1: 2011/12/27(火) 00:17:05.65 ID:xGeGXXgU0
全ては、中古屋で買ったゲームから始まった──


一度クリアしたらすぐ忘れそうなほど、ありきたりなタイトルのマイナーRPG。

値段は驚きの100円。

私は風呂上がり、さっそくプレイしてみた。


男「うわっ、オープニングからしてクソゲー臭……」

男「100円でも高いかも」

男「なんか無理ありすぎないか? このストーリー」


けなして、けなして、けなしまくる。

まるで日頃のストレスをぶつけるかのように。

2: 2011/12/27(火) 00:17:51.84 ID:xGeGXXgU0
ゲームはなかなかはかどらない。

あることないことゲームのせいにしつつ、右往左往する。


男「あぁ~くそ、やられた……。一人旅RPGは俺にはキツイわ」

男「敵強すぎだろ~」

男「バランス悪いなこれ」


はっきりいって、私のゲームの腕はジャンルを問わずお粗末だ。

こだわりと向上心がないせいなのだろう。

高難度と評判のゲームには初めから手をつけない。

縛りプレイなどまずやらないし、クリア後のお楽しみにも興味は薄い。

初回プレイで攻略サイトを見ることもまるで抵抗がない。

もちろん、今回もそうした。

4: 2011/12/27(火) 00:18:53.39 ID:xGeGXXgU0
グーグルで一件だけ、攻略サイトが出てきた。

といっても簡素な作りで、管理人の自己紹介と

大雑把に攻略の流れが書かれているだけ。


男「うおっ、あるのかよっ!」

男「世の中広いねぇ~」

男「こんなマイナーなゲームの攻略サイト作るとか、どんだけ暇人だよ」


などと失礼なことをいいつつ、しっかり利用する。

ゲームの進捗速度が少し上がった。

数日が過ぎた。

5: 2011/12/27(火) 00:19:48.08 ID:xGeGXXgU0
苦戦しつつ、世界を駆け抜けるテレビの中の主人公。

攻略サイトを信じるならば、

今ゲームは終盤一歩手前、といったところだろうか──

そして私は出会ってしまった。


男「さっきセーブポイントあったし、そろそろボスか?」

男「お、なんかいる」

男「───!」


電流が走った。

6: 2011/12/27(火) 00:20:51.11 ID:xGeGXXgU0
敵がいた。

1キャラしか通れない狭さの通路に、門番のように陣取っている。

倒さねば、先に進めない仕組みだろう。

マップ上のグラフィックは、女だ。

話しかけると、一言セリフを吐いて戦闘に突入。女の口調だ。

戦闘グラフィックもやはり女だ。


男「………」


私はコントローラーを床に置いた。

7: 2011/12/27(火) 00:22:12.18 ID:xGeGXXgU0
彼女は重要キャラでもなんでもない。

せいぜい、この先にいる中ボスの前座ポジション。

戦闘前、一言セリフがあるだけ。

倒せば無言で、あるいは一言くらい残して消えるだろう。

それだけのキャラ。

なのに。

──なのに。

私はこの女敵に惚れてしまった!

11: 2011/12/27(火) 00:27:12.62 ID:xGeGXXgU0
男「な、なんだこいつは……」


心臓が激しくおどる。

粗いグラフィックで表現された彼女は、私を射抜いた。

何故だ?

容姿? 性格? 戦術? 敵キャラというポジション?

分からない。分かる訳がない。

気づいたら──


男「あ」


防御ばかりしていた主人公は倒されてゲームオーバーになっていた。

12: 2011/12/27(火) 00:29:10.63 ID:xGeGXXgU0
セーブしたところからやり直し。

もう一度彼女に挑む。

だが、見ただけで胸を締めつけられる。

さっきよりも重症だ。


男「ぐぅっ……」

男「なんなんだよ、これ」

男「ぁ……あぁ……」


所詮は中ボスの前座である。

普通にプレイすれば、倒せるはず。

だが、無理だった。

本日、二度目のゲームオーバー。

13: 2011/12/27(火) 00:38:20.53 ID:xGeGXXgU0
三敗、四敗、五敗。

いつの間にか深夜になっていた。


男「はぁ、はぁ、はぁ……。ダメだ、今夜は寝よう」


しかし眠れない。

講義やバイトにも身が入らない。

かといってゲームをやめられない。

女敵を倒せず連敗しまくる日々。


男「俺、どうしちまったんだ……」

14: 2011/12/27(火) 00:38:39.33 ID:xGeGXXgU0
またもグーグルに頼る。

ゲームに出てくる“あの女敵”を調べまくる。

しかし──

このゲームを扱っているサイトは数件見つかったが、

彼女について触れてるサイトは皆無だった。

当然だ。ただでさえマイナーなゲームな上、その中にさらにマイナーな、

攻略の壁になるわけでもない敵キャラなど誰が取り上げる?

