1: 2011/02/14(月) 03:09:59.74 ID:9tN1JHoSO
梓「ふう…」

私、中野梓は悩んでいた。
原因は、目の前の紙、というかそれに書かなきゃならない内容である。

梓「…改めて考えてみると、歌詞書くのって難しいなぁ」

つまりは、そういうことである。
一人一つ歌詞を書いてくること。律先輩が、そんなことを言い出したため、私は頭を悩ませている。

10: 2011/02/14(月) 03:14:57.65 ID:9tN1JHoSO
いろいろ考えてはみるものの、いまいちピンとくるものがない。
いい文章が思い浮かんでも、それは既存の歌詞の模倣だったり、見返してみると思わずグシャッ、とやりたくなるような歌詞だったりする。

梓「…そういや私、作文とかも苦手だったなぁ…」

自分の語彙力の無さがもどかしい。
今更ながら、澪先輩やムギ先輩はすごいなぁと感心する。

13: 2011/02/14(月) 03:20:36.22 ID:9tN1JHoSO
梓「いいや、今日はもう寝よう…」

親に見られたらそれはもう恥ずかしいので、しっかりと後片付けをして、寝床につく。

梓「どんなに寒くても、僕は幸せ…」

そのワンフレーズから、先に進まない。
ここだけは、ふっと頭に降りてきた。

梓「寒いのは嫌いなんだけどなぁ…」

書き直そうかとも思ったが、なんとなくこの歌い出しは使おうと思った。
ほんのちょっとでも、せっかく自分で考えたものなんだしね。

17: 2011/02/14(月) 03:25:18.56 ID:9tN1JHoSO
純「歌詞?」

梓「うん、なかなか思いつかなくて…」

とうとう純に相談するところまで来てしまうとは…
最初は憂に相談しようかと思ったが、少なからず音楽に触れているぶん、純のほうがいいアイデアをくれる気がしたのだ。

純「歌詞かぁ、そんなの簡単じゃない」

ほう?なにか考えがあるのだろうか。

18: 2011/02/14(月) 03:29:36.31 ID:9tN1JHoSO
純「もう直感で思いついたことを書く、これに限るね」

梓「…」

やはり純は純だったか。
それができるなら最初から苦労はしていない。

梓「そんな簡単に言わないでよ…」

純「そうは言ってもねえ、歌詞ってそういうもんじゃない?」

果たしてそういうものなんだろうか。世の中のいろんな曲を聞いていても、その歌詞がとても思いつきでできたものとはとても思えない。

19: 2011/02/14(月) 03:34:48.21 ID:9tN1JHoSO
梓「まあいいや、ありがと純」

とりあえず最低限話を聞いてくれた礼だけしておく。
すると、

純「よし!じゃあ今日一緒に考えよう!」

…マジですか。
純には悪いが、ぶっちゃけ何も進展する気がしない。それどころか、邪魔してくる気すらする。

梓「いや、別にそこまでしてもらわなくても…」

純「えー…つれないなぁ、もう…」

まあ、また詰まったら話でも聞いてもらおう。

20: 2011/02/14(月) 03:41:11.17 ID:9tN1JHoSO
その日の晩。
今日も私は机に向かって、歌詞を考えていた。

梓「直感ねぇ…まあ、これもある意味直感だけども」

今はまだ暑さも残る9月である。
それなのに、私の頭に降ってきたフレーズは、明らかに冬の歌詞だった。

梓「幸せ、か…」

この文を思いついたとき、私は何を考えていたのだろうか。
あの時の自分に聞いてみたい。

梓「あの時はたしか…唯先輩と一緒に帰ってたんだっけな」

21: 2011/02/14(月) 03:47:29.14 ID:9tN1JHoSO
唯先輩は、もうすでにいくつか出来上がっているらしい。
…まあ、憂の力によるものが大きいだろうけど。
憂に相談するのを止めた理由も、唯先輩がきっと憂に協力を求めるであろうことを予測したからだ。
私のぶんまで憂に負担させては申し訳ない。

梓「あの時、私は先に校門のとこで待ってたんだっけ…」

だんだんとあの日の記憶が戻ってくる。

22: 2011/02/14(月) 03:53:36.17 ID:9tN1JHoSO
あの日、私はいつものように部室に向かったのだが、そこには唯先輩しかいなかった。

