1: 2011/03/01(火) 00:22:09.41 ID:MDfsX10i0

わぁ、すごいよ
通学路、私の少し前を歩いていた彼女が街頭のオレンジの灯りの下ではしゃぎながら言った
私の目の前でゆらゆらと揺れるマフラーも彼女に従うように空中で踊っている

「もう、唯先輩転んじゃいますよ」

なんて形だけは注意をしてみたりするが、嬉しいのは私も同じだ
雪なんて今年はもう見れるとは思っていなかったから
なにより――彼女とこのときを一緒にいられたことが嬉しかった

「でも、珍しいですね。もう3月だって言うのに」

「ほんとだねー。でもこれが最後になるかもしれないね」

2: 2011/03/01(火) 00:23:26.64 ID:MDfsX10i0

そうですね
その言葉が喉まで出かかった時、ふと自然に引っ込んでしまった
彼女がまだなにかを伝えようとしていたから

「あずにゃんと最後の雪見かぁ……えへへなんだか照れるね」

でもそれは私の言いたかった言葉

彼女が自分の言った言葉に恥ずかしそうに、だが嬉しそうにはにかんだ
恥ずかしいのならば、言わなければいいのに とは言わない
おそらく私の顔も赤くなっていて、もし言葉にしたときそれが上擦っていたらもっと赤くなってしまうから

「でも、案外また降ることがあるかもしれませんよ」

照れ隠しには違う言葉が出た
きっと、親友の一人はわたしに「もっと素直になればいいのに」というだろう
でも私にはまだしばらくそうはなれそうもない

4: 2011/03/01(火) 00:25:25.18 ID:MDfsX10i0

「ふふ、じゃあ、あずにゃん」

彼女がその笑みを保ちながら、振り返る

「そのときも一緒に見ようか」

彼女は卑怯だ。
そんな不意打ちをくらってはどうしようもないではないか
――だから私はゆっくりと頷く

「そうですね」

頬が熱い
雪がさきほどから私の頬にも落ちてきているが、一向にこの熱はとれそうにもない

5: 2011/03/01(火) 00:27:39.39 ID:MDfsX10i0

すると目の前にいた彼女の腕が私の頬にのびた
と私の頬をさっと撫でるように触れると

「あずにゃん、頬に水滴がついて泣いてるみたいになってるよ」

そのまま水滴を拭うと、彼女はふと思いついた顔をした
そしてそのままもう片方の手も伸ばし

「あずにゃんの頬あったかいねー」

私の頬を両の手で挟む
彼女は手袋をしていなかったため、すごく冷たい手をしていた

8: 2011/03/01(火) 00:32:34.28 ID:MDfsX10i0

「もう、やめてくださいよー。ところで唯先輩」

「あったかあったか~、なに?」

「手袋はどうしたんですか?」

「えっとね、憂が忘れてきたって言ってたから、貸しちゃった」

彼女の妹――憂は私の親友の一人だ
本当に仲のいい姉妹だ。
姉は妹を常に想い、妹も姉のことを常に想っている
その姉妹の仲の良さに嫉妬を覚える私は、おそらくいけない子なんだろう
それを自覚しながらもなお、私はそれがとても羨ましかった

9: 2011/03/01(火) 00:37:17.07 ID:MDfsX10i0

「ねぇ、あずにゃん」

「はいなんですか?」

「知ってる? 手が冷たい人は心が温かいんだよ」

彼女が右手で私の手をとった。
そして私の手袋を器用に脱がせ、自分の手を絡ませる

「つまり、唯先輩は自分の心が温かいっていいたんですね」

少し意地悪な質問をしてみた

10: 2011/03/01(火) 00:40:23.99 ID:MDfsX10i0

「さぁ?あずにゃんにはどう感じるのか教えてよ」

彼女は意地悪な笑みで返した
まったく……この人にはかてないなぁ

「唯先輩の手は間違いなく冷たいです」

「その先の言葉もききたいな」

私の素直じゃない心があえて避けた言葉を、彼女は嬉しそうにほしがった

「……唯先輩の心は暖かいです」

今度は自分でも驚くほど素直な言葉がでた
それは私が言いたかった言葉でもある

13: 2011/03/01(火) 00:45:12.43 ID:MDfsX10i0

「えへへ、そうかな~」

「もう、自分で言わせておいて照れないでくださいよ!」

本当はもう一つ言いたいことがあった
だが、それを言うわけにはいかない
今回彼女の手を握ったのは、たまたま私が一緒に帰り
たまたま起こった出来事なだけだ
だから――この言葉を言うわけにはいかない
言えば……
――親友の悲しそうな顔が浮かんだ

「それじゃあね、あずにゃん」

いつの間にか私達はいつものお別れの場所にきていた。雪もすでに止んでしまっている
彼女との帰路ももうおしまいだ

16: 2011/03/01(火) 00:50:25.62 ID:MDfsX10i0

すでに卒業してしまった彼女とはもう2度と同じ立場で同じ意味で同じ距離を歩けない
彼女はいつも私の一歩先をいってしまう

……あぁ、そういえば憂もそんなことを言っていたっけ

思い出した親友の顔は、やはりどこか寂しそうだった
きっと私も今そんな顔をしているのだろうか

「はい、さようならです。先輩」

本当は さようなら なんて言いたくはなかった
だってまるでもう会えないみたいではないか
だから、おもいっきり微笑みながら言ってやった
たまには私の素直じゃない心も役に立つ

