1: 2020/12/10(木) 18:15:31.184 ID:zEgiDkrw0
ワーワー… ワーワー…

アイドル「みんなー、今日もライブ楽しんでくれてありがとー!」

アイドル「さーて、ライブ後のお楽しみ! 今回私に挑戦するのは――」

横綱「私だ」

アイドル「来たわね」

ザワザワ…

「あれって横綱じゃね?」 「ホントだ!」 「え、マジ……本物?」

アイドル「あなたが来るのをずっと待ってたわ」

横綱「あれからもう何年になるか……」

2: 2020/12/10(木) 18:18:36.614 ID:zEgiDkrw0
……

……

アイドル「みんなー! 楽しんでるー!?」

ワーワー… ワーワー…



男「アイドルちゃーん!」

男(今日のアイドルちゃんも最高だ……! 来てよかった……!)

3: 2020/12/10(木) 18:21:43.951 ID:zEgiDkrw0
アイドル「それじゃ、ライブ後のお楽しみ!」

アイドル「私をこの円の中から押し出せたら、あなたの彼女になっちゃう! ……かも?」

ワーワー… ワーワー…



男(今日は抽選が当たって、この押し出しチャンスに参加することができる!)

男(絶対押し出してみせるぞ!)

4: 2020/12/10(木) 18:24:18.464 ID:zEgiDkrw0
ファンA「ふんっ!」ググッ…

アイドル「はい、惜しい!」



ファンB「うおおおっ!」グッ…

アイドル「なかなか力あるねー!」



ファンC「ぐううう……!」グググ…

アイドル「はーい、残念!」

5: 2020/12/10(木) 18:27:23.323 ID:zEgiDkrw0
マッチョ「次は俺だァ!」

アイドル「おおっ、すごく大きい人来た! これは押し出されちゃうかも?」

マッチョ「俺の彼女になってくれっ!」グッ…

アイドル「……」

マッチョ「ぐおおおっ……!」ググッ…

マッチョ「ダ、ダメだ……」ガクッ

アイドル「なかなか力強かったね。だけど残念でしたー!」

6: 2020/12/10(木) 18:30:21.152 ID:zEgiDkrw0
男(いよいよ俺の番だ……)

男「行きます!」

アイドル「はーい、どうぞ!」

男「ふんっ!」グッ…

男「……!?」

この瞬間、男が脳裏に思い描いた光景は――

男(岩!?)

男(とてつもなく巨大で、雄大で、太古からそびえ立つ……岩!)

8: 2020/12/10(木) 18:34:09.190 ID:zEgiDkrw0
男(俺は体重60kg……アイドルちゃんはせいぜい体重40kg台……のはずなのに)

男(ビクともしない……!)

男(なんで!? 全然動かない!)ググッ…

アイドル「……」

男「ぐううっ……!」グググッ…

アイドル「ふぅ……」

男(ため息!?)

アイドル「ねえ……この程度?」

男「!」ガーン

9: 2020/12/10(木) 18:37:13.577 ID:zEgiDkrw0
その日――

男「うわあああああああっ……!」

男「わああああああああああああんっ……!」

男「ああああああああああああああああんっ……!」



推しアイドルに軽蔑され、男としてのプライドを粉砕され――

男は涙が枯れ果てるほどに泣いた――

10: 2020/12/10(木) 18:40:10.085 ID:zEgiDkrw0
泣き尽くした彼は――

男「……」

男「もう……泣くのはやめだ」

男「押してやる……」

男「絶対にアイドルちゃんを押してやる!」

男「押し出して……アイドルちゃんに認めてもらうんだ!」

男(“押し出し”といったらやっぱり――)

11: 2020/12/10(木) 18:44:08.678 ID:zEgiDkrw0
親方「なんだお前は?」

男「俺、力士になりたいんです!」

親方「あのなぁ、お前みたいなひょろひょろがなれるわけないだろ? 帰りな!」

男「帰りません!」

親方「なんだと!?」

男「弟子入りさせてくれるまで動きません!」

親方「こいつ……!」

親方(なんて目つきだ……! この俺が押されている……ッ!)

12: 2020/12/10(木) 18:47:07.746 ID:zEgiDkrw0
親方「どうした、股割りもできねえのかァ!」

男「うぐぐ……」ググッ…

親方「オラァッ! 可愛がってやるぞォ!」ドカッ!

男「ぐはぁっ!」

親方「どうだ? 辞めたくなっただろう!」

男「いえ……全然!」

親方「なんて奴だ……!」

14: 2020/12/10(木) 18:50:16.278 ID:zEgiDkrw0
先輩「思い切りぶつかってこい!」

男「はいっ!」ドカッ!

男「くっ……! くっ……!」グッグッ…

先輩「こんなんじゃ一ミリも動かせねえぞォ!」バシィッ!

男「ぶげっ!」

先輩「この程度かァ?」

男「まだまだァ!」ダッ!

ドカッ!

