1: 2012/01/28(土) 23:34:10.16 ID:2lG4QxSV0
球磨川『えっ、ごめん聞いてなかった。今なんて言ってたの?』

安心院「明日暇なら映画でも観に行かないかい、と言ったのさ」

球磨川『うーん、悪いけど明日は耳鼻科に行く必要があるから行けないよ。ごめんね』

安心院「? どこか悪くしたのかい」


球磨川『さっき安心院さんの口から映画に誘われたように聞こえたからさ。ちょっと耳を診てもらってくるよ』

安心院「……先に頭を診てもらう事をお奨めするぜ」

球磨川『ははっ、精神科の方はもう何年も前に匙を投げられてね。瞳先生くらいかな、今でも話を聞いてくれるのは』

安心院「はぁ。とにかく、君の耳は正常だぜ。僕は今さっき君を映画に誘った。YESかハイか聞かせておくれよ」

球磨川『じゃあYES!!』

安心院「ほっ。良かった。じゃあ明日の朝九時に校門前で――」

球磨川『って言うと思った? 甘ぇよ』

3: 2012/01/28(土) 23:42:20.27 ID:2lG4QxSV0
安心院「人吉瞳先生の生写真なら」

球磨川『明日の朝九時に校門前だね!! 今夜は眠れそうもないなぁ!』

安心院「……」

安心院(なんだ……この敗北感は)


 ――当日

安心院「お待たせ」

球磨川『だから一円も持ってないって言ってるじゃないか!』

不良A「んな訳あるか! いいから出せっつってんだろ」

不良B「今どき一円も持たず出掛ける奴なんていないっしょ? いいから出して楽になっちゃいなよ」

球磨川『そう言われてもないものは出せないよ』

不良B「お互い忙しいっしょ? 俺らも貰うモン貰ったらすぐ帰るからさ。ね?」


安心院「……」

安心院(絡まれてる……)

5: 2012/01/28(土) 23:44:20.65 ID:2lG4QxSV0
球磨川『お金なら、20分くらい前にきたモヒカンの男達にほとんど取られちゃったし』

安心院(まさかのゲッツーかよ)

不良B「……じゃあ残ってる分でいいよ」

球磨川『残ってるのもつい5分前にきたモヒカンの男達に根こそぎかっさらわれちゃったんだ』

安心院(奇跡のトリプルヘッダー)

不良A「……oh」

不良B「……」

球磨川『あ! あんしんいんさーん。たーすけてー』


安心院「……」

安心院「おはよう。棒読みじゃなかったらもうちょっと華麗に登場したぜ」

球磨川『この人達にお金をあげてほしいんだ』

安心院「……」

安心院「……やっぱり映画より頭の病院の方が先だったかな」

7: 2012/01/28(土) 23:48:31.81 ID:2lG4QxSV0
不良B「おっ、お姉ちゃん金持ってんの?」

不良A「っへー、美人さーん! ねえねえ、お金なんていいからさ、俺達と遊ばない?」

安心院「……ビジンさん、じゃない。親しみを込めてあんしんいんさんと呼びなさい」

不良B「なんでもいいっしょ! とりあえず遊びに行こうよ。俺ら良いとこ知ってんだ」

安心院「悪いけど、生憎と今日は立て込んでてね」

安心院(めんどくせぇ……)

不良A「よーし、遊びに行くのケッテーイ! 俺た――

球磨川『隙有り』


 ――


球磨川『助けにくるの遅いよ安心院さん。僕もうちょっとで童O卒業しちゃうところだったよ』

安心院「そいつぁ悪かったね。でも休日の待ち合わせは女の子が遅れてくるところから始まるのが通例だぜ」

球磨川『お陰で全財産250円取られちゃったじゃないか』

安心院(……ジャンプ代かよ)

8: 2012/01/28(土) 23:52:28.37 ID:2lG4QxSV0
安心院「えっと、とりあえず映画代なら僕が奢ってあげるから、移動しないかい」

球磨川『わーい』


 ――映画館 上映前

安心院(ふぅ、まさか一緒に映画を観るだけなのにここまで苦労するとは)