唯「あれ?あずにゃんどったの?」

梓「唯先輩こんにちは…他の先輩がたは?」

唯「何言ってるの、今日は部活休みだって昨日言ってたじゃん」

そうだった。
そういえばそんなことを言ってた気が…

梓「あちゃあ…すっかり忘れてました」

唯「あずにゃんはドジっこだね!」

と満面の笑みで言いながら抱きついてくる唯先輩。

梓「ちょ、いきなりやめてください!それより、そしたら唯先輩はなんでここに?」

23: 2011/02/14(月) 03:59:13.15 ID:9tN1JHoSO
唯「私は昨日部室に忘れ物しちゃって。あ、あずにゃん今日は用事ある?」

梓「いや、特にありませんが…」

唯「じゃあ一緒に帰ろうよ!」

まあ予想はしていたが。でも、用事がないのは事実だし、私は断る理由もなく、一緒に帰ることにした。

梓「それじゃ行きましょうか」

唯「あ、私さわちゃんに用事あるから、校門のとこで待っててくれないかな?」

先に言いなさい。

梓「わかりました。じゃ先行ってますね」

26: 2011/02/14(月) 04:08:08.64 ID:9tN1JHoSO
唯「絶対だよ?絶対先帰っちゃダメだよ!?」

梓「はいはい…ちゃんと待ってますよ」

そんなことしてもしょうがないでしょうに…いや、でもそれはそれで困ってる唯先輩を見られて面白いかも…
やらないけどね。


そんなことがあり、校門でしばらく待っていると、唯先輩が走ってきた。

唯「おまたせー!!」

お、おお。走る走る。
しかもめっちゃ叫んでる。
そんな大声出しながら走ってくるもんだから、私のところにつくころには、すっかり息も切れ、へたり込んでしまった。

27: 2011/02/14(月) 04:13:28.04 ID:9tN1JHoSO
唯「はあ、はあ…ごめんね、待たせちゃって」

梓「そんなわざわざ走ってこなくても大丈夫なのに…ほら、水飲みます?」

そんなに私が先に帰るとでも思ったのだろうか。
まったく、私が先輩にそんな失礼なことするわけないじゃないですか。
…ちょっと考えたけど。

唯「ありがと………ん、もう大丈夫だよ」

唯先輩は立ち上がり、よくわからないポーズをとる。
…元気アピールだろうか?

唯「行こっか、あずにゃん」

梓「はい」

まったく、可愛い人なんだから。

28: 2011/02/14(月) 04:21:19.90 ID:9tN1JHoSO
梓「…」

そういえばそんな感じだったな。
そのあとおしゃべりしながら帰って、途中抱きついてくる唯先輩に怒って…
いつも通りの、変わらない日常だ。

梓「特に変わったことなんてないんだけどなぁ…」

あの歌詞が浮かんだ理由を考えてみるものの、なかなか思いつかない。

梓「強いて言えば、唯先輩、か…」

29: 2011/02/14(月) 04:29:06.56 ID:9tN1JHoSO
唯先輩。
新歓ライブで初めて出会い、入部してからというもの私にしょっちゅう抱きついてくる、困った人だ。
最初は戸惑い、迷惑に感じるときもあったが、今は、それほどでもない。
むしろそのスキンシップを、喜んでる部分すらあるかもしれない。

あまり人付き合いの上手なほうではない私にとって、あそこまで絡んでくる人というのは珍しいものだった。
それ故に最初はどう接していいかわからなかったが、今では私にとって、彼女はなくてはならない人になっている。

30: 2011/02/14(月) 04:35:53.74 ID:9tN1JHoSO
梓「…そうか」

なんとなくピンときた。
私は、唯先輩に温もりを感じているのかもしれない。
あの人と触れ合うことに。
一人じゃ寒くても、唯先輩がいれば暖かさを感じることができる。
だから、冬の歌詞、か…