「違うよあずにゃん。またね だよ」

17: 2011/03/01(火) 00:55:21.99 ID:MDfsX10i0

今の私は一体どんな顔をしているのだろうか
いや、決まっている。
きっと鏡で見たら、あとから思い出して恥ずかしい思いをするような顔をしているんだ

「はいっ、またです!!」

そうして彼女はまたヒラヒラとマフラーを揺らしながら歩いていく
今度は私とは違う方向へ

梓「―――――――」

言えなかった言葉を彼女には聞こえないように今呟いた

18: 2011/03/01(火) 01:00:20.17 ID:MDfsX10i0



彼女達にとってそのマフラーと手袋は特別なものだった
そんな話を彼女からもそしてまた彼女からも聞いたことがあった

彼女だけは私の気持ちを知っていた。私がそのことを告げるよりも前に
それは当然なのかもしれない
なぜなら彼女は、私にも彼女にも近い位置にいたのだから

「たまにとても憂のことが羨ましくおもうよ」

ふと何気ない会話の途中、ついそんな言葉がこぼれてしまった
本当は秘めておくべき言葉だった
なぜなら、私も本当は彼女の気持ちをしっていたから

19: 2011/03/01(火) 01:05:23.54 ID:MDfsX10i0

「えー?そうかなぁ」

彼女はそれでも笑みを絶やすことはなかった
だから、必氏にごまかそうと考えていたのに

「でも、私も梓ちゃんがうらやましくおもうよ」

「え?」

予想外の答えに、自分でも驚くほどマヌケな声が響いた

「梓ちゃんって、お姉ちゃんのこと大好きでしょ?」

唐突にきた言葉に私は何もいえない

「私知ってるよ。きっとお姉ちゃんも梓ちゃんが好きだよ」

22: 2011/03/01(火) 01:10:36.65 ID:MDfsX10i0

私はそのとき黙ったままだった
いや、黙らざるを得なかった
頭が真っ白になっていたのだから

「私は梓ちゃんがうらやましいよ」

もう一度告げたその顔はやはり微笑んでいた
だから、私は何か言わなければいけない気がした

「そんなっ!! 私は憂が羨ましいよっ!! だって唯先輩に一番近いのは憂だもん」

それが本心だった
彼女とこれからも笑うためには、これだけは言っておかないといけない
そう思った。だから秘めた言葉を彼女に投げつけたのだ

「そうだね……でもそれは時間制限つきの一番だよ」

そのとき彼女は微笑まなかった
少し悲しそうな眼をして、伏せるようにうつむいていた

24: 2011/03/01(火) 01:15:10.64 ID:MDfsX10i0

「ねぇ、梓ちゃん?」

沈黙のあと、彼女が静寂を破った

「梓ちゃんは私のどこが羨ましかったの?」

「私は……」

あらためて考えてみれば、それはたくさんあった
それを自覚した時、自分のことが嫌になった

……あぁ、私はこんなにも憂が羨ましかったんだ

そのなかでも一番大きい妬みを心の奥底から引っ張り出す
私が最もうらやましく思い
そしてそれは絶対に私が手に入れられないものだ

25: 2011/03/01(火) 01:20:50.41 ID:MDfsX10i0

「私は、二人で仲良くマフラーを巻きあって、手袋を貸し合って……そんな光景がうらやましかった」

それは私の一番汚い部分。
それでも私は吐き出さずにはいられない

「それはきっと唯先輩と憂にしか許されないものだから……」

「そっか……」

憂が珍しく言葉をつまらせた

「でも、あの場所もきっと時限付き。だから……」

それ以上彼女はなにも言わなかった
彼女は困った顔で笑いながら、泣いていた
その顔は私の大好きな人が困った顔をしたときにする顔そっくりで
私は次の言葉を失ってしまった

27: 2011/03/01(火) 01:25:27.95 ID:MDfsX10i0

「ねぇ、憂……憂は私のどこがうらやましかったの?」

沈黙を破ったのは、今度はこちらだった

「私はね………きっと梓ちゃんとお姉ちゃんの関係、それ自体が羨ましかったんだとおもう」

彼女の言葉が続く
今度は彼女の番だった

「さっき言ったよね。梓ちゃんはお姉ちゃんが好きで、お姉ちゃんも梓ちゃんが好きって……」

「でも、それは……憂だって……先輩は憂のことが好きだし、憂も先輩のことが」

「違うんだよ、梓ちゃん。だって意味が……」

彼女の声のボリュームが少し大きくなった後、また萎んでいく

28: 2011/03/01(火) 01:30:25.68 ID:MDfsX10i0

「私はできることなら……うんうんなんでもない……」

それは彼女の奥に隠していた本当の気持ちだろう
同時に切実な、それでも叶わないと知っていたからこそ隠していた願いなのだろう
そして今一度出かかったそれはもう一度隠れてしまった