球磨川『安心院さんって映画始まる前にポップコーンや飲み物全部食べちゃう派?』

球磨川『僕はどっちかって言うと食べきっちゃう派なんだけど、これが最善だと常日頃から信じて疑わないんだよね』

球磨川『そもそも映画の上映中ってひそひそ会話するのもNGなくらい音にはうるさいじゃん』

球磨川『なのにボリボリ物食ってたり、ずるずるストローで音立ててる奴ってつまみ出されても文句言えないと思うんだ』

球磨川『だから極端な事言ってしまえば映画館で飲食物売る事自体矛盾してると僕は思うんだけど』

球磨川『誘惑に負けて買っちゃうんだよね、対して美味くもないのに』

球磨川『でも上映前に全部食べちゃえば問題ないと思わない? 僕自分の主張の中でこれだけは正しいって心からそう言えるんだ』

安心院「……」

安心院「ポップコーンは口の中で溶かして、飲み物はストローと蓋外して飲めば――」

球磨川『ま、買えなかったんだけどね』

10: 2012/01/28(土) 23:56:54.52 ID:2lG4QxSV0
安心院「……」

安心院「欲しいなら買ってきてあげようか」

球磨川『え?! ほんと!? ほんとに良いの!?』

安心院「ああ、それくらいお安い御用さ」

球磨川『安心院さん大好き! どっちもLサイズでお願い』

安心院「はいはい。じゃあ買ってくるぜ」


 “間もなく上映開始です。ご視聴される方は席につき、シートベルトをおしめくださいませ”


球磨川『あ、やっぱりいらないや』

安心院「……」

球磨川『ほらほら早く。シートベルト締めないと始まらないよ』

安心院「……」

12: 2012/01/28(土) 23:59:15.72 ID:2lG4QxSV0
 ――上映中


《好きだ! 例え世界が滅んだって、この手を離さない!!》

《マイケル! 私もよ! ずっと、ずっと一緒だから!》

《共に生きていこう……! 古文書に記されていたアダムとイヴはいなかった……僕達がこの世界のアダムとイヴになるんだ!》

《……マイケル!》

《リーメンデルステファニードプロフェールファニッサー!》


安心院「……」

安心院(くっそつまんねぇ……)

安心院(何が全米が泣いた、だ。制作者の頭を疑うレベルのくだらなさだぜ)

安心院(これなら家で畳の目でも数えてた方が有意義だっただろうよ」

安心院(球磨川君は寝てるだろうな……)

球磨川「……」

球磨川『っう、ひっく……ズズ。うっ、マイケル……! リーメンデルステファニードプロフェールファニッサー……!!』

13: 2012/01/29(日) 00:02:48.51 ID:5l5hRvLK0
 ――上映後

球磨川『ううう、ぐすっ、あー、っくしゅん! あー、ズズズ う、うう』

安心院「……」

安心院「……大丈夫かい」

球磨川『ご、ごめんごめん。最近の映画って凄くスケール大きいんだね。感動で最後の方前が見えなかったや』

球磨川『これは厚手のハンカチを用意して、もう一回観に行く必要があるかもね。ズズズ』

安心院「どこらへんが気に入ったのか、教えてもらえるかな」

球磨川『どこって、そりゃ何と言ってもヒロインのリーメンデルステファニードプロフェ……』

球磨川『……リーメンデルステファ、リーメンデルステファニードプロフェール……』

球磨川『リーメンデルステファニード……ファ……ファ』

球磨川『……ヒロインが良かったよ』

安心院「……」

安心院「具体的にどのシーンが?」

14: 2012/01/29(日) 00:04:45.98 ID:5l5hRvLK0
球磨川『そんなの決まってるじゃないか! ヒロインが主人公のマイケルと』

球磨川『えーっと』

安心院「……」

球磨川『……』

安心院「……」

球磨川『安心院さん、この映画に良くないシーンなんてなかった。最初っから最後までクライマックスだったよ』

安心院「……そうかい。それなら良かった」

安心院(まぁ、今のところ上手く事は運んでいる、と言えるのかな)


 雑誌:週刊VIP 《女の子の奥義! 目当ての男の子陥落大作戦☆》

すてっぷ1:好きな男の子をデートに誘っちゃおう! ここが一番勇気のいるところ!
      場所はどこでも良いけど、誘っちゃえばこっちのモノ! お勧めは映画館!

すてっぷ2:雰囲気の良いレストランへGO! 予約は必須!
      ここで一気にこっちのペースに引き込んじゃおう! そうなればもうこっちのモノ!


安心院(やはり現代の雑誌を参考にして良かったぜ)

安心院「えーっと、球磨川君は夕飯どこかで食べる予定あるのかい」

18: 2012/01/29(日) 00:07:49.31 ID:5l5hRvLK0
球磨川『自宅で水と眉毛かな。昨日もだったけど。ああ、一昨日もか』

安心院「じゃ、じゃあ僕と食べに行かないか。ご馳走するよ」

球磨川『……』

安心院「だ、駄目かな」

球磨川『安心院さん、どうしちゃったの? 朝からいつもと雰囲気が違うね』

安心院「!」

球磨川『何かあったなら話してくれよ。僕で良ければいくらでも聞くぜ。聞くだけだけど』

球磨川『本当に聞くだけだけど』

安心院「……」

安心院「……ハッ」

安心院「……球磨川君。今から二つ、僕からのお願いを聞いてくれるなら……【大嘘憑き】、返してあげても良いぜ」

球磨川『!』

21: 2012/01/29(日) 00:10:32.05 ID:5l5hRvLK0
安心院「一つは、消して欲しいものがある。大嘘憑きを返したら、一番初めにそいつを無かった事にして欲しい」

