1: 2020/12/21(月) 21:00:43.947 ID:bleJU0Ex0
勇者「すいません」

中年「あー?」ボリボリ

勇者「あなたが伝説の風使いですね?」

中年「あー、そんな風に呼ばれたこともあったっけな」

中年「今じゃ痛風持ちだけどよ。で、お前さんは?」

勇者「申し遅れました、勇者です」

中年「勇者……国お抱えの戦士かい。俺になんか用か?」

4: 2020/12/21(月) 21:04:20.652 ID:bleJU0Ex0
勇者「およそ20年前、あなたが退治した“大悪魔”が復活を果たしまして」

中年「あー……倒し切れてなかったのか」ボリボリ

勇者「このたび私が討伐を命じられたのですが、ぜひ協力をお願いしたく、参上しました」

中年「いいよいいよ。手伝ってやる」

勇者「ホントですか! ありがとうございます!」

中年「なぁに、お安いご用よ」

勇者「……」

勇者(見れば見るほど、ただのおっさんだが……)

勇者(噂通りの場所に住んでたし、本人も否定しないし、この人が伝説の風使いなんだろう)

勇者(頼もしい助っ人を得られてよかった!)

6: 2020/12/21(月) 21:07:11.131 ID:bleJU0Ex0
中年「んじゃ、ボチボチ行くとしますかっと……」

勇者「はい」

中年「う゛!?」

中年「ぐあああああああっ……!」

勇者「ど、どうしました!?」

中年「痛風だ! 痛風の発作がァ!」

勇者「こんな時に!?」

7: 2020/12/21(月) 21:10:10.610 ID:bleJU0Ex0
中年「足……どうなってる?」

勇者「親指の付け根が赤くなってます」

中年「あー、やっぱり」

勇者「揉んだ方がいいですか? それとも魔法で……」

中年「痛風発作にマッサージは逆効果なんだ。とりあえず、冷やしてくれると助かる」

勇者「分かりました」

勇者(ったく、とんだ足止め食っちゃったよ)

8: 2020/12/21(月) 21:13:19.348 ID:bleJU0Ex0
中年「おー、いてて……」

勇者「俺もよく知らないですけど、痛風って足が痛くなる病気ですよね?」

勇者「伝説といわれたあなたが、ここまで痛がるほどのものなんですか?」

中年「おーおー、お前さんずいぶん痛風を甘く見てるようだな」

中年「ここはいっちょ、軽くレクチャーしてやろうかい」

勇者「え……」

勇者(余計なこと言わなきゃよかった……!)

10: 2020/12/21(月) 21:15:53.848 ID:bleJU0Ex0
中年「痛風の原因は尿酸だ」

勇者「尿酸?」

中年「老廃物の一種でよ、プリン体っつうのが分解されてできる物質だ」

中年「血液中に溶け込んでる尿酸が量が増えてくると、そいつは結晶になって関節に溜まる」

中年「この結晶を、異物と見なした白血球が攻撃すると激痛が生じる。こいつが痛風だ」

勇者「なるほど。それで、原因は?」

中年「色々あるが、飲酒、肉食、肥満が尿酸値を上げる主な原因だな」

勇者(ようするに、不摂生が原因と)

