自分以外の全員が逆走してるなら自分も逆走した方が安全そう

孫娘「逆走？」

老人「うむ、みんな逆走していきおった。ただでさえ残り少ない寿命がさらに縮んだわい」

孫娘「それはきっと、“逆走族”だよ」

老人「逆走族？」

孫娘「わざと車を逆走させて楽しむ、悪い人達のこと」

孫娘「ほら、今テレビでもやってる」

TV『またしても、高速道路に逆走族が現れました……』

TV『逆走族は今日も高速道路を猛スピードで逆走……』

TV『およそ70台の車と激突した後、高速道路から走り去っていきました』

TV『警察は現在行方を追っています』

老人「あー、こいつらじゃ。こんな連中がおったとはのう」

孫娘「危うく70台の中におじいちゃんが入っちゃうところだったね」

老人「まったくじゃよ」

老人「しかし、こんなことしてたら、自分たちの命だって危ないじゃろう？」

孫娘「それがね、こいつら自分の車を戦車並みの装甲に改造してるの」

孫娘「だから、ちゃんと走ってる車にいくらぶつかっても、逆走族は無傷で済むってわけ」

老人「なるほどのう」

孫娘「もう氏者だって何人も出てるし……おじいちゃんが無事でよかったよ」

老人「ありがとうよ」

凶悪すぎる

警官A「今日こそ逆走族を食い止めるんだ！」

警官B「大丈夫ですよ、パトカー100台によるバリケードを抜けられるはずがありません！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ…

警官A「来たぞ！」

逆走車A「おっ、パトカーが大量に止まってやがるぜ！」

逆走車B「関係ねえさ！　俺らの逆走を止められる奴なんていやしねえ！　突っ込めーッ！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛﾛ…

