1: 2020/12/02(水) 20:00:04.782 ID:74yfdvW50
魔王「なぜですか!?」
勇者「だってお前魔王だよな?」
魔王「……はい」
勇者「そもそもなんでパーティーに入ったわけ?」
魔王「えと……チャンスがあれば寝首をかけるかな、と」
勇者「正直でよろしい。というわけでお引き取り下さい」
魔王「はい……短い間でしたが、ありがとうございました」
勇者「だってお前魔王だよな?」
魔王「……はい」
勇者「そもそもなんでパーティーに入ったわけ?」
魔王「えと……チャンスがあれば寝首をかけるかな、と」
勇者「正直でよろしい。というわけでお引き取り下さい」
魔王「はい……短い間でしたが、ありがとうございました」
6: 2020/12/02(水) 20:03:20.578 ID:74yfdvW50
戦士「ったく、なんだったんだあいつ?」
魔法使い「ホント、魔王のくせにあたしらのパーティーに入るなんて」
僧侶「一度は入れちゃった私たちも私たちですけどね」
勇者「とにかく、今人類と魔族の関係は決して良好とはいえない」
勇者「いざという時、先頭に立って魔族と戦うのが俺たち勇者パーティーだ」
勇者「いつどこで、あんな風な刺客が現れるか分からない。油断しないようにしよう」
戦士「おう!」
魔法使い「うん!」
僧侶「はい!」
魔法使い「ホント、魔王のくせにあたしらのパーティーに入るなんて」
僧侶「一度は入れちゃった私たちも私たちですけどね」
勇者「とにかく、今人類と魔族の関係は決して良好とはいえない」
勇者「いざという時、先頭に立って魔族と戦うのが俺たち勇者パーティーだ」
勇者「いつどこで、あんな風な刺客が現れるか分からない。油断しないようにしよう」
戦士「おう!」
魔法使い「うん!」
僧侶「はい!」
10: 2020/12/02(水) 20:06:22.429 ID:74yfdvW50
商人「ヒッヒッヒ……」
勇者「ん?」
商人「とってもおいしいリンゴはいかがかえ? 今なら特別サービス、タダでいいよ~」
勇者「……」
戦士「ずいぶんと真っ黒なリンゴだな」
魔法使い「匂いもすごいし」
僧侶「いかにも体に悪そうですね」
商人「そ、そんなことありませんよ~。一口だけでもいいんでご賞味あれ!」
勇者「ん?」
商人「とってもおいしいリンゴはいかがかえ? 今なら特別サービス、タダでいいよ~」
勇者「……」
戦士「ずいぶんと真っ黒なリンゴだな」
魔法使い「匂いもすごいし」
僧侶「いかにも体に悪そうですね」
商人「そ、そんなことありませんよ~。一口だけでもいいんでご賞味あれ!」
13: 2020/12/02(水) 20:09:19.037 ID:74yfdvW50
勇者「お前が食え」
商人「へ?」
勇者「おいしいんだろ? 自分で食べてみろよ」
商人「わ、分かりました」シャクッ
商人「う!?」ゴロゴロゴロ…
商人「お腹がぁ……! で、出ちゃうっ……!」
勇者「トイレならあっちにあるぞ……魔王」
商人「バ、バレてたんですか……! 失礼しましたぁ~!」スタタタッ
商人「へ?」
勇者「おいしいんだろ? 自分で食べてみろよ」
商人「わ、分かりました」シャクッ
商人「う!?」ゴロゴロゴロ…
商人「お腹がぁ……! で、出ちゃうっ……!」
勇者「トイレならあっちにあるぞ……魔王」
商人「バ、バレてたんですか……! 失礼しましたぁ~!」スタタタッ
15: 2020/12/02(水) 20:12:15.111 ID:74yfdvW50
魔法使い「ねえ勇者、あそこ……」
勇者「え?」
魔王「やいやいやいやいやい! 勇者ども!」
勇者「……」
魔王「僕を倒したかったらここまでかかってこい!」
勇者「……」
魔王「さあ、僕に近づけ! なるべく下は見ずに走ってくるのだぁ!」
勇者「……」
勇者「え?」
魔王「やいやいやいやいやい! 勇者ども!」
勇者「……」
魔王「僕を倒したかったらここまでかかってこい!」
勇者「……」
魔王「さあ、僕に近づけ! なるべく下は見ずに走ってくるのだぁ!」
勇者「……」
18: 2020/12/02(水) 20:15:09.902 ID:74yfdvW50
勇者「行かない」クルッ
魔王「え!?」
勇者「みんな、酒場にでも行こう」
魔王「ちょっと待って――」ダッ
ズボッ!