球磨川『? そんなの自分でやればいいんじゃない?』

安心院「二つ。大嘘憑きを返す際に【口写し】を使うけど……」

球磨川『?』

安心院「その、なんだ。君の方からして、ほしい」

球磨川『……』

安心院(ああ、なんでこんなクズ野郎にこんなくっだらねえ台詞吐かねーといけねーんだ……)

安心院(生き過ぎたせいで頭にバグでも溜まったのか……)

球磨川『お安い御用、と言いたいところだけど、やっぱり分からないや。なぜ自分で【大嘘憑き】を使わないのさ』

安心院「……」

安心院「さあ、なぜだろうね」

安心院「消せるんだろうけど、僕には消せそうもない」

24: 2012/01/29(日) 00:14:41.49 ID:5l5hRvLK0
球磨川『えー、そんなー。安心院さんに消せないものが僕に消せる訳ないじゃないかー』

安心院「……」

球磨川『……』

安心院「……」

球磨川『いいぜ、何を虚構にしたいのか言ってみてよ』



安心院「……恋心」


球磨川『うん?』

安心院「準備は出来てる。じゃあ、頼むぜ」

球磨川『……』

安心院「……」

球磨川『――』

安心院「……っん」

 【口写し】

26: 2012/01/29(日) 00:17:24.74 ID:5l5hRvLK0

安心院「……ん、はぁ」

球磨川『……』

安心院「……ふふ、ふふふ」

球磨川『……』

安心院「ははははは……。さあ、ちゃっちゃと頼むよ。ギロチンみてーに、なかなか首が切れず何度も落とすような真似だけは勘弁だぜ」

球磨川(財布の中身がある)

球磨川(“250円をカツアゲされた事”を“無かった事”に出来た)

球磨川(間違いなく本物の【大嘘憑き】)

安心院「さあ、早く」

球磨川『……』

球磨川『ちなみに、誰への恋心か聞いていい?』

安心院「はい一発。今ギロチンが僕の首へ食い込んだ」

球磨川『今僕の目の前にいるのは、正真正銘、本物の安心院さん?』

安心院「はい二発。そろそろこの世から消えたくなってきた。いい加減頼むぜ」

28: 2012/01/29(日) 00:19:56.84 ID:5l5hRvLK0
球磨川『もしかして、お約束の罰ゲーム?』

安心院「はい三発。仏の首でも落ちる回数だ」

球磨川『安心院さんって、実は素直になれない女の子?』

安心院「……」

安心院「いい加減にしてくれ。もう閉幕で良いだろう。なんなら僕がこのスレを落としてやっても良いんだぜ」

球磨川『……』

安心院「……」

球磨川『うん、無理だ。僕にも出来そうにないや』

安心院「!」

球磨川『分かってた事じゃないか。安心院さんに出来なくて僕に出来る事なんて一つもないよ』

安心院「……んな訳ねーだろ。仮にも僕を封印してきたスキルの一つだぜ。感情の一つや二つ、消せねー訳あるかよ」


球磨川『んな訳ねーだろ』


球磨川『仮にも僕を好いてくれる感情だぜ。消せる訳あるかよ』

35: 2012/01/29(日) 00:24:12.90 ID:5l5hRvLK0
安心院「!! き、気付いていたとはね。随分と、人が悪いじゃないか」

球磨川『そんなの、いつもの事だろ』

安心院「……」

球磨川『好きな子にこそ意地悪したくなる……僕も、男の子だからね』

安心院「!! ……はは、ははは!」

球磨川『ねっ』

 ――

安心院「ちなみに、いつから気付いてたんだい」

球磨川『顔の皮を剥がしても怒らなかったときあたりかな』

安心院「うん、君は期待を裏切らないね」

球磨川『?』

安心院「さて、今日は素晴らしい日になりそうだ。夕飯は任せておくれよ」

球磨川『うん、【大嘘憑き】も戻ってきたし、好きなだけ食べさせてあげるよ。僕の眉毛』

安心院「それはいらないぜ」

36: 2012/01/29(日) 00:25:40.28 ID:5l5hRvLK0
球磨川『安心院さん、本当に良かったの?』

安心院「後悔はしてないぜ」

球磨川『もう二度と手に入らないかもしれないよ? 僕の眉毛』

安心院「それは本当にいらないよ。それより」



安心院「僕のことは、愛情を込めてなじみと呼びなさい」




 FIN

37: 2012/01/29(日) 00:27:14.42
おつおつ

引用元: 安心院「僕のことは愛情を込めてなじみと呼びなさい」