1: 2020/11/14(土) 14:04:14.117 ID:gIoh9ZpL0
武術家「このところ、俺の道場の周辺をうろついてるが……何か用かな?」

女「…………」

女「これを」スッ

武術家「手紙?」

『私とつき合ってください』

武術家「私と突き合ってくれ!? つまり俺と試合したいのか! いいだろう!」

女「え」

武術家「女性ながらかなりの闘気を感じたが、やはりそういうことだったか! ささ、中へどうぞ!」

女「いや、違うんだが……」

5: 2020/11/14(土) 14:07:11.808 ID:gIoh9ZpL0
武術家「弟子よ、立会いを頼む」

弟子「分かりました」

武術家「いざ勝負!」サッ

女「…………」

女(こうなったら私も武術家のはしくれ……やるしかない)サッ

弟子「始めっ!」

武術家(攻めてこないな……誘ってるのか? では、俺から突く!)ダンッ

武術家「せいっ!」ヒュオッ

間合いを詰め、鋭い突きを放つ。

8: 2020/11/14(土) 14:10:22.315 ID:gIoh9ZpL0
すると――

女「…………」フワッ…

武術家(と……飛んだ!?)

武術家(まるで浮いてるような……なんて跳躍だ!)

スパァンッ!

蹴りが入る。

武術家「うぐっ……」ヨロッ

武術家「突き合いといっておいて蹴りでの攻撃……なんという高度な戦略! 素晴らしいッ!」

女「いや、違う……」

9: 2020/11/14(土) 14:12:38.912 ID:gIoh9ZpL0
武術家(飛ばせると厄介だな……ならば!)

武術家(ローキックで足を!)ヒュオッ

ビシッ!

女「くっ……」

武術家(今だッ!)ダッ

フワッ…

女が再び跳躍する。

12: 2020/11/14(土) 14:14:25.826 ID:gIoh9ZpL0
――スパァンッ!

武術家「うぐはっ!」ドザッ

弟子「師匠!」

武術家「空手なら“一本”というところだろうな……」

武術家「俺の負けだ」

女「いや、私の負けだ」

弟子「え……え!?」

14: 2020/11/14(土) 14:17:28.734 ID:gIoh9ZpL0
女「ローキックの直後、お前は私の顔面に拳を入れられたろうに、躊躇した」

女「あれがなければ私は負けていた。私の負けだ」

武術家「いや、武術で“たられば”は意味がない」

武術家「あそこでためらったのは俺の弱さ……やはり俺の負けだ」

女「いや、私の負けだ」

武術家「俺の負けだ」

女「私の負けだ」

武術家「俺の負けだ」

女「私」

武術家「俺」

弟子「まあまあ、二人とも! 引き分けでいいじゃないですか!」

17: 2020/11/14(土) 14:20:20.069 ID:gIoh9ZpL0
……

女「私はこれで」

武術家「ああ、気をつけて帰ってくれ」

女「今日は……楽しかった」

武術家「俺もだよ! また突き合おう!」

女「…………」コクッ

道場から立ち去る。

弟子「なんだったんですか、あの人? なんでこの道場に?」

武術家「俺と戦いたくてここまで来てくれたのだろう。光栄なことだ」

弟子(そうかなぁ……別の目的で来た気がしてならない……)

18: 2020/11/14(土) 14:23:07.587 ID:gIoh9ZpL0
次の日――

<道場>

武術家「突きは槍の如く! 手刀は剣の如く! 蹴りは斧の如く!」

弟子「突きは槍の如く! 手刀は剣の如く! 蹴りは斧の如く!」

“手足を武器のように”という信念の元、拳足を繰り出す師弟。

武術家「うん、だいぶ上達したな」

弟子「ありがとうございます!」

ドンドン

武術家「ん?」

20: 2020/11/14(土) 14:25:05.662 ID:gIoh9ZpL0
武術家「君は……」

女「また来てしまった」

武術家「いやいや、大歓迎だよ。さあ、一緒に稽古しよう!」

女「ありがとう」

武術家「よし、三人で交互に組み手だ」

弟子「はいっ!」

22: 2020/11/14(土) 14:28:14.031 ID:gIoh9ZpL0
……

武術家「君の跳躍力は凄まじいな」

武術家「訓練の成果もあるだろうが、天性のものを感じる」

女「私の家系は天狗の末裔ともいわれている」

弟子「天狗ってあの、鼻が高くて、空を飛び回る?」

女「本当かどうかは分からないがな」

武術家「天狗の末裔……いいなぁ。俺もなにかの末裔だったらな」

弟子「なにか希望はあります?」

武術家「……ドラゴン」

弟子(まさかの海外!)

23: 2020/11/14(土) 14:30:17.135 ID:gIoh9ZpL0
女「この跳躍力を生かし、私の家も田舎で道場を営んでるのだが」

女「細々とした生活なので、私の兄はそれに嫌気がさし、家を飛び出してしまった」

女「私も家を出てから探しているのだが、どこで何をしているやら」

武術家「君のお兄さんも、すごい跳躍力なんだろうね?」

女「それはもう」

武術家「いずれ手合わせしてみたいものだ」

24: 2020/11/14(土) 14:33:40.393 ID:gIoh9ZpL0
女「お前はここで道場経営を?」

武術家「ああ、父から免許皆伝をもらってから、資金を集めここに道場を建てた」

武術家「健康のために拳法を習いたい人も多く、少しずつ門下生も集まってきている」

弟子「師匠は一流の武術家ですからね!」

女「いい師弟だな、お前たちは」

武術家「弟子のご両親は非常に忙しく、それでいっそ道場に住んだらと、内弟子になってもらったが」

武術家「あれこれ手伝いをしてくれて、逆に助けられてしまってるよ」

弟子「父さん母さんのことは大好きですけど、ボクは師匠を二人目の父さんとも思ってます!」

女「なら、私のことは二人目の母さんと思ってくれ」

弟子「はいっ!」

弟子(……って、真顔ですごいこというな、この人!)

武術家「母さんか、弟子も喜ぶ」

女「だろう」

弟子(二人とも、意味するところを全く気づいてないし!)

25: 2020/11/14(土) 14:35:26.413 ID:gIoh9ZpL0
ある日――

武術家「では稽古始めっ! 突きは槍の如く!」

「えいっ!」 「せやっ!」 「たあっ!」

中年「せやぁっ!」

中年「ふぅ、ふぅ……」ヨロヨロ

武術家「おっと、無理をなさらず。体を壊さないようにするのもまた武術です」

中年「これはどうも……」



女「活気があるな。いいことだ」

弟子「一般稽古の日はこれぐらい人が集まるんですよ」

弟子「ただ、最近は駅前に新しく出来た格闘ジムの影響で、あまり入門者が来なくって……」

女「焦ることはない。彼なら道場を潰すようなことはないだろう」

弟子「そうですよね」

26: 2020/11/14(土) 14:38:18.125 ID:gIoh9ZpL0
弟子「お疲れ様です! ドリンクをどうぞ!」

女「ありがとう」

弟子「前から聞きたかったんですけど、あなたは師匠と試合するためにここに来たんですか?」

女「……いや、違う」

女「これを渡すためだ」サッ

弟子「“つき合ってください”……これラブレターじゃないですか!」

女「…………」コクッ

女「だが、“突き合う”と勘違いされてしまった」

弟子「師匠は重度の武術脳ですからね……」

弟子「あおぐ扇は奥義、食べる葡萄は武道、と変換するなんて日常茶飯事ですから」

27: 2020/11/14(土) 14:40:52.149 ID:gIoh9ZpL0
弟子「きっかけは?」

女「私はどこかに兄が出てやしないかと、武術や格闘技の雑誌をよく読むのだが――」

女「そこで武術家の記事を見てな」

弟子(そういえば、取材を受けたことがあったな。『町の小さな道場主』って特集で)

女「今時珍しいストイックな姿勢に、一目で気に入ってしまった」

女「道場を覗いたら、彼は私の思った通りの武術家だった。好きになってしまった」

弟子(やっぱりこの人は、師匠のことが好きだったんだ!)

