聴者の反応を見るだけの役者、って感じかな……?」
男「さっきまで君は楽屋にいた、とでも考えればいい?」
女敵「えぇ。といっても、演技じゃなくて本気だけどね」
女敵「アナタの操作キャラ(主人公)側のキャラは大嫌いよ」
男「ふうん」
男(強烈な思念を感じたからって、ゲームキャラが現実に来るなんてありえるのか?)
男(これがアリなら、こういう事件がそこら中で起きてるはずだ)
男(………)
男(ゲームキャラが現実に来られる条件は、自分を強烈に愛している人間が一人の時のみ、とか?)
男(──だとすれば、まだ分かる気がする)
男(いやもうどうだっていい! とにかく彼女は俺の為に来てくれたんだ!)
28: 2011/12/27(火) 01:15:06.13 ID:xGeGXXgU0
男「なにか飲み物でも入れるよ」
女敵「あ、おかまいなく」
男「──ところで、君はゲームでは敵役、世界を脅かす側だったわけだけど」
男「こっちの世界をどうこうするって気はないんだよね?」
女敵「まったくないわ」
男(ほっ……)
女敵「アナタがいるしね」
男「えっ」
女敵「あら噂をすれば、ちょうどあのゲームやってたとこだったのね」
ゲームオーバー画面から放置していたので、タイトル画面になっていた。
男「え、あ、ああ……」
女敵「あ、おかまいなく」
男「──ところで、君はゲームでは敵役、世界を脅かす側だったわけだけど」
男「こっちの世界をどうこうするって気はないんだよね?」
女敵「まったくないわ」
男(ほっ……)
女敵「アナタがいるしね」
男「えっ」
女敵「あら噂をすれば、ちょうどあのゲームやってたとこだったのね」
ゲームオーバー画面から放置していたので、タイトル画面になっていた。
男「え、あ、ああ……」
29: 2011/12/27(火) 01:18:36.47 ID:xGeGXXgU0
女敵「ちょっとやってみせてよ」
男「ああ……」
女敵「アタシに興味持ったってことは、アタシはもう越えたはずよね」
女敵「──ってことは、ラスト寸前くらい?」
男(越せてないんだな、これが……)
セーブポイントから再開。
男「………」
女敵「あら?」
男「………」
女敵「ここって、アタシがいるエリアじゃない?」
男「ああ……」
女敵「アタシに興味持ったってことは、アタシはもう越えたはずよね」
女敵「──ってことは、ラスト寸前くらい?」
男(越せてないんだな、これが……)
セーブポイントから再開。
男「………」
女敵「あら?」
男「………」
女敵「ここって、アタシがいるエリアじゃない?」
30: 2011/12/27(火) 01:18:52.74 ID:xGeGXXgU0
男「そうだよ、これは君と戦う直前のセーブデータだ」
女敵「あら、そうだったの」
女敵「あ、もしかしてアタシに苦戦して興味を持ったとかそういうパターン?」
女敵「苦戦するほどアタシ強かったかしら」
男「……違う」
女敵「どういうこと?」
男「プレイすれば分かる」
ゲーム内の女敵に話しかけ、戦闘開始。
実物(?)に出会えたせいか、いつもより緊張は薄れた。
だが──
女敵「あら、そうだったの」
女敵「あ、もしかしてアタシに苦戦して興味を持ったとかそういうパターン?」
女敵「苦戦するほどアタシ強かったかしら」
男「……違う」
女敵「どういうこと?」
男「プレイすれば分かる」
ゲーム内の女敵に話しかけ、戦闘開始。
実物(?)に出会えたせいか、いつもより緊張は薄れた。
だが──
33: 2011/12/27(火) 01:31:12.60 ID:xGeGXXgU0
女敵「ん?」
女敵「え?」
女敵「なんで攻撃しないの?」
女敵「あーあ……やられちゃった」
やはり攻撃できなかった。
苦戦、ですらない、不戦。
女敵「さっさとアタシなんか倒しちゃえばいいのに」
女敵「あ! もしかして、攻撃コマンドを使わない縛りプレイとか?」
そんなことするはずがない。