製作者ですら忘れているかもしれない。


男「くそっ、くそっ、くそっ!」

男「誰でもいい! 誰かと……誰かと!」

男「この気持ちを共有したい!」

15: 2011/12/27(火) 00:40:09.69
わかりすぎて困る

16: 2011/12/27(火) 00:41:36.41 ID:xGeGXXgU0
男「そうだ!」


私は攻略サイトを思い出した。

管理人のメールアドレスが載っていたはず。

そこに、

『攻略役立ちました。ところで中盤に出てくる女敵、可愛いですよね』

という旨のメールを送る。

すると返事は、

『役に立てて嬉しいです。でも、女敵はチョット覚えてないです。ごめんなさい(笑)』


男「俺だけか!」

男「世界で俺一人だけなのか!?」

男「彼女を愛しているのは!」

17: 2011/12/27(火) 00:42:16.00
落ち着け

18: 2011/12/27(火) 00:52:00.49 ID:xGeGXXgU0
マイナーキャラを扱うサイトや掲示板に、書き込んでみるが、レスはつかなかった。

ネット広しといえど、彼女を愛しているのは本当に私一人だけらしい。

私は同類項を探すのを諦めた。

ならば、元の平凡ゲームプレイヤーに戻るために、彼女を克服しなくては。


男(全てはこいつを倒せば解決する……!)

男(全クリまでの流れも丸暗記しちゃったし)

男「倒して、一気にクリアして、ゲームを処分する!」

男「それで終いだ!」


なのに、倒せない。

誰かのせいで非暴力主義を貫く主人公は、今日も女敵に倒されるのだった。


男(これはもはや病気の域だ。ネットゲームがやめられない奴の方がマシなくらいだ)

