1: 2020/10/31(土) 18:10:15.062 ID:xXIir/mp0HLWN
男「何年ぶりだろうなー、連絡くれて嬉しいよ!」

男「……で、話って?」

旧友「これなんだけど……」ドンッ

男「!」

旧友「このツボ……買ってくれないか?」

旧友「霊験あらたかなツボでさ。これを持ってるだけで、仕事は上手くいき、女性にモテて……」

男「……」

男(やっぱりこういう話かよ……)

3: 2020/10/31(土) 18:13:12.940 ID:xXIir/mp0HLWN
男「……いくら?」

旧友「5万なんだけど……」

男「分かったよ……買うよ」

旧友「ホントか!? 助かる! ありがとう!」

男「今手持ちないから……ちょっとATMで下ろしてくる」

旧友「悪いな、ここのコーヒー代おごるから!」

男(俺ってお人よしだなぁ……)

7: 2020/10/31(土) 18:16:27.250 ID:xXIir/mp0HLWN
男「……」

男(あーあ、ホントに買っちゃったよ、5万円のツボを)

男(そんなに稼いでるわけじゃねえのに、俺はなにやってんだか……)

男「……」

男(とりあえず、磨いてみるか)

男「……」キュッキュッ

キュッキュッ… キュッキュッ…

10: 2020/10/31(土) 18:19:19.980 ID:xXIir/mp0HLWN
男「ん~……」

ピカピカ…

男「うん……ふむ……ほぉ……」

男「磨いてみると……悪くないんじゃないか、これ?」

男「よし、もうちょっと磨いてみよう……」

キュッキュッ… キュッキュッ…

男(ツボを磨くのって案外楽しいな……)

13: 2020/10/31(土) 18:23:18.786 ID:xXIir/mp0HLWN
課長「なーにやってんだ! こんなミスして!」

男「すいませんすいません!」

課長「まったく……恥ずかしくないのか!」

男「恥ずかしいです……」

課長「恥ずかしいと思ってないからこんなミスをするんだよぉ!」

男(ミスしたのは悪いけど、こんなネチネチ説教することないだろうが……)

14: 2020/10/31(土) 18:27:34.158 ID:xXIir/mp0HLWN
男(仕事が終わっても、まだ腹立たしさが残ってる……)

男(っと、ツボがある。これ壊したらスッキリするかな?)

男(いかんいかん! 5万で買ったツボだぞ! 壊してどうする!)

男(それより――)

男「課長のバカヤローッ! 氏ねーっ!」

男「謝ってんだから、いつまでもネチネチ絡んでくるんじゃねー!」

男「だいたいてめえだってミスしてるだろうが! こないだだって……!」

男「……」

男「あー、スッとした。ツボの中に叫ぶって結構ストレス解消できるな」

15: 2020/10/31(土) 18:30:08.996 ID:xXIir/mp0HLWN
男(今日もツボ磨きっと……)キュッキュッ

男「……」キュッキュッ

男「……」キュッキュッ

男「うん、今日も輝いてる」

男「だけど――」

グチャ…

男「ツボに比べると、部屋がきたねえな。掃除するか……」

17: 2020/10/31(土) 18:33:28.516 ID:xXIir/mp0HLWN
男(本棚の裏、埃が溜まっちゃってるよ)

男(うわ、排水口やべえ)

男(エアコンなんて、最後に掃除したのいつだっけ……)

ゴシゴシ… フキフキ…

キラキラ…

男「お~、一日頑張ったらキレイになった!」

男(ツボがなかったら、ずっと汚いままにしてたかもしれないな)

23: 2020/10/31(土) 18:36:28.184 ID:xXIir/mp0HLWN
男(明日は大事なプレゼンだ……緊張するなぁ)

男(だけど――)

男「……」キュッキュッ

男「ツボを磨いてると落ちつく……これなら熟睡できそうだ」



課長「今日のプレゼン、なかなかだったぞ。お前も成長したな」

男「ありがとうございます!」

25: 2020/10/31(土) 18:39:31.043 ID:xXIir/mp0HLWN
取引先「いいかい? 別に君んとこじゃなくてもいいんだよ。他にも代わりはいるんだ!」

男「そこを何とか……」



男(嫌なことがあったら――)