私は、使えば楽になるバグ技を知ったら、ちゅうちょなく使うタイプだ。
男「違うんだ」
女敵「?」
男「俺には君を攻撃できない」
女敵「え?」
女敵「なんで攻撃しないの?」
女敵「あーあ……やられちゃった」
やはり攻撃できなかった。
苦戦、ですらない、不戦。
女敵「さっさとアタシなんか倒しちゃえばいいのに」
女敵「あ! もしかして、攻撃コマンドを使わない縛りプレイとか?」
そんなことするはずがない。
私は、使えば楽になるバグ技を知ったら、ちゅうちょなく使うタイプだ。
男「違うんだ」
女敵「?」
男「俺には君を攻撃できない」
35: 2011/12/27(火) 01:32:57.01 ID:xGeGXXgU0
男「だから、このゲームを一生クリアできないんだ……」
女敵「………?」
男(引かれただろうな、我ながら気持ち悪いもん)
女敵「……怖いのね?」
男(君を傷つけるのがな)
女敵「じゃあ特訓しないと」
男「えっ」
女敵「まずは腕相撲からね」
男「いや、え、あの(なんかちがう)」
女敵「………?」
男(引かれただろうな、我ながら気持ち悪いもん)
女敵「……怖いのね?」
男(君を傷つけるのがな)
女敵「じゃあ特訓しないと」
男「えっ」
女敵「まずは腕相撲からね」
男「いや、え、あの(なんかちがう)」
36: 2011/12/27(火) 01:34:42.16 ID:xGeGXXgU0
腕相撲開始。
男「ふっ、くっ、ぐぅ~!(全っ然、動かねぇ!)」
女敵「加減しなくていいって」
男「ぬぅ~!(この細腕のどこにこんな力が!?)」
女敵「全然力を入れてないでしょ、まだアタシが怖いの?」
男「ふんぬぅ~!(両手でも全然動かん! ……くおっ)」
女敵「じゃあ、こっちから」
ボキッ
男「あっ」
女敵「あっ」
私の右腕が折れた。
男「ふっ、くっ、ぐぅ~!(全っ然、動かねぇ!)」
女敵「加減しなくていいって」
男「ぬぅ~!(この細腕のどこにこんな力が!?)」
女敵「全然力を入れてないでしょ、まだアタシが怖いの?」
男「ふんぬぅ~!(両手でも全然動かん! ……くおっ)」
女敵「じゃあ、こっちから」
ボキッ
男「あっ」
女敵「あっ」
私の右腕が折れた。
40: 2011/12/27(火) 01:41:41.19 ID:xGeGXXgU0
当然の結果だった。
初期状態で一般人より遥かに強いという設定の主人公が、冒険してさらに強くなって
ストーリー終盤近くで出会う敵が彼女なのだ。
一介の学生である私が腕っぷしで勝てるはずがない。
女敵「ご、ごめんなさい!」
男「へ……平気平気……(とかいって涙止まらないし、俺ダセェ~! いてェ~!)」
男「(骨折とか、小学生の時以来だ)とりあえず病院──」
女敵『回復呪文』
男「あれ、一瞬で痛みが消えた……腕が治ってる」
女敵「ふぅ」
男(そ、そういえば)
彼女は魔法と直接攻撃を駆使する敵キャラだった。
初期状態で一般人より遥かに強いという設定の主人公が、冒険してさらに強くなって
ストーリー終盤近くで出会う敵が彼女なのだ。
一介の学生である私が腕っぷしで勝てるはずがない。
女敵「ご、ごめんなさい!」
男「へ……平気平気……(とかいって涙止まらないし、俺ダセェ~! いてェ~!)」
男「(骨折とか、小学生の時以来だ)とりあえず病院──」
女敵『回復呪文』
男「あれ、一瞬で痛みが消えた……腕が治ってる」
女敵「ふぅ」
男(そ、そういえば)
彼女は魔法と直接攻撃を駆使する敵キャラだった。
41: 2011/12/27(火) 01:43:21.07 ID:xGeGXXgU0
女敵「じゃあ今度は指相撲で」
男「いやいやいや、そういうことじゃないんだ」
女敵「え?」
男「ゲームの敵が俺より強そうで怖いから戦えない、ってわけじゃないんだ」
女敵「そうなの?」
男「ああ。もしそうなら、俺は最初のボスすら倒せていない」