「ねぇ……憂はさっき意味が全然違うって言ったよね」

今、私は残酷なことを告げようとしてるのかもしれない
きっと私は後から後悔するだろう
それでも彼女は優しいからきっと――

「姉妹同士だからってことだよね。でも、それを言うのなら私だって女だよ。認められないのは私も……」

「……」

「それに憂の気持ちはたぶん私と同じものなんでしょう!? それなら……」 

30: 2011/03/01(火) 01:35:11.66 ID:MDfsX10i0

駄目だ。それ以上言葉が出てこない。彼女の顔を見てしまったのならばなおさらだ
こんなものは氏刑宣告と一緒だ。彼女の胸に刃物をつきたてているようなものだ
そしてその刃もとうとう彼女の胸にくいこみはじめている

……私はいったいなにがいいたかったんだろう

彼女自身が理屈ではわかりながらもなお眼をそらしてきたもの、私がこれ以上踏み込むことなどできない
いや、もう踏み込みすぎている

「それでもいいの。私とお姉ちゃんの関係は変わることはないから」

それははたして彼女の望んだことだったのだろうか。
それとも彼女のつよがりだろうか
それとも彼女の私への気遣いだろうか
それとも――

私にわかるのは、ただ彼女が悲しそうに笑っている
その顔が語る真実だけだった

32: 2011/03/01(火) 01:41:07.84 ID:MDfsX10i0



気付けば、私はベッドに寝転がっていた
すでに時計の短針も10の位置を指している

ずっと感傷的な気持ちになっていたからだろうか
私は普段襲われることのない虚無感に襲われる
その原因はわかっている

……明日も会える、なんてことはないよね

彼女が学校に来ていたのも偶然だ
もう来る必要もないのだ。だから次会えるのはいつかはわからない

35: 2011/03/01(火) 01:45:42.33 ID:MDfsX10i0

ふと枕元に置いていた携帯を手に取った
操作してだすのはアドレス帳の「ひ」の欄だ
そこには上下に並んで彼女達の名前がある

後ボタン一つで彼女に電話がかかる状態までもっていく
そこには彼女の名前とメールアドレス、電話番号が記されている
私の指はボタンに向かい――

「やめた……」

第一こんな時間に電話をかけてなにを話せばいいのだろうか
それもさっき別れをつげたばかりの人物に

どうしようもなくなった私はゆっくりと携帯を閉じ、瞼も意識も閉じてしまおうとする

37: 2011/03/01(火) 01:50:52.97 ID:MDfsX10i0

~~♪

同時にお気に入りのメロディが流れてきた
発生源は自分の手のひらの中
私はきっと期待している
この電話が彼女からであることを

「はいもしもし」

液晶の画面も見ずに通話ボタンを押した
そのほうが私の期待はほんの少し長く続くから

『あ、あずにゃん!! 大変大変』

呆れた……
なんという期待を裏切らない人だろう
私が電話をかけるか迷っていたのが馬鹿らしくなってくる

39: 2011/03/01(火) 01:55:21.77 ID:MDfsX10i0

「なんなんですか、こんな時間に」

『まぁ、いいから外を見てみてよ』

私は言われたとおりにするために、自室の窓へと歩み寄った
そしてカーテンに手をかけ、横に引く

「これは……」

『雪だよ!!雪』

「えぇ、そうですね」

もっと言葉したいことはたくさんあったが
今はそれで充分だ

41: 2011/03/01(火) 02:00:18.12 ID:MDfsX10i0

『えぇーあずにゃん、それだけなの?』

彼女のいいたいことは分かっている
なぜならば、私も真っ先にそれを思い出したからだ
だが、やっぱり素直じゃない私はそれを率直に言う気はないらしい

「ええ、なにかありましたっけ」

『うぅー、あずにゃんの薄情者』

電話越しに彼女が落胆しているのが面白いほどたやすく想像できた

……まったくもうしかたないんですから

42: 2011/03/01(火) 02:01:42.81 ID:MDfsX10i0

「それじゃぁ、唯先輩。どこかで待ち合わせしましょうか?」

『あっ、やっぱりあずにゃん分かってたんだねー』

私は肩と頬に電話を挟むと、ハンガーに掛けていたコートへと手を伸ばす
そしてそのまま姿見の前に立ち、自分の小さな体に合わせる

……変じゃないよね

『あ、ちょっとあずにゃんきいてるー?』

「はいはい、聞いてます。 で、場所はどうしましょう」

髪の毛の確認をし、服装を確認し、持ち物を確認する
あとはもうこの電話を切り、ポケットの中にしまうだけだろう

「――はい、わかりました。じゃぁ、そこで」

きっと数十分後には私はまた生意気なことをいっているのだろう
その場所にはそれを笑いながら受け止めてくれる人もいるのだろう

そして私は透明なビニール傘と共に飛び出した




「梓」 了

62: 2011/03/01(火) 13:20:32.22 ID:MDfsX10i0

――わたしは二人の女の子を愛している


その日、身をきるような寒さに眼が覚めた
前日まで暖かかったせいか、どうも体が急な変化に対応できなくなってしまっているらしい

ふと、寒空の窓の外を見るとあわただしそうに彼女が駆けて行く