弟子「だったら誤解を解いた方が……」

女「いや、いいんだ。このままで」

女「今のままでも十分楽しい」

弟子「それならいいですけど……」

28: 2020/11/14(土) 14:43:22.586 ID:gIoh9ZpL0
一方――

弟子「師匠は女さんのことをどう思ってますか?」

武術家「とても素晴らしい武術家だと思ってるよ」

弟子「…………」

武術家「だが、なぜだろうな。彼女のことを想うと……試合とはまた違う高揚感が生まれるのだ」

武術家「稽古などしなくてもいい。“ただ一緒にいたい”と思ってしまうんだ」

武術家「こんな感情を抱くのは初めてだ。道場経営の不安さから、精神がたるんでしまったのだろうか」

弟子「…………!」

弟子「違いますよ! 師匠、それは恋ですよ!」

武術家「恋?」

29: 2020/11/14(土) 14:46:01.976 ID:gIoh9ZpL0
武術家「そうか! これが……これが“初恋”というものかッ!」パァァァ…

弟子「ず、ずいぶん遅いですね……」

武術家「お前の初恋はいつだ?」

弟子「多分小学校の時、クラスメイトに……」

武術家「早いッ!」

武術家「うむむ……この分野ではお前にだいぶ後れを取ってしまったということか……」

武術家「師匠として、なんたる恥辱ッ!」

弟子「恥辱って……口に出して使う人初めて見ましたよ」

武術家「この分野においてはお前を師と仰ごう。俺はどうすればいい?」

弟子「そうですねえ……」

30: 2020/11/14(土) 14:48:16.205 ID:gIoh9ZpL0
弟子「そうだ、デートでも申し込んでみたらどうです?」

武術家「デート? ようするに逢引きか」

弟子「師匠はいつの時代の人ですか」

弟子「例えば、手を繋いでみるとか」

武術家「手を!? そんな……女性と手を繋ぐなどとんでもない! セクハラになってしまう!」

弟子「今まで散々組み手してるじゃないですか。拳で胸だって触ったでしょう」

武術家「しかし、女性を殴るならともかく、手を繋ぐなどあってはならんこと……」

弟子「普通、逆ですよね」

弟子「師匠、行動あるのみですよ!」

武術家「うむ……やってみるか!」

32: 2020/11/14(土) 14:51:22.562 ID:gIoh9ZpL0
……

武術家「今日も稽古に付き合ってくれてありがとう」

女「いや、私も好きでやってることだ。強くなりたいからな」

武術家「と、ところで……」

女「ん?」

武術家「今度の日曜日、逢引き……じゃなくデート……でもどうだろうか?」

女「いいぞ」

武術家「ありがとう!」



弟子(頑張りましたね……師匠! よかったですね、女さん!)

33: 2020/11/14(土) 14:54:45.397 ID:gIoh9ZpL0
日曜日――

<駅前>

武術家「…………」

武術家(ここで待ち合わせだが、ものすごく緊張してきたぞ……。初めて人と試合する時もここまでは……)

武術家(汗が噴き出る……心臓が高鳴る……震えが止まらん……)

武術家(いかんいかん! もし今、何者かに襲撃されたらひとたまりも――)

女「待たせた」

武術家「オワァッ!」ババッ

女「?」

35: 2020/11/14(土) 14:57:07.597 ID:gIoh9ZpL0
武術家(いつもと違う服装だから、驚いてしまった)

武術家「えーと……えーと……」

弟子『服を褒めてあげた方がいいですよ』

武術家(弟子よ、アドバイスをありがとう)

武術家「いい服装だねッ!」

女「そうか」

武術家(特に効果なしッ!)

女(オシャレしてよかった。嬉しいな……)

36: 2020/11/14(土) 14:59:21.518 ID:gIoh9ZpL0
女「あの建物は……」

武術家「最近、新しくできたジムでね」

武術家「設備も充実してるようだし、今時の若い子たちはみんなあっちに行ってしまうようだ」

女(弟子君がいっていたジムか)

女「ならば、私たちで乗り込むか? ジムで演武でも披露すれば、こっちに来る者もいるかもしれない」

武術家「いや、あっちはあっちだ。名声目当てに、波風立てるようなことは起こしたくない」

女(いらぬ争いはしないか……やはり素晴らしい武術家だ)

37: 2020/11/14(土) 15:01:59.394 ID:gIoh9ZpL0
弟子『デートはとりあえず映画でも……』

武術家「ここらで活動写真……じゃなかった、映画でもどうだろうッ!?」

女「いいぞ」



<映画館>

映画『この拳で成敗してくれよう、悪党ども!』

映画『アチョーッ! ホワターッ!』ドカッ! バキッ!

武術家「おおっ……!」

女「この技、やってみたい……」

38: 2020/11/14(土) 15:04:21.838 ID:gIoh9ZpL0
……

武術家「いい映画だったね」

女「ああ、楽しかった」

武術家「ちょっと動きを再現してみようか。最後の主人公と悪の親玉との戦いを」

女「面白い」

向かい合い――

バババッ! シュバッ! シュババッ! バババッ! ババッ!



オォ~……!

「すげえ動き!」 「なに、あの二人?」 「アクション俳優?」

ザワザワ…

39: 2020/11/14(土) 15:07:09.511 ID:gIoh9ZpL0
……

武術家「ここの牛丼は美味でタンパク質が豊富なんだ」モグモグ

女「うん、おいしい」モグモグ

武術家「プロテインをかけるとなお最高なんだが……む?」



外で――

DQN「おっさん、金出せよぉ~」

金髪「俺ら格闘技やってんのよ? 病院暮らしは嫌でしょ~?」

会社員「ひいい……見逃して下さい……」

40: 2020/11/14(土) 15:09:50.881 ID:gIoh9ZpL0
武術家「何をしているッ!」

DQN「あ?」

女「人から金銭をたかるというのは感心しないな」

金髪「なんだてめえら……!」

武術家「通りすがりの武術家だ」

DQN「上等だよ。腕試しにゃもってこいだ!」ダッ

金髪「オラァッ!」ダッ

武術家(この二人の動き……素人ではない!)

41: 2020/11/14(土) 15:11:43.475 ID:gIoh9ZpL0
しかし――

武術家「ハッ!」ブオッ

バチッ!

DQN「ぶげっ!」

パンチ一閃。

女「…………」フワッ…

スパァンッ!