男「俺は、もう終わりだ……」

19: 2011/12/27(火) 00:52:22.11 ID:xGeGXXgU0
 「なにがオワリだって?」

男「………?」

女敵「いや、なんかオシマイだって言ってたじゃない」

男「うわっ!?」

女敵「あ、ごめんなさい。驚かせて」


振り向いたら、あの女敵がいた。

ドットでもポリゴンでもCGでもないのに、

全てがゲーム上の印象そのままだった。

粗いグラフィックでセリフも一言しかない彼女を、もしゲームから出したら──

目の前にいる女性は、まさにそれだった。

22: 2011/12/27(火) 01:01:48.96
二次から三次へ

24: 2011/12/27(火) 01:07:14.60 ID:xGeGXXgU0
男「俺はとうとうノイローゼになったようだ。幻覚症状だ」

女敵「失礼ね、幻覚なんかじゃないわ」

男「じゃあ、あんたはいったいなんなんだよ!?」


言葉とは裏腹に、私の胸は高鳴っていた。

幻覚でもよかった。

ノイローゼよ、ありがとう、だ。


女敵「アタシに興味持ってる奇特な人間は、アナタ?」

男「奇特……」

女敵「もしかして違った?」

男「いやいやいや(大当たりです)」

25: 2011/12/27(火) 01:07:30.19 ID:xGeGXXgU0
男「ところで、あなたは?」

女敵「今更説明することもないでしょ」

男「ってことは、やっぱりあのゲームの敵キャラ……」

女敵「そうよ」

男「なぜ、俺のところに……」

女敵「だから、アナタがアタシに興味あるらしいから」

男「あ、ああ、そうだった」


会話が一周してしまった。

26: 2011/12/27(火) 01:07:49.55 ID:xGeGXXgU0
男「え、と……これは夢とかじゃないんだよね?」


頬をつねる。

痛い。


女敵「もちろん現実よ」

男「しかし君はゲームのキャラ……」

女敵「そうよ」

男「なぜゲームの外に出てこれたんだ?」

女敵「う~ん、アタシもよく分からないのよね」

女敵「あっちで、アタシに強烈な興味を持ったヒトの思念みたいなものを感じて」

女敵「アタシも会ってみたいなぁ、と思ったら」

男「ここに来ていた、と?」

女敵「えぇ」

27: 2011/12/27(火) 01:14:48.00 ID:xGeGXXgU0
男「あっちでも、君は門番をやってるの?」

女敵「いいえ、あっちの世界を適当にたむろしてるだけ。退屈なものよ」

男「ドラマ撮影が終わって、あとは視聴者の反応を見るだけの役者、って感じかな……?」

男「さっきまで君は楽屋にいた、とでも考えればいい?」

女敵「えぇ。といっても、演技じゃなくて本気だけどね」

女敵「アナタの操作キャラ(主人公)側のキャラは大嫌いよ」

男「ふうん」

男(強烈な思念を感じたからって、ゲームキャラが現実に来るなんてありえるのか?)

男(これがアリなら、こういう事件がそこら中で起きてるはずだ)

男(………)

男(ゲームキャラが現実に来られる条件は、自分を強烈に愛している人間が一人の時のみ、とか?)

男(──だとすれば、まだ分かる気がする)

男(いやもうどうだっていい! とにかく彼女は俺の為に来てくれたんだ!)

28: 2011/12/27(火) 01:15:06.13 ID:xGeGXXgU0
男「なにか飲み物でも入れるよ」

女敵「あ、おかまいなく」

男「──ところで、君はゲームでは敵役、世界を脅かす側だったわけだけど」

男「こっちの世界をどうこうするって気はないんだよね?」

女敵「まったくないわ」

男(ほっ……)

女敵「アナタがいるしね」

男「えっ」

女敵「あら噂をすれば、ちょうどあのゲームやってたとこだったのね」


ゲームオーバー画面から放置していたので、タイトル画面になっていた。


男「え、あ、ああ……」

29: 2011/12/27(火) 01:18:36.47 ID:xGeGXXgU0
女敵「ちょっとやってみせてよ」

男「ああ……」

女敵「アタシに興味持ったってことは、アタシはもう越えたはずよね」

女敵「──ってことは、ラスト寸前くらい?」

男(越せてないんだな、これが……)


セーブポイントから再開。


男「………」

女敵「あら?」

男「………」

女敵「ここって、アタシがいるエリアじゃない?」

30: 2011/12/27(火) 01:18:52.74 ID:xGeGXXgU0
男「そうだよ、これは君と戦う直前のセーブデータだ」

女敵「あら、そうだったの」

女敵「あ、もしかしてアタシに苦戦して興味を持ったとかそういうパターン?」

女敵「苦戦するほどアタシ強かったかしら」

男「……違う」

女敵「どういうこと?」

男「プレイすれば分かる」


ゲーム内の女敵に話しかけ、戦闘開始。

実物(?)に出会えたせいか、いつもより緊張は薄れた。

だが──

33: 2011/12/27(火) 01:31:12.60 ID:xGeGXXgU0
女敵「ん?」

女敵「え?」

女敵「なんで攻撃しないの?」

女敵「あーあ……やられちゃった」


やはり攻撃できなかった。

苦戦、ですらない、不戦。


女敵「さっさとアタシなんか倒しちゃえばいいのに」

女敵「あ! もしかして、攻撃コマンドを使わない縛りプレイとか?」


そんなことするはずがない。

私は、使えば楽になるバグ技を知ったら、ちゅうちょなく使うタイプだ。


男「違うんだ」

女敵「?」

男「俺には君を攻撃できない」

35: 2011/12/27(火) 01:32:57.01 ID:xGeGXXgU0
男「だから、このゲームを一生クリアできないんだ……」

女敵「………?」

男(引かれただろうな、我ながら気持ち悪いもん)

女敵「……怖いのね?」

男(君を傷つけるのがな)

