1: 2020/11/22(日) 20:43:15.07 ID:7tIffwGI0
男(俺の胸には、鋭い剣が深々と刺さっていた)
男「いっ……! があ……!」
男(いつから刺さっているかは分からない)
男(ただ、気が付けばそこに刺さっていたんだ)
男(ひどい火傷のようなぢくりとした痛みが、常に俺を蝕み続ける)
男(俺はひたすらに、その地獄のような苦しみに耐え続けなければならない)
男(痛みで立つ事も動く事も出来ず、ただ両膝をついて物乞いのように俯き続ける)
男(いつまで経ってもこの痛みは消えない)
男(いつになったらこの剣は抜けるんだろう)
男(ただひたすらに、苦しいんだ)
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606045394
男「いっ……! があ……!」
男(いつから刺さっているかは分からない)
男(ただ、気が付けばそこに刺さっていたんだ)
男(ひどい火傷のようなぢくりとした痛みが、常に俺を蝕み続ける)
男(俺はひたすらに、その地獄のような苦しみに耐え続けなければならない)
男(痛みで立つ事も動く事も出来ず、ただ両膝をついて物乞いのように俯き続ける)
男(いつまで経ってもこの痛みは消えない)
男(いつになったらこの剣は抜けるんだろう)
男(ただひたすらに、苦しいんだ)
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1606045394
2: 2020/11/22(日) 20:48:46.33 ID:7tIffwGI0
男(何度か、自分でこの剣を抜こうとした事があった)
男(その度に、信じがたい激痛が俺の心を噛み潰した)
男(まるで、焼けた針で目を刺されるような、ぱっくり開いた傷口を抉られるような)
男(思い出すだけでも涙が出そうになる、そんな悍ましい痛みだった)
男「お願いだ、誰か助けてくれ!」
男(時折道を横切る人間に、俺は情けなく懇願する)
男(それを見た人間は、嫌悪、哀れみ、侮蔑……様々な色をとった)
男(それを受ける度に、俺の剣はさらに大きく成長し、さらに深く突き刺さった)
男(人間に会う度に、俺の痛みはよりその鋭さを増す。俺の心は乾いていく)
男(呼吸をする事すら苦しい)
男(だが、それでも俺は助けを求め続ける)
男(自分じゃどうにも出来ないんだ)
男(その度に、信じがたい激痛が俺の心を噛み潰した)
男(まるで、焼けた針で目を刺されるような、ぱっくり開いた傷口を抉られるような)
男(思い出すだけでも涙が出そうになる、そんな悍ましい痛みだった)
男「お願いだ、誰か助けてくれ!」
男(時折道を横切る人間に、俺は情けなく懇願する)
男(それを見た人間は、嫌悪、哀れみ、侮蔑……様々な色をとった)
男(それを受ける度に、俺の剣はさらに大きく成長し、さらに深く突き刺さった)
男(人間に会う度に、俺の痛みはよりその鋭さを増す。俺の心は乾いていく)
男(呼吸をする事すら苦しい)
男(だが、それでも俺は助けを求め続ける)
男(自分じゃどうにも出来ないんだ)
3: 2020/11/22(日) 20:50:27.91 ID:7tIffwGI0
男(ある日、ついに助けてくれる人間と出会う事が出来た)
紳士「ほう、それは大変だ。どれ、私が助けてあげましょう」
男「頼む……一気に引っこ抜いてくれ……!」
紳士「了解しました。では」
男「ぎゃあああああっ!! はっ……はっ……」
紳士「うむ、抜けた。良かったですな」
男「や、やった……抜けた……!」
男(剣は、思っていたよりもあっさりと抜けた)
紳士「む? なっ!」
ギュン!!
