1: 2021/01/06(水) 21:02:09.326 ID:Esy0Tml80
店長「辞めるぅ?」

男「はい、やりたいことがあって、本格的に時間を作りたいと思いまして……」

店長「ダメだよ、ダメダメ! 辞めるなら一ヶ月前にいってくれないと!」

店長「人もギリギリだし、シフトだってもう組んじゃったんだから!」

男「すみません……」

店長「今すぐ辞めるのは無し! もうしばらく勤めてもらうよ!」

男「はい……」

4: 2021/01/06(水) 21:05:18.401 ID:Esy0Tml80
幼馴染「やっほー」

幼馴染「うっ……発明のためとはいえここは相変わらずレモン臭いわねえ」

男「レモンじゃないっての」カチャカチャ

幼馴染「なに作ってるの? 例のやつ?」

男「いや違う」

幼馴染「じゃあ何よ?」

男「タイムマシンだ」

幼馴染「は?」

9: 2021/01/06(水) 21:08:13.484 ID:Esy0Tml80
幼馴染「なんでタイムマシンを?」

男「バイト先の店長への意趣返しってところかな」

幼馴染「意趣返し?」

男「……」カチャカチャ

幼馴染「あんたって何考えてるかさっぱり分からない!」

男「できた!」

幼馴染「はやっ!」

13: 2021/01/06(水) 21:11:12.077 ID:Esy0Tml80
男「理論的にはこれでいけるはずだが……」

幼馴染「えええ……?」

男「行先を入力して、と……」ピポパッ

幼馴染「どの時代に行くの?」

男「一ヶ月前」

幼馴染「近い! どうせならもっと昔に行けばいいのに!」

男「お前も来るか?」

幼馴染「いやいいよ……江戸時代とかだったら行ってもよかったけど」

男「それは俺の用が済んでからだな」

17: 2021/01/06(水) 21:14:06.479 ID:Esy0Tml80
男「じゃ、スイッチオン!」ポチッ

バリバリバリバリ!

ババババババ……!

バシュッ!

幼馴染「行っちゃった……」

幼馴染「それにしてもここはレモン臭いわ……」

19: 2021/01/06(水) 21:16:22.909 ID:Esy0Tml80
……

シュイーンッ!

男「……」

男「果たして一ヶ月前に来れただろうか……」

通行人「――うわっ!? 突然人が現れた!」

男「すみません、ここは何月何日ですか?」

通行人「○月×日だけど……」

男(成功だ! ちゃんと一ヶ月前にタイムスリップしてる!)

20: 2021/01/06(水) 21:19:11.936 ID:Esy0Tml80
男(さっそく店へ行こう!)タタタッ

男「あっ!」サッ

過去の男「お疲れ様でーす」タタタッ

男「……」

男(行ったか……)

男「ふぅ、危ない危ない。過去の自分に会ったらビックリさせちゃうもんな」

男「えぇと、店長は……いた!」

21: 2021/01/06(水) 21:22:21.531 ID:Esy0Tml80
男「店長!」

店長「ん? どうしたの? 忘れ物?」

男「俺ここのバイト辞めます! ちょうど一ヶ月後に!」

店長「……」

男(さぁ、どうなる?)

店長「分かった、一ヶ月後だね? せっかく仕事を覚えてくれたのに寂しくなるな」

男(よし、OKもらえた!)

22: 2021/01/06(水) 21:25:18.955 ID:Esy0Tml80
男「それじゃ、お疲れ様でーす!」

店長「お疲れ様」

男(もうちょっと引き止められるかと思いきやあっけなかったな)

男(これで元の時代に帰れば、俺は辞めたことになってるはずだ!)

バリバリバリバリ!

ババババババ……!

バシュッ!

23: 2021/01/06(水) 21:29:07.672 ID:Esy0Tml80
シュイーンッ!

男「ただいまー!」

男「……」

男「……あれ?」

ボロッ…

男(なんだこれ……? 町がメチャクチャに壊れてる……)

男(タイムスリップミス? いやたしかに元の時代に帰ってきたはずだが……)

男「とりあえず、俺んちに行ってみるか!」

24: 2021/01/06(水) 21:31:12.729 ID:Esy0Tml80
男「俺の家もぶっ壊れてる……」

男「幼馴染の家は!?」

タタタッ…

男「幼馴染の家も……!」

男「ていうか、人の気配が全然ないぞ!? なんなんだよこれは!?」

男「いったい何が起こったんだぁぁぁっ!!!」

26: 2021/01/06(水) 21:34:26.802 ID:Esy0Tml80
タタタッ…

男「おーい!」

タタタタタッ…

男「おーい!!」

タタタタタタタッ…

男「おーい!!!」

男「誰かっ! 誰かいませんかーっ!」

男「ダメだ……誰も見つからない……。ゴーストタウンだ……」

28: 2021/01/06(水) 21:37:13.630 ID:Esy0Tml80
制服「見つけたぞ……」

男「!」

男(やっと生存者が……!)バッ

制服「柑橘類の匂いを辿ったらたどり着けるとはな」

男(なんだこの男は……。警官みたいな格好してるけど、警官とは違う……)

制服「この時空犯罪者めが……!」

男「は?」

29: 2021/01/06(水) 21:42:17.999 ID:Esy0Tml80
男「なんだよあんた!? いきなり人を犯罪者呼ばわりして!」

制服「私は時空警察の者だ」

男「時空……警察……?」

制服「君はとんでもないことをしてしまった」

男「とんでもないこと……?」

制服「決まってるだろう。タイムスリップし、過去改変を行ったことだ!」

男「えっ!?」

制服「このように世界が荒れ果ててしまったのは全て君のせいなのだ!」

男「そんなバカな!」

31: 2021/01/06(水) 21:45:31.189 ID:Esy0Tml80
男「俺はちょっと一ヶ月前に飛んでバイトを辞めただけだ! 何か事件を起こしたわけじゃない!」

