1: 2012/08/07(火) 23:53:27.99 ID:MfEJGsuJ0
保健所

所員「駆除……ですか」

官僚「はい、野生ニートを徹底的に駆除します」
官僚「そのための研修として今日から一週間、ここの保健所にお世話になります」

所員「簡単に言ってくれますね……いいですけど」
所員「いくらお偉いさんといっても、我々と同じ仕事をしてもらいますよ」

官僚「もちろんです」

3: 2012/08/07(火) 23:55:35.34 ID:MfEJGsuJ0
今から十五年前、ニート法が制定された。
これによりニートは国立法人の職業安定所に斡旋され、職を得るための手配がなされる。
ニート削減のために制定されたニート法により、無職者の数は劇的に減った。
一方で、未だ無職を続けるニートはどんどん迫害されるようになっていった。

官僚「……今更こんな教育ビデオ、見なくてもわかります」ピッ

所員「そうですか」
所員「ではさっそく仕事に入ります。まずは野生ニート目撃情報を頼りに、捕獲を行います」
所員「捕獲ですよ? まだ駆除ではありません」
所員「若手、官僚さんとペア組んで作業して」

6: 2012/08/08(水) 00:00:30.46 ID:Cz/w1feQ0
昨日 少年「やったー! 野生のニート捕まえたぞ!」ってスレ立てました。
夕方まで保守してくださった方ありがとうございました。
残ったら書くと言いましたが、落ちたら落ちたで書きたくなったので同じ設定でいくつか書きます。

8: 2012/08/08(水) 00:01:59.55 ID:Cz/w1feQ0
テクテク

若手「この辺ですねー目撃されたのは」
若手「結構広い雑木林だし、手分けします?」

官僚「そうしよう」
官僚「……野生ニートめ、絶対捕まえてやる」
官僚「害ばかり及ぼすクズめ……」

カサッ

官僚「!」
官僚「こっちか……」チャキッ
官僚「こちらには電気ガンがあるんだ。負けるはずない」

ザザッ

官僚「……出てこい! 野生ニート!」

ガバッ

官僚「っ!」

野生ニート「……」
野生ニート「ぐあああああああ!」

官僚「くっ、こいつ……」
官僚(目が血走ってる……いかれてるな)

9: 2012/08/08(水) 00:04:00.97 ID:Cz/w1feQ0
野生ニート「がああああああ!」ガンッ

官僚「痛っ」カラン
官僚「しまった、ガンが……」

野生ニート「ぐおああああ金よこせええええええ!」

官僚「……っ」

  「ちょ、待て待て!」

カンッ

野生ニート「ぐあ……」

官僚「え?」

10: 2012/08/08(水) 00:06:41.51 ID:Cz/w1feQ0
  「あーやべ、頭当たっちゃった」
  「あんた大丈夫? 襲われてたみたいだけど」

官僚「え、あ……はい」

  「それなら良かった……ん? その銃……」

若手「官僚さん? 大丈夫ですか?」

  「げっ保健所のガキ!」
ニート「やべえ逃げろ!」ダッ

官僚「……」

若手「あ、こいつ最近問題起こしてた野生ニートの親父ですよ!」
若手「んで今逃げてったの……俺ら見て逃げるんですから、ニートですかね」

官僚「ニート……だと」
官僚「それじゃ僕は、取り逃がしたのか……」ギッ

11: 2012/08/08(水) 00:09:50.73 ID:Cz/w1feQ0
所員「野生ニート、46歳。職歴ゼロで問題行動多し……」
所員「これじゃ職業安定所も厳しいかなぁ」

官僚「処刑でいいですよ、今すぐに」
官僚「上には私から言っておきます」

所員「処刑って……簡単に言ってくれますけどねぇ」

若手「いいじゃないっすか先輩、俺がさくっとやりますから」
若手「それに経過観察用の監視部屋も満員じゃないっすか」

所員「……」

12: 2012/08/08(水) 00:11:44.11 ID:Cz/w1feQ0
官僚「逃したニートが一匹いるな、すぐに捕まえよう」

若手「でもあのニート、官僚さんのこと助けてくれたんじゃないっすか?」

官僚「助けられたのが恥だ。ニートはニート、人間のクズに変わりない」
官僚「明日にでも捕まえに行く」

若手「熱心すねぇ。何か恨みでもあるみたい」

官僚「恨み……か」

子官僚『おじちゃん、だれ……?』

親父ニート『へへ、悪いようにはしないから……こっちおいで……』ハァハァ

子官僚『……っやだ!』ダッ

親父ニート『かわいくねぇなガキが!』ガシ
親父ニート『大人しく俺の相手しろって言ってんだ!』

子官僚『や、やだ……助けて……!』ズルズル

官僚「……ニートなんて、全員害虫なんだ」
官僚「一般市民が犯罪に巻き込まれる前に頃した方がいい」

13: 2012/08/08(水) 00:14:52.68 ID:Cz/w1feQ0
若手「そんなすぐ捕まるほどニートもバカじゃないですって」

官僚「……」キョロキョロ

若手「こういうときは罠仕掛けて……ま、それも見抜かれますけど」
若手「俺仕事あるんで帰ります。あとは一人でよろしく」スタスタ

官僚「……犯罪が生まれる前に、ニートを仕留めてやる」
官僚「……あれは」

ニート「ふんふーん」
ニート「平日の昼間は人も少ないし、コソコソしなくていいから好きだな」

官僚「っ、ニートめ! よくも昨日は逃げたな!」

ニート「うっわびっくりした」
ニート「あれ、昨日の保健所?」

官僚「そうだ、お前を駆除しに来た」

ニート「おっかないなぁ、さよなら!」ダッ

官僚「逃がすか!」ビリッ バリバリ

ニート「!」ビリビリ
ガクッ

官僚「……え、気絶した?」
官僚「この銃、そんなに威力強いのか……でもまあ、ニート相手でよかった」

14: 2012/08/08(水) 00:17:14.09 ID:Cz/w1feQ0
ニート「うーん……いてて」
ニート「あれ? 椅子に縛られてる」ギチギチ

官僚「ここは保健所だ、お前は捕まった」
官僚「大人しく駆除されるんだな」

ニート「まじで? 俺殺されちゃうの?」

所員「……」
所員「このニートはまだ、更生の余地があるように見えます」

官僚「だからなんですか、野生のニートには間違いない」
官僚「野生ニートは残らず駆除、それが私の仕事です」

所員「……分かりました。じゃああなたが頃してください」
所員「これが、ニートが座ってる電気椅子の作動レバーです。どうぞお好きに」
所員「ちなみに電気ガンの電力は、目盛の5です。20までありますが、マックスになる前に氏ぬでしょう」

