ハンドドライヤー（参ったな、早く次の職探さないと……）



店主「うちは間に合ってるから」

ハンドドライヤー「そうですか……」



オーナー「しばらくは紙のタオルを設置することにしたんで」

ハンドドライヤー「分かりました……」



ハンドドライヤー「ダメだ……どこも雇ってくれない……」

ハンドドライヤー（もう……この世界で僕は必要とされないのか……）

ハンドドライヤー「氏のう……」



キキーッ！　ドカァンッ！



ｻﾞﾜｻﾞﾜ…

運転手「しまった！　ハンドドライヤーを轢いちゃった……！」

目撃者「グシャグシャだな……」

運転手「これって過失致氏になるのかな？」

目撃者「ならねーだろ」

ちょっと面白い

……

……

ハンドドライヤー「ん、ここは……」

村娘「大丈夫？」

ハンドドライヤー「えっ！？」

ハンドドライヤー「僕は……どうしたんだ……？」

ハンドドライヤー「ここは……？」

村娘「ここはソボック村よ」

ハンドドライヤー（どこ！？　全然知らない地名だぞ！）

ハンドドライヤー（そういえば、トイレに設置されてた頃、利用者から聞いたことがある）



『今、異世界転生モノってのが流行ってるよな』

『あー、知ってる。氏んだら別の世界に行っちゃうってやつだろ？』



ハンドドライヤー（僕も……異世界転生してしまったのか！）

無双はよ

村娘「あなたが何者かは知らないけど、うちの村はみんないい人ばかりだから、ゆっくりしていって！」

ハンドドライヤー「はい」

ハンドドライヤー（とりあえず、いい世界に転生できたみたいだ。よかった……）

村娘「あ、手が汚れちゃった。手を洗わないと」ｼﾞｬﾌﾞｼﾞｬﾌﾞ

村娘「ふんふ～ん」ﾋﾞｼｮﾋﾞｼｮ

ハンドドライヤー「え？」

魔王「グオアアア！乾く、風化してしてしまう！！！」

ハンドドライヤー「あの……」

村娘「なに？」

ハンドドライヤー「手を洗った後、濡れた手はそのままにしておくの？」

村娘「うん」

ハンドドライヤー「濡れたままだと、気持ち悪くない？　水滴が垂れるし……」

村娘「いわれてみれば……だけどどうしようもないし……」

ハンドドライヤー（この世界には濡れた手を拭く文化がないのか……だったら！）

ハンドドライヤー「自家発電！」ﾊﾞﾁﾊﾞﾁｯ

村娘「きゃっ！」

ハンドドライヤー「さあ、僕に手をかざしてみて！」

村娘「う、うん」

ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ

村娘「まあ、すごい！　一瞬で手が乾いたわ！」

ハンドドライヤー「へへへ……」

村娘「村の人達にも、あなたのこと教えてもいい？」

ハンドドライヤー「もちろんだとも！」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

村人A「へぇ～、一瞬で手が乾いたぞ！」

村人B「すごいなぁ」

村人C「これでもう手が濡れたまま過ごさなくていいんだな！」

領主「手を乾かしてくれる生き物というのは、君かね？」

ハンドドライヤー「（生き物ではないけど……）はい、そうです！」

領主「さっそく、私も試させてもらおう」ｼﾞｬﾌﾞｼﾞｬﾌﾞ

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

領主「おおっ、手が乾いた！」

領主「君のことはぜひ陛下にも推挙したい！　きっとお喜びになる！」

ハンドドライヤー「ありがとうございます！」

王「ほう、温風で手を乾かすと？」

ハンドドライヤー「は、はい……」

ハンドドライヤー（さすが王様、威厳がすごい……）

王「面白い、さっそく手を濡らして……」ｼﾞｬﾌﾞｼﾞｬﾌﾞ

王「どうすればよいのだ？」

ハンドドライヤー「この中に手を入れて下さい」

王「こうか」

ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ

王「お」

王「おおお……？」

王「うおおおおおおお！？」

王「こりゃすごい！　こりゃすごいぞ！　手が濡れてない！　これは革命だ！」

ハンドドライヤー「ありがとうございます」

王「おぬしにはこれから、どんどん活躍してもらおうぞ！」

ﾜｲﾜｲ…

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」



打って変わって、ハンドドライヤーは忙しい日々を送った……。

ところが――

王「ゴホッ、ゴホッ！」

ハンドドライヤー「どうしました、王様？」

王「いや……このところ体調が優れなくてのう……」

王「ゲホッ、ゴホッ！」

ハンドドライヤー（風邪かな？　それにしては症状が重いけど……）

医者A「原因が分からない！」

医者B「治療に当たった者も、どんどん倒れていく！」

医者C「肺にダメージがあるのは確かなのだが……」

ハンドドライヤー「……肺！？」