金髪「あぎゃっ!」

鮮やかな飛び蹴り。

DQN&金髪「いででで……! 参りましたぁ~!」タタタッ…

43: 2020/11/14(土) 15:15:17.459 ID:gIoh9ZpL0
武術家「大丈夫ですか?」

会社員「ありがとうございます……」

会社員「このところ、ああいう輩が増えてるらしく、警戒はしてたんですが……」

武術家「ああいう輩というと?」

会社員「腕試ししたいっていう若者が、喧嘩したり、悪さしたりという事件が増えてるんですよ」

会社員「まったく、戦国時代じゃあるまいし……」

武術家「…………」

……

武術家「今日はここらでお開きにしようか」

女「楽しかった」

こうして、初デートは終わった。

45: 2020/11/14(土) 15:17:39.992 ID:gIoh9ZpL0
<道場>

弟子「師匠、お帰りなさい。デートはどうでした?」

武術家「大成功だ」

武術家「二人で映画を見たり、組み手をしたり、暴漢を倒したり……」

弟子「2/3がデートって感じじゃないですね」

弟子「ところで、手は握りました?」

武術家「…………ッ!」

武術家「忘れていたッ! 一生の不覚ッ!」

46: 2020/11/14(土) 15:20:20.031 ID:gIoh9ZpL0
……

<道場>

武術家「おや? その包帯はどうしました?」

中年「実は息子から、家庭内暴力を受けてしまって……」

武術家「暴力を……!」

中年「駅前の格闘ジムに通ってから、そのせいかは知らないが、このところ気性が荒くなって……」

中年「注意しようとしたら……殴られてしまった」

中年「体を鍛えて気が大きくなってるんだろうが、こんなことなら通わせるんじゃなかったよ」

武術家「…………」

武術家(駅前の格闘ジム……。ずっと気になってはいたが、一度訪ねてみるか……)

47: 2020/11/14(土) 15:23:11.985 ID:gIoh9ZpL0
<格闘ジム>

武術家「すいません、見学したいのですが」

受付「おや? 失礼ですが、あなたはこの町で道場を開いている方ですよね?」

武術家(俺のことを知ってるのか)

受付「あいにく当ジムは“同業者の方とは関わらないようにする”という経営方針でして」

受付「例えば、“どっちが強いか”というようなトラブルに発展しかねませんからねえ」

受付「申し訳ありませんが、お引き取り下さい」

武術家(うーむ、それらしい理由ではあるが……)

48: 2020/11/14(土) 15:26:18.511 ID:gIoh9ZpL0
<道場>

武術家「……というわけだったのだ」

弟子「だったらボクが入門しますよ!」

武術家「お前が?」

弟子「はい、さすがにボクみたいな子供を知ってるってことはないでしょうし……」

武術家「しかしなぁ……間諜のような真似をさせるのは……」

弟子「だけど、このままじゃ師匠も納得いかないでしょう」

弟子「それに、ボクも師匠のお役に立ちたいんです! お願いします!」

武術家「分かった……では、入門してどんな稽古をしてるのか、調査してくれるか」

弟子「はいっ!」

49: 2020/11/14(土) 15:29:03.687 ID:gIoh9ZpL0
弟子の入門はあっさり認められた。

<格闘ジム>

弟子(設備は充実してるなぁ。高そうなトレーニング器具がいくつもある)

弟子(ただ教え方が――)

指導員「武術・格闘技は使わなければ意味がない!」

指導員「鍛えた体を思う存分振るってみたい、それは当然の欲求なのである!」

弟子(なんだか、格闘技を積極的に使えって煽ってるような……)

51: 2020/11/14(土) 15:31:21.983 ID:gIoh9ZpL0
指導員「君は今日が初めてだったね」

弟子「はい」

指導員「じゃあさっそく、組み手をしてもらおうか」

弟子「え、いきなりですか?」

指導員「積極的に実戦させて、自信と度胸をつける! それが当ジムの方針だからね」

弟子「分かりました」

弟子(師匠なら、絶対こんなことしないだろうな……)

52: 2020/11/14(土) 15:34:15.207 ID:gIoh9ZpL0
指導員「じゃあ、君と君で」

弟子「よろしくお願いします」ペコッ

ピアス「へっへっへ、ボコにしてやる……」パキポキ

指導員「始めッ!」

ピアス「オラァッ!」シュッ

弟子(見える……)サッ

弟子(蹴りは……斧の如く!)

バシッ!

ピアス「あぐっ!?」

蹴りで動きを止め――

弟子「せやっ!」ピタッ

正拳突きの寸止めで決着。

53: 2020/11/14(土) 15:36:24.376 ID:gIoh9ZpL0
その後も――

弟子「はっ!」ドゴッ!

「ぐはぁっ!」

弟子「だりゃあっ!」バキッ!

「ま、参った……!」

組み手で勝利を重ねる。



オーナー「彼……いいねえ」

指導員「ええ、まだ中学生ぐらいでしょうに、高校生にも勝っています」

オーナー「ああいう素材を逃す手はない。特別コースに案内しよう」

指導員「特別コースに? まだ初日ですよ?」

オーナー「鉄は熱いうちに打て、というやつさ」

54: 2020/11/14(土) 15:38:19.130 ID:gIoh9ZpL0
指導員「君、素晴らしい動きだよ。君には素質がある!」

弟子「ありがとうございます」

弟子(これも師匠と稽古してきたおかげだ……)

指導員「君は……武術や格闘技を世の中でもっと生かしたいとは思わないかね?」

弟子「それは思いますけど……」

指導員「だったらぜひ特別コースに入門してみないか? 君はもっと強くなれる!」

弟子(“特別コース”……?)

弟子「……お願いします!」

55: 2020/11/14(土) 15:41:16.268 ID:gIoh9ZpL0
案内された部屋には、大勢の若者が集められていた。

師範「ようこそ、諸君」

「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」

弟子(この人、さっきの指導員よりずっと強い!)

師範「君たちは選ばれた存在だ……。君たちには真実を教えねばならない」

師範「武術・格闘技は使ってこそ輝く!」

師範「飾られた名刀になんの価値がある? 刀は振るわねば意味がないのだ!」

「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」

弟子(なんだこれは……)

56: 2020/11/14(土) 15:43:28.739 ID:gIoh9ZpL0
師範「現代社会は拳や蹴りを振るうことを忌避する世の中になっている……」

師範「体罰は禁止され、子供同士の取っ組み合いの喧嘩すら許されない。嘆かわしいことだ」

師範「だからこそ、格闘技なのだ!」

師範「格闘技を習えば、そういった暴力に免疫のない連中に優位に立てる!」

師範「奴らは殴られれば何もできず、怯えるだけだ! 積極的に殴れ! 蹴れ!」

師範「法律など恐れるな! 弁護士ごと打ち倒せばよい!」

「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」

弟子「…………!」

弟子(なにをいってるんだ……。暴力を焚きつけて……師匠の危惧した通りじゃないか!)

58: 2020/11/14(土) 15:46:14.238 ID:gIoh9ZpL0
師範「ガラスを割る時は……肘をこの角度で!」パリィンッ!

師範「人の物をかすめ取る時は……こう!」シュッ

師範「衣服を掴まれた時は、こうやって指を折る! 一瞬で折れるぞ!」グイッ

オォ~……

「すげえ……!」 「誰かに試してみたいな」 「あんな簡単に折れちゃうんだ」

弟子(教える技の内容も、ほとんど犯罪指南だ……!)