魔王「あっ!?」
魔王「うわあああああああ!!!」ドズンッ!
勇者「……」
魔王「え!?」
勇者「みんな、酒場にでも行こう」
魔王「ちょっと待って――」ダッ
ズボッ!
魔王「あっ!?」
魔王「うわあああああああ!!!」ドズンッ!
勇者「……」
21: 2020/12/02(水) 20:18:09.266 ID:74yfdvW50
勇者「生きてるかー?」
魔王「な、なんとか」
勇者「ほれ、引き上げてやるよ。つかまれ」
魔王「ありがとうございます」
戦士「俺も手伝ってやる」
勇者「せーの、ふんっ!」グイッ
戦士「そらっ!」グイッ
魔王「助かりました……!」
魔王「な、なんとか」
勇者「ほれ、引き上げてやるよ。つかまれ」
魔王「ありがとうございます」
戦士「俺も手伝ってやる」
勇者「せーの、ふんっ!」グイッ
戦士「そらっ!」グイッ
魔王「助かりました……!」
22: 2020/12/02(水) 20:21:15.749 ID:74yfdvW50
僧侶「はい、特製のハーブティーです。気持ちが落ち着きますよ」
魔王「ありがとうございます」
勇者「さて、聞こう。どうして俺たちを狙ったんだ?」
魔王「僕、最近魔王になったばかりの新米魔王でして……」
勇者「そんな感じするよ。全然貫録ないもん」
魔王「ですよね。僕自身、それをずっと気にしてて……」
魔王「そうしたら、前々から僕をよく面倒見てくれてた有力魔族である男爵が――」
魔王「ありがとうございます」
勇者「さて、聞こう。どうして俺たちを狙ったんだ?」
魔王「僕、最近魔王になったばかりの新米魔王でして……」
勇者「そんな感じするよ。全然貫録ないもん」
魔王「ですよね。僕自身、それをずっと気にしてて……」
魔王「そうしたら、前々から僕をよく面倒見てくれてた有力魔族である男爵が――」
24: 2020/12/02(水) 20:25:05.415 ID:74yfdvW50
~
男爵「魔王様、ちょっとお耳に入れたいことが」
魔王「なんだい?」
男爵「今、あちこちの魔族が“あなたは魔王として頼りない”と不満を口にしています」
男爵「このままだと、反逆されてしまいますよ」
魔王「やっぱり……!」
魔王「どうすればいい!? どうすれば皆に認めてもらえるだろう!?」
男爵「実績が必要です」
魔王「実績……!」
男爵「ずばり、勇者の首を取るのです! あなた自身の手で!」
~
男爵「魔王様、ちょっとお耳に入れたいことが」
魔王「なんだい?」
男爵「今、あちこちの魔族が“あなたは魔王として頼りない”と不満を口にしています」
男爵「このままだと、反逆されてしまいますよ」
魔王「やっぱり……!」
魔王「どうすればいい!? どうすれば皆に認めてもらえるだろう!?」
男爵「実績が必要です」
魔王「実績……!」
男爵「ずばり、勇者の首を取るのです! あなた自身の手で!」
~
26: 2020/12/02(水) 20:28:11.191 ID:74yfdvW50
魔王「――というわけだったんです」
勇者「それであんな下手な襲撃をねえ……」
戦士「どうするよ、勇者」
魔法使い「また襲いかかられても迷惑だし、かといってこいつと戦うのも気が進まないわ」
勇者「……」
勇者「魔王」
魔王「はい」
勇者「ここはいっそ、俺たちのパーティーに正式に入らないか?」
魔王「えっ!?」
勇者「それであんな下手な襲撃をねえ……」
戦士「どうするよ、勇者」
魔法使い「また襲いかかられても迷惑だし、かといってこいつと戦うのも気が進まないわ」
勇者「……」
勇者「魔王」
魔王「はい」
勇者「ここはいっそ、俺たちのパーティーに正式に入らないか?」
魔王「えっ!?」
27: 2020/12/02(水) 20:31:25.853 ID:74yfdvW50
勇者「“寝首をかく”とかそういうのはとりあえず無しで、俺たちの仲間になって」
勇者「しばらくの間、お前自身の目で俺たちを見極めてくれ」
勇者「それでもし、やっぱり首を取りたいんだったら、その時は正々堂々勝負しよう」
魔王「そこまで譲歩して下さるんですか?」