11: 2020/12/21(月) 21:18:30.607 ID:bleJU0Ex0
勇者「尿酸が原因なんですよね? だったら尿酸の値を下げれば……」

中年「ああ、下げる方法はある」

中年「生活習慣を改善して、薬を服用したり、水をたくさん飲んだり、運動して痩せたり……」

中年「ただし、激しい運動はダメだ。かえって尿酸値を上げちまう」

勇者「とにかく、それをやっていけば治ると」

中年「完治は難しい。痛風は再発することも多く、一生の付き合いだ」

中年「気分を紛らわすにゃ、酒でも飲むしかねえ」グビグビ

勇者「飲酒が原因っていってるそばからそれですか! 治す気ないでしょ!」

13: 2020/12/21(月) 21:21:11.097 ID:bleJU0Ex0
……

勇者「どうです、落ちつきました?」

中年「なんとかな」

中年「んじゃ、行くか! 悪魔退治へ!」

勇者「頼むから、酒は飲まないで下さいよ」

14: 2020/12/21(月) 21:24:26.468 ID:bleJU0Ex0
悪魔の山――

勇者「この山です」

中年「おーおー、どす黒い気が渦巻いてるねえ」

勇者「大悪魔は頂上に陣取り、魔物を生み出したり、近隣の人々に危害を加えてるんです」

中年「なるほどねえ……」

勇者(いつになく真剣な表情……こういうところはさすが、伝説の風使い!)

中年「ふんっ!」ブッ

中年「やーっと屁が出た」

勇者(最悪の風を出しやがった! くさっ!)

15: 2020/12/21(月) 21:27:13.836 ID:bleJU0Ex0
勇者「さっそく登りましょう」

中年「おう」

ザッザッ…

中年「あのさ……」

勇者「なんです?」

中年「ちょっと休憩しねえか?」

勇者「早い! まだ登り始めたばかりですよ!?」

中年「いいからいいから。焦ってもろくなことねえって」

16: 2020/12/21(月) 21:30:25.210 ID:bleJU0Ex0
ザッザッ…

中年「おーい、休憩しよう」

勇者「さっきから休憩ばかりじゃないですか……」

中年「しょうがねえだろう。腰が痛くってさ……足もまだ全快じゃねえし……」

勇者「じゃあ、10分だけですよ」

中年「優しいねえ。さっすが勇者!」

勇者(こんなんじゃ頂上にたどり着くのはいつになるやら……)

17: 2020/12/21(月) 21:33:39.447 ID:bleJU0Ex0
植物「ギシャアアアアッ!」

勇者「人食い植物だ!」

勇者(大悪魔め、やはり山の植物を魔物化してたか!)

勇者「風で援護をお願いします!」

中年「あいたたた……また痛風が……」

勇者「こんな時に!」

勇者「俺一人で戦うしかない!」

ザシュッ! ズバッ! ザンッ!

18: 2020/12/21(月) 21:36:35.404 ID:bleJU0Ex0
勇者「険しい崖だ……」

勇者(だけど、風使いさんなら風でひとっ飛びすることができるはず……)

勇者「風使いさん、風で我々を上まで運ぶことってできませんか?」

中年「腰が痛くて……とても無理だ」

勇者「腰が痛いと風使えないんですか!?」

中年「申し訳ないんだけどさ、俺をおぶって上まで登ってくれねえか」

勇者「マジですか……」

勇者(こんなとこに置いてくわけにもいかないし、登るしかない!)

19: 2020/12/21(月) 21:39:09.973 ID:bleJU0Ex0
ガシッ ガシッ ガシッ ガシッ

勇者「くっ……! くっ……!」

中年「悪いねえ……」



勇者「はぁっ、はぁっ、登り切った……」

中年「いやー、若いってのはすごいねえ。大したもんだ!」

勇者「……」

21: 2020/12/21(月) 21:42:28.177 ID:bleJU0Ex0
中年「おーい、そろそろ日が暮れるぜ。夜の山は危険だぞ」

勇者「そうですね……今日のところはこれぐらいにしましょう」

勇者(予定では今日のうちにもっと進むはずだったのに……まぁ、仕方ない)

勇者「痛風はどうですか?」

中年「今はとりあえず痛くねえよ」

勇者「それはよかった」

中年「調子がいいし、ここらで酒でも……」

勇者「やめて下さい!」

23: 2020/12/21(月) 21:45:23.744 ID:bleJU0Ex0
翌日――

ドドドドドドド…

勇者「川だ……流れが速い」

勇者「これ泳げます?」

中年「無理!」

勇者「返事も早い!」

勇者「ふぅ……仕方ない、あなたをおぶって泳ぐしかなさそうですね」

中年「へへへ、悪いな」

24: 2020/12/21(月) 21:48:13.222 ID:bleJU0Ex0
ザブザブザブ…

勇者「ふう、ふう、ふう」

勇者(ぐっ……人を抱えてると、こんなに違うのか!)