女敵「じゃあ特訓しないと」

男「えっ」

女敵「まずは腕相撲からね」

男「いや、え、あの(なんかちがう)」

36: 2011/12/27(火) 01:34:42.16 ID:xGeGXXgU0
腕相撲開始。


男「ふっ、くっ、ぐぅ~!(全っ然、動かねぇ!)」

女敵「加減しなくていいって」

男「ぬぅ~!(この細腕のどこにこんな力が!?)」

女敵「全然力を入れてないでしょ、まだアタシが怖いの?」

男「ふんぬぅ~!(両手でも全然動かん! ……くおっ)」

女敵「じゃあ、こっちから」


ボキッ


男「あっ」

女敵「あっ」


私の右腕が折れた。

40: 2011/12/27(火) 01:41:41.19 ID:xGeGXXgU0
当然の結果だった。

初期状態で一般人より遥かに強いという設定の主人公が、冒険してさらに強くなって

ストーリー終盤近くで出会う敵が彼女なのだ。

一介の学生である私が腕っぷしで勝てるはずがない。


女敵「ご、ごめんなさい!」

男「へ……平気平気……(とかいって涙止まらないし、俺ダセェ~! いてェ~!)」

男「(骨折とか、小学生の時以来だ)とりあえず病院──」

女敵『回復呪文』

男「あれ、一瞬で痛みが消えた……腕が治ってる」

女敵「ふぅ」

男(そ、そういえば)


彼女は魔法と直接攻撃を駆使する敵キャラだった。

41: 2011/12/27(火) 01:43:21.07 ID:xGeGXXgU0
女敵「じゃあ今度は指相撲で」

男「いやいやいや、そういうことじゃないんだ」

女敵「え?」

男「ゲームの敵が俺より強そうで怖いから戦えない、ってわけじゃないんだ」

女敵「そうなの?」

男「ああ。もしそうなら、俺は最初のボスすら倒せていない」

女敵「ふうん。じゃあアタシを倒せなかったのは、なんで?」

男「……傷つけたくないから」

女敵「へぇ~優しいのね。今時珍しいんじゃない?」

男(どうもおかしな捉え方をされたっぽいな……)

46: 2011/12/27(火) 02:01:45.95 ID:xGeGXXgU0
女敵「でも、たかがゲームよ?」

女敵「登場キャラである身としてもクリアはして欲しいしね」

男「分かった、もう一度やってみるよ」


ダメだった。


男「ゴメン……」

女敵「やだ、謝らないでよ。気にしてないから」

男「俺は君の期待に応えてやれない……」

女敵(まずい、どんどんネガティブになってる。なんとかしてやらないと)

女敵「──そうだ、いいこと思いついた!」

男「なに?」

女敵「アタシを倒すとこだけ、アタシがやるのよ」

女敵「アナタのやってるのを見ていて操作は覚えたから、まず大丈夫よ」

47: 2011/12/27(火) 02:03:23.31 ID:xGeGXXgU0
女敵「いいアイディアでしょ? 我ながら」

男「………」

男「ダメだ」

女敵「えっ、どうして?」

男「男としての──」


はるばる遠いところからやってきた、心が崩れかけるほどに惚れた女に

自分の前に立ちはだかる壁を代わりに壊してもらう。

断じてあってはならない。

たとえゲームであろうとも。

これは男としての──


男「プライド」

女敵「は、はぁ……(妙なところで頑固なタイプね)」

48: 2011/12/27(火) 02:03:45.15 ID:xGeGXXgU0
男(なにがプライドだよ……。アイディア考えてもらってる時点でアウトだろ……)

男「というわけで、君がプレイするってのは却下な」

女敵「分かったわ」

女敵「……でも、どうするの?」

男「(当然の疑問だよな)あ、ああ……えーと……」

男「スルーするってのはどうかな?」

女敵「スルー?」

男「君と戦わずに済ませるのさ」

女敵「できるの?」

男「やってみる」

50: 2011/12/27(火) 02:14:09.69 ID:xGeGXXgU0
ゲームでは、たまにボスと戦わずに先へ進める裏ワザがある。

意図的な場合もあれば、バグの場合もある。

だが──


女敵「ないわね」

男「ないな~」

男(改造とかすれば可能かもしれないけど、全くそっちの知識はないしな……)

51: 2011/12/27(火) 02:14:23.74 ID:xGeGXXgU0
女敵「やっぱりアタシとの戦いは避けられない運命なのね」

男「残酷だねぇ、運命ってのは」

男(いや、待てよ)

男「これさ、和解ってできないかな?」

女敵「和解?」

男「主人公とゲームの中の君を、和解させるんだよ」

52: 2011/12/27(火) 02:14:50.77 ID:xGeGXXgU0
男(ってできるわけねーだろ! 和解ルートなんてプログラムされてるわけがない)

女敵「無理ね」

男(即答かい)