勇者「ああ」
戦士「ったく、とんでもないことになったな」
魔法使い「一度クビにした人をまた入れちゃうなんてね。しかも魔王」
僧侶「だけど、勇者さんらしいです」
魔王「皆さん、よろしくお願いします!」
勇者「しばらくの間、お前自身の目で俺たちを見極めてくれ」
勇者「それでもし、やっぱり首を取りたいんだったら、その時は正々堂々勝負しよう」
魔王「そこまで譲歩して下さるんですか?」
勇者「ああ」
戦士「ったく、とんでもないことになったな」
魔法使い「一度クビにした人をまた入れちゃうなんてね。しかも魔王」
僧侶「だけど、勇者さんらしいです」
魔王「皆さん、よろしくお願いします!」
28: 2020/12/02(水) 20:34:30.111 ID:74yfdvW50
勇者「それじゃ、さっそく親睦を深めるために酒にしよう」
戦士「賛成!」
魔法使い「あんた、ひょっとしてお酒飲むきっかけが欲しかっただけじゃないの?」
僧侶「まあまあ、いいじゃないですか」
魔王「人間界のお酒を飲むのは初めてです……」チビ…
戦士「おいおい、もっとグイッといけよ! 魔王の名が泣くぜ!」
魔王「は、はいっ!」
戦士「賛成!」
魔法使い「あんた、ひょっとしてお酒飲むきっかけが欲しかっただけじゃないの?」
僧侶「まあまあ、いいじゃないですか」
魔王「人間界のお酒を飲むのは初めてです……」チビ…
戦士「おいおい、もっとグイッといけよ! 魔王の名が泣くぜ!」
魔王「は、はいっ!」
30: 2020/12/02(水) 20:37:29.433 ID:74yfdvW50
魔王「お酒おいち~い!」
魔王「ぐへへへへ! うえへへへへ! さあさ皆さん、もっと飲みましょう~!」
魔法使い「あーあ、ベロンベロンじゃない」
戦士「こいつ酒癖悪いな……」
僧侶「普段は大人しいですし、よほど自分を抑えてるんでしょうね」
魔王「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ……」
戦士「と思ったらあっさり寝やがった」
勇者「どれ、上着でもかけてやるか」
魔王「ぐへへへへ! うえへへへへ! さあさ皆さん、もっと飲みましょう~!」
魔法使い「あーあ、ベロンベロンじゃない」
戦士「こいつ酒癖悪いな……」
僧侶「普段は大人しいですし、よほど自分を抑えてるんでしょうね」
魔王「ぐぅ、ぐぅ、ぐぅ……」
戦士「と思ったらあっさり寝やがった」
勇者「どれ、上着でもかけてやるか」
31: 2020/12/02(水) 20:40:15.878 ID:74yfdvW50
……
勇者「今日は勇者パーティーとして任務を遂行する」
魔王「どんな任務ですか?」
勇者「村を占領してる魔物たちを追い払って欲しいそうだ」
魔法使い「大した任務じゃないわね」
戦士「すぐ蹴散らしてやるぜ!」
僧侶「村の平和を取り戻しましょう」
魔王「全力を尽くします!」
勇者(さて、これで魔王の配下に対する影響力を見極めることができそうだ……)
勇者「今日は勇者パーティーとして任務を遂行する」
魔王「どんな任務ですか?」
勇者「村を占領してる魔物たちを追い払って欲しいそうだ」
魔法使い「大した任務じゃないわね」
戦士「すぐ蹴散らしてやるぜ!」
僧侶「村の平和を取り戻しましょう」
魔王「全力を尽くします!」
勇者(さて、これで魔王の配下に対する影響力を見極めることができそうだ……)
33: 2020/12/02(水) 20:43:25.056 ID:74yfdvW50
勇者「魔物の群れだ。みんな、気を引き締めろ!」
戦士「おうよ!」
魔法使い「まっかせて!」
僧侶「皆さん、どうか無理はなさらず」
魔王「……」ドキドキ
勇者「でやぁっ!」ザンッ!
戦士「どりゃあっ!」ズバッ!
魔法使い「ファイヤー!」ボワァッ!
「ちっ、ちくしょう! こいつら強いぜ!」
戦士「おうよ!」
魔法使い「まっかせて!」
僧侶「皆さん、どうか無理はなさらず」
魔王「……」ドキドキ
勇者「でやぁっ!」ザンッ!
戦士「どりゃあっ!」ズバッ!
魔法使い「ファイヤー!」ボワァッ!