男「ボケーッ! 代わりがいるんならいちいち脅さず、とっととそっちにしろや! どうせ出来ねえくせによ!」

男「あー……スッとした!」

26: 2020/10/31(土) 18:42:02.687
ツボを有効利用してるな

27: 2020/10/31(土) 18:44:14.305 ID:xXIir/mp0HLWN
男「ふんふ~ん」カタカタ

女「お菓子食べます?」

男「ありがとう」

女「……」

男「ん? 俺の顔に何かついてる?」

女「最近生き生きしてますよね。前はもっとこう……」

男「あ、分かる?」

28: 2020/10/31(土) 18:45:20.465
ぶっちゃけもう5万の元取れてるレベルだと思う

29: 2020/10/31(土) 18:47:27.284 ID:xXIir/mp0HLWN
男「実は……ツボのおかげなんだ」

女「ツボ? 私にも教えて下さい! 体のどこを押せばいいんですか?」

男「あ、いや、そのツボじゃなくて……容器のツボなんだ」

女「へぇ~、そういうのに興味があるんですか、ちょっと意外!」

男「だよね」

男(俺だってまさか、自分があんなもん買うとは思わなかったもん)

32: 2020/10/31(土) 18:50:19.143 ID:xXIir/mp0HLWN
女「よかったら、どんなツボか見せてくれませんか?」

女「私もこう見えて、骨董品にはちょっとうるさいんですよ~」

男「別にかまわないけど」

女「じゃあ、今夜にでもお家にお邪魔させて下さい!」

男「う、うん」

男(まさか、こうなるとは……女の子が自宅に来るなんて初めてだぞ)

33: 2020/10/31(土) 18:53:04.400 ID:xXIir/mp0HLWN
女「うわ~、ものすごくお部屋キレイですね! 私の部屋よりキレイかも!」

男「毎日掃除してるからね」

男(ただしツボ買ってなかったら、典型的汚部屋だったけどね……助かったわぁ)

女「で、ツボはどれですか?」

男「これなんだけど」

ピカピカ…

女「わぁっ、すごい! ピカピカじゃないですか!」

男「磨きまくってるからね」

34: 2020/10/31(土) 18:56:25.123 ID:xXIir/mp0HLWN
女「うん……うん、うん」

女「これは絶対……すごい価値がありますよ! 100万……いえ、1000万の価値はあるかも!」

男「は……?」

女「私のアナライズ(分析)に間違いなしです!」

男(この子の目はだいぶ節穴のようだ)

女「そうだ、TVの『どれでも鑑定団』で鑑定してもらいましょうよ! きっとすごいことに……」

男「!? いやいやいや! 鑑定なんかしなくていいよ!」

女「欲をかかないんですね。なんだか見直しちゃった……」

男(恥をかきたくないだけだよ……)

35: 2020/10/31(土) 19:00:08.731 ID:xXIir/mp0HLWN
アハハハ…

男「へぇ~、そうなんだ」

女「その時の写真がこれで……」

男(今まであまり話したことなかったけど、こうして話してるとすごく気が合うな)

女「そこで、ポップコーンがボッカーンと……」バッ

ガンッ!

女「痛っ!」

38: 2020/10/31(土) 19:03:28.595 ID:xXIir/mp0HLWN
女「あ……ツボに手が当たって……ちょっと欠け……」

男「あー……」

女「あああああああっ! 私のせいで1000万がああああ! ごめんなさいいいいい!」

男「気にしないで。それより怪我はなかった? 指切ってるかも」

女「大丈夫……です。だけどツボが……」

男「ほんのちょっと欠けただし、全然大したツボじゃないから」

女(私を気遣ってくれてる……なんて優しい人なの)

39: 2020/10/31(土) 19:04:45.090
いい仕事してますね

42: 2020/10/31(土) 19:07:23.008 ID:xXIir/mp0HLWN
男(あの一件以来、職場でもよく話すようになって……)

男「……」カタカタ

女「今日はお仕事早く終わりそうですか?」

男「うん、もうすぐ片付きそう」カタカタ

女「でしたらツボのお詫びも兼ねて、ご飯でもどうでしょう? できればお酒を飲めるお店で……」

男「いいけど。ツボのことは本当に気にしなくていいからね。自分なりに修復したしさ」

44: 2020/10/31(土) 19:11:20.234 ID:xXIir/mp0HLWN
女「今日は……楽しかったです!」

男「俺もさ」

女「だけど……ずいぶん酔っ払っちゃった」ヨロッ

男「えっ……」

女「どこか……泊まりません?」

男(この展開……どうやら彼女の思うツボになってしまったようだ)

45: 2020/10/31(土) 19:11:48.142
思うツボ言いたかっただけちゃうんか!