彼女にしては珍しい。遅刻寸前まで家を出ないことなんてなかったのに

その理由は下の階に降りてからようやく判明することになる

「……ギリギリまで待っていてくれたんだ」

テーブルの上には彼女が用意してくれたのであろう、朝ごはんが並んでいた
ラップ越しに触れてみる

……まだ温かい

63: 2011/03/01(火) 13:25:46.50 ID:MDfsX10i0

起こしてくれてもよかったんだけどなぁ
ポツリとそう呟いていた
だが、それも彼女の優しさなのだろう

「駄目な姉だ……」

するとそれを必氏に否定する可愛い妹の姿が浮かんだ
きっと彼女はそんなことはないよと慌てた顔をしながら否定してくれるのだろう
だけどそれでも

「駄目な姉だね……」

64: 2011/03/01(火) 13:31:47.34 ID:MDfsX10i0

気まぐれに、いつも彼女が座っている椅子を引いた
そこにストンと腰を落とせば、やはりその椅子もまだ熱を持っていた

酷い姉だと自ら酔うように罵る
そうすれば、許されると思っていた
だって私は彼女の気持ちを知っていたのだから

65: 2011/03/01(火) 13:36:20.15 ID:MDfsX10i0



冷たい部屋に戻り、着替えていると
自分でも気付かぬうちに口からメロディがこぼれていた
文化祭で歌った歌のメロディラインを鼻歌でなぞる
そんな気のまぎらわせかた

卒業してから、考えることが多くなった
先日我が軽音部の部長に、「考え事か、唯?」とまで尋ねられるほど
私は自分を隠せなくなっている
そういえば、隠さなくいけなくなったのはいつからだったのだろうか

67: 2011/03/01(火) 13:41:01.45 ID:MDfsX10i0

私の心には彼女達がいた
彼女と――そして彼女のことだ
共に年下の少女だ
それなのに、私よりしっかりしていて
私のことをしょうがないなぁ と笑ってくれて
そして可愛く照れたりもするもんだから

「私はそういうところが好きなんだろうね」

こんなこと一人の時にしか絶対に言えない
それが私が自分に引いたボーダーラインだ
言わなければいいのに、と自分でも思うが
たまに言葉にしておかないと、途方もない不安に襲われた

68: 2011/03/01(火) 13:45:36.50 ID:MDfsX10i0

「あぁ、でもギー太にはいつも聞かれちゃうね」

部屋の隅で黙って私の話を聞くように立てかけられていたギー太に手を伸ばす
慣れたこともあり、彼を抱えても私はよろめくことはなくなった
重さはある。だが、それが私にピッタリとくる重さになっていた
ピックを持たずに、弦をゆっくりとはじく
低音の心地よい音が私の耳に安らぎをもたらした
――ピックに手を伸ばす
奏者は自分、観客は自分の小さな音楽界が始まった

70: 2011/03/01(火) 13:52:36.97 ID:MDfsX10i0

気付けば私は音の世界に没頭していた
だが、一人での演奏はどこか味気なく感じて
やがて飽きに似た感覚を覚えていた
ゆっくりと息を吐き出し、吸い込んだ
胃の中が冷たい空気で満たされていく
そしてピックを弦と弦の間に挟むと、ゆっくりと足に力を入れた

「学校……行こうかな」

悩んだかのような言葉とは裏腹にもう私の心は決まっていた
クローゼットへと向かい、もう役目を全うしているそれを取り出す
それを身に着けている時だけは、彼女達と同じ高校生でいられる気がした

71: 2011/03/01(火) 13:55:21.13 ID:MDfsX10i0



ギー太を持ち、玄関へ降りると
そこには手袋が落ちていた
それは彼女の忘れ物であり、私にとっても大事なものだった

彼女はマフラーを風で飛ばされたと言った
――だから私のマフラーを彼女の首に巻いた
私は手袋の片方を失くしたと言った
――だから彼女は私の冷えた手を両の手で握りこんだ

玄関を出ると、部屋の中とはまた違った寒さが私の身を襲った

73: 2011/03/01(火) 14:00:18.45 ID:MDfsX10i0

「ふっふっふ、なんか侵入者みたいで悪いことしてるみたいだね」

校門の前で私は楽しくなっていた
5時間目の始まった校舎は静かで、その中には彼女達もいて……
別に気にする必要もないのに、忍び足になる
気分だけは、一流のスパイだ

しかしそんな気分も校舎に入った瞬間、抜け去った

「唯ちゃん?」

侵入早々かつての担任に見つかっているようでは、スパイ失格だろう

74: 2011/03/01(火) 14:06:28.38 ID:MDfsX10i0

「さわちゃん、こんにちわー」

「あらっ、唯ちゃん一人?珍しいわね」

ここへ来るときは、今まで必ず誰かと来ていた
それはムギちゃんであったり、りっちゃんであったり、澪ちゃんであったり、
卒業してからも4人で来ることが多かった
それが今私は一人だ
そのことにさわちゃんは驚いているのだろう

75: 2011/03/01(火) 14:10:52.43 ID:MDfsX10i0

「でも、今日はたぶん部活はお休みよ?」

だから、とさわちゃんが続けた
さわちゃんがいいたいことは分かっている
今日は彼女も部室にはあらわれない――つまりはそういうことだろう
だが、私は別にそれでも構わなかった