「ちっ、ちくしょう! こいつら強いぜ!」
34: 2020/12/02(水) 20:46:22.126 ID:74yfdvW50
魔王(魔物と戦うのは気が引けるけど、悪いのは村を占拠してるあいつらだし……)
魔王「よぉし、僕も……」コソコソ…
魔王「あ、あの……僕と勝負……」
ボス「あん!?」ギロッ
魔王「ひっ! ごめんなさいごめんなさい!」
ボス「!?」
ボス「あ、あの……あなたって……」
魔王「よぉし、僕も……」コソコソ…
魔王「あ、あの……僕と勝負……」
ボス「あん!?」ギロッ
魔王「ひっ! ごめんなさいごめんなさい!」
ボス「!?」
ボス「あ、あの……あなたって……」
35: 2020/12/02(水) 20:49:27.391 ID:74yfdvW50
ボス「ひょっとして……魔王様?」
魔王「はい、そうですけど」
ボス「やっぱりっ! 睨みつけたりしてすいませんでしたぁっ!」
ボス「野郎ども、引き上げるぞーっ!」
ドドドドド…
魔王「……」ホッ
戦士「なーんだ結構ニラミきくじゃねえか」
魔法使い「思ったより数多かったし、助かったわ!」
勇者「……」
魔王「はい、そうですけど」
ボス「やっぱりっ! 睨みつけたりしてすいませんでしたぁっ!」
ボス「野郎ども、引き上げるぞーっ!」
ドドドドド…
魔王「……」ホッ
戦士「なーんだ結構ニラミきくじゃねえか」
魔法使い「思ったより数多かったし、助かったわ!」
勇者「……」
36: 2020/12/02(水) 20:52:42.789 ID:74yfdvW50
……
ワイワイ… キャッキャッ…
勇者「今日は子供達とのふれあいだ」
魔王「こんなこともやるんですね」
戦士「勇者パーティーってのは、人々の希望の象徴だからな。戦うだけが能じゃねえのさ」
魔王「なるほど!」
魔法使い「さ~て、子供らと遊んでやりますか。特に将来いい男になりそうな子とね」
僧侶「魔法使いさんったら……」
ワイワイ… キャッキャッ…
勇者「今日は子供達とのふれあいだ」
魔王「こんなこともやるんですね」
戦士「勇者パーティーってのは、人々の希望の象徴だからな。戦うだけが能じゃねえのさ」
魔王「なるほど!」
魔法使い「さ~て、子供らと遊んでやりますか。特に将来いい男になりそうな子とね」
僧侶「魔法使いさんったら……」
37: 2020/12/02(水) 20:55:24.753 ID:74yfdvW50
子供A「なんだこいつ~」
子供B「蹴っちゃえ、蹴っちゃえ」ゲシッ ゲシッ
魔王「わぁ、みんな強い!」
勇者「!」
勇者「コラコラ、そんなことしちゃダメだ」
魔王「いいんですよ。僕、子供は大好きですから!」
勇者「とことん魔王っぽくない魔王だな」
子供B「蹴っちゃえ、蹴っちゃえ」ゲシッ ゲシッ
魔王「わぁ、みんな強い!」
勇者「!」
勇者「コラコラ、そんなことしちゃダメだ」
魔王「いいんですよ。僕、子供は大好きですから!」
勇者「とことん魔王っぽくない魔王だな」
39: 2020/12/02(水) 20:58:35.320 ID:74yfdvW50
……
勇者「先日の大雨で土砂崩れが起こったから、救助作業を行う!」
戦士「うおおおおっ! 崩れた家を片付けるぜぇ!」
魔法使い「土砂を魔法で吹き飛ばすわ!」ブオワッ!
僧侶「お怪我をされた方は治療します!」
魔王「炊き出しができました! どうぞ食べて下さい!」
勇者(魔王はよく働いてくれている)
勇者(わざとスキを見せたこともあったが、俺たちを狙うつもりはもうないようだ……)
勇者「先日の大雨で土砂崩れが起こったから、救助作業を行う!」
戦士「うおおおおっ! 崩れた家を片付けるぜぇ!」
魔法使い「土砂を魔法で吹き飛ばすわ!」ブオワッ!