47: 2020/10/31(土) 19:14:30.115 ID:xXIir/mp0HLWN
男(彼女との仲はどんどん進展してる。このままいけば結婚も……)

男「……ん?」

男(旧友からメールが……)

『話がある。また会えないかな』

男(なんで……!? 今になって……!?)

男(いったいどんな話が……!? 今度は何を買わせるつもりだ……!?)

50: 2020/10/31(土) 19:17:54.640 ID:xXIir/mp0HLWN
男「連絡くれたけど……話って?」

旧友「これ」スッ…

男「封筒?」

旧友「いつだったかの5万円……返すよ」

男「へ? なんでまた急に……?」

旧友「実はあの時の俺、就活失敗して、仕方なく霊感商法みたいなことやってる会社に入っちゃってさ」

旧友「しかも異常にノルマに厳しい会社で、知り合いにも商品売りつけたりしてたんだ……」

54: 2020/10/31(土) 19:20:36.809 ID:xXIir/mp0HLWN
旧友「だけど、やっと目が覚めて、今はまともな会社に転職してさ」

旧友「それでも罪悪感がすごくて……返せる人にはお金返すようにしてんだ」

男「いや、いいよ。俺だって分かってて買ったんだし」

旧友「いや! 受け取ってくれた方が気が楽になるんだ! 受け取ってくれ!」

男「じゃあ……」

旧友「ありがとう! 本当に悪かったな!」

男「……」

57: 2020/10/31(土) 19:23:25.946 ID:xXIir/mp0HLWN
男「……」

女「あれ? なんだか機嫌がいいですね」

男「ちょっといいことがあってね」

女「どんな?」

男「人間ってそう捨てたもんじゃない、と思えるようなことかな」

男「あ、そうだ! よかったら、今夜豪華な食事でもしない? 臨時収入があったんだ」

女「じゃあお呼ばれしちゃいます!」

58: 2020/10/31(土) 19:26:41.194 ID:xXIir/mp0HLWN
やがて――

男「……」キュッキュッ

女「そのツボのことは教えてもらいましたけど、今日も丁寧に磨いてますね~」

男「大したことないとはいえ、ここまでくると愛着があるからね」キュッキュッ

男「だけど、今の俺にはこのツボぐらい大切なものがもう一つある」ゴトッ

女「なんでしょう?」

男「君だ」

女「……!」

63: 2020/10/31(土) 19:30:09.701 ID:xXIir/mp0HLWN
男「一生大切にする、結婚してくれないか」

女「はいっ!」

女「だけど、一つだけいっていいですか」

男「?」

女「できればそのツボより、私のことを大切にして下さい!」

男「いっけね!」

アッハッハッハ…

…………

……

69: 2020/10/31(土) 19:35:17.651 ID:xXIir/mp0HLWN
娘「ねーねー、おとうさん」

男「ん?」

娘「このツボ、とっても大切に飾ってあるけど、なんでなの?」

男「ああ、俺の人生を変えてくれたツボだからだよ」

男「俺と母さんが結婚したのも、このツボのおかげといっても過言じゃないんだ」

娘「ふーん」

男「お前にはこのツボ、どんな風に見える? 何を感じる?」

娘「うーんとね……」ジロジロ

70: 2020/10/31(土) 19:38:28.396 ID:xXIir/mp0HLWN
娘「なーんも感じない。ただの安っぽいツボにしか見えない」

男「ぷっ……アッハッハッハッハ! だよなぁ! 子供は正直でよろしい!」

男「アーッハッハッハッハ! フフフッ……アハハハハハッ!」

女「ちょっとあなた、大笑いしてどうしたの?」

男「いや……ちょっとツボに入っただけだよ」







おわり

72: 2020/10/31(土) 19:39:46.447
面白かった乙

73: 2020/10/31(土) 19:39:54.964
気持ちのいい締め方しやがって!

74: 2020/10/31(土) 19:40:37.160
面白かった

引用元: 旧友「このツボ……買ってくれないか?」男(やっぱりこういう話かよ……)