「でも、部室はあいてるんだよね?」

「えぇ、まぁ」

さわちゃんが意外そうな顔をする
どうやらそれを聞けばそのまま私が帰ってしまうのではないかと考えていたらしい

76: 2011/03/01(火) 14:16:25.23 ID:MDfsX10i0

「あっと、それじゃあ唯ちゃん。私見回りの途中だから、行かないとね」

「ご苦労様ですな」

「ふふ、唯ちゃんあんまり似合ってないわよ」

「そうだ、さわちゃん。憂にこれを渡してくれない?」

取り出したのは朝玄関で見つけた手袋だ
ここにくるまで私がつけていたので、まだ温かい
さわちゃんが、しょうがないわねぇとそれに手を伸ばし――とめた

77: 2011/03/01(火) 14:20:31.93 ID:MDfsX10i0

「やっぱり、自分で渡しなさい。憂ちゃんには部室に行くように言っておいてあげる」

「えー、さわちゃんのいけず~」

そうしてさわちゃんは階段を登っていく
だが、階段の踊り場でピタリと足を止めると振り向き

「唯ちゃん、あまり考えすぎはよくないわよ」

それだけを言うと、さわちゃんはウインクをしてまた階段へと足を伸ばした
私も遅れて続くように階段へと踏み出し

……さわちゃんにはお見通しかぁ

あらためて教師という仕事の凄さを思い知らされた

78: 2011/03/01(火) 14:25:53.31 ID:MDfsX10i0



部室はなにも変わっていなかった
いや、変わっていないように見えるだけ、本当は変わっていたのかもしれない
それでも私には変わっていないように思えた
ギー太をいつもの場所に置き、私は4つの勉強机をつなげたテーブルへと向かう

「これは……」

彼女がいつも座っていた位置に、一本のカセットテープが置かれていた
そこには丁寧な字で、【梓・憂・純・新生軽音部】と書かれたシールが貼り付けられてある

79: 2011/03/01(火) 14:30:28.29 ID:MDfsX10i0

微笑ましい気持ちと同時に少し寂しく思う
4月、そこに私の姿はない
彼女達の演奏に私の音は混じることはないのだ
もちろん、不満があるわけじゃない
りっちゃん達と演奏できたことは、おそらく私の一生の思い出だ
彼女達に混ざりたいのならば、あの思い出を捨てろ と言われれば、
まちがいなく私はそんな話はお断りするだろう
だけど……それでも少し寂しいと感じるのは――

「私は欲張りだなぁ」

81: 2011/03/01(火) 14:35:22.98 ID:MDfsX10i0

最初から分かっていたことだ
選べない。そもそも選ぶというのがおこがましいのだ
ただ手放したくないものが多すぎた
それでも彼女達は
――優しすぎる妹と素直になれずに困惑する後輩は
笑いながら許してくれるのだろうか

「考えすぎはよくないよね。……よーっし!!」

さわちゃんの言葉を思い出し、私は立ち上がりギー太に走り寄った
朝触ったばかりだというのに、どこか懐かしくその音が聞きたくなった

「ソロライブの始まりだね」

82: 2011/03/01(火) 14:41:06.86 ID:MDfsX10i0



「お姉ちゃん!!」

5限目のチャイム終了からほどなくして、彼女が部室に駆け込んできた
ここまで来るだけなのに、息をきらせているということはそれだけ急いできた証だ
まったく……普段は優等生なのに
思うだけで口にはださない。
嬉しかったから

「どうしたのお姉ちゃん? 今日は一人なの?」

「ほっほ、まぁここに座りなされ」

どこかで見た年配者の口調をまねる

83: 2011/03/01(火) 14:46:14.55 ID:MDfsX10i0

「お姉ちゃん、あんまり似合ってないよ」

さわちゃんと同じ反応をした彼女はクスりと笑うと
私の正面に腰をかけた

「それでどうしたの?」

「いやぁ、寂しくなってねー。憂に会いたかったんだよ」

本音だけど、本音に聞こえないように茶化して言った
すると彼女は困ったように笑った

84: 2011/03/01(火) 14:50:21.55 ID:MDfsX10i0

「それは嬉しいけど……」

「憂、これ忘れていったでしょ?」

もう一度ポケットから手袋を取り出し、彼女の目の前へと差し出した
彼女は一瞬、キョトンとした後

「ありがとうお姉ちゃん。もしかしてこのためだけに……?」

彼女の気遣いが手に取るようにわかる
おそらく私に対して申し訳ないと思っているのだろう
……そんなこと気にしないでいいのに
だから

「ちょっと部室に忘れ物をしてね。それを取りに来るついでだよ」

85: 2011/03/01(火) 14:55:14.19 ID:MDfsX10i0

彼女に気を使わせないように、そう言った
すると彼女は一瞬、悲しそうな眼をみせた気がした
が、その一瞬は間違いだったかのように彼女は笑みを重ねる

「ありがとうね。お姉ちゃん」

それは本当は毎日のように私が言わないといけない言葉なのに
ただ、その言葉を受け入れるしかなくて
気の利いた事も言えずに、私の口は黙ってしまう

「あっと、ごめんねお姉ちゃん。次は移動だからもう行かなくちゃ」

86: 2011/03/01(火) 15:00:43.32 ID:MDfsX10i0

そして彼女は立ち上がり、慌しく廊下へと向かっていく
彼女はおそらく私の迷いもすべて知っている
賢い子だから、私とは違うから。
きっとこの気持ちの解決方法も知っているのだろう
でも、それを聞くことは許されない
彼女自身もまた避けているような気がしたから