女敵「ふうん。じゃあアタシを倒せなかったのは、なんで?」
男「……傷つけたくないから」
女敵「へぇ~優しいのね。今時珍しいんじゃない?」
男(どうもおかしな捉え方をされたっぽいな……)
男「いやいやいや、そういうことじゃないんだ」
女敵「え?」
男「ゲームの敵が俺より強そうで怖いから戦えない、ってわけじゃないんだ」
女敵「そうなの?」
男「ああ。もしそうなら、俺は最初のボスすら倒せていない」
女敵「ふうん。じゃあアタシを倒せなかったのは、なんで?」
男「……傷つけたくないから」
女敵「へぇ~優しいのね。今時珍しいんじゃない?」
男(どうもおかしな捉え方をされたっぽいな……)
46: 2011/12/27(火) 02:01:45.95 ID:xGeGXXgU0
女敵「でも、たかがゲームよ?」
女敵「登場キャラである身としてもクリアはして欲しいしね」
男「分かった、もう一度やってみるよ」
ダメだった。
男「ゴメン……」
女敵「やだ、謝らないでよ。気にしてないから」
男「俺は君の期待に応えてやれない……」
女敵(まずい、どんどんネガティブになってる。なんとかしてやらないと)
女敵「──そうだ、いいこと思いついた!」
男「なに?」
女敵「アタシを倒すとこだけ、アタシがやるのよ」
女敵「アナタのやってるのを見ていて操作は覚えたから、まず大丈夫よ」
女敵「登場キャラである身としてもクリアはして欲しいしね」
男「分かった、もう一度やってみるよ」
ダメだった。
男「ゴメン……」
女敵「やだ、謝らないでよ。気にしてないから」
男「俺は君の期待に応えてやれない……」
女敵(まずい、どんどんネガティブになってる。なんとかしてやらないと)
女敵「──そうだ、いいこと思いついた!」
男「なに?」
女敵「アタシを倒すとこだけ、アタシがやるのよ」
女敵「アナタのやってるのを見ていて操作は覚えたから、まず大丈夫よ」
47: 2011/12/27(火) 02:03:23.31 ID:xGeGXXgU0
女敵「いいアイディアでしょ? 我ながら」
男「………」
男「ダメだ」
女敵「えっ、どうして?」
男「男としての──」
はるばる遠いところからやってきた、心が崩れかけるほどに惚れた女に
自分の前に立ちはだかる壁を代わりに壊してもらう。
断じてあってはならない。
たとえゲームであろうとも。
これは男としての──
男「プライド」
女敵「は、はぁ……(妙なところで頑固なタイプね)」
男「………」
男「ダメだ」
女敵「えっ、どうして?」
男「男としての──」
はるばる遠いところからやってきた、心が崩れかけるほどに惚れた女に
自分の前に立ちはだかる壁を代わりに壊してもらう。
断じてあってはならない。
たとえゲームであろうとも。
これは男としての──
男「プライド」
女敵「は、はぁ……(妙なところで頑固なタイプね)」
48: 2011/12/27(火) 02:03:45.15 ID:xGeGXXgU0
男(なにがプライドだよ……。アイディア考えてもらってる時点でアウトだろ……)
男「というわけで、君がプレイするってのは却下な」
女敵「分かったわ」
女敵「……でも、どうするの?」
男「(当然の疑問だよな)あ、ああ……えーと……」
男「スルーするってのはどうかな?」
女敵「スルー?」
男「君と戦わずに済ませるのさ」
女敵「できるの?」
男「やってみる」
男「というわけで、君がプレイするってのは却下な」
女敵「分かったわ」
女敵「……でも、どうするの?」
男「(当然の疑問だよな)あ、ああ……えーと……」
男「スルーするってのはどうかな?」
女敵「スルー?」
男「君と戦わずに済ませるのさ」
女敵「できるの?」
男「やってみる」
50: 2011/12/27(火) 02:14:09.69 ID:xGeGXXgU0
ゲームでは、たまにボスと戦わずに先へ進める裏ワザがある。
意図的な場合もあれば、バグの場合もある。
だが──