僧侶「お怪我をされた方は治療します!」
魔王「炊き出しができました! どうぞ食べて下さい!」
勇者(魔王はよく働いてくれている)
勇者(わざとスキを見せたこともあったが、俺たちを狙うつもりはもうないようだ……)
40: 2020/12/02(水) 21:01:51.235 ID:74yfdvW50
やがて――
勇者「そうか……もう行っちゃうのか」
魔王「はい、いつまでも城を留守にするわけにはいきませんし」
魔王「わずかの間でしたが、楽しかったです」
戦士「俺たちもさ」
魔法使い「あんたのおかげでずいぶん助かったわ!」
僧侶「ありがとうございました!」
魔王「城に戻ったら“勇者さんたちとは仲良くできた”と報告したいと思います!」
戦士「おう、平和の架け橋になってくれよ!」
勇者「……」
勇者「そうか……もう行っちゃうのか」
魔王「はい、いつまでも城を留守にするわけにはいきませんし」
魔王「わずかの間でしたが、楽しかったです」
戦士「俺たちもさ」
魔法使い「あんたのおかげでずいぶん助かったわ!」
僧侶「ありがとうございました!」
魔王「城に戻ったら“勇者さんたちとは仲良くできた”と報告したいと思います!」
戦士「おう、平和の架け橋になってくれよ!」
勇者「……」
41: 2020/12/02(水) 21:05:57.537 ID:74yfdvW50
魔王「それでは――」
勇者「ちょっと待った」
魔王「?」
勇者「俺たちもついていくよ」
魔王「え、なぜです?」
勇者「まあ……せっかくだし、魔王城を一度見とくのもいいかなって」
魔王「そうですか。男爵にも勇者さんたちを紹介しますよ。きっとよくしてくれると思いますから!」
勇者「……ああ」
勇者「ちょっと待った」
魔王「?」
勇者「俺たちもついていくよ」
魔王「え、なぜです?」
勇者「まあ……せっかくだし、魔王城を一度見とくのもいいかなって」
魔王「そうですか。男爵にも勇者さんたちを紹介しますよ。きっとよくしてくれると思いますから!」
勇者「……ああ」
42: 2020/12/02(水) 21:08:38.268 ID:74yfdvW50
……
勇者「ここが魔王城か」
魔王「いきなり勇者さんたちを連れていくと驚かれると思うんで、裏口から入りましょう」
勇者「その方がいいだろうな」
戦士「おい勇者、なんでここまでついてきたんだ?」
魔法使い「そうよ。別にあたしたちがついてくる必要なんて……」
勇者「いや、俺の予想が正しければ、魔王は……」
魔王「こっちです! ついてきて下さい!」
勇者「ああ、分かった」
勇者「ここが魔王城か」
魔王「いきなり勇者さんたちを連れていくと驚かれると思うんで、裏口から入りましょう」
勇者「その方がいいだろうな」
戦士「おい勇者、なんでここまでついてきたんだ?」
魔法使い「そうよ。別にあたしたちがついてくる必要なんて……」
勇者「いや、俺の予想が正しければ、魔王は……」
魔王「こっちです! ついてきて下さい!」
勇者「ああ、分かった」
43: 2020/12/02(水) 21:11:21.379 ID:74yfdvW50
魔王「あ、男爵がいました」
勇者「あいつか……」
僧侶「かなりの魔力の持ち主ですね」
魔王「魔族でも有数の実力者ですからね。おーい!」
勇者「待て」ガシッ
魔王「へ?」
勇者「あいつが部下と何を話してるかを……ちゃんと聞こう」
勇者「あいつか……」
僧侶「かなりの魔力の持ち主ですね」
魔王「魔族でも有数の実力者ですからね。おーい!」
勇者「待て」ガシッ
魔王「へ?」
勇者「あいつが部下と何を話してるかを……ちゃんと聞こう」
44: 2020/12/02(水) 21:15:15.981 ID:74yfdvW50
部下「……今頃、魔王はどうなったと思います?」
男爵「一人でのこのこと出向いて、勇者どもに殺されてるだろうさ」
男爵「私が実績がないと反逆されるとそそのかしたら、焦って勇者の元に向かっていったからな」
部下「ホント、単純ですねえ」
男爵「あんなバカでは、栄光ある魔王の座は務まらんよ」
男爵「奴が殺されてくれれば、これで私が魔王になれるというものだ」
男爵「しかも人間界に攻め入る口実が手に入るというおまけつきでな」
部下「一石二鳥ですね」
男爵「いかに頼りなくとも、魔王に反逆しようなどという魔族はまずいない」
男爵「“魔王”という地位はそれほどのものなのだ」
男爵「私が反逆すれば孤立するだけだったろうが……おかげで奴から勝手に消えてくれる」
部下「魔王氏亡の伝令が届くのが待ち遠しいですね」
男爵「一人でのこのこと出向いて、勇者どもに殺されてるだろうさ」
男爵「私が実績がないと反逆されるとそそのかしたら、焦って勇者の元に向かっていったからな」