去り際に彼女が零した

「私はお姉ちゃんの妹だよね」

87: 2011/03/01(火) 15:05:35.93 ID:MDfsX10i0

掠れそうな声だったが、かろうじて私の耳がそれを拾ったが、
その意味を私は知ることはない
だけど、やはり彼女は知っていた
――私の答えがもう出ていることを


今度は私が決着をつける番だ
だから、私はまだ帰らずに放課後まで残ることにした

――彼女が来てくれるのを祈りながら

88: 2011/03/01(火) 15:10:15.40 ID:MDfsX10i0



「……い……んぱい……ください!!」

今日の目覚ましはやけに可愛い声だと、まどろんだ意識で思う
ゆっくりと意識が現実に浸透していく

「唯先輩、起きてください!!」

瞼を開けると、そこにはツインテールを揺らしながら私を揺すっている彼女がいた

「うーん、あずにゃんだ~」

彼女の背中に手を回し、もっと側へと引き寄せた
そしてそのまま、私は顔を彼女の胸に

89: 2011/03/01(火) 15:16:27.89 ID:MDfsX10i0

「ちょっ、ちょっと唯先輩!! 本当に起きてくださいってば!!」

その彼女の焦った声を聞き、私は本当の目覚めを迎えた

「あれ、あずにゃんこんなところでなにをしてるの?」

「それはこっちのセリフです!! 唯先輩こそなにをしてるんですか」

「えへへ、実はあずにゃん成分が足りなくてここで倒れていたのだっ」

あながち嘘でもない冗談を言う
彼女に会いたかったのは本当だ

90: 2011/03/01(火) 15:20:35.05 ID:MDfsX10i0

「それより離してくださいよー」

「う~ん、もうちょっと~」

彼女の体を少し強めに抱き寄せる
すると彼女が恥ずかしがっていることがわかった
そしてそのことに満足を覚えた私はようやく彼女を解放した

「あずにゃん、一緒に帰ろうっか」

窓の外はすでに日も沈みきり、薄暗い帳が下りてきていた
学園にもうほとんど人はいないのだろう
歩いている人影すらも、見当たらない
静かな空間の中、私の鼓動は壊れてしまっていた

92: 2011/03/01(火) 15:25:39.86 ID:MDfsX10i0



帰り道
私と彼女は街頭の灯りの下を紡いでいくように帰っていた

ふとひんやりとしたものが、私の手のひらに落ちた
雪だ
首を真上に傾けて見れば、何層にも重なったかのような雲が空を覆っていた

「わぁ、すごいよ」

私はつい嬉しくなって小走りになる
彼女が慌てた顔をするのを分かっているにもかかわらず
――彼女のその顔が見たくて

93: 2011/03/01(火) 15:37:55.06 ID:MDfsX10i0

もう、唯先輩転んじゃいますよ
私の予想通り、彼女は慌てた顔をしながら注意を促す
でも、どこかその顔が緩んでいたのは間違いではないと思いたい

「でも、珍しいですね。もう3月だって言うのに」

彼女が空を見上げながらそんなことを言った
3月―もう春といってもおかしくない暦
誰かが3月は別れの月だと言っていたのを思い出した
だから私はまるでその言葉に呪われたかのように、
最後になるかもしれないねなんて言ってしまった

95: 2011/03/01(火) 15:41:03.78 ID:MDfsX10i0

すると彼女がなにか言いたそうにしたが

「あずにゃんと今年度最後の雪見かぁ……えへへなんだか照れるね」

驚いた
その言葉は私のこの口から出ていた
彼女もまた驚いたような顔をしていた

「でも、案外また降ることがあるかもしれませんよ」

96: 2011/03/01(火) 15:45:22.42 ID:MDfsX10i0

彼女がもどかしそうな顔でその言葉を告げた
私にはわかっている
彼女のそれはきっと照れ隠しだ
だから

「じゃぁ、あずにゃん」

息を吸い込んだ
やはり胃を満たす空気は冷たい

「そのときも一緒に見ようか」

今日一番自分に正直な言葉だった
その言葉に、彼女にも一番素直な気持ちを聞かせてほしいと思うのは私のエゴだろうか

97: 2011/03/01(火) 15:50:48.30 ID:MDfsX10i0

彼女の顔を見つめる。きっと私は本当に嬉しそうな顔をしているだろう
彼女の沈黙を待つ
たった数秒のこと。その時間がやけに心地いい
彼女の顔が少し赤く変化した
そして