梓「我ながら単純だな…」

でも、なんとなくヒントを見つけた気がする。

私はもうワンフレーズだけノートに書き込み、その日は寝ることにした。

31: 2011/02/14(月) 04:37:16.41 ID:9tN1JHoSO
どんなに寒くても 僕は幸せ
白い吐息弾ませて 駆けてくきみを見てると

32: 2011/02/14(月) 04:44:55.39 ID:9tN1JHoSO
次の日。

純「ねぇ、梓梓」

純が妙にニコニコしながら話しかけてきた。
…なんかいやな予感が…

純「歌詞作りのことなんだけど、やっぱり私も手伝いたいなぁ」

…やっぱり。

梓「大丈夫だよ、一人でできるって」

純「私が手伝いたいの!他人の意見聞いたほうが、いいアイデアは出てくるもんよ」

こうなったら、純はてこでも動かないだろう。
割と頑固なところあるからなぁ…

梓「もう、わかったわかった!じゃ、うちでいいよね?」

純「了解!」

結局、純の押しに負けて、歌詞作りを手伝ってもらうことになった。

33: 2011/02/14(月) 04:54:09.09 ID:9tN1JHoSO
そして放課後、うちに来た純に僅かながら出来た歌詞を見せてみた。

純「…本当にちょっとだねぇ」

…うるさいな。

純「でもさ、なんで一人称が僕なの?梓僕っ子じゃなかったでしょ」

梓「僕っ子ってなんなのよ…それはね、うん、恋する男の子の視点で書こうと思ったから、かな」

なんかよくわからない言い訳をしてしまったきがする。
まあ、間違ってはいないのだが、実際は恋とはまた違う何かなんだけど…私には上手く表現できなかった。
ああ、ホント自分の語彙力の無さが憎い!

34: 2011/02/14(月) 04:59:09.24 ID:9tN1JHoSO
純「ふーん…」

純はなにやらニヤニヤしている。
どうせろくでもないことを考えているのだろう。

純「まあ、そういう方向で作るとして…ここがAメロだとしたら、次はBメロかな」

おや。
どうやらちゃんと歌詞作りを手伝ってくれる気はあるらしい。
それなら存分に力を借りようじゃないか。

梓「そうだね…どんな歌詞がいいかなぁ」

とは言っても、すぐに思い浮かぶわけではない。
そんな簡単ではないのだ。

36: 2011/02/14(月) 05:07:11.09 ID:9tN1JHoSO
純「んー…そだ、梓の中ではさ、この男の子の恋の相手はどんな人なの?」

梓「どんな人…?」

純「そうそう、その女の人の特徴とかさ」

ふむ。
唯先輩の特徴か…なんだかありすぎて逆にまとめられないような…

ただ、今そういう具体的なことを話すのは、さすがに恥ずかしい。

梓「んー…そこまで考えてなかったな」

よって、とりあえずごまかすことにした。

37: 2011/02/14(月) 05:20:39.44 ID:9tN1JHoSO
純「なんだよー…でもそういう感じ良くない?ほら、あなたの長いまつげもその華奢で大きな手も~♪みたいな」

なんかいきなり歌い出したが、確かにその発想は悪くないかもしれない。

唯先輩の特徴…そういえば、いつも前髪はピンで留めてるな。
そういうことでいいのかな?

梓「なるほどね、なんか書ける気がするかも」

純「でしょ!さすが私!」

…せっかくお礼を言おうとしたのに、なんか言う気がなくなってしまった。

38: 2011/02/14(月) 05:27:10.50 ID:9tN1JHoSO
その日はそのあたりで解散になり、私はまた一人机に向かっていた。

梓「しかし…いつの間にか唯先輩のことを歌詞にすることになってたな」

これって出来たらみんなの前で披露するんだよな…なんか完成してもいないのに、今から恥ずかしくなってきた。

あの時私は恋する男の子視点と言ったが、別に唯先輩に恋してるわけじゃないからなぁ…ただ、特別な親愛の情はあるかもしれないけども。

まあ、つまりは私が男の子だとして、唯先輩に恋してると仮定して作ればいいわけだ。
あくまで仮定、仮定だけどね。

39: 2011/02/14(月) 05:32:56.01 ID:9tN1JHoSO
梓「…ん、とりあえずいろいろ書いてみよう」

とりあえず手を動かさなきゃ始まらない。
私の思いつく限りで男の子になりきって、唯先輩に恋をしてみよう。

梓「…恥ずっ」

そう思ってみると、なんだか意識してしまって恥ずかしい。
しかし、これも歌詞作りのためと割り切り、私は頭と手を動かした。

…ラブソング書ける人って、こんな思いをしてるのかな。

40: 2011/02/14(月) 05:34:24.44 ID:9tN1JHoSO
切り揃えた髪が とても似合ってる
でも前髪を下ろした きみの姿も見てみたい

41: 2011/02/14(月) 05:47:04.16 ID:9tN1JHoSO
次の日の晩、今日も歌詞を考えていると、急に律先輩から連絡があった。

梓「もしもし…どうしたんですか?」

律「梓か!唯が、唯が風邪引いたらしい!」

…はあああああああ!?
あれほどライブ前だから体調管理は気をつけようってみんなで言ってたのに!!
去年から何も反省してないじゃないですか!