女敵「和解なんて絶対不可能よ」

男「──? お、おいどうした」

女敵「アナタだからこうやって話しているの。そう、アナタだから」

女敵「もし、アナタがあのゲームの主人公だったら──」

女敵「すぐさま攻撃しているわ。なにをいわれようと、ね」


彼女の敵キャラとしての一面を垣間見た気分だった。

私に対しては治療してくれたり助言してくれたりと優しいが、

彼女は敵キャラなのだ。

ゲーム内の女敵も、今目の前にいる女敵も。

54: 2011/12/27(火) 02:19:10.87 ID:xGeGXXgU0
男「なんか悪かったな……和解とかいって」

男「君にとっちゃ宿敵だもんな、まさに。軽率だった」

女敵「えっ? あ、え? 気にしないで、アタシもどうかしてたわ」

男「いや、俺が悪かった」

男「俺には主人公を操る者として、君を倒す責務がある」

女敵「お」

男「やるよ。このままじゃ、ゲーム内の君はいつまでたっても敵になれない」

男「やってやる!」

女敵(なんだかよく分からないけど……)

女敵(ちょっとだけ……かっこいい、かも)

58: 2011/12/27(火) 02:27:28.02 ID:xGeGXXgU0
私は再びコントローラーを手に持った。

世界で一番愛している女を倒すため。


男「……倒すよ、いいんだな」

女敵「もちろん。ゲームのアタシも倒されることで、役割をまっとうしたいはずよ」

男「もう一度セーブポイントからだ」


一分後、主人公は女敵のいるエリアに到達した。

話しかける。

バトル開始!

60: 2011/12/27(火) 02:39:25.81 ID:xGeGXXgU0
しかし、やはり指が止まってしまう。


男(『攻撃』すればいいのに、できない!)

女敵「………」


すると、後ろで眺めていた女敵が私の背中にのしかかってきた。

二人羽織りのような体勢になる。


男「お、おい」

女敵「アタシがついてるわ」

男(や、柔らかい……あったかい)

男(心強い……!)

61: 2011/12/27(火) 02:40:04.65 ID:xGeGXXgU0
女敵「伝わる? アタシの感触、アタシの熱、アタシの息……」

女敵「アタシはここでじっとしてるから──」

女敵「大丈夫だから──」

女敵「アナタは戦いに集中して!」


私のコントローラを持つ手に、勇気が宿った。


男「ありがとう」

女敵(ようやくアタシへの恐怖心を払拭できたようね)

66: 2011/12/27(火) 02:52:05.92 ID:xGeGXXgU0
男「ところで……ゲーム内の君を攻撃しても、君に危害が加わるようなことはないんだね?」

女敵「もちろんよ」

女敵「もしそうだったら、とっくの昔にアタシは氏んでるはず」

男(たしかに……。かなり古いゲームだし、少なくとも攻略サイトの奴はクリアしている)

男(ゲーム内の彼女を倒しても、後ろにいる彼女は無事なはず)

男「分かった、やろう」


これまで非攻を貫いてきた主人公が、ついに女敵に一撃を入れた。

男(や、やった……!)

女敵「……ぅあっ……!」

男「!」

67: 2011/12/27(火) 02:52:47.60 ID:xGeGXXgU0
男「ほ、ほら! やっぱりダメージが!」

女敵「いや大丈夫……やっと一撃入れてくれたから嬉しかっただけ。続けて」

男「分かった……」


2ターン目。

主人公の剣が唸る。


男(お、クリティカル)

女敵「あっ……ふっ、くっ……!」

男「やっぱり大丈夫じゃないだろ! すぐリセットするよ!」

女敵「ち、違うの……」

男「ち、違うって、すごい痛がってるじゃんか」

女敵「気持ち……よかったの……」

69: 2011/12/27(火) 02:57:45.08 ID:xGeGXXgU0
男「気持ちよかった……?」

女敵「ゲーム内のアタシが攻撃を受けた後、電気みたいな快感が体を走って……」

男(どういうことだ)

男「危険はないんだな? 体は平気なんだな?」

女敵「えぇ、ダメージとかではないわ」

男(嘘に決まってる。なんて優しいんだ)


3ターン目。さらに一撃を入れる。主人公のダメージはさほどではない。


男(やっぱりあまり強くないな、いけそうだ)

女敵「………っ!」

男(俺が心配するから声頃してるのか。無理しなくていいのに……)

70: 2011/12/27(火) 02:59:26.25 ID:xGeGXXgU0
女敵が回復魔法で自分を回復する。


男(そういや回復できるんだったな。ゲームオーバーにはならないだろうが、長引くかも)

女敵「はぁ……はっ……はぁ……」

男(長引かせて、彼女を苦しめたくない。よし、回復せず攻撃に専念だ!)