「そうですね」

彼女が照れながらもはにかんだ
ふと彼女の頬に雪が落ちる
頬の熱に溶かされたそれは、水滴となり彼女の頬にはりつき
それはまるで涙みたいで

私はゆっくりと彼女の頬に手を伸ばす
人差し指でそれを拭うとき、彼女の頬の温かさがとても気持ちよかった

98: 2011/03/01(火) 15:55:53.29 ID:MDfsX10i0

「あずにゃんの頬あったかいねー」

思わずもう片方の手も彼女の頬に伸ばした
彼女の顔がとても近く感じ、私の頬もおそらく赤くなっているのだろうと思う

「手袋はどうしたんですか?」

両頬に手を当てていると、彼女が尋ねた
寒がりの私が手袋をしてなかったことに疑問を抱いたのだろう

「えっとね、憂が忘れてきたって言ったから、貸しちゃった」

少し嘘をまぜて、その質問に答えた
そもそも私は憂のものしかもってきていなかった。
正確に言うならば、憂に返したになるのかも知れない

99: 2011/03/01(火) 16:00:36.70 ID:MDfsX10i0

「ねぇ、あずにゃん」

そう呼びかけると返事がある
たったそれだけのことが嬉しくて
彼女の手を取った
彼女の手袋を脱がせていき、小さな手のひらをあらわにする

「知ってる? 手が冷たい人は心が温かいんだよ」

かつてあの部室でみんなでした会話
ムギちゃんがいて、りっちゃんがいて、澪ちゃんがいて
――でも彼女はいなかった

101: 2011/03/01(火) 16:05:14.64 ID:MDfsX10i0

「つまり、唯先輩は自分の心が温かいっていいたいんですね?」

手を絡ませると彼女が冷静をよそおいながらも答えた
だから、私は彼女の答えをほしがった

「唯先輩の手は間違いなく冷たいです」

まだ少し押しが足りなかったようだ
そんなところも可愛いのだが、私はまだ別の答えがほしかった

102: 2011/03/01(火) 16:10:19.89 ID:MDfsX10i0

「……唯先輩の心は暖かいです」

「えへへ、そうかな~」

私の顔はきっと真っ赤だ
きっと目の前の彼女と同じような色になっているだろう
だけど、それも悪くない

私はそろそろ覚悟を決めなければいけない
伝えないといけない言葉があるから
でも、それはなかなか言葉にならず私のお腹の中へと沈んでいく

103: 2011/03/01(火) 16:16:11.10 ID:MDfsX10i0

気付けば、彼女といつもわかれる道にきていた
さようならなんて彼女が言うから、少し悲しくなって
またねだよ、と彼女に微笑みかけた
すると彼女も従うように笑って言った

私と彼女の距離がひらいていく
ゆっくりとだが、それでも一歩ずつ離れていくのがわかる

105: 2011/03/01(火) 16:21:34.28 ID:MDfsX10i0


「――その冷えた手を温めたいと願うのはいけないことでしょうか」


声が聞こえた。
掠れそうな、それでもなにかを求めている声だ
それは確かに彼女の声で
――私ははっきりとその言葉を聞き届けた
彼女が隠そうとしていたその言葉を
振り向けば、もうそこに彼女はいない

――答えをだそう

彼女のその言葉に答えをだすために
気付けば、雪は降り止んでいた

106: 2011/03/01(火) 16:25:24.15 ID:MDfsX10i0



夕食を食べたあと、彼女が部屋に帰ろうとしたのを私は呼び止めた
彼女はなにか気付いたのか、私の座っていた向かいに腰を掛ける

「ねぇ……憂」

空白の間の中、私の声だけが響いた
まるで違う私が私を俯瞰しているようだ
だが、それではいけない
きっちりと私は私に向かい会い、目の前の彼女に向き合わなければならない

109: 2011/03/01(火) 16:30:40.16 ID:MDfsX10i0

「ねぇ、憂。わたしね」

「お姉ちゃん、言わなくていいよ」

やっぱり目の前の彼女は困った顔で笑った

「分かってるから。だってお姉ちゃんのことだもん」

やはり彼女は優しすぎた
私に気を遣いすぎている
だから、私はその言葉に甘えたくなるが
――いわなければいけない
そう思った時

「でもね、これだけは聞かせてほしいな」

憂が先に口を開き、その言葉を搾り出した

110: 2011/03/01(火) 16:35:24.13 ID:MDfsX10i0

「私はお姉ちゃんの妹でいていんだよね」

それが彼女の出した答えだった
と同時にそれは私への最終通告
わざわざこんなことを聞く意味はない
彼女はそんな言葉なしでも今までも妹だったのだ
つまりそれは彼女の最後の確認だ
だから私は

「――うん、憂はいつまでも私の妹だよ」

残酷な言葉を精一杯優しさをこめて彼女に告げた
わたしはもう引き返せない。

111: 2011/03/01(火) 16:40:26.22 ID:MDfsX10i0

「そっか。そうだよねお姉ちゃん」

彼女は精一杯笑っていた
それは何かを塗りつぶすかのように

「お姉ちゃん一つだけお願いがあるんだ」

私はそれを聞くしかないだろう
それが私を呪う言葉であったとしても
彼女の言葉を待つ

「お姉ちゃんの右側にはきっと梓ちゃんがいるんだと思う。でもね――

112: 2011/03/01(火) 16:45:14.05 ID:MDfsX10i0


――左側は私にあけておいてほしいな」


そういった彼女はやっぱり笑っていた
そして彼女は立ち上がり、その場を去っていく

「できた妹だ……本当に憂は私にはもったいないくらいのできた妹だよ」

ポツリと呟き、彼女が入れてくれたお茶を飲み干した
少し冷めたはずのお茶が体内に入るととても暖かく感じた

114: 2011/03/01(火) 16:47:27.16 ID:MDfsX10i0



部屋に戻った私にはやることが一つあった
だが、すでに戻ってきてから一時間以上経っているというのに
いまだにそれができずにいる

「どうしよう……」

手の中の携帯を握り締めて、私はあまり良いとは言えない頭をフル稼動させる
彼女に言いたい言葉があった
だけど

「どうしよう」

115: 2011/03/01(火) 16:50:47.75 ID:MDfsX10i0

かけるきっかけがなかった
なんと切り出していいのだろうか
それにそれは電話で伝えていいものか
本当は実際に会って言いたい言葉
でもこんな夜に呼び出しても大丈夫だろうか

