1: 2020/11/01(日) 23:05:35.108 ID:xHX57DjP0
「――・・・様、起きてください」

「勇者様!ほら、もう朝ですよ」

「あっ、目が覚めたみたいですね。良かった」

「おはようございます、勇者様」

4: 2020/11/01(日) 23:07:18.988 ID:xHX57DjP0
「…えっ?ここはどこで私が誰かって?」

「もう、まだ寝ぼけてるんですか。ここは◯◯村の宿屋です」

「私は勇者様と一緒に旅をする僧侶ですよ、仲間の顔を忘れるなんて酷いです。傷つきました」

「なんて、冗談ですよ。そんなに困った顔をしないでください」

「さ、朝食を済ませたら今日の冒険について決めましょうか」

5: 2020/11/01(日) 23:09:07.893 ID:xHX57DjP0
「ここが今私達のいる村ですね、魔王城を目指すにはここから西の山を越えて――」

「……勇者様?聞いてますか?」

「なんだか上の空ですし、もしかしてお具合が悪いのでは…」

「そうですか。それなら良いんですけど…」

「とにかく西へ進もう、ですか。わかりました」

「今日もよろしくお願いしますね、勇者様」

6: 2020/11/01(日) 23:11:24.656 ID:xHX57DjP0
「だいぶ歩きましたね――って、」

「急に振り返ったりしてどうしたんですか、勇者様」

「え?ちゃんと私がついてきてるかって?」

「当たり前じゃないですか、一緒に旅してるんですから」

「くすっ、変な勇者様」

7: 2020/11/01(日) 23:13:21.911 ID:xHX57DjP0
「あっ、見てください勇者様」

「夕日があんなに綺麗に見えますよ」

「今日もまた、こうして一日が終わるんですね」

「へっ?夕日よりも……なんですか?」

「なんでもないって、…やっぱり今日の勇者様はちょっと変です」

8: 2020/11/01(日) 23:15:18.276 ID:xHX57DjP0
「でも私は、勇者様とこうして冒険してると楽しいですし」

「二人で過ごす時間が好きですよ」

「勇者様もですか?ふふっ、嬉しいです」

「えぇっ、むしろ私と旅をするのが夢だった?」

「いくらなんでも、それは大げさすぎますよ~」

9: 2020/11/01(日) 23:17:04.627 ID:xHX57DjP0
「…勇者様?どうして謝るんですか?」

「俺は、私の知っている勇者様じゃない?」

「……?」

「…どういうことですか?」

10: 2020/11/01(日) 23:19:10.467 ID:xHX57DjP0
「……しゃちく?勇者じゃなくて、ただのさらりーまん?」

「…私には、何の話だかさっぱり…」

「夢は覚めるから関係ない?」

「……きちんと説明してくれないと伝わらないですよ」

「ちゃんと聞かせてください、勇者様のこと」

11: 2020/11/01(日) 23:21:26.272 ID:xHX57DjP0
「――なるほど。つまり」

「勇者様は別の世界で生活をしている、この世界の人間ではないと」

「そういうことだったんですね」

「だから勇者なんかじゃない……ですか」

「いいえ、それは違いますよ」

13: 2020/11/01(日) 23:23:07.980 ID:xHX57DjP0
「確かに私達の世界では人々のために魔王を倒すのが勇者です」

「ですが勇者様が言う『仕事』も、人々のために働いているんですよね?」

「誰かの平和な日常を守るのが『仕事』であるなら、同じじゃないですか」

「勇者様は、やっぱり勇者様ですよ」

「…あ、照れてるんですか?夕日で顔が赤く見えるだけ?本当かなぁ」

15: 2020/11/01(日) 23:25:13.045 ID:xHX57DjP0
「もうそろそろ元の世界に?仕事がある?」

「…そうですか」

「勇者様の帰りを、待っている人達がいますからね」

「短い間でしたけど、お話できて楽しかったです」

「でもせめて、こうして過ごした思い出の一つでも残せたら――」

16: 2020/11/01(日) 23:27:52.462 ID:xHX57DjP0
「勇者様?どうしたんですか急にポケットを探して……すまほ?」

「へー!これで風景を記録できるんですか!勇者様は、ずいぶん未来の世界から来たんですね」

「これで夕日を背景に私と?なるほど、そうすれば今日の記録になりますね」

 ・ ・ ・

「わぁ、よく写ってますよ」

「これをいつでも見れる画面にする?それはなんだかちょっと恥ずかしいような気も…」

「でもそれなら、元の世界に帰っても忘れないですよね」

18: 2020/11/01(日) 23:29:14.047 ID:xHX57DjP0
「今日はありがとうございました」

「また、いつか会えるといいですね」

「勇者様」

20: 2020/11/01(日) 23:31:30.917 ID:xHX57DjP0
「あれから元の勇者様が帰ってきました」

「私の旅は、今日もまだまだ続いています」

「あなたは…今どこで何をしているのでしょうか」

「なあ、俺がいない間の冒険は無事だったのか?」

「もちろんですよ。勇者様は勇者様でしたから」

「?なんだそれ…」

23: 2020/11/01(日) 23:33:45.948 ID:xHX57DjP0
ヴーッ ヴーッ

「ん、んんん…」

「もう朝……?」

「……夢、か」

ヴーッ ヴーッ

「わかったよ、うるさいな…」

「はぁ…スマホのアラームを止めて今日も一日が始まるのか……」

パッ

「……あれ?この待受……」

24: 2020/11/01(日) 23:34:14.293 ID:xHX57DjP0
おわり

25: 2020/11/01(日) 23:34:38.047
おつ

27: 2020/11/01(日) 23:36:49.541
おつ いい話だった

引用元: 俺「勇者になった夢を見た話」