男「いぎっ⁉ な、何でっ……!」
男(抜けたと思った瞬間、その剣は再び俺の胸に突き刺さってしまった)
男「がっ……くそ……頼む、もう一度……」
紳士「やはり……その剣は私が抜いても無駄なようだ」
男「ま、待ってくれ!」
紳士「貴方が自分で何とかしないと、きっとその剣は抜けないのでしょう」
男(彼はそう言うと、立ち去ってしまった)
男(中途半端な希望は、より心を深く深く削り取っていく)
男(俺が何をしたって言うんだ、何も悪い事はしていないのに)
男(痛みと絶望で、前が見えない)
男「ウグッ……畜生……!」ボロボロ
男(もう何をしても無駄なんだ。俺は一生このままなんだ)
男(どうしてこんな物があるんだろう)
男(俺はただ、泣く事しか出来なかった)
男(誰かが俺の隣を去っていった気がする)
男(俺の姿に驚いたようだが、助けてくれる事は無かった)
紳士「ほう、それは大変だ。どれ、私が助けてあげましょう」
男「頼む……一気に引っこ抜いてくれ……!」
紳士「了解しました。では」
男「ぎゃあああああっ!! はっ……はっ……」
紳士「うむ、抜けた。良かったですな」
男「や、やった……抜けた……!」
男(剣は、思っていたよりもあっさりと抜けた)
紳士「む? なっ!」
ギュン!!
男「いぎっ⁉ な、何でっ……!」
男(抜けたと思った瞬間、その剣は再び俺の胸に突き刺さってしまった)
男「がっ……くそ……頼む、もう一度……」
紳士「やはり……その剣は私が抜いても無駄なようだ」
男「ま、待ってくれ!」
紳士「貴方が自分で何とかしないと、きっとその剣は抜けないのでしょう」
男(彼はそう言うと、立ち去ってしまった)
男(中途半端な希望は、より心を深く深く削り取っていく)
男(俺が何をしたって言うんだ、何も悪い事はしていないのに)
男(痛みと絶望で、前が見えない)
男「ウグッ……畜生……!」ボロボロ
男(もう何をしても無駄なんだ。俺は一生このままなんだ)
男(どうしてこんな物があるんだろう)
男(俺はただ、泣く事しか出来なかった)
男(誰かが俺の隣を去っていった気がする)
男(俺の姿に驚いたようだが、助けてくれる事は無かった)
4: 2020/11/22(日) 20:51:36.50 ID:7tIffwGI0
男(どれくらいの時が経ったんだろう)
男(俺は全てを諦めた。もう剣を抜く気力も無い)
男(乾ききったこの心は、どうやら剣に吸われているらしい)
男(まるで植物が根を張って養分を吸収するみたいに)
男(そうして、少しずつ俺の身体は氏に向かっていく)
男(もう全部どうでもいい。ただ早く終わってほしい)
男(希望なんてありはしない。生きている意味も無い)
男(そうして地面に這いつくばっている俺の前に)
紳士「おや」
男(あの紳士が現れた)
男(俺は全てを諦めた。もう剣を抜く気力も無い)
男(乾ききったこの心は、どうやら剣に吸われているらしい)
男(まるで植物が根を張って養分を吸収するみたいに)
男(そうして、少しずつ俺の身体は氏に向かっていく)
男(もう全部どうでもいい。ただ早く終わってほしい)
男(希望なんてありはしない。生きている意味も無い)
男(そうして地面に這いつくばっている俺の前に)
紳士「おや」
男(あの紳士が現れた)
5: 2020/11/22(日) 20:53:09.44 ID:7tIffwGI0
紳士「いやはや、まだ刺さり続けていたとは」
男「もう全部どうでも良い……どうせ抜けないんだよ」
紳士「諦めてはいけませんよ。投げ出しても何も変わりません」
男「……!!」ブチッ
男「うるせえよ!! 偉そうな事言ってんじゃねえ!」
男「お前に何が分かるんだよ! 平気な顔して楽に生きてるお前に!」
男「剣が刺さってねえからそんな事言えるんだよ!! 俺の苦しみが分かんのかよ!」
紳士「いえ、貴方の苦しみは分かりません。ですが、諦めてはいけないのですよ」
男「黙れ!! 黙れ黙れ!」
紳士「きっといつか、その剣は抜けますよ」
男「無責任な事言ってんじゃねえ!」
紳士「何故なら、私もそうでしたから」
男「……えっ」
男「もう全部どうでも良い……どうせ抜けないんだよ」
紳士「諦めてはいけませんよ。投げ出しても何も変わりません」
男「……!!」ブチッ