男「よし、またクリティカル出た!」

女敵(……ぁっ……っ!)

男「もういっちょ!」

女敵(……ひぁっ……)


6ターン目。ついに来るべき時は訪れた。

主人公のトドメの一撃が決まった。

女敵は断末魔もなく、通路上から姿を消した。

72: 2011/12/27(火) 03:00:00.81 ID:xGeGXXgU0
男「や、やった……!」

男「ついに君を倒し──」


私の背中にいたはずの彼女はいなくなっていた。


男「……だよな」

男「そんな気がしてたよ」


悲しかった。

しかしここで立ち止まっては、私の“一歩”を手伝ってくれた彼女の努力が無駄になる。

立ち止まってはならない。

73: 2011/12/27(火) 03:05:42.35 ID:xGeGXXgU0
男「もう日が変わってたか……」

男「明日は予定ないし、クリアしてやる」


私はかつてない集中力で、女敵打倒後のゲームをプレイした。

消化試合などではない。

彼女に報いるためにも、全力でプレイする。


男「全クリしてこそ──」

男「彼女の想いは成就する」

74: 2011/12/27(火) 03:06:05.03 ID:xGeGXXgU0
ゲームは終盤へ突入。

世に全く評価されていないマイナーRPGだけあって、

素人目にもハチャメチャでベタベタな展開が続くが

私は黙々と集中してプレイする。

これが彼女がいる世界なのだから。


男「ついにラスボスか……」


ラスボスは強かった。

バランス調整を疑いたくなるくらいに強かった。

先の攻略サイトでも「強すぎ」と評されてただけのことはある。

だがレベルを上げ、装備を整え、ついに倒した。

75: 2011/12/27(火) 03:08:02.33 ID:xGeGXXgU0
エンディングが始まった。

世界に平和が戻り、スタッフロールが流れ、終了。

プレイ中散々に酷評した身でいうのはなんだが、やはり感慨深いものがあった。

当たり前だが、女敵はエンディングに出てくることはなかった。

このゲーム内の彼女は、途中で倒される障害の一つにすぎなかった。


エンディングを迎えた時、窓の外は朝になっていた。


男(彼女を倒さなきゃ、俺はずっと彼女と一緒にいられたのかな……)

男(一緒にいたかった)

男(たとえ彼女がそれを望まなくても)

76: 2011/12/27(火) 03:08:45.36 ID:xGeGXXgU0
男(全クリしたら、このゲーム処分しようかと思ってたけど)

男(持っておこう)

男(持っていれば彼女とまた会える……そんな気がする)


集中していた脳が、一気に眠気をもよおす。


男(徹夜でゲームなんて久々だったな……少し寝るか)


万年床を涙で濡らしつつ、私は眠りについた。

78: 2011/12/27(火) 03:14:01.60 ID:xGeGXXgU0
夕方頃、目が覚めた。

男「さすがに寝すぎたな……よく考えたら久々に熟睡できたし」

男(これも彼女のおかげだな……)

男「ふぁ……あっという間の休日だったな」

男「でもこれで、あの奇妙な生活ももう終わりか」

81: 2011/12/27(火) 03:14:39.73 ID:xGeGXXgU0
 「なにがオワリだって?」

男「え」


振り向いたら、彼女がいた。


男「き、消えたんじゃ……」

女敵「あんまり気持ちがよかったから、変な声出る! と思って一度帰っちゃったの」

女敵「あんな風になったの初めてで、動揺して」

女敵「何度か戻ってきたけど、真剣にゲームやってたり、熟睡してたから」

女敵「なかなか話しかけられなかったの、ごめんなさい」

男「いやいやいや、全然気にしない」

82: 2011/12/27(火) 03:14:57.06 ID:xGeGXXgU0
男「だって俺、君が好きだから」


私は今、とても幸せだ。


<完>

83: 2011/12/27(火) 03:16:17.61
乙!おもしろかった!

84: 2011/12/27(火) 03:16:47.28

85: 2011/12/27(火) 03:17:07.47
Mだったのか
…ふぅ

88: 2011/12/27(火) 03:18:45.42

これが百円か

引用元: 女敵「さっさとアタシなんか倒しちゃえばいいのに」