弟子(これが終わったら、すぐ師匠に知らせないと!)

59: 2020/11/14(土) 15:49:10.781 ID:gIoh9ZpL0
<道場>

武術家「……やはり、そういうことか」

弟子「まずは普通にジムで稽古させ、見込みのある人は“特別コース”に案内してるようです」

弟子「それと、このプロテインをもらったんですけど……」

武術家「…………」ペロッ

武術家「うむう……なんて粗悪なプロテインだ!」

弟子(ひと舐めで見抜いた!)

武術家「しかも、興奮剤のようなものが混ぜてある。こんなものを飲んだら、気が荒くなる気に決まってる!」

弟子「やっぱり!」

武術家「これは……放っておくわけにはいかんな。すぐ抗議しに行く!」

60: 2020/11/14(土) 15:52:21.792 ID:gIoh9ZpL0
<格闘ジム>

武術家「ここのオーナーに会いたいッ!」

受付「またあなたですか。トラブルの原因になるので……」

武術家「トラブルを引き起こしてるのはどっちだ?」ギロッ

受付「ひっ!」ビクッ

武術家「もう一度いおう。オーナーに……会わせてもらおう」

受付「わ、分かりました……!」

弟子(いつも温和な師匠が……明らかに怒ってる!)

61: 2020/11/14(土) 15:54:27.146 ID:gIoh9ZpL0
オーナーと師範が現れる。

オーナー「あなたの武名は存じております。わざわざお越し下さるとは光栄だ」

オーナー「あなたに一目置く著名な格闘家もいらっしゃるとか……」

武術家「おべんちゃらはいい」

武術家「このジムは、武術を暴力の手段として使うことを奨励したり、興奮剤入りのプロテインを提供したりしている」

武術家「どういうことか説明してもらおう!」

オーナー「ああ、そちらの子はあなたのお弟子さんだったわけですか。どうりで強いわけだ」

武術家「話をはぐらかさないでもらいたい」

オーナー「せっかちな方ですね。よろしい、お答えしましょう」

62: 2020/11/14(土) 15:57:07.336 ID:gIoh9ZpL0
オーナー「あなたのおっしゃる通りです。当ジムでは武術・格闘技の積極使用を奨励しています」

オーナー「しかし、それの何がいけないのですか?」

オーナー「料理を覚えれば人に振る舞いたくなりますし、楽器を覚えれば演奏会をしたくなります」

オーナー「格闘技だってそういうものでしょう」

オーナー「上達した技術を、積極的に使うよう指導することの何が間違いなのですか?」

武術家「武術は正しく使わねば人を傷つけてしまう! だからこそ正しい心で教え、学ばねばならない!」

オーナー「ですが、世の中には正しい心を持たない暴力装置を欲しがる人も……」

師範「オーナー!」

オーナー「おっと喋りすぎましたか」

武術家「…………!」

武術家(そうか、分かった……)

武術家(このジムは、暴力を振るいたがる人員を養成・提供するための施設だったんだ!)

武術家(顧客はそれこそ裏社会や、下手すれば表の権力者も――)

63: 2020/11/14(土) 15:59:13.243 ID:gIoh9ZpL0
武術家「許せんッ!」

オーナー「許せないならどうするというんです? 警察に駆け込みますか。どうぞどうぞ」

オーナー「きっと、相手にもしてもらえないでしょうから」

武術家(この余裕……手を回してあるということか)

武術家「ならば……道場破りだ! ここの指導者に勝負を申し込む!」

武術家「俺のような輩も返り討ちにできないようでは、ジムの名声も地に落ちるだろう!」

オーナー「たしかに……そうかもしれませんね。では、この師範と対戦して頂きましょうか」

師範「お任せを」ズイッ

師範「返り討ちにして、ネットに写真バラ撒いてやる」

弟子(始まる……!)

65: 2020/11/14(土) 16:01:29.441 ID:gIoh9ZpL0
師範「犯罪を繰り返すことで極めた、俺の“犯罪拳法”を見せてやろう」ユラ…

武術家「…………」

師範「ゆくぞ!」ダンッ

師範(最速・最短距離にて物をかすめ取るスリ――)

師範(これを応用すれば、最速での心臓打ちが可能ッ!)ギュオッ

ガシッ!

突きはあっさり掴まれていた。

師範「あ、あれ……?」

武術家「この程度か」

師範「い、いだいっ! はなせッ!」ミシミシ…

66: 2020/11/14(土) 16:05:13.619 ID:gIoh9ZpL0
武術家「突きは……槍の如く!」

バキィッ!

師範「ぶげえっ! あがっ……はにゃがっ……!」

鼻血を出し、もだえる。

弟子(あの師範もかなりの強さなのに……! 師匠……!)グッ

武術家「もし、このことが広まれば、ジムの練習生はみんな呆れてしまうだろうな」

オーナー「やりますね」ニコッ

オーナー「しかし、こいつなどいってみれば“表向きの道場のトップ”に過ぎません」

オーナー「素人を鍛えるなら、こいつ程度で十分ですしね」

武術家「どういうことだ?」

オーナー「私とて、あなたのような正義漢ぶった格闘家が来ることは予想していました」

オーナー「こういう時のためにちゃんと“用心棒”を用意してるのですよ」

67: 2020/11/14(土) 16:08:12.899 ID:gIoh9ZpL0
現れたのは――

天狗面「…………」

大男「やーっと出番かよォ!」ズシン

細身「ヒヒヒ……」

天狗の面をつけた男、2メートルはありそうな巨漢、長い手足を持つ細身の男。

武術家「…………」

弟子(なんだか凄いのが出てきたぞ……それも三人も!)

弟子(だけど見た目以上に……恐ろしいほどの強さを感じる……!)

オーナー「この三人に勝てたら、この格闘ジムの敗北を認めてあげましょう」

武術家「約束は守れよ」

武術家「さぁ、かかってこいッ!」バッ

68: 2020/11/14(土) 16:10:28.687 ID:gIoh9ZpL0
細身「ヒヒヒ……俺から」ヒュルッ

腕に絡みつくように、関節技を仕掛ける。

武術家「ぐっ!? ――くおっ!」ババッ

技に逆らわぬよう、素早く抜け出す。

細身「おっ、やるゥ! 関節技知ってるじゃんか!」

武術家(反応が遅かったら折られてた……!)

大男「次は俺だァ!」

ドゴォンッ!

力任せのパンチ。

武術家「ぐおっ……!」ミシミシ…

武術家(両者とも、さっきの師範より遥かに強い!)

69: 2020/11/14(土) 16:13:04.665 ID:gIoh9ZpL0
天狗面「二人とも、待て」

大男&細身「!」

天狗面「三対一などつまらん……俺一人でやろう」

大男「お前が戦いたがるなんて珍しいな。“面食い”ならぬ“強食い”なのによ」

細身「ヒヒヒ、一目で気に入っちまったか?」

武術家(体格は俺と同じぐらい……が、強いッ!)バッ

天狗面「始めよう」

武術家「いざ勝負ッ!」

弟子(ものすごい緊張感だ……!)