勇者「くおおおおおおっ!」バシャバシャバシャ

中年「おいおい、水がかかるよ。もっと静かに泳いでくれないと」

勇者「ワガママいうな!」



ザバァッ!

勇者「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

中年「おおー、泳ぎ切った。お前さん、魚の生まれ変わりなんじゃねえか」

勇者「だとしたら、鮭ですかね?」

中年「よっしゃ、酒飲むか!」

勇者「飲むんじゃねえ!」

26: 2020/12/21(月) 21:52:47.829 ID:bleJU0Ex0
魔獣「ガルルルルルル……!」

勇者「魔獣だ!」

中年「……」

勇者(さすがにこいつは一人ではつらい……援護してくれないかな……)チラッ

中年「……」サッ

ビュオオオッ!

勇者(風が吹いてきた! やっと風使いさんの実力を見られる!)

27: 2020/12/21(月) 21:55:42.991 ID:bleJU0Ex0
中年「いだだだだだ!」

中年「この強風で、痛風が……あいたたたたたた!」

中年「“風が吹くだけで痛い”とはよくいったもんだ……!」

勇者「ただの風だったのかよ!」

魔獣「ガァァァァッ!」

勇者(ああもう、あの人はほっといて一人で戦うしかない!)

勇者「でやぁっ! たあっ!」

ザシュッ! ズバッ! ドシュッ!

28: 2020/12/21(月) 21:58:12.858 ID:bleJU0Ex0
魔獣「グオオッ……!」ズズン…

勇者「ふぅー……ふぅー……」ボロッ…

勇者「なんとか……倒せた……」

中年「へへ……お互いボロボロだな……」

勇者「あんたはただ痛風でのたうち回ってただけでしょうが!」

勇者(やっと分かった……このおっさん、ただの役立たずだ!)

30: 2020/12/21(月) 22:01:26.029 ID:bleJU0Ex0
勇者「今日はここで寝ましょう」

中年「ほーい」

勇者「明日はいよいよ頂上にたどり着きます。大悪魔との決戦です」

中年「厳しい旅路だったねえ」

勇者「あんた何もしてないでしょうが!」

中年「いやいや、ちゃんと引っぱってただろうが」

勇者「何を?」

中年「お前さんの足を」

勇者「……」ギロッ

中年「じょ、冗談だよ、冗談。怒っちゃやーよ」

31: 2020/12/21(月) 22:04:35.273 ID:bleJU0Ex0
勇者「あなたにはなにも期待してません。なんなら今から引き返してもいいですよ」

中年「冗談じゃねえ! こんなとこ一人で引き返したら氏んじまう!」

勇者「でしょうね。だからせめて、邪魔にならないようにしてて下さいよ」

中年「いやー、ハハハ。面倒ばかりかけちゃってごめんな」

勇者「自覚があるならまだいいです」

中年「まぁ、せっかくだし、ここらでなぜ俺が痛風になっちまったかを教えてやろう」

勇者「え?」

勇者(どうせみんなにチヤホヤされて不摂生しちゃったんだろう……)