女敵「ないわね」
男「ないな~」
男(改造とかすれば可能かもしれないけど、全くそっちの知識はないしな……)
意図的な場合もあれば、バグの場合もある。
だが──
女敵「ないわね」
男「ないな~」
男(改造とかすれば可能かもしれないけど、全くそっちの知識はないしな……)
51: 2011/12/27(火) 02:14:23.74 ID:xGeGXXgU0
女敵「やっぱりアタシとの戦いは避けられない運命なのね」
男「残酷だねぇ、運命ってのは」
男(いや、待てよ)
男「これさ、和解ってできないかな?」
女敵「和解?」
男「主人公とゲームの中の君を、和解させるんだよ」
男「残酷だねぇ、運命ってのは」
男(いや、待てよ)
男「これさ、和解ってできないかな?」
女敵「和解?」
男「主人公とゲームの中の君を、和解させるんだよ」
52: 2011/12/27(火) 02:14:50.77 ID:xGeGXXgU0
男(ってできるわけねーだろ! 和解ルートなんてプログラムされてるわけがない)
女敵「無理ね」
男(即答かい)
女敵「和解なんて絶対不可能よ」
男「──? お、おいどうした」
女敵「アナタだからこうやって話しているの。そう、アナタだから」
女敵「もし、アナタがあのゲームの主人公だったら──」
女敵「すぐさま攻撃しているわ。なにをいわれようと、ね」
彼女の敵キャラとしての一面を垣間見た気分だった。
私に対しては治療してくれたり助言してくれたりと優しいが、
彼女は敵キャラなのだ。
ゲーム内の女敵も、今目の前にいる女敵も。
女敵「無理ね」
男(即答かい)
女敵「和解なんて絶対不可能よ」
男「──? お、おいどうした」
女敵「アナタだからこうやって話しているの。そう、アナタだから」
女敵「もし、アナタがあのゲームの主人公だったら──」
女敵「すぐさま攻撃しているわ。なにをいわれようと、ね」
彼女の敵キャラとしての一面を垣間見た気分だった。
私に対しては治療してくれたり助言してくれたりと優しいが、
彼女は敵キャラなのだ。
ゲーム内の女敵も、今目の前にいる女敵も。
54: 2011/12/27(火) 02:19:10.87 ID:xGeGXXgU0
男「なんか悪かったな……和解とかいって」
男「君にとっちゃ宿敵だもんな、まさに。軽率だった」
女敵「えっ? あ、え? 気にしないで、アタシもどうかしてたわ」
男「いや、俺が悪かった」
男「俺には主人公を操る者として、君を倒す責務がある」
女敵「お」
男「やるよ。このままじゃ、ゲーム内の君はいつまでたっても敵になれない」
男「やってやる!」
女敵(なんだかよく分からないけど……)
女敵(ちょっとだけ……かっこいい、かも)
男「君にとっちゃ宿敵だもんな、まさに。軽率だった」
女敵「えっ? あ、え? 気にしないで、アタシもどうかしてたわ」
男「いや、俺が悪かった」
男「俺には主人公を操る者として、君を倒す責務がある」
女敵「お」
男「やるよ。このままじゃ、ゲーム内の君はいつまでたっても敵になれない」
男「やってやる!」
女敵(なんだかよく分からないけど……)
女敵(ちょっとだけ……かっこいい、かも)
58: 2011/12/27(火) 02:27:28.02 ID:xGeGXXgU0
私は再びコントローラーを手に持った。
世界で一番愛している女を倒すため。
男「……倒すよ、いいんだな」
女敵「もちろん。ゲームのアタシも倒されることで、役割をまっとうしたいはずよ」
男「もう一度セーブポイントからだ」
一分後、主人公は女敵のいるエリアに到達した。
話しかける。
バトル開始!
世界で一番愛している女を倒すため。
男「……倒すよ、いいんだな」
女敵「もちろん。ゲームのアタシも倒されることで、役割をまっとうしたいはずよ」
男「もう一度セーブポイントからだ」
一分後、主人公は女敵のいるエリアに到達した。
話しかける。
バトル開始!