16: 2012/08/08(水) 00:19:52.23 ID:Cz/w1feQ0
官僚「……分かった。貸してください」
官僚「……」カチ

ニート「うぐっ」ピリピリ
ニート「いってー……体が痺れる……」

官僚「ふん」カチカチ

ニート「痛っ、ちょっと待って痛い!」ビリッ
ニート「痛い痛い! ほんとに氏ぬ!」

官僚「……」カチカチカチ

ニート「うが、ああっ!」ビリビリ
ニート「……っ」ガクリ


17: 2012/08/08(水) 00:23:22.98 ID:Cz/w1feQ0
官僚「……氏んだか?」

所員「まだ気絶ですよ。無駄に苦しめてどうするんです?」

官僚「っ」カチ…

ニート「」ブクブク

官僚「な……」

所員「氏ぬほどのショックです、泡くらい吹きますよ」
所員「頃すなら一気にしたらどうです? 殺さないなら早く止めなきゃ」

官僚「……」
官僚「今日は、止めておきます」カチカチカチ

ニート「……」グッタリ

所員「そうですか」
所員「……手が震えてますよ。あなた、駆除とたくさん口にしておきながらそれですか」

18: 2012/08/08(水) 00:27:08.59 ID:Cz/w1feQ0
所員「ごはんだよー取りにおいでー」

ガヤガヤ

所員「新入りのニート君、ここでは自分でご飯取りにくるんだよ」

ニート「あ、はい……けど体が動かなくて」
ニート「痺れたみたいに……」

所員「……今日は特別、持ってきてあげよう」
所員「さ、みんな次の職業案内日にはここを出られるように頑張ってな!」

官僚「……寒気がする。こんなにニートがいたなんて」
官僚「こんな奴らが、税金で飲み食いしてるだなんて……」

所員「……官僚さん、これも私たちの仕事です」
所員「今はニートでも、いつかは社会の一員になる。その手助けをしたいんです」

官僚「……ニートはどこまで行ってもニートですよ」

19: 2012/08/08(水) 00:27:45.82 ID:Cz/w1feQ0
所員「へぇ、大卒なんだ」

ニート「ええ、でも新卒のとき就職失敗して……そのままなし崩しで」

所員「じゃあ専門とかあるんだね、それを活かした仕事を考えよう」

官僚「……大卒でニートになんかなるやつがいるのか」

若手「結構多いっすよ? まあ大半は高卒中卒ですけど」
若手「ニートにもそれぞれ、人生があって……聞くの楽しいですよ割と」

官僚(ニートにも、人生……)

20: 2012/08/08(水) 00:29:02.32 ID:Cz/w1feQ0
所員「若手に聞きましたけど、あなたニート君に一度助けられてるようですね」
所員「それなのに何で、彼をすぐ殺そうとするんです」

官僚「それはあいつがニートだからですよ」

所員「そうですか……」

官僚「……けど、話をするくらいなら許してやろう」
官僚「おいニート、お前の半生を教えろ」

ニート「突然ですね、いいですけどつまんないですよ」
ニート「大学卒業した後、就職失敗してそのままニートになっただけですもん」

官僚「親はどうした」

ニート「あー、息子がニートだと体裁が悪いって」
ニート「追い出されちゃいましたねー」

官僚「……もし、追い出されなかったら?」

ニート「さあ、分かりません。そんなこと考えてもむなしいだけだし……」

官僚「……」

22: 2012/08/08(水) 00:31:39.11 ID:Cz/w1feQ0
若手「今日は三人か……はい早く入って入ってー」
若手「大丈夫、すぐに終わるから……入った? じゃあポチッ」プシュー
若手「あとは一時間待つだけ。あ、官僚さん」

官僚「……何ですかそれ」

若手「ここ、ガス室ですよ。この保健所設備整ってるから、近隣保健所からも処分するニートが集まるんです」
若手「といっても、一週間に二回使うか使わないかですけどね」

官僚「……」

若手「大丈夫ですって、慣れ! 慣れれば何てことないですよ処分だって」
若手「官僚さん、野生ニート駆除するんでしょ? だったらガス室も使わないと」

官僚「……そうですね」

23: 2012/08/08(水) 00:38:52.86 ID:Cz/w1feQ0
ニート「あ」

官僚「……人の顔見て間抜けな声出すな」

ニート「いやあまた来たと思って」
ニート「だって俺のこと頃すって明言したし、そりゃびくびくするって」

官僚「……」
官僚「お前、ニートのくせに人懐こすぎるぞ」

ニート「へ? いやニートのくせにって言われても……俺は俺だし」
ニート「なりたくてなったわけじゃないニートらしさなんて、分かんないよ」

官僚「……」

24: 2012/08/08(水) 00:42:15.91 ID:Cz/w1feQ0
所員「官僚さん、交代の時間です」
所員「……どうです、結局一人も処分できてませんよ?」

官僚「しますよ、すぐに……と言いたいところですけど」
官僚「……戸惑ってるんです、今までずっとニートを憎んできたのに、今になって」

所員「ニートも人間なんです。それぞれに人生があるし、ニートになった理由もある」
所員「それが分かってから私は……一人でも多くに更生してもらいたいと思います」
所員「……ニートを憎む理由はなんですか?」

官僚「……幼いころ、野生のニートに拉致監禁されました」
官僚「あのころはまだ、ホームレスって言ってたかもしれません」
官僚「そのトラウマが忘れられなくて……こんな思いをする子供がいなくなるよう、官僚になってニートのいない社会を作ろうと思ったんです」

所員「そうですか……それは辛かったでしょうね」
所員「ニート全てを恨むのは分かります……けど、あなたに危害を加えたのはその野生ニート一人だけです」
所員「矛先をニート君やほかの野生ニートに向けないで……あなたなら、もっといい解決策を見つけられるはずです」

官僚「もっといい解決策?」

所員「……私や若手のような、人頃しを仕事にする人間を増やさないような解決策を」

官僚「……」

26: 2012/08/08(水) 00:45:25.60 ID:Cz/w1feQ0
ニート「……ん?」

官僚「起きてたか」

ニート「いや、今起きた。どうしたの?」

官僚「……お前、なんであの時僕を助けたんだ?」

ニート「何でって、そんな理由なんかないよ」
ニート「困ってる人がいたら助けるでしょ、あれ傍目から見ても危ない状況だったし」

官僚「……保健所の職員だとかニートだとか、関係なしにか?」

ニート「そんなの考える暇もないよ」

官僚「……」
官僚「僕なんかより、お前みたいな人間の方がこの社会には必要だな……」

ニート「え? どうしたの?」

27: 2012/08/08(水) 00:48:30.92 ID:Cz/w1feQ0
若手「今日は五人、ガス室ですねー」

官僚「……若手くんは、楽しそうに処分するな」

若手「いやあ気が滅入って滅入って仕方ないですよ? でもやらないとだし」

官僚「……」
官僚「今日は、うちの上司が偵察にくる。忙しいところ悪いがそのつもりで」

28: 2012/08/08(水) 00:52:16.19 ID:Cz/w1feQ0
カツンカツン

ニート「あ、官僚」

官僚「……ちょっと外へ出ろ」ガチャン
官僚「会わせたい人がいるから……そうだな、11時になったら応接間に来い」
官僚「それまでは適当に施設内うろついてろ」

ニート「……何だろ、俺に用事ができるなんて」
ニート「ま、いいや。散歩しよう」テクテク

野生ニート「……」
野生ニート「畜生、なんで俺がガス室であいつは自由なんだ……くそっ!」
野生ニート「こうなったら道連れだ……あいつも一緒に……」

ニート「ふんふーん」

ガンッ

ニート「っ、え?」

ガンガンッ

29: 2012/08/08(水) 00:55:54.82 ID:Cz/w1feQ0
若手「もー今日忙しい! 氏にそう! てことでさっぱり氏のうかニート諸君」
若手「ほらほら入って入って! よし控室に誰も残ってないな」
若手「ドア閉めて……ポチッと」