とりあえず具合を見に行くと言うことなので、みんな集まり、平沢家に向かった。

すると、

澪「え?風邪引いたのは憂ちゃん?」

とのことでした。
まあ、それもそれで問題だけど…

42: 2011/02/14(月) 05:55:05.45 ID:9tN1JHoSO
とりあえずその場は唯先輩にまかせ、各自解散となった。
憂…まさか唯先輩の歌詞作り手伝いすぎて体壊したんじゃ…

家について、再び歌詞を考えようとしたが、どうにも力が入らない。
…平沢家の二人が気になってしょうがない。

憂は大丈夫なのだろうか…というかそもそも唯先輩は看病なんてできるのだろうか…?

梓「大丈夫…だよね?」

44: 2011/02/14(月) 06:04:31.51 ID:9tN1JHoSO
結局歌詞作りは諦め、寝ることにした。
寝る前に唯先輩に、ちゃんと看病できてるか確認のメールを送ったが、一応大丈夫らしい。

しかし、あの姉妹は本当に仲がいい、と常々思う。
まさしく、あの二人は二人で一つ、とかそういうものなんだろう。
ああいった姉妹がいるというのは、一人っ子の私にとってとても羨ましい。

…まあ、唯先輩は憂に頼りすぎな感じもあるけど。

そんなことを考えていたら、いつのまにか私は眠っていた。

142: 2011/02/16(水) 11:23:31.27 ID:+UzFuRCFO
すいません、やっと家に帰ってこれました

中断してしまい本当に申し訳ないです

143: 2011/02/16(水) 11:29:33.32 ID:+UzFuRCFO
次の日、唯先輩は「U&I」という歌詞を作ってきた。
唯先輩の憂を思う気持ちが詰まった、素晴らしいものだった。
満場一致でこの歌詞で曲を作ることになり、唯先輩はとても嬉しそうにしていた。

そんな唯先輩を見て、私は…うん、私は、少なからず嫉妬していた。
これだけの歌詞を作ることができる力に、ということもあるが、それ以上に、そんな歌を贈ることができる人が隣にいるという事実に。

144: 2011/02/16(水) 11:35:18.28 ID:+UzFuRCFO
もちろん私だって、今作ってる歌は大事な人を思って作っている。

しかし…それは唯先輩の憂に対しての思いとは雲泥の差がある。
家族に対する思いなんて、そう簡単に言葉にできるものじゃない。

…こんな思いで、あの歌を作ってしまっていいのだろうか。

唯「えへへー、楽しみだねっ!」

自分の歌詞に曲がつくことを喜び、唯先輩が笑いかけてくる。
私は、ぎこちない相槌しかうてなかった。

146: 2011/02/16(水) 11:39:45.74 ID:+UzFuRCFO
放課後、私はまた純と歌詞づくりに励んでいた…とはとても言い難い。
いまいち、いやまったく身が入らない。