32: 2020/12/21(月) 22:08:01.601 ID:bleJU0Ex0
中年「かつて、大悪魔を倒した俺だったが――」

中年「称賛された一方で、“妖術使い”と俺を恐れる声も大きかったんだ」

勇者「そうなんですか?」

中年「ああ、当時はまだ術に対する偏見も強かったしな」

中年「今思うと俺を妬む奴らの工作だったのかもしれんが、俺が謀反を企ててるとかそういう噂まで流れ始めた」

勇者「え……!」

中年「ある日、俺はその噂を真に受けた連中の襲撃を受けちまってよ」

中年「返り討ちにしたはいいが、結局それでさらに恐れられる結果になってしまい」

中年「うまく弁解することもできず、俺に居場所はなくなり、逃げるように人里から離れた……」

勇者「……」

33: 2020/12/21(月) 22:11:55.917 ID:bleJU0Ex0
中年「寂しさと悔しさで、俺は酒びたりの日々を送った」

中年「仲間も友達もいねえ俺にただ一つ残ったのは、この痛風だけ……」

中年「英雄になるってのはこういうことだ。称賛を浴びると同時に、敵も増える」

中年「お前さんも今まさに、俺と同じ道を歩もうとしてる」

中年「ひょっとすると、大悪魔を倒しても、お前さんを待ってるのは痛風だけかもしれねえぞ?」

中年「お前さんにその覚悟があるかな?」

勇者「……」

34: 2020/12/21(月) 22:14:35.230 ID:bleJU0Ex0
勇者「分かりません」

中年「へ?」

勇者「正直いって、そんな先のことまで考えてませんでしたから……」

中年「だろうな」

中年「不安にさせるようなこといって悪かった。今の話は忘れてくれ」

中年「別になにもお前さんの戦意をくじくつもりはなかったんだ」

勇者「分かってます。ただ……一つだけ言わせて下さい」

中年「?」

35: 2020/12/21(月) 22:18:27.287 ID:bleJU0Ex0
勇者「友達がいないんなら……これからは俺が友達になりますよ」

中年「ハァ?」

勇者「これなら寂しくないでしょう?」

中年「ぷっ……アッハッハッハッハ!」

中年「お前さん、まだ十代かそこらだろ? 俺との年の差いくつあると思ってんだ」

勇者「友達に年齢は関係ないでしょう」

中年「お前さんも変わった男だ……」

勇者「でなきゃ、勇者なんてやってませんよ」

中年「ちげえねえや」

37: 2020/12/21(月) 22:20:57.857 ID:bleJU0Ex0
勇者「おかげで、これでホッとしましたよ!」

中年「なにが?」

勇者「俺があなたみたいに迫害されても、あなたって友達がいるんですから!」

勇者「気楽に大悪魔を倒せます!」

中年「ハッハッハ、お前さん……気に入ったぜ!」

勇者(この人にも……やっぱり俺では計り知れぬ苦労があったんだな……)

勇者(明日は必ず大悪魔を倒してみせる! この人のためにも……)

38: 2020/12/21(月) 22:24:53.793 ID:bleJU0Ex0
ヒュゥゥゥゥゥ…

大悪魔「フハハハハ……来たか、勇者よ」

勇者「大悪魔、今日がお前の命日だ!」

大悪魔「かつては風使いとやらに不覚を取ったが、今度はそうはいかん」

大悪魔「貴様を返り討ちにし、貴様らの王国を悪魔の楽園と変えてくれよう!」

勇者「そうはいかない!」チャキッ

勇者「下がってて下さい……こいつは俺が倒します」

中年「おう」

39: 2020/12/21(月) 22:28:59.164 ID:bleJU0Ex0
勇者「行くぞッ!」ダッ

大悪魔「貴様は勇者に任命されたばかりと聞く……」

大悪魔「いかに強くとも、未熟な勇者など恐れるに足らず!」シュバァッ

ガキンッ!

大悪魔「この攻撃を防いだだと!?」

勇者(今のは……登山前の俺だったら防げなかったかもしれない)

勇者(まさか、風使いさんは俺に経験を積ませるためにわざと……?)

勇者(いや、余計なことは考えず攻めろ!)

40: 2020/12/21(月) 22:31:01.443 ID:bleJU0Ex0
勇者「だああっ! ――せやっ!」

ズバッ! ザンッ!

勇者「はあっ!」

ザシュッ!

大悪魔「ぐ、ぬうぅ……!」

勇者(いける! いけるぞ! このまま一気に押し込めば――)

中年「おいっ、あまり深入りすんな!」

勇者「え?」

大悪魔「……」ニヤッ

41: 2020/12/21(月) 22:33:51.245 ID:bleJU0Ex0
大悪魔「カアアッ!」

ボウッ!