ニート「……」パチ
ニート「何だここ……暗い部屋?」

野生ニート「ガス室だよ! てめぇも俺たちと一緒に氏ぬんだ!」

ニート「……え?」

プシュー

野生ニート「ゲホゲホ……畜生! 畜生!」

ニート「うっ……何だこの臭い……」
ニート(喉が焼ける……目にも染みるし、鼻も……)
ニート「ぐっ、あああっ!」ゲホゲホ

30: 2012/08/08(水) 00:58:30.98 ID:Cz/w1feQ0
官僚「……ニートの奴、何してんだ。もう三十分も過ぎてるぞ」
官僚「このプロジェクトが始まって初めて捕まえた野生ニート……駆除じゃなくて更生の方向で計画を立て直すって上司に伝えるのに」
官僚「肝心のあいつがいないと駄目じゃないか……」

所員「官僚さん! 大変です!」バン

官僚「所員さん? それよりニートの奴が……」

所員「……ですから、そのニート君が」

32: 2012/08/08(水) 01:03:11.26 ID:Cz/w1feQ0
若手「官僚さん」

官僚「ニートは、どこに……」

若手「……ガス室に紛れ込んでたみたいで。後頭部に殴られた跡があるから、きっと誰かに連れ込まれたとか……」
若手「一番右のベッドです」

官僚「……」ハラリ
官僚「……ニート、寝てるんですか……?」

所員「ガス室の毒は、綺麗に氏ぬんです。でも瞼は青白いし、唇も青いし、肌も血の気がないでしょう」
所員「触ってみればわかります」

官僚「……」ヒタ
官僚「そんな……何でこんな突然……」

33: 2012/08/08(水) 01:04:08.98 ID:Cz/w1feQ0
上司「おお官僚、こんなところにいたのか! 待っても出てこないから来てしまったよ」

所員「ああ、官僚くんの……こんにちは」

上司「どうも、所員さん。で、ここは……?」

所員「霊安室です。今しがた処分したニートが並んでます」

上司「ほうほう、ということは……これが官僚が捕まえたニートか!」
上司「すごいじゃないか、もう処分しただなんて……迅速ですばらしい!」

官僚「えっ」

34: 2012/08/08(水) 01:05:31.40 ID:Cz/w1feQ0
上司「有言実行とはまさにこのこと。野生ニート駆除プロジェクトをここまで実践するなんて!」
上司「この調子でどんどん駆除していこう。野生ニートなんてどいつもこいつも危険だからな」

官僚「そんな、僕は……」

上司「いやあ最高の出だしだよ! さすが将来有望な官僚だ」
上司「早く本省に戻って計画を遂行しよう! 所員さん、一週間お世話になりました!」

官僚「……」

35: 2012/08/08(水) 01:06:26.03 ID:Cz/w1feQ0
所員「……これが、上の考えなんですね」
所員「ニートなんてすぐさま頃してしまえ、と」

官僚「……」

所員「若手も、叱られるどころか褒められましたよ」
所員「人を頃すことが褒められるだなんて……私には信じられません」

官僚「……僕も、一週間前まではああいう風に考えてました」
官僚「変わるんですね、人って。ニートと、あなたたちと出会って……」

所員「……社会も、変わりますかね。あなたのように」

官僚「変えてみせます。僕が、この社会を……」
官僚「ニート法の功績と一緒に生まれた、歪んだ社会を」

おわり。

39: 2012/08/08(水) 01:21:51.35 ID:Cz/w1feQ0
僕の家にはニートがいる。父が最近もらってきた。
テレビで見るような老けたニートとは違い、とても若い。

学生「……と、作文の出だしはこうでいいかな」
学生「最近って言っても、三日前なんだけどな。書くことないや」

父「いやあ思い切って飼ってみてよかったよ、ニートくん」

母「ええ、こんなに生活が楽しくなるとは思わなかったわ」
母「留守の番にもなるし、学生の相手にもなるし」

父「全くだ」

ニート「……ありがとうございます」

41: 2012/08/08(水) 01:24:40.29 ID:Cz/w1feQ0
学生「ニート、散歩行こう」

ジャラジャラ テクテク

学生「……何か変な感じ。人間連れて散歩なんて」

ニート「まあニートはどっちかっていうとペットだからね」

学生「そうなのかなぁ……慣れるものかな、こういうの」
学生「あ、おばさんおはようございます」

主婦「あら学生くん、おはよう」
主婦「もしかして新しく飼ったっていうニート?」

学生「はい」

主婦「いいわねぇ若くて。いったいどこで手に入れたのかしら?」
主婦「じゃあまたね」

学生「さよなら」
学生「……今日も香水臭かったな、あのおばさん」

ニート「……」

42: 2012/08/08(水) 01:27:21.18 ID:Cz/w1feQ0
学生「ただいま、あー汗かいたシャワー浴びたい」

母「その前に、ニートの体拭いてあげなさい!」

学生「はーい。じゃあニート、一緒にお風呂場いこうか」

シャワアアアアア

学生「ていうかさぁ……散歩って日課にしないと駄目なの?」
学生「勝手に行って勝手に帰ってくればいいんじゃない?」

ニート「一応、ニートの放し飼いは禁止だから……」
ニート「俺が逃げて野生ニートになったりしたら、責任は君や親御さんにあるんだよ?」

学生「ふーん……ま、いっか」

43: 2012/08/08(水) 01:29:50.36 ID:Cz/w1feQ0
母「ご飯よー」

学生「はーい」

父「お、今日はハンバーグか」

母「ニートはこれね」コン

学生(……ペットフード?)