純「ちょっとー、どうしたのよー」

純が私を心配そうに見ている。
大丈夫だよ、と言おうとしたが、口から出てきたのは、今日の出来事と、そのときの私の感情だった。

148: 2011/02/16(水) 11:51:43.25 ID:+UzFuRCFO
純「なるほどね…梓、あんた本当にくそまじめね…」

梓「だ、だって…!」

何を言う。
真面目に歌詞づくりを考えることの何が悪いのか。

純「そんな深く考えることないじゃない。私にはむしろなにが悩みどこなのかわからないけど」


純「作っちゃいけない歌なんてないわ」

149: 2011/02/16(水) 12:06:52.40 ID:+UzFuRCFO
梓「…」

純「別にいいじゃない、梓の唯先輩に対する思いがそんな崇高なものじゃなくたって」

純「どれだけ不格好でも、とにかく思いを伝えたい。だからそもそも歌ってものがあるのよ」

純「遠慮することはないよ、梓。今あんたが作れる最高の思いを作ればいいのよ」

梓「純…」

150: 2011/02/16(水) 12:10:51.27 ID:+UzFuRCFO
…何よ。
ちょっとかっこいいこと言っちゃって。

まあ、純みたいなやつにそんなことを言われてしまうほど、私は深刻そうにしていたのだろう。
でも、

梓「…ありがと」

純「はいはい、どういたしまして」

確実に、私は今この憎めない親友に救われたのだろう。

…純のくせに。

151: 2011/02/16(水) 12:16:27.03 ID:+UzFuRCFO
梓「純、明日からは私一人で作るよ」

今ならできる気がしていた。
私はきっとそんな歌詞づくりに才能があるほうじゃないし、そもそも歌自体上手いほうではない。
でも、そんな私でも。

梓「私の思いを、書いてみる」

こう、胸を張って言える。

純「そうね」

純は優しく笑った。
その顔を見て、より一層やる気が出てきた。

152: 2011/02/16(水) 12:20:29.52 ID:+UzFuRCFO
純「じゃそろそろ帰るね。しかし…」

梓「ん?」

純「気づいてないのか…いや、ならわざわざ言わなくても…」

梓「どうしたの?何かあるなら言ってよ」

私たち、親友じゃない。

純「そう…あのさ、梓」

梓「何よ」


純「あんた、マジで唯先輩のこと好きだったんだね」

154: 2011/02/16(水) 12:27:58.29 ID:+UzFuRCFO
梓「…え?」
え?え?

純「いや、この前は誰に向けた歌詞かなんて言わなかったのに、もうさっきから唯先輩唯先輩って…まあ薄々わかってはいたけど」

梓「………」

純「………梓?」

梓「ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

純「うわっ!?」

ヤバい!ヤバい!めっちゃ油断してた!全然気にせずペラペラしゃべっちゃったよ!!
馬鹿私!ホント馬鹿!

純「…梓」

梓「な、何か用かな?」

平静を取り繕う。

純「応援してるぞ☆」グッ

梓「うるさい!帰れ!今すぐ帰れ!」

無理でした。

155: 2011/02/16(水) 12:35:19.59 ID:+UzFuRCFO
純を帰し、一人枕に顔をうずめる。
考えるのは、唯先輩のこと。

梓「……」

私は、唯先輩のことは特別な存在というのは意識していた。
しかし、まさか…

梓「…唯先輩が、好き」

こっちが本当の気持ちだったとは。

この気持ちは、恋とは違うと思っていた。
そもそも女の子同士だし。
でも。

梓「好き」

こんなにすらすらと口から出てくるなんて。
気づいてしまった私の気持ちは、すごく恥ずかしかったけれど、なんだか暖かかった。

梓「…好き…」

決壊したように、私の口からは、唯先輩への気持ちが溢れた。
そして、そのまま眠りについた。

186: 2011/02/16(水) 20:59:04.18 ID:+UzFuRCFO
それからしばらくして、学園祭が行われた。
残念ながら私の歌は学園祭には間に合わず、披露されることはなかったが、唯先輩の作った曲「U&I」を筆頭にした私たちのライブは、大盛況の中幕を閉じた。

その日自宅に帰り、緊張や疲れ、そして興奮からかベッドに倒れ込んだ私は、すぐに眠りについた。

そこで、私は夢を見た。

187: 2011/02/16(水) 21:09:00.85 ID:+UzFuRCFO
そこは、見渡す限りの白銀の世界。
私の低い視点から見える世界に、遮るものは何もない。

でも、決して寒くはなかったし、寂しくもなかった。
夢だからなんて理由じゃない。
隣には、あの人がいたから。

手と手を繋ぎ、ただ歩く。
ただそれだけのことが、私には最高に幸せだった。

188: 2011/02/16(水) 21:14:25.26 ID:+UzFuRCFO
ふと、立ち止まる。
そして、向かいあう。

何か言わなきゃいけない、そんな思いに駆られるが、何を言っていいかわからない。
あの人は、ただ微笑む。

いくら考えても、いくら焦っても、言葉なんて出てこない。
こんなところでも、私の語彙力の無さがもどかしい。
辞書でも持っていればいいのに。
あの人は、ただ微笑む。

そして、

189: 2011/02/16(水) 21:18:17.52 ID:+UzFuRCFO
梓「――――!!」

私の言葉は、急に吹いてきた風と、舞い上がった雪にかき消され、

私は、目を覚ました。

190: 2011/02/16(水) 21:24:42.56 ID:+UzFuRCFO
それから。
名目上部活動を引退したにも関わらず、「受験勉強を」と言って、先輩たちは部室に来続けたので、変わらず軽音部は賑やかだった。
しかし、それでもやはり現役時に比べたら来る回数は格段に減り、私一人部室で練習する日が多くなった。