70: 2020/11/14(土) 16:15:12.122 ID:gIoh9ZpL0
武術家「はああああっ!」

ガッ! ドガッ! ガガッ!

拳でのラッシュからの――

武術家(斧の如く!)

ズドォッ!

蹴りがクリーンヒット。

天狗面「む……!」

天狗面「ならば……舞うとしよう」ブワッ!

武術家(飛んだッ!?)

71: 2020/11/14(土) 16:17:21.052 ID:gIoh9ZpL0
ドゴォッ!

武術家「…………ッ!」ビリビリ…

武術家(凄まじい飛び蹴りだ……!)

天狗面「よく防いだな。今まで大抵の敵が、これ一発で終わってたというのに」

武術家(彼女との訓練がなければ、防げなかった……)

天狗面「だが、二度目はない」ブワッ!

バキィッ!

今度は蹴りをほぼ完璧に防ぐ。

武術家(よし、これさえ防げば空中では無防備のはず――)

72: 2020/11/14(土) 16:19:24.632 ID:gIoh9ZpL0
ガゴォッ!

顎を蹴り上げられた。

武術家「ぐはっ……!(え……?)」ドザァッ!

弟子「師匠ッ!?」

武術家(動けない……! 立てない……!)ガクガク

武術家(空中で……二度……蹴りを……)ガクガク

天狗面「こんなものだろう」

大男「やっぱりあんたは強えや……ケタが違う」

細身「俺たちも、あれでやられたクチだからな……」

弟子「師匠ォッ!」

73: 2020/11/14(土) 16:22:08.849 ID:gIoh9ZpL0
オーナー「よくやってくれた! さあ、トドメを刺せ! 二度と武術などできない体にしてやれッ!」

天狗面「分かった」

弟子「待てっ!」バッ

天狗面「ん……」

弟子「次はボクが相手だ! かかってこい!」

天狗面「…………」

弟子「…………?」

天狗面「小僧、とっととそいつを連れて帰れ」

弟子「え……」

74: 2020/11/14(土) 16:24:39.022 ID:gIoh9ZpL0
オーナー「なにをいってるんだ! トドメを――」

天狗面「俺たち三人はあくまで金で雇われてるだけ。お前の手下になった覚えはない」

オーナー「ぐ……!」

弟子「師匠!」ガシッ

武術家「う、うぅ……」ズルズル…

天狗面「それにしても――」

天狗面「弟子にかばわれるとは、情けない師匠もあったものだ」

武術家は弟子に連れられ、格闘ジムを後にした――

75: 2020/11/14(土) 16:27:18.841 ID:gIoh9ZpL0
<病院>

武術家「…………」

女「体調はどうだ?」

武術家「さいわい顎は割れていなかった。すぐ退院できそうだ」

女「よかった」

女「しかし、お前を倒すとは恐ろしい強さだ。どんな相手だったか教えてもらえるか?」

武術家「ああ……君には話しておきたい。あの男は――」

76: 2020/11/14(土) 16:30:52.471 ID:gIoh9ZpL0
女「…………」

女「間違いない……それは兄だ」

武術家「やはりそうか……。あの跳躍……すぐに君を思い出した」

武術家「手合わせしたいとはいったが、こんな形になるとは……」

女「妙な面をつけてるのは、自分の跳躍の誇示と、文字通り天狗になってるからだろう」

女「よりによって悪徳ジムの用心棒とは。妹として呆れ果てる」

武術家「しかし、強さは本物だった。仲間の二人も……」

女「武術をやってる以上、負けることは当然ありえる。気にするな」

武術家「分かってる。いちいち悔しがっていては前に進めない」

武術家「だが、俺は未熟だ……」

77: 2020/11/14(土) 16:33:05.718 ID:gIoh9ZpL0
天狗面『弟子にかばわれるとは、情けない師匠もあったものだ』

武術家「悔しい……!」

武術家「悔しくてたまらない……ッ!」ギリッ

女「私たちは武術家だ。敵わなかったのなら修行すればいい。一緒に修行しよう」

武術家「……ありがとう」



弟子「…………」

弟子(師匠……。ものすごく落ち込んでたけど、立ち直れそうだ)

弟子(あの人がいてくれて本当によかった……)

79: 2020/11/14(土) 16:36:06.230 ID:gIoh9ZpL0
退院するとさっそく――

<道場>

武術家「せやぁっ!」ダッ

女「…………」フワッ…

スパァンッ!

武術家「ぐっ……!」

女「蹴り足を目で追いすぎだ」スタッ

武術家「いかんいかん。君の跳躍を見てると、つい見とれてしまって……」

女「……バカ」

80: 2020/11/14(土) 16:38:10.032 ID:gIoh9ZpL0
女「夕食ができたぞ」

武術家「おおっ、うまそうだ!」

弟子「ボクたち二人とも料理は苦手なんで、助かりますね」

弟子「いただきます!」

ガツガツ… ムシャムシャ…

武術家「おかわり!」

弟子「おかわり!」

女「二人とも、よく食べるな。いいことだ」

武術家「腹が減っては戦はできんからな!」

弟子「はいっ!」

81: 2020/11/14(土) 16:40:20.599 ID:gIoh9ZpL0
修行を繰り返し――

武術家「せやっ! はあっ!」

女「…………」フワッ

スパァンッ!

武術家「よし、だいぶ蹴りが見えてきた……」



門下生「先生、試合で負けちまったって聞いたけど、一段と気合入ってるねえ」

弟子「師匠は一度負けたぐらいで心が折れたりしませんから!」

82: 2020/11/14(土) 16:42:45.191 ID:gIoh9ZpL0
敗北から一月、傷も癒え――

武術家「…………」ギュッ!