父「ニートフードか、最近はいい食べ物があるもんだな」

母「でしょ? 不摂生気味なニートに必要な栄養は全部入ってるんだって」

学生「……人間と同じ食べ物でよかったんじゃなかったっけ?」

母「いいけど、やっぱりニートはニートだもん。ニート向けの食べ物が一番よ」

ニート「……」モグモグ

44: 2012/08/08(水) 01:32:36.65 ID:Cz/w1feQ0
学生「おやすみ」

父「おやすみ、じゃあ私ももう寝るか」
父「ニート、この檻の中に入りなさい」

ニート「……」ジャラジャラ

父「ちゃんと繋いで、鍵かけて……これでよし」
父「大型犬用の室内檻を譲ってもらえてよかったな。ぴったりだ」

母「そこまで体大きくないニートでよかったわ」

学生「……」

45: 2012/08/08(水) 01:33:34.60 ID:Cz/w1feQ0
学生「ニート……見た目は俺たちと変わらないのに」
学生「何であんな動物みたいな扱いなんだろう……」カタカタッ ターン

ニートとは
働かない、学ばない、そのための訓練もしない者のこと。
以前は主に若者だったが、今では多様化と長期化が相まって年齢層も幅広くなっている。
「ニート法」が制定されてからはニートの立場は急激に変容し、今では家畜同然のものとなっている。
その狙いは、ニート=楽などという考えを根底から変えるためである。

学生「へえ……」
学生「何か、見せしめって感じだな」

46: 2012/08/08(水) 01:36:08.74 ID:Cz/w1feQ0
ガタン バタンッ

ニート「……?」

父「ああくそ、今日も部下の尻拭いか……」
父「何で俺がこんな汚れ仕事しなきゃならないんだ、腹が立つ」

ニート「……おかえりなさい」

父「話しかけるな! ニートの分際で!」ドカッ

ニート「痛っ」

父「ったく、どいつもこいつも!」ボカッ ゲシッ
父「はあ……多少はすっきりした。風呂でも入るか」

ニート「……血、止めなきゃ」ドクドク

47: 2012/08/08(水) 01:39:55.74 ID:Cz/w1feQ0
チュンチュン

父「やあ学生、ニート。おはよう」

学生「おはよう」

ニート「おはようございます」

父「いやあ今日もいい天気だな! 仕事日和だ!」

学生「何か楽しそうだね、仕事がんばってね」

父「ああ、お前も勉強頑張れよ!」

学生「うん」

ニート「……」

48: 2012/08/08(水) 01:43:25.86 ID:Cz/w1feQ0
学生「行ってきます」

母「行ってらっしゃい」
母「……ふぅ、二人とも出かけたわね。さあ洗濯しなきゃ!」

ニート「……お手伝いしましょうか?」

母「いいのよ、手伝わせたら家事手伝いになっちゃうじゃない」
母「ニートはニートらしく、ごろごろしてなさい。ね?」

ニート「……はい」

母「さ、洗濯終わったらネットショッピングの時間!」
母「ニートにも新しい服買ってあげるからね? ああそれとバッグと靴も……」

ニート「……」

49: 2012/08/08(水) 01:43:59.21 ID:Cz/w1feQ0
学生「ただいま」

母「おかえり学生」

学生「ごめんちょっと友達のとこ行ってくる。ご飯いらない」

母「あら……そうなの? 行ってらっしゃい」

学生「いってきます」パタン
学生「昔は絶対に許してくれなかったのに……俺も成長したから、自立させてくれてるのかな」

母「学生はしょうがないわね……ま、いいわ。今はニートがいるし」
母「父さんも仕事でしょっちゅういないけど、さみしくないわ。ねぇ?」

ニート「……はい」

母「そういえば最近、父さんの暴力もめっきり減ってるのよ」
母「何だかいいことずくめだわ」

ニート「……」

51: 2012/08/08(水) 01:47:07.93 ID:Cz/w1feQ0
ドカッ ボコッ

ニート「……っ」

父「ああすっきりした。仕事の鬱憤も晴れる」
父「この頃母さんの依存症も治ったみたいだしな……昔はべったりしすぎて鬱陶しいこともあったが」
父「今じゃすっかり普通の夫婦だ……いい傾向だな、ストレスも減った」

ニート「……」
ニート「そういうことか」

52: 2012/08/08(水) 01:49:23.44 ID:Cz/w1feQ0
学生「母さん、ニートの散歩に行くよ」

母「いいわよ散歩なんてしなくても。ねぇ?」
母「室内犬もいるんだし、家の中で飼いましょう?」

父「ああそうだな。賛成だ」
父「大袈裟な痣も出来ているし……しばらく室内でいいんじゃないか?」

学生「……」
学生「確かに傷出来てるけど、何で? しかも檻や首輪も前より頑丈になったような……」

53: 2012/08/08(水) 01:51:16.93 ID:Cz/w1feQ0

カタカタ ターンッ
猫に無理やり服を着せるのは虐待! 過剰にかわいがるのもいい加減にしろ!
犬は散歩させるもの! 家に閉じ込めるのは監禁だ!
ペットにも自由を!

学生「やっぱり……今のニートはペット以下の扱いをされてるよ」
学生「ずっと檻の中で一歩も外に出ないなんておかしい」
学生「それにあの傷……出歩かないくせにあんなに怪我するなんて」
学生「もしかして……父さんも母さんも何か隠してるんじゃ……」

54: 2012/08/08(水) 01:54:27.26 ID:Cz/w1feQ0
学生「……」コソコソ
学生「カメラ仕掛けて……よし、ニートの一日を観察するんだ」
学生「学校いってきます!」

55: 2012/08/08(水) 01:56:37.13 ID:Cz/w1feQ0
学生「おはよう」

ニート「……おはようございます」

学生「ニート、お前最近元気ないよな」

ニート「……」

学生「カメラ、仕掛けてたの分かった?」
学生「大丈夫、俺が助けてやるから……」

ニート「……」

56: 2012/08/08(水) 01:57:45.96 ID:Cz/w1feQ0
ジー

学生「昼間は母さんがニートの世話してんだよな……」

母『今日も通販届いたわよ、ニートに似合いそうな首輪買っちゃった』

ニート『……お気持ちはありがたいですけど、俺にそんなにお金使うのは』

母『いいのよストレス発散だもの、買い物は』
母『そうだ、着替える前に体拭いてあげる。昨日から拭いてないものね』

ニート『……一人でできますから大丈夫ですよ』

母『いいじゃない、私が世話してあげるから』

ニート『でも……』

母『……何よ! 何か不満なの?』

57: 2012/08/08(水) 02:01:02.47 ID:Cz/w1feQ0
学生「!」

母『どうして私から逃げようとするの……あんたニートでしょ! 黙って世話されてなさいよ!』バシン

ニート『……はい、すみませんでした』

母『ああ分かればいいのよ? ごめんなさい痛かったでしょ? 今手当してあげるから』

ニート『……』

学生「……おかしいよ、こんな……」
学生「母さん、まるでニートの世話してないと氏んじゃうってくらい必氏だ……」

58: 2012/08/08(水) 02:01:43.45 ID:Cz/w1feQ0
キュルキュル

学生「夜……父さんが帰ってくるな」

バタン!