ハンドドライヤー（まさか……まさか！？）

ハンドドライヤー（誰もいないところなら、奴も姿を見せるはずだ……）

ハンドドライヤー「出てこいッ！」

ハンドドライヤー「新型コロナウイルスッ！！！」



ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ…

ﾌﾊﾊﾊﾊﾊﾊﾊ…



ハンドドライヤー（ウイルスが集まって実体化していく……！）

新型コロナ「久しぶりだな、ハンドドライヤー」

ハンドドライヤー「やっぱりお前か……！」

ハンドドライヤー「なぜ……なぜお前がここに！？」

新型コロナ「元々俺たちがいた世界……分かりやすく地球としようか」

新型コロナ「あれから時が流れ……地球では、俺たちへの対処法がすっかり確立されてしまってな」

新型コロナ「残念ながら、猛威を振るえなくなってしまったのだ」

ハンドドライヤー「だから、こっちの世界に転生してきたってわけか……」

新型コロナ「そういうことだ」

新型コロナ「だが、この世界ではそうはいかん」

新型コロナ「異世界に転生した者はスキルを授けられることがあるが、俺も例外ではない」

新型コロナ「殺傷力ッ！　感染力ッ！　潜伏力ッ！　全てがパワーアップしているッ！」

新型コロナ「医療技術が発展途上のこの世界では、俺に太刀打ちすることはできん！」

新型コロナ「なんで自分が倒れていくのかすら分からぬまま、バタバタ氏んでいくこの世界の奴らが見える！」

新型コロナ「地球人類は滅ぼせなかったが……この世界の人類は根こそぎ絶滅させてやるのだァ！」

新型コロナ「どうだ、絶望したかァ！？」

ハンドドライヤー「ククク……」

新型コロナ「何を笑っている？」

まさかの展開

ハンドドライヤー「嬉しいのさ」

新型コロナ「あ？」

ハンドドライヤー「一つは、地球のみんなが新型コロナを克服してくれたこと」

ハンドドライヤー「僕はリストラされたけど、彼らのことは好きだった」

ハンドドライヤー「だから……お前なんかに負けなくて本当によかった」

新型コロナ「……」ﾋﾞｷｯ

ハンドドライヤー「そしてもう一つは――」

ハンドドライヤー「かつて僕は、お前によってお払い箱にされてしまった」

ハンドドライヤー「その借りを返せることが嬉しいのさ！」

新型コロナ「借りを返すだとォ～？」

新型コロナ「笑わせるな！　風を吹かすしかできないガラクタの分際でッ！」

新型コロナ「今の俺は機械ですら肺炎にできるッ！　お前をこの世界での犠牲者第一号にしてやろう！」

ハンドドライヤー「僕はずっと待ってたんだ……この時を」

ハンドドライヤー「僕はただこの世界でチヤホヤされてたわけじゃない……」

ハンドドライヤー「ちゃんと新技を編み出していたんだ！」

新型コロナ「妄言も程々にしておけよ……氏ねええええええええええええええッ！！！」

ハンドドライヤー「いくぞ……」

ハンドドライヤー「乾風抹殺（ワクチン・ドライヤー）！！！」



ビュゴォォォォォォォォォォッ！！！



新型コロナ「ぐ、ぐおおおおおおおおおっ！！？」

新型コロナ「なんだこれはぁぁぁ……！？」

新型コロナ「こ、こんな……！」

新型コロナ「パワーアップしたこの俺が……こんなガラクタ風情に……！」

ハンドドライヤー「残念だったな……」

ハンドドライヤー「お前は……負け犬だ……いや負けウイルスだ……」

ハンドドライヤー「地球にも……この世界にも……お前の居場所はないッ！　消え去れェッ！！！」

ビュゴォォォォォォォォォォォォォッ！！！

新型コロナ「バカなぁぁぁぁぁ……！！！」

ﾎﾞｼｭｩｩｩｩｩｩ…

王「……む」ｽｯｷﾘ

王「……すっかり体調が戻った！」

大臣「陛下、どうやらハンドドライヤー殿が病気の元凶を打ち破ったようです！」

王「おお……！」




「バンザーイ！」　「バンザーイ！」　「ハンドドライヤーバンザーイ！」

ﾜｱｧｧｧｧｧ…

王「よくやってくれた、ハンドドライヤー」

王「おぬしはもはやこの世界の救世主。皆の手をせわしなく乾かす必要などない」

王「望むのなら、どんな恩賞も授けよう！　さあ、望みを言うがよい！」

ハンドドライヤー「いえ……恩賞はいりません」

王「なに？」

ハンドドライヤー「あえていうなら……今まで通りハンドドライヤーとして働かせて頂けるのが」

ハンドドライヤー「僕にとっての一番の恩賞です！」

ﾜｲﾜｲｶﾞﾔｶﾞﾔ…

ハンドドライヤー「さあ、手を洗って手が濡れてしまった皆さま、僕が乾かしまーす！」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」

ハンドドライヤー「ｺﾞｫｫｫｫｫｫｫｯ」



今日もハンドドライヤーは、異世界で人々の手を乾かし続けている……。







おわり

乙
面白かった

乾かすというより風の勢いで吹き飛ばしてるだけだからね
下の受け皿に水が溜まってるのを見て、正直コロナ以前から使うの躊躇ってたわ

映画化決定