男「うるせえよ!! 偉そうな事言ってんじゃねえ!」
男「お前に何が分かるんだよ! 平気な顔して楽に生きてるお前に!」
男「剣が刺さってねえからそんな事言えるんだよ!! 俺の苦しみが分かんのかよ!」
紳士「いえ、貴方の苦しみは分かりません。ですが、諦めてはいけないのですよ」
男「黙れ!! 黙れ黙れ!」
紳士「きっといつか、その剣は抜けますよ」
男「無責任な事言ってんじゃねえ!」
紳士「何故なら、私もそうでしたから」
男「……えっ」
6: 2020/11/22(日) 20:54:13.95 ID:7tIffwGI0
紳士「私も若い頃はそうでした。今でも時々刺さる事があります」
紳士「ですが、おそらくその剣は自分でしか対処出来ないのですよ」
紳士「その剣は心の剣。貴方の心は貴方のものなんですから」
紳士「突き立てられた刃は、自分で制するのです」
男「……」
紳士「氏に物狂いでやってみなさい。自分が変わるとは、そういう事です」
男「俺は……」
紳士「貴方が解放されるのを願っていますよ。ではまた」
男(そうして、紳士は片手を振って去っていった)
紳士「ですが、おそらくその剣は自分でしか対処出来ないのですよ」
紳士「その剣は心の剣。貴方の心は貴方のものなんですから」
紳士「突き立てられた刃は、自分で制するのです」
男「……」
紳士「氏に物狂いでやってみなさい。自分が変わるとは、そういう事です」
男「俺は……」
紳士「貴方が解放されるのを願っていますよ。ではまた」
男(そうして、紳士は片手を振って去っていった)
7: 2020/11/22(日) 20:55:45.77 ID:7tIffwGI0
男(あれから、一晩中考えていた)
男(あの紳士にも、剣が刺さっていたのか)
男(いや、もしかしたら、誰もが刺さっているのかもしれない)
男(俺はただ、人に何とかして貰う事ばかり考えていた)
男(自分で考えずに人任せにしてるから、こんなにも剣は強くなってしまったんだろう)
紳士『氏に物狂いでやってみなさい。自分が変わるとは、そういう事です』
男(氏に物狂いで……か)
スッ
男(俺は両手を剣に伸ばす)
男(触れたのは久しぶりだ。随分と長く触っていなかったからな)
男「やるぞ……俺は……やるぞ!」
男(自分を精一杯鼓舞して、俺は柄をぎゅっと握りしめる)
男(震える喉で沢山の息を吸って、止めて)
男(全身全霊、ありったけの力を込めて)
男(俺はそれを、勢い良く引っ張った)
グッ!!
男(あの紳士にも、剣が刺さっていたのか)
男(いや、もしかしたら、誰もが刺さっているのかもしれない)
男(俺はただ、人に何とかして貰う事ばかり考えていた)
男(自分で考えずに人任せにしてるから、こんなにも剣は強くなってしまったんだろう)
紳士『氏に物狂いでやってみなさい。自分が変わるとは、そういう事です』
男(氏に物狂いで……か)
スッ
男(俺は両手を剣に伸ばす)
男(触れたのは久しぶりだ。随分と長く触っていなかったからな)
男「やるぞ……俺は……やるぞ!」
男(自分を精一杯鼓舞して、俺は柄をぎゅっと握りしめる)
男(震える喉で沢山の息を吸って、止めて)
男(全身全霊、ありったけの力を込めて)
男(俺はそれを、勢い良く引っ張った)
グッ!!
8: 2020/11/22(日) 20:57:17.22 ID:7tIffwGI0
男「ッぎゃあああああぁぁぁ――!!」
男(今までとは次元の違う痛みが弾け出す)
男(目の前が真っ白になる。激痛で脳が上手く働かない)
男(自分が今、どこに居るのかも分からない)
男(それでも、握った剣だけは離さない)
男(俺は変わるんだ、俺は剣を抜くんだ!)
男(奥歯を噛み締めて、腹の底から力を出して、俺は全ての力を剣に込める)
男「おおおおおぉ――」
……ズッ!
男「――あぁっ!!」ドサッ
男(勢いの反動で、ずだんと背中が地面に叩きつけられる)
男(だが、確かに)
男「……やった……!」
男(両手の中でどくどくと脈打つ、それは抜けていたんだ)
男(今までとは次元の違う痛みが弾け出す)
男(目の前が真っ白になる。激痛で脳が上手く働かない)
男(自分が今、どこに居るのかも分からない)
男(それでも、握った剣だけは離さない)
男(俺は変わるんだ、俺は剣を抜くんだ!)