15: 2020/12/10(木) 18:53:19.530 ID:zEgiDkrw0
先輩「ちゃんこ作れぇ!」

男「はいっ!」

グツグツ…

男「出来ました!」

先輩「どれどれ……」モグッ

先輩「ほう、うまいじゃねえか!」

男「ありがとうございます」

16: 2020/12/10(木) 18:56:22.976 ID:zEgiDkrw0
先輩「たまには俺がちゃんこ作ってやるよ」

男「ホントですか?」

先輩「ほら、食え」

男「……!」

男(ただ残飯がブチ込んであるだけ……)

先輩「どうした? 先輩が作ったもんを食えねえのか?」

男「喜んでいただきます」

先輩「なに!?」

ガツガツムシャムシャ…

男(食って食って食って……食いまくって大きくならなきゃ!)

17: 2020/12/10(木) 18:59:11.758 ID:zEgiDkrw0
行司「はっけよい!」

男「うおりゃああっ!!!」

ドゴンッ!

力士「うわああああああっ……!」



先輩「なんて押し出しだ! 相手を吹き飛ばしやがった!」

親方「どうやら俺たちは……怪物を作り上げてしまったのかもしれんな……」

19: 2020/12/10(木) 19:02:15.202 ID:zEgiDkrw0
パシャッ パシャシャッ パシャッ パシャッ

記者「このたびは横綱昇進おめでとうございます」

横綱「ありがとうございます」

記者「さて、横綱が相撲を志したきっかけとは一体なんだったのでしょうか?」

横綱「全てはあの人を押し出すため……」

記者「あの人?」

横綱「これで……ようやく“その時”が来たんです」

20: 2020/12/10(木) 19:05:15.926 ID:zEgiDkrw0
ワーワー… ワーワー…

アイドル「大きくなったね」

横綱「ええ、体重はざっと三倍になりました」

横綱「だけど、中身はあの時のままです。あなたのファンのままです」

アイドル「うん、私のファンでいてくれてありがとう」

横綱「では……行きます!」

アイドル「はーい、どうぞ!」

21: 2020/12/10(木) 19:08:51.327 ID:zEgiDkrw0
横綱「ぬうんっ!!!」

ドンッ!

横綱「!?」

アイドル「……」

横綱(動かない!?)

横綱(まるで地球の核にまで根っこが生えてるような……ッ!)

横綱(俺が成長したということは、当然彼女も強くなったということか!)



「信じられねえ!」 「200kgを吹き飛ばすぶちかましで……」 「ビクともしてない!」

22: 2020/12/10(木) 19:11:35.277 ID:zEgiDkrw0
横綱「だが……たとえ本当に根っこが核まで伸びていようと……」

横綱「それを押し出すのが“横綱”なのだッ!」ググッ…

アイドル「ぬっ!?」

アイドル(これよ……)

アイドル(私があの時、あなたにだけ辛辣な言葉を浴びせたのは、 “これ”を感じたから!)

アイドル(あなたなら絶対強くなれるって!)

アイドル(だから……私も本気を出す!)メキメキ…



「うおおっ!」 「アイドルちゃんの全身に血管が浮き出た!」 「全開だァ!」

24: 2020/12/10(木) 19:15:17.241 ID:zEgiDkrw0
横綱「うおおおおおっ!!!」

アイドル「ぬううっ!!!」

グググッ…

横綱(動かない……! 横綱になってもアイドルちゃんは押せないのか……!)

横綱(否! そんなことはないッ!)

横綱(俺を育ててくれた親方、先輩……俺と戦ってくれた力士たちよ……)

横綱(俺に力をォ!)

アイドル「ぐぬっ!?」

25: 2020/12/10(木) 19:17:09.052 ID:zEgiDkrw0
横綱(押す……押し出すッ!)



横綱「推しのアイドルを……押し出してやるッ!」



横綱「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

アイドル「う!?」ズズ…

26: 2020/12/10(木) 19:21:07.572 ID:zEgiDkrw0
アイドル「うおあああああああああっ!?」ズズズズズ…

アイドル「……!」

横綱「ハァ、ハァ、ハァ……円の外に……出ましたね」

アイドル「……うん」

横綱「世界一あなたを推していた私が……あなたを押し出せて……よかった……」



ワアァァァァァッ!!!

27: 2020/12/10(木) 19:24:13.496 ID:zEgiDkrw0
アイドル「あーあ、押し出されちゃった」

横綱「……」

アイドル「約束は……守るよ」

横綱「え」

アイドル「押し出されたから……私、引退します!」

アイドル「横綱の彼女になります!」

横綱「ご、ごっつぁんです」ポッ…



ワアァァァァァ……!

ファン達は大いに祝福し、大いに嘆き悲しんだが、反対する者は一人もいなかった――

28: 2020/12/10(木) 19:27:20.097 ID:zEgiDkrw0
半年後――

パシャシャッ パシャッ パシャシャッ パシャッ

記者「横綱、春場所の優勝おめでとうございます」

横綱「ありがとうございます」

記者「今後の抱負としては?」

横綱「これからも勝ち続け、歴代最高の横綱と呼ばれるようになりたいです」

記者「ところで、野暮な話になってしまうのですが、元アイドルさんとの交際はいかがですか?」

横綱「もちろん、相撲と同じぐらい順調ですよ」

29: 2020/12/10(木) 19:29:13.591 ID:zEgiDkrw0
横綱「先日、20回目のデートでようやく手を握ることができました!」

記者「恋愛は全然押さないんですね」








30: 2020/12/10(木) 19:34:06.443

オチでニヤリとした

引用元: 横綱「推しのアイドルを……押し出してやるッ!」