制服「その“ちょっと”が問題なのだ」

制服「君は“バタフライエフェクト”という言葉を聞いたことがあるかね?」

男「たしか、蝶の羽ばたき一つで遠くで竜巻が起こる、みたいな話だったかと」

制服「その通り。君のほんの些細な過去改変で、歴史は大きくずれてしまい」

制服「結果、このように世界は滅んでしまったのだ。もはや生存者は殆どおるまい」

男「なんだって……!?」

33: 2021/01/06(水) 21:48:44.343 ID:Esy0Tml80
男「だったらまた過去に行ってバイト辞めるのをやめれば……」

制服「無駄だ。一度変わってしまった歴史を元に戻すことはできない」

制服「それどころか、さらに悪くなることは間違いないのだ」

制服「過去改変によって、歴史がいい方向に変わることはあり得ない、という研究結果が出ている」

制服「ようするにいじればいじるほど、世界はどんどん悪化するということだ」

制服「それを防ぐための組織が我々なのだが、あいにく君の存在はイレギュラーすぎた」

制服「感知してタイムスリップを防ぐことができなかった」

男「ううっ……!」

34: 2021/01/06(水) 21:53:39.373 ID:Esy0Tml80
男「俺の親は……!? 幼馴染は……!?」

制服「みんな氏んでしまっただろうな」

男「だけど、あんたは時空警察なんだろう? 元に戻す術を知ってるんじゃないのか?」

制服「そんなものはない。あるんならとっくに戻している」

制服「私はただ残り少ない人類を代表して、世界を破滅させた張本人を罰しに来ただけだ」チャッ

男「銃……!」

制服「君を頃してももはや何の解決にもならないが……氏んでもらうッ!」

男「あ、あああ……!」

36: 2021/01/06(水) 21:55:33.472 ID:Esy0Tml80
店長「待ってくれ」

制服「む!?」

男「店長!?」

男(生きてたのか……!)

店長「彼は私の言う通り、“辞めるなら一ヶ月前にいう”を果たしてくれただけ」

店長「責任は私にあるし、彼を責めないでもらいたい」

制服「責めるな!? 世界を破滅させた者を責めないバカがどこにいるというのだ!」

店長「ようするに世界が破滅しなければいいわけだろう?」

制服「なにをいっている! 歴史改変によって変わった歴史はもう直せん!」

37: 2021/01/06(水) 21:58:24.598 ID:Esy0Tml80
店長「それが……直せるんだな」

制服「は?」

店長「むんっ!」

制服「なにを……? 貴様なにをしている!?」

店長「歴史を修正してるのさ」

店長「“男君が一ヶ月前に私にバイト退職を告げた”という部分だけはそのままに――」

店長「“破滅してしまった世界”を元通りに戻している」

男「えええ!?」

制服「そんなこと……できるわけ……」

38: 2021/01/06(水) 22:01:06.949 ID:Esy0Tml80
シュゥゥゥゥゥ…

制服「え!?」

ガヤガヤ…

男「人が……建物が……みるみる戻っていく……」

制服「信じられん……!」

店長「あと……少し……」

シュゥゥゥゥゥゥ…

男「……戻った! すっかり元通りだ!」

店長「ふぅー、ざっとこんなもんかな」

制服(何ということだ! 歴史改変部分はそのままに歴史を復元してしまうとは!)

40: 2021/01/06(水) 22:04:26.847 ID:Esy0Tml80
制服「見事だ、としか言いようがないな」

店長「どういたしまして」

制服「しかし、これに懲りたら二度とタイムスリップしないでもらいたい」

男「はい、すみませんでした。タイムマシンは破壊します。二度と作りません」

制服「ではさらばだ」シュンッ

男「……」

男「店長、ありがとうございました!」

店長「いやいや、私のせいでこうなったんだから店長として何とかするのが当然さ」

41: 2021/01/06(水) 22:07:43.340 ID:Esy0Tml80
店長「一ヶ月前に言われた通り、君は今日で退職ということで」

男「はい……本当にお世話になりました」

店長「最後にせっかくだから、君の“やりたいこと”について教えてもらってもいいかな?」

男「実は俺、発明でノーベル賞を目指してまして……」

店長「ノーベル賞! 君ならまんざら絵空事でもないかもしれないな」

店長「もしよければ、その発明の一端を見せてもらってもいいだろうか?」

男「いいですよ、ついてきて下さい!」

42: 2021/01/06(水) 22:13:29.844 ID:Esy0Tml80
男「ここが俺の家です」

店長「……柑橘類の匂いがすごいね」

男「すみません、これのせいでしょう。沢山置いてあるんで」

店長「これは……レモン?」

男「いえ、これはライムです。インド原産の柑橘類で、俺の好物なんです」

店長「ああ、ライムか。あまり馴染みはないな」

男「俺はライムが好きでよく食べるんですが、綺麗に切るのが意外と難しいんですよ」

男「レモンに比べて皮が薄いので、実が潰れてしまうことも多いんです」

店長「へえ、そうなのか」

43: 2021/01/06(水) 22:15:35.988 ID:Esy0Tml80
男「だけど、これがあれば大丈夫!」

店長「え?」

男「今俺が開発してるこの装置が完成すれば、ライムを簡単に完璧に切ることができるようになります!」

店長「まさか……君がノーベル賞を目指してる発明品って……」

男「はい、このライムマシンです!」

店長「……ま、まぁ、頑張って」







おわり

引用元: 店長「辞めるなら一ヶ月前にいってくれないと!」男「すみません……」