部下「ホント、単純ですねえ」
男爵「あんなバカでは、栄光ある魔王の座は務まらんよ」
男爵「奴が殺されてくれれば、これで私が魔王になれるというものだ」
男爵「しかも人間界に攻め入る口実が手に入るというおまけつきでな」
部下「一石二鳥ですね」
男爵「いかに頼りなくとも、魔王に反逆しようなどという魔族はまずいない」
男爵「“魔王”という地位はそれほどのものなのだ」
男爵「私が反逆すれば孤立するだけだったろうが……おかげで奴から勝手に消えてくれる」
部下「魔王氏亡の伝令が届くのが待ち遠しいですね」
46: 2020/12/02(水) 21:18:19.391 ID:74yfdvW50
魔王「……」
勇者「魔王……」
魔王「僕は……騙されてたんですね」
魔王「一番信頼してた部下に……」
魔王「助言してくれたと思ったら、氏ぬよう仕向けられてたなんて……」
魔王「だけど、これも報いです……。頼りないのは事実だし、僕だって最初、あなたたちを騙してたんですから……」
魔王「だから……平気です……」
魔王「うっ、うぅ、うっ……」
勇者「……」
勇者「魔王……」
魔王「僕は……騙されてたんですね」
魔王「一番信頼してた部下に……」
魔王「助言してくれたと思ったら、氏ぬよう仕向けられてたなんて……」
魔王「だけど、これも報いです……。頼りないのは事実だし、僕だって最初、あなたたちを騙してたんですから……」
魔王「だから……平気です……」
魔王「うっ、うぅ、うっ……」
勇者「……」
48: 2020/12/02(水) 21:21:37.580 ID:74yfdvW50
勇者「許せねえ……」
魔王「え……?」
勇者「元々お前が騙されてるのはなんとなく予想ついてた。だが、それ以上に……」
勇者「お前はいい奴だ。それをあんな風にバカにしてるあいつらが許せねえ……」
勇者「それに、どのみちあの男爵は人間と敵対するつもりだろう。戦いは避けられない」
勇者「だったらここで……あいつらをブッ倒す!」
勇者「みんなもいいな?」
戦士「おう!」
魔法使い「あたしも聞いてたらムカついてきちゃった」
僧侶「やりましょう!」
魔王「皆さん……ダメです! 男爵を甘く見ては――」
魔王「え……?」
勇者「元々お前が騙されてるのはなんとなく予想ついてた。だが、それ以上に……」
勇者「お前はいい奴だ。それをあんな風にバカにしてるあいつらが許せねえ……」
勇者「それに、どのみちあの男爵は人間と敵対するつもりだろう。戦いは避けられない」
勇者「だったらここで……あいつらをブッ倒す!」
勇者「みんなもいいな?」
戦士「おう!」
魔法使い「あたしも聞いてたらムカついてきちゃった」
僧侶「やりましょう!」
魔王「皆さん……ダメです! 男爵を甘く見ては――」
51: 2020/12/02(水) 21:24:36.938 ID:74yfdvW50
勇者「おい、魔族の男爵!」
男爵「……む? なんだ貴様は? 魔族ではないな」
勇者「俺は……勇者だ!」
男爵「なにぃ……!?」
勇者「お前は自分の王をそそのかして、戦争を引き起こそうとしたな?」
勇者「今ここでその芽を摘む!」
男爵「……!」
男爵(なぜここに……? 魔王を頃してここまで来たということか……?)
男爵(いや、それより……これはチャンスだ!)
男爵「……む? なんだ貴様は? 魔族ではないな」
勇者「俺は……勇者だ!」
男爵「なにぃ……!?」
勇者「お前は自分の王をそそのかして、戦争を引き起こそうとしたな?」
勇者「今ここでその芽を摘む!」
男爵「……!」
男爵(なぜここに……? 魔王を頃してここまで来たということか……?)
男爵(いや、それより……これはチャンスだ!)
52: 2020/12/02(水) 21:27:18.668 ID:74yfdvW50
男爵「集え、男爵派の魔族たちよ!」
ザザザッ… バババッ…
勇者「くっ!?」
戦士「さすが……手下を潜ませてやがったぜ」
男爵「これらは全て上級魔族……いかにお前たちでもそう簡単には倒せんぞ」
男爵「ここで勇者たちを頃してしまえッ!」
男爵「その勢いに乗じて、人間界も支配してしまうのだ!」
ザザザッ… バババッ…
勇者「くっ!?」
戦士「さすが……手下を潜ませてやがったぜ」
男爵「これらは全て上級魔族……いかにお前たちでもそう簡単には倒せんぞ」
男爵「ここで勇者たちを頃してしまえッ!」
男爵「その勢いに乗じて、人間界も支配してしまうのだ!」
53: 2020/12/02(水) 21:30:18.547 ID:74yfdvW50
勇者「みんな、陣形を組め!」
バババッ
勇者「だあっ!」
ザシュッ!
戦士「こんのっ!」
ズバッ!