60: 2011/12/27(火) 02:39:25.81 ID:xGeGXXgU0
しかし、やはり指が止まってしまう。
男(『攻撃』すればいいのに、できない!)
女敵「………」
すると、後ろで眺めていた女敵が私の背中にのしかかってきた。
二人羽織りのような体勢になる。
男「お、おい」
女敵「アタシがついてるわ」
男(や、柔らかい……あったかい)
男(心強い……!)
男(『攻撃』すればいいのに、できない!)
女敵「………」
すると、後ろで眺めていた女敵が私の背中にのしかかってきた。
二人羽織りのような体勢になる。
男「お、おい」
女敵「アタシがついてるわ」
男(や、柔らかい……あったかい)
男(心強い……!)
61: 2011/12/27(火) 02:40:04.65 ID:xGeGXXgU0
女敵「伝わる? アタシの感触、アタシの熱、アタシの息……」
女敵「アタシはここでじっとしてるから──」
女敵「大丈夫だから──」
女敵「アナタは戦いに集中して!」
私のコントローラを持つ手に、勇気が宿った。
男「ありがとう」
女敵(ようやくアタシへの恐怖心を払拭できたようね)
女敵「アタシはここでじっとしてるから──」
女敵「大丈夫だから──」
女敵「アナタは戦いに集中して!」
私のコントローラを持つ手に、勇気が宿った。
男「ありがとう」
女敵(ようやくアタシへの恐怖心を払拭できたようね)
66: 2011/12/27(火) 02:52:05.92 ID:xGeGXXgU0
男「ところで……ゲーム内の君を攻撃しても、君に危害が加わるようなことはないんだね?」
女敵「もちろんよ」
女敵「もしそうだったら、とっくの昔にアタシは氏んでるはず」
男(たしかに……。かなり古いゲームだし、少なくとも攻略サイトの奴はクリアしている)
男(ゲーム内の彼女を倒しても、後ろにいる彼女は無事なはず)
男「分かった、やろう」
これまで非攻を貫いてきた主人公が、ついに女敵に一撃を入れた。
男(や、やった……!)
女敵「……ぅあっ……!」
男「!」
女敵「もちろんよ」
女敵「もしそうだったら、とっくの昔にアタシは氏んでるはず」
男(たしかに……。かなり古いゲームだし、少なくとも攻略サイトの奴はクリアしている)
男(ゲーム内の彼女を倒しても、後ろにいる彼女は無事なはず)
男「分かった、やろう」
これまで非攻を貫いてきた主人公が、ついに女敵に一撃を入れた。
男(や、やった……!)
女敵「……ぅあっ……!」
男「!」
67: 2011/12/27(火) 02:52:47.60 ID:xGeGXXgU0
男「ほ、ほら! やっぱりダメージが!」
女敵「いや大丈夫……やっと一撃入れてくれたから嬉しかっただけ。続けて」
男「分かった……」
2ターン目。
主人公の剣が唸る。
男(お、クリティカル)
女敵「あっ……ふっ、くっ……!」
男「やっぱり大丈夫じゃないだろ! すぐリセットするよ!」
女敵「ち、違うの……」
男「ち、違うって、すごい痛がってるじゃんか」
女敵「気持ち……よかったの……」
女敵「いや大丈夫……やっと一撃入れてくれたから嬉しかっただけ。続けて」
男「分かった……」
2ターン目。
主人公の剣が唸る。
男(お、クリティカル)
女敵「あっ……ふっ、くっ……!」
男「やっぱり大丈夫じゃないだろ! すぐリセットするよ!」
女敵「ち、違うの……」
男「ち、違うって、すごい痛がってるじゃんか」
女敵「気持ち……よかったの……」
69: 2011/12/27(火) 02:57:45.08 ID:xGeGXXgU0
男「気持ちよかった……?」
女敵「ゲーム内のアタシが攻撃を受けた後、電気みたいな快感が体を走って……」
男(どういうことだ)
男「危険はないんだな? 体は平気なんだな?」
女敵「えぇ、ダメージとかではないわ」
男(嘘に決まってる。なんて優しいんだ)
3ターン目。さらに一撃を入れる。主人公のダメージはさほどではない。
男(やっぱりあまり強くないな、いけそうだ)
女敵「………っ!」
男(俺が心配するから声頃してるのか。無理しなくていいのに……)
女敵「ゲーム内のアタシが攻撃を受けた後、電気みたいな快感が体を走って……」
男(どういうことだ)
男「危険はないんだな? 体は平気なんだな?」
女敵「えぇ、ダメージとかではないわ」
男(嘘に決まってる。なんて優しいんだ)
3ターン目。さらに一撃を入れる。主人公のダメージはさほどではない。
男(やっぱりあまり強くないな、いけそうだ)
女敵「………っ!」
男(俺が心配するから声頃してるのか。無理しなくていいのに……)
70: 2011/12/27(火) 02:59:26.25 ID:xGeGXXgU0
女敵が回復魔法で自分を回復する。
男(そういや回復できるんだったな。ゲームオーバーにはならないだろうが、長引くかも)
女敵「はぁ……はっ……はぁ……」
男(長引かせて、彼女を苦しめたくない。よし、回復せず攻撃に専念だ!)