ニート『……』ビクビク

父『ニートいるか? ああ全く今日も上司が口うるさくて……』
父『お前の不手際を俺になすりつけやがって!』ボコッ

学生「!」

父『ったく、イライラする! この、この!』ボカッ ドコッ

ニート『痛……っ』
ニート『やめてください、お願いですから……』

父『うるさい! ニートのくせに反抗するな!』ドカッ
父『ふう……どうせその傷も、あいつが甲斐甲斐しく世話してくれるんだろ』
父『たっぷり依存させてやってくれよ……その方が俺も助かる……』スタスタ

ニート『……げほ』

学生「……そんな、父さんが、暴力を」
学生「父さんも母さんも、ニートのこと……止めさせなきゃ!」

59: 2012/08/08(水) 02:03:41.97 ID:Cz/w1feQ0

ニート「いいよ、大丈夫」

学生「! ……ニート」
学生「全然大丈夫じゃないだろ! この映像……」

ニート「俺は大丈夫だよ、耐えられるし」
ニート「それに俺が標的になってる間は、平和だし」

学生「何が平和だよ、こんなの……」

ニート「よく考えてみてよ、学生くん」
ニート「俺がいなくなったら、二人の矛先が向くのは……君だよ?」

学生「っ!」

60: 2012/08/08(水) 02:04:22.55 ID:Cz/w1feQ0
ニート「君が生まれる前は、お互い暴力振るったり依存したりしてたみたいだけど」
ニート「……良かったよ、君が標的になる前に俺がここに来て」

学生「そんな……でも……」

ニート「大丈夫、分かってたから……こういう扱いされるだろうって」
ニート「だって二人とも、端から俺を家畜扱いしてたもん」
ニート「まるで捨て犬見るみたいに接してきてさ……人間らしい扱いなんてしてくれなかった」

学生「……」

ニート「……人権侵害レベルのニート法が残ってる理由が分かった気がしたよ」
ニート「人間を堂々と畜生扱いできるのって、気持ちいいんだろうね」

学生「……逃げてよ、お願い」

ニート「ううん、逃げない」
ニート「その代り、お願いなんだけど……この家にいる間は、俺が君を守ってると思ってていい?」
ニート「それが俺の最後の人間らしさっていうか……生きる意味っていうか。あはは、そんな大層な人間じゃないけどさ」

学生「……うん、分かった」

61: 2012/08/08(水) 02:05:42.23 ID:Cz/w1feQ0
僕の家にはニートがいる。父が最近もらってきた。
テレビで見るような老けたニートとは違い、とても若い。

学生「あ、作文……続き書かなきゃ」
学生「……」カリカリ

ニートは、家では動物のような扱いを受けている。
けれど、僕はニートを動物と同じとは思わない。
ニートは

学生「……」

グシャグシャ ポイ

63: 2012/08/08(水) 02:06:12.76 ID:Cz/w1feQ0
父「おはよう、学生」

母「おはよう」

学生「……おはよう」
学生「ニート、おはよう」

ニート「……おはようございます」

父「さあ今日も一日頑張ろう!」

母「そんなこと言って、いつもと同じ一日じゃない」

学生「そうだよ、いつもと同じ……」
学生(ニートを犠牲にして、平和を保ってるだけの……)グッ

ニート「……」ポン
ニート「大丈夫だから……ね?」ニコ

おわり。

71: 2012/08/08(水) 02:42:17.50 ID:Cz/w1feQ0
男「ニート福袋買った」
男「ネット通販だから中身は見れないけど……格安だしいっか」
男「女ニートとか入ってないかな……ゲヘヘ」ビリビリ

ニート「……んだよ、しけた野郎だな」チッ

男「」

72: 2012/08/08(水) 02:45:07.53 ID:Cz/w1feQ0
ニート「何だよその顔。どうせ女でも入ってる妄想してたんだろ」
ニート「女のニートなんてみんな家事手伝いで逃げてんだよばーか」
ニート「そうでなくても、売りに出されるくらいなら風俗務めになるわ」

男「……うっわ、男な上に態度悪いな……ハズレだ」
男「こっそり捨てよう……」

ニート「いいのかよ、不法追放はした方も罰則だろ?」

男「」

男「最悪だ……こんな態度悪い野郎ペットにもなりゃしない」

ニート「自分の浅はかさを恨むんだな」

男「うるせぇ黙れ! くそっ格安でもこうなると金が惜しくなってきた……」
男「福袋って言ったって、中身はこいつ以外に服とかしか入ってないし」

ニート「要するにお前、つかまされたんだよ」

男「うるせぇ!」

73: 2012/08/08(水) 02:45:45.87 ID:Cz/w1feQ0
男「……とりあえず、自己紹介しろ」

ニート「ニート、歳は20。他に何言えばいい?」

男「うーんそんなもんだな……俺は男、29歳、仕事はC級の飲食」

ニート「C級って……昔で言ったらアルバイトレベルじゃねぇか。フリーターかよその歳で」

男「うるせぇ! 今は全部同じ社会人なんだからいいだろ!」

ニート「何だよそれ、お先真っ暗じゃねぇか。せめてB級になれよな、結婚できねぇぞ」

男「もっともだけど腹立つ」

74: 2012/08/08(水) 02:49:10.47 ID:Cz/w1feQ0
男「ただいまー」

ニート「おう、おかえり」

男「うわびっくりした」
男「おかえりなんて何年振りに聞いたかな」

ニート「それくらいは役に立つぜ?」

男「うん……でも、もっと役に立たないのか? 家事をするとか」

ニート「無理。俺は愛玩用だ、ペットニートってそんなもんだろ」

男「……はあ、食費ばっかりかさんじまう」

ニート「……」

75: 2012/08/08(水) 02:51:47.84 ID:Cz/w1feQ0
男「バイト……もっと増やさなきゃ駄目だな」
男「一気に二人分だもんなぁ……彼女もつくんねぇで何やってんだろ俺」

ニート「おかえり」

男「ただいま……あれ、家具の位置変わった?」

ニート「お前の部屋住みにくいから変えた」

男「あっそう……ちょっと布団のスペース広くなってる」

ニート「俺も寝るからさ」

男「えっ一緒に寝るの? 成人した野郎が二人そろって寝るとかきつくない?」

ニート「成人ね……ま、いいんじゃない? 俺体でかくないし」

男「うーん、確かにお前小さいし……まあ仕方ないか……」

ニート「気軽にペットなんか飼うもんじゃねぇな」

男「お前が言うな」

76: 2012/08/08(水) 02:52:26.98 ID:Cz/w1feQ0
男「らっしゃいませー!」

ガヤガヤ

店長「……最近売上減ってきたなあ」
店長「誰か辞めさせたいけど……ニート法と一緒にできた労働改定法のせいで、辞めさせにくくなったし」
店長「A級とかB級とか名前変えても、バイトも正社員も同じ福利厚生でなんて無茶だよなぁ……」

77: 2012/08/08(水) 02:55:31.29 ID:Cz/w1feQ0
ジャジャーン
ニート法と同時に生まれた労働改定法。それは更なる労働環境の向上を目指したものである。
従来の正社員、契約社員、パート・アルバイトといった形態区分を廃止し、新たにA級労働者からC級労働者という区別になった。
このことにより、「労働者は皆同じ形態である」という概念が生まれたのである
ナレーター『今日はその労働改定法について改めて勉強しましょう』