武術家「行こう」

女「ああ」

弟子「はいっ!」

武術家「なんとしても用心棒たちを倒し……格闘ジムの野望を食い止めるんだ!」

ザッ…

85: 2020/11/14(土) 16:45:12.300 ID:gIoh9ZpL0
<格闘ジム>

オーナー「どうだ、指導のほどは?」

師範「バッチリです」

師範「特に特別コースの若者たちは、自分の格闘技を試したくてしょうがないようで……」

オーナー「よしよし。その調子で暴力を振るいたい若者を量産するのだ」

オーナー「ゆくゆくは裏社会を始め、数々の組織に兵として献上しよう」

オーナー「不良すら喧嘩をしなくなった今の時代、暴力に長けた手駒を欲している組織は多いからな」

オーナー「どんな金持ちだって殴られればケガするし氏ぬ。所詮、暴力に敵うカードはないのだ」

「たのもうッ!!!」

オーナー「な、なんだ!?」

86: 2020/11/14(土) 16:48:31.841 ID:gIoh9ZpL0
オーナー「……またあなたですか。しつこいですねえ」

武術家「当たり前だ。武術家として、お前たちのやってることを見過ごすことはできない!」

オーナー「あなたはせっかちな方ですから、さっそく彼らを呼び出しますよ」

すると――

天狗面「お前は……!」

女「捜したよ、兄さん」

天狗面「なぜここに……」

女「なぜはこっちの台詞だ」

87: 2020/11/14(土) 16:51:12.229 ID:gIoh9ZpL0
女「なぜ、こんな連中の用心棒になった」

天狗面「俺は自分の力をもっと試したくて、家を飛び出した」

天狗面「だが、どいつもこいつも俺の蹴り一撃にも耐えられないか、試合を断る軟弱者ばかり」

天狗面「中には跳躍力を生かし、ショーのような試合をやってみないかと誘ってくる輩もいた」

天狗面「俺は失望した……。今の格闘家などこんなものかと」

天狗面「やがて、同じく優れた力や技を持ちながら、くすぶっていたこの二人と出会い――」

天狗面「自分の力を振るえる場所を探すうち、このジムで雇われたわけだ」

女「ようするに、光の当たる場所に上手く馴染めず、スネたわけか」

天狗面「兄に対する口のきき方じゃないな」

女「兄さん、お前は私が倒す」

天狗面「俺を倒す? 出来もしないことを口にするな」

睨み合う兄妹。

89: 2020/11/14(土) 16:54:07.284 ID:gIoh9ZpL0
オーナー「さてと、試合をする前にはっきりさせておきたいのですが――」

オーナー「敵であるあなたがたにこう何度もジムに出入りされては、たまったものではない。そこで――」

オーナー「この試合に負けたら、きっちり私の軍門に下ると約束して頂きましょうか」

武術家「俺は一度負けている……当然の要求だろう」

武術家「もし俺が負けたら、俺をどう扱ってもかまわん。用心棒だってやってやる」

武術家「その代わり、俺たちが勝ったら、ジムのあり方を改めてもらおうッ!」

オーナー「約束しましょう」ニコッ

弟子「師匠……」

武術家「心配するな。俺は勝つ」

大男「おうおう、あんな惨敗しておいて、大きく出やがったな! デカイことはいいことだぜェ!」

細身「ヒヒヒ、俺たちもナメられたもんだな」

91: 2020/11/14(土) 16:56:20.533 ID:gIoh9ZpL0
ジムの練習生が大勢見守る中、試合が始まる。

オーナー(ここで奴らを叩きのめせば、練習生はさらに暴力に憧れる……! 極上のショーだ!)

大男「よーし、こっちは俺が出るぜェ!」ズンッ

武術家「俺が行こう」

大男「レフェリーなんざいらねえよな? どっちかが参ったするか、動けなくなるまでだ」

武術家「いいだろう」

弟子「師匠……頑張って下さい!」

女(負けるな……武術家)

92: 2020/11/14(土) 16:58:21.985 ID:gIoh9ZpL0
大男「お前んとこの道場では、自分の手足を剣や斧だと思うんだったよなァ?」

武術家「ああ、そのつもりだ」

大男「だったら俺は……核兵器だ!」

武術家「!?」

大男「おおりゃあっ!!!」ドドドッ

ドゴォッ!

武術家「ぐっ……!」ビリビリ

ガードした腕がきしむ。

武術家「核兵器とは……! スケールが違いすぎる……ッ!」

弟子「いやいや! ホントに核兵器だったらボクらみんな氏んでますって!」

93: 2020/11/14(土) 17:00:47.892 ID:gIoh9ZpL0
武術家「せやぁっ!」ドゴッ!

大男「ぬるいぜェ!」

ズガァッ! ドガァッ! ドゴォッ!

大男の猛攻。

武術家(規模は問題ではないのだ……この巨漢は本当に自分が核兵器だと思っている!)

武術家(だからこんなにも思い切った攻撃ができる!)

武術家(俺は……自分の拳足をここまで信頼しているか?)

武術家(剣の如く槍の如くといいつつ……本当に思えているか?)

大男「スキありィッ!」

ドゴォンッ!

強烈なハンマーパンチが炸裂。

武術家「ぐはっ……!」ドサッ

94: 2020/11/14(土) 17:03:24.208 ID:gIoh9ZpL0
武術家(俺は――)



少年『ねえ父さん、どんなに鍛えたって、結局武器には敵わないんでしょ?』

父『かもしれないな。ワシだって頭を銃で撃たれたら氏ぬだろう』

少年『だったらこんな稽古なんかせず、武器持った方が早くない? 余った時間は遊べるし』

父『一理はある。だが、武器術にだって訓練はいるし、それにそんな考えでは“つまらない”だろう?』

少年『つまらない……』

父『鍛えた体で強大な敵に挑む方がずっと楽しい。少なくともワシはそう思うから、素手で武術をやっとるんだ』

父『ってあまり答えになっとらんな。ワッハッハ』



武術家(父さん……)

武術家(父さんのいうとおりだ……俺、今楽しいよ)

95: 2020/11/14(土) 17:06:12.308 ID:gIoh9ZpL0
武術家「うおおおっ……」ググッ…

大男「立ちやがった……!」

武術家「俺はたとえ相手が核兵器でも……この五体で戦ってみせる!」

大男「へっ、そうこなくちゃなァ!」ドドドッ

武術家(落ちつけ……パワーはあるが、攻撃は単調だ!)スゥゥゥ…

武術家(突きは……槍の如く!)

ドズゥッ!

大男「ぐおぉっ!」

武術家(手刀は……剣の如く!)

ザクッ!

大男「ぐあっ……!」

弟子(筋肉の薄い急所を的確に狙ってる!)

96: 2020/11/14(土) 17:08:25.380 ID:gIoh9ZpL0
武術家(蹴りは……斧の如く!)ブワオンッ!

ドガァッ!

回し蹴りが顔面にヒット。

大男「ぐおあっ……」ズズン…

武術家「…………」ババッ!

オーナー「なっ!? おい、立てッ! 立ち上がれ!」

天狗面(無理だ。いかに大男のタフネスでも、今のを喰らっては――)

立ち上がることはできず――

ドヨドヨ…

弟子「師匠、やりましたね!」

武術家「ああ!」

女「すごい連続攻撃だった。惚れ直したぞ」

武術家「これはどうも……」ポッ…

97: 2020/11/14(土) 17:10:24.235 ID:gIoh9ZpL0
細身「やるじゃあねえかよ。ヒヒヒ……次は俺だ」ヌウッ…

女「私が行こう」

細身「女だろうと手加減はしねえぜェ!」ヒュルッ

女「…………」フワッ

スパァンッ!

飛び蹴りがヒット。

武術家(いつもながら華麗な蹴りだ!)

細身「うぐっ……!」

女「…………」スタッ

細身「だけどォ~、軽いッ!」

98: 2020/11/14(土) 17:13:10.803 ID:gIoh9ZpL0
細身「そこだっ!」シュルルッ

女「!」

細身「ヒヒヒ……」

ガシィッ! メキメキ…

絡みつくように、女の全身を固めてしまった。

細身「俺の流派は、この細身と軟体を生かした“触手拳”! ヒヒヒ、もう抜けれまい!」

女「く……」ギリギリ…

細身「こいつはお前の妹だそうだが……折っていいのか?」

天狗面「かまわん」

細身「なら……遠慮なくゥ!」グインッ

ボグッ!

右腕が折り曲げられる。

99: 2020/11/14(土) 17:15:48.729 ID:gIoh9ZpL0
弟子「ああっ……!」

武術家「くっ……(あの体勢から骨を折るとは……!)」

女「…………ッ」

細身「ヒヒヒ……女の骨折るのは初めてだぜぇ。俺の勝ちだな」

女「勝ち……? 私はまだ戦えるぞ……」

細身「おいおい、悪あがきすんなよ。お前はまだ俺に捕まってるんだぜ? これ以上は拷問になっちまう」

女「お前が体重が軽くてよかった……」

細身「?」

女「これなら――」

100: 2020/11/14(土) 17:18:05.222 ID:gIoh9ZpL0
女「これならこのまま飛べる」グッ…

ブワッ!