ドガシャァンッ！

ドガァンッ！　ボゴォンッ！　ズガァンッ！

警官A「ダ、ダメだ！　パトカーの方が吹き飛ばされて……！」

警官B「奴らの車は化け物か！？」

逆走車A「さあ、逆走だ！　逆走だ！」

逆走車B「邪魔する奴らはブッ潰せ！　邪魔しなくてもブッ潰せ！」

逆走車C「逆走族は最強だぜ！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛﾛ…

ﾄﾞｶﾞｧﾝ…　ﾄﾞｺﾞｫﾝ…

ある日――

父「今日は三人で買い物してくるから」

母「行ってきます」

老人「ああ、行ってらっしゃい」

孫娘「おじいちゃんはいい子でお留守番しててねー！」

老人「ほっほ、楽しんでおいで」

老人「さーて、ワシは詰め将棋でもやるかのう」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛ…

孫娘「お買い物、お買い物～」

父「よーし、今日はなにかお人形でも買ってやるか」

孫娘「やったーっ！　あと、おじいちゃんにお土産もね！」

父「そうだな、和菓子でも買っていこう」

母「あら？　前の方からものすごい音が聞こえるわ」

父「ん？」

父「な、なんだ！？　車が逆走してくる！」

ﾌﾞｵｵｵｵｵｵ…

逆走車A「逆走族のお通りだーッ！」

逆走車B「左側通行してる車なんざブッ潰せ！」

父「ま、まずいっ！」ｷﾞｭﾙｯ

母「きゃあああああっ！」

孫娘「いやぁぁぁぁぁっ！」

父「しまっ、ぶつかる――！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛﾛ…

ドカァンッ！

……

老人「ワシの家族は！？　息子は……嫁は……孫は！？」

医者「後ろの席に座っていたお孫さんは比較的軽傷で済みました……」

医者「しかし、前に座っていたお二人は重傷で……まだ意識が戻りません」

老人「……！」

医者「お孫さんとは面会可能ですので、会ってあげて下さい」

老人「もちろんです」

老人（なぜじゃ……なぜこんな事故が……！）

孫娘「おじいちゃん……」

老人「辛いじゃろうが、何があったのか教えてくれんか？」

孫娘「逆走族が、前から走ってきて、お父さんは避けようとして……」

孫娘「あたし、悔しいよ……。あんな奴らのせいで……」ｸﾞｽｯ

老人「お父さんとお母さんは大丈夫じゃ。とにかく……今はゆっくりお休み」

孫娘「うん……」



老人「許さんッ……！」

老人「許さんぞ、逆走族ッ！！！」

ワロタ

老人（“仕事”を引退した時に誓った――）

老人（もう二度と人を傷つけるようなことはすまいと）

老人（じゃが、どうやらワシも“逆走”しなきゃならない時が来たようじゃのう）

老人（あの頃のワシに――）

老人（すまんな妻よ、これも家族のためなんじゃ）

老人「ああ、もしもし？　久しぶりじゃのう。ワシのいうとおりにブツを調達してくれんか」

老人「もしもし、国土交通省さん？　ちょいと高速道路を貸し切りたいのじゃが……」

スーパージジイかよ

数日後――

ﾌﾞｵﾝﾌﾞｵﾝﾌﾞｵﾝ…

逆走車A「今日も逆走しまくるぜーッ！」

逆走車B「逆走は最高のストレス解消になるぜ！」

逆走車C「だけどなんかおかしくねーか？　今日の高速は全然車がいねーぞ」

逆走車A「きっと俺らが怖くてみんなブルっちまったんだろ！　逆走しまくろうぜ！」

ﾌﾞｵｵｵｵｵｵ…

ドゴォォォォォンッ！！！

逆走車A「ぐぴゃっ！？」

逆走車B「わっ！？　なんだ、いきなり車が爆発――」

ズガァァァァァンッ！！！

逆走車B「ぶげっ！」

バゴォォォォォンッ！！！

逆走車C「ぐぎゃあっ！」

ﾒﾗﾒﾗﾒﾗ…　ｺﾞｫｫｫｫｫ…

ドゴォォォォォンッ！！！

ボガァァァァァンッ！！！

ズドォォォォォンッ！！！

リーダー「な、なんだこりゃ！？　チームの車が次々爆発していく……！」

族A「どうなってんだ！？」

族B「走るのはヤバいです！　車から降りましょう！」

リーダー「ん？　道路に誰か立ってやがるぞ！」



老人「ほっほっほ……」

リーダー「何者だ、ジジイ！」

老人「この道路には対戦車地雷を埋め込ませてもらった」

老人「いかに戦車並みの装甲でも、これならさすがに吹っ飛ぶじゃろ？」

老人「もちろん、後で掘り返すし、爆破した箇所は舗装するがのう。ほっほっほ」

リーダー「イカれてんのか……！」

老人「イカれてるのはそっちじゃろ。公道を猛スピードで逆走など正気の沙汰じゃないわい」

老人「ワシは負けず嫌いでのう……やられたらきっちり返す」

老人「ワシの家族を巻き込んだのが運の尽きじゃ。償ってもらうぞい」

リーダー「尽きるのはてめえの命だよ！　相手は一人だ！　やっちまえェ！」

ワァッ！！！

老人「……」ｼﾞｬｷｯ

老人「……」ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｯ…

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｯ…

「ぐぎゃっ！」　「ぴぎゃあっ！」　「ぶげえっ！」

老人「ほーれ、ロケットランチャーじゃ」ｼｭﾎﾞｯ

ドゴォォォォォンッ！

「うぎゃあっ！」　「ぐえっ！」　「あがぁぁっ！」

リーダー（な、なんだこのジジイは……！？　元傭兵かなんかか！？）

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ…　ﾄﾞｺﾞｫｫｫｫﾝ…　ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞ…　ｽﾞｶﾞｧｧｧﾝ…

老人「昔ワシが戦った敵たちに比べれば、歯ごたえがないのう。おかゆよりも柔らかい」

老人「しょせん罪なき一般人しか傷つけられぬ、半端者たちじゃな」

ｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｶﾞｯ…



リーダー「ひ、ひいいい……！」

リーダー（仲間達が虫ケラのように殺られていく……！）

爺無双

リーダー（逃げねえと――）ｺｿｺｿ…

老人「おーっと、どこに行くんじゃ？」ｼﾞｬｷｯ

リーダー「わわっ！？」

老人「残ったのはおぬしだけじゃぞ？」

リーダー「た、助けてぇ……」

老人「……」

リーダー「お願いしまちゅ……許してくだちゃい……！　もう二度と逆走なんてしまちぇん……！」

老人「ほっほっほ、まるで幼児じゃな。ワシと同じく、おぬしも逆走してしまったか」

老人「そんなおぬしにデザートをやろう」

リーダー「な、なんですか？」

老人「大きく口を開けて」

リーダー「？」ﾊﾟｶｯ

老人「ほれ、パイナップルじゃ」ｸﾞｲｯ

リーダー「もが！？」

リーダー（これってまさか……手榴――）



ドゴォォォォォンッ！！！



老人「おぬしのような外道は……逆走などさせん。あの世に直葬じゃ」

……

医者「お二人の意識が戻りました！　後遺症もなさそうです！」

老人「おおっ……ありがとうございます」

老人「よかったのう」

孫娘「うん！」

孫娘「逆走族も壊滅したみたいだし……なんでだろ？」

老人「きっと天罰が下ったんじゃろうて、ほっほっほ」

……

……

……

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛ…

孫娘「ちょっとー、おじいちゃーん！」

老人「……」

孫娘「逆走してるってー！」

老人「……」

孫娘「やめてよー！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛ…

孫娘「おじいちゃん、レースゲームに負けそうになったからって逆走しないでよ！　子供みたい！」

老人「ふん、ワシは負けず嫌いなんじゃ！」



父「親父は若い頃、だいぶ無茶してたらしいけどまだまだ気は若いな」

母「ホント」ｸｽｯ







―おわり―

乙
ジジイが強い作品は名作