男爵「ククク……さすがは勇者パーティー、数にも質にも屈せぬとは!」
男爵「だが、ここは我らの本拠地! いつまで持つかなァ!?」
バババッ
勇者「だあっ!」
ザシュッ!
戦士「こんのっ!」
ズバッ!
男爵「ククク……さすがは勇者パーティー、数にも質にも屈せぬとは!」
男爵「だが、ここは我らの本拠地! いつまで持つかなァ!?」
54: 2020/12/02(水) 21:33:16.663 ID:74yfdvW50
ドゴォッ!
戦士「ぐはっ……!」
魔法使い「やばい、魔力が切れてきたわ……」
僧侶「皆さん、回復します!」パァァァ…
勇者「ハァ、ハァ、ハァ……」
勇者(だんだん回復が追いつかなくなってきた……)
勇者(装備も整ってないのに、こんな戦いを挑むなんて……いくらなんでも軽率すぎたか!)
勇者(だけど、仲間をバカにされて……黙っちゃいられなかった!)
戦士「ぐはっ……!」
魔法使い「やばい、魔力が切れてきたわ……」
僧侶「皆さん、回復します!」パァァァ…
勇者「ハァ、ハァ、ハァ……」
勇者(だんだん回復が追いつかなくなってきた……)
勇者(装備も整ってないのに、こんな戦いを挑むなんて……いくらなんでも軽率すぎたか!)
勇者(だけど、仲間をバカにされて……黙っちゃいられなかった!)
56: 2020/12/02(水) 21:36:42.443 ID:74yfdvW50
魔王(どうしよう、どうしよう……)
魔王(このままじゃみんな……やられてしまう)
魔王(だけど、勇者さんたちと上級魔族の戦いに混ざって、僕に何ができる?)
魔王(足手まといになるだけだ……!)
魔王「――!」ハッ
男爵「そろそろ私も参戦するとしようか! 内臓を抉り取ってくれる!」ジャキンッ
ザシィッ!
勇者「が、は……ッ!」
男爵「これでも“切り裂きバロン”と呼ばれた身! 手負いの勇者如きならこの通りよォ!」
戦士「やべえっ、勇者がっ!」
僧侶「勇者さんっ!」
魔王(このままじゃみんな……やられてしまう)
魔王(だけど、勇者さんたちと上級魔族の戦いに混ざって、僕に何ができる?)
魔王(足手まといになるだけだ……!)
魔王「――!」ハッ
男爵「そろそろ私も参戦するとしようか! 内臓を抉り取ってくれる!」ジャキンッ
ザシィッ!
勇者「が、は……ッ!」
男爵「これでも“切り裂きバロン”と呼ばれた身! 手負いの勇者如きならこの通りよォ!」
戦士「やべえっ、勇者がっ!」
僧侶「勇者さんっ!」
57: 2020/12/02(水) 21:39:52.474 ID:74yfdvW50
魔王(僕が……やらないと!)
魔王「勇者さぁん! みんなァッ!」ダッ
男爵「!?」
勇者「魔王……ッ!」
魔王「男爵……僕が相手だ……」
男爵「なんだと……? 勇者に殺されたんじゃ……?」
男爵「そうか、さては勇者に脅され、この城に案内したな!? このヘタレがァ!」
男爵「勇者をこの城に引き込んだというのは、頃す理由として十分!」
男爵「お前から切り裂いてやるァ!!!」ダッ
魔王「ひっ……」
魔王「勇者さぁん! みんなァッ!」ダッ
男爵「!?」
勇者「魔王……ッ!」
魔王「男爵……僕が相手だ……」
男爵「なんだと……? 勇者に殺されたんじゃ……?」
男爵「そうか、さては勇者に脅され、この城に案内したな!? このヘタレがァ!」
男爵「勇者をこの城に引き込んだというのは、頃す理由として十分!」
男爵「お前から切り裂いてやるァ!!!」ダッ
魔王「ひっ……」
58: 2020/12/02(水) 21:42:56.577 ID:74yfdvW50
魔王「う……う、うう……」
男爵(バカめ、スキだらけ――)
魔王「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
男爵「え!?」
勇者「魔王!?」
魔王「ガァァァッ!!!」
男爵「うわああああっ!」
ボゴォンッ!!!
男爵(バカめ、スキだらけ――)
魔王「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
男爵「え!?」
勇者「魔王!?」
魔王「ガァァァッ!!!」
男爵「うわああああっ!」
ボゴォンッ!!!
59: 2020/12/02(水) 21:45:25.987 ID:74yfdvW50
ズズゥン…
魔王「はぁ、はぁ、はぁ……」
男爵(頑丈な魔王城の壁が……)
男爵(この破壊力……先代様以上……!)