勇者「ぐああああっ……!」ドサッ…

勇者「う、ぐ……不覚……!」

大悪魔「まだまだ未熟よ……私の演技に気づかぬとは……」

大悪魔「だが、未熟なうちに戦えたのは私にとって幸運だった。トドメを刺してやろう!」

中年「ちょーっと待った」

大悪魔「む?」

中年「こっからは俺が相手すんぜ、大悪魔ちゃん」

42: 2020/12/21(月) 22:36:42.287 ID:bleJU0Ex0
勇者「風使いさん……」

中年「お前さんはよくやった。期待以上のダメージを与えてくれた。後は任せろ」

大悪魔「風使い? 貴様まさか、あの“風使い”か!?」

大悪魔「フハハハハハ、よくもまあこの20年で変わるものだ!」

大悪魔「かつての面影は全くないな! 見た目はもちろん、魔力もなァ! とんだ出涸らしだ!」

中年「ああ……やさぐれて酒ばっか飲んでたからな」

勇者「ぐ……! やっぱり俺が……!」

中年「だが、お前さんのおかげで力を温存できた」

中年「ほんの少しの間なら、俺は今でも“風使い”だ!」

大悪魔「なに……!?」

43: 2020/12/21(月) 22:38:31.770 ID:bleJU0Ex0
ビュオオオオオ……

勇者「風が……!」

勇者(明らかに自然の風とは違う!)



風使い「行くぜ……大悪魔!」



勇者「!?」

44: 2020/12/21(月) 22:40:10.597
!?

45: 2020/12/21(月) 22:41:07.772 ID:bleJU0Ex0
中年「旋風!」

ビュゴオオオオオオオオオッ!!!

大悪魔「ぐおおおおおおっ……!」

大悪魔「この風のキレ……! あの頃と同じ……!」

勇者(さっき一瞬、全盛期の風使いさんが……!? これがこの人の実力……!)

大悪魔「ぐ、ぐぐ……この程度……!」ミシミシ…

中年「じゃあ今度は、かつてお前さんを仕留めた術でいってみようか」

46: 2020/12/21(月) 22:41:08.860
名前が中年から風使いに変わってる
こういうの好き

47: 2020/12/21(月) 22:41:41.901
と思ったらまた中年に戻ってた

51: 2020/12/21(月) 22:43:43.004 ID:bleJU0Ex0
中年「大旋風!」

ゴォワァァァァァァァァッ!!!

大悪魔「ぐがああああああああっ……!」メキメキメキ…

勇者「いける! 効いてる! 倒せる!」

中年「いやダメだ……この技じゃ倒し切れねえ……。現に復活されちまってるしな」

中年「だからこそ、この日のために開発した……コイツを使うッ!」

53: 2020/12/21(月) 22:46:23.212 ID:bleJU0Ex0
中年「極・大・旋・風!!!」

ギュワオオオオオオオオオオオオッ!!!

大悪魔「ぐあああああああああああああっ!!!」

勇者「す、すごい……! 巨大な竜巻が荒れ狂って……」

勇者(風使いさんは酒ばかり飲んでたわけじゃなかった……)

勇者(ちゃんともしもの時の訓練もしていたんだ!)

中年「これで……決める……!」

55: 2020/12/21(月) 22:49:25.550 ID:bleJU0Ex0
大悪魔「ぐ、ぐぐぐ……ぐっ……ぐふふっ……ふふっ……」

中年「なんだと……!?」

大悪魔「この術、私を倒すまでには至らん……!」

中年「つ、強がりを……ごふっ!」ゲボッ

大悪魔「ククク、相当体力を削っている術と見た! もはやそう長く持つまい!」

大悪魔「この技が終わった時が……貴様の最期だァ!」

中年(うぐ、ぐ……やっぱ堕落してた奴が勝てるほど、世の中甘くねえか……)