細身に絡まれたまま、飛び上がった。

細身「ヒッ!?」

細身(こいつ……女のくせになんてぇ脚力! くそっ、あいつの妹だってのに油断した!)

細身(このままじゃ頭から落とされる! 仕方ない、一度放すしかねえ!)シュルルッ

バッ!

101: 2020/11/14(土) 17:20:17.639 ID:gIoh9ZpL0
――が、これこそが狙い。

女は渾身の蹴りを放つ。

女(斧の如く――)

女「はあっ!!!」

ドゴォッ!

細身「お、重……ッ」グラッ…

ドザァッ…

弟子(今のは……師匠の蹴りだ!)

武術家(見事……! 俺が彼女から学んだように、彼女もまた俺から学んでいた……!)

103: 2020/11/14(土) 17:23:10.798 ID:gIoh9ZpL0
ザワザワ…

細身「…………」ピクピク

天狗面「……勝負ありだ」

女「うぐっ……さあ、兄さん。これで二人とも破った。私と勝負だ」

天狗面「勝負? 笑わせるな」

女「!」

天狗面「お前は奴の油断を突いて勝っただけ……。それに片腕で俺に勝てると思ってるのか」

天狗面「予告しとこう。もしやるというなら、俺はお前の折れた腕を徹底的に狙う」

女「くっ……」

弟子(脅しじゃない……この人は本気だ!)

弟子(もしあの蹴りで、折れた腕を狙われたら……!)ゾクッ

104: 2020/11/14(土) 17:25:22.865 ID:gIoh9ZpL0
武術家「君は下がっていてくれ。彼とは俺がやる」

女「武術家……」

武術家「大丈夫、絶対勝つ!」

オーナー「お、おいっ! 大勢が見てるんだ! 絶対負けるんじゃないぞ!」

天狗面「無論だ……」



ザワザワ…

「いよいよだ……」 「あの二人が戦う!」 「どっちが強いんだ……?」

105: 2020/11/14(土) 17:27:44.736 ID:gIoh9ZpL0
武術家vs天狗面――

武術家「この間の借りを返させてもらう!」

天狗面「不可能だ。空を舞う天狗を撃墜することは誰にもできない」

ジリ… ジリ…

恐ろしいほどの緊張感に包まれる。

武術家(今!)

天狗面(今!)

動くのは同時だった。

106: 2020/11/14(土) 17:30:02.603 ID:gIoh9ZpL0
ドガガッ! バキッ! ガッ! パパァンッ!

重く素早い突きの応酬。

武術家「ハァーッ!」

バキャアッ!

天狗面「…………ッ!」ピシ…

パキィンッ!

面が割れ、女の兄の素顔があらわになる。

武術家「天狗の鼻、ヘシ折ったり!」

兄「やるな」

女(兄さん……やはり私が知る頃より顔が険しくなっている)

武術家「その面、後で弁償するッ!」

兄「いや、しなくていい」

107: 2020/11/14(土) 17:32:28.793 ID:gIoh9ZpL0
兄「行くぞ!」

ブワッ!

武術家(力強い跳躍ッ!)

武術家(女さんが無重力を漂うような跳躍としたら、こちらはまるでジェット機!)

武術家(だが、俺もこの一ヶ月――修行し直した!)

ドガッ! ズガァッ!

空中での二段蹴りを防ぎきる。

兄「ほぉ……」スタッ

武術家(よし……見えた!)

108: 2020/11/14(土) 17:34:20.209 ID:gIoh9ZpL0
ブワッ!

武術家(また飛ぶのか!)

ギュオッ!

蹴りが飛んでくる。もちろん、防ごうとするが――

バキィッ!

武術家「ぐあっ……!?」

兄「滞空時間が長いということは、蹴りの軌道をずらすこともできる」スタッ

ブワッ!

間を置かず、さらに跳躍。

武術家(いかん……次の蹴りを防ぐ手立てがないッ!)

109: 2020/11/14(土) 17:36:37.072 ID:gIoh9ZpL0
兄「ハァッ!」ブオンッ

武術家(どうするッ!?)

武術家(鍛え抜いてきた自分の拳足を信じろ!)

武術家(突きは……槍の如く!)

ズガァッ!

兄「ぐ……!?」ミシ…

飛び蹴りを、突きで迎撃する。

武術家「大男との戦いがなければ、この発想はできなかった――」

武術家「俺の拳足は核兵器とも戦える! 天狗を落とすぐらいなんてことはないッ!」

弟子(師匠の持つスケールが……さっきの戦いでぐっと広がったんだ!)

110: 2020/11/14(土) 17:38:43.019 ID:gIoh9ZpL0
兄「おのれ――」

ベシィッ!

再び飛ぼうとするところへ、ローキックが炸裂。

兄「ちっ……!」

武術家「せやぁっ!」

ドンッ!

正拳突きが胸にヒット。

兄「ぐほぉっ……ッ!」

女(兄さんが、ここまで追い詰められるのを初めて見た)

111: 2020/11/14(土) 17:41:17.577 ID:gIoh9ZpL0
兄「腕を上げたな……ここまでやるとは」

兄「ならば……この脚力で生み出せる最大の戦術を見せてやろう」グッ…

武術家「…………?」

ギュンッ!

武術家(速――)

ドゴォッ!

武術家「が、はっ……!」

凄まじい速さの突き。全く反応ができなかった。

112: 2020/11/14(土) 17:43:42.369 ID:gIoh9ZpL0
ズガァッ! ドゴォッ! ガッ! バキィッ! ズドォッ!

天狗の脚力から繰り出される猛ラッシュ。

武術家「ぐはっ……! ぐおっ……!」

ザワザワ…

武術家(凄まじい連撃だ……全身が砕けそうだ)

武術家(だが、やはり天狗は地上に降りるべきではなかったッ!)

ドゴォッ!

突きでのカウンター。

兄「ぐうっ……!」

弟子(打撃戦なら、師匠も負けてない!)

113: 2020/11/14(土) 17:45:37.039 ID:gIoh9ZpL0
間合いを詰め、殴り合いに持ち込む。

ガッ! ドカッ! ドゴォッ! バキッ! ゴッ!

武術家「……がはっ!」ヨロッ…

兄「……ぐっ!」グラッ…

武術家(勝機ッ!)

武術家「えいやぁっ!!!」ブオッ

渾身の突きを繰り出す。

武術家(消えた!?)

114: 2020/11/14(土) 17:48:01.440 ID:gIoh9ZpL0
ブワァッ!

突きをかわしつつ、今までで最大の跳躍。

兄「頭を砕いてくれるッ!」ブオンッ

武術家(手刀は……剣の如く!)

ガキィンッ!

武術家「ぐう……」メキボキ…

兄「!」

左手刀で蹴りを受け止め――

115: 2020/11/14(土) 17:50:21.589 ID:gIoh9ZpL0
右拳で――



ドゴォンッ!!!