ニート「……テレビつまんね」

男「ただいま」

ニート「おかえり、おいお前んちパソコンねぇの?」

男「いきなりどうしたの……あるよ、やりたいの?」

ニート「ああ」

男「まあネット回線は固定料金だし、いいか」

78: 2012/08/08(水) 02:56:22.22 ID:Cz/w1feQ0
カタカタ

ニート「あったあった、掲示板」

カタカタ

ニート「これでよし……明日、駅前で待ち合わせっと」
ニート「40代のおっさんか……金持ってんだろうな?」

79: 2012/08/08(水) 02:58:06.23 ID:Cz/w1feQ0
おっさん「もしかして、君がニート君?」

ニート「うん、おじさん掲示板の人?」

おっさん「ああ……君、若いね。いくつなの?」

ニート「20歳」

おっさん「あはは……それは表向きだろ? 本当は?」

ニート「おじさん鋭いね……本当は17歳」

おっさん「それはそれは……いや、いいねすごくいいよ」
おっさん「お小遣いも弾んじゃおうかな、ははは」

ニート「やった、ありがと」ギュ
ニート(……ちょろいな)

80: 2012/08/08(水) 03:01:46.66 ID:Cz/w1feQ0
男「……お前この金どうしたの」

ニート「貰った。生活の足しにしろよ」
ニート「あ、もっと働けとか言わないでよ」

男「言わないけど……ニートにこれだけの金が稼げるのか?」
男「俺の月給の半分以上だぞ……ていうか、ニートの放し飼いって罰則厳しいんだから気をつけろよ!」

男「……おかげでバイト増やさなくてすみそうだな」
男「っしゃいせーい!」

81: 2012/08/08(水) 03:05:11.53 ID:Cz/w1feQ0
男「っしゃいせーい!」

店長「辞めてもらうとしたら、男君かな……もうすぐ30歳だし、そろそろピークというか」
店長「うん、そうしよう。どうすれば労働省から注意受けずに辞めさせられるかな……」

83: 2012/08/08(水) 03:07:19.42 ID:Cz/w1feQ0
カタカタ

ニート「男、あんま嬉しそうじゃなかったな。ていうか疑ってた感じ」
ニート「何でだろ、金あれば嬉しいだろ……あの連中みたいにさ」カタカタ
ニート「いいと思ったんだけどなぁ、この稼ぎ。しばらく封印するか」
ニート「あーあ、暇だな……」

ニート母『ちょっと! 何でもっと稼いでこないのよ!』

ニート『るせぇな、パチンコ代くらい自分で稼げよ』

ニート母『誰に食わせてもらってんのよあんた! 高校生ならバイトくらい楽勝でしょ!』

ニート『……普通のバイトで、何万も稼げると思ってんの?』
ニート『はあ……もうしばらくやらない。勝手にすれば?』

ニート母『……』
ニート母『稼げないなら、あんたなんかいらない』
ニート母『ニート通販で売りさばいてやる!』

ニート「……嫌なこと思い出した」
ニート「男、帰ってこねぇかな」

85: 2012/08/08(水) 03:10:40.23 ID:Cz/w1feQ0
男「でさ、その客がうざくて」

ニート「変な客がいたもんだな」

男「……お前はそういう話、何かないのか?」
男「俺ばっか喋ってるからネタ尽きちゃう」

ニート「うーん……ろくに学校も行ってないし……」
ニート「俺の人生、薄っぺらいんだよね」

男「何だそれ」
男「あー、人と話すのって面白いな。仕事じゃなくてこうして普通に」

ニート「そうか?」

男「正直最初はニートなんて飼えないと思ってたけど……案外どうにかなるんだな、楽しいし」

ニート「楽しい、か……ならよかった」
ニート「あ、褒めても金は持ってこねぇぞ」

男「いいよ別に。犯罪はするなよ」

ニート「……」

86: 2012/08/08(水) 03:13:10.01 ID:Cz/w1feQ0
男「おやすみ」

ニート「おやすみ」

パチン

ニート「……」
ニート「起きてるか?」

男「そりゃ今寝たばっかだもん」
男「でもすぐ寝ちゃうかも……」

ニート「……」
ニート「俺さ、何個か嘘ついてることあるんだ」
ニート「……言うの怖いな、だってほとんど嘘ばっかだし」

男「……」

ニート「……俺、厳密に言うとニートじゃないんだ」
ニート「ニートって、成人してなきゃ駄目だろ? ……俺、嘘ついてたけど17歳で」
ニート「……あと、あの金も。犯罪っていうか何て言うか……」
ニート「援助っていうか……まあ、汚い金」
ニート「……」