中年(もう、風を呼べ、ねえ……)

中年「ちく、しょう……」ドサッ…

56: 2020/12/21(月) 22:52:28.910 ID:bleJU0Ex0
大悪魔「ハァ、ハァ、ハァ……力尽きたか! では予告通り――」

勇者「ああ、予告通り……だな」

大悪魔「!?」

勇者「たしかにあの技が終わった時が……お前の最期だったなァ!」

大悪魔(こいつ!? 風で宙に浮き上がって――)

勇者「でやぁぁぁぁぁっ!!!」



ザンッ!



大悪魔「が……!」

大悪魔「人間……如きにィ……ぐはぁぁぁ……!」ジュワァァァァァ…

59: 2020/12/21(月) 22:57:20.437 ID:bleJU0Ex0
勇者「悪魔が……消えた……」

中年「真っ二つになっちまったら……さすがの奴ももう復活できねえだろ」

中年「かっこよく倒すつもりが、お前さんにケツ拭いてもらっちまったな」

勇者「いえ……あの大技で弱ってなきゃ、俺の剣で大悪魔を切り裂くことはできなかったでしょう」

勇者「俺たち二人の……勝利ですよ」

中年「勝利のファンファーレでも欲しいとこだな」ブッ!

中年「おっと、屁が出た」

勇者「嫌なファンファーレすぎますよ!」

60: 2020/12/21(月) 23:00:01.240 ID:bleJU0Ex0
勇者「大悪魔を倒したら、山に漂ってた嫌な空気もなくなりましたね」

中年「なにもかも元通りってやつだ」

勇者「さて、山を下りましょうか」

中年「いでででで……ホッとしたら痛風の発作が……」

勇者「置いていきますよ」

中年「おいおい、待ってくれよ……マジなんだって……」



…………

……

61: 2020/12/21(月) 23:04:13.732 ID:bleJU0Ex0
王「勇者よ、よくぞ大悪魔を倒してくれた。これでこの王国は救われた」

勇者「当然の務めを果たしたまでです」

王「かつて、大悪魔を倒した風使いは、皆に恐れられ、世を捨ててしまったが……」

王「おぬしにはそのような事は起こらぬと、余の名誉に誓って約束しよう」

勇者「……」

勇者「ありがとうございます、陛下」

62: 2020/12/21(月) 23:06:37.060 ID:bleJU0Ex0
ワイワイ……

市民A「勇者様、どこに行かれるんですか?」

市民B「これからまた祝賀会を開くところでしたのに!」

勇者「ちょっと……友達のところにね」

市民A「友達?」

市民B「なら我々も一緒に!」

勇者「いや、すまないけど一人の方がいいんだ」

63: 2020/12/21(月) 23:10:03.167 ID:bleJU0Ex0
勇者「風使いさん!」

中年「おう、お前さんか」

勇者「水と野菜をたくさん持ってきましたよ。どうぞ」

中年「こりゃありがてえ」

勇者「酒は……飲んでないでしょうね?」

中年「ああ、お前さんと奴を退治して、真面目に痛風を克服しようって気になったからな」

中年「上手く付き合っていけるよう頑張るさ」

64: 2020/12/21(月) 23:12:28.356 ID:bleJU0Ex0
勇者「ところで、よかったんですか? 本当に名誉回復しなくて……」

中年「ああ、元々チヤホヤされるのは柄じゃねえしな。このまま気楽に暮らすさ」

中年「今の俺にゃ、お前さんってダチがいる。それで十分さ」

勇者「これからもちょくちょく通わせてもらいますよ」



勇者と痛風持ち風使いの親交は、生涯続いたという――






おわり

65: 2020/12/21(月) 23:14:58.324
最高の終わり方じゃんおつ

66: 2020/12/21(月) 23:15:28.753
イイハナシダナー

引用元: 勇者「あなたが伝説の風使いですね?」中年「痛風持ちだけどな」