男「よし、またクリティカル出た!」
女敵(……ぁっ……っ!)
男「もういっちょ!」
女敵(……ひぁっ……)
6ターン目。ついに来るべき時は訪れた。
主人公のトドメの一撃が決まった。
女敵は断末魔もなく、通路上から姿を消した。
男(そういや回復できるんだったな。ゲームオーバーにはならないだろうが、長引くかも)
女敵「はぁ……はっ……はぁ……」
男(長引かせて、彼女を苦しめたくない。よし、回復せず攻撃に専念だ!)
男「よし、またクリティカル出た!」
女敵(……ぁっ……っ!)
男「もういっちょ!」
女敵(……ひぁっ……)
6ターン目。ついに来るべき時は訪れた。
主人公のトドメの一撃が決まった。
女敵は断末魔もなく、通路上から姿を消した。
72: 2011/12/27(火) 03:00:00.81 ID:xGeGXXgU0
男「や、やった……!」
男「ついに君を倒し──」
私の背中にいたはずの彼女はいなくなっていた。
男「……だよな」
男「そんな気がしてたよ」
悲しかった。
しかしここで立ち止まっては、私の“一歩”を手伝ってくれた彼女の努力が無駄になる。
立ち止まってはならない。
男「ついに君を倒し──」
私の背中にいたはずの彼女はいなくなっていた。
男「……だよな」
男「そんな気がしてたよ」
悲しかった。
しかしここで立ち止まっては、私の“一歩”を手伝ってくれた彼女の努力が無駄になる。
立ち止まってはならない。
73: 2011/12/27(火) 03:05:42.35 ID:xGeGXXgU0
男「もう日が変わってたか……」
男「明日は予定ないし、クリアしてやる」
私はかつてない集中力で、女敵打倒後のゲームをプレイした。
消化試合などではない。
彼女に報いるためにも、全力でプレイする。
男「全クリしてこそ──」
男「彼女の想いは成就する」
男「明日は予定ないし、クリアしてやる」
私はかつてない集中力で、女敵打倒後のゲームをプレイした。
消化試合などではない。
彼女に報いるためにも、全力でプレイする。
男「全クリしてこそ──」
男「彼女の想いは成就する」
74: 2011/12/27(火) 03:06:05.03 ID:xGeGXXgU0
ゲームは終盤へ突入。
世に全く評価されていないマイナーRPGだけあって、
素人目にもハチャメチャでベタベタな展開が続くが
私は黙々と集中してプレイする。
これが彼女がいる世界なのだから。
男「ついにラスボスか……」
ラスボスは強かった。
バランス調整を疑いたくなるくらいに強かった。
先の攻略サイトでも「強すぎ」と評されてただけのことはある。
だがレベルを上げ、装備を整え、ついに倒した。
世に全く評価されていないマイナーRPGだけあって、
素人目にもハチャメチャでベタベタな展開が続くが
私は黙々と集中してプレイする。
これが彼女がいる世界なのだから。
男「ついにラスボスか……」
ラスボスは強かった。
バランス調整を疑いたくなるくらいに強かった。
先の攻略サイトでも「強すぎ」と評されてただけのことはある。
だがレベルを上げ、装備を整え、ついに倒した。
75: 2011/12/27(火) 03:08:02.33 ID:xGeGXXgU0
エンディングが始まった。
世界に平和が戻り、スタッフロールが流れ、終了。
プレイ中散々に酷評した身でいうのはなんだが、やはり感慨深いものがあった。
当たり前だが、女敵はエンディングに出てくることはなかった。
このゲーム内の彼女は、途中で倒される障害の一つにすぎなかった。
エンディングを迎えた時、窓の外は朝になっていた。