男(奥歯を噛み締めて、腹の底から力を出して、俺は全ての力を剣に込める)
男「おおおおおぉ――」
……ズッ!
男「――あぁっ!!」ドサッ
男(勢いの反動で、ずだんと背中が地面に叩きつけられる)
男(だが、確かに)
男「……やった……!」
男(両手の中でどくどくと脈打つ、それは抜けていたんだ)
9: 2020/11/22(日) 21:01:17.13 ID:7tIffwGI0
男「……お、あんたか」
紳士「おや。どうやら上手くいったようで」
男「あんたには感謝してもしきれない。おかげでようやく楽になった」
紳士「とんでもない。貴方自身が頑張ったからです」
男「謙遜しないでくれ。お礼に飯でもご馳走させてくれないか?」
紳士「それではお言葉に甘えましょう。良い店を知っています」
男「へえ、そりゃ楽しみだな」
男(俺は紳士と歩き出す)
男(これから先、どうなっていくかは分からない)
男(それでも、きっと大丈夫な気がする)
紳士「どうしました?」
男「いや、何でも無いよ」
紳士「……乗り越えた苦しみは、そのまま貴方の力になります」
紳士「何を考え、どう動いたか。その経験全てが、この先貴方を守ってくれますよ」
男「おいこら、勝手に人の心を読むな」
紳士「これは失礼。さ、見えてきましたよ」
男「良いね。旨そうな洋食店だ」
男(もう俺は何処にだって行ける)
男(心の中に仕舞った剣が、今も俺の中で熱く脈を打っていた)
紳士「おや。どうやら上手くいったようで」
男「あんたには感謝してもしきれない。おかげでようやく楽になった」
紳士「とんでもない。貴方自身が頑張ったからです」
男「謙遜しないでくれ。お礼に飯でもご馳走させてくれないか?」
紳士「それではお言葉に甘えましょう。良い店を知っています」
男「へえ、そりゃ楽しみだな」
男(俺は紳士と歩き出す)
男(これから先、どうなっていくかは分からない)
男(それでも、きっと大丈夫な気がする)
紳士「どうしました?」
男「いや、何でも無いよ」
紳士「……乗り越えた苦しみは、そのまま貴方の力になります」
紳士「何を考え、どう動いたか。その経験全てが、この先貴方を守ってくれますよ」
男「おいこら、勝手に人の心を読むな」
紳士「これは失礼。さ、見えてきましたよ」
男「良いね。旨そうな洋食店だ」
男(もう俺は何処にだって行ける)
男(心の中に仕舞った剣が、今も俺の中で熱く脈を打っていた)
10: 2020/11/22(日) 21:06:07.37 ID:7tIffwGI0
終わりです。ありがとうございました。
過去作です。
男「とある休日、昼下がり」
男「とある平日、春の夜に」
男「とある街の小さな店」
「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
旅人「死者に会える湖」
少年「魚が揺れるは灰の町」
男「浮き彫り」
男「リビングデッド・ジェントルマン」
「喧々囂々、全てを呑み込むこの街で」
「死屍累々、全てを呑み込むこの街で」
男「路地裏、三日月の負け犬」
青年「風鈴屋敷の盲目金魚」
少年「薄氷の僕ら、無人駅」
青年「蛍月夜の猩々参り」
「黒山羊怪奇譚」
男「虹色の珈琲」
少年「ミッドナイト・シーラカンス」
少女「涙の夜行に彼岸花」
過去作です。
男「とある休日、昼下がり」
男「とある平日、春の夜に」
男「とある街の小さな店」
「奇奇怪怪、全てを呑み込むこの街で」
旅人「死者に会える湖」
少年「魚が揺れるは灰の町」
男「浮き彫り」
男「リビングデッド・ジェントルマン」
「喧々囂々、全てを呑み込むこの街で」
「死屍累々、全てを呑み込むこの街で」
男「路地裏、三日月の負け犬」
青年「風鈴屋敷の盲目金魚」
少年「薄氷の僕ら、無人駅」
青年「蛍月夜の猩々参り」
「黒山羊怪奇譚」
男「虹色の珈琲」
少年「ミッドナイト・シーラカンス」
少女「涙の夜行に彼岸花」
11: 2020/11/22(日) 22:03:12.30
乙
他のも読ませて貰うわ
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引用元: 男「苦しみ、痛み、剣」
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