男「zzz」

ニート「寝てるのか……」

87: 2012/08/08(水) 03:14:00.42 ID:Cz/w1feQ0

男「しゃいせーい」

店長「ちょちょ、男くん」

男「ん? 何すか?」

店長「ちょっと話があるんだけど……ちょっとの間、店休まない?」
店長「人数調節でさ、一か月だけ!」

男「え、でも急に……」

店長「ほら、先月分と同じ額の休職金は上げるから!」
店長「ここにサインしてくれるだけでいいんだよ」

男「……いいんすか? そんな好条件」

店長「いいよいいよ、こっちから頼むんだし! はいボールペン!」

男「そ、それなら……」サラサラ

店長「……」ニヤリ

店長「内容見ないでサインしてくれたな……ありがたい」
店長「あとは気付かれる前に、ニートセンターに報告すれば……」ピピ

88: 2012/08/08(水) 03:15:30.77 ID:Cz/w1feQ0
男「てなわけで、一か月休みになっちゃったよ」

ニート「へえ、俺と一緒じゃん。ニート生活」

男「止めろよ、ニートがニート飼うとか笑えねぇじゃん……」

コンコン

職員「失礼します、ニートセンターです」

男「へ? ああ飼いニートのことですか?」

職員「いえ、男さんのことです」
職員「あなたがニート予備軍であると通報が来まして」

男「……え?」

ニート「……?」

89: 2012/08/08(水) 03:16:23.98 ID:Cz/w1feQ0


職員「ちょっとお話聞かせてもらえますか? あ、そちらの飼いニートも」

男「ちょっと……俺はニートじゃないです!」

職員「それを証明してくれる人は?」

男「バイト先の店長が……」

職員「……通報してくれたのが、あなたのバイト先の店長ですよ?」
職員「解職届にあなたのサインがあることも確認済みです」

男「な……何だって……」

ニート「……っ」

90: 2012/08/08(水) 03:17:10.44 ID:Cz/w1feQ0
職員「で、あなたは本当にニートなんですか?」

ニート「……」

職員「調べればわかりますよ、ニート証明書を見せてください」

ニート「……」

職員「……黙っていても、男さんのためにはなりませんよ」

ニート「……」

バン

部下「職員さん! さっきの結果が出ました……」
部下「やはりこの子、裏ルート経由でニート通販に卸されてます」

ニート「……っ」

部下「しかも偽ニートで、年齢も18歳未満。売春歴もあって、ニート法どころかいろんな法律に触れてますよ!」

職員「……これは大問題だな」
職員「ニート君、君が正直に話してくれれば……」

ニート「話したって……どうせよくしてくれないくせに」

91: 2012/08/08(水) 03:17:56.74 ID:Cz/w1feQ0
男「……嘘だろ」

職員「本当です、ニート君は未成年で裏ルートによる人身売買、さらに売春……」
職員「残念ながら、君にも責任がある……明日警察に行ってもらうよ」

男「……」

部下「ニート君がどうしても男さんに会いたいと……」

職員「いいだろう。ただし面会室で、ガラス越しにだ」

92: 2012/08/08(水) 03:18:34.40 ID:Cz/w1feQ0
男「……」

ニート「……男」
ニート「……この先、どうなるんだよ」

男「警察に連れてかれる」

ニート「……!」
ニート「なぁ、どうにかならないのかよ? 俺も家に連れ戻される、そんなの嫌だ……」
ニート「俺、お前と一緒にいたいんだよ……」

男「……」
男「嘘だろ? それもどうせ……」

ニート「!」
ニート「な、何言って……」

93: 2012/08/08(水) 03:19:16.66 ID:Cz/w1feQ0
男「年齢も嘘、経歴も嘘、何もかも嘘じゃねえかお前」
男「そうして俺のこと騙して……楽しかったか? 犯罪者に仕立て上げてさ」
男「バイト辞めさせられたのもお前の差し金か? いつから俺のこと陥れてたんだよ」

ニート「違う、俺はそんな……」

男「……今更何言われても、信じらんねぇよ」
男「あーあ、あの時福袋さえ買わなかったら……」

ニート「……っ、俺と、会わない方が良かったってか」

男「当たり前だろ」

ニート「……」ポロポロ
ニート「……そうだよな、当たり前だよな」ボロボロ

男「泣きたいのはこっちだよ……ったく、ガキはいいよな、何しても助かってさ」
男「もうお前の顔も見たくねぇ」

ニート「……」ボロボロ

94: 2012/08/08(水) 03:19:52.91 ID:Cz/w1feQ0
ニート「……」

ニート母「ったく、帰ってきやがった」
ニート母「でも、金にはなるわ……金と商品が戻ってくるなんておいしい商売じゃない」
ニート母「あんた、もう一回売られなさいよ。そして頃合い見てまた戻ってきなさい」

ニート「……分かった」
ニート(出来るさ、今回と同じこと繰り返すくらい……)
ニート(今度は心を開かなきゃいいんだ、それなら傷つかない)

おわり。

95: 2012/08/08(水) 03:30:20.36
面白い

98: 2012/08/08(水) 03:34:04.99 ID:Cz/w1feQ0
少し書き貯めます。次でラスト。

104: 2012/08/08(水) 04:32:11.27 ID:Cz/w1feQ0
ライター「……ふぅ、締切間に合った」
ライター「これで今月も取材に行ける……」

テクテク

ライター「……やっぱり野生のニートにはなかなか会えないな」
ライター「俺は味方だってのに……」
ライター「今の世の中は間違ってる。ニート法は悪法だ、それを変えなきゃ」
ライター「俺にできることと言ったら、ニートの実態を世間に知らせることくらいだ」

105: 2012/08/08(水) 04:33:27.82 ID:Cz/w1feQ0
カランコロン

友「ようライター。相変わらず命張ってるらしいな」

ライター「まあな、それが仕事だし。遣り甲斐はあるよ」
ライター「けど、一番書きたい記事が書けない……ニートの実態とニート法の悪事」

友「そんなお前にさ、紹介したい人がいるんだよね」
友「この人」

青年「はじめまして、ライターさん」

友「何でも、お前に協力したいんだって」
友「あとは二人で話してよ」

ライター「……で、協力って?」

青年「あの、俺……これからニートになろうと思って」

ライター「は?」

青年「俺が実際にニートになって、その闇を暴きます」
青年「ライターさんに、それを記事にしてほしいんです」

ライター「って言っても、ニートになるなんて……人生捨てる気?」

青年「それで社会が変わるなら」

ライター「……」

106: 2012/08/08(水) 04:34:02.54 ID:Cz/w1feQ0
青年「えと、まずライターさんが掴んでる情報教えてください」

ライター「……書類捏造による不正ニート。改ざんした書類でもニート認定は簡単にできてしまう」
ライター「それからペットショップ。あそこに送られたニートはもう、家畜同然にしか生きられない」
ライター「あとは野生ニート……ホームレスが名前を変えただけだと思ったら大間違いだ。迫害のされ方が違う」

青年「……じゃあそれ、全部経験します。案考えますね」

ライター「……本当に、やるの?」

青年「はい、お願いします」

107: 2012/08/08(水) 04:34:48.73 ID:Cz/w1feQ0
青年「できました、改ざん書類」

ライター「ここのニートセンターは、手柄立てたくてうずうずしてる……すぐにニート認定されるはずだ」
ライター「……いいか、自演だってばれないようにな」

コンコン

職員「ニートセンターです。青年さんいます?」

青年「俺ですけど……」

職員「あなたがニートだという通報がありましてね、ちょっとセンターまで」

青年「えっ、ちょっとそんな急に……」

職員「うるさい」バリバリ

青年「うっ」ガクン

109: 2012/08/08(水) 05:06:15.78 ID:Cz/w1feQ0
職員「君はニート、間違いないね?」

青年「ですから俺は……」

職員「大丈夫、認めちゃえば職も斡旋したげるから」

青年「うう……」

部下「……あの、圧迫は」

職員「黙ってなさい!」バン

部下「……」

職員「まあ、何日かここにいてゆっくり考えるといいよ」
職員「自分の身の振りようもわかる……何、ニートを更生させるのが私の仕事だからね、安心して」

青年「……」

110: 2012/08/08(水) 05:06:54.91 ID:Cz/w1feQ0
ライター「青年くん」コンコン

青年「ライターさん、こんなとこまで」
青年「危ないですよ」

ライター「これが仕事だからね」
ライター「……そろそろ次の計画行こうか。覚悟はいい?」

青年「はい」

111: 2012/08/08(水) 05:07:34.98 ID:Cz/w1feQ0
社長「いやあライター君、君は本当にいい記事を書く」
社長「うちのこともよく書いてくれよ」

ライター「ええ、社長は素晴らしい経営をなさいますから」

社長「ははは……そうだ、君何か面白い情報ないかね?」
社長「ライター君の取材力なら、何かいいものあるだろう」

ライター「そうですねぇ、最近は……ああ」
ライター「ここの近所のニートセンターに、珍しく若い男のニートがいるようですよ」
ライター「身寄りもいなくて、しばらくセンターに滞在してるとか」

社長「……ほう、若い男の……そりゃいい。いや……珍しいな」

ライター「……」

112: 2012/08/08(水) 05:08:07.01 ID:Cz/w1feQ0
社長「頼むよ、職員君。うちの系列のペットショップに斡旋してくれ」
社長「金なら弾もう」