男(彼女を倒さなきゃ、俺はずっと彼女と一緒にいられたのかな……)
男(一緒にいたかった)
男(たとえ彼女がそれを望まなくても)
世界に平和が戻り、スタッフロールが流れ、終了。
プレイ中散々に酷評した身でいうのはなんだが、やはり感慨深いものがあった。
当たり前だが、女敵はエンディングに出てくることはなかった。
このゲーム内の彼女は、途中で倒される障害の一つにすぎなかった。
エンディングを迎えた時、窓の外は朝になっていた。
男(彼女を倒さなきゃ、俺はずっと彼女と一緒にいられたのかな……)
男(一緒にいたかった)
男(たとえ彼女がそれを望まなくても)
76: 2011/12/27(火) 03:08:45.36 ID:xGeGXXgU0
男(全クリしたら、このゲーム処分しようかと思ってたけど)
男(持っておこう)
男(持っていれば彼女とまた会える……そんな気がする)
集中していた脳が、一気に眠気をもよおす。
男(徹夜でゲームなんて久々だったな……少し寝るか)
万年床を涙で濡らしつつ、私は眠りについた。
男(持っておこう)
男(持っていれば彼女とまた会える……そんな気がする)
集中していた脳が、一気に眠気をもよおす。
男(徹夜でゲームなんて久々だったな……少し寝るか)
万年床を涙で濡らしつつ、私は眠りについた。
78: 2011/12/27(火) 03:14:01.60 ID:xGeGXXgU0
夕方頃、目が覚めた。
男「さすがに寝すぎたな……よく考えたら久々に熟睡できたし」
男(これも彼女のおかげだな……)
男「ふぁ……あっという間の休日だったな」
男「でもこれで、あの奇妙な生活ももう終わりか」
男「さすがに寝すぎたな……よく考えたら久々に熟睡できたし」
男(これも彼女のおかげだな……)
男「ふぁ……あっという間の休日だったな」
男「でもこれで、あの奇妙な生活ももう終わりか」
81: 2011/12/27(火) 03:14:39.73 ID:xGeGXXgU0
「なにがオワリだって?」
男「え」
振り向いたら、彼女がいた。
男「き、消えたんじゃ……」
女敵「あんまり気持ちがよかったから、変な声出る! と思って一度帰っちゃったの」
女敵「あんな風になったの初めてで、動揺して」
女敵「何度か戻ってきたけど、真剣にゲームやってたり、熟睡してたから」
女敵「なかなか話しかけられなかったの、ごめんなさい」
男「いやいやいや、全然気にしない」
男「え」
振り向いたら、彼女がいた。
男「き、消えたんじゃ……」
女敵「あんまり気持ちがよかったから、変な声出る! と思って一度帰っちゃったの」
女敵「あんな風になったの初めてで、動揺して」
女敵「何度か戻ってきたけど、真剣にゲームやってたり、熟睡してたから」
女敵「なかなか話しかけられなかったの、ごめんなさい」
男「いやいやいや、全然気にしない」
82: 2011/12/27(火) 03:14:57.06 ID:xGeGXXgU0
男「だって俺、君が好きだから」
私は今、とても幸せだ。
<完>
私は今、とても幸せだ。
<完>
83: 2011/12/27(火) 03:16:17.61
乙!おもしろかった!
84: 2011/12/27(火) 03:16:47.28
乙
85: 2011/12/27(火) 03:17:07.47
Mだったのか
…ふぅ
…ふぅ
88: 2011/12/27(火) 03:18:45.42
乙
これが百円か
これが百円か
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