兄「うぐ、はぁ……ッ!」ドザァッ…

撃墜された天狗は、立ち上がることができなかった。

兄「がふっ……! お前の……勝ちだ……」

武術家「いい試合が……できたよ……」



弟子「師匠……! やったぁぁぁ!」

女(兄さんを止めてくれてありがとう、武術家……)

116: 2020/11/14(土) 17:53:30.798 ID:gIoh9ZpL0
……

武術家「さあ……試合は俺たちの勝ちだ……」

武術家「これでもう、練習生たちを暴力にいざなうような真似は……」

オーナー「ンン~? なんのことかな?」

武術家「!」

オーナー「雇ってた用心棒が負けた……ただそれだけのことで、なんでジムの方針を変えねばならない?」

オーナー「ジムの方針を変えるつもりなどなぁい!」

オーナー「むしろ、我がジムに逆らう奴らが満身創痍になってくれてありがたい!」

オーナー「師範、今の奴らならやれるな?」

師範「もちろんです!」ニヤッ

武術家「貴様ら……ッ!」

オーナー「さあ、かかれっ! 練習生たちも、こいつらを全員で叩き潰すのだァ!」

118: 2020/11/14(土) 17:56:13.509 ID:gIoh9ZpL0
シーン…

オーナー「え?」

試合を見ていた練習生たちは――

「すげえ試合だった……!」

「人間って鍛えれば、あんなに動けるんだな!」

「武術を悪さに使おうなんてのが、なんだかバカバカしくなってきた!」

ワイワイ…

オーナー「な……!? ちょっ、お前ら……なにいってんの!? もしもーし!」

武術家「これは……」

弟子「師匠たちの戦いぶりが、みんなの目を覚ましたんですよ!」

女「一流の音楽は聴いた人間の心を洗い流すというが……」

女「一流同士の戦いが、図らずも皆の心を浄化させてしまったな」

119: 2020/11/14(土) 17:58:23.008 ID:gIoh9ZpL0
武術家「お前たちに同調する者はいなくなったな……さあ、どうする」

オーナー「う、うぐぐ……くそっ、こんなはずじゃ……どいつもこいつも……」

オーナー「ぐぞぉぉぉっ……!」ダッ

師範「ま、待って下さいぃ!」ダッ

敗北を悟り、逃げて行く二人。

武術家「…………」

武術家「終わった……か」ガクッ

ドサァッ…

弟子「師匠ッ!」

女(やはりギリギリの戦いだったか……お疲れ様)

121: 2020/11/14(土) 18:01:48.154 ID:gIoh9ZpL0
……

……

治療を終え――

武術家「さっきはいい試合ができたよ」

大男「へっ、完敗だったぜ」

女「この腕……完治が早いように折ってくれていたのだな」

細身「ヒヒヒ……親友の妹だからなァ。俺だってそこまで薄情じゃねえさ」

武術家「これから、あなたたちはどうするんだ?」

兄「…………」

122: 2020/11/14(土) 18:05:28.882 ID:gIoh9ZpL0
兄「俺たちは特異さゆえ、なかなか腕を振るう機会を得られなかった三人組だ」

弟子(天狗・核兵器・触手のトリオだもんな……)

兄「だからこそ、こうして手を組み、あんな輩に雇われてしまったわけだが――」

兄「お前たちとの立ち合いで、結局それは“逃げ”でしかないと分かった」

兄「これからは、正しき心で健全に武を追求するとするよ」

武術家「ああ、あなたたちならきっとそれができる!」

兄「ありがとう」

大男「次は絶対勝つぜぇ!」

細身「ヒヒヒ……次会ったらもっとしつこく絡みつくから気をつけな」

兄「ああ、それと――」

武術家「?」

兄「妹を……よろしく頼む。お前になら安心して託せる」ボソッ

武術家「お、お任せを!」

女「…………?」

123: 2020/11/14(土) 18:08:41.565 ID:gIoh9ZpL0
弟子「……行っちゃいましたね」

武術家「彼らの実力なら、心を入れ替えその気になれば、どこででも活躍できる」

武術家「必ずや格闘界にその名を刻むことになるだろうさ」

弟子「お兄さんとは、別れてしまってよかったんですか?」

女「ああ、これでいいんだ」

女「ラインは交換したしな」

弟子「したんですか!」

女「『たまには実家に帰れよ』っと……」ポチポチ

女「お、『分かった』と返事が来た」

弟子「返事早い!」

武術家「羅印? うむう、強そうな技だな……」

弟子「その変換はおかしすぎますって!」

124: 2020/11/14(土) 18:11:47.082 ID:gIoh9ZpL0
その後――

<道場>

弟子「あの格闘ジムのオーナー達、夜逃げしたみたいですよ! ジムも閉鎖になりました!」

武術家「本当か」

女「おそらく、オーナーは優秀な兵を提供するからと、様々なところから融資を得ていたんだろう」

女「もちろん、まともな融資ではないはず。それが破綻した今……」

武術家「命を狙われるはめになったというわけか」

武術家「悪党とはいえ、上手く逃げ切れることを祈っておこう」

女「優しいな」

125: 2020/11/14(土) 18:13:44.392 ID:gIoh9ZpL0
ザワザワ… ガヤガヤ…

「ちわーっす!」 「今日もお願いします!」 「稽古つけて下さい!」

中年「この道場で、心まで鍛えるんだぞ!」

息子「分かったよ、オヤジ……」



武術家「あの事件で評判が広まり、この道場もずいぶん賑やかになった」

武術家「君も指導に加わってくれて助かるよ」

女「いや、私も教わることは多いし、お互い様だ」

126: 2020/11/14(土) 18:16:28.575 ID:gIoh9ZpL0
稽古が終わり――

「お疲れ様です!」 「あー……疲れた」 「クタクタだぁ~」

ワイワイ…



女「今日もいい稽古ができたな」

武術家「…………」

女「? どうした?」

武術家「……あの」

弟子(師匠?)

武術家「君と知り合って……もうずいぶん経つ……。だから……」

127: 2020/11/14(土) 18:19:27.151 ID:gIoh9ZpL0
武術家「俺と……つき合ってくれないか?」

女「それは……組み手という意味か?」

武術家「いや、正式に恋仲になって欲しいという意味だ」

女「…………」

女「いいぞ」ニコッ

武術家「!」

弟子「笑った! ボク、女さんが笑ったところ初めて見ました!」

女「そうか? よく笑ってたつもりだったが」

弟子「せっかくですから、お二人で手でも繋いだらどうです? ギュッと」

武術家「手……ッ!」

武術家(そういえば、まだ繋いでなかった……ッ!)

129: 2020/11/14(土) 18:22:21.166 ID:gIoh9ZpL0
武術家(しかし……まだ早い気がするッ! まだ心の準備が……ッ!)

武術家「俺と突き合ってくれ!」バッ

女「ああ、突き合おう」ババッ

弟子(残念……だけど、師匠らしいや。この二人はこれでいいんだ)

弟子「お二人とも、ボクも勉強させてもらいます!」







―おわり―

130: 2020/11/14(土) 18:23:09.407
乙!

132: 2020/11/14(土) 18:37:30.760
面白かった乙

引用元: 武術家「私と突き合ってくれ!? いいだろう!」女「いや、違う……」