私はまた別の不安に襲われていた
だけどその不安は嫌いじゃない
だが、結局はぁ……と溜息をつき、携帯をベッドに放り投げる

少し頭を冷やそう
そう思って、窓をあけ冷たい空気をお腹いっぱい吸い込んでやろうと思った

116: 2011/03/01(火) 16:56:28.72 ID:MDfsX10i0

だけど、私はひろがる世界に言葉を失った
手を出して、その感触を確かめてみる
――冷たい
幻でもない。嘘でもない
ただそこには雪が降っていた

「わぁ」

思わず漏れた声はそれだけだ
私には今真っ先にやるべきことがあった
そしてきっかけを今手に入れた
ベッドにかけより、もう一度携帯を開く

急げ――自分で自分を急かした
早くしろ――通話ボタンを押した
止んでしまったらどうする――こんなに降っているのだ。簡単に止むわけがない
早くでて――私の鼓動は止まらない

そして

117: 2011/03/01(火) 17:00:11.52 ID:MDfsX10i0

『はいもしもし』

心底ホッとした
窓の外を確かめてみる
……良かった、まだ降ってる

「あずにゃん、大変大変」

私の焦りが言葉にも感染してしまっている
……かまうものか

『なんなんですか、こんな時間に』

「まぁ、いいから外を見てみてよ」

私は待つ
彼女の言葉を

118: 2011/03/01(火) 17:05:36.59 ID:MDfsX10i0

『これは……』

どうやら彼女もこの光景をみたようだ
考えていることも私と同じなら最善なんだけど

「雪だよ!! 雪」

すると彼女はびっくりするくらい冷静に

「えぇ、そうですね」

一瞬私自身が制御できなくなり固まった
彼女に期待していたものとは違った言葉が私を殴りつけるように襲った

……大丈夫、それならば私はあの時の言葉を繰り返そう
だけど、その前にもう一度だけ彼女へと問いかけよう

120: 2011/03/01(火) 17:08:11.06 ID:MDfsX10i0

「えぇーあずにゃん、それだけなの?」

『ええ、なにかありましたっけ」

「うぅーあずにゃんの薄情者」

驚くほど私の声はがっかりしていた
だが、そんな暇はない
――雪が止んでしまってはもともこもない
ならば、やっぱり強引に思い出してもらうしかない

喉の奥で作った言葉をあとは声にするだけだ
だが、その前に

『それじゃぁ、唯先輩。どこかで待ち合わせしましょうか?』

121: 2011/03/01(火) 17:10:11.45 ID:MDfsX10i0

そんな声が電話越しに聞こえた
安心すると同時に、ほんの少し怒りを覚える
でも――やはり彼女は覚えていた
彼女の中でも、あの言葉は何ともない下校風景の一部にはなっていなかった

そこから先は早かった
待ち合わせ場所は、いつもの別れる場所
彼女もおそらく電話の先で準備をはじめていたのだろう。ガサゴソと音が聞こえていた


そして私は傘も持たずに飛び出した

122: 2011/03/01(火) 17:11:22.73 ID:MDfsX10i0



雪が降り続く
このまま積もればおもしろいのになぁ
などと彼女を待つ間にいろいろな思考がかけめぐる
まずはなにから話そうか――
どんな顔で言えばいいんだろう――
彼女はなんていうだろう――

すべては彼女がきてから決めればいいや

「まったく、もう。なんで傘も差してこないんですか?」

私の上に透明なビニール傘がさされていた
声のした方向を見る
そこには

「ほら、風邪引くと困りますから」

彼女が私に傘の中に入れと促した

――今しかない

123: 2011/03/01(火) 17:12:30.69 ID:MDfsX10i0

「ねぇ、あずにゃん」

「はい?」

しまった。あずにゃんではムードもなかったかもしれない
そうおもい私は一度わざとらしくセキをして

「中野 梓さん」

「はい?」

彼女がキョトンとした顔をした
さぁ、5秒後の彼女の顔はどうなっているんだろう
真っ赤になって慌てているのだろうか
それとも意外に冷静に受け止めてくれるだろうか
もしかしたら断られるのかもしれない
でも、それでも私は彼女のそれが楽しみだった
それはおそらく私が見てきた中で一番の彼女の顔になるだろうから

そして私は

「私と―――――」



「唯」 了

127: 2011/03/01(火) 17:28:24.45 ID:MDfsX10i0
ああああああああああああああああ、こんなもん真っ昼間に書くもんじゃねええええええええ
こんなのは深夜のテンションだからできるんだよおおおお
憂ちゃんエピローグとか妄言はいてすまんかった
恥ずかしすぎて俺は寝る

あと色々推測してくれた人
たぶん自分が前に書いた作品は絶対にわからないと思う
クソみたいな駄文にもかかわらず方向性も書き方もジャンルも全部違うから


あ、元ねたというか参考にしたというか、そういった類のものは
茶太さんの「雪影」って曲で、タイトルもそのままそこから
書いてる間ずっとエンドレスリピート

支援&保守ありがとうございました

126: 2011/03/01(火) 17:23:50.78
よし、次は憂だな

引用元: 梓「雪影」