魔王「男爵……」ギロッ
男爵「ひいっ!」
魔王「僕を騙したのは構わない。反逆も許す……。だけど、仲間を傷つけたことは許さない!」
男爵「や、やめっ――」
ボグシャッ!!!
魔王「はぁ、はぁ、はぁ……」
男爵(頑丈な魔王城の壁が……)
男爵(この破壊力……先代様以上……!)
魔王「男爵……」ギロッ
男爵「ひいっ!」
魔王「僕を騙したのは構わない。反逆も許す……。だけど、仲間を傷つけたことは許さない!」
男爵「や、やめっ――」
ボグシャッ!!!
61: 2020/12/02(水) 21:48:53.083 ID:74yfdvW50
……
男爵「ごめんなさい……ごめんなさい……」ピクピク…
魔法使い「さっすが上級魔族、まだ生きてるわ。ギリギリだけど」
戦士「すげえ一撃だったぜ……」
僧侶「魔王さん、こんな力を秘めてたんですね……」
魔王「自分でも信じられません……」
勇者「ありがとう、魔王。おかげで助かったよ」
魔王「いえ、本当に無我夢中で……」
勇者「一番身近にいた男爵は、かえって“魔王”の恐ろしさに気付けなかったんだな」
男爵「ごめんなさい……ごめんなさい……」ピクピク…
魔法使い「さっすが上級魔族、まだ生きてるわ。ギリギリだけど」
戦士「すげえ一撃だったぜ……」
僧侶「魔王さん、こんな力を秘めてたんですね……」
魔王「自分でも信じられません……」
勇者「ありがとう、魔王。おかげで助かったよ」
魔王「いえ、本当に無我夢中で……」
勇者「一番身近にいた男爵は、かえって“魔王”の恐ろしさに気付けなかったんだな」
63: 2020/12/02(水) 21:51:51.096 ID:74yfdvW50
戦士「周囲の魔族も、すっかり平伏しちゃってる。ったく、いい気なもんだ」
魔法使い「あの一撃見て逆らおうってのがいたらただのバカでしょ」
勇者「あれだけの強さを見せつけたら、もう魔王としてやってけるだろ」
魔王「はい!」
魔王「僕……今日からは魔王として生きていきます」
魔王「もちろん……人間の皆さんに迷惑はかけません! 部下に反逆もさせません!」
勇者「この短い間にすっかり逞しくなったな」
ガシィッ!
魔法使い「あの一撃見て逆らおうってのがいたらただのバカでしょ」
勇者「あれだけの強さを見せつけたら、もう魔王としてやってけるだろ」
魔王「はい!」
魔王「僕……今日からは魔王として生きていきます」
魔王「もちろん……人間の皆さんに迷惑はかけません! 部下に反逆もさせません!」
勇者「この短い間にすっかり逞しくなったな」
ガシィッ!
64: 2020/12/02(水) 21:55:41.986 ID:74yfdvW50
勇者「だけど、忘れるなよ」
魔王「?」
勇者「お前はこれからも勇者パーティーの一員だ!」
魔王「ありがとうございます!」
戦士「しっかりやれよ」
魔法使い「また一緒にお酒飲みましょうね」
僧侶「頑張って下さい!」
魔王「皆さんもお元気で……!」
魔王「?」
勇者「お前はこれからも勇者パーティーの一員だ!」
魔王「ありがとうございます!」
戦士「しっかりやれよ」
魔法使い「また一緒にお酒飲みましょうね」
僧侶「頑張って下さい!」
魔王「皆さんもお元気で……!」
65: 2020/12/02(水) 21:58:30.079 ID:74yfdvW50
……
国王「おお、勇者たちよ」
国王「たった四人で魔王城に乗り込み、魔族と友好を結んでくれたとは……」
国王「さすがは選ばれし勇者パーティーだ!」
勇者「光栄です、陛下」
勇者「しかし、一つだけ訂正させて下さい」
国王「む?」
勇者「勇者パーティーは“五人”です」
おわり
国王「おお、勇者たちよ」
国王「たった四人で魔王城に乗り込み、魔族と友好を結んでくれたとは……」
国王「さすがは選ばれし勇者パーティーだ!」
勇者「光栄です、陛下」
勇者「しかし、一つだけ訂正させて下さい」
国王「む?」
勇者「勇者パーティーは“五人”です」
おわり
68: 2020/12/02(水) 22:05:58.867
乙
いい終わり方だ
いい終わり方だ
コメント
コメント一覧 (1)
esusokuhou
がしました
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