職員「社長……仕方ない、いいですよ。明日にでも出荷します」

113: 2012/08/08(水) 05:08:40.77 ID:Cz/w1feQ0
青年「止めてください! 俺は働き口を探すって決めたんです……」

職員「そんなこと言っても、働き口が見つかるとも限るまい」
職員「いいからペットショップで……雇い主を見つけなさい」

青年「嫌だ、ペットショップなんて……!」

部下「……」

115: 2012/08/08(水) 05:10:56.34 ID:Cz/w1feQ0
青年「むぐ、う……っ」

子供「あ、ニートがいるー」
子供「ほんとだー」

ライター「……」

おばさん「いいわね若いニート……うちでも飼いたいわよ」
おばさん「そうねぇ、犬よりずっと賢いでしょうし」

青年「ふ、うっ」ジタバタ

店員「こら、暴れるな……ああ社長、お待ちしてました」

社長「うんうん、いいニートが入ったな。もらおう」

ライター「……」

116: 2012/08/08(水) 05:11:27.05 ID:Cz/w1feQ0
青年「はあ……はあ」

社長「今日からお前は私のペットだ、いいね?」

青年「ペット……人間じゃ、ないんですか……?」

社長「何を言うんだ、人間のペットじゃないか。犬猫よりずっと可愛がってやる」

青年「……っ」

118: 2012/08/08(水) 05:12:34.24 ID:Cz/w1feQ0

ライター「社長、何の用件でしょう」

社長「この前もらったいい情報のお礼でさ」
社長「新しく飼ったペットを見てもらおうと思ってな。ほら青年!」ジャラジャラ

青年「……」

ライター「首輪と手錠、足に重り……耳のピアスは元からですか?」

社長「私好みに改造したんだよ。いやあこんな若いニートが手に入るなんてな!」

ライター「……それはよかった」

社長「どうだい? 君には特別に貸してあげてもいいぞ?」

ライター「……なら、一晩だけ」

119: 2012/08/08(水) 05:13:37.17 ID:Cz/w1feQ0
ライター「青年くん、大丈夫か?」

青年「ええ、まあ……思ったよりハードでしたけど」

ライター「……あの社長なら絶対、話には乗ると思ったが……まさかここまでとは」
ライター「ごめんな、こんな体になって……」

青年「いいんです、痛々しい方が記事も盛り上がるし」
青年「そうだ、写真撮ります? ライターさんなら文章で書ききれちゃうかな」

ライター「……次の作戦に行こう」

青年「脱走からの野生ニートですね」

130: 2012/08/08(水) 09:26:43.06 ID:Cz/w1feQ0
社長「zzz」

青年「確か鍵は……あった」カチャカチャ
青年「よし外れた。あとは逃げるだけ……」タタッ

ライター「青年くん」

青年「ライターさん! 来てくれたんですね!」

ライター「来るに決まってるだろ、心配だ」
ライター「とりあえずここから逃げよう。車乗って」

ブロロロロロ

青年「じゃあ今日から俺野生ニートですね」

ライター「……ああ」

青年「一年くらいじっくり野生ニートします? それとも短期間でやつれた方が劇的ですか?」

ライター「……三か月、それが妥当だと思う」
ライター「でも、もっと短くても俺が盛って書けば」

青年「それじゃだめです。分かりました三か月ですね」
青年「じゃあまたこの公園で……三か月後に」

ライター「……」

131: 2012/08/08(水) 09:28:26.33 ID:Cz/w1feQ0

アナウンサー『ここ数週間、野生ニートの目撃情報が増えています』

主婦「やだ怖いわねー」

ライター「……」
ライター(青年くん、そろそろ三か月……無事でいてくれるよな)

三か月後

ブロロロロロ

ライター「……青年くん?」

青年「あ、ライターさん……お久しぶりです……」

ライター「すっかりやつれてる……頬もこけて、体も痩せて」

青年「ははは……俺体力なくて、なかなか食べ物取れなくて……」

ライター「充分だ。もう終わりだから……早くうちにおいで、ご飯を」

青年「駄目ですよライターさん……取材終わっても、俺はニートです」
青年「俺のこと飼ったら、あの社長がうるさいですよ……俺はこのまま、野生ニート続けます」

132: 2012/08/08(水) 09:29:52.03 ID:Cz/w1feQ0
ライター「でもそれじゃ、君は氏ぬぞ!」

青年「……いいんです、氏んでも」
青年「俺、親が氏んで一人になったとき、将来も何も見えなくて……もう何もかもいいやって思ったんです」
青年「でも、氏ぬときまで何もできない自分が嫌で……そんなとき、ライターさんの記事を読みました」
青年「どこまでも入って取材する行動力、惹きつけられる文章……憧れました、俺もこんな人になりたい」
青年「だから俺、最後にライターさんの役に立てて……本望です」

ライター「……」

青年「おかしいと思います、ニート法もこの社会も。俺も一矢報いたかった」
青年「これ、野生ニートになってからつけた日記です。参考にしてください」

ライター「……分かった」

青年「じゃ、俺はこれで……ライターさん、いい記事期待してます」フラフラ

ライター「……」

133: 2012/08/08(水) 09:39:16.54 ID:Cz/w1feQ0
一年後

友「また盛り上がってきたな、反ニート法デモ」
友「みんなお前の本をバイブルにしてるよ……ニートの悲惨な実態を書いた初めてのルポ」

ライター「そうか、ならよかった」
ライター「青年くんのおかげだ、あんなリアルな本が書けたのは……」

友「社長と職員、辞職したってよ」

ライター「ああ、聞いた」

友「ニート法も多分次の国会で、廃止されると思うよ。俺の見立てでは」
友「そしてご機嫌取りと前政権批判を兼ねるだろうなぁ」

ライター「……時代が終わるな」

友「ああ……そうそう、お前に会わせたい人がいるんだ」
友「何でも、お前の本を誰より心待ちにしててな……出版されるまではと我慢してたって」

134: 2012/08/08(水) 09:39:57.21 ID:Cz/w1feQ0
ライター「……?」

  「すみません、黙ってて……でもリアリティのために、執筆し終えるまでは会わない方がいいかなって」

ライター「……なるほど、そういう……」

青年「お久しぶりです、ライターさん」

友「実は青年くん、俺の親戚でさ……今は俺の家で暮らしてるの」
友「ニート法もこういうとこ助かるぜ。親族が言い張ればニートじゃないってとこ」

ライター「元通り……とはいかないけど、戻れたんだね」

青年「はい……ライターさん、ありがとうございます。俺の夢叶えてくれて」

ライター「俺こそ、夢叶えられた。ありがとう」
ライター「ニート法に侵された社会を変えるって夢……やっと叶えることができたよ」

おわり。

135: 2012/08/08(水) 09:49:53.13 ID:Cz/w1feQ0
これで終わりです。
前スレも合わせて保守ありがとうございました。
途中寝ましたすみません。

136: 2012/08/08(水) 10:03:45.78
面白かった乙

137: 2012/08/08(水) 10:24:56.12

引用元: 官僚「野生のニートを駆除します」