たまに憂や純、稀にさわ子先生が顔を出す時もあったが、基本的には私一人の日がほとんどだった。

191: 2011/02/16(水) 21:31:14.45 ID:+UzFuRCFO
梓「寂しいね、トンちゃん…」

思わずそんなことを口走るほど、私は寂しかった。
少なくとも、律先輩なんかが陰で見てるんじゃないか、なんてことは思わないほどに。

そんな時思うのは、やはり唯先輩のことだった。

彼女はちゃんと大学へ行けるのだろうか?
一人暮らしとかできるのか?
そもそも卒業…はさすがに大丈夫か。

唯先輩のことばかり考えていた。
来る日も来る日も。
そして、それを歌にしていった。

193: 2011/02/16(水) 21:41:57.48 ID:+UzFuRCFO
そして。

梓「できた…」

とうとう私の曲「冬の日」は完成した。

我ながら今さら感が漂う。
作り始めたの、9月だし…今12月だよ?

でも、せっかく出来たんだし、みんなに見てもらいたい。
この歌詞にメロディーを付けたら、どんな曲になるんだろうか。
…私の思いの結晶は、何を伝えるのだろうか。

194: 2011/02/16(水) 21:47:42.20 ID:+UzFuRCFO
ある日、先輩たちが集まった日を見計らって、「冬の日」を初披露した。

澪「おぉ…」

律「梓のくせに…なかなかいいもん作るなぁ」

紬「とても素敵よ~」

唯「すごーい!あずにゃん天才!」

よかった…私の歌は、なかなか好評らしい。

何よりも、一番見てもらいたかった人が喜んでいる。
それが嬉しかった。

196: 2011/02/16(水) 21:53:07.22 ID:+UzFuRCFO
律「もう披露する場はないけど、せっかくいい詞なんだ、ムギ!メロディー頼んだ!!」

紬「りょーかい!」

私の歌詞が曲になる。
なんだかドキドキするな…

澪「梓、せっかくだしこの曲は梓が歌うか?」

唯「お!いいねー、あずにゃんとうとうボーカルデビューだよ!」

な、なんですと!?
これは予想外だった…

梓「わ、私はいいですよ…ギターだけでいっぱいいっぱいですし」

唯「えー、もったいないー」

唯先輩が口を尖らせる。

197: 2011/02/16(水) 21:59:25.25 ID:+UzFuRCFO
澪「じゃあどうするか…この歌詞の感じだと唯か…ムギも似合いそうだ」

律「私は!?」

澪「お前はなんか違う」

律「みおしゃんひどい…」

紬「まあまあ…とりあえず、梓ちゃんの意見を聞いてみましょうよ」

唯「そうだね!」

梓「え!?」

な、なんですと!?(二回目)

199: 2011/02/16(水) 22:04:14.86 ID:+UzFuRCFO
梓「わ、私は…」

みんながこっちを見ている。
なんか…すごく言いづらいけど…ここは譲れない。

梓「唯先輩に…歌ってほしいです」

私の唯先輩への思いを、唯先輩に歌ってもらう。
何だか本末転倒な感じもするが、これは作っている途中から決めていたことだった。

唯「私?いいの?あずにゃん」

梓「はい、ぜひ」

だって、私と同じ思いを歌ってもらうなんて。
なんか、両思いみたいな感じじゃないですか。

200: 2011/02/16(水) 22:09:04.48 ID:+UzFuRCFO
澪「決まりだな」

律「悪いなムギ、勉強も忙しいだろうに」

紬「大丈夫!唯ちゃん梓ちゃん、とびっきりの曲作るからね!!」

ムギ先輩…なんか妙に張り切ってる気が…
まあいいか。

唯「あずにゃん、出来上がったら私も頑張って歌うからね!!」

梓「はい!お願いします!」

そして、出来たら。
歌詞に込められた、私の気持ちにも気づいてください。

203: 2011/02/16(水) 22:34:59.98 ID:+UzFuRCFO
そしてそれはついに出来上がった。
ムギ先輩の作った曲は、まさに私がイメージしていた、雪の降る町で恋人が歩いているような、素晴らしい曲だった。

梓「ムギ先輩!すごくいいです!」

律「さっすがムギ!」

紬「やだわぁ、梓ちゃんの歌詞のおかげよ~」

澪「どっちも素晴らしいさ、じゃなきゃこんないい曲はできないよ」

でも、本当に素晴らしい曲をつけてくれた。
自分の歌詞が、こんな歌になるなんて…感動するなぁ。

204: 2011/02/16(水) 22:43:41.31 ID:+UzFuRCFO
唯「よーし!さっそくみんな練習しよう!!」

律澪紬「おー!」

梓「おー…ってみなさん、勉強はいいんですか!?」

律「いいじゃんいいじゃん♪」

紬「せっかく曲ができたんだし~♪」

澪「まあ…せっかく…だからな」

澪先輩まで…まあ、でも…
なんか、いいな。

唯「ほら、一緒にやろ、あずにゃん!」

梓「はい!!」

久しぶりに5人でやった演奏は、舞う雪のように、キラキラしていた。

206: 2011/02/16(水) 22:49:00.42 ID:+UzFuRCFO
その晩。
純に曲ができたことを伝えると、自分のことのように喜んでくれた。
なんだかんだでいいやつなんだよなぁ、純は。

梓「純のアドバイスのおかげだよ、ありがとね、純」

純「やめてよ、くすぐったい」

そんな話をしていると、

純「でも、梓はそれで満足したの?」

梓「え?」

そりゃそうだよ。
ちゃんと曲は完成したんだし。

純「そうじゃなくって…ちゃんと唯先輩に伝えなくていいの?あんたの気持ち」

208: 2011/02/16(水) 22:55:40.51 ID:+UzFuRCFO
梓「…」

それは…

純「梓が満足したならいいけどさ、私はちゃんと伝えるべきだと思うよ」

それはわかっている。わかっているけども。

梓「まだ、いい」

純「まだ?」

梓「うん、まだいいんだ」

梓「今は、この余韻に浸っていたいんだ。私の気持ちがこもった曲ができたことに。それを唯先輩に歌ってもらえることに」

梓「それに…今は、勉強で忙しいしね」

でも、いつか。

純「…そっか」

いつか、きっと。

209: 2011/02/16(水) 22:58:54.47 ID:+UzFuRCFO
梓「ちゃんと伝えるよ」

梓「ちゃんと、唯先輩に」

そうだ。
この曲は、まだ完成じゃない。
唯先輩が、全てわかった上で、歌ってくれなきゃ意味がない。

純「そうだね」

梓「あ、でも…」

純「ん?」

梓「なんて告白すれば…いいだろう」

210: 2011/02/16(水) 23:01:44.15 ID:+UzFuRCFO
純「あんたねぇ…」

受話器の向こうから、盛大なため息が聞こえる。

純「そんなことまで私に頼るなっつーの!」

梓「だ、だって…」

いいじゃない、こんなこと相談できるの、純くらいしかいないんだし。

純「まったく…そんなの簡単じゃない!言ったでしょ、不格好でいいのよ」

212: 2011/02/16(水) 23:03:58.16 ID:+UzFuRCFO
純「『好き』から始めなさいよ」



おしまい

213: 2011/02/16(水) 23:06:05.88 ID:+UzFuRCFO
終わりです。
梓が「冬の日」の作詞、という設定で書きました。
理由は、曲を聞いた瞬間なんか唯梓っぽいなーと思ったからです。以上。

途中大幅に空けてしまって申し訳ありませんでした。
保守してくれた方、ありがとうございます。

217: 2011/02/16(水) 23:21:57.49 ID:+UzFuRCFO
U&Iが憂への曲、
天使にふれたよが梓への曲、
そしたら唯への曲があってもいいじゃないと思ったのがきっかけです。

唯梓は結ばれます。これはこの世の理です。

219: 2011/02/16(水) 23:39:05.56
乙です

引用元: 梓「どんなに寒くても、僕は幸せ…っと」