1: 2014/08/25(月) 16:18:45.12 ID:bN/Ilnpa0
チノ「そうなんです……。すいません」

チノはケホケホと咳き込みながらそう言うと、
ラビットハウス開店の準備を始めた。

ココア「ちょっと。お熱あるんだから仕事は無理だよ?」

チノ「でも……」

4: 2014/08/25(月) 16:21:39.75 ID:bN/Ilnpa0
ココア「じゃあこうしようよ。
    ラビットハウスはお姉ちゃんに任せて、
    チノちゃんは部屋で休んでなさい」

チノ「ええっ」

ココア「大丈夫だよ。リゼちゃんもいるし。
    それとも、私じゃ頼りないかな?」

チノ「そんなこと……」

ココア「ね?」

チノ「すいません……。じゃあお言葉に甘えてそうします」

6: 2014/08/25(月) 16:24:48.66 ID:bN/Ilnpa0
ココア「……っ!? すごい熱だよっ!?」

チノ「……ちょっと、つらいかもです」

チノを部屋に運び、ベッドに寝かせると、
おでこ同士をくっつけたココアが驚きの声を上げた。

ココア「もう……。ダメだよ。すぐに無理するんだから」

チノ「え……。ええ……っ!?」

ココアは突然、チノの身体をきつく抱きしめた。

8: 2014/08/25(月) 16:27:40.77 ID:bN/Ilnpa0
ココア「チノちゃんはすぐよくなーる。チノちゃんはすぐよくなーる」

ココアはチノの頭をよしよしと撫でながら、
耳元で囁くようにそう言った。

ココア「……はい! これでもう大丈夫!」

チノ「……」

身体が離れると、チノの目に、
ココアの太陽のような笑顔が飛び込んでくる。

ココア「私が小さい頃、風邪をひくとお母さんがいつもこうしてくれたの。
    これでぐっすり寝たら、すぐ治っちゃうんだよ」

9: 2014/08/25(月) 16:30:52.10 ID:bN/Ilnpa0
チノ「……」

ココアが部屋を出て行っても、
チノはずっとココアのことを考えていた。

チノ「……ココアさんの身体。あったかかったな」

胸がドキドキしているのは、風邪のせいだけなのだろうか。
身体が燃えるように熱いのは、発熱のせいだけなのだろうか。

チノ「ココアさん……」

いつしかチノは眠っていた。

11: 2014/08/25(月) 16:33:58.83 ID:bN/Ilnpa0
リゼ「大丈夫か? ココア」

ココア「う、うん。ちょっとチノちゃんが心配で……」

リゼ「そろそろ閉店だから、ココアだけでももう上がるか?」

ココア「……ううん。リゼちゃんに迷惑かけられないよ。
    もう少しだけだから、頑張る。
    さっきおかゆ持って行ったら、
    チノちゃんぐっすり寝ていたし……」

リゼ「そうか。気になるなら、様子だけでも見てきていいぞ」

ココア「ありがとね。リゼちゃん」

12: 2014/08/25(月) 16:36:49.32 ID:bN/Ilnpa0
ココア「チノちゃーん」

チノ「すー……すー……」

ココア「……寝てるみたいね」

チノ「……」

ココア「おやすみ、チノちゃん」

チノ「……」

14: 2014/08/25(月) 16:39:40.61 ID:bN/Ilnpa0
チノ「……風邪、治ってる」

翌朝。目覚めたチノは驚いていた。
あれほどあった高熱も、
悪寒も喉の痛みも全て吹き飛んでいたのだ。

チノ「おはようございます、ココアさん。
   おかげさまで、熱下がりました」

ココア「ほんと? 良かったね!」

チノはキッチンへ行くと、
食事の準備をしていたココアにそう声をかけた。

15: 2014/08/25(月) 16:42:57.53 ID:bN/Ilnpa0
チノ「今日はバリバリ働きますよ」

チノは学校から帰るや、早速仕事の準備に取り掛かった。

ココア「……そうだねぇー」

チノ「……ココアさん?」

ココア「え?」

チノ「なんでそんなにフラフラしているんですか?」

ココア「別に普通だよー」

16: 2014/08/25(月) 16:46:26.08 ID:bN/Ilnpa0
チノ「うわっ!」

ココアと額を合わせた瞬間、チノは飛びのいた。

チノ「すごい熱ですよ! 大変です!」

ココア「ええー……」

ココアがフラフラと、近くにある椅子に倒れ込むように座った。

ココア「チノちゃんごめん……。
    今度は私が風邪ひいちゃったみたい……」

17: 2014/08/25(月) 16:49:47.93 ID:bN/Ilnpa0
ココア「ごめんねぇ……。昨日はあんな偉そうなこと言って……」

チノ「いいんですよ。ココアさん」

チノはココアの身体をぎゅうっと抱きしめると、
頭をよしよしと撫でながら、耳元で囁いた。

チノ「ココアさんはすぐよくなーる。ココアさんはすぐよくなーる」

ココア「チノちゃん……」

チノ「これでもう、大丈夫ですね」

ぎこちない笑みを浮かべたチノの顔は、
風邪をひいているココアよりも真っ赤に染まっていた。

19: 2014/08/25(月) 16:53:21.01 ID:bN/Ilnpa0
リゼ「ココアが心配なのか?」

チノ「えっ」

リゼ「お前らしくもない。オーダーミスとか、連発してるぞ」

チノ「……すいません」

リゼ「どうせ店も暇だし、様子だけでも見てくるか?
   さっきおかゆ持って行ったときは、ココア寝ていたけどな」

チノ「リゼさん。ありがとうございます」

リゼ「いいって、いいって」

20: 2014/08/25(月) 16:56:45.19 ID:bN/Ilnpa0
チノ「……ココアさーん」

ココア「すぅ……すぅ……」

チノ「寝ています……」

ココアはすやすやと眠っていた。
その寝顔を見たチノは、自身の心臓が大きく跳ねるのを感じた。

チノ「私……。何か変です……」

22: 2014/08/25(月) 17:00:06.17 ID:bN/Ilnpa0
リゼ「どうだった?」

チノ「ココアさん、寝ていました」

リゼ「そうか。ただの風邪なら寝てれば治るだろ」

チノ「そうですね。私も一日で治りましたし」

リゼ「明日には復活するといいな」

チノ「はい。ココアさんがいないと、寂しいです」

23: 2014/08/25(月) 17:03:47.44 ID:bN/Ilnpa0
ココア「チノちゃーん。おはよー」

チノ「ココアさん!」

チノがキッチンで食事の準備をしていると、
後ろから呼びかけられた。

ココア「おかげさまで良くなったよぉー」

チノ「それは良かったです。
   今日は学校もお店もお休みなので、
   一日のんびりして過ごしましょう」

ココア「そうだねー。ご飯食べたら、もうちょっと寝ようかな」

25: 2014/08/25(月) 17:07:24.36 ID:bN/Ilnpa0
ココア「ふぁーあ……。チノちゃんにはああ言ったけど、
    まだちょっと調子悪いかも」

朝食の後片付けを終えると、ココアはすぐ自室へ戻り、
ベッドに横になった。

26: 2014/08/25(月) 17:10:36.02 ID:bN/Ilnpa0
チノ「ココアさーん」

チノがノブをひねると、ココアの部屋のドアがガチャリと音をたてた。

ココア「すぅ……すぅ……」

チノ「あれ。もう寝ています」

確か。
ココアが部屋に戻ってから、まだ10分と経っていないはずだ。

チノ「まだ体調が悪いのでしょうか……」

チノはココアの寝顔を覗き込んだ。
その瞬間、チノの中で何かが弾けると、
なんだかよく分からない感情が内に広がり、
やがてそれは心全体を覆ってしまった。

28: 2014/08/25(月) 17:15:03.54 ID:bN/Ilnpa0
チノ「ココアさん」

チノはもぞもぞと布団に潜り込むと、
未だ眠ったままのココアをそっと抱きしめた。
すごく悪いことをしているような気がしたが、
自分の身体が、衝動が、止まらなかった。
全身にココアの体温を感じる。
熱のせいかその身体は汗ばんでいて、布団の中がやや湿っていた。

チノ「ココアさん……」

そのまますうっと深く息を吸い込むと、
ココアの匂いが鼻腔を通り抜け、
胸がそれで占められるのを感じ、頭がクラクラとした。
思わず抱きしめる手に力が入る。

ココア「……チノ、ちゃん?」

耳元で声がした。

30: 2014/08/25(月) 17:21:30.87 ID:bN/Ilnpa0
チノ「……っ!」

チノが慌てて身体を離すと、
呆けたような顔をしたココアと目が合った。

ココア「どうして、ここにいるの?」

チノ「それは……」

ココアは単純に質問しただけだったが、
チノはきつく問い詰められたような気がして、
完全に委縮してしまっていた。

33: 2014/08/25(月) 17:27:10.72 ID:bN/Ilnpa0
ココア「あ、分かった。おまじないをしようとしてくれてたんでしょ?
    やっぱり体調悪いのばれてたんだー」

ココアはそう言ってにっこりと笑った。
チノの心臓がまた大きく跳ねる。

ココア「チノちゃんは優しいんだね」

チノ「……」

35: 2014/08/25(月) 17:30:46.46 ID:bN/Ilnpa0
チノ「……違います」

ココア「えっ」

ココアの勘違いを肯定して、ごまかしてしまえばすべて済んだのに。
チノはそれをしなかった。

チノ「私、ココアさんが好きなんです」

チノは必氏の思いで言った。
身体が震え、ココアの目がまともに見れない。

チノ「だから、無防備に寝ているココアさんを見ていたら我慢できなくなって。
   それで布団に潜り込んだんです」

ココア「……」

37: 2014/08/25(月) 17:34:32.42 ID:bN/Ilnpa0
ココア「私もチノちゃんが好きだよ」

チノ「ココアさん……」

ココア「だってかわいい妹だもん。
    チノちゃんに好きって言ってもらえて、うれしいな」

チノ「え……」

ココア「私も、ようやくチノちゃんに、
    お姉ちゃんとして認められたんだね」

チノ「違っ……」

ココア「これからも”お姉ちゃんとして”好きでいてね」

41: 2014/08/25(月) 17:38:10.93 ID:bN/Ilnpa0
チノ「どうしよう……」

一人部屋に戻ったチノは、
もうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
布団に潜り込み、ガタガタと震えている。

ココアさんは私のことを嫌いになってしまっただろうか。
私のことを気持ち悪いと、突き放してしまうだろうか。

”お姉ちゃんとして”

強調してそう告げたココアの言葉が、
チノの頭の中で暴れまわっていた。

42: 2014/08/25(月) 17:41:47.29 ID:bN/Ilnpa0
ココア「どうしよう……」

一人部屋に残されたココアは、
ひどく頭を悩ませていた。

チノちゃんは私の言葉で傷付いてしまっただろうか。
もう今までのような関係は築けないのだろうか。

ココア「もっとうまく、伝えられたんじゃないかなぁ……」

突然のことでココアも混乱してしまっていたのだった。
チノになんと言うべきだったのか。
考えているうちに、その体調の悪さも手伝って、
いつのまにかココアは眠りについていた。

45: 2014/08/25(月) 17:45:08.59 ID:bN/Ilnpa0
ココア「チノちゃーん……」

チノは、突然聞こえたココアの声と、
ドアをノックする音に飛びあがりそうになった。

会いたくないな……。
チノはそう思ったが、同じ屋根の下で暮らしている以上、
避け続けることはできない。
話を付けるなら早い方がいいような気がした。

ココアが呼吸を整えながら部屋の前で待っていると、
やや遅れて返事があった。

チノ「ココアさんですか。どうぞ」

46: 2014/08/25(月) 17:48:50.25 ID:bN/Ilnpa0
ココア「ごめんね。こんな夜遅くに」

チノ「いいですよ。……私の方こそ、さっきはすいませんでした。
   いきなり変なことを言ってしまって」

ココア「……ううん。それでね。
    実は、その話をしようと思って来たんだよ」

チノ「はい。なんとなく分かってました」

ココア「さっきは、私も突然でよく分からなくなって……。
    私なりに考えたから、聞いてもらってもいい?」

50: 2014/08/25(月) 17:52:37.14 ID:bN/Ilnpa0
ココア「チノちゃんの感情はね、きっと勘違いなんだよ」

チノ「……そんなことはありません!」

思った以上に大きな声が出て、チノ自身驚いた。
でも。この想いを否定することは、
当人であるココアでも許すことはできなかった。

チノ「どうして、そんなこと言うんですか……!」

52: 2014/08/25(月) 17:56:07.95 ID:bN/Ilnpa0
ココア「私もね。チノちゃんくらいの年齢の頃、
    友達のことを好きになったの。相手は女の子だったよ」

沈痛な面持ちで、とつとつとココアは語り始める。
その目があまりにも真剣だったので、
チノは黙って聞くことにした。

ココア「友達も私のことを好きって言ってくれて、
    すごい嬉しかった。胸がドキドキして、
    心がふわふわと、どこかに飛んでいっちゃいそうなくらいだった」

54: 2014/08/25(月) 17:59:59.52 ID:bN/Ilnpa0
ココア「毎日手をつないで帰ったり、……キスしたり、とか」

ココアが恥ずかしそうに俯き加減でそう言うと、
チノは胸がチクリと痛んだ。
別の人とそうしていたのなんて、想像もしたくなかった。

ココア「でもね、これは思春期特有の、ただの勘違いなの。
    人としての”好き”と、
    異性を好きになる感情とを、ごっちゃにしているだけなんだよ」

チノ「違いますっ! 私のは……っ!」

チノが目に涙を浮かべながら声を荒げたが、
ココアは悲しげに眼を閉じ、黙って首を横に振るだけだった。

55: 2014/08/25(月) 18:03:54.20 ID:bN/Ilnpa0
チノ「私は、ココアさんが本当に好きで……」

ココア「……」

ココアは何と言っていいか分からなかった。
ただ俯いて。沈黙を守っている。

チノ「本気なんですっ!」

ココア「んん……っ!?」

突然チノがココアの唇を奪った。

57: 2014/08/25(月) 18:09:49.58 ID:bN/Ilnpa0
ココアの過去の話に出てきた女性に、
嫉妬心が生まれていたからだろうか。
別段そうする気もなかったのに、
チノはココアとぎこちなく唇を重ね合わせていた。

チノ「……分かって、くれましたか」

ココア「……」

唇を離すと、チノは今にも泣き出しそうな顔で、
ココアに質問をぶつけた。

60: 2014/08/25(月) 18:14:21.93 ID:bN/Ilnpa0
ココア「……分かったわ。チノちゃん」

チノ「えっ」

ココアは真剣な顔で、というよりも、
チノには怒っているように見えたが、
ゆっくりと口を開いた。

ココア「チノちゃんが本気で私のことを好きだって言うのは分かったよ。
    じゃあそれを踏まえて質問するけど、
    チノちゃんは私とどうしたい?」

チノ「どう……、って。ずっと、一緒にいたいです」

ココア「私がお姉ちゃん、チノちゃんが妹としても、
    ずっと一緒にいられるよ? それじゃ不満?」

チノ「それは……」

62: 2014/08/25(月) 18:18:28.53 ID:bN/Ilnpa0
返答に困っているチノを見て、
我ながらいじわるな質問をしてしまったな、
とココアは思っていた。

好きだからどうしたいのか。

そんなものに、答えなど用意されていないのだ。

ココア「答えられないでしょう?」

チノ「……」

67: 2014/08/25(月) 18:21:59.19 ID:bN/Ilnpa0
ココア「別にね、私だってチノちゃんの感情を、
    すべて否定したいわけじゃないんだよ」

チノ「……そうなんですか」

俯いていたチノが顔を上げた。

ココア「私だって経験のあることだし……。
    だから、その感情が形を変えずに、
    ずっとチノちゃんの中にあったら、
    もう一度私に言ってくれる?」

72: 2014/08/25(月) 18:25:11.68 ID:bN/Ilnpa0
チノ「……分かりました」

ココア「うんっ。私がチノちゃんを好きだっていうのもホントだよ。
    何か相談したいことがあったら、
    ”お姉ちゃん”に何でも言ってね」

チノ「……はい」

チノが必氏に涙を堪えているように見えたので、
その思いが決壊する前に、ココアは部屋を出て行った。

78: 2014/08/25(月) 18:28:43.08 ID:bN/Ilnpa0
それから約半年の月日が流れた。
話し合いの直後はやや気まずさが残ってはいたものの、
一緒に仕事をし、暮らす中で徐々に打ち解け、
現在では元の関係にすっかり戻っていた。

チノ「ココアさん。ちょっとお話があるので、
   夜に部屋に行ってもいいですか?」

ココア「いいよー」

仕事の休憩中にチノがそう言うと、
ココアはそれを快諾した。

84: 2014/08/25(月) 18:32:20.11 ID:bN/Ilnpa0
ココア「ところで、なぁに? 昼間言ってた話って」

部屋に来たチノとしばらく雑談をした後、
ココアはそう切り出した。
チノは頬を赤く染めて、しばらく指をもじもじと動かしていたが、
意を決したように顔を上げると、ココアの目をまっすぐに見据えた。

チノ「ココアさん」

ココア「うん。どうしたの?」

チノ「私……」

ココア「うん」

チノ「好きな人が、できました」

終わり

91: 2014/08/25(月) 18:39:02.86 ID:bN/Ilnpa0
ここまで読んでくれた方、レスくれた方、ありがとうございました。

92: 2014/08/25(月) 18:40:33.54

引用元: ココア「チノちゃん